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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】モータの冷却部材
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20221117BHJP
   H02K 5/20 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H02K9/19 A
H02K5/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019139428
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021023064
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】野中 照美
(72)【発明者】
【氏名】鹿内 大輔
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-107905(JP,A)
【文献】特開2009-240113(JP,A)
【文献】特開2019-041487(JP,A)
【文献】特開2014-096876(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0115219(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/19
H02K 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルが供給される給油口と、
モータに向かってオイルを吐出する複数の吐出口と、
前記給油口に接続された根幹油路と、
前記複数の吐出口にそれぞれ対応するように前記根幹油路から枝分かれして形成され、前記根幹油路と前記吐出口とを接続するように形成されると共に、互いに形状が異なるように形成された複数の派生油路と、
を具備し、
前記複数の派生油路は、
前記給油口からの距離が近いほど、オイルの流通方向における長さが長くなるように形成されている、
モータの冷却部材。
【請求項2】
前記複数の派生油路は、
屈曲部の数、又はオイルの流通方向に垂直な断面形状のうち少なくとも1つが異なっている、
請求項1に記載のモータの冷却部材。
【請求項3】
前記複数の吐出口は、
前記モータの軸方向端面に対向するように配置され、
前記モータの径方向において互いに異なる位置に配置されている、
請求項1又は請求項2に記載のモータの冷却部材。
【請求項4】
前記複数の吐出口は、
前記モータの径方向外側の側面に対向するように配置されている、
請求項1又は請求項2に記載のモータの冷却部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータにオイルを供給して冷却することが可能なモータの冷却部材の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータにオイルを供給して冷却する構造に関する技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、モータのコイルに向かってオイルを噴射することで当該コイルを冷却するモータの油冷構造が記載されている。具体的には、特許文献1に記載のモータのハウジングの内側側面には、モータの周方向に沿って延びる円環状の周方向油路が形成されている。また、周方向油路を覆う部材(油路蓋)には、当該周方向油路を流通するオイルをコイルに向かって噴射する複数の噴射孔が形成されている。特許文献1に記載の油冷構造において、周方向油路を流通するオイルが複数の噴射孔からコイルへと吐出されることで、当該コイルが冷却される。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、周方向油路の一部分に連通されたオイル入口から供給されたオイルが、当該周方向油路を流通する。当該オイルの圧力損失は、周方向油路を流通するにつれて大きくなる。このため、オイル入口から遠い噴射孔ほど、オイルの噴射圧力が低下することになり、ひいてはオイルの吐出量が低下する。