(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20221117BHJP
C08L 25/18 20060101ALI20221117BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20221117BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20221117BHJP
C08K 5/1545 20060101ALI20221117BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20221117BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20221117BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221117BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L25/18
C08L33/00
C08L101/02
C08K5/1545
H01B1/20 A
H01B1/12 F
H01B13/00 Z
H01B5/14 A
H01B13/00 503B
(21)【出願番号】P 2019039817
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/084419(WO,A1)
【文献】特開2018-053191(JP,A)
【文献】特開2010-196022(JP,A)
【文献】国際公開第2014/065314(WO,A1)
【文献】特表2012-522079(JP,A)
【文献】特開2018-115269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
H01B 1/00 - 1/24
H01B 5/00 - 5/16
H01B 13/00
H01B 13/004- 13/016
H01B 13/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、下記化学式(2)で表される化合物と、水及び有機溶剤のうちの少なくとも一方と、を含有する、導電性高分子含有液。
【化1】
[式(2)中、R
1~R
3,R
9~R
11は、それぞれ独立に水素原子
、メチル基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表し、R
4とR
5が結合して炭素数5~8の脂肪族環を形成している。]
【請求項2】
前記有機溶剤を含み、前記ポリアニオンは、前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基とアミン化合物との反応物である、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【請求項3】
前記有機溶剤を含み、前記ポリアニオンは、前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基とエポキシ化合物との反応物である、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【請求項4】
バインダ成分をさらに含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項5】
バインダ成分をさらに含有し、前記バインダ成分が水分散性樹脂であり、水を含む、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【請求項6】
バインダ成分をさらに含有し、前記バインダ成分がアクリル化合物であり、前記有機溶剤を含む、請求項1~3の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項7】
バインダ成分をさらに含有し、前記バインダ成分が硬化型シリコーンであり、前記有機溶剤を含む、請求項1~3の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項8】
前記硬化型シリコーンが付加硬化型である、請求項7に記載の導電性高分子含有液。
【請求項9】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~8のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項10】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1~9のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項11】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水及び有機溶剤のうち少なくとも水を含む導電性高分子水系分散液に、下記式(2)で表される化合物を添加することを含む、導電性高分子含有液の製造方法。
【化2】
[式(2)中、R
1~R
3,R
9~R
11は、それぞれ独立に水素原子
、メチル基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表し、R
4とR
5が結合して炭素数5~8の脂肪族環を形成している。]
【請求項12】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水及び有機溶剤のうち少なくとも水を含む導電性高分子水系分散液を乾燥させて乾燥体を得ることと、
前記乾燥体にアミン化合物、有機溶剤、及び下記式(2)で表される化合物を添加することを含む、導電性高分子含有液の製造方法。
【化3】
[式(2)中、R
1~R
3,R
9~R
11は、それぞれ独立に水素原子
、メチル基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表し、R
4とR
5が結合して炭素数5~8の脂肪族環を形成している。]
【請求項13】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水及び有機溶剤のうち少なくとも水を含む導電性高分子水系分散液に、エポキシ化合物を添加して導電性複合体を析出させて析出物を形成させることと、
前記析出物を回収して、得られた前記析出物に有機溶剤及び下記式(2)で表される化合物を添加することを含む、導電性高分子含有液の製造方法。
【化4】
[式(2)中、R
1~R
3,R
9~R
11は、それぞれ独立に水素原子
、メチル基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表し、R
4とR
5が結合して炭素数5~8の脂肪族環を形成している。]
【請求項14】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項1~10の何れか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工することを含む、導電性フィルムの製造方法。
【請求項15】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、下記式(2)で表される化合物とを含む導電層が備えられた、導電性フィルム。
【化5】
[式(2)中、R
1~R
3,R
9~R
11は、それぞれ独立に水素原子
、メチル基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表し、R
4とR
