(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】磁気冷凍モジュール、磁気冷凍システム及び冷却方法
(51)【国際特許分類】
F25B 21/00 20060101AFI20221117BHJP
H01F 1/01 20060101ALI20221117BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
F25B21/00 A
H01F1/01 150
C22C28/00 A
(21)【出願番号】P 2021533954
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2020027239
(87)【国際公開番号】W WO2021015038
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2019136731
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、「磁気冷凍材料および水素液化システムに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】間宮 広明
(72)【発明者】
【氏名】寺田 典樹
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-361061(JP,A)
【文献】米国特許第05743095(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 21/00
H01F 1/01
C22C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気冷凍材料を有し、長手方向に延在する磁気冷凍動作部と、
前記磁気冷凍動作部の
前記長手方向と交差する方向に
それぞれ離間して配置された固定磁場励磁部と変動磁場励磁部と、を有し、
前記固定磁場励磁部は、前記磁気冷凍動作部に
、時間の経過とともに磁場強度が変化しない固定磁場を印加し、
前記変動磁場励磁部は、ON状態のとき前記磁気冷凍動作部に変動磁場を印加し、OFF状態のとき前記磁気冷凍動作部に変動磁場を印加しない、磁気冷凍モジュール。
【請求項2】
前記変動磁場励磁部は、前記固定磁場励磁部の外周方向に配置されている、請求項1に記載の磁気冷凍モジュール。
【請求項3】
前記磁気冷凍動作部は、棒状、平板上、円筒状、または管状である、請求項1または2に記載の磁気冷凍モジュール。
【請求項4】
前記磁気冷凍材料は、Ho(ホロミウム)、Gd
5(Ge
1-xSi
x)
4 (x=0~1)、Co(S
xSe
1-x)
2 (x=0.8~1.0)、(Sm
1-xGd
x)
0.55Sr
0.45MnO
3 (x=0~1)、Eu
0.55Sr
0.45MnO
3、希土類単体Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Er(エルビウム)、又はこれらを組み合わせた合金である、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁気冷凍モジュール。
【請求項5】
前記変動磁場励磁部は、少なくとも超伝導磁石および常電導磁石の一つ以上が用いられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気冷凍モジュール。
【請求項6】
前記固定磁場の磁場強度が1.5T以下である場合、前記固定磁場励磁部は永久磁石であり、
前記固定磁場の磁場強度が1.5T以上である場合、前記固定磁場励磁部は超電導磁石である、請求項1~5のいずれか一項に記載の磁気冷凍モジュール。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気冷凍モジュールを少なくとも1つ備える磁気冷凍システムであって、
前記固定磁場励磁部が前記磁気冷凍動作部に与える磁場強度は、前記長手方向に連続的または階段状に強くなるように分布している、磁気冷凍システム。
【請求項8】
前記磁気冷凍モジュールを複数備える、請求項7に記載の磁気冷凍システム。
【請求項9】
前記変動磁場励磁部が前記磁気冷凍動作部に印加する変動磁場の磁場強度は、前記長手方向に連続的または階段状に強くなるように分布している、請求項7または8に記載の磁気冷凍システム。
【請求項10】
前記変動磁場
励磁部が前記磁気冷凍動作部に印加する変動磁場の磁場強度は、前記長手方向で一定である、請求項7または8に記載の磁気冷凍システム。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気冷凍モジュールをただ一つ備える磁気冷凍システムであって、
前記固定磁場励磁部が前記磁気冷凍動作部に印加する磁場強度は、前記長手方向に連続的に強くなるように分布しており、
前記変動磁場励磁部が前記磁気冷凍動作部に印加する変動磁場の磁場強度は、前記長手方向に連続的に強くなるように分布している、磁気冷凍システム。
【請求項12】
固定磁場の磁場強度と変動磁場の磁場強度との和は、前記ON状態のとき急傾斜領域に対応する磁場強度以上であり、前記OFF状態のとき前記急傾斜領域に対応する磁場強度以下であり、
前記急傾斜領域は、前記磁気冷凍動作部に加わる磁場変化に対して磁化が急傾斜で変化する領域である、請求項9~11のいずれか一項に記載の磁気冷凍システム。
【請求項13】
高温端が第1温度となるように設定され、低温端が第2温度に設定された、磁気冷凍システムであって、
前記ON状態のとき、前記高温端に加わる磁場強度は、前記第1温度における前記急傾斜領域に対応する磁場強度より強く、
前記OFF状態のとき、前記高温端に加わる磁場強度は、前記第1温度における前記急傾斜領域に対応する磁場強度よりも弱く、
前記ON状態のとき、前記低温端に加わる磁場強度は、前記第2温度における前記急傾斜領域に対応する磁場強度より強く、
前記OFF状態のとき、前記低温端に加わる磁場強度は、前記第2温度における前記急傾斜領域に対応する磁場強度よりも弱い、請求項
12に記載の磁気冷凍システム。
【請求項14】
前記
磁気冷凍システムの低温端の温度が10K以上であり、前記
磁気冷凍システムの高温端の温度が150K以下である、請求項9~13のいずれか一項に記載の磁気冷凍システム。
【請求項15】
請求項1~7のいずれか一項に記載の磁気冷凍モジュールまたは請求項8~14のいずれか一項に記載の磁気冷凍システムを用いる冷却方法であって、
