IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-排気浄化フィルタ 図1
  • 特許-排気浄化フィルタ 図2
  • 特許-排気浄化フィルタ 図3
  • 特許-排気浄化フィルタ 図4
  • 特許-排気浄化フィルタ 図5
  • 特許-排気浄化フィルタ 図6
  • 特許-排気浄化フィルタ 図7
  • 特許-排気浄化フィルタ 図8
  • 特許-排気浄化フィルタ 図9
  • 特許-排気浄化フィルタ 図10
  • 特許-排気浄化フィルタ 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】排気浄化フィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20221117BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20221117BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20221117BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20221117BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B01J23/63 A
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 220
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01J35/04 301E
B01J35/10 301F
F01N3/035 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021006008
(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公開番号】P2022110535
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】森 武史
(72)【発明者】
【氏名】津山 智子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 孝行
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/100582(WO,A1)
【文献】特開2018-189092(JP,A)
【文献】特開2019-194478(JP,A)
【文献】特開2019-118856(JP,A)
【文献】特開2011-147931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/63 - 38/74
B01D 53/94
F01N 3/00 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、前記内燃機関の排気中の粒子状物質を捕捉して浄化する排気浄化フィルタであって、
排気の流入側端面から流出側端面まで延びる複数のセルが多孔質の隔壁により区画形成され、且つ、前記流出側端面における開口が目封じされた流入側セルと、前記流入側端面における開口が目封じされた流出側セルと、が交互に配置されたフィルタ基材と、
前記隔壁に担持された排気浄化触媒と、を備え、
前記排気浄化触媒のウォッシュコート量が60g/L以上110g/L以下であり、
前記排気浄化触媒は前記隔壁内部及び前記隔壁表面に担持されており、
前記排気浄化フィルタの流入側から流出側に至るセル長手方向の略3等分を上流部、中間部、下流部と区分した際に、
前記上流部、前記中間部、前記下流部のそれぞれにおいて、
前記流入側セルの所定箇所において前記隔壁表面に担持されている前記排気浄化触媒の面積率をSEMで測定した流入側触媒面積率と、
前記流出側セルの所定箇所において前記隔壁表面に担持されている前記排気浄化触媒の面積率をSEMで測定した流出側触媒面積率と、の平均値を求め、
前記所定箇所は、前記上流部、前記中間部、前記下流部のそれぞれの開口部から同一距離の位置であり、
前記中間部においては実際の開口部はなく、切断部における仮想の開口部であり、
前記平均値の最小値が28%以上であり、
前記上流部、前記中間部、前記下流部の前記排気浄化触媒の担持後の前記隔壁における、体積基準によるメジアン気孔径(D50)を求め、その最大値が14.6μm以下である、排気浄化フィルタ。
【請求項2】
前記平均値の最小値が64%以上である、請求項1に記載の排気浄化フィルタ。
【請求項3】
前記隔壁の厚さが11mil以下である、請求項1又は2に記載の排気浄化フィルタ。
【請求項4】
前記排気浄化触媒の担持前の前記隔壁のメジアン気孔径(D50)気孔径が12μm以
上である、請求項1から3のいずれか一つに記載の排気浄化フィルタ。
【請求項5】
前記流出側セルの開口径が前記流入側セルの開口径より小さい、請求項1から4のいず
れか一つに記載の排気浄化フィルタ。
【請求項6】
前記隔壁表面に担持される前記排気浄化触媒上に、ゼオライトが配置されている、請求
項1から5のいずれか一つに記載の排気浄化フィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化触媒を備える排気浄化フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等に搭載されるガソリンエンジンにおいて、燃焼効率の向上等の観点から、直噴ガソリンエンジンの採用が進められている。ところが、この直噴ガソリンエンジンでは、PM等の粒子状物質がポートインジェクション(PI)エンジンよりも多く排出されるため、近年のエミッション規制(PM排出規制、PN(排出微粒子の粒子数)規制)の強化に伴って、ガソリンエンジンの排気通路に粒子状物質を捕捉する排気浄化フィルタ(Gasoline Particulate Filter、以下「GPF」という。)を設ける技術の検討が進められている。
【0003】
GPFは、排気の流入側端面から流出側端面まで延びる複数のセルが多孔質の隔壁により区画形成され、且つ、流出側端面における開口が目封じされた流入側セルと、流入側端面における開口が目封じされた流出側セルと、が交互に配置されたフィルタ基材である。
【0004