(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】不整脈を予防または治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/39 20060101AFI20221117BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20221117BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221117BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20221117BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20221117BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221117BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20221117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221117BHJP
C07K 14/78 20060101ALN20221117BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20221117BHJP
【FI】
A61K38/39 ZNA
A61K31/7088
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/763
A61K48/00
A61P9/06
A61P43/00 121
C07K14/78
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2020518033
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 KR2018011529
(87)【国際公開番号】W WO2019066556
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】10-2017-0127550
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518167273
【氏名又は名称】ベスファジェン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BETHPHAGEN INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】イ・ミナ
(72)【発明者】
【氏名】カク・テファン
(72)【発明者】
【氏名】パク・ウジン
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0105957(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0056460(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0239940(US,A1)
【文献】PLoS ONE,2011年,Vol. 6, No. 4, e18556,pp. 1-8
【文献】Journal of the American College of Dardiology,2016年,Vol. 67, No. 13,pp. 1556-1568
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/39
A61K 31/7088
A61K 35/76
A61K 35/761
A61K 35/763
A61K 48/00
A61P 9/06
A61P 43/00
C07K 14/78
C12N 15/12
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項2】
CCN5タンパク質が配列番号1によって表されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
CCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列が配列番号2によって表される配列である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
遺伝子コンストラクトがそれに作動可能に連結したプロモーター配列を含む、
請求項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
プロモーターが、CMVプロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、HSV tkプロモーター、RSVプロモーター、EF1アルファプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ベータ-アクチンプロモーター、ヒトIL-2遺伝子プロモーター、ヒトIFN遺伝子プロモーター、ヒトIL-4遺伝子プロモーター、ヒトリンホトキシン遺伝子プロモーターおよびヒトGM-CSF遺伝子プロモーターからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
遺伝子コンストラクトがSERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列をさらに含む、
請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
遺伝子コンストラクトにおいて、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列が、5’から3’の方向で、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列-CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列の順に含まれる、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
遺伝子コンストラクトが、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列とCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列の間に位置する自己切断配列を含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
自己切断配列が、ブタテッショウウイルス-1、ゾセア・アシグナウイルス、ウマ鼻炎Aウイルスまたは口蹄疫ウイルスに由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
自己切断配列がブタテッショウウイルス-1に由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
自己切断配列が配列番号6によって表されるヌクレオチド配列である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項12】
不整脈が心房性不整脈または心室性不整脈である、
請求項1~11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項14】
発現ベクターがSERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列をさらに搭載する、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
発現ベクターにおいて、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列が、5’から3’の方向で、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列-CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列の順に含まれる、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
発現ベクターが、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列とCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列の間に位置する自己切断配列をさらに含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
発現ベクターが、プラスミドベクターおよびコスミドベクターからなる群から選択されるいずれか1つである、
請求項13~16のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項18】
活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項19】
ウイルスが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルスおよびワクシニアウイルスからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
組換えウイルスが、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列をさらに含む、
請求項18または19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
CCN5タンパク質を含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項22】
SERCA2aタンパク質をさらに含む
か、またはSERCA2aタンパク質との組合せにおける使用のための、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
不整脈を予防または治療するための医薬の製造のための、
CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクト、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクター、またはCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不整脈を予防または治療するための医薬組成物に関する。特に、本発明は、活性成分として、CCN5タンパク質またはそれをコードするヌクレオチド配列を含む、医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
不整脈は、心臓における電気信号に関する問題が原因で生じる、規則的な心臓リズムおよび効果的な心臓収縮の異常によって引き起こされる心疾患である。定義によれば、不整脈は、その発症場所に応じて、心房性不整脈および心室性不整脈に分類される。特に、心房性不整脈は、心房細動、心房頻脈および洞結節機能不全に分類され、心室性不整脈は、心室頻拍および心室細動に分類される(Swarminathan PD, et al. Circ Res 2012; 110:1661-1677)。
【0003】
不整脈は、特に先進国において、かなりの罹患率および死亡率をもたらし、心停止は、先進国における死亡の主因のうちの1つである(Mozaffarian D, et al. Circulation 2015; 131: e29-e322)。特に、心室性不整脈は心臓性突然死の主因であり、心疾患の他の危険因子が心室性不整脈を加速および増幅する(Roberts-Thomson KC, et al. Nat Rev Cardiol 2011; 8: 311-321)。さらに、不整脈の中で、心房細動は、最も一般的な不整脈であり、発生率が高まっており、不整脈および発作などの疾患の発生率を大きく高める(Andrada D, et al. Circ Res 2014; 114; 1453-1458)。
【0004】
不整脈の治療のための療法としては、抗不整脈薬、カテーテルアブレーション、心室性不整脈を治療するための埋め込み型除細動器が挙げられる。しかし、これらの療法は、限られた治療効果しか示さない。抗不整脈薬治療の主な機構であるイオンチャンネル遮断は、不整脈の長期にわたる治療および予防において制限を生じさせる。不整脈の阻害に関する臨床試験では、心室性期外収縮の治療の間、抗不整脈薬は、心筋梗塞の患者において、心血管死亡率を高めることが示された。現在使用されている抗不整脈薬のよくある副作用は、不整脈を促進させる危険性をともなう(Camm J, Int Cardiol 2012; 155: 363-371)。
【0005】
一方、研究によって、CaMKII(Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII)が不整脈の電気的態様において中心的役割を果たすことが報告された。CaMKII活性の増大は、イオンチャネルの過剰活性化、細胞内のCa2+恒常性の欠陥および組織損傷につながり、それによって、不整脈を促進する。したがって、CaMKII活性の阻害は、不整脈を治療する効果的な方法として使用することができる。
【0006】
不整脈に対する効果的な治療を開発するために、その病理学的機構および新しいその上流治療標的の発見の理解を通して、そのような治療を開発することが必要である。
【0007】
