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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】固体電解質、電極及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20221117BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221117BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221117BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221117BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M4/13
H01M10/052
H01M4/62 Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019528152
(86)(22)【出願日】2019-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2019004856
(87)【国際公開番号】W WO2019239631
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2018112284
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514156563
【氏名又は名称】アイメック・ヴェーゼットウェー
【氏名又は名称原語表記】IMEC VZW
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ フェレーケン
(72)【発明者】
【氏名】クヌート ビャーネ ガンドラッド
(72)【発明者】
【氏名】マールテン メース
(72)【発明者】
【氏名】相良 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】村田 充弘
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/089498(WO,A1)
【文献】特表2012-518248(JP,A)
【文献】特表2016-508279(JP,A)
【文献】特開2017-208250(JP,A)
【文献】特開2011-113906(JP,A)
【文献】特開2015-5466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0562
H01M 4/13
H01M 10/052
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互接続された複数の孔を有する多孔質誘電体と、
イオン性化合物及び双極性化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つと、金属塩とを含有し、前記複数の孔の内部を少なくとも部分的に満たしている電解質と、
前記複数の孔の内表面に吸着して分極を誘起する表面吸着層と、
を備える、固体電解質。
【請求項2】
前記電解質は、前記表面吸着層の内表面に吸着した分極層を含み、
前記分極層は、第1イオン層、第2イオン層及び第3イオン層を含み、
前記第1イオン層は、前記表面吸着層に結合した複数の第1イオンを含む層であり、
前記複数の第1イオンのそれぞれは、第1の極性を有し、
前記第2イオン層は、前記複数の第1イオンに結合した複数の第2イオンを含む層であり、
前記複数の第2イオンのそれぞれは、前記第1の極性とは反対の極性である第2の極性を有し、
前記第3イオン層は、前記複数の第2イオンに結合した複数の第3イオンを含む層であり、
前記複数の第3イオンのそれぞれは、前記第1の極性を有する、
請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記複数の第1イオンのそれぞれは、前記イオン性化合物又は前記金属塩に由来するアニオンであり、
前記複数の第2イオンのそれぞれは、前記イオン性化合物に由来するカチオンであり、
前記複数の第3イオンのそれぞれは、前記イオン性化合物又は前記金属塩に由来するアニオンである、
請求項2に記載の固体電解質。
【請求項4】
前記電解質は、前記分極層が存在する位置よりも前記孔の前記内表面から離れた位置に存在するバルク層をさらに含む、
請求項2又は3に記載の固体電解質。
【請求項5】
前記表面吸着層が、前記複数の孔の前記内表面に吸着した水を含有する、
請求項2から4のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項6】
前記水が、1以上、4以下の単分子層を構成している、
請求項5に記載の固体電解質。
【請求項7】
前記表面吸着層が、前記複数の孔の前記内表面に吸着したポリエーテルを含有する、
請求項2から6のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項8】
前記ポリエーテルが、ポリエチレングリコールを含む、
請求項7に記載の固体電解質。
【請求項9】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が、4000以上、100000以下である、
請求項8に記載の固体電解質。
【請求項10】
前記ポリエチレングリコールの粘度平均分子量が、100000以上、600000以下である、
請求項8に記載の固体電解質。
【請求項11】
前記金属塩がリチウム塩である、
請求項1から10のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項12】
前記リチウム塩が、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含む、
請求項11に記載の固体電解質。
【請求項13】
前記イオン性化合物がイオン液体である、
請求項1から12のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項14】
前記イオン液体が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを含む、
請求項13に記載の固体電解質。
【請求項15】
前記イオン液体が、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及び、トリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、
請求項14に記載の固体電解質。
【請求項16】
前記多孔質誘電体が多孔質シリカである、
請求項1から15のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項17】
前記多孔質誘電体は、単一の層をなし、
前記固体電解質の外形が前記多孔質誘電体によって画定されている、請求項1から16のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか1項に記載の固体電解質と、
電極活物質と、
を備えた、電極。
【請求項19】
導電助剤及びバインダーから選ばれる少なくとも1つをさらに備えた、
請求項18に記載の電極。
【請求項20】
正極と、
負極と、
請求項1から17のいずれか1項に記載の固体電解質と、
を備えた、蓄電素子。
【請求項21】
正極と、
負極と、
を備え、
前記正極及び前記負極から選ばれる少なくとも1つは、請求項18又は19に記載の電極である、蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質、電極及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代電池として全固体リチウム二次電池の開発が進められている。全固体リチウム二次電池などの蓄電素子に用いられる固体電解質のイオン伝導度を向上させることが望まれている。
【0003】
特許文献1は、イオン液体、リチウム塩及びシリカ前駆体を含む混合液を用い、ゾルゲル法によって固体電解質を製造する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2012-518248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、高いイオン伝導度を示す新規な固体電解質を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
相互接続された複数の孔を有する多孔質誘電体と、
イオン性化合物及び双極性化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つと、金属塩とを含有し、前記複数の孔の内部を少なくとも部分的に満たしている電解質と、
前記複数の孔の内表面に吸着して分極を誘起する表面吸着層と、
を備える、固体電解質を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、高いイオン伝導度を示す新規な固体電解質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、第1実施形態に係る固体電解質の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図1B図1Bは、多孔質誘電体の孔の断面を模式的に示す図である。
図2図2は、分極層の構造の一例を模式的に示す図である。
図3図3は、分極層の構造の他の例を模式的に示す図である。
図4図4は、分極層の構造のさらに他の例を模式的に示す図である。
図5図5は、分極層の構造のさらに他の例を模式的に示す図である。
図6図6は、第1実施形態に係る固体電解質の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、第2実施形態に係る電極の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図8図8は、第2実施形態に係る電極の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、第2実施形態に係る電極の製造方法の他の例を示すフローチャートである。
図10図10は、第2実施形態に係る電極の製造方法のさらに他の例を示すフローチャートである。
図11図11は、第3実施形態に係る蓄電素子の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図12図12は、第4実施形態に係る蓄電素子の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図13図13は、第5実施形態に係る蓄電素子の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図14図14は、サンプル1aの固体電解質のイオン伝導度の経時変化を示すグラフである。
図15A図15Aは、サンプル1aの固体電解質の作製直後における表面吸着層の構成を模式的に示す図である。
図15B図15Bは、サンプル1aの固体電解質を低湿度環境に保管した後の表面吸着層の構成を模式的に示す図である。
図16A図16Aは、サンプル1a、1b及び1cの固体電解質のイオン伝導度と測定時の相対湿度との関係を示すグラフである。
図16B図16Bは、サンプル1d~1gの固体電解質のイオン伝導度と吸着水の単分子層の層数との関係を示すグラフである。
