(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】重包装袋用フィルムおよび重包装袋
(51)【国際特許分類】
B65D 30/02 20060101AFI20221117BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221117BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20221117BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B65D30/02
C08J5/18 CES
C08L23/08
C08L23/06
(21)【出願番号】P 2018088709
(22)【出願日】2018-05-02
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】591012392
【氏名又は名称】日本マタイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154335
【氏名又は名称】小松 秀彦
(74)【代理人】
【識別番号】100198605
【氏名又は名称】岡地 優司
(72)【発明者】
【氏名】菅野 保人
(72)【発明者】
【氏名】岩本 益貴
(72)【発明者】
【氏名】堀田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】石渡 応元
(72)【発明者】
【氏名】樋口 空生
(72)【発明者】
【氏名】原 浩司
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04447480(US,A)
【文献】特開平01-160639(JP,A)
【文献】特開平08-269256(JP,A)
【文献】特開昭61-213236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 30/02
C08J 5/18
C08L 23/06-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を80重量%以上含むとともに、0.942g/cm
3以上の高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)を含む重包装
袋用フィルムであって、
EVAにおける酢酸ビニルの含有率が
4%以上6%以下であり、HDPEを5重量%以上15重量%未満の範囲で含
み、
HDPEのメルトフローレート(MFR)(g/10分,190℃)が1.0以上、かつフィルムの厚さが50μm以上200μm以下であることを特徴とする重包装袋用フィルム。
【請求項2】
厚さ150μm以上である請求項
1に記載の重包装袋用フィルム。
【請求項3】
単層からなる請求項1
または2に記載の重包装袋用フィルム。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかに記載の重包装袋用フィルムよりなることを特徴とする重包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を含む重包装袋用フィルムおよびこれを用いた重包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
主に肥料や化成品と言った5~30kg程度の内容物を包装する重包装袋としては、内容物の重さによって破袋しないことが要請されるため、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)のように落袋強度が高い樹脂を主成分としたものが流通している(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0003】
一方、本出願人は、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)を主成分として用いることで易開封性を付与した包装資材を提案している(たとえば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-21112号公報
【文献】特開2008-230706号公報
【文献】特開2017-202641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、LLDPEを主成分とした重包装袋では落袋強度は高いものの、易開封性が無く、素手で開けようとしても強い力を要し、仮に開けられたとしても、直進方向にスムーズに開けられず、斜め方向に切れてしまうことで、内容物が開封時に飛び出してしまうおそれ等があった。