変動磁場を上昇させ、前記磁気冷凍動作部の温度を上昇させる励磁過程と、
前記ON状態で、前記低温端から前記高温端に向かって冷却対象ガスを流す、抜熱過程と、
変動磁場を減磁し、前記磁気冷凍動作部の温度を降下させる断熱減磁過程と、
前記高温端から前記低温端に向かって前記冷却対象ガスを流し冷却過程と、を有し、
前記冷却対象ガスとして前記磁気冷凍動作部の内部に水素ガスを用いる、冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場で相転移を制御した能動的な磁気冷凍モジュール、磁気冷凍システム及び冷却方法に関する。
本願は、2019年7月25日に、日本に出願された特願2019-136731号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
磁気冷凍は、磁気熱量効果を示す磁性材料を冷媒として用いる冷却技術であり、磁場増加・減少のサイクルによって強磁性・常磁性相転移を起こし、そこで生じる吸熱反応・発熱反応を利用して冷凍する技術である。
そして、磁性体等の物質に磁場を付加または除去することによって、物質が発熱または吸熱する現象を利用した磁気冷凍システムは、従来の気体の圧縮・膨張による発熱または吸熱現象を利用した熱サイクルシステムに代わるものとして注目されている。現状技術の開発磁気冷凍システムは、それぞれの組成にあった温度領域で現象を発現するよう複数の組成の物質を複合させて、機能する温度範囲を広げている(例えば、特許文献1参照)。また、負荷する磁場は、ゼロから数Tと広く印加させている。発熱または吸熱現象が生じる磁場は、磁場による磁化現象が大きく変化する部分が特に有効であり、印加磁場幅が大きいことは効率を減少させていることになる。
【0003】
従来技術で、システムの動作温度を広げるためには、動作物質の組成を変化させている。例えば、特許文献1では、磁気冷凍材料としてLa(Fe1-x-yCoySix)13を用い、x、y濃度を変化させることにより冷蔵庫等に用いられる温度範囲まで動作温度を広げている。
【0004】
一方、水素の液化といった用途では、本出願人の提案に係る特許文献5で、Er5Pd2が磁気冷凍材料として提案されている。しかしながら、強磁性体では非常に大きな磁気エントロピー変化を得ることができる領域はキュリー温度近傍に限られる。そこで、気体冷凍の効率が落ちる40-50K程度の温度域から液体水素の沸点20Kまでの2倍以上の温度範囲での冷凍能力が必要となるため、複数種類の物質の並列利用も検討されている。
【0005】
また、従来技術では動作物質に与える磁場の印加手段として永久磁石、超伝導磁石を用いている。永久磁石では、基本的にゼロ磁場から最大磁場迄動作物質の出し入れ、回転等により変化させ、超伝導磁石では電流の掃引により変化させている。例えば、本出願人の提案に係る特許文献2では、動作物質の上下に永久磁石を配置し、かつ回転することにより、磁場を基本的にゼロ(離れていても完全にはゼロではない)→最大磁場→ゼロに変化させ、動作物質を発熱または吸熱させている。
【0006】
非特許文献1は、5Tまでの磁場中で9kbarまでの高静水圧下でのGd5Ge4における磁気熱量効果の研究の結果を提示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-221494号公報
【文献】国際公開第2015/199139号
【文献】国際公開第2018/129476号
【文献】中国特許出願公開第107012408号明細書
【文献】特開2017-39993号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】J. Appl. Phys. 105, 07A934 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術では、動作温度を広げるために複数の組成の動作物質を用意しなければならない問題点があった。また、磁場の印加が単一であるため、物質の持つ単位駆動力(磁場変化)当たりの最大磁気冷凍能力を引き出せないという問題点があった。
また、従来技術では、磁場の印加方法として、常電導、超伝導または永久磁石の場合でも、ハイブリット構造でないため、ベース磁場となる固定磁場に変動磁場を重畳できず、高磁場を実現し難いという問題点があった。
【0010】
本発明は、物質の持つ単位駆動力(磁場変化)当たりの最大磁気冷凍能力を引き出すことができる磁気冷凍モジュールおよび磁気冷凍システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]本発明の第一の態様に係る磁気冷凍モジュールは、磁気冷凍材料を有し、長手方向に延在する磁気冷凍動作部と、前記磁気冷凍動作部の外周方向に離間して配置された固定磁場励磁部と変動磁場励磁部と、を有し、前記固定磁場励磁部は、前記磁気冷凍動作部に固定磁場を印加し、前記変動磁場励磁部は、ON状態のとき前記磁気冷凍動作部に変動磁場を印加し、OFF状態のとき前記磁気冷凍動作部に変動磁場を印加しない。
【0012】
[2]上記態様に係る磁気冷凍モジュールにおいて、好ましくは、前記変動磁場励磁部は、前記固定磁場励磁部の外周方向に配置される。
[3]上記態様に係る磁気冷凍モジュールにおいて、好ましくは、前記磁気冷凍動作部は、棒状、平板上、円筒状、または管状である。
[4]上記態様に係る磁気冷凍モジュールにおいて、好ましくは、前記磁気冷凍材料は、H0(ホロミウム)、Gd5(Ge1-xSix)4 (x=0~1)、Co(SxSe1-x)2 (x=0.8~1.0)、(Sm1-xGdx)0.55Sr0.45MnO3 (x=0~1)、Eu0.55Sr0.45MnO3、希土類単体Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Er(エルビウム)、又はこれらを組み合わせた合金である。
【0013】
[5]上記態様に係る磁気冷凍モジュールにおいて、好ましくは、前記変動磁場励磁部は、少なくとも超伝導磁石および常電導磁石の一つ以上が用いられる。
[6]上記態様に係る磁気冷凍モジュールにおいて、好ましくは、前記固定磁場の磁場強度が1.5T以下である場合、前記固定磁場励磁部は永久磁石であり、前記固定磁場の磁場強度が1.5T以上である場合、前記固定磁場励磁部は超電導磁石である。
[7]本発明の第二の態様に係る磁気冷凍システムは、第一の態様に係る磁気冷凍モジュールを少なくとも1つ備える磁気冷凍システムであって、前記固定磁場励磁部が前記磁気冷凍動作部に与える磁場強度は、前記長手方向に連続的または階段状に強くなるように分布している。
