IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石エネルギー株式会社の特許一覧

特許7178271人造黒鉛材料、人造黒鉛材料の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
<>
  • 特許-人造黒鉛材料、人造黒鉛材料の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】人造黒鉛材料、人造黒鉛材料の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/205 20170101AFI20221117BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20221117BHJP
   B01J 27/19 20060101ALI20221117BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20221117BHJP
   C10B 57/04 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C01B32/205
H01M4/587
B01J27/19 M
C10G45/08 A
C10B57/04 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019004664
(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公開番号】P2020111491
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴志
(72)【発明者】
【氏名】前田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】唐金 光雄
(72)【発明者】
【氏名】白井 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】川地 浩史
(72)【発明者】
【氏名】木内 規之
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-019915(JP,A)
【文献】特開2012-128973(JP,A)
【文献】国際公開第2012/020816(WO,A1)
【文献】特開2016-164862(JP,A)
【文献】特開2012-216545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
B01J 27/19
C10G 45/08
C10B 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線広角回折法によって得られた(112)回折線から算出されるc軸方向の結晶子の大きさL(112)が4~30nmであり、
レーザー回折式粒度分布測定装置により算出される体積基準表面積が0.22~1.70m/cmであり、
吸油量が67~147mL/100gであり、
Xバンドを用いて測定される電子スピン共鳴法において出現する炭素由来のスペクトルが3200~3410gaussの範囲にあり、当該スペクトルの温度4.8Kの一次微分スペクトルから算出される前記スペクトルの線幅である△Hppが41~69gauss
であることを特徴とする人造黒鉛材料。
【請求項2】
請求項1に記載の人造黒鉛材料の製造方法であって、
原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して原料炭組成物を生成する工程と、
前記原料炭組成物を粉砕して原料炭粉体を得る工程と、
前記原料炭粉体を熱処理して黒鉛粉体を得る工程と、
前記黒鉛粉体を粉砕する工程とを、少なくとも含み、
流動接触分解残油を、無機酸化物担体に周期表第6A族金属および第8族金属から選ばれる1種以上の金属を担持した触媒が充填された、平均細孔径141~200Åの触媒層(A)および平均細孔径65~110Åの触媒層(B)に、この順番に接触させて水素化脱硫した第1の重質油を得る工程と、
前記第1の重質油と、硫黄分が0.4質量%以下であって、前記第1の重質油を含まない第2の重質油とを混合して原料油組成物を得る工程と、を更に含み、
前記原料油組成物中の前記第1の重質油の含有率が15~80質量%である、人造黒鉛材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の人造黒鉛材料を含むリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
請求項に記載の負極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人造黒鉛材料、人造黒鉛材料の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、自動車用、系統インフラの電力貯蔵用などの産業用に利用されている。
リチウムイオン二次電池の負極材料として、人造黒鉛材料などの黒鉛が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
自動車用途に適用される電池は、0℃以下の低温から60℃以上の高温まで、広い温度範囲で使用される。しかし、負極材料として黒鉛が使用されているリチウムイオン二次電池では、0℃以下の低温で負極にリチウム金属が析出し易いという不都合があった。負極にリチウム金属が析出すると、正極と負極を移動可能なリチウムイオンが減少する。このため、リチウムイオン二次電池の容量が劣化する。
【0004】
負極にリチウム金属が析出しない状態では、正極と負極の充放電効率の差で容量劣化が進行することは既報(例えば、非特許文献1及び2参照。)の通りである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5415684号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】第51回電池討論会要旨集3G15(2010年11月8日)
【文献】「リチウムイオン二次電池のための負極用炭素材料」P.3-4(リアライズ社、1996年10月20日発行)
【文献】炭素 1966 No.47 30-34
【文献】炭素 1969 No.50 20-25
【文献】炭素 1996 No.175 249-256
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
負極材料として黒鉛を使用したリチウムイオン電池では、0℃以下の低温で充放電されることによる容量劣化を抑制することが課題となっている。特に、自動車用途および系統インフラの電力貯蔵用に適用される産業用のリチウムイオン電池は、広い温度範囲で使用されるため、問題となっている。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池用負極の材料として用いることにより、0℃以下の低温で充放電が繰り返されても放電容量が劣化しにくいリチウムイオン二次電池が得られる人造黒鉛材料を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記の人造黒鉛材料の製造方法、上記の人造黒鉛材料を含むリチウムイオン二次電池用負極、およびこの負極を用いた0℃以下の低温で充放電が繰り返されても放電容量が劣化しにくいリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]X線広角回折法によって得られた(112)回折線から算出されるc軸方向の結晶子の大きさL(112)が4~30nmであり、
レーザー回折式粒度分布測定装置により算出される体積基準表面積が0.22~1.70m/cmであり、
吸油量が67~147mL/100gであり、
Xバンドを用いて測定される電子スピン共鳴法において出現する炭素由来のスペクトルが3200~3410gaussの範囲にあり、当該スペクトルの温度4.8Kの一次微分スペクトルから算出される前記スペクトルの線幅である△Hppが41~69gauss
であることを特徴とする人造黒鉛材料。
【0010】
[2][1]に記載の人造黒鉛材料の製造方法であって、
原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して原料炭組成物を生成する工程と、
前記原料炭組成物を粉砕して原料炭粉体を得る工程と、
前記原料炭粉体を熱処理して黒鉛粉体を得る工程と、
前記黒鉛粉体を粉砕する工程とを、少なくとも含む人造黒鉛材料の製造方法。
[3]流動接触分解残油を、無機酸化物担体に周期表第6A族金属および第8族金属から選ばれる1種以上の金属を担持した触媒が充填された、平均細孔径141~200Åの触媒層(A)および平均細孔径65~110Åの触媒層(B)に、この順番に接触させて水素化脱硫した第1の重質油を得る工程と、
前記第1の重質油と、硫黄分が0.4質量%以下であって、前記第1の重質油を含まない第2の重質油とを混合して原料油組成物を得る工程と、を更に含み、
前記原料油組成物中の前記第1の重質油の含有率が15~80質量%である、請求項2に記載の人造黒鉛材料の製造方法。
【0011】
[4][1]に記載の人造黒鉛材料を含むリチウムイオン二次電池用負極。
[5][4]に記載の負極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明の人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃以下の低温で充放電が繰り返されても放電容量が劣化しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のリチウムイオン二次電池の一例を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の人造黒鉛材料、人造黒鉛材料の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0015】
〔人造黒鉛材料〕
本実施形態の人造黒鉛材料は、下記(1)~(4)の条件を全て満たすものである。
(1)X線広角回折法によって得られた(112)回折線から算出されるc軸方向の結晶子の大きさL(112)が4~30nmである。
(2)レーザー回折式粒度分布測定装置により算出される体積基準表面積が0.22~1.70m/cmである。
(3)吸油量が67~147mL/100gである。
(4)Xバンドを用いて測定される電子スピン共鳴法において出現する炭素由来のスペクトルが3200~3410gaussの範囲にあり、当該スペクトルの温度4.8Kの一次微分スペクトルから算出される前記スペクトルの線幅である△Hppが41~69gaussである。
【0016】
上記条件(1)において、X線広角回折法によって得られた(112)回折線から算出されるc軸方向の結晶子の大きさL(112)は、JIS R 7651(2007)の「人造黒鉛材料の格子定数及び結晶子の大きさ測定法」に準拠して測定および計算されたL(112)である。この方法で測定および計算されたL(112)を、以下、単にL(112)と略記する場合がある。
【0017】
上記条件(2)において、レーザー回折式粒度分布測定装置により算出される体積基準表面積は、JIS Z 8819-2(2001)の「粒子径測定結果の表現-第2部:粒子径分布からの平均粒子径又は平均粒子直径及びモーメントの計算」のうち「5.5体積基準表面積の計算」に準拠して算出された体積基準表面積である。この方法で測定および計算された体積基準表面積を、以下、単に「体積基準表面積」と略記する場合がある。
【0018】
上記条件(3)における吸油量は、JIS K 5101-13-1(2004)の「吸油量-第一節:精製あまに油法」に準拠して測定および計算された吸油量である。以下、単に「吸油量」と略記する場合がある。
【0019】
上記条件(4)におけるΔHppは、黒鉛材料を試料管に入れ、ロータリーポンプで真空引きした後、試料管にHeガスを封入して行われるESR測定において、マイクロ波はXバンド(9.47GHz)、強度は1mW、中心磁場は3360G、磁場変調は100kHz、測定温度は4.8Kの条件で測定されたとき、3200~3410gauss(G)の範囲に存在する吸収スペクトルの一次微分スペクトルにおける最大ピークと最小ピークからなる2つのピークの間隔である。以下、単に「ΔHpp(4.8K)」と略記する場合がある。
【0020】
