(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】溶湯の製造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 1/00 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
B22D1/00 E
(21)【出願番号】P 2019056019
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018066523
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222875
【氏名又は名称】東洋電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】又川 隆義
(72)【発明者】
【氏名】中山 和俊
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180146(JP,A)
【文献】特開2008-261014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋に収容された金属の溶湯に線材を投入することによって、前記取鍋に収容された前記溶湯を一単位として、複数単位の前記溶湯に順次所望の処理を行う溶湯の製造装置であって、
前記線材により形成され各々独立した
複数の線材束
が、一の前記線材束を形成する前記線材の終端と他の前記線材束を形成する前記線材の始端が接続部材によって
接続されることで繋がっており、各前記線材束を形成する前記線材を前記取鍋まで順に送る送線手段と、
前記接続部材が通ったときに、前記接続部材が通ったことを示す検出信号を出力する検出手段と、
前記検出信号に基づいて、前記複数単位の溶湯と前記複数の線材とを関連付ける情報を示す関連データを生成するデータ生成手段と、
前記関連データを保存する保存手段
とを備える溶湯の製造装置。
【請求項2】
前記接続部材の第1静電容量と前記複数の線材の第2静電容量とは一定値以上異なっており、
前記検出手段は、前記複数の線材が順に送られる経路を通る前記複数の線材の前記第1静電容量と前記経路を通る前記接続部材の前記第2静電容量とを検出する静電容量センサを含み、前記第1静電容量と前記第2静電容量との差異に応じた信号を前記検出信号として出力する請求項1に記載の溶湯の製造装置。
【請求項3】
前記接続部材は、前記複数の線材の視覚的特徴とは異なる前記視覚的特徴を有しており、
前記検出手段は、前記複数の線材が順に送られる経路を通る前記複数の線材と前記経路を通る前記接続部材とを撮像する画像センサを含み、前記画像センサによって撮像される画像の前記視覚的特徴と前記接続部材の前記視覚的特徴との一致度が基準値以上のときに、前記検出信号を出力する請求項1に記載の溶湯の製造装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記接続部材に直接的又は間接的に接続されている位置変化センサを含み、前記位置変化センサが、前記位置変化センサと前記接続部材との相対位置が変化したときに、前記検出信号を出力する請求項1に記載の溶湯の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯の製造装置に関し、特に、金属の溶湯に線材を投入することによって、所望の処理、例えば溶湯内で黒鉛を球状化する処理を行う溶湯の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の溶湯に線材を投入することによって、所望の処理を行う溶湯の製造装置として、特許文献1には、コイル状の線材束を送線装置にセットし、線材束から線材を繰り出し、予め決められた長さの線材を溶湯に投入する溶湯の製造装置が記載されている。特許文献1に記載の製造装置においては、炉で溶融された大量の金属が溶湯として取鍋に小分けにされ、小分けにされた溶湯に予め決められた長さの線材が投入される。線材は、処理に対応する成分、例えば溶湯内で黒鉛を球状化するための球状化剤を含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の溶湯の製造装置においては、送線装置にセットされた一つの線材束から全ての線材が繰り出されると、新たな線材束を担当者が送線装置にセットしなくてはならず、線材束を送線装置にセットするための作業が必要になる。
【0005】
