(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 7/00 20060101AFI20221117BHJP
B41F 23/04 20060101ALI20221117BHJP
H05H 1/26 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B41M7/00
B41F23/04 Z
H05H1/26
(21)【出願番号】P 2020516117
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2019012064
(87)【国際公開番号】W WO2019208045
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2018087841
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018087842
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018135672
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】石塚 崇
(72)【発明者】
【氏名】望月 保嗣
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-012919(JP,A)
【文献】特開2003-218099(JP,A)
【文献】特開2014-053136(JP,A)
【文献】特開2012-237032(JP,A)
【文献】特開2016-060157(JP,A)
【文献】特開2004-279491(JP,A)
【文献】特開2005-026171(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0030823(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 7/00
B41F 23/00-23/04
B41J 2/01-2/215
H05H 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体の表面に記録用組成物を付着させて印刷を行う印刷部と、
印刷部に対して印刷媒体の移動方向上流側に設けられる、移動する印刷前の印刷媒体にプラズマ変性ガス及び/又はそれから形成されたプラズマ消光ガスを含む気流をプラズマ放出口から直接放出する上流側プラズマ照射部と、
印刷部に対して印刷媒体の移動方向下流側に設けられる、プラズマ原料ガスの気流を内部に導入する導入口を備え、その内部で前記プラズマ原料ガスをプラズマ化してプラズマ変性ガスの気流を形成させ、その気流を外部に放出させるプラズマ放出口を備えたプラズマ生成室からなるプラズマ生成部と、前記プラズマ放出口から放出されたプラズマ変性ガス及び/又はそれから形成されたプラズマ消光ガスを含む気流を、前記印刷部で印刷された印刷媒体の表面に接触させる
下流側プラズマ照射部と、
を備え
前記下流側プラズマ照射部のプラズマ放出口の開口部は、印刷媒体の表面方向に向いておらず、
前記下流側プラズマ照射部において、前記プラズマ放出口からみて印刷媒体の反対側に、接地、負に帯電あるいは正に帯電させた部材が配置されている、
印刷装置。
【請求項2】
プラズマ変性ガスを含む気流を、印刷部で印刷された印刷媒体の表面に接触させる、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
プラズマ消光ガスを含む気流を、印刷部で印刷された印刷媒体の表面に接触させる、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記印刷部が印刷用ローラにより印刷を行う印刷部であり、
前記プラズマ生成部が、大気圧プラズマを生成し、
前記
下流側プラズマ照射部が、前記気流を放出する先端を有し、印刷媒体に対して直接気流を放出しない方向に向けられた先端を有する、
請求項1に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記印刷部が印刷用ローラにより印刷を行う印刷部であり、
前記プラズマ生成部が、大気圧プラズマを生成し、
前記
下流側プラズマ照射部が、前記気流を放出する先端を有し、前記先端を包囲し、かつ印刷媒体の幅方向に延びたカバーを有し、前記先端から気流がカバー内に放出される、
請求項1に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記プラズマ生成部と前記
下流側プラズマ照射部とが、前記プラズマ放出口を介して連通する一方で、その連通した箇所を除いて互いに空間的に隔てられて配置される、請求項1~5のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
前記
下流側プラズマ照射部が、前記印刷媒体の出入りに必要な大きさの入口開口部及び出口開口部を備える壁面を有する、請求項1~6のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項8】
前記プラズマ変性ガス及び/又は前記プラズマ消光ガスの気流が、印刷媒体が移動する方向に向くように、前記
下流側プラズマ照射部のプラズマ放出口の開口部が印刷媒体の移動方向に向けられてなる、請求項1~7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項9】
印刷部に対して印刷媒体の移動方向上流側において、移動する印刷前の印刷媒体にプラズマ変性ガス及び/又はそれから形成されたプラズマ消光ガスを含む気流をプラズマ放出口から直接放出する上流側プラズマ照射工程と、
印刷媒体の表面に、プラズマ変性ガス及び/又はそれから形成されたプラズマ消光ガスに接触したときに硬化する性質を備えた記録用組成物を付着させて印刷を行う印刷工程と、
前記印刷媒体の表面にプラズマ変性ガス及び/又はプラズマ消光ガスの気流を接触させて印刷媒体の表面に存在する記録用組成物を定着させる乾燥工程と、を備え、
前記乾燥工程は、前記印刷媒体の通過する空間とプラズマ放出口を介して連通し当該空間と隔てられたプラズマ生成室にて、前記プラズマ放出口とは異なる導入口から前記プラズマ生成室にプラズマ原料ガスを導入することで前記導入口から前記プラズマ放出口への気流を形成させ、前記気流がプラズマ生成室にてプラズマ化することでプラズマ変性ガスを生成し、プラズマ変性ガスを前記プラズマ放出口から前記印刷媒体の通過する空間へ放出することにより、プラズマ変性ガス及び/又はそれから形成されたプラズマ消光ガスを含む気流を、前記印刷工程で印刷された印刷媒体の表面に接触させる
ものであり、
前記乾燥工程において、前記プラズマ放出口の開口部は、印刷媒体の表面方向に向いておらず、