発明者等は、人造黒鉛材料のc軸方向の結晶子の大きさ、体積基準表面積、吸油量、ΔHpp(4.8K)に着目して鋭意検討を重ね、上記条件(1)~(4)を全て満たす人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池とすることで、0℃以下の温度で充放電が繰り返された場合の放電容量の劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
上記条件(1)「L(112)が4~30nmである」人造黒鉛材料は、結晶が高度に発達している。L(112)が4~30nmである人造黒鉛材料は、リチウムイオン二次電池の負極として好適な黒鉛化度を有する。L(112)が大きいほど可逆容量が大きいため、人造黒鉛材料のL(112)は4nm以上であることが好ましい。
L(112)が4nm未満の人造黒鉛材料は、結晶組織の発達が不十分である。このため、L(112)が4nm未満の人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、容量が小さく、好ましくない(例えば、非特許文献2参照)。
【0022】
上記条件(2)は、人造黒鉛材料の粒子径と分布を、数値として表現した値である。リチウムイオン二次電池の負極に用いられる人造黒鉛材料は、一般的に粒子状(粉末)である。人造黒鉛材料の粒子径(粒度)は、分布を有している。人造黒鉛材料の粒子径と分布の関係(粒度分布)は、ヒストグラム(面)として表現される。人造黒鉛材料の粒度分布を数値(点)として表現した値が体積基準表面積である。
【0023】
上記条件(2)「体積基準表面積が0.22~1.70m/cmである」人造黒鉛材料は、リチウムイオン二次電池の負極材料として使用可能な粒度分布を有する。
体積基準表面積が0.22m/cm未満であると、粒子径の大きな粗粉粒子の割合が高くなり、一般的な厚み(20~200μm)の均一な負極を成形できない場合がある。また、体積基準表面積が1.70m/cmを超えると、粒子径の小さい微粉の割合が高くなり、粒子間に働く付着力のような相互作用の影響が、重力の影響よりも強くなる場合がある。このため、人造黒鉛材料を含む負極合剤を用いてリチウムイオン二次電池の負極を形成する場合に、均質な負極合剤が得られにくく、実状に即さない。
【0024】
上記条件(3)「吸油量が67~147mL/100g」は、上記条件(2)の体積基準表面積を満たす場合における単位重量当たりの粒子数を示す指標である。
粒度分布は、粒子径(μm)と頻度(%)のヒストグラムとして表現するが、頻度には単位重量当たりの粒子数の情報は全く含まれていない。同様に粒度分布から求められる体積基準表面積にも、単位重量当たりの粒子数の情報は全く含まれていない。
【0025】
人造黒鉛材料の吸油量が147mL/100g以下であると、これを含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃以下の低温で充放電サイクルが繰り返されても負極にリチウム金属が析出しにくく、放電容量が劣化しにくいものとなる。また、人造黒鉛材料の吸油量が67mL/100g以上であると、単位重量当たりの粒子数が多いため、0℃以下の低温でも十分な充電受入性が得られる。よって、これを含む負極を有するリチウム二次電池の充放電効率が飛躍的に向上する。したがって、吸油量が67mL/100g以上である人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃以下の温度で充放電サイクルを繰り返すことによる容量劣化が、実用上十分に抑制されたものとなる。
【0026】
これに対し、吸油量が147mL/100gを超える人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウム二次電池は、0℃以下の低温で充放電されると、負極における充電時のリチウム金属析出により、サイクル回数毎に放電容量が急速に劣化する。より詳細には、吸油量が147mL/100gを超える人造黒鉛材料は、製造時に黒鉛粉体の割断的な粉砕よりも剥離的な粉砕が優先的に生じて、粒子形状が薄片化しながら粉砕されたため、単位重量当たりの粒子数が多くなっている。このため、この人造黒鉛材料を含む負極では、人造黒鉛材料の隣接粒子間における空隙体積(電解質の存在領域)が小さく、しかも黒鉛粉体の割断的な粉砕で生じる人造黒鉛材料の粒子におけるリチウムイオンの出入り口となるエッヂが不足しており、電解液のイオン伝導性が不十分となっている。その結果、0℃以下の低温での充電による負極でのカソーディック分極が増大しやすく、リチウム金属が析出し易いことに起因して、充放電サイクルの繰り返しによる放電容量の劣化が大きくなり易い。
【0027】
本明細書において、黒鉛粉体の割断的な粉砕とは、黒鉛の化学結合の切断を伴う粉砕であって、黒鉛の面方向に対して略垂直な割れが生じる粉砕であることを意味する。
また、黒鉛粉体の剥離的な粉砕とは、黒鉛の化学結合の切断を伴わない粉砕であり、黒鉛の面方向に対して略平行な剥離が生じる粉砕であることを意味する。
【0028】
上記条件(4)「Xバンドを用いて測定される電子スピン共鳴法において出現する炭素由来のスペクトルが3200~3410gaussの範囲にあり、当該スペクトルの温度4.8Kの一次微分スペクトルから算出される前記スペクトルの線幅である△Hppが41~69gaussである」人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃以下の低温で充放電サイクルが繰り返されても放電容量が劣化しにくい。
ここでΔHpp(4.8K)は、黒鉛材料の粒子表面に露出するエッジ面の状態の多さを表す指標である。その理由について以下に詳述する。
【0029】
ESR測定は、不対電子が磁場中に置かれたときに生じる準位間の遷移を観測する分光分析である。不対電子を持つ物質に磁場を与えると、ゼーマン効果により物質のエネルギー準位が二分される。測定は、マイクロ波照射下で磁場を掃引して行うが、印加する磁場が大きくなるに従ってエネルギーの分裂間隔である△Eが増大する。△Eが、照射したマイクロ波のエネルギーと等しくなった時に共鳴吸収が観測され、このときのエネルギーの吸収量を検知することによりESRスペクトルが得られる。ESRスペクトルは、通常一次微分スペクトルで得られ、一回積分すると吸収スペクトルになり、二回積分すると信号強度が得られる。このときの信号強度の大きさは、物質中の不対電子の密度の大きさを表す指標となる。黒鉛材料の結晶の中には、局在電子と伝導電子の2種の不対電子が存在する。即ち、黒鉛材料のESR測定では、これら2種の不対電子によるマイクロ波の共鳴吸収の和がESRスペクトルとして観測される。得られたESRスペクトルを二回積分して得られる信号強度は、伝導電子密度と局在電子密度を合計した不対電子密度の大きさを表す指標となる。ここで、黒鉛材料中における伝導電子とは、六角網平面を形成する環の数とその結合形式に関係して自発的に発現する不対π電子であり、六角網平面内を自由に動くことが可能である(非特許文献3、4)。
【0030】
一方、局在電子とは、六角網平面積層体のエッジ面に存在する局在電子であり、不動の電子である。また、伝導電子による共鳴吸収の信号強度には温度依存性が無いのに対し、局在電子による共鳴吸収の信号強度は測定温度であるTに逆比例して増大する。例えば、4.2K≦T≦300Kの温度範囲における炭素材料のESR測定において、300Kから徐々に測定温度を下げて測定を行った場合、50K付近において局在電子によるマイクロ波の吸収が観測され始め、50K以下の低温領域では、局在電子による信号強度が測定温度であるTに逆比例して大きくなることが報告されている(非特許文献5。)
【0031】
黒鉛材料のESRスペクトルは、共鳴磁場の異なる吸収スペクトルを平均化したスペクトルである。そのため、状態の異なる不対電子が複数存在する場合、即ち異なった磁場での共鳴吸収が複数生じる場合、ESRスペクトルは、見かけ上、ブロードなスペクトルとなり線幅である△Hppが増大する。特に、局在電子の寄与が大きな低温度領域において、△Hppが大きい場合、その黒鉛材料中には局在電子の状態が複数存在していると予測することが可能である。局在電子の状態が複数存在することは、即ち、局在電子が存在するエッジ面の状態が複数存在するとも換言できる。これらのことから、50K以下の低温度領域において、△Hppは、黒鉛材料の粒子表面に露出するエッジ面の状態の多さを表す指標と言える。
【0032】
本実施形態の人造黒鉛材料は、上記条件(4)を満たす。前述の通り、測定温度4.8KにおけるESRスペクトルの線幅である△Hppは、局在電子の状態の多さを表す指標である。△Hppが大きいほど局在電子の状態が複数存在することを示すため、すなわち、エッジ面の状態が複数存在することとなる。一方、△Hppが小さいほど局在電子の状態が少ないことを示すため、即ち、エッジ面の状態が少ないこととなる。
【0033】
特に上記条件(1)の結晶子サイズL(112)として、4~30nmに達した高結晶の黒鉛粉体が、上記条件(2)の体積基準表面積として0.22~1.70m/cmに達するまで粉砕された場合は、前述の通り、割断的な粉砕よりも剥離的な粉砕が優先的に生じる。剥離的な粉砕は黒鉛粒子を構成する結晶子のベーサルプレーンに平行な剪断応力が加えられることにより生じる粉砕のため、2方向の破断面(エッヂ側の破断面とベーサルプレーン側の破断面)のうち、特にエッヂ側の破断面では、炭素原子の三次元的な配列の規則性は大きく低下し、局在電子の状態が多種に渡り出現するため、当該粉砕後のΔHpp(4.8K)は大きくなる。これに対して割断的な粉砕は、黒鉛粒子を構成する結晶子のベーサルプレーンに垂直な力学的エネルギーが加えられることにより生じる粉砕のため、エッヂ側の破断面に存在する炭素原子の三次元的な配列の規則性は、剥離的な粉砕の場合よりも低下しない。従って、第一の発明に記載の製造方法によって得られた黒鉛粒子のΔHppは、剥離的な粉砕と割断的な粉砕が生じた割合を示す指標と見なすことができる。即ち、当該製造法で得られた人造黒鉛の場合に限り、ΔHppが小さいほど、剥離的な粉砕が生じた確率よりも、割断的な粉砕が生じた割合が高いと見なすことが可能である。
【0034】
吸油量として67~147mL/100gになるまで粉砕された通常の黒鉛粒子のΔHpp(4.8K)は、70gauss以上であるのが一般的だった。これに対して本出願の第一の発明に記載された人造黒鉛材料は、ΔHpp(4.8K)が69cm-1以下のため、通常の黒鉛材料よりも割断的に粉砕された粒子の割合の方が高い材料とみなすことができる。このような人造黒鉛材料は、(a)原料である原料油組成物として、特定の触媒システムで処理された流動接触分解残油を使用すること、及び(b)当該原料炭組成物の粉砕後の体積基準表面積(以下、原料体積基準表面積と略記場合がある)と、当該熱処理後の黒鉛粉体を粉砕した後の体積基準表面積(以下、黒鉛体積基準表面積と略記場合がある)の差を制御することの、2つの制御を組み合わせることにより製造することができる。
【0035】
原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理された原料炭組成物を粉砕し、原料炭組成物の粉体を得る工程と、当該原料炭組成物の粉体を熱処理して黒鉛粉体を得る工程と、熱処理後の黒鉛粉体を粉砕する工程とを、少なくとも含んだ製造法により得られた人造黒鉛であって、前記2つの制御が無い人造黒鉛と比較した、本実施形態の人造黒鉛材料(前記2つの制御を組み合わせた人造黒鉛材料)を比較した場合の特長は、前記(b)の差が大きくても(黒鉛体積基準表面積が大きくなるまで粉砕しても)、ΔHpp(4.8K)が小さな黒鉛粉体が得られる点にある。即ち2つの制御により、当該熱処理後の黒鉛粉体が、割断的に粉砕される確率が向上すると理解できる。ここで黒鉛体積基準表面積は、本実施形態における前記条件(2)に記載された体積基準表面積と同一である。従って黒鉛基準表面積は、前記条件(2)の数値範囲に記載の通り、リチウムイオン二次電池負極用の人造黒鉛材料として一般的に使用されている人造黒鉛の粒度分布の範囲となるように設定すれば良い。一方、原料体積基準表面積は、当該熱処理後の黒鉛粉体を粉砕するために、目的とする黒鉛体積基準表面積よりも大きな値を設定すれば良い。具体的には当該熱処理後の粉砕で得られる人造黒鉛材料の吸油量、及びΔHpp(4.8K)が、前記条件(3)の吸油量、及び前記条件(4)のΔHpp(4.8K)の範囲に含まれるように都度調整しながら設定すべきであるが、代表的な範囲としては、0.22~1.70m/cmが挙げられる。
【0036】
