(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
C12N1/20 C
(21)【出願番号】P 2018148676
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-02-10
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-1366
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11500
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 真澄
(72)【発明者】
【氏名】寺井 智彦
(72)【発明者】
【氏名】奥村 剛一
(72)【発明者】
【氏名】久代 明
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 幸司
(72)【発明者】
【氏名】辻 浩和
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/095897(WO,A1)
【文献】特開2003-219862(JP,A)
【文献】特開昭60-172280(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073752(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌菌体を分散媒に分散し、当該分散媒のpHを9.0~10.0に調整した後、凍結乾燥する乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法であって、
分散媒が、脱脂粉乳、トレハロース、アスコルビン酸および馬鈴薯デンプンを含有するものであり、
乳酸菌が、ラクトバチルス属乳酸菌であることを特徴とする乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項2】
乳酸菌が、ラクトバチルス・クリスパータスおよび/またはラクトバチルス・カゼイである請求項
1記載の乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存後も高い生菌数を維持することのできる乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌として知られている乳酸菌は、従来からヨーグルトやチーズ等の乳製品の製造に広く利用されている。近年では、乳酸菌の種々の機能を利用するため生菌体を利用した乳製品のみならず、乾燥させた生菌体を用いた種々の形態の食品、飲料等の開発も進んでいる。
【0003】
しかし、乾燥菌体を得る工程では、菌体が損傷し、死滅することが多く、必要量の生菌体を得ることは難しかった。
【0004】
そこで、乾燥菌体を得る工程における、菌体の損傷や死滅を減らすために、菌体を乾燥させる際に使用する分散媒に工夫をする技術が知られている。そのような技術としては、例えば、グルタミン酸ナトリウム(特許文献1)やトレハロース(非特許文献1)を分散媒に添加したり、または、これらを組み合わせたりして使用すること(特許文献2)が知られている。また、本出願人も分散媒として、保護剤、抗酸化剤およびキレート剤を含有するものを使用することにより高温(30~40℃)での品質安定性が高くなることを報告している(特許文献3)。
【0005】
上記技術でも乾燥菌体を得る工程における菌体の損傷や死滅を減らすことはできるが、乾燥菌体における生菌体の量は限りなく乾燥前の生菌体の量に近づいた方がよいことは言うまでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3504365号
【文献】特開2010-4787号公報
【文献】国際公開第WO2017/073752号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】G.L.DE ANTONI et. al.「Trehalose, a Cryoprotectant for Lactobacillus bulgaricus」 Cryobiology 26, p.149-153, 1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、乾燥菌体を得る工程における菌体の損傷や死滅を減らすことのできる新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、分散媒の組成ではなく、乾燥工程前の分散媒のpHを特定の範囲にすることにより、乾燥菌体を得る工程における菌体の損傷や死滅を減らせることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、乳酸菌菌体を分散媒に分散し、当該分散媒のpHを7.5~10.5に調整した後、凍結乾燥することを特徴とする乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、37℃で8週間保存後の生菌数が、乳酸菌菌体を分散媒に分散し、当該分散媒のpHを7.0に調整した後、凍結乾燥して得られる乳酸菌凍結乾燥菌体を37℃で8週間保存後の生菌数を100%とした時の120%以上であることを特徴とする乳酸菌凍結乾燥菌体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乾燥菌体を得る工程における菌体の損傷や死滅を減らすことができるため、保存後にも生菌数の高い乳酸菌凍結乾燥菌体を製造することができる。
