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特許7178400金属炭化物焼結体およびそれを備えた炭化珪素半導体製造装置用耐熱部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】金属炭化物焼結体およびそれを備えた炭化珪素半導体製造装置用耐熱部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/56 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
C04B35/56 070
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020500464
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2019004697
(87)【国際公開番号】W WO2019159851
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2018023079
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】梶野 仁
(72)【発明者】
【氏名】今浦 祥治
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-172906(JP,A)
【文献】特開2009-137789(JP,A)
【文献】特開2004-091241(JP,A)
【文献】特開2010-248060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/56-35/577
H01L 21/31-21/3215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第4族および第5族元素からなる群より選択される少なくとも1種の金属の炭化物焼結体であって、
0.1wtppm以上、1,000wtppm以下のSi元素を含有する、金属炭化物焼結体。
【請求項2】
前記金属が、Ta、Nb、TiおよびZrからなる群より選択される、請求項1に記載の金属炭化物焼結体。
【請求項3】
相対密度が95%以上である、請求項1または2に記載の金属炭化物焼結体。
【請求項4】
焼結体中の気孔の平均径が50μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属炭化物焼結体。
【請求項5】
閉気孔率が5%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属炭化物焼結体。
【請求項6】
JIS R1693-2:2012に準拠して測定される25℃における全放射率が、10%以上、40%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属炭化物焼結体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の金属炭化物焼結体を備えた、炭化珪素半導体製造装置用耐熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属炭化物焼結体に関し、より詳細には、炭化珪素半導体製造装置の耐熱部材等に好適に使用できる金属炭化物焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)半導体は、シリコン(Si)半導体と比較して耐熱性が高いだけでなく、広いバンドギャップを有し絶縁破壊電界強度が大きいという特徴があることから、低電力損失パワーデバイス用半導体材料として注目されており、特に自動車用電子部品の基幹材料として期待が持たれている。SiCは常圧下では融解せず2000℃程度の温度で昇華するため、SiC単結晶体の製造にはSi単結晶体の製造に使用されているCZ法やFZ法を採用することができない。そのため、SiC単結晶体の量産化にあたっては、主に改良レーリー法等の昇華法が採用されている。また、近年、SiC単結晶ウエハの大口径化の要請があることや、低欠陥、高品質のSiC単結晶体を効率的に得るための方法が模索されており、昇華法以外の製造方法(溶液法、ガス成長法等)も注目されている。