【0014】
[8]上記態様に係る磁気冷凍システムは、上記態様に係る磁気冷凍モジュールを複数備えてもよい。
【0015】
[9]上記態様に係る磁気冷凍システムにおいて、前記変動磁場励磁部が前記磁気冷凍動作部に印加する変動磁場の磁場強度は、前記長手方向に連続的または階段状に強くなるように分布していてもよい。
[10]上記態様に係る磁気冷凍システムにおいて、前記変動磁場印加部が前記磁気冷凍動作部に印加する変動磁場の磁場強度は、前記長手方向で一定であってもよい。
[11]本発明の第三の態様に係る磁気冷凍システムは、第一の態様に係る磁気冷凍モジュールをただ一つ備える磁気冷凍システムであって、前記固定磁場励磁部が前記磁気冷凍動作部に印加する磁場強度は、前記長手方向に連続的に強くなるように分布しており、前記変動磁場励磁部が前記磁気冷凍動作部に印加する変動磁場の磁場強度は、前記長手方向に連続的に強くなるように分布している。
[12]上記態様に係る磁気冷凍システムにおいて、固定磁場の磁場強度と変動磁場の磁場強度との和は、前記ON状態のとき急傾斜領域に対応する磁場強度以上であり、前記OFF状態のとき前記急傾斜領域に対応する磁場強度以下であり、前記急傾斜領域は、前記磁気冷凍動作部に加わる磁場変化に対して磁化が急傾斜で変化する領域であってもよい。
[13]上記態様に係る磁気冷凍システムは、高温端が第1温度となるように設定され、低温端が第2温度に設定された、磁気冷凍システムであって、前記ON状態のとき、前記高温端に加わる磁場強度は、前記第1温度における前記急傾斜領域に対応する磁場強度より強く、前記OFF状態のとき、前記高温端に加わる磁場強度は、前記第1温度における前記急傾斜領域に対応する磁場強度よりも弱く、前記ON状態のとき、前記低温端に加わる磁場強度は、前記第2温度における前記急傾斜領域に対応する磁場強度より強く、前記OFF状態のとき、前記低温端に加わる磁場強度は、前記第2温度における前記急傾斜領域に対応する磁場強度よりも弱くてもよい。
[14]上記態様に係る磁気冷凍システムは、前記低温端の温度が10K以上であり、前記高温端の温度が150K以下であってもよい。
[15]本発明の第四の態様に係る冷却方法は、上記態様に係る磁気冷凍モジュールまたは磁気冷凍システムを用いる冷却方法であって、変動磁場を上昇させ、前記磁気冷凍動作部の温度を上昇させる励磁過程と、前記ON状態で、前記低温端から前記高温端に向かって冷却対象ガスを流す、抜熱過程と、変動磁場を減磁し、前記磁気冷凍動作部の温度を降下させる断熱減磁過程と、前記高温端から前記低温端に向かって前記冷却対象ガスを流し冷却過程と、を有し、前記冷却対象ガスとして前記磁気冷凍動作部の内部に水素ガスを用いる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の磁気冷凍モジュール及びこれを用いた磁気冷凍システムによれば、以下の効果がある。
(i)本発明の磁気冷凍システムによれば、温度によって磁化(M)-磁場(H)特性(以下、M-H特性という場合がある)がシフトする磁気冷凍材料を用い、M-H特性が大きく変化する急傾斜領域を活用することによって、高効率な磁気冷凍システムを実現できる。
(ii)従来技術では、動作温度に合わせた複数組成の動作物質が必要であったが、本発明では単一組成で1種類の動作物質であっても実施することができる。
(iii)本発明では、固定磁場(ベース磁場)に変動磁場を重畳させた磁場印加方法とすることにより、M-H特性が大きく変化する急傾斜領域を活用し、効率向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】本発明で用いる磁気冷凍材料の、磁化(M)-磁場(H)曲線において、磁場変化に対して磁化が急傾斜で変化する領域を説明する図である。
【
図1B】本発明の一実施例を示すホルミウム単体の磁化(M)磁場-(H)曲線を示す図である。
【
図2】ホルミウム単体にベース磁場H
0から0.1Tの磁場hをさらに加えたときの磁気エントロピー変化量(-ΔS)を示す図である。
【
図3】ホルミウム単体に無磁場から1.5Tの磁場を加え取り除いたサイクル、及びベース磁場H
0=0.5Tから0.4Tの磁場hをさらに加え、次いで除去したサイクルでの温度変化を示す図、及びこれらのサイクルでのエントロピー変化の模式図である。
【
図4】本発明の一実施例を示す磁気冷凍システムの熱サイクルの説明図で、ベース磁場H
0から変動磁場ΔHを用いた熱サイクルを示している。
【
図5】本発明の実施例2を示すもので、様々な温度Tにあるホルミウム単体にベース磁場H
0から0.4Tの磁場hをさらに加え、hを除去したときの温度変化を示す図である。
【
図6】様々な温度Tにあるホルミウム単体にベース磁場H
0から0.4Tの磁場hをさらに加え、hを除去したときの温度変化幅を示す図である。
【
図7A】本実施形態に係る磁気冷凍システムの断面を示す、概略模式図である。
【
図8A】変形例1に係る磁気冷凍システムの断面を示す、概略模式図である。
【
図8B】変形例2に係る磁気冷凍システムの断面を示す、概略模式図である。
【
図8C】変形例3に係る磁気冷凍システムの断面を示す、概略模式図である。
【
図9A】変形例4に係る磁気冷凍システムの断面を示す、概略模式図である。
【
図10】
図7Aに示す磁気冷凍システムの動作ステップの説明図である。
【
図11】変形例Aに係る磁気冷凍システムの断面を示す、概略模式図である。
【
図12】変形例AのGd
5Ge
4の磁化(M)-磁場(H)曲線(16Kから100Kまで3K刻み)を示す図である。
【
図13】変形例BのCo(S
xSe
1-x)
2の磁化(M)-磁場(H)特性を示す図である。
【
図14】変形例Bの(Gd
0.5Sm
0.5)
0.55Sr
0.45MnO
3の磁化(M)-磁場(H)曲線を示す図である。
【
図15】磁気熱量効果の模式図で、磁場印加状態と、零磁場状態とを表している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で用いる技術用語について説明する。
(1) 磁気熱量効果 磁性体に印加した磁場を変化させることにより、温度変化が誘発されること。
図15のように磁性体に印加した磁場を切ると、磁気エントロピーが増加し、吸熱が起こる。このとき吸収する熱量は、磁気エントロピー変化と絶対温度の積で与えられるため、より大きな磁気エントロピー変化が得られれば、より大きな熱量が吸収される。この磁性体に印加した磁場を切るという過程は、気体冷凍における気体膨張の過程に対応している。
