(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】計量弁およびこれを備える流体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B65D 83/54 20060101AFI20221117BHJP
B65D 83/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B65D83/54
B65D83/00 G
(21)【出願番号】P 2019560091
(86)(22)【出願日】2018-05-04
(86)【国際出願番号】 FR2018051119
(87)【国際公開番号】W WO2018203013
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-16
(32)【優先日】2017-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502343252
【氏名又は名称】アプター フランス エスアーエス
【氏名又は名称原語表記】APTAR FRANCE SAS
【住所又は居所原語表記】Lieu-dit Le Prieure,27110 Le Neubourg,France
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】プチ リュドビック
(72)【発明者】
【氏名】サレイル セゴレン
【審査官】田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-254578(JP,A)
【文献】国際公開第2015/185904(WO,A1)
【文献】特許第2509521(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/54
B65D 83/00
B05B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吐出するための計量弁であって、
計量室(20)を含む弁本体(10)と、
弁部材(30)と
を備え、
前記弁部材(30)は、
前記弁本体(10)の内部で静止位置と吐出位置の間を軸方向に摺動して、前記計量室(20)の流体を選択的に吐出し、
前記弁本体(10)および前記弁部材(30)それぞれと協働するバネ(8)により、前記静止位置に向けて付勢され、
軸方向吐出口(301)および径方向流入路(302)を有する中心軸管(35)を含み、
前記径方向流入路(302)は、
前記弁部材(30)が前記吐出位置にあるときには、前記計量室(20)に配置され、
前記流体の送出方向に、入口(3021)および前記中心軸管(35)に開口する出口(3022)を有し、
前記径方向流入路(302)の直径は、0.30mm~0.40mmであり、有利には約0.35mmであり、
前記出口(3022)は、前記径方向流入路(302)と直径が等しく、
前記入口(3021)は、前記径方向流入路(302)より直径が大きい
ことを特徴とする計量弁。
【請求項2】
前記径方向流入路(302)は、前記出口(3022)からの長さの大部分にわたって、円筒形状である
ことを特徴とする請求項1に記載の計量弁。
【請求項3】
前記入口(3021)の直径は、0.6mm~0.8mmであり、有利には約0.7mmである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の計量弁。
【請求項4】
前記入口(3021)の径方向深さは、約0.2mmである
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の計量弁。
【請求項5】
流体吐出装置であって、
容器(1)に固定された、請求項1から4までのいずれか1項に記載の計量弁を
備える
ことを特徴とする流体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計量弁およびこれを備える流体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
「計量弁」とは、作動のたびに流体を1回分正確に吐出する弁であり、従来から知られている。流体とこれを吐出するための推進用ガスが入れられた容器の上に、計量弁が組み立てられるのが一般的である。
【0003】
公知の計量弁は主に2種類ある。
【0004】
保持型弁では、弁部材が静止位置にあるときには計量室を部分的に塞いでいる。具体的には、弁部材の外側が計量室のガスケットに密閉されているので、弁部材が静止位置にあるときには、計量室は弁部材の内部流路を介してのみ容器に連通している。
【0005】
「初期無充填型弁(primeless valve)」では、実際に作動する直前まで計量室は充填されない。
【0006】
上記いずれの構成にしても、容器への吐出用流体の充填は、その上に計量弁が組み立てられてから、当該計量弁を通じて行われるのが一般的である。
【0007】
計量弁の重要なパラメータは、各作動における微粒子の吐出量である。実際のところ、微粒子は治療の観点から特に効果的である。
【0008】
別の重要なパラメータは、計量弁を通じて容器を充填するのにかかる時間である。製造工程を長引かせないために、この充填時間が過度に長くなってはならない。
【0009】
特許文献1~3には、従来の装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2014/199182号