【0006】
一方、LDPEを主成分とした包装資材では、落袋強度が弱く、易開封性は得られても、重包装袋として用いた場合、破袋し易くなるおそれがあった。
【0007】
つまり、落袋強度と易開封性には相反性があり、両立させることが困難であった。
【0008】
ここで、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を主成分とした重包装袋で市場に流通しているものはあるが、易開封性については考慮されていない。
【0009】
また、内容物の充填適性を向上させるには、良好なコシ感を得られることが好ましい。
【0010】
本発明は、落袋強度と易開封性を両立させた重包装袋用フィルムおよびこれを用いた重包装袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、所望量の酢酸ビニルを含有するエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を主成分として含む重包装袋用フィルムを用いることにより、落袋強度と易開封性を両立させられることを見出し、本発明に至った。したがって、本発明の課題を解決する手段は、以下の通りである。
【0012】
<1> 酢酸ビニルの含有率が1.5%より多いエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を80重量%以上含むことを特徴とする重包装袋用フィルムである。
【0013】
<2> EVAにおける酢酸ビニルの含有率が10%未満である<1>に記載の重包装袋用フィルムである。
【0014】
<3> EVAにおける酢酸ビニルの含有率が3%~9%である<2>に記載の重包装袋用フィルムである。
【0015】
<4> 0.942g/cm3以上の高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)を5重量%以上15重量%未満の範囲で含む<1>から<3>のいずれかに記載の重包装袋用フィルムである。
【0016】
<5> EVAにおける酢酸ビニルの含有率が10%以上であり、HDPEを10重量%~20重量%含む<1>に記載の重包装用フィルムである。
【0017】
<6> HDPEのメルトフローレート(MFR)(g/10分,190℃)が0.10以上である<4>または<5>に記載の重包装袋用フィルムである。
【0018】
<7> 厚さ50μm~200μmである<1>から<6>のいずれかに記載の重包装袋用フィルムである。
【0019】
<8> 厚さ150μm以上である<7>に記載の重包装袋用フィルムである。
【0020】
<9> 単層からなる<1>から<8>のいずれかに記載の重包装袋用フィルムである。
【0021】
<10> <1>から<9>のいずれかに記載の重包装袋用フィルムよりなることを特徴とする重包装袋である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の重包装袋用フィルムは、酢酸ビニルの含有率が1.5%より多いエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を80重量%以上含むので、落袋強度と易開封性を両立させることが可能となる。
【0023】
本発明の重包装袋は、本発明の重包装袋用フィルムよりなるので、落袋強度と易開封性を両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、比較例5の落袋試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の重包装袋用フィルムは、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を主成分とする。
【0026】
EVAは、フィルム全体において、80重量%以上含むことが必要であり、85重量%より多く含むことが好ましく、90重量%以上含むことがより好ましい。80重量%未満であると、EVAを主成分としたことによる本発明の所望の効果が得られにくくなる。たとえば、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)を多く含むことでフィルムの引裂力が強くなりすぎて易開封性が得られにくくなったり、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)を多く含むことで落体強度が得られにくくなることがある。