前記乾燥工程において、前記プラズマ放出口からみて印刷媒体の反対側に、接地、負に帯電あるいは正に帯電させた部材が配置されている、
印刷物の製造方法。
【請求項10】
前記印刷媒体の通過する空間が、前記印刷媒体の出入りに必要な大きさの入口開口部及び出口開口部を備える壁面で覆われ、前記プラズマ変性ガス及び/又は前記プラズマ消光ガスを含む気流が、前記入口開口部及び出口開口部の少なくとも一つの方向へ向けて流れる、請求項
9に記載の印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置及び印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷物は、紙等の印刷媒体の表面に、インキ等の記録用組成物を付着させ、浸透、硬化、蒸発、熱溶融等の手段により定着させて、文字や画像を形成させたものである。記録用組成物が定着された印刷物は、後加工や重ねることが可能となる。しかし、定着が不十分な場合には、重ねた際に裏移りが生じる、後加工の際に印刷表面に傷が生じる、後加工の際に装置が汚染される等のおそれがある。このため、記録用組成物には高い定着性(速乾性)が求められる。
【0003】
特許文献1、2には、高い定着性(速乾性)の記録用組成物として、紫外線(UV)硬化型記録用組成物を用いることが記載されている。UV硬化型記録用組成物は、紫外線の照射によりラジカルやカチオン等の活性種が生じる光重合開始剤と、こうした活性種の存在下で重合して硬化するモノマーとを含むものである。しかし、従来の記録用組成物と異なり、光重合開始剤やモノマーを用いることから、印刷適性の低下やコストの増加などが問題となることがある。
【0004】
特許文献3~8には、従来の記録用組成物と近い種類の材料を用い、印刷後にプラズマを照射することで、記録用組成物を定着させる方法が提案されている。プラズマは、放電空間内に存在する気体が電離することで形成される。
プラズマの照射方式は、ダイレクト型とリモート型とに分類される。ダイレクト型プラズマ照射は、照射対象を放電空間内に直接送り込み、プラズマ照射を行う方式である。リモート型プラズマ照射は、放電空間の外部から内部へプラズマの原料ガスを流通させ、プラズマ化されたガスを放電空間外に流出させ、これを照射対象と接触させる方式である。
ダイレクト型の場合は、照射対象(紙等の印刷媒体)が放電空間内を通過するため、ダメージを受けるおそれがある。リモート型の場合は、このような問題は生じないが、プラズマ化されたガスの移動に伴うプラズマ反応性の低下や、プラズマ化されたガスの拡散等の影響により、記録用組成物の定着が不十分になるおそれがある。
【0005】
特許文献3には、インク噴出ノズルとプラズマ噴出口とを同じキャリッジに設け、該ノズルからインクを噴出する前に、プラズマにより被印刷物の表面処理を行う、インクジェット印刷装置が記載されている。この装置は、印刷されたインクに対して処理を行うものではない。また、キャリッジは、インク噴出ノズルとプラズマ噴出口とを有するため、大型化し重くなる。よって、装置は、キャリッジを移動させる強力なモータ出力を必要とし、さらに、キャリッジの往復運動時に生じる慣性力を制御するための構成も必要とする。
特許文献4には、インクジェット印刷後の基材の近傍で電極間の放電を行う、インク定着装置が記載されている。この装置のプラズマ照射方式は、ダイレクト型であり、反応性の高い発生直後のプラズマを照射することができ、基材上のインクの少なくとも一部を硬化させることが可能かもしれない。しかしながら、基材を挟んで両側に位置する電極間にてプラズマを発生させ、基材上にて直接放電を発生させることで処理を行うので、印刷媒体がダメージを受けるおそれがある。また、放電は、電極間の放電しやすい位置に発生するおそれがある。よって、基材の幅が増大すると、その幅の全長にわたって均一に処理することが困難になる。
【0006】
特許文献5には、インクジェット方式を採用した転写による印刷装置において、転写後の記録剤に対して常圧プラズマ処理を行うことにより、該記録剤を定着させる装置が、特許文献6には、基材上にインクジェット印刷してなる硬化性組成物に対して、大気圧プラズマ処理及びUV露光処理を行う装置が、特許文献7には、基材上にインクジェット印刷してなる硬化性組成物に対して、大気圧プラズマ処理を行う装置が、それぞれ記載されている。
特許文献8には、媒体に印刷された酸化重合型インキに対して、気体をプラズマ状態として生成させた陰イオンを接触させ硬化させることが記載されている。これは、印刷されたインキを有する媒体を、バッチ式でプラズマが存在する空間内に置くことにより、インキを硬化させるものである。
特許文献5~8に記載の発明では、大気圧プラズマを照射する向きが不明である。また、大気圧プラズマ自体は、気流を伴うものであるため、直接照射すると、インクジェットのインクの液滴の軌道や一旦印字されたドットや輪郭等が気流で乱されることとなり、予定する鮮明さを損なうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-102217号公報
【文献】特許第4649952号公報
【文献】特開2015-199298号公報
【文献】特開2007-106105号公報
【文献】特開2008-12919号公報
【文献】特開2013-203067号公報
【文献】特開2013-10933号公報
【文献】特開2007-54987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
印刷後の印刷物にプラズマを照射する方法は、記録用組成物を乾燥・定着させる方法として新しい手法であり、紫外線照射により乾燥・定着させる方式と比べて、未反応のモノマーや光重合開始剤の分解物等が印刷物から遊離するのを抑制できる点で優れている。この方式における記録用組成物の乾燥は、記録用組成物中の成分を、プラズマにより化学反応させて硬化することにより実現される。
しかしながら、あまりに高いエネルギーのプラズマを用いることは、プラズマを照射したときの印刷媒体へのダメージを考慮すると、避けるべきである。一方、エネルギーの低いプラズマを用いることは、反応活性が不足するため、定着不良が生じるおそれがある。
【0009】
本発明は、リモート型のプラズマ発生装置にて生成されたプラズマを用い、印刷後の記録組成物を十分に乾燥・硬化することができる印刷装置及び印刷物の製造方法を得ることを課題とする。
また、本発明は、プラズマ変性ガス及び/又はプラズマ消光ガスを含む気流により、印刷後の記録用組成物を乾燥・硬化させる際に、印刷媒体上の記録用組成物の形状が、気流により乱されることがない装置及び印刷物の製造方法を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の発明を完成した。
