(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0221 20160101AFI20221117BHJP
H01M 8/0202 20160101ALI20221117BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20221117BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20221117BHJP
H01M 8/0226 20160101ALI20221117BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20221117BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221117BHJP
【FI】
H01M8/0221
H01M8/0202
H01M8/0206
H01M8/0213
H01M8/0226
H01M8/0228
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019039191
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】小泉 昭紘
(72)【発明者】
【氏名】岡田 晃
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-018994(JP,A)
【文献】特開2006-332035(JP,A)
【文献】特開2004-192855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型開きした金型に、複数の複合シートと樹脂組成物とをインサートして対向する複数の複合シートの間に樹脂組成物を挟み、その後、金型を型締めして加圧加熱することにより、燃料電池用セパレータを成形する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
複合シートは、少なくともポリオレフィン系樹脂繊維を含有する繊維樹脂と、この繊維樹脂よりも優れた導電性を有する導電材とを
含み、導電材が黒鉛粒子と炭素繊維とを含有し、
樹脂組成物は、少なくともエチレンビニルアルコール共重合体を含有する樹脂と、この樹脂よりも質量比で多い導電材とを
含み、樹脂100質量部に対して導電材が300質量部以上3000質量部以下配合され、樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体と、ポリオレフィン系樹脂とを含有することを特徴とする
燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
複合シートの繊維樹脂は、アラミド系樹脂繊維を含有する請求項1記載の
燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
複合シートの繊維樹脂は、平均繊維長が0.5mm以上80mm以下である請求項1又は2記載の
燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
複合シートのポリオレフィン系樹脂繊維は、ポリプロピレン系樹脂繊維と、ポリエチレン系樹脂繊維の少なくともいずれか一方である請求項1、2、又は3記載の
燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
複合シートの
黒鉛粒子が人造黒鉛粒子を含んでなる
請求項1ないし4のいずれかに記載の
燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項6】
複合シートの
黒鉛粒子が膨張化黒鉛粒子を含んでなる
請求項1ないし4のいずれかに記載の
燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項7】
複合シートの
黒鉛粒子は、平均粒子径が3μm以上500μm以下である
請求項1ないし6のいずれかに記載の
燃料電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性を有する高分子膜を電解質として用いる燃料電池の燃料電池用セパレータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型の燃料電池は、起動時間が短く、作動温度が低いので、次世代エネルギー技術の有力候補として各方面で精力的に開発が進められている(特許文献1、2、3参照)。この固体高分子型の燃料電池は多数のセパレータが積層して使用されるが、このセパレータは、ガス分離と集電機能を発揮するので、重要な部品である。
【0003】
従来における燃料電池用セパレータは、図示しないが、所定の複合導電材料により平面矩形の板に成形されている。所定の複合導電材料としては、優れた機械的強度や導電性を得るため、例えば熱可塑性樹脂等の樹脂、黒鉛及びケッチェンブラックから選択される炭素質材料、並びにカーボンナノチューブからなり、これらが成形時に溶融して混合される。
【0004】
ところで、燃料電池用セパレータがカーボンセパレータの場合、水素ガスのガス透過性を小さくしてガス漏れを防止するためには、熱可塑性樹脂等の樹脂の含有率を多くする必要があるが、樹脂の含有率が増加すると、炭素質材料の比率が減少するので、導電性が悪化するという問題が生じることとなる。
【0005】
この点に鑑み、従来においては、膨張黒鉛、黒鉛、及び熱硬化性樹脂を有して構成され、膨張黒鉛の重量%が15~65%、黒鉛の重量%が15~70%、そして熱硬化性樹脂の重量%が7~15%にそれぞれ設定されている燃料電池用セパレータが提供されている(特許文献4参照)。この燃料電池用セパレータは、熱硬化性樹脂に対し、比較的柔らかい膨張黒鉛と、他種類の黒鉛とを組み合わせて隙間を埋めることにより、水素ガスのガス透過性の抑制を目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005‐200620号公報
【文献】特開2003‐082247号公報
【文献】特開2003‐109622号公報
