IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社UACJの特許一覧

<>
  • 特許-熱交換器の製造方法 図1
  • 特許-熱交換器の製造方法 図2
  • 特許-熱交換器の製造方法 図3
  • 特許-熱交換器の製造方法 図4
  • 特許-熱交換器の製造方法 図5
  • 特許-熱交換器の製造方法 図6
  • 特許-熱交換器の製造方法 図7
  • 特許-熱交換器の製造方法 図8
  • 特許-熱交換器の製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】熱交換器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/00 20060101AFI20221117BHJP
   F28D 1/053 20060101ALI20221117BHJP
   F28F 9/18 20060101ALI20221117BHJP
   B23K 3/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B23K1/00 330K
F28D1/053 A
F28F9/18
B23K3/00 310K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018155576
(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公開番号】P2020028895
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰永
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-085433(JP,A)
【文献】実開平05-088770(JP,U)
【文献】国際公開第2016/067682(WO,A1)
【文献】特開2007-044713(JP,A)
【文献】特表2005-508448(JP,A)
【文献】特開平06-009295(JP,A)
【文献】特開2006-175500(JP,A)
【文献】特開2006-043735(JP,A)
【文献】特開昭55-030319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/00 - 3/08、31/02、33/00
F28D 1/00 - 13/00
F28F 9/00 - 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックスを使用せずに被処理物をろう付して熱交換器を作製する熱交換器の製造方法であって、
アルミニウム材からなり中空部を備えた前記被処理物を準備し、
前記被処理物の周囲に配置される壁部と、前記壁部によって取り囲まれた空間からなる収容空間と、を備え、前記収容空間の体積Vc[cm3]と、前記中空部の容積Vhin[cm3]と、前記中空部に外接する直方体の体積Vhout[cm3]とが、Vc-Vhout≦2Vhinの関係を満足する治具を準備し、
前記治具の前記収容空間内に前記被処理物を収容し、
前記治具及び前記被処理物を加熱することにより、フラックスを用いることなく前記中空部の外部と内部とを隔てる部分にろう付接合を形成する、熱交換器の製造方法。
【請求項2】
前記収容空間内に前記被処理物を収容した後、前記壁部同士の間に前記被処理物を拘束する、請求項1に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項3】
前記治具として、前記収容空間と前記治具の外部空間とを連通させる通気口を有し、前記通気口の開口面積の合計が前記治具の外表面の面積の1/10~1/300である治具を使用する、請求項2に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項4】
前記治具として、前記被処理物を拘束するための一対の前記壁部に前記通気口を有する治具を使用する、請求項3に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項5】
前記被処理物を拘束するための一対の前記壁部のうち、一方の前記壁部に設けられた通気口の開口面積の合計が、他方の前記壁部に設けられた通気口の開口面積の合計の50~100%である、請求項4に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項6】
前記治具は黒鉛から構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項7】
前記治具における前記壁部の内表面に、炭化ケイ素、熱分解炭素またはガラス状炭素からなる保護層が設けられている、請求項6に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項8】
前記収容空間内に前記被処理物を収容する際に、前記壁部と前記被処理物との間に鱗状黒鉛からなる潤滑シートを介在させる、請求項6または7に記載の熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空調機や自動車等に組み込まれるパラレルフロー型熱交換器や、半導体装置を冷却するための冷却ジャケット等の熱交換器の素材として、軽量化のため、熱伝導率が高く比重が小さいアルミニウム材(アルミニウム及びアルミニウム合金を含む。以下同じ。)が多用されている。この種の熱交換器は、アルミニウム材からなる複数の部品より構成された中空部を有していることがある。中空部の内部空間は、例えば冷媒流路となる。
【0003】
熱交換器を構成する部品は、ろう付により互いに接合されていることが多い。従来、アルミニウム材のろう付方法としては、Al-Si(アルミニウム-シリコン)系合金からなるろう材を用い、ろう材上にフッ化物系のフラックスを塗布した後に窒素中で被処理物を加熱してろう付する、いわゆるフラックスろう付法が多用されている。
【0004】