また、特許文献1に記載の溶湯の製造装置によって製造された溶湯から多数の鋳物を作製するときには、溶湯が次々に取鍋に注入され、線材束が次々に送線装置にセットされ、小分けにされた溶湯に次々に線材が投入される。しかしながら、作製された多数の鋳物の中に不具合を有する鋳物があり、当該不具合の原因を究明しようとすると、不具合の原因となった線材を特定することが重要になる。従って、溶湯に所望の処理を行うときに、小分けにされた多数の溶湯と、処理に使用される多数の線材束とが関連付けられているデータを担当者が作成し、当該データを担当者が管理する必要がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属の溶湯に所望の処理を行うときの作業量を低減できる溶湯の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示する溶湯の製造装置は、取鍋に収容された金属の溶湯に線材を投入することによって、前記取鍋に収容された前記溶湯を一単位として、複数単位の前記溶湯に順次所望の処理を行う。当該製造装置は、送線手段と、検出手段と、データ生成手段と、保存手段とを備える。前記送線手段は、複数の前記線材を順に送る。前記複数の線材は、各々独立した線材束を形成しており、複数の前記線材束から前記取鍋まで送られる順に、接続部材によって端部同士が互いに接続されている。前記検出手段は、前記接続部材が通ったときに、検出信号を出力する。前記検出信号は、前記接続部材が通ったことを示す。前記データ生成手段は、前記検出信号に基づいて、関連データを生成する。前記関連データは、前記複数単位の溶湯と前記複数の線材とを関連付ける情報を示す。前記保存手段は、前記関連データを保存する。
【0008】
本願に開示する溶湯の製造装置において、前記接続部材の第1静電容量と前記複数の線材の第2静電容量とは一定値以上異なっている。前記検出手段は、静電容量センサを含む。前記静電容量センサは、前記複数の線材が順に送られる経路を通る前記複数の線材の前記第1静電容量と前記経路を通る前記接続部材の前記第2静電容量とを検出する。そして、前記検出手段は、前記第1静電容量と前記第2静電容量との差異に応じた信号を前記検出信号として出力する。
【0009】
また、本願に開示する溶湯の製造装置において、前記接続部材は、前記複数の線材の視覚的特徴とは異なる前記視覚的特徴を有している。前記検出手段は、画像センサを含む。前記画像センサは、前記複数の線材が順に送られる経路を通る前記複数の線材と前記経路を通る前記接続部材とを撮像する。そして、前記検出手段は、前記画像センサによって撮像される画像の前記視覚的特徴と前記接続部材の前記視覚的特徴との一致度が基準値以上のときに、前記検出信号を出力する。
【0010】
また、本願に開示する溶湯の製造装置において、前記検出手段は、前記接続部材に直接的又は間接的に接続されている位置変化センサを含む。前記位置変化センサは、前記位置変化センサと前記接続部材との相対位置が変化したときに、前記検出信号を出力する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の溶湯の製造装置によれば、複数の線材は、各々独立した線材束を形成しており、送られる順に、接続部材によって端部同士が互いに接続されている。従って、金属の溶湯に所望の処理を行うときに、一つの線材束から全ての線材が繰り出されても、次の線材束を送線手段に改めてセットする必要がなく、複数の線材束を送線手段にセットするのに必要とされる作業量を低減できる。
【0012】
また、送線手段によって、複数の線材が複数の線材束から取鍋まで順に送られ、検出手段によって、接続部材が通ったことを示す検出信号が出力され、データ生成手段によって、関連データが生成され、保存手段によって、関連データが保存される。関連データは、複数単位の溶湯と複数の線材とを関連付ける情報を示す。従って、製造された溶湯から作製される鋳物に不具合が生じても、不具合の原因となった線材を容易に特定でき、金属の溶湯に所望の処理を行うときに、担当者が製造管理上のデータを作成し、保存する必要がない。
【0013】
以上により、金属の溶湯に所望の処理を行うときの作業量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態1に係る溶湯の製造装置を示す正面図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る溶湯の製造装置における制御系統を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る制御装置によって実行される制御処理の前半部分を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態1に係る制御装置によって実行される制御処理の後半部分を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態1に係る溶湯の製造装置の一部分を示す二面図である。