したがって、本発明は、不整脈の発症および持続のための、ならびに不整脈の症状の持続的な悪化のための治療として、電気的機能不全の重要な標的であるCaMKIIと構造的機能不全の主な原因である線維化とに同時に対処する治療を開発するための解決法を提供することを意図する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これに関して、本発明者らは、不整脈に対する効果的な治療を開発するために研究し、その結果、CCN5タンパク質またはその断片をコードする遺伝子を含む医薬組成物が、CaMKIIの病理学的活性を阻害し、筋線維芽細胞の活性を阻害することを確認し、それによって、本発明を完成させた。さらに、本発明者らは、CCN5タンパク質およびSERCA2aタンパク質をコードする遺伝子を含む医薬組成物が、不整脈の動物モデルを使用する実験において電気的機能不全に対して相乗的治療効果を示すことを確認し、それによって、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様では、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0010】
本発明の別の態様では、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0011】
本発明のさらに別の態様では、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0012】
本発明のさらになお別の態様では、本発明の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、不整脈を予防または治療するための方法が提供される。
【0013】
本発明のさらになお別の態様では、活性成分としてCCN5タンパク質を含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0014】
本発明のさらになお別の態様では、CCN5タンパク質を対象に投与する工程を含む、不整脈を予防または治療するための方法が提供される。
【0015】
本発明のさらになお別の態様では、CCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを対象に投与する工程を含む、不整脈を予防または治療するための方法が提供される。
【0016】
本発明のさらになお別の態様では、CCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを対象に投与する工程を含む、不整脈を予防または治療するための方法が提供される。
【0017】
本発明のさらになお別の態様では、CCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを対象に投与する工程を含む、不整脈を予防または治療するための方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
不整脈を予防または治療するための本発明の医薬組成物は、心房性不整脈および心室性不整脈の主因である心臓の電気的機能不全を誘導する、CaMKIIの病理学的活性を阻害し、その結果、心臓の電気的機能が回復し、構造的機能不全を引き起こす筋線維芽細胞の活性を阻害する。したがって、本発明の医薬組成物は、不整脈の予防または治療で効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1はpTR-CMV-CCN5ベクターの構造の模式図を図示する。
【
図2】
図2はpTR-CMV-SERCA2a-P2A-CCN5ベクターの構造の模式図を図示する。
【
図3a】
図3aは、CCN5タンパク質の心臓線維化の阻害効果を確認するための、野生型マウスおよびCCN5 TGマウスを使用する動物実験の概念図を図示する。
【
図3b】
図3bは、野生型マウスまたはCCN5 TGマウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、そこから心房組織を摘出し、心房組織をマッソンのトリクローム染色で染色することによって得られた写真を図示する。
【
図3c】
図3cは、野生型マウスまたはCCN5 TGマウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、そこから心房組織を摘出し、心房組織をマッソンのトリクローム染色で染色し、染色された心房組織の線維化の程度を定量化することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図3d】
図3dは、野生型マウスまたはCCN5 TGマウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、そこから心房組織を摘出し、心房組織におけるα-SMAのmRNA発現レベルをqRT-PCRによって測定することによって得られた結果を図示する(
**:p<0.01)。
【
図3e】
図3eは、野生型マウスまたはCCN5 TGマウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、そこから心房組織を摘出し、心房組織におけるコラーゲンIのmRNA発現レベルをqRT-PCRによって測定することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図3f】
図3fは、野生型マウスまたはCCN5 TGマウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、そこから心房組織を摘出し、心房組織におけるTGF-β1のmRNA発現レベルをqRT-PCRによって測定することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図3g】
図3gは、野生型マウスまたはCCN5 TGマウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、そこから心房組織を摘出し、心房組織におけるIL-1βのmRNA発現レベルをqRT-PCRによって測定することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05)。
【
図3h】
図3hは、野生型マウスまたはCCN5 TGマウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、そこから心房組織を摘出し、心房組織におけるRANTESのmRNA発現レベルをqRT-PCRによって測定することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図3i】
図3iは、野生型マウスまたはCCN5 TGマウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、そこから心房組織を摘出し、心房組織におけるF4/80のmRNA発現レベルをqRT-PCRによって測定することによって得られた結果を図示する(
**:p<0.01)。
【
図3j】
図3jは、野生型マウスまたはCCN5 TGマウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、そこから心房組織を摘出し、心房組織におけるMCP-1のmRNA発現レベルをqRT-PCRによって測定することによって得られた結果を図示する(
**:p<0.01)。
【
図4a】
図4aは、心房細動に対するCCN5タンパク質の阻害効果を確認するための、野生型マウスおよびCCN5 TGマウスを使用する動物実験の概念図を図示する。
【
図4b】
図4bは、野生型マウスまたはCCN5 TGマウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、そこから心臓を摘出し、それに電気刺激を加えて心房細動を誘導し、心電図を測定することによって得られた結果を図示する。
【
図4c】
図4cは、野生型マウスまたはCCN5 TGマウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、そこから心臓を摘出し、電気刺激を心臓に加えて心房細動を誘導する場合に、誘導される心房細動の振動数を測定することによって得られた結果を図示する。
【
図5a】
図5aは、心房細動に対するCCN5タンパク質の阻害効果を確認するための、HL-1細胞を使用する実験の概念図を図示する。
【
図5b】
図5bは、HL-1細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、HL-1細胞におけるタンパク質、すなわち、p-CaMKII(Thr286)、CaMKII、pRyR2(Ser2808)、pRyR2(Ser2814)、RyR2、カルセケストリン2、Na
+/Ca
+交換輸送体2(NCX2)およびGAPDHの発現をウエスタンブロッティングによって確認することによって得られた結果を図示する。
【
図5c】
図5cは、HL-1細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、HL-1細胞におけるp-CaMKII(Thr286)/CaMKII値を計算することによって得られた結果を図示する(
**:p<0.01)。
【
図5d】
図5dは、HL-1細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、HL-1細胞におけるpRyR2(Ser2808)/RyR2値を計算することによって得られた結果を図示する(
**:p<0.01)。
【
図5e】
図5eは、HL-1細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、HL-1細胞におけるpRyR2(Ser2814)/RyR2値を計算することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図5f】
図5fは、HL-1細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、HL-1細胞におけるカルセケストリン2/GAPDH値を計算することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図5g】
図5gは、HL-1細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、HL-1細胞におけるNCX2/GAPDH値を計算することによって得られた結果を図示する(
**:p<0.01)。
【
図6a】
図6aは、心房細動に対するCCN5タンパク質の阻害効果を確認するための、ラット心房線維芽細胞を使用する実験の概念図を図示する。
【
図6b】
図6bは、ラット心房線維芽細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、培養したラット心房線維芽細胞を蛍光免疫化学で染色することによって得られた写真を図示する。
【
図6c】
図6cは、ラット心房線維芽細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、心房線維芽細胞におけるタンパク質、すなわち、α-SMA、コラーゲンI、TGF-β1およびα-チューブリンの発現をウエスタンブロッティングによって確認することによって得られた結果を図示する。
【
図6d】
図6dは、ラット心房線維芽細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、心房線維芽細胞におけるα-SMA/α-チューブリン値を計算することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図6e】
図6eは、ラット心房線維芽細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、心房線維芽細胞におけるコラーゲンI/α-チューブリン値を計算することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図6f】
図6fは、ラット心房線維芽細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、心房線維芽細胞におけるTGF-β1/α-チューブリン値を計算することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図6g】
図6gは、ラット心房線維芽細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、心房組織におけるα-SMAのmRNA発現レベルをqRT-PCRによって測定することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05)。
【
図6h】
図6hは、ラット心房線維芽細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、心房組織におけるコラーゲンIのmRNA発現レベルをqRT-PCRによって測定することによって得られた結果を図示する(
**:p<0.01)。
【
図6i】
図6iは、ラット心房線維芽細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、48時間培養を行い、次いで、心房組織におけるTGF-β1のmRNA発現レベルをqRT-PCRによって測定することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図7a】
図7aは、心房線維化に対するAAV-CCN5タンパク質の治療効果を確認するための、心房線維化誘導マウスを使用する動物実験の概念図を図示する。
【
図7b】
図7bは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にそこから心房組織を摘出し、ウエスタンブロッティングによってCCN5のタンパク質発現を確認することによって得られた結果を図示する。
【
図7c】
図7cは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にそこから心房組織を摘出し、CCN5のタンパク質およびmRNA発現レベルを確認することによって得られた結果を図示する。
