(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】レーザー印字用組成物及びその製造方法、並びにレーザー印字用成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20221117BHJP
C08K 5/1545 20060101ALI20221117BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20221117BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20221117BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221117BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20221117BHJP
C08K 5/02 20060101ALI20221117BHJP
B23K 26/00 20140101ALN20221117BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/1545
C08K5/00
C08K3/01
C08K3/22
C08K3/38
C08K5/02
B23K26/00 B
(21)【出願番号】P 2018213492
(22)【出願日】2018-11-14
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】591258587
【氏名又は名称】日本カラリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】水谷 竜也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 章
(72)【発明者】
【氏名】赤松 正
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/075101(WO,A1)
【文献】特開2003-321615(JP,A)
【文献】特開2001-026181(JP,A)
【文献】特開平04-045125(JP,A)
【文献】特開平09-164763(JP,A)
【文献】特開平09-302236(JP,A)
【文献】特表2018-506593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)と、
ラクトン骨格を有する化合物を含むレーザー発色剤(B1)及びトリアリールメタン骨格を有する化合物を含むレーザー発色剤(B2)よりなる群から選択される少なくとも1種のレーザー発色剤(B)と、
第一酸解離定数(pKa)が9以上である化合物(C)と、
を含有し、
前記化合物(C)が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸カリウム、及びギ酸カリウムよりなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記重合体(A)100質量部に対して、前記レーザー発色剤(B)を0.05質量部以上25質量部以下含有
し、
前記重合体(A)100質量部に対して、前記化合物(C)を0.0001質量部以上1質量部以下含有する、レーザー印字用組成物。
【請求項2】
前記レーザー発色剤(B)の含有量をM
B(質量部)、前記化合物(C)の含有量をM
C(質量部)としたときに、M
C/M
Bが0.005~10である、請求項
1に記載のレーザー印字用組成物。
【請求項3】
前記ラクトン骨格を有する化合物が、フルオラン骨格を有する化合物である、請求項1
または請求項
2に記載のレーザー印字用組成物。
【請求項4】
さらに、六ホウ化ランタン、酸化タングステンセシウム、酸化インジウム錫(ITO)及び酸化アンチモン錫よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、請求項1ないし請求項
3のいずれか一項に記載のレーザー印字用組成物。
【請求項5】
さらに、有機ハロゲン化物を含有する、請求項1ないし請求項
4のいずれか一項に記載のレーザー印字用組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項
5のいずれか一項に記載のレーザー印字用組成物を用いて作成さ
れたレーザー印字用成形体。
【請求項7】
レーザー発色剤(B)と第一酸解離定数(pKa)が9以上である化合物(C)とを混合した後に、それらと重合体(A)とを混合する工程を備え
、
前記レーザー発色剤(B)が、ラクトン骨格を有する化合物を含むレーザー発色剤(B1)及びトリアリールメタン骨格を有する化合物を含むレーザー発色剤(B2)よりなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記化合物(C)が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸カリウム、及びギ酸カリウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、レーザー印字用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー印字用組成物及びその製造方法、並びに該組成物を用いて作成されたレーザー印字用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
