(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】人造黒鉛材料、人造黒鉛材料の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
C01B 32/205 20170101AFI20221117BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20221117BHJP
【FI】
C01B32/205
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2019004663
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴志
(72)【発明者】
【氏名】前田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】唐金 光雄
(72)【発明者】
【氏名】白井 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】川地 浩史
(72)【発明者】
【氏名】木内 規之
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-167188(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098754(WO,A1)
【文献】特開2011-065961(JP,A)
【文献】特開2016-164862(JP,A)
【文献】特開2012-216545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線広角回折法によって得られた(112)回折線から算出されるc軸方向の結晶子の大きさL(112)が4~30nmであり、
レーザー回折式粒度分布測定装置により算出される体積基準表面積が0.22~1.70m
2/cm
3であり、
吸油量が67~147mL/100gであり、
波長514.5nmのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1580cm
-1±100cm
-1の波長領域に存在するピークの半価幅Δν
Gが19~24cm
-1であることを特徴とする人造黒鉛材料。
【請求項2】
請求項1に記載の人造黒鉛材料の製造方法であって、
原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して原料炭組成物を生成する工程と、
前記原料炭組成物を粉砕して原料炭粉体を得る工程と、
前記原料炭粉体を熱処理して黒鉛粉体を得る工程と、
前記黒鉛粉体を粉砕する工程とを、少なくとも含
み、
前記原料油組成物は、終留点が380℃以下でアスファルテン成分が1質量%未満である軽質油と、初留点が200℃以上でアロマ成分が50質量%以上であり、硫黄分が0.5質量%以下、窒素分が0.2質量%以下である重質油とを少なくとも含み、
且つ前記軽質油の含有率が5~30質量%である、人造黒鉛材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の人造黒鉛材料を含むリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
請求項
3に記載の負極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人造黒鉛材料、人造黒鉛材料の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、自動車用、系統インフラの電力貯蔵用などの産業用に利用されている。
リチウムイオン二次電池の負極材料として、人造黒鉛材料などの黒鉛が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
自動車用途に適用される電池は、0℃以下の低温から60℃以上の高温まで、広い温度範囲で使用される。しかし、負極材料として黒鉛が使用されているリチウムイオン二次電池では、0℃以下の低温で負極にリチウム金属が析出し易いという不都合があった。負極にリチウム金属が析出すると、正極と負極を移動可能なリチウムイオンが減少する。このため、リチウムイオン二次電池の容量が劣化する。
【0004】
負極にリチウム金属が析出しない状態では、正極と負極の充放電効率の差で容量劣化が進行することは既報(例えば、非特許文献1参照。)の通りである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】第51回電池討論会要旨集3G15(平成22年11月8日)
【文献】「リチウムイオン二次電池のための負極炭素材料」P.3-4(リアライズ社、1996年10月20発行)
【文献】炭素、2006(No.221)、p2-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
負極材料として黒鉛を使用したリチウムイオン電池では、0℃以下の低温で充放電されることによる容量劣化を抑制することが課題となっている。特に、自動車用途および系統インフラの電力貯蔵用に適用される産業用のリチウムイオン電池は、広い温度範囲で使用されるため、問題となっている。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池用負極の材料として用いることにより、0℃以下の低温で充放電が繰り返されても放電容量が劣化しにくいリチウムイオン二次電池が得られる人造黒鉛材料を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記の人造黒鉛材料の製造方法、上記の人造黒鉛材料を含むリチウムイオン二次電池用負極、およびこの負極を用いた0℃以下の低温で充放電が繰り返されても放電容量が劣化しにくいリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]X線広角回折法によって得られた(112)回折線から算出されるc軸方向の結晶子の大きさL(112)が4~30nmであり、
レーザー回折式粒度分布測定装置により算出される体積基準表面積が0.22~1.70m2/cm3であり、
吸油量が67~147mL/100gであり、
波長514.5nmのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1580cm-1±100cm-1の波長領域に存在するピークの半価幅ΔνGが19~24cm-1であることを特徴とする人造黒鉛材料。
【0010】
[2][1]に記載の人造黒鉛材料の製造方法であって、
原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して原料炭組成物を生成する工程と、
前記原料炭組成物を粉砕して原料炭粉体を得る工程と、
前記原料炭粉体を熱処理して黒鉛粉体を得る工程と、
前記黒鉛粉体を粉砕する工程とを、少なくとも含む人造黒鉛材料の製造方法。
[3]前記原料油組成物は、終留点が380℃以下でアスファルテン成分が1質量%未満である軽質油と、初留点が200℃以上でアロマ成分が50質量%以上であり、硫黄分が0.5質量%以下、窒素分が0.2質量%以下である重質油とを少なくとも含み、
且つ前記軽質油の含有率が5~30質量%である[2]に記載の人造黒鉛材料の製造方法。
【0011】
[4][1]に記載の人造黒鉛材料を含むリチウムイオン二次電池用負極。
[5][4]に記載の負極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明の人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃以下の低温で充放電が繰り返されても放電容量が劣化しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のリチウムイオン二次電池の一例を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の人造黒鉛材料、人造黒鉛材料の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0015】
〔人造黒鉛材料〕
本実施形態の人造黒鉛材料は、下記(1)~(4)の条件を全て満たすものである。
(1)X線広角回折法によって得られた(112)回折線から算出されるc軸方向の結晶子の大きさL(112)が4~30nmである。
(2)レーザー回折式粒度分布測定装置により算出される体積基準表面積が0.22~1.70m2/cm3である。
(3)吸油量が67~147mL/100gである。
(4)波長514.5nmのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1580cm-1±100cm-1の波長領域に存在するピークの半価幅ΔνGが19~24cm-1である。
【0016】
上記条件(1)において、X線広角回折法によって得られた(112)回折線から算出されるc軸方向の結晶子の大きさL(112)は、JIS R 7651(2007)の「人造黒鉛材料の格子定数及び結晶子の大きさ測定法」に準拠して測定および計算されたL(112)である。この方法で測定および計算されたL(112)を、以下、単にL(112)と略記する場合がある。
【0017】
上記条件(2)において、レーザー回折式粒度分布測定装置により算出される体積基準表面積は、JIS Z 8819-2(2001)の「粒子径測定結果の表現-第2部:粒子径分布からの平均粒子径又は平均粒子直径及びモーメントの計算」のうち「5.5体積基準表面積の計算」に準拠して算出された体積基準表面積である。この方法で測定および計算された体積基準表面積を、以下、単に「体積基準表面積」と略記する場合がある。
【0018】
上記条件(3)における吸油量は、JIS K 5101-13-1(2004)の「吸油量-第一節:精製あまに油法」に準拠して測定および計算された吸油量である。以下、単に「吸油量」と略記する場合がある。
【0019】
上記条件(4)における半価幅ΔνGは、光源をアルゴンイオン(Ar+)レーザー光(励起波長514.5nm)としたラマン分光分析で、1580cm-1±100cm-1の波長領域に存在するピークの半値幅である。以下、単に「半価幅ΔνG」と略記する場合がある。
【0020】
発明者等は、人造黒鉛材料のc軸方向の結晶子の大きさ、体積基準表面積、吸油量、半価幅ΔνGに着目して鋭意検討を重ね、上記条件(1)~(4)を全て満たす人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池とすることで、0℃以下の温度で充放電が繰り返された場合の放電容量の劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
上記条件(1)「L(112)が4~30nmである」人造黒鉛材料は、結晶が高度に発達している。L(112)が4~30nmである人造黒鉛材料は、リチウムイオン二次電池の負極として好適な黒鉛化度を有する。L(112)が大きいほど可逆容量が大きいため、人造黒鉛材料のL(112)は4nm以上であることが好ましい。