(2)強磁性体 隣り合う電子スピン同士が同一の方向を向いた磁気構造を示す磁性体のこと。零磁場下で磁化が存在し、磁石を引き寄せる性質を持つ。また、強磁性磁気構造が現れる温度をキュリー温度と呼ぶ。
(3)反強磁性体 隣り合う電子スピン同士が逆向きの方向を向いた磁気構造を示す磁性体のこと。零磁場下では、磁化は存在せず、磁石を引き寄せる性質を持っていない。また、反強磁性磁気構造が現れる温度をネール温度と呼ぶ。
(4)非強磁性的な磁気構造 強磁性磁気構造のように電子スピンが同じ方向に揃っていない磁気構造のこと。例えば、反強磁性磁気構造、螺旋磁気構造、および複合磁性体の示す磁気構造などがこれに該当する。
(5)磁気エントロピー スピン状態の乱雑さを表す示量性状態量のこと。低温において現れる強磁性構造や反強磁性構造では、隣同士の電子スピンがそれぞれ同じ方向または逆方向に揃っているため、磁気エントロピーは小さくなる。一方、高温において現れる電子スピンがランダムな方向を向いた常磁性構造(
図15右のような磁気構造)では、大きな磁気エントロピーが観測される。
【0019】
以下、図面と実施例を参照しながら本発明を説明する。
【0020】
[実施例]
図1Aは、本発明で用いる磁気冷凍材料の、磁化(M)-磁場(H)曲線において、磁化(M)-磁場(H)曲線において、磁場変化に対して磁化が急傾斜で変化する領域を説明する図である。
図1Aでは、磁場の低い曲線から順に2K、10K、20K、30K、40K、50K、60K、70K、80K、90Kおよび100Kにおける磁化(M)-磁場(H)曲線が示されており、実線は外部磁場を加える際の変化、点線は外部磁場減少させる際の変化を示す。
ここでは、磁化の低い状態から順に、低位側緩傾斜領域、低位側接続領域、急傾斜領域、高位側接続領域、高位側緩傾斜領域の5個の領域に区分している。低位側緩傾斜領域は、磁場変化に対して磁化が緩傾斜で変化する領域で、磁気冷凍材料の磁性イオンのスピンが螺旋を描くように周期的に並んだ螺旋磁性状態である。
図1Aにおいて、40Kのグラフに着目すると、低位側緩傾斜領域は、原点Oから境界点M1の領域に相当している。高位側緩傾斜領域は、磁場変化に対して磁化が緩傾斜で変化し又は飽和する領域である。高位側緩傾斜領域は、磁気冷凍材料の磁性イオンのスピンが磁場方向に揃っている磁気飽和状態に対応する。高位側緩傾斜領域は、
図1Aでは境界点M4からM5の領域に相当している。
【0021】
急傾斜領域は、磁場変化に対して磁化が急傾斜で変化する領域である。急傾斜領域は、
図1Aでは境界点M2からM3の領域に相当している。急傾斜領域は、低位側緩傾斜領域よりも磁化が高位である。また、急傾斜領域は高位側緩傾斜領域よりも磁化が低位である。
図1Aに示すように、磁場変化に対する磁化急傾斜領域は温度依存性を有するものである。急傾斜領域は、例えば磁場μ
0H(T)の単位変化あたりの磁化M(T)の変化割合が1を超える領域である
【0022】
低位側緩傾斜領域、急傾斜領域、高位側緩傾斜領域の磁化(M)-磁場(H)曲線を直線で近似した場合、これらの直線近似の交差点近傍では、現実の磁化(M)-磁場(H)曲線と乖離が生じる。そこで、低位側接続領域と高位側接続領域では曲線近似をして、乖離を低減している。
即ち、低位側接続領域は、磁化(M)-磁場(H)曲線において、低位側緩傾斜領域と急傾斜領域の接続される領域である。すなわち、低位側接続領域は
図1Aでは境界点M1からM2の領域に相当している。高位側接続領域は、磁化(M)-磁場(H)曲線において、急傾斜領域と低位側緩傾斜領域の接続される領域である。高位側接続領域は、
図1Aでは境界点M3からM4の領域に相当している。
尚、ここまで40Kのグラフに特に着目し、低位側緩傾斜領域、低位側接続領域、急傾斜領域、高位側接続領域、高位側緩傾斜領域の5個の領域およびその境界点について説明したが、いずれの温度においても上記5個の領域および境界点は存在する。温度が上昇すると、境界点に対応する磁場の大きさが大きくなる傾向にある。
【0023】
このような磁気冷凍材料としては、ホルミウム、Gd5(Ge1-xSix)4;x=0~1、Co(SxSe1-x)2;x=0.8~1.0、(Sm1-xGdx)0.55Sr0.45MnO3;x=0~1、Eu0.55Sr0.45MnO3、希土類単体Tb,Dy,Er、およびそれらを組み合わせた合金が用いられる。
【0024】
<実施例1>
図1Bはホルミウム単体の磁化(M)-磁場(H)曲線を示す図である。
図1Bでは、磁場の低い曲線から順に2K、10K、20K、30K、40K、50K、60K、70K、80K、90K、100Kおよび200Kにおける磁化(M)-磁場(H)曲線が示されており、実線は外部磁場を加える際の変化、点線は外部磁場減少させる際の変化を示す。温度によって、M-H特性が変化し、かつ急激な磁化変化挙動を示す。磁化は、ある限られた磁場範囲で急激に増大する。すなわち、この範囲でのみスピンの配列状態が大きく変化している。そこで、所定の大きさの磁場H
0から0.1Tの磁場hをさらに加えたときの磁気エントロピー変化量(-ΔS)を磁化-温度曲線から、Maxwellの関係式を用いて求めた(
図2参照)。図中で、ΔSの大きさは濃淡で示され、濃い領域ほど値が大きいことを示す。図中でΔSの最大値は3.0(Jkg
-1K
-1)であった。
表1は、Maxwellの関係式を用いて求めた磁気エントロピー変化量(-ΔS)およびMaxwellの関係式に用いた条件を示す。例えば、条件1では、温度T
M=20Kで、磁場H
0=0.2Tが与えられていたホルミウム単体に与える磁場を0.1Tだけ強めると、磁気エントロピー変化量(-ΔS)が2.4J・kg
-1・K
-1だけ変化していることを示す。この条件1において、単位駆動力あたりの磁場変化量{-ΔS/Δ(μ
0h)}は、24(J・kg
-1・K
-1・T
-1)であった。
従来技術では、単位磁場あたりの磁気エントロピー変化量{-ΔS/Δ(μ
0h)}は、約6Kであった。表1に示すように磁場変動に対する単位磁場あたりの磁気エントロピー変化量{-ΔS/Δ(μ
0h)}は、30K付近で従来技術の最大値の約5倍である。このことは、ベース磁場にM-H特性の変化の大きい部分だけ変動磁場を付加する効果がもたされたためであると考えられる。
【0025】
【0026】
ホルミウム単体に温度センサを取り付け、無磁場から1.5Tの磁場を加え、次いでそれを取り除いたサイクルの温度変化、及びベース磁場H
0=0.5Tから0.4Tの磁場hをさらに加え、次いで除去したサイクルでの温度変化を測定した。