しかし、フラックスろう付法によりろう付を行う場合、ろう付が完了した後に、フラックスやその残渣が熱交換器の表面に付着する。例えば、電子部品が搭載される熱交換器においては、その製造時にフラックス残渣により表面処理性が悪化するなどの問題が発生するおそれがある。また、例えば水冷式の熱交換器では、冷媒流路にフラックス等に起因する目詰まりが発生するなどの問題が生じるおそれもある。さらに、フラックスやその残渣を除去するためには、酸洗処理を行う必要があり、近年では、当該処理のコスト負担が問題視されている。
【0005】
そこで、フラックスの使用に伴うこれらの問題を回避するため、フラックスを用いずにろう付を行う、いわゆるフラックスフリーろう付法により熱交換器を作製する方法が種々提案されている。例えば特許文献1には、真空炉中でチューブ等の各部品間に配置されたろう材により、各部品間を真空ろう付けする熱交換器の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、大気圧、不活性ガス雰囲気の炉中でろう付を行うアルミニウム製熱交換器の製造方法が記載されている。
【0006】
フラックスフリーろう付法においては、真空中でろう付を行う場合、及び、不活性ガス雰囲気中でろう付を行う場合のいずれにも、Mg等のアルミニウムよりも酸化されやすい金属元素を利用してアルミニウム材の表面の酸化皮膜を破壊し、ろう付を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-181628号公報
【文献】特開2014-184489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フラックスフリーろう付法によりろう付を行う場合、被処理物の形状や構造、及びろう付接合を形成しようとする位置によってはろう付接合の品質が悪化しやすいという問題がある。かかる問題は、特に、中空部の外部と内部を隔てる部分において発生しやすい。
【0009】
例えば、真空中においてフラックスを用いずにろう付を行う場合には、加熱によって生じた溶融ろうが中空部の外側に引き出されやすい。また、不活性ガス中においてフラックスを用いずにろう付を行う場合には、加熱によって生じた溶融ろうが中空部の内側に引き込まれやすい。このように、中空部の内部と外部とを隔てる部分において、中空部の内側または外側のいずれかに溶融ろうが偏ると、ろう付後の熱交換器の外表面または内表面においてフィレット切れが発生しやすくなる。その結果、熱交換性能の低下、耐圧強度の低下、冷媒の漏出または耐腐食性の低下などの種々の問題が発生するおそれがある。
【0010】
また、ろう付加熱中における被処理物の温度は均一ではなく、例えば高温の不活性ガスと接触しやすい部分やろう付炉のヒータからの輻射を受ける部分の温度が周囲よりも高くなりやすい。同様に、ろう付後の冷却中における熱交換器の温度も均一ではなく、熱容量が小さい部分や不活性ガスと接触しやすい部分が周囲よりも早く冷却されやすい。このような温度差によって、ろう付完了後の熱交換器の形状に歪みが生じることがある。熱交換器の歪みが大きくなると、ろう付不良の発生や熱交換性能の低下、圧力損失の増大などの種々の問題を招くおそれがある。
【0011】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、フラックスを用いずに健全なろう付接合を形成するとともに、ろう付による熱交換器の歪みを抑制することができる熱交換器の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、フラックスを使用せずに被処理物をろう付して熱交換器を作製する熱交換器の製造方法であって、
アルミニウム材からなり中空部を備えた前記被処理物を準備し、
前記被処理物の周囲に配置される壁部と、前記壁部によって取り囲まれた空間からなる収容空間を備え、前記収容空間の体積Vc[cm3]と、前記中空部の容積Vhin[cm3]と、前記中空部に外接する直方体の体積Vhout[cm3]とが、Vc-Vhout≦2Vhinの関係を満足する治具を準備し、
前記治具の前記収容空間内に前記被処理物を収容し、
前記治具及び前記被処理物を加熱することにより、フラックスを用いることなく前記中空部の外部と内部とを隔てる部分にろう付接合を形成する、熱交換器の製造方法にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、従来のフラックスフリーろう付法においては、中空部の外部におけるろう付中の環境と、内部におけるろう付中の環境とが大きく異なるために、中空部の内部と外部とを隔てる部分において溶融ろうの量に偏りが生じることを見出した。
【0014】
即ち、真空中でろう付を行う場合、中空部内には、ろう付加熱時に蒸発したMg等の元素が滞留しやすい。そのため、ろう付中に中空部の内圧が容易に上昇する。一方、中空部の外部においては、ろう付加熱時に蒸発したMg等の元素が散逸しやすいため、圧力が上昇しにくい。このような圧力差により、中空部の外部においては、中空部の内部に比べてMg等の蒸発が活発に起こりやすい。
【0015】
それ故、真空中でろう付を行う場合には、中空部の外表面の酸化皮膜が内表面の酸化皮膜よりも迅速に破壊され、溶融ろうが中空部の外表面に迅速に濡れ広がりやすくなる。以上の結果、溶融ろうが中空部の外側に引き出されやすくなる。
【0016】
一方、不活性ガス中でろう付を行う場合、中空部内に微量に存在する酸素や水分が、Mg等のゲッター作用によって消費される。また、中空部内には、中空部の外部から不活性ガスが流入しにくい。これらの結果、中空部内においては、不活性ガス中の酸素濃度や露点が低い状態を容易に維持することができる。一方、ろう付炉内には不活性ガスが絶えず供給されるため、中空部の外部においては、不活性ガス中の酸素や水分をMg等のゲッター作用によって低減することが難しい。それ故、中空部の外部における不活性ガス中の酸素濃度及び露点は、中空部内の不活性ガス中の酸素濃度及び露点よりも高くなりやすい。
【0017】
