(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】打込み計画作成装置および打込み計画作成方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20221117BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20221117BHJP
【FI】
E04G21/02 103Z
E04G21/02 ESW
G06Q50/08
(21)【出願番号】P 2019118068
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 均
【審査官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-209801(JP,A)
【文献】特許第4404494(JP,B2)
【文献】特開平10-008706(JP,A)
【文献】特開2005-070841(JP,A)
【文献】特開2014-114638(JP,A)
【文献】特開2011-202383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
G06Q 50/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成装置であって、
前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序であり、
暫定の前記打込み順序を設定する順序設定部と、
前記打込み順序の更新を繰り返し行う順序更新部と、
前記打込み順序を評価する順序評価部と、
前記評価に基づいて正規の打込み順序を決定する順序決定部と、を備え、
前記順序評価部は、予め定式化したエネルギー関数に前記打込み順序を代入し、前記打込み順序を評価するためのエネルギーを当該打込み順序で打ち込みを行った場合の打重ね時間間隔に基づいて算出し、
前記順序更新部は、更新前における前記打込み順序のエネルギーよりも更新後における前記打込み順序のエネルギーが小さい場合には、更新後における前記打込み順序の一部を変更して新たな打込み順序を作成し、更新前における前記打込み順序のエネルギーよりも更新後における前記打込み順序のエネルギーが大きい場合には、更新前における前記打込み順序の一部を変更して新たな打込み順序を作成し、
前記順序決定部は、繰り返し更新された前記打込み順序の中で前記エネルギーが最小である前記打込み順序を正規の打込み順序として決定する、
ことを特徴とする打込み計画作成装置。
【請求項2】
コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成装置であって、
前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序であり、
暫定の前記打込み順序を所定数だけ設定する順序設定部と、
前記打込み順序の更新を繰り返し行う順序更新部と、
前記打込み順序に対して他の打込み順序との関係における優劣を評価する順序評価部と、
前記打込み順序の収束度合または更新回数に基づいて正規の打込み順序を決定する順序決定部と、を備え、
各々の前記施工ブロックには、2進法により表された打ち込む順番が対応づけられており、
前記順序評価部は、更新後の前記打込み順序で打ち込みを行った場合の各々の前記施工ブロックの打重ね時間間隔を予め定式化した適応度関数に代入し、当該打込み順序を評価するための適応度を全ての前記打込み順序について算出し、
前記順序更新部は、適応度に応じた確率で遺伝的アルゴリズムにおける選択処理を前記打込み順序に対して実行するとともに、選択処理後の前記打込み順序に対して遺伝的アルゴリズムにおける交叉処理および突然変異処理の少なくとも何れか一方を所定のタイミングで実行する、
ことを特徴とする打込み計画作成装置。
【請求項3】
前記打込み順序により全ての前記施工ブロックの打ち込みが実現可能であるか否かを判定する制約条件判定部をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の打込み計画作成装置。
【請求項4】
コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成方法であって、
前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序であり、
暫定の前記打込み順序を設定する順序設定ステップと、
前記打込み順序の更新を繰り返し行う順序更新ステップと、
前記打込み順序を評価する順序評価ステップと、
前記評価に基づいて正規の打込み順序を決定する順序決定ステップと、を備え、
前記順序評価ステップでは、予め定式化したエネルギー関数に前記打込み順序を代入し、前記打込み順序を評価するためのエネルギーを当該打込み順序で打ち込みを行った場合の打重ね時間間隔に基づいて算出し、
前記順序更新ステップでは、更新前における前記打込み順序のエネルギーよりも更新後における前記打込み順序のエネルギーが小さい場合には、更新後における前記打込み順序の一部を変更して新たな打込み順序を作成し、更新前における前記打込み順序のエネルギーよりも更新後における前記打込み順序のエネルギーが大きい場合には、更新前における前記打込み順序の一部を変更して新たな打込み順序を作成し、
前記順序決定ステップでは、繰り返し更新された前記打込み順序の中で前記エネルギーが最小である前記打込み順序を正規の打込み順序として決定する、
ことを特徴とする打込み計画作成方法。
【請求項5】
コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成方法であって、
前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序であり、
暫定の前記打込み順序を所定数だけ設定する順序設定ステップと、
前記打込み順序の更新を繰り返し行う順序更新ステップと、
前記打込み順序に対して他の打込み順序との関係における優劣を評価する順序評価ステップと、
前記打込み順序の収束度合または更新回数に基づいて正規の打込み順序を決定する順序決定ステップと、を備え、
各々の前記施工ブロックには、2進法により表された打ち込む順番が対応づけられており、
前記順序評価ステップでは、更新後の前記打込み順序で打ち込みを行った場合の各々の前記施工ブロックの打重ね時間間隔を予め定式化した適応度関数に代入し、当該打込み順序を評価するための適応度を全ての前記打込み順序について算出し、
前記順序更新ステップでは、適応度に応じた確率で遺伝的アルゴリズムにおける選択処理を前記打込み順序に対して実行するとともに、選択処理後の前記打込み順序に対して遺伝的アルゴリズムにおける交叉処理および突然変異処理の少なくとも何れか一方を所定のタイミングで実行する、
