(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】磁器天板の設置構造
(51)【国際特許分類】
A47B 96/18 20060101AFI20221117BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A47B96/18 D
B32B7/12
(21)【出願番号】P 2018192503
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】593078279
【氏名又は名称】吉本産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】吉本 明義
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-047307(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011119976(DE,A1)
【文献】独国実用新案第202014103955(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47B 77/00、96/18
B32B 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁器天板と、前記磁器天板の下方に配置される補強材と、前記磁器天板及び前記補強材の間に配置される接着層と、を備え、
前記接着層は、不飽和ポリエステルと炭酸カルシウムを含み、
前記接着層のJISK6253-3(2012年)に記載のDタイプで測定したゴム硬度と前記接着層の厚みとの関係が、
前記ゴム硬度が、50以上70未満のとき、前記接着層の厚みは、0.4mm以上0.8mm以下の範囲内、
前記ゴム硬度が、70以上
75以下のとき、前記接着層の厚みは、0.5mm以上0.8mm以下の範囲内、
前記ゴム硬度が、40以上50未満のとき、前記接着層の厚みは、0.3mm以上0.4mm未満の範囲内、
前記ゴム硬度が、
35以上40未満のとき、前記接着層の厚みは、0.5mm以上0.8mm以下の範囲内
、を満たす、
前記磁器天板と、前記補強材と、前記接着層とが一体化された磁器天板の設置構造。
【請求項2】
前記ゴム硬度は、50以上60未満のとき、前記接着層の厚みは、0.4mm以上0.5mm以下の範囲内である、請求項1に記載の磁器天板の設置構造。
【請求項3】
前記ゴム硬度は、60以上70未満のとき、前記接着層の厚みは、0.5mm以上0.8mm以下の範囲内である、請求項1に記載の磁器天板の設置構造。
【請求項4】
前記接着層は、硬化性接着剤を硬化させてなる請求項1~3のいずれか1項に記載の磁器天板の設置構造。
【請求項5】
前記磁器天板の厚みは、5mm~7mmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の磁器天板の設置構造。
【請求項6】
前記磁器天板は、台所用流し台のカウンターに用いられる、請求項1~5のいずれか1項に記載の磁器天板の設置構造。
【請求項7】
前記磁器天板は、洗面台のカウンターに用いられる、請求項1~5のいずれか1項に記載の磁器天板の設置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁器天板の設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キッチンや化粧台等のシンクに、セラミック等の磁器製の天板を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。磁器天板は、耐熱性及びキズ等に対する耐久性が高く、かつすぐれた意匠性を有するため、近年広く用いられるようになった。磁器天板は、キズ等に対しては耐久性が高いが、上から物が落ちた場合等、一点に衝撃を受けた場合に割れやすいという性質を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合板と磁器天板の間にガラス繊維やクロス等を挟んだ場合でも、これによって耐衝撃性が特に高まるということはなかった。また、接着層を厚くしすぎても、薄くしすぎても、一点に衝撃を受けた場合の強度は安定しない。このため、磁器天板をシンク等に利用する場合に、より耐衝撃性の高い磁器天板の設置構造が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、磁器天板と、前記磁器天板の下方に配置される補強材と、前記磁器天板及び前記補強材の間に配置される接着層と、を備え、前記接着層のJISK6253-3(2012年)に記載のDタイプで測定したゴム硬度と前記接着層の厚みとの関係が、前記ゴム硬度が、50以上70未満のとき、前記接着層の厚みは、0.4mm以上0.8mm以下の範囲内、前記ゴム硬度が、70以上80以下のとき、前記接着層の厚みは、0.5mm以上0.8mm以下の範囲内、前記ゴム硬度が、40以上50未満のとき、前記接着層の厚みは、0.3mm以上0.4mm未満の範囲内、前記ゴム硬度が、30以上40未満のとき、前記接着層の厚みは、0.5mm以上0.8mm以下の範囲内、のいずれかを満たし、前記磁器天板と、前記補強材と、前記接着層とが一体化された磁器天板の設置構造に関する。