成形体にレーザーを照射し、発色させて文字、記号、図柄等を印字する方法が知られている。具体的には、白色、黒色、白色及び黒色以外の単色をレーザー照射により発色させる技術(例えば、特許文献1参照)や、成形体の表面に発色層を作成し、その発色層にレーザーを照射して発色する技術(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-083242号公報
【文献】特表2016-539031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の印字方法では、成形体を作成するための組成物の混練工程や成形工程において熱が発生し、その熱によって発色剤が反応して組成物自体が着色してしまうことがあった。このため、熱による着色を抑制するためには、特許文献2に示す技術のように成形体の表面に発色層を別途設ける等の成形体の工夫が必要であった。
【0005】
また、従来のレーザー印字用成形体は、レーザー照射により有彩色を発色させた印字部においてレーザー発色剤がブリードアウトし、該印字部に他の材料が接触することにより、他の材料に色移りすることがあった。そのため、レーザー印字用成形体に形成された印字部においては、レーザー発色剤のブリードアウトを抑制する必要があった。
【0006】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、混練工程や成形工程を経ても発色せず、レーザー照射により有彩色を発色し得る機能を有し、かつ、レーザー発色剤のブリードアウトを抑制できる成形体を容易に作成するためのレーザー印字用組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの態様として実現することができる。
【0008】
本発明に係るレーザー印字用組成物の一態様は、
重合体(A)と、
ラクトン骨格を有する化合物を含むレーザー発色剤(B1)及びトリアリールメタン骨格を有する化合物を含むレーザー発色剤(B2)よりなる群から選択される少なくとも1種のレーザー発色剤(B)と、
第一酸解離定数(pKa)が9以上である化合物(C)と、
を含有し、
前記重合体(A)100質量部に対して、前記レーザー発色剤(B)を0.05質量部以上25質量部以下含有する。
【0009】
前記レーザー印字用組成物の一態様において、
前記重合体(A)100質量部に対して、前記化合物(C)を0.0001質量部以上
1質量部以下含有することができる。
【0010】
前記レーザー印字用組成物のいずれかの態様において、
前記化合物(C)が塩を含まない場合、
前記レーザー発色剤(B)の含有量をMB(質量部)、前記化合物(C)の含有量をMC(質量部)としたときに、MC/MBが0.001~0.1であることができる。
【0011】
前記レーザー印字用組成物のいずれかの態様において、
前記化合物(C)が塩を含む場合、
前記レーザー発色剤(B)の含有量をMB(質量部)、前記化合物(C)の含有量をMC(質量部)としたときに、MC/MBが0.005~10であることができる。
【0012】
前記レーザー印字用組成物のいずれかの態様において、
前記ラクトン骨格を有する化合物が、フルオラン骨格を有する化合物であることができる。
【0013】
前記レーザー印字用組成物のいずれかの態様において、
前記化合物(C)が、第一酸解離定数(pKa)が9以上の、金属水酸化物、有機アンモニウム塩、有機カリウム塩、アミン及びアンモニアよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることができる。
【0014】
前記レーザー印字用組成物のいずれかの態様において、
前記化合物(C)が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、ギ酸アンモニウム及びギ酸カリウムよりなる群から選択される少なくとも1種であることができる。
【0015】
前記レーザー印字用組成物のいずれかの態様において、
さらに、六ホウ化ランタン、酸化タングステンセシウム、酸化インジウム錫(ITO)及び酸化アンチモン錫よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有することができる。
【0016】
前記レーザー印字用組成物のいずれかの態様において、
さらに、有機ハロゲン化物を含有することができる。
【0017】
本発明に係るレーザー印字用成形体の一態様は、
前記いずれかの態様のレーザー印字用組成物を用いて作成されたものである。
【0018】
本発明に係るレーザー印字用組成物の製造方法の一態様は、
レーザー発色剤(B)と第一酸解離定数(pKa)が9以上である化合物(C)とを混合した後に、それらと重合体(A)とを混合する工程を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るレーザー印字用組成物の一態様によれば、混練工程や成形工程を経ても発色せず、レーザー照射により有彩色を発色し得る機能を有し、かつ、印字部におけるレーザー発色剤のブリードアウトを抑制できるレーザー印字用成形体を容易に作成することができる。また、本発明に係るレーザー印字用組成物の一態様によれば、有彩色を発色し得る機能を付与するために成形体の表面に別途発色層を設ける必要がなく、成形体を作成するだけで前記機能を成形体に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】レーザー印字方法の一例を説明するための概念図である。