【文献】特開2013‐186948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来における燃料電池用セパレータは、単に黒鉛材料と樹脂のみからなるので、ガス透過性を抑制して充分なガス漏れ効果を期待することができず、しかも、機械的強度が充分ではないので、割れを招くおそれがある。特に、燃料電池用セパレータが厚み1mm未満の薄型タイプの場合、機械的強度が低下するので、割れを招くおそれが少なくなく、実用性に欠けるという大きな問題が新たに生じることとなる。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、機械的強度と導電性を共に向上させながらガス透過性を抑制することのできる燃料電池用セパレータの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、型開きした金型に、複数の複合シートと樹脂組成物とをインサートして対向する複数の複合シートの間に樹脂組成物を挟み、その後、金型を型締めして加圧加熱することにより、燃料電池用セパレータを成形する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
複合シートは、少なくともポリオレフィン系樹脂繊維を含有する繊維樹脂と、この繊維樹脂よりも優れた導電性を有する導電材とを含み、導電材が黒鉛粒子と炭素繊維とを含有し、
樹脂組成物は、少なくともエチレンビニルアルコール共重合体を含有する樹脂と、この樹脂よりも質量比で多い導電材とを含み、樹脂100質量部に対して導電材が300質量部以上3000質量部以下配合され、樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体と、ポリオレフィン系樹脂とを含有することを特徴としている。
【0010】
なお、複合シートの繊維樹脂は、アラミド系樹脂繊維を含有することが好ましい。
また、複合シートの繊維樹脂は、平均繊維長が0.5mm以上80mm以下であることが好ましい。
また、複合シートのポリオレフィン系樹脂繊維は、ポリプロピレン系樹脂繊維と、ポリエチレン系樹脂繊維の少なくともいずれか一方であることが好ましい。
【0011】
また、複合シートの黒鉛粒子が人造黒鉛粒子を含むようにすることができる。
また、複合シートの黒鉛粒子が膨張化黒鉛粒子を含むようにすることもできる。
また、複合シートの黒鉛粒子は、平均粒子径が3μm以上500μm以下であると良い。
【0014】
ここで、特許請求の範囲における黒鉛粒子には、少なくとも膨張黒鉛粒子、膨張化黒鉛粒子、人造黒鉛粒子、球状黒鉛粒子、鱗片状黒鉛粒子、天然黒鉛粒子等が含まれる。燃料電池用セパレータは、表裏両面が平坦な板、表裏両面あるいは片面に気体(水素や空気等)用の流路を並べ備えた板、連続した断面略波形の屈曲板等とすることができる。
【0015】
本発明によれば、対向する複数の複合シートの間に、導電性の樹脂組成物を挟持させた多層構造の燃料電池用セパレータを製造するので、燃料電池用セパレータの損傷を防ぎ、導電性を向上させることができる。また、樹脂組成物にエチレンビニルアルコール共重合体を含有するので、水素ガス等のガス透過性を抑制してガス漏れを低減することができる。また、エチレンビニルアルコール共重合体の採用により、樹脂と導電材との密着性が向上するので、燃料電池用セパレータの強度向上に資することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂組成物に、少なくともエチレンビニルアルコール共重合体を含有する樹脂と、この樹脂よりも質量比で多い導電材とを含むので、燃料電池用セパレータの機械的強度と導電性を共に向上させ、しかも、ガス透過性を抑制することができるという効果がある。また、複合シートの導電材が黒鉛粒子と炭素繊維なので、燃料電池用セパレータの導電性と機械的強度とを共に向上させることができる。また、黒鉛粒子を用いるので、導電材の組成や形状の制御が容易となる。また、炭素繊維を用いるので、燃料電池用セパレータの耐久性の低下のおそれが低減する。加えて、優れた耐熱性や機械的強度を得ることができ、軽量化も期待できる。
また、樹脂組成物の樹脂100質量部に対して導電材が300質量部以上3000質量部以下配合されるので、複合シート中に導電材が入り込み、燃料電池用セパレータ全体の密度が高くなる。したがって、燃料電池用セパレータの機械的強度と導電性を共に実用レベルに向上させることが可能となる。また、樹脂組成物の樹脂がエチレンビニルアルコール共重合体の他、ポリオレフィン系樹脂をも含有するので、燃料電池用セパレータが膨潤等するおそれを排除することが可能となる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、複合シートの繊維樹脂にアラミド系樹脂繊維を含むので、繊維樹脂同士等を適切に絡め、複合シートの補強が期待できる。また、繊維樹脂に耐熱性、強度、耐薬品性等を付与し、複合シートや燃料電池用セパレータの品質を向上させたり、これらの材料組成を略均一化することができる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、繊維樹脂の平均繊維長が0.5mm以上80mm以下の範囲内なので、分散性が向上して燃料電池用セパレータの製造時に全体の組成が均一化し、部分的な物性や導電性の相違の減少が期待できる。
請求項4記載の発明によれば、ポリオレフィン系樹脂繊維がポリプロピレン系樹脂繊維とポリエチレン系樹脂繊維の少なくともいずれか一方なので、安価で入手しやすく、しかも、燃料電池用セパレータに必要な耐食性を簡単に得ることができる。
【0020】
請求項5記載の発明によれば、複合シートの黒鉛粒子が人造黒鉛粒子を含むので、強度や純度に優れた粒子状導電材を得ることができる。
請求項6記載の発明によれば、複合シートの黒鉛粒子が膨張化黒鉛粒子を含むので、繊維樹脂と混合し易い粒子状導電材を得ることが可能となる。
【0021】
請求項7記載の発明によれば、複合シートの黒鉛粒子が平均粒子径3μm以上500μm以下なので、複合シートの製造時に複合シートから導電材が脱落するのを防止したり、燃料電池用セパレータの高導電化に寄与することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における燃料電池用セパレータは、相対向する一対の複合シートと、この一対の複合シートの間に介在して挟持されるエチレンビニルアルコール共重合体含有の樹脂組成物とを積層構造に備えた平面矩形の薄いセパレータであり、一対の複合シートと樹脂組成物とが金型を用いた加圧加熱成形により、溶着して一体化される。