【0003】
上記した方法はいずれも黒鉛等の耐熱性容器(坩堝、炉心管等)に原料(粉末、ガス等)を供給し、容器外部から高周波加熱等の手段によって原料を加熱するものであり、SiC単結晶成長は、2000℃以上の超高温領域で行われる。黒鉛は2500℃以上の耐熱性を有する材料であることが知られているものの、上記したようなSiC単結晶成長法では、高温加熱により昇華したSiCやSiC等の昇華ガスや、SiH、H、炭化水素等の原料ガスに由来する反応性ガスに黒鉛容器表面が曝される。このような反応性ガスの存在下では黒鉛が昇華してゆくため、容器の耐熱性は著しく低下する。そのため、黒鉛容器に替えて黒鉛よりも非常に融点の高い金属炭化物(例えば炭化タンタルや炭化ニオブ等)からなる容器を使用する必要がある。
【0004】
また、SiC半導体デバイスは、SiCのバルク単結晶から切り出したウエハを用い、このウエハ上に化学的気相成長(CVD)法や物理的気相成長(PVD)法等によって、SiCエピタキシャル膜を成長させることにより製造される。このようなSiC半導体デバイスを製造する際に使用される成膜装置では、高周波誘導加熱等の手段により、基板であるSiC単結晶ウエハを高温に加熱しその温度を保持する必要があるため、成膜装置にも、耐熱部材として耐熱性の高い金属炭化物材料を使用することが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2等)。
【0005】
ところで、周期表第4族および第5族に属する元素の炭化物(金属炭化物)は、その融点が非常に高いために高温で焼結しても相対密度を高くできず、機械的強度に優れた焼結体を得ることが難しいことが知られている。そのため、機械的強度に優れる焼結体を得るための種々の方法が提案されている。例えば、高圧プレスやホットプレス、放電プラズマ焼結、HIP処理等を用いた焼結法を適用し、炭化タンタル等のような融点が非常に高い金属炭化物であっても相対密度が高い焼結体を得る手法が提案されている(例えば、特許文献3、特許文献4等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2015-514673号公報
【文献】特開2016-4933号公報
【文献】特開平5-319930号公報
【文献】特開2009-137789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3および4等で提案されている手法は、焼結時に加圧する必要があるため、切削工具や炉材の棚板等のような形状が比較的単純である焼結体を得るには適しているものの、複雑な形状を有する焼結体を製造することが容易ではなかった。そのため、SiC単結晶体製造用の坩堝やSiC半導体デバイス製造用成膜装置等の耐熱部材として、炭化タンタル等の金属炭化物焼結体を実用的に使用するには未だ改善の余地があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、融点が非常に高い金属炭化物焼結体において、ホットプレスやHIP等の高圧下での焼結を行わなくとも製造することがきる、相対密度が高く、機械的強度に優れた金属炭化物焼結体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、このような課題に対して検討したところ、周期表第4族および第5族に属する金属の炭化物のような融点が高く焼結しにくい金属炭化物であっても、微量のSiを添加することにより、常圧下での焼結により相対密度が高く、機械的強度に優れる金属炭化物焼結体が得られるとの知見を得た。本発明は係る知見によるものである。本発明によれば、以下の金属炭化物焼結体、およびそれを備えた炭化珪素半導体製造装置用耐熱部材が提供される。
【0010】
本発明による金属炭化物焼結体は、周期表第4族および第5族元素からなる群より選択される少なくとも1種の金属の炭化物焼結体であって、
0.1wtppm以上、10,000wtppm以下のSi元素を含有するものである。
【0011】