5が結合して炭素数5~8の脂肪族環を形成している。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。導電性複合体を含有する導電性高分子含有液(導電性高分子分散液ということもある。)をフィルム基材等に塗工することにより、導電層を備えた導電性フィルムを製造することができる。しかし、導電性複合体を含む導電層は、大気暴露によって導電性が経時的に低下する問題がある。この問題を軽減する方法として、導電層に酸化防止剤を含有させる方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された具体的な酸化防止剤に代わり得る、大気暴露による導電性の経時的な低下を抑制する新たな添加剤が求められている。
【0005】
本発明は、大気中での経時的な導電性低下が抑制され、導電性が良好な導電性フィルムと、これを容易に製造できる製造方法、並びに、その製造方法において使用する導電性高分子含有液及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、下記化学式(1)で表される化合物と、水及び有機溶剤のうちの少なくとも一方と、を含有する、導電性高分子含有液。
[2] 前記化学式(1)で表される化合物が、下記化学式(2)で表される化合物である、[1]に記載の導電性高分子含有液。
[3] 前記化学式(1)で表される化合物が、下記化学式(3)で表される化合物である、[1]に記載の導電性高分子含有液。
[4] 前記有機溶剤を含み、前記ポリアニオンは、前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基とアミン化合物との反応物である、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[5] 前記有機溶剤を含み、前記ポリアニオンは、前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基とエポキシ化合物との反応物である、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[6] バインダ成分をさらに含有する、[1]~[5]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
[7] バインダ成分をさらに含有し、前記バインダ成分が水分散性樹脂であり、水を含む、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[8] バインダ成分をさらに含有し、前記バインダ成分がアクリル化合物であり、前記有機溶剤を含む、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[9] バインダ成分をさらに含有し、前記バインダ成分が硬化型シリコーンであり、前記有機溶剤を含む、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[10] 前記硬化型シリコーンが付加硬化型である、[9]に記載の導電性高分子含有液。
[11] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[10]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
[12] 前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[11]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
[13] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水及び有機溶剤のうち少なくとも水を含む導電性高分子水系分散液に、下記式(1)で表される化合物を添加することを含む、導電性高分子含有液の製造方法。
[14] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水及び有機溶剤のうち少なくとも水を含む導電性高分子水系分散液を乾燥させて乾燥体を得ることと、前記乾燥体にアミン化合物、有機溶剤、及び下記式(1)で表される化合物を添加することを含む、導電性高分子含有液の製造方法。
[15] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水及び有機溶剤のうち少なくとも水を含む導電性高分子水系分散液に、エポキシ化合物を添加して導電性複合体を析出させて析出物を形成させることと、前記析出物を回収して、得られた前記析出物に有機溶剤及び下記式(1)で表される化合物を添加することを含む、導電性高分子含有液の製造方法。
[16] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[1]~[12]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工することを含む、導電性フィルムの製造方法。
[17] フィルム基材の少なくとも一方の面に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、下記式(1)で表される化合物とを含む導電層が備えられた、導電性フィルム。
【0007】
【化1】
[式(1)中、R
1~R
11は、それぞれ独立に水素原子又は任意の置換基を表し、R
4とR
5が結合して環を形成してもよく、R
7とR
8が結合して環を形成してもよい。]
【0008】
【化2】
[式(2)中、R
1~R
6,R
9~R
11は、それぞれ独立に水素原子又は任意の置換基を表し、R
4とR
5が結合して環を形成してもよい。式(3)中、R
1~R
3,R
9~R
11は、それぞれ独立に水素原子又は任意の置換基を表す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性高分子含有液及びこれを用いた導電性フィルムの製造方法によれば、大気中での経時的な導電性低下が抑制され、導電性が良好な導電層を備えた導電性フィルムを容易に製造できる。
本発明の導電性高分子含有液の製造方法によれば、上記の導電性高分子含有液を容易に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪導電性高分子含有液≫
本発明の第一態様の導電性高分子含有液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、後述する化学式(1)で表される化合物(1)と、水及び有機溶剤のうちの少なくとも一方と、を含有する。
本発明の導電性高分子含有液において、導電性複合体は、分散状態であってもよいし、溶解状態であってもよい。
【0011】
[導電性複合体]
本態様における導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
【0012】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0013】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0015】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるから、充分な導電性を確保できる。
【0016】
導電性複合体中のポリアニオンにおいては、アニオン基の全てがπ共役系導電性高分子にドープしてはおらず、ドープに関与しない余剰のアニオン基がある。この余剰のアニオン基は親水基であり、アニオン基が修飾されていない導電性複合体の分散性は、水系分散媒においては高く、有機溶剤においては低い。
【0017】
[化合物(1)]
化合物(1)は、下記化学式(1)で表される化合物であり、導電層の導電性を高め、導電層に大気暴露耐性を付与し得る。
