(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】回転数測定のための勾配決定
(51)【国際特許分類】
G01P 3/44 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
G01P3/44 A
(21)【出願番号】P 2020530551
(86)(22)【出願日】2018-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2018080423
(87)【国際公開番号】W WO2019110228
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】102017221876.2
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500045121
【氏名又は名称】ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ウェンゼル
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ドライホルツ
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-203658(JP,A)
【文献】特開昭60-210768(JP,A)
【文献】特開昭60-1338(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0304354(US,A1)
【文献】米国特許第5916295(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 3/00- 3/80
G01P15/00-15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な手段と、センサと、評価ユニットと、を備える装置であって、
前記手段は、
a個のマーキングを備え、
前記手段が回転すると、前記マーキングは、前記センサによって検出される領域を周期的に通過し、
前記センサは、信号を前記評価ユニットに送信するように構成され、
前記評価ユニットは、すべての
【数1】
に対して、
【数2】
およびt
i<t
i+1で、各信号に対して、信号の送信時点t
iを割り当て、
前記手段の回転数のための測定として、すべての
【数3】
に対して、時間tに応じた関数n(t)を、以下で計算するように構成され、
【数4】
前記評価ユニットは、前記手段の回転数の勾配のための測定として、少なくとも1つの
【数5】
に対して、時間tに応じた関数m(t)を、以下で計算するように構成され、
【数6】
その際、定数Tでt
k≦t
j-T<t
k+1が適用されるように、
【数7】
が選択され、
少なくとも1つの
【数8】
に対して以下が適用され、
【数9】
その際、
【数10】
が適用され、また
【数11】
が適用されるように
【数12】
が選択されていることを特徴とする、装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、少なくとも1つの時点t´に対して
【数13】
で、以下が適用される、
【数14】
ことを特徴とする、装置。
【請求項3】
回転可能な手段の回転数のための測定として、時間tに応じた関数n(t)を計算する方法であって、
前記手段は
a個のマーキングを備え、
前記手段が回転すると、前記マーキングは、センサによって監視される領域を周期的に通過し、
前記センサは、信号を評価ユニットに送信するように構成され、
すべての
【数15】
に対して、
【数16】
およびt
i<t
i+1で、各信号に対して、信号の送信時点t
iを割り当て、
前記手段の回転数のための測定として、すべての
【数17】
に対して、時間tに応じた関数n(t)を、以下で計算し、
【数18】
前記手段の回転数の勾配のための測定として、少なくとも1つの
【数19】
に対して、時間tに応じた関数m(t)を、以下で計算し、
【数20】
その際、定数Tでt
k≦t
j-T<t
k+1が適用されるように、
【数21】
を選択し、
少なくとも1つの
【数22】
に対して以下を適用し、
【数23】
その際、
【数24】
を適用し、また
【数25】
を適用するように
【数26】
を選択することを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念による装置、および請求項4の上位概念による方法に関する。
【0002】
測定量の導関数は、多数のアプリケーションにおいて使用される。そのために、単純な差分商、または、例えばサビツキィ‐ゴレイ(Savitzki-Golay)フィルタ等のデジタルフィルタの、いずれかが使用される。DT1素子を、単純な調整技術要素として使用することができる。全ての導関数形成に共通するのは、基本信号内のノイズが導関数の強いノイズにつながることである。導関数が、例えば大きなウィンドウ幅を有するデジタルフィルタ、または高い時定数を有するDT1素子によって、フィルタリングされる場合、入力信号とこの信号の導関数との間に、位相シフトが発生する。
【0003】
