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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】攪拌槽
(51)【国際特許分類】
   B01F 23/2326 20220101AFI20221117BHJP
   B01F 25/30 20220101ALI20221117BHJP
   B01F 25/21 20220101ALI20221117BHJP
   C02F 3/12 20060101ALN20221117BHJP
【FI】
B01F23/2326
B01F25/30
B01F25/21
C02F3/12 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018197375
(22)【出願日】2018-10-19
(65)【公開番号】P2020062621
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】508165490
【氏名又は名称】アクアインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】米山 和彦
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0074944(US,A1)
【文献】特開2010-284610(JP,A)
【文献】特開2002-018477(JP,A)
【文献】特開平09-155374(JP,A)
【文献】特開平07-051689(JP,A)
【文献】特開昭50-098158(JP,A)
【文献】特開昭50-107769(JP,A)
【文献】特開昭58-070824(JP,A)
【文献】特開2014-024055(JP,A)
【文献】特開2017-189773(JP,A)
【文献】特開2005-169159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00-25/90
C02F 3/12、11/02-11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受け入れた液体を循環流によって攪拌する攪拌槽であって、
この攪拌槽の底部に形成された底面に沿って延在し、延在方向の一端に設けられた吸入口と該延在方向の他端に設けられた放出口とを有する中空状の空間形成部材と、
前記空間形成部材の内面によって画定された内部空間にほぼ前記延在方向に向かって流体を吐出する吐出口とを備え、
前記空間形成部材は、下側部分に前記延在方向に沿って設けられ前記底面から離間した下側開口が形成されたものであり、
前記吸入口および前記下側開口は、前記吐出口から流体が吐出されることで周囲の液体を前記内部空間に吸い込むものであり、
前記放出口は、前記吐出口から吐出された流体並びに前記吸入口および前記下側開口から吸い込まれた液体を放出することで前記循環流を形成するものであることを特徴とする攪拌槽。
【請求項2】
前記底部に設けられ、前記延在方向と同じ方向に延在した溝と、
前記底部に設けられ、前記溝の縁に接続し、該溝の縁に向かうに従って下方に向かう底部傾斜面とを備え、
前記下側開口は、前記溝内に配置されたものであることを特徴とする請求項1記載の攪拌槽。
【請求項3】
前記空間形成部材は、前記一端部分に、前記吸入口に向かうに従って前記延在方向と直交する放射方向に漸次広がった形状を有するものであることを特徴とする請求項1または2記載の攪拌槽。
【請求項4】
前記空間形成部材は、前記他端部分に、前記放出口に向かうに従って前記延在方向と直交する放射方向に漸次広がった形状を有するものであることを特徴とする請求項1~3のうちいずれか一項記載の攪拌槽。
【請求項5】
前記吸入口は、この攪拌槽の第1の壁面の下端部分に対向して配置されたものであり、
前記第1の壁面の下端部分は、下方に向かうに従って前記吸入口に近づく第1傾斜面を有するものであることを特徴する請求項1~4のうちいずれか一項記載の攪拌槽。
【請求項6】
前記放出口は、この攪拌槽の第2の壁面の下端部分に対向して配置されたものであり、
前記第2の壁面の下端部分は、下方に向かうに従って前記放出口に近づく第2傾斜面を有するものであることを特徴する請求項1~5のうちいずれか一項記載の攪拌槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受け入れた液体を攪拌する攪拌槽に関する。
【背景技術】
【0002】
下水および雨水などの汚水を処理する汚水処理施設では、汚水から窒素やリン等を除去するため、好気性の生物処理が行われている。また、近年では、好気性の生物処理の前に嫌気性の生物処理や硝酸等を加えた無酸素状態での生物処理を行うことで効率的に窒素やリン等を除去する高度処理も行われている。各生物処理は、汚水に含まれるごみや汚泥が同じ位置に溜まって腐敗してしまわないように、収容した汚水を攪拌する機能を有する攪拌槽において行われる。この攪拌槽には、収容した汚水の中に配置した吐出口から流体を吐出して汚水の循環流を形成することで汚水を攪拌するものがある。また、好気性の生物処理を行う攪拌槽では、空気を供給しつつ汚水を吐出することで空気と汚水を混合させながら汚水の循環流を形成するものがある。この様な好気性の生物処理を行う攪拌槽として、空気と汚水とを吐出する吐出口と、その吐出方向の両端に開口を有する円筒体を攪拌槽の底面近傍に設置し、円筒体の内部で空気と汚水とを混合しつつ吐出口から吐出した空気と汚水の流れによって汚水を循環させる攪拌槽が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2等参照)。その他、生物処理を行う目的以外でも、例えば2種類以上の流体を混合する目的や、流体中に各種粉末や薬品等を均一に分散させる目的などで攪拌槽が用いられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭50-98158号公報