ことを特徴とする打込み計画作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの打込み計画作成装置および打込み計画作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、コンクリート工事の施工者は、打込み計画を手作業で作成し、その計画に沿ってコンクリートの打込みを行う。施工対象物が高さのある部材の場合、数層(例えば、一つの層が数十cm程度)に分けてコンクリートの打込みを行うので、打込み計画は、「打重ね計画」などと呼ばれる場合がある。コンクリート工事において、コンクリートを打重ねる時間の間隔(打重ね時間間隔)は、重要な管理項目である。打重ねに時間を要した場合、コールドジョイント等の初期欠陥の発生を招き、所定の品質を確保できなくなる。
【0003】
従来、コンクリート工事における打重ね時間間隔を管理するための技術として、例えば以下のものが提案されている。
特許文献1には、型枠の上方に配置された形状センサを用いて打重ね面の形状に関する情報を取得することにより、型枠によって目視困難な場所におけるコンクリートの打込み状況を確認することが記載されている。
また、特許文献2には、コンクリート打設現場の上方側から撮影した映像をメッシュ状に細分化し、打込み完了時からの経過時間に応じてメッシュを段階毎に色分けすることが記載されている。これにより、打重ね時間間隔を視覚的に把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-114638号公報
【文献】特開2011-202383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1,2に記載された技術は、何れもコンクリートの打込みを行っている最中に打重ね時間間隔を管理するための技術であるので、依然として打込み計画を手作業で作成する必要があった。そのため、施工対象物の形状が複雑な場合には、打込み計画の作成に多くの時間を費やしてしまうという問題があった。また、作成した打込み計画が最適かどうかの判断は、施工者の裁量によるところが大きいので、打込み計画が最適であるか否かを客観的に評価することが難しいという問題があった。
【0006】
このような観点から、本発明は、コンクリートの好適な打込み計画を作成することができる打込み計画作成装置および打込み計画作成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る打込み計画作成装置は、コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成装置である。前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序である。
この打込み計画作成装置は、暫定の前記打込み順序を設定する順序設定部と、前記打込み順序の更新を繰り返し行う順序更新部と、前記打込み順序を評価する順序評価部と、前記評価に基づいて正規の打込み順序を決定する順序決定部と、を備える。
前記順序評価部は、予め定式化したエネルギー関数に前記打込み順序を代入し、前記打込み順序を評価するためのエネルギーを当該打込み順序で打ち込みを行った場合の打重ね時間間隔に基づいて算出する。
前記順序更新部は、更新前における前記打込み順序のエネルギーよりも更新後における前記打込み順序のエネルギーが小さい場合には、更新後における前記打込み順序の一部を変更して新たな打込み順序を作成し、更新前における前記打込み順序のエネルギーよりも更新後における前記打込み順序のエネルギーが大きい場合には、更新前における前記打込み順序の一部を変更して新たな打込み順序を作成する。
前記順序決定部は、繰り返し更新された前記打込み順序の中で前記エネルギーが最小である前記打込み順序を正規の打込み順序として決定する。
【0008】
本発明に係る打込み計画作成装置においては、系(打込み順序)のエネルギーを何かしら定義し(例えば、最も大きい打重ね時間間隔)、系を繰り返し変化させると共に変化させた系を評価する。そして、系のエネルギーが最小化した場合(例えば、最も大きい打重ね時間間隔が目標打重ね時間間隔を下回った場合)に、当該系(打込み順序)を正規の打込み順序として決定する。そのため、好適な打込み計画を作成することができる。
【0009】
前記順序決定部は、目標とする打重ね時間間隔に基づいて算出した目標最小エネルギーよりも、直近で作成した前記打込み順序のエネルギーが小さくなった場合、または、前記打込み順序を更新する回数が所定回数を超えた場合に、前記直近で作成した打込み順序を正規の打込み順序として決定してもよい。
【0010】
また、本発明に係る打込み計画作成装置は、コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成装置である。前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序である。
この打込み計画作成装置は、暫定の前記打込み順序を所定数だけ設定する順序設定部と、前記打込み順序の更新を繰り返し行う順序更新部と、前記打込み順序に対して他の打込み順序との関係における優劣を評価する順序評価部と、前記打込み順序の収束度合または更新回数に基づいて正規の打込み順序を決定する順序決定部と、を備える。各々の前記施工ブロックには、2進法により表された打ち込む順番が対応づけられている。
前記順序評価部は、更新後の前記打込み順序で打ち込みを行った場合の各々の前記施工ブロックの打重ね時間間隔を予め定式化した適応度関数に代入し、当該打込み順序を評価するための適応度を全ての前記打込み順序について算出する。
前記順序更新部は、適応度に応じた確率で遺伝的アルゴリズムにおける選択処理を前記打込み順序に対して実行するとともに、選択処理後の前記打込み順序に対して遺伝的アルゴリズムにおける交叉処理および突然変異処理の少なくとも何れか一方を所定のタイミングで実行する。
【0011】
本発明に係る打込み計画作成装置においては、個体(打込み順序)の適応度を打重ね時間間隔に関連づけて定義し(例えば、各施工ブロックB(k,l)の打重ね時間間隔の合計値の逆数)、複数用意した個体(打込み順序)の全ての適応度を計算することで打込み順序の優劣を評価する。続けて、適応度に応じた確率で遺伝的アルゴリズムにおける選択処理を実行し、また、選択処理後の打込み順序に対して遺伝的アルゴリズムにおける交叉処理および突然変異処理の少なくとも何れか一方を実行する。そして、これらの処理を何世代にも亘って繰り返し実行することによって収束した個体(打込み順序)を正規の打込み順序として決定する。そのため、好適な打込み計画を作成することができる。
【0012】
前記打込み計画作成装置は、前記打込み順序により全ての前記施工ブロックの打ち込みが実現可能であるか否かを判定する制約条件判定部をさらに備えるのがよい。このようにすると、実際のコンクリート工事に則した打込み計画を作成することができる。
【0013】
前記施工対象物が壁体であるときには、前記制約条件判定部は、空中への打込みである場合、または隣接する縦列の最上部の前記施工ブロックに対して二段以上突出した打込みである場合に、前記施工ブロックの打ち込みが実現不可能であると判定してもよい。