それ故、不活性ガス中でろう付を行う場合には、中空部の内表面の酸化皮膜が外表面の酸化皮膜よりも迅速に破壊され、溶融ろうが中空部の内表面に迅速に濡れ広がりやすくなる。以上の結果、溶融ろうが中空部の内側に引き込まれやすくなる。
【0018】
このようなろう付中の環境の差異を小さくするため、前記熱交換器の製造方法においては、中空部を備えた被処理物を、収容空間の体積Vc[cm3]と、中空部の容積Vhin[cm3]及び中空部に外接する直方体の体積Vhout[cm3]とが、Vc-Vhout≦2Vhinの関係を満足する治具の収容空間に収容する。前記の関係式を満足する治具に被処理物を収容すると、Vc-Vhout、つまり、収容空間内における被処理物よりも外側の部分の体積と、Vhin、つまり、中空部の容積との差が小さくなる。これにより、ろう付中における、中空部の外部の環境と内部の環境との差異を小さくすることができる。
【0019】
そして、この治具ごと被処理物を加熱し、フラックスを用いずにろう付を行うことにより、中空部の内部と外部とを隔てる部分にろう付接合を形成する。前述したように、被処理物は、前記特定の治具に収容されているため、ろう付中における、中空部の外部の環境と内部の環境との差異が小さくなっている。そのため、中空部の内部と外部とを隔てる部分において、中空部の外表面に集まる溶融ろうの量と、内表面に集まる溶融ろうの量との差を小さくすることができる。それ故、中空部の内表面から外表面までに亘るろう付接合を形成することができる。
【0020】
更に、ろう付中の被処理物は、治具により覆われている。そのため、ろう付炉のヒータからの輻射や治具内の環境の急激な変化を緩和することができる。その結果、被処理物の温度の偏りを軽減することができ、ひいては熱交換器の歪みを抑制することができる。
【0021】
以上の結果、前記製造方法によれば、フラックスを用いずに健全なろう付接合を形成するとともに、ろう付による熱交換器の歪みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1における、熱交換器としての冷却ジャケットの斜視図である。
図2】実施例1における、被処理物の分解斜視図である。
図3】実施例1における、治具の分解斜視図である。
図4】実施例1における、被処理物が収容された治具の要部を示す断面図である。
図5】実施例1における、中空部の外部と内部とを隔てるろう付接合の例を示す一部拡大断面図である。
図6】実施例2における、熱交換器としてのパラレルフロー型熱交換器の斜視図である。
図7】実施例2における、被処理物の分解斜視図である。
図8】実施例2における、治具の分解斜視図である。
図9】実験例1における、ろう付性の評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
前記製造方法により製造される熱交換器は、少なくとも1か所の中空部を有している。また、中空部の内部と外部とを隔てる部分には、少なくとも1か所のろう付接合が形成されている。
【0024】
かかる熱交換器としては、例えば、チューブとアウターフィンとが交互に積層されてなるコアと、コアの両端に配置され、複数のチューブに冷媒を分配し、または複数のチューブから排出された冷媒を集めるヘッダとを備えたパラレルフロー型熱交換器や、有底箱状を呈するジャケット本体部と、ジャケット本体部の開口を閉鎖するジャケット蓋部とを備えた冷却ジャケット等がある。
【0025】
パラレルフロー型熱交換器における中空部は、例えば、ヘッダとチューブとから構成されている。また、パラレルフロー型熱交換器においては、ヘッダとチューブとの間等に、中空部の内部と外部とを隔てるろう付接合が形成される。冷却ジャケットにおける中空部は、例えば、ジャケット本体部と蓋部とから構成されている。また、冷却ジャケットにおいては、ジャケット本体部と蓋部との間等に、中空部の内部と外部とを隔てるろう付接合が形成される。
【0026】
前記製造方法においては、まず、アルミニウム材からなり中空部を備えた被処理物を準備する。被処理物は、1個の部品から構成されていてもよいし、複数の部品から構成されていてもよい。
【0027】
被処理物は、ろう付接合を形成するためのろう材を有している。ろう材は、被処理物の構造を構成するための部品とは別に設けられていてもよい。また、例えば、被処理物の部品を、心材と、心材の少なくとも片面上に配置されたろう材とを備えたブレージングシートから作製することもできる。この場合、心材は、ろう付後に熱交換器の構造の一部となる。
【0028】
被処理物を構成する部品のうち少なくとも1つには、表面に存在する酸化皮膜を破壊するための元素が含まれている。例えば、ブレージングシートを用いて部品を作製する場合には、ブレージングシートを構成する層のうち1つ以上の層に、表面に存在する酸化皮膜を破壊するための元素が含まれていればよい。かかる元素としては、例えば、Mg(マグネシウム)、Li(リチウム)、Be(ベリリウム)等がある。
【0029】
前記製造方法において、被処理物を収容するための治具は、被処理物の周囲に配置される壁部と、壁部によって取り囲まれた空間からなる収容空間とを有している。また、治具は、収容空間の体積Vc[cm3]と、中空部の容積Vhin[cm3]と、中空部に外接する直方体の体積Vhout[cm3]とが、Vc-Vhout≦2Vhinの関係を満足している。これにより、ろう付中における中空部の内部の環境と外部の環境との差を小さくし、健全なろう付接合を形成することができる。
【0030】
治具の材質は特に限定されることはないが、例えば、ステンレス鋼などのろう付中に変質しない金属や、黒鉛などを採用することができる。
【0031】
治具は、黒鉛から構成されていることが好ましい。この場合には、収容空間内に存在する酸素が黒鉛と反応することによって消費されるため、収容空間内の酸素濃度をより低くすることができる。これにより、ろう付性をより向上させることができる。黒鉛からなる治具は、特に、真空中でのろう付に比べて酸素濃度が高くなりやすい、不活性ガス中でのろう付におけるろう付性の向上に有効である。
【0032】