図17A図17Aは、3540cm-1付近の波数範囲でのサンプル1aの固体電解質のFT-IR測定の結果を示すグラフである。
図17B図17Bは、1630cm-1付近の波数範囲でのサンプル1aの固体電解質のFT-IR測定の結果を示すグラフである。
図18図18は、サンプル1a及び2aの固体電解質のイオン伝導度の経時変化を示すグラフである。
図19図19は、サンプル2aの固体電解質の表面吸着層の構成を模式的に示す図である。
図20図20は、サンプル2a、2b及び2cの固体電解質のイオン伝導度とPEGの添加量との関係を示すグラフである。
図21図21は、サンプル2a及び3a~3fの固体電解質のイオン伝導度とPEGの平均分子量との関係を示すグラフである。
図22図22は、840cm-1付近の波数範囲での各固体電解質のFT-IR測定の結果を示すグラフである。
図23図23は、サンプル4a、4b、4c及び4dの固体電解質のイオン伝導度を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示に係る一態様の概要)
本開示の第1実施形態にかかる固体電解質は、
相互接続された複数の孔を有する多孔質誘電体と、
イオン性化合物及び双極性化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つと、金属塩とを含有し、前記複数の孔の内部を少なくとも部分的に満たしている電解質と、
前記複数の孔の内表面に吸着して分極を誘起する表面吸着層と、
を備えている。
【0010】
多孔質誘電体及び表面吸着層の存在により、電解質におけるイオン伝導性が向上し、固体電解質のイオン伝導度が高まる。
【0011】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様にかかる固体電解質では、前記電解質は、前記表面吸着層の内表面に吸着した分極層を含んでいてもよく、前記分極層は、第1イオン層、第2イオン層及び第3イオン層を含んでいてもよく、前記第1イオン層は、前記表面吸着層に結合した複数の第1イオンを含む層であってもよく、前記複数の第1イオンのそれぞれは、第1の極性を有していてもよく、前記第2イオン層は、前記複数の第1イオンに結合した複数の第2イオンを含む層であってもよく、前記複数の第2イオンのそれぞれは、前記第1の極性とは反対の極性である第2の極性を有していてもよく、前記第3イオン層は、前記複数の第2イオンに結合した複数の第3イオンを含む層であってもよく、前記複数の第3イオンのそれぞれは、前記第1の極性を有していてもよい。分極層は、イオン伝導性を向上させる。
【0012】
本開示の第3態様において、例えば、第2態様にかかる固体電解質では、前記複数の第1イオンのそれぞれは、前記イオン性化合物又は前記金属塩に由来するアニオンであってもよく、前記複数の第2イオンのそれぞれは、前記イオン性化合物に由来するカチオンであってもよく、前記複数の第3イオンのそれぞれは、前記イオン性化合物又は前記金属塩に由来するアニオンであってもよい。イオン性化合物又は金属塩に由来するカチオン及びアニオンによって分極層が構成されうる。
【0013】
本開示の第4態様において、例えば、第2又は第3態様にかかる固体電解質では、前記電解質は、前記分極層が存在する位置よりも前記孔の前記内表面から離れた位置に存在するバルク層をさらに含んでいてもよい。バルク層もイオンの伝導に寄与する。
【0014】
本開示の第5態様において、例えば、第2から第4態様のいずれか1つにかかる固体電解質では、前記表面吸着層が、前記複数の孔の前記内表面に吸着した水を含有していてもよい。水は、分極層の分極を誘起する能力を表面吸着層に効果的に付与しうる。
【0015】
本開示の第6態様において、例えば、第5態様に係る固体電解質では、前記水が、1以上、4以下の単分子層を構成していてもよい。これにより、多孔質誘電体の孔の内表面に水が安定して存在できる。
【0016】
本開示の第7態様において、例えば、第2から第6態様のいずれか1つにかかる固体電解質では、前記表面吸着層が、前記複数の孔の前記内表面に吸着したポリエーテルを含有していてもよい。ポリエーテルも、分極層の分極を誘起する能力を表面吸着層に効果的に付与しうる。
【0017】
本開示の第8態様において、例えば、第7態様にかかる固体電解質では、前記ポリエーテルが、ポリエチレングリコールを含んでいてもよい。ポリエチレングリコールは、表面吸着層を効果的に形成しうる。
【0018】
本開示の第9態様において、例えば、第8態様にかかる固体電解質では、前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が、4000以上、100000以下であってもよい。ポリエチレングリコールの数平均分子量がこのような範囲に収まっている場合、表面吸着層が効果的に形成されうる。
【0019】
本開示の第10態様において、例えば、第8態様にかかる固体電解質では、前記ポリエチレングリコールの粘度平均分子量が、100000以上、600000以下であってもよい。ポリエチレングリコールの粘度平均分子量がこのような範囲に収まっている場合、表面吸着層が効果的に形成されうる。
【0020】
本開示の第11態様において、例えば、第1から第10態様のいずれか1つにかかる固体電解質では、前記金属塩がリチウム塩であってもよい。電解質がリチウム塩を含む場合、本開示の固体電解質をリチウムイオン二次電池に適用できる。
【0021】
本開示の第12態様において、例えば、第11態様にかかる固体電解質では、前記リチウム塩が、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含んでいてもよい。Li-TFSIを用いると、高いイオン伝導度を有する固体電解質が得られる。
【0022】
本開示の第13態様において、例えば、第1から第12態様のいずれか1つにかかる固体電解質では、前記イオン性化合物がイオン液体であってもよい。イオン液体は、難燃性、難揮発性、高いイオン伝導性などの特性を有するので、固体電解質の材料として適している。
【0023】
本開示の第14態様において、例えば、第13態様にかかる固体電解質では、前記イオン液体が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを含んでいてもよい。イオン液体を構成するアニオンの中でも、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンは、本開示の固体電解質に適している。
【0024】
本開示の第15態様において、例えば、第14態様にかかる固体電解質では、前記イオン液体が、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及び、トリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。これらのイオン液体は、本開示の固体電解質に適している。
【0025】
本開示の第16態様において、例えば、第1から第15態様のいずれか1つにかかる固体電解質では、前記多孔質誘電体が多孔質シリカであってもよい。多孔質シリカは、化学的に安定であるため、固体電解質の母材として適している。
【0026】
本開示の第17態様において、例えば、第1から第16態様のいずれか1つにかかる固体電解質では、前記多孔質誘電体は、単一の層をなしていてもよく、前記固体電解質の外形が前記多孔質誘電体によって画定されてもよい。このような構成によれば、固体電解質のハンドリングが容易であるとともに、固体電解質を蓄電素子などに応用しやすい。
【0027】
本開示の第18態様にかかる電極は、
第1から第17態様のいずれか1つの固体電解質と、
電極活物質と、
を備えたものである。
【0028】
第18態様によれば、優れた電気特性を有する電極が得られる。
【0029】
本開示の第19態様において、例えば、第18態様にかかる電極は、導電助剤及びバインダーから選ばれる少なくとも1つをさらに備えていてもよい。導電助剤は、電極の内部抵抗を十分に低減することに寄与する。バインダーは、電極活物質の粒子を互いに固定する役割を担う。電極活物質の粒子が互いに固定されていると、電極活物質の粒子の膨張及び収縮に起因する隙間の発生が抑制される。これにより、電池の放電容量の減少が抑制される。
【0030】
本開示の第20態様にかかる蓄電素子は、
正極と、
負極と、
第1から第17態様のいずれか1つの固体電解質と、
を備えたものである。
【0031】
第20態様によれば、優れた電気特性を有する蓄電素子が得られる。
【0032】
本開示の第21態様にかかる蓄電素子は、
正極と、
負極と、
を備え、
前記正極及び前記負極から選ばれる少なくとも1つは、第18又は第19態様に記載の電極である。
【0033】
第21態様によれば、優れた電気特性を有する蓄電素子が得られる。
【0034】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0035】
(第1実施形態)
図1Aは、第1実施形態に係る固体電解質10の断面構造の一例を模式的に示している。固体電解質10は、多孔質誘電体11及び電解質13を備えている。多孔質誘電体11は、相互接続された複数の孔12を有する。複数の孔12は、いわゆる連続孔である。ただし、複数の孔12は、独立孔を含んでいてもよい。電解質13は、それらの孔12の内表面を覆っている。電解質13は、複数の孔12の内部を少なくとも部分的に満たしていてもよいし、複数の孔12の内部の全体を満たしていてもよい。
【0036】
本明細書において、「固体」とは、室温において系全体として固形状であることを意味し、部分的に液体を含有するものを排除するものではない。「固体」の例としては、ゲルが挙げられる。
【0037】
多孔質誘電体11は、例えば、多孔質シリカである。多孔質シリカは、例えば、メソポーラスシリカである。多孔質シリカは、化学的に安定であるため、固体電解質10の母材として適している。多孔質シリカの表面は親水性であるため、例えば、後述の表面吸着層15が水を含有する場合には、多孔質シリカの上に水分子が安定して吸着されうる。多孔質誘電体11の他の例としては、ポーラスアルミナ(Al23)、ポーラスチタニア(TiO2)、ポーラスジルコニア(ZrO2)、及び、これらの混合物が挙げられる。
【0038】
多孔質誘電体11は、25%以上90%以下の範囲の空隙率を有していてもよい。多孔質誘電体11の孔12のそれぞれの直径は、例えば、2nm以上80nm以下の範囲にある。孔12の直径は、例えば、次の方法で測定されうる。固体電解質10を有機溶媒に浸して電解質13を有機溶媒に溶解させた後、超臨界乾燥により電解質13を取り除き、BET法によって多孔質誘電体11の比表面積を測定する。測定結果から空隙率及び孔12のそれぞれの直径(細孔分布)を算出することができる。あるいは、集束イオンビーム法(FIB)で固体電解質10の薄片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)で固体電解質10の薄片を観察し、空隙率及び孔12の直径を求めることもできる。
【0039】
本実施形態において、多孔質誘電体11は、単一の層をなしている。多孔質誘電体11の層は、自立性を有していてもよい。固体電解質10の外形は、多孔質誘電体11によって画定されている。このような構成によれば、固体電解質10のハンドリングが容易であるとともに、固体電解質10を蓄電素子などに応用しやすい。
【0040】
電解質13は、例えば、イオン性化合物を含有している。イオン性化合物は、イオン液体でありうる。イオン液体は、難燃性、難揮発性、高いイオン伝導性などの特性を有するので、固体電解質10の材料として適している。イオン液体中のイオンは比較的自由に動くことができるため、例えば、電解質13が後述の分極層130を含む場合には、分極層130内のイオンが効率的に配向しうる。