このように、一般的に、オイルの流通経路によってオイルの吐出量は変化するため、吐出量を任意に調整する技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5347380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、複数の吐出口から吐出されるオイルの量を任意に調整することが可能なモータの冷却部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、オイルが供給される給油口と、モータに向かってオイルを吐出する複数の吐出口と、前記給油口に接続された根幹油路と、前記複数の吐出口にそれぞれ対応するように前記根幹油路から枝分かれして形成され、前記根幹油路と前記吐出口とを接続するように形成されると共に、互いに形状が異なるように形成された複数の派生油路と、を具備し、前記複数の派生油路は、前記給油口からの距離が近いほど、オイルの流通方向における長さが長くなるように形成されているものである。
【0010】
請求項においては、前記複数の派生油路は、屈曲部の数、又はオイルの流通方向に垂直な断面形状のうち少なくとも1つが異なっているものである。
【0011】
請求項においては、前記複数の吐出口は、前記モータの軸方向端面に対向するように配置され、前記モータの径方向において互いに異なる位置に配置されているものである。
【0012】
請求項においては、前記複数の吐出口は、前記モータの径方向外側の側面に対向するように配置されているものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
請求項1においては、複数の吐出口から吐出されるオイルの量を任意に調整することができる。また、複数の吐出口から吐出されるオイルの量の均等化を図ることができる。
【0016】
請求項においては、複数の派生油路の圧力損失に差を設けることができる。
【0017】
請求項においては、モータの任意の位置を冷却することができる。
【0018】
請求項においては、モータを側面から冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第一実施形態に係る冷却部材を具備するモータの側面断面模式図。
図2】冷却部材を示した正面図。
図3】(a)冷却部材を示した側面分解図。(b)冷却部材を示した背面図。
図4】第二板部に形成された油路、及び当該油路を流通するオイルの流れを示した正面図。
図5】第一派生油路を示した拡大正面図。
図6】第二派生油路及び第三派生油路を示した拡大正面図。
図7】第二実施形態に係る冷却部材を示した背面図。
図8】コイルに対する吐出口の相対的な位置関係を示した正面図。
図9】第三実施形態に係る冷却部材を具備するモータの側面断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、図中の矢印U、矢印D、矢印F、矢印B、矢印L及び矢印Rで示した方向を、それぞれ上方向、下方向、前方向、後方向、左方向及び右方向と定義して説明を行う。
【0021】
まず、図1を用いて、本発明の第一実施形態に係る冷却部材10を具備するモータ1の構成の概略について説明する。
【0022】
本実施形態に係るモータ1は、自動車(ハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)等)の駆動装置に用いられる。モータ1は、主としてハウジング2、ステータ3、コイル4、ロータ5、回転軸6及び冷却部材10を具備する。
【0023】
ハウジング2は、モータ1を構成する他の部材(ステータ3等)を収容するものである。ハウジング2の内側には、ステータ3が固定される。ステータ3は、略円筒形状に形成される。ステータ3は、軸線を前後方向に向けて配置される。ステータ3には、導線が巻回されることでコイル4が形成される。コイル4は、ステータ3と同心の円筒形状に形成される。コイル4の前後両端部(以下、「コイルエンド4a」と称する)は、ステータ3の前後両端部からそれぞれ突出するように配置される。
【0024】
ロータ5は、略円筒形状に形成される。ロータ5は、ステータ3の内側に配置される。ロータ5は、軸線を前後方向に向けて配置される。回転軸6は、軸線を前後方向に向けて、ロータ5の中心を貫通するように設けられる。回転軸6は、軸受を介してハウジング2に回転可能に設けられる。ロータ5及び回転軸6は、ステータ3及びコイル4と同一軸線上(同心上)に配置される。
【0025】