[1] 印刷媒体の表面に記録用組成物を付着させて印刷を行う印刷部と、プラズマ原料ガスの気流を内部に導入する導入口を備え、その内部で前記プラズマ原料ガスをプラズマ化してプラズマ変性ガスの気流を形成させ、その気流を外部に放出させるプラズマ放出口を備えたプラズマ生成室からなるプラズマ生成部と、前記プラズマ放出口から放出されたプラズマ変性ガス及び/又はそれから形成されたプラズマ消光ガスを含む気流を、前記印刷部で印刷された印刷媒体の表面に接触させるプラズマ照射部と、を備えた印刷装置。
[2] プラズマ変性ガスを含む気流を、印刷部で印刷された印刷媒体の表面に接触させる、[1]の印刷装置。
[3] プラズマ消光ガスを含む気流を、印刷部で印刷された印刷媒体の表面に接触させる、[1]の印刷装置。
[4] 前記印刷部が印刷用ローラにより印刷を行う印刷部であり、前記プラズマ生成部が大気圧プラズマを生成し、前記プラズマ照射部が、前記気流を放出する先端を有し、印刷媒体に対して直接気流を放出しない方向に向けられた先端を有する、[1]の印刷装置。
[5] 前記印刷部が印刷用ローラにより印刷を行う印刷部であり、前記プラズマ生成部が大気圧プラズマを生成し、前記プラズマ照射部が、前記気流を放出する先端を有し、前記先端を包囲し、かつ印刷媒体の幅方向に延びたカバーを有し、前記先端から気流がカバー内に放出される、[1]の印刷装置。
[6] 前記プラズマ生成部と前記プラズマ照射部とが、前記プラズマ放出口を介して連通する一方で、その連通した箇所を除いて互いに空間的に隔てられて配置される、[1]~[5]いずれかの印刷装置。
[7] 前記プラズマ照射部が、前記印刷媒体の出入りに必要な大きさの入口開口部及び出口開口部を備える壁面を有する、[1]~[6]いずれかの印刷装置。
[8] 前記プラズマ変性ガス及び/又は前記プラズマ消光ガスの気流が、印刷媒体が移動する方向に向くように、前記プラズマ放出口の開口部が印刷媒体の移動方向に向けられてなる、[1]~[7]いずれかの印刷装置。
[9] 前記プラズマ放出口の開口部が印刷媒体の表面方向に向いていない、[1]~[7]いずれかの印刷装置。
[10] 前記プラズマ照射部において、前記プラズマ放出口からみて印刷媒体の反対側に、接地、負に帯電あるいは正に帯電させた部材が配置される、[1]~[9]いずれかの印刷装置。
[11] 移動する印刷媒体に対して印刷用ローラにより印刷を行う印刷部の上流に、移動する印刷媒体に対して直接プラズマ変性ガス及び/又はそれから形成されたプラズマ消光ガスを含む気流を放出するプラズマ照射部をさらに設けた、[1]~[10]いずれかの印刷装置。
[12] 印刷媒体の表面に、プラズマ変性ガス及び/又はそれから形成されたプラズマ消光ガスに接触したときに硬化する性質を備えた記録用組成物を付着させて印刷を行う印刷工程と、前記印刷媒体の表面にプラズマ変性ガス及び/又はプラズマ消光ガスの気流を接触させて印刷媒体の表面に存在する記録用組成物を定着させる乾燥工程と、を備え、前記印刷媒体の通過する空間とプラズマ放出口を介して連通し当該空間と隔てられたプラズマ生成室にて、前記プラズマ放出口とは異なる導入口から前記プラズマ生成室にプラズマ原料ガスを導入することで前記導入口から前記プラズマ放出口への気流を形成させ、前記気流がプラズマ生成室にてプラズマ化することでプラズマ変性ガスを生成し、プラズマ変性ガスを前記プラズマ放出口から前記印刷媒体の通過する空間へ放出することにより、プラズマ変性ガス及び/又はそれから形成されたプラズマ消光ガスを含む気流を、前記印刷工程で印刷された印刷媒体の表面に接触させる、印刷物の製造方法。
[13] 前記印刷媒体の通過する空間が、前記印刷媒体の出入りに必要な大きさの入口開口部及び出口開口部を備える壁面で覆われ、前記プラズマ変性ガス及び/又は前記プラズマ消光ガスを含む気流が、前記入口開口部及び出口開口部の少なくとも一つの方向へ向けて流れる、[12]の印刷物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リモート型のプラズマ発生装置にて生成されたプラズマを用い、印刷後の記録組成物を十分に乾燥・硬化することができる印刷装置及び印刷物の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、プラズマ変性ガス及び/又はプラズマ消光ガスを含む気流により、印刷後の記録用組成物を乾燥・硬化させる際に、記録媒体上の記録用組成物の形状が、気流により乱されることがない装置及び印刷物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】プラズマ変性ガスを含む気流を、印刷媒体表面に接触させる、本発明の印刷装置の一例を示す図
【
図2】プラズマ消光ガスを含む気流を、印刷媒体表面に接触させる、本発明の印刷装置の一例を示す図
【
図3】プラズマ変性ガス及び/又はプラズマ消光ガスを含む気流を、印刷媒体表面に直接噴出させない、本発明の印刷装置の一例を示す図
【符号の説明】
【0013】
1 プラズマ照射部
1A 上流側プラズマ照射部
1B 下流側プラズマ照射部
11 筺体
112 プラズマ放出口
12 壁面
13 入口開口部
14 出口開口部
15 (印刷媒体3の通過する)空間
2 印刷部
21 印刷用ローラ
3 印刷媒体
4 プラズマ生成部
41 絶縁体
421 電極
422 コイル
43 導入口
431 導入管
44 先端
45 プラズマ生成室
46 ノズル
47 カバー
51 搬送ロール
61 バックアップロール
62 バックアップロール
7 電源
P プラズマ変性ガス
G1 プラズマ原料ガス
G2 プラズマ変性ガス及び/又はそれから形成されたプラズマ消光ガスを含む気流
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の印刷装置の一実施態様及び本発明の印刷物の製造方法の一実施態様についてそれぞれ説明する。
本発明におけるプラズマとしては、科学的に定義されたプラズマを制限なく用いることができる。電離によって生じた荷電粒子を含むエネルギーの高い気体の状態のもので、イオンと電子の数が同数又はほぼ同数で、電気的に中性又はほぼ中性の状態のものであればよい。プラズマは、互いに離間した電極間での放電等の種々の方法で生成することができる。
本発明におけるプラズマ変性ガスは、前記プラズマを含むガスを意味する。プラズマ変性ガスに含まれるプラズマは、生成直後は発光を伴う高エネルギー状態となっている。このため、プラズマ原料ガスの種類に応じた色に発光し、様々な化学反応を誘起させることができる。
本発明におけるプラズマ消光ガスは、前記プラズマ変性ガスから形成され、プラズマ変性ガス中のプラズマが、エネルギーを失って消光し不可視状態となったものを意味する。例えば、プラズマ変性ガスに含まれるプラズマは、気流に乗り長距離移動する際に、徐々にエネルギーを失って消光してゆき、最終的に不可視状態となる。また、例えば、プラズマ変性ガスに含まれる発光しているプラズマから、エネルギーを奪う操作等により、消光させて不可視状態とすることができる。