【0041】
イオン液体を構成するカチオンの例としては、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン(BMP+)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン(BMI+)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン(EMI+)、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン(DMPI+)、1,2-ジエチル-3,5-ジメチルイミダゾリウムカチオン(DEDMI+)、トリメチル-n-ヘキサルアンモニウムカチオン(TMHA+)、n-ブチル-n-メチルピロリジニウムカチオン(PYR14+)、n-メチル-n-ペンチルピロリジニウムカチオン(PYR15+)、n-メチル-n-プロピルピペリジニウムカチオン(PIP+)、及びトリエチルスルフォニウムカチオン(TES+)が挙げられる。
【0042】
イオン液体を構成するカチオンの中でも、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン(BMP+)、及びトリエチルスルフォニウムカチオン(TES+)は、本開示の固体電解質10に適している。例えば、BMP+が後述のカチオン層を構成する場合には、BMP+は、BMP+の長手方向(すなわち、BMP+を構成するn-ブチル基が延びる方向)が表面吸着層15の内表面に沿うように配向しうる。そのため、分極層130を構成するイオン層の数に対する分極層130の厚さを低減することができ、表面吸着層15が分極層130の分極を効率的に誘起することができる。あるいは、例えば、TES+が後述のカチオン層を構成する場合には、TES+は他のカチオンに比べて小さいため、同様に分極層130の厚さを低減することができ、表面吸着層15が分極層130の分極を効率的に誘起することができる。
【0043】
イオン液体を構成するアニオンの例としては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(TFSI-)、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI-)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン(BETI-),トリフラートアニオン(OTf-)、ジシアナミドアニオン(DCA-)、ジメチルフォスフェートアニオン(DMP-)、ジエチルフォスフェートアニオン(DEP-)、ジブチルフォスフェートアニオン(DBP-)、2,2,2-トリフルオロ-n-(トリフルオロメタンスルホニル)アセトイミドアニオン(TSAC-)、パーコレートアニオン(ClO4 -)、パーフルオロアルキルフルオロリン酸アニオン(FAP-)、テトラフルオロホウ酸アニオンアニオン(BF4 -)、及びヘキサフルオロリン酸アニオン(PF6 -)が挙げられる。
【0044】
イオン液体を構成するアニオンの中でも、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(TFSI-)は、本開示の固体電解質10に適している。例えば、TFSI-が後述のアニオン層を構成する場合には、TFSI-は、回転対称性を有しているため、秩序的に配向しやすい。
【0045】
イオン液体は、上記のカチオンとアニオンとの任意の組み合わせで構成されうる。イオン液体として、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及び、トリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選ばれる少なくとも1つを使用することができる。これらのイオン液体は、本開示の固体電解質10に適している。
【0046】
電解質13は、金属塩をさらに含有している。金属塩は、イオン性化合物に溶解し、イオン性化合物とともに電解質13を構成する。例えば、金属塩を構成するイオンがキャリアとして機能しうる。金属塩のカチオンの例としては、Li+、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Al3+、Co2+、及びNi2+が挙げられる。
【0047】
金属塩は、リチウム塩であってもよい。電解質13がリチウム塩を含む場合、リチウムイオンがキャリアとして機能しうるため、本開示の固体電解質10をリチウムイオン二次電池に適用できる。
【0048】
リチウム塩の例としては、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Li-FSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li-TFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(Li-BETI)、及びトリフルオロメタンスルホナート(Li-OTf)が挙げられる。これらのリチウム塩から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。リチウム塩として、Li-TFSIを用いると、高いイオン伝導度を有する固体電解質10が得られる。例えば、TFSI-が後述のアニオン層を構成する場合には、TFSI-は、回転対称性を有しているため、秩序的に配向しやすい。
【0049】
多孔質誘電体11に対するイオン性化合物のモル比は、例えば、0.25より大きく、かつ、3.5未満である。これにより、固体電解質10を固形状に維持しながら、イオン伝導度を向上させることができる。イオン伝導度が最大に達するモル比は、多孔質誘電体11及びイオン性化合物のそれぞれの組成に依存する。多孔質誘電体11及びイオン性化合物のそれぞれの組成に応じて最適なモル比は異なる。最適なモル比は、互いに異なるモル比を有する複数の固体電解質を作製し、それらのイオン伝導度を評価することで確かめられる。
【0050】
固体電解質10は、低湿度環境下においても高いイオン伝導度を示す。例えば、室温かつ0.0005%RHの低湿度環境に十分な期間かけて保管した後において、固体電解質10は、0.8mS/cm以上のイオン伝導度を示す。十分な期間は、例えば、8日間である。
【0051】
図1Bは、多孔質誘電体11の孔12の断面を模式的に示している。電解質13は、分極層130を有する。分極層130は、表面吸着層15の内表面に吸着した層である。分極層130は、孔12が延びる方向に沿って連続的に形成された連続膜であってもよい。分極層130では、電解質13を構成するイオンが秩序的に配向している。複数の孔12の内部のそれぞれに設けられた分極層130が相互に接続されて三次元的なネットワークが形成されていてもよい。図1Aの破線Lに示すように、多孔質誘電体11の内表面付近に金属イオンが移動するための伝導パスが形成されている。より具体的には、分極層130の内表面上に金属イオンが移動するための伝導パスが形成されている。
【0052】
図1Bに示すように、電解質13は、バルク層140を含んでいてもよい。バルク層140は、分極層130の内表面に接している。バルク層140は、分極層130が存在する位置よりも孔12の内表面から離れた位置に存在している。言い換えれば、バルク層140は、孔12の中心部分に位置している。分極層130によってバルク層140が囲まれている。バルク層140は、イオン性化合物及び金属塩に由来するイオンが無秩序に配向している層である。バルク層140においてイオンが流動性を有していてもよい。バルク層140も金属イオンの伝導に寄与する。
【0053】
図1Bに示すように、固体電解質10は、表面吸着層15をさらに備えている。表面吸着層15は、孔12の内表面と電解質13との間に位置している。表面吸着層15は、複数の孔12の内表面に吸着して分極を誘起する層である。表面吸着層15の存在により、電解質13におけるイオン伝導性が向上し、固体電解質10のイオン伝導度が高まる。
【0054】
表面吸着層15は、例えば、複数の孔12の内表面に吸着した水、及び、複数の孔12の内表面に吸着したポリエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。水は、分極層130の分極を誘起する能力を表面吸着層15に効果的に付与しうる。ポリエーテルも、分極層130の分極を誘起する能力を表面吸着層15に効果的に付与しうる。
【0055】
水は、1以上、4以下の単分子層を構成していてもよい。この単分子層は、固体状(Ice-like)の構造を有し、不動性(immobility)を有する。そのため、表面吸着層15は、例えば固体電解質に高電圧が印加された場合であっても、安定してその構造を維持しうる。
【0056】
表面吸着層15に水及びポリエーテルの両方が含まれている場合、表面吸着層15は、水の層とポリエーテルの層との積層構造を有していてもよく、水とポリエーテルとが混在した構造を有していてもよい。
【0057】
ポリエーテルの例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールが挙げられる。ポリエーテルの中でも、ポリエチレングリコールは、本開示の固体電解質10に適している。ポリエチレングリコールは、表面吸着層15を効果的に形成しうる。本明細書では、エチレングリコールが重合した構造を有するポリエーテルを、その分子量に依らず、「ポリエチレングリコール」と称する。本明細書における「ポリエチレングリコール」は、ポリエチレンオキシドと称される高分子量のポリエチレングリコールをも包含する。
【0058】
表面吸着層15が孔12の内表面の全部を覆っていることは必須ではない。孔12の内表面は、表面吸着層15に被覆されていない領域を含んでいてもよい。分極層130が表面吸着層15の内表面の全部を覆っていることは必須ではない。表面吸着層15の内表面は、分極層130に被覆されていない領域を含んでいてもよい。
【0059】
図2は、多孔質誘電体11の孔12の内表面付近における分極層130の構造の一例を模式的に示している。本明細書では、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを「TFSI-イオン」と表記することがある。1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオンを「BMP+イオン」と表記することがある。
【0060】
図2に示す例では、表面吸着層15が孔12の内表面上に形成されている。表面吸着層15は、多孔質誘電体11に結合している。表面吸着層15の内表面上に分極層130が形成されている。分極層130は、第1イオン層131a、第2イオン層131b及び第3イオン層132aを含む。第1イオン層131a、第2イオン層131b及び第3イオン層132aは、表面吸着層15の上にこの順で形成されている。分極層130の上に金属イオン132Lが存在している。分極層130は、金属イオン132Lの伝導性を向上させる。
【0061】
第1イオン層131aは、表面吸着層15に結合した複数の第1イオンを含む層である。複数の第1イオンのそれぞれは、第1の極性を有する。図2に示す例では、第1イオン層131aは、複数のTFSI-イオンで構成されている。それらのTFSI-イオンは、表面吸着層15に結合している。TFSI-イオンが第1イオンであり、負の極性が第1の極性である。
【0062】
第2イオン層131bは、複数の第1イオンに結合した複数の第2イオンを含む層である。複数の第2イオンのそれぞれは、第1の極性とは反対の極性である第2の極性を有する。図2に示す例では、第2イオン層131bは、複数のBMP+イオンで構成されている。それらのBMP+イオンは、第1イオン層131aを構成する複数のTFSI-イオンとそれぞれ結合している。BMP+イオンが第2イオンであり、正の極性が第2の極性である。