【文献】特開昭50-107769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、円筒体を設置した攪拌槽では、攪拌槽の底面と円筒体の間の隙間には流体の流れが入り込みにくいため、その隙間に循環流が形成されにくいという問題があった。特に、汚水と空気とを吐出口から吐出する場合、円筒体を通過した空気と汚水の混合流体は、混合流体に含まれる空気の浮力によって上方に向かって移動しやすいため、円筒体よりも上方では循環流が形成されても、円筒体よりも下方には循環流が形成されにくいという問題があった。円筒体よりも下方に循環流が形成されないか、形成されたとしても循環流の流れが弱いと、円筒体よりも下方に沈殿した汚泥等は攪拌されずに滞留し、腐敗してしまう虞があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、底部に沈殿した汚泥等を攪拌できるようにした攪拌槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を解決する本発明の攪拌槽は、受け入れた液体を循環流によって攪拌する攪拌槽であって、
この攪拌槽の底部に形成された底面に沿って延在し、延在方向の一端に設けられた吸入口と該延在方向の他端に設けられた放出口とを有する中空状の空間形成部材と、
前記空間形成部材の内面によって画定された内部空間にほぼ前記延在方向に向かって流体を吐出する吐出口とを備え、
前記空間形成部材は、下側部分に前記延在方向に沿って設けられ前記底面から離間した下側開口が形成されたものであり、
前記吸入口および前記下側開口は、前記吐出口から流体が吐出されることで周囲の液体を前記内部空間に吸い込むものであり、
前記放出口は、前記吐出口から吐出された流体並びに前記吸入口および前記下側開口から吸い込まれた液体を放出することで前記循環流を形成するものであることを特徴とする。
【0007】
ここで前記吐出口は、前記内部空間内に配置されたものであってよく、該内部空間の外に配置されたものであってもよい。また、前記下側開口は、前記延在方向に沿って形成されたものであってもよい。さらに、前記下側開口は、前記空間形成部材の延在方向全長に亘って形成されたものであってもよく、延在方向に沿った複数箇所に分割して形成されたものであってもよい。加えて、前記吐出口は、液体のみを吐出するものであってもよく、気泡を含有する液体を吐出するものであってもよい。また、気泡または気泡を含有する液体を前記内部空間に吐出する第2の吐出口を前記吐出口とは別に設けてもよい。さらに、これらの気泡は、直径が1μm以下のナノバブルであってもよい。また、前記空間形成部材は、断面形状が円弧の形状をしたものであってもよい。また、前記内部空間は、前記下側開口につながる下端部分が、該下側開口に近づくほど狭くなったものであってもよい。
【0008】
この攪拌槽によれば、前記吐出口から前記内部空間に吐出された流体は、前記下側開口が形成された部分を除いて、前記所定方向と直交する放射方向への拡散が前記空間形成部材によって防止され、該内部空間に流体の強い流れを作り出す。この流れによって前記空間形成部材の内外で圧力差が生じ、攪拌槽の底部に沈殿した汚泥等は、前記下側開口の周囲の液体とともに前記下側開口を通って前記内部空間に吸い込まれる。そして、吸い込まれた汚泥等は、前記内部空間内の流体の流れによって吸い込まれた液体や流体と混合されつつ該内部空間を移動し、液体等とともに前記放出口から放出される。放出された汚泥等を含む液体等により攪拌槽内に循環流が形成され、該汚泥等は循環流にのって攪拌槽内を循環する。従って、攪拌槽の底部に沈殿した汚泥等を確実に攪拌できる。
【0009】
この攪拌槽において、前記底部に設けられ、前記延在方向と同じ方向に延在した溝と、
前記底部に設けられ、前記溝の縁に接続し、該溝の縁に向かうに従って下方に向かう底部傾斜面とを備え、
前記下側開口は、前記溝内に配置された態様であってもよい。
【0010】
この態様によれば、前記底部傾斜面に沈殿しようとする汚泥等は、該底部傾斜面を滑り落ちて前記溝内に沈降しやすくなるので、該溝内に配置された前記下側開口から前記内部空間に吸い込ませることができる。従って、汚泥等が前記底部傾斜面に沈殿してそのまま滞留してしまうことを防止できる。
【0011】
さらに、この攪拌槽において、前記空間形成部材は、前記一端部分に、前記吸入口に向かうに従って前記延在方向と直交する放射方向に漸次広がった形状を有するものであってもよい。
【0012】
こうすることで、前記吸入口から多くの液体を吸い込むことができるのでより強い循環流を作り出すことができる。なお、例えば上方向にのみ広がった形状など、前記一端部分は、放射方向の全ての方向に広がった形状でなくてもよい。
【0013】
また、この攪拌槽において、前記空間形成部材は、前記他端部分に、前記放出口に向かうに従って前記延在方向と直交する放射方向に漸次広がった形状を有するものであってもよい。
【0014】
こうすることで、前記他端部分に到達した液体が放射方向に広がりながら前記放出口から放出されるのでより広い範囲に循環流を形成することができる。なお、例えば上方向にのみ広がった形状など、前記他端部分は、放射方向の全ての方向に広がった形状でなくてもよい。
【0015】
また、この攪拌槽において、前記吸入口は、この攪拌槽の第1の壁面の下端部分に対向して配置されたものであり、