なお、本明細書においては、プラズマ変性ガス及び/又はプラズマ消光ガスを含む気流を、単に「気流G2」ということもある。
【0015】
<印刷装置>
本発明の一実施態様の印刷装置は、印刷媒体3の表面に記録用組成物を付着させて印刷を行う印刷部2と、プラズマ原料ガスG1の気流を内部に導入する導入口43を備え、その内部で前記プラズマ原料ガスをプラズマ化してプラズマ変性ガスPを含む気流を形成させ、その気流を外部に放出させるプラズマ放出口112を備えたプラズマ生成室45からなるプラズマ生成部4と、前記プラズマ放出口112から放出されたプラズマ変性ガスP及び/又はそれから形成されるプラズマ消光ガスを含む気流G2を、前記印刷部2で印刷された印刷媒体3の表面に接触させるプラズマ照射部1と、を備える。
印刷部2で印刷された印刷媒体3は、プラズマ照射部1の入口である入口開口部13を通りプラズマ照射部1へ搬送され、気流G2と接触する。気流G2と接触すると、印刷媒体3の表面に存在する記録用組成物が硬化し、印刷媒体3の表面に定着される。気流G2と接触した印刷媒体3は、プラズマ照射部1の出口である出口開口部14を通って装置外部へ搬送される。装置外部へ搬送された印刷媒体3は、折りや裁断等といった必要な処理を受け、書籍やポスター等といった印刷製品となる。
【0016】
(印刷媒体)
印刷媒体3としては、塗工紙や普通紙等の紙、各種樹脂フィルム、金属フィルム、及び金属層や金属化合物層を有する積層フィルム等、印刷可能な各種媒体等が例示される。
【0017】
(印刷部)
印刷部2は、搬送されてきた印刷媒体3に対して記録用組成物を用いて印刷を行う装置である。印刷部2には、印刷機が含まれる。また、印刷機そのものが印刷部2であってもよい。このような印刷機としては、公知のものを用いることができ、例えば、オフセット印刷機、フレキソ印刷機、グラビア印刷機、インクジェット印刷機、電子写真装置等が挙げられる。また、各印刷機は、一枚ずつ印刷媒体が供給される枚葉方式のものでもよいし、連続した印刷媒体の巻き取りを用いた輪転方式のものでもよい。
本発明の一実施態様として、印刷部2は、版又は転写ローラ上の記録用組成物を印刷媒体3上に転写する方式(公知の平版、凸版、凹版等の印刷方式)による印刷部とすることができる。
なお、版や転写ローラ上であり、印刷媒体3上に転写する前の記録用組成物に対して、弱いプラズマを照射できる大気圧プラズマ照射ノズルを、版や転写ローラ表面に対向する位置に設けることもできる。この場合には、印刷した後にプラズマ処理する際、記録用組成物の内部を確実に硬化させることができる。
【0018】
(記録用組成物)
記録用組成物は、気流G2に接触したときに硬化する性質を備えるものが用いられる。記録用組成物としては、印刷部2に含まれる印刷機に適したものを選択すればよい。例えば、オフセット印刷機であれば、オフセット枚葉印刷用インキ、オフセット輪転印刷用インキ、新聞印刷用インキ等が用いられる。フレキソ印刷機であれば、フレキソ印刷用インキ等が、グラビア印刷機であれば、グラビア印刷用インキ等が、インクジェット印刷機であれば、インクジェット印刷用インキ等が、電子写真装置であれば、静電荷像現像用トナー組成物(感光ドラム上に形成された静電荷像に付着して画像を形成させる粉体(トナー組成物))等を、それぞれ用いることができる。記録用組成物は、顔料成分、バインダー成分、溶剤成分等から選ばれた1種以上を含む、公知のものが用いられる。使用される記録用組成物は、透明、1色又は多色の何れでもよい。
【0019】
(プラズマ生成部)
プラズマ生成部4は、プラズマを生成させるためのプラズマ生成室45と、プラズマ生成室45を形成する絶縁体41と、プラズマ原料ガスG1をプラズマ生成室45に導入するための導入口43と、プラズマ生成室45内に電界を形成して放電させるための手段と、プラズマ生成室45で発生させたプラズマを含むプラズマ変性ガスPを、プラズマ生成室45から外に放出させるプラズマ放出口112と、を少なくとも有する。
【0020】
プラズマ生成室45内に電界を形成して放電させるための手段に電力が供給され、放電開始電圧を超えると、プラズマ生成室45でプラズマが生成される。プラズマ原料ガスG1は、導入口43からプラズマ生成室45の内部へ吹き込まれ、導入口43からプラズマ生成室45を通過しプラズマ放出口112より外部へ向かう気流を形成する。プラズマ原料ガスG1は、プラズマ生成室45を通過する際にプラズマ化され、プラズマ放出口112から、プラズマ変性ガスPを含む気流として放出される。
印刷媒体3が通過する内部空間15と、プラズマ生成室45(プラズマ生成部4の内部)とは、プラズマ放出口112を介して連通する一方で、その連通した箇所を除いて互いに空間的に隔てられて配置される。このため、プラズマ生成のための放電は、プラズマ生成室45(プラズマ生成部4)の内部のみで行われ、印刷媒体3の通過する内部空間15での放電を抑制できる。したがって、印刷媒体3に対する、プラズマ生成のための放電が抑制されるため、印刷媒体3へのダメージを抑制できる。
プラズマ生成部4は、0.1~10気圧、好ましくは0.7~1.5気圧の圧力範囲においてプラズマを発生させるもので、リモート型のものが例示される。プラズマを生成する際の温度は、特に限定されないが、取扱性等を考慮すると、低温(100℃以下、好ましくは50℃以下)とすることが好ましい。
【0021】
プラズマ生成室45は、絶縁体41で形成された空間であってもよい。プラズマ生成室45を形成する絶縁体41としては、例えば、ガラス、セラミックのような誘電性を備えた材料が用いられる。また、チタン酸バリウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の誘電率が2000以下の誘電体を用いることもできる。
【0022】
プラズマ生成室45を形成する絶縁体41の形状は、特に限定されず、筒状、球状、箱状等の任意の形状とすることができる。プラズマ生成室45を形成する絶縁体41は、先端44(プラズマ放出口112)に近づくほど細くなるように加工されてノズル形状となっていてもよい。
例えば、本発明の一実施態様として、
図1、2に示されるように、プラズマ生成室45は、導入口43と先端44(プラズマ放出口112)を有する筐体11から形成されていてもよい。また、絶縁体41で形成されたプラズマ生成室45を、筐体11で覆うことで保護するものでもよい。
例えば、本発明の一実施態様として、
図4、5に示されるように、筐体11の底面に設けられた穴を、先端44(プラズマ放出口112)としてもよい。
【0023】