冷却部材10は、モータ1(本実施形態においては、コイル4)にオイルを供給することにより、当該コイル4を冷却するものである。冷却部材10は、略円環板状に形成される。冷却部材10は、モータ1の軸線に対して略垂直となるように配置される。これによって冷却部材10は、板面が略鉛直方向に沿うように(板面が略水平方向を向くように)配置される。冷却部材10は、コイル4の軸方向端面と対向するように配置される。具体的には、冷却部材10は、前側のコイルエンド4aのすぐ前方(正面)に配置される。
【0026】
このように構成されたモータ1において、コイル4が通電されると、ステータ3に磁界が発生する。ステータ3に磁界が発生すると、当該磁界によってロータ5に回転力が発生し、ロータ5及び回転軸6が回転する。
【0027】
また、コイル4が通電されると、内部抵抗によってコイル4が発熱する。本実施形態においては、冷却部材10からコイル4へとオイルを供給することによって、コイル4を冷却し、不具合(効率の低下等)の発生を抑制している。
【0028】
以下では、図2から図6を用いて、冷却部材10の構成について詳細に説明する。
【0029】
冷却部材10は、コイル4にオイルを供給するためのものである。冷却部材10は、第一板部20及び第二板部40を互いに固定することで形成される。以下、当該第一板部20及び第二板部40について具体的に説明する。
【0030】
図2及び図3に示す第一板部20は、冷却部材10の前側部分を形成する部材である。第一板部20は、板面を前後方向に向けた略円環板状に形成される。第一板部20には、主として突出部30が形成される。
【0031】
突出部30は、第一板部20から前方に向かって突出する部分である。突出部30は、第一板部20の上端部に形成される。突出部30は、軸線を前後方向に向けた略円柱状に形成される。突出部30には、給油口31が形成される。
【0032】
給油口31は、供給されてくるオイルを冷却部材10内へと受け入れる部分である。給油口31は、突出部30の中心を、前後に貫通するように形成される。
【0033】
図3に示す第二板部40は、冷却部材10の後側部分を形成する部材である。第二板部40は、板面を前後方向に向けた略円環板状に形成される。第二板部40の正面視(背面視)における外形は、第一板部20と略同一となるように形成される。第二板部40には、主として固定部50、吐出口60、連通油路70、根幹油路80及び派生油路90が形成される。なお、以下では、第二板部40の周方向を単に「周方向」、第二板部40の径方向を単に「径方向」とそれぞれ称する場合がある。
【0034】
固定部50は、第二板部40をハウジング2に固定するための部分である。固定部50は、第二板部40から後方に向かって突出するように形成される。固定部50は、第二板部40の外周部に等間隔に(正面視(背面視)において120度おきに)3つ形成される。固定部50は、略L字状に屈曲された板状に形成される。
【0035】
吐出口60は、後述する油路(連通油路70等)を介して供給されるオイルをコイルエンド4aに向かって吐出する部分である。吐出口60は、第二板部40を前後に貫通するように形成される。吐出口60は、第二板部40の周方向に沿って、同一円周上(第二板部40と中心が一致する仮想円C上)に等間隔に複数形成される。本実施形態においては、吐出口60は、第二板部40の周方向に沿って45度おきに8つ形成される。複数の吐出口60は、第二板部40の径方向幅における略中央(第二板部40の外周部と内周部の略中間)に形成される。複数の吐出口60は、後述する連通油路70を挟んで、左右対称となるように配置される。
【0036】
本実施形態においては、説明の便宜上、複数の吐出口60のうち、最も上に配置されている左右一対の吐出口60を第一吐出口61、第一吐出口61の下に配置されている左右一対の吐出口60を第二吐出口62、第二吐出口62の下に配置されている左右一対の吐出口60を第三吐出口63、最も下に配置されている左右一対の吐出口60を第四吐出口64と、それぞれ称する。
【0037】
第二板部40の右側に形成された吐出口60の位置についてより具体的に説明すると、第一吐出口61は、第二板部40の鉛直上方を基準として、正面視時計回りに22.5度変位した位置に形成される。第二吐出口62は、第一吐出口61からさらに正面視時計回りに45度変位した位置に形成される。第三吐出口63は、第二吐出口62からさらに正面視時計回りに45度変位した位置に形成される。第四吐出口64は、第三吐出口63からさらに正面視時計回りに45度変位した位置に形成される。