回転数を決定する一般的な方法は、回転するセンサホイールの輪郭を検出して評価することに基づく。この目的ために、例えば、デッドタイム測定によって、時間帯ごとにセンサを通過する歯の数を決定することができる。センサを通過する最後の2つの歯の間の時間間隔が、決定される。
【0004】
センサ信号の走査の実現可能な周波数は、技術開発により常に上昇している。走査周波数がより高くなると、より厳しい要件を伴うが、回転数勾配をより正確に決定できるようになる可能性も高まる。従来のソフトウエアアプリケーションでは、10msごとに回転数が検出される。ステップ幅を、例えば1msに低減すると、計算上、一定の回転数の場合に走査時間帯ごとにセンサを通過するのは、センサホイールのマーキングの10分の1のみである。したがって、センサホイールの回転数およびマーキングの数に応じて、歯がセンサホイールを通過しない、つまり新たな回転数情報が存在しないタイムステップが著しく増加する。しかしながら、回転数勾配を連続的に計算する際には、新たな回転数情報のない時点でも信号が生成可能でなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、従来技術から既知の解決策に内在する欠点を除去することである。特に、位相シフトが可及的に僅かであり、かつ信号ノイズが可及的に少ない回転数勾配を提供すべきとする。静止状態から回転する際、また静止状態の方向へ回転する際には、回転数勾配を可及的に正確に検出可能とすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1に記載の装置および請求項4に記載の方法によって解決される。好適な発展形態は、従属請求項に含まれている。
【0007】
この装置は、回転可能な手段と、センサと、評価ユニットと、を備える。この手段は、任意の角度で、特に360°を超える角度で、自由に、かつ無制限に回転可能である。
【0008】
この手段は、1つ以上のマーキングを備える。マーキングの個数は、aである。この手段は、シャフトまたは軸に、特に軸またはシャフト上に、相対回転不能に固定されたセンサホイールとすることができる。全周に穴が開いた穴あきディスク等が、センサホイールとして適している。2つの穴は、これら2つの穴の間を走るウェブによって分離される。歯車も、その歯がマーキングとしても使用されるため、センサホイールとして適している。
【0009】
特に誘導センサ、磁場センサ、または光電子センサが、センサとして適している。
【0010】
センサまたはセンサによって検出される領域は、マーキングと位置合わせされている。手段が回転すると、マーキングは検出される領域を周期的に通過する。これは、手段が360°回転するとき、各マーキングが、センサによって検出される領域を、厳密に1回通過することを意味する。
【0011】
マーキングは、それぞれ、マーキングの少なくとも一部が、領域に入り、領域を通過し、そして領域から再び出ることによって、センサによって検出される領域を通過する。マーキングが通過する際に、センサは信号を生成する。マーキングの少なくとも一部が領域に入り、領域を去るとき、またはマーキングの少なくとも一部が領域内に存在する間に、この信号を生成することができる。
【0012】
信号は、評価ユニットに送信される。評価ユニットは、すべての
【数1】
に対して、
【数2】
およびt
i<t
i+1で、各信号に対して、信号の送信時点t
iを割り当て、手段の回転数のための測定として、すべての
【数3】
に対して、時間tに応じた関数n(t)を、以下で計算するように構成されている。
【0013】
【0014】
信号の送信時点tiは、マーキングがセンサによって検出される領域を通過する時点に相当する。
【0015】
本発明により、評価ユニットは更に、手段の回転数の勾配または変化のための測定として、少なくとも1つの、好適にはすべての
【数5】
に対して、時間tに応じた関数m(t)を、以下で計算するように構成されている。
【0016】
【数6】
この場合、定数Tでt≦t
j-T<t
k+1が適用されるように、
【数7】
が選択されている。
【0017】
したがって、本発明によれば、回転数勾配の決定には、マーキングがセンサによって検出される領域を通過した時点に対して決定された回転数のみが含まれる。時点の間には、少なくともTの時間インターバルが存在する。
【0018】
多くの用途において、回転可能な手段の静止状態への減速および静止状態からの動きが、特に興味深い。本発明による方法の助けによって、静止状態から動く際に、勾配値が迅速に形成される。
【0019】
特に、回転数が遅い場合、勾配を形成するために参照される時点間の間隔が大きくなるため、信号が著しく改良される。次いで、可能な限り勾配の実際値を決定するために、より少ないセンサ情報を用いて勾配が形成される。極めて回転数が小さい場合、存在する最後の2つのセンサ信号を介して勾配が形成される。
【0020】
本発明による方法は、回転数がより高い場合、つまりセンサ信号が十分に短い時間間隔で存在する場合、隣接する走査ステップを介してではなく、マーキングがセンサによって検出される領域を複数回通過することをカバーするパラメータ化可能な時定数Tを介して、勾配が形成されることを特徴とする。そのため、勾配形成に関与するセンサ信号のノイズ成分が低減される。
【0021】
本発明に従って、速度勾配を差分商として決定する代わりに、可変ウィンドウ幅を有するデジタルフィルタを使用することが考えられる。これは、測定値の可変数に相当する。したがって、考慮されるタイムスパンの最初と最後の値だけでなく、いくつかの値が、勾配を決定するために使用される。