【
図7d】
図7dは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にそこから心房組織を摘出し、心房組織をマッソンのトリクローム染色で染色することによって得られた写真を図示する。
【
図7e】
図7eは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にそこから心房組織を摘出し、心房組織をマッソンのトリクローム染色で染色し、染色された心房組織における線維化の程度を定量化することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05)。
【
図7f】
図7fは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にそこから心房組織を摘出し、心房組織におけるα-SMA/18s rRNA値をqRT-PCRによって計算することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05)。
【
図7g】
図7gは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にそこから心房組織を摘出し、心房組織におけるコラーゲンI/18s rRNA値をqRT-PCRによって計算することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図7h】
図7hは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にそこから心房組織を摘出し、心房組織におけるTGF-β1/18s rRNA値をqRT-PCRによって計算することによって得られた結果を図示する(
**:p<0.01)。
【
図7i】
図7iは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にそこから心房組織を摘出し、心房組織におけるIL-1β/18s rRNA値をqRT-PCRによって計算することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05)。
【
図7j】
図7jは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にそこから心房組織を摘出し、心房組織におけるRANTES/18s rRNA値をqRT-PCRによって計算することによって得られた結果を図示する(
**:p<0.01)。
【
図7k】
図7kは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にそこから心房組織を摘出し、心房組織におけるF4/80/18s rRNA値をqRT-PCRによって計算することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01)。
【
図7l】
図7lは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にそこから心房組織を摘出し、心房組織におけるMCP-1/18s rRNA値をqRT-PCRによって計算することによって得られた結果を図示する(
**:p<0.01)。
【
図8a】
図8aは、AAV-CCN5タンパク質の心房細動阻害効果を確認するための、心房細動誘導マウスを使用する動物実験の概念図を図示する。
【
図8b】
図8bは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後に心電図を測定することによって得られた心電図結果を図示する。
【
図8c】
図8cは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後に電気刺激による不整脈の発生率を観察することによって得られた結果を図示する。
【
図8d】
図8dは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後に不整脈を誘導するのに必要とされる電気刺激の強度を観察することによって得られた結果を図示する。
【
図8e】
図8eは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後にCa
2+の活動電位を測定することによって得られた結果を図示する。
【
図8f】
図8fは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後に活動電位持続時間50(APD
50)および活動電位持続時間75(APD
75)を測定することによって得られた結果を図示する。
【
図8g】
図8gは、野生型マウスにアンギオテンシンIIを14日間投与し、それにAAV-対照またはAAV-CCN5を注射し、注射してから4週後に脱分極速度を測定することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05)。
【
図9a】
図9aは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスにおける6週間にわたる短縮率および体重変化を図示する。
【
図9b】
図9bは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスの右心室(RV)に10Hzの電気刺激を加え、写真を撮ることによって得られた光学マップを図示する。
【
図9c】
図9cは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスの右心室(RV)に20Hzの電気刺激を加え、写真を撮ることによって得られた光学マップを図示する。
【
図9d】
図9dは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスにおいてCa
2+の活動電位を測定することによって得られた結果を図示する。
【
図9e】
図9eは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスにおいて活動電位持続時間50(APD
50)および活動電位持続時間75(APD
75)を測定することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05)。
【
図9f】
図9fは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスにおいて活動電位持続時間の分散を測定することによって得られた結果を図示する(
*:p<0.05)。
【
図9g】
図9gは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスにおける伝導速度および脱分極速度を図示する(
***p<0.001)。
【
図10a】
図10aは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスにおける、ISO処理に応じたCa
2+の活動電位の変化を図示する。
【
図10b】
図10bは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスの右心室における、ISO処理に応じたCa
2+の再分極パターンの変化を図示する。
【
図10c】
図10cは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスにおける、ISO処理に応じた活動電位持続時間75(APD
75)の変化を図示する。
【
図10d】
図10dは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスをISOによる処理にかけた後に得られたCa
2+光学マップを図示する。
【
図10e】
図10eは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスを ISOによる処理にかけ、次いで、活動電位持続時間75(APD
75)を測定した後に得られた結果を図示する(
*:p<0.05)。
【
図10f】
図10fは、野生型マウスおよび心室性不整脈誘導マウスにおける、ISO処理に応じた脱分極速度の変化を図示する(
***:p<0.001)。
【
図11a】
図11aは、野生型マウス、AAV9-対照を注射した心室性不整脈誘導マウス、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスにおける、6週にわたる短縮率を図示する。
【
図11b】
図11bは、野生型マウス、AAV9-対照を注射した心室性不整脈誘導マウス、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスにおける、6週にわたる左室壁厚の変化を図示する。
【
図11c】
図11cは、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスならびにISOおよびAAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスについてのCa
2+光学マップを図示する。
【
図11d】
図11dは、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスならびにISOおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスについてのCa
2+光学マップを図示する。
【
図11e】
図11eは、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスにおける、ISO処理に応じたCa
2+の活動電位の変化を図示する。
【
図11f】
図11fは、野生型マウス、AAV9-対照を注射した心室性不整脈誘導マウス、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスの左心室におけるCa
2+の再分極パターンを図示する。
【
図11g】
図11gは、野生型マウス、AAV9-対照を注射した心室性不整脈誘導マウス、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスにおける、ISO処理に応じた活動電位持続時間75(APD
75)の変化を図示する(
*:p<0.05;
**:p<0.01;
***:p<0.001)。
【
図11h】
図11hは、野生型マウス、AAV9-対照を注射した心室性不整脈誘導マウス、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスにおける、ISO処理に応じた伝導速度を図示する(
*:p<0.05;
***:p<0.001)。
【
図11i】
図11iは、野生型マウス、AAV9-対照を注射した心室性不整脈誘導マウス、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスにおける、ISO処理に応じた脱分極速度を図示する。(
**:p<0.01;
***:p<0.001)。
【
図12a】
図12aは、野生型マウス、AAV9-対照を注射した心室性不整脈誘導マウス、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスに電気刺激を加える場合に観察される心電図の変化を図示する。
【
図12b】
図12bは、野生型マウス、AAV9-対照を注射した心室性不整脈誘導マウス、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスにおける、不整脈を誘導するのに必要とされる電気刺激の強度を図示する。
【
図12c】
図12cは、野生型マウス、AAV9-対照を注射した心室性不整脈誘導マウス、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスにおける、電気刺激による不整脈の発生率を図示する。
【
図13a】
図13aは、野生型マウス、AAV9-対照を注射した心室性不整脈誘導マウス、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスから心臓を摘出し、マッソンのトリクローム染色で心臓を染色することによって得られた写真を図示する。
【
図13b】
図13bは、野生型マウス、AAV9-対照を注射した心室性不整脈誘導マウス、AAV9-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスおよびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射した心室性不整脈誘導マウスの心臓組織において、タンパク質、すなわち、Nav 1.5、FAP、コネキシン43、MsrA、Kir2.1、チューブリン、SERCA2a、Smad7およびCCN5の発現をウエスタンブロッティングによって確認することによって得られた結果を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を詳細に記載する。
【0021】
本発明の一態様では、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語「CCN5タンパク質」は、血管疾患誘導、血管新生、腫瘍発生、線維化疾患誘導、細胞分化および生存などの細胞機能の調節において様々な役割を果たすCCNファミリーに属するマトリックス細胞タンパク質を指す。CCN5タンパク質は、他のCCNファミリータンパク質と異なって、C末端ドメインがなく、WISP-2、HICP、Cop1、CTGF-Lなどとも呼ばれる。さらに、CCN5タンパク質は、250アミノ酸配列の単一ポリペプチド鎖からなる。N末端にある22アミノ酸の分泌性リーダー配列によって、CCN5タンパク質は細胞外へ分泌され、シグナルタンパク質として機能する。したがって、ヌクレオチド配列が細胞中で発現する場合、CCN5タンパク質は細胞外へ分泌され得る。ここで、ヌクレオチド配列はmRNAの形態でもよい。