【0013】
従って、本発明の乳酸菌凍結乾燥菌体は、種々の形態の食品、飲料等に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法(以下、「本発明方法」という)は、乳酸菌菌体を分散媒に分散し、当該分散媒のpHを7.5~10.5に調整した後、凍結乾燥するものである。
【0015】
本発明方法に用いられる乳酸菌は、特に限定されないが、例えば、ラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus
crispatus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus
casei)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus
gasseri)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus
acidophilus)、ラクトバチルス・クレモリス(Lactobacillus
cremoris)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus
helveticus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus
salivarius)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus
fermentum)、ラクトバチルス・デルブルッキー サブスピーシーズ.ブルガリカス(Lactobacillus
delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・デルブルッキー サブスピーシーズ.デルブルッキー(Lactobacillus
delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus
johnsonii)、ラクトバチルス・マリ(Lactobacillus
mali)、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactobacillus
delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus
plantarum)、ラクトバチルス・アシジピスシス(Lactobacillus
acidipiscis)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus
brevis)、ラクトバチルス・コリニフォルミス(Lactobacillus
coryniformis)、ラクトバチルス・ケフィーリ(Lactobacillus
kefiri)、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィラノファシエンス(Lactobacillus
kefiranofaciens subsp. kefiranofaciens)、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィリグラナム(Lactobacillus kefiranofaciens subsp. kefirgranum)、ラクトバチルス・ノデンシス(Lactobacillus
nodensis)、ラクトバチルス・パラブレビス(Lactobacillus
parabrevis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus
paracasei)、ラクトバチルス・パラケフィーリ(Lactobacillus
parakefiri)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus
pentosus)、ラクトバチルス・ぺロレンス(Lactobacillus
perolens)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus
rhamnosus)、ラクトバチルス・ツセッティ(Lactobacillus
tucceti)ラクトバチルス・クルバタス(Lactobacillus curvatus)等のラクトバチルス属細菌、カルノバクテリウム・ダイバージェンズ(Carnobacterium
divergens)、カルノバクテリウム・マルタノマティカム(Carnobacterium
maltaromaticum)等のカルノバクテリウム属細菌、ワイセラ・サイバリア(Weissella
cibaria)、ワイセラ・ヘレニカ(Weissella