【0024】
燃料電池用セパレータは、薄型化の観点から、矩形波が連続した断面略波形に成形され、厚さが1mm以下とされており、周縁部に、燃料電池の他の構成部材との接続用の接続口が複数穿孔される。この燃料電池用セパレータは、断面略波形に成形されることで、一対の複合シートの表裏両面に、所定の液体やガスを流通させる流路がそれぞれ複数配設され、この複数の流路が流路構造の複合化に資する観点から、周縁部を除く略中央部にサーペンタイン形に屈曲して配列されており、各流路が連続した断面略U字形に凹み形成される。燃料電池用セパレータは、断面略波形に成形される他、必要に応じ、溝付き流路が形成される。
【0025】
各複合シートは、熱可塑性樹脂繊維を含有する繊維樹脂と、この繊維樹脂よりも優れた導電性を有する導電材とを含み、グラビア印刷法等の所定の印刷法により平面矩形のシートに形成される。この複合シートは、厚さ1mm未満の燃料電池用セパレータが製造される場合には、坪量が50~500g/m2、好ましくは70~300g/m2、より好ましくは80~150g/m2が良い。厚さ1mm未満の燃料電池用セパレータが製造される場合、薄型化の観点から、厚さが0.1mm以上5mm未満、好ましくは0.1mm以上3.1mm未満が良い。
【0026】
複合シートの繊維樹脂と導電材とは、繊維樹脂よりも導電材が質量比で多く含有され、繊維樹脂中に導電材が分散する。これは、繊維樹脂よりも導電材が質量比で多く含有されれば、導電性を向上させることができる他、例え熱水に燃料電池用セパレータが長時間浸漬される場合にも、実用上問題の無い導電性や機械的強度を確保することができるからである。繊維樹脂と導電材の具体的な配合比率は、質量比で10~40:60~90、好ましくは15~30:70~85が良い。
【0027】
繊維樹脂は、熱可塑性樹脂繊維、具体的には少なくとも比較的融点の低いポリオレフィン系樹脂繊維を含有し、ポリオレフィン系樹脂繊維が、入手の容易なポリプロピレン(PP)系樹脂繊維とポリエチレン(PE)系樹脂繊維の少なくともいずれか一方であるのが好ましい。ポリプロピレン系樹脂繊維の具体例としては、例えばJ105P〔プライムポリマー株式会社製:製品名〕があげられ、ポリエチレン系樹脂繊維の具体例としては、例えばフローセンM13152N〔住友精化株式会社製:製品名〕があげられる。
【0028】
繊維樹脂が熱可塑性樹脂繊維なのは、成形時に適切な流動性を満たすことができ、必要があれば、再度加熱することにより、再び熱可塑性樹脂繊維が溶融し、成形が可能となるからである。また、ポリオレフィン系樹脂繊維を採用したのは、高分子主鎖に環構造を有するような剛直な樹脂ではなく、比較的柔軟なので、燃料電池用セパレータの可撓性や柔軟性に寄与するからである。さらに、ポリオレフィン系樹脂繊維は、耐薬品性や耐水性に優れるので、樹脂界面の接着劣化や樹脂の分解に起因する燃料電池用セパレータの内部の空隙発生を抑制することができるからである。
【0029】
繊維樹脂の平均繊維長は、0.5mm以上80mm以下、好ましくは1mm以上80mm以下、より好ましくは1mm以上50mm以下、さらに好ましくは2mm以上20mm以下が最適である。これは、平均繊維長が0.5mm以上80mm以下であれば、繊維樹脂の複合シートからの脱落を防止することができ、しかも、複合シートの製造時の分散性が向上し、機械的強度や導電性のバラツキを抑制することができるという理由に基づく。繊維樹脂の繊維径は、複合シートの製造時の分散性を向上させる観点から、1μm以上60μm以下が最適である。
【0030】
繊維樹脂は、ポリオレフィン系樹脂繊維の他、必要に応じ、アラミド系樹脂繊維を選択的に含有する。このアラミド系樹脂繊維は、例えばパラ系やメタ系の各単独、あるいはこれらを任意の組成比で混合した平均繊維長が0.5mm以上80mm以下、好ましくは2mm以上20mm以下の樹脂繊維からなり、複合シートの製造時に繊維樹脂と導電材、繊維樹脂同士を適切に縺れさせ、複合シートや燃料電池用セパレータの製造を容易にしたり、繊維樹脂を補強する。このアラミド系樹脂繊維は、パルプ状やカットファイバー状等、いかなる形状等でも良いが、繊維樹脂と導電材とを適切に縺れさせる観点からすると、表面が毛羽だったパルプ状が好適である。
【0031】
アラミド系樹脂繊維は、導電性に特に資するものではないので、1質量部以上7質量部以下程度、好ましくは4質量部以上6質量部以下程度添加されれば良い。このようなアラミド系樹脂繊維は、繊維樹脂を補強するが、補強機能に止まらず、繊維樹脂に耐熱性、強度、耐薬品性を付与することにより、燃料電池用セパレータの品質に資するよう機能する。アラミド系樹脂繊維の具体例としては、例えばKevlar〔東レ・デュポン株式会社製:製品名〕等があげられる。
【0032】
複合シートの導電材は、粒子状導電材と繊維状導電材とを含有する。粒子状導電材は、熱水に対する耐食性を確保する観点から、黒鉛粒子とされる。この粒子状導電材の黒鉛粒子は、特に限定されるものではなく、例えば強度や純度に優れる人造黒鉛粒子、繊維樹脂と混合し易い膨張化黒鉛粒子や膨張黒鉛粒子、優れた成形性や導電性が期待できる鱗片状黒鉛、配向性の抑制が期待できる球状黒鉛、又はこれらが組み合わせて併用される。黒鉛粒子は、人造黒鉛粒子として、JSG‐75S〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名〕等が使用され、膨張化黒鉛粒子として、BSP‐60A〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名〕等が使用される。
【0033】
これらの中では、優れた導電性を得たり、金属不純物を減少させるため、人造黒鉛粒子と膨張化黒鉛粒子の少なくともいずれか一方の採用が望ましい。また、粒子状導電材の黒鉛粒子の平均粒子径は、複合シートの製造時に黒鉛粒子が脱落するのを防止するため、3μm以上500μm以下、好ましくは10μm以上300μm以下、より好ましくは15μm以上250μm以下が好適である。
【0034】