プラズマ生成部4のプラズマ生成室45には、導入口43又はそれに連結した導入管431より、プラズマ原料ガスG1が導入される。プラズマ原料ガスG1としては、空気、酸素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、水蒸気等の気体からなる群より選ばれる1種以上が例示されるが特に限定されない。これらの中でも、空気、酸素ガス、窒素ガス及び炭酸ガスからなる群より選ばれる1種以上のガスが好ましい。
【0024】
プラズマ生成室45内に電界を形成して放電させるための手段は、特に限定されず、公知の任意の手段を用いることができる。
例えば、本発明の一実施態様として、
図4に示されるように、筺体11(絶縁体41)の外面又は内面には、互いに極性の異なる一対の電極421、421を互いに離間して対向して形成し、それぞれの電極421、421を、電源7に接続したものを用いてもよい。一対の電極421、421は、プラズマ生成部4を形成する絶縁体41の内部に対向して設けられてもよい。また、表面に絶縁体41等による層が形成された一対の電極421,421の一方を設置することもできる。放電用電極の間隔は、特に限定されず、電圧等を考慮して適宜好適化すればよく、例えば0.5~5.0mm程度とすることができる。電極を用いて放電した場合、プラズマ密度の高い気流G2を形成することができる。
また、本発明の一実施態様として、
図5に示されるように、筺体11(絶縁体41)の外周又は内周にはコイル422を設けるとともに筐体内に電極芯(
図5では示していない)を設け、コイル422と電極芯を、電源7に接続したものを用いてもよい。コイルの間隔、巻長、巻径、線径、電極芯とコイルの間隔、電極芯形状等は、特に限定されず、電圧等を考慮して適宜好適化される。例えば、導入口43から先端44が細長い筒状形状の筐体11の外周又は内周に設けたコイル及び対応する電極芯を用いて放電した場合、放電密度が比較的低いが、ガスが通過する放電体積を大きくすることができ、多量のプラズマを生成することができる。そのため、プラズマ生成室45(コイルを設けた部分である放電部)又はプラズマ放出口112と、印刷媒体3との距離を大きく隔てることが可能となり、印刷装置の設計において有利となる。
電極やコイルには、高周波、パルス波、マイクロ波等の電界が印加されてプラズマが生成する。生成されたプラズマ(大気圧プラズマ)は、原料ガスがプラズマ化により変性したすべてのガスを含む。
【0025】
本発明においては、電界の立ち上がり及び立ち下がりに要する時間(立ち上がり及び立ち下がりとは、電圧が連続して増加又は減少することである。)を短くするために、パルス波を印加することが好ましい。電界の立ち上がりや立ち下がりに要する時間は、10μs以下とされ、好ましくは50ns~5μsとされる。
プラズマ生成部4において発生させる電界強度は、特に限定されない。1kV/cm以上、好ましくは20kV/cm以上とすることができる。また、1000kV/cm以下、好ましくは300kV/cm以下とすることができる。パルス波により電界をかけるときの周波数としては、特に限定されない。0.5kHz以上が好ましく、10~20MHz程度や50~150MHz程度とすることができる。電力としては、40W/cm以下、好ましくは30W/cm以下とすることができる。
【0026】
前記電極421又はコイル422は、安定したプラズマ放電を得るために、プラズマ原料ガスG1に直に接触しない構成とすることができる。そのため、電極421又はコイル422の表面に、コーティング等の公知の手段により絶縁性被膜を設けてもよい。このような絶縁性被膜としては、石英、アルミナ等のガラス質材料やセラミック材料等が挙げられる。
【0027】
(プラズマ照射部)
プラズマ照射部1は、印刷部2から搬送された印刷媒体3の表面に、先端44から噴出させた気流G2を接触させるものである。プラズマ照射部1は、印刷部2に対して、印刷媒体3の移動方向下流に設けられる。印刷部2から搬送された印刷媒体3の表面には、印刷直後の記録用組成物が付着しており、この記録用組成物と気流G2とが接触し、乾燥・硬化して印刷媒体3の表面に定着する。
プラズマ照射部1は、プラズマ生成部4におけるプラズマ生成室45と、先端44(プラズマ放出口112)を介して連通するが、それ以外の部分では、互いに空間的に隔てられた配置となっている。
本発明の一実施態様として、プラズマ照射部1は、プラズマ放出口112から出た気流G2を放出する先端44と、プラズマ放出口112と連通しており、印刷媒体3上の記録用組成物と気流G2とを接触させるための内部空間15と、内部空間15を外部と仕切るための壁面12と,を少なくとも備える。
なお、先端44は、
図4、
図5に示されるように、プラズマ放出口112と実質的に同じものであってもよい。また、先端44は、筐体11によりプラズマ放出口112から離れた位置に設けられてもよい。さらに、先端44は、プラズマ放出口112にノズルやホース等の部材を接続して形成したものであってもよい。
【0028】
本発明の一実施態様として、
図1、2に示されるように、プラズマ照射部1は、上方から内部空間15へ向け壁面12を貫通して設けられるプラズマ生成部4を有し、先端44(プラズマ放出口112)の真下を、印刷媒体3が通過するように構成される。なお、プラズマ生成部4は、壁面12を貫通して設けてもよく、壁面12で囲まれる内部空間15の中に収容するように設けてもよい。
【0029】
先端44(プラズマ放出口112)と印刷媒体3表面との間隔は、例えば、0.1mm~20.0mとされる。
本発明の一実施態様として、
図1に示されるように、印刷媒体3は、発光状態のプラズマ変性ガスPを含む気流と接触するように、先端44(プラズマ放出口112)に近い位置を通過する。プラズマ生成条件等により異なるが、例えば、プラズマ放出口112から10mm以内、好ましくは5mm以内の位置を通過する。
本発明の一実施態様として、
図2に示されるように、印刷媒体3は、発光状態のプラズマが消光して形成されたプラズマ消光ガスを含む気流と接触するように、先端44(プラズマ放出口112)から大きく離れた位置を通過する。プラズマ生成条件等により異なるが、例えば、プラズマ放出口112から10mmを超えた位置を通過する。この際、プラズマ放出口112には、ノズルやホース等の部材を接続してもよい。プラズマ放出口112に設けられた部材の先端と、印刷媒体3との間隔は、任意の距離とすることができ、拡散を防ぐため、10mm以内とすることが好ましい。プラズマ生成の際の放電手段をコイルによる放電とすると、プラズマ放出口112に設ける部材を長尺状のものとすることができ、プラズマ生成室45(放電部)又はプラズマ放出口112と、印刷媒体3との距離を大きくすることができる。
なお、印刷媒体3の搬送速度は、特に限定されないが、0.01m/s以上、好ましくは0.01~10m/sとすることができる。
【0030】