図3(a)にホルミウム単体に加えた磁場の大きさと温度変化の相関図を示す。
図3(a)において、実線で示される相関図は、無磁場から1.5Tの磁場を加え、続いてそれを取り除いたサイクル(以下、第1サイクルという;0T→1.5T→0T)の相関図である。
図3(a)において、点線で示される相関図は、ベース磁場H
0=0.5Tから0.4Tの磁場hをさらに加え、次いで除去したサイクル(以下、第2サイクルという;0.4T→1.5T→0.4T)の相関図である。ホルミウム単体は、第1サイクルの場合、1.5Tの磁場を印加すると約27.9Kから29.5Kまで約1.6K上昇し、無磁場状態に戻すとほとんど元の温度に回帰した。一方、ホルミウム単体は、第2サイクルの場合、ベース磁場0.5Tから0.4Tの磁場hをさらに加えると28.2Kから29.7K迄約1.5K上昇し、逆に0.5Tまで減磁すると28.2Kまで下降冷却された。このように、ベース磁場を用いて磁場変動範囲を効率の良い範囲に絞っても、大きく磁場を変化させたときと概ね同様な磁気冷凍効果が確認された。
図3(b)は、
図3(a)より求めた、温度と磁気エントロピーとの関係を示す、熱サイクルの説明図である。
図3(b)中の点線の矢印は、ホルミウム単体に加わる磁場を1.5Tから0Tに下げ、断熱消磁したときの変化と、ホルミウム単体に加わる磁場を0.9Tから0.5Tに下げ、断熱消磁したときの変化と、を示す。
図3(b)に示すように、第1サイクルと第2サイクルとを比較すると、第1サイクルは、第2サイクルよりも磁場の変化幅は大きいが、磁場の変化幅に対して温度変化量は小さく、効率が低いことがわかる。
【0027】
図4は、本発明の一実施例を示す磁気冷凍システムの熱サイクルの説明図で、ベース磁場H
0から変動磁場ΔHを用いた熱サイクルを示している。
図4では、ゼロ磁場から高磁場H1の磁場を用い場合の磁気冷凍サイクル(等温励磁過程(A→B)、断熱減磁(B→C))と、ベース磁場H
0から変動磁場ΔHを用いた磁気冷凍サイクル(等温励磁過程(A’→B’)、断熱減磁過程(B’→C’))の比較を示している。
ベース磁場H
0から変動磁場ΔHを用いた磁気冷凍の熱サイクル(等温励磁過程(A’→B’)、断熱減磁過程(B’→C’))におけるエントロピー変化ΔS’と温度変化ΔT’は、ゼロ磁場から高磁場H1までの磁場を磁気冷凍熱サイクルとして用いる場合(A→B、B→C)のエントロピー変化ΔSと温度変化ΔTと、おおよそ等しく同様の効果が得られる。
【0028】
<実施例2>
図5は、本発明の実施例2を示すもので、20Kから50K程度までの様々な温度Tにあるホルミウム単体にベース磁場H
0から0.4Tの磁場hをさらに加え、hを除去したときの温度変化を示す図である。
単体ホルミウムの外周部に、ベース磁場として0.0T~1.5Tまで0.033T間隔のベース磁場を発生させつつ同時に0.4Tの変動磁場を発生する磁石をセットし、それぞれのベース磁場において印加磁場を変化させた。
【0029】
図6は、10Kから50K程度までの様々な温度Tにあるホルミウム単体にベース磁場H
0から0.4Tの磁場hをさらに加え、hを除去したときの温度変化幅を示す図である。図中で、温度変化ΔT(K)の大きさは濃淡で示され、濃い領域ほど値が大きいことを示す。図中でΔTの最大値は1,6(K)であった。
適切な固定磁場としてのベース磁場を用いることで20-40Kの範囲内のいずれの温度からでも蓄熱体を兼ねるホルミウムを1.2-1.5K冷却できた。
【0030】
<磁気冷凍システム>
図7Aは、本実施形態の磁気冷凍システム100の断面を示す概略図である。
図7Bは、
図7Aの切断線VIIB-VIIBに沿う断面図(VIIB-VIIB線断面図)を示している。
【0031】
磁気冷凍システム100は、少なくとも1つの磁気冷凍モジュール10を有する。
図7Aに示す磁気冷凍システム100は、複数の磁気冷凍モジュール10を有する場合の例であり、6つの磁気冷凍モジュール10a~10fを有している。磁気冷凍モジュール10は、磁気冷凍動作部1と、磁気冷凍動作部1の外周方向に位置する固定磁場励磁部2と、変動磁場励磁部3と、を有している。
【0032】
磁気冷凍動作部1は、磁気冷凍材料を有する。磁気冷凍動作部1は、例えば円筒状または管状の部材である。磁気冷凍動作部1は、例えば粒子状、ペレット状、ポーラス、密実な固体の材料が用いられる。磁気冷凍動作部1が延在する、長手方向の端部をそれぞれ第1端4、第2端5という。以下、磁気冷凍動作部1の長手方向を第1方向という場合がある。磁気冷凍システム100が用いられるとき、第1端4および第2端5の一方が高温端として、他方が低温端として作用する。
【0033】
磁気冷凍動作部1が管状や円筒状などの形状である場合、磁気冷凍動作部1の内部には冷媒流路6が形成される。詳細を後述する原理により、磁気冷凍動作部1の内部に形成された冷媒流路6を冷却対象ガスが移動し、磁気冷凍システム100は作用する。尚、磁気冷凍動作部1が粒子状、ペレット状、及び流体抵抗の低いポーラスのいずれかである場合、冷却対象ガスは磁気冷凍動作部1の内部にも流れる。
【0034】
各磁気冷凍モジュール10において、用いられる磁気冷凍材料は、所望の温度に応じて異なる組成部の材料を適宜組み合わせて用いられてもよい。
【0035】
固定磁場励磁部2は、複数の固定磁場励磁部2a~2fからなる。固定磁場励磁部2a~2fは、それぞれ磁気冷凍モジュール10a~10fに備えられる。固定磁場励磁部2としては、例えば永久磁石や、超電導磁石が用いられる。固定磁場の大きさが1.5T以下である場合、固定磁場励磁部2として永久磁石が用いられることが好ましく、固定磁場の大きさが1.5T以上である場合、固定磁場励磁部2として超電導磁石が用いられることが好ましい。
【0036】
固定磁場励磁部2は、磁気冷凍動作部1に固定磁場を与える。固定磁場は、所定の磁場強度の磁場であり、時間の経過とともに磁場強度は変動しない。固定磁場の磁場強度は、第1方向に沿って、階段状に強くなるようにされていることが好ましい。例えば、固定磁場励磁部2aの磁場強度は、固定磁場励磁部2a~2fの中で最も小さく、固定磁場励磁部2fの磁場強度は、固定磁場励磁部2a~2fの中で最も大きい構成であることが好ましい。
【0037】
変動磁場励磁部3としては、常電導磁石および超伝導磁石から選択される少なくとも1つが用いられる。変動磁場励磁部3の動作は、詳細を後述するが、励磁過程および抜熱過程において、磁気冷凍動作部1に変動磁場を与える。本実施形態において、変動磁場励磁部3が磁気冷凍動作部1に変動磁場を与えている状態をON状態といい、与えていない状態をOFF状態という場合がある。