【
図6】本発明の実施形態2に係る溶湯の製造装置を示す正面図である。
【
図7】本発明の実施形態2に係る溶湯の製造装置の一部分を示す概略図である。
【
図8】本発明の実施形態3に係る溶湯の製造装置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る溶湯の製造装置に関する実施の形態について、添付の図面に基づいて詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するに好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に発明を限定する旨が明記されていない限り、この形態に限定されるものではない。
[実施形態1]
以下、
図1、
図2を参照して、本発明の実施形態1を説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る溶湯の製造装置を示す正面図である。
図2は、本発明の実施形態1に係る溶湯の製造装置における制御系統を示すブロック図である。
【0016】
図1に示すように、実施形態に係る溶湯の製造装置は、取鍋10に収容された金属の溶湯Fに線材Wを投入することによって、取鍋10に収容された溶湯Fを一単位として、複数単位の溶湯Fに順次所望の処理を行う。所望の処理は、例えば溶湯F内で黒鉛を球状化するための処理である。また、線材Wは、所望の処理に対応する成分、例えば黒鉛を球状化するための球状化剤を含有する。
【0017】
なお、線材Wは、主に溶融鋳鉄などの溶湯における成分調整のために溶湯Fに投入される。例えば、線材Wは、溶湯Fの品質を改善するために溶湯に投入される。溶湯Fの品質を改善する目的、つまり改質目的には、例えば、溶湯から作製される製品における機械的物性の向上がある。しかしながら、改質目的には様々なものがあり、具体的な改質目的に応じて、線材Wの成分が決定される。
【0018】
例えば、線材Wの成分として、鉄鋼の脱酸のためにカルシウム及びシリコンを含有させることができる。また、鉄鋼の脱硫のためにカルシウム及びアルミニウムを含有させることができる。そして、溶鋼成分を安定させるために、硫黄を含有させることができる。溶鉱成分の微調整のために、炭素を含有させることができる。さらに、鋳鉄の脱硫又は黒鉛球状化のために、マグネシウム、シリコン、鉄を含有させることができる。なお、線材Wは、これらの材料に対して、薄い鋼板などの金属で被覆して用いられることが好ましい。線材Wは、目的に応じて、1種又は2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0019】
図1に示すように、実施形態に係る溶湯の製造装置は、送線装置1と、検出装置2と、制御装置3とを備える。送線装置1は、複数の線材束Pから取鍋10まで複数の線材Wを順に送る。複数の線材Wは、各々独立した線材束Pを形成しており、送られる順に接続部材20によって端部同士が互いに接続されている。より具体的には、線材束Pは、線材Wがコイル状に巻回されて形成されている。
【0020】
検出装置2は、複数の線材Wが複数の線材束Pから取鍋10まで順に送られる途中の特定箇所であって送線装置1を通過した箇所である経路Qを接続部材20が通ったときに、検出信号D1を出力する。検出信号D1は、経路Qを接続部材20が通ったことを示す。なお、本実施形態においては、検出装置2は、静電容量センサを含み、ローラ電極21とアンプ22とを有する。ローラ電極21、アンプ22の詳細は、
図1、
図5を参照して、後述する。なお、本実施形態では、検出装置2を、送線装置1を通過した箇所である経路Qに設けているが、他の実施形態において、線材Wが通過する他の経路に設けることもできる。
【0021】
制御装置3は、
図2に示すように、データ生成部31と、記憶装置4とを含む。データ生成部31は、検出信号D1に基づいて、関連データD2を生成する。関連データD2は、複数単位の溶湯Fと複数の線材Wとを関連付ける情報を示す。制御装置3は、記憶装置4に予め記憶されたコンピュータプログラムを実行することによって、データ生成部31として機能し、後述の制御処理を実行する。記憶装置4は、保存部32と、パラメータ保持部33とを含む。保存部32は、関連データD2を保存する。
【0022】