【0022】
検出される最小回転数nminを定義することが一般的である。そこから導出されるタイムスパンで、マーキングが、センサによって検出される領域を通過しない場合、静止しているとみなされる。この場合、理論的に決定された回転数は、それにもかかわらず勾配決定のために保存される。値0が勾配として出力される。
【0023】
回転可能な手段が、長時間静止した後に再び回転を開始すると、その回転のために、マーキングがセンサによって検出される領域に入る。静止のために、このマーキングの検出と、センサによって検出される領域を通過した最後のマーキングとの間の時間間隔は、非常に大きい。これは、最小回転数nmin未満の回転数に相当するであろう。したがって、評価ユニットは、回転数として値0を計算することになる。同様に、回転数勾配も0になるであろう。
【0024】
次のマーキングが、センサによって検出される領域を通過すると、最後に検出された2つのマーキングに基づいて計算された平均回転数が、最小回転数n
minを超えることが予想される。ここで回転数勾配が差分商として形成されると、高すぎる値が算出される。これを回避するために、好適には、評価ユニットが、
【数8】
が適用される場合に、少なくとも1つの
【数9】
に対して以下を計算するように、更に構成されている。
【0025】
【数10】
この場合、
【数11】
が適用されるように、
【数12】
が選択されている。
【0026】
検出された回転数が最小回転数nmin未満である場合、実際に検出された回転数ではなく、最小回転数nminが、勾配を計算するために参照される。その結果、対応してより小さく、より良好に現実の回転数推移を反映する回転数勾配の推移が得られる。
【0027】
時点t
i、
【数13】
の間のギャップは、好適な発展形態において補間される。そのため、発展形態により、少なくとも1つの時点t´に対して
【数14】
で、好適にはすべての時点t´に対して
【数15】
で、以下が適用される。
【0028】
【0029】
本発明による方法は、本発明による装置の評価ユニットによって、または好適な発展形態によって実施される上述の方法である。
【0030】
好適な実施形態は、図に示されている。この場合、一致する符号は、同一の特徴、または機能的に同一の特徴を示す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】従来技術から既知の、勾配を決定する第1方法を示す図である。
【
図2】従来技術から既知の、勾配を決定する第2方法を示す図である。
【
図3】時定数を用いた勾配を計算する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1乃至
図5において、時間tに応じた回転数関数n(t)および回転数勾配m(t)の推移が示されている。計算された勾配m(t)に対応する回転数n(t)の仮定の推移は、点付きで示されている。
【0033】
回転するセンサホイールは、センサを用いて走査される。走査は、時間間隔(走査インターバル)t
sで互いに続く離散的な時点に対して行う。センサホイールのマーキングがセンサによって検出される時点t
i、
【数17】
は、走査インターバルt
sの整数倍である。
【0034】
回転数関数n(t)は、
図1乃至
図4により、すべての
【数18】
に対して以下のように計算される。
【0035】
【0036】
回転数勾配m(t)は、
図1により、以下のような値になる。
【0037】
【0038】
回転数の推移は連続的であるが、勾配m(t)は、t
3およびt
4において、パルス状の偏向を有する。これは、以下のように、
【数21】
で、存在する最後の2つの回転数情報の差分商として勾配m(t)を形成することによって、防ぐことができる。
【0039】
【0040】
図2に示される勾配m(t)は、その推移が平滑化されているにもかかわらず、ノイズの影響を受けやすく、回転数に依存する位相シフトを受ける。この問題は、
図3に示すように、パラメータ化可能な時定数Tを介して勾配m(t)を形成することによって、解決される。勾配m(t)は、この場合、
【数23】
に対して、以下のように計算される。
【0041】
【数24】
その際、定数Tでt
k≦t
j-T<t
k+1が適用されるように、
【数25】
が選択されている。
【0042】
図4は、静止状態からスタートするセンサホイールにおける回転数関数n(t)の推移を示す。破線は、実際の回転数推移を示す。時点t
1とt
2との間の静止時間が長いため、実際の回転数をはるかに下回る回転数が、時点t
3に対して計算される。これにより、勾配m(t)が領域t
3≦t<t
4においてピークを構成することになる。
【0043】
この種のピークは、
図5に示すように、最小回転数n
minを設定することによって除去することができる。時点tに対して、センサ信号から計算された回転数n(t)が最小回転数n
minよりも小さい場合には、計算された回転数n(t)の代わりに最小回転数n
minを参照して、勾配を決定する。したがって、t
3≦t<t
4のために、m(t)は以下のように計算される。
【0044】
【数26】
この場合、Tは、簡略化のためにt
sとしてパラメータ化されている。