【0018】
【化3】
[式(1)中、R
1~R
11は、それぞれ独立に水素原子又は任意の置換基を表し、R
4とR
5が結合して環を形成してもよく、R
7とR
8が結合して環を形成してもよい。]
【0019】
式(1)における任意の置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、炭素数1~14の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)、炭素数5~10の脂環式アルキル基(例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等)、炭素数1~14のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)、炭素数6~14のアリール基(例えば、フェニル基等)等が挙げられる。これらの置換基が有する水素原子は、さらに別の置換基(例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミノ基、トリアルコキシシリル基、ハロゲン(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)等)に置換されていてもよい。これらのうち、水素原子又はヒドロキシ基であることが好ましい。
【0020】
式(1)中、R4とR5が結合して環を形成する場合、形成される環はR4及びR5が結合する炭素がスピロ原子となるスピロ環であることが好ましい。また、そのスピロ環は、炭素数5~8の脂肪族環式基であることが好ましい。
前記脂肪族環式基の環を構成する1つ以上の炭素原子は、酸素、窒素、硫黄、又はカルボニル基(-C(=O)-)によって置換されていてもよい。ただし、2つの酸素原子同士が隣接する場合を除く。また、前記脂肪族環式基に結合する水素原子は、ヒドロキシ基によって置換されていてもよい。
【0021】
式(1)中、R7とR8が結合して環を形成する場合、形成される環は5~8の脂肪族環式基であることが好ましい。
前記脂肪族環式基の環を構成する1つ以上の炭素原子は、酸素、窒素、硫黄、又はカルボニル基(-C(=O)-)によって置換されていてもよい。ただし、2つの酸素原子同士が隣接する場合を除く。また、前記脂肪族環式基に結合する水素原子は、ヒドロキシ基によって置換されていてもよい。
【0022】
化合物(1)は、本発明の効果をより向上させる観点から、下記化学式(2)で表される化合物(2)であることが好ましく、下記化学式(3)で表される化合物(3)であることがより好ましい。
【0023】
【0024】
式(2)中、R1~R6,R9~R11は、それぞれ独立に水素原子又は任意の置換基を表し、R4とR5が結合して環を形成してもよい。
好適なR1~R6,R9~R11、及びR4とR5が結合して形成されてもよい環は、式(1)と同様である。
【0025】
式(3)中、R1~R3,R9~R11は、それぞれ独立に水素原子又は任意の置換基を表す。
上記のような好適な化合物(3)として、例えば、下記式(3-1)~(3-2)で表される化合物(3-1)~(3-2)が挙げられる。
【0026】
【0027】
本態様の導電性高分子含有液に含まれる化合物(1)は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
本態様に含まれる化合物(1)の合計の含有量は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上1000質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上500質量部以下であることがさらに好ましい。化合物(1)の含有量が前記下限値以上であれば、導電層の導電性をより向上させることができ、大気中での導電性低下をより抑制できる。一方、化合物(1)の含有量が前記上限値以下であれば、導電性複合体の含有割合低下による導電性低下を抑制できる。
【0028】
[疎水化された導電性複合体]
本態様における導電性複合体は、アミン化合物又はエポキシ化合物(エポキシ基含有化合物)との反応によって疎水化されていてもよい。導電性複合体のポリアニオンの余剰のアニオン基(以下、「一部のアニオン基」ともいう)と、アミン化合物とが反応するか、又はエポキシ化合物のエポキシ基が開環反応することによって、アニオン基の親水性を低減し、疎水化される。これにより、導電性複合体の有機溶剤に対する分散性が高まる。
前記ポリアニオンは、前記アニオン基と前記エポキシ化合物との反応によって、置換基(A)を有する。
前記ポリアニオンは、前記アニオン基と前記アミン化合物との反応によって、置換基(B)を有する。
【0029】
(置換基A)
導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(A)は下記式(A1)で示される基、又は下記式(A2)で表される基であると推測される。
【0030】
【化6】
[式(A1)中、R
11、R
12、R
13、及びR
14はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基である。]
【0031】
【化7】
[式(A2)中、mは2以上の整数であり、複数のR
15、複数のR
16、複数のR
17、及び複数のR
18はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基であり、複数のR
15は同一でも異なっていてもよく、複数のR
16は同一でも異なっていてもよく、複数のR
17は同一でも異なっていてもよく、複数のR
18は同一でも異なっていてもよい。]
【0032】
式(A1)及び式(A2)において、左端の結合手は、置換基(A)が、アニオン基のプロトンと置換していることを表す。置換されるプロトンを有するアニオン基として、例えば、「-SO3H」のように酸素原子に結合した活性なプロトンを有するアニオン基が挙げられる。
【0033】
式(A1)において、R11、R12、R13、及びR14の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R11とR13とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。例えば、R11とR13とが前記炭化水素基であり、R11の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基と、R13の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基とが、前記水素原子が除かれた炭素原子同士で結合して環を形成する場合が挙げられる。
なかでも、式(A1)において、R11が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R12が水素原子であり、R13が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R14が水素原子であることが好ましい。
【0034】
式(A2)において、R15、R16、R17、及びR18の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R15とR17とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。環を形成する例は、上記と同様である。
なかでも、式(A2)において、R15が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R16が水素原子であり、R17が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R18が水素原子であることが好ましい。