治具の内表面には、炭化ケイ素、熱分解炭素またはガラス状炭素からなる保護層が設けられていてもよい。この場合には、治具内に被処理物を収容した後に、治具の内表面と被処理物との摺動による摩耗粉の発生を抑制することができる。その結果、摩耗粉による熱交換器の汚染や、作業スペースの汚染をより効果的に抑制することができる。また、この場合には、黒鉛と酸素との反応による黒鉛の消耗を抑制することができるため、治具の寿命をより長くすることができる。
【0033】
治具は、収容空間と治具の外部空間とを連通させる通気口を有していてもよい。この場合には、例えば、ろう付中に治具の内圧が急激に上昇した場合などに、通気口を通じて治具の内圧を開放することができる。その結果、内圧の変動による治具の破損を回避することができる。
【0034】
通気口の配置、数及び形状は、種々の態様をとり得る。例えば、通気口の数は、1か所であってもよいし、複数であってもよい。通気口の開口面積の合計は、治具の外表面の面積の1/10~1/300であることが好ましい。この場合には、治具の外部空間から収容空間内への雰囲気の流入を抑制しつつ、治具の内圧を治具の外部空間の圧力に連動させることができる。
【0035】
被処理物及び治具を準備した後、被処理物を収容空間内に収容する。この際、治具の壁部同士の間に被処理物を拘束することが好ましい。被処理物を壁部同士の間に拘束することにより、ろう付加熱中における被処理物の熱膨張や歪みの発生をより効果的に抑制することができる。その結果、ろう付後の熱交換器の寸法精度をより向上させることができる。
【0036】
壁部による被処理物の拘束は、種々の態様により行うことができる。例えば、壁部同士の間に被処理物を配置した後、鋼線を用いて治具を締め付け、壁部を被処理物に押し付けることにより被処理物を拘束することができる。また、壁部同士の間に被処理物を配置した後、ボルトなどの締結部材によって治具を締結し、壁部を被処理物に押し付けることにより被処理物を拘束することもできる。
【0037】
壁部により被処理物を拘束する場合には、黒鉛からなる治具を使用することがより好ましい。黒鉛の線膨張係数は典型的には6ppm/K程度であり、アルミニウム材の線膨張係数(典型的には25ppm/K程度)よりも十分に小さい。そのため、黒鉛からなる治具は、アルミニウム材に比べてろう付中に変形しにくい。かかる治具を使用することにより、ろう付中の被処理物の変形をより効果的に抑制し、ひいては熱交換器の寸法精度をより向上させることができる。
【0038】
また、収容空間内に被処理物を収容する際に、治具と被処理物との間に鱗状黒鉛からなる潤滑シートを介在させてもよい。この場合にも、前述の保護層と同様に、治具内に被処理物を収容した後に、治具の内表面と被処理物との摺動による摩耗粉の発生を抑制することができる。その結果、摩耗粉による熱交換器の汚染や、作業スペースの汚染をより効果的に抑制することができる。なお、前述した「鱗状黒鉛」は、鱗片状黒鉛及び塊状黒鉛を含む概念である。
【実施例
【0039】
(実施例1)
前記熱交換器の製造方法に係る実施例を、図1図5を用いて説明する。本例の製造方法においては、まず、図2に示すようにアルミニウム材からなり中空部11を備えた被処理物1を準備する。また、被処理物1とは別に、図3及び図4に示すように、被処理物1の周囲に配置される壁部21と、壁部21によって取り囲まれた空間からなる収容空間22と、を備え、収容空間22の体積Vc[cm3]と、中空部11の容積Vhin[cm3]と、中空部11に外接する直方体Rの体積Vhout[cm3]とが、Vc-Vhout≦2Vhinの関係を満足する治具2を準備する。
【0040】
次いで、図4に示すように、治具2の収容空間22内に被処理物1を収容する。そして、治具2及び被処理物1を加熱することにより、フラックスを用いることなく中空部11の外部と内部とを隔てる部分にろう付接合J(図5参照)を形成する。以上により、熱交換器3を得ることができる。
【0041】
本例においては、図1に示す、熱交換器3としての冷却ジャケット31の製造方法を説明する。冷却ジャケット31は、有底箱状を呈するジャケット本体部311と、ジャケット本体部311の開口を閉鎖するジャケット蓋部312とを有している。冷却ジャケット31は、ジャケット本体部311とジャケット蓋部312とによって囲まれた空間からなる冷媒流路318(図5参照)を有している。冷媒流路318には、例えばコルゲートフィンなどのインナーフィンが設けられていてもよい。
【0042】
図1に示すように、ジャケット本体部311は、長方形状を呈するジャケット頂壁部313と、ジャケット頂壁部313の外周端縁に立設されたジャケット側壁部314と、ジャケット側壁部314の先端から外方に延出したジャケットフランジ部315と、を有している。ジャケット頂壁部313には、冷却ジャケット31の外部から冷媒流路内に冷媒を導入する冷媒導入管316と、冷媒流路から冷却ジャケット31の外部へ冷媒を導出する冷媒導出管317とが設けられている。
【0043】
図5に示すように、ジャケットフランジ部315は、ろう付接合Jを介してジャケット蓋部312に接合されている。また、図には示さないが、冷媒導入管316及び冷媒導出管317は、ろう付接合を介してジャケット頂壁部313に接合されている。本例においては、これらのろう付接合Jにより、冷媒流路318と冷却ジャケット31の外部とが隔てられている。
【0044】
本例の冷却ジャケット31は、例えばジャケット蓋部312やジャケット頂壁部313の外表面に、半導体装置などの発熱体を搭載する発熱体搭載面を設けることができる。発熱体搭載面に搭載した発熱体の熱は、ジャケット蓋部312やジャケット頂壁部313を介して冷媒に伝達される。これにより、発熱体と冷媒との間で熱交換を行い、発熱体の冷却を行うことができる。
【0045】
冷却ジャケット31を作製するに当たっては、まず、以下のようにして被処理物1を組み立てる。本例の被処理物1は、図2に示すように、ろう付後にジャケット本体部311となる第1部品111と、ジャケット蓋部312となる第2部品112と、冷媒導入管316となる第3部品113と、冷媒導出管317となる第4部品114とを有している。本例における被処理物1の中空部11は、第1部品111と第2部品112とから構成されている。