【0023】
特に、CCN5タンパク質は、配列番号1によって表されるアミノ酸配列を有し得る。さらに、CCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号2または配列番号41によって表される配列でもよい。
【0024】
さらに、CCN5タンパク質の断片は、断片がCCN5タンパク質の活性を維持する限り、野生型CCN5のN末端および/またはC末端の一部のトランケーションによって得られるものでもよい。特に、CCN5タンパク質の断片は、N末端またはC末端から1~30個、1~20個、1~10個または1~5個のアミノ酸のトランケーションによって得られるものでもよい。
【0025】
さらに、遺伝子コンストラクトは、それに作動可能に連結したプロモーター配列を含むことができる。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「作動可能に連結した」は、ヌクレオチド発現調節配列(例えば、プロモーター、シグナル配列または一連の転写因子結合部位)と他のヌクレオチド配列の間の機能的連結を指す。調節配列は、他のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳を調節する。
【0027】
特に、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列に連結したプロモーターは、好ましくは動物細胞で、より好ましくは哺乳類細胞で、CCN5遺伝子の転写を調節するように作動し得る。プロモーターとしては、哺乳類ウイルスに由来するプロモーターおよび哺乳類細胞のゲノムに由来するプロモーターが挙げられる。プロモーターは、心臓細胞において特異的に作動することができる。
【0028】
プロモーターは、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)(CMV)プロモーター、アデノウイルス(adenovirus)後期プロモーター、ワクシニアウイルス(vaccinia virus)7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、HSV tkプロモーター、RSVプロモーター、EF1アルファプロモーター、メタロチオネインプロモーター、β-アクチンプロモーター、ヒトIL-2遺伝子プロモーター、ヒトIFN遺伝子プロモーター、ヒトIL-4遺伝子プロモーター、ヒトリンホトキシン遺伝子プロモーターおよびヒトGM-CSF遺伝子プロモーターからなる群から選択されるいずれか1つでもよい。しかし、プロモーターはこれらに限定されない。特に、プロモーターはCMVプロモーターでもよい。
【0029】
遺伝子コンストラクトは、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列をさらに含むことができる。ここで、ヌクレオチド配列はmRNAの形態でもよい。
【0030】
ここで、遺伝子コンストラクトにおいて、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列は、5’から3’の方向で、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列-CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列の順に含まれ得る。ここで、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列は、終止コドンを含むことができる。
【0031】
さらに、遺伝子コンストラクトにおいて、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列は、5’から3’の方向で、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列-SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列の順に含まれ得る。ここで、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列は、終止コドンを含むことができる。
【0032】
さらに、遺伝子コンストラクトは、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列とCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列の間に自己切断配列をさらに含むことができる。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「SERCA2aタンパク質」は、ATPエネルギーを使用して筋小胞体中へのカルシウムの再取り込みを引き起こすように機能するタンパク質を指す。駆出率(HFrEF)が低減した心不全の患者において、SERCA2aタンパク質の著しく低下した発現レベルが観察されることが報告されている。SERCA2aタンパク質の発現低下に起因する、筋小胞体中へのカルシウムの再取り込みの低減は、ミトコンドリア中へのカルシウムの流入が理由で、有害な酸素の発生、エネルギー代謝機能の破壊などを引き起こすことにより、細胞質中のカルシウム濃度を異常に高め、心筋細胞の収縮-弛緩機能を弱め、心筋細胞死の直接の原因となる。
【0034】
特に、SERCA2aタンパク質は配列番号3によって表されるアミノ酸配列を有することができる。さらに、SERCA2aタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号4または配列番号42によって表される配列でもよい。
【0035】
さらに、SERCA2aタンパク質の断片は、断片がSERCA2aタンパク質の活性を維持する限り、野生型SERCA2aのN末端および/またはC末端の一部のトランケーションによって得られるものでもよい。特に、SERCA2aタンパク質の断片は、N末端またはC末端から1~100個、1~50個、1~20個または1~10個のアミノ酸のトランケーションによって得られるものでもよい。
【0036】
自己切断配列は、ブタテッショウウイルス-1(porcine teschovirus-1)、ゾセア・アシグナウイルス(Thosea asigna virus)、ウマ鼻炎Aウイルス(equine rhinitis A virus)または口蹄疫ウイルス(foot-and-mouth disease virus)に由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列でもよい。特に、自己切断配列は、ブタテッショウウイルス-1に由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列でもよい。さらに、自己切断配列は、配列番号6によって表されるヌクレオチド配列でもよい。
【0037】
ブタテッショウウイルス-1に由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列は、配列番号5によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列でもよい。さらに、配列番号5によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号6によって表されるヌクレオチド配列でもよい。
【0038】
ゾセア・アシグナウイルスに由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列は、配列番号7によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列でもよい。さらに、配列番号7によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号8によって表されるヌクレオチド配列でもよい。
【0039】
ウマ鼻炎Aウイルスに由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列は、配列番号9によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列でもよい。さらに、配列番号9によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号10によって表されるヌクレオチド配列でもよい。
【0040】
口蹄疫ウイルスに由来する2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列は、配列番号11によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列でもよい。さらに、配列番号11によって表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号12によって表されるヌクレオチド配列でもよい。
【0041】
遺伝子コンストラクトの一実施形態であるSERCA2a-P2A-CCN5が細胞中で発現する場合、SERCA2aタンパク質は筋小胞体膜中に挿入され得、CCN5タンパク質は細胞外へ分泌され得る。さらに、本発明の遺伝子コンストラクトの一実施形態であるCCN5-P2a-SERCA2aが細胞中で発現する場合、SERCA2aタンパク質は筋小胞体膜中に挿入され得、CCN5タンパク質は細胞外へ分泌され得る。
【0042】
本明細書で使用する場合、用語「不整脈」は、心臓における電気刺激の発生が不十分である、または刺激の伝達が不十分であるため、心臓が規則的な収縮を続けず、心拍が異常に速く、遅く、または不規則になる疾患を指す。
【0043】
不整脈は、その発症場所に応じて、心房性不整脈および心室性不整脈に分類される。心房性不整脈としては、心房細動、心房頻脈または洞結節機能不全を挙げることができる。心室性不整脈としては、心室頻拍または心室細動を挙げることができる。
【0044】
さらに、本発明の遺伝子コンストラクトは、リポソームを使用して細胞中にデリバリーされ得る。リポソームは、水性相中に分散したリン脂質によって自動的に形成され、CCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列および/またはSERCA2aタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むリポソームは、エンドサイトーシス、細胞表面への吸着または血漿細胞膜との融合などの機構を介して、CCN5タンパク質をコードするヌクレオチド配列および/またはSERCA2aタンパク質をコードするヌクレオチド配列が、細胞中にデリバリーされることを可能にする。
【0045】
本発明の別の態様では、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0046】
CCN5タンパク質は、活性成分として遺伝子コンストラクトを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物について上述した通りである。
【0047】
本明細書で使用する場合、用語「発現ベクター」は、標的宿主細胞中で標的タンパク質を発現することができる組換えベクターを指し、組換えベクターは、遺伝子挿入断片が発現するように遺伝子挿入断片に作動可能に連結した必須調節エレメントを含む遺伝子コンストラクトである。
【0048】
さらに、発現ベクターは、細胞培養からのタンパク質の単離が促進されるように、融合ポリペプチドの分泌のためのシグナル配列を含むことができる。特定の開始シグナルも、挿入された核酸配列の効率的な翻訳に必要とされ得る。こうしたシグナルは、ATG開始コドンおよび連続する配列を含む。ある場合には、ATG開始コドンを含むことができる外来性翻訳調節シグナルが提供されなければならない。こうした外来性翻訳調節シグナルおよび開始コドンは、様々な天然源および合成源のものでもよい。適切な転写または翻訳増強エレメントの導入によって、発現効率を高めることができる。
【0049】
さらに、発現ベクターは、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列をさらに搭載することができる。ここで、発現ベクターにおいて、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列は、5’から3’の方向で、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列-CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列の順に含まれ得る。
【0050】
発現ベクターは、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチドとCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチドの間に自己切断配列をさらに含むことができる。自己切断配列は、活性成分として遺伝子コンストラクトを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物について上述した通りである。
【0051】
発現ベクターは、本発明のCCN5タンパク質もしくはその断片をコードするヌクレオチド配列および/またはSERCA2aタンパク質もしくはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載することができる。ここで、使用されるベクターは、本発明のCCN5タンパク質および/またはSERCA2aタンパク質を生成する限り、特に、制限されない。発現ベクターは、プラスミドベクターおよびコスミドベクターからなる群から選択されるいずれか1つでもよい。
【0052】
プラスミドベクターとしては、限定はされないが、市販のプラスミド、例えば、pUC18、pBADおよびpIDTSAMRT-AMPを挙げることができる。