【0063】
第3イオン層132aは、複数の第2イオンに結合した複数の第3イオンを含む層である。複数の第3イオンのそれぞれは、第1の極性を有する。図2に示す例では、第3イオン層132aは、金属塩に由来するアニオン(例えば、TFSI-イオン)で構成されている。それらのアニオンは、第2イオン層131bを構成する複数のBMP+イオンとそれぞれ結合している。TFSI-イオンが第3イオンであり、負の極性が第1の極性である。
【0064】
第1イオン層131aを構成する複数の第1イオンのそれぞれは、イオン性化合物又は金属塩に由来するアニオンでありうる。第2イオン層131bを構成する複数の第2イオンのそれぞれは、イオン性化合物に由来するカチオンでありうる。第3イオン層132aを構成する複数の第3イオンのそれぞれは、イオン性化合物又は金属塩に由来するアニオンでありうる。アニオンとカチオンとの結合の形式は、詳細には、イオン結合である。イオン性化合物に由来するカチオンと、イオン性化合物又は金属塩に由来するアニオンとによって分極層130が構成されうる。
【0065】
固体電解質10において、リチウムイオンなどの金属イオン132Lは、以下のメカニズムによって、分極層130の上(詳細には、第3イオン層132aの上)を容易に移動することができると推察される。
【0066】
表面吸着層15が吸着水層である場合、多孔質誘電体11の表面末端基(例えば、表面シラノール基)と、吸着水層に含まれた水分子の酸素原子とが水素結合を形成する。次に、第1イオン層131aに含まれた第1イオンの原子(例えば、酸素原子)が、吸着水層に含まれた水分子の水素原子と結合する。
【0067】
あるいは、表面吸着層15がポリエーテル層である場合、多孔質誘電体11の表面末端基(例えば、表面シラノール基)と、ポリエーテル層に含まれたポリエーテル分子の酸素原子とが水素結合を形成する。次に、第1イオン層131aに含まれた第1イオンの原子(例えば、酸素原子)が、ポリエーテル層に含まれたポリエーテル分子の水素原子と結合する。
【0068】
ここで、表面吸着層15に含まれたOH基の水素原子が、電気的に弱い正の電荷によって、第1イオン層131aに含まれたイオンの電荷を引き付ける。例えば、第1イオン層131aに含まれたイオンがTFSI-イオンである場合、TFSI-イオンのS=O結合のπ電子は、大きな非局在性を有するため、誘起電場によって表面吸着層15に引き付けられる。その結果、TFSI-イオンにおいて、表面吸着層15に近い側に負の分極電荷が生じ、表面吸着層15から遠い側に正の分極電荷が生じる。
【0069】
次に、第2イオン層131bに含まれたイオンがBMP+イオンである場合、BMP+イオンは五員環を有する。五員環のσ電子が大きな局在性を有する。BMP+イオンが第1イオン層131aに含まれたTFSI-イオンに結合すると、TFSI-イオンの電荷の偏りに誘起されて、BMP+イオンのσ電子が第1イオン層131a側に引き付けられる。その結果、BMP+イオンにも電荷の偏りが生じる。具体的には、BMP+イオンにおいて、表面吸着層15に近い側に負の分極電荷が生じ、表面吸着層15から遠い側に正の分極電荷が生じる。
【0070】
第2イオン層131bに含まれたBMP+イオンの電荷の偏りは、第3イオン層132aにおける電荷の偏りも誘起する。第3イオン層132aに含まれたイオンがTFSI-イオンである場合、TFSI-イオンにおいて、表面吸着層15に近い側に負の分極電荷が生じ、表面吸着層15から遠い側に正の分極電荷が生じる。
【0071】
第3イオン層132aの表面の正の分極電荷は、第3イオン層132aが金属イオン132Lを引き付ける力を弱めることができる。言い換えれば、第3イオン層132aのTFSI-イオンと金属イオン132Lとのクーロン相互作用が弱まる。これにより、金属イオン132Lは、第3イオン層132aの上を動きやすくなると推察される。
【0072】
第3イオン層132aが第1イオン層131aと同じイオンを含有している場合、第3イオン層132aにおける電荷の偏りが強まり、第3イオン層132aが金属イオン132Lを引き付ける力が効果的に低減されうる。
【0073】
分極層130及び表面吸着層15の存在は、以下の方法によって調べることができる。フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)及び/又はラマン分析を行い、分子の振動モードを測定する。これにより、表面吸着層15を構成する分子が多孔質誘電体に結合していることを確認できる。例えば、FT-IR測定によって、波数850cm-1付近のピークの有無を調べることによって、表面吸着層15を構成するポリエーテルの存在が特定されうる。
【0074】
図3は、分極層の構造の他の例を模式的に示している。図3に示すように、分極層130aの各層を構成するイオンは、1対1対応で結合していない。分極層130aの各層を構成するイオンは、イオン性化合物と金属塩とのモル比に応じて互いに結合していてもよい。
【0075】
図4は、分極層の構造のさらに他の例を模式的に示している。図4に示すように、分極層130bは、図2を参照して説明した構造に加え、第4イオン層132b及び第5イオン層133aをさらに含む。第4イオン層132b及び第5イオン層133aは、第3イオン層132aの上にこの順で形成されている。第5イオン層133aの上に金属イオン132Lが存在している。
【0076】
図2及び図4から理解できるように、分極層を構成する層の数は特に限定されない。分極層が複数のアニオン層を含んでいてもよい。各アニオン層におけるアニオンの種類は同一であってもよく、異なっていてもよい。分極層が複数のカチオン層を含んでいてもよい。各カチオン層におけるカチオンの種類は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0077】
図2図3及び図4に示す例では、第1イオン層131aがアニオン層であり、第2イオン層131bがカチオン層であり、第3イオン層132aがアニオン層である。しかし、アニオン層とカチオン層とが相互に入れ替わってもよい。
【0078】
図5に示す例では、第1イオン層131aがカチオン層であり、第2イオン層131bがアニオン層であり、第3イオン層132aがカチオン層である。分極層130の表面上を移動するイオンは、アニオン132Fである。アニオン132Fの例としては、フッ化物イオン(F-イオン)及び水素化物イオン(H-イオン)が挙げられる。図5に示す例では、金属塩として、金属フッ化物又は金属水素化物が用いられる。金属フッ化物の例としては、NaF、及びKFが挙げられる。金属水素化物の例としては、NaH、KH、及びCaH2が挙げられる。例えば、多孔質誘電体11の孔12の内表面にシラノール基が露出し、かつ、シラノール基から水素原子が脱離して「Si-O-」の構造が存在している場合、この「Si-O-」の構造にカチオン(例えば、BMP+イオン)の正電荷が引き付けられる。
【0079】
次に、図6を参照しつつ、固体電解質10の製造方法の一例を説明する。
【0080】
図6に示す製造方法は、混合液を調製する工程S1、混合液から混合ゲルを形成する工程S2、及び、混合ゲルを乾燥させる工程S3を含む。ゾルゲル法によれば、図1Aを参照して説明した固体電解質10を効率的に製造できる。
【0081】
工程S1では、金属アルコキシド、イオン性化合物、金属塩、水、及び、有機溶媒を混合する。例えば、金属アルコキシド、イオン性化合物、金属塩、リチウム塩、水、及び、有機溶媒のそれぞれを容器に入れ、これらを混合する。これにより、混合液が得られる。イオン性化合物に代えて、あるいは、イオン性化合物に加えて、双極性化合物を用いてもよい。
【0082】
混合液は、ポリエーテルを含んでいてもよい。ポリエーテルは、他の材料と混合されうる。
【0083】
金属アルコキシドは、典型的には、シリコンアルコキシドである。シリコンアルコキシドの例としては、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、フェニルトリエトキシシラン(PTEOS)、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GOTMS)、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMOS)、及び、これらの置換体が挙げられる。これらのシリコンアルコキシドから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。TEOSの沸点は、TMOSの沸点よりも高い。TEOSは混合液を調製する際に揮発しにくいので、TEOSを原料として使用すると、最終的に得られるシリカの量を正確に制御しやすい。
【0084】
シリコンアルコキシドは、多孔質誘電体11の前駆体である。シリコンアルコキシドを用いると、多孔質誘電体11としての多孔質シリカが得られる。
【0085】
多孔質誘電体11の前駆体は、シリコンアルコキシドに限定されない。アルミニウムトリセクブトキシド(ATB)、オルトチタン酸テトラブチル(TBOT)、ジルコニウム(IV)テトラブトキシド(ZTB)などの他の金属アルコキシドも使用可能である。金属アルコキシドとして、互いに異なる金属種を有する複数の金属アルコキシドの混合物を用いてもよい。
【0086】
金属塩の例としては、上述の種々の材料が挙げられる。
【0087】
イオン性化合物の例としては、上述の種々の材料が挙げられる。
【0088】
水は、金属アルコキシドを加水分解させるものであればよく、例えば、脱イオン水である。
【0089】
ポリエーテルの例としては、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0090】
ポリエチレングリコールの数平均分子量は、例えば、200以上400000以下であり、4000以上100000以下であってもよい。ポリエチレングリコールの数平均分子量がこのような範囲に収まっている場合、表面吸着層15が効果的に形成されうる。最適な数平均分子量の範囲は、互いに異なる数平均分子量を有する複数の種類のポリエチレングリコールを用いて固体電解質を作製し、それらのイオン伝導度を評価することで確かめられる。ポリエチレングリコールの数平均分子量は、JIS K 7252-1:2016に準拠したサイズ排除クロマトグラフィー法によって測定されうる。
【0091】
ポリエチレングリコールの粘度平均分子量は、例えば、100000以上8000000以下であり、100000以上600000以下であってもよい。ポリエチレングリコールの粘度平均分子量がこのような範囲に収まっている場合、表面吸着層15が効果的に形成されうる。最適な粘度平均分子量の範囲は、互いに異なる粘度平均分子量を有する複数の種類のポリエチレングリコールを用いて固体電解質を作製し、それらのイオン伝導度を評価することで確かめられる。ポリエチレングリコールの粘度平均分子量は、JIS K 7367-1:2002に準拠したプラスチック毛細管形粘度計を用いた粘度測定法によって室温(25℃)にて測定されうる。
【0092】
有機溶媒は、金属アルコキシド、イオン性化合物、金属塩、水、及び、ポリエーテルを均一に混合できるものであればよく、例えば、アルコールである。アルコールの例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及び、1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)が挙げられる。これらのアルコールから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0093】