【0046】
第1部品111は、有底箱状を呈しており、アルミニウム材からなる心材の片面にAl-Si系合金からなるろう材が積層された片面ブレージングシートから構成されている。第1部品111のろう材は、箱状形状の内表面、つまり、厚み方向における第2部品112側に配置されている。また、第1部品111には、第3部品113及び第4部品114を取り付けるための貫通穴115が設けられている。
【0047】
第2部品112は、板状を呈しており、第1部品111と同様に、アルミニウム材からなる心材の片面にAl-Si系合金からなるろう材が積層された片面ブレージングシートから構成されている。第3部品113及び第4部品114は、アルミニウム材から構成されている。
【0048】
被処理物1を組み立てるに当たっては、第1部品111のろう材と第2部品112のろう材が当接するようにして第1部品111と第2部品112とを重ね合わせる。その後、第1部品111の貫通穴115に第3部品113及び第4部品114を差し込むことにより、被処理物1の組み立てが完了する。
【0049】
次に、被処理物1を収容するための治具2を準備する。本例の治具2は、図3に示すように、壁部21としての治具本体部211と治具蓋部212とを有している。治具本体部211は、黒鉛からなり、有底箱状を呈している。治具蓋部212は、黒鉛からなり、板状を呈している。また、治具蓋部212は、治具本体部211の開口を閉鎖することができる。本例の治具2における収容空間22は、治具本体部211と治具蓋部212とによって囲まれた空間である。
【0050】
治具本体部211は、ジャケット頂壁部313に当接する治具頂壁部213と、治具頂壁部213の外周端縁に立設された治具側壁部214と、治具側壁部214の先端から外方に延出した治具フランジ部215と、を有している。治具頂壁部213には、第3部品113及び第4部品114を治具2の外部へ突出させるための2か所の貫通穴216が設けられている。
【0051】
本例の治具2は、図4に示す収容空間22の体積Vc[cm3]と、中空部11の容積Vhin[cm3]と、中空部11に外接する直方体Rの体積Vhout[cm3]とが、Vc-Vhout≦2Vhinの関係を満足するように構成されている。
【0052】
より具体的には、本例における収容空間22の体積Vcは、治具本体部211と治具蓋部212とによって囲まれた空間の体積である。本例における中空部11の容積Vhinは、第1部品111と第2部品112とによって囲まれた空間の体積である。なお、第1部品111と第2部品112との間にインナーフィン等の他の部品が配置される場合には、第1部品111と第2部品112とによって囲まれた空間の体積から、中空部内に存在する部品の占有体積を差し引いた値が中空部11の容積Vhinとなる。
【0053】
本例における中空部11に外接する直方体Rの体積Vhoutは、第2部品112の長辺の長さと、第2部品112の短辺の長さと、第2部品112から第1部品111までの高さの積である。
【0054】
このような被処理物1と治具2とを準備した後、治具蓋部212と第2部品112とが当接するようにして治具蓋部212上に被処理物1を載置する。そして、貫通穴115から第3部品113及び第4部品114を突出させつつ治具本体部211を被処理物1に被せることにより、治具2の収容空間22内に被処理物1を収容する。
【0055】
本例の治具2は、図4に示すように、収容空間22内に被処理物1を収容した状態において、治具蓋部212と第2部品112とが当接し、かつ、治具頂壁部213と第1部品111とが当接するように構成されている。それ故、被処理物1を治具2内に収容した後に、治具本体部211を治具蓋部212側に押圧することにより、被処理物1を治具頂壁部213と治具蓋部212との間に拘束することができる。
【0056】
治具本体部211を治具蓋部212側に押圧する方法は特に限定されることはない。図には示さないが、本例では、治具2の周囲にステンレス鋼線を巻回した後、ステンレス鋼線を締め付けることによって治具本体部211を治具蓋部212側に押圧する方法を採用している。本例の方法に替えて、例えば、治具フランジ部215と治具蓋部212とをボルト等の締結部材によって締結することにより、治具本体部211を治具蓋部212側に押圧してもよい。また、一対の拘束板の間に治具2を挟み込み、拘束板同士をボルト等の締結部材によって締結することにより、治具本体部211を治具蓋部212側に押圧することもできる。
【0057】
その後、被処理物1を治具2とともに加熱してろう付を行うことにより、熱交換器3としての冷却ジャケット31を得ることができる。ろう付は、真空中で行ってもよいし、不活性ガス中で行ってもよい。
【0058】
次に、本例の作用効果を説明する。本例の製造方法では、中空部11を備えた被処理物1を、前記特定の関係を満たす治具2の収容空間22に収容してろう付を行う。ろう付加熱によって第1部品111及び第2部品112のろう材が溶融すると、第1部品111と第2部品112との当接部や、第1部品111と第3部品113との当接部、第1部品111と第4部品114との当接部に溶融ろうが集まる。この際、前記特定の関係を満たす治具2を用いることにより、中空部11の外部の環境と内部の環境との差異を小さくすることができる。
【0059】
それ故、前述した中空部11の内部と外部とを隔てる各部において、中空部11の外表面に集まる溶融ろうの量と、内表面に集まる溶融ろうの量との差を小さくすることができる。この状態で被処理物1を冷却することにより、図5に一例を示すように、熱交換器3の内部、つまり、冷媒流路318と外部とを隔てる部分に、熱交換器3の内表面から外表面までに亘るろう付接合Jを形成することができる。
【0060】
更に、ろう付中の被処理物1は、治具2により覆われている。そのため、ろう付炉のヒータからの輻射や治具2内の環境の急激な変化を緩和することができる。その結果、被処理物1の温度の偏りを軽減することができ、ひいては熱交換器3の歪みを抑制することができる。