【0038】
本実施形態に係る磁気冷凍システム100の各磁気冷凍モジュール10において、固定磁場の磁場強度および変動磁場の磁場強度は、磁気冷凍動作部1の動作温度および急傾斜領域に基づき設定される。固定磁場の強さは、磁気冷凍材料の急傾斜領域に対応する磁場の強さよりも弱い。また、変動磁場印加時において、固定磁場と変動磁場との強さの和は、磁気冷凍材料の急傾斜領域に対応する磁場の強さよりも強い。すなわち、固定磁場と変動磁場との磁場強度の和は、OFF状態のとき急傾斜領域に対応する磁場以下であり、ON状態のとき急傾斜領域に対応する磁場以上である。なお、固定磁場と変動磁場との磁場強度の和が急傾斜領域に対応する磁場以下であれば、OFF状態の変動磁場の磁場強度は0より大きい値であってもよい。
【0039】
磁気冷凍システム100では、両端の温度が所定の温度となるように設定されることが好ましい。例えば、高温端4の温度が第1温度、低温端5の温度が第2温度となるように設定される。その場合、ON状態のときに、高温端4および低温端5に加わる磁場強度は、それぞれ第1温度における急傾斜領域に対応する磁場強度および第2温度における急傾斜領域に対応する磁場強度より強いことが好ましい。また、OFF状態のときに、高温端4および低温端5に加わる磁場強度は、それぞれ第1温度における急傾斜領域に対応する磁場強度および第2温度における急傾斜領域に対応する磁場強度より弱いことが好ましい。第1温度は例えば150Kであり、第2温度は例えば10Kである。
【0040】
(変形例1)
図8Aは、変形例1に係る磁気冷凍システム101の断面図である。磁気冷凍システム101は、磁気冷凍動作部1Aを有する点が
図7Aに示す磁気冷凍システム100と異なる。磁気冷凍動作部1Aは、第1方向に貫通する貫通孔を有していない。磁気冷凍動作部1Aは粒子状やペレット状である。そのため、磁気冷凍動作部1Aの内部に冷却対象ガスを流し、冷却することが可能である。この際、磁気冷凍動作部1Aの内部には、冷媒流路が形成されていると捉えてもよい。その他の構成は、
図7Aに示す磁気冷凍システム100と同様であり、説明を省く。
【0041】
(変形例2)
図8Bは、変形例2に係る磁気冷凍システム102の断面図である。磁気冷凍システム102は、変動磁場励磁部3Bが複数の独立した変動磁場励磁部3B~3fからなる点が
図7Aに示す磁気冷凍システム100と異なる。変動磁場励磁部3Bは、磁気冷凍動作部1に磁場を与える際、第1方向に沿って、変動磁場の磁場強度が階段状に強くなるように分布している。この場合、磁気冷凍モジュール10aにおける変動磁場の磁場強度は、磁気冷凍モジュール10a~10fにおける変動磁場の中で最も小さく、磁気冷凍モジュール10fにおける変動磁場の磁場強度は、磁気冷凍モジュール10a~10fの中で最も大きい。
【0042】
(変形例3)
図8Cは、変形例3に係る磁気冷凍システム103の断面図である。磁気冷凍システム103は、接続管6´を有している点が、磁気冷凍システム100と異なる。磁気冷凍システム103の有する磁気冷凍動作部1Cおよび固定磁場励磁部2Cは、同心円状に配置されていない。隣接する磁気冷凍モジュールにおける磁気冷凍動作部は、接続管6´により接続されている。接続管6´の形状は、任意に選択される。
図8Cにおいては、各磁気冷凍モジュール10における磁気冷凍動作部1Cおよび固定磁場励磁部2の中心位置がずれている例を示したが、固定磁場励磁部2および磁気冷凍動作部1の厚みが磁気冷凍モジュール毎に異なる構成などであってもよい。また磁気冷凍動作部1および固定磁場励磁部2の構成に合わせて変動磁場励磁部3の厚みや位置を適宜調整してもよい。
【0043】
(変形例4)
図9Aは、変形例4に係る磁気冷凍システム104の断面図である。磁気冷凍システム104は、固定磁場励磁部2が変動磁場励磁部3の外周方向に位置する点が
図7Aに示す磁気冷凍システム100と異なる。その他の構成は、
図7Aに示す磁気冷凍システム100と同様であり、説明を省く。
図9Bは、磁気冷凍システム104の切断線IXB-IXB線断面図である。
【0044】
<磁気冷凍システムの動作>
本実施形態に係る磁気冷凍システムを用いることで、励磁過程と、抜熱過程と、断熱減磁過程と、冷却過程と、を有する冷却方法を実施できる。この冷却方法では、第1温度の冷却対象ガスを利用し、高温端4を第1温度、低温端5を第2温度にすることができる。以下、
図7Aに示す磁気冷凍システム100を用いた実施例を示すことで、その動作について説明する。尚、本実施形態に係る磁気冷凍システム100は、この例で用いる数値などの条件に限定されない。
磁気冷凍動作部1は、動作物質としての単体ホルミウムを有するもので、単体ホルミウムは粒子状やペレット状に成形してもよく、ポーラスでもよく、更には密実な固体であってもよい。粒子状やペレット状であれば、磁気冷凍動作部1の内部に冷却対象ガスを流すことができる。密実な場合は、冷却対象ガスを流すのは冷媒流路6となる。ポーラスな場合は、流体抵抗が低い場合は、磁気冷凍動作部1の内部に冷却対象ガスを流すことができるが、流体抵抗が著しく高い場合は冷媒流路6を設けて冷却対象ガスを流す。磁気冷凍動作部1の全体形状は、円筒形が好ましいが、棒状、平板状又は管状でもよい。
【0045】
往復磁場励磁部は、磁気冷凍材料の磁化(M)-磁場(H)曲線における急傾斜領域を含んで作動する作動磁場を生成する往復磁場励磁部であって、この作動磁場における急傾斜領域の低位側接続領域側又は当該低位側接続領域に対応する低位側磁場と、当該作動磁場における急傾斜領域の高位側接続領域側又は高位側接続領域に対応する高位側磁場の間で印加磁場の往復励磁を行なう(
図1A参照)。作動磁場は、急傾斜領域急傾斜領域の全体を含むことが好ましいが、少なくとも一部を含んでいればよい。往復磁場励磁部は、固定磁場励磁部2と変動磁場励磁部3により構成される。
【0046】
固定磁場励磁部2は、固定磁場(H
0;H
0>0)により、磁気冷凍材料の急傾斜領域の低位側接続領域に対応する磁場を印加するもので、例えば永久磁石よりなる。固定磁場の磁場強度は、例えば、固定磁場励磁部2a、2b、2c、2d、2eおよび2fで0.2T、0.4T、0.6T、0.8T、1.0T、1.2Tに設定される。
変動磁場励磁部3は、一定幅の変動磁場(h;h>0)により、磁気冷凍材料の急傾斜領域の低位側接続領域から高位側接続領域迄の変動磁場振幅に対応する変動磁場を印加するもので、例えば常電導または超伝導磁石よりなる。変動磁場励磁部3が作用する際における変動磁場の磁場強度は、例えば0.4Tに設定される。