【0038】
図4に示す連通油路70、根幹油路80及び派生油路90は、第一板部20の給油口31から供給されるオイルを吐出口60へと案内するための油路である。連通油路70、根幹油路80及び派生油路90は、第二板部40の前面を凹ませることで形成される。本実施形態においては、連通油路70、根幹油路80及び派生油路90は、略同一の幅及び深さ(同一の断面形状)となるように形成されているものとする。以下、各油路について具体的に説明する。
【0039】
連通油路70は、第一板部20の給油口31と、根幹油路80と、を連通する油路である。連通油路70は、第二板部40の上端部(給油口31と対向する位置)から、第二板部40の内周部近傍に向かって、上下に直線状に延びるように形成される。
【0040】
図4及び図5に示す根幹油路80は、連通油路70から供給されたオイルを、第二板部40の周方向に沿って案内する油路である。根幹油路80は、連通油路70の下端から左右に分岐するように形成される。根幹油路80は、第二板部40の周方向に沿う略円弧状に形成される。根幹油路80は、第一吐出口61、第二吐出口62及び第三吐出口63の内側を通るように形成される。また根幹油路80の左右下端は、それぞれ左右の第四吐出口64に連通するように形成される。根幹油路80の左右下端は、互いに連通しないように形成されている。これによって、根幹油路80は、下方に向かって開口する正面視略C字状に形成される。根幹油路80は、連通油路70を挟んで左右対称な形状となるように形成される(図2及び図3参照)。
【0041】
派生油路90は、根幹油路80から枝分かれするように形成され、当該根幹油路80と吐出口60とを接続するものである。派生油路90は、複数の吐出口60に対応するように、複数形成される。本実施形態においては、派生油路90は、第一吐出口61、第二吐出口62及び第三吐出口63に対応して6つ形成される(図2及び図3参照)。
【0042】
本実施形態においては、説明の便宜上、第一吐出口61に接続される左右一対の派生油路90を第一派生油路91、第二吐出口62に接続される左右一対の派生油路90を第二派生油路92、第三吐出口63に接続される左右一対の派生油路90を第三派生油路93と、それぞれ称する。以下、各派生油路90について具体的に説明する。
【0043】
なお、左右一対の派生油路90は、連通油路70を挟んで左右対象な形状となるように形成される。よって以下では、右側の派生油路90について具体的に説明し、左側の派生油路90については適宜説明を省略する。
【0044】
図4及び図5に示す第一派生油路91は、根幹油路80と第一吐出口61とを接続するものである。以下、当該第一派生油路91を複数の部分(導入部91a、第一円弧状部91b、第二円弧状部91c、湾曲部91d、第三円弧状部91e及び連通部91f)に分けて説明する。
【0045】
導入部91aは、根幹油路80から径方向外側に向かって直線状に延びる部分である。導入部91aの一端部(径方向内側の端部)は、根幹油路80の右上部(周方向において、第一吐出口61と第二吐出口62との間)に接続される。導入部91aの他端側(径方向外側)は、第二板部40の径方向幅の略中央まで延設される。
【0046】
第一円弧状部91bは、導入部91aから円弧状に延びる部分である。第一円弧状部91bの一端部は、導入部91aの他端部(径方向外側の端部)に接続される。第一円弧状部91bの他端側は、第一吐出口61と反対側(正面視時計回り方向側)に向かって延設される。第一円弧状部91bは、第二板部40の周方向に沿うように形成される。
【0047】
第二円弧状部91cは、第一円弧状部91bの外側において円弧状に延びる部分である。第二円弧状部91cの一端部は、第一円弧状部91bの他端部(正面視時計回り方向側の端部)に対して折り返すように接続される。第二円弧状部91cの他端側は、正面視反時計回り方向に向かって延設される。第二円弧状部91cは、第二板部40の周方向に沿うように形成される。
【0048】
湾曲部91dは、適宜の形状に湾曲するように形成された部分である。湾曲部91dは、正面視において、径方向外側に向かって開口した略U字状に湾曲するように形成される。湾曲部91dの一端部は、第二円弧状部91cの他端部(正面視反時計回り方向側の端部)に接続される。
【0049】