また、施工対象物は、複数の区域に分けられており、前記打込み順序は、各々の区域毎に設定されていてもよい。その場合、前記制約条件判定部は、区域の境界部分になる前記施工ブロックの打ち込みが実現可能なものであるか否かを判定してもよい。このようにすると、例えば、複数台のポンプ車を用いてのコンクリートの打込みにおける打込み計画を作成することができる。
【0014】
また、本発明に係る打込み計画作成方法は、コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成方法である。前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序である。
この打込み計画作成方法は、暫定の前記打込み順序を設定する順序設定ステップと、前記打込み順序の更新を繰り返し行う順序更新ステップと、前記打込み順序を評価する順序評価ステップと、前記評価に基づいて正規の打込み順序を決定する順序決定ステップと、を備える。
前記順序評価ステップでは、予め定式化したエネルギー関数に前記打込み順序を代入し、前記打込み順序を評価するためのエネルギーを当該打込み順序で打ち込みを行った場合の打重ね時間間隔に基づいて算出する。
前記順序更新ステップでは、更新前における前記打込み順序のエネルギーよりも更新後における前記打込み順序のエネルギーが小さい場合には、更新後における前記打込み順序の一部を変更して新たな打込み順序を作成し、更新前における前記打込み順序のエネルギーよりも更新後における前記打込み順序のエネルギーが大きい場合には、更新前における前記打込み順序の一部を変更して新たな打込み順序を作成する。
前記順序決定ステップでは、繰り返し更新された前記打込み順序の中で前記エネルギーが最小である前記打込み順序を正規の打込み順序として決定する。
【0015】
本発明に係る打込み計画作成方法においては、系(打込み順序)のエネルギーを何かしら定義し(例えば、最も大きい打重ね時間間隔)、系を繰り返し変化させると共に変化させた系を評価する。そして、系のエネルギーが最小化した場合(例えば、最も大きい打重ね時間間隔が目標打重ね時間間隔を下回った場合)に、当該系(打込み順序)を正規の打込み順序として決定する。そのため、好適な打込み計画を作成することができる。
【0016】
また、本発明に係る打込み計画作成方法は、コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成方法である。前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序である。
この打込み計画作成方法は、暫定の前記打込み順序を所定数だけ設定する順序設定ステップと、前記打込み順序の更新を繰り返し行う順序更新ステップと、前記打込み順序に対して他の打込み順序との関係における優劣を評価する順序評価ステップと、前記打込み順序の収束度合または更新回数に基づいて正規の打込み順序を決定する順序決定ステップと、を備える。各々の前記施工ブロックには、2進法により表された打ち込む順番が対応づけられている。
前記順序評価ステップでは、更新後の前記打込み順序で打ち込みを行った場合の各々の前記施工ブロックの打重ね時間間隔を予め定式化した適応度関数に代入し、当該打込み順序を評価するための適応度を全ての前記打込み順序について算出する。
前記順序更新ステップでは、適応度に応じた確率で遺伝的アルゴリズムにおける選択処理を前記打込み順序に対して実行するとともに、選択処理後の前記打込み順序に対して遺伝的アルゴリズムにおける交叉処理および突然変異処理の少なくとも何れか一方を所定のタイミングで実行する。
【0017】
本発明に係る打込み計画作成方法においては、個体(打込み順序)の適応度を打重ね時間間隔に関連づけて定義し(例えば、各施工ブロックB(k,l)の打重ね時間間隔の合計値の逆数)、複数用意した個体(打込み順序)の全ての適応度を計算することで打込み順序の優劣を評価する。続けて、適応度に応じた確率で遺伝的アルゴリズムにおける選択処理を実行し、また、選択処理後の打込み順序に対して遺伝的アルゴリズムにおける交叉処理および突然変異処理の少なくとも何れか一方を実行する。そして、これらの処理を何世代にも亘って繰り返し実行することによって収束した個体(打込み順序)を正規の打込み順序として決定する。そのため、好適な打込み計画を作成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コンクリートの好適な打込み計画を作成することができる打込み計画作成装置および打込み計画作成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る打込み計画作成装置の概略構成図である。
【
図2】コンクリート工事を行う施工対象物の例示であり、(a)は施工対象物である壁体の施工が完成した状態のイメージ図であり、(b)は壁体を正面から観た状態を示す。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る打込み計画の作成方法を示すフローチャートの例示である。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る打込み計画の作成方法を説明するための図であり、(a)はS102における打込み計画の例示であり、(b)はS103における打込み計画の例示であり、(c)はS104における打込み計画の例示であり、(d)はS108における打込み計画の例示であり、(e)はS111における打込み計画の例示であり、(f)はS112における打込み計画の例示である。
【
図5】本発明の第二実施形態に係る打込み計画作成装置の概略構成図である。
【
図6】本発明の第二実施形態に係る打込み計画作成装置の処理の内容を説明するための図であり、(a)は打込み順序を遺伝子配列に落とし込む方法の一例を説明するための図であり、(b)は交叉の処理のイメージであり、(c)は突然変異の処理のイメージである。
【
図7】本発明の第二実施形態に係る打込み計画の作成方法を示すフローチャートの例示である。
【
図8】本発明の第二実施形態に係る打込み計画の作成方法を説明するための図であり、(a)はS202における打込み計画の例示であり、(b)はS203における打込み計画の例示であり、(c)はS204における打込み計画の例示であり、(d)はS210における打込み計画の例示である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のコンクリートを打込むための好適な打込み計画の形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0021】
[実施形態の概要]
第一実施形態では、ポップフィールド型ニューラルネットワーク(Hopfield Neural Network)的な処理によって好適な打込み計画を作成する。
第二実施形態では、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)を用いた計算によって好適な打込み計画を作成する。