前記2つの制御により、前記条件(2)の体積基準表面積の範囲内でも、吸油量とΔHppを自在に制御可能である。当該原料炭組成物、及び当該熱処理後の黒鉛粉体が粉砕されるとき、各々の粉砕条件(粉砕機の運転条件)を制御すれば、原料体積基準表面積と黒鉛体積基準表面積の差が制御可能である。この制御で得られる当該人造黒鉛材料は、吸油量が大きくなるほどΔHppは単調に増加する。しかし、その関係(ΔHpp(4.8K)に対する吸油量の関数)は、原料油組成物(特定の触媒システムで処理された流動接触分解残油を使用すること)に強く依存することが発明者等により見出されるに至った。そこで、当該製造法により得られる人造黒鉛材料の吸油量とΔHpp(4.8K)の自在な制御が可能となった。しかし当該製造法によって、0℃以下で充放電が繰り返されてもリチウム金属が析出し難い黒鉛材料を得るためには、前記条件(4)「ΔHpp(4.8K)が41~69gauss」、且つ前記条件(3)「吸油量が67~147ml/100g」を満たす必要がある。その理由を以下に詳術する。
【0037】
前述の通り、当該製法により得られた人造黒鉛に限り、ΔHpp(4.8K)が小さいほど割断的な粉砕が剥離的な粉砕よりも優先して生じていると見なすことができる。従ってΔHpp(4.8K)が41gauss以下の場合は、粒子表面に存在するエッヂの割合が非常に高く、この種の人造黒鉛材料が負極に使用された場合は、負極の充放電効率の低下に伴うサイクル劣化が大きいため好ましくない。黒鉛粒子表面に占めるエッヂ面の割合が増大することで、負極の充放電効率が低下し、正極の充放電効率との差が拡大することに起因した劣化である。この種の劣化メカニズムは、0℃以下の充放電が繰り返される場合でも、0℃以上で充放電が繰り返される場合でも全く同様である。逆にΔHpp(4.8K)が69gauss以上の場合は、割断的な粉砕よりも剥離的な粉砕が生じた結果、粉砕後の粒子表面に存在するエッヂ面では、炭素原子の3次元的な配列が、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション反応を阻害する(立体障害になる)ほど乱れる(化学結合の切断により生じた局在電子の状態が多種に渡る)ため好ましくない。このような黒鉛材料が負極に使用されたリチウムイオン二次電池は、負極の抵抗が大きいため、0℃で充放電が繰り返された場合は、負極にリチウム金属が析出し、サイクル劣化が大きくなるため好ましくない。
【0038】
一方、前述の通り吸油量は、単位重量当たりに存在する粒子の数を示す指標である。このため吸油量が67mL/100g以下の黒鉛材料は、単位重量当たりの粒子の数が非常に少ないと見なすことができる。このような人造黒鉛材料が負極に使用されたリチウムイオン二次電池は、特に0℃以下の低温で充電される場合の抵抗が大きく(充電受入性が低下し)、負極にリチウム金属が析出し易いため好ましくない。逆に吸油量が147mL/100g以上の場合は、単位重量当たりの粒子数が増大し過ぎるため、リチウムイオン二次電池の負極として形成された場合には、隣接粒子間に形成される空隙体積は必然的に小さくなる。また負極に存在する電解質のイオン伝導性は電極の空隙体積が大きいほど高く、且つ電解質のイオン伝導度は低温ほど低下する。このため吸油量が147mL/100g以上の黒鉛材料が負極に使用されたリチウムイオン二次電池は、0℃以下の低温で負極の抵抗が特に高く、0℃以下の低温で充放電が繰り返された場合は、放電容量のサイクル劣化が大きくなるため好ましくない。
【0039】
したがって、上述の通り、本実施形態の人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、前記条件(3)及び前記条件(4)を満たさない人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池に比べて、吸油量が小さく、且つΔHpp(4.8K)も小さいため、隣接粒子間の空隙体積が相対的に大きく、低温でも電解質のイオン伝導性が確保されていること、及び0℃以下の低温で充放電電を繰り返してもリチウム金属が析出し難いだけのエッヂ面が、寿命特性に大きな影響を与えない範囲で確保されている。そのため、本実施形態の人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃以下の低温で充放電を繰り返しても放電容量の劣化抑制が可能である。
【0040】
〔人造黒鉛材料の製造方法〕
本実施形態の人造黒鉛材料は、例えば、以下に示す製造方法により製造できる。
すなわち、原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して原料炭組成物を生成する工程と、原料炭組成物を粉砕して原料炭粉体を得る工程と、原料炭粉体を熱処理して黒鉛粉体を得る工程と、黒鉛粉体を粉砕する工程とを行う。
【0041】
(原料油組成物をコーキング処理して原料炭組成物を生成する工程)
本実施形態の人造黒鉛材料の製造方法において用いられる原料油組成物としては、後述する第1の重質油と第2の重質油とを含む原料油組成物が好ましい。
【0042】
<第1の重質油>
第1の重質油は、硫黄分が好ましくは0.5質量%以上1.5質量%未満であり、アロマ成分が好ましくは50質量%以上90質量%未満である流動接触分解残油を、所定の水素化脱硫処理することで得られる。流動接触分解残油中の硫黄分の上限値は、1.0質量%が更に好ましい。流動接触分解残油中の硫黄分が1.5質量%を超えると、後述の触媒システムで水素化脱硫をしても、難脱硫成分である多環アロマ成分の脱硫が困難となる場合がある。
なお、硫黄分は、JIS M 8813-附属2:2006に記載された方法に基づき測定することができる。また、流動接触分解残油中のアロマ成分の下限値は、70質量%が更に好ましい。
なお、アロマ成分、後述する飽和成分およびアスファルテン成分の含有率は、TLC-FID法により測定できる。TLC-FID法とは、薄層クロマトグラフィー(TLC)により試料を飽和成分、アロマ成分、レジン成分及びアスファルテン成分に4分割し、その後、水素炎イオン化検出器(Flame Ionization Detector:FID)にて各成分を検出し、各成分量の全成分量に対する百分率をもって組成成分値としたものである。まず、試料0.2g±0.01gをトルエン10mlに溶解して、試料溶液を調整する。予め空焼きしたシリカゲル棒状薄層(クロマロッド)の下端(ロッドホルダーの0.5cmの位置)にマイクロシリンジを用いて1μlスポットし、ドライヤー等により乾燥させる。次に、このマイクロロッド10本を1セットとして、展開溶媒にて試料の展開を行う。展開溶媒としては、第1展開槽にヘキサン、第2展開槽にヘキサン/トルエン(体積比20:80)、第3展開槽にジクロロメタン/メタノール(体積比95:5)を使用する。飽和成分については、ヘキサンを溶媒とする第1展開槽にて溶出して展開する。アロマ成分については、第1展開の後、第2展開槽にて溶出して展開する。アスファルテン成分については、第1展開、第2展開の後、ジクロロメタン/メタノールを溶媒とする第3展開槽にて溶出して展開する。展開後のクロマロッドを測定器(例えば、ダイアヤトロン社(現三菱化学ヤトロン社)製の「イアトロスキャンMK-5」(商品名))にセットし、水素炎イオン化検出器(FID)で各成分量を測定する。各成分量を合計すると全成分量が得られる。
【0043】
上述した流動接触分解残油の原料となる重質油としては、流動接触分解により硫黄分、アロマ成分が上記した条件を満たすことが可能なものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは、15℃における密度が0.8g/cm以上である炭化水素油であり、例えば常圧蒸留残油、減圧蒸留残油、シェールオイル、タールサンドビチューメン、オリノコタール、石炭液化油、及びこれらを水素化精製した重質油等が挙げられる。なお、密度は、JIS K 2249-1:2011に記載された方法に基づき測定された値である。
【0044】
常圧蒸留残油は、原油を常圧蒸留装置にかけて、例えば、常圧下、加熱して、含まれる留分の沸点により、ガス・LPGやガソリン留分、灯油留分、軽油留分、常圧蒸留残油に分けられる際に得られる留分の一つで、最も沸点高い留分である。加熱温度は、原油の産地等により変動し、これらの留分に分留できるものであれば限定されないが、例えば原油を320℃に加熱する。減圧蒸留残油(VR)は、原油を常圧蒸留装置にかけて、ガス・軽質油・常圧蒸留残油を得た後、この常圧蒸留残油を、例えば、1.3~4.0kPa(10~30Torr)の減圧下、加熱炉出口温度320~360℃の範囲で変化させて得られる減圧蒸留装置のボトム油である。
【0045】
流動接触分解残油の原料として、また、上記の重質油以外に、直留軽油、減圧軽油、脱硫軽油、脱硫減圧軽油等の比較的軽質な油を含有してもよく、特に減圧軽油、例えば脱硫減圧軽油が好ましい。減圧軽油は、例えば、常圧蒸留残油を直接脱硫して得られる脱硫減圧軽油(好ましくは、硫黄分500質量ppm以下であり、15℃における密度0.8/cm以上である。)であることが好ましい。
【0046】
流動接触分解の条件は、硫黄分、アロマ成分が上記の条件を満たすことが可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、反応温度を480~560℃、全圧を0.1~0.3MPa、触媒と油の比(触媒/油)を1~20、接触時間を1~10秒としてもよい。流動接触分解に用いられる触媒としては、例えばゼオライト触媒、シリカアルミナ触媒、又はこれらの触媒に白金等の貴金属を担持したもの等が挙げられる。
【0047】
<第1の重質油を得るための水素化脱硫>
第1の重質油は、上述した流動接触分解残油を所定の水素化脱硫を行うことで得られる。水素化脱硫システムは、例えば特開2013-209528号または特開2013-209529号に準じた触媒システムを用いてもよい。具体的には、流動接触分解残油を、無機酸化物担体に周期表第6A族金属および第8族金属から選ばれる1種以上の金属を担持した触媒が充填された、平均細孔径140~200Åの触媒層(A)および平均細孔径80~110Åの触媒層(B)に、この順番に接触させる2層の触媒層を用いて、場合によっては、触媒層(A)および触媒層(B)との接触後に、さらに平均細孔径65~79Åの触媒層(C)に接触させる3層の触媒層を用いて水素化脱硫し、脱硫流動接触分解残油を得る。従来の製造方法において水素化脱硫に用いられる重質油の脱硫触媒は、80Å程度の細孔径が一般的であり、多環アロマ成分はその分子サイズから立体障害が大きく、触媒の細孔内に分子が入る頻度が低下し脱硫反応が十分に行われないことがあり、高い脱硫率を得られなかった。本実施形態においては、以下に説明する水素化脱硫システムを用いることにより、流動接触分解残油から多くの多環アロマ成分を除去することができ、脱硫率を向上させることが可能である。このため、水素化脱硫システムで処理した後の流動接触分解残油は、良好なバルクメソフェーズ形成に好ましいとされる2~3環のアロマ成分を十分に得ることができる。
【0048】
水素化脱硫システムは、例えば、固定床反応装置に所定の触媒を充填して、後述する触媒層(A)および触媒層(B)の2層の触媒層を形成してもよいし、触媒層(A)および触媒層(B)の後に触媒層(C)を形成して3層としてもよい。この場合、流動接触分解残油を触媒層(A)~(B)または触媒層(A)~(C)の順に順次接触させることにより、水素化脱硫を行なう。
【0049】
まずは、触媒層(A)に使用する触媒Aについて説明する。触媒Aの無機酸化物担体として、担体の85質量%以上を占める主成分がアルミナ、シリカアルミナ、アルミナボリア、アルミナジルコニア、アルミナチタニア、またはこれらを組合せたものを挙げることができ、好ましくはアルミナおよびシリカアルミナである。また、これら担体にリンを担体基準で0.5~5質量%含有してもよい。リンを含有させることにより脱硫活性が向上するため好ましい。
【0050】
触媒Aの平均細孔径は140~200Åの範囲であることが重要であり、好ましくは150~180Åの範囲である。触媒Aにより、3環以上(特に5、6環)の多環の硫黄化合物を核水添し、平板状の嵩高い多環アロマの立体構造をくずすことで、小さな細孔をもつ後段の触媒層において脱硫しやすくしている。触媒Aの平均細孔径が140Å未満では多環の硫黄化合物を触媒細孔内に十分に拡散させることができず、十分な核水添の効果が得られない。また、200Åを超えると、触媒の充填密度が低くなり十分な核水添の効果が得られない。なお、本発明において、触媒の平均細孔径は、水銀圧入法またはBJH法により求められる値である。
【0051】