【0053】
不整脈は、活性成分として遺伝子コンストラクトを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物について上述した通りである。
【0054】
本発明のさらに別の態様では、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0055】
CCN5タンパク質は、活性成分として遺伝子コンストラクトを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物について上述した通りである。
【0056】
ウイルスは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus)(AAV)、レトロウイルス(retrovirus)、レンチウイルス(lentivirus)、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus)、ワクシニアウイルスなどからなる群から選択されるいずれか1つでもよい。特に、ウイルスは、限定はされないが、アデノ随伴ウイルスでもよい。
【0057】
アデノウイルスは、その中型のゲノム、操作の容易さ、高力価、広い標的細胞範囲および優れた感染力が理由で、遺伝子導入ベクターとして広く使用されている。そのゲノムは、DNA複製およびパッケージングに必須のシスエレメントである100~200bpの逆位末端配列(ITR)に挟まれている。ゲノムのE1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスのDNA複製に関与するタンパク質をコードする。
【0058】
アデノウイルスベクターの中で、E1領域を欠く複製能力がないアデノウイルスが広く使用されている。その一方で、E3領域は、外来遺伝子の挿入のための部位を提供するために、従来のアデノウイルスベクターから除去される。
【0059】
したがって、本発明のCCN5遺伝子は、除去されたE1領域(E1A領域および/もしくはE1B領域、好ましくはE1B領域)またはE3領域中に挿入することができる。特に、CCN5タンパク質遺伝子は、E3領域中に挿入することができる。
【0060】
一方、細胞中にデリバリーされる標的ヌクレオチド配列は、除去されたE1領域(E1A領域および/もしくはE1B領域、好ましくはE1B領域)またはE3領域、好ましくはE3領域中に挿入することができる。さらに、標的ヌクレオチド配列は、プロモーター-標的ヌクレオチド配列-ポリA配列-IRES-CCN5タンパク質遺伝子のような、配列内リボソーム進入部位(IRES)によって連結されたバイシストロニック発現系によっても発現させることができる。
【0061】
およそ105%までの野生型ゲノムをアデノウイルス中にパッケージングすることができるので、約2kbをアデノウイルス中にさらにパッケージングすることができる。したがって、アデノウイルス中に挿入される外来配列をアデノウイルスゲノムにさらに連結させることができる。
【0062】
アデノウイルスは、42の異なる血清型および亜群A~Fを有する。これらの中で、亜群Cに属するアデノウイルス5型は、本発明のアデノウイルスベクターを得るのに適している。アデノウイルス5型に関する生化学情報および遺伝情報は周知である。
【0063】
アデノウイルスによってデリバリーされる外来遺伝子は、エピソームと同じ方法で複製するので、宿主細胞に対して非常に低い遺伝毒性しか有さない。
【0064】
レトロウイルスは、遺伝子導入ベクターとして広く使用されており、なぜならば、レトロウイルスは、その遺伝子を宿主ゲノム中に挿入することができ、大量の外来遺伝物質をデリバリーすることができ、感染することができる広範囲の細胞を有するからである。
【0065】
レトロウイルスベクターを構築するために、レトロウイルスの配列の代わりに、CCN5遺伝子およびデリバリーされる標的ヌクレオチド配列をレトロウイルスゲノム中に挿入して、複製能力がないウイルスを生成する。ビリオンを生成するために、gag、polおよびenv遺伝子を含み、ロングターミナルリピート(LTR)およびΨ配列を欠くパッケージング細胞株を構築する。この細胞株中に、CCN5遺伝子、デリバリーされる標的ヌクレオチド配列、LTRおよびΨ配列を含む組換えプラスミドが導入されると、Ψ配列によって、組換えプラスミドのRNA転写産物の生成が可能になる。この転写産物はウイルス中にパッケージングされ、ウイルスが培地中に分泌される。組換えレトロウイルスを含む培地は収集され、濃縮され、遺伝子デリバリーシステムとして使用される。
【0066】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、本発明の遺伝子デリバリーシステムとして適切であり、なぜなら、このウイルスは非分裂細胞に感染することができ、様々なタイプの細胞に感染する能力を有するからである。AAVベクターの構築および使用の詳細は、米国特許第5,139,941号および第4,797,368号で開示されている。
【0067】
典型的には、AAVウイルスは、2つのAAV末端反復に挟まれている標的遺伝子配列(CCN5遺伝子およびデリバリーされる標的ヌクレオチド配列)を含むプラスミドと末端反復を欠く野生型AVVコード配列を含む発現プラスミドとの同時形質転換によって生成される。
【0068】
CCN5遺伝子およびデリバリーされる標的ヌクレオチド配列を細胞中にデリバリーするために、ワクシニアウイルス、レンチウイルスまたは単純ヘルペスウイルスに由来するベクターも使用することができる。
【0069】
さらに、ウイルスは、ヌクレオチド配列に作動可能に連結したプロモーター配列をさらに含むことができる。作動可能に連結したプロモーター配列は、活性成分として遺伝子コンストラクトを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物について上述した通りである。
【0070】
さらに、組換えウイルスは、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列をさらに搭載することができる。ここで、組換えウイルスにおいて、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列は、5’から3’の方向で、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列-CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列の順に含まれ得る。
【0071】
さらに、組換えウイルスは、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列とCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列の間に自己切断配列を含むことができる。自己切断配列は、活性成分として遺伝子コンストラクトを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物について上述した通りである。
【0072】
不整脈は上記の通りである。
【0073】
本発明では、遺伝子コンストラクトを含むウイルスを活性成分として含む医薬組成物を投与する方法を、当技術分野で既知のウイルス感染方法に従って実施することができる。さらに、本発明では、活性成分としての遺伝子コンストラクトが、裸の組換えDNA分子またはプラスミド中に含まれる場合、遺伝子を細胞中に導入するために、マイクロインジェクション方法、リポソーム媒介トランスフェクション方法、DEAE-デキストラン処理方法および遺伝子銃方法を使用することができる。
【0074】
本発明の医薬組成物に含まれる医薬的に許容可能な担体は、製剤のために従来から使用されているものであり、それらの例としては、限定されないが、ラクトース、デキストロース、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシ安息香酸、プロピルヒドロキシ安息香酸、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルが挙げられる。
【0075】
本発明の医薬組成物は、上記の成分に加えて、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、着香剤、乳化剤、懸濁剤、防腐剤などをさらに含むことができる。適切な医薬的に許容可能な担体および製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences (19th ed., 1995)に詳細に記載されている。
【0076】
医薬組成物の剤形は、使用方法によって変わる可能性があり、注射剤にしてもよい。
【0077】
本発明の医薬組成物の用量は、望ましくは、患者の年齢、性別、状態、体内への活性成分の吸収度、不活性化速度および組み合わせて使用される薬物を考慮して決定され、医薬組成物は、CCN5タンパク質に基づいて0.0001mg/kg(体重)~100mg/kg(体重)の量で、投与することができる。
【0078】
本発明の医薬組成物の用量は、望ましくは、患者の年齢、性別、状態、体内への活性成分の吸収度、不活性化速度および組み合わせて使用される薬物を考慮して決定され、医薬組成物がウイルスである場合、医薬組成物は、成人基準で1日あたり1.0×103~1.0×1020ウイルスゲノムの量で投与することができる。特に、本発明の医薬組成物は、成人基準で1日あたり1.0×103~1.0×1020、1.0×108~1.0×1016、1.0×1012~1.0×1015または1.0×1013~1.0×1014ウイルスゲノムの量で投与することができる。
【0079】
さらに、医薬組成物がプラスミドベクターである場合、医薬組成物は、成人基準で1日あたり0.1μg/1μl~1mg/1μlの濃度で投与することができる。さらに、医薬組成物がプラスミドベクターである場合、用量は、0.1ml、1ml、2ml、3ml、4ml、5ml、6ml、7ml、8ml、9ml、10mlまたはそれ以上を含み、それらの間のすべての値および範囲を含む。
【0080】
本発明のさらになお別の態様では、活性成分としてCCN5タンパク質を含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物が提供される。医薬組成物は、SERCA2aタンパク質をさらに含むことができる。CCN5タンパク質およびSERCA2aタンパク質は上記の通りである。
【0081】
本発明の医薬組成物は非経口的に投与され、非経口投与としては、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、経皮投与、組織中への直接注射のための方法などが挙げられる。
【0082】
本明細書で使用する場合、用語「許容可能な担体」は、以下の物質のいくつかまたはすべてを指し、特定の投与に適したものを含む:溶媒、希釈剤、液体媒体、分散剤、懸濁補助剤、界面活性剤、等張剤、増ちょう剤、乳化剤、防腐剤、固体結合剤、潤滑剤など。Alfanso R. Gennaro, Remington's Pharmaceutical Sciences, 19th edition, 1995, Macna Publishing Co. Easton, PAは、既知の技法および組成物を用いて医薬組成物で使用するための様々な担体を提示する。医薬組成物の医薬的に許容可能な担体の例には、限定されないが、以下のもの:グルコース、ショ糖、デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプン、セルロースならびにその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;粉末状のトラガント;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えば、ココアバター、座薬用ワックス、ピーナッツバター、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油およびダイズ油;グリコール、例えば、プロピレングリコール;エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;パイロジェンフリー蒸留水;等張生理食塩水;リンゲル溶液;エチルアルコールおよびリン酸緩衝水、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム、着色剤、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、着香剤および芳香剤、抗酸化剤などが含まれ、化合物製造者の裁量で含めることができる。
【0083】
本発明のさらになお別の態様では、本発明の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、不整脈を予防または治療するための方法が提供される。
【0084】
医薬組成物は、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物でもよい。さらに、医薬組成物は、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物でもよい。さらに、医薬組成物は、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物でもよい。
【0085】
ここで、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。特に、対象は、不整脈を罹患しているか、または不整脈の危険性があり得る、ヒトまたは別の哺乳動物であり得る。
【0086】
本発明のさらになお別の態様では、CCN5タンパク質を対象に投与することを含む、不整脈を予防または治療するための方法が提供される。さらに、方法は、SERCA2aタンパク質を対象に投与することをさらに含むことができる。