混合液は、他の材料を含んでいてもよい。
【0094】
工程S2では、混合液をゲル化させることによって混合ゲルを形成する。例えば、容器を密閉して混合液を室温(例えば25℃)で保管すると、3~23日程度で混合液が湿潤状態の混合ゲルに変化する。ゲル化に要する時間は、水の量、有機溶媒の量、及び、保管温度によって制御可能である。
【0095】
金属アルコキシドとしてTEOSを使用した場合、具体的には、以下の反応が進む。まず、TEOSが加水分解してシラノールが形成される。次に、2つのシラノールが脱水縮重合することによってシロキサンモノマーが形成される。そして、複数のシロキサンが脱水縮重合することによってシロキサンポリマーが形成される。このようにして、シロキサンポリマーが3次元の網目状にネットワークを形成することにより、混合液がゲル化する。
【0096】
工程S3では、混合ゲルを乾燥させる。これにより、固体電解質10が得られる。例えば、真空乾燥機を用いて、圧力0.1~200Pa、温度15~150℃(周囲温度)の条件のもとで、48~96時間かけて混合ゲルを乾燥させる。真空乾燥時の突沸及び気泡の発生を抑えるために、真空乾燥工程の前に予備乾燥処理を行ってもよい。予備乾燥処理では、例えば、局所排気装置に設置したホットプレートを用いて、大気圧、温度15~90℃(ホットプレートの表面温度)の条件のもとで、24~96時間かけて混合ゲルを加熱する。予備乾燥処理によって、混合ゲルに含まれる水と有機溶媒の大半を蒸発させることができる。予備乾燥処理は、混合ゲルを大気中に24~96時間放置することによって行われてもよい。
【0097】
なお、固体電解質10は、イオン性化合物に代えて、あるいは、イオン性化合物に加えて、双極性化合物を含有していてもよい。双極性化合物とは、分子内の離間した複数の原子に非局在の電荷が分布した化合物である。分極層が双極性化合物を含有する場合、図2において、符号131aで示された要素が、双極性化合物のうち負の電荷を有する原子を含む部分に相当し、符号131bで示された要素が、双極性化合物のうち正の電荷を有する原子を含む部分に相当する。
【0098】
双極性化合物の例としては、1,2-双極子、1,3-双極子、1,4-双極子、及び1,5-双極子が挙げられる。双極性化合物は、例えば、ジアゾメタン、ホスホニウムイリド、及びカルボニルオキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種である。図6に示す工程S1において、これらの双極性化合物を用いて混合液を調製することができる。
【0099】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る電極20の断面構造の一例を模式的に示している。図7において、電極20は、集電体21の上に配置されている。電極20は、電極活物質、導電助剤及び固体電解質を含む。具体的には、電極20は、活物質粒子22、導電助剤粒子23及び固体電解質24を含む。活物質粒子22は、固体電解質24のマトリクスに埋め込まれて固定されている。導電助剤粒子23も固体電解質24のマトリクスに埋め込まれて固定されている。粒子22及び23の形状は特に限定されない。
【0100】
集電体21は、導電材料で構成されている。導電材料の例としては、金属、導電性酸化物、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性硼化物、及び導電性樹脂が挙げられる。
【0101】
固体電解質24として、第1実施形態で説明した固体電解質10を用いることができる。本開示の固体電解質10は高いイオン伝導度を有するので、固体電解質10を用いることによって、優れた電気特性を有する電極20が得られる。
【0102】
本実施形態によれば、固体電解質24のマトリクス中に活物質粒子22(第1粒子)及び導電助剤粒子23(第2粒子)が固定されている。このような構造によれば、電極20において、固体電解質24の高いイオン伝導度に基づく優れた電気特性が確実に発揮されうる。
【0103】
電極20に用いられた電極活物質が正極活物質である場合、正極活物質の例としては、リチウム含有遷移金属酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、及びリチウム含有遷移金属硫化物が挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物の例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、LiNiCoMnO2、LiNiCoO2、LiCoMnO2、LiNiMnO2、LiNiCoMnO4、LiMnNiO4、LiMnCoO4、LiNiCoAlO2、LiNiPO4、LiCoPO4、LiMnPO4、LiFePO4、Li2NiSiO4、Li2CoSiO4、Li2MnSiO4、Li2FeSiO4、LiNiBO3、LiCoBO3、LiMnBO3、及びLiFeBO3が挙げられる。リチウム含有遷移金属硫化物の例として、LiTiS2、Li2TiS3、及びLi3NbS4が挙げられる。これらの正極活物質からから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0104】
電極20に用いられた電極活物質が負極活物質である場合、負極活物質の例としては、金属、半金属、酸化物、窒化物、及び炭素が挙げられる。金属又は半金属の例としては、リチウム、シリコン、アモルファスシリコン、アルミニウム、銀、スズ、アンチモン、及びそれらの合金が挙げられる。酸化物の例としては、Li4Ti512、Li2SrTi614、TiO2、Nb25、SnO2、Ta25、WO2、WO3、Fe23、CoO、MoO2、SiO、SnBPO6、及びそれらの混合物が挙げられる。窒化物の例としては、LiCoN、Li3FeN2、Li7MnN4及びそれらの混合物が挙げられる。炭素の例としては、黒鉛、グラフェン、ハードカーボン、カーボンナノチューブ及びそれらの混合物が挙げられる。これらの負極活物質から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0105】
導電助剤は、例えば、導電性カーボンである。導電性カーボンの例としては、カーボンブラック、ファイバー状カーボン、黒鉛、ケッチェンブラック、及びアセチレンブラックが挙げられる。これらの導電助剤から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。導電助剤は、電極20の内部抵抗を十分に低減することに寄与する。
【0106】
電極20は、さらに、バインダーを含んでいてもよい。バインダーの例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)が挙げられる。これらのバインダーから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。バインダーは、電極20の形状を維持する効果を発揮する。
【0107】
次に、図8を参照しつつ、電極20の製造方法の一例を説明する。
【0108】
工程S11では、活物質粒子を含有する混合液を調製する。工程S11は、サブ工程S111及びサブ工程S112を含んでいてもよい。サブ工程S111では、例えば、イオン性化合物、金属塩、水、有機溶媒及び活物質粒子を混合して前駆液を調製する。前駆体液は、ポリエーテルをさらに含んでいてもよい。サブ工程S112では、前駆液に金属アルコキシドを混合する。これにより、活物質粒子を含有する混合液が得られる。サブ工程S112では、例えば、前駆液が入れられた容器に金属アルコキシドを滴下する。工程S11は、混合液に活物質粒子が加えられることを除き、第1実施形態における工程S1と同じ工程である。
【0109】
工程S12では、固体電解質によって被覆された活物質粒子を形成する。工程S12では、例えば、第1実施形態における工程S2及び工程S3と同じ操作を行う。混合液が活物質粒子を含有するため、混合液をゲル化させると、混合ゲルが活物質粒子の表面の少なくとも一部を覆うように形成される。混合ゲルによって被覆された活物質粒子を乾燥させると、固体電解質によって被覆された活物質粒子が得られる。
【0110】
工程S13では、被覆された活物質粒子を含有するスラリーを調製する。被覆された活物質粒子及び導電助剤粒子に電解液又は溶媒を加えて混合する。これにより、電極形成用のスラリーが得られる。必要に応じて、スラリーにはバインダーが加えられてもよい。導電助剤は、工程S11において混合液に予め加えられてもよい。スラリーの調製に用いられる電解液の例としては、金属塩と炭酸エステルとを含む電解液が挙げられる。炭酸エステルとしては、鎖状炭酸エステル、環状炭酸エステル、及びそれらの混合物が挙げられる。例えば、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1の体積比で含む混合溶媒にLiPF6を1mol/リットルの濃度で溶解させることによって、電解液が得られる。スラリーの調製に用いられる溶媒の例としては、水及び有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の例としては、N-メチルピロリドン(NMP)が挙げられる。
【0111】
工程S14では、集電体にスラリーを塗布して塗布膜を形成する。スラリーの塗布方法は特に限定されない。例えば、ブレードコート法によって集電体にスラリーを塗布する。
【0112】
工程S15では、集電体上に形成された塗布膜を乾燥させる。所定の体積充填率を有する電極20が得られるように、乾燥した塗布膜を圧延してもよい。これにより、電極20が得られる。塗布膜の乾燥は、例えば、真空乾燥機を用いて、圧力0.1~200Pa、温度80~150℃(周囲温度)の条件のもとで、4~12時間かけて行われる。
【0113】
次に、図9を参照しつつ、電極20の製造方法の他の例を説明する。
【0114】
工程S21では、混合液を調製する。工程S21は、例えば、第1実施形態における工程S1と同じ工程である。
【0115】
工程S22では、集電体上に電極層を形成する。電極層は、活物質粒子及び導電助剤粒子を含むスラリーを集電体に塗布し、塗布膜を乾燥させることによって得られる。スラリーは、活物質粒子及び導電助剤粒子に電解液又は有機溶媒を加えて混合することによって調製されうる。工程S22では、図8を参照して説明した工程S14及び工程S15と同じ操作を行ってもよい。
【0116】
工程S21は、工程S22から独立した工程である。工程S21と工程S22の順序は特に限定されない。
【0117】
工程S23では、電極層に混合液を含浸させる。電極層に混合液を含浸させるために、電極層に混合液を滴下させてもよいし、電極層を混合液に浸漬させてもよい。電極層に含浸させる前において、混合液のゲル化が一部進行していてもよい。例えば、混合液を調製した後、混合液を室温で数日間保存すると、ゲル化が少し進行する。そのような混合液を電極層に含浸させてもよい。
【0118】
工程S24では、固体電解質によって被覆された活物質粒子を形成する。電極層に含浸した混合液をゲル化させ、混合ゲルを乾燥させる。工程S24では、例えば、第1実施形態における工程S2及び工程S3と同じ操作を行う。以上により、電極20が得られる。
【0119】
次に、図10を参照しつつ、電極20の製造方法のさらに他の例を説明する。
【0120】
工程S31では、活物質粒子を含有するスラリーを調製する。工程S31は、サブ工程S311及びサブ工程S312を含んでいてもよい。サブ工程S311では、例えば、イオン性化合物、金属塩、水、有機溶媒、活物質粒子、導電助剤粒子及びバインダーを混合して前駆液を調製する。前駆体液は、ポリエーテルを含んでいてもよい。サブ工程S312では、前駆液に金属アルコキシドを混合する。これにより、電極形成用のスラリーが得られる。サブ工程S312では、例えば、前駆液が入れられた容器に金属アルコキシドを滴下する。