前記第1の壁面の下端部分は、下方に向かうに従って前記吸入口に近づく第1傾斜面を有するものであってもよい。
【0016】
前記第1傾斜面に沈殿しようとする汚泥等は、該第1傾斜面を滑り落ちて前記吸入口近傍に沈殿しやすくなる。また、前記吐出口から流体を吐出した際に前記第1傾斜面近傍に発生する液体の流れは、前記第1傾斜面の傾斜に沿って該吸入口側に向かうので、該吸入口近傍に沈殿した汚泥等は、液体の流れに沿って該吸入口に向かい該吸入口から吸い込まれやすい。従って、汚泥等が前記第1の壁面の下端部分近傍に沈殿してそのまま滞留してしまうことを抑制できる。
【0017】
また、この攪拌槽において、前記放出口は、この攪拌槽の第2の壁面の下端部分に対向して配置されたものであり、
前記第2の壁面の下端部分は、下方に向かうに従って前記放出口に近づく第2傾斜面を有するものであってもよい。
【0018】
前記放出口から放出された液体は、前記第2傾斜面に沿って上方に向かって滑らかに上昇するので、流れの損失が少なくなり前記空間形成部材よりも上方により強い循環流を形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、底部に沈殿した汚泥等を攪拌できるようにした攪拌槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に相当する攪拌槽を備えた高度処理設備の平面図である。
図2図1に示した高度処理設備のA-A断面図である。
図3】(a)は、図1のC部を拡大して示す拡大図であり、(b)は、同図(a)のE-E断面図である。
図4】(a)は、図1のD部を拡大して示す拡大図であり、(b)は、同図(a)のF-F断面図である。
図5図2に示した嫌気槽のB-B断面図である。
図6】第2実施形態の高度処理設備1における図2に対応した態様を示す断面図である。
図7】(a)は、図3(b)に示す空間形成部材の一端部分の変形例を示す断面図であり、(b)は、図4(b)に示す空間形成部材の他端部分の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本発明の一実施形態である攪拌槽は、汚水処理施設に配置され、汚水から窒素やリン等を除去するための生物処理を行うものである。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に相当する攪拌槽を備えた高度処理設備の平面図である。この図1では、天井などがある上側部分を省略して高度処理設備を示している。また、図2は、図1に示した高度処理設備のA-A断面図である。なお、図2では、後述する流体供給管の中間部分を簡略化して示している。
【0023】
図1に示すように、高度処理設備1は、平面視で長方形をした設備であり、左側壁11と右側壁12の間に嫌気性の生物処理を行う嫌気槽2と好気性の生物処理を行う曝気槽3とをそれぞれを複数備えている。以下、高度処理設備1の短手方向(図1における上下方向)を幅方向と称する。この高度処理設備1は、汚水処理施設において、砂などの混入物が取り除かれた汚水に対して生物処理を行う設備である。この高度処理設備1には、図示しない沈砂池および最初沈殿池において処理された下水および雨水などの汚水が流入してくる。この汚水は、液体の一例に相当する。高度処理設備1は、図1における左側から汚水を受け入れる。高度処理設備1が受けれた汚水には、沈砂池等で除去しきれない細かなごみが含まれている。また、生物処理を行うために、高度処理設備1よりも下流側に設けられた図示しない最終沈殿池から微生物を多く含む活性汚泥が嫌気槽2に供給される。以下、上述のごみと活性汚泥を合わせて汚泥等と称する。高度処理設備1が受け入れた汚水は、嫌気槽2および曝気槽3それぞれにおいて図1における右側に向かってゆっくりと流れていく(図1に示す直線の矢印参照)。以下、受け入れた汚水の流れにおける上流側を、単に上流側と称し、汚水の流れの下流側を、単に下流側と称する。
【0024】
高度処理設備1における上流側には、汚水の流れ方向に対して並列に2列で各列に4つずつ、合計8つの嫌気槽2が設けられている。これらの嫌気槽2それぞれは攪拌槽の一例に相当する。また、高度処理設備1における下流側には、汚水の流れ方向に対して並列に2列で各列に2つずつ、合計4つの曝気槽3が設けられている。各列の間には中央壁13が形成されており、この中央壁13によって一方の列の嫌気槽2および曝気槽3が受け入れた汚水は、他方の列の嫌気槽2および曝気槽3に流れ込むことが防止されている。同じ列にある、嫌気槽2どうしの間、曝気槽3どうしの間、および嫌気槽2と曝気槽3の間には仕切壁14が設けられている。この仕切壁14によって、同じ列にある、嫌気槽2どうしの間、曝気槽3どうしの間、および嫌気槽2と曝気槽3の間は仕切られている。ただし、仕切壁14下端部の幅方向中央部分には、流入開口14a(図2参照)が形成されている。各列における最も上流側の嫌気槽2が受け入れた汚水は、これらの流入開口14aを通過して下流側に流れていく。各列の嫌気槽2および曝気槽3は、中央壁13を中心として対称形に形成されているので、以下の説明では、図1における上側の列にある嫌気槽2および曝気槽3について説明し、図1における下側の列にある嫌気槽2および曝気槽3の説明は省略する。
【0025】
各曝気槽3は、その底部に多数の散気装置31を備えている。曝気槽3の底面32にはサポート33が固定されており、そのサポート33の上に空気配管34が取り付けられている。各散気装置31は、その空気配管34に固定されており、この空気配管34を通して空気が供給される。本実施形態の散気装置31は、メンブレン式散気装置である。ただし、他の方式の散気装置を用いても構わない。散気装置31は左側壁11側に寄せて配置されている。この曝気槽3では、図示しない送風機から送られた空気を、散気装置31によって細かい気泡にして曝気槽3の底部から汚水中に吹き込む。吹き込まれた気泡は水面に向かって上昇するので、このときのエアリフト効果によって汚水を上向きに動かす力が生じて、曝気槽3の左側壁11側には汚水の上昇流が発生する。一方、中央壁13側には下降流が発生する。これらにより、曝気槽3内に循環流が形成される。