導電材の繊維状導電材は、燃料電池用セパレータの面方向の導電性に寄与し、燃料電池用セパレータに機械的強度を付与するよう機能する。この繊維状導電材は、機械的強度、導電性、耐食性を得る観点から、炭素繊維が選択される。炭素繊維は、特に限定されるものではないが、例えばPAN系、ピッチ系、フェノール系、レーヨン系、又はこれらの組み合わせ等があげられる。これらの中では、燃料電池用セパレータの可撓性と強度とを共に向上させるため、PAN系の炭素繊維が好適である。具体的な炭素繊維としては、トレカT008‐003〔東レ株式会社製:製品名〕等があげられる。
【0035】
繊維状導電材の平均繊維長は、一枚の複合シートを単独で加熱圧縮成形した際の成形品の厚みよりも長いことが好ましい。これは、機械的強度に寄与する面方向に繊維状導電材が並びやすくなるという理由に基づく。繊維状導電材の具体的な平均繊維長は、複合シートの良好な分散性と強度を確保する観点から、0.5mm以上80mm以下、好ましくは1mm以上20mm以下が良い。また、繊維状導電材の具体的な繊維径は、0.5μm以上50μm以下、好ましくは2μm以上50μm以下が好適である。
【0036】
樹脂組成物は、少なくとも水素ガス等のガス透過性の低減に資するエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)を含有する樹脂と、この樹脂よりも質量比で多い導電材とが配合された組成物であり、一対の複合シートの対向面間に加熱溶着される。この樹脂組成物は、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)含有の樹脂100質量部に対し、導電材が300質量部以上3000質量部以下、好ましくは500質量部以上2500質量部以下、より好ましくは800質量部以上1600質量部以下配合されると良い。
【0037】
これは、樹脂100質量部に対し、導電材が300質量部以上3000質量部以下の範囲で配合されれば、複合シート中に導電材が入り込み、燃料電池用セパレータ全体の密度が高くなることで、燃料電池用セパレータの内部に熱水等の液体が浸入し、燃料電池用セパレータの特性を阻害するのを防止することができるからである。
【0038】
樹脂組成物のエチレンビニルアルコール共重合体は、エチレンと酢酸ビニル共重合物の加水分解により得られる樹脂であり、ガスバリア性、溶剤・化学物質バリア性、耐薬品性、透明性、低熱伝導性等に優れるという特徴を有する。このエチレンビニルアルコール共重合体のエチレン含有率は、25mol%~50mol%、好ましくは28mol%~47mol%、より好ましくは32mol%~44mol%が良い。これは、エチレン含有率が25mol%以上であれば、例え燃料電池の発電により生成される水が存在する環境でも、燃料電池用セパレータの強度低下が生じにくく、機械的強度の安定が図れるからである。また、エチレン含有率が50mol%以下であれば、ガス透過性を著しく抑制することができるからである。
【0039】
エチレンビニルアルコール共重合体の具体例としては、特に限定されるものではないが、EVOH F104B〔クラレ株式会社製:製品名〕やEVOH E105B〔クラレ株式会社製:製品名〕等が採用される。
【0040】
樹脂組成物の樹脂には、エチレンビニルアルコール共重合体の他、好ましくは耐水性等に優れるポリオレフィン系樹脂が含有される。これは、樹脂組成物の樹脂がエチレンビニルアルコール共重合体のみの場合、吸水し易くなり、燃料電池用セパレータが膨潤するおそれがあるからである。
【0041】
ポリオレフィン系樹脂繊維は、入手の容易なポリプロピレン系樹脂繊維とポリエチレン系樹脂繊維の少なくともいずれか一方であるのが好ましい。ポリプロピレン系樹脂繊維の具体例としては、例えばJ105P〔プライムポリマー株式会社製:製品名〕が採用され、ポリエチレン系樹脂繊維の具体例としては、例えばUF‐15N〔住友精化株式会社製:製品名〕が採用される。
【0042】
樹脂組成物の導電材は、特に限定されるものではないが、炭素系材料を含有し、この炭素系材料が熱水に対する耐食性を確保する観点等から、好ましくは粒子状導電材である黒鉛粒子とされる。この黒鉛粒子は、例えば人造黒鉛粒子、球状黒鉛粒子、膨張化黒鉛粒子、膨張黒鉛粒子、鱗片状黒鉛粒子、又はこれらが組み合わせて併用される。黒鉛粒子は、具体的な人造黒鉛粒子として、JSG‐75S〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名〕等があげられ、球状黒鉛粒子として、CGB50〔日本黒鉛工業株式会社製:製品名〕等があげられる。
【0043】
これらの中では、金属不純物を減少させたり、配向性の抑制が期待できる人造黒鉛粒子、球状黒鉛粒子、膨張化黒鉛粒子、及び膨張黒鉛粒子の少なくともいずれかの採用が望ましい。黒鉛粒子の平均粒子径は、燃料電池用セパレータの製造時に黒鉛粒子が脱落するのを防止する観点から、1μm以上300μm以下、好ましくは10μm以上200μm以下、より好ましくは20μm以上80μm以下が最適である。
【0044】
上記構成において、燃料電池用セパレータを製造する場合には、先ず、専用の金型を用意し、型開きした金型の下型に、予め製造しておいた一枚の複合シートと粉末の樹脂組成物とを順次インサートし、粉末の樹脂組成物にスクレーバを接触させて水平に移動させ、複合シートの表面上で粉末の樹脂組成物をスクレーバで均一にならす。
【0045】
この際、下型のキャビティ面を耐熱フィルムで予め被覆しておけば、例え樹脂組成物中のエチレンビニルアルコール共重合体が成形時に複合シートから食み出て成形後の冷却時に密着性を発揮しても、後の燃料電池用セパレータの金型からの離型が実に容易となる。また、1mm未満の燃料電池用セパレータを製造する場合には、複合シート上に樹脂組成物を単位面積(1/cm2)当たり、0.01g以上0.5g、好ましくは0.01g以上0.3g程度載せると良い。
【0046】
こうして樹脂組成物を平らにならしたら、樹脂組成物に残り一枚の複合シートを重ねることにより、相対向する一対の複合シートの間に樹脂組成物を挟み、金型の下型に上型を型締めして加圧加熱することで、燃料電池用セパレータを圧縮成形し、その後、金型を冷却して燃料電池用セパレータを脱型すれば、三層構造の燃料電池用セパレータを製造することができる。
【0047】
