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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】固体電池および固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/618 20210101AFI20221117BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221117BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20221117BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20221117BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20221117BHJP
   H01M 50/636 20210101ALI20221117BHJP
【FI】
H01M50/618
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M50/103
H01M50/119
H01M50/636
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019227244
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021096950
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】谷内 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】大田 正弘
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/187940(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/014730(WO,A1)
【文献】特開2006-185654(JP,A)
【文献】特開2018-073802(JP,A)
【文献】特開2017-117696(JP,A)
【文献】特開2012-038425(JP,A)
【文献】特開2010-033882(JP,A)
【文献】特開2019-021384(JP,A)
【文献】特開2011-238504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 50/102 - 129
H01M 50/618 - 664
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電池セルと、前記固体電池セルを収納する電池ケースとを備える固体電池であって、
前記固体電池セルは、正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に存在する固体電解質層と、を備える積層体であり、
前記積層体の積層方向と略垂直となる前記電池ケースを構成する面は、前記固体電池セルに初期荷重となる面圧をかける押圧部を有し、
前記電池ケースは、少なくとも1個のガス抜きポートを有する、固体電池。
【請求項2】
前記ガス抜きポートは、閉塞部材により閉塞されている、請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記閉塞部材は、金属またはシリコーン材である、請求項2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記ガス抜きポートは、前記電池ケースにおける残空間に接する箇所に形成されている、請求項1~3いずれか記載の固体電池。
【請求項5】
前記電池ケース内の前記押圧部には、ガス流路となる溝が1本以上形成されている、請求項1~4いずれか記載の固体電池。
【請求項6】
前記溝の少なくとも1本は、前記押圧部の略中央部を通過している、請求項5に記載の固体電池。
【請求項7】
前記溝は、少なくとも2本形成され、略垂直に配置されている、請求項5または6に記載の固体電池。
【請求項8】
前記押圧部は、前記電池ケースの一面のみに設けられる、請求項1~7いずれかに記載の固体電池。
【請求項9】
前記押圧部は、前記電池ケースの向かい合った一組の面に設けられる、請求項1~7いずれかに記載の固体電池。
【請求項10】
前記電池ケースは、金属である請求項1~9いずれか記載の固体電池。
【請求項11】
前記ガス抜きポートは、複数個であり、前記電池ケースにおいて対角となる位置に配置する、請求項1~10いずれか記載の固体電池。
【請求項12】
固体電池セルと、前記固体電池セルを収納する電池ケースとを備える固体電池の製造方法であって、
前記固体電池セルは、正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に存在する固体電解質層と、を備える積層体であり、
前記積層体の積層方向と略垂直となる前記電池ケースを構成する面は、前記固体電池セルに初期荷重となる面圧をかける押圧部を有し、
前記電池ケースは、少なくとも1個のガス抜きポートを有しており、