【
図2】レーザー印字方法の一例を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0022】
本明細書において、「~」を用いて記載された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味である。
【0023】
本発明における「レーザー印字」とは、レーザー照射により有彩色を発色させることをいい、1以上の有彩色を発色させればさらに無彩色を発色させることを含んでもよい。
【0024】
本明細書において、「有彩色」とは、色相、明度、彩度の三次元を併せ持つ色であり、例えば赤、青、黄、緑、紫、青緑などがある。本明細書において、「無彩色」とは、明度の次元しか含まれない色であり、例えば白、灰、黒などがある。
【0025】
1.レーザー印字用組成物
本実施形態に係るレーザー印字用組成物は、重合体(A)と、ラクトン骨格を有する化合物を含むレーザー発色剤(B1)及びトリアリールメタン骨格を有する化合物を含むレーザー発色剤(B2)よりなる群から選択される少なくとも1種のレーザー発色剤(B)と、第一酸解離定数(pKa)が9以上である化合物と、を含有する。以下、本実施形態に係るレーザー印字用組成物について詳細に説明する。
【0026】
1.1.重合体(A)
本実施形態に係るレーザー印字用組成物は、重合体(A)を含有する。重合体(A)は、組成物を成形して得られる成形体の基材としての機能を有する。
【0027】
重合体(A)としては、公知の材料を使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などのポリエステル系重合体;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル系重合体;ポリアセタール(POM)系重合体;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;ポリスチレン(PS)等を使用することができる。これらの中でも、機械的強度に優れた透明ないし白色不透明の成形体が得られることから、ポリメタクリル酸メチル、ポリアセタール系重合体、ポリエチレン及びポリスチレンよりなる群から選択される1種の重合体であることが好ましい。透明ないし白色不透明の成形体とすることで、有彩色や無彩色の鮮明な印字が可能となる。
【0028】
1.2.レーザー発色剤(B)
本実施形態に係るレーザー印字用組成物は、ラクトン骨格を有する化合物を含むレーザー発色剤(B1)及びトリアリールメタン骨格を有する化合物を含むレーザー発色剤(B2)よりなる群から選択される少なくとも1種のレーザー発色剤(B)を含有する。
【0029】
レーザー発色剤(B)としては、ロイコ色素が好ましい。本明細書において「ロイコ色素」とは、レーザーを照射することにより着色する機能を有する化合物のことをいう。
【0030】
レーザー発色剤(B)の含有割合の下限値は、前記重合体(A)100質量部に対して、0.05質量部であり、好ましくは0.1質量部であり、より好ましくは0.2質量部
であり、特に好ましくは0.3質量部である。レーザー発色剤(B)の含有割合の上限値は、25質量部であり、好ましくは10質量部であり、より好ましくは5質量部である。レーザー発色剤(B)の含有割合が前記範囲にあると、レーザー照射により有彩色を発色し得る機能を成形体に付与することができるとともに、得られる成形体の印字部におけるレーザー発色剤(B)のブリードアウトを抑制できる場合がある。
【0031】
1.2.1.レーザー発色剤(B1)
レーザー発色剤(B1)は、ラクトン骨格を有する化合物を含む。ラクトン骨格を有する化合物は、レーザー照射によって分子内に有するラクトン環が開環状態となることにより発色する。このようなラクトン骨格を有する化合物の中でも、フルオラン骨格を有する化合物であることが好ましい。
【0032】
ラクトン骨格を有する化合物の市販品としては、RED40、BLUE63(以上、山本化成株式会社製)、RED500、CVL、LCV-L、BLACK305(以上、山田化学工業株式会社製)等を好ましく使用することができる。
【0033】
レーザー発色剤(B1)の含有割合は、重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上25質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上10質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上5質量部以下であることが特に好ましい。
【0034】
1.2.2.レーザー発色剤(B2)
レーザー発色剤(B2)は、トリアリールメタン骨格を有する化合物を含む。トリアリールメタン骨格を有する化合物としては、4,4’-テトラメチルジアミノトリフェニルメタン、トリス(4-ジメチルアミノフェニル)メタン等が挙げられる。
【0035】
トリアリールメタン骨格を有する化合物の市販品としては、ロイコマラカイトグリーン(東京化成工業株式会社製)、ロイコクリスタルバイオレット(富士フイルム和光純薬株式会社製)等を好ましく使用することができる。
【0036】