【0027】
このEVAにおける酢酸ビニルの含有率は、1.5%より多く、通常20%以下であり、10%未満が好ましく、3%~9%がより好ましく、4%~6%が特に好ましい。酢酸ビニルの含有率が1.5%以下であると所望の落袋強度が得られず、20%以上含有しても有意な効果は無い。また、酢酸ビニルの含有率を10%未満とすると、引張弾性率が高く、重包装袋として好適なコシ感が得られ、袋とした場合に良好な充填適性とすることができる。
【0028】
EVAのメルトフローレート(MFR)(g/10分,190℃)は、インフレーション成形ができれば特に制限は無いが、通常0.3~3.0の範囲である。
【0029】
本発明の重包装袋用フィルムは、微量な添加剤を除いては、EVA単独で成形してもよいが、重包装袋としてより良好なコシ感を得て充填適性を向上させるには、0.942g/cm3以上のHDPEを含むことが好ましい。
【0030】
HDPEは、フィルム全体において、通常5重量%以上15重量%未満の範囲で含み、5重量%~10重量%であることが好ましい。15重量%以上含むと落袋強度が低下し易くなるとともに易開封性が得られにくくなる一方、5重量%未満しか含まないとHDPEによる効果が得られにくいことがある。
【0031】
ただし、EVAにおける酢酸ビニルの含有率が10%以上である場合には、落袋強度の低下が抑えられ、HDPEを10重量%~20重量%、好ましくは15重量%~20重量%と高めに配合することで、コシ感の向上を図ることができる。
【0032】
HDPEのMFR(g/10分,190℃)は、良好な外観のフィルムを得るためには、0.10以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。なお、MFRの上限は、インフレーション成形をすることを考慮すれば、通常3.0程度である。MFRが0.10未満であると、フィルムに、ゲルやブツと称される残存樹脂の小さな塊等が残り、外観が悪くなることがある。
【0033】
ここで、EVAにおける酢酸ビニルの含有率は、たとえばJIS K7192に基づき分析することができる。また、フィルムにおけるEVAやHDPEの量は、たとえば、熱分解装置により熱処理を行った後、両者の比率をガスクロマトグラフ質量分析装置により定量分析を行うことで分析することができる。
【0034】
また、フィルムにおける各評価は、易開封性はJIS K7128-1に準拠して測定した引裂力(N)により、落袋強度はJIS K7124-1に準拠して測定した衝撃破壊質量(g)により、コシ感はJIS K7161-1に準拠して測定した引張弾性率(MPa)により、それぞれすることができる。
【0035】
このフィルムによる重包装袋が易開封性と落袋強度の両立を図るためには、引裂力は、袋の開封方向に相当するTD方向にて、12.0N未満であることが必要であり、10.5N以下であることが好ましく、8.0N以下であることがより好ましい。また、衝撃破壊質量は、成形した際に相対的に弱くなる傾向がある折目(耳部)において、通常100g以上であり、150g以上であることが好ましい。
【0036】
さらに、良好なコシ感を得るには、引張弾性率が100MPa以上であることが好ましく、150MPa以上であることがより好ましい。
【0037】
本発明の重包装袋用フィルムは、単層であっても複数の層を公知の方法により積層したものであってもよいが、単層であることが好ましい。複数の層からなると、EVAを含む層による優れた落袋強度と易開封性が、EVAを含まない他の層により弱められることがあるとともに、積層により製造コストが嵩むことがある。
【0038】
本発明の重包装袋用フィルムは、通常インフレーション成形にて、ブロー比、MD方向/TD方向の配向比、フィルムの引取速度、樹脂温度等の諸条件を、成形機の性能を考慮しながら、適宜調整して作製する。
【0039】
これにより得られる本発明の重包装袋用フィルムの厚さは、通常50μm~200μmであり、良好なコシ感を得るためには150μm~200μmであることが好ましい。50μm未満では薄すぎて落袋強度が低くなるおそれがある一方、200μmを超えると易開封性が得られにくくなることがある。なお、厚さは、JIS Z1702に基づき、市販のダイヤルゲージを用いて測定することができる。
【0040】
ここで、EVAにおける酢酸ビニルの含有率が10%以上である場合には、ブロー比1.0~1.5で成形し、厚さ150μm~200μmとすることが好ましい。ブロー比を低く抑えるとともに、厚さを150μm以上と厚めにすることで、厚さ100μm当たりの引張弾性率が高くなり、コシ感の向上が図れる。