【0087】
ここで、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。特に、対象は、不整脈を罹患しているか、または不整脈の危険性があり得る、ヒトまたは別の哺乳動物であり得る。
【0088】
本発明のさらになお別の態様では、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトおよびSERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを対象に投与することを含む、不整脈を予防または治療するための方法が提供される。
【0089】
ここで、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。特に、対象は、不整脈を罹患しているか、または不整脈の危険性があり得る、ヒトまたは別の哺乳動物であり得る。
【0090】
本発明のさらになお別の態様では、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターおよびCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを対象に投与することを含む、不整脈を予防または治療するための方法が提供される。
【0091】
ここで、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。特に、対象は、不整脈を罹患しているか、または不整脈の危険性があり得る、ヒトまたは別の哺乳動物であり得る。
【0092】
本発明のさらになお別の態様では、SERCA2aタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスおよびCCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを対象に投与することを含む、不整脈を予防または治療するための方法が提供される。
【0093】
ここで、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。特に、対象は、不整脈を罹患しているか、または不整脈の危険性があり得る、ヒトまたは別の哺乳動物であり得る。
【0094】
本発明のさらになお別の態様では、不整脈を予防または治療するための、本発明の医薬組成物の使用が提供される。
【0095】
本発明のさらになお別の態様では、不整脈を予防または治療するための医薬の製造のための、本発明の医薬組成物の使用が提供される。
【0096】
医薬組成物は、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物でもよい。さらに、医薬組成物は、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を搭載している発現ベクターを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物でもよい。さらに、医薬組成物は、活性成分として、CCN5タンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む組換えウイルスを含む、不整脈を予防または治療するための医薬組成物でもよい。
【0097】
本発明の形態
以下に、例として本発明を詳細に記載する。しかし、以下の実験例および実施例は本発明を例示するためだけであり、本発明は、以下の製造例および実施例に限定されない。
【0098】
製造例1.AAV9-CCN5およびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5の構築
CCN5タンパク質を発現させるために、pTR-CMV-CCN5遺伝子コンストラクトを構築した。さらに、CCN5タンパク質とSERCA2aタンパク質を同時に発現させるために、pTR-CMV-SERC2a-P2A-CCN5遺伝子コンストラクトを構築した(
図1および2)。
【0099】
遺伝子コンストラクトにおいて、SERCA2a部分は、ヒトSERCA2aタンパク質のcDNA配列からなる。次に連結されたP2A部分はブタテッショウウイルス-1に由来する自己切断部位であり、22アミノ酸をコードするヌクレオチド配列からなる。最後に、CCN5部分はヒトCCN5タンパク質のcDNA配列からなる。
【0100】
pTR-CMV-SERCA2a-P2A-CCN5組換えプラスミドは、pTR-CMV-ルシフェラーゼベクターからルシフェラーゼ部分を除去し、その代わりにSERCA2a-P2A-CCN5遺伝子コンストラクトを挿入することによって構築した。この組換えプラスミドによって生成されるタンパク質は、P2A部位にある21番目のアミノ酸グリシンと22番目のアミノ酸プロリンの間の自己切断によって、SERCA2a部分とCCN5部分に分けられる。SERCA2a部分は小胞体膜中に残存したままであり得、その固有の機能を果たし得る。さらに、CCN5部分は小胞体中に移動することができ、次いで、シグナルペプチドが切断されている形態で細胞外へ分泌され得、それによって、固有の機能を果たす。
【0101】
ヒトCCN5遺伝子をpds-AAV2-EGFPベクターにクローニングして、アデノ随伴ウイルス(AAV、血清型9)を構築した。ウイルスパッケージングおよびウイルスデリバリーの効率を向上させるために、AAVベクターの構築中にeGFP配列を除去した。293T細胞を使用して組換えAAVを構築した。細胞培養中のAAV粒子を収集し、硫酸アンモニウムで沈殿させた。イオジキサノール勾配を使用する超遠心分離法によって、生成物を精製した。遠心分離を使用してイオジキサノールを乳酸リンゲル溶液と交換するような方式で、いくつかの希釈および濃縮プロセスを通してAAV粒子を濃縮した。定量的RT-PCRおよびSDS-PAGEを使用して、AAVの濃度を定量化した。
【0102】
実験方法1.実験モデルの生成および遺伝子導入
実験方法1.1.CCN5過剰発現マウスモデルへのアンギオテンシンIIの注入による心房細動マウスモデルの生成
実験のために、雄のC57BL6 WT(野生型、黒色の毛色)マウスおよびCCN5が心臓特異的に過剰発現しているトランスジェニック(TG)マウスを使用した。
【0103】
CCN5-TGマウスは、遺伝子の心臓特異的発現を誘導するα-MHCプロモーターを含むpNCベクター(Clontech、USA)にマウスCCN5遺伝子をサブクローニングし、マイクロインジェクション技法を使用してC57BL/6の受精卵に生成物を導入することによって、生成した。さらに、意味あるマウス系統を獲得し、維持するために、Macrogen Inc.(South Korea)という名前の会社にシークエンシングを依頼した。サザンブロッティングを使用して、マウスゲノムにおけるCCN5導入遺伝子の存在を確認した。
【0104】
使用したすべてのマウスは、20g~25gの体重の8~10週齢マウスであった。ケタミン(95mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注射によってマウスに麻酔をかけ、アンギオテンシンIIの皮下注入によって心房細動を誘導した。ここで、アンギオテンシンIIは、小型浸透圧ポンプ(Alzet 1002、Alzet)を使用して、1日あたり3.0mg/kgの濃度で14日間皮下注入した。
【0105】
実験方法1.2.アンギオテンシンIIの注入およびウイルス注射による心房細動マウスモデルの生成
ケタミン(95mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注射によって、8~10週齢のB6C3F1(灰色の毛色)マウスに麻酔をかけ、アンギオテンシンIIの皮下注入によって心房細動を誘導した。ここで、アンギオテンシンIIは、小型浸透圧ポンプを使用して、1日あたり3mg/kgの濃度で2週間皮下注入した。アンギオテンシンII注入で心房細動を誘導してから2週間後に、1×1011ウイルスゲノム(vgs)のAAV9-対照またはAAV9-CCN5を、尾静脈を介して各マウスに注射した。
【0106】
実験方法1.3.アンギオテンシンIIの注入およびウイルス遺伝子導入による心室性不整脈マウスモデルの生成
ケタミン(95mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注射によって、8~10週齢のB6C3F1マウスに麻酔をかけ、アンギオテンシンIIの皮下注入によって心室性不整脈を誘導した。アンギオテンシンIIは、小型浸透圧ポンプを使用して、1日あたり3mg/kgの濃度で2週間皮下注入した。アンギオテンシンII注入で心室性不整脈を誘導してから2週間後に、1×1011 vgsのAAV9-対照、AAV9-CCN5またはAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を、尾静脈を介して各マウスに注射した。
【0107】
実験方法2.組織染色
心臓組織を動物モデルから得て、次いで、室温で5日間10%(w/v)ホルマリンで固定した。次いで、PBSで洗浄した。各試料をパラフィンに包埋し、組織ブロックを7μm厚の切片に切断した。
【0108】
マッソンのトリクローム染色を行って、線維化の程度を測定した。線維化が進行している部位の組織は青色に染色され、正常組織は赤色に染色される。線維化の程度は、全組織のうちから線維化が生じた部分を計算することによって表した。これは、光学顕微鏡下で観察し、Aperio Imagescope(Leica Biosystems)プログラムを使用して解析した。
【0109】
実験方法3.リアルタイムPCRによるmRNA発現レベルの確認
心臓組織を動物モデルから得て、次いで、そこからmRNAを抽出して、qRT-PCRを行った。リアルタイムPCRは、QuantiTect SYBR GreenリアルタイムPCRキット(Qiagen Ltd)を使用して行った。これによって、それらの転写レベルを解析した。Trizol(Gibco BRL)を使用して心臓組織からRNAを単離し、それからcDNAを合成した。定量的リアルタイムPCRの条件は以下の通りであった:94℃10秒間を37サイクル、57℃15秒間、72℃5秒間。実験で使用したプライマーの情報を表1に示す。
【0110】
【0111】
実験方法4.電気生理学的実験方法
実験方法4.1.CCN5 TGマウスを使用した心房細動モデルにおける心電図測定
心房の電気生理学研究のために、取り出したマウス心臓をランゲンドルフシステムに接続することによって、エクスビボ(ex vivo)で実験を行った。取り出した心臓をクレブス-ヘンゼライト緩衝液(118mM NaCl、4.7mM KCl、1.2mM MgSO4、1.25mM CaCl2、1.2mM KH2PO4、25mM NaHCO3、11mMグルコース)で灌流し、95%O2/5%CO2ガス、37℃の温度および60mmHgの圧力を維持した。電気刺激を加える前に、ランゲンドルフシステムに接続することによって、取り出した心臓を10分間安定化した。次いで、テフロンコーティングした銀双極電極を右心房、左心房および左心室に設置した。心房細動を誘導するために、自動刺激装置を使用して、2秒間のバーストペーシングを3回行った。最初の2秒間のバーストペーシングでは、5msのパルス持続時間で、40msのサイクル長で刺激を加えた。刺激を加えた後に、3分間安定化させた。第2の2秒間のバーストを、5msのパルス持続時間で、20msのサイクル長で加え、再び3分間安定化させた。最後の2秒間のバーストを、10msのパルス持続時間で、20msのサイクル長で加えた。少なくとも1秒間不規則なR-R間隔を示し、不規則な急速なリズムを示した心房は、心房細動を有すると決定された。
【0112】
実験方法4.2.AAV9-CCN5を注射した心房細動マウスにおける心電図の測定
実験方法4.1で行ったように、取り出したマウス心臓をランゲンドルフシステムに接続することによって、エクスビボで実験を行った。特に、血液凝固を予防するために、ヘパリンをマウスに最初に投与し、100%イソフルラン(Forane、USP、Baxter Healthcare Corporation)を使用して、マウスに麻酔をかけた。その後、マウスの心臓を摘出し、ランゲンドルフシステムに接続した。大動脈を介して心臓をカニューレに取り付け、この心臓を、1.5~2.0分-1の流速で、タイロード溶液(NaCl 130mM、NaHCO3 24mM、KCl 4mM、MgCl2 1mM、CaCl2 1.8mM、KH2PO4 1.2mM、C6H12O6 5.6mM、1%アルブミン)で灌流し、95%O2/5%CO2ガス、38±1℃の温度、pH7.3~pH7.5および60mmHg~70mmHgの圧力(Pressure Monitor BP-1、World Precision Instruments)を維持した。電気機械式デカップラー(electro-mechanical decoupler)(5mMブレビスタチン、Sigma Aldrich, USA)を使用して、心臓の機械的収縮を最小限にした。
【0113】
特別注文のAg-AgClペーシング電極を右心房に設置し、他の電極を両方の心外膜表面および心中隔に固定した。心臓の前面を使用して、左心房の電気活動を半垂直的に連続的マッピングした(Mightex BioLED Light、Source Control Module、BLS Series)。
【0114】
容積測定心電図検査(Volumetric electrocardiography)を行って、不整脈を判定した。電子増幅器を使用して、150Hzで増幅およびローパスフィルター処理を行って、心臓の容積測定心電図(volumetric electrocardiogram)を連続的記録した。さらに、1kHzの速度でデジタルサンプリングを行った(BioPac Systems MP150)。電気信号および光信号で持続性不整脈の発生を確認するために、ペーシングを右心房における7Hz(PCL=140ms)の基本振動数で開始し、2Hz~3Hzの振動数で2msの刺激持続時間を用いながら、振動数を漸増させた。
【0115】