第三円弧状部91eは、湾曲部91dから円弧状に延びる部分である。第三円弧状部91eの一端部は、湾曲部91dの他端部に接続される。第三円弧状部91eの他端側は、正面視反時計回り方向に向かって延設される。第三円弧状部91eは、第二板部40の周方向に沿うように形成される。
【0050】
連通部91fは、第一吐出口61と連通される部分である。連通部91fの一端部は、第三円弧状部91eの他端部に接続される。連通部91fの他端側は、第一吐出口61に向かって直線状に延設され、当該第一吐出口61に接続される。
【0051】
第一派生油路91は、各部(導入部91a等)が互いに接続される部分において、屈曲部(屈曲する部分)が形成されている。すなわち、第一派生油路91には、複数個所において屈曲部が形成されている。
【0052】
図4及び図6に示す第二派生油路92は、根幹油路80と第二吐出口62とを接続するものである。以下、当該第二派生油路92を複数の部分(導入部92a及び円弧状部92b)に分けて説明する。
【0053】
導入部92aは、根幹油路80から径方向外側に向かって直線状に延びる部分である。導入部92aの一端部(径方向内側の端部)は、根幹油路80の右下部(周方向において、第二吐出口62と第三吐出口63の間)に接続される。導入部92aの他端側(径方向外側)は、第二板部40の径方向幅の略中央まで延設される。
【0054】
円弧状部92bは、導入部92aから円弧状に延びる部分である。円弧状部92bの一端部は、導入部92aの他端部(径方向外側の端部)に接続される。円弧状部92bの他端部は、第二吐出口62に接続される。円弧状部92bは、第二板部40の周方向に沿うように形成される。
【0055】
第二派生油路92は、各部(導入部92a及び円弧状部92b)が互いに接続される部分において、屈曲部が形成されている。すなわち、第二派生油路92には、1個所において屈曲部が形成されている。
【0056】
第三派生油路93は、根幹油路80と第三吐出口63とを接続するものである。以下、当該第三派生油路93を複数の部分(導入部93a及び円弧状部93b)に分けて説明する。
【0057】
導入部93aは、根幹油路80から径方向外側に向かって直線状に延びる部分である。導入部93aの一端部(径方向内側の端部)は、根幹油路80の右下部(周方向において、第三吐出口63よりも時計回り方向側)に接続される。導入部93aの他端側(径方向外側)は、第二板部40の径方向幅の略中央まで延設される。
【0058】
円弧状部93bは、導入部93aから円弧状に延びる部分である。円弧状部93bの一端部は、導入部93aの他端部(径方向外側の端部)に接続される。円弧状部93bの他端部は、第三吐出口63に接続される。円弧状部93bは、第二板部40の周方向に沿うように形成される。第三派生油路93の円弧状部93bは、第二派生油路92の円弧状部92bよりも短く形成される。
【0059】
第三派生油路93は、各部(導入部93a及び円弧状部93b)が互いに接続される部分において、屈曲部が形成されている。すなわち、第三派生油路93には、1個所において屈曲部が形成されている。
【0060】
以上のように、第一派生油路91、第二派生油路92及び第三派生油路93は、互いに異なる形状となるように形成されている。
【0061】
図2及び図3に示すように、冷却部材10は、上述の第一板部20の背面と、第二板部40の前面と、を互いに固定することで形成される。これによって、第二板部40の前面に形成された油路(連通油路70、根幹油路80及び派生油路90)は、第一板部20によって前方から覆われる。
【0062】
次に、上述の冷却部材10を用いてコイル4を冷却する様子について説明する。
【0063】
図1に示すように、冷却部材10は、上下方向に沿って立設された状態で、コイル4(前側のコイルエンド4a)の正面に配置される。冷却部材10は、コイル4と同一軸線上に配置される。このように冷却部材10を配置することで、冷却部材10に形成された吐出口60は、コイルエンド4aと前後に対向するように配置される。
【0064】
冷却部材10の給油口31には、オイルポンプ(不図示)によってオイルが供給される。当該オイルは、図4に示すように、連通油路70を介して根幹油路80の上端部へと案内され、当該根幹油路80に沿って左右に分岐して流通する。根幹油路80内を流通するオイルは、根幹油路80に接続された複数の派生油路90(第一派生油路91、第二派生油路92及び第三派生油路93)へとそれぞれ分岐して流通する。このようにしてオイルは、複数の派生油路90を介して第一吐出口61、第二吐出口62及び第三吐出口63へと案内される。また、根幹油路80の下流端部(下端部)まで流通したオイルは、第四吐出口64へと案内される。各吐出口60まで案内されたオイルは、当該吐出口60を介して後方に向かって吐出される。これによって、冷却部材10の後方に配置されたコイルエンド4aにオイルが供給され、当該オイルによってコイル4を冷却することができる(図1参照)。