L(112)が4nm未満の人造黒鉛材料は、結晶組織の発達が不十分である。このため、L(112)が4nm未満の人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、容量が小さく、好ましくない(例えば、非特許文献2参照)。
【0022】
上記条件(2)は、人造黒鉛材料の粒子径と分布を、数値として表現した値である。リチウムイオン二次電池の負極に用いられる人造黒鉛材料は、一般的に粒子状(粉末)である。人造黒鉛材料の粒子径(粒度)は、分布を有している。人造黒鉛材料の粒子径と分布の関係(粒度分布)は、ヒストグラム(面)として表現される。人造黒鉛材料の粒度分布を数値(点)として表現した値が体積基準表面積である。
【0023】
上記条件(2)「体積基準表面積が0.22~1.70m2/cm3である」人造黒鉛材料は、リチウムイオン二次電池の負極材料として使用可能な粒度分布を有する。体積基準表面積が0.22m2/cm3未満であると、粒子径の大きな粗粉粒子の割合が高くなり、一般的な厚み(20~200μm)の均一な負極を成形できない場合がある。また、体積基準表面積が1.70m2/cm3を超えると、粒子径の小さい微粉の割合が高くなり、粒子間に働く付着力のような相互作用の影響が、重力の影響よりも強くなる場合がある。このため、人造黒鉛材料を含む負極合剤を用いてリチウムイオン二次電池の負極を形成する場合に、均質な負極合剤が得られにくく、実状に即さない。
【0024】
上記条件(3)「吸油量が67~147mL/100g」は、上記条件(2)の体積基準表面積を満たす場合における単位重量当たりの粒子数を示す指標である。
粒度分布は、粒子径(μm)と頻度(%)のヒストグラムとして表現するが、頻度には単位重量当たりの粒子数の情報は全く含まれていない。同様に粒度分布から求められる体積基準表面積にも、単位重量当たりの粒子数の情報は全く含まれていない。
【0025】
人造黒鉛材料の吸油量が147mL/100g以下であると、これを含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃以下の低温で充放電サイクルが繰り返されても負極にリチウム金属が析出しにくく、放電容量が劣化しにくいものとなる。また、人造黒鉛材料の吸油量が67mL/100g以上であると、単位重量当たりの粒子数が多いため、0℃以下の低温でも十分な充電受入性が得られる。よって、これを含む負極を有するリチウム二次電池の充放電効率が飛躍的に向上する。したがって、吸油量が67mL/100g以上である人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃以下の温度で充放電サイクルを繰り返すことによる容量劣化が、実用上十分に抑制されたものとなる。
【0026】
これに対し、吸油量が147mL/100gを超える人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウム二次電池は、0℃以下の低温で充放電されると、負極における充電時のリチウム金属析出により、サイクル回数毎に放電容量が急速に劣化する。より詳細には、吸油量が147mL/100gを超える人造黒鉛材料は、製造時に黒鉛粉体の割断的な粉砕よりも剥離的な粉砕が優先的に生じて、粒子形状が薄片化しながら粉砕されたため、単位重量当たりの粒子数が多くなっている。このため、この人造黒鉛材料を含む負極では、人造黒鉛材料の隣接粒子間における空隙体積(電解質の存在領域)が小さく、しかも黒鉛粉体の割断的な粉砕で生じる人造黒鉛材料の粒子におけるリチウムイオンの出入り口となるエッヂが不足しており、電解液のイオン伝導性が不十分となっている。その結果、0℃以下の低温での充電による負極でのカソーディック分極が増大しやすく、リチウム金属が析出し易くなり、放電容量が劣化しやすい。
【0027】
本明細書において、黒鉛粉体の割断的な粉砕とは、黒鉛の化学結合の切断を伴う粉砕であって、黒鉛の面方向に対して略垂直な割れが生じる粉砕であることを意味する。
また、黒鉛粉体の剥離的な粉砕とは、黒鉛の化学結合の切断を伴わない粉砕であり、黒鉛の面方向に対して略平行な剥離が生じる粉砕であることを意味する。
【0028】
上記条件(4)「半価幅ΔνGが19~24cm-1」である人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃以下の低温で充放電サイクルが繰り返されても放電容量が劣化しにくい。半価幅ΔνGは、試料表面(人造黒鉛材料の粒子表面層)のローカルな黒鉛結晶の完全性(炭素原子の三次元的な配列の規則性)を表す指標であり、その完全性が高いほど、小さくなることが一般的に知られている(例えば、非特許文献3参照。)。
【0029】
本実施形態の人造黒鉛材料における半価幅ΔνGは、以下に示すように、製造時における黒鉛粉体の粉砕において、剥離的な粉砕と割断的な粉砕が生じた割合を示す指標と見なすことができる。剥離的な粉砕は、黒鉛粉体を構成する結晶子のベーサルプレーンに、平行な剪断応力が加えられることにより生じる粉砕である。このため、粉砕によって生じるエッヂ側の破断面とベーサルプレーン側の破断面のうち、特にエッヂ側の破断面で炭素原子の三次元的な配列の規則性が大きく低下し、粉砕後の半価幅ΔνGが大きくなる。これに対し、割断的な粉砕は、黒鉛粉体を構成する結晶子のベーサルプレーンに、垂直な力学的エネルギーが加えられることにより生じる粉砕である。このため、エッヂ側の破断面に存在する炭素原子の三次元的な配列の規則性は、剥離的な粉砕の場合よりも低下しない。
したがって、本実施形態の人造黒鉛材料における半価幅ΔνGが小さいほど、剥離的な粉砕が生じた確率よりも割断的な粉砕が生じた割合が高いと見なすことができる。
【0030】
人造黒鉛材料における半価幅ΔνGが19cm-1以上である場合、比表面積のうち、製造時における黒鉛粉体の割断的な粉砕で生じたエッヂの面積が多すぎることがない。
これに対し、半価幅ΔνGが19cm-1未満である人造黒鉛材料は、製造時に黒鉛粉体の剥離的な粉砕よりも割断的な粉砕が優先的に生じたため、比表面積のうち、黒鉛結晶のベーサルプレーンが占める割合に対するエッジが占める割合が高すぎるものとなっている。その結果、この人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン電池では、負極での副反応・競争反応が生じ易く、負極の充放電効率の急速な低下が不可避である。このため、負極と正極との充放電効率との差が拡大しやすく、放電容量の劣化が生じやすい。
【0031】
また、人造黒鉛材料における半価幅ΔνGが24cm-1以下である場合、これを含む負極を有するリチウムイオン電池において、負極でのリチウム金属の析出を抑制でき、負極での充放電効率の低下を抑制できる。
これに対し、半価幅ΔνGが24cm-1を超える人造黒鉛材料は、製造時に黒鉛粉体の割断的な粉砕よりも剥離的な粉砕が優先的に生じたものであるため、人造黒鉛材料の粒子表面のエッヂ面における炭素原子の3次元的な配列が乱れたものとなっている。すなわち、人造黒鉛材料の粒子表面のエッヂ面における炭素原子の3次元的な配列の規則性が低下して、黒鉛結晶の完全性が低くなっている。その結果、この人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン電池では、負極におけるリチウムイオンの可逆的なインターカレーション反応が阻害され(立体障害になる)、抵抗が大きくなる。このため、0℃以下の低温での充電によって負極でリチウム金属が析出し易くなり、放電容量が劣化しやすい。
【0032】
〔人造黒鉛材料の製造方法〕
本実施形態の人造黒鉛材料は、例えば、以下に示す製造方法により製造できる。
すなわち、原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して原料炭組成物を生成する工程と、原料炭組成物を粉砕して原料炭粉体を得る工程と、原料炭粉体を熱処理して黒鉛粉体を得る工程と、黒鉛粉体を粉砕する工程とを行う。
【0033】
(原料油組成物をコーキング処理して原料炭組成物を生成する工程)
本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法において用いられる原料油組成物としては、軽質油と、重質油とを少なくとも含むものを用いることが好ましい。重質油は、コーキング処理時に良好なバルクメソフェーズを生成する。軽質油は、重質油との相溶性が良好であるため、原料油組成物中に均一に分散する。そして、軽質油は、コーキング処理時に生成したバルクメソフェーズが重縮合して炭化及び固化する際にガスを発生し、バルクメソフェーズの大きさを小さくする。
【0034】
「重質油」
重質油としては、初留点が200℃以上でアロマ成分が50質量%以上、硫黄分が0.5質量%以下、窒素分が0.2質量%以下であるものを用いることが好ましい。重質油は1種のみ用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
軽質油としては、終留点が380℃以下でアスファルテン成分が1質量%未満であるものを用いることが好ましい。軽質油は1種のみ用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
そして、原料油組成物中における軽質油の含有率を5~30質量%とすることが好ましい。
【0035】
原料油組成物に含まれる重質油の初留点は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。重質油の好ましい上限値は300℃である。重質油の初留点が200℃以上であると、コーキング処理により生成するコークスの収率が十分に高くなる。重質油の初留点は、JIS K 2254-6:1998に記載された方法に基づき測定される。
【0036】
原料油組成物に含まれる重質油中のアロマ成分は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。アロマ成分の好ましい上限値は90質量%である。重質油中のアロマ成分が50質量%以上であると、コーキング処理によって良好なバルクメソフェーズが形成され、コーキング反応の進行が促進される。
【0037】
重質油中のアロマ成分は、TLC-FID法により測定したものである。TLC-FID法は、薄層クロマトグラフィー(TLC)により試料を飽和成分、アロマ成分、レジン成分及びアスファルテン成分に4分割し、その後、水素炎イオン化検出器(Flame Ionization Detector:FID)にて各成分を検出し、各成分量の全成分量に対する百分率をもって組成成分値としたものである。
【0038】
まず、試料0.2g±0.01gをトルエン10mlに溶解して、試料溶液を調製する。予め空焼きしたシリカゲル棒状薄層(クロマロッド)の下端(ロッドホルダーの0.5cmの位置)にマイクロシリンジを用いて1μlスポットし、ドライヤー等により乾燥させる。次に、このマイクロロッド10本を1セットとして、展開溶媒にて試料の展開を行う。展開溶媒としては、第1展開槽にヘキサン、第2展開槽にヘキサン/トルエン(体積比20:80)、第3展開槽にジクロロメタン/メタノール(体積比95:5)を使用する。
【0039】
飽和成分については、ヘキサンを溶媒とする第1展開槽にて溶出して展開する。アロマ成分については、第1展開後に、ヘキサン/トルエンを溶媒とする第2展開槽にて溶出して展開する。第2展開後のクロマトロッドを測定器(例えば、ダイアヤトロン社(現三菱化学ヤトロン社)製の「イアトロスキャンMK-5」(商品名))にセットし、各成分量を測定する。各成分量を合計すると全成分量が得られる。