レーザー発色剤(B2)の含有割合は、重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上25質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上10質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上5質量部以下であることが特に好ましい。
【0037】
1.3.第一酸解離定数(pKa)が9以上である化合物(C)
本実施形態に係るレーザー印字用組成物は、第一酸解離定数(pKa)が9以上である化合物(C)(本明細書において、単に「化合物(C)」又は「(C)成分」ともいう。)を含有する。本実施形態に係るレーザー印字用組成物が、第一酸解離定数(pKa)が9以上である化合物(C)を含有することにより、混練工程や成形工程を経ても着色を効果的に抑制できることが判明した。
【0038】
(C)成分における第一酸解離定数(pKa)は、溶媒を25℃の水としたときの値であり、例えば(a)The Journal of Physical Chemistry vol.68, number6, page1560 (1964)記載の方法、(b)平沼産業株式会社製の電位差自動滴定装置(COM-980Win等)を用いる方法等により測定することができ、また、(c)日本化学会編の化学便覧(改訂3版、昭和59年6月25日、丸善株式会社発行)に記載の酸解離指数、(d)コンピュドラッグ(Compudrug)社製のpKaBASE等のデータベース等を利用することができる。なお、多段階電離する化合物における第一酸解離定数(pKa)とは、第一段階目の電離におけるpKa値のことをいう。
【0039】
(C)成分としては、第一酸解離定数(pKa)が9以上である化合物であれば特に限定されないが、金属水酸化物、有機アンモニウム塩、有機カリウム塩、アミン及びアンモニアよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0040】
(C)成分の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等の金属水酸化物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム等の有機アンモニウム塩;酢酸カリウム、ギ酸カリウム等の有機カリウム塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、1,3-プロパンジアミン等の第一級アミン;ピペリジン、ピペラジン等の第二級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミンアンモニア等の第三級アミン;アンモニアの他、ヨウ化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、酸化鉄、塩化錫、水素化シアノホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。これらの(C)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0041】
これらの(C)成分の中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、ギ酸アンモニウム及びギ酸カリウムよりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0042】
(C)成分の含有割合の下限値は、前記重合体(A)100質量に対して、好ましくは0.0001質量部であり、より好ましくは0.001質量部であり、さらにより好ましくは0.003質量部であり、特に好ましくは0.005質量部である。(C)成分の含有割合の上限値は、前記重合体(A)100質量部に対して、好ましくは1質量部であり、より好ましくは0.7質量部であり、特に好ましくは0.5質量部である。(C)成分の含有割合が前記範囲にあると、混練工程や成形工程を経ても組成物や成形体の着色をより効果的に抑制できる。
【0043】
レーザー発色剤(B)に対する(C)成分の好ましい含有割合は、(C)成分が塩を含む場合と(C)成分が塩を含まない場合とで異なる。
【0044】
(C)成分が塩を含まない場合における(C)成分の含有割合は、レーザー発色剤(B)の含有量をMB(質量部)、化合物(C)の含有量をMC(質量部)としたときに、MC/MBの値が0.001~0.1であることが好ましく、0.003~0.05がより好ましい。(C)成分が塩を含まない場合、MC/MBが前記範囲であると、混練工程や成形工程を経ても組成物や成形体の着色をより効果的に抑制できる。
【0045】
(C)成分が塩を含む場合における(C)成分の含有割合は、レーザー発色剤(B)の含有量をMB(質量部)、化合物(C)の含有量をMC(質量部)としたときに、MC/MBの値が0.005~10であることが好ましく、0.01~5であることがより好ましい。(C)成分が塩を含まない場合、MC/MBが前記範囲であると、混練工程や成形工程を経ても組成物や成形体の着色をより効果的に抑制でき、また成形体の耐候性をより向上させることができる。
【0046】
1.4.その他の添加剤
本実施形態に係るレーザー印字用組成物は、上述した成分以外にその他の添加剤を目的
、用途に応じて含有することができる。その他の添加剤としては、例えば、顕色剤、フィラー等が挙げられる。
【0047】
1.4.1.顕色剤