この際、上型のキャビティ面を耐熱フィルムで予め被覆しておけば、例え樹脂組成物のエチレンビニルアルコール共重合体が成形時に複合シートから食み出て成形後の冷却時に密着性を発揮しても、金型から燃料電池用セパレータを容易に脱型することができる。製造された燃料電池用セパレータは、面方向の体積抵抗値が8mΩ・cm以下、好ましくは6mΩ・cm以下が良い。
【0048】
上記によれば、樹脂組成物にエチレンビニルアルコール共重合体を含有するので、水素ガス等のガス透過性を充分に抑制してガス漏れを低減することができ、このガス透過性の抑制により、発電効率を向上させることができる。また、エチレンビニルアルコール共重合体の採用により、樹脂と導電材との密着性が向上してこれらの間の隙間が埋まるので、燃料電池用セパレータの機械的強度、具体的には引張強度の向上に大いに資することができる。また、相対向する一対の複合シートの間に、樹脂組成物を挟持させた三層構造の高強度の燃料電池用セパレータを製造するので、燃料電池用セパレータの割れ等の損傷を防止し、厚みムラを防ぎながら導電性を著しく向上させることができる。
【0049】
また、耐性を大幅に向上させることができるので、例え導電性が向上しても、燃料電池の運転時における熱水に対する機械的強度の低下を有効に防止することが可能となる。これらの効果は、燃料電池用セパレータが厚み1mm未満の薄型タイプの場合、実用上、実に有意義である。さらに、エチレンビニルアルコール共重合体含有の樹脂組成物を金属製の金型に直接接触させるのではなく、対向する一対の複合シートの間に介在して金型に非接触とするので、燃料電池用セパレータの製造時に樹脂組成物のエチレンビニルアルコール共重合体が金型に密着し、燃料電池用セパレータの製造が遅延するのを有効に防止することが可能となる。
【0050】
なお、上記実施形態では型開きした金型に複合シート、粉末の樹脂組成物、複合シートを順次インサートしたが、何らこれに限定されるものではない。例えば、金型の下型に複合シート、平面矩形の板に成形された樹脂組成物、及び複合シートを順次インサートし、一対の複合シートの間に樹脂組成物を挟持させても良い。この実施形態の場合、飛散し易い粉末の樹脂組成物を用いるのではなく、板体の樹脂組成物を用いるので、作業環境の汚染防止と量産性の向上とが大いに期待できる。
【0051】
また、耐熱フィルムで被覆された金型の下型に、粉末の樹脂組成物と一枚の複合シートとを順次インサートするとともに、金型を型締めして加圧加熱することにより、積層中間体を成形し、型開きした金型から積層中間体を脱型して表裏反転し、この積層中間体を型開きした金型の下型に再度インサートしてその樹脂組成物を露出させ、その後、積層中間体の樹脂組成物に複合シートの残り一枚を重ねることで、積層中間体の複合シートと複合シートとの間に樹脂組成物を挟持させても良い。この実施形態の場合、例え使用する一対の複合シートの厚さにバラツキが存在しても、高精度の厚さの燃料電池用セパレータを得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明に係る燃料電池用セパレータの製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、燃料電池用セパレータの複合シートを製造すべく、繊維樹脂としてポリプロピレン繊維20質量部、導電材の粒子状導電材として人造黒鉛粒子70質量部、導電材の繊維状導電材として炭素繊維5質量部、及び繊維樹脂のアラミド系樹脂繊維としてアラミド繊維5質量部を用意(表1参照)し、これらを水中で混合分散して固形分3%のスラリーを作製した。
【0053】
ポリプロピレン繊維〔株式会社プライムポリマー製:製品名 J105P〕は、融点166℃、平均繊維径20μm、平均繊維長5mmの長さにカットした短繊維を使用した。また、人造黒鉛粒子は、平均粒子径が45μmのJSG‐75S〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名〕を使用した。炭素繊維は、炭素繊維トレカ(登録商標)〔東レ株式会社製〕のカットファイバーT008‐003(繊維φ7μm、カット長3mm)を使用した。また、アラミド繊維は、長さ3mmのケプラーカットファイバー〔製品名:Kevlar(登録商標) 東レ・デュポン株式会社製〕とした。
【0054】
なお、繊維樹脂は、公知の溶融紡糸法等により、樹脂(製品名)を繊維化してカットしたものである。この点については、全ての実施例と比較例で同様である。
【0055】
固形分3%のスラリーを作製したら、このスラリーに凝集剤を添加して混合物を調製し、この混合物をメッシュ構造の25cm角のシート機により抄紙シートに形成し、抄紙シートを100℃に加熱したプレス機にセットして約200kg/cm2の圧力で約5分間加圧加熱し、その後、抄紙シートを乾燥させて水分を除去することにより、ポリプロピレン繊維に、人造黒鉛粒子、炭素繊維、及びアラミド繊維が均一に分散して絡んだ厚さ0.7mm,坪量100g/m2の複合シートAを必要数製造した。凝集剤は、カチオン系ポリアクリル酸ソーダ0.001質量部と、アニオン系ポリアクリル酸ソーダ0.00001質量部とからなる添加物とした。
【0056】
次いで、専用の金型を用意し、型開きした金型の下型に、製造しておいた一枚の複合シートAと粉末の樹脂組成物とを順次インサートし、粉末の樹脂組成物にスクレーバを接触させて水平に移動させ、複合シートAの表面上で粉末の樹脂組成物をスクレーバで均一にならして平坦化した。
【0057】
樹脂組成物は、樹脂100質量部と、導電材1200質量部とを混合して調製した(表2参照)。樹脂は、エチレン含有率が32mol%で粉末のエチレンビニルアルコール共重合体〔クラレ株式会社製:製品名 EVOH F104B〕100質量部とした。このエチレンビニルアルコール共重合体としては、冷凍粉砕後に42メッシュの篩を通過したエチレンビニルアルコール共重合体を用いた。また、導電材は、平均粒子径が45μmの人造黒鉛粒子〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名 JSG‐75S〕1200質量部とした。
【0058】