【0041】
一方、EVAにおける酢酸ビニルの含有率が3%未満である場合には、ブロー比1.5~2.0で成形し、厚さ50μm~100μmとすることが好ましい。ブロー比を高めとし、厚さを100μm以下と薄めにすることで、引裂力が低下し、易開封性の向上させやすくなる。ブロー比は、さらなる易開封性と落袋強度の向上を図るためには、2.0に近いことがより好ましい。
【0042】
また、本発明の重包装袋は、本発明の重包装袋用フィルムと同様にインフレーション成形にて作製したチューブフィルムを所望の長さで切り、袋状に加工して作製する。
その際には、たとえば、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、着色剤等の使用され得る公知の成分を、目的に応じて適宜添加してもよい。
【0043】
本発明の重包装袋用フィルムは、上述したように、落袋強度と易開封性の両立を図れることから、本発明の重包装袋に好適に用いられるが、これに限らず、その性質が要求される様々な用途にて適用可能であり、易開封性が要求される包装資材の用途において広く用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0045】
[重包装袋用フィルムの物性評価 その1]
下記のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)を準備した。これらを、下記各例の配合となるように適宜用いて、インフレーション成形機(プラコー社製:ダイ径120mmφ、スクリュー径50mmφ)にて、厚さ100μm、折径200μm、ブロー比1.0となるように、各例の重包装袋用のチューブフィルムを、それぞれ作製した。
【0046】
・EVA
(ア)日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLV1511、MFR(g/10分,190℃)3.0、酢酸ビニル含有率1.5%
(イ)日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLV115、MFR(g/10分,190℃)0.3、酢酸ビニル含有率4.0%
(ウ)日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLV211A、MFR(g/10分,190℃)0.3、酢酸ビニル含有率6.0%
(エ)日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLV342、MFR(g/10分,190℃)2.0、酢酸ビニル含有率10%
(オ)日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLV430、MFR(g/10分,190℃)1.0、酢酸ビニル含有率15%
(カ)宇部丸善ポリエチレン(株)製:UBEポリエチレンVF120T、MFR(g/10分,190℃)1.0、酢酸ビニル含有率20%
【0047】
・HDPE
(a)(株)プライムポリマー製:ハイゼックス7000F、MFR(g/10分,190℃)0.04、密度0.952g/cm3
(b)(株)プライムポリマー製:ハイゼックス3600F、MFR(g/10分,190℃)1、密度0.958g/cm3
(c)(株)プライムポリマー製:ハイゼックス2208J、MFR(g/10分,190℃)5.2、密度0.964g/cm3
(d)(株)プライムポリマー製:ハイゼックス2110JH、MFR(g/10分,190℃)10.0、密度0.952g/cm3
【0048】
・LDPE
宇部丸善ポリエチレン(株)製:UBEポリエチレンR-300、MFR(g/10分,190℃)0.35、密度0.920g/cm3
【0049】
・LLPDE
ExxonMobilCorporation製:Enable2005MC、MFR(g/10分,190℃)0.50、密度0.920g/cm3
【0050】
(各例の配合)
実施例1 EVA(イ)100重量%
実施例2 EVA(ウ)100重量%
実施例3 EVA(イ)95重量%、HDPE(b)5重量%
実施例4 EVA(イ)90重量%、HDPE(b)10重量%
実施例5 EVA(イ)95重量%、HDPE(c)5重量%
実施例6 EVA(イ)90重量%、HDPE(c)10重量%
実施例7 EVA(イ)95重量%、HDPE(d)5重量%
実施例8 EVA(イ)90重量%、HDPE(d)10重量%
実施例9 EVA(エ)100重量%
実施例10 EVA(オ)100重量%
実施例11 EVA(カ)100重量%
実施例12 EVA(イ)95重量%、HDPE(a)5重量%