また、制御装置3は、中央処理装置を含む。記憶装置4は、主記憶装置と補助記憶装置とを含む。主記憶装置は揮発性メモリを含み、補助記憶装置は不揮発性メモリを含む。実施形態においては、保存部32は、補助記憶装置における不揮発性メモリ内の特定の記憶領域を含んでいる。当該特定の記憶領域に関連データD2を格納するように、制御装置3が補助記憶装置を制御することによって、保存部32は、関連データD2を保存する。
【0023】
パラメータ保持部33は、各種データを保持する。パラメータ保持部33が保持するデータには、「重量データ」、「温度データ」、「添加率データ」、「歩留りデータ」、「成分データ」がある。重量データ、温度データは、取鍋10内の溶湯Fの重量、温度を示す。添加率データは、所望の処理に対応する成分、例えば球状化剤を溶湯Fに添加する目標量を示す。歩留りデータは、目標とする歩留りを示す。成分データは、所望の処理に対応する成分、例えば球状化剤の線材Wにおける成分量を示す。
[送線装置1]
次に、
図1を参照して、送線装置1の詳細を説明する。送線装置1は、2つの駆動ローラ11と、2つの従動ローラ12とを有する。2つの駆動ローラ11は、図示しない電動機によって駆動される。電動機は、制御装置3によって制御される。実施形態においては、電動機として、サーボモータ又はギアードモータを使用することができる。
【0024】
実施形態においては、2つの従動ローラ12は、各々駆動ローラ11と対を成しており、各々駆動ローラ11に向かって付勢され、各々駆動ローラ11との間で線材Wを挟持する。駆動ローラ11と従動ローラ12とが、線材Wを挟持した状態で駆動ローラ11が回転することによって、線材Wが送線方向X1に送られる。また、2つの従動ローラ12のうち、少なくとも一方の従動ローラ12の回転軸には図示しないロータリエンコーダが接続されている。当該ロータリエンコーダは、少なくとも一方の従動ローラ12の回転速度を示す信号を出力する。制御装置3は、当該ロータリエンコーダの出力信号に基づいて、予め決められた速度で線材Wが送られるように、電動機を制御する。
【0025】
送線装置1には、複数の線材束Pを形成している複数の線材Wがセットされている。複数の線材Wは、第1線材W1、第2線材W2などを含む。送線装置1は、第1線材W1を全て送ると、次の第2線材W2を送る。また、複数の線材Wは、接続部材20によって、第2線材W2の始端が第1線材W1の終端と接続されるというように、端部同士が互いに接続されている。なお、本実施形態では、複数の線材Wは、第1線材W1、第2線材W2の二つであるが、他の実施形態において、第3線材や第4の線材など3つ以上の線材をそれぞれの端部を接続部材によって接続して使用することもできる。
【0026】
送線装置1によって送られるとき、複数の線材Wは、複数のガイドリング23の内側を通過することによって、送線装置1まで案内される。送線装置1から送り出された線材Wは、ガイドパイプ24によって取鍋10に案内され、溶湯Fに投入される。
【0027】
次に、
図3、
図4を参照して、溶湯Fに所望の処理を行う際に、制御装置3によって実行される制御処理を説明する。
図3、
図4は、本発明の実施形態1に係る制御装置によって実行される制御処理を示すフローチャートである。なお、
図3、
図4に示される制御処理において、第1長さL1、第2長さLp、第3長さLr、第1残長Lu、第2残長Le、線材ID(x)は、記憶装置4の特定領域に記憶される変数である。制御装置3は、第1長さL1、第2長さLp、第3長さLr、第1残長Lu、第2残長Le、線材ID(x)に制御処理における算出結果を代入し、代入値を必要に応じて保存部32に保存するように制御を行う。
【0028】
図3に示すように、ステップS1においては、第1長さL1が算出される。第1長さL1は、当該単位の溶湯Fに所望の処理を行うために投入すべき線材Wの長さを示す。制御装置3は、パラメータ保持部33に保持されている重量データ、添加率データ、成分データに基づいて、第1長さL1を算出する。
【0029】
ステップS2においては、線材Wが送られる。制御装置3は、予め決められた速度で線材Wを送るように、送線装置1を制御する。なお、理解を容易にするために、以下、線材Wが送られ始めたときに、同時に溶湯Wに線材Wが投入され始めるものとして説明する。
【0030】
ステップS3においては、接続部材20が経路Qを通ったか否かが判定される。制御装置3は、
図1、
図2に示すように、検出装置2から検出信号D1が入力されたときに、接続部材20が経路Qを通ったと判定する。接続部材20が経路Qを通った(Yes)と判定されれば、処理はステップS4に進み、接続部材20が経路Qを通っていない(No)と判定されれば、処理はステップS5に進む。
【0031】