【0026】
各嫌気槽2は、その底部に、底部傾斜面5と、トラフ6と、空間形成部材7と、ノズル8(図3参照)とを備えている。このノズル8は吐出部材の一例に相当する。最も上流から3つ目までの嫌気槽2は、それぞれ2つのトラフ6を備えている。また、最も下流側にある嫌気槽2は、3つのトラフ6を備えている。トラフ6は、嫌気槽2の底部において左側壁11の近傍から中央壁13の近傍まで高度処理設備1の幅方向に延在した樋状の部材である。すなわち、各トラフ6は、高度処理設備1における汚水の流れ方向と直交する方向に延在している。従って、各トラフ6の幅方向は、高度処理設備1における汚水の流れ方向と一致している。以下、トラフ6の幅方向を溝幅方向と称する。空間形成部材7とノズル8は、各トラフ6にそれぞれ1つずつ配置されている。トラフ6、空間形成部材7、およびノズル8については、後に詳述する。
【0027】
図2に示すように、底部傾斜面5は、トラフ6よりも上流側とトラフ6よりも下流側それぞれにトラフ6を挟むように配置されている。底部傾斜面5は、トラフ6によって形成された溝61(図3(b)参照)の縁に接続している。底部傾斜面5は、溝61の縁に向かうに従って下方に向かうように傾斜している。これにより、隣り合うトラフ6の間には、底部傾斜面5の頂部である稜線51が形成されている。底部傾斜面5の傾斜角度は水平に対して30度である。この傾斜角度は、15度以上であればよい。底部傾斜面5の傾斜角度が15度以上であれば、底部傾斜面5に向かって沈降してきた汚泥等は、底部傾斜面5を滑り落ちて溝61に沈殿する。また、この傾斜角度が30度以上であれば、底部傾斜面5に向かって沈降してくる汚泥等が、底部傾斜面5をより滑り落ちやすくなり、底部傾斜面5の上に堆積してしまうことを確実に防止できるのでより好ましい。なお、仕切壁14に接している底部傾斜面5は、流入開口14aを塞いでしまわないように幅方向中央部分が切りかかれている。この切り欠かれた部分には、流入開口14aと溝61との間に広がる水平な面で形成された流入路面52が設けられている。
【0028】
次に、図3図4を用いて、トラフ6、空間形成部材7、およびノズル8(以下、空間形成部材7とノズル8とを併せて攪拌装置と称する)の構成を説明する。各嫌気槽2に備えられたトラフ6と攪拌装置は、同一の構成をしているので、以下の説明では、図2に示されているトラフ6と攪拌装置のうち最も下流側に設けられたものについて説明し、それ以外のトラフ6と攪拌装置の説明は省略する。
【0029】
図3(a)は、図1のC部を拡大して示す拡大図である。
【0030】
図3(a)に示すように、空間形成部材7は、本体部70と一端部分71とから構成されている。空間形成部材7は中空状のものであり、空間形成部材7の延在方向の一端は、延在方向に向かって開放されている。この開放された部分が吸入口7aになる。この空間形成部材7の内面7iによって内部空間S1(図3(b)参照)が画定されている。一端部分71は、本体部70と比較して延在方向(図3(a)における上下方向)の長さが大幅に短い。本体部70は、支持体65によってトラフ6とともに支持されている。この支持体65は、嫌気槽2の躯体であるコンクリートにアンカーボルト21によって固定されている。空間形成部材7の一端部分71は、不図示のボルトによって本体部70に対して着脱自在に取り付けられている。一端部分71は、トラフ6の一端よりも一端側に突出した部分を有する。空間形成部材7の一端部分71は、本体部70に接続された一端側小径部711と、一端側拡径部712と、一端側大径部713とを有している。一端側小径部711は、後述する本体小径部701と同一の断面形状をしており、本体部70(本体小径部701)に連なって延在方向に沿って伸びている。一端側拡径部712は、吸入口7aに向かうに従って空間形成部材7の延在方向と直交する放射方向に漸次広がった形状をしている。一端側大径部713は、一端側拡径部712よりも吸入口7a側に位置した部分であって、延在方向に沿って平行に伸びている。この一端側大径部713によって吸入口7aは画定されている。なお、一端側大径部713を設けずに、一端側拡径部712の一端によって吸入口7aを画定しても構わない。一端側大径部713の内側には、溝幅方向に中央に向けて突出した一対の支持片77が設けられている。
【0031】
ノズル8は、丸パイプの先端部分を扁平状につぶして形成されたものである。ノズル8の先端には吐出口81が形成されている。流体供給管9から供給される汚水は、吐出口81から吐出される。この吐出口81から吐出される汚水は、流体の一例に相当する。上述したように、ノズル8は、丸パイプを扁平状につぶして形成されてるので、ノズル8を通過して吐出口81から吐出される汚水の吐出圧を高めることができる。また、ノズル8は、丸パイプをつぶすだけで作製できるので、作製が容易である。ノズル8の後端にはノズルフランジ8aが溶接されている。また、流体供給管9の先端には管フランジ9aが溶接されている。ノズルフランジ8aと管フランジ9aとは不図示のボルトによって結合されている。これにより、ノズル8は、流体供給管9に対して着脱自在に取り付けられている。ノズル8には、溝幅方向外側にそれぞれ突出した2つの載置片83が固定されている。ボルト95(図3(b)参照)によって空間形成部材7の支持片77に載置片83が結合されることで、ノズル8は、空間形成部材7に対して着脱自在に取り付けられている。ノズルフランジ8aと管フランジ9aとの結合を解除し、空間形成部材7の一端部分71と本体部70との結合を解除すれば、本体部70および流体供給管9から、一端部分71とともにノズル8を取り外すことができる。その後、一端部分71とノズル8を結合しているボルト95を外せば、ノズル8のみを取り出すこともできる。これらにより、例えば水垢や汚泥等によりノズル8が詰まってしまった場合に、その水垢や汚泥等を取り除くといった保守作業を容易に実施することができる。