hellenica)等のワイセラ属細菌、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium
bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium
breve)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium
longum)等のビフィドバクテリウム属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus
thermophilus)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus
salivarius)、ストレプトコッカス・ガロィチカス(Streptococcus
gallolyticus)等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.ラクチス(Lactococcus
lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.クレモリス(Lactococcus
lactis subsp. cremoris)、ラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus
plantarum)、ラクトコッカス・ラフィノラクチス(Lactococcus
raffinolactis)等のラクトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus
faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus
faecium)等のエンテロコッカス属細菌、ペディオコッカス・パルヴルム(Pediococcus
parvulus)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)等のペディオコッカス属細菌、ロイコノストック・サイテレウム(Leuconostoc
citreum)、ロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc
lactis)等のロイコノストック属細菌等の乳酸菌を挙げることができる。これら乳酸菌は1種または2種以上用いることができ、これらの中でもラクトバチルス属細菌が好ましく、ラクトバチルス・クリスパータスおよび/またはラクトバチルス・カゼイがより好ましく、ラクトバチルス・クリスパータス YIT 12319(FERM BP-11500、受託日:2011年4月28日、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室))および/またはラクトバチルス・カゼイ YIT 9029(FERM BP-1366、受託日:昭和56年5月1日、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室))が特に好ましい。
【0016】
これら乳酸菌は、本発明方法を行う前に、常法に従って培地で培養し、集菌しておくことが好ましい。培地は、乳酸菌の種類に合わせて適宜選択すればよく、例えば、MRS(deMan、Rogosa、Sharpe)培地、後記するSMB培地等を用いることができる。培養条件も乳酸菌の種類に合わせて適宜選択すればよい。培養後は、例えば、高速冷却遠心機、デラバル型連続遠心機等を用いて集菌すればよい。また、集菌後は、必要により洗浄を行ってもよい。洗浄液としては生理食塩水、PBS等が挙げられる。
【0017】
上記乳酸菌菌体は分散媒に分散させる。分散媒は乳酸菌の種類に合わせて適宜選択すればよいが、例えば、保護剤および抗酸化剤を含有する水溶液を用いることが好ましい。乳酸菌菌体を分散媒に分散させる方法は特に限定されず、分散媒に乳酸菌菌体を添加し、撹拌等をすればよい。また、分散媒に分散させる乳酸菌菌体の量は特に限定されないが、例えば、0.01~20質量%(以下、単に「%」という)程度である。なお、分散させる乳酸菌は基本的に生菌体だが、死菌体が含まれていてもよい。
【0018】
分散媒に用いられる保護剤は、特に限定されず、例えば、グルタミン酸や、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム等のグルタミン酸の塩、トレハロース、スクロース、ラクトース、マルトース等の二糖類、グリセロール、マルトデキストリン、サイクロデキストリン、脱脂粉乳、馬鈴薯デンプン等が挙げられる。これら保護剤は1種または2種以上を用いることができるが、トレハロース、脱脂粉乳および馬鈴薯デンプンを用いることが好ましい。分散媒における保護剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、1~40%が好ましく、3~40%がより好ましく、3~30%が特に好ましい。
【0019】