【0065】
ここで、一般的に、油路内を流通するオイルの圧力損失は、流通する距離が長くなるほど大きくなる。例えば特許文献1のように、周方向油路に沿って複数の吐出口(噴射孔)が形成されている場合、オイル入口から各吐出口までの距離に差があるため、オイル入口に近い吐出口ほどオイルの吐出圧が高くなり、オイル入口から遠い吐出口ほどオイルの吐出圧が低くなる。このように各吐出口の吐出圧が異なると、各吐出口からのオイルの吐出量も異なるため、思い通りにコイルエンド4aを冷却できないおそれがある。
【0066】
そこで本実施形態に係る冷却部材10は、形状の異なる複数の派生油路90を形成することで、各吐出口60からのオイルの吐出量を任意に調整している。
【0067】
具体的には、派生油路90のうち、根幹油路80の最も上流側(給油口31に最も近い部分)に接続された第一派生油路91は、その他の派生油路90(第二派生油路92及び第三派生油路93)に比べて、多数屈曲され、かつ全長が最も長くなるように形成されている。このように構成することにより、第一派生油路91を流通するオイルの圧力損失は、他の派生油路90を流通するオイルの圧力損失に比べて大きくなる。
【0068】
また、根幹油路80において、第一派生油路91の下流側に接続された第二派生油路92は、さらに下流側に接続された第三派生油路93と比較的似た形状となるように形成されているが、全長が第三派生油路93よりも長くなるように形成されている。このように構成することにより、第二派生油路92を流通するオイルの圧力損失は、第三派生油路93を流通するオイルの圧力損失に比べて大きくなる。
【0069】
さらに、第四吐出口64には、上述のような派生油路90を介さず、根幹油路80から直接オイルが供給される。すなわち、給油口31から最も離れた第四吐出口64へと供給されるオイルには、圧力損失を増加させるような派生油路90は設けられていない。
【0070】
このように本実施形態では、形状の異なる派生油路90によって各吐出口60に供給されるオイルの圧力損失に差を設けて、各吐出口60からのオイルの吐出量を任意に調整している。具体的には、給油口31に近い派生油路90ほど、内部を流通するオイルに大きな圧力損失を生じさせる形状とすることで、各吐出口60におけるオイルの吐出圧の均等化を図っている。これによって、各吐出口60からのオイルの吐出量の均等化を図ることができる。
【0071】
以上の如く、本実施形態に係るモータ1の冷却部材10は、
オイルが供給される給油口31と、
モータ1(より具体的には、モータ1のコイル4)に向かってオイルを吐出する複数の吐出口60と、
前記給油口31に接続された根幹油路80と、
前記複数の吐出口60にそれぞれ対応するように前記根幹油路80から枝分かれして形成され、前記根幹油路80と前記吐出口60とを接続するように形成されると共に、互いに形状が異なるように形成された複数の派生油路90と、
を具備するものである。
このように構成することにより、複数の吐出口60から吐出されるオイルの量を任意に調整することができる。すなわち、形状の異なる派生油路90によって、各吐出口60へと供給されるオイルの圧力損失を調整することができる。例えば、吐出口60や各油路の位置等に応じて派生油路90の形状を適宜決定することで、当該吐出口60から吐出されるオイルの量(吐出量)の均等化を図ることができる。
【0072】
また、前記複数の派生油路90は、
前記給油口31からの距離が近いほど、流通するオイルの圧力損失が大きくなるような形状に形成されているものである。
このように構成することにより、複数の吐出口60から吐出されるオイルの量の均等化を図ることができる。すなわち、一般的に、給油口31から吐出口60までの距離が近いほど、圧力損失は小さくなり、吐出口60から吐出されるオイルの量は多くなる。そこで、給油口31に近い派生油路90ほど圧力損失が大きくなるような形状に形成することで、圧力損失の均等化を図ることができ、ひいてはオイルの吐出量の均等化を図ることができる。
【0073】
また、前記複数の派生油路90は、