実験方法4.3.心房細動および心室性不整脈マウスモデルにおける光学マッピングのための実験方法
心臓の逆灌流を開始してから20~30分後に、心拍が4Hz~5Hzの定常状態に達したら、0.3mlの15μM電位感受性色素(Di-4-ANEPPS、Invitrogen、Thermofisher Scientific)を大動脈の近くに注射することによって、心臓を染色した。単色光(Mightex、BioLED)を使用して、530nmの波長でフルオロフォアを励起させた。ロングパスバンドフィルター(>590nm)を通して放射波長をフィルター処理し、これを、3×の総倍率で、87.5μMの空間分解能、1kHzのフレームレートおよび80×80画素のCCD素子(SciMeasure、SciMeasure Analytical Systems、USA)を用いて投影した。
【0116】
フレームを選択することによってマウスの心臓に最適化された、MATLABで書かれた特別注文のソフトウェア(The Mathworks,Inc.)によって、収集した生データを処理した。シグナル対ノイズ比を向上させ、心拍の変動性を低下させるために、整ったリズム中の8~10の連続した拍動について平均を計算した。各画素で5×5の均一なカーネルを使用して、画像を空間的に平均化し、そこからベースラインを引いた。次いで、生成物を最大振幅に対して正規化し、反転させた。少なくとも連続した10フレームについて膜電位閾値が0.5を超えたポイントを活性化時間として決定した。
【0117】
実験方法5.ウエスタンブロッティング
本実験で使用した細胞および得た心臓は、広域性プロテアーゼ阻害剤カクテル(Calbiochem)を補充した、ホモジナイズしたRIPA緩衝液(0.1%(w/v)SDS、50mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1%(w/v)NP-40、0.5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム)を使用して調製した。SDS-PAGEゲルを使用して、サイズによってタンパク質を分離し、このタンパク質をPVDF膜(Millipore)にトランスファーした。5%(w/v)スキムミルクで1時間ブロッキングし、TBSTで洗浄した後、p-CaMKII、CaMKII、Na+/Ca+交換輸送体2(NCX2)、RyR2(Santa Cruz)、pRyR2(Ser2808)、pRyR2(Ser2814)(Badrilla)、GAPDH(研究室で作製)、α-チューブリン、TGF-β1、α-SMA(Sigma)、コラーゲンI(Rockland)、NaV 1.5、コネキシン43、Kir2.1(Alomone labs)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、ミトコンドリアペプチドのメチオニンスルホキシド還元酵素(MsrA)、チューブリン(Abcam)、SERCA2a(21st Century Biochemicals)、Smad7(Invitrogen)およびCCN5(Genescipt)の抗体と調製した膜を反応させた。次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート化二次抗体(Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA、USA)と膜を反応させ、化学発光基質(Dogen)を使用して発光させた(developed)。LASソフトウェアを使用して、ブロットをスキャンし、定量化した。
【0118】
実験方法6.心房線維芽細胞の単離および培養
Sprague Dawley(SD)白色ラットの心臓を使用して、白色ラットの心房から線維芽細胞を単離した。コラゲナーゼ溶液を使用して組織を消化することによって、左心房を単一細胞に分解した。心房から収集した細胞を最初に50×gで3分間遠心分離した。このようにして得られた上清を収集し、再び500×gで10分間遠心分離した。このようにして得られた細胞層を、10%ウシ胎仔血清(FBS)および1%抗生物質を含むDMEM培養を使用して培養した。2~3日後、培養物を100nMアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時に対照馴化培地(CM-Con)またはCCN5含有馴化培地(CM-CCN5)による処理にかけた。48時間後、実験を終了した。明確な実験結果のために、最初の継代から得られた左心房線維芽細胞のみを左心房線維芽細胞として使用した。
【0119】
実験方法7.CM-CCN5の調製
CM-CCN5を調製するために、pcDNA3.1-CCN5HAプラスミドを使用した。HEK293細胞を60mmの培養皿に5×105細胞で分注し、1日間安定化させた。次いで、リポフェクタミン(Invitrogen)を使用して、pcDNA3.1-CCN5HAのトランスフェクションを行った。4時間後、培地交換を行って、リポフェクタミンを除去した。次いで、24時間培養を行い、得られた培養培地をCM-CCN5と名付けた。
【0120】
実験方法8.蛍光免疫化学
15,000細胞を16mmのカバーガラス上に分注し、安定化のために一晩インキュベートした。次いで、細胞を100nMアンギオテンシンIIによる処理にかけ、かつCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけ、インキュベートした。得られた細胞は、4%(w/v)パラホルムアルデヒド溶液で固定し、0.5%Triton X-100溶液を使用して細胞膜に透過性を持たせ、次いで、5%(w/v)BSA溶液でブロッキングした。次いで、抗α-SMA(Sigma)抗体を用いて反応を進めさせ、Alexa Fluor 488コンジュゲート化抗体(Invitrogen)を二次抗体として使用した。ヘキスト色素を使用して核を染色した。免疫化学にかけた細胞については、Fluoview FV1000共焦点顕微鏡を使用した。
【0121】
実験方法9.心エコー検査による心筋機能の測定
ケタミン(95mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注射によってマウスに麻酔をかけ、心エコー検査を行った。記録は、2次元イメージングおよびMモードトラッキング機能を介して行い、短縮率および心室サイズ比を決定した(GE Vivid Vision)。
【0122】
実験例1.心房細動マウスモデルにおけるCCN5タンパク質の治療効果の確認
実験例1.1.CCN5タンパク質の心房線維化阻害効果の確認
WTマウスおよび実験方法1.1に記載されている方法によって生成されたCCN5 TGマウスに、小型浸透圧ポンプ(Alzet 1002、Alzet)を使用して、1日あたり3.0mg/kgの濃度で14日間アンギオテンシンIIを皮下注入した。2週間後、マウスの心臓を摘出した。実験方法2に記載されている方法によって組織染色を行って、線維化の程度を確認した(
図3a)。
【0123】
結果として、アンギオテンシンIIを注射した対照マウス群では、心房組織の約8%においてコラーゲンが蓄積していることが観察され、その一方で、アンギオテンシンIIを注射したCCN5 TGマウス群では、コラーゲン蓄積は心房組織の約4%において観察され、これは、有意な低下を示すものである(
図3bおよび3c)。
【0124】
さらに、mRNA発現で生じる変化を確認するために、実験方法3に記載されている方法によって、マウス左心房からmRNAを摘出し、qRT-PCRを行った。
【0125】
結果として、心臓線維化マーカー遺伝子、α-SMA、コラーゲンIおよびTGF-β1、ならびに炎症反応マーカー遺伝子、IL-1β、RANTES(Regulated on Activation,Normal T cell Expressed and Secreted)、F4/80、単球走化性タンパク質1(MCP-1)については、アンギオテンシンIIを注射した対照マウス群では、これらのmRNA発現は増大し、その一方で、アンギオテンシンIIを注射したCCN5 TGマウス群では、これらのマーカー遺伝子の発現は有意に低下した(
図3d~3j)。これらの結果から、CCN5は、アンギオテンシンIIによって引き起こされる心房線維化を阻害するのに効果的であることが確認された。
【0126】
実験例1.2.CCN5の心房細動阻害効果の確認
心房の電気生理学研究のために、実験4.1と同様の方式で、取り出したマウス心臓をランゲンドルフシステムに接続することによって、エクスビボで実験を行った。結果として、アンギオテンシンIIを注射したWTマウスにおいて、6匹の動物のうち4匹で心房細動が誘導された。しかし、アンギオテンシンIIを注射したCCN5 TGマウスにおいて、4匹の動物のすべてが、電気刺激の後でさえ正常な心電図結果を示した(
図4bおよび4c)。これらの結果から、CCN5は、アンギオテンシンIIによって引き起こされる心房細動を阻害することが確認された。
【0127】
実験例1.3.CCN5による細胞内Ca2+濃度の調節の確認
マウス心房心筋細胞株であるHL-1細胞(Sigma)を使用して、CCN5が心筋細胞中のCa2+を調整するという推定を検討した。さらに、ウエスタンブロッティングを使用して、培養されたHL-1細胞中のCa2+濃度に対するその調節効果を確認した。
【0128】
細胞レベルの実験では、CCN5の効果を確認するために、実験例8に記載されている方法によって調製したCM-CCN5を使用した。HL-1細胞をアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-Con(対照)またはCM-CCN5(実験群)による処理にかけた。48時間後、タンパク質レベルの変化をウエスタンブロッティングでモニターした(
図5a)。
【0129】
結果として、HL-1細胞を400nMのアンギオテンシンIIによる処理にかけた場合、CaMKIIのリン酸化(Thr287)が増加するが、CM-CCN5による同時処理にかけた細胞においてCaMKIIのリン酸化が減少することが見出された。アンギオテンシンIIによる処理にかけたHL-1細胞では、Ser2808およびSer2814における筋小胞体リアノジン受容体2(RyR2)の過剰リン酸化が誘導されたが、そのような過剰リン酸化はCCN5によって阻害された。CCN5によって、アンギオテンシンIIによって引き起こされるNa
+/Ca
+交換輸送体2(NCX2)の発現の増大も低下した。筋小胞体におけるカルシウム結合タンパク質であるカルセケストリン2の発現レベルはアンギオテンシンIIによって低下したが、その発現はCM-CCN5による同時処理にかけた細胞において増大した(
図5b~5g)。これらの結果から、CCNは心筋細胞を直接調節し、それにより、心房細動に関与することが確認された。
【0130】
実験例1.4.インビトロ(in vitro)でのCCN5の心房線維化阻害効果の確認
Sprague Dawley(SD)白色ラットの心臓を使用して、心房から線維芽細胞を単離した。実験方法6に記載されている方法によって、心房線維芽細胞を単離した。2~3日後、単離した心房線維芽細胞を100nMアンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時に対照馴化培地(CM-Con)または実験例8で調製したCCN5含有馴化培地(CM-CCN5)による処理にかけた。48時間後、実験を終了した(
図6a)。アンギオテンシンIIによる処理にかけ、かつCM-ConまたはCM-CCN5による処理にかけた線維芽細胞を実験方法8と同様の方式で蛍光免疫細胞化学検査にかけた。
【0131】
結果として、100nMアンギオテンシンIIによる処理にかけた線維芽細胞は筋線維芽細胞に分化し、筋線維芽細胞特異的マーカータンパク質α-SMAを発現したが、CM-CCN5による同時処理にかけた線維芽細胞はα-SMAを全く発現しなかった(
図6b)。
【0132】
さらに、実験方法5に記載されている方法に従って、培養した心房線維芽細胞をウエスタンブロッティングにかけて、心房線維化阻害効果を確認した。結果として、アンギオテンシンIIによる処理にかけた線維芽細胞はタンパク質、すなわち、α-SMA、コラーゲンIおよびTGF-β1の発現の増大を示したが、CM-CCN5による同時処理にかけた線維芽細胞はこれらのタンパク質の発現の著しい低下を示した(
図6c~6f)。
【0133】
さらに、培養した心房線維芽細胞のmRNA発現レベルを確認するために、心房線維化阻害効果をqRT-PCRによってモニターした。結果として、アンギオテンシンIIによる処理にかけ、同時にCM-CCN5による処理にかけた線維芽細胞において、対照レベルに対して、α-SMA、コラーゲンIおよびTGF-β1のmRNA発現レベルが低下していることが確認された(
図6g~6i)。これらの結果から、CCN5は、線維化を調節し、それにより心房細動を阻害するだけでなく、心筋細胞を直接調節し、それにより心房細動に関与することが確認された。
【0134】
実験例1.5.心房細動マウスモデルにおけるAAV-CCN5の心房線維化阻害効果の確認
実験方法1.2と同様の方式で、アンギオテンシンIIを3mg/kg/日の濃度で8~10週齢マウスに注入した。2週の時点で、AAV9-対照(対照)またはAAV9-CCN5(比較群)を5×10
11ウイルスゲノム(vgs)の量で尾静脈に注射した。4週間後に、心房組織をマッソンのトリクローム染色にかけ、分子解析した(
図7a)。
【0135】
最初に、AAV9ウイルスが心臓特異的に十分に発現しているかどうかを確認するために、ウエスタンブロッティングを使用して、心房組織におけるCCN5の発現を確認した。結果として、AAV9-CCN5を注射したマウス群において、CCN5タンパク質が過剰発現していることが確認された。さらに、心房組織におけるCCN5のmRNA発現レベルの確認から得られた結果から、AAV9-CCN5の注射によって、CCN5のmRNAも同様に増大したことが見出された(
図7bおよび7c)。
【0136】
