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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】鋳鉄用黒鉛球状化剤
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/10 20060101AFI20221117BHJP
   C22C 35/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C21C1/10 102
C22C35/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018217928
(22)【出願日】2018-11-21
(65)【公開番号】P2020084246
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000222875
【氏名又は名称】東洋電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100072213
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 一義
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】山本 展也
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-237528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/10
C22C 33/00
C22C 35/00
C22C 37/04
B22D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄中における球状黒鉛の粒数を増加させるための球状化剤であって、シリコンを30~60重量%、マグネシウムを10~30重量%、ジルコニウムを0.1~10重量%及び所定量の鉄を含有することを特徴とする鋳鉄用黒鉛球状化剤。
【請求項2】
レアアースを0.1~5重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の鋳鉄用黒鉛球状化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素及びケイ素を所定量含有する鉄である鋳鉄中における炭素である黒鉛の粒数を増大させる球状化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋳鉄には炭素が約3~5重量%と多く含有されているために、組織中に黒鉛が晶出することとなり、その晶出した黒鉛の形状によって、鋳鉄の機械的物性が種々変化する。鋳鉄中に黒鉛が片状に晶出される鋳鉄は、ねずみ鋳鉄と呼ばれ、硬いが伸びがなく脆いが、鋳鉄中に黒鉛が球状に晶出されるように工夫された鋳鉄は、ダクタイル鋳鉄と呼ばれ、鋳鉄の靭性が向上するために自動車部品、水道管など種々の構造物に使用されている。そのため、鋳鉄中における球状黒鉛の粒数が増え散在されると、鋳鉄はより強靭化され、さらに用途が広がったり高い要求基準をクリアして高品質化できたりするので、球状黒鉛の粒数を増加させるような球状化剤が求められている。
【0003】
また、鋳鉄中における黒鉛の球状化に付随して種々の課題を解決するために種々の黒鉛化球状処理剤が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、シリコン40~50%、マグネシウム4~5%、カルシウム0.5~1.5%、アルミニウム1~3%、レアアース0.5~1.5%、ジルコニウム0.2~1.0%、炭素0.5~3%、不可避の不純物、残部実質的に鉄の組成をもつ球状黒鉛鋳鉄用球状化剤されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-237528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている球状化剤は、球状化処理後の溶湯のチル化をより一層低減するために添加されるものとして開示されており、球状黒鉛の粒数を増加させる効果については明示されておらず、本願の解決課題とは明確に異なるものである。
【0007】
そこで、本発明では、上記課題を鑑み、鋳鉄中における黒鉛を球状化させるとともに、その球状黒鉛の粒数を増加させる鋳鉄用黒鉛球状化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕すなわち、本発明は、鋳鉄中における球状黒鉛の粒数を増加させるための球状 化剤であって、シリコンを30~60重量%、マグネシウムを4~30重量%、ジルコ ニウムを0.1~10重量%及び所定量の鉄を含有することを特徴とする鋳鉄用黒鉛球 状化剤である。
【0009】
〔2〕そして、レアアースを0.1~5重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の鋳鉄用黒鉛球状化剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鋳鉄中における黒鉛を球状化させるとともに、その球状黒鉛の粒数を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明である実施例の鋳鉄用黒鉛球状化剤を添加した直後におけるダクタイル鋳鉄の顕微鏡写真である。
図2】本発明である実施例の鋳鉄用黒鉛球状化剤を添加して7分後におけるダクタイル鋳鉄の顕微鏡写真である。
図3】比較例の鋳鉄用黒鉛球状化剤を添加した直後におけるダクタイル鋳鉄の顕微鏡写真である。
図4】比較例の鋳鉄用黒鉛球状化剤を添加して7分後におけるダクタイル鋳鉄の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る鋳鉄用黒鉛球状化剤に関して、詳しく説明する。なお、範囲を表す表現は上限と下限を含むものである。
【0014】
シリコン(Si):