本発明の一実施態様として、先端44(プラズマ放出口112)の形状を、先細のノズル形状、スリット形状、長尺ノズル形状、多数の孔を有するシャワー形状等とすることができる。また、プラズマ放出口112に、先細のノズル形状、スリット形状、長尺ノズル形状、多数の孔が任意の間隔で設けられているシャワー形状等の部材を1つ以上取り付け、先端44を形成することができる。
【0031】
本発明の一実施態様として、複数のプラズマ放出口112を有するプラズマ生成部4を用い、複数のプラズマ放出口112が印刷媒体3の幅方向に沿って少なくとも1列並ぶようにプラズマ照射部1を形成することができる。また、1つ以上のプラズマ放出口112を有するプラズマ生成部4を1つ以上用い、印刷媒体3の幅方向に沿って少なくとも1列並べてプラズマ照射部1を形成することができる。例えば、
図7~
図9に示すように、3つのプラズマ生成部4は、印刷媒体3の幅方向に沿って1列並べられる。
複数の先端44(プラズマ放出口112)を、印刷媒体3の幅方向及び/又は搬送方向に複数配置すると、印刷媒体3の表面上に気流G2をムラなく接触させることが可能になる。その際、各先端44(プラズマ放出口112)の形状としては、円筒状、印刷媒体3の幅方向に長い(例えば、印刷媒体3の幅方向長さと略同一)スリット形状(幅薄の直方体形状)、前記スリットがV字、S字、波形等とされたスリット形状、多数の孔が任意の間隔で設けられているシャワー形状等とすることができる。いずれの場合も、印刷媒体の幅方向にムラなく気流G2を噴出できるように構成されるのが好ましい。
【0032】
本発明の一実施態様として、プラズマ照射部1の先端44(プラズマ放出口112)を、細い穴として形成し、気流G2をその穴から勢いよく噴出させてもよい。
本発明の一実施態様として、
図3に示されるように、プラズマ照射部1(下流側プラズマ照射部1B)の先端44(プラズマ放出口112)を、長尺のノズル形状(ノズル46)としてもよい。先端44(プラズマ放出口112)自体を加工してノズル46としてもよく、プラズマ放出口112に延長ノズル(ノズル46)を設けてもよい。これにより、気流G2が拡散されるのを防止でき、印刷媒体3の表面の記録用組成物と接触するプラズマ及び/又は消光したプラズマの密度をより高くすることができる。
本発明の一実施態様として、プラズマ照射部1の先端44(プラズマ放出口112)を、複数の穴が形成されたシャワーヘッド状のものとしてもよい。この場合、気流G2がより広い範囲に分散され、気流G2と印刷媒体3とを広い面積で接触させることができる。なお、シャワーヘッド状とすると、プラズマの消光が早くなる傾向がある。また、シャワーヘッド状とすると、気流G2が大量に必要となることから、コイルを用いた放電によりプラズマを生成することが好ましい。
【0033】
本発明の一実施態様として、プラズマ照射部1の先端44(プラズマ放出口112)を、任意の方向に向けることで、気流G2の噴出方向を調製することができる。例えば、印刷媒体3の搬送方向、印刷媒体3の搬送方向と逆の方向、印刷媒体3の搬送方向と交差する方向(印刷媒体3の幅方向)、印刷媒体3の表面に向かう方向、印刷媒体3の表面に向かわない方向等のいずれかに向けることができる。例えば、
図1、2、6に示される印刷装置では、プラズマ照射部1の先端44(プラズマ放出口112)は、印刷媒体3に向けて気流G2が直接放出される方向に向けられている。例えば、
図3に示される印刷装置では、印刷媒体3に気流G2が直接噴出しない方向に向けられている。例えば、プラズマ照射部1の先端44(プラズマ放出口112)又はプラズマ放出口112に部材を1つ以上取り付けて形成した先端44の形状をスリット状とした場合、スリットの長辺方向は、印刷媒体3の幅方向と交差する方向(スリットの長辺方向と印刷媒体3の幅方向が一致する)とすることができる。また、スリットの長辺方向は、印刷媒体3の幅方向と交差しない方向とすることができる。
【0034】
本発明の一実施態様として、プラズマ照射部1の先端44(プラズマ放出口112)の向きを、移動する印刷媒体3上の記録用組成物の方向に向けないようにする。これにより、印刷媒体3上の記録用組成物に気流G2が直接噴射されず、印刷媒体3上の乾燥・硬化前の記録用組成物の各ドットや輪郭を拡げることを防止することができる。また、プラズマ照射部1の先端44(プラズマ放出口112)の向きを、印刷媒体3が移動する向きや印刷媒体3から離れる方向に向けることで、移動する印刷媒体3により生じる随伴流とともに、印刷媒体3上の乾燥・硬化前の記録用組成物と気流G2とを長時間接触させることができる。例えば、気流G2を、先端44(プラズマ放出口112)から、印刷媒体3の搬送方向に向けて流す際には、気流G2の流速を、印刷媒体3の搬送速度に対して0.8から1.2倍程度、好ましくは0.9~1.1倍程度とすることができる。これにより、印刷媒体3上の乾燥・硬化前の記録用組成物付近の気流G2は、該記録用組成物に対して実質的に流速を有しないこととなり、乾燥・硬化前の記録用組成物を揺らすこと無く、印刷の輪郭が明瞭なままで乾燥・硬化させることができる。
【0035】
本発明の一実施態様として、
図1、2に示されるように、プラズマ照射部1は、印刷媒体3の出入りに必要な大きさの入口開口部13及び出口開口部14を備え、気流G2が入口開口部13及び/又は出口開口部14に向けて流れるよう構成された壁面12を備えていてもよい。これにより、気流G2は、印刷媒体3上の記録用組成物に直接接触するとともに、印刷媒体3の通過する空間15に充満される。印刷媒体3上の記録用組成物は、気流G2と直接接触することによる乾燥・硬化だけでなく、気流G2が充満された空間に長時間置かれることで乾燥・硬化が促進される。このような構成とすることで、リモート型のプラズマを用いた際に不足しがちな乾燥・硬化性を補うことができ、記録用組成物の乾燥・硬化を十分に行うことができる。気流G2と印刷媒体3上の記録用組成物との接触時間は、少なくとも0.01秒、好ましくは0.05秒~30秒程度確保されるように構成することが好ましい。
なお、「印刷媒体3の出入りに必要な大きさ」とは、印刷媒体3の大きさ、印刷媒体3を搬送する機構の大きさ、紙詰まりを防止する等のクリアランスを含んでいてもよい。クリアランスが大きいと、気流G2が散逸する可能性がある。よって、入口開口部13及び出口開口部14の大きさは、印刷媒体3の出入りに必要な最小限の通過断面積であって、気流G2との接触が最大限確保できるものとされる。
【0036】
本発明の一実施態様として、プラズマ照射部1は、印刷媒体3の入口及び出口に相当する入口開口部13及び出口開口部14を、先端44(プラズマ放出口112)からなるべく遠くに設け、入口開口部13から先端44(プラズマ放出口112)を経由して出口開口部14まで続くトンネルとなるように壁面12を設けることができる。トンネルの高さは、特に限定されないが、先端44(プラズマ放出口112)近傍以外を、印刷媒体3の搬送に障害とならない範囲で低くすることができる。また、入口開口部13と出口開口部14との間の長さ(トンネルの長さ)は、特に限定されないが、5cm~10m程度とすることができる。