実施例13 EVA(イ)90重量%、HDPE(a)10重量%
実施例14 EVA(イ)85重量%、HDPE(d)15重量%
参考例1 EVA(イ)85重量%、HDPE(c)15重量%
比較例1 EVA(ア)100重量%
比較例2 LDPE 100重量%
比較例3 LLDPE 100重量%
【0051】
-評価-
作製された各例のチューブフィルムについて、下記のような方法により、易開封性の指標としての引裂力、コシ感の指標としての引張弾性率、落袋強度の指標としての衝撃破壊質量、および外観の評価を行った。結果を、実施例1~10については表1に、実施例11~13および比較例については表2に、それぞれ示す。
【0052】
・引裂力
JIS K7128-1に準拠して、万能試験機(島津製作所製:オートグラフAG-X500N)を用い、速度200mm/分で試験片を、袋の開封方向に相当するTD方向に引っ張り、その際の変位が20mm~120mmの間の平均試験力を引裂力(N)とした。
【0053】
・引張弾性率
JIS K7161-1に準拠して、上述の万能試験機を用い、速度5mm/分で試験片を、幅方向となるMD方向に引っ張り、試験片のひずみが0.05%から0.25%へ変化する際の試験力の傾きから引張弾性率(MPa)を算出した。
【0054】
・衝撃破壊質量
JIS K7124-1に準拠して、自由落下ダート衝撃試験装置(東洋精機製作所製)を用い、66cmの高さから任意の錘を垂直に落下させ、試験片の平面部と折目(耳部)にそれぞれ衝突させた。この衝突時に、試験片が破壊した場合は錘の重量を30g減らし、再び錘を落下させた。一方、試験片が破壊しなかった場合は錘の重量を30g増やし、再び錘を落下させた。破壊した総数が10回、破壊しなかった総数が10回、計20回となるまで試験を行い、所定の計算式から衝撃破壊質量(g)を算出した。
なお、実施例11では、自由落下ダート衝撃試験装置の測定限界である1,472gを超えた。
【0055】
・外観
フィルムの折目の外観を目視で観察し、ゲルやブツと称される残存樹脂等の塊が少ない試料を〇、やや多い試料を△とした。
【0056】
【0057】
【0058】
表1および表2の結果によれば、酢酸ビニル含有率が1.5%より多いEVAを85重量%より多く含む本発明の実施例1~13のチューブフィルムでは、引裂力が10.5N以下であるとともに、衝撃破壊質量の値が相対的に低い折目部分でも150gを超えており、易開封性と落袋強度の両立が図れていた。特に、酢酸ビニル含有率が10%未満である実施例1および2のチューブフィルムでは、引張弾性率も高く良好なコシ感を有していた。
【0059】
また、HDPEを5重量%以上15重量%未満の範囲で含む実施例3~6、12および13のチューブフィルムでは、引張弾性率が向上してより良好なコシ感が得られた。特に、MFR(g/10分,190℃)が0.10以上のHDPEを含む実施例3~6のチューブフィルムでは、HDPEを加えても外観に影響を与えることがなく、より好適に使用可能であることがわかった。
【0060】
ここで、HDPEを15重量%含む実施例14のチューブフィルムでは、コシ感や落袋強度が良好であり、易開封性についても引裂力が12.0N未満に収まっており許容範囲であった。しかしながら、同じくHDPEを15重量%含む参考例1のチューブフィルムでは、衝撃破壊質量が低下する傾向が見られた。
【0061】
一方、酢酸ビニルの含有率が1.5%以下である比較例1のチューブフィルムでは、易開封性は得られても衝撃破壊質量の値が折目部分で100gを下回って破袋の危険性があり、所望の落袋強度が得られなかった。
【0062】
さらに、LDPEを用いた比較例2のチューブフィルムでは、衝撃破壊質量の値が折目部分で100gを下回って落袋強度が低く、破袋の危険性がある一方、LLDPEを用いた比較例3のチューブフィルムでは、引裂力が12.0Nもあり、開封に大きな力が必要となり易開封性がなかった。
【0063】
以上より、重包装袋用フィルムにおいて易開封性と落袋強度の両立を図るためには、酢酸ビニル含有率が1.5%より多いEVAを85重量%より多く含むことが好ましく、良好な充填適性のあるコシ感を得るにはEVAの酢酸ビニル含有率は10%未満がより好ましいことがわかった。
【0064】
また、EVAの酢酸ビニル含有率が10%未満の範囲にある限りにおいては、コシ感の向上を図りつつ落袋強度に影響を与えないためには、HDPEを5重量%以上15重量%未満の範囲で含むことが好ましく、外観に影響を与えないためには、MFR(g/10分,190℃)が0.10以上のHDPEを含むのがより好ましいことがわかった。