【文献】米国特許出願公開第2007/272767号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/023883号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上述の問題がない計量弁を提供することである。
【0012】
すなわち本発明の目的は、各作動における微粒子の吐出量が最適であって、弁を通じた容器の充填を許容可能速度で保証する計量弁を提供することである。
【0013】
本発明の具体的な目的は、製造および組み立てが容易かつ安価であって、動作の信頼性が高い計量弁を提供することである。
【0014】
したがって本発明は、流体を吐出するための計量弁であって、計量室を含む弁本体と弁部材とを備える計量弁を提供する。弁部材は、弁本体の内部で静止位置と吐出位置の間を軸方向に摺動して、計量室の流体を選択的に吐出し、弁本体および弁部材それぞれと協働するバネにより、静止位置に向けて付勢される。弁部材は、軸方向吐出口および径方向流入路を有する中心軸管を含む。径方向流入路は、弁部材が吐出位置にあるときには、計量室に配置され、流体の送出方向に、入口および中心軸管に開口する出口を有する。径方向流入路の直径は、0.30ミリメートル(mm)~0.40mmであり、有利には約0.35mmである。出口は、径方向流入路と直径が等しく、入口は、径方向流入路より直径が大きい。
【0015】
好ましくは、径方向流入路は、出口からの長さの大部分にわたって、円筒形状である。
【0016】
好ましくは、入口の直径は、0.6mm~0.8mmであり、有利には約0.7mmである。
【0017】
好ましくは、入口の径方向深さは、約0.2mmである。
【0018】
本発明はまた、容器に固定された上述の計量弁を備える流体吐出装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
以下に示す詳細な説明および添付図面は、非限定的な例に基づいて本発明の特徴や利点を明確にするものである。
【
図1】保管のために起立した姿勢の計量弁の模式断面図であり、弁部材が静止位置にある状態を示す。
【
図2】
図1に類似する計量弁の図であって、弁部材が吐出位置にある状態を示す。
【
図4】
図3の断面A-Aで切断した弁部材を詳細に示す横断面図である。
【
図5】弁部材の側孔の直径を関数として、微粒子の吐出量を示す棒グラフである。
【
図6】弁部材の側孔の直径を関数として、計量弁を通じて容器を充填するのにかかる時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の説明では、用語「上側」、「下側」、「上」、「下」、「縦」および「横」は、
図1に示す装置が起立した姿勢をとるときの位置を表す。また、用語「軸方向」および「半径方向」は、
図1および
図2に示す計量弁の縦中心軸に対する方向を表す。
【0021】
図1に示す計量弁は、縦中心軸に沿って延在する弁本体10を含む。この弁本体10の内部では、弁部材30が、
図1に示す静止位置と弁本体10に押し込まれた
図2に示す吐出位置との間で摺動する。
【0022】
計量弁は容器1に組み立てられるものである(
図1には計量弁のネック部分のみを概略的に示す)。この組み立ては、好ましくは留め具5により、有利には留め具5と容器1の間にネックガスケット6を挿入して行われる。なお留め具5には、クリンプ、ネジ留めまたはスナップ留めが可能なキャップを用いることができる。また、任意で弁本体10の周囲にリング4を装着すれば、装置が上下反転した姿勢をとるときのデッドボリュームが特に減少したり、流体とネックガスケット6の接触が制限されたりする。リング4は、いかなる形状でもよく、
図1の例に限定されることはない。容器1には、流体が推進用ガスとともに入れられているのが一般的である。具体的には、1以上の有効成分を懸濁液および/または溶液に含めた薬剤が、添加剤のような液化推進用ガスとともに入れられている。
【0023】
弁部材30は、弁本体10に配置されるバネ8により、静止位置に向けて付勢される。バネ8は、まず弁本体10と協働し、次に弁部材30と、好ましくは弁部材30の半径方向に延在するつば320と協働する。弁本体10の内部には計量室20が規定されている。計量弁が作動すると、弁部材30が計量室20の内部を摺動して流体が吐出される。
【0024】
計量室20は、従来どおり、弁部材ガスケット21および計量室ガスケット22の2つの環状のガスケットの間に規定されることが好ましい。
【0025】
弁本体10は円筒部分15を有する。円筒部分15の内部では、バネ8が配置されており、つば320が静止位置と吐出位置の間を摺動する。円筒部分15は、
図1の位置では弁本体の底部にあたる。円筒部分15の側面には、弁本体10の軸方向の長さの一部にわたって縦中心軸に沿って延在する、溝穴のような長尺状の開口11が1以上ある。開口11が設けられているので、装置が上下反転した(計量弁が容器の下方に配置された)作動姿勢での作動が終了する度に、弁部材30が吐出位置から静止位置に戻るときに計量室20を充填できる。
【0026】
図1に示す計量弁は、保管のために起立した姿勢をとる。つまり、計量室20は容器1の上方に位置する。
【0027】
弁部材30は中心軸管35を含む。中心軸管35は軸方向吐出口301および径方向流入路302を有する。弁部材30が吐出位置にあるときには、径方向流入路302は計量室20の内部に配置される。径方向流入路302は、流体の送出方向に、入口3021および中心軸管35に開口する出口3022を有する。