【0040】
原料油組成物に含まれる重質油中の硫黄分は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましい。硫黄分の好ましい下限値は0.1質量%である。硫黄分が0.5質量%以下であると、石油コークスのパッフィングを十分に抑えることができる。硫黄分は、JIS M 8813-附属2:2006に記載された方法に基づき測定される。
【0041】
原料油組成物に含まれる重質油中の窒素分は、0.2質量%以下であることが好ましく、0.15質量%以下であることがより好ましく、0.10質量%以下であることがさらに好ましい。窒素分の好ましい下限値は0.01質量%である。窒素分が0.2質量%以下であると、石油コークスのパッフィングを十分に抑えることができる。窒素分は、JIS M 8813-附属4:2006に記載された方法に基づき測定される。
【0042】
原料油組成物に含まれる重質油は、例えば、流動接触分解により得られる。重質油としては、初留点、アロマ成分、硫黄分及び窒素分が上記した条件を満たすものであれば特に限定されるものではない。重質油としては、例えば、15℃における密度が0.8g/cm3以上である炭化水素油などを用いることができる。なお、密度は、JIS K 2249-1:2011に記載された方法に基づき測定された値である。
【0043】
原料油組成物に含まれる重質油の原料油としては、常圧蒸留残油、減圧蒸留残油(VR)、シェールオイル、タールサンドビチューメン、オリノコタール、石炭液化油、及びこれらを水素化精製した重質油等が挙げられる。このような原料油は、上記以外に直留軽油、減圧軽油、脱硫軽油、脱硫減圧軽油等の比較的軽質な油を含有していても良く、減圧軽油を含有することが好ましい。減圧軽油は、常圧蒸留残油を減圧蒸留して得られた減圧軽油を直接脱硫して得られる脱硫減圧軽油(好ましくは、硫黄分500質量ppm以下、15℃における密度0.8/cm3以上)であることが好ましい。
【0044】
常圧蒸留残油は、原油を常圧蒸留装置にかけて、例えば、常圧下で加熱して留分の沸点により、ガス・LPG(液化石油ガス)やガソリン留分、灯油留分、軽質油留分、常圧蒸留残油に分けられる際に得られる留分の一つであり、最も沸点の高い留分である。加熱温度は、原油の産地等により変動し、これらの留分に分留できるものであれば限定されないが、例えば原油を320℃に加熱する。
【0045】
減圧蒸留残油(VR)は、原油を常圧蒸留装置にかけて、ガス・軽質油・常圧蒸留残油を得た後、この常圧蒸留残油を、例えば、1.3~4.0kPa(10~30Torr)の減圧下、加熱炉出口温度320~360℃の範囲で変化させて得られる減圧蒸留装置のボトム油である。
【0046】
流動接触分解の条件は、初留点、アロマ成分、硫黄分及び窒素分が上記した条件を満たす重質油が得られればよく、特に限定されない。具体的には、例えば、反応温度が480~560℃であり、全圧が0.1~0.3MPaであり、触媒と油の比(触媒/油)が1~20であり、接触時間が1~10秒である条件とすることができる。流動接触分解に用いられる触媒としては、例えば、ゼオライト触媒、シリカアルミナ触媒、又はこれらの触媒に白金等の貴金属を担持したもの等が挙げられる。
【0047】
「軽質油」
原料油組成物に含まれる軽質油は、芳香族分の高い軽質油であることが好ましい。芳香族分の高い軽質油としては、コーカー軽油等が代表的である。芳香族性が高い軽質油は、重質油との相溶性に優れる。重質油との相溶性が優れる軽質油は、原料油組成物中に均一に分散する。このため、コーキング処理時に原料油組成物中の軽質油から均一にガスが発生し、コークスの針状性が発達しやすくなり、小さな六角網平面が積層された結晶子で構成された選択的な配向性を有する微細組織を有する原料炭組成物が得られやすくなる。その結果、コークスの熱膨脹係数(CTE)が低くなり、好ましい。
【0048】
原料油組成物に含まれる軽質油を得るために用いるプロセスは、特に限定されるものではない。例えば、ディレードコーキングプロセス、ビスブレーキングプロセス、ユリカプロセス、重質油分解(HSC)プロセス、流動接触分解プロセス等が挙げられる。
運転条件は特に限定されるものではないが、上記の重質油を原料としてコーカー熱分解装置を用いて、反応圧力0.8MPa、分解温度400~600℃で処理することが好ましい。
【0049】
原料油組成物に含まれる軽質油の終留点は、380℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。軽質油の終留点の好ましい下限値は、310℃である。軽質油の終留点が380℃以下であると、コーキング処理によってコークス化する留分が少ないため、コークスの熱膨脹係数(CTE)が低くなる。軽質油の終留点は、JIS K 2254-4:1998に記載された方法に基づき測定される。
【0050】
原料油組成物に含まれる軽質油中のアスファルテン成分は、1質量%未満であることが好ましく、0質量%である(分析により検出されない)ことがより好ましい。また、軽質油の終留点が380℃以下である場合、実質上コーキングする成分がほとんど含まれていない。軽質油に含まれるコーキングする成分が少ないと、コークスのCTE及びパッフィングに悪影響を与えることがなく、それらを十分に抑えることができ、好ましい。
【0051】
原料油組成物に含まれる軽質油中のアロマ成分は、重質油との相溶性の観点から、好ましくは40容量%以上であり、より好ましくは50容量%以上である。軽質油のアロマ成分の好ましい上限値は70容量%である。なお、ここでいうアロマ成分とは、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI-5S-49-97「炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定されるコーカー軽油全量基準の全芳香族含有量の容量百分率(容量%)をいう。
【0052】
原料油組成物に含まれる軽質油においては、2環以上の芳香族を有するアロマ成分が20容量%以上含まれることがより好ましく、45容量%以上含まれることがさらに好ましい。2環を含む多環芳香族を有するアロマ成分を含む軽質油は、重質油との相溶性に優れるため好ましい。
軽質油のアロマ成分及びアスファルテン成分は、重質油のアロマ成分と同様の方法により測定したものである。
【0053】
原料油組成物に含まれる軽質油の原料油としては、終留点およびアスファルテン成分が上記した条件を満たす軽質油が得られればよく、特に限定されない。軽質油の原料油としては、15℃における密度が0.8g/cm3以上であるもの用いることが好ましい。
軽質油を得るための流動接触分解は、一般的に上記した重質油を得るための流動接触分解と同一の条件下で行われる。
【0054】
軽質油を得るためのディレードコーキングプロセスにおける温度は、400~600℃であることが好ましい。温度が400℃以上であると、軽質油を得るためのコーキング処理が進行する。また、温度が600℃以下であると、コーキング処理における反応を穏やかに進行させることができる。
軽質油を得るためのディレードコーキングプロセスにおける圧力は、300~800kPaであることが好ましい。圧力が上記範囲内である場合、圧力が高いほどコークスの収率が高くなるため好ましい。圧力は、プロセスによって適宜決定できる。
【0055】
本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法において用いられる原料油組成物は、上記の軽質油と上記の重質油とを少なくとも含むものであり、原料油組成物中における軽質油の含有率が5~30質量%であることが好ましい。このような原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理することで、小さな六角網平面が積層された結晶子で構成された選択的な配向性を有する微細組織を有する原料炭組成物が得られる。原料油組成物中における軽質油の含有率は10~30質量%であることがより好ましい。
【0056】
これに対し、原料油組成物中における軽質油の含有率が5質量%未満であると、コーキング処理時に軽質油より発生するガスの発生量が少なくなる。このため、コーキング処理によって、小さな六角網平面が積層された結晶子で構成された選択的な配向性を有する微細組織を形成することが困難となる。
【0057】
また、原料油組成物中における軽質油の含有率が30質量%を超えると、コーキング処理時に軽質油より発生するガスの発生量が多すぎるため、コーキング処理によって生成されるメソフェーズを構成する炭素六角網平面の微細化が進行し過ぎる。その結果、製造時における黒鉛粉体の粉砕において、剥離的な粉砕よりも割断的な粉砕が優先的に生じ、人造黒鉛材料の比表面積のうち、割断的な粉砕で生じたエッヂが占める面積の割合が必要以上に高くなる。このような人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン電池は、負極の充放電効率が低下しやすく、0℃以下の低温で充放電が繰り返されることによる放電容量の劣化が大きいものとなる。
また、原料油組成物中における軽質油の含有率が30質量%を超えると、コーキング処理によって得られる原料油のコークス収率が大きく低下し、コークスの生産量が不十分となる場合がある。
【0058】
本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法において「原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理する」方法としては、例えば、特許文献1に記載されている公知の方法を用いることができる。
原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理する方法は、高品質の人造黒鉛材料の原料を大量生産するために大変適している。
【0059】
本実施形態において、原料油組成物をコーキング処理する方法としては、ディレードコーキングプロセスを用いる。
コーキング処理としては、例えば、コーキング圧力が制御された条件の下、ディレードコーカーを用いて原料油組成物を熱分解、重縮合して生コークスを含む原料炭組成物を得る処理を用いることが好ましい。
【0060】
コーキング処理における圧力は、100~800kPaであることが好ましく、100~600kPaであることがより好ましい。コーキング処理における圧力が100~800kPaであると、コーキング処理によって、小さな六角網平面が積層された結晶子で構成された選択的な配向性を有する微細組織を有する原料炭組成物が得られやすい。
コーキング処理における温度は、400~600℃であることが好ましく、490~540℃であることがより好ましい。コーキング処理における温度が400~600℃であると、原料油組成物から良好なメソフェーズを成長させることができる。
【0061】
(原料炭粉体を得る工程)
次に、コーキング処理して生成した原料炭組成物を粉砕して原料炭粉体を得る工程を行う。原料炭組成物を粉砕して原料炭粉体を得る方法としては、ハンマー式ミルを用いる方法など公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