【0032】
ノズル8は、吐出口81から吐出される汚水の吐出方向と空間形成部材7の延在方向とをほぼ一致させた状態で空間形成部材7に形成された支持片77によって保持されている。また、ノズル8の先端側は、空間形成部材7が形成する内部空間S1(図3(b)参照)内に吸入口7aから入り込んでいる。従って、吐出口81は、内部空間S1内に配置されている。すなわち、吐出口81は、先端側が空間形成部材7の吸入口7aから内部空間S1に入り込んだノズル8の先端部分に形成されている。これにより、吐出口81から吐出される汚水の全てを内部空間S1内に吐出させることができる。ただし、吐出口81は、内部空間S1に汚水を吐出できる範囲であれば内部空間S1に入り込んでいなくてもよく、例えば空間形成部材の一端で構成される面上、すなわち吸入口7aと同じ位置に配置されていてもよい。なお、吐出口81を内部空間S1よりも外側であって内部空間S1から遠く離れた位置に配置すると、内部空間S1に向かって吐出した汚水の一部が内部空間S1に流れ込まない虞があるので、吐出口81は内部空間S1内か吸入口7aに近接させて配置することが望ましい。
【0033】
図3(b)は、同図(a)のE-E断面図である。この図3(b)では、図面を見やすくするために、一端側大径部を小さめに表している。また、図3(b)では、ノズルフランジおよび管フランジを図示省略している。
【0034】
図3(b)に示すように、トラフ6は、ステンレス製の板材を曲げ加工することによって、断面がトラフ中心6cを中心点とした円弧状になるように成形したものである。このトラフ6によって、嫌気槽2の底部には溝61が形成されている。換言すれば、溝61は、トラフ6の内面6iによって画定されている。なお、トラフ6は、コンクリートで形成したものであってもよく、樹脂などの他の材料で構成されていてもよい。また、トラフ6の断面形状は円弧状に限られず、U字状やV字状等であってもよい。本実施形態のトラフ6は、内径300mmの円筒体の上方1/3を切り欠いた形状のものであり、上方に向かって開口している。溝61のうち、トラフ6の開口につながる上端側は、その開口に近づくほど狭くなっている。
【0035】
空間形成部材7は、トラフ6の内面6i参照に沿って延在している。従って、空間形成部材7は、高度処理設備1における汚水の流れ方向と直交する方向に延在している。空間形成部材7の延在方向を汚水の流れ方向と平行にしてしまうと、吐出口81から汚水を吐出したときに、高度処理設備1における汚水の流れ方向に循環流が形成されるので、汚水を下流側の嫌気槽2または曝気槽3に必要以上に移動させてしまう虞がある。平面視における空間形成部材7の延在方向は、汚水の流れに対する角度が30度以上150度以下にすることが望ましい。空間形成部材7の本体部70および一端部分71は、ステンレス製の板材を曲げ加工することによって断面が円弧状になるように形成されたものである。空間形成部材7の下側部分には下方に向かって開口した下側開口7dが形成されている。空間形成部材7の断面における径方向の中心は、トラフ6の径方向の中心であるトラフ中心6cに一致している。以下、空間形成部材7の断面における径方向の中心を、単に空間形成部材7の中心と称する。空間形成部材7の中心はトラフ中心6cとを異なる位置に配置してもよいが、下側開口7dがトラフ6の開口以下の位置になるように配置することが好ましい。また、吐出口81の中心もトラフ中心6cと一致している。空間形成部材7の中心と吐出口81の中心とを一致させることで、吐出口81から吐出される汚水が空間形成部材7の内面7iに衝突して流れが弱まってしまうことを抑制することができる。ただし、空間形成部材7の中心と吐出口81の中心とを異なる位置に配置してもよい。例えば吐出口81の中心を、空間形成部材7の中心よりも下方であって、下側開口7dよりも上方に配置してもよい。この配置にすることで、後述する、汚水や沈殿した汚泥等を下側開口7dから内部空間S1内に吸い込む力を高めることができる。つまり、吐出口81の中心は、空間形成部材7の中心と空間形成部材7の下側開口7dの間に配置することが望ましい。
【0036】
空間形成部材7は、溝61内を仕切るものであって内部空間S1を形成している。内部空間S1は、下端より上の部分が閉塞した空間である。空間形成部材7の本体部70は、本体小径部701と後述する他端側拡径部702(図4参照)とから構成されている。本体小径部701および一端側小径部711は、内径150mmの円筒体の下端部分が切りかかれた5/6円弧の断面形状をしている。また、一端側小径部711の下端、一端側拡径部712の下端、および一端側大径部713の下端の高さ方向における位置は同一である。すなわち、一端部分71は、下端の全てが水平に切断された形状をしている。これにより、一端側大径部713は、内径300mmの円筒体の下端部分が切りかかれた約2/3円弧の断面形状をしている。吸入口7a(図3(a)参照)は、この一端側大径部713の一端に囲まれた部分に形成された、下端部分が欠けた直径300mmの円形状をしている。空間形成部材7の下端部分に形成された下側開口7dは、溝61内の汚水や沈殿した汚泥等を内部空間S1内に吸い込む吸込口として作用する。下側開口7dは、空間形成部材7の延在方向の全域に形成されている。