各実施形態における計算は、例えば、コンピュータ上の仮想空間に施工対象物のモデルを作成し、そのモデルを用いてシミュレーションを行うことにより実行される。なお、各実施形態で計算する打込み計画は、必ずしも最適解である必要はなく、準最適解(近似解)であればよい。
【0022】
[第一実施形態]
<第一実施形態に係る打込み計画作成装置の構成>
図1を参照して、第一実施形態に係る打込み計画作成装置100の構成について説明する。打込み計画作成装置100は、コンクリート打設における打込み計画を作成する装置である。打込み計画作成装置100は、コンクリートを打設する様々な場面で使用することができ、施工対象物の種類、形状、サイズや、コンクリートを打設する工法などは特に限定されるものではない。打込み計画は、コンクリートの打込みを行う順番を示すものであり、例えば、施工対象物の部分(例えば、ブロック)を識別する情報と打ち込む順番とを対応付けたものである。
【0023】
ここでは、
図2(a)に示すように、施工対象物として壁体Aを想定する。つまり、本実施形態では、
図2(a)に示す壁体Aの施工を行う場合を想定し、打込み計画作成装置100が壁体Aの打込み計画を作成する。
図2(a)に示す壁体Aは、横方向に長尺な(横長の)直方体状を呈する。
【0024】
壁体Aは、複数の領域に分割されており、分割された最小単位の領域を「施工ブロックB」と呼ぶことにする。施工ブロックBは、施工を管理する最小単位の領域である。施工ブロックBは、隣接する施工ブロックBとの境界が型枠などによって物理的に決められた領域であってもよいし、隣接する施工ブロックBとの境界が物理的に決められていない領域であってもよい。以下では、特定の施工ブロックBを示して説明する場合に、「施工ブロックB(k,l)」と表記する場合がある。「k,l」は、施工ブロックBを識別するための識別情報であり、ここでは「k」が横方向の並び順を示し、「l」が高さ方向の並び順を示している。
【0025】
本実施形態では、
図2(b)に示すように、壁体Aが横方向に四等分(つまり「k」が「1~4」)に分割され、高さ方向に三等分(つまり「l」が「1~3」)に分割されることによって、合計で施工ブロックB(1,1)~施工ブロックB(4,3)の12個に分割されている。なお、一つの施工ブロックB(k,l)のサイズは、例えばコンクリート打設の施工条件(特に、コンクリートの打込みに使用されるポンプ車の性能など)によって決めることができる。
【0026】
図1に示す打込み計画作成装置100は、仮想的な空間(二次元、三次元のどちらでもよい)を用いて壁体Aの打込み計画をシミュレーションによって作成する。ここでは、奥行き方向の描画を省略した横方向および高さ方向からなる二次元空間を用いて壁体Aを抽象化(モデル化)することにし、壁体Aを抽象化した施工モデルC(
図1参照)を使用して壁体Aの打込み計画を作成する。施工モデルCは、壁体Aと同様に施工ブロックB(k,l)に対応して分割されている。
【0027】
図1に示すように、第一実施形態に係る打込み計画作成装置100は、記憶部30と、制御部40とを備える。打込み計画作成装置100は、例えば、打込み計画の作成を担当する者(以下では、「作成者」と呼ぶ)が操作するパーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)や当該パーソナルコンピュータと通信可能に接続されたアプリケーションサーバである。ここでの作成者は、例えば、コンクリート工事の施工者である。
【0028】
記憶部30は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成される。制御部40は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。制御部40がプログラム実行処理により実現する場合、記憶部30には、制御部40の機能を実現するためのプログラムが格納される。なお、打込み計画作成装置100が、図示しない外部の記憶手段から記憶部30に記憶される情報を必要に応じて取得してもよい。
【0029】
記憶部30には、打込み計画の作成に必要な情報が記憶されており、ここでは、打込み条件情報31と、施工モデルCとが記憶されている。打込み条件情報31には、型枠内にコンクリートを流し込むポンプ車が備えるポンプの性能に関する情報、打重ね時間間隔に関する情報などが含まれる。施工モデルCは、施工対象物を抽象化(モデル化)したものである。施工モデルCは、施工対象物と同様に施工ブロックB(k,l)に対応して分割されている。施工モデルCには、各々の施工ブロックB(k,l)の位置関係やサイズが設定される。
【0030】
制御部40は、主に、条件設定部41と、順序設定部42と、制約条件判定部43と、順序更新部44と、順序評価部45と、順序決定部46と、を備える。なお、
図1に示す制御部40の各機能は、説明の便宜上分けたものであり、当該機能の分け方が本発明を限定するものではない。ここでは、制御部40が備える各機能の概要の説明を行い、後記する「打込み計画の作成方法」でその詳細を説明する。
【0031】
条件設定部41は、作成者による打込み条件情報31や施工モデルCの登録を受け付け、記憶部30にこれらの情報を格納する。
順序設定部42は、施工モデルCを用いて暫定の打込み順序を設定する。順序設定部42は、例えば、各々の施工ブロックBにランダムの打込み順番を設定する。
【0032】
制約条件判定部43は、順序設定部42によって設定された暫定の打込み順序や順序更新部44によって更新された打込み順序が予め設定した制約条件に適合しているか否かを判定する。制約条件は、任意のものであってよく、その内容は限定されるものではない。制約条件判定部43は、例えば、打込み順序が実現可能であるか否かを判定する。
順序更新部44は、打込み順序の更新を繰り返し実行する。順序更新部44は、例えば、打込み順序の一部を変更して新たな打込み順序を作成する。
【0033】
順序評価部45は、順序設定部42によって設定された暫定の打込み順序や順序更新部44によって更新された打込み順序を評価する。順序評価部45は、例えば、予め定式化したエネルギー関数に打込み順序を代入し、打込み順序を評価するためのエネルギーを当該打込み順序で打ち込みを行った場合の打重ね時間間隔に基づいて算出する。ここでは、最も大きい打重ね時間間隔を系のエネルギーとして定義し、エネルギー関数は、打込み順序の中で最も大きい打重ね時間間隔に基づいてエネルギーを算出することにする。エネルギー関数は、例えば、式(1.1)~式(1.4)に示すものである。
【0034】
【0035】
ここで、打重ね時間の計算を行列の掛け算で行っており(式(1.2)参照)、式中の符号「i」で示す着目ブロックは、打重ね時間を計算する施工ブロックである。式中の符号「ii」で示す対象ブロックは、前記した着目ブロックと対になり、打重ね時間を計算する相手先の施工ブロックである。