【0061】
本例の治具2は、黒鉛から構成されている。そのため、収容空間22内に存在する酸素が黒鉛と反応することによって消費されるため、収容空間22内の酸素濃度をより低くすることができる。これにより、ろう付性をより向上させることができる。
【0062】
また、被処理物1を収容空間22内に収容した後、被処理物1が治具2の壁部21同士の間に拘束されている。これにより、ろう付加熱中における被処理物1の熱膨張や歪みの発生をより効果的に抑制することができる。その結果、ろう付後の熱交換器3の寸法精度をより向上させることができる。
【0063】
以上の結果、前記製造方法によれば、フラックスを用いずに健全なろう付接合Jを形成するとともに、ろう付による熱交換器3の歪みを抑制することができる。
【0064】
(実施例2)
本例は、熱交換器3としてのパラレルフロー型熱交換器32の製造方法の例である。なお、本例以降において用いる符号のうち、既出の例において用いた符号と同一ものは、特に説明のない限り既出の例における構成要素と同様の構成要素等を表す。
【0065】
本例において作製するパラレルフロー型熱交換器32は、図6に示すように、チューブ322とアウターフィン323とが交互に積層されてなるコア321と、コア321の両端に配置されたヘッダ324と、を有している。ヘッダ324は、チューブ322が差し込まれたヘッダタンク325と、ヘッダタンク325との間に筒状の冷媒流路が形成されるようにしてヘッダタンク325に接合されたヘッダキャップ326と、ヘッダ324の両端を閉鎖するヘッダ蓋部327と、を有している。ヘッダ324は、複数のチューブ322に冷媒を分配し、または複数のチューブ322から排出された冷媒を集めることができる。
【0066】
パラレルフロー型熱交換器32は、チューブ322とヘッダ324とによって囲まれた空間からなる冷媒流路を有している。
【0067】
パラレルフロー型熱交換器32を作製するに当たっては、まず、以下のようにして被処理物102を組み立てる。本例の被処理物102は、図7に示すように、ろう付後にチューブ322となる第1部品121と、アウターフィン323となる第2部品122と、ヘッダタンク325となる第3部品123と、ヘッダキャップ326となる第4部品124と、ヘッダ蓋部327となる第5部品125と、を有している。第1部品121は、アルミニウム材からなり、隔壁によって互いに区画された複数の冷媒流路121aを有する多穴管である。第2部品122は、アルミニウム材からなる心材の両面にAl-Si系合金からなるろう材が積層された両面ブレージングシートから構成されており、コルゲート加工が施されている。第3部品123~第5部品125は、アルミニウム材からなる心材の片面にAl-Si系合金からなるろう材が積層された片面ブレージングシートから構成されている。
【0068】
第1部品121と第2部品122とを交互に重ね合わせてコア321となる部分を組み立てた後、第1部品121の両端を第3部品123に差し込む。そして、第3部品123に第4部品124及び第5部品125を取り付けることにより、被処理物102の組み立てが完了する。本例の被処理物102における中空部12は、第1部品121と、第3部品123~第5部品125とから構成されている。
【0069】
次に、被処理物102を収容するための治具202を準備する。本例の治具202は、図8に示すように、壁部23としての治具上部23a及び治具下部23bを有している。治具上部23a及び治具下部23bは、黒鉛からなり、有底箱状を呈している。また、治具上部23a及び治具下部23bは、それぞれ、コア321に当接する治具頂壁部231(231a、231b)と、治具頂壁部231の外周端縁に立設された治具側壁部232(232a、232b)と、治具側壁部232の先端から外方に延出した治具フランジ部233(233a、233b)と、を有している。
【0070】
本例の治具202は、治具上部23aの治具フランジ部233aと治具下部23bの治具フランジ部233bとを当接させることにより、治具上部23aと治具下部23bとの間に収容空間22を形成することができる。なお、図には示さないが、本例の治具202における治具頂壁部231は複数の通気口を有しており、これらの通気口によって治具202の内部と外部とが連通している。
【0071】
通気口の開口面積の合計は、治具202の外表面の面積の1/10~1/300の範囲内である。また、治具上部23aの治具頂壁部231aに設けられた通気口の開口面積の合計は、治具下部23bの治具頂壁部231bに設けられた通気口の開口面積の合計と等しい。
【0072】
図には示さないが、本例の治具202における収容空間22の体積Vcは、具体的には、治具上部23aと治具下部23bとによって囲まれた直方体状の空間の体積である。また、中空部12の容積Vhinは、具体的には、第1部品121に設けられた冷媒流路121aの体積と、第3部品123~第5部品125によって囲まれた空間の体積との合計である。
【0073】
本例における中空部12に外接する直方体の体積Vhoutは、具体的には、同一の第3部品123に取り付けられた第5部品125間の外寸法である縦寸法と、一方の第3部品123から他方の第3部品123までの外寸法である横寸法と、第3部品123の高さとの積である。その他は実施例1と同様である。
【0074】
また、本例の治具202には、複数の通気口が設けられている。通気口の開口面積合計は、治具202の外表面の面積の1/10~1/300の範囲内である。それ故、治具202の外部空間から収容空間22内への雰囲気の流入を抑制しつつ、治具202の内圧を外部空間の圧力に連動させ、治具202の破損を回避することができる。
【0075】
また、本例の通気口は、治具上部23aの治具頂壁部231a及び治具下部23bの治具頂壁部231b、つまり、被処理物102を拘束する一対の壁部23に設けられている。このように、被処理物102を拘束する一対の壁部23に通気口を設けることにより、通気口から流入する雰囲気が被処理物102における壁部23と接触していない側周面に当たることを抑制することができる。その結果、被処理物102の側周面におけるろう付性の悪化を抑制することができる。