次いで、樹脂組成物に残り一枚の複合シートAを重ねることにより、相対向する二枚の複合シートAの間に粉末の樹脂組成物を挟み、残り一枚の複合シートAに金型の上型を搭載するとともに、220℃の温度に設定した金型を20MPaで強く型締めして加圧加熱し、上下の熱板の温度が30℃の冷却用の圧縮成形機に直ちに移載し、金型の温度が80℃以下になるまで20MPaの圧力で加圧冷却することにより、燃料電池用セパレータを圧縮成形した。こうして燃料電池用セパレータを圧縮成形したら、金型から燃料電池用セパレータを脱型し、25cm×25cmの燃料電池用セパレータを製造した。
【0059】
次に、製造した燃料電池用セパレータの機械的強度である初期の引張強度、導電性を示す面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定してその測定結果を表2にまとめた。
【0060】
・初期の引張強度
燃料電池用セパレータの初期の引張強度については、JIS K6251に基づき、燃料電池用セパレータを1号ダンベル試験片に打ち抜き、RTC‐1310A〔製品名 株式会社オリエンテック製〕を使用し、引張速度10mm/minの条件で引張試験を実施してその測定値を初期の引張強度値とした。
【0061】
・面方向の体積抵抗値
燃料電池用セパレータの面方向の体積抵抗値は、四端子四探針法により測定した。具体的には、25cm×25cmの燃料電池用セパレータから5cm×5cmの大きさの試験片を25枚切り出し、各試験片の体積抵抗値を測定機である低抵抗率計〔製品名:ロレスタGP MCP‐T610 三菱化学株式会社製〕により測定し、測定した値の平均値を面方向の体積抵抗値とした。
【0062】
・水素ガスの透過係数
水素ガスの透過係数については、JIS K7126‐1に準拠した第一部の差圧法により、試験ガスを水素ガスとし、試験温度80℃で透過試験を実施して燃料電池用セパレータの水素ガス透過係数を求めた。この透過試験の原理を説明すると、燃料電池用セパレータから切り出した試験片を、ガス透過セルの二つのチャンバ間に密封シールするような状態で装着し、低圧チャンバを真空排気するとともに、試験用の水素ガスを高圧チャンバに導入する。すると、係る導入により、水素ガスが試験片を通過し、低圧チャンバ内に透過していく。試験片を通過する試験ガスの透過は、低圧側の圧力上昇、又はガス量の増加で示されることとなる。
【0063】
〔実施例2〕
基本的には実施例1と同様であるが、樹脂組成物の樹脂を変更した。具体的には、樹脂組成物の樹脂を、エチレン含有率が44mol%で粉末のエチレンビニルアルコール共重合体〔クラレ株式会社製:製品名 EVOH E105B〕100質量部とした。このエチレンビニルアルコール共重合体としては、冷凍粉砕後に42メッシュの篩を通過したエチレンビニルアルコール共重合体を用いた。
【0064】
その他の部分については、実施例1と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、この製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定してその測定結果を表2にまとめた。
【0065】
〔実施例3〕
基本的には実施例1と同様であるが、樹脂組成物の導電材の質量を変更した。具体的には、樹脂組成物の導電材を、平均粒子径が45μmの人造黒鉛粒子〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名 JSG‐75S〕2400質量部に増やした。
【0066】
その他の部分については、実施例1と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、この製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定してその測定結果を表2にまとめた。
【0067】
〔実施例4〕
基本的には実施例1と同様であるが、樹脂組成物の樹脂の種類を増やした。具体的には、樹脂組成物の樹脂を、エチレン含有率が32mol%で粉末のエチレンビニルアルコール共重合体〔クラレ株式会社製:製品名 EVOH F104B〕80質量部、及びポリプロピレン系樹脂繊維〔プライムポリマー株式会社製:製品名 J105P〕20質量部に変更した。
【0068】
その他の部分については、実施例1と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、この製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定してその測定結果を表2にまとめた。
【0069】
〔実施例5〕
基本的には実施例1と同様であるが、樹脂組成物の樹脂の種類と質量を変更した。具体的には、樹脂組成物の樹脂を、エチレン含有率が32mol%で粉末のエチレンビニルアルコール共重合体〔クラレ株式会社製:製品名 EVOH F104B〕50質量部、及びポリプロピレン系樹脂繊維〔プライムポリマー株式会社製:製品名 J105P〕50質量部に変更した。
【0070】
その他の部分については、実施例1と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定してその測定結果を表2にまとめた。
【0071】
〔実施例6〕
基本的には実施例1と同様であるが、樹脂組成物の樹脂を変更した。具体的には、樹脂組成物の樹脂を、エチレン含有率が44mol%で粉末のエチレンビニルアルコール共重合体〔クラレ株式会社製:製品名 EVOH E105B〕50質量部、及びポリプロピレン系樹脂繊維〔プライムポリマー株式会社製:製品名 J105P〕50質量部に変更した。
【0072】
その他の部分については、実施例1と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定してその測定結果を表2に記載した。
【0073】
〔実施例7〕
基本的には実施例1と同様であるが、樹脂組成物を変更した。具体的には、樹脂組成物の樹脂を、エチレン含有率が32mol%で粉末のエチレンビニルアルコール共重合体〔クラレ株式会社製:製品名 EVOH F104B〕20質量部、及びポリプロピレン系樹脂繊維〔プライムポリマー株式会社製:製品名 J105P〕80質量部に変更した。また、樹脂組成物の導電材を、平均粒子径が45μmの人造黒鉛粒子〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名 JSG‐75S〕500質量部に変更した。