また、ユニットは、ニューラルネットワークで使用される用語であり、他のユニットの出力を受けて何らかの値(例えば、「-1~+1」)を返す(出力する)関数の名称として一般的に使用される。ここでのユニットは、ブロック番号iとその打込み順序jの関係を表す行列Iijを出力としており、打ち込む場合は「1」を出力し、打ち込まない場合は「0」を出力する。例えば、第一の施工ブロックの打込み順が5番目である場合、「I11=0,I12=0,I13=0,I14=0,I15=1,・・・」となる。なお、ユニットは、ブロック番号と打込み順序の組合せごとに一つずつ存在するため、合計で施工ブロックの数の2乗個ある。
【0036】
順序決定部46は、順序評価部45による評価に基づいて、正規の打込み順序を決定する。順序決定部46は、例えば、順序更新部44によって繰り返し更新された打込み順序の中で、順序評価部45が算出したエネルギーが最小である打込み順序を正規の打込み順序として決定する。
【0037】
<本発明の第一実施形態に係る打込み計画の作成方法について>
図3を参照して(適宜、
図1および
図2を参照)、第一実施形態に係る打込み計画作成装置100を用いた打込み計画の作成方法について説明する。打込み計画は、例えば、施工対象物を分割した施工ブロックBにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロックB単位での打込み順序である。第一実施形態では、ポップフィールド型ニューラルネットワーク(Hopfield Neural Network)的な処理によって好適な打込み計画を作成する。
【0038】
ここでは、施工対象物として、横方向の長さが「12m」であり、高さ方向の長さが「3m」であり、奥行き方向の長さが「3m」である壁体A(
図2参照)を想定する。壁体Aを構成する施工ブロックB(k,l)のサイズは、「横方向3m×奥行き方向3m×高さ方向1m」であり、体積は「9m
3」である。
【0039】
最初に、作成者は、条件設定部41を介して、打込み条件や壁体Aを抽象化した施工モデルCなどを打込み計画作成装置100に設定する(ステップS101)。なお、条件設定部41は、作成者の入力操作によらずに、または作成者が入力した他の情報からこれらの情報を算出してもよい。
【0040】
作成者は、例えば、施工ブロックB(k,l)を抽象化した仮想ブロックD(k,l)を二次元の仮想空間上に配置する。具体的には、施工ブロックB(k,l)の位置を二次元の仮想空間に設定される直交座標系の座標値(x,y)として仮想ブロックD(k,l)に設定する。ここで、「x」は、例えば施工ブロックB(k,l)の横方向の位置に対応しており、「y」は、例えば施工ブロックB(k,l)の高さ方向の位置に対応している。これにより、施工ブロックB(k,l)の相対的な位置関係が、仮想ブロックD(k,l)に設定された座標値によって二次元の仮想空間上で再現される。
【0041】
また、作成者は、例えば、一つの施工ブロックB(k,l)を作成するのに要する時間(つまり、一つの施工ブロックB(k,l)の打込みに要する時間)を設定する。この時間は、例えば、施工ブロックB(k,l)のサイズやポンプ性能から算出されてもよい。ここでは、一つの施工ブロックB(k,l)の打込みに要する時間が「15分」であるとする。
【0042】
また、作成者は、例えば、目標とする打重ね時間間隔(目標打重ね時間間隔)を設定する。目標打重ね時間間隔は、コールドジョイントが発生しない時間であり、例えば、公益社団法人土木学会が発行する「コンクリート標準示方書」に記載される許容打重ね時間間隔を超えない時間を設定する。例えば、25℃を超える環境下での打込みでは、許容打重ね時間間隔を「2.0時間」とする。
【0043】
次に、順序設定部42は、暫定の打込み順序を設定する(ステップS102)。順序設定部42は、各々の仮想ブロックD(k,l)に仮の打込み順番(初期値)を設定することによって暫定の打込み順序を設定する。仮の打込み順番は、例えば、ランダムに決定したものや予め決められたルールに従ったものであってよい。以下では、打込み順序を「系」と呼ぶ場合がある。
【0044】
例えば、
図4(a)に示す打込み順番が各々の仮想ブロックD(k,l)に設定されたとする。
図4では、仮想ブロックD(k,l)の内部に打込み順番を表示している。
ここでは、仮想ブロックD(3,1)に打込み順番「1」を設定し、仮想ブロックD(4,1)に打込み順番「2」を設定し、仮想ブロックD(1,2)に打込み順番「3」を設定し、仮想ブロックD(3,3)に打込み順番「4」を設定している。
また、仮想ブロックD(4,3)に打込み順番「5」を設定し、仮想ブロックD(1,1)に打込み順番「6」を設定し、仮想ブロックD(2,1)に打込み順番「7」を設定し、仮想ブロックD(4,2)に打込み順番「8」を設定している。
また、仮想ブロックD(2,2)に打込み順番「9」を設定し、仮想ブロックD(1,3)に打込み順番「10」を設定し、仮想ブロックD(3,2)に打込み順番「11」を設定し、仮想ブロックD(2,3)に打込み順番「12」を設定している。
【0045】
次に、制約条件判定部43は、打込み順序が制約条件に適合しているか否かを判定する(ステップS103)。制約条件は、例えば、実現が可能な打込みであることであり、作成者は、制約条件を事前に登録しておく。実現が可能な打込みとは、例えば、空中への打込みでないことや、隣接する縦列の最上部の施工ブロックB(k,l)に対して二段以上突出した打込みでないことなどである。最初は、ステップS102で設定した暫定の打込み順番が予め決められた制約条件に適合しているか否かを判定する。
【0046】
ここでは、施工対象物として壁体Aを想定しているので、打込み対象の施工ブロックB(k,l)の下方に配置される施工ブロックB(k,l)は、打込み対象の施工ブロックB(k,l)よりも前に打込みを完了していなければならない(つまり、空中へ打込んではならない)。
図4(a)に示した例示では、
図4(b)の打込み順番を破線で囲んだ仮想ブロックD(k,l)が空中への打込みとなっている。例えば、仮想ブロックD(1,1)の打込み順番「6」は、仮想ブロックD(1,2)の打込み順番「3」に対して後の順番になっている。実際のシミュレーションでは、例えば、打込みが完了していない仮想ブロックD(k,l)のインデックスに「0」を設定しておき、打込みが完了した時点で仮想ブロックD(k,l)のインデックスを「1」を変更する。そして、打込み対象の仮想ブロックD(k,l)の下方に存在する仮想ブロックD(k,l)のインデックスの値を乗算し、計算結果が「0」であれば空中への打設であると判定し、「1」であれば空中への打設でないと判定する。
【0047】
打込み順番が制約条件に適合していない場合(ステップS103で“no”)に、順序更新部44は、打設不可能なケースを除外するために、打込み順序の状態を変化させる(ステップS104)。具体的には、順序更新部44は、ランダムまたは任意の仮想ブロックD(k,l)を選択して、制約条件に適合しない仮想ブロックD(k,l)の打込み順番と選択した仮想ブロックD(k,l)の打込み順番とを入れ替える。