【0076】
また、治具上部23aの治具頂壁部231aに設けられた通気口の開口面積の合計は、治具下部23bの治具頂壁部231bに設けられた通気口の開口面積の合計の50~100%の範囲内にある。これにより、収容空間22の内部に好ましくない気流が生じることを抑制することができる。その結果、被処理物102のろう付性の悪化を抑制することができる。このような効果をより高める観点からは、治具上部23aの治具頂壁部231aに設けられた通気口の開口面積の合計を、治具下部23bの治具頂壁部231bに設けられた通気口の開口面積の合計の70~100%の範囲内とすることが好ましく、治具下部23bの治具頂壁部231bに設けられた通気口の開口面積の合計と等しくすることがより好ましい。
【0077】
熱交換器3の形式や治具202の構造は、本例や実施例1の態様に限定されるものではない。本例の製造方法は、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0078】
(実験例1)
本例においては、空間の体積Vc、中空部11の容積Vhin及び中空部11に外接する直方体Rの体積Vhoutを種々変更し、真空中でろう付を行った場合のろう付性を評価する。本例の熱交換器3は、実施例1と同様の形状を有する冷却ジャケット31である。
【0079】
本例においては、まず、実施例1と同様の形状を有する被処理物1及び治具2を準備する。被処理物1の中空部11の容積Vhin及び中空部11に外接する直方体Rの体積Vhoutは、表1に示す通りである。
【0080】
被処理物1の第1部品111及び第2部品112、つまり、ジャケット本体部311及びジャケット蓋部312となる部品は、心材と、心材の片面上に積層されたろう材とを有する片面ブレージングシートから構成されている。心材は、Al-1.2mass%の組成を有するA3003合金であり、ろう材は、Al-10mass%Si-0.1mass%Biの組成を有するA4104合金である。
【0081】
第3部品113及び第4部品114、つまり、冷媒導入管316及び冷媒導出管317となる部品は、A6063合金から構成されている。本例においては、被処理物1の第1部品111と第2部品112との間に、ろう付後にインナーフィンとなる第5部品(図示略)を配置する。第5部品はA3003合金から構成され、コルゲート加工が施された板材である。
【0082】
第1部品111~第5部品を準備した後、アセトンを用いてこれらの部品に脱脂洗浄を施す。そして、脱脂洗浄後の第1部品111~第5部品を用いて被処理物1を組み立てる。
【0083】
本例の治具2は、実施例1と同様の形状を有しており、表1に示すように、ステンレス鋼または黒鉛のいずれかから構成されている。また、黒鉛製の治具2の一部については、その内表面に、炭化ケイ素、熱分解炭素またはガラス状炭素からなる保護層が設けられている。治具2の収容空間22の体積Vcは、表1に示す通りである。
【0084】
次に、被処理物1を治具2の収容空間22内に配置する。この際、表1に示すように、一部の被処理物1については、治具2と被処理物1との間に鱗状黒鉛からなる厚み0.15mmの潤滑シートを介在させる。被処理物1を治具2内に収容した後、治具頂壁部213と治具蓋部212との間に被処理物1を拘束する。
【0085】
その後、真空ろう付炉を用いて被処理物1のろう付を行う。ろう付の具体的な条件は、以下の通りである。まず、炉内に被処理物1を配置した後、炉内のガスを排気して圧力を0.4Paにする。その後、約45分間かけて被処理物1の温度が600℃となるまで加熱する。被処理物1の温度が600℃に達した時点で加熱を終了し、被処理物1が550℃になるまで放冷する。その後、炉内を窒素ガスで復圧する。
【0086】
以上により表1に示す試験体A1~A26を得ることができる。各試験体のろう付性は、ジャケット本体部311とジャケット蓋部312との間に形成されるろう付接合Jのうち、図5に示す、冷却ジャケット31の外表面側に形成される外周フィレットF1の形状及び内表面側に形成される内周フィレットF2の形状に基づいて評価することができる。
【0087】
本例では、ジャケット本体部311と冷媒導入管316との間のろう付接合J、及び、ジャケット本体部311と冷媒導出管317との間のろう付接合Jにおける、冷却ジャケット31の外表面側に形成される管部フィレットの形状についても評価を行う。更に、本例では、インナーフィンの接合率についても評価を行う。
【0088】
外周フィレットF1、内周フィレットF2及び管部フィレットを目視観察した結果を表1に記載する。表1に示した記号「A」は、ろう付接合Jの全長に亘って均一な幅のフィレットが形成されていることを示す記号である。記号「B」は、フィレットの幅に若干の変動があるものの、概ね均一な幅のフィレットが形成されていることを示す記号である。記号「C」は、フィレットがろう付接合Jを挟む2つの部品のうち片側のみに広がった不均一な部分を有することを示す記号である。記号「D」は、フィレットが形成されていない、いわゆるフィレット切れを有することを示す記号である。
【0089】
フィレットの形状の評価においては、概ね均一なフィレットが形成されている記号「A」及び「B」の場合を、ろう付性が良好であるため合格と判断し、フィレットの形状が不均一、または、フィレットが形成されない記号「C」及び「D」の場合を、ろう付性が悪いため不合格と判断した。
【0090】
インナーフィンの接合率を評価した結果を表1に記載する。本例のインナーフィンとジャケット本体部311とが完全に接合された場合、両者の間に20か所のろう付接合Jが形成される。また、インナーフィンとジャケット蓋部312とが完全に接合された場合、両者の間に20か所のろう付接合が形成される。また、各ろう付接合Jには、インナーフィンとジャケット本体部311またはジャケット蓋部312との当接部の両側にフィレットが形成される。従って、本例のインナーフィンと水冷ジャケット31との間には、最大80か所のフィレットが形成され得る。