顕色剤は、レーザー照射によって印字する際に、レーザー照射によってレーザー発色剤(B1)やレーザー発色剤(B2)に作用することにより発色させる機能を有する。顕色剤としては、有機ハロゲン化物を使用することが好ましい。有機ハロゲン化物としては、例えば、ジブロモベンゼン、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、ペンタブロモジフェニルエーテル、ジクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン等が挙げられる。これらの顕色剤は、1種単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0048】
顕色剤の含有割合は、重合体(A)100質量部に対して、0.1~15質量部であることが好ましく、0.2~12質量部であることがより好ましい。
【0049】
1.4.2.フィラー
フィラーは、レーザー照射によって印字する際に電磁線を熱に転換して、主にレーザー発色剤(B1)を熱により発色させる機能を有する。このようなフィラーとしては、アルミニウム、ニッケル、金、銀、銅、鉄、ステンレス鋼(SUS)等の金属粒子;酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化インジウム錫(ITO)、酸化アンチモン錫、酸化タングステンセシウム等の金属酸化物粒子;カーボンブラック、六ホウ化ランタン等が挙げられる。これらのフィラーの中でも、六ホウ化ランタン、酸化タングステンセシウム、酸化インジウム錫(ITO)及び酸化アンチモン錫よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。これらのフィラーは、1種単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0050】
フィラーの含有割合は、重合体(A)100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましく、0.03~3質量部であることがより好ましく、0.05~1質量部であることが特に好ましい。
【0051】
1.5.レーザー印字用組成物の製造方法
本実施形態に係るレーザー印字用組成物は、例えば、上記各原料成分を、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等に投入し、混練りする等の方法によって製造することができる。混練方法としては、各成分を一括添加してもよいし、多段添加方式で混練りしてもよい。
【0052】
本実施形態に係るレーザー印字用組成物によれば、混練工程や成形工程を経ても組成物や成形体が着色せず、レーザー照射により有彩色を発色し得る機能を有する成形体を作成することができる。
【0053】
2.レーザー印字用成形体
上記レーザー印字用組成物のペレットを、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、フィルム押出、シート押出、真空成形、発泡成形、ブロー成形等の方法によって、所定形状を有するレーザー印字用成形体を作成することができる。
【0054】
レーザー印字用成形体の形状は、目的及び用途に応じて様々な形状の成形体が選択可能であり、レーザー光が照射可能であれば、印字される部分が平面、曲面、角部を有する凹凸面等であってもよい。
【0055】
3.印字方法
上述のようにして得られたレーザー印字用成形体に対し、レーザー光を照射することに
より、レーザーを照射した部分に有彩色を発色させることができる。すなわち、レーザー光照射により上記のレーザー発色剤(B)が発色するので、印字が可能となる。
【0056】
一般的に、レーザー光の「エネルギー」は、レーザー光の照射条件に依存する。具体的には、照射するレーザー光の種類、波長、パルス幅、周波数、出力の他、照射時間、照射面積、光源からレーザー印字用成形体までの距離と角度、照射方法等を変えることにより、2以上のレーザー光を照射する際の「異なるエネルギーを有する」レーザー光を照射してもよい。例えば、波長の異なるレーザー光を用いて2つの異なるエネルギーを有するレーザー光を照射してもよく、また、同一波長のレーザー光の照射条件を変化させて2つの異なるエネルギーを有するレーザー光を照射してもよい。
【0057】
レーザー光の照射方法としては、スキャン方式及びマスク方式のいずれでもよい。また、異なるエネルギーを有する2以上のレーザー光を同時に照射してもよいし、1つずつ照射してもよい。
【0058】
レーザー光の照射装置としては、一般的なレーザー印字用装置等を用いることができる。レーザー印字に際しては、1台の装置で異なるエネルギーを有する2以上のレーザー光を照射してもよいし、複数の装置を用いてもよい。レーザー印字が可能な装置としては、例えば、ロフィン・バーゼル社製レーザー印字システム「RSM50D型」、「RSM30D型」やキーエンス社製レーザー印字システム「MDU1000C」等を用いることができる。
【0059】
なお、本明細書において、例えば、波長1064nm、波長355nmのようにレーザー光の「波長」を示す数字は、いずれも中心波長を意味し、通常、±3%程度の誤差を含むものとする。
【0060】
2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を得る簡便な方法は、異なる波長のレーザー光を使用することである。例えば、波長だけが異なる2以上のレーザー光照射によりレーザー印字を行う場合、各レーザー光の波長の差は、好ましくは100nm以上、更に好ましくは200nm以上、特に好ましくは500nm以上である。なお、上限は、通常、1,500nmである。