図4(c)に示す例では、仮想ブロックD(1,2)の打込み順番と仮想ブロックD(4,2)の打込み順番とを入れ替えている。これにより、仮想ブロックD(1,2)の打込み順番が「3」から「8」に変更され、仮想ブロックD(4,2)の打込み順番が「8」から「3」に変更されている。また、仮想ブロックD(3,2)の打込み順番と仮想ブロックD(3,3)の打込み順番とを入れ替えている。これにより、仮想ブロックD(3,2)の打込み順番が「11」から「4」に変更され、仮想ブロックD(3,3)の打込み順番が「4」から「11」に変更されている。なお、制約条件に適合しない仮想ブロックD(k,l)が複数存在する場合、制約条件に適合しない仮想ブロックD(k,l)の順番の入れ替えを一つずつ順番に行ってもよいし、全ての入れ替えを同時に行ってもよい。また、仮想ブロックD(k,l)の順番の入れ替えに代えて、打込み順序を再度設定するようにしてもよい。この結果、打込み順序が打設可能な状態に変化する。
【0048】
打込み順番が制約条件に適合している場合(ステップS103で“yes”)に、順序評価部45は、系(打込み順序)のエネルギーを評価する(ステップS105)。例えば、順序評価部45は、予め定式化したエネルギー関数に打込み順序を代入し、打込み順序を評価するためのエネルギーを当該打込み順序で打ち込みを行った場合の打重ね時間間隔に基づいて算出する。
【0049】
次に、順序評価部45は、ステップS105で算出したエネルギーが、今まで算出した最小のエネルギーと比較してより小さいか否かを判定する(ステップS106)。最小エネルギーよりも小さくない(大きい)場合(ステップS106で“no”)、順序更新部44は、前回の系(打込み順序)の処理で保存した打込み順序を取得し、処理を行う対象を前回保存された打込み順序に戻す(ステップS107)。これは、今回の系(打込み順序)よりも前回の系(打込み順序)の方が準最適解に近い系であると判断できるためである。
【0050】
続いて、順序更新部44は、打込み順序の状態を変化させる(ステップS108)。具体的には、順序更新部44は、ランダムまたは任意の仮想ブロックD(k,l)を複数選択して、選択した仮想ブロックD(k,l)同士の打込み順番を入れ替える。
図4(d)に示す例では、仮想ブロックD(3,1)の打込み順番と仮想ブロックD(4,1)の打込み順番とを入れ替えている。これにより、仮想ブロックD(3,1)の打込み順番が「1」から「2」に変更され、仮想ブロックD(4,1)の打込み順番が「2」から「1」に変更される。この結果、系(打込み順序)の状態が変化する。そして、処理をステップS103に進めて、変化後の打込み順序によりステップS103以降の処理を行う。
【0051】
ステップS105で算出したエネルギーが最小エネルギーよりもさらに小さい場合(ステップS106で“yes”)、順序評価部45は、ステップS105で算出したエネルギーによって最小エネルギーを更新し、また、更新したエネルギーの基になる打込み順序を保存する(ステップS109)。保存した最小エネルギーや打込み順序は、次回の系(打込み順序)の評価および更新で使用される。
【0052】
続いて、順序決定部46は、更新した最小エネルギーが目標最小エネルギー以下であるか、または、系(打込み順序)の状態変化が規定回数に到達したか否かを判定する(ステップS110)。目標最小エネルギーは、目標打重ね時間間隔に基づいて算出したエネルギーであり、最小エネルギーが目標最小エネルギー以下とは、打込み順序の中で最も大きい打重ね時間間隔が目標打重ね時間間隔を超えないことを意味する。
【0053】
ステップS110で“no”の場合、順序更新部44は、打込み順序の状態を変化させる(ステップS111)。具体的には、順序更新部44は、ランダムまたは任意の仮想ブロックD(k,l)を複数選択して、選択した仮想ブロックD(k,l)同士の打込み順番を入れ替える。
図4(e)に示す例では、仮想ブロックD(3,1)の打込み順番と仮想ブロックD(4,2)の打込み順番とを入れ替えている。これにより、仮想ブロックD(3,1)の打込み順番が「2」から「3」に変更され、仮想ブロックD(4,2)の打込み順番が「3」から「2」に変更される。この結果、系(打込み順序)の状態が変化する。そして、処理をステップS103に進めて、変化後の打込み順序によりステップS103以降の処理を行う。
【0054】
ステップS110で“yes”の場合、順序決定部46は、ステップS109で保存した系(打込み順序)を準最適解として認定し、正規の打込み順序として決定する(ステップS112)。この結果、例えば、
図4(f)に示すように、打込み順序が決定する。
【0055】
以上の第一実施形態に係る打込み計画作成装置100は、系(打込み順序)のエネルギーを何かしら定義し(ここでは、最も大きい打重ね時間間隔)、系を繰り返し変化させると共に変化させた系を評価する。そして、系のエネルギーが最小化した場合(ここでは、最も大きい打重ね時間間隔が目標打重ね時間間隔を下回った場合)に、当該系(打込み順序)を正規の打込み順序として決定する。そのため、好適な打込み計画を作成することができる。
【0056】
[第二実施形態]
<第二実施形態に係る打込み計画作成装置の構成>
第二実施形態では、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)を用いた計算によって好適な打込み計画を作成する。遺伝的アルゴリズムでは、遺伝子を模した「0」と「1」の組合せによって解の候補(ここでは、打込み順序)を表現し、その組合せを複数用意する。以下では、遺伝子を模した「0」と「1」の組合せにより表現される解の候補を「個体」と呼ぶ場合がある。そして、それらの個体を交配していくことによってより良い個体を求める計算方法である。具体的には、適応度の高い個体を優先的に選択し、交叉(組み換え)や突然変異などの遺伝子操作を繰り返しながら解を探索する。
図5を参照して、第二実施形態に係る打込み計画作成装置200の構成について説明する。以下では、第一実施形態に係る打込み計画作成装置100との相違点を中心に説明する。
【0057】
図5に示すように、第二実施形態に係る打込み計画作成装置200は、記憶部50と、制御部60とを備える。打込み計画作成装置200は、例えば、作成者が操作するパーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)や当該パーソナルコンピュータと通信可能に接続されたアプリケーションサーバである。
【0058】
記憶部50は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成される。制御部60は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。制御部60がプログラム実行処理により実現する場合、記憶部50には、制御部60の機能を実現するためのプログラムが格納される。なお、打込み計画作成装置200が、図示しない外部の記憶手段から記憶部50に記憶される情報を必要に応じて取得してもよい。
【0059】