本発明の鋳鉄用黒鉛球状化剤がフェロシリコン系の処理剤であり、シリコンは配合されるマグネシウムの濃度を低くし、マグネシウムの爆発的な反応を抑えるために配合されている。シリコンの配合割合は、30~60重量%であることが好ましく、40~50重量%であることが好ましい。シリコンの配合割合がこの範囲であると、鋳鉄用黒鉛球状化剤を安定に製造することができ、鋳鉄用黒鉛球状化剤の融点を下げて鋳鉄が溶融している溶湯に添加したときに鋳鉄用黒鉛球状化剤を融けやすくして他の成分を溶湯中に分散させることができ、また、鋳鉄用黒鉛球状化剤のコストを低減することができる。
【0015】
マグネシウム(Mg):
マグネシウムは、鋳鉄中の黒鉛を球状化するための有効成分である。マグネシウムの配合割合は、4~30重量%であることが好ましく、10~30重量%であることが好ましい。マグネシウムの配合割合がこの範囲であると、鋳鉄用黒鉛球状化剤を溶湯に添加したときに黒鉛を確実に球状化することができ、さらに、マグネシウムの爆発的な反応を抑制して溶湯の飛散による歩留りの低下などを抑えることができる。
【0016】
ジルコニウム(Zr):
ジルコニウムは、鋳鉄中の球状化黒鉛の粒数を増加させるための有効成分であり、球状化剤に共存させることで、ジルコニウムの黒鉛粒数増大効果により、黒鉛の球状化を促進し、さらにそれによって黒鉛粒数増大を加速させる相乗効果があると考えられる。ジルコニウムの配合割合は、0.1~3重量%であることが好ましく、0.50~2重量%であるこが好ましい。ジルコニウムの配合割合がこの範囲であると、鋳鉄用黒鉛球状化剤を溶湯に添加したときに得られる鋳鉄の靭性を損なわない程度に黒鉛が球状化されるとともに、球状化黒鉛の粒数を増加させることができる。
【0017】
レアアース(RE):
レアアースは、鋳鉄中の黒鉛を球状化させるための補助などする成分であり、スカンジウム、イットリウムの2元素と、ランタンからルテチウムまでの原子番号の15元素の総称である。レアアースの配合割合は、0.1~5重量%であることが好ましく、0.5~3重量%であることが好ましい。レアアースの配合割合がこの範囲であると、鋳鉄用黒鉛球状化剤を溶湯に添加したときに黒鉛の球状化を促進し、さらに、溶湯が凝固したときの引け量を抑えることができる。
【0018】
カルシウム(Ca):
カルシウムは、球状化処理時の反応を抑制する効果とともに、マグネシウムの球状化作用を補助する働きがある。0.5%未満ではその効果が得られず、6%を超えると、処理後にCa酸化物が大量に発生することになり、実用に適さない。
【0019】
鉄(Fe):
本発明の鋳鉄用黒鉛球状化剤の基材であり、シリコンと同様に、配合されるマグネシウムの濃度を低くし、マグネシウムの爆発的な反応を抑えることができる。
【0020】
また、鋳鉄用黒鉛球状化剤は、不純物としてマンガン、リン、クロム、チタン、アルミニウム、スズなどが不可避的に混合されていてもよい。
【0021】
本発明の鋳鉄用黒鉛球状化剤は、溶湯に添加されるときには、上記の材料からなるソリッドワイヤーとして線状に形成されていたり、上記の材料が、薄い鋼板などで緊密に被覆されたコアードワイヤーとして線状に形成されていたりすることが好ましい。なお、コアードワイヤーとして線状に形成されているときには、被覆した鋼板も全体の重量として含まれ、各成分の割合は、各成分の配合量及び被覆した鋼板の重量の総量に対しての割合である。
【実施例
【0022】
〔実施例1〕
Si47.6重量%、Mg23.5重量%、Ca2.8重量%、RE0.8重量%、Zr1.2重量%、不純物成分を含むFeSiMg合金である球状化剤を充填したコアードワイヤーを作製した。
【0023】
そして、100kgの鋳鉄溶湯に、上記球状化剤を鋳鉄溶湯の0.42%(420g)添加した。そして添加処理した球状化剤含有鋳鉄溶湯から、カントバック分析用メダル試料および鋳造により円柱形状のテストピースを処理直後および7分経過後にそれぞれ採取した。
【0024】
〔比較例1〕
Si41.2重量%、Mg24.6重量%、Ca2.8重量%、RE0.8重量%、不純物成分を含むFeSiMg合金である球状化剤を充填したコアードワイヤーを作製した。
【0025】
そして、100kgの鋳鉄溶湯に、上記球状化剤を鋳鉄溶湯の0.42重量%(420g)添加した。そして添加処理した球状化剤含有鋳鉄溶湯から、カントバック分析用メダル試料および鋳造により円柱形状のテストピースを処理直後および7分経過後にそれぞれ採取した。
【0026】
<球状黒鉛粒数>
そして、このようにして得られた実施例のテストピース、比較例のテストピースの切断し断面を研磨後、顕微鏡を用いて研磨箇所を観察し組織画像を撮影した。この画像をJIS規格(JISG5502:球状黒鉛鋳鉄品)に対応した黒鉛球状化測定ソフト(日鉄住金テクノロジー製)にて単位面積あたりの球状化黒鉛の粒数を計測した。合わせてその画像における黒鉛球状化率について、同ソフトを用いて計測した。これらの計測を5回行い、それらを算術平均した。
【0027】
<Mg歩留り>
さらに実施例のカントバック分析用試料、比較例のカントバック分析用試料の成分分析を実施し、分析したMg値と溶湯重量からの積で求められる残留しているMg量に対して、ワイヤーにて溶湯へ投入したMg添加量で除して百分率とすることで、各Mg歩留まりの比率を算出した。
【0028】
上記実施例及び比較例における球状化剤の組成を表1に、そして、球状化黒鉛の粒数、球状化率、Mg歩留まりの結果をまとめて表2に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
表2のように、実施例の球状化剤を用いた場合において、鋳鉄中における黒鉛が球状化されるとともに、比較例の球状化剤を用いた場合と比べるとその球状黒鉛の粒数が有意に増加していることが分かり、さらに、図1に示すように球状黒鉛が鋳鉄中に散在していることが分かった。また、Mgの歩留りに関して、実施例の球状化剤を用いた場合は、比較例の球状化剤を用いた場合よりも、添加直後においても高く、また、7分経過後において比較例の場合と同様に低下する傾向にあるが、その低下が抑制されるという効果も奏する。
図1
図2
図3
図4