【0074】
その他は実施例1と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定して表3に記載した。
【0075】
〔実施例8〕
基本的には実施例7と同様であるが、樹脂組成物の導電材を変更した。具体的には、樹脂組成物の導電材を、平均粒子径が50μmの球状黒鉛粒子〔日本黒鉛工業株式会社製:製品名 CGB50〕500質量部に変更した。
その他は実施例7と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定して表3に記載した。
【0076】
〔実施例9〕
先ず、燃料電池用セパレータの複合シートを製造するため、繊維樹脂としてポリエチレン繊維20質量部、導電材の粒子状導電材として人造黒鉛粒子70質量部、導電材の繊維状導電材として炭素繊維5質量部、及び繊維樹脂のアラミド系樹脂繊維としてアラミド繊維5質量部を用意(表1参照)し、これらを水中で混合分散して固形分3%のスラリーを作製した。
【0077】
ポリエチレン繊維〔住友精化株式会社製 :製品名 フローセンM13152N〕は、融点120℃、平均繊維径18μm、平均繊維長5mmの長さにカットした短繊維を使用した。また、人造黒鉛粒子は、平均粒子径が45μmのJSG‐75S〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名〕を使用した。炭素繊維は、炭素繊維トレカ(登録商標)〔東レ株式会社製〕のカットファイバーT008‐003(繊維φ7μm、カット長3mm)を使用した。また、アラミド繊維は、長さ3mmのケプラーカットファイバー〔製品名:Kevlar(登録商標) 東レ・デュポン株式会社製〕とした。
【0078】
固形分3%のスラリーを作製したら、このスラリーに凝集剤を添加して混合物を調製し、この混合物をメッシュ構造の25cm角のシート機により抄紙シートに形成し、抄紙シートを100℃に加熱したプレス機にセットして約200kg/cm2の圧力で約5分間加圧加熱し、その後、抄紙シートを乾燥させて水分を除去することにより、ポリエチレン繊維に人造黒鉛粒子と炭素繊維とが均一に分散して絡んだ厚さ0.7mm,坪量100g/m2の複合シートBを必要数製造した。凝集剤は、カチオン系ポリアクリル酸ソーダ0.001質量部と、アニオン系ポリアクリル酸ソーダ0.00001質量部とからなる添加物とした。
【0079】
次いで、専用の金型を用意し、型開きした金型の下型に、製造しておいた一枚の複合シートBと粉末の樹脂組成物とを順次インサートし、粉末の樹脂組成物にスクレーバを接触させて水平に移動させ、複合シートBの表面上で粉末の樹脂組成物をスクレーバで均一にならして平坦化した。
【0080】
樹脂組成物は、樹脂100質量部と、導電材1200質量部とを混合して調製した(表2参照)。樹脂は、エチレン含有率が32mol%で粉末のエチレンビニルアルコール共重合体〔クラレ株式会社製:製品名 EVOH F104B〕100質量部とした。このエチレンビニルアルコール共重合体としては、冷凍粉砕後に42メッシュの篩を通過したエチレンビニルアルコール共重合体を用いた。また、導電材は、平均粒子径が45μmの人造黒鉛粒子〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名 JSG‐75S〕1200質量部とした。
【0081】
次いで、樹脂組成物に残り一枚の複合シートBを重ねることにより、相対向する二枚の複合シートBの間に粉末の樹脂組成物を挟み、残り一枚の複合シートBに金型の上型を搭載するとともに、220℃の温度に設定した金型を20MPaで強く型締めして加圧加熱し、上下の熱板の温度が30℃の冷却用の圧縮成形機に直ちに移載し、金型の温度が80℃以下になるまで20MPaの圧力で加圧冷却することにより、燃料電池用セパレータを圧縮成形した。こうして燃料電池用セパレータを圧縮成形したら、金型から燃料電池用セパレータを脱型し、25cm×25cm、厚さ0.31mmの燃料電池用セパレータを製造した。
【0082】
次に、製造した燃料電池用セパレータの機械的強度である初期の引張強度、導電性を示す面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ実施例1と同様に測定し、表3にまとめた。
【0083】
〔実施例10〕
基本的には実施例9と同様であるが、樹脂組成物の樹脂の種類と質量とを変更した。具体的には、樹脂組成物の樹脂を、エチレン含有率が32mol%で粉末のエチレンビニルアルコール共重合体〔クラレ株式会社製:製品名 EVOH F104B〕50質量部、及びポリエチレン系樹脂繊維〔住友精化株式会社製:製品名 UF‐15N〕50質量部に変更した。
その他は実施例9と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定して表3にまとめた。
【0084】
〔実施例11〕
基本的には実施例10と同様であるが、樹脂組成物を変更した。具体的には、樹脂組成物の樹脂を、エチレン含有率が32mol%で粉末のエチレンビニルアルコール共重合体〔クラレ株式会社製:製品名 EVOH F104B〕20質量部、及びポリエチレン系樹脂繊維〔住友精化株式会社製:製品名 UF‐15N〕80質量部に変更した。また、導電材は、平均粒子径が45μmの人造黒鉛粒子〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名 JSG‐75S〕500質量部とした。
【0085】
その他は実施例10と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定して表3にまとめた。
【0086】
〔実施例12〕
基本的には実施例9と同様であるが、複合シートBを変更した。この実施例においては、複合シートを製造すべく、繊維樹脂としてポリプロピレン繊維20質量部、導電材の粒子状導電材として膨張化黒鉛粒子70質量部、導電材の繊維状導電材として炭素繊維5質量部、及び繊維樹脂のアラミド系樹脂繊維としてアラミド繊維5質量部を用意(表1参照)し、これらを水中で混合分散して固形分3%のスラリーを作製した。
【0087】