上記担体に担持する第6A族金属としては、モリブテンまたはタングステンが用いられる。それらの担持量は、それらの酸化物基準で触媒に対して3~22質量%であることが好ましい。2層の場合は、より好ましくは8~15質量%であり、3層の場合は、より好ましくは8~20質量%である。3質量%未満では、十分な脱硫および脱窒素活性が得られない傾向にある。また、22質量%を超えると、金属が凝集し、脱硫活性が減少する傾向にある。また、第8族金属としては、コバルトおよび/またはニッケルが用いられる。それらの担持量は、それらの酸化物基準で触媒に対して0.2~12質量%が好ましい。2層の場合は、1~10質量%がより好ましく、3層の場合は、1~12質量%がより好ましい。
【0052】
全触媒充填層に対する触媒層(A)の割合は、全触媒充填層が2層であっても3層であっても、10~30容量%が好ましく、15~25容量%がより好ましい。10容量%未満では十分な核水添の効果が得られない。一方、30容量%を超えると、後段の触媒の充填量が減少することから後段での脱硫活性が不足する。
【0053】
次に、触媒層(B)に使用する触媒Bについて説明する。触媒Bの無機酸化物担体として、担体の85質量%以上を占める主成分がアルミナ、シリカアルミナ、アルミナボリア、アルミナジルコニア、アルミナチタニア、またはこれらを組合せたものを挙げることができる。2層の場合は、好ましくはアルミナボリア、シリカアルミナ、アルミナチタニアであり、特に好ましくはアルミナボリア、アルミナチタニアである。3層の場合は、好ましくはアルミナおよびシリカアルミナである。また、これら担体にリンを担体基準で0.5~5質量%含有してもよい。リンを含有させることにより脱硫活性が向上するため好ましい。
【0054】
触媒Bの平均細孔径は、2層の場合は、65~110Åの範囲であることが重要であり、好ましくは70~100Å、さらにより好ましくは80~95Åである。3層の場合は、80~110Åの範囲であることが重要であり、好ましくは80~100Åの範囲である。触媒Bにより、触媒層(A)で核水添されて平板状の嵩高い立体構造がくずれた多環硫黄化合物を脱硫する。触媒Bの平均細孔径が上記の下限値未満ではこれらの硫黄化合物を触媒細孔内に十分に拡散させることができず、十分な水素化の効果が得られない。また、110Åを超えると、触媒の充填密度が低くなり十分な脱硫効果が得られない。
【0055】
上記担体に担持する第6A族金属としては、モリブテンまたはタングステンが用いられる。それらの担持量は、それらの酸化物基準で触媒に対して15~22質量%であることが好ましい。2層の場合は、より好ましくは17~20質量%であり、3層の場合は、より好ましくは17~22質量%である。15質量%未満では十分な脱硫活性が得られない傾向にある。また、22質量%を超えると金属が凝集し、脱硫活性が減少する傾向にある。また、第8族金属としては、コバルトおよび/またはニッケルが用いられる。それらの担持量は、2層の場合は、それらの酸化物基準で触媒に対して0.2~10質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましく、3層の場合は、それらの酸化物基準で触媒に対して0.2~12質量%が好ましく、1~12質量%がより好ましい。
【0056】
全触媒充填層に対する触媒層(B)の割合は、全触媒充填層が2層である場合は、70~90容量%が好ましく、75~85容量%がさらに好ましい。全触媒充填層が3層である場合は、40~80容量%が好ましく、40~60容量%がより好ましい。上記の下限値未満または上記の上限値を超えると、十分な脱硫効果が得られない。
【0057】
次に、触媒層(C)に使用する触媒Cについて説明する。触媒Cの無機酸化物担体として、担体の85質量%以上を占める主成分がアルミナ、シリカアルミナ、アルミナボリア、アルミナジルコニア、アルミナチタニア、またはこれらを組合せたものを挙げることができ、好ましくはアルミナおよびシリカアルミナである。また、これら担体基準でリンを担体の0.5~5質量%含有してもよい。リンを含有させることにより脱硫活性が向上するため好ましい。
【0058】
触媒Cの平均細孔径は65~79Åの範囲であることが重要であり、好ましくは70~79Åの範囲である。CLOには2環アロマ以下の比較的小さな硫黄化合物も含まれているため、触媒層(A)、(B)だけではそれらに対する脱硫が不十分であった場合に、触媒Cによりそれらを効率よく脱硫するものである。触媒Cの平均細孔径が65Å未満ではこれらの硫黄化合物を触媒細孔内に十分に拡散させることができず、十分な水素化の効果が得られない。また、79Åを超えると、触媒の充填密度が低くなり十分な脱硫効果が得られない。
【0059】
上記担体に担持する第6A族金属としては、モリブテンまたはタングステンが用いられる。それらの担持量は、それらの酸化物基準で触媒に対して15~22質量%であることが好ましく、より好ましくは17~22質量%である。15質量%未満では十分な脱硫が得られない傾向にある。また、22質量%を超えると金属が凝集し、脱硫活性が減少する傾向にある。また、第8族金属としては、コバルトおよび/またはニッケルが用いられる。それらの担持量は、それらの酸化物基準で触媒に対して0.2~12質量%が好ましく、1~12質量%がより好ましい。
【0060】
全触媒充填層に対する触媒層(C)の割合は、10~40容量%が好ましく、20~40容量%がより好ましく、20~35容量%がさらに好ましい。10容量%未満または40容量%を超えると、十分な脱硫効果が得られない。
【0061】
触媒層(A)および触媒層(B)の順に、または、触媒層(A)、触媒層(B)および触媒層(C)の順に、流動接触分解重質残油を接触させることで、所望の水素化脱硫することが可能となる。具体的には、まず触媒層(A)において流動接触分解重質残油中の高度の多環硫黄化合物の核水添を行い、多環硫黄化合物の環数を低減させる(例えば5、6環の芳香環を3、4環へ低減)。次に触媒層(B)において、触媒層(A)で環数が低減された多環硫黄化合物の脱硫を行う(例えば3、4環硫黄化合物の脱硫)。最後に触媒層(C)において、触媒層(B)で脱硫できなかった硫黄化合物を水素化することで、多環硫黄化合物の脱硫を行う。このように、上流方向から順に、平均細孔径が大きな触媒から小さい触媒を配置し、且つそれらを最適の割合で充填することで、より高い脱硫性能を得ることが可能となる。
【0062】
触媒の配置については、2層の場合、例えば、触媒層(A)はモリブテン、コバルトおよびニッケルを含有し、触媒層(B)はモリブテンおよびニッケルを含有してもよい。この場合、全体に対する触媒層(A)の割合は、50~90容量%が好ましい。50容量%未満では、脱硫活性が向上するが水素消費量が多くなる傾向にある。また、90容量%を超えると、水素消費量が減少するものの、脱硫活性が低下する傾向にある。また、3層の場合、触媒の配置については、各触媒層が全触媒充填層に占める割合(0~1.0)とその層の触媒の平均細孔径(Å)との積を、足し合わせた和が90以上となるようにすることが好ましい。
Σ[(全触媒充填層に占める割合)×(平均細孔径)]≧90
【0063】
この各触媒層が全触媒充填層に占める割合とその層の触媒の平均細孔径との積を足し合わせた和は、脱硫に寄与する活性点の数を簡易的に表したものであり、触媒層(A)での適度の多環硫黄化合物核水添効果により、触媒層(B)での適度の多環硫黄化合物の脱硫効果が得られ、且つ触媒層(C)での2環以下の比較的小さな硫黄化合物の脱硫効果が十分に得られることから、95以上がより好ましく、98以上がさらに好ましい。一方、上限は、触媒層(A)の占める割合が過剰で、触媒層(B)、(C)の割合減少することによる脱硫性能の低下を防ぐために125以下が好ましく、120以下がより好ましく、115以下がさらに好ましい。
【0064】
触媒層(A)~(C)に使用する触媒において、担体に金属を担持する方法については特に限定は無いが、好ましくは含浸法を挙げることができる。
【0065】
以上のような水素化脱硫システムの触媒を流動接触分解残油の水素化精製触媒として使用する場合、活性を発現させるために流動接触分解残油を投入する前に予備硫化処理を行う。予備硫化処理の条件は、水素分圧が2MPa以上において硫化剤を流通させ、昇温後の最高温度が240~380℃、好ましくは250~350℃である。水素分圧が2MPa未満の場合、モリブテンまたはタングステンの硫化度合いが低く、脱硫活性および脱窒素活性が低くなる傾向にある。また、予備硫化時の最高温度が240℃未満では、モリブテンまたはタングステンの硫化の度合いが低く、380℃を超えるとコーキングが起こり、脱硫活性が低下する傾向にある。予備硫化処理で使用される硫化剤として、製油所の水素化精製で用いられる硫化水素、二硫化炭素、ジメチルジスルフィドなどを挙げることができる。
【0066】
予備硫化処理を行った後に、水素化脱硫システムを備えた固定床反応装置に流動接触分解残油を投入して、水素雰囲気下、高温高圧条件で水素化脱硫を行う。
【0067】
反応圧力(水素分圧)は、4~12MPaであることが好ましく、より好ましくは5~11MPaである。4MPa未満では、脱硫および脱窒素が著しく低下する傾向にある。また、12MPaを超えると、水素消費が大きくなり運転コストが増加する。
【0068】
反応温度は、280~400℃の範囲が好ましく、より好ましくは300~360℃である。280℃未満では、脱硫および脱窒素活性が著しく低下する傾向にあり、実用的でない。400℃以上では、熱分解による開環反応を起こすだけでなく、400℃を超えると触媒劣化が顕著になる。
【0069】
液空間速度は、特に制限されないが、0.2~3h-1が好ましく、より好ましくは0.5~2h-1である。0.2h-1未満では、処理量が低いので生産性が低くなり、実用的ではない。また、3h-1を超えると、反応温度が高くなり、触媒劣化が速くなる。
【0070】
水素/油比は、180~700Nm/mであることが好ましく、より好ましくは250~600Nm/mである。水素/油比が180Nm/m未満では、脱硫活性が低下する。また、700Nm/mを超えると、脱硫活性に大きな変化がない一方で運転コストが増加する。
【0071】
このようにして得られた第1の重質油は、2環のアロマ成分は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。このような範囲であれば、多環アロマ成分が水素化脱硫されたと考えられ、この分解後に得られる2~3環のアロマ成分を多く含んだ重質油を原料油組成物に使用することで、比較的小さなサイズの六角網平面が積層された結晶子で構成された選択的な配向性を有する微細組織で構成された人造黒鉛材料を得るために適したバルクメソフェーズを形成させることができる。なお、2環のアロマ成分は、HPLC法により定量できる。
【0072】
<第2の重質油>
第2の重質油は、第1の重質油および第1の重質油の原料油である流動接触分解残油を含まないものであり、硫黄分が、好ましくは0.4質量%以下、より好ましくは0.35質量%以下、更により好ましくは0.30質量%以下である。硫黄分が上記上限値を超えると、前記バルクメソフェーズの発達が阻害される場合があるため好ましくない。第2の重質油のアスファルテン分は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更により好ましくは3質量%以下である。アスファルテン分が上記上限値を超える場合も、前記バルクメソフェーズの発達が阻害される場合があるため好ましくない。
【0073】
第2の重質油の飽和分は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更により好ましくは70質量%以上である。飽和分が前記下限値未満である場合も、前記バルクメソフェーズの発達が阻害される場合があるため好ましくない。第2の重質油の初留点は、好ましくは200℃以上、さらに好ましくは250℃以上である。また、第2の重質油の15℃における密度は、好ましくは0.85~0.94g/cmである。第2の重質油は、好ましくは、硫黄分2質量%以上の重質油を、全圧16MPa以上の条件下、水素化分解率が30%以下となるように水素化脱硫することで得られる水素化脱硫油である。第2の重質油の原料となる重質油は、硫黄分が2質量%以上であり、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは3質量%以上である。
【0074】
硫黄分2質量%以上の重質油としては、硫黄分が上記条件を満たすものであれば特に制限されず、例えば、原油、原油の蒸留により得られる常圧蒸留残油又は減圧蒸留残油、ビスブレーキング油、タールサンド油、シェールオイル、並びにこれらの混合油等が挙げられる。これらの中でも、常圧蒸留残留及び減圧蒸留残油が好ましく用いられる。