この実施例では、変動磁場励磁部3が磁気冷凍動作部1の外周側に管状に設けられ、固定磁場励磁部2が変動磁場励磁部3の外周側に管状に設けられる。固定磁場励磁部2と変動磁場励磁部3の配置順序は、
図7Aに示す順で同心円状に配置されるとよいが、逆の順番で配置されていてもよい。
【0047】
以下、第1端4が高温端として作用し、第2端が低温端5として作用する場合の一例を説明する。高温端4は、磁気冷凍動作部1の高温端となるもので、固定磁場励磁部2で発生する磁場に高低の傾斜が設けられている場合には、高磁場側に位置している。高温端4は、冷媒の流れによって冷却対象ガスと熱交換したり、或いは冷却対象ガスを冷媒ガスとして利用する構造としてもよい。
低温端5は、磁気冷凍動作部1の高温端となるもので、固定磁場励磁部2で発生する磁場に高低の傾斜が設けられている場合には、低磁場側に位置している。低温端5は、冷媒の流れによって冷却対象ガスと熱交換したり、或いは冷却対象ガスを冷媒ガスとして利用する構造としてもよい。
冷媒流路6は、磁気冷凍動作部1の長手方向に沿って設けられたもので、高温端4と低温端5との間で冷媒が移動可能であると共に、冷媒流路6に存在する冷媒は前記磁気冷凍材料との間で熱交換をするように構成されている。
【0048】
次に、磁気冷凍システムを構成する磁気冷凍モジュールについて、説明する。磁気冷凍モジュールは、固定磁場励磁部2としてリング形状の永久磁石が磁気冷凍動作部1を構成する単体ホルミウムの外側に同心状に配置されたものであり、固定磁場励磁部2の外側に0.4Tの変動磁場を発生するリング形状の常電導磁石が変動磁場励磁部3として配置されたものである。
図7Aに示す磁気冷凍システムは、6個の磁気冷凍モジュールで構成されている。隣接する磁気冷凍モジュールは、固定磁場の磁場強度が、それぞれ0.2Tから1.2Tまで0.2T間隔である。
【0049】
変動磁場励磁部3としては、固定磁場励磁部2の外側に0.4Tの変動磁場を発生する常電導磁石を配置した。常電導磁石は、各磁気冷凍モジュール毎に独立して設けてもよく、また各磁気冷凍モジュールと共通に設けてもよい。
磁気冷凍動作部1において動作物質としての単体ホルミウムには、冷却対象である水素またはヘリウムガスが通過熱交換できる冷媒流路6が設けてある。水素の場合、ホルミウムと反応するので間接的に熱交換できる流路構造とする必要がある。冷媒流路6は、各磁気冷凍モジュール毎に独立して設けてもよく、また各磁気冷凍モジュールと共通に設けてもよい。冷媒流路6を各磁気冷凍モジュール毎に独立して設ける場合には、各冷媒流路6を接続する接続管を設ける必要がある。
【0050】
図10は、磁気冷凍システムの動作ステップの一例の説明図で、(a)は励磁過程、(b)は抜熱過程、(c)は断熱減磁過程、(d)は冷却過程である。
最初に、
図10(a)に示す励磁過程で、変動磁場を0.4T上昇させ(ON状態にし)、磁気冷凍動作部1に含まれる動作物質としての単体ホルミウムの温度を上昇させる。
この次に、
図10(b)に示す動作物質の抜熱過程で、低温端5から高温端4に向かって約50Kの冷却対象ガスを通過させて、磁気冷凍動作部1を構成する単体ホルミウムの抜熱を行う。
次に、
図10(c)に示す断熱減磁過程で、変動磁場をゼロに減磁し(OFF状態にし)、単体ホルミウムの温度を降下させる。
さらに、
図10(d)に示したように、冷却対象ガスを高温端4から低温端5に向かって通過させて、冷却対象ガスを冷却させる。
【0051】
磁気冷凍システム100では、
図10に示す4つのステップを繰り返すことにより、例えば高温端4の温度約50K、低温端5の温度約20K(ヘリウムでは17K)の温度勾配を持つ磁気冷凍システムが実現された。
変動磁場励磁部3は、超伝導磁石でも可能であり、酸化物超伝導線材を用い、液体窒素温度(77K)で運転することによりエネルギー効率は改善される。
図7Aに示す装置では、固定磁場発生に永久磁石を用い、変動磁場発生には、常電導(または超伝導)磁石を用いて、高温端が50K、低温端が20K、温度勾配が30Kの磁気冷凍システムが実現された。
【0052】
<変形例A>
図11は、本発明の実施例1,2を基にした変形例Aの磁気冷凍システム105を示す概略図である。磁気冷凍システム105は、ただ一つの固定磁場励磁部7を有する点が磁気冷凍システム100と異なる。固定磁場励磁部7は、第1方向に沿って固定磁場の磁場強度が連続的または階段状に変化する。固定磁場励磁部7の磁場が階段状に変化する場合、
図11に示されるように磁気冷凍モジュール10a~10fに区分される。固定磁場の両端における磁場強度が異なるため、
図11に示す構成の全体としては、磁気冷凍システムである。固定磁場励磁部7の磁場が連続的に変化する場合であっても、長手方向における断面での固定磁場の磁場強度は所定の値であり、磁気冷凍システム105は、少なくとも1つの磁気冷凍モジュールを有する。以下、磁気冷凍システム105の具体的な動作の一例について説明する。
磁気冷凍システム105は、固定磁場励磁部7としてとして0.2~2.5Tまで傾斜磁場を持った超伝導磁石を、磁気冷凍動作部1を構成する単体ホルミウムの外側に配置した。変動磁場励磁部3として、固定磁場励磁部2の外側に0.4Tの変動磁場を発生する超伝導または常電導磁石を配置した。単体ホルミウムには、冷却対象である水素またはヘリウムガスが通過熱交換(直接的または間接的)できる冷媒流路6が設けてある。
【0053】
図11に示す磁気冷凍システムでも、
図10に示す4つのステップに相当する過程を繰り返す。説明の便宜上、
図10には、矢印で冷媒流の流れる向きを示している。
最初に、
図10(a)に示す励磁過程に相当する過程で、変動磁場を0.4T上昇させ、磁気冷凍動作部1に含まれる動作物質としての単体ホルミウムの温度を上昇させる。
この次に、
図10(b)に示す動作物質の抜熱過程に相当する過程で、低温端5から高温端4に向かって液体窒素で77Kに予備冷却された水素、または液化天然ガスで120Kに予備冷却されたヘリウムを冷却対象ガスとして通過させて、磁気冷凍動作部1を構成する単体ホルミウムの抜熱をする。
次に、
図10(c)に示す断熱減磁過程に相当する過程で、変動磁場をゼロに減磁し、単体ホルミウムの温度を降下させる。
さらに、
図10(d)に示す冷却過程に相当する過程で、冷却対象ガスを高温端4から低温端5に向かって通過させて、冷却対象ガスを冷却させる。
【0054】
図11に示す磁気冷凍システムでは、