【0065】
[重包装袋用フィルムの物性評価 その2]
本発明の効果のさらなる検証のため、下記のEVAをさらに準備し、下記各例のようにEVAの種類、HDPEの配合量またはフィルムの厚さを、それぞれ変えた以外は、上述のその1と同様の成形機にて同様の折径およびブロー比のチューブフィルムを作製し、同様の評価を行った。結果を表3に示す。なお、厚さを変えた例(実施例22)以外は、いずれも厚さ100μmである。また、実施例18では、自由落下ダート衝撃試験装置の測定限界である1,472gを超えた。
【0066】
・EVA
(キ)東ソー(株)製:ウルトラセン515、MFR(g/10分,190℃)2.5、密度0.925g/cm3、酢酸ビニル含有率6.0%
(ク)東ソー(株)製:ウルトラセン540、MFR(g/10分,190℃)3.0、密度0.929g/cm3、酢酸ビニル含有率10%
(ケ)東ソー(株)製:ウルトラセン630、MFR(g/10分,190℃)1.5、密度0.936g/cm3、酢酸ビニル含有率15%
(コ)東ソー(株)製:ウルトラセン631、MFR(g/10分,190℃)1.5、密度0.941g/cm3、酢酸ビニル含有率20%
【0067】
(各例の配合)
実施例15 EVA(キ)100重量%
実施例16 EVA(ク)100重量%
実施例17 EVA(ケ)100重量%
実施例18 EVA(コ)100重量%
実施例19 EVA(エ)80重量%、HDPE(d)20重量%
実施例20 EVA(ク)80重量%、HDPE(c)20重量%
実施例21 EVA(ク)80重量%、HDPE(d)20重量%
実施例22 EVA(イ)100重量%、厚さ150μm
比較例4 EVA(ク)50重量%、HDPE(d)50重量%
【0068】
【0069】
表3の結果によれば、酢酸ビニル含有率が1.5%より多いEVAのみからなる実施例15~18のチューブフィルムでは、引裂力が10.5N以下であるとともに、衝撃破壊質量の値が相対的に低い折目部分でも250gを超えており、易開封性と落袋強度の両立が図れていた。特に、酢酸ビニル含有率が10%未満である実施例15のチューブフィルムでは、引張弾性率も高く良好なコシ感を有していた。このことから、酢酸ビニル含有率が所定の範囲内にあれば、樹脂を変更しても同様の効果を奏することが明らかになった。
【0070】
また、酢酸ビニル含有率が10%以上のEVAのみからなる実施例16~18と、EVAの酢酸ビニル含有率は10%であるけれどもHDPEを20重量%含む実施例19~21とを比較すると、後者では前者に対し引張弾性率の値が最大で5倍以上、最小でも2倍以上に高くなっており、コシ感が飛躍的に向上した。その際に、引裂力はいずれも11.0N未満であるとともに、最も弱い実施例21の折目部分の衝撃破壊質量の値でも150g程度であり、易開封性と落袋強度の両立も保てていた。このことから、酢酸ビニル含有率が10%以上のEVAにおいても、同含有率が10%未満のEVAを用いる場合よりHDPEを多めに配合することで、易開封性と落袋強度の両立を図りつつ、コシ感の向上を図れることがわかった。
【0071】
さらに、上述した実施例1と厚さのみが異なる実施例22では、実施例1に比して、衝撃破壊質量の値が2倍以上、引張弾性率の値が1.8倍程度に、それぞれ高くなっており、落袋強度およびコシ感が飛躍的に向上した。このことから、フィルムの厚さを150μm以上とすると、優れた落袋強度とコシ感が得られることがわかった。
【0072】
一方、酢酸ビニル含有率が10%のEVAを用いつつHDPEを50重量%含む比較例4では、コシ感は向上するけれども、落袋強度が低下するとともに、引裂力が著しく高く易開封性が失われた。
【0073】
以上より、重包装袋用フィルムにおいて、酢酸ビニル含有率が10%以上のEVAを用いた場合であっても、易開封性と落袋強度の両立を図るためには、HDPEの配合量は20重量%程度が限界であり、酢酸ビニル含有率が1.5%より多いEVAを80重量%以上含む必要があることがわかった。
【0074】
なお、この検証においては、組成の相違に関わらず外観はいずれも良好であった。
【0075】
[重包装袋の物性評価]
(実施例23)
上述した(イ)の組成のEVA96.3重量%、下記(1)のホワイトマスターバッチ1.2重量%、下記(3)の帯電防止剤2.5重量%を混合した混合樹脂を調製した。これを用いてインフレーション成形機(プラコー社製:ダイ径200mmφ、スクリュー径50mmφ)にて、厚さ150μm、折径500μm、ブロー比1.6となるようにチューブフィルムを作製した。このチューブフィルムを750mmの長さに切り、底面をヒートシール加工で封をして本発明の重包装袋を作製した。