本発明の別の態様による炭化珪素半導体製造装置用耐熱部材は、上記金属炭化物焼結体を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属炭化物焼結体中に所定量のSi元素が含まれているため、加圧下で焼結を行わなくとも、相対密度の高い焼結体を得ることができる。したがって、従来相対密度の高い焼結体を得るために必要とされていたホットプレスやHIP等の加圧下での焼結を行う必要がなく、比較的複雑な形状であっても、常圧で焼結することによって、相対密度が高く、機械的強度に優れた焼結体を得ることができる。そのため、本発明による金属炭化物焼結体は、炭化珪素(SiC)単結晶バルクの製造装置の耐熱部材や、炭化珪素半導体ウエハを製造する際の成膜装置における耐熱部材として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<金属炭化物焼結体>
本発明による金属炭化物焼結体は、周期表第4族および第5族元素からなる群より選択される少なくとも1種の金属の炭化物焼結体であり、0.1wtppm以上、10,000wtppm以下のSi元素を含有するものである。周期表第4族および第5族元素であるチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等の金属の炭化物は、高融点を有する金属炭化物として知られている。例えば、炭化チタンの融点(Tm)は3530℃であり、炭化ジルコニウムのTmは3803℃であり、炭化ハフニウムのTmは3887℃であり、炭化ニオブのTmは3800℃であり、炭化タンタルのTmは3880℃である。これら融点の高い金属炭化物は焼結しても相対密度の高い焼結体を得にくい傾向にある。例えば、TaC純度が99%以上のTaC粉末を焼結する場合には、2500℃まで加熱しても相対密度が96%までしか稠密化できないことが知られている(特許文献4の段落0008を参照)。
【0014】
本発明においては、上記したような高融点の金属炭化物に微量のSiを添加し焼結して焼結体としたものである。即ち、0.1wtppm以上、10,000wtppm以下のSi元素を含有する金属炭化物焼結体とすることにより、ホットプレスやHIP等の高圧下での焼結を行わなくとも、相対密度が高く、機械的強度に優れた金属炭化物焼結体を実現することができる。融点が高い炭化物は焼結性が低く、常圧下での焼結では焼結助剤を併用しないと稠密な焼結体を得ることが困難である。焼結助剤としては、その融点が焼結温度よりも低いものが選ばれる。即ち、焼結時に焼結助剤が融解することにより、炭化物どうしが焼結し易くなり稠密な焼結体が得られる。本発明においては、Si元素を上記範囲で含む金属炭化物焼結体とすることにより、周期表第4族および第5族元素からなる群より選択される少なくとも1種の金属の炭化物焼結体であっても、高圧で焼結することなく相対密度が高く、機械的強度に優れる焼結体が得られるものである。金属炭化物焼結体に含まれるSi元素の含有量が0.1wtppm未満であると、常圧焼結おいて相対密度が95%の焼結体を得にくくなる。一方、Si元素の含有量が10,000wtppmを超えると、耐熱部材である焼結体から微量のSi元素が放出されるため、SiC単結晶の製造工程やSiCエピタキシャル成長成膜工程において、SiC単結晶の転位密度等の物性に影響を与える場合がある。常圧下での焼結性、相対密度、機械的強度等に優れる金属炭化物焼結体が得られる観点から、好ましいSi元素含有量は、1wtppm以上、1,000wtppm以下であり、特に10wtppm以上、100wtppm以下であることが好ましい。なお、金属炭化物焼結体中のSi元素の含有量は、高感度グロー放電質量分析(GD-MS)法により焼結体の元素分析を行うことにより定量することができる。
【0015】
本発明の金属炭化物焼結体に使用される金属炭化物としては、周期表第4族および第5族元素からなる群より選択される少なくとも1種の金属の炭化物のなかでも、耐熱性等の観点から、Ta、Nb、Ti、Zrの炭化物であることが好ましく、特に、TaおよびNbの炭化物が好ましい。これら金属炭化物は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。なお、金属炭素物とは、金属元素と炭素とで構成される化合物の総称であり、安定に存在するものである限り、金属元素と炭素との組成比は限定されない。例えば、炭化タンタルは、TaC、TaCのいずれも含むものであり、焼結体中にTaC粒子およびTaC粒子の両方が含まれていてもよい。また、炭化ニオブでは、NbC、NbC、Nbのいずれも含むものであり、焼結体中にNbC粒子、NbC粒子およびNb粒子のいずれか1種または2種以上が含まれていてもよい。
【0016】