【0035】
本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH2-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
置換基としての1価の基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、トリアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基等)、等が挙げられる。
置換基としての2価の基としては、酸素原子(-O-)、-C(=O)-、-C(=O)-O-等が挙げられる。ただし、2つの酸素原子同士が隣接する場合を除く。
【0036】
式(A2)において、mは2以上の整数であり、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~25がさらに好ましい。mが上記下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。mが前記上限値以下であると、疎水性が高くなりすぎたり、導電性が低下したりするのを抑制することができる。
【0037】
前記エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ以上有する化合物である。凝集又はゲル化を防止する点では、エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ有する化合物が好ましい。
エポキシ化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
1分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、2,3-ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシテトラデカン、グリシジルメチルエーテル、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、エチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシエイコサン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシプロパン、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-9-デカン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシブタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-トリフルオロブタン、アリルグリシジルエーテル、テトラシアノエチレンオキサイド、グリシジルブチレート、1,2-エポキシシクロオクタン、グリシジルメタクリレート、1,2-エポキシシクロドデカン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタデカン、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-ヘプタデカフルオロブタン、3,4-エポキシテトラヒドロフラン、グリシジルステアレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシコハク酸、グリシジルフェニルエーテル、イソホロンオキサイド、α-ピネンオキサイド、2,3-エポキシノルボルネン、ベンジルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(パーフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、9,10-エポキシ-1,5-シクロドデカジエン、4-tert-ブチル安息香酸グリシジル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、2-tert-ブチル-2-[2-(4-クロロフェニル)]エチルオキシラン、スチレンオキサイド、グリシジルトリチルエーテル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-フェニルプロピレンオキサイド、コレステロール-5α,6α-エポキシド、スチルベンオキサイド、p-トルエンスルホン酸グリシジル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、N-プロピル-N-(2,3-エポキシプロピル)ペルフルオロ-n-オクチルスルホンアミド、(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-フェニルブタン、3-ニトロベンゼンスルホン酸(R)-グリシジル、3-ニトロベンゼンスルホン酸-グリシジル、パルテノリド、N-グリシジルフタルイミド、エンドリン、デイルドリン、4-グリシジルオキシカルバゾール、7,7-ジメチルオクタン酸[オキシラニルメチル]、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0039】
前記高級アルコールグリシジルエーテルとしては、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上が好ましく、炭素数12~14の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上がより好ましく、C12(炭素数12)高級アルコールグリシジルエーテル及びC13(炭素数13)高級アルコールグリシジルエーテルのうち少なくとも1種がさらに好ましく、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0040】
1分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,7-オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、イソシアヌル酸トリグリシジルネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0041】
エポキシ化合物は、有機溶剤への分散性が高くなることから、分子量が50以上2000以下であることが好ましい。また、低極性の有機溶剤への分散性が高くなることから、エポキシ化合物は、炭素数が7以上100以下のものが好ましく、10以上80以下のものがより好ましく、15以上50以下のものがさらに好ましい。
【0042】
(置換基B)
導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(B)は下記式(B)で表される基であると推測される。
【0043】
-HN+R21R22R23 ・・・(B)
[式(B)中、R21~R23はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、ただし、R21~R23のうち少なくとも1つは置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0044】
置換基(B)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、アミン化合物の正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO3
-」のように、酸素原子に活性なプロトンが結合したアニオン基が挙げられる。
【0045】