従って、下側開口7dは、一端側拡径部712と一端側大径部713にも形成されている。空間形成部材7の延在方向の一部に下側開口7dを形成しない部分があってもよいが、その部分では汚水や沈殿した汚泥等を内部空間S1内に吸い込めず、沈殿した汚泥等が残留してしまう虞があるので、下側開口7dは、延在方向の全域に形成することが望ましい。本体小径部701および一端部分71に形成された下側開口7dは、溝幅方向に80mmの長さに形成されている。一端側大径部713の下側開口7dは、溝幅方向に約270mmの長さに形成されている。平面視において空間形成部材7が溝61から突出している両端部分を除いて、下側開口7dは、溝61内に配置されている。従って、下側開口7dは、溝61の上端縁よりも下方に配置されている。また、下側開口7dは、トラフ6の内面6iから離間している。詳細には、トラフ6の内面6iの最下部6bからの高さ方向の距離が84mmになる位置に下側開口7dは配置されている。最下部6bから下側開口7dまでの高さ方向の距離は、40mm以上200mm以下が好ましい。40mm未満だと、下側開口7dの縁とトラフ6との隙間が狭くなりすぎて、なんらかの原因で沈砂池等を通過してしまった大きめのごみが、その隙間につまってしまう虞がある。また、200mm以上では、最下部6bと下側開口7dとが離れすぎてしまうので、最下部6b近傍に沈殿した汚泥等を下側開口7dから内部空間S1内に吸い込めなくなる。なお、トラフ6に対する空間形成部材7の高さ方向の相対位置を調整自在にしておいてもよい。空間形成部材7の高さ方向の位置を調整自在にしておくことで、汚水処理施設に対応して最適な位置に空間形成部材7を配置することができる。このトラフ6の内面6i、流入路面52、および底部傾斜面5(図2参照)は、底面の一例に相当する。空間形成部材7の外面は、円弧状であるので、この円弧を円周の一部とする円の中心より上側部分は溝幅方向外側に向かうに従って下方へ傾斜している。このため、空間形成部材7の外面に向かって沈降してきた汚泥等は、空間形成部材7の上側部分の外面をつたって、溝61の底に向かって滑り落ちやすい。よこれにより。空間形成部材7の上側部分に汚泥等が堆積してしまうことを抑制できる。また、空間形成部材7の下側部分によって、内部空間S1は、下側開口7dにつながる下端部分が、その下側開口7dに近づくほど狭くなっている。このため、一旦内部空間S1内に吸い込まれた汚泥等が内部空間S1から漏れ出にくくなっている。
【0037】
図4(a)は、図1のD部を拡大して示す拡大図であり、図4(b)は、同図(a)のF-F断面図である。この図4(b)では、図面を見やすくするために、放出口の外径を小さめに表している。
【0038】
図4(a)に示すように、空間形成部材7の他端部分は、トラフ6の他端からさらに他端側に突出している。空間形成部材7の延在方向の他端は、延在方向に向かって開放されている。この開放された部分が放出口7bになる。空間形成部材7の他端部分には、放出口7bに向かうに従って空間形成部材7の延在方向と直交する放射方向に漸次広がった形状をした他端側拡径部702が形成されている。この他端側拡径部702は、空間形成部材7の延在方向と直交する面を対称面として一端側拡径部712と対称形に形成されている。従って、図4(b)に示すように、放出口7bは、他端側拡径部702の他端に囲まれた部分に形成された、下端部分が欠けた直径300mmの円形状をしている。つまり、放出口7bは、吸入口7aと同一の形状をしている。
【0039】
図5は、図2に示した嫌気槽のB-B断面図である。この図5では、流体供給管の中間部分を簡略化して示している。
【0040】
図5に示すように、吸入口7aは、左側壁11の内側面である左壁面111の下端部分に対向している。この左壁面111は、第1の壁面の一例に相当する。また、放出口7bは、中央壁13の左側面である中央壁面131の下端部分に対向している。この中央壁面131は、第2の壁面の一例に相当する。左壁面111の下端部分には、下方に向かうに従って吸入口7aに近づく第1傾斜面111aが形成されている。この第1傾斜面111aに向かって沈降してきた汚泥等は、傾斜により第1傾斜面111aを滑り落ちて吸入口7aの近傍に沈殿する。また、吐出口81から汚水を吐出すると、第1傾斜面111a付近には、図5の右下に円弧状の矢印で示したように、第1傾斜面111aの傾斜に沿って吸入口7a側に向かう汚水の流れが発生する。この汚水の流れにより、吸入口7a近傍に沈殿した汚泥等は吸入口7a側に向かって移動する。この流れと空間形成部材7によるエジェクタ効果により、沈殿した汚泥等が空間形成部材7内の内部空間S1(図3(b)参照)に吸い込まれるので、汚泥等が左壁面111の下端部近傍に沈殿してそのまま滞留してしまうことを防止できる。なお、本実施形態の第1傾斜面111aは下方に向かって凹んだ円弧状をしているが、平面状であってもよい。
【0041】
中央壁面131の下端部分には、下方に向かうに従って放出口7bに近づく第2傾斜面131aが形成されている。吐出口81から汚水が吐出されると、放出口7bから汚水が放出される。放出口7bから放出された汚水は、図3の左下に円弧状の矢印で示したように、第2傾斜面131aに沿って滑らかに上方に向かって上昇するので、この上昇した汚水によって空間形成部材7よりも上方には強い循環流が形成される。第2傾斜面131aは、平面状であってもよい。ただし、第2傾斜面131aを下方に向かって凹んだ円弧状に形成することで、放出口7bから概して水平方向に放出された汚水の流れを、平面状である場合と比較してより円滑に上方に変換できるので、平面状よりも流れの損失を少なくできるという効果がある。
【0042】