【0075】
<第2の重質油を得るための水素化脱硫>
第2の重質油を得るための水素化脱硫の条件は、全圧16MPa以上、好ましくは17MPa以上、より好ましくは18MPa以上の条件で行われる。なお、全圧が前記下限値未満であると、水素化脱硫による重質油の分解が過剰に進行し、石油コークスの原料油として有効な重質油を得ることができない。
【0076】
また、水素化脱硫における全圧以外の条件は、水素化分解率が30%以下であれば特に制限されないが、各種条件を以下のように設定することが好ましい。すなわち、水素化脱硫の温度は、好ましくは300~500℃、より好ましくは350~450℃であり;水素/油比は、好ましくは400~3000NL/L、より好ましくは500~1800NL/Lであり;水素分圧は、好ましくは7~20MPa、より好ましくは8~17MPaであり;液空間速度(LHSV)は、好ましくは0.1~3h-1、より好ましくは0.15~1.0h-1、更に好ましくは0.15~0.75h-1である。また、水素化脱硫に用いられる触媒(水素化脱硫触媒)としては、Ni-Mo触媒、Co-Mo触媒、あるいは両者を組合せた触媒などが挙げられ、これらは市販品を用いても良い。
【0077】
<第1の重質油および第2の重質油以外の重質油>
原料油は、上述した第1の重質油と第2の重質油の他に、所定の割合で、他の重質油や流動接触分解残油を含んでいてもよい。この場合の流動接触分解残油は、第1の重質油および第2の重質油に該当しない重質油であって、硫黄分が好ましくは0.5質量%以下であり、2環のアロマ成分が好ましくは20質量%以上である重質油であり、例えば、減圧脱硫軽油を原料油とした流動接触分解残油が挙げられる。
【0078】
<原料炭組成物の製造>
上述した第1の重質油と第2の重質油とを少なくとも含む原料油(混合油)を400~600℃でコーキングする。第1の重質油だけでは、良好なバルクメソフェーズを形成するものの、コーキング過程において固化時のガス発生量が十分でないため、当該メソフェーズが1軸方向に配向せず、その後の熱処理において黒鉛化の進行速度にバラツキが生じるため好ましくない。このため、原料油としては、第1の重質油の他に少なくとも第2の重質油を含む。しかし第一の原料油が少な過ぎると「難脱硫成分である多環アロマ成分」の脱硫により生じた2~3環のアロマ成分が不足し、バルクメソフェーズに比較的小さなサイズの六角網平面が積層された微細組織を十分に導入することが困難となる。そこで、原料油に、上述した第1の重質油と第2の重質油に加えて他の重質油を含んでいる場合も含め、原料油全量を基準として、第1の重質油は15~80質量%の範囲に限定される。 原料油をコーキングする方法としては、ディレードコーキング法が好ましい。具体的には、好ましくは、コーキング圧力が制御された条件の下、原料油をディレードコーカーに投入して加熱し、熱分解、重縮合して原料炭組成物を作製する。
【0079】
<人造黒鉛材料の製造>
このようにして得られた原料炭組成物は、所定の粒度となるように粉砕及び分級される。粒度としては、平均粒径として好ましくは41μm以下である。平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計による測定に基づく。平均粒径が41μm以下である理由は、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料として、一般的且つ好適に使用されている粒度だからである。さらに、好ましい平均粒径は5~41μmである。平均粒径が5μmより小さい生コークスを炭化して得られる黒鉛材料の比表面積は極端に大きいため、このような黒鉛材料を使用し、リチウムイオン二次電池用負極の極板製造で用いられるペースト状の高粘性流体を作製する場合、必要となる溶媒量が莫大となるため好ましくない。
【0080】
炭化処理の方法は、特に限定されないが、通常は、窒素、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で最高到達温度900~1500℃、最高到達温度の保持時間0~10時間での加熱処理する方法を挙げることができる。また必要に応じて炭化工程を省略しても、最終的に製造される黒鉛材料の物性に与える影響は殆ど無い。
【0081】
黒鉛化処理の方法は、特に限定されないが、通常は、窒素、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で、最高到達温度2500~3200℃、最高到達温度保持時間0~100時間の加熱処理する方法を挙げることができる。また粉砕した生コークス、及び/又はか焼コークスを坩堝に封入し、アチソン炉やLWG炉のような黒鉛化炉で黒鉛化することも可能である。
【0082】
本発明の人造黒鉛材料は、リチウムイオン二次電池用の負極材料としてそのまま使用しても優れた特性を発揮させることができるが、本発明の範囲外の他の人造黒鉛材料や天然黒鉛系材料と混合したときにも、0℃以下で充放電が繰り返されたときの容量劣化を抑制可能などの優れた特有の効果を示す。この効果を発明者等が見出し、本出願の第3の発明を完成するに至った。なお天然黒鉛系材料とは、天然から産出される黒鉛状物、前期黒鉛状物を高純度化したもの、その後、球状にしたもの(メカノケミカル処理を含む)、高純度品や球状品の表面を別の炭素で被覆したもの(例えば、ピッチコート品、CVDコート品等)、プラズマ処理をしたものなどをいう。本発明で使用するものは、鱗片状でも、球状にしたものでもよい。本発明の人造黒鉛材料と、本発明の範囲外の他の人造黒鉛や天然黒鉛との混合比は重量比で10:90~90:10、好ましくは20:80~80:20、更に好ましくは30:70~70:30である。
【0083】
〔リチウムイオン二次電池用負極〕
次に、リチウムイオン二次電池の負極について説明する。リチウムイオン二次電池用負極の製造方法としては特に限定されず、例えば、本発明の人造黒鉛材料、バインダー(結着剤)、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を含む混合物(負極合剤)を、所定寸法に加圧成形する方法が挙げられる。また他の方法としては、本発明の人造黒鉛材料、バインダー、導電助剤等を有機溶媒中で混練・スラリー化し、当該スラリーを銅箔等の集電体上に塗布・乾燥したもの、すなわち負極合剤を圧延し、所定の寸法に裁断する方法も挙げることができる。
【0084】
前記バインダー(結着剤)としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、SBR(スチレンーブタジエンラバー)等を挙げることができる。負極合剤の中のバインダーの含有率は、人造黒鉛材料100質量部に対して1~30質量部程度を、電池の設計上、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0085】
前記導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、又は導電性を示すインジウム-錫酸化物、又は、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子を挙げることができる。導電助剤の使用量は、人造黒鉛材料100質量部に対して1~15質量部が好ましい。
【0086】
前記有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエン等を挙げることができる。
【0087】
人造黒鉛材料、バインダー、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を混合する方法としては、スクリュー型ニーダー、リボンミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー等の公知の装置を用いることができる。該混合物は、ロール加圧、プレス加圧することにより成形されるが、このときの圧力は100~300MPa程度が好ましい。
【0088】
前記集電体の材質については、リチウムと合金を形成しないものであれば、特に制限なく使用することができる。例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を挙げることができる。また前記集電体の形状についても特に制限なく利用可能であるが、例示するとすれば、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを挙げることができる。また、多孔性材料、例えばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
【0089】
前記スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、ダイコーター法など公知の方法を挙げることができる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うのが一般的である。また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極材スラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。
【0090】
〔リチウムイオン二次電池〕
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池について説明する。
図1は、本発明のリチウムイオン二次電池の一例を示した概略断面図である。図1に示すのリチウムイオン二次電池10は、負極集電体12と一体化された負極11と、正極集電体14と一体化された正極13とを有している。図1に示すリチウムイオン二次電池10では、負極11として本実施形態の負極が用いられている。負極11と正極13とは、セパレータ15を介して対向配置されている。図1において、符号16は、アルミラミネート外装を示している。アルミラミネート外装16内には、電解液が注入されている。
【0091】
正極10は、活物質と、バインダー(結着剤)と、必要に応じて含有される導電助剤とを含む。
活物質としては、リチウムイオン二次電池用正極に用いられる公知のものを用いることができ、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いることができる。具体的には、活物質として、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、及び複酸化物(LiCoNiMn、X+Y+Z=1)、リチウムバナジウム化合物、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物などを挙げることができる。
【0092】
バインダーとしては、上述した負極11に用いられるバインダーと同様のものを用いることができる。
導電助剤としては、上述した負極11に用いられる導電助剤と同様のものを用いることができる。
正極集電体14としては、上述した負極集電体と同様のものを用いることができる。
【0093】
セパレータ15としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微多孔性フィルム又はそれらを組み合わせたものなどを使用できる。
なお、リチウムイオン二次電池が、正極と負極とが直接接触しない構造である場合には、セパレータは不要である。
【0094】
リチウムイオン二次電池10に使用する電解液及び電解質としては、リチウムイオン二次電池に使用される公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質を使用できる。
電解液としては、電気伝導性の観点から有機電解液を用いることが好ましい。
【0095】
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン、テトラヒドロフラン、2-メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状炭酸エステル、N-メチル2-ピロリジノン、アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらの有機電解液は、単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0096】
電解質としては、公知の各種リチウム塩を使用できる。
例えば、リチウム塩として、LiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiN(CFSO、LiN(CSO等が挙げられる。