オイルの流通方向における長さ、屈曲部の数、又はオイルの流通方向に垂直な断面形状のうち少なくとも1つが異なっているものである。
このように構成することにより、複数の派生油路90の圧力損失に差を設けることができる。
【0074】
次に、図7及び図8を用いて、第二実施形態に係る冷却部材110について説明する。
【0075】
第二実施形態に係る冷却部材110と第一実施形態に係る冷却部材10との主な相違点は、吐出口60の配置である。よって以下では、第二実施形態に係る冷却部材110の吐出口60の配置について具体的に説明する。
【0076】
図7に示すように、冷却部材110の各吐出口60は、径方向において互いに異なる位置に配置されている。
【0077】
具体的には、第一吐出口61は、第二板部40と中心が一致する半径R1の仮想円C1上に配置される。また、第二吐出口62は、第二板部40と中心が一致する半径R2の仮想円C2上に配置される。仮想円C2の半径R2は、仮想円C1の半径R1よりも小さい。
【0078】
また、第三吐出口63は、第二板部40と中心が一致する半径R3の仮想円C3上に配置される。仮想円C3の半径R3は、仮想円C2の半径R2よりも小さい。また、第四吐出口64は、第二板部40と中心が一致する半径R4の仮想円C4上に配置される。仮想円C4の半径R4は、仮想円C3の半径R3よりも小さい。
【0079】
このように、冷却部材110の吐出口60は、下方に位置するものほど、第二板部40の径方向内側に位置するように配置される。
【0080】
次に、上述の冷却部材110を用いてコイル4を冷却する様子について説明する。
【0081】
図8には、コイル4(コイルエンド4a)の軸方向端面と、当該端面に対する冷却部材110の各吐出口60の相対的な位置関係を示している。上述の如く、吐出口60は、下方に位置するものほど、第二板部40の径方向内側に位置するように配置される。このため吐出口60は、コイル4の端面に対しても、下方に位置するものほど径方向内側に位置するように配置される。
【0082】
例えば第一吐出口61は、コイル4の上部において、コイル4の径方向外側に位置するように配置されている。このため、第一吐出口61から吐出されたオイルは、コイル4の外周部近傍に供給され、その後、重力に従ってコイル4の端面を伝って下方(すなわち、内周側)へと流下する。このように、第一吐出口61から吐出されたオイルは、コイル4の端面の外周部近傍から内周部近傍に亘って広い範囲に供給されることになる。これによって、コイル4を効果的に冷却することができる。
【0083】
また、第四吐出口64は、コイル4の下部において、コイル4の径方向内側に位置するように配置されている。このため、第四吐出口64から吐出されたオイルは、コイル4の内周部近傍に供給され、その後、重力に従ってコイル4の端面を伝って下方(すなわち、外周側)へと流下する。このように、第四吐出口64から吐出されたオイルは、コイル4の端面の内周部近傍から外周部近傍に亘って広い範囲に供給されることになる。これによって、コイル4を効果的に冷却することができる。
【0084】
このように、重力の方向を考慮して各吐出口60の径方向位置を調整することで、コイル4の端面の広い範囲にオイルを供給することができる。すなわち、コイル4の上半部と対向する吐出口60は当該コイル4の外周部近傍に位置するように、コイル4の下半部と対向する吐出口60は当該コイル4の内周部近傍に位置するように、それぞれ配置することで、コイル4の端面の広い範囲にオイルを供給することができる。
【0085】
以上の如く、本実施形態に係る冷却部材110において、
前記複数の吐出口60は、
前記モータ1(より具体的には、モータ1のコイル4)の軸方向端面に対向するように配置され、
前記モータ1の径方向において互いに異なる位置に配置されているものである。
このように構成することにより、モータ1(コイル4)の任意の位置を冷却することができる。すなわち、目的(所望の冷却位置等)に応じて複数の吐出口60の径方向位置を任意に調整することで、コイル4を任意に冷却することができる。
【0086】
次に、図9を用いて、第三実施形態に係る冷却部材210について説明する。
【0087】
第三実施形態に係る冷却部材210は、第一実施形態に係る冷却部材10とは異なり、コイル4の軸方向端面ではなく、側面(径方向外側の側面)にオイルを吐出するものである。
【0088】