トリクローム染色による心房のコラーゲン蓄積の程度の確認によって得られた結果から、アンギオテンシンII、続いてAAV9-対照を注射したマウスにおいて、心房組織の約6%でコラーゲンが蓄積しているが、AAV9-CCN5を注射したマウス群では、コラーゲン蓄積の程度は約3%に低下していることが確認された(
図7dおよび7e)。
【0137】
さらに、実験方法3と同様の方式で、心房組織を使用してqRT-PCRを行って、線維化関連マーカー遺伝子、α-SMA、コラーゲンIおよびTGF-β1、ならびに炎症関連マーカー遺伝子、IL-1β、RANTES、F4/80およびMCP-1のmRNA発現レベルを確認した。結果として、AAV9-CCN5は、発現レベルがアンギオテンシンIIによって増大したこれらのマーカー遺伝子を有意に低下させることが見出された(
図7f~7l)。これらの結果から、AAV9-CCN5を使用してCCN5を心臓特異的に過剰発現させたマウスモデルにおいてでさえ、アンギオテンシンII誘導性心房線維化が効果的に阻害されることが確認された。
【0138】
実験例1.6.AAV9-CCN5によって示される心房細動阻害効果の確認
実験方法4.2と同様の方式でマウスモデルを生成し、6週目の終わりに心臓生理学実験を行った(
図8a)。最初に、心電図を調べ、その結果として、AAV9-対照を注射したマウス群では、アンギオテンシンIIによって心房機能が弱められ、それにより、電気刺激(stimulius)後に心房細動が連続的誘導されることが確認された。その一方で、AAV9-CCN5を注射したマウス群では、心拍は、電気刺激後に正常なリズムに戻ることが観察された。Ca
2+の活動電位(光信号)を測定した実験においてでさえ、AAV9-対照を注射した群は、刺激後に伝導の不規則性を連続的示したが、AAV9-CCN5を注射した群は、刺激後に正常な心房活性化を示した(
図8bおよび8c)。
【0139】
心電図解析の結果として、AAV9-対照を注射したマウス群では、電気刺激後に5匹のマウスのうち4匹で心房細動が誘導されたが、AAV9-CCN5を注射したマウス群では、5匹のマウスのうち2匹が心房の異常を示し、残りは正常な心房活性化を示した(
図8d)。
【0140】
心電図実験を行っている間に、電気刺激を加えて心房細動を誘導した場合、対照[模擬(Sham)]マウス群は、心房細動を誘導するのに約28Hzの刺激を必要としたが、アンギオテンシンIIおよびAAV9-対照を注射した対照マウス群では、心房細動は、約20Hz程度の低い刺激であっても十分に誘導された。その一方で、アンギオテンシンIIおよびAAV9-CCN5を注射したマウス群では、刺激を模擬群と同様のレベルである約25Hzまで上げた場合のみ心房細動が誘導されることが見出された(
図8e)。
【0141】
実験方法4.2で述べられているように、左心房の電気活動をマッピングして、Ca
2+の活動電位を図表で表した。グラフ上の活動電位持続時間50(APD
50)および活動電位持続時間75(APD
75)の各時点でグラフを解析した。結果として、AAV9-CCN5を注射した群では、活動電位持続時間は、AAV9-対照を注射した群と比較した場合、模擬群と同様の速度で出現することが確認された(
図8f)。
【0142】
各群について、
図8eのグラフの傾斜を解析した。これは、活動電位の脱分極に必要とされる速度を示し、AAV9-CCN5を注射したマウス群では、アンギオテンシンIIによって遅くなった脱分極に必要とされる速度が、模擬と同様のレベルに回復することが見出された(
図8g)。これらの結果から、AAV9-CCN5の注射によってCCN5が過剰発現しているマウス群においてでさえ、アンギオテンシンIIによって誘導される心房細動が確実に阻害されることが確認された。
【0143】
実験例2.心室性不整脈マウスモデルにおけるAAV-CCN5およびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5の治療効果の確認
実験例2.1.心室性不整脈マウスモデルの生成
心室性不整脈マウスモデルは、実験方法1.3に記載されている方法によって生成した。使用した雄のB6C3F1 WT(野生型、灰色の毛色)マウスは、20~25gの体重の8~10週齢マウスであった。アンギオテンシンIIは、3mg/kgの濃度で2週間皮下注入した。2週間後、心臓機能の変化を心エコー検査によって確認した。確認したマウスを無作為に選択し、CCN5ベクター単独(AAV9-CCN5)またはCCN5とSERCA2aベクターの組み合わせ(AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5)を5×1011ウイルスゲノム(vgs)の量で注射した。次いで、最終的な機能評価のために、これらのマウスをさらに4週間維持した。
【0144】
最初に、アンギオテンシンIIによって心室性不整脈マウスモデルが適切に生成されたかを確認するために、対照マウス群(模擬)および比較マウス群(AngII)の心臓機能を心エコー検査によって調べた。結果として、アンギオテンシンIIが皮下注射されたマウス群は、対照(模擬)と比較した場合、短縮率の低下を示した。しかし、これら2つの群は、マウスの体重に関して大きな違いを示さなかった(
図9a)。
【0145】
心室頻拍を判定するために、実験方法4.3と同様の方式で、10Hzの電気刺激(
図9b)または20Hzの電気刺激(
図9c)を右心室(RV)に加えることによって、光学マッピングを行った。電気刺激が大きいほど、実験群と対照の間で明白な違いが観察された。アンギオテンシンIIを注射したマウス群では、20Hzの電気刺激を加えた場合、カルシウムイオンチャネルなどは、その本来の状態に局部的に回復せず、それにより、刺激伝達の不連続性が観察された。カルシウムの活動電位を図表で表し、
図9dに図示する。グラフ上の活動電位持続時間50(APD
50)および活動電位持続時間75(APD
75)の各時点でグラフを解析した。結果として、アンギオテンシンIIの注射によってより速い活動電位持続時間が達成されることが見出された(
図9e)。さらに、アンギオテンシンII群において、活動電位持続時間の分散度の有意な低下が観察された(
図9f)。伝導速度および活動電位の脱分極に必要とされる速度を解析した結果として、そのような速度はアンギオテンシンIIによって大きく低下することが見出された(
図9g)。これらの結果から、アンギオテンシンIIによって心室性不整脈マウスモデルが確実に生成されることが確認された。
【0146】
実験例2.2.心室性不整脈マウスモデルにおけるβ-アドレナリン受容体アンタゴニストの効果
イソプロテレノール(ISO)は、β-アドレナリン受容体に臨床的に作用するので、心筋の収縮性を増大させ、それによって心拍出量を増大させる薬物である。アンギオテンシンII誘導性心室性不整脈マウスモデルでは、イソプロテレノールを使用してβ受容体を刺激した場合に、心室におけるCa
2+の活動電位が確認された(
図10a)。20Hzの電気刺激を右心室に加え、Ca
2+の得られた再分極パターンを図で示した。
【0147】
結果として、アンギオテンシンIIを注射したマウスモデルでは、カルシウムの再分極パターンは、ISO処理でさえも遅くなることが確認された(
図10b)。活動電位持続時間75(APD
75)を解析した結果として、アンギオテンシンIIを注射したマウスモデルでは、ISO処理は活動電位持続時間速度の違いをもたらさないことが見出された(
図10c)。
【0148】
心室頻拍を判定するために、実験方法4.3と同様の方式で、20Hzの電気刺激を右心室(RV)に加えることによって、光学マッピングを行った。結果として、ISOで処理したアンギオテンシンIIマウス群は、ISOで処理した対照マウス群と比較した場合、刺激による伝導ブロックの不連続性を示した(
図10d)。活動電位持続時間75(APD
75)を解析した結果として、模擬群と比較した場合、アンギオテンシンII処理したマウス群は、有意に増大した活動電位持続時間を示しが、ISO処理ではわずかな変化しか示さなかった(
図10e)。伝導速度を解析した結果として、アンギオテンシンIIを注射したマウス群は、模擬と比較した場合にはるかに遅い速度を示し、ISO処理が伝導速度の回復をもたらさないことが確認された(
図10f)これらの結果から、アンギオテンシンIIの注射は、β-アドレナリン受容体を刺激に対して非感受性にすることが見出された。
【0149】
実験例2.3.心室性不整脈マウスモデルにおけるAAV9-CCN5およびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5の治療効果の確認
実験例2.3に記載されている実験方法によって、心室性不整脈モデルを確実に生成した。アンギオテンシンIIをマウスに2週間注射し、2週目の終わりに、AAV9-CCN5またはAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5ベクターをマウス尾静脈に注射した。合計で6週後、実験を終了し、心室性不整脈関連実験を行った。
【0150】
心エコー検査を行って、アンギオテンシンII誘導性心室性不整脈マウスモデルにおいて、AAV9-CCN5およびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5の影響を受ける心臓機能を確認した。AAV9-CCN5またはAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5の注射は、アンギオテンシンIIによって低下した短縮率を模擬レベルの短縮率を示すようにした。さらに、左室壁厚(LVSd)を解析した結果として、アンギオテンシンIIによって低下した左室壁厚が、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5によってほぼ正常レベルまで回復することが確認された(
図11aおよび11b)。
【0151】
光学マッピングを使用して、Ca
2+の活動電位を示した。20Hzの刺激で心室に電気刺激を加えた場合、ISO処理にかかわらず、AAV9-CCN5またはAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5注射したマウス群において、伝導が規則的に広がることが見出された(
図11cおよび11d)。カルシウムの活動電位を図表で表し、
図11eに図示する。
【0152】
模擬、AngII、AngII+AAV9-CCN5、AngII+AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5のそれぞれの群について、ISOによる処理を行い、再分極マップを描くことによって解析を行った。結果として、AAV9-CCN5またはAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5の注射は、アンギオテンシンIIの注射によって遅くなった再分極を、模擬と同様のパターンを有する再分極を示すようにすることが確認された(
図11f)。
【0153】
Ca
2+の活動電位持続時間75(APD
75)を解析した結果として、アンギオテンシンIIによって増大した活動電位持続時間が、AAV9-CCN5の注射によって低下し(
図11g)、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5によって模擬レベルまで確実に低下することが見出された。さらに、アンギオテンシンIIによって遅くなった伝導速度および脱分極速度が、AAV9-CCN5またはAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5の注射によって正常化することが確認された(
図11hおよび11i)。これらの結果から、AAV9-CCN5およびAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5は、アンギオテンシンIIによって誘導される心室性不整脈を治すのに効果的であることが確認された。
【0154】
さらに、アンギオテンシンII注射モデルにおいて、プログラムされた電気刺激(PES)によって誘導される心室性不整脈を確認した(
図12a)。心室性不整脈を誘導するための刺激頻度を解析した結果として、AngIIマウス群において、心室性不整脈は、低い刺激頻度によってでさえ誘導されたが、AAV9-CCN5またはAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5を注射したマウス群において、心室性不整脈は、模擬群のレベル以上の刺激頻度によって誘導された。心室性不整脈の発生率を解析した結果として、心室性不整脈は、AngIIマウス群において5/5のエピソード率で、AngII+AAV9-CCN5マウス群において1/5のエピソード率で、AngII+AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5マウス群において0/5のエピソード率で生じた(
図12bおよび12c)。
【0155】
不整脈は心臓線維化と密接に関係しているので、マッソンのトリクローム染色によって心臓線維化を測定した。結果として、アンギオテンシンIIによって誘導される心臓線維化は、AAV9-CCN5またはAAV9-SERCA2a-P2A-CCN5が注射された心臓において著しく低下していることが見出された(
図13a)。
【0156】
さらに、この現象はまた、心臓の電気信号を調節するチャネル関連タンパク質と密接に関連している。したがって、心臓組織におけるNa
V1.5およびコネキシン43タンパク質の発現をウエスタンブロッティングによって調べた。結果として、アンギオテンシンIIによって引き起こされたチャネル関連タンパク質Na
V1.5およびコネキシン43の発現低下は、AAV9-SERCA2a-P2A-CCN5によって回復することが確認された(
図13b)。これらの結果から、CCN5ベクター単独またはSERCA2AとCCN5の共発現を使用する遺伝子療法は、アンギオテンシンIIによって誘導される心室頻拍の発生を阻害することもできることが確認された。
【配列表】