【0097】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体および該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体および該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体および該誘導体を含む重合体などが挙げられる。
【0098】
本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、本実施形態の人造黒鉛材料を含む負極11を備えるため、0℃以下の低温で充放電サイクルが繰り返された場合でも、容量劣化が生じにくい。このため、本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、ハイブリッド自動車用、プラグインハイブリッド自動車用、電気自動車用などの自動車用、系統インフラの電力貯蔵用などの産業用として好ましく利用できる。
【0099】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極を用いたものであればよく、負極以外の電池構成上必要な部材の選択について、なんら制約を受けるものではない。
具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池の構造は、図1に示すリチウムイオン二次電池10に限定されるものではない。
リチウムイオン二次電池の構造は、例えば、帯状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された巻回電極群を、電池ケースに挿入し、封口した構造であってもよい。また、リチウムイオン二次電池の構造は、平板状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して順次積層された積層式極板群を外装体中に封入した構造であってもよい。
【0100】
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角形電池などとして使用できる。
【実施例
【0101】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0102】
<物性の測定>
(1)黒鉛粉末の結晶子の大きさL(112)の算出
黒鉛粉末に、内部標準としてSi標準試料を10質量%混合し、ガラス製試料ホルダー(窓枠の大きさが16mm×20mm、深さ0.2mm)に詰め、JIS R7651(2007)準拠して広角X線回折法で測定を行い、黒鉛粉末の結晶子の大きさL(112)を算出した。X線回折装置は(株)リガク社製ULTIMA IV、X線源はCuKα線(KβフィルターNiを使用)、X線管球への印可電圧及び電流は41kV及び41mAとした。得られた回折図形についても、JIS R7651(2007)に準拠した方法で解析を行った。具体的には、測定データにスムージング処理、バックグラウンド除去の後、吸収補正、偏光補正、Lorentz 補正を施し、Si標準試料の(422)回折線のピーク位置、及び値幅を用いて、黒鉛粉末の(112)回折線を補正し、結晶子サイズL(112)を算出した。なお、結晶子サイズは、補正ピークの半値幅から以下のScherrerの式を用いて計算した。測定・解析は3 回ずつ実施し、その平均値をL(112)とした。
L=K×λ/(β×cosθB)・・・Scherrerの式
ここで、L :結晶サイズ(nm)
K:形状因子定数(=1.0)
λ :X線の波長(=0.15416nm)
θ:ブラッグ角(補正された回折角度)
β:真の半値幅(補正値)
【0103】
(2)体積基準表面積の測定
マイクロトラック・ベル株式会社製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置MT3300EXIIを使用して粒度分布を測定した。測定に使用した分散液は、約0.5gの黒鉛粉末に、0.1質量%のヘキサメタ燐酸ナトリウム水溶液(数滴)と、界面活性剤(数滴)を乳鉢で均質となるように十分混ぜ合わせた後、更に0.1質量%のヘキサメタ燐酸ナトリウム水溶液を41mL加え、超音波ホモジナイザーで分散させることにより作製した。得られた粒度分布の測定結果を、JIS Z 8819-2(2001)の「粒子径測定結果の表現-第2部:粒子径分布からの平均粒子径又は平均粒子直径及びモーメントの計算」のうち「5.5体積基準表面積の計算」に準拠して算出した。
【0104】
(3)吸油量の測定
JIS K 5101-13-1(2004)の「吸油量-第一節:精製あまに油法」に準拠して測定・算出した。先ず、精秤した黒鉛粉末を測定板に置き、容量10mLのビュレットから、精製あまに油を滴下し、パレットナイフで精製あまに油を練り込み、完全に混錬するようにして、滴下と練りこみを繰り返した。次にペーストが滑らかな硬さになったところを終点とし、最後に以下の式で吸油量を算出した。
O1=100×V/m
ここでO1:吸油量(mL00g)
V:滴下したあまに油の容量(mL)
m:測定板に置いた黒鉛粉末の重量(g)
【0105】
(4)ΔHpp(4.8K)の測定
黒鉛材料2.5mgを試料管に入れ、ロータリーポンプで真空引きした後、試料管にHeガスを封入してESR測定を行った。ESR装置、マイクロ波周波数カウンター、ガウスメーター、クライオスタットは、それぞれBRUKER社製ESP350E、HEWLETT PACKARD社製HP5351P、BRUKER社製ER035M、OXFORD社製ESR910を用いた。マイクロ波はXバンド(9.47GHz)を用い、強度1mW、中心磁場3360G、磁場変調100kHzで測定を行った。測定温度は4.8KでESR測定を行った。実施例及び比較例で得られた黒鉛材料のESRスペクトルの線幅△Hpp(4.8K)の結果は、表1に示された通りである。線幅△Hppは、ESRスペクトル(微分曲線)における2つのピーク(最大と最小)の間隔を読み取った値を用いた。 尚、Xバンドを用いて測定される電子スピン共鳴法において出現する炭素由来のスペクトルは、いずれの実施例および比較例においても、3200~3400gauss(G)の範囲にあることを確認した。
【0106】
<リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造>
(実施例1)
脱硫減圧軽油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm)を流動接触分解し、流動接触分解残油(以下、「流動接触分解残油(A)」と記す。)を得た。得られた流動接触分解残油(A)は、初留点220℃、硫黄分0.2質量%、アロマ成分60質量%であった。また、硫黄分が3.5質量%の常圧蒸留残油を、Ni-Mo触媒の存在下、水素化分解率が30%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油(以下、「水素化脱硫油(A)」と記す。)を得た。得られた水素化脱硫油(A)は、初留点260℃、硫黄分0.3質量%、アスファルテン成分1質量%、飽和分70質量%、15℃における密度が0.92g/cmであった。
【0107】
次に、脱硫減圧軽油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm)と、水素化脱硫油(A)(初留点260℃、硫黄分0.3質量%、アスファルテン成分1質量%、飽和分70質量%、15℃における密度が0.92g/cm)を質量比1:3で混合した後に流動接触分解し、流動接触分解残油(以下、「流動接触分解残油(B)」と記す。)を得た。得られた流動接触分解残油(B)は、初留点220℃、硫黄分0.7質量%、アロマ成分80質量%、2環アロマ成分14質量%、15℃における密度が1.07g/cmであった。
【0108】
次に、流動接触分解残油(B)に水素化脱硫を行うために、以下の水素化脱硫システム
を用いた。触媒として、以下のようにして製造した触媒1、触媒2および触媒3を用いた。
【0109】
[触媒1の製造]
塩基性アルミニウム塩水溶液と酸性アルミニウム塩水溶液を中和して、アルミナ水和物スラリー(Al換算で3kg)を得た。得られたアルミナ水和物スラリーを洗浄して副生塩を除去し、アルミナ水和物を得た。アルミナ水和物をpH10.5に調整し、95℃で10時間熟成した。熟成終了後のスラリーを脱水し、所定の水分量までニーダーで濃縮捏和し、アルミナ捏和物を得た。得られたアルミナ捏和物に硝酸50gを添加し、再度所定の水分量まで濃縮捏和した後、1.8mmの円柱形状に成型し110℃で乾燥した。乾燥した成型品は550℃の温度で3時間焼成し、担体を得た。担体組成はアルミナ100質量%である。
【0110】
次いで三酸化モリブデン226g、塩基性炭酸ニッケル57gをイオン交換水で懸濁し、この懸濁液にリン酸132gを加えて溶解させた含浸液を得、前述の担体1kgに噴霧含浸させた。この含浸品を乾燥した後、550℃で1時間焼成して目的の触媒1を得た。触媒の平均細孔径を測定すると150Åであった。なお、平均細孔径は、水銀圧入法により測定したものであり、水銀の表面張力480dyne/cm、接触角140°を用いて計算した値である。酸化ニッケルおよび酸化モリブデンの含有量は、触媒基準でそれぞれ2.5質量%および18質量%であった。
【0111】
[触媒2の製造]
担体調製において、得られたアルミナ捏和物に硝酸100g、市販シリカゾルS-20L(日揮触媒化成(株)製)479g、リン酸155gを添加したこと以外は触媒1と同様の調製を行い、担体を得た。担体組成は、アルミナ94質量%、シリカ3質量%、P2O53質量%である。含浸液調製においては、次いで三酸化モリブデン232g、塩基性炭酸ニッケル23g及び炭酸コバルト76gを用いたこと以外は触媒1と同様の調製を行い、触媒2を得た。触媒の平均細孔径を測定すると100Åであった。酸化ニッケル、酸化コバルトおよび酸化モリブデンの含有量は、触媒基準でそれぞれ1質量%、3.5質量%および18質量%であった。
【0112】
[触媒3の製造]
硫酸チタニル溶液1000g(チタニア(TiO)換算で5質量%)、純水1900g、硫酸370gを混合し、40℃で1時間攪拌した後、攪拌しながら8.5質量%水ガラス353gを1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、40℃で2.5時間攪拌を継続した。得られた溶液にpHが7.2になるまで15質量%アンモニア水を添加した後、pHが7.2の状態を2時間保持して、シリカチタニア1次粒子含有液を得た。次いで、そのシリカチタニア1次粒子含有液の温度を60℃に調整し、ベーマイトを含むアルミナスラリー(アルミナ(Al2O3)換算で3.6質量%)を25.6kg添加した後、pHが7.2になるように、15質量%アンモニア水を添加した。pHが7.2の状態を1時間保持した後、脱水洗浄して副生塩を除去し、酸化物ゲルのスラリーを得た。以降は触媒1と同様の調製を行い、担体を得た。担体組成は、アルミナ92質量%、シリカ3質量%、チタニア5質量%である。含浸液調製において、三酸化モリブデン297g、塩基性炭酸ニッケル74g、リン酸101gを用いたこと以外は触媒1と同様の調製を行い、触媒3を得た。触媒の平均細孔径を測定すると75Åであった。酸化ニッケルおよび酸化モリブデンの含有量は、触媒基準でそれぞれ3質量%および22質量%であった。
【0113】
まず、流通式固定床反応装置の予備硫化を行った。流通式固定床反応装置において、触媒1、触媒2、触媒3の順にそれぞれ20ml、50ml、30mlずつ充填し、混合ガス(水素:硫化水素=97容量%:3容量%)を30L/時間の流速で流しながら、全圧6MPaにて反応塔を室温から10℃/分の速度で昇温し、240℃で4時間保持した後、再び340℃まで10℃/分の速度で昇温し、340℃で24時間保持し、予備硫化を終了した。
【0114】
その後、流通式固定床反応装置に流動接触分解残油(B)を70ml/時間の速度で流通し、水素分圧6MPa、液空間速度0.7h-1、水素/油比470NL/L、反応温度310℃の反応条件で水素化脱硫を行い、脱硫流動接触分解残油(以下、「脱硫流動接触分解残油(B-1)」と記す。)を得た。得られた脱硫流動接触分解残油(B-1)は、2環のアロマ成分28質量%であった。次に、脱硫流動接触分解残油(B-1)と水素化脱硫油(A)を質量比80:20で混合して原料油組成物を得た。
【0115】