【0062】
原料炭粉体は、所定の粒度となるように分級してもよい。原料炭粉体の粒度は、平均粒径5~40μmであることが好ましい。平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計による測定に基づく。粉砕した原料炭粉体の平均粒径が40μm以下であると、これを熱処理した後に粉砕することで、リチウムイオン二次電池の負極として好適な粒径を有するものとなる。原料炭粉体の平均粒径が5μm以上であると、これを熱処理して得られる黒鉛材料の比表面積が大きくなりすぎず、好ましい。比表面積が大きすぎる黒鉛材料を使用してリチウムイオン二次電池の負極の形成に用いるペースト状の負極合剤を作製すると、必要な溶媒量が莫大となるため好ましくない。
【0063】
(原料炭粉体を熱処理して黒鉛粉体を得る工程)
次に、原料炭粉体を熱処理して黒鉛粉体を得る工程を行う。
本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法における原料炭粉体の熱処理は、原料炭粉体から揮発成分を除去し、脱水、熱分解して、固相黒鉛化反応させるために行う。この熱処理を行うことにより、安定な品質の人造黒鉛材料が得られる。
【0064】
原料炭粉体の熱処理としては、例えば、原料炭粉体から揮発成分を除去するか焼を行ってか焼コークスを得た後、原料炭粉体を炭素化する炭化処理を行い、その後、黒鉛化処理を行う熱処理が挙げられる。か焼および炭化処理は、必要に応じて行うことができ、行わなくてもよい。原料炭粉体の熱処理において、か焼および炭化工程を省略しても、最終的に製造される人造黒鉛材料の物性に与える影響は殆ど無い。
【0065】
か焼は、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、最高到達温度500~1500℃、好ましくは900~1200℃で、最高到達温度の保持時間0~10時間の加熱処理を行う方法が挙げられる。か焼には、例えば、ロータリーキルン、シャフト炉等を用いることができる。
炭化処理としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、最高到達温度500~1500℃、好ましくは900~1500℃で、最高到達温度の保持時間0~10時間の加熱処理を行う方法が挙げられる。
【0066】
黒鉛化処理としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、最高到達温度2500~3200℃、好ましくは2800~3200℃で、最高到達温度の保持時間0~100時間の加熱処理を行う方法が挙げられる。黒鉛化処理は、例えば、原料炭粉体をグラファイトからなる坩堝に封入し、アチソン炉やLWG炉のような黒鉛化炉を用いて行ってもよい。
【0067】
本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法において、原料炭組成物として小さな六角網平面が積層された結晶子で構成された選択的な配向性を有する微細組織を有するものを用いた場合、原料炭組成物を粉砕して得た原料炭粉体を熱処理することにより、結晶組織が発達し易くなる。その結果、上記条件(1)「L(112)が4~30nm」を満たす人造黒鉛材料が得られやすく、好ましい。
【0068】
(黒鉛粉体を粉砕する工程)
本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法において、原料炭粉体を熱処理して得た黒鉛粉体を粉砕する方法としては、気流式ジェットミルを用いる方法など公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
以上の工程を行うことにより、本実施形態の人造黒鉛材料が得られる。
【0069】
本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法において、原料炭組成物として小さな六角網平面が積層された結晶子で構成された選択的な配向性を有する微細組織を有するものを用いた場合、原料炭粉体を熱処理して得た黒鉛粉体を粉砕すると、割断的な粉砕が生じ易い。これは、上記の微細組織を有する原料炭組成物を用いて得た黒鉛粉体に、粉砕するための力学的エネルギーが加えられると、熱処理前の小さなサイズの隣接する六角網平面間で割れる確率が高いためである。
【0070】
原料炭組成物を粉砕して得た原料炭粉体を熱処理して得た黒鉛粉体が、上記条件(1)「L(112)が4~30nm」を満たし、割断的な粉砕が剥離的な粉砕よりも優先して生じるものである場合、黒鉛粉体を粉砕する工程を行うことにより、吸油量および半価幅ΔνGが十分に小さいものとなり、上記条件(3)および(4)を満たす本実施形態の人造黒鉛材料が容易に得られる。
【0071】
これに対し、大きな六角網平面が積層された結晶子で構成される原料炭組成物の粉体を熱処理して得た黒鉛粉体が、上記条件(1)「L(112)が4~30nm」を満たしている場合、黒鉛粉体を粉砕すると、剥離的な粉砕が割断的な粉砕よりも優先して生じる。このため、黒鉛粉体を粉砕する工程を行うことにより、吸油量および半価幅ΔνGが急増し、上記条件(3)および(4)を満たす本実施形態の人造黒鉛材料は得られない。
【0072】
本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法では、下記の(a)および(b)を制御する方法により、上記条件(3)および(4)を満たす本実施形態の人造黒鉛材料を製造することが好ましい。
(a)原料油組成物中の軽質油の性状(終留点およびアスファルテン成分含有量)と割合(原料油組成物中の含有率)を制御する。
(b)原料炭組成物の粉砕後の体積基準表面積(以下、「原料体積基準表面積」と略記する場合がある)と、熱処理後の黒鉛粉体を粉砕した後の体積基準表面積(以下、「黒鉛体積基準表面積」と略記する場合がある)の差を制御する。
【0073】
上記(b)における黒鉛体積基準表面積は、本実施形態の人造黒鉛材料における条件(2)の体積基準表面積である。したがって、上記(b)における黒鉛体積基準表面積は、0.22~1.70m2/cm3である。また、上記(b)における原料体積基準表面積は、黒鉛体積基準表面積よりも大きな値である。
【0074】
上記(b)における原料体積基準表面積は、例えば、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差が0.05~1.40m2/cm3となる範囲とすることができ、上記条件(3)「吸油量が67~147mL/100g」および(4)「半価幅ΔνGが19~24cm-1」を満たす人造黒鉛材料が得られるように適宜調整することが好ましい。原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差は、原料炭組成物の粉砕時および熱処理後の黒鉛粉体の粉砕時の粉砕条件(粉砕機の運転条件など)を制御することにより制御可能である。
【0075】
吸油量が大きくなるほど半価幅ΔνGは単調に増加する。また、半価幅ΔνGに対する吸油量の関数は、原料油組成物の軽質油の性状(終留点およびアスファルテン成分含有量)と割合(原料油組成物中の含有率)に強く依存する。したがって、上記(a)および(b)を変化させることにより、(2)の体積基準表面積の範囲内で、人造黒鉛材料の吸油量および半価幅ΔνGを上記条件(3)および(4)の範囲内に制御できる。例えば、上記条件(3)を満たすように黒鉛粉体を粉砕しても、半価幅ΔνGが小さく(言い換えると、剥離的な粉砕が生じた確率よりも割断的な粉砕が生じた割合が高い)上記条件(4)を満たす人造黒鉛材料を製造できる。
【0076】
本実施形態の人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃以下の低温で充放電が繰り返されても放電容量が劣化しにくい。この効果は、本実施形態の人造黒鉛材料が、吸油量および半価幅ΔνGが小さく、上記条件(1)~(4)を全て満たすことによるものである。
本実施形態の人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃以下の低温で充放電が繰り返されても放電容量が劣化しにくいため、ハイブリッド自動車用、プラグインハイブリッド自動車用、電気自動車用などの自動車用途および系統インフラの電力貯蔵用などの産業用に好適である。
【0077】
〔リチウムイオン二次電池用負極〕
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極について説明する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、本実施形態の人造黒鉛材料を含む黒鉛材料と、バインダー(結着剤)と、必要に応じて含有される導電助剤とを含む。
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、本実施形態の人造黒鉛材料を含むものであればよく、必要に応じて、黒鉛材料として、本実施形態の人造黒鉛材料だけでなく、公知の黒鉛材料を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0078】
公知の黒鉛材料としては、例えば、本実施形態の人造黒鉛材料以外の人造黒鉛材料および天然黒鉛系材料などが挙げられる。
天然黒鉛系材料としては、天然から産出される黒鉛状物、前記黒鉛状物を高純度化したもの、その後、球状にしたもの(メカノケミカル処理を含む)、高純度品や球状品の表面を別の炭素で被覆したもの(例えば、ピッチコート品、CVDコート品等)、プラズマ処理をしたものなどが挙げられる。
本実施形態の人造黒鉛材料以外の人造黒鉛材料および天然黒鉛系材料の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、鱗片状であってもよいし、球状であってもよい。
【0079】
黒鉛材料として、本実施形態の人造黒鉛材料の他に、本実施形態の人造黒鉛材料以外の黒鉛材料(他の黒鉛材料)を含む場合、本実施形態の人造黒鉛材料と他の黒鉛材料との混合割合は任意の割合とすることができる。本実施形態の人造黒鉛材料以外の黒鉛材料(他の黒鉛材料)を含む場合、本実施形態の人造黒鉛材料を20質量%以上含むことが好ましく、30質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0080】
バインダー(結着剤)としては、リチウムイオン二次電池用負極に用いられる公知のものを用いることができ、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、SBR(スチレンーブタジエンゴム)などを単独で、または2種以上を混合して使用できる。
負極合剤の中のバインダーの含有率は、黒鉛材料100質量部に対して1~30質量部程度とすることが好ましく、リチウムイオン二次電池の設計上、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0081】
導電助剤としては、リチウムイオン二次電池用負極に用いられる公知のものを用いることができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、導電性を示すインジウム-錫酸化物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンなどの導電性高分子などを単独で、または2種以上を混合して使用できる。