上記したような金属炭化物は、公知の方法により得ることができ、例えば、金属(チタン、ジルコニア、ハフニウム、ニオブ、タンタル、タングステン等)の酸化物と炭素とを混合し、混合物を水素還元雰囲気下で加熱することにより金属炭化物を得ることができる。あるいは、金属アルコキシドに、当該金属に配位可能な官能基(例えばOH基やCOOH基)を有する有機物を炭素源として加えた混合溶液を、非酸素雰囲気下で熱処理することにより金属炭化物を得てもよい。
【0017】
金属炭化物焼結体に使用される金属炭化物は、粒状の形態であることが好ましい。粒状の金属炭化物として、平均粒子径が0.05~20.0μmの範囲の金属炭化物を用いることが好ましく、より好ましい平均粒子径の範囲は0.1~10.0μmである。このような範囲にある粒状の金属炭化物を使用することにより、より稠密な炭化物焼結体を得ることができる。なお、平均粒子径とは、フィッシャーサブシーブサイザーを用いて、空気透過法により測定した平均粒子径(フィッシャー径)を意味するものとする。炭化物の平均粒子径は、原料(金属酸化物)の平均粒子径や得られた炭化物を粉砕(解砕)する際の粉砕条件によって適宜調整することができる。なお、粉砕時間が短いと被粉砕物の粒径は大きく、粉砕時間が長いと粒径は小さくなる傾向がある。
【0018】
金属炭化物焼結体に含有されるSi元素源としては、SiOを使用することができる。即ち、金属炭化物に適量のSiOを添加した焼結用組成物を調製し、焼結用組成物を適宜成形して焼結することにより金属炭化物焼結体を得ることができる。焼結用組成物中のSiO含有量を制御することによって、金属炭化物焼結体中のSi元素含有量を調整することができる。金属炭化物焼結体中のSi元素含有量を上記範囲内とするには、組成物中の他の成分の含有量や焼結条件にもよるが、SiO含有量は金属炭化物100質量部に対して0.01~12質量部の範囲であることが好ましく、0.06~3質量部の範囲であることがより好ましく、0.2~0.9質量部の範囲であることが特に好ましい。
【0019】
焼結用組成物中にSiOを均一に分散させる観点から、SiOは、平均粒子径の小さい粒状の形態、またはそれを水等の分散媒に分散した形態であることが好ましい。SiOが粒状である場合は、平均粒子径が0.05~10.0μmの範囲のものを使用することが好ましく、より好ましくは0.1~5.0μmの範囲である。また、分散液の形態である場合は、分散媒中に分散したSiO粒子の平均粒子径が0.001~0.5μmの範囲であるものを使用することが好ましく、より好ましくは0.005~0.1μmの範囲である。なお、平均粒子径の定義は上記と同様である。
【0020】
金属炭化物焼結体を得るに際しては、上記した金属炭化物およびSiOに加えて、バインダー樹脂が含まれていてもよい。バインダー樹脂を添加することにより、焼結用組成物の粘度調整や取扱性が容易となるとともに、焼結用組成物を焼結して炭化物焼結体とする際の成形性を向上させることができる。バインダー樹脂としては、上記のような効果が得られるのであれば特に制限されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、メチルセルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、アセチルセルロース樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらバインダー樹脂は2種以上を混合して用いてもよい。好ましいバインダー樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂である。
【0021】
バインダー樹脂の含有量は、焼結用組成物の粘度に影響するため、焼結用組成物の用途により適宜調整することができる。即ち、焼結体を耐熱部材として使用する場合に、耐熱部材の基材として使用するか、基材の被覆部材として使用するかで、バインダー樹脂の含有量は異なるが、概ね、金属炭化物100質量部に対して、0.1~5.0質量部の範囲とすることが好ましい。バインダー樹脂の含有量をこの範囲とすることで、得られる金属炭化物焼結体の歪みを抑制できるとともに、バインダー樹脂由来の炭素析出物の発生を抑制することができる。焼結後の好ましい残炭率は0~3質量%である。
【0022】