【0061】
レーザー発色剤(B1)を発色させる際に使用する低エネルギーのレーザー光の波長は、700nm以上11000nm以下が好ましく、800nm以上1100nm以下がより好ましい。このような長波長のレーザーとしては、一般的にYAGレーザー、YVO4の近赤外レーザー(波長1064nm)、CO2レーザー(波長10600nm)等を好ましく使用することができる。
【0062】
レーザー発色剤(B2)を発色させる際に使用する高エネルギーのレーザー光の波長は、300nm以上700nm未満が好ましく、350nm以上600nm以下がより好ましい。このような短波長のレーザーとしては、一般的に、UVレーザー(波長355nm)、ブルーレーザー(波長455nm)、グリーンレーザー(波長532nm)等を好ましく使用することができる。
【0063】
以下、レーザー光照射による印字方法の具体例を図面を参照しながら説明するが、レーザー光照射による印字方法はこれらに限定されない。本実施形態に係るレーザー印字用成形体1に対し、レーザー光を照射する(
図1の〔I〕)。この際、2つの異なるエネルギーを有するレーザー光を照射してもよい。例えば、2つの異なるエネルギーを有するレーザーを照射する場合、レーザー光の照射は同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。また、目的とする色によっては、照射位置は異なっても良いし、重複して発色する色を混
合してもよい。低エネルギーのレーザー光の照射部は、レーザー発色剤(B1)に由来する色に印字(
図1の3a)され、一方、高エネルギーのレーザー光の照射部はレーザー発色剤(B2)に由来する色に印字(
図1の3b)される(
図1の〔II〕)。以上の要領で、2つ以上の異なる色調に印字された多色印字付き成形体2を得ることができる。
【0064】
また、レーザー印字用成形体1に対し、低エネルギーのレーザー光を照射することにより、広い面積のレーザー発色剤(B1)に由来する色の印字部(
図2の3a)を形成し、その後、該印字部の中に、高エネルギーのレーザー光を照射することにより、その照射部を、レーザー発色剤(B2)に由来する色とレーザー発色剤(B1)に由来する色との混色とした印字部(
図2の3b)を形成することができる。以上の要領で、2つ以上の異なる色調に印字された多色印字付き成形体2aを得ることができる。
【0065】
なお、このようにして作製された印字付き成形体は、印字部を有する面に保護層を備えてもよい。この保護層を構成する材料は、目的、用途に応じて選択すればよく、特に限定されない。
【0066】
印字付き成形体は、例えば、電気・電子用途、自動車用途、一般雑貨用途、建築部材等に有用であり、特に自動車部品、例えばエンジンルーム内のモジュール部品、インテークマニホールド、アンダーフード部品、ラジエター部品、インパネなどに用いるコックピットモジュール部品に用いることができる。その他の用途としては、例えば、パソコン、液晶プロジェクター、モバイル機器、携帯電話等の電子部品に有用である。
【0067】
4.実施例
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、本実施例における「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0068】
4.1.実施例1
4.1.1.レーザー印字用成形体の作成
表1に示す種類、質量部の各成分を、ラボプラストミル(東洋精機製、型番:4C150)にてスクリュー回転数100rpm、シリンダー温度200℃にて5分混練してレーザー印字用組成物を作成した。そして、得られたレーザー印字用組成物を圧縮プレス機にて200℃で5分予熱した後、30kgf/cm2で加圧成形し、直径90mmの円形で、厚み1mmの板状のレーザー印字用成形体を得た。
【0069】
4.1.2.印字工程
上記で得られたレーザー印字用成形体の表面に、スキャン速度600mm/s、出力1.3Wの条件で波長355nmのレーザーを照射(レーザー照射条件B)して日本カラリングの会社情報を記録した14mm×14mmの2次元バーコードを印字し、印字部の発色の色を確認した上で下記の印字の鮮明さの評価を行った。
【0070】
4.1.3.評価方法
<印字部の鮮明さ>
印字部を目視により下記評価基準により印字の鮮明さの評価を行った。結果を表1に示す。
(評価基準)
・印字の輪郭が鮮明である場合、良好と判断し「○」と表記した。
・印字の輪郭が不鮮明である場合、不良と判断し「×」と表記した。
【0071】
<生地色の発色>
レーザー印字用成形体を目視により観察し、生地色の着色を観察して下記評価基準により評価を行った。結果を表1に示す。
(評価基準)
・重合体(A)の色調と比較し、レーザー印字用成形体の色調に変化が認められない場合、成形加工により変質がないため良好と判断し「○」と表記した。
・重合体(A)の色調と比較し、レーザー印字用成形体の色調に変化が認められる場合、成形加工により変質が生じたため不良と判断し「×」と表記した。
【0072】
<ブリードアウト性>
印字部をベンコットによりふき取り、印字部が転写するかどうかについて下記評価基準により評価を行った。結果を表1に示す。
(評価基準)
・ベンコットへの転写が認められない場合、良好と判断し「○」と表記した。