【0006】
前記ゴム硬度は、50以上60未満のとき、前記接着層の厚みは、0.4mm以上0.5mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0007】
前記ゴム硬度は、60以上70未満のとき、前記接着層の厚みは、0.5mm以上0.8mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0008】
前記接着層は、硬化性接着剤を硬化させてなることが好ましい。
【0009】
前記磁器天板の厚みは、5mm~7mmであることが好ましい。
【0010】
前記磁器天板は、台所用流し台のカウンターに用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より耐衝撃性の高い磁器天板の設置構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発実施形態の磁器天板の設置構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、
図1を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の磁器天板の設置構造1は、磁器天板2及び下地材4が接着剤により接着され、下地材4、接着層3、磁器天板2が下から順に積層されて構成される。
【0014】
下地材4は、台所のシンク周囲の上面に配置される木製の所謂ベニヤ板である。下地材4の厚さは、例えば9mm~15mm程度であり、好ましくは11mm~13mm、さらに好ましくは11.5mm~12.5mmである。
【0015】
磁器天板2は、1200℃~1400℃程度の高温で焼成された吸水性の低い板材である。磁器天板2は、キッチンの流し台のカウンターの最上面を構成する天板として用いられる。磁器天板2の厚さは、例えば5mm以上13mm以下程度であり、好ましくは5mm以上7mm以下であり、さらに好ましくは5.5mm以上6.6mm以下である。
【0016】
図1に示すように、下地材4の上に接着剤が塗布されて接着層3を形成し、磁器天板2は、接着剤により直接下地材4に固定される。
【0017】
接着剤は、硬化性接着剤である。硬化性接着剤としては、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂系接着剤が挙げられる。硬化性接着剤を用いることにより、磁器天板2と、硬化性接着剤が硬化して形成される接着層3と、下地材4とが一体化する。一体化することで、磁器天板2と接着層3との間、接着層3と下地材4との間にずれが生じにくくなり、一点に衝撃を受けた場合の耐衝撃性が高まる。
【0018】
一方、ゴム系溶剤型及び熱可塑性の接着剤を用いた場合、粘着による接着であるため、ずれやすく、接着後に磁器天板2と下地材4との間で動きやすい。また、ゴム系溶剤型及び熱可塑性の接着剤は、厚みを増やすことが難しく、十分な耐衝撃性は得づらい。
【0019】
接着剤のゴム硬度は、JISK6253-3(2012年)に記載のDタイプで測定した値で30~80の間とすることができる。
接着剤のゴム硬度は、硬化性の接着剤に、炭酸カルシウムを混練する量を調整することで変化させることができる。炭酸カルシウムは、接着剤を補強及び安定性を向上させるとともに、厚みを増加させる観点で混練される。炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム(GCC)、軽質炭酸カルシウム(PCC)のいずれでもよい。
ゴム硬度を調整する材料は炭酸カルシウムに限定されない。例えば他に、水酸化アルミニウム、シリカ、溶融シリカ、硫酸バリウム、タルク、マイカ、クレー、ガラスパウダー等が挙げられる。
また、他に、硬化剤、硬化促進剤を添加してもよい。硬化剤としては、常温系硬化剤のケトンパーオキサイド系硬化剤(例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド等)が例示できる。
【0020】
接着剤のゴム硬度と落球の耐衝撃性向上には、一定の関係性が認められる。すなわち、ゴム硬度が極端に柔軟な場合(ゴム硬度が30未満)は、衝撃に耐えづらくなる。ゴム硬度を柔軟に構成しても衝撃に耐え得るためには、接着層3の厚みを大きくすることが必要となる(ゴム硬度が30以上40未満)。ゴム硬度を硬くしすぎると(ゴム硬度が70以上80未満)柔軟性が乏しくなるため、やはり接着層の厚みを大きくすることが必要となる。