焼結用組成物には、バインダー樹脂の他にも、金属炭化物やSiOの分散性を向上させるための添加剤が含まれていてもよい。例えば、ポリエチレンイミン系高分子分散剤、ポリウレタン系高分子分散剤、ポリアリルアミン系高分子分散剤等を好適に使用することができる。添加剤の含有量は、金属炭化物100質量部に対して、0.03~2.0質量部の範囲が好ましい。
【0023】
焼結用組成物を調製するには、バインダー樹脂や添加剤に加え、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、エタノール、ベンジルアルコール、トルエン、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン等の有機溶剤や水が挙げられ、これら1種または2種以上を混合して使用することができる。溶媒の含有量は、焼結用組成物の粘度に影響するため、焼結用組成物の用途に応じて適宜調整することができるが、炭化物100質量部に対して、概ね5.0~30.0質量部の範囲が好ましい。
【0024】
本発明による金属炭化物焼結体は、上記した焼結用組成物を所望の形状に成形し、焼結することにより得ることができる。例えば、上記した各成分を、ボールミル、ニーダー、ミキサー、高速撹拌機等の手段によって混練してスラリーを調製し、当該スラリーを所望の形状に成形し、得られた成形体を焼結することにより、金属炭化物焼結体を得ることができる。また、スラリーをスプレードライヤー等の手段によって造粒物とした後、造粒物を所望の形状に成形し、得られた成形体を焼結してもよい。焼結用組成物を所望の形状に成形する際の成形方法としては特に制限されるものではなく、従来公知の成形方法である、プレス成形、押し出し成形、鋳込み成形等などを採用することができる。
【0025】
上記のようにして成形体を得た後、成形体を焼結することにより所望形状の金属炭化物焼結体を得ることができる。焼結は、2200~2600℃の温度、好ましくは、2250~2450℃の温度で行う。焼結の開始時の温度以下(1600~1700℃程度)でSiOが融解して焼結助剤として働き、焼結体を稠密化することができる。
【0026】
本発明においては、上記したように、所定量のSi元素が含まれているため、加圧下で焼結を行わなくとも相対密度の高い焼結体を得ることができる。したがって、従来、相対密度の高い焼結体を得るために必要とされていたホットプレスやHIP等の加圧下での焼結を行う必要がなく、比較的複雑な形状の成形体であっても常圧で焼結して、相対密度が高く、機械的強度に優れた焼結体を得ることができる。焼結は、アルゴンやヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0027】
上記のようにして得られた金属炭化物焼結体は、常圧下で焼結した場合であっても、95%以上の相対密度を有する。機械的強度の観点からは、金属炭化物焼結体の好ましい相対密度は97.5%以上であり、特に99%以上であることが好ましい。なお、相対密度とは、理論密度に対する焼結体密度(嵩密度)の比を百分率で表した値と定義され、JIS-R1634に準拠して測定することができる。例えば、TaCの密度を14.3g/cmとし、SiOの密度を2.65g/cmとして加重平均により算出した密度が理論密度であり、アルキメデス法により求めた嵩密度が理論密度の100%に近いほど、焼結体内部に空孔等の欠陥がなく稠密な構造であることを示している。
【0028】
金属炭化物焼結体の純度(焼結体中の金属炭化物が占める質量割合)は97.5%以上であることが好ましい。金属炭化物焼結体の純度を高くすることで、金属炭化物焼結体をSiC半導体製造装置用の耐熱部材として使用した場合の耐熱部材の耐食性(反応ガスに対する耐性)が向上する。なお、97.5%以上の純度を有する金属炭化物焼結体は、残炭率が小さくなるように焼結用組成物の組成を調整したり焼結温度を制御することで得ることができる。なお、焼結体中の金属炭化物が占める質量割合は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP)法、オージェ電子分光(AES法)、X線光電子分光(XPS)法などにより測定することができる。
【0029】