式(B)におけるR21~R23は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。式(B)におけるR21~R23はアミン化合物に由来する置換基である。
式(B)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0046】
前記アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。アミン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、導電性複合体を容易に疎水化できることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0047】
低極性の有機溶剤への分散性が高くなることから、アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が6以上の置換基を有することが好ましく、窒素原子上に炭素数が8以上の置換基を有することがより好ましい。
【0048】
導電性高分子含有液は、前述した導電性複合体と、化合物(1)と、水及び有機溶剤のうちの少なくとも一方とを含む。水又は有機溶剤は、導電性複合体を分散又は溶解することができるので、分散媒又は溶媒ということができる。本明細書において、分散と溶解とを区別せずに単に分散ということがあり、分散媒と溶媒とを区別せずに単に分散媒ということがある。
導電性高分子含有液に含まれる導電性複合体は、前述したように疎水化されていてもよいし、疎水化されていなくてもよい。疎水化されている場合には、分散媒として有機溶剤を用いることが好ましい。疎水化されていない場合には、分散媒として水系分散媒を用いることが好ましい。
【0049】
(有機溶剤)
本態様における有機溶剤は、水溶性有機溶剤でもよいし、非水溶性有機溶剤でもよいし、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤の混合溶剤でもよい。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。
【0050】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
導電性高分子含有液のフィルム基材に対する塗工性が良好になることから、水溶性有機溶剤としてはアルコール系溶剤又はケトン系溶剤が好ましい。
【0051】
非水溶性有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
非水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
非水溶性有機溶剤のなかでも、本態様における導電性高分子含有液を容易に製造できる点では、芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、トルエンがより好ましい。
【0052】
本態様の導電性複合体が疎水化されている場合、導電性高分子含有液の総質量に対する有機溶剤の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上99.9質量%以下であることがさらに好ましい。有機溶剤の含有割合が上記範囲であると、疎水化された導電性複合体を容易に分散させることができ、容易に導電層を形成するこができる。
【0053】
(水系分散媒)
水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、50質量%超であり、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0054】
(導電性複合体の含有量)
導電性高分子含有液の総質量に対する、導電性複合体の含有量は、分散性を高める観点から、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0055】
(バインダ成分)
導電性高分子含有液は、バインダ成分を含んでいてもよい。バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン等が挙げられる。
導電性高分子含有液の分散媒が水系分散媒である場合、含有するバインダ樹脂としては、水分散性樹脂が好ましく、水分散性エマルション樹脂がより好ましい。水分散性樹脂は、エマルション樹脂又は水溶性樹脂である。
【0057】
水分散性エマルション樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、乳化剤によってエマルションにされたものが挙げられる。なかでも、導電性高分子含有液をフィルム基材に塗工した塗膜の強度が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。特に、ポリエステルフィルム基材に塗工する場合、フィルム基材に対する塗膜の密着性が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。
【0058】
水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂であって、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有するものが挙げられる。ここで、水溶性樹脂は、25℃の蒸留水100gに、1g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上溶解するものが好ましい。
【0059】
水分散性樹脂が有するカルボキシ基、スルホ基等の酸基は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0060】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。なお、質量平均分子量が1万を超えるポリマーは、硬化性を有さない。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー、オルガノシロキサン等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー(硬化型シリコーン)等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。バインダ成分としてオルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを用いた場合には、導電層に離型性(非粘着性)を付与することができる。
付加硬化型のオルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーは、酸化防止剤の添加によって硬化阻害を起こすことがある。しかし、化合物(1)は、付加硬化型のオルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーの硬化を阻害しにくいため、バインダ成分として付加硬化型のオルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを好適に用いることができる。
【0061】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。また、オルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを含む場合には、硬化用の白金触媒を含むことが好ましい。
【0062】