先端44(プラズマ放出口112)は、入口開口部13及び出口開口部14と空間的につながっているものの、壁面12により外部と隔離される。したがって、先端44(プラズマ放出口112)から放出された気流G2は、トンネル内を入口開口部13及び/又は出口開口部14へ向けて流れることができる。印刷された印刷媒体3は、長い時間にわたって気流G2と接触することになり、より一層その表面に存在する記録用組成物の乾燥・硬化を促進させることができる。
【0037】
本発明の一実施態様として、
図3に示すように、プラズマ照射部1の先端44(下流側プラズマ照射部1Bの先端44)を包囲するカバー47を設けることができる。カバー47としては、任意の形状等のものを用いることができ、印刷媒体の幅方向に延びていてもよく、前記の壁面12と同様のものとしてもよい。カバー47により、気流G2が拡散するのを防止でき、カバー47内の雰囲気中のプラズマ及び/又は消光したプラズマ密度をより高くすることができる。また、カバー47を設けることで、印刷媒体3上の乾燥・硬化前の記録用組成物に向けて、気流G2が直接放出されることなく、気流G2と接触させることができる。例えば、先端44(プラズマ放出口112)を上方に向け、該先端から噴出された気流G2をカバー47内に滞留させ、カバー47内のプラズマ及び/又は消光したプラズマ密度を向上させるとともに、これを印刷媒体3上の乾燥・硬化状態の記録用組成物に接触させることが容易となる。
本発明の一実施態様として、カバー47(壁面12)は、プラズマ照射部1の先端44(下流側プラズマ照射部1Bの先端44)と、印刷媒体3上の乾燥・硬化前の記録用組成物とを囲むことができる。なお、カバー(壁面12)の形状は、気流G2の散免を防ぐことができ、印刷媒体3上の乾燥・硬化前の記録用組成物の気流G2により乾燥・硬化を促進できるものであれば、特に限定されない。
【0038】
本発明の一実施態様として、印刷媒体3に対してプラズマ照射部1の反対側に、印刷媒体3を支持するためのバックアップロール62を設けることができる。バックアップロール62は、任意の材料で構成されるが、導電性材料から構成することが好ましい。バックアップロール62は、直流電源の陽極側又は陰極側に接続されて正又は負に帯電させることができ、また、直接アースと接続することができる。バックアップロール62をアース(接地)と接続した場合や、プラズマ粒子の極性と逆の極性に帯電している場合には、プラズマ放出口112から放出されたプラズマ変性ガスP中のプラズマ及び/又は消光したプラズマは、バックアップロール62に電気的に指向し引き寄せられる。この結果、バックアップロール62と接する印刷媒体3の表面側に、プラズマ及び/又は消光したプラズマ密度が高い場所が生成され、より効率よく印刷媒体3上の記録用組成物の乾燥・硬化処理を行うことができる。
また、本発明の一実施態様として、バックアップロール62にかえて、任意の形状や構造の部材を設けることもできる。部材としては、シート状や板状の部材、印刷媒体3のための公知の吸引保持部材や静電チャック等があげられる。部材として、その表面が導電体であるものを用いると、導電性材料から構成されたバックアップロール62を用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0039】
以上、本発明の印刷装置及び印刷物の製造方法の一実施態様について説明したが、本発明は、これらの実施態様に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加え実施することができる。
【0040】
本発明の一実施態様として、
図3に示されるように、プラズマ照射部1を、印刷部2(印刷用ローラ21)に対して印刷媒体3の移動方向上流側と下流側の少なくとも2か所に設けることができる。
図3では、印刷用ローラ21の上流に上流側プラズマ照射部1Aが、印刷用ローラ21の下流に下流側プラズマ照射部1Bが、それぞれ設けられている。
上流側プラズマ照射部1Aは、印刷前の印刷媒体3に、気流G2が接触するものであれば、どのようなものでもよい。好ましくは、印刷前の印刷媒体3に気流G2を直接放出する構成とすることができる。
これにより、印刷前の印刷媒体3の表面がプラズマ処理され、記録用組成物との密着性が向上する。
また、印刷前の印刷媒体3の表面には、少なくとも数秒間プラズマ及び/又は消光したプラズマが残存することとなる。印刷媒体3表面に印刷された記録用組成物は、記録媒体3の表面に残留しているプラズマにより、その内部及び/又は印刷媒体3との界面において乾燥・硬化が進展することとなる。
【0041】
上流側プラズマ照射部1Aは、(大気圧)プラズマをフィルム等の成形体に吹き付けてプラズマ処理を行う周知のプラズマ処理装置を用い構成してもよい。例えば、積水化学工業社製のRTシリーズやAPTシリーズ、ヤマトマテリアル社などから提供されている適宜のプラズマ処理装置、特開2004-207145号公報、特開平11-260597号公報又は特開平3-219082号公報に記載のプラズマ装置等があげられる。
また、上流側プラズマ照射部1Aは、例えば
図10に示されるように、プラズマ照射部1とプラズマ照射部1にリモート型でプラズマを供給する導入管431(導入口43)、樹脂シート等の印刷媒体3を搬送する搬送ロール5等からなるプラズマ処理装置により構成してもよい。
また、上流側プラズマ照射部1Aは、例えば
図6に示す装置と共通して、絶縁体41により被覆された一対の電極421の間をプラズマ化されるプラズマ原料ガスG1が通過し、その通過時に、電極間にて印加された電圧によりプラズマ原料ガスG1がプラズマ化されるものであってもよい。
図3では、プラズマ変性ガスPを含む気流がプラズマ放出口112を通過し、印刷媒体3表面と接触する。
図3では、プラズマ放出口112が斜下方に向けられているが、直下に向ける等、任意の方向に向けることができる。
【0042】
本発明の一実施態様として、
図3に示されるように、印刷媒体3に対して上流側プラズマ照射部1Aの反対側に、印刷媒体3を支持するためのバックアップロール61を設けることができる。バックアップロール61は、任意の材料で構成されるが、導電性材料から構成することが好ましい。バックアップロール61は、例えば
図3に示されるように、直流電源の陽極側又は陰極側に接続されて正又は負に帯電させることができまた、直接アースと接続することができる。バックアップロール61をアース(接地)と接続した場合や、プラズマ粒子の極性と逆の極性に帯電している場合には、プラズマ放出口112から放出されたプラズマ変性ガスP中のプラズマ及び/又は消光したプラズマは、バックアップロール61に電気的に指向して引き寄せられる。この結果、バックアップロール61と接する印刷媒体3の表面側に、プラズマ及び/又は消光したプラズマ密度が高い場所が生成され、効率よく印刷媒体3の表面処理等を行うことができる。