得られた金属炭化物焼結体は、上記のとおり非常に高い相対密度を有するものであるが、焼結体中に気孔が存在していてもよい。その場合、開気孔率は1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることが好ましい。また、閉気孔率は5%以下であることが好ましく、3%以下であることが好ましい。なお、開気孔率(%)は、JIS-R1634に準拠してアルキメデス法により算出することができ、閉気孔率(%)は、上述した理論密度に対する見掛密度の比率を1から引いた値を百分率で表した値(%)である。なお、見掛密度は、JIS-R1634に準拠して測定された値を意味するものとする。一般的に、開気孔率および閉気孔率が小さいほど焼結体の機械的強度を高くすることができる。
【0030】
また、閉気孔率に対する開気孔率の比は、0~0.5であることが好ましい。閉気孔率に対する開気孔率が小さいほど、破壊源となりやすい焼結体外表面の気孔が存在することがなくなるため、一般的に焼結体の機械的強度を高くすることができる。また、そのような焼結体をSiC半導体製造装置用の耐熱部材として使用すれば、雰囲気ガスと接触する表面積が減少するため、耐熱部材の耐食性が向上する。
【0031】
また、金属炭化物焼結体中に気孔が存在する場合であっても、耐熱部材の耐食性の観点からは気孔は小さい程良く、気孔の平均径は50μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以下である。なお、気孔の平均径は、焼結体を切断した断面を鏡面研磨して断面の電子顕微鏡観察を行い、任意の倍率で画像を観察し、画像解析を行うことにより算出することができる。具体的には、断面の任意観察領域を、焼結体部分(マトリックス領域)と気孔部分(非マトリックス領域)との2領域に分割し、断面の所定範囲(例えば1mm×1mmの範囲)に存在する気孔の径を測定し、それらの平均値として算出することができる。また、気孔の最大径は100μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下である。
【0032】
また、気孔の形状は、高強度化、耐食性の向上の観点から略円形である方が好ましく、気孔のアスペクト比は1~2の範囲であることが好ましい。気孔のアスペクト比は、焼結体断面の電子顕微鏡観察による画像解析から気孔を楕円体に近似し、長径および短径を測定して長径から短径を除した値を言うものとする。
【0033】
金属炭化物焼結体の結晶粒径は5~500μmの範囲であることが好ましく、10~100μmであることがより好ましい。本発明においては、上記したように焼結体が所定量のSi元素を含有するため、焼結体を得る際の焼結温度を低くすることができ、結晶粒径が粗大化するのを防ぐことができる。その結果、機械的強度や耐食性に優れる金属炭化物焼結体とすることができる。なお、結晶粒径は、上記のように焼結体断面を鏡面研磨し、エッチングを行った後に断面観察を行い、画像解析を行うことにより算出することができる。
【0034】
本発明による金属炭化物焼結体は、JIS R1693-2:2012に準拠して測定される25℃における全放射率が10%以上、40%以下であることが好ましく、より好ましくは15%以上、35%以下である。このような熱特性を有する金属炭化物焼結体を半導体製造装置用の耐熱部材として使用することにより、成膜装置内温度を効率的に高めることができる。
【0035】
本発明による金属炭化物焼結体は、曲げ強度が200MPa以上であることが好ましく、より好ましくは250MPa以上である。なお、曲げ強度とはJIS R1601に準拠して測定される、室温(25℃)における3点曲げ強度を意味する。200MPa以上の曲げ強度を有する金属炭化物焼結体を半導体製造装置の耐熱部材として使用することにより、装置の耐久性が向上する。
【0036】
また、本発明による金属炭化物焼結体は、表面粗さRaが0.01~10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1~5μmである。相対密度が95%以上であるような稠密な金属炭化物焼結体とすることにより、焼結体表面の研磨により表面粗さRaを上記範囲とすることができる。その結果、半導体製造装置の耐熱部材等に使用する際に基材に貼合し易くまた、耐熱部材としての耐食性も向上する。なお、表面粗さRaは、JIS B0601:2013に準拠した測定により算出することができる。
【0037】
<炭化珪素半導体製造装置用耐熱部材>