導電性高分子含有液におけるバインダ成分の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して、100質量部以上20000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、導電性高分子含有液をフィルム基材に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。バインダ成分の含有割合が前記上限値以下であれば、導電性複合体の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0063】
(高導電化剤)
導電性高分子含有液は、導電性をより向上させるために、高導電化剤を含んでもよい。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、2個以上のカルボキシル基を有する化合物、1個以上のヒドロキシ基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
ただし、高導電化剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、分散媒、化合物(1)、及びバインダ成分以外の化合物である。
高導電化剤のなかでも、導電性向上の効果が高いことから、ヒドロキシ基を2つ有する直鎖状化合物であるグリコールが好ましく、プロピレングリコールがより好ましい。
導電性高分子含有液に含まれる高導電化剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0064】
高導電化剤の含有割合は導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0065】
(その他の添加剤)
導電性高分子含有液には、その他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、分散媒、化合物(1)、バインダ成分、及び高導電化剤以外のものである。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、エポキシ基、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0066】
導電性高分子含有液が前記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0067】
≪導電性高分子含有液の製造方法≫
本発明の第二態様は、第一態様の導電性高分子含有液の製造方法である。
第一態様の導電性高分子含有液は、例えば、下記(a)~(c)のいずれかの方法により容易に製造することができる。
(a)π共役系導電性高分子及びポリアニオンと、水及び有機溶剤のうち少なくとも水を含む導電性高分子水系分散液に、前記式(1)で表される化合物(1)を添加することを含む方法。
(b)π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水及び有機溶剤のうち少なくとも水を含む導電性高分子水系分散液を乾燥させて乾燥体を得ることと、前記乾燥体にアミン化合物、有機溶剤、及び前記式(1)で表される化合物(1)を添加することを含む方法。
(c)π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水及び有機溶剤のうち少なくとも水を含む導電性高分子水系分散液に、エポキシ化合物を添加して導電性複合体を析出させて析出物を形成させることと、前記析出物を回収して、得られた前記析出物に有機溶剤及び前記式(1)で表される化合物(1)を添加することを含む方法。
【0068】
(a)~(c)の材料として用いる導電性高分子水系分散液は、導電性複合体が水系分散媒に分散された導電性高分子含有液である。導電性高分子水系分散液は、例えば、ポリアニオンの水分散液に、π共役系導電性高分子を構成するモノマーを添加し、酸化重合させることによって得られる。また、導電性高分子水系分散液は、市販のものを用いてもよい。
【0069】
(b)における導電性高分子水系分散液の乾燥方法としては、凍結乾燥又は噴霧乾燥が好ましい。凍結乾燥又は噴霧乾燥して得た乾燥体は、表面積が広いので、有機溶剤に分散させやすい。
(b)において、乾燥体に添加したアミン化合物は、ポリアニオンのアニオン基、特にドープに関与しない余剰のアニオン基に反応して、導電性複合体を疎水化することができる。疎水化された導電性複合体は有機溶剤に対する分散性が高くなる。
乾燥体に、アミン化合物及び有機溶剤を添加した後に、高圧ホモジナイザー等を用いて、高い剪断力を付与しながら攪拌し、疎水化した導電性複合体を有機溶剤に分散させることが好ましい。
(b)で用いることが好ましいアミン化合物の例示は、前述したアニオン基と反応するアミン化合物の例示と同じである。
【0070】
アミン化合物の添加割合は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上1000質量部以下であることがさらに好ましい。アミン化合物の添加割合が前記下限値以上であれば、導電性複合体の有機溶剤に対する分散性がより高くなり、前記上限値以下であれば、導電性の低下を防ぐことができる。
【0071】
(c)において、エポキシ化合物を導電性高分子水系分散液に添加すると、導電性複合体を構成するポリアニオンの一部のアニオン基に、エポキシ化合物のエポキシ基が開環反応することにより、アニオン基の負電荷が消失する。これにより、導電性複合体が疎水化される。この疎水化を促進するために、導電性高分子水系分散液を加熱してもよい。
疎水化された導電性複合体は、水系分散媒中で分散できなくなり、析出して析出物となる。
(c)で用いることが好ましいエポキシ化合物の例示は、前述したアニオン基と反応するエポキシ化合物の例示と同じである。
【0072】
エポキシ化合物の添加割合は、導電性複合体100質量部に対して、10質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上50000質量部以下であることがより好ましく、200質量部以上10000質量部以下であることがさらに好ましい。エポキシ化合物の添加割合が前記下限値以上であれば、導電性複合体の有機溶剤に対する分散性がより高くなり、前記上限値以下であれば、導電性の低下を防ぐことができる。
【0073】
(c)において、疎水化された導電性複合体からなる前記析出物を、水系分散媒から分取して回収する方法としては、例えば、ろ過、沈殿、抽出等の公知の分取方法を適用できる。これらの分取方法のなかでも、ろ過が好ましく、導電性複合体の形成に用いたポリアニオンがろ液とともに通過する程度に粗い目のフィルターを用いてろ過することが好ましい。このろ過方法によれば、析出物を分取するとともに、導電性複合体を形成していない余剰のポリアニオンをろ液側に残して、析出物と余剰のポリアニオンとを分離することができる。余剰のポリアニオンを除くことにより、析出物の導電性を高めることができる。
【0074】
ろ過に使用するフィルターとしては、化学分析分野で用いられるろ紙が好ましい。このろ紙としては、例えば、アドバンテック社製ろ紙、保留粒子径7μm等が挙げられる。ここで、ろ紙の保留粒子径は目の粗さの目安であり、JIS P 3801〔ろ紙(化学分析用)〕で規定された硫酸バリウムなどを自然ろ過したときの漏えい粒子径により求められる。ろ紙の保留粒子径は、例えば2μm以上10μm以下とすることができる。この保留粒子径は、余剰のポリアニオンを透過させて容易に分離できることから、5μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0075】
回収した疎水化された導電性複合体は、前述した有機溶剤に容易に分散させることができる。
【0076】
<導電性フィルムの製造方法>
本発明の第三態様の導電性フィルムの製造方法は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第一態様の導電性高分子含有液を塗工することを含む。