具体的には、冷却部材210はコイル4(コイルエンド4a)を外側から囲むような円筒状に形成される。冷却部材210の内周面には、吐出口60が設けられる。このように構成することによって、吐出口60を介して冷却部材210の内側に向かってオイルが吐出される。冷却部材210から吐出されたオイルは、コイル4の側面に供給され、当該コイル4を冷却することができる。
【0089】
なお、冷却部材210にも、第一実施形態に係る冷却部材10と同様に、吐出口60へとオイルを案内する根幹油路80及び派生油路90が形成される。給油口31に近い派生油路90ほど大きな圧力損失が生じる形状とすることで、各吐出口60からのオイルの吐出量の均等化を図ることができる。
【0090】
以上の如く、本実施形態に係る冷却部材210において、
前記複数の吐出口60は、前記モータ1(より具体的には、モータ1のコイル4)の径方向外側の側面に対向するように配置されているものである。
このように構成することにより、モータ1(コイル4)を側面から冷却することができる。
【0091】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0092】
例えば、上記実施形態においては、冷却部材10をコイル4の前方に配置し、前側のコイルエンド4aを冷却するものとしたが、冷却部材10をコイル4の後方に配置して、後側のコイルエンド4aを冷却してもよい。また、冷却部材10をコイル4の前方及び後方に配置して、前後のコイルエンド4aを両方冷却してもよい。
【0093】
また、根幹油路80及び派生油路90の形状は上記実施形態に係るものに限らず、任意の形状とすることができる。また上記実施形態においては、各派生油路90は、長さ(全長)及び屈曲部の数が異なるように形成されるものとしたが、これに限るものではない。例えばオイルの流通方向に垂直な断面形状が異なるように形成することで、流通するオイルの圧力損失を調節することも可能である。
【0094】
また、吐出口60及び派生油路90の個数や位置は上記実施形態に係るものに限らず、任意に変更することが可能である。
【0095】
また、上記実施形態においては、モータ1のハウジング2と冷却部材10を個別に設ける構成としたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、モータ1のハウジング2に冷却部材10を一体的に形成することも可能である。具体的には、ハウジング2に、オイルを案内する油路(根幹油路80、派生油路90等)や吐出口(吐出口60)を形成することも可能である。
【0096】
また、上記実施形態においては、コイル4は軸線を前後方向に向けた状態で配置されるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、コイル4の配置の向きは任意に変更することも可能である。また、上記実施形態においては、冷却部材10の板面が略鉛直方向に沿うように配置されるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、冷却部材10をコイル4の向き等に応じて任意の方向に配置することが可能である。
【0097】
また、第一実施形態に係る冷却部材10(図1参照)と、第三実施形態に係る冷却部材210(図9参照)を同時に用いて、オイルを複数の方向からコイル4へと供給することも可能である。またこの場合、冷却部材10及び冷却部材210を、1つの部材により構成することも可能である。
【0098】
また、上記実施形態においては、モータ1のコイル4にオイルを供給することにより、当該モータ1(コイル4)を冷却する例を示したが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、本発明はモータ1を冷却することができるものであればよく、オイルの供給先はコイル4に限るものではない。例えば、モータ1を構成するコイル4以外の部材にオイルを供給して冷却することも可能である。
【0099】
また、上記実施形態においては、モータ1は自動車の駆動装置に用いられるものとしたが、本発明はこれに限るものではなく、任意の用途に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 モータ
4 コイル
4a コイルエンド
10 冷却部材
31 給油口
60 吐出口
80 根幹油路
90 派生油路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9