本発明による金属炭化物焼結体は、上記したように、融点が非常に高い金属炭化物の焼結体であるものの、所定量のSi元素を含有するためホットプレスやHIP等の加圧下での焼結を行わなくとも、相対密度が高く、機械的強度に優れた金属炭化物焼結体を実現することができる。そのため、炭化珪素(SiC)単結晶バルクの製造装置の耐熱部材や、炭化珪素半導体ウエハを製造する際の成膜装置における耐熱部材として好適に使用することができる。
【0038】
また、金属炭化物を常圧下で焼結しても、相対密度が高く機械的強度に優れた金属炭化物焼結体が得られることから、焼結前に成形体を作製しておき、当該成形体を焼結することにより所望の形状の耐熱部材を製造することができる。例えば、炭化珪素(SiC)単結晶バルクを製造する際の坩堝部材や、炭化珪素半導体ウエハ製造用の成膜装置の壁材等として、金属炭化物焼結体を好適に使用することができる。
【0039】
本発明の実施形態においては、金属炭化物焼結体のみから構成された耐熱部材としてもよく、あるいは基材表面に金属炭化物焼結体からなる層を被覆した構造の耐熱部材としてもよい。
【実施例
【0040】
次に本発明の実施形態について以下の実施例を参照して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
[金属炭化物の準備]
金属炭化物として、以下の3種類の金属炭化物を準備した。
(1)炭化タンタル(三井金属鉱業株式会社製、フィッシャー径1μm、純度99.9%)
(2)炭化ニオブ(三井金属鉱業株式会社製、フィッシャー径1μm、純度99.9%)
(3)炭化ジルコニウム(日本新金属株式会社製、フィッシャー径3μm、純度99.5%)
(4)炭化チタン(日本新金属株式会社製、フィッシャー径1μm、純度99.5%)
【0042】
[実施例1~3、5~8および比較例1、2]
上記した各金属炭化物と、SiO分散液(粒子径0.02μm)とを、下記表1に示す組成となるように混合し、混合物に分散剤としてポリエチレンイミン系高分子分散液を金属炭化物100質量部に対して0.5質量部、樹脂バインダーとしてポリビニルアルコールを金属炭化物100質量部に対して0.5質量部、および溶剤として水を金属炭化物100質量部に対して10質量部となるように添加した。なお、表1中のSiO含有量は、SiO分散液中の固形分含有量を表す。
得られた混合物をボールミルにて4時間混合し、焼結用スラリーを調製した。得られた焼結用スラリーをスプレードライヤーで顆粒化した。次いで、得られた顆粒を成形型に充填し、CIP(冷間静水圧加圧成形)法により、φ100mm×10mmの成形体を作製した。
【0043】
上記のようにして得られた成形体をアルゴン雰囲気下で2300℃の温度で10時間、常圧で焼結することにより焼結体を得た。
【0044】
[実施例4]
上記した金属炭化物(炭化ジルコニウム)とSiO粉末(粒子径1μm)とを、下記表1に示す組成となるように混合し、混合物に分散剤としてポリエチレンイミン系高分子分散液を金属炭化物100質量部に対して0.5質量部、樹脂バインダーとしてアクリルエマルジョンを金属炭化物100質量部に対して0.5質量部、溶剤として水を金属炭化物100質量部に対して10質量部となるように添加した。
得られた混合物をボールミルにて4時間混合し、焼結用スラリーを調製した。得られた焼結用スラリーを用いて鋳込み成形を行い、φ100mm×10mmの成形体を作製した。
【0045】
上記のようにして得られた成形体をアルゴン雰囲気下で2300℃の温度で10時間、常圧で焼結することにより焼結体を得た。
【0046】
<評価>
上記のようにして得られた実施例1~8および比較例1、2の各焼結体について、以下の評価を行った。
(1)Si元素含有量の測定
焼結体に対してグロー放電質量分析法(GD-MS)により元素分析を行った。その結果、各焼結体のSi元素の含有量は下記表1に示されるとおりであった。
【0047】
(2)相対密度の測定
焼結体の相対密度を測定した。金属炭化物およびSiOの密度から理論密度を算出し、嵩密度をJIS-R1634に準拠してアルキメデス法により算出し、理論密度に対する嵩密度の比率により相対密度を求めた。その結果、各焼結体の相対密度は下記表1に示されるとおりであった。
【0048】
(3)純度の測定
上記した焼結体のグロー放電質量分析法(GD-MS)による元素分析結果から、全元素の含有量の総和を不純物含有量(質量%)とし、100から不純物含有量を引いた値を焼結体の純度とした。その結果、各焼結体の純度は下記表1に示されるとおりであった。