前記固体電池セルを前記電池ケースに封入する封入工程と、
前記ガス抜きポートから前記電池ケース内のガスを置換および/または除去して電池ケース内部を減圧する減圧工程と、
前記ガス抜きポートを閉塞部材により閉塞する閉塞工程と、
を有する、固体電池の製造方法。
【請求項13】
前記減圧工程では、前記電池ケース内部を真空にする、請求項12に記載の固体電池の製造方法。
【請求項14】
前記閉塞工程では、金属の溶接またはシール材による封止により、前記ガス抜きポートを閉塞する、請求項12または13に記載の固体電池の製造方法。
【請求項15】
さらに、加温および加圧を実施する熱加圧処理工程を有する、請求項12~14いずれか記載の固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池および固体電池の製造方法に関する。さらには、出力特性の大きい固体電池、および当該固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高エネルギー密度を有する二次電池として、リチウムイオン二次電池が幅広く普及している。リチウムイオン二次電池は、正極と負極との間にセパレータを存在させ、液体の電解質(電解液)が充填された構造を有する。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電解液は、通常、可燃性の有機溶媒であるため、特に、熱に対する安全性が問題となる場合があった。そこで、有機系の液体の電解質に代えて、無機系の固体の電解質を用いた固体電池が提案されている(特許文献1参照)。固体電解質による固体電池は、電解液を用いる電池と比較して、熱の問題を解消するとともに、積層により高容量化および/または高電圧化することができ、さらに、コンパクト化の要請にも対応することができる。
【0004】
ここで、液体の電解質を備えるリチウムイオン二次電池の場合には、電池ケースに電池セルを挿入した後に電解液を充填することで、電解液により電池セルが膨潤し、その後に初期充放電やエイジングを実施することで、電池セルが体積膨張し、その結果、電池ケースと電池セルとが密着して、面圧がかかる状況となっていた。
【0005】
しかしながら、固体電解質を備える固体電池は、電池ケースに電池セルを挿入後は、電池セルの体積膨張が少ないため、電池への十分な面圧は発生しなかった。このため、界面抵抗が増加して入出力特性が低下していた。
【0006】
これに対して、固体電池を加温し、荷重をかけることで、出力特性を向上できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-106154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、電池セルに対して十分な面圧となる初期荷重をかけることのできる固体電池、および当該固体電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、固体電解質を備える固体電池は、液体の電解質が充填されるリチウムイオン二次電池と異なり、電池ケースに電池セルを挿入後は、電池セルの体積膨張が少ないこと、このため、固体電池のエイジング後においても電池ケースと電池セルには、挿入クリアランスが残ったままとなり、十分に面圧がかからないことに着目した。そして、固体電池ケースに押圧部を設けてばねの力を利用するとともに、ガス抜きポートを備えてガス置換または減圧すれば、電池セルに対して十分な面圧となる初期荷重をかけられることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、固体電池セルと、前記固体電池セルを収納する電池ケースとを備える固体電池であって、前記固体電池セルは、正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に存在する固体電解質層と、を備える積層体であり、前記積層体の積層方向と略垂直となる前記電池ケースを構成する面は、前記固体電池セルに面圧をかける押圧部を有し、前記電池ケースは、少なくとも1個のガス抜きポートを有する、固体電池である。
【0011】
前記ガス抜きポートは、閉塞部材により閉塞されていてもよい。
【0012】
前記閉塞部材は、金属またはシール材であってもよい。
【0013】
前記ガス抜きポートは、前記電池ケースにおける残空間に接する箇所に形成されていてもよい。
【0014】
前記電池ケース内の前記押圧部には、ガス流路となる溝が1本以上形成されていてもよい。
【0015】
前記溝の少なくとも1本は、前記押圧部の略中央部を通過していてもよい。
【0016】
前記溝は、少なくとも2本形成され、略垂直に配置されていてもよい。
【0017】
前記押圧部は、前記電池ケースの一面のみに設けられていてもよい。
【0018】
前記押圧部は、前記電池ケースの向かい合った一組の面に設けられていてもよい。
【0019】
前記電池ケースは、金属であってもよい。
【0020】