ステップS4においては、第2長さLpが算出される。第2長さLpは、送線装置1によって線材Wが送られ始めたときから、接続部材20が経路Qを通ったとステップS3において判定されたときまでに、線材Wが送られた長さを示す。制御装置3は、送線装置1におけるロータリエンコーダの出力信号に基づいて、第2長さLpを算出する。なお、当該単位の溶湯Fに対して一度でも第2長さLpが算出されれば、次回以降は、当該単位の溶湯Fに対してステップS4における算出処理はスキップされる。
【0032】
ステップS5においては、第1長さL1だけ線材Wが送られたか否かが判定される。制御装置3は、上記したロータリエンコーダの出力信号に基づいて、送線装置1によって線材Wが送られ始めたときから、実際に線材Wが送られた第3長さLrを算出し、第3長さLrが第1長さL1に達しているかを判定する。第3長さLrが第1長さL1に達している(Yes)と判定されれば、処理は、
図4のステップS6に進む。第3長さLrが第1長さLrに達していない(No)と判定されれば、処理はステップS2に戻り、第3長さLrが第1長さL1に達していると判定されるまで、送線装置1が線材Wを送る動作が継続される。
【0033】
図4のステップS6においては、第2長さLpが値「0」より大きいか否かが判定される。制御装置3は、第2長さLpと値「0」とを比較し、第2長さLpが値「0」より大きいかを判定する。第2長さLpが値「0」より大きい(Yes)と判定されれば、当該単位の溶湯Fに所望の処理を行っているときに接続部材20が経路Qを通過したものとして、処理は、ステップS7に進む。長さLpが値「0」より大きくない(No)と判定されれば、当該単位の溶湯Fに所望の処理を行っているときに接続部材20が経路Qを通過していないものとして、処理はステップS8に進む。
【0034】
ステップS7においては、第1線材W1の第1残長Luに値「0」が代入され、第2線材W2の第2残長Leに下記式(1)による算出値が代入される。当該単位の溶湯Fに所望の処理を行っているときに接続部材20が経路Qを通過したことによって、第1線材W1の全てが線材束Pから繰り出されたものとして、制御装置3は、第1残長Luに値「0」を代入する。また、第3長さLrのうちの第2長さLpは、第1線材W1が送られた長さであり、第2線材W1が送られた長さは、第3長さLrから長さLpを除いた長さであることから、第2残長Leを下記式(1)により、「初期の第2残長Le」から算出する。「初期の第2残長Le」とは、当該単位の溶湯Fに所望の処理を実行する前の初期の第2残長Leである。
【0035】
Le=「初期の第2残長Le」-(Lr-Lp) (1)
ステップS8においては、第1残長Luに下記式(2)による算出値が代入される。また、第2残長Leは「初期の第2残長Le」のまま維持される。当該単位の溶湯Fに所望の処理を行っているときには、接続部材20が経路Qを通過していないことによって、制御装置3は、第1残長Luを下記式(2)により、「元の第1残長Lu」から算出する。「元の第1残長Lu」とは、当該単位の溶湯Fに所望の処理を行う前の第1残長Luである。
【0036】
Lu=「元の第1残長Lu」-Lr (2)
ステップS9においては、関連データD2が生成され、保存される。データ生成部31が関連データD2を生成し、制御装置3が、関連データD2を保存するように、保存部32を制御する。関連データD2は、終了時刻情報D3と、線材ID(x)とを含む。終了時刻情報D3は、当該単位の溶湯Fに対する所望の処理が終了した時刻を示す。線材ID(x)は、複数の線材Wのうち、当該単位の溶湯Fに対する所望の処理において始めに使用された線材を示す。
【0037】
終了時刻情報D3を各鋳物の製造時刻と比較することによって、各鋳物がどの単位の溶湯Fから作製されたかを容易に特定できる。従って、不具合が生じたときに、不具合の原因となった線材Wを終了時刻情報D3と線材ID(x)とから容易に特定できる。
【0038】
なお、上記の例では、線材ID(x)の値は「ID(1)」である。「ID(1)」は、第1線材W1を示す。また、関連データD2には、第1残長Luと第2残長Leとを含ませることもできる。関連データD2に、第1残長Lu、第2残長Leを含ませることによって、当該単位の溶湯Fに対する所望の処理において、第1線材W1と第2線材W2とが投入されたときに、各々が投入された長さを担当者が調査することもできる。
【0039】
ステップS10においては、第2長さLpが値「0」より大きいか否かが再度判定される。制御装置3は、第2長さLpと値「0」とを比較し、第2長さLpが値「0」よりも大きいかを判定する。第2長さLpが値「0」より大きい(Yes)と判定されれば、当該単位の溶湯Fに所望の処理を行っているときに接続部材20が経路Qを通過したものとして、処理は、ステップS11に進む。第2長さLpが値「0」より大きくない(No)と判定されれば、当該単位の溶湯Fに所望の処理を行っているときに接続部材20が経路Qを通過していないものとして、ステップS11はスキップし、処理は終了する。