【0091】
インナーフィンの接合率の評価においては、各試験体をインナーフィンの高さ方向の中央で切断し、フィレットの形成状態を目視観察する。そして、フィレット切れの数、つまり、インナーフィンの幅方向において不連続なフィレットの数に基づいて接合率を評価した。表1中の「フィンの接合率」欄には、フィレット切れの数が5か所未満の場合に記号「A」、5か所以上15か所未満の場合に記号「B」、15か所以上の場合に記号「C」を記載した。
【0092】
インナーフィンの接合率の評価においては、フィレット切れの数が15か所未満である記号「A」及び「B」の場合を、ろう付性が良好であるため合格と判断し、フィレット切れの数が15か所以上である記号「C」の場合を、ろう付性が悪いため不合格と判断した。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示すように、試験体A1~A14は、良好なろう付性を有している。また、これらの試験体のうち、ステンレス鋼からなる治具2を用いた試験体A1~A5、潤滑シートを用いた試験体A11及び保護層を有する治具2を用いた試験体A12~A14は、ろう付後に治具2からの摩耗粉が発生しないため、摩耗粉による熱交換器3や作業環境の汚染を抑制することができる。
【0095】
一方、試験体A15~A26は、内周フィレットF2の形状が不均一になるか、または、フィレット切れが発生する。
【0096】
本例において作製した試験体のVc-Vhoutの値を縦軸に、2・Vhinの値を横軸にとったプロットを図9に示す。なお、図9においては、ろう付性が合格であった試験体を「〇」の記号により示し、ろう付性が不合格であった試験体を「×」の記号により示した。また、図9中には、Vc-Vhout=2・Vhinを示す直線Lを破線により示した。
【0097】
図9に示すように、ろう付性が合格であった試験体A1~A14を示すプロット点は直線Lの下方に位置しており、ろう付性が不合格であった試験体A15~A26を示す記号は直線Lの上方に位置している。これらの結果から、Vc-Vhout≦2・Vhinを満足する被処理物1と治具2とを使用してろう付を行うことにより、中空部11の外部と内部とを隔てる部分に健全なろう付接合Jを形成できることが理解できる。
【0098】
(実験例2)
本例は、実験例1におけるろう付を、不活性ガスとしての窒素中で行う例である。本例においては、第1部品111及び第2部品112を構成するブレージングシートとして、0.6mass%のMgを含有するA6951合金からなる心材と、Al-10mass%Si-0.009mass%Be-0.015mass%Biの組成を有するアルミニウム合金からなるろう材とを備えた片面ブレージングシートを使用する。
【0099】
また、ろう付に、前室と、前室に連なるろう付室とを備えた2室式のろう付炉を使用する。前室及びろう付室内は、不活性ガスとしての窒素で満たされている。本例では、被処理物1を前室内に配置した後、被処理物1を加熱して温度を450℃とする。その後、治具2ごと被処理物1をろう付室内に移動する。ろう付室内で被処理物1を加熱し、温度が600℃に到達した時点で加熱を完了する。加熱後の熱交換器3を前室に移動し、550℃まで冷却した後に炉外に取り出す。その他は実験例1と同様である。
【0100】
表2に、本例の冷却ジャケット31(試験体B1~B26)におけるろう付性の評価結果を示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2に示すように、試験体B1~B14は、良好なろう付性を有している。また、これらの試験体のうち、ステンレス鋼からなる治具2を用いた試験体B1~B5、潤滑シートを用いた試験体B11及び保護層を有する治具2を用いた試験体B12~B14は、ろう付後に治具2からの摩耗粉が発生しないため、摩耗粉による熱交換器3や作業環境の汚染を抑制することができる。
【0103】
一方、試験体B15~B26は、外周フィレットF1の形状が不均一になるか、または、フィレット切れが発生する。
【0104】
表2に示す結果から、窒素中でろう付を行う場合にも、真空中とでのろう付と同様に、Vc-Vhout≦2・Vhinを満足する被処理物1と治具2とを使用してろう付を行うことにより、中空部11の外部と内部とを隔てる部分に健全なろう付接合Jを形成できることが理解できる。
【0105】
(実験例3)
本例は、ろう付後の冷却ジャケット31の歪みを評価した例である。本例では、三次元測定機を用いて実験例1において作製した試験体A1、A6及び実験例2において作製した試験体B1、B6の形状を測定する。そして、ジャケット頂壁部313とジャケット蓋部312との平坦度を算出する。
【0106】
黒鉛からなる治具2を用いて作製された試験体A6、B6におけるジャケット頂壁部313とジャケット蓋部312との平坦度は0.05mm未満である。一方、ステンレス鋼からなる治具2を用いて作製された試験体A1、B1におけるジャケット頂壁部313とジャケット蓋部312との平坦度は0.15mm以上であり、試験体A6、B6よりも平坦度が大きい。これは、ステンレス鋼の線膨張係数が黒鉛よりも大きいため、ろう付加熱中に治具2が熱膨張して被処理物1の拘束がわずかに緩むためと考えられる。
【0107】
これらの結果から、例えば発熱体搭載面に半導体装置を搭載する場合などの、発熱体搭載面の平坦度を高くすることが求められる用途においては、黒鉛製の治具2を使用することが好ましいことが理解できる。
【0108】
本発明に係る熱交換器3の製造方法は、前述した実施例及び実験例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【符号の説明】
【0109】
1、102 被処理物
11、12 中空部
2、202 治具
21、23 壁部
22 収容空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9