【0121】
工程S32では、集電体にスラリーを塗布して塗布膜を形成する。スラリーの塗布方法は特に限定されない。例えば、ブレードコート法によって集電体にスラリーを塗布する。
【0122】
工程S33では、集電体上に形成された塗布膜を乾燥させる。塗布膜を乾燥させると、先に説明した加水分解反応及び脱水縮重合反応が進行し、活物質粒子及び導電助剤粒子の周囲に固体電解質のマトリクスが形成される。塗布膜を所定期間(例えば、4~23日)かけて室温で保存し、その後、所定条件にて塗布膜を乾燥させてもよい。塗布膜の乾燥は、例えば、真空乾燥機を用いて、圧力0.1~200Pa、温度15~150℃(周囲温度)の条件のもとで、48~72時間かけて行われる。所定の体積充填率を有する電極20が得られるように、乾燥した塗布膜を圧延してもよい。これにより、電極20が得られる。
【0123】
(第3実施形態)
図11は、第3実施形態に係る蓄電素子30の断面構造の一例を模式的に示している。図11において、蓄電素子30は、集電体31、正極32、固体電解質33、負極34、及び集電体35を備えている。集電体31及び35として、第2実施形態で説明した集電体21を用いることができる。正極32は、例えば、第2実施形態で説明した正極活物質を含有する。負極34は、例えば、第2実施形態で説明した負極活物質を含有する。
【0124】
固体電解質33は、正極32と負極34との間に配置されている。固体電解質33として、第1実施形態で説明した固体電解質10を用いることができる。本開示の固体電解質10は高いイオン伝導度を有するので、固体電解質10を用いることによって、優れた電気特性を有する蓄電素子30が得られる。
【0125】
(第4実施形態)
図12は、第4実施形態に係る蓄電素子40の断面構造の一例を示している。図12において、蓄電素子40は、集電体41、正極42、固体電解質43、負極44、及び集電体45を備えている。集電体41及び45として、第2実施形態で説明した集電体21を用いることができる。正極42として、第2実施形態で説明した電極20を用いることができる。負極44は、例えば、第2実施形態で説明した負極活物質を含有する。
【0126】
固体電解質43は、正極42と負極44との間に配置されている。固体電解質43として、第1実施形態で説明した固体電解質10を用いることができる。あるいは、固体電解質43は、その他の固体電解質であってもよい。その他の固体電解質の例としては、無機固体電解質及びポリマー電解質が挙げられる。無機固体電解質の例としては、無機酸化物及び無機硫化物が挙げられる。無機酸化物の例としては、LiPON、LiAlTi(PO43、LiAlGeTi(PO43、LiLaTiO、LiLaZrO、Li3PO4、Li2SiO2、Li3SiO4、Li3VO4、Li4SiO4-Zn2SiO4、Li4GeO4-Li2GeZnO4、Li2GeZnO4-Zn2GeO4、及びLi4GeO4-Li3VO4が挙げられる。無機硫化物の例としては、Li2S-P25、Li2S-P25-LiI、Li2S-P25-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B23-LiI、Li2S-SiS2-P25-LiI、Li2S-B23、Li2S-P25-GeS、Li2S-P25-ZnS、Li2S-P25-GaS、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LiPO、Li2S-SiS2-LiSiO、Li2S-SiS2-LiGeO、Li2S-SiS2-LiBO、Li2S-SiS2-LiAlO、Li2S-SiS2-LiGaO、Li2S-SiS2-LiInO、Li4GeS4-Li3PS3、Li4SiS4-Li3PS4、及びLi3PS4-Li2Sが挙げられる。ポリマー電解質の例としては、フッ素樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリレート、これらの誘導体、及びこれらの共重合体が挙げられる。
【0127】
蓄電素子40の内部で十分な電子絶縁性が確保できる場合、固体電解質43は省略されてもよい。例えば、図7を参照して説明した電極20を作製したのち、電極20の表面に混合液を塗布して塗布膜を形成する。塗布膜をゲル化及び乾燥させることによって、電極20の上に固体電解質の薄い層を形成することができる。この薄い層が正極と負極との短絡を防ぐのに十分である場合、セパレータの役割を果たす固体電解質が別途必要とされない。
【0128】
図12に示す蓄電素子40においては、正極42のみに本開示の固体電解質を含む電極が使用されている。
【0129】
(第5実施形態)
図13は、第5実施形態に係る蓄電素子50の断面構造の一例を示している。図13において、蓄電素子50は、集電体51、正極52、固体電解質53、負極54、及び集電体55を備えている。集電体51及び55として、第2実施形態で説明した集電体21を用いることができる。正極52及び負極54として、第2実施形態で説明した電極20を用いることができる。固体電解質53は、正極52と負極54との間に配置されている。固体電解質53として、第1実施形態で説明した固体電解質10を用いることができる。あるいは、固体電解質53は、その他の固体電解質であってもよい。本実施形態では、正極52と負極54の両方に本開示の固体電解質を含む電極が使用されている。ただし、負極54のみに本開示の固体電解質を含む電極が使用されてもよい。
【0130】
第4及び第5実施形態によれば、正極及び負極から選ばれる少なくとも1つに本開示の電極20が用いられている。電極20は、本開示の固体電解質10を含む。固体電解質10は高いイオン伝導度を有するので、固体電解質10を用いることによって、優れた電気特性を有する蓄電素子が得られる。
【実施例
【0131】
(サンプル1a)
BMP-TFSI、Li-TFSI、0.5mlのTEOS、1.0mlのPGME及び0.5mlの水をガラス容器に入れて混合し、混合液を得た。TEOS、BMP-TFSI及びLi-TFSIの混合比は、モル比にて、TEOS:BMP-TFSI:Li-TFSI=1.0:1.5:0.5であった。
【0132】
次に、ガラス容器を密閉して混合液を25℃で保管した。混合液は、5~17日で湿潤状態の混合ゲルに変化した。
【0133】
次に、デシケータ付きのホットプレートを用い、40℃、80kPaの条件で96時間かけて、混合ゲルを予備乾燥させた。その後、混合ゲルを真空オーブンに入れ、25℃、0.1Pa以下の条件で72時間かけて乾燥させた。これにより、サンプル1aの固体電解質を得た。
【0134】
サンプル1aの固体電解質をグローブボックス(湿度<0.0005%RH)に保管し、約23~24℃でのイオン伝導度を交流インピーダンス法によって測定した。イオン伝導度の経時変化も測定した。
【0135】
(参照サンプル1)
参照サンプル1の電解質として、BMP-TFSI及びLi-TFSIのみを含む電解液を調製した。BMP-TFSIとLi-TFSIとの混合比は、モル比にて、BMP-TFSI:Li-TFSI=3.0:1.0であった。約23~24℃での参照サンプル1の電解質のイオン伝導度を交流インピーダンス法によって測定した。参照サンプル1の電解質のイオン伝導度は、0.6mS/cmであった。
【0136】
図14は、サンプル1aの固体電解質のイオン伝導度の経時変化を示している。縦軸は、イオン伝導度を示している。横軸は、作製直後からの経過時間(日)を示している。破線は、参照サンプル1の電解質のイオン伝導度(0.6mS/cm)を示している。作製直後において、サンプル1aの固体電解質のイオン伝導度は、参照サンプル1の電解質のイオン伝導度よりも高かった。サンプル1aの固体電解質を低湿度環境(<0.0005%RH)で保管すると、サンプル1aの固体電解質のイオン伝導度は徐々に減少した。7~10日で平衡状態に達したとき、サンプル1aの固体電解質は、参照サンプル1の電解質のイオン伝導度と同等のイオン伝導度を示した。
【0137】
図14に示されるイオン伝導度の経時変化は、以下に説明されるメカニズムによるものと推定される。
【0138】
図15Aは、サンプル1aの固体電解質の作製直後における表面吸着層の構成を模式的に示している。図15Bは、サンプル1aの固体電解質を低湿度環境に保管した後の表面吸着層の構成を模式的に示している。
【0139】
図15Aに示すように、サンプル1aの固体電解質には、表面吸着層として、吸着水層が形成されている。サンプル1aの固体電解質の作製直後には、吸着水層が厚く、吸着水層の密度も高い。そのため、分極層におけるイオンの分極が強く誘起され、Li+イオンが直下のTFSI-イオンに引き付けられる力が弱まり、Li+イオンが動きやすくなる。その結果、サンプル1aの固体電解質は、高いイオン伝導度を示す。
【0140】
図15Bに示すように、サンプル1aの固体電解質を低湿度環境(<0.0005%RH)に保管すると、吸着水層の厚さ及び密度が低下する。Li+イオンの動きやすさは、表面吸着層を有さない参照サンプル1の電解質と同等まで低下する。その結果、サンプル1aの固体電解質は、参照サンプル1の電解質のイオン伝導度(0.6mS/cm)に近いイオン伝導度を示す。
【0141】
(サンプル1b)
TEOS、BMP-TFSI及びLi-TFSIの混合比を、モル比にて、TEOS:BMP-TFSI:Li-TFSI=1.0:1.0:0.5に変更したことを除き、サンプル1aと同じ方法でサンプル1bの固体電解質を作製した。
【0142】
(サンプル1c)
TEOS、BMP-TFSI及びLi-TFSIの混合比を、モル比にて、TEOS:BMP-TFSI:Li-TFSI=1.0:2.0:0.5に変更したことを除き、サンプル1aと同じ方法でサンプル1cの固体電解質を作製した。
【0143】
次に、サンプル1a、1b及び1cの固体電解質を湿度制御ができる密閉容器に保管した。相対湿度を10%RH、30%RH、50%RH、60%RH、又は85%RHに調整して、約23~24℃でのサンプル1a、1b及び1cの固体電解質のイオン伝導度を交流インピーダンス法によって測定した。結果を図16Aに示す。
【0144】
図16Aは、サンプル1a、1b及び1cの固体電解質のイオン伝導度と測定時の相対湿度との関係を示している。縦軸は、イオン伝導度を示している。横軸は、相対湿度を示している。
【0145】
図16Aに示すように、いずれのサンプルも、以下のような傾向を示した。第1に、相対湿度が0~30%RHの領域では、相対湿度の増大に伴ってイオン伝導度が緩やかに増大した。第2に、相対湿度が50~60%RH付近で、相対湿度の増大に対してイオン伝導度が飛躍的に増大した。第3に、相対湿度が60%RHを超えた領域では、再び、相対湿度の増大に伴ってイオン伝導度が緩やかに増大した。
【0146】
これらの傾向は、相対湿度の増大に伴う吸着水の状態の変化によって説明される。
【0147】
SiO2の表面上の吸着水の状態と相対湿度との関係は、先行論文(D. B. Assay, S. H. Kim, “Evolution of the Adsorbed Water Layer Structure on Silicon Oxide at Room Temperature”, J. Phys. Chem. B, vol. 109, p. 16760-16763, 2005)に詳しく説明されている。この論文によれば、SiO2の表面上の吸着水の状態は、相対湿度が0~30%RHの領域と、30~60%RHの領域と、60%RH以上の領域とで以下のように変化する。第1に、相対湿度が0~30%RHの領域では、SiO2の表面上に固体状(Ice-like)の構造を有する水の層が形成される。第2に、相対湿度が30~60%RHの領域では、固体状の構造の上に、固体状の構造から液体状の構造への遷移層が形成される。第3に、相対湿度が60%RHを超えた領域では、遷移層の上に、液体状の構造を有する水の層が形成される。