また別の本発明は、固体電池セルと、前記固体電池セルを収納する電池ケースとを備える固体電池の製造方法であって、前記固体電池セルは、正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に存在する固体電解質層と、を備える積層体であり、前記積層体の積層方向と略垂直となる前記電池ケースを構成する面は、前記固体電池セルに面圧をかける押圧部を有し、前記電池ケースは、少なくとも1個のガス抜きポートを有しており、前記固体電池セルを前記電池ケースに封入する封入工程と、前記ガス抜きポートから前記電池ケース内のガスを置換および/または除去して電池ケース内部を減圧する減圧工程と、前記ガス抜きポートを閉塞部材により閉塞する閉塞工程と、を有する、固体電池の製造方法である。
【0021】
前記減圧工程では、前記電池ケース内部を真空にしてもよい。
【0022】
前記閉塞工程では、金属の溶接またはシール材による封止により、前記ガス抜きポートを閉塞してもよい。
【0023】
さらに、加温および加圧を実施する熱加圧処理工程を有していてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の固体電池は、ばねの力を利用する押圧部を有すること、ガス抜きポートにより電池ケース内のガスを置換および/または除去して電池ケース内部を減圧することにより、電池セルに対して十分な面圧となる初期荷重をかけることができ、その結果、固体電池の出力特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る固体電池の断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る固体電池の押圧部を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る固体電池の押圧部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。たたし、以下に示す実施形態は、本発明を例示するものであって、本発明は下記に限定されるものではない。
【0027】
<固体電池>
本発明の固体電池は、固体電池セルと、固体電池セルを収納する電池ケースとを備え、固体電池セルは、正極層と、負極層と、正極層および負極層の間に存在する固体電解質層と、を備える積層体であり、当該積層体の積層方向と略垂直となる電池ケースを構成する面が、押圧部を有するとともに、電池ケースが少なくとも1個のガス抜きポートを有することを特徴とする。以下に、各構成要素について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
本発明の一実施形態にかかる固体電池の断面図を、図1に示す。図1に示される固体電池101は、電池セル102と、電池セル102を収納する電池ケース103とを備える。そして、電池セル102は、電池ケース103に、押圧部112とガス抜きポート114を有する。
【0029】
[電池ケース]
(ガス抜きポート)
本発明の固体電池におけるガス抜きポートは、電池ケース内のガスを置換および/または除去して、電池ケース内部を減圧するために用いられる、電池ケースに設けられる孔である。電池ケース内部を減圧することにより、電池セルに対して十分な面圧となる初期荷重をかけることができ、その結果、固体電池の出力特性を向上させることができる。
【0030】
ガス抜きポートは、固体電池セルを収納する電池ケースに、少なくとも1個備えられる。少なくとも1個備えられていればよく、複数個が備えられていてもよい。複数個備えさせる場合には、電池ケースにおいて対角となる位置に配置することが好ましい。
【0031】
ガス抜きポートを複数個備えさせることにより、より強力に、電池ケース内部を減圧することが可能となる。また、複数個のガス抜きポートを、電池ケースにおいて対角となる位置に配置することにより、電池セルに対する面圧を、より均等にかけることが可能となる。
【0032】
ガス抜きポートは、電池ケースにおける残空間に接する箇所に形成されていることが好ましい。液体の電解質を備えるリチウムイオン二次電池の場合には、電池ケースに電池セルを挿入した後に電解液を充填し、その後の膨張を加味した空間が必要となる。一方で、固体電池の場合には、電池ケースに電池セルを挿入後は、電池セルの体積膨張が少ないため、空間が残ることを余儀なくされていた。
【0033】
本発明においては、固体電池において回避できない残空間に接する箇所に、ガス抜きポートを形成することにより、当該残空間を有効利用できるとともに、電池ケース内のガスの移動を容易とすることができる。
【0034】
また、ガス抜きポートを電池ケースにおける残空間に接する箇所に形成する場合には、残空間の直下または直上に形成することが好ましい。
【0035】
残空間の直下または直上にガス抜きポートを形成することで、ガス抜きポートを封止する際に発生する異物が電極にコンタミ侵入することを防止でき、また、封止時の外力による電極の割れを防止することができる。また、残空間に、絶縁材、緩衝材、吸湿剤や吸着剤等を配置する場合に、ガス抜きポートを通して、それらの材料を効率的に注入することが可能となる。
【0036】
図1に示される本発明の一実施形態にかかる固体電池101は、ガス抜きポート114が、電池ケース103の内部の残空間113に接する箇所に、1個形成された例である。ガス抜きポート114は、残空間113の直上に形成されている。図1に示される固体電池101においては、残空間113には何も充填されておらず、空間となっている。固体電池101は、ガス抜きポート114を通じて、電池ケース103内のガスを置換および/または除去して、電池ケース103の内部を減圧する。