【0040】
ステップS11においては、線材ID(x)の値が第1線材W1を示す「ID(1)」から第2線材W2を示す「ID(2)」に書き換えられる。また、第1残長Luに第2残長Leの値が代入され、第2残長Leに第3線材W3の初期長さが代入される。また、成分データが、第1線材W1の成分データから第2線材W2の成分データに書き換えられる。
[検出装置2]
次に、
図1、
図5を参照して、検出装置2を詳細に説明する。
図5は、本発明の実施形態1に係る溶湯の製造装置の一部分を示す二面図である。実施形態においては、接続部材20の第1静電容量と複数の線材Wの第2静電容量とは一定値以上異なっている。検出装置2は、経路Qを通る複数の線材Wの第1静電容量と経路Qを通る接続部材20の第2静電容量とを検出する静電容量センサを含む。実施形態においては、検出装置2の静電容量センサは、経路Qに配設されるローラ電極21と、アンプ22とを含む。ローラ電極21は、パンタグラフ式のテンションアーム25に取り付けられており、テンションアーム25は、伸長するようにスプリング26によって付勢されている。ローラ電極21は、スプリング26の付勢力によって、経路Qを通る線材Wと経路Qを通る接続部材20とに押し付けられる。
【0041】
テンションアーム25は金属導体から形成されており、ローラ電極21は端子27とテンションアーム25を介して導通される。また、テンションアーム25、スプリング26、端子27は、絶縁体28を介して台29に支持されている。アンプ22は、ケーブルを介して端子27と接続されており、ケーブルを介して送られてくる信号を増幅し、制御装置3に出力する。すなわち、アンプ22は、第1静電容量と第2静電容量との差異に応じた信号を検出信号D1として出力する。
【0042】
以上、
図1~
図5を参照して説明したように、実施形態1によれば、複数の線材Wは、各々独立した線材束Pを形成しており、送られる順に、接続部材20によって端部同士が互いに接続されている。従って、金属の溶湯Fに所望の処理を行うときに、一つの線材束Pから全ての線材Wが繰り出されても、次の線材束Pを送線装置1に改めてセットする必要がなく、複数の線材束Wを送線装置1にセットするのに必要とされる作業量を低減できる。
【0043】
また、送線装置1によって、複数の線材Wが複数の線材束Pから取鍋10まで順に送られ、検出装置2によって、経路Qを接続部材20が通ったことを示す検出信号D1が出力され、データ生成部31によって、関連データD2が生成され、保存部32によって、関連データD2が保存される。関連データD2は、複数単位の溶湯Fと複数の線材Wとを関連付ける情報を示す。従って、製造された溶湯Fから作製される鋳物に不具合が生じても、不具合の原因となった線材Wを容易に特定でき、金属の溶湯Fに所望の処理を行うときに、担当者が製造管理上のデータを作成し、保存する必要がない。
【0044】
以上により、金属の溶湯Fに所望の処理を行うときの作業量を低減できる。
【0045】
また、
図1、
図5を参照して説明したように、実施形態1によれば、検出装置2が静電容量センサを含む。従って、検出装置2の誤検出を抑制でき、より確実に不具合の原因となった線材Wを特定できる。
[実施形態2]
次に、
図6、
図7を参照して、本発明の実施形態2を説明する。
図6は、本発明の実施形態2に係る溶湯の製造装置を示す正面図である。
図7は、本発明の実施形態2に係る溶湯の製造装置の一部分を示す概略図である。以下、実施形態2が実施形態1と相違する点を主に説明する。
【0046】
図6に示すように、実施形態2においては、検出装置2Aは、経路Qを通る複数の線材Wと経路Qを通る接続部材20とを撮像する画像センサ21Aを含む。また、検出装置2Aは、コンピュータである画像認識装置22Aを含む。そして、検出装置2Aは、画像センサ21Aによって撮像される画像の視覚的特徴と接続部材20の視覚的特徴との一致度が基準値以上のときに、検出信号D1を出力する。例えば、接続部材20は、複数の線材Wの形、色とは異なる形、色を有している。画像認識装置22Aは、画像センサ21Aによって撮像される画像の形、色と、あらかじめ記憶されている接続部材20の形、色とが一定以上一致しているときに、検出信号D1を出力する。
【0047】
また、
図7に示すように、検出装置2Aには、画像センサ21Aと、画像センサ21Aによって撮像される線材Wと、画像センサ21Aによって撮像される接続部材20とを内部に囲う囲25Aを含ませることができる。囲25Aは、外部から内部への光を遮断する。従って、線材Wと接続部材20とが撮像されるときの光量を容易に一定にすることができ、接続部材20の誤検出を抑制できる。