この原料油組成物を試験管に入れ、常圧、500℃で3時間熱処理を行い、コークス化して原料炭組成物を得た。この原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が22.9μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕した。得られた粉砕物を窒素ガス気流下1000℃で焼成してか焼コークスを得た。このとき室温から1000℃までの昇温時間を4時間、1000℃の保持時間を4時間、1000℃から410℃までの降温時間を2時間とし、410℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷した。得られたか焼コークスをグラファイトるつぼに投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2700℃で黒鉛化した。このとき室温から2700℃までの昇温時間を23時間、2700℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出した。得られた黒鉛材料を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が5.1μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、人造黒鉛材料を得た。得られた人造黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ΔHpp(4.8K)を表1に示す。
【0116】
(実施例2)
脱硫流動接触分解残油(B-1)、流動接触分解残油(A)および水素化脱硫油(A)を質量比15:65:20で混合して原料油組成物を得た。この原料油組成物を試験管に入れ、常圧、500℃で3時間熱処理を行い、コークス化して原料炭組成物を得た。この原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が18.8μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕した。得られた粉砕物を窒素ガス気流下1000℃で焼成してか焼コークスを得た。このとき室温から1000℃までの昇温時間を4時間、1000℃の保持時間を4時間、1000℃から410℃までの降温時間を2時間とし、410℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷した。得られたか焼コークスをグラファイトるつぼに投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2800℃で黒鉛化した。このとき室温から2800℃までの昇温時間を23時間、2800℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出した。得られた黒鉛材料を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が13.2μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、人造黒鉛材料を得た。得られた人造黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ΔHpp(4.8K)を表1に示す。
【0117】
(実施例3)
脱硫流動接触分解残油(B-1)、流動接触分解残油(A)および水素化脱硫油(A)を質量比40:40:20で混合して原料油組成物を得た。この原料油組成物を試験管に入れ、常圧、500℃で3時間熱処理を行い、コークス化して原料炭組成物を得た。この原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が20.5μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕した。得られた粉砕物を窒素ガス気流下1000℃で焼成してか焼コークスを得た。このとき室温から1000℃までの昇温時間を4時間、1000℃の保持時間を4時間、1000℃から410℃までの降温時間を2時間とし、410℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷した。得られたか焼コークスをグラファイトるつぼに投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2900℃で黒鉛化した。このとき室温から2900℃までの昇温時間を23時間、2900℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出した。得られた黒鉛材料を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が10.3μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、人造黒鉛材料を得た。得られた人造黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ΔHpp(4.8K)を表1に示す。
【0118】
(実施例4)
脱硫流動接触分解残油(B-1)、流動接触分解残油(A)および水素化脱硫油(A)を質量比30:50:20で混合して原料油組成物を得た。この原料油組成物を試験管に入れ、常圧、500℃で3時間熱処理を行い、コークス化して原料炭組成物を得た。この原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が57.6μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕した。得られた粉砕物をグラファイトるつぼに投入し、アチソン炉のブリーズに埋め込んだ後、3050℃で黒鉛化した。このとき室温から3050℃までの昇温時間を130時間、3050℃の保持時間を8時間とし、25日間放冷した後に取り出した。得られた黒鉛材料を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が29.8μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、人造黒鉛材料を得た。得られた人造黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ΔHpp(4.8K)を表1に示す。
【0119】
(実施例5)
脱硫流動接触分解残油(B-1)、流動接触分解残油(A)および水素化脱硫油(A)を質量比70:10:20で混合して原料油組成物を得た。この原料油組成物を試験管に入れ、常圧、500℃で3時間熱処理を行い、コークス化して原料炭組成物を得た。この原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が44.2μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕した。得られた粉砕物をグラファイトるつぼに投入し、アチソン炉のブリーズに埋め込んだ後、3150℃で黒鉛化した。このとき室温から3150℃までの昇温時間を130時間、3150℃の保持時間を8時間とし、25日間放冷した後に取り出した。得られた黒鉛材料を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が8.3μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、人造黒鉛材料を得た。得られた人造黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ΔHpp(4.8K)を表1に示す。
【0120】
(比較例1)
脱硫流動接触分解残油(B-1)を試験管に入れ、常圧、500℃で3時間熱処理を行い、コークス化して原料炭組成物を得た。この原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が30.4μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕した。得られた粉砕物を窒素ガス気流下1000℃で焼成してか焼コークスを得た。このとき室温から1000℃までの昇温時間を4時間、1000℃の保持時間を4時間、1000℃から410℃までの降温時間を2時間とし、410℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷した。得られたか焼コークスをグラファイトるつぼに投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2700℃で黒鉛化した。このとき室温から2700℃までの昇温時間を23時間、2700℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出した。得られた黒鉛材料を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が4.8μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、人造黒鉛材料を得た。得られた人造黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ΔHpp(4.8K)を表1に示す。
【0121】
(比較例2)
脱硫流動接触分解残油(B-1)、流動接触分解残油(A)および水素化脱硫油(A)を質量比10:60:20で混合して原料油組成物を得た。この原料油組成物を試験管に入れ、常圧、500℃で3時間熱処理を行い、コークス化して原料炭組成物を得た。この原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が19.8μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕した。得られた粉砕物を窒素ガス気流下1000℃で焼成してか焼コークスを得た。このとき室温から1000℃までの昇温時間を4時間、1000℃の保持時間を4時間、1000℃から410℃までの降温時間を2時間とし、410℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷した。得られたか焼コークスをグラファイトるつぼに投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2800℃で黒鉛化した。このとき室温から2800℃までの昇温時間を23時間、2800℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出した。得られた黒鉛材料を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が12.1μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、人造黒鉛材料を得た。得られた人造黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ΔHpp(4.8K)を表1に示す。
【0122】
(比較例3)
脱硫流動接触分解残油(B-1)、流動接触分解残油(A)および水素化脱硫油(A)を質量比5:75:20で混合して原料油組成物を得た。この原料油組成物を試験管に入れ、常圧、500℃で3時間熱処理を行い、コークス化して原料炭組成物を得た。この原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が29.7μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕した。得られた粉砕物を窒素ガス気流下1000℃で焼成してか焼コークスを得た。このとき室温から1000℃までの昇温時間を4時間、1000℃の保持時間を4時間、1000℃から410℃までの降温時間を2時間とし、410℃以降は窒素ガスの気流を継続しながら4時間放冷した。得られたか焼コークスをグラファイトるつぼに投入し、高周波誘導炉を使用して、窒素ガス気流下、2900℃で黒鉛化した。このとき室温から2900℃までの昇温時間を23時間、2900℃の保持時間を3時間とし、6日間放冷した後に取り出した。得られた黒鉛材料を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が16.8μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、人造黒鉛材料を得た。得られた人造黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ΔHpp(4.8K)を表1に示す。
【0123】