分散媒に用いられる抗酸化剤は、特に限定されず、例えば、アスコルビン酸や、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム等のアスコルビン酸の塩、ビタミンE、カテキン、グルタチオン、アスタキサンチン等が挙げられる。これら抗酸化剤は1種または2種以上を用いることができるが、アスコルビン酸が好ましい。分散媒における抗酸化剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01~10%が好ましく、0.05~5%がより好ましい。
【0020】
分散媒としては、脱脂粉乳、トレハロース、アスコルビン酸および馬鈴薯デンプンからなる群から選ばれる1種以上を含有する水溶液が好ましく、脱脂粉乳、トレハロース、アスコルビン酸および馬鈴薯デンプンを含有する水溶液がより好ましく、脱脂粉乳、トレハロース、アスコルビン酸および馬鈴薯デンプンをそれぞれ3~40%、3~20%、0.1~5%、3~20%含有する水溶液が特に好ましい。なお、溶解してもpHに影響を与えない分散媒(馬鈴薯デンプン等)については、後述する乳酸菌菌体の分散媒懸濁液のpH調整後に当該分散媒を添加することもできる。
【0021】
上記のようにして乳酸菌菌体を分散媒に分散した後は、当該分散媒のpHを7.5~10.5に調整、好ましくはpHを8.0~10.0に調整する。pHの調整は水酸化ナトリウム等のアルカリ物質を用いて行えばよい。
【0022】
分散媒のpHを調整した後は、凍結乾燥させる。凍結乾燥の条件は、特に限定されないが、例えば、-35℃~-45℃で6~48時間の凍結処理を行った後、12℃~35℃で40~90時間の乾燥処理を行う条件等を挙げることができる。なお、凍結乾燥機の例としては、TF20-80TANNS((株)宝製作所製)等を挙げることができる。
【0023】
斯くして得られる乳酸菌凍結乾燥菌体は、保存後も高い菌数を維持することができる。具体的には、乳酸菌凍結乾燥菌体を37℃で8週間保存後の生菌数が、乳酸菌菌体を分散媒に分散し、当該分散媒のpHを7.0に調整した後、凍結乾燥して得られる乳酸菌凍結乾燥菌体を37℃で8週間保存後の生菌数を100%とした時の120%以上である。なお、当然ながら、上記分散媒のpHを7.0に調整して得られる乳酸菌凍結乾燥菌体の製造には、分散媒のpHを7.5~10.5に調整して得られる乳酸菌凍結乾燥菌体の製造に用いたのと、分散媒のpH以外は同じ条件、菌株を用いる。また、乳酸菌凍結乾燥菌体を37℃で8週間保存後の生残率(%)が、乳酸菌菌体を分散媒に分散し、当該分散媒のpHを7.0に調整した後、凍結乾燥して得られる乳酸菌凍結乾燥菌体を37℃で8週間保存後の生残率を100%とした時の110%以上であることがさらに好ましい。なお、生残率は(保存期間後の生菌数/保存0日の生菌数)×100として計算される。
【0024】
上記の乳酸菌凍結乾燥菌体は、そのまま、あるいは通常食品に添加される他の食品素材と混合することにより、食品や飲料に利用することができる。例えば、食品としては、ハム、ソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこ、ちくわ等の水産加工食品、パン、菓子、バター、ヨーグルトや発酵乳等が挙げられる。飲料としては、清涼飲料、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料等が挙げられる。また、飲食品の形態としては、通常用いられる飲食品の形態、例えば、粉末、顆粒等の固体状、ペースト状、液状等が挙げられる。また、微生物乾燥菌体を、錠剤、散剤、チュアブル剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤、丸剤、ガム等に加工してもよい。なお、口腔用組成物として、洗口剤、練歯磨、粉歯磨、水歯磨、口腔用軟膏剤、ゲル剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、グミゼリー、トローチ、タブレット、カプセル、キャンディー、チューインガムなどに、またペットフード等に使用することも可能である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0026】
実 施 例 1
乳酸菌凍結乾燥菌体の製造:
(1)分散媒懸濁液の調製
MRS培地で前培養したラクトバチルス・カゼイ YIT 9029(以下、「LcS」ということもある)の培養液を、別のMRS培地4Lに0.1%接種後、37℃で16時間(定常期に達するまで)静置培養した。次いで、培養液を遠心(4℃、14000×g、30分間)し、菌体を生理食塩水で1回洗浄後、LcSの菌体を分散媒(脱脂粉乳10%、トレハロース5%、アスコルビン酸0.5%を含有する水溶液)に添加・混合し、分散媒懸濁液を得た。分散媒を4等分し、5N水酸化ナトリウムにてpH7.0、8.0、9.0または10.0にpHを調整した後、馬鈴薯デンプンを5%添加・混合し、分散媒懸濁液を得た。
【0027】
(2)凍結乾燥および粉砕
(1)で得た分散媒懸濁液を凍結乾燥器(TF20-80TANN:(株)宝製作所製)にてマイナス40℃で2日間凍結後、棚温20℃で2日間凍結乾燥を行った。この凍結乾燥物を粉砕し、LcS凍結乾燥菌体を得た。
【0028】
(3)保存試験