【0148】
図16Aに示すイオン伝導度の変化は、この吸着水の状態の変化を反映していると考えられる。本発明者らの推定するメカニズムによれば、吸着水によるイオン伝導度の向上は、吸着水の状態によって異なる。吸着水が固体状の構造を形成しているときには、イオン伝導度は、吸着水が分極層内のイオンの電荷を引き付ける力に依存する。吸着水が固体状の構造を形成するにつれて、表面吸着層内の水素結合の密度が高まり、表面吸着層が分極層のイオンの電荷を密に引き付ければ引き付けるようになる。その結果、伝導イオンに働くクーロン相互作用が弱まり、イオン伝導度が高まりうる。図16Aにおいて、相対湿度が0~50%RHの領域において、相対湿度の増大に伴ってイオン伝導度が増大する傾向は、これらの作用を反映している。また、相対湿度が50~60%RH付近でイオン伝導度が飛躍的に増大した理由としては、上記の作用に加えて、表面吸着層として液体状の水の層ができ始めたことによって、この液体状の水の層にリチウムイオンが溶解し、リチウムイオンの乖離及び拡散が促進されたことが挙げられる。
【0149】
以上の通り、イオン伝導度と相対湿度との関係は、サンプル1a、1b及び1cの固体電解質において、多孔質シリカの孔の内表面に吸着水の層が形成されていることを示唆している。
【0150】
(サンプル1d)
サンプル1aと同じ方法でサンプル1dの固体電解質を作製した。
【0151】
(サンプル1e)
予備乾燥の時間を72時間に変更したことを除き、サンプル1aと同じ方法でサンプル1eの固体電解質を作製した。
【0152】
(サンプル1f及び1g)
混合液の体積をサンプル1aの2倍にして、2つのサンプルを同時に作製したことを除き、サンプル1aと同じ方法でサンプル1f及び1gの固体電解質を同時に作製した。なお、サンプル1f及び1gは同時に乾燥が行われ、かつ、サンプル1f及び1gの混合ゲルの総体積はサンプル1aの混合ゲルの体積の約2倍であったため、サンプル1f及び1gのそれぞれの乾燥の度合いは、サンプル1aのそれに比べて弱かった。
【0153】
約23~24℃でのサンプル1d~1gの固体電解質のイオン伝導度を交流インピーダンス法によって測定した。
【0154】
サンプル1d~1gの固体電解質における吸着水の単分子層の層数を、次の方法で見積もった。まず、BET法を用いて、各サンプルにおける比表面積を導出した。次に、各サンプルにおける残留水分の質量を測定した。残留水分が、(i)固体状(Ice-like)な構造を有しており、かつ、(ii)BET法から見積もられた表面の全域に吸着しているとの仮定の下で、吸着水の層の膜厚を算出した。最後に、算出された膜厚を、水の単分子層の層数に換算した(1ML=0.25nm)。
【0155】
図16Bは、サンプル1d~1gの固体電解質のイオン伝導度と吸着水の単分子層の層数との関係を示すグラフである。図16Bに示すように、吸着水の単分子層の層数が1~4MLの範囲内において、層数の増加に伴って、イオン伝導度が増加した。この結果は、固体状(Ice-like)の構造を有する1~4MLの吸着水が、イオン伝導度の向上に寄与することを示唆している。
【0156】
(FT-IR測定)
表面吸着層としての吸着水層の存在を確かめるために、サンプル1aの固体電解質のFT-IR測定を行った。FT-IR測定は、以下の(a)から(e)のタイミングで行った。追加の真空乾燥は、25℃、0.1Pa以下、72時間の条件で行った。保管の温度は、約23~24℃であった。湿度環境は、サンプル1aの固体電解質が配置されたグローブボックス内に水蒸気を導入することで設定された。結果を図17A及び図17Bに示す。
【0157】
(a)サンプル1aの固体電解質の作製直後
(b)サンプル1aの固体電解質を0.0005%RHの低湿度環境で8日間以上保管した後
(c)追加の真空乾燥を行った後
(d)30%RHの湿度環境で2日間保管した後
(e)60%RHの湿度環境で2日間保管した後
【0158】
図17Aは、3540cm-1付近の波数範囲でのサンプル1aの固体電解質のFT-IRスペクトルを示している。3540cm-1のピークは、SiO-H伸縮振動に帰属されるピークであって、固体状(Ice-like)の構造を有する水の層が存在することを示唆している。ただし、(e)のスペクトルのピークの形状は、他のスペクトルのピークの形状とはやや異なっていた。
【0159】
図17Bは、1630cm-1付近の波数範囲でのサンプル1aの固体電解質のFT-IRスペクトルを示している。(e)のスペクトルのみが1630cm-1付近のピークを持っていた。
【0160】
図17A及び図17Bは、表面吸着水の状態が変化していることを示しており、図16Aを参照して説明した挙動を裏付けている。また、図17A及び図17Bに示す結果は、D. B. Assayらの報告と一致していた。
【0161】
(サンプル2a)
BMP-TFSI、Li-TFSI、0.5mlのTEOS、1.0mlのPGME、PEG(ポリエチレングリコール、平均分子量20000)及び0.5mlの水をガラス容器に入れて混合し、混合液を得た。TEOS、BMP-TFSI及びLi-TFSIの混合比は、モル比にて、TEOS:BMP-TFSI:Li-TFSI=1.0:1.5:0.5であった。PEGの量は、BMP-TFSI、Li-TFSI、TEOS、PGME及び水の総重量に対して1.0重量%であった。
【0162】
次に、ガラス容器を密閉して混合液を25℃で保管した。混合液は、5~17日で湿潤状態の混合ゲルに変化した。
【0163】
次に、デシケータ付きのホットプレートを用い、40℃、80kPaの条件で96時間かけて、混合ゲルを予備乾燥させた。その後、混合ゲルを真空オーブンに入れ、25℃、0.1Pa以下の条件で72時間かけて乾燥させた。これにより、サンプル2aの固体電解質を得た。
【0164】
サンプル2aの固体電解質をグローブボックス(湿度<0.0005%RH)に保管し、約23~24℃でのイオン伝導度を交流インピーダンス法によって測定した。結果を図18に示す。
【0165】
図18は、サンプル1a及び2aの固体電解質のイオン伝導度の経時変化を示している。縦軸は、イオン伝導度を示している。横軸は、作製直後からの経過時間(日)を示している。サンプル1aに関するグラフは、図14のグラフと同一である。PEGを含むサンプル2aの固体電解質のイオン伝導度は、サンプル1aと同様に、低湿度環境(<0.0005%RH)で保管することによって徐々に減少した。しかし、7~10日で平衡状態に達したとき、サンプル2aの固体電解質は、参照サンプル1及びサンプル1aの固体電解質のイオン伝導度よりも高いイオン伝導度を示した。
【0166】
図19は、サンプル2aの固体電解質の表面吸着層の構成を模式的に示している。図19に示すように、サンプル2aの固体電解質には、表面吸着層として、吸着水層及びPEG層が形成されている。図19に示す例では、水分子が多孔質シリカに吸着し、吸着水層を形成している。PEG層は、吸着水層と分極層との間に位置している。
【0167】
サンプル2aの固体電解質を低湿度環境(<0.0005%RH)に保管すると、吸着水層の厚さ及び密度が低下するものの、PEG層は維持される。そのため、Li+イオンが直下のTFSI-イオンに引き付けられる力が弱まり、Li+イオンが動きやすくなる。その結果、サンプル2aの固体電解質は、高いイオン伝導度を示す。
【0168】
(サンプル2b)
BMP-TFSI、Li-TFSI、TEOS、PGME及び水の総重量に対するPEGの量の比率を0.5重量%に変更したことを除き、サンプル2aと同じ方法でサンプル2bの固体電解質を作製した。
【0169】
(サンプル2c)
BMP-TFSI、Li-TFSI、TEOS、PGME及び水の総重量に対するPEGの量の比率を5.0重量%に変更したことを除き、サンプル2aと同じ方法でサンプル2cの固体電解質を作製した。
【0170】
サンプル2b及びサンプル2cの固体電解質をグローブボックス(湿度<0.0005%RH)に7日間保管し、約23~24℃でのイオン伝導度を交流インピーダンス法によって測定した。結果を図20に示す。
【0171】
図20は、サンプル2a、2b及び2cの固体電解質のイオン伝導度とPEGの添加量との関係を示している。縦軸は、イオン伝導度を示している。横軸は、BMP-TFSI、Li-TFSI、TEOS、PGME及び水の総重量に対するPEGの量の比率を示している。破線は、参照サンプル1の電解質のイオン伝導度(0.6mS/cm)を示している。
【0172】
サンプル2a、2b及び2cの固体電解質は、いずれも、参照サンプル1の電解質のイオン伝導度よりも高いイオン伝導度を示した。PEGを添加することは、イオン伝導度を効果的に増加させた。また、PEGの添加量に応じてイオン伝導度が変化した。このことは、PEGの添加量に最適な値が存在することを示唆している。
【0173】
(サンプル3a)
数平均分子量が20000のPEGに代えて数平均分子量が200のPEGを用いたことを除き、サンプル2aと同じ方法でサンプル3aの固体電解質を作製した。
【0174】
(サンプル3b)
数平均分子量が20000のPEGに代えて数平均分子量が400のPEGを用いたことを除き、サンプル2aと同じ方法でサンプル3の固体電解質を作製した。
【0175】
(サンプル3c)
数平均分子量が20000のPEGに代えて数平均分子量が1000のPEGを用いたことを除き、サンプル2aと同じ方法でサンプル3の固体電解質を作製した。
【0176】
(サンプル3d)
数平均分子量が20000のPEGに代えて数平均分子量が4000のPEGを用いたことを除き、サンプル2aと同じ方法でサンプル3の固体電解質を作製した。
【0177】
(サンプル3e)
数平均分子量が20000のPEGに代えて数平均分子量が8000のPEGを用いたことを除き、サンプル2aと同じ方法でサンプル3の固体電解質を作製した。
【0178】
(サンプル3f)
数平均分子量が20000のPEGに代えて粘度平均分子量が600000のPEGを用いたことを除き、サンプル2aと同じ方法でサンプル3の固体電解質を作製した。
【0179】
サンプル3a~3fの固体電解質をグローブボックス(湿度<0.0005%RH)に7日間保管し、約23~24℃でのイオン伝導度を交流インピーダンス法によって測定した。結果を図21に示す。
【0180】
図21は、サンプル2a及び3a~3fの固体電解質のイオン伝導度とPEGの平均分子量との関係を示している。縦軸は、イオン伝導度を示している。横軸は、PEGの平均分子量を示している。ただし、図21において、サンプル3fの平均分子量は粘度平均分子量であり、サンプル2a及び3a~3eの平均分子量は数平均分子量である。破線は、参照サンプル1の電解質のイオン伝導度(0.6mS/cm)を示している。
【0181】
PEGの平均分子量の増加に伴ってイオン伝導度が増加した。平均分子量が4000以上のPEGを用いたサンプル3d、3e、2a及び3fの固体電解質は、参照サンプル1の電解質のイオン伝導度(0.6mS/cm)よりも高いイオン伝導度を示した。イオン伝導度は、PEGの平均分子量が20000付近で最大値を示した。
【0182】
(FT-IR測定)
サンプル2a及び3a~3fの固体電解質のFT-IR測定を行った。比較のため、PEG(数平均分子量8000)単体のFT-IR測定も行った。結果を図22に示す。
【0183】