【0049】
(4)開気孔率および閉気孔率の測定
焼結体の開気孔率は、JIS-R1634に準拠してアルキメデス法により算出した。また、JIS-R1634に準拠した測定により見掛密度を算出し、上記で算出した理論密度に対する見掛密度の比率を1から引いた値を閉気孔率として算出した。その結果、各焼結体の開気孔率および閉気孔率は下記表1に示されるとおりであった。
【0050】
(5)平均気孔径、最大気孔径および気孔アスペクト比の測定
焼結体を切断し、切断面を研磨して観察面とし、走査型電子顕微鏡を用いて観察面を撮影した二次電子像(SEI)から平均気孔径を求めた。具体的には、二次電子像を任意の位置で100μm×100μmの正方形のグリッドで区切り、グリッド内を焼結体部分(マトリックス領域)と気孔部分(非マトリックス領域)との2領域に分割し、非マトリックス領域内にある任意の気孔(100個)の径を測定し、それらの平均値を平均気孔径とした。また、その中の気孔の最大径を最大気孔径とした。
また、気孔のアスペクト比は、非マトリックス領域内にある任意の気孔(100個)を楕円体に近似し、長径および短径を測定して長径から短径を除した値を出し、その平均値を気孔アスペクト比とした。
その結果、各焼結体の平均気孔径、最大気孔径および気孔アスペクト比は下記表1に示されるとおりであった。
【0051】
(5)表面粗さRaの測定
焼結体を鏡面加工し、加工後の表面粗さRaをJIS-B0601:2013に準拠して測定した。その結果、各焼結体の表面粗さRaは下記表1に示されるとおりであった。
【0052】
(6)全放射率の測定
上記の鏡面加工後の焼結体の全放射率を、JIS-R1693-2:2012に準拠して測定した。その結果、各焼結体の全放射率は下記表1に示されるとおりであった。
【0053】
(7)曲げ強度の測定
焼結体を3mm×4mm×50mmに加工し、JIS-R1601:2008に準拠した3点曲げ強度を測定した。その結果、各焼結体の曲げ強度は下記表1に示されるとおりであった。
【0054】
(8)炭化珪素半導体製造装置用耐熱部材としての性能評価
炭化珪素半導体製造装置の高温耐熱部材を、上記した焼結体からなる高温耐熱部材に変更し、当該炭化珪素半導体製造装置を用いて炭化珪素単結晶を製造した。得られた炭化珪素単結晶の転位密度を測定した。転位密度(EPD)は、炭化ケイ素単結晶の表面をKOHでエッチングした後、100~200倍の光学顕微鏡により当該表面の任意部分について1mm四方のエリアを10箇所観察して各エリア中に存在する転位の個数をカウントし、これらの平均値を100倍した値を転位密度(単位:個/cm)とした。なお、炭化珪素単結晶は転位密度が小さいものは単結晶の品位が良く、良と分類され、転位密度が大きいものは、単結晶の品位が悪く、不可と分類される。得られた単結晶の品位から、以下の評価基準により耐熱部材の評価を行った。
AA:炭化珪素単結晶の品位が「優」と分類されるレベル(転位密度が3,000個/cm未満)である。
A:炭化珪素単結晶の品位が「良」と分類されるレベル(転位密度が3,000個/cm以上、5,000個/cm未満)である。
B:炭化珪素単結晶の品位が「可」と分類されるレベル(転位密度が5,000個/cm以上、10,000個/cm未満)である。
C:炭化珪素単結晶の品位が「不可」と分類されるレベル(転位密度が10,000個/cm以上)である。
焼結体を耐熱部材として使用した際の耐熱部材性能評価は下記表1に示されるとおりであった。なお、比較例1の焼結体を用いた炭化珪素半導体製造装置では、高温耐熱部材の強度が低すぎて炭化珪素単結晶が製造できず、評価が不可能であった。
【0055】
【表1】
【0056】
表1の評価結果からも明らかなように、Si元素の含有量が0.1wtppm以上、10,000wtppm以下の範囲にある金属炭化物焼結体(実施例1~8)は、Si元素の含有量が0.1wtppm未満の金属炭化物焼結体(比較例1)に比べて、相対密度が高く、機械的強度に優れていることがわかる。また、Si元素の含有量が10,000wtppmを超える金属炭化物焼結体(比較例2)では、相対密度が高く、機械的強度に優れるものの、当該焼結体を炭化珪素半導体製造装置の高温耐熱部材に使用すると、製造された炭化珪素単結晶の品質が悪く、良品が得られないことがわかる。