(2)で得たLcS凍結乾燥菌体を、チャック付きラミネート袋(ラミジップ:生産日本社製)に分包し、乾燥剤(ケアドライCP-5、大江化学工業(株))を入れ、空気をよくぬきチャックを閉めた。その後、37℃にて表1に記載の期間保存し、保存前、保存後の生菌数を測定した。生菌数の測定は、スパイラルプレーター(EDDY JET、IUL Instruments)で行った。また、生菌数から各保存期間後の生残率を算出した。それらの結果も表1に示した。さらに、pH7.0に調整した生菌数を100%とした時に、pH9.0の生菌数との生菌数の比がいくつになるかを以下の式で算出した。
【数1】
【数2】
【0029】
【0030】
この結果より、凍結乾燥前の分散媒のpHが高いほど、生菌数や生残率が高くなることが分かった。なお、乳酸菌凍結乾燥菌体の37℃で8週間保存後の生菌数は、pH7.0に調整したものを100%とすると、pH8.0、9.0、10.0に調整したものはそれぞれ124%、147%、200%であった。
【0031】
実 施 例 2
乳酸菌凍結乾燥菌体の製造:
実施例1において、ラクトバチルス・カゼイYIT9029に代えてラクトバチルス・クリスパータス YIT 12319(以下、「LcY」ということもある)を用い、培養液の遠心条件を4℃、4500×g、7分間とし、分散媒のpHを7.0または9.0にする以外は同様にしてLcY凍結乾燥菌体を得た。これらについて実施例1と同様にして生菌数を測定した。その結果を表2に示した。また、pH7.0の生菌数を100%とした時に、pH9.0の生菌数との生菌数の比がいくつになるかを実施例1と同様にして算出した。
【0032】
【0033】
この結果より、LcSに代えてLcYを用いた場合でも凍結乾燥前の分散媒のpHを高くすると生菌数が高くなることが分かった。なお、乳酸菌凍結乾燥菌体の37℃で8週間保存後の生菌数は、pH7.0に調整したものを100%とすると、pH9.0に調整したものは176%であった。
【0034】
実 施 例 3
乳酸菌凍結乾燥菌体の製造:
(1)分散媒懸濁液の調製
SMB培地(大豆ペプトン2%、酵母エキス(ミーストP1G:登録商標、アサヒビール食品(株)製)2%、発酵大麦エキス(バーレックス:登録商標、三和酒類(株)製)6%、モノオレイン酸デカグリセリン(サンソフトQ17-S:登録商標、太陽化学(株)製)0.1%、ラクトース2%を含有するpH6.7の培地)で前培養したLcYの培養液を、SMB培地2Lに0.1%ずつ接種後、37℃で12時間(定常期に達するまで)静置培養した。次いで、培養液をそれぞれ遠心(4℃、4500×g、7分間)し、菌体を生理食塩水で1回洗浄後、LcYの菌体を分散媒(脱脂粉乳20%、トレハロース10%、アスコルビン酸1%を含有する水溶液)に添加・混合した(pH5.1)。pHを調整しない系では、さらに馬鈴薯デンプンを10%添加・混合し、分散媒懸濁液を得た。一方、分散媒のpHを調整する系では5N水酸化ナトリウムにてpH7.0および9.0にpHを調整した後、馬鈴薯デンプンを10%添加・混合し、分散媒懸濁液を得た。
【0035】
(2)凍結乾燥および粉砕
(1)で得た分散媒懸濁液を凍結乾燥器(TF20-80TANN:(株)宝製作所製)にてマイナス40℃で2日間凍結後、棚温20℃で2日間凍結乾燥を行った。この凍結乾燥物を粉砕し、LcY凍結乾燥菌体を得た。
【0036】
(3)保存試験
(2)で得たLcY凍結乾燥菌体を、チャック付きラミネート袋(ラミジップ:生産日本社製)に分包し、空気をよくぬきチャックを閉めた。その後、37℃にて表3に記載の期間保存し、保存前、保存後の生菌数を測定した。生菌数の測定は、スパイラルプレーター(EDDY JET、IUL Instruments)で行った。また、実施例1と同様にして生残率を算出した。さらに、pH無調整の生菌数を100%とした時に、pH7.0または9.0の生菌数との生菌数の比がいくつになるかを以下の式で算出した。それらの結果も表3に示した。また、pH7.0の生菌数を100%とした時に、pH9.0の生菌数との生菌数の比がいくつになるかを実施例1と同様にして算出した。
【0037】
【0038】
【0039】
この結果より、培地を代えても、凍結乾燥前の分散媒のpHを高くすると生菌数や生残率が高くなることが分かった。なお、乳酸菌凍結乾燥菌体の37℃で8週間保存後の生菌数は、pH7.0に調整したものを100%とすると、pH9.0に調整したものは20290%であった。
【0040】
実 施 例 4
乳酸菌凍結乾燥菌体の製造:
実施例3において、静置培養を37℃で12時間行うのに代えて、30℃で22時間行う以外は同様にしてLcY凍結乾燥菌体を得た。これらについて実施例1と同様にして生菌数を測定し、生残率を算出した。また、pH7.0の生菌数を100%とした時に、pH9.0の生菌数との生菌数の比がいくつになるかを実施例1と同様にして算出した。その結果を表4に示した。
【0041】
【0042】
この結果より、培養条件を代えても、培地を代えた時と同様に、凍結乾燥前の分散媒のpHを高くすると生菌数や生残率が高くなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の乳酸菌凍結乾燥菌体は、種々の形態の食品、飲料等に利用することができる。