流体供給管9は、嫌気槽2の底部から上方に向かって左壁面111に沿って延在している。流体供給管9の上端側には、流量調整弁91および電動弁92が設置されている。なお、図5では流量調整弁91よりも上方にある流体供給管9は図示省略されている。この流体供給管9は、高度処理設備1内に配置された不図示のポンプに接続されている。電動弁92を開放することで、不図示のポンプが吸い上げた汚水が流体供給管9を通してノズル8に供給され、ノズル8に設けられた吐出口81から汚水が吐出される。なお、仕切壁14の上部には、流入開口14aと同様に、汚水が通過可能な上部流入口14bが2つ設けられている。
【0043】
次に、吐出口81から汚水を吐出させたときの作用について主に図3および図5を用いて説明する。嫌気槽2では、メンテンナンス時などの特殊な状況を除き、常に吐出口81から汚水を吐出させている。本実施形態においては、吐出口81から吐出される汚水の吐出圧力は0.09MPaで、吐出水量は1.5m/minである。ただし、後述するように、吐出圧力は0.001MPa以上であればよく、吐出水量は0.3m/min以上であればよい。加えて、汚水の吐出流速は、2m/sec以上32m/sec以下が好ましい。吐出流速が2m/sec未満だと、放出口7bから放出された汚水によって形成される嫌気槽2内の循環流が弱く、汚泥等を循環させることができなくなってしまう虞がある。吐出流速が32m/secを超えると、循環流の流れが強くなりすぎて、水面で空気を巻き込んで汚水に空気が供給されてしまう。吐出口81から内部空間S1に汚水が吐出されることで、内部空間S1に汚水の流れが発生する。その際、内部空間S1内を流れるの汚水の流れによって、内部空間S1内と内部空間S1の外との間で汚水の流れによる圧力差が生じる。すなわち、汚水の流れが発生している内部空間S1には負圧が生じる。溝61内に沈殿した汚泥等は、周囲の汚水とともに図3(b)に示す曲線の矢印のように、負圧によって下側開口7dから内部空間S1内に吸い込まれる。汚泥等を吸い込むために必要な負圧を得るために、内部空間S1内を流れる汚水の流速は0.1m/sec以上にすることが好ましい。また、吐出口81から吐出された汚水は、空間形成部材7によって空間形成部材7の延在方向と直交する放射方向への拡散が防止されるため、長距離にわたって内部空間S1内で流れが維持される。内部空間S1内に吸い込まれた汚水および汚泥等は、内部空間S1内に生じている汚水の流れによって、汚水と混合されつつ放出口7b側に向かって移動し、放出口7bから放出される。吐出圧力が0.001MPa未満だと、内部空間S1内を移動している汚泥等が下側開口7dから漏れ落ちてしまいやすくなる。また、同様に吐出水量が0.3m/min未満の場合も内部空間S1内を移動している汚泥等が下側開口7dから漏れ落ちてしまいやすくなる。なお、ポンプ能力や電力消費量を考慮すると、吐出圧力0.3MPa以下が好ましく、吐出水量は3.0m/min以下が好ましい。上述したように、放出口7bから放出された汚水は、第2傾斜面131aに沿って上方に向かって滑らかに上昇し、空間形成部材7よりも上方に強い循環流を形成する。
【0044】
この実施形態によれば、吐出口81から内部空間S1に汚水を吐出することで、溝61内に沈殿した汚泥等を内部空間S1に吸い込んで攪拌しつつ移動させ、放出口7bから放出させることができる。そして、放出口7bから放出された、汚泥等が混ざり合った汚水を、循環流に乗せて嫌気槽2内で循環させることができる。従って、溝61に沈殿した汚泥等を攪拌することができる。
【0045】
次に、第2実施形態の嫌気槽2について説明する。これより後の説明では、これまで説明した構成要素の名称と同じ名称の構成要素には、これまで用いた符号を付して説明し、重複する説明は省略することがある。
【0046】
図6は、第2実施形態の高度処理設備1における図2と同様の断面図である。この図6で図の左側が上流側になり右側が下流側になる。
【0047】
図6に示す高度処理設備1は、先の実施形態に示した高度処理設備1とは嫌気槽2の底部の形状が異なる。図6に示すように、この嫌気槽2は、底部傾斜面5とトラフ6が底部に形成されておらず、底部には平坦面で構成された底面50が形成されている。また、この実施形態では、先の実施形態と比較して空間形成部材7を多く配置している。具体的には、最も上流から3つ目までの嫌気槽2は、それぞれ3つの空間形成部材7を備えている。そして、最も下流側にある嫌気槽2は、5つの空間形成部材7を備えている。空間形成部材7の下側開口7dは、底面50から離間している。詳細には、底面50からの高さ方向の距離が84mmになる位置に下側開口7dは配置されている。なお、先の実施形態と同様の理由により、下側開口7dと底面50との高さ方向の距離は、40mm以上200mm以下が好ましい。空間形成部材7にはそれぞれ内部空間S1に流体を吐出する吐出口81が配置されている。
【0048】
この実施形態の嫌気槽2においても、吐出口81から汚水を吐出することで、空間形成部材7よりも上方には循環流が形成される。空間形成部材7よりも下方であって空間形成部材7の近傍に堆積した汚泥等は、周囲の汚水とともに図6に示す曲線の矢印のように、負圧によって下側開口7dから内部空間S1内に吸い込まれる。そして、吸い込まれた汚泥等は、上方に形成された循環流にのって循環する。ただし、隣り合う空間形成部材7の間隔が広いと、隣り合う空間形成部材7の中間位置にある底面50の上に沈殿した汚泥等は堆積したままになってしまう虞がある。この対策として、上述したように空間形成部材7を多く配置することで、隣り合う空間形成部材7の間を狭くて、その中間位置にある底面50の上に沈殿した汚泥等が堆積したままになってしまうことを防止している。なお、空間形成部材7の配置数を増やす代わりに、空間形成部材7および吐出口81を、モータ等の電動機によって汚水の流れ方向に移動させる直動機構を設けてもよい。