(比較例4)
流動接触分解残油(A)を試験管に入れ、常圧、500℃で3時間熱処理を行い、コークス化して原料炭組成物を得た。この原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が38.6μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕した。得られた粉砕物をグラファイトるつぼに投入し、アチソン炉のブリーズに埋め込んだ後、3150℃で黒鉛化した。このとき室温から3150℃までの昇温時間を130時間、3150℃の保持時間を8時間とし、25日間放冷した後に取り出した。得られた黒鉛材料を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が25.3μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、人造黒鉛材料を得た。得られた人造黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ΔHpp(4.8K)を表1に示す。
【0124】
(比較例5)
脱硫流動接触分解残油(B-1)、流動接触分解残油(A)を質量比95:5で混合して原料油組成物を得た。この原料油組成物を試験管に入れ、常圧、500℃で3時間熱処理を行い、コークス化して原料炭組成物を得た。この原料炭組成物を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が52.2μmとなるようにハンマー式ミルで粉砕した。得られた粉砕物をグラファイトるつぼに投入し、アチソン炉のブリーズに埋め込んだ後、3050℃で黒鉛化した。このとき室温から3050℃までの昇温時間を130時間、3050℃の保持時間を8時間とし、25日間放冷した後に取り出した。得られた黒鉛材料を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が9.2μmとなるように気流式ジェットミルで粉砕し、人造黒鉛材料を得た。得られた人造黒鉛材料の結晶子の大きさL(112)、体積基準表面積、吸油量、ΔHpp(4.8K)を表1に示す。
【0125】
(実施例6)
実施例3で得られた人造黒鉛材料と、比較例2で得られた人造黒鉛材料を、重量比で50:50に混合した混合物を得た。
【0126】
(実施例7)
実施例3で得られた人造黒鉛と、比較例2で得られた人造黒鉛を、重量比で30:70に混合した混合物を得た。
【0127】
(実施例8)
実施例3で得られた人造黒鉛と、比較例2で得られた人造黒鉛を、重量比で20:80に混合した混合物を得た。
【0128】
<評価用電池の作製>
以下に示す方法により、評価用電池として図1に示すリチウムイオン二次電池10を作製した。負極11、負極集電体12、正極13、正極集電体14、セパレータ15としては、それぞれ以下に示すものを用いた。
【0129】
(負極11、負極集電体12)
実施例1~8、比較例1~5で得た何れかの人造黒鉛材料と、1.5質量%の濃度に調整された結着剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC(第一工業製薬株式会社製のBSH-6))水溶液と、48質量%の濃度で結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)が分散した水溶液とを、固形分の質量比で98:1:1の割合で混合し、ペースト状の負極合剤を得た。得られた負極合剤を、負極集電体12としての厚さ18μmの銅箔の片面全面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、負極合剤からなる層である負極11が負極集電体12上に形成された負極シートを得た。負極シートにおける負極合剤の単位面積当たりの塗布量は、黒鉛材料の質量として約10mg/cmとなるように調整した。
【0130】
その後、負極シートを、幅32mm、長さ52mmとなるように切断した。そして、負極11の一部を、シートの長手方向に対して垂直方向に掻き取り、負極リード板としての役割を担う負極集電体12を露出させた。
【0131】
(正極13、正極集電体14)
正極材料である平均粒子径10μmのコバルト酸リチウムLiCoO(日本化学工業社製のセルシードC0N)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#1120)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)とを質量比で89:6:5に混合し、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリジノンを加えて混練し、ペースト状の正極合剤を得た。得られた正極合剤を、正極集電体14としての厚さ30μmのアルミニウム箔の片面全面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、正極合剤からなる層である正極13が正極集電体14上に形成された正極シートを得た。正極シートにおける正極合剤の単位面積当たりの塗布量は、コバルト酸リチウムの質量として、約20mg/cmとなるように調整した。
【0132】
その後、正極シートを、幅30mm、長さ50mmとなるように切断した。そして、正極13の一部を、シートの長手方向に対して垂直方向に掻き取り、正極リード板としての役割を担う正極集電体14を露出させた。
【0133】
(セパレータ15)
セパレータ15としては、セルロース系不織布(日本高度紙(株)製のTF40-50)を用いた。
【0134】
図1に示すリチウムイオン二次電池10を作製するために、まず、負極11と負極集電体12と負極リード板とが一体化された負極シートと、正極13と正極集電体14と正極リード板とが一体化された正極シートと、セパレータ15と、その他のリチウムイオン二次電池10に使用する部材とを乾燥させた。具体的には、負極シートおよび正極シートを、減圧状態の下120℃で12時間以上乾燥させた。また、セパレータ15及びその他部材を、減圧状態の下70℃で12時間以上乾燥させた。
【0135】
次に、乾燥させた負極シート、正極シート、セパレータ15及びその他部材を、露点が-60℃以下となるように制御されたのアルゴンガス循環型のグローブボックス内で組み立てた。このことにより、図1に示すように正極13と負極11とがセパレータ15を介して対向して積層され、ポリイミドテープ(不図示)で固定された単層電極体を得た。なお、負極シートと正極シートとは、積層した正極シートの周縁部が、負極シートの周縁部の内側に囲まれる配置となるように積層した。
【0136】
次に、単層電極体をアルミラミネート外装16に収容し、内部に電解液を注入した。電解液としては、溶媒に、電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)が1mol/Lの濃度となるように溶解され、更にビニレンカーボネート(VC)が1質量%の濃度となるように混合されたものを用いた。溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で3:7の割合で混合したものを用いた。
その後、正極リード板および負極リード板がはみ出した状態で、アルミラミネート外装16を熱融着した。
以上の工程により、実施例1~8、比較例1~5の密閉型のリチウムイオン二次電池10を得た。
【0137】
<評価用電池の充放電試験>
実施例1~8、比較例1~5のリチウムイオン二次電池10について、それぞれ以下に示す充放電試験を行った。
先ず、電池の異常を検知するための予備試験を行った。すなわち、電池を25℃の恒温室内に設置し、4mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電し、10分間休止した後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電した。これらの充電、休止、および放電を1つの充放電サイクルとし、同様の条件で充放電サイクルを3回繰り返し、予備試験とした。
この予備試験により、実施例1~8、比較例1~5の電池は、全て異常がないことを確認した。その上で、以下の本試験を実施した。なお、予備試験は、本試験のサイクル数には含まない。
【0138】
本試験では、電池を25℃の恒温室内に設置し、充電電流を30mA、充電電圧を4.2V、充電時間を3時間とした定電流/定電圧充電を行い0分間休止した後、同じ電流(30mA)で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電した。これらの充電、休止、および放電を1つの充放電サイクルとし、同様の条件で充放電サイクルを3回繰り返し、第3サイクル目の放電容量を「初期放電容量」とした。
次に、電池を0℃に設定された恒温槽の中に設置し、5時間放置した後、初期放電容量を求めた充放電サイクルと同じ条件で、充放電サイクルを100回繰り返した。その後、電池を再度25℃の恒温槽内に設置し、5時間放置した後、初期放電容量を求めた充放電サイクルと同じ条件で、充放電サイクルを3回繰り返し、第3サイクル目の放電容量を「0℃の充放電を繰り返した後の放電容量」とした。
【0139】
0℃で充放電を繰り返した後の容量劣化を表す指標として、上記の「初期放電容量」に対する「0℃の充放電を繰り返した後の放電容量」の維持率(%)を、以下の(式1)を用いて算出した。
その結果を表1に示す。
【0140】
【数1】
【0141】
【表1】
【0142】
表1に示すように、実施例1~5の人造黒鉛材料を負極に使用したリチウムイオン二次電池の「0℃で充放電が繰り返された後の放電容量維持率(%)」は92%以上であったのに対して、本願発明の範囲外の比較例1~5の人造黒鉛材料を負極に使用したリチウムイオン二次電池の場合は62.3~84.3%と低く、0℃で充放電が繰り返された場合の劣化は、抑制されていないことが確認された。
【0143】
また、表1に示すように、実施例1~5で得られた人造黒鉛材料は、特定の第1の重質油と特定の第2の重質油とを含む原料油組成物が原料として使用されている。すなわち、流動接触分解残油を、無機酸化物担体に周期表第6A族金属および第8族金属から選ばれる1種以上の金属を担持した触媒が充填された、平均細孔径141~200Åの触媒層(A)および平均細孔径65~110Åの触媒層(B)に、この順番に接触させて水素化脱硫した第1の重質油を得て、前記第1の重質油と、硫黄分が0.4質量%以下であって、前記第1の重質油を含まない第2の重質油とを混合して、前記第1の重質油の含有率が15~80質量%である原料油組成物を得ている。このような人造黒鉛材料を負極に使用したリチウムイオン二次電池は、0℃で充放電が繰り返された場合の容量劣化が抑制されている。これに対して、上記以外の原料油組成物を原料として製造された比較例1~5を負極に使用したリチウムイオン二次電池は、劣化が抑制されていないことも確認された。
【0144】
一方、実施例3で得られた人造黒鉛材料と、比較例2で得られた人造黒鉛材料を、重量比で50:50、又は30:70、若しくは20:80に混合した混合物を負極に使用したリチウムイオン二次電池は、0℃で100サイクルの充放電が繰り返された場合でも、容量維持率は各々91.3、90.8、89.5%%が得られた。実施例3の人造黒鉛材料が単独で負極に使用されたリチウムイオン二次電池の同容量維持率は94.7%、比較例2の場合は62.3%であったため、容量維持率の加成性は成立していないことが確認された。この理由について定かではないが、一旦、実施例3の人造黒鉛に吸蔵されたリチウムイオンが、液相(電解液)を介さずに、固相内拡散だけで比較例2の人造黒鉛に吸蔵された可能性も考えられた。以上より本発明の人造黒鉛材料を少なくとも含む負極を使用したリチウムイオン二次電池は、0℃で充放電サイクルが繰り返されることによる放電容量の劣化を抑制可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明に係る人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、0℃で充放電が繰り返されることによる放電容量の劣化が生じにくい。そのため、本発明のリチウムイオン二次電池は、ハイブリッド自動車用、プラグインハイブリッド自動車用、電気自動車用などの自動車用や、系統インフラの電力貯蔵用など産業用として、好ましく利用できる。
【符号の説明】
【0146】
10 リチウムイオン二次電池、11 負極、12 負極集電体、13 正極、14 正極集電体、15 セパレータ、16 アルミラミネート外装。
図1