図22は、840cm-1付近の波数範囲での各固体電解質のFT-IRスペクトルを示している。840cm-1付近のピークは、C-O-C振動に帰属されるピークである。PEG単体では、840cm-1付近にピークが現れた。サンプル3a~3cでは、C-O-C振動に帰属されるピークは現れなかった。このことは、SiO2の孔の内表面にPEGが吸着しなかった、すなわち、PEGによる表面吸着層が形成されなかったことを示している。表面吸着層が形成されなかった理由としては、原料を混合したとき、低分子量のPEGが混合液に溶解し、TEOSと結合を形成しにくかったことが挙げられる。サンプル3a~3cがC-O-C振動に帰属されるピークを示さなかったのは、溶解したPEGが予備乾燥及び/又は乾燥の工程で分解されたためと推測される。
【0184】
なお、図21において、サンプル3a~3cの固体電解質のイオン伝導度が参照サンプル1の電解質のイオン伝導度よりも低かったことの一因は、PEGの分解によって生成された不純物がイオンの移動を妨げたためと考えられる。
【0185】
サンプル2a及び3d~3fでは、C-O-C振動に帰属されるピークが現れた。ピークは、高波数側にシフトしていた。ピークのシフトは、PEG分子がイオン液体に溶解せずに残存し、C-O-C結合内の酸素原子がSiO2の表面のSi-OH基又は吸着水層の水素原子と結合していることを示唆している。PEGが表面吸着層に含まれることによって図19を参照して説明した構造が形成され、Li+イオンが直下のTFSI-イオンに引き付けられる力が弱まり、Li+イオンが動きやすくなったと考えられる。その結果、サンプル2a及び3d~3fの固体電解質は高いイオン伝導度を示したと考えられる。
【0186】
(サンプル4a)
TES-TFSI、Li-TFSI、0.5mlのTEOS、1.0mlのPGME及び0.5mlの水をガラス容器に入れて混合し、混合液を得た。TEOS、TES-TFSI及びLi-TFSIの混合比は、モル比にて、TEOS:TES-TFSI:Li-TFSI=1.0:2.5:0.83であった。
【0187】
次に、ガラス容器を密閉して混合液を25℃で保管した。混合液は、5~17日で湿潤状態の混合ゲルに変化した。
【0188】
次に、デシケータ付きのホットプレートを用い、40℃、80kPaの条件で96時間かけて、混合ゲルを予備乾燥させた。その後、混合ゲルを真空オーブンに入れ、25℃、0.1Pa以下の条件で72時間かけて乾燥させた。これにより、サンプル4aの固体電解質を得た。
【0189】
(サンプル4b)
TES-TFSI、Li-TFSI、0.5mlのTEOS、1.0mlのPGME、PEG(ポリエチレングリコール、数平均分子量400)及び0.5mlの水をガラス容器に入れて混合し、混合液を得た。TEOS、TES-TFSI及びLi-TFSIの混合比は、モル比にて、TEOS:TES-TFSI:Li-TFSI=1.0:2.5:0.83であった。PEGの量は、TES-TFSI、Li-TFSI、TEOS、PGME及び水の総重量に対して1.0重量%であった。
【0190】
次に、ガラス容器を密閉して混合液を25℃で保管した。混合液は、5~17日で湿潤状態の混合ゲルに変化した。
【0191】
次に、デシケータ付きのホットプレートを用い、40℃、80kPaの条件で96時間かけて、混合ゲルを予備乾燥させた。その後、混合ゲルを真空オーブンに入れ、25℃、0.1Pa以下の条件で72時間かけて乾燥させた。これにより、サンプル4bの固体電解質を得た。
【0192】
(サンプル4c)
数平均分子量が400のPEGに代えて数平均分子量が8000のPEGを用いたことを除き、サンプル4bと同じ方法でサンプル4cの固体電解質を作製した。
【0193】
(サンプル4d)
数平均分子量が400のPEGに代えて数平均分子量が20000のPEGを用いたことを除き、サンプル4bと同じ方法でサンプル4dの固体電解質を作製した。
【0194】
サンプル4a~4dの固体電解質をグローブボックス(湿度<0.0005%RH)に7日間保管し、約23~24℃でのイオン伝導度を交流インピーダンス法によって測定した。結果を図23に示す。
【0195】
(参照サンプル2)
参照サンプル2の電解質として、TES-TFSI及びLi-TFSIのみを含む電解液を調製した。TES-TFSIとLi-TFSIとの混合比は、モル比にて、TES-TFSI:Li-TFSI=3.0:1.0であった。約23~24℃での参照サンプル2の電解質のイオン伝導度を交流インピーダンス法によって測定した。参照サンプル2の電解質のイオン伝導度は、1.8mS/cmであった。
【0196】
図23は、サンプル4a、4b、4c及び4dの固体電解質のイオン伝導度を示している。破線は、参照サンプル2の電解質のイオン伝導度(1.8mS/cm)を示している。サンプル4a、4b、4c及び4dの固体電解質は、低湿度環境下においても、参照サンプルの電解質のイオン伝導度(1.8mS/cm)よりも高いイオン伝導度を示した。
【0197】
図23に示すように、高い分子量のPEGを含むサンプル4c及び4dの固体電解質は、PEGを含まないサンプル4aの固体電解質のイオン伝導度よりも高いイオン伝導度を示した。低分子量のPEGを含むサンプル4bの固体電解質は、サンプル4aの固体電解質のイオン伝導度よりもやや低いイオン伝導度を示した。この傾向は、図21に示す結果と一致している。
【0198】
上述の通り、PEGによるイオン伝導度の向上は、混合液に対するPEGの溶解性に応じて発現すると推測される。そのため、高い分子量(例えば、数平均分子量4000以上)のPEGを用いることにより、イオン液体の種類に依存せずに、イオン伝導度を向上させることができると考えられる。
【0199】
(サンプル5a)
サンプル1aの固体電解質を恒温恒湿槽に入れ、25℃、50%RHの条件にて96時間保管した。
【0200】
次に、サンプル1aの固体電解質が入れられた容器にPEG(数平均分子量8000)を入れて容器の蓋を閉め、70℃で72時間保管した。PEGの量は、BMP-TFSI、Li-TFSI、TEOS、PGME及び水の総重量に対して1.0重量%であった。これにより、固体電解質中にPEGを拡散させた。その後、固体電解質をグローブボックス内(湿度<0.0005%RH)に24時間保管した。これにより、サンプル5aの固体電解質を得た。
【0201】
約23~24℃でのサンプル5aのイオン伝導度を交流インピーダンス法によって測定した。その結果、サンプル5aの固体電解質のイオン伝導度は、0.25mS/cmであり、参照サンプル1の電解質のイオン伝導度(0.6mS/cm)よりも低かった。このことは、多孔質シリカを形成した後に固体電解質にPEGを接触させたとしても、PEGを含む表面吸着層が形成されないことを示唆している。
【0202】
サンプル5aの固体電解質においては、バルク層を構成するイオン液体にPEGが溶解したと考えられる。その結果、サンプル5aの固体電解質のイオン伝導度がサンプル1aの固体電解質を0.0005%RHの低湿度環境で9日間保管したときの値(図14)を下回ったと考えられる。
【0203】
(サンプル6a)
BMP-TFSIに代えてBMI-TFSIを用いたことと、TEOS、BMI-TFSI及びLi-TFSIの混合比が、モル比にて、TEOS:BMI-TFSI:Li-TFSI=1.0:1.75:0.58であったこととを除き、サンプル1aと同じ方法でサンプル6aの固体電解質を作製した。
【0204】
(参照サンプル3)
参照サンプル3の電解質として、BMI-TFSI及びLi-TFSIのみを含む電解液を調製した。BMI-TFSIとLi-TFSIとの混合比は、モル比にて、BMI-TFSI:Li-TFSI=3.0:1.0であった。
【0205】
(サンプル6b)
BMP-TFSIに代えてEMI-TFSIを用いたことと、TEOS、EMI-TFSI及びLi-TFSIの混合比が、モル比にて、TEOS:EMI-TFSI:Li-TFSI=1.0:1.75:0.58であったこととを除き、サンプル1aと同じ方法でサンプル6bの固体電解質を作製した。
【0206】
(参照サンプル4)
参照サンプル4の電解質として、EMI-TFSI及びLi-TFSIのみを含む電解液を調製した。EMI-TFSIとLi-TFSIとの混合比は、モル比にて、EMI-TFSI:Li-TFSI=3.0:1.0であった。
【0207】
(サンプル6c)
BMP-TFSI及びLi-TFSIに代えてBMI-BETI及びLi-BETIを用いたことと、TEOS、BMI-BETI及びLi-BETIの混合比が、モル比にて、TEOS:BMI-BETI:Li-BETI=1.0:1.75:0.58であったこととを除き、サンプル1aと同じ方法でサンプル6cの固体電解質を作製した。
【0208】
(参照サンプル5)
参照サンプル5の電解質として、BMI-BETI及びLi-BETIのみを含む電解液を調製した。BMI-BETIとLi-BETIとの混合比は、モル比にて、BMI-BETI:Li-BETI=3.0:1.0であった。
【0209】
(サンプル6d)
BMP-TFSI及びLi-TFSIに代えてEMI-BETI及びLi-BETIを用いたことと、TEOS、EMI-BETI及びLi-BETIの混合比が、モル比にて、TEOS:EMI-BETI:Li-BETI=1.0:1.75:0.58であったこととを除き、サンプル1aと同じ方法でサンプル6dの固体電解質を作製した。
【0210】
(参照サンプル6)
参照サンプル6の電解質として、EMI-BETI及びLi-BETIのみを含む電解液を調製した。EMI-BETIとLi-BETIとの混合比は、モル比にて、EMI-BETI:Li-BETI=3.0:1.0であった。
【0211】
(サンプル6e)
BMP-TFSIに代えてPYR15-TFSIを用いたことと、TEOS、PYR15-TFSI及びLi-TFSIの混合比が、モル比にて、TEOS:PYR15-TFSI:Li-TFSI=1.0:1.75:0.58であったこととを除き、サンプル1aと同じ方法でサンプル6eの固体電解質を作製した。
【0212】
(参照サンプル7)
参照サンプル7の電解質として、PYR15-TFSI及びLi-TFSIのみを含む電解液を調製した。PYR15-TFSIとLi-TFSIとの混合比は、モル比にて、PYR15-TFSI:Li-TFSI=3.0:1.0であった。
【0213】
(サンプル6f)
BMP-TFSIに代えてBMP-FAPを用いたことと、TEOS、BMP-FAP及びLi-TFSIの混合比が、モル比にて、TEOS:BMP-FAP:Li-TFSI=1.0:1.75:0.58であったこととを除き、サンプル1aと同じ方法でサンプル6fの固体電解質を作製した。
【0214】
(参照サンプル8)
参照サンプルの電解質として、BMP-FAP及びLi-TFSIのみを含む電解液を調製した。BMP-FAPとLi-TFSIとの混合比は、モル比にて、BMP-FAP:Li-TFSI=3.0:1.0であった。
【0215】
サンプル6a~6fの固体電解質、及び、参照サンプル3~8の電解質に対して、約23~24℃におけるイオン伝導度を交流インピーダンス法によって測定した。結果を、表1に示す。
【0216】
【表1】
【0217】
表1に示すように、様々なイオン液体とリチウム塩との組み合わせに対しても、イオン液体、リチウム塩、TEOS、PGME、及び水を用いて作製された固体電解質のイオン伝導度は、イオン液体及びリチウム塩のみを含む電解液のイオン伝導度に比べて高い値を示した。この結果によれば、サンプル6a~6fの固体電解質も、サンプル1aの固体電解質と同様の又はそれに類似するような表面吸着層を有していると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0218】
本開示の技術は、リチウムイオン二次電池などの蓄電素子に有用である。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18
図19
図20
図21
図22
図23