【0077】
(フィルム基材)
前記フィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルムが挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0078】
フィルム基材用の樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、導電性高分子含有液から形成される導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0079】
フィルム基材の平均厚みとしては、5μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
本明細書における部材の厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0080】
前記フィルム基材として、公知の偏光フィルムを使用することもできる。
偏光フィルムとしては、例えば、一対の透明フィルムと、これらの間に配置された偏光層とを備えたものが知られている。
透明フィルムを構成する透明樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂等が挙げられる。
透明フィルムの厚さは、例えば、10μm以上500μm以下とすることができ、薄型化と強度の両立の点では、20μm以上300μm以下であることが好ましい。
偏光層としては、例えば、親水性フィルムに二色性物質を付着させ、一軸延伸して二色性物質を配向させたものが挙げられる。親水性フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体の部分ケン化フィルム等が挙げられる。二色性物質としては、例えば、ヨウ素、二色性染料等が挙げられる。
偏光層の厚さは、例えば、10μm以上500μm以下とすることができ、薄型化と偏光性の両立の点では、20μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0081】
導電性フィルムを光学用途に使用する場合には、フィルム基材が透明であることが好ましい。具体的には、フィルム基材の全光線透過率が65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。全光線透過率は、JIS K7136に従って測定した値である。
【0082】
導電性高分子含有液をフィルム基材に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
市販のバーコーターには、塗工厚に応じた番号が付されており、その番号が大きい程、厚く塗工できる。
導電性高分子含有液のフィルム基材への塗布量は特に制限されないが、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m2以上10.0g/m2以下の範囲であることが好ましい。
【0083】
塗工した導電性高分子含有液が、バインダ成分を含まない場合又はバインダ成分として樹脂を含む場合、塗膜を乾燥させて、分散媒を除去することにより、導電層が形成された導電性フィルムを得ることができる。
塗工した導電性高分子含有液を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上150℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
【0084】
塗工した導電性高分子含有液が、バインダ成分として熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、塗膜を加熱して、バインダ成分を硬化させることにより、導電層が形成された導電性フィルムを得ることができる。
塗工した導電性高分子含有液が、バインダ成分として光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、塗膜に紫外線又は電子線を照射して、バインダ成分を硬化させることにより、導電層が形成された導電性フィルムを得ることができる。
【0085】
≪導電性フィルム≫
本発明の第四態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、前記式(1)で表される化合物(1)とを含む導電層が備えられた、導電性フィルムである。
本態様の導電性フィルムは、第三態様の製造方法によって製造することができる。
本態様の導電性フィルムのフィルム基材の説明は、第三態様のフィルム基材の説明と同じである。
【0086】
(導電層)
フィルム基材の少なくとも一方の面に備えられた、前記導電性複合体と、化合物(1)とを含有する導電層の平均厚みとしては、10nm以上5000nm以下であることが好ましく、20nm以上1000nm以下であることがより好ましく、30nm以上500nm以下であることがさらに好ましい。
前記導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
【0087】
本態様の導電性フィルムの導電層は、良好な導電性の目安として、例えば、1×102Ω/□以上1×1010Ω/□以下の表面抵抗値を有することが好ましく、1×103Ω/□以上1×109Ω/□以下の表面抵抗値を有することがより好ましく、1×104Ω/□以上1×108Ω/□以下の表面抵抗値を有することが好ましい。
【0088】
<作用効果>
本発明の第四態様の導電性フィルムの導電層には、化合物(1)及び導電性複合体が含まれているので、大気に曝された状態における経時的な導電性の低下が抑制されている。このメカニズムは未解明であるが、化合物(1)が導電性複合体の酸化防止剤として機能していると推測される。
本発明の第一態様の導電性高分子含有液には、化合物(1)及び導電性複合体が安定に分散されているので、第四態様の導電性フィルムの製造に適している。
本発明の第三態様の導電性フィルムの製造方法は、第一態様の導電性高分子含有液を用いるので、第四態様の導電性フィルムを容易に製造することができる。
本発明の第二態様の導電性高分子含有液の製造方法は、導電性複合体の疎水化の有無にかかわらず、第一態様の導電性高分子含有液を容易に製造することができる。
【実施例】
【0089】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0090】
(製造例2)水系分散媒を含む導電性高分子含有液(導電性高分子水系分散媒)の製造
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
次いで、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、濃度1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)が水系分散媒に分散された導電性高分子水系分散媒を得た。
【0091】
(製造例3)凍結乾燥体の製造
製造例2で得たPEDOT-PSSの水系分散液1000gを凍結乾燥して、12gのPEDOT-PSS(導電性複合体)の凍結乾燥体を得た。
【0092】
(製造例4)疎水化された導電性複合体を含む導電性高分子含有液の製造
イソプロパノール1000gに、4.0gのPEDOT-PSSの凍結乾燥体と、3.5gのトリオクチルアミンを加え、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、トリオクチルアミンが反応して疎水化された導電性複合体を含む導電性高分子含有液を得た。
【0093】
(製造例5)疎水化された導電性複合体を含む導電性高分子含有液の製造