ポリプロピレン繊維〔株式会社プライムポリマー製:製品名 J105P〕は、融点166℃、平均繊維径20μm、平均繊維長5mmの長さにカットした短繊維を用いた。また、膨張化黒鉛粒子は、平均粒子径が60μmのBSP‐60A〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名〕を用いた。炭素繊維は、炭素繊維トレカ(登録商標)〔東レ株式会社製〕のカットファイバーT008‐003(繊維φ7μm、カット長3mm)を採用した。また、アラミド繊維は、長さ3mmのケプラーカットファイバー〔製品名:Kevlar(登録商標) 東レ・デュポン株式会社製〕を採用した。
【0088】
固形分3%のスラリーを作製したら、このスラリーに凝集剤を添加して混合物を調製し、この混合物をメッシュ構造の25cm角のシート機により抄紙シートに形成し、抄紙シートを100℃に加熱したプレス機にセットして約200kg/cm2の圧力で約5分間加圧加熱し、その後、抄紙シートを乾燥させて水分を除去することにより、ポリエチレン繊維に膨張化黒鉛粒子と炭素繊維とが均一に分散して絡んだ厚さ0.7mm,坪量100g/m2の複合シートCを必要数製造した。凝集剤は、カチオン系ポリアクリル酸ソーダ0.001質量部と、アニオン系ポリアクリル酸ソーダ0.00001質量部とからなる添加物とした。
【0089】
複合シートCを必要数製造したら、その他は実施例9と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定して表3に記載した。
【0090】
〔比較例1〕
先ず、燃料電池用セパレータを製造するため、複合シートAを必要枚数用意し、専用の金型を型開きしてその下型に、一枚の複合シートAと粉末の樹脂組成物とを順次インサートし、粉末の樹脂組成物にスクレーバを接触させて水平に移動させ、複合シートAの表面上で粉末の樹脂組成物をスクレーバで均一にならして平坦化した。
【0091】
樹脂組成物は、樹脂100質量部と、導電材1200質量部とを混合して調製した(表4参照)。樹脂は、ポリプロピレン系樹脂繊維〔プライムポリマー株式会社製:製品名 J105P〕100質量部とし、エチレンビニルアルコール共重合体を省略した。また、導電材は、平均粒子径が45μmの人造黒鉛粒子〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名 JSG‐75S〕1200質量部を用いた。
【0092】
次いで、樹脂組成物に残り一枚の複合シートAを重ねることにより、相対向する二枚の複合シートAの間に粉末の樹脂組成物を挟み、残り一枚の複合シートAに金型の上型を搭載するとともに、220℃の温度に設定した金型を20MPaで強く型締めして加圧加熱し、上下の熱板の温度が30℃の冷却用の圧縮成形機に直ちに移載し、金型の温度が80℃以下になるまで20MPaの圧力で加圧冷却することにより、燃料電池用セパレータを圧縮成形した。こうして燃料電池用セパレータを圧縮成形したら、金型から燃料電池用セパレータを脱型し、25cm×25cmの燃料電池用セパレータを製造した。
【0093】
次に、製造した燃料電池用セパレータの機械的強度である初期の引張強度、導電性を示す面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ実施例と同様に測定し、測定結果を表4にまとめた。
【0094】
〔比較例2〕
基本的には比較例1と同様であるが、樹脂組成物の導電材を変更した。すなわち、導電材を、平均粒子径が45μmの人造黒鉛粒子〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名 JSG‐75S〕500質量部に変更した。
その他は比較例1と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定してその測定結果を表4にまとめた。
【0095】
〔比較例3〕
基本的には比較例1と同様であるが、樹脂組成物の樹脂を、エチレン含有率が32mol%で粉末のエチレンビニルアルコール共重合体〔クラレ株式会社製:製品名 EVOH F104B〕に変更し、このエチレンビニルアルコール共重合体と導電材とを同じ100質量部とした。
その他は比較例1と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定してその測定結果を表4に記載した。
【0096】
〔比較例4〕
先ず、複合シートAを複合シートBに変更した。また、樹脂組成物を変更し、樹脂組成物の樹脂を、ポリエチレン系樹脂繊維〔住友精化株式会社製:製品名 UF‐15N〕100質量部に変更した。導電材は、平均粒子径が45μmの人造黒鉛粒子〔富士黒鉛工業株式会社製:製品名 JSG‐75S〕1200質量部とした。
その他は比較例1と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定してその測定結果を表3に記載した。
【0097】
〔比較例5〕
基本的には比較例1と同様であるが、複合シートAを複合シートCに変更した。その他は比較例1と同様にして燃料電池用セパレータを製造し、製造した燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数をそれぞれ測定して測定結果を表3に記載した。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
〔評 価〕
各実施例の場合、燃料電池用セパレータを厚さ1mm未満に製造したが、燃料電池用セパレータの初期の引張強度、面方向の体積抵抗値、及び水素ガスの透過係数は、いずれもきわめて良好な数値を得た。
【0103】
これに対し、比較例1、2、4、5で燃料電池用セパレータを厚さ1mm未満に製造した場合、燃料電池用セパレータの水素ガスの透過係数は、エチレンビニルアルコール共重合体を配合しなかったので、良好な数値を得られないことが少なくなく、ガス漏れのおそれを排除することができなかった。また、比較例3で燃料電池用セパレータを厚さ1mm未満に製造した場合、燃料電池用セパレータの水素ガスの透過係数は、エチレンビニルアルコール共重合体と導電材とが同じ質量部であったので、良好な数値を得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明に係る燃料電池用セパレータの製造方法は、燃料電池の製造分野で使用される。