この直動機構を設けた場合、吐出口81から汚水を吐出しつつ、嫌気槽2の上流端近傍から下流端近傍まで空間形成部材7を吐出口81とともに移動させる動作を行うことが好ましい。また、空間形成部材7の延在方向の中央部分を中心に、空間形成部材7を底面50に沿って電動機によって回動させる回転機構を設けてもよい。この回転機構を設けた場合、吐出口81から汚水を吐出しつつ、空間形成部材7を底面50と平行に回転させる動作を行うことが好ましい。この動作において、空間形成部材7は、右回りと左回りぞれぞれに150度未満の角度づつ回転させることが望ましい。150度以上回転させると、汚水の流れ方向に循環流が形成され、汚水を下流側の嫌気槽2または曝気槽3に必要以上に移動させてしまう虞がある。これらの直動機構または回転機構を設けた態様によれば、嫌気槽2の底面50の全面を、単一の空間形成部材7で網羅できるので、嫌気槽2毎に1つの空間形成部材7を配置するだけで底面50に堆積した全ての汚泥等を吸い上げて攪拌することができる。この実施形態によれば、底部傾斜面5やトラフ6を嫌気槽2に形成しなくても、底面50の上に沈殿した汚泥等を攪拌することができる。
【0049】
続いて、これまで説明してきた嫌気槽2の変形例について、これまで説明した構成とは異なる点を中心に説明する。
【0050】
図7(a)は、図3(b)に示す空間形成部材の一端部分の変形例を示す断面図である。
【0051】
図7(a)に示すように、この変形例の空間形成部材7は、一端側拡径部712および一端側大径部713が、図3に示した空間形成部材7と比較してが溝幅方向には拡がっていない点と、支持片77および載置片83が設けられる位置が異なる。すなわち、一端側拡径部712および一端側大径部713は、一端側小径部711に対して上方のみに拡がった形状をしている。一端側大径部713の内側には、上端部分から下方に向かって突出した支持片77が設けられている。また、ノズル8には、上端部分から上方に向かって突出した載置片83が固定されている。そして、ボルト95によって支持片77に載置片83が結合されることで、ノズル8は、空間形成部材7の一端部分71に着脱自在に取り付けられている。
【0052】
図7(b)は、図4(b)に示す空間形成部材の他端部分の変形例を示す断面図である。
【0053】
図7(b)に示すように、この変形例の空間形成部材7は、他端側拡径部702が、図4に示した空間形成部材7と比較して幅方向には拡がっていない点が異なる。すなわち、他端側拡径部702は、本体小径部701に対して上方のみに拡がった形状をしている。この変形例では、一端側大径部713が上方のみに拡がっているので、吐出口81から汚水を吐出したときに、空間形成部材7よりも上方により強い循環流が形成されやすい。
【0054】
本発明は上述の実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形を行うことが出来る。たとえば、本実施形態では、嫌気槽2に本発明の攪拌槽を適用したが、曝気槽3に適用してもよく、無酸素槽に適用してもよい。曝気槽3に適用する場合は、吐出口81の周囲または近傍に、空気または気泡を含有する汚水を供給する別の吐出口を設けるか、流体供給管9の途中で空気または気泡を汚水に加えて吐出口81から吐出させればよい。この場合、気泡は、直径が1μm以下のナノバブルであることが望ましい。ナノバブルは、同じ体積の直径が大きな気泡と比較して、合計表面積が大きいため、効率的に好気性の細菌に酸素を供給できる。また、ナノバブルは、浮力がほとんど無いので曝気槽3内を長時間循環することができる。曝気槽3に適用する場合、曝気槽3における内部空間S1内を流れる汚水の流速は、嫌気槽2における内部空間S1内を流れる汚水の流速より早くてもよい。内部空間S1内を流れる汚水の流速が早くなると、循環流の流れが強くなり水面で空気を巻き込んで汚水に空気が供給されることがあるが、曝気槽3では空気が供給されることは好ましいからである。換言すると、嫌気槽2における内部空間S1内を流れる汚水の流速は、曝気槽3における内部空間S1内を流れる汚水の流速以下であることが好ましい。無酸素槽に適用する場合は、硝酸等を加える装置を槽内に配置すればよい。また更に、2種類以上の流体を混合するため槽や、流体中に各種粉末や薬品等を均一に分散させるための槽など、汚水処理施設以外の施設に本発明の攪拌槽を用いてもよい。
【0055】
以上説明した実施形態や変形例によれば、底部に沈殿した汚泥等を、汚水とともに内部空間S1に吸い上げて移動させることで、その汚泥等と汚水を攪拌することができる。
【0056】
なお、以上説明した実施形態や各変形例の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、他の実施形態や他の変形例に適用してもよい。
これまでに説明した攪拌槽は、受け入れた液体を攪拌する攪拌槽であって、
この攪拌槽の底部に形成された底面に沿って延在し、延在方向の一端に設けられた吸入口と該延在方向の他端に設けられた放出口とを有する中空状の空間形成部材と、
前記空間形成部材の内面によって画定された内部空間に流体を吐出する吐出口とを備え、
前記空間形成部材は、下側部分に前記底面から離間した下側開口が形成されたものであることを特徴としてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 高度処理設備
2 嫌気槽
6 トラフ
6i 内面
7 空間形成部材
7a 吸入口
7b 放出口
7d 下側開口
50 底面
81 吐出口
S1 内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7