【0048】
以上、
図6、
図7を参照して説明したように、実施形態2によれば、検出装置2が画像センサ21Aを含む。従って、検出装置2の誤検出をより良く抑制でき、更に確実に不具合の原因となった線材Wを特定できる。
【0049】
以上、図面(
図1~
図7)を参照しながら本発明の実施形態を説明した。但し、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である(例えば、下記に示す(1)~(2))。
[実施形態3]
次に、
図8を参照して、本発明の実施形態3を説明する。
図8は、本発明の実施形態3に係る溶湯の製造装置を示す正面図である。以下、実施形態3が実施形態1と相違する点を主に説明する。
【0050】
図8に示すように、実施形態3においては、検出装置2Bは、接続部材20と磁力又は係止構造により当接する当接部材21D、当接部材21Dと一端で連結する紐状の連結部材21C及び連結部材21Cの他端で連結する位置変化センサ21Bを含む。位置変化センサ21Bは、当接部材21D及び連結部材21Cを介して接続部材20と間接的に接続されている。そして、位置変化センサ21Bが接続部材20との相対位置を変化したときに、検出信号D1を出力する。位置変化センサ21Bを使用することにより、実施形態1及び実施形態2のように取鍋10に近い箇所である経路Qに検出装置を設ける必要がなく、より線材束Pに近い位置にも検出装置を設けることができるために、工場の設置場所に応じて幅広く使用することができる。
【0051】
具体的には、
図8において、第1線材W1が送線され、続いて第2線材W2が送線されるときに、接続部材20が移動する。このとき、接続部材20と当接部材21Dは磁力に当接しているか物理的な係止により当接しているため、当接部材21Dが接続部材20とともに移動することにより、連結部材21Cを介して位置変化センサ21Bに力学的負荷が掛かる。位置変化センサ21Bは、その力学的負荷が所定以上であれば作動して、検出信号D1を出力する。そして、さらに接続部材20が移動すると、接続部材20と当接部材21Dの間に働く磁力または物理的係止による力よりも、連結部材21Cより当接部材21Dに働く張力の方が強くなるため、接続部材20と当接部材21Dは離れることとなる。さらに、当接部材21Dと他の線材の端部に固定される他の接続部材と当接して同様に再度使用することができる。このようにして、位置変化センサ21Bと接続部材20との相対位置が変化したことに起因して、検出信号D1を出力する。位置変化センサ21Bとしては、例えば、リミットスイッチなどが好ましい。なお、
図8において、位置変化センサ21Bは、地面に立設された支持台の上に設けられてるが、線材束Pの上方に固定して当接部材21Dを位置変化センサ21Bから吊り下げて使用することもできる。
(1)上記実施形態においては、検出装置2、検出装置2A、検出装置2Bは、静電容量センサ、画像センサ、又は位置変化センサを含んでいるが、これに限らず、検出装置は重量センサを含んでもよい。検出装置が重量センサを含むとき、第1線材W1における線材束Pの重量が一定値まで低下したときに、当該検出装置は、検出信号D1を出力する。以上によっても、不具合の原因となった線材Wを特定できる。
【0052】
(2)上記実施形態2においては、画像認識装置22Aは制御装置3とは別のコンピュータであるが、コンピュータプログラムによって、制御装置3が画像認識装置22Aとして機能するようにしてもよい。以上によっても、不具合の原因となった線材Wを特定できる。
【0053】
(3)上記実施形態3においては、位置変化センサ21Bに連結部材21C、当接部材21Dが接続されているが、他の実施形態において、位置変化センサ21Bと接続部材20を直接的に係止構造などにより接続しておき、接続部材20が移動することで位置変化センサ21Bに力学的負荷が掛かることに起因して、検出信号D1を出力するようにもできる。また、このとき、位置変化センサ21Bとして近接センサである磁力センサとしておき、接続部材20が移動して接続部材20と位置変化センサ21Bが離れることで生じる位置変化センサ21Bにおける磁場の変化に起因して、検出信号D1を出力するようにもできる。
【符号の説明】
【0054】
D1…検出信号
D2…関連データ
W、W1、W2、W3…線材
1…送線装置
10…取鍋
2、2A、2B…検出装置
20…接続部材
21…ローラ電極
21A…画像センサ
21B…位置変化センサ
22…アンプ
22A…画像認識装置
3…制御装置
31…データ生成部
32…保存部
33…パラメータ保持部
4…記憶装置