・ベンコットへの転写が認められる場合、不良と判断し「×」と表記した。
【0073】
4.2.実施例2~17、比較例1~4
レーザー照射条件を適時変化させ、組成物の組成を表1または表2に記載の組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてレーザー印字用成形体を作成し、印字の鮮明さ、生地色の発色、ブリードアウト性の評価を行った。結果を表1又は表2に示す。
【0074】
4.3.実施例18、19
0.07質量%の水酸化ナトリウムのエタノール溶液50mLへ、表2に示すレーザー発色剤を10g添加し15分間撹拌を行った。その後、沈殿物を濾過し、表2に示す化合物(C)の含有量になるように、洗浄、乾燥した。このようにして作成した化合物(C)を担持させたものを、表2に示す種類、含有割合となるように各成分を混合し、ラボプラストミル(東洋精機製、型番:4C150)にてスクリュー回転数100rpm、シリンダー温度200℃にて5分混練してレーザー印字用組成物を作成した。そして、得られたレーザー印字用組成物を圧縮プレス機にて200℃で5分予熱した後、30kgf/cm2で加圧成形し、直径90mmの円形で、厚み1mmの板状のレーザー印字用成形体を得た。その後、実施例1と同様にして、印字の鮮明さ、生地色の発色、ブリードアウト性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0075】
4.4.実施例20
0.07質量%の水酸化ナトリウムのエタノール溶液の代わりに、0.1質量%の酢酸アンモニウムのエタノール溶液50mLを使用し、組成物の組成を表2に記載の組成に変更した以外は、実施例18と同様にしてレーザー印字用成形体を作成し、印字の鮮明さ、生地色の発色、ブリードアウト性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0076】
4.5.実施例21
印字工程において照射条件の異なる2種類のレーザー照射条件(レーザー照射条件A及びレーザー照射条件B)を使用し、組成物の組成を表2に記載の組成に変更した以外は、実施例18と同様にしてレーザー印字用成形体を作成し、印字の鮮明さ、生地色の発色、ブリードアウト性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
4.6.評価結果
下表1及び下表2に、各実施例及び比較例における、レーザー印字用成形体を作成するためのレーザー印字用組成物の組成及び評価結果を示す。
【0078】
なお、下表1及び下表2中のレーザー照射条件の略称は、それぞれ以下の通りである。・A:レーザー波長1064nm、出力25W/走査速度25mm/s
・B:レーザー波長355nm、出力2W/走査速度600mm/s
【0079】
【0080】
【0081】
上表1又は上表2の各成分の名称又は略称は、それぞれ以下の通りである。
<重合体(A)>
・PMMA:三菱ケミカル社製、商品名「アクリペット」、ポリメチルメタクリレート樹脂
・PS:PSジャパン社製、商品名「HF77」、ポリスチレン
・POM:三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名「F20-03」、ポリアセタール樹脂
・PE:日本ポリエチレン社製、商品名「ノバテック」、ポリエチレン樹脂
<レーザー発色剤(B1)>
・R-40:商品名、山本化成社製、3,3-ビス(1-n-ブチル-2-メチル-3-インドリル)フタリド
・BLUE63:商品名、山本化成社製、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチル-3-インドリル)-4-アザフタリド
・LCV-L:商品名、山田化学工業社製、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド
<レーザー発色剤(B2)>
・LMG:東京化成工業社製、商品名「ロイコマラカイトグリーン」、4,4’-テトラメチルジアミノトリフェニルメタン
・LCV:富士フイルム和光純薬社製、商品名「ロイコクリスタルバイオレット」、トリス(4-ジメチルアミノフェニル)メタン
<フィラー>
・ITO:三菱マテリアル社製、商品名「E-ITO」、酸化インジウム錫、一次粒子径0.03μm
<顕色剤>
・PBT:富士フイルム和光純薬社製、商品名「ペンタブロモトルエン」
・HBB:富士フイルム和光純薬社製、商品名「ヘキサブロモベンゼン」
【0082】
上表1及び上表2から明らかなように、実施例1~21のレーザー印字用組成物から作成されたレーザー印字用成形体によれば、混練・成形工程を経てもいずれも成形体の着色が抑制されており、該成形体表面にレーザー光を照射することにより有彩色を発色できることが判明した。また、実施例1~21のレーザー印字用組成物から作成されたレーザー印字用成形体によれば、印字部におけるレーザー発色剤のブリードアウトを効果的に抑制でき、他の材料への色移りを抑制できることも判明した。
【0083】
一方、比較例1~4の組成物から作成された成形体は、組成物の混練・成形工程を経て得られた成形体の生地色の着色が認められるか、又は印字部におけるレーザー発色剤のブリードアウトが認められた。
【0084】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0085】
1…レーザー印字用成形体、2・2a…多色印字付き成形体、3a…印字部1、3b…印字部2