製造例2で得たPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール300g及びエポキシ化合物(共栄社化学株式会社製エポライトM-1230、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテル)25gを加え、60℃で4時間加熱攪拌した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基にエポキシ化合物のエポキシ基が開環反応して結合し、余剰のスルホン酸基が消失した。この結果、PEDOT-PSSの水分散性が低下し、PEDOT-PSSとエポキシ化合物との反応物である、疎水化された導電性複合体が析出した。この析出物を濾過により回収し、1.575gの導電性複合体を得た。
次に、315gのメチルエチルケトンに上記の導電性複合体を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、エポキシ化合物との反応により疎水化された導電性複合体を、濃度0.5質量%で含む導電性高分子含有液を得た。
【0094】
以下の実施例で使用した化合物の略称を次に示す。
「Resorcin-FZ」は、前記式(3-1)で表される化合物である。
「Pyrogallol-FZ」は、前記式(3-2)で表される化合物である。
これらの化合物は、本州化学工業株式会社製のものを用いた。
【0095】
[実施例1]
製造例2で得た導電性高分子水系分散媒10g(PEDOT-PSSの含有量:約0.12g)に、メタノール80gと、水分散ポリエステルのプラスコートRZ-105(互応化学工業株式会社製、固形分濃度25質量%の水分散液)10gと、Resorcin-FZの0.25gを加え、導電性高分子含有液(塗料)を得た。この塗料をPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)上に#2のバーコーターを用いて塗布し、120℃で1分間乾燥して、導電層(厚さ:約85.8nm)が表面に形成された導電性フィルムを得た。
【0096】
[実施例2]
Resorcin-FZの0.25gの添加量を、0.5gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。
【0097】
[実施例3]
Resorcin-FZの0.25gを、Pyrogallol-FZの0.25gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。
【0098】
[実施例4]
Resorcin-FZの0.25gを、Pyrogallol-FZの0.5gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。
【0099】
[比較例1]
Resorcin-FZを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。
【0100】
<評価>
各例の導電性フィルムについて、作製後1時間以内に測定した表面抵抗値(初期の表面抵抗値)R0と、温度25℃且つ湿度50%に調整された空気に導電層の表面が曝された状態(以下、大気暴露の状態という。)で7日間放置した後の表面抵抗値(大気暴露後の表面抵抗値)R1と、をそれぞれ測定した。その測定の際、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製ハイレスタ)を用い、印加電圧を10Vとした。各測定結果を表1に示す。なお、表中の「Ω/□」はオームパースクエアの意味である。また、「1.0E+10」は、「1.0×1010」を表す。
【0101】
各測定結果における表面抵抗値(単位:Ω/□)が小さい程、導電性が高いことを示す。また、R1/R0で表される表面抵抗値の比の値が小さい程、製造後の経時的な導電性低下を抑制できたことを示している。
表1の結果において、実施例1~4の導電性フィルムでは、製造直後~7日間の経時的な導電性低下が抑制されていたが、比較例1では抑制されていなかった。
【0102】
【0103】
[実施例5]
製造例4で得た導電性高分子含有液81.25g(PEDOT-PSSの含有量:0.325g)に、ウレタンアクリレート(根上工業株式会社製、アートレジンUN-904M、固形分濃度80質量%のメチルエチルケトン溶液)3.75gと、ジアセトンアルコール15gと、イルガキュア127(BASF社製光ラジカル重合開始剤)の0.075gと、Resorcin-FZの0.6gとを加え、導電性高分子含有液(塗料)を作成した。この塗料をPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)上に#16のバーコーターを用いて塗布し、120℃で1分間乾燥し、400mJのエネルギーの紫外線照射をして、導電層(厚さ:約82nm)が表面に形成された導電性フィルムを得た。
【0104】
[実施例6]
Resorcin-FZの0.6gの添加量を、1.2gに変更したこと以外は、実施例5と同様にして導電性フィルムを得た。
【0105】
[実施例7]
Resorcin-FZの0.6gを、Pyrogallol-FZの0.6gに変更したこと以外は、実施例5と同様にして導電性フィルムを得た。
【0106】
[実施例8]
Resorcin-FZの0.6gを、Pyrogallol-FZの1.2gに変更したこと以外は、実施例5と同様にして導電性フィルムを得た。
【0107】
[比較例2]
Resorcin-FZを添加しなかったこと以外は、実施例5と同様にして導電性フィルムを得た。
【0108】
<評価>
各例の導電性フィルムについて、実施例1と同様に、初期の表面抵抗値R0と、大気暴露後の表面抵抗値R1と、をそれぞれ測定した。各測定結果を表2に示す。
【0109】
表2の結果において、実施例5~8の導電性フィルムでは、製造直後~7日間の経時的な導電性低下が抑制されていたが、比較例2では抑制されていなかった。
【0110】
【0111】
[実施例9]
製造例5で得た導電性高分子含有液4.5g(疎水化PEDOT-PSSの含有量:0.025g)に、付加硬化型シリコーンのKS-3703T(信越化学工業社製、固形分30%、トルエン溶液)1.5gと、トルエン25.5gと、メチルエチルケトン58.5gと、白金触媒のCAT-PL-50T(信越化学工業社製)0.03gと、Resorcin-FZの0.25gを加え、導電性高分子含有液(塗料)を作成した。この塗料をPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)上に#8のバーコーターを用いて塗布し、150℃で1分間乾燥して、導電層(厚さ:約99.6nm)が表面に形成された導電性フィルムを得た。
【0112】
[実施例10]
Resorcin-FZの0.25gの添加量を、0.5gに変更したこと以外は、実施例9と同様にして導電性フィルムを得た。
【0113】
[実施例11]
Resorcin-FZの0.25gを、Pyrogallol-FZの0.25gに変更したこと以外は、実施例9と同様にして導電性フィルムを得た。
【0114】
[実施例12]
Resorcin-FZの0.25gを、Pyrogallol-FZの0.5gに変更したこと以外は、実施例9と同様にして導電性フィルムを得た。
【0115】
[比較例3]
Resorcin-FZを添加しなかったこと以外は、実施例9と同様にして導電性フィルムを得た。
【0116】
<評価>
各例の導電性フィルムについて、大気暴露の期間を1日間に短縮した以外は実施例1と同様にして、初期の表面抵抗値R0と、大気暴露後の表面抵抗値R1と、をそれぞれ測定した。各測定結果を表3に示す。
【0117】
表3の結果において、実施例9~12の導電性フィルムでは、製造直後~1日間の経時的な導電性低下が抑制されていたが、比較例3では抑制されていなかった。
【0118】