導電助剤の使用量は、黒鉛材料100質量部に対して1~15質量部とすることが好ましく、リチウムイオン二次電池の設計上、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0082】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極を製造する方法としては、特に限定されず、公知の製造方法を用いることができる。
例えば、本実施形態の人造黒鉛材料を含む黒鉛材料と、バインダー(結着剤)と、必要に応じて含有される導電助剤と、溶媒とを含む混合物である負極合剤を製造する。その後、負極合剤を所定の寸法に加圧成形する方法が挙げられる。
【0083】
負極合剤に使用される溶媒としては、リチウムイオン二次電池用負極に用いられる公知の溶媒を用いることができる。具体的には、例えば、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエンなどの有機溶媒、水などの溶媒を単独で、または2種以上を混合して使用できる。
【0084】
負極合剤を製造する際に、黒鉛材料と、バインダーと、必要に応じて含有される導電助剤と、有機溶媒とを混合する方法としては、例えば、スクリュー型ニーダー、リボンミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー等の公知の装置を用いることができる。
負極合剤の加圧成形は、例えば、ロール加圧、プレス加圧などの方法を用いて行うことができる。負極合剤の加圧成形は、100~300MPa程度の圧力で行うことが好ましい。
【0085】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、例えば、以下に示す方法により、製造してもよい。すなわち、本実施形態の人造黒鉛材料を含む黒鉛材料と、バインダー(結着剤)と、必要に応じて含有される導電助剤と、溶媒とを、公知の方法により混錬してスラリー状(ペースト状)の負極合剤を製造する。その後、スラリー状の負極合剤を銅箔等の負極集電体上に塗布し、乾燥することにより、シート状、ペレット状等の形状に成形する。その後、乾燥した負極合剤からなる層を圧延し、所定の寸法に裁断する。
【0086】
スラリー状の負極合剤を負極集電体上に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、ダイコーター法など公知の方法を用いることができる。
【0087】
負極集電体上に塗布した負極合剤は、例えば、平板プレス、カレンダーロール等を用いて圧延することが好ましい。
負極集電体上に形成した乾燥した負極合剤からなる層は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせで用いる方法など公知の方法により、負極集電体と一体化することができる。
【0088】
負極集電体の材料としては、リチウムと合金を形成しないものであれば、特に制限なく使用できる。具体的には、負極集電体の材料として、例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。
負極集電体の形状についても、特に制限なく利用可能である。具体的には、負極集電体の形状として、例えば、箔状、穴開け箔状、メッシュ状であって、全体形状が帯状であるものなどが挙げられる。
また、負極集電体としては、例えば、ポーラスメタル(発泡メタル)、カーボンペーパーなどの多孔性材料を使用してもよい。
【0089】
〔リチウムイオン二次電池〕
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池について説明する。
図1は、本発明のリチウムイオン二次電池の一例を示した概略断面図である。
図1に示すのリチウムイオン二次電池10は、負極集電体12と一体化された負極11と、正極集電体14と一体化された正極13とを有している。
図1に示すリチウムイオン二次電池10では、負極11として本実施形態の負極が用いられている。負極11と正極13とは、セパレータ15を介して対向配置されている。
図1において、符号16は、アルミラミネート外装を示している。アルミラミネート外装16内には、電解液が注入されている。
【0090】
正極10は、活物質と、バインダー(結着剤)と、必要に応じて含有される導電助剤とを含む。
活物質としては、リチウムイオン二次電池用正極に用いられる公知のものを用いることができ、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いることができる。具体的には、活物質として、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、及び複酸化物(LiCoXNiYMnZO2、X+Y+Z=1)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物などを挙げることができる。
【0091】
バインダーとしては、上述した負極11に用いられるバインダーと同様のものを用いることができる。
導電助剤としては、上述した負極11に用いられる導電助剤と同様のものを用いることができる。
正極集電体14としては、上述した負極集電体と同様のものを用いることができる。
【0092】
セパレータ15としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微多孔性フィルム又はそれらを組み合わせたものなどを使用できる。
なお、リチウムイオン二次電池が、正極と負極とが直接接触しない構造である場合には、セパレータは不要である。
【0093】
リチウムイオン二次電池10に使用する電解液及び電解質としては、リチウムイオン二次電池に使用される公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質を使用できる。
電解液としては、電気伝導性の観点から有機電解液を用いることが好ましい。
【0094】
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン、テトラヒドロフラン、2-メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状炭酸エステル、N-メチル2-ピロリジノン、アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらの有機電解液は、単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0095】
電解質としては、公知の各種リチウム塩を使用できる。
例えば、リチウム塩として、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCl、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2等が挙げられる。
【0096】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体および該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体および該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体および該誘導体を含む重合体などが挙げられる。
【0097】
本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、本実施形態の人造黒鉛材料を含む負極11を備えるため、0℃以下の低温で充放電サイクルが繰り返された場合でも、容量劣化が生じにくい。このため、本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、ハイブリッド自動車用、プラグインハイブリッド自動車用、電気自動車用などの自動車用、系統インフラの電力貯蔵用などの産業用として好ましく利用できる。
【0098】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極を用いたものであればよく、負極以外の電池構成上必要な部材の選択について、なんら制約を受けるものではない。
具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池の構造は、
図1に示すリチウムイオン二次電池10に限定されるものではない。
リチウムイオン二次電池の構造は、例えば、帯状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された巻回電極群を、電池ケースに挿入し、封口した構造であってもよい。また、リチウムイオン二次電池の構造は、平板状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して順次積層された積層式極板群を外装体中に封入した構造であってもよい。
【0099】
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角形電池などとして使用できる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0101】
<人造黒鉛材料の製造>
(実施例1)
脱硫減圧軽油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm3)を流動接触分解し、流動接触分解残油(以下、「流動接触分解残油(A)」と記す。)を得た。得られた流動接触分解残油(A)の初留点は200℃、硫黄分は0.2質量%、窒素分は0.1質量%、アロマ成分は65質量%であった。
【0102】
次に、脱硫減圧軽油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm3)を流動接触分解し、ライトサイクル油(以下、「流動接触分解軽油(A)」と記す。)を得た。得られた流動接触分解軽油(A)の初留点は180℃、終留点は350℃、アスファルテン成分は0質量%、飽和分は47容量%、アロマ成分は53容量%であった。
【0103】
また、硫黄分が3.5質量%の常圧蒸留残油を、Ni-Mo触媒の存在下、水素化分解率が30%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油(以下、「水素化脱硫油(A)」と記す。)を得た。脱硫減圧軽油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm3)と、水素化脱硫油(A)(硫黄分が0.3質量%、窒素分が0.1質量%、アスファルテン成分が2質量%、飽和分が70質量%、15℃における密度が0.92g/cm3)とを質量比1:2で混合した原料油を流動接触分解し、流動接触分解残油(以下、「流動接触分解残油(B)」と記す。)を得た。得られた流動接触分解残油(B)の初留点は220℃、硫黄分は0.5質量%、窒素分は0.1質量%、アロマ成分は79質量%であった。
【0104】