図10に示す4つのステップに相当する過程を繰り返すことにより、液体窒素で77Kに予備冷却された水素を用いる場合、高温端4の温度約77K、低温端5の温度約20Kの温度勾配を持つ磁気冷凍システムが実現された。液化天然ガスで120Kに予備冷却されたヘリウムを用いる場合、高温端4の温度120K、低温端5の温度訳17Kの温度勾配を持つ磁気冷凍システムが実現された。
上記の例では、固定磁場発生に傾斜磁場超伝導磁石を用い、変動磁場発生には常電導(または超伝導)磁石を用いて、高温端が77K(または120K)、低温端が20K(ヘリウムでは17K)、温度勾配が57K(100K)の磁気冷凍システムが実現された。
【0055】
<変形例B>
単体ホロミウムと同様に、温度によって磁化(M)-磁場(H)特性が異なり、かつ磁化(M)がある磁場(H)から急激に変化する現象は、Gd
5(Ge
1-xSi
x)
4;x=0~1、Co(S
xSe
1-x)
2;x=0.8~1.0、(Sm
1-xGd
x)
0.55Sr
0.45MnO
3;x=0~1、Eu
0.55Sr
0.45MnO
3、希土類単体Tb,Dy,Er、およびそれらを組み合わせた合金でも起こる。
例として、
図12にGd
5Ge
4の磁化(M)-磁場(H)曲線(16Kから100Kまで3K刻み)、
図13にCo(S
xSe
1-x)
2の磁化(M)-磁場(H)曲線、および
図14に(Gd
0.5Sm
0.5)
0.55Sr
0.45MnO
3の磁化(M)-磁場(H)曲線を示した。
図14では、実線は外部磁場を加える際の変化、点線は外部磁場減少させる際の変化を示す。
【0056】
図13は、変形例BのCo(S
xSe
1-x)
2の磁化(M)-磁場(H)特性を示す図である。固定磁場と変動磁場の値が、単体ホルミウムと異なる値であるが、本発明と同様の効果が得られる。(引用文献;Hirofumi Wada and Yoshiro Maekawa, IEEE Trans. Magn. Vol. 50(2014))。
Gd
5Ge
4、Co(S
xSe
1-x)
2、(Gd
0.5Sm
0.5)
0.55Sr
0.45MnO
3でも単体ホルミウムと同様に、温度によってM-H特性は異なり、かつM-H特性は、ある磁場から急激に変化する。従って、単体ホルミウムと同様の磁気冷凍効果が期待できる。
【0057】
但し、磁気冷凍材料ごとに急傾斜領域に対応する磁場強度が異なるため、固定磁場はそれぞれの物質によって最適磁場は異なる。例えばCo(SxSe1-x)2の場合、温度により異なるが、急傾斜領域は磁場強度が2~7Tの領域に位置し、その幅は概ね1T以下である。そのため、固定磁場として2→7Tまでの連続傾斜磁場超伝導磁石、変動磁場として変動幅1Tの超伝導磁石が必要となる。トータルの固定磁場と変動磁場を合わせた磁場変化は2Tから8Tとなる。その他の構成は、磁気冷凍システム100と同様である。変形例Bでは、例えば高温端60K、低温端20K(ヘリウムでは10K)の磁気冷凍システムが実現できる。
【0058】
<比較例>
表2に、水素の液化用に適した低温用の代表的な磁気冷凍材料を挙げる。表2では、温度TMにおいて、固定磁場としての磁場を磁気冷凍材料に与えず、所定の変動磁場(磁場)のみを与えたときのエントロピー変化およびエントロピー変化効率を示す。表2において、エントロピー変化効率の列における「@」以降の数値は変動磁場として与えた磁場強度を示す。例えば、サンプルAにおいては、変動磁場として5T加えると、14.9(J・kg-1・K-1)だけ変化することを示す。エントロピー変化効率は、変動磁場として1T加えたときのエントロピー変化である。
【0059】
【0060】
サンプルA、サンプルBおよびサンプルDの温度、エントロピー変化およびエントロピー変化効率は、特開2017-39993号公報に基づく。サンプルC、サンプルE、サンプルFおよびサンプルGの温度、エントロピー変化およびエントロピー変化効率は、それぞれ国際公開第2018/129476号、J. J.Appl. PhysAppl. Phys. 105, 07A934(2019)および中国特許出願公開第1017012408号明細書に基づく。
【0061】
気体冷凍の効率が落ちる40-50K程度の温度域から液体水素の沸点20Kまでの2倍以上の温度範囲での冷凍能力が必要となるため、複数種類の物質の並列利用も検討されている。
【0062】
以上、詳細に本発明を説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者に自明な範囲で適宜に実施できるものである。例えば、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、数や数値や量や比率や特性などについて、省略や追加や変更をすることが可能である。また、複数の実施形態や変形例に記載された構成を適宜組み合わせて実施してもよい。
また例えば、上記の実施例では、磁気冷凍動作部や固定磁場励磁部・変動磁場励磁部には、相互の位置関係を変動させる機構を設けていないが、本発明の磁気冷凍モジュール及びこれを用いた磁気冷凍システムにおいては、磁気冷凍材料物質に発熱または吸熱を生じさせる物質または変動磁場励磁部を往復または回転移動させる機構を設けてもよい。
【0063】
上記の実施例では、磁気冷凍動作部の全体形状が円筒形の場合を示しているが、棒状又は平板状としてもよい。この場合には、固定磁場励磁部と変動磁場励磁部は、磁気冷凍動作部を上下で挟むサンドイッチ形状とするのがよい。
固定磁場励磁部は、磁気冷凍動作部の厚み方向又は幅方向の少なくとも一方に、磁気冷凍動作部を挟む状態で設けられた上部固定磁場励磁部及び下部固定磁場励磁部よりなり、例えば平板状の永久磁石を用いる。変動磁場励磁部は、上部固定磁場励磁部及び下部固定磁場励磁部によって発生した固定磁場に加えて、変動磁場を発生させる平板状の電磁石で、例えば常電導または超伝導磁石よりなるとよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の磁気冷凍モジュールによれば、M-H特性が大きく変化する範囲でのみ磁場を変化させることによって、単一組成の物質を用いた場合であっても高効率な磁気冷凍システムを構築できる。
また、本発明の磁気冷凍システムによれば、ベース磁場に変動磁場を重畳させた磁場印加構造とすることにより、磁気冷凍効果の最も大きい磁場範囲だけの印加を可能とし、効率向上させることができる。
【符号の説明】
【0065】
1:磁気冷凍動作部
2:固定磁場励磁部
3:変動磁場励磁部
4:第1端(高温端)
5:第2端(低温端)
6:冷媒流路
7:固定磁場励磁部
10:磁気冷凍モジュール
100,101,102,103,104,105:磁気冷凍システム