【0021】
一方で、ゴム硬度が柔軟でありながらも、一定の範囲内においては、接着層3を薄くした方がよい場合もある。具体的には、ゴム硬度が40以上50未満のとき、接着層3は0.3m以上0.4mm未満の範囲では良好な耐衝撃性を有する。しかし、このゴム硬度の範囲で接着層の厚みを大きくすると、良好な耐衝撃性は得にくくなる。これは、接着層3の厚みを大きくすることで磁器天板2と下地材4との間で接着層が動きやすくなるが、ゴム硬度が0以上40未満の接着層3ほどには接着層3が柔軟でないために、耐衝撃性が乏しくなるものと思われる。
なお、本明細書において、接着層3の厚さを言う場合、厚さの値は、磁器天板の設置構造1の任意の辺を、各辺の中央部で測定し、測定した値の平均値である。
【0022】
ゴム硬度が50以上70未満の範囲では、接着層3の厚みの幅が0.4mm以上0.8mmの範囲で、良好な耐衝撃性が得られるので、接着層の厚みの幅を広く設定できる。特に、ゴム硬度が50以上60未満のときは接着層の厚みが0.4mm以上0.5mm以下の範囲、ゴム硬度が60以上70未満のときは接着層の厚みが0.5mm以上0.8mm以下の範囲が好ましい。
【0023】
なお、接着層3にガラス繊維又は麻布(ヘッシャンクロス)等の無機繊維又は有機繊維を配置した場合、これらの布地を配置することで、耐衝撃性が向上することはない。しかし、接着層3を厚く形成する場合には、繊維を間に介在させることで接着層3の厚みを保持することができ、また、使用する接着剤の量を低減することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
例えば、磁器天板2の厚さは、実施例では6mmであるが、厚さ12mmの磁器天板を用いてもよい。また、磁器天板2は、キッチンの流し台のカウンターに限定されず、どのような場所で用いてもよい。例えば、洗面台のカウンターや調理台等、特に高い硬度や耐熱性が要求される板として好ましく用いられる。
【0025】
<接着剤の製造>
実施例1~5及び比較例の接着剤には、不飽和ポリエステル樹脂の接着剤(日本ユピカ株式会社製、商品名「ユピカ」(登録商標)銘柄8671)を用いた。
比較例1では上記接着剤を100%使用した。
実施例1では、上記接着剤を100質量部及び炭酸カルシウム25質量部を含んで混練し、製造した。
実施例2では、上記接着剤を100質量部及び炭酸カルシウム50質量部を含んで混練し、製造した。
実施例3では、上記接着剤を100質量部及び炭酸カルシウム100質量部を含んで混練し、製造した。
実施例4では、上記接着剤を100質量部及び炭酸カルシウム150質量部を含んで混練し、製造した。
実施例5では、上記接着剤を100質量部及び炭酸カルシウム220質量部を含んで混練し、製造した。
【0026】
<ゴム硬度の測定>
上記製造した接着剤を、厚さ12mmのベニヤ板の上に塗布し、株式会社テクロック製の測定器GS-720Hを用いて、JISK6253-3(2012年)に記載のDタイプで測定した。具体的には、接着剤の表面に、上記の測定器の押針を3秒間押圧して測定し、得られた最大硬度をゴム硬度とした。測定は、接着剤の塗布後24時間後に行った。値は表1に示す。
【0027】
<磁器天板の設置構造の製造>
接着剤が完全に硬化する前に、接着剤で形成される接着層3の上に、厚さ6mmの磁器天板2を載せ、硬化するまで24時間放置した。これにより、下から順にベニヤ板、接着剤、磁器天板を積層して、四角形の一辺が230mmの磁器天板の設置構造の試験片を得た。得られた磁器天板の設置構造において、接着層の厚さは、四つの辺における各辺の中央部で測定し、測定した四辺の値の平均値とした。
【0028】
<落球試験>
以上の通り得られた磁器天板の設置構造において、磁器天板2の中央部の垂直線上の上方1mの高さから、重さ1Kgのなす形の錘を落下させ、破損の有無を評価した。得られた結果を表1に示す。試験は、各条件で3回ずつ行った。表1において、〇は1回の試験で破損が見られなかった場合、◎は2回以上破損が見られなかった場合、×は破損が観察された場合を示す。
【0029】
【0030】
<評価>
実施例1に示すように、接着剤のゴム硬度が相対的に柔らかい場合、接着層の厚みを大きくする必要があることがわかる。
一方、実施例5に示すように、接着剤のゴム硬度が相対的に硬い場合、やはり接着層の厚みを大きくする必要があることがわかる。
実施例2に示すように、ゴム硬度が45のとき、接着層の厚みを最も薄くすることができた。
実施例3~4に示すゴム硬度のとき、接着層の厚みが広い範囲で許容され、耐衝撃性を良好なものとすることができる。
なお、接着剤のゴム硬度が25のとき、好ましい耐衝撃性が得られなかった。
【符号の説明】
【0031】
1 磁器天板の設置構造
2 磁器天板
3 接着層
4 下地材