このようにして得られた重質油である流動接触分解残油(A)および流動接触分解残油(B)と、軽質油である流動接触分解軽油(A)とを、質量比で50:40:10の割合で混合し、実施例1の原料油組成物を得た。実施例1の原料油組成物中の軽質油の含有率を表1に示す。
【0105】
次に、実施例1の原料油組成物を試験管に入れ、コーキング処理として、常圧500℃で3時間熱処理を行ってコークス化し、原料炭組成物を得た。
得られた原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が20.3μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
原料炭粉体の体積基準表面積(原料体積基準表面積)を、後述する人造黒鉛材料の体積基準表面積と同様の方法により求めた。その結果を表1に示す。
得られた原料炭粉体を窒素ガス気流下1000℃で焼成(か焼)し、か焼コークスを得た。か焼としては、室温から1000℃までの昇温時間を4時間、1000℃の保持時間を4時間、1000℃から400℃までの降温時間を2時間とし、400℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0106】
得られたか焼コークスを、グラファイトからなる坩堝に投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2700℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2700℃までの昇温時間を23時間、2700℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出す処理を行った。
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が5.1μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例1の人造黒鉛材料を得た。
得られた実施例1の人造黒鉛材料について、結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ラマンスペクトルの半価幅ΔνGを、以下に示す方法により求めた。また、原料体積基準表面積と人造黒鉛材料の体積基準表面積(黒鉛体積基準表面積)の測定結果から、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差を算出した。それらの結果を表1に示す。
【0107】
(結晶子の大きさL(112)の算出)
人造黒鉛材料に、内部標準としてSi標準試料を10質量%混合し、ガラス製試料ホルダー(窓枠の大きさが16mm×20mm、深さ0.2mm)に詰め、JIS R7651(2007)準拠して広角X線回折法で測定を行い、結晶子の大きさL(112)を算出した。
X線回折装置としては(株)リガク社製のULTIMA IVを用い、X線源としてはCuKα線(KβフィルターNiを使用)を用いた。また、X線管球への印可電圧及び電流を40kV及び40mAとした。
【0108】
得られた回折図形について、JIS R7651(2007)に準拠した方法で解析を行った。具体的には、測定データにスムージング処理、バックグラウンド除去の後、吸収補正、偏光補正、Lorentz補正を施した。そして、Si標準試料の(422)回折線のピーク位置、及び値幅を用いて、人造黒鉛材料の(112)回折線を補正し、結晶子サイズL(112)を算出した。なお、結晶子サイズは、補正ピークの半値幅から以下のScherrerの式を用いて計算した。測定および解析は3回ずつ実施し、その平均値をL(112)とした。
【0109】
L=K×λ/(β×cosθB)- - - - - -Scherrerの式
ここで、L:結晶サイズ(nm)
K:形状因子定数(=1.0)
λ:X線の波長(=0.15406nm)
θ:ブラッグ角(補正された回折角度)
β:真の半値幅(補正値)
【0110】
(体積基準表面積の測定)
マイクロトラック・ベル株式会社製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(MT3300EXII)を使用して、人造黒鉛材料の粒度分布を測定した。測定に使用した分散液は、約0.5gの人造黒鉛材料に、0.1質量%のヘキサメタ燐酸ナトリウム水溶液(数滴)と界面活性剤(数滴)とを加え、乳鉢で均質となるように十分混ぜ合わせた後、更に0.1質量%のヘキサメタ燐酸ナトリウム水溶液を40mL加え、超音波ホモジナイザーで分散させることにより作製した。得られた粒度分布の測定結果を、JIS Z 8819-2(2001)の「粒子径測定結果の表現-第2部:粒子径分布からの平均粒子径又は平均粒子直径及びモーメントの計算」のうち「5.5体積基準表面積の計算」に準拠して算出した。
【0111】
(吸油量の測定)
JIS K 5101-13-1(2004)の「吸油量-第一節:精製あまに油法」に準拠して測定し、算出した。具体的には、精秤した人造黒鉛材料を測定板に置き、容量10mLのビュレットから、精製あまに油を滴下し、パレットナイフで精製あまに油を練り込み、完全に混錬するようにして、滴下と練りこみを繰り返した。次に、ペーストが滑らかな硬さになったところを終点とし、最後に以下の式で吸油量を算出した。
O1=100×V/m
ここでO1:吸油量(mL00g)
V:滴下したあまに油の容量(mL)
m:測定板に置いた人造黒鉛材料の質量(g)
【0112】
(ラマンスペクトルの半価幅ΔνGの測定)
光源をAr+レーザー(励起波長514.5nm)としたラマン分光分析を行った。測定はマクロモードで、レーザーのスポット径は約100μmであり、レーザー照射範囲全体からの平均的な情報が得られるように設定した。測定装置としては、Ramanor T-64000(Jobin Yvon/愛宕物産)を使用した。測定配置は60°、レーザーパワーは10mWである。得られたラマンスペクトル図において、1580cm-1±100cm-1の波長領域に存在するピークの半値幅ΔνGを算出した。測定および解析は3回ずつ実施し、その平均値をΔνGとして算出した。
【0113】
(実施例2)
軽質油であるディレードコーキングプロセスで得られた分解軽油(硫黄分0.2質量%、15℃における密度0.92g/cm3、飽和分36容量%、アロマ成分64容量%、アスファルテン成分0質量%、初留点220℃、終留点340℃(以下、「コーカー分解軽油(A)」と記す。))と、重質油である流動接触分解残油(A)および流動接触分解残油(B)とを、質量比で30:50:20の割合で混合し、実施例2の原料油組成物を得た。実施例2の原料油組成物中の軽質油の含有率を表1に示す。
【0114】
実施例2の原料油組成物を、実施例1と同様にしてコーキング処理してコークス化し、原料炭組成物を得た。
得られた原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が18.2μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
原料炭粉体の体積基準表面積(原料体積基準表面積)を、実施例1と同様にして求めた。その結果を表1に示す。
得られた原料炭粉体を、実施例1と同様にして焼成し、か焼コークスを得た。
【0115】
得られたか焼コークスを、グラファイトからなる坩堝に投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2800℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2800℃までの昇温時間を23時間、2800℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出す処理を行った。
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が9.8μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例2の人造黒鉛材料を得た。
得られた実施例2の人造黒鉛材料について、結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ラマンスペクトルの半価幅ΔνG、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差を、実施例1と同様の方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0116】
(実施例3)
軽油脱硫装置により得られた軽質油である脱硫軽油(15℃における密度0.90g/cm3、アロマ成分25容量%、アスファルテン成分0質量%、初留点180℃、終留点350℃(以下、「脱硫軽油(A)」と記す。))と、重質油である流動接触分解残油(A)および流動接触分解残油(B)を、質量比で15:40:45の割合で混合し、実施例3の原料油組成物を得た。実施例3の原料油組成物中の軽質油の含有率を表1に示す。
【0117】
実施例3の原料油組成物を、実施例1と同様にしてコーキング処理してコークス化し、原料炭組成物を得た。
得られた原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が19.6μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
原料炭粉体の体積基準表面積(原料体積基準表面積)を、実施例1と同様にして求めた。その結果を表1に示す。
得られた原料炭粉体を、実施例1と同様にして焼成し、か焼コークスを得た。
【0118】
得られたか焼コークスを、グラファイトからなる坩堝に投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2900℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2800℃までの昇温時間を23時間、2900℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出す処理を行った。
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が12.1μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例3の人造黒鉛材料を得た。
得られた実施例3の人造黒鉛材料について、結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ラマンスペクトルの半価幅ΔνG、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差を、実施例1と同様の方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0119】
(実施例4)
重質油である流動接触分解残油(A)とおよび流動接触分解残油(B)と、軽質油であるコーカー分解軽油(A)とを、質量比で75:20:5の割合で混合し、実施例4の原料油組成物を得た。実施例4の原料油組成物中の軽質油の含有率を表1に示す。
【0120】
実施例4の原料油組成物を、実施例1と同様にしてコーキング処理してコークス化し、原料炭組成物を得た。