また、本発明の一実施態様として、バックアップロール61にかえて、任意の形状や構造の部材を設けることもできる。部材としては、シート状や板状の部材、印刷媒体3のための公知の吸引保持部材や静電チャック等があげられる。部材として、その表面が導電体であるものを用いると、導電性材料から構成されたバックアップロール61を用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0043】
本発明の一実施態様として、上流側プラズマ照射部1Aの先端44(プラズマ放出口112)を、長尺ノズル形状(ノズル46)としてもよい、先端44(プラズマ放出口112)自体を加工してノズル46としてもよく、プラズマ放出口112に延長ノズル(ノズル46)を設けてもよい。これにより、気流G2が拡散されるのを防止でき、プラズマ及び/又は消光したプラズマの密度が調製された気流G2を、印刷用ローラ21の表面と接触させることができる。印刷用ローラ21上の記録用組成物は、印刷後に記録用組成物被膜の内部となる部分が、あらかじめ気流G2によりある程度乾燥・硬化される。ある程度乾燥・硬化された記録用組成物は、印刷媒体3上に転写された後、その後の気流G2による乾燥・硬化されることで、内部までより確実に乾燥・硬化される。
本発明の一実施態様として、上流側プラズマ照射部1Aの先端44(プラズマ放出口112)を、複数の穴が形成されたシャワーヘッド状のものとしてもよい。この場合、印刷前の印刷媒体3及び/又は印刷用ローラ上の記録用組成物に、気流G2を効率よく広範囲に接触させることができる。
【0044】
本発明の一実施態様として、プラズマ照射部1の入口開口部13又は出口開口部14の少なくともいずれか一方の付近に、局所排気装置を設けてもよい。気流G2は、作業環境へ放出されることが好ましくないオゾン等の化学物質を含んでいる可能性がある。局所排気装置を設けることで、そのような化学物質を作業環境へ放出させないようにすることができる。局所排気装置を一方のみに設けると、設けなかった側の開口部にG2が流れないが、本発明では、入口開口部13及び出口開口部14の少なくとも一つの方向へ向けて流れる気流G2があればよい。
【0045】
本発明の一実施態様として、気流G2を回収し、少なくともその一部をプラズマ原料ガスG1として再利用する手段を設けることができる。例えば、気流G2が再び導入口43に導かれるような循環回路とする構成や、気流G2を回収し一旦貯蔵したものをプラズマ原料ガスG1として用いる構成を設けることができる。その際、送風機(ブロアー)や吸引機を設けてガスの循環速度を調製することができる。また、吸湿ユニット等の各種吸着ユニットにより、循環するガス中の湿分や不純物を除去することができる。
【0046】
<印刷物の製造方法>
本発明の印刷物の製造方法は、印刷媒体3の表面に、プラズマ変性ガス及び/又はそれから形成されたプラズマ消光ガスを含む気流(気流G2)に接触したときに硬化する性質を備えた記録用組成物を付着させて印刷を行う印刷工程と、印刷工程を経た印刷媒体3の表面に気流G2を接触させて印刷媒体3の表面に存在する記録用組成物を定着させる乾燥工程とを備える。本発明の印刷物の製造方法は、好ましくは前記本発明の印刷装置を用いて実現することができる。以下の説明では、前記[印刷装置]の一実施態様の説明を取り込むことができる。以下、各工程について説明する。
【0047】
[印刷工程]
印刷工程は、印刷媒体3の表面に、気流G2に接触したときに硬化する性質を備えた記録用組成物を付着させて印刷を行う工程である。
印刷媒体、記録用組成物及び印刷方式としては、特に限定されるものではないが、例えば、前記[印刷装置]であげた印刷媒体3、記録用組成物及び印刷方式を採用することができる。
印刷工程を経た印刷媒体3は、乾燥工程に付される。
例えば、印刷装置として前記本発明の印刷装置を用いた場合、印刷部2により印刷工程を経た印刷媒体3は、搬送装置(例えば、搬送ロール5)によりプラズマ照射部1へ搬送されて乾燥工程に付されることになる。
【0048】
[乾燥工程]
乾燥工程は、印刷工程を経た印刷媒体3の表面に、気流G2を接触させて印刷媒体3の表面に存在する記録用組成物を定着させる工程である。記録用組成物は、気流G2に接触したときに硬化する性質を備えるので、本工程で乾燥・硬化されて印刷媒体3の表面に定着される。これにより、べとつきのない(タックフリーな)印刷物を形成することができる。
気流G2は、特に限定されるものではないが、例えば、前記[印刷装置]においてあげられた気流G2と同様のものとすることができる。
前記気流G2を発生させる方法及び装置は、特に限定されるものではないが、例えば、前記[印刷装置]においてあげられている方法及び装置を用いることができる。
前記気流G2を印刷媒体3と接触させる方法及び装置は、特に限定されるものではないが、例えば、前記[印刷装置]においてあげられている方法及び装置を用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載では、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0050】
[ワニスの調製]
冷却管、温度計及び撹拌機を装着した4つ口フラスコに、重量平均分子量5~6万のロジン変性フェノール樹脂(ハリマ化成社製、ハリフェノールP-160)40.5部及び大豆油58.9部を仕込んだ後210℃に昇温し、同温度を40分間維持することにより樹脂を溶解させた後、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(川研ファインケミカル社製、ALCH)を0.6部仕込み、その後170℃で50分間加熱保持して、ワニスを得た。
【0051】
[インキ組成物の調製]
表1に示す処方にて各種の材料を混合し、三本ロールを用いて練肉することでインキ1~5のインキ組成物を調製した。表1に示した各成分の配合量は質量部である。表1において、「色顔料」は着色顔料のフタロシアニンである。
【0052】
【0053】
[硬化試験]インキ1~5の各インキ組成物について、
図1に記載したプラズマ照射部1を用いてプラズマ照射した際の硬化性を評価した。まず、インキ組成物の試料0.1ccをとりRI展色機(2分割ロール、明製作所社製)を用いてPP(ポリプロピレン)フィルム(積水成型工業社製、製品名:ポリセームPC-8162)に展色し、その後、プラズマ照射部1の入口開口部13から出口開口部14に向けて、搬送速度0.5m/秒の速さで前記展色物を通過させた。その際、プラズマ原料ガスを空気(流量5L/分)、プラズマ放出口の径を1mm、プラズマ放出口112と展色物との間隔を4mmとした。各展色物について、脱脂綿で表面を拭き取ったところ、いずれのインキ組成物についても脱脂綿へのインキ組成物の付着はなく、硬化(定着)していることが確認された。