得られた重包装袋について、上述したのと同様な方法により、TD方向の引裂力、MD方向の引張弾性率、衝撃破壊質量を測定するとともに、下記に示す方法により落袋試験を行った。落袋試験の結果以外を表4に示す。
なお、本例では、落袋試験の結果、破袋はしなかった。
【0076】
・ホワイトマスターバッチおよび帯電防止剤
(1)住化カラー(株)製:7A1155
(2)(株)プライムポリマー製:TH-5
(3)宇部丸善ポリエチレン(株)製:MUD
【0077】
・落袋試験
化成肥料20kgを得られた袋に充填し、天面のフィルムを折込み、テープで封をした袋を1.2mの高さから底面を下にして垂直方向に最大5回落下させた。袋が破袋した場合は、破袋が起きた落下回数と破袋箇所を記録した。
【0078】
(比較例5)
上述のLDPE樹脂97.0重量%、上記(1)のホワイトマスターバッチ1.0重量%、上記(2)の帯電防止剤2.0重量%を混合した混合樹脂を調製した。これを用いて実施例14と同様のインフレーション成形機にて、厚さ150μm、折径460μm、ブロー比1.5となるように、本発明の重包装袋としてのチューブフィルムを作製した。
得られた重包装袋について、実施例1と同様に、TD方向の引裂力、MD方向の引張弾性率、衝撃破壊質量の測定および落袋試験を行った。落袋試験の結果以外を表4に、落袋試験の結果を
図1に、それぞれ示す。
なお、本例では、落袋試験において、2回目の落下時に破袋した。
【0079】
【0080】
表4の結果によれば、本発明の重包装袋である実施例23のチューブフィルムでは、比較例5のそれに対し、引裂力が弱く易開封性に優れ、衝撃破壊質量の値が高く落袋強度にも優れていた。また、引張弾性率も150MPaを超えており、重包装袋として相応しいコシ感、つまり充填適性を有していた。
【0081】
また、
図1に示すように、落袋試験において、比較例5のチューブフィルムでは、2回目の落下にて折目部分に破袋があったのに対し、実施例23のチューブフィルムでは、破袋が起こらず、実際の使用においても十分な高い落袋強度を有していた。
【0082】
以上より、本発明のフィルムを用いた重包装袋は、易開封性と落袋強度の両立が図れ、かつ良好な充填適性を有することがわかった。
【0083】
[重包装袋用フィルムの物性評価 その3]
本発明の効果のさらなる検証のため、下記のEVAをさらに準備し、下記各例のようにEVAの種類、ブロー比または厚さを、それぞれ変えた以外は、上述のその1と同様の成形機にてチューブフィルムを作製し、同様の評価を行った。結果を表5に示す。なお、折径は、ブロー比を変えるのに伴い変更した。また、厚さ150μmの例では、引張弾性率は、実測値に2/3を掛けることで、厚さ100μm当たりに換算した値も算出した。
【0084】
・EVA
(サ)東ソー(株)製:ペトロセン10K06A、MFR(g/10分,190℃)1.5、密度0.926g/cm3、酢酸ビニル含有率2%
【0085】
【0086】
表5の結果によれば、本発明の実施例24~31のチューブフィルムでは、引裂力が10.0以下であるとともに、衝撃破壊質量の値が相対的に低い折目部分でも100gを超えており、易開封性と落袋強度の両立が図れていた。
【0087】
ここで、酢酸ビニルの含有率が10%と高めのEVAのみからなる実施例24および26~30のうち、ブロー比1.0、厚さ150μmと、ブロー比が最も低く、かつ厚さが最も厚い実施例24では、厚さ100μm換算における引張弾性率が100MPaに達し、良好なコシ感が得られた。このことから、酢酸ビニルの含有率が10%以上と高めのEVAでは、ブロー比1.0で成形し、厚さ150μmとすることで、コシ感の向上が図れることがわかった。
【0088】
一方、酢酸ビニルの含有率が2%と低めのEVAのみからなる実施例25および31ならびに参考例2のうち、厚さを100μmと相対的に薄くした実施例25および31のチューブフィルムでは、引裂力が10.0N以下であり優れた易開封性を有していた。この厚さ100μmの例においても、ブロー比が2.0と相対的に高い実施例25では、引裂力が低下し、かつ衝撃破壊質量の値が上昇していた。このことから、酢酸ビニル含有率が2%と低めのEVAでは、ブロー比1.5以上で成形し、厚さ100μm以下とすることで、易開封性を向上させやすいので好ましく、さらにブロー比を2.0に近づけることで、易開封性と落袋強度のさらなる向上が図れてより好ましいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、重包装袋等の易開封性が要求される包装資材の用途において適用可能である。