得られた原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が39.3μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
原料炭粉体の体積基準表面積(原料体積基準表面積)を、実施例1と同様にして求めた。その結果を表1に示す。
得られた原料炭粉体を、グラファイトからなる坩堝に投入し、アチソン炉のブリーズに埋め込んだ後、3050℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から3050℃までの昇温時間を130時間、3050℃の保持時間を8時間とし、25日間放冷した後に取り出す処理を行った。
【0121】
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が9.8μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例4の人造黒鉛材料を得た。
得られた実施例4の人造黒鉛材料について、結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ラマンスペクトルの半価幅ΔνG、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差を、実施例1と同様の方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0122】
(実施例5)
重質油である流動接触分解残油(A)と、軽質油であるコーカー分解軽油(A)とを、質量比で75:25の割合で混合し、実施例5の原料油組成物を得た。実施例5の原料油組成物中の軽質油の含有率を表1に示す。
【0123】
実施例5の原料油組成物を、実施例1と同様にしてコーキング処理してコークス化し、原料炭組成物を得た。
得られた原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が52.7μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
原料炭粉体の体積基準表面積(原料体積基準表面積)を、実施例1と同様にして求めた。その結果を表1に示す。
得られた原料炭粉体を、グラファイトからなる坩堝に投入し、アチソン炉のブリーズに埋め込んだ後、3150℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から3150℃までの昇温時間を130時間、3150℃の保持時間を8時間とし、25日間放冷した後に取り出す処理を行った。
【0124】
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が29.8μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例5の人造黒鉛材料を得た。
得られた実施例5の人造黒鉛材料について、結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ラマンスペクトルの半価幅ΔνG、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差を、実施例1と同様の方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0125】
(比較例1)
重質油である流動接触分解残油(A)のみを、比較例1の原料油組成物として用いた。流動接触分解残油(A)を、実施例1と同様にしてコーキング処理してコークス化し、原料炭組成物を得た。
得られた原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が28.4μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
原料炭粉体の体積基準表面積(原料体積基準表面積)を、実施例1と同様にして求めた。その結果を表2に示す。
得られた原料炭粉体を、実施例1と同様にして焼成し、か焼コークスを得た。
【0126】
得られたか焼コークスを、グラファイトからなる坩堝に投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2700℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2700℃までの昇温時間を23時間、2700℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出す処理を行った。
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が10.2μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例1の人造黒鉛材料を得た。
得られた比較例1の人造黒鉛材料について、結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ラマンスペクトルの半価幅ΔνG、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差を、実施例1と同様の方法により求めた。その結果を表2に示す。
【0127】
(比較例2)
軽質油であるコーカー分解軽油(A)と、重質油である流動接触分解残油(A)および流動接触分解残油(B)とを、質量比で35:30:35の割合で混合し、比較例2の原料油組成物を得た。比較例2の原料油組成物中の軽質油の含有率を表2に示す。
【0128】
比較例2の原料油組成物を、実施例1と同様にしてコーキング処理してコークス化し、原料炭組成物を得た。
得られた原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が14.3μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
原料炭粉体の体積基準表面積(原料体積基準表面積)を、実施例1と同様にして求めた。その結果を表2に示す。
得られた原料炭粉体を、実施例1と同様にして焼成し、か焼コークスを得た。
【0129】
得られたか焼コークスを、グラファイトからなる坩堝に投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2800℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2800℃までの昇温時間を23時間、2800℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出す処理を行った。
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が9.4μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例2の人造黒鉛材料を得た。
得られた比較例2の人造黒鉛材料について、結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ラマンスペクトルの半価幅ΔνG、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差を、実施例1と同様の方法により求めた。その結果を表2に示す。
【0130】
(比較例3)
軽質油である脱硫軽油(A)と、重質油である流動接触分解残油(A)および流動接触分解残油(B)とを、質量比で45:20:35の割合で混合し、比較例3の原料油組成物を得た。比較例3の原料油組成物中の軽質油の含有率を表2に示す。
【0131】
比較例3の原料油組成物を、実施例1と同様にしてコーキング処理してコークス化し、原料炭組成物を得た。
得られた原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が25.7μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
原料炭粉体の体積基準表面積(原料体積基準表面積)を、実施例1と同様にして求めた。その結果を表2に示す。
得られた原料炭粉体を、実施例1と同様にして焼成し、か焼コークスを得た。
【0132】
得られたか焼コークスを、グラファイトからなる坩堝に投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2900℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から2900℃までの昇温時間を23時間、2900℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出す処理を行った。
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が19.8μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例3の人造黒鉛材料を得た。
得られた比較例3の人造黒鉛材料について、結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ラマンスペクトルの半価幅ΔνG、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差を、実施例1と同様の方法により求めた。その結果を表2に示す。
【0133】
(比較例4)
重質油である流動接触分解残油(A)と、軽質油であるコーカー分解軽油(A)とを、質量比で50:50の割合で混合し、比較例4の原料油組成物を得た。比較例4の原料油組成物中の軽質油の含有率を表2に示す。
【0134】
比較例4の原料油組成物を、実施例1と同様にしてコーキング処理してコークス化し、原料炭組成物を得た。
得られた原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が58.6μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
原料炭粉体の体積基準表面積(原料体積基準表面積)を、実施例1と同様にして求めた。その結果を表2に示す。
得られた原料炭粉体を、グラファイトからなる坩堝に投入し、アチソン炉のブリーズに埋め込んだ後、3150℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から3150℃までの昇温時間を130時間、3150℃の保持時間を8時間とし、25日間放冷した後に取り出す処理を行った。
【0135】
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が24.5μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例4の人造黒鉛材料を得た。
得られた比較例4の人造黒鉛材料について、結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ラマンスペクトルの半価幅ΔνG、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差を、実施例1と同様の方法により求めた。その結果を表2に示す。
【0136】
(比較例5)