記憶部50には、打込み計画の作成に必要な情報が記憶されており、ここでは、打込み条件情報51と、施工モデルCとが記憶されている。打込み条件情報51には、型枠内にコンクリートを流し込むポンプ車が備えるポンプの性能に関する情報、打重ね時間間隔に関する情報などが含まれる。施工モデルCは、施工対象物を抽象化(モデル化)したものである。施工モデルCは、施工対象物と同様に施工ブロックB(k,l)に対応して分割されている。施工モデルCには、各々の施工ブロックB(k,l)の位置関係やサイズが設定される。
【0060】
制御部60は、主に、条件設定部61と、順序設定部62と、制約条件判定部63と、順序更新部64と、順序評価部65と、順序決定部66と、を備える。なお、
図5に示す制御部60の各機能は、説明の便宜上分けたものであり、当該機能の分け方が本発明を限定するものではない。ここでは、制御部60が備える各機能の概要の説明を行い、後記する「打込み計画の作成方法」でその詳細を説明する。なお、条件設定部61および制約条件判定部63の機能は、第一実施形態に係る条件設定部41および制約条件判定部43と同様なので、ここでは説明を省略する。
【0061】
順序設定部62は、施工モデルCを用いて暫定の打込み順序(個体)を所定数(例えば、100~数百個程度)だけ設定する。打込み順序は、遺伝子を模した「0」と「1」の組合せ(すわなち、2進法)によって表現されている。順序設定部62は、例えば、各々の施工ブロックBにランダムの打込み順番を設定する。本実施形態では、各々の施工ブロックB(k,l)に対して2進法により表された要素番号が対応付けられている。そして、打込み順序は、要素番号を昇順または降順に並べることによって特定される。
【0062】
図6(a)を参照して、打込み順序を遺伝子配列に落とし込む方法の一例を説明する。ここでは、説明を簡単にするために、施工対象物が三つの施工ブロックB(k,l)で構成されていることを想定する。例えば、
図6(a)に示すように、2進法によって表された12桁の配列があり、左端から第1~4桁で表される数「0111」を第一要素とし、第5~8桁で表される数「0100」を第二要素とし、第9~12桁で表される数「0110」を第三要素とする。第一要素、第二要素、第三要素は、それぞれが異なる施工ブロックB(k,l)に対応付けられており、例えば、施工ブロックB(1,1)に第一要素が対応し、施工ブロックB(1,2)に第二要素が対応し、施工ブロックB(1,3)に第三要素が対応している。そして、要素番号が大きい順に打ち込みを行うとした場合、「第一要素>第三要素>第二要素」の関係になっているので、第一要素に対応する施工ブロックB(1,1)、第三要素に対応する施工ブロックB(1,3)、第二要素に対応する施工ブロックB(1,2)の順番に打込み順序が決定する。例えば、第一要素の「0111」を10進数に変換すると「7」になり、同様に第二要素、第三要素を10進数に変換すると、それぞれ「4」,「6」になる。
【0063】
順序更新部64は、打込み順序の更新を何世代にも亘って繰り返し実行する。順序更新部64は、特定の個体に対して遺伝的アルゴリズムによる操作(選択・交叉・突然変異などの処理)を実行する。順序更新部64は、例えば、適応度の高い個体を優先的に選択し、交叉(組み換え)や突然変異などの操作を実行する。適応度は、例えば適応度関数によって全ての個体について算出される。適応度関数は、例えば、式(2.1)~式(2.4)に示すものである。ここで、打重ね時間の計算を行列の掛け算で行っており(式(2.2)参照)、着目ブロック、対象ブロック、ユニットの意味は第一実施形態と同様である。
【0064】
【0065】
遺伝的アルゴリズムによる選択は、生物の自然淘汰をモデル化したもので、適応度に基づいて個体を増やしたり削除したりする操作である。交叉(組み換え)は、生物が交配によって子孫を残すことをモデル化したもので、個体の遺伝子の一部を他の個体の遺伝子の一部と入れ替える操作である。交叉の処理のイメージを
図6(b)に示す。突然変異は、生物に見られる遺伝子の突然変異をモデル化したもので、個体の遺伝子の一部を変化させる操作である。突然変異の処理のイメージを
図6(c)に示す。
【0066】
順序評価部65は、順序設定部62によって設定された暫定の打込み順序や順序更新部64によって更新された打込み順序を評価する。順序評価部65は、例えば、予め定式化した適応度関数に打込み順序で打ち込みを行った場合の各々の施工ブロックB(k,l)の打重ね時間間隔を代入し、当該打込み順序を評価するための適応度を全ての打込み順序について算出する。
【0067】
順序決定部66は、個体(打込み順序)の収束度合いまたは個体(打込み順序)の更新回数に基づいて、正規の打込み順序を決定する。
【0068】
<本発明の第二実施形態に係る打込み計画の作成方法について>
図7を参照して(適宜、
図2および
図5を参照)、第二実施形態に係る打込み計画作成装置200を用いた打込み計画の作成方法について説明する。打込み計画は、例えば、施工対象物を分割した施工ブロックBにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロックB単位での打込み順序である。第二実施形態では、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)を用いた計算によって好適な打込み計画を作成する。
【0069】
最初に、作成者は、条件設定部61を介して、打込み条件や壁体Aを抽象化した施工モデルCなどを打込み計画作成装置200に設定する(ステップS201)。なお、条件設定部41は、作成者の入力操作によらずに、または作成者が入力した他の情報からこれらの情報を算出してもよい。
【0070】
作成者は、例えば、施工ブロックB(k,l)を抽象化した仮想ブロックD(k,l)を二次元の仮想空間上に配置する。具体的には、施工ブロックB(k,l)の位置を二次元の仮想空間に設定される直交座標系の座標値(x,y)として仮想ブロックD(k,l)に設定する。
【0071】
また、作成者は、例えば、一つの施工ブロックB(k,l)を作成するのに要する時間(つまり、一つの施工ブロックB(k,l)の打込みに要する時間)を設定する。この時間は、例えば、施工ブロックB(k,l)のサイズやポンプ性能から算出されてもよい。ここでは、一つの施工ブロックB(k,l)の打込みに要する時間が「15分」であるとする。
【0072】
次に、順序設定部62は、暫定の打込み順序を所定数(例えば、100~数百個程度)だけ設定する(ステップS202)。順序設定部62は、各々の仮想ブロックD(k,l)に仮の打込み順番(初期値)を設定することによって暫定の打込み順序を設定する。仮の打込み順番は、例えば、ランダムに決定したものや予め決められたルールに従ったものであってよい。これにより、
図8(a)に示すような暫定の打込み順序が所定数だけ設定される。
【0073】