【0028】
驚くべきことに、径方向流入路302の寸法が微粒子の吐出量に影響を与えることが判明した。
【0029】
この効果を実証する試験結果を
図5の棒グラフに示す。
【0030】
図5には、径方向流入路302の直径が小さいほど、弁部材30の出口3022を介した微粒子の送出量が多いことを示す。この結果は以下のとおり説明できる。径方向流入路302の直径を縮小すれば抵抗が増大するので、薬剤が径方向流入路302を通過するのにかかる時間が増加する。そうすると薬剤の吐出流量が低下するので、微粒子の咽喉部分への付着が制限されて気管支への付着は増加する。
【0031】
図5はまた、径方向流入路302の直径が0.40mmを超えると、その変化は微粒子に影響しないことも示している。
【0032】
図5の試験では、計量弁から送出される粒子の空気動力学的粒度分布(APSD)を、医薬品業界向けのインパクタとして知られる特殊な装置、正確には次世代インパクタ(NGI)(薬局方では装置E(Apparatus E)の名称で記載されている)を用いて評価した。流量は毎分30リットル(L/min)とした。
図5の棒グラフに、インパクタに入った微粒子の合計量を示す。注目すべきは、径方向流入路302の直径が小さいほど、噴霧される粒子の径に関しては、計量弁の効果が高いことである。
図5の棒グラフに示す数値は、径が「小さい」粒子である微粒子の量を表す。
図5の試験では、粒子の空気動力学径は6.4マイクロメートル(μm)を下回る。この値は可能な限り大きければ特に有利である。なぜならば、治療の観点からみれば、微粒子径が適切であることは特に効果的であるからである。
【0033】
試験では、添加剤、有効成分(サルブタモール硫酸塩)および推進用ガスとしてのHFA-134aを高比率のエタノール(15重量パーセント(wt%))に含めた薬剤を用いた。そして、これと同一処方の薬剤を全ての容器に充填した。
【0034】
当然ながら、径方向流入路302の直径が小さいほど、計量弁を通じて容器1を充填するのにかかる時間は長くなる。ただし、充填時間が過度に長くなると許容できない場合もある。
【0035】
図6のグラフに径方向流入路302の直径の関数の充填時間を示す。グラフにおける時間は充填時間のみを表すものであり、ここでは(装置に容器を配置したり充填ヘッドを下げたりする)サイクル全体は考慮しない。紫色の線は標準的な計量弁にかかる一般的な充填時間を表すものであり、この線から大きく外れないことが望ましい。
【0036】
図6によれば、径方向流入路302の直径が0.30mmを下回ると、充填時間が過度に長くなることが分かる。
【0037】
したがって本発明では、径方向流入路302の直径は、0.30mm~0.40mmであり、有利には約0.35mmである。この構成により、容器の充填時間が許容できないほどに長引くことなく微粒子の吐出量を最適化できる。したがって、吐出流体による治療効果が向上する。
【0038】
図示する好適な実施形態では、径方向流入路302は、出口3022から入口3021までの長さの大部分にわたって円筒形状である。
【0039】
出口3022は径方向流入路302と直径が等しいが、入口3021は径方向流入路302より直径が大きい。具体的には、入口3021の直径は、0.6mm~0.8mmであり、有利には約0.7mmである。また、入口3021の径方向深さは、有利には約0.2mmである。この構成は特に
図3および
図4から明らかである。この実施形態は成形中に有利である。なぜならば、直径が小さい脆弱なピンの長さを短くして径方向流入路302を構成できるからである。さらに、この実施形態では、弁部材の環状の外縁に接するような脆弱なピンを有する必要がない。これにより、成形手段をより堅牢にすることができるので、弁部材の製造上の信頼性が向上する。
【0040】
従来どおり、弁部材30は、上側部分31(上部弁ともいう)および下側部分32(下部弁ともいう)の2つの部分から構成できる。上側部分31は、中心軸管35、軸方向吐出口301および径方向流入路302を含む。本実施形態では、下側部分32が上側部分31の内部に組み付けられている。
【0041】
弁部材30の具体的には下側部分32には、内部流路33が設けられており、内部流路33によって計量室20を容器1に連通させることができる。これにより、計量弁の作動が終了する度に、弁部材30がバネ8の作用で静止位置に戻るときに計量室20が充填される。装置が上下反転して計量弁が容器1の下方に配置された作動姿勢をまだとっている間に、この計量室20を充填する動作が行われる。
【0042】
図1の実施形態では、弁部材30が静止位置にあるときには、弁部材30の下側部分32と計量室ガスケット22が協働しているので、弁部材30の外側にある計量室20は容器1から実質的に隔離されている。この静止位置では、計量室20は内部流路33を介してのみ容器1に連通した状態を保つ。
図1および
図2に示す計量弁は保持型弁であるが、本発明はACT型を含む他の種類の計量弁にも適用可能である。
【0043】
本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、当然ながら当業者は、添付の特許請求の範囲において定義した本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、任意の変形を適用可能である。