重質油である流動接触分解残油(B)のみを、比較例5の原料油組成物として用いた。流動接触分解残油(B)を、実施例1と同様にしてコーキング処理してコークス化し、原料炭組成物を得た。
得られた原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が48.4μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕し、原料炭粉体を得た。
原料炭粉体の体積基準表面積(原料体積基準表面積)を、実施例1と同様にして求めた。その結果を表2に示す。
【0137】
得られた原料炭粉体を、グラファイトからなる坩堝に投入し、アチソン炉のブリーズに埋め込んだ後、3050℃で黒鉛化した。黒鉛化処理としては、室温から3050℃までの昇温時間を130時間、3050℃の保持時間を8時間とし、25日間放冷した後に取り出す処理を行った。
【0138】
得られた黒鉛粉体を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が20.7μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例5の人造黒鉛材料を得た。
得られた比較例5の人造黒鉛材料について、結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ラマンスペクトルの半価幅ΔνG、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差を、実施例1と同様の方法により求めた。その結果を表2に示す。
【0139】
(実施例6)
実施例3で得た人造黒鉛材料と、比較例2で得た人造黒鉛材料とを、質量比で50:50の割合で混合した混合物からなる実施例6の人造黒鉛材料を得た。
(実施例7)
実施例3で得た人造黒鉛材料と、比較例2で得た人造黒鉛材料とを、質量比で30:70の割合で混合した混合物からなる実施例7の人造黒鉛材料を得た。
(実施例8)
実施例3で得た人造黒鉛材料と、比較例2で得た人造黒鉛材料とを、質量比で20:80の割合で混合した混合物からなる実施例8の人造黒鉛材料を得た。
【0140】
<評価用電池の作製>
以下に示す方法により、評価用電池として
図1に示すリチウムイオン二次電池10を作製した。負極11、負極集電体12、正極13、正極集電体14、セパレータ15としては、それぞれ以下に示すものを用いた。
【0141】
(負極11、負極集電体12)
実施例1~8、比較例1~5で得た何れかの人造黒鉛材料と、1.5質量%の濃度に調整された結着剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC(第一工業製薬株式会社製のBSH-6))水溶液と、48質量%の濃度で結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)が分散した水溶液とを、固形分の質量比で98:1:1の割合で混合し、ペースト状の負極合剤を得た。得られた負極合剤を、負極集電体12としての厚さ18μmの銅箔の片面全面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、負極合剤からなる層である負極11が負極集電体12上に形成された負極シートを得た。負極シートにおける負極合剤の単位面積当たりの塗布量は、黒鉛材料の質量として約10mg/cm2となるように調整した。
【0142】
その後、負極シートを、幅32mm、長さ52mmとなるように切断した。そして、負極11の一部を、シートの長手方向に対して垂直方向に掻き取り、負極リード板としての役割を担う負極集電体12を露出させた。
【0143】
(正極13、正極集電体14)
正極材料である平均粒子径10μmのコバルト酸リチウムLiCoO2(日本化学工業社製のセルシードC10N)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#1120)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)とを質量比で89:6:5に混合し、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリジノンを加えて混練し、ペースト状の正極合剤を得た。得られた正極合剤を、正極集電体14としての厚さ30μmのアルミニウム箔の片面全面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、正極合剤からなる層である正極13が正極集電体14上に形成された正極シートを得た。正極シートにおける正極合剤の単位面積当たりの塗布量は、コバルト酸リチウムの質量として、約20mg/cm2となるように調整した。
【0144】
その後、正極シートを、幅30mm、長さ50mmとなるように切断した。そして、正極13の一部を、シートの長手方向に対して垂直方向に掻き取り、正極リード板としての役割を担う正極集電体14を露出させた。
【0145】
(セパレータ15)
セパレータ15としては、セルロース系不織布(日本高度紙(株)製のTF40-50)を用いた。
【0146】
図1に示すリチウムイオン二次電池10を作製するために、まず、負極11と負極集電体12と負極リード板とが一体化された負極シートと、正極13と正極集電体14と正極リード板とが一体化された正極シートと、セパレータ15と、その他のリチウムイオン二次電池10に使用する部材とを乾燥させた。具体的には、負極シートおよび正極シートを、減圧状態の下120℃で12時間以上乾燥させた。また、セパレータ15及びその他部材を、減圧状態の下70℃で12時間以上乾燥させた。
【0147】
次に、乾燥させた負極シート、正極シート、セパレータ15及びその他部材を、露点が-60℃以下に制御されたアルゴンガス循環型のグローブボックス内で組み立てた。このことにより、
図1に示すように正極13と負極11とがセパレータ15を介して対向して積層され、ポリイミドテープ(不図示)で固定された単層電極体を得た。なお、負極シートと正極シートとは、積層した正極シートの周縁部が、負極シートの周縁部の内側に囲まれる配置となるように積層した。
【0148】
次に、単層電極体をアルミラミネート外装16に収容し、内部に電解液を注入した。電解液としては、溶媒に、電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)が1mol/Lの濃度となるように溶解され、更にビニレンカーボネート(VC)が1.5wt%の濃度となるように混合されたものを用いた。溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で3:4:3の割合で混合したものを用いた。
その後、正極リード板および負極リード板がはみ出した状態で、アルミラミネート外装16を熱融着した。
以上の工程により、実施例1~8、比較例1~5の密閉型のリチウムイオン二次電池10を得た。
【0149】
<評価用電池の充放電試験>
実施例1~8、比較例1~5のリチウムイオン二次電池10について、それぞれ以下に示す充放電試験を行った。
先ず、電池の異常を検知するための予備試験を行った。すなわち、電池を25℃の恒温室内に設置し、4mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電し、10分間休止した後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電した。これらの充電、休止、および放電を1つの充放電サイクルとし、同様の条件で充放電サイクルを3回繰り返し、予備試験とした。
この予備試験により、実施例1~8、比較例1~5の電池は、全て異常がないことを確認した。その上で、以下の本試験を実施した。なお、予備試験は、本試験のサイクル数には含まない。
【0150】
本試験では、電池を25℃の恒温室内に設置し、充電電流を30mA、充電電圧を4.2V、充電時間を3時間とした定電流/定電圧充電を行い0分間休止した後、同じ電流(30mA)で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電した。これらの充電、休止、および放電を1つの充放電サイクルとし、同様の条件で充放電サイクルを3回繰り返し、第3サイクル目の放電容量を「初期放電容量」とした。
次に、電池を0℃に設定された恒温槽の中に設置し、5時間放置した後、初期放電容量を求めた充放電サイクルと同じ条件で、充放電サイクルを100回繰り返した。その後、電池を再度25℃の恒温槽内に設置し、5時間放置した後、初期放電容量を求めた充放電サイクルと同じ条件で、充放電サイクルを3回繰り返し、第3サイクル目の放電容量を「0℃の充放電を繰り返した後の放電容量」とした。
【0151】
0℃で充放電を繰り返した後の容量劣化を表す指標として、上記の「初期放電容量」に対する「0℃の充放電を繰り返した後の放電容量」の維持率(%)を、以下の(式1)を用いて算出した。
その結果を表1および表2に示す。
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
表1に示すように、本発明の人造黒鉛材料を含む負極を有する実施例1~8のリチウムイオン二次電池では「0℃で充放電を繰り返した後の放電容量維持率(%)」が85%以上であった。
このことから、本発明の人造黒鉛材料を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池は、0℃以下の温度で充放電サイクルが繰り返されても放電容量が劣化しにくいことが確認された。
【0156】
また、表1および表2に示すように、実施例3の放電容量維持率は96.3%、比較例2の放電容量維持率は78.5%である。このことから、実施例3の人造黒鉛材料と比較例2の人造黒鉛材料との混合物であって、実施例3の人造黒鉛材料を50質量%(実施例6)、30質量%(実施例7)、20質量%(実施例8)含む人造黒鉛材料を用いた場合の結果は、加成性が成立していないことが確認された。この理由は定かではないが、実施例6~8のリチウムイオン二次電池では、一旦、実施例3の人造黒鉛材料に吸蔵されたリチウムイオンが、液相(電解液)を介さずに、固相内拡散だけで比較例2の人造黒鉛に吸蔵された可能性がある。
【0157】
また、吸油量が本発明の範囲外である人造黒鉛材料を用いた比較例2、半価幅ΔνGが本発明の範囲外である人造黒鉛材料を用いた比較例3、吸油量および半価幅ΔνGが本発明の範囲外である人造黒鉛材料を用いた比較例1、4、5のリチウムイオン二次電池では「0℃で充放電を繰り返した後の放電容量維持率(%)」が85%未満であり、実施例1~8と比較して低い結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明に係る人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃で充放電が繰り返されることによる放電容量の劣化が生じにくい。そのため、本発明のリチウムイオン二次電池は、ハイブリッド自動車用、プラグインハイブリッド自動車用、電気自動車用などの自動車用や、系統インフラの電力貯蔵用など産業用として、好ましく利用できる。
【符号の説明】
【0159】
10 リチウムイオン二次電池、11 負極、12 負極集電体、13 正極、14 正極集電体、15 セパレータ、16 アルミラミネート外装。