次に、制約条件判定部63は、打込み順序が制約条件に適合しているか否かを判定する(ステップS203)。制約条件は、例えば、実現が可能な打込みであることであり、作成者は、制約条件を事前に登録しておく。実現が可能な打込みとは、例えば、空中への打込みでないことや、隣接する縦列の最上部の施工ブロックB(k,l)に対して二段以上突出した打込みでないことなどである(
図8(b)参照)。最初は、ステップS202で設定した暫定の打込み順番が予め決められた制約条件に適合しているか否かを判定する。
【0074】
打込み順番が制約条件に適合していない場合(ステップS203で“no”)に、順序更新部64は、打設不可能なケースを除外するために、打込み順序の状態を変化させる(ステップS204)。この処理は、第一実施形態のステップS104と同様であり、順序更新部64は、ランダムまたは任意の仮想ブロックD(k,l)を選択して、制約条件に適合しない仮想ブロックD(k,l)の打込み順番と選択した仮想ブロックD(k,l)の打込み順番とを入れ替える(
図8(c)参照)。なお、仮想ブロックD(k,l)の順番の入れ替えに代えて、打込み順序を再度設定するようにしてもよい。この結果、打込み順序が打設可能な状態に変化する。
【0075】
打込み順番が制約条件に適合している場合(ステップS203で“yes”)に、順序評価部65は、各々の個体(打込み順序)の適応度を計算する(ステップS205)。例えば、順序評価部65は、予め定式化した適応度関数に打込み順序で設定した打込み順序で打ち込みを行った場合の打重ね時間間隔を代入し、打込み順序を評価するための適応度を全ての打込み順序について算出する。ここでの適応度は、例えば、各施工ブロックB(k,l)の打重ね時間間隔の合計値の逆数である。
【0076】
次に、順序更新部64は、遺伝的アルゴリズムにおける選択・交叉・突然変異の処理を実行する(ステップS206)。例えば、順序更新部64は、適応度に応じた確率で遺伝的アルゴリズムにおける選択処理を打込み順序に対して実行する。また、順序更新部64は、選択処理後の打込み順序に対して遺伝的アルゴリズムにおける交叉処理および突然変異処理の少なくとも何れか一方を実行する。交叉処理および突然変異処理は、例えば、2進法により表された要素番号を用いて実行される。交叉処理および突然変異処理を実行するタイミングは任意である。
【0077】
次に、制約条件判定部63は、打込み順序が制約条件に適合しているか否かを判定する(ステップS207)。そして、打込み順番が制約条件に適合していない場合(ステップS207で“no”)に、順序更新部64は、打設不可能なケースを除外するために、打込み順序の状態を変化させる(ステップS208)。これらの処理は、ステップS203,S204と同様である。この結果、打込み順序が打設可能な状態に変化する。
【0078】
打込み順番が制約条件に適合している場合(ステップS207で“yes”)に、順序決定部66は、状態変化が規定回数に到達したか否かを判定する(ステップS209)。この規定回数は、例えば、繰り返しの処理により個体(打込み順序)が収束する回数である。
【0079】
ステップS209で“no”の場合、処理をステップS205に進めて、新たな個体(打込み順序)によりステップS205以降の処理を行う。
ステップS209で“yes”の場合、順序決定部66は、繰り返しの処理により収束した個体(打込み順序)を準最適解として認定し、正規の打込み順序として決定する(ステップS210)。この結果、例えば、
図8(d)に示すように、打込み順序が決定する。
【0080】
以上の第二実施形態に係る打込み計画作成装置200は、個体(打込み順序)の適応度を打重ね時間間隔に関連づけて定義し(ここでは、各施工ブロックB(k,l)の打重ね時間間隔の合計値の逆数)、複数用意した個体(打込み順序)の全ての適応度を計算することで打込み順序の優劣を評価する。続けて、適応度に応じた確率で遺伝的アルゴリズムにおける選択処理を実行し、また、選択処理後の打込み順序に対して遺伝的アルゴリズムにおける交叉処理および突然変異処理の少なくとも何れか一方を実行する。そして、これらの処理を何世代にも亘って繰り返し実行することによって収束した個体(打込み順序)を正規の打込み順序として決定する。そのため、好適な打込み計画を作成することができる。
【0081】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。各実施形態の変形例は例えば以下のものである。
【0082】
各実施形態では、施工対象物を横方向および高さ方向に分割し(つまり、施工ブロックB(k,l))、奥行き方向の描画を省略した横方向および高さ方向からなる二次元空間を用いて施工対象物である壁体Aを抽象化(モデル化)していた。しかしながら、施工対象物を横方向、高さ方向および奥行き方向に分割し(つまり、施工ブロックB(k,l,m))、横方向、高さ方向および奥行き方向からなる三次元空間を用いて施工対象物を抽象化(モデル化)してもよい。その場合、例えば、施工ブロックB(k,l,m)を抽象化した仮想ブロックD(k,l,m)を三次元の仮想空間上に配置する。具体的には、施工ブロックB(k,l,m)の位置を三次元の仮想空間に設定される直交座標系の座標値(x,y,z)として仮想ブロックD(k,l,m)に設定する。ここで、「x」は、例えば施工ブロックB(k,l,m)の横方向の位置に対応しており、「y」は、例えば施工ブロックB(k,l,m)の高さ方向の位置に対応しており、「z」は、例えば施工ブロックB(k,l,m)の奥行き方向の位置に対応している。
【0083】
また、各実施形態では、一台のポンプ車を用いてコンクリートの打込みを行うことを想定していた。しかしながら、複数台のポンプ車を用いてのコンクリートの打込みにおける打込み計画を作成することもできる。その場合、例えば、施工対象物を複数の区域に分けて、各々の区域ごとに打込み順序を設定する。また、その場合、制約条件として複数のポンプ車の連携に関係するものを追加するのがよく、例えば、制約条件判定部43,63は、区域の境界部分になる施工ブロックB(k,l)の打ち込みが実現可能であるか否かをさらに判定するのがよい。
【0084】
また、各実施形態では、施工対象物の全体の打込み計画を作成することを想定していた。しかしながら、施工対象物の一部の打込み計画を作成することもできる。例えば、何らかの理由によってコンクリートの打ち込みを中断した場合において、残りの範囲についての打ち込み計画を作成することが可能である。また、複数台のポンプ車を用いてのコンクリートの打込みにおいては、各々のポンプ車が担当する範囲が途中で変更になった場合における変更後の打込み計画を作成することもできる。
【0085】
また、第一実施形態では、系(打込み順序)のエネルギーを最も大きい打重ね時間間隔と定義していた。しかしながら、系(打込み順序)のエネルギーの定義の仕方はこれに限定されない。例えば、打重ね時間間隔の合計値を系(打込み順序)のエネルギーとして定義してもよい。
【符号の説明】
【0086】
100,200 打込み計画作成装置
40,60 制御部
41,61 条件設定部
42,62 順序設定部
43,63 制約条件判定部
44,64 順序更新部
45,65 順序評価部
46,66 順序決定部