【0037】
本発明の固体電池においては、電池ケース内部の残空間には、何も充填されていなくても、絶縁材、緩衝材、吸湿剤や吸着剤等が配置されていてもよい。絶縁のためや電池セルを固定するための樹脂等を充填してもよいが、ガス抜きポートに接する残空間において、ガス抜きポートの周囲の領域には、減圧工程より前の工程においては何も配置されていないことが好ましい。何も配置されていない空間となっていることにより、電池ケース内のガスの移動を容易とすることができる。
【0038】
本発明の固体電池におけるガス抜きポートは、その目的を果たした後に、閉塞部材によって閉塞されていることが好ましい。閉塞することで、大気の侵入を防止して減圧した状態を保つことができるため、固体電池の出力特性をより長期間維持することが可能となる。
【0039】
ガス抜きポートを閉塞するための閉塞部材としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属またはシール材を挙げることができる。
【0040】
金属としては、特に限定されるものではなく、例えば、ケース部材と同一の金属等が挙げられる。閉塞方法についても特に限定されるものではないが、例えば、溶接が挙げられる。
【0041】
また、閉塞部材としてシール材を用いる場合には、特に限定されるものではなく、公知のシール材を適用することができる。例えば、シリコーン封止剤等を挙げることができる。また、シール方法も特に限定されるものではなく、部材に適した方法を適宜選択して適用することができる。
【0042】
(押圧部)
本発明の固体電池における押圧部は、ばねの力によって固体電池セルに面圧をかける作用を発現する。このため、固体電池セルにおける正極層、固体電解質層、および負極層の積層体の積層方向に対して、略垂直な面(すなわち、正極層、固体電解質層、および負極層と略平行な面)に押圧部を設ける。これにより、正極層、固体電解質層、および負極層の積層体の積層方向に面圧がかるため、電池セルに対して初期荷重をかけることができ、出力特性を向上させることができる。
【0043】
本発明における押圧部は、電池ケースの一面のみに設けても、あるいは、向かい合った一組の面に設けても、いずれであってもよい。電池ケースの一面のみに設ける場合には、電池セルにおける正極層、固体電解質層、および負極層の積層体の片側からのみ、積層方向に面圧を作用させる。向かい合った一組の面に設ける場合には、電池セルにおける正極層、固体電解質層、および負極層の積層体を挟み込んで、両側から積層方向に面圧を作用させることができる。本発明においては、向かい合った一組の面に設けることが好ましい。
【0044】
図1は、本発明の固体電池の一実施形態に係る断面図である。図1の固体電池101においては、電池セル102において、正極層、固体電解質層、および負極層の積層体の積層方向(両矢印で図示する)に対して、略垂直となる面に、押圧部112が設けられる。図1の固体電池101は、押圧部112が、向かい合った一組の面に設けられた態様である。
【0045】
押圧部の構造は、固体電池セルに面圧をかける作用を発現するものであれば、特に限定されるものではない。例えば、階段状、波形形状、曲面で構成される形状等が挙げられる。
【0046】
図1の固体電池101は、1段の階段状の押圧部112が設けられた実施形態である。
【0047】
押圧部は、電池ケースにおいて、押圧部以外の部分と連続する構造であっても、あるいは、不連続な構造であっても、いずれであってもよい。不連続な構造とすることにより、ばねの力とともに、その他の力を作用させることができる。
【0048】
図1の固体電池101は、1段の階段状の押圧部112が、電池ケース103に不連続に形成された実施形態である。本実施形態のように、押圧部が内側にスライド可能となる構造とすれば、例えば、固体電池モジュールを形成する際に両端から押圧した場合に、押圧部112がスライドして移動するため、電池セルに面圧を作用させやすくなる。あるいは、電池セルの内圧が高まった場合に、応力を逃がして安全性を向上させることができる。
【0049】
電池ケース内部の押圧部には、ガス流路となる溝が1本以上形成されていることが好ましい。本発明において、電池ケースの内側となる押圧部に、ガス流路となる溝が形成されていれば、ガス抜きポートから電池ケース内のガスを置換および/または除去して電池ケース内部を減圧する際に、当該ガスの移動が容易となる。このため、効率良く減圧することが可能となり、より効率良く、電池セルに対して十分な面圧となる初期荷重をかけることができ、固体電池の出力特性をより向上させることができる。
【0050】
なお、電池ケース内部の押圧部にガス流路となる溝を形成する場合には、溝の長さは、固体電池セルのサイズと、同一以上とすることがさらに好ましい。形成される溝の長さが、固体電池セルと同一以上であれば、電池セルの当該長さ方向に亘って均等に圧をかけることが可能となる。
【0051】
加えて、押圧部に形成される溝の少なくとも1本は、押圧部の略中央部を通過していることが、さらに好ましい。形成される溝が、押圧部の略中央部を通過していれば、電池セルの略中央部を通るようにガスを通過させることができるため、電池セルに対して均等に圧をかけることが可能となる。
【0052】
さらに、溝は、少なくとも2本形成され、略垂直に配置されていることが、特に好ましい。略垂直な配置となるように溝を形成することにより、電池セルに対して面状に均等な荷重をかけることができ、固体電池の出力特性をより向上させることができる。
【0053】
本発明の一実施形態に係る固体電池の押圧部を示す図を、図2および図3に示す。図2に示される押圧部112は、図1に示される本発明の一実施形態に係る固体電池101の押圧部112を示す図である。また、図3に示される押圧部117は、また別の実施形態に係る押圧部を示す図である。
【0054】
図2(a)は、図1に示される固体電池101の押圧部112を、電池ケース103の内側から見た図であり、図2(b)は、押圧部112を側面から見た図である。本実施形態に係る押圧部112は、1段の階段状の形状をしている。そして、押圧部112の電池ケースの内側となる面には、2本の溝115aおよび115bが形成されている。
【0055】
2本の溝115aおよび115bは、押圧部112の凸部となる面の縦と横を突き抜けて、それぞれ、押圧部112の略中央部を通過するように形成されている。また、2本の溝115aおよび115bは、十文字型に略垂直に配置されている。
【0056】
図2の押圧部112においては、ガス抜きポートからガスを置換および/または除去して電池ケース内部を減圧するとき、ガスは矢印で示されるよう移動する。具体的には、ガスは押圧部112の中心部付近から、電池セルの周辺部となる領域に移動し、周辺領域を移動してガス抜きポートまで到達し、その後、電池ケースの外に排出される。
【0057】
図3(a)は、また別の実施形態に係る押圧部117を、電池ケースの内側から見た図であり、図3(b)は、押圧部117を側面から見た図である。本実施形態に係る押圧部117は、2段の階段状の形状をしている。そして、押圧部117の電池ケースの内側となる面には、1本の溝116a、および1組の溝116bが形成されている。
【0058】
1本の溝116aは、押圧部117の凸部の頂上となる面を横に突き抜けて、押圧部117の略中央部を通過するように形成されている。および1組の溝116bは、押圧部117の凸部の中段の面を、縦に突き抜けるようにそれぞれ形成されている。そして、1本の溝116aと、1組の溝116bとは、略垂直に配置されている。
【0059】
図3の押圧部117においては、ガス抜きポートからガスを置換および/または除去して電池ケース内部を減圧するとき、ガスは矢印で示されるよう移動する。具体的には、ガスは押圧部117の中心部付近から、溝116aを通って電池セルの周辺部に向かうように移動し、その後、中段を移動して1組の溝116bに入り、溝116bを通って電池セルの周辺部となる領域に移動し、その後、ガス抜きポートまで移動して、電池ケースの外に排出される。
【0060】
(材料)
電池ケースの材料としては、特に限定されるものではないが、金属であることが好ましい。金属であることにより、放熱性が向上し、ケースそのものの強度の向上や金属溶接が可能なため密閉性が向上する。
【0061】
(正極層および負極層)
本発明の固体電池において、固体電池セルとなる積層体を構成する正極層および負極層は、特に限定されるものではなく、固体電池の正極層または負極層として用いることのできるものであればよい。正極層および負極層は、活物質や固体電解質を含み、任意に、導電助剤や結着剤等を含んでいてもよい。
【0062】
固体電池セルとなる積層体を構成する正極層および負極層は、各々の電極を構成することのできる材料を選択し、各々の電極材料の充放電電位を比較し、貴な電位を示すものを正極層に、卑な電位を示すものを負極層に用いて、任意の電池を構成する。
【0063】
(固体電解質層)
本発明の固体電池において、固体電池セルとなる積層体を構成する固体電解質層は、特に限定されるものではなく、固体電池の固体電解質層として用いることのできるものであればよい。例えば、酸化物系や硫化物系の固体電解質を含む層を挙げることができる。なお、固体電解質層に含まれる各物質の組成比については、電池が適切に作動可能であれば、特に限定されるものではない。また、固体電解質層は、必要に応じて結着剤等を含んでいてもよい。
【0064】
固体電解質層は、正極層と負極層との間に配置される。正極層と負極層との間に存在し、正極層と負極層との間のイオン伝導が可能な状態であれば、厚みや形状等は特に限定されるものではない。また、製造方法も特に限定されるものではない。
【0065】
(その他の構成)
本発明の固体電池は、正極層と、負極層と、固体電解質層と、を備える積層体からなる固体電池セルと、固体電池セルを収納する電池ケースを必須の構成要素としていればよく、その他、固体電池に必要な要素を備えていてもよい。その他の構成要素をしては、例えば、正極タブおよび負極タブ等が挙げられる。
【0066】
正極タブおよび負極タブは、正極層または負極層の集電箔に連結し、電池の集電の役割を担う。正極タブおよび負極タブの材質や構造等は、特に限定されるものではなく、本発明においては、例えば、厚さ5~500μm程度の金属箔等を挙げることができる。
【0067】
[空隙部]
本発明の固体電池の複数個を、所定の方向に略平行となるよう配置して固体電池モジュールを形成する場合には、固体電池の押圧部により、隣あった固体電池の間に空隙部が形成される。形成される空隙部により、固体電池の絶縁性と放熱性を高めることができる。
【0068】
図1に示される本発明の一実施形態にかかる固体電池101においては、電池ケース103の押圧部112の凹み部分により、空隙部111が形成されている。
【0069】
形成される空隙部には、セル温度を抑制するための空気や水等の流体、伝熱材、およびヒーター等や、モジュールを機能させるための電気絶縁材もしくは電気伝導材、緩衝材、および電池ケース固定部材等からなる群から選ばれる少なくとも1種が存在することが好ましい。
【0070】
<固体電池の製造方法>
本発明の固体電池の製造方法は、固体電池を製造する方法であって、固体電池セルと、固体電池セルを収納する電池ケースとを備える固体電池の製造方法である。
【0071】
[固体電池]
本発明の固体電池の製造方法で製造される固体電池は、上記した本発明の固体電池の構成と同一の構成である。固体電池セルは、正極層と、負極層と、正極層および負極層の間に存在する固体電解質層と、を備える積層体であり、電池ケースは、積層体の積層方向と略垂直となる電池ケースを構成する面に、固体電池セルに面圧をかけるための押圧部を有するとともに、少なくとも1個のガス抜きポートを有している。
【0072】
本発明の固体電池の製造方法は、封入工程と、減圧工程と、閉塞工程と、を必須の工程として有する。
【0073】
[封入工程]
封入工程は、固体電池セルを電池ケースに封入する工程である。すなわち、正極層と、負極層と、正極層および負極層の間に存在する固体電解質層と、を備える積層体、および任意にその他の構成要素を含む固体電池セルを、例えば金属からなる電池ケースに挿入して、封をする工程である。挿入および封をする方法は、特に限定されるものではなく、固体電池の製造方法において採用されている、公知の方法を適用することができる。
【0074】
[減圧工程]
減圧工程は、電池ケースに形成されているガス抜きポートから、電池ケース内のガスを置換および/または除去して、電池ケース内部を減圧する工程である。電池ケース内部を減圧することにより、電池セルに対して十分な面圧となる初期荷重をかけることができ、その結果、固体電池の出力特性を向上させることができる。
【0075】
減圧工程においては、電池ケース内部を真空となるまで減圧することが好ましい。電池ケース内部を真空の状態まで到達させれば、電池セルに対して最も大きな面圧をかけることが可能となる。その結果、固体電池の出力特性の向上に、最も大きく貢献することができる。
【0076】
減圧工程において、電池ケース内のガスを置換して、電池ケース内部を減圧する場合には、その方法は特に限定されるものではない。例えば、ガス抜きポートに真空ポンプ等が接続された三方弁等を接続して、真空ポンプより残空間のガス等を排出させた後、三方弁の切り替えにより充填ガスを供給する方法が挙げられる。
【0077】
また、置換して充填されるガスの種類についても、特に限定されるものではない。例えば、ドライ空気、窒素ガスや、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス等が挙げられる。なかでは、アルゴンガスが好ましい。
【0078】
例えば、ドライ空気からアルゴンガスに置換する場合には、ケース内の電池部材との副反応が抑制されるため、耐久性が向上する。
【0079】
減圧工程において、ガス抜きポートから電池ケース内のガスを除去して、電池ケース内部を減圧する場合には、その方法は特に限定されるものではない。例えば、ガス抜きポートに真空ポンプ等を接続して、電池ケース内のガスを吸引除去する方法が挙げられる。
【0080】
[閉塞工程]
閉塞工程は、上記の減圧工程により電池ケース内部を減圧した後に、ガス抜きポートを閉塞部材により閉塞する工程である。閉塞することで、減圧した状態を保つことができるため、固体電池の出力特性をより長期間維持することが可能となる。
【0081】
ガス抜きポートを閉塞するための閉塞部材としては、上記した本発明の固体電池に用いられるものと同様である。
【0082】
閉塞方法は特に限定されるものではないが、閉塞部材をケース部材と同一の金属とする場合には、例えば、溶接にて閉塞する方法が挙げられる。また、閉塞部材をシール材とする場合には、部材に適した封止方法を適宜選択して適用することができる。
【0083】
[その他の工程]
本発明の固体電池の製造方法は、上記と封入工程と、減圧工程と、閉塞工程と、を有していれば、その他の工程を任意に有していてもよい。その他の工程としては、例えば、加温および加圧を実施する熱加圧処理工程が挙げられる。
【0084】
固体電池は、加温し、荷重をかけることで、出力特性が向上することが知られている。このため、本発明の固体電池の製造方法において、加温および加圧を実施する熱加圧処理工程を実施すれば、出力特性をより向上させることができるため好ましい。なお、熱加圧処理工程は、上記の減圧工程とは別に実施してもよいし、上記の減圧工程と同時に、すなわち、加温、減圧、および加圧を、同時に実施してもよい。
【符号の説明】
【0085】
101 固体電池
102 電池セル
103 電池ケース
104 正極タブ
109 負極タブ
111 空隙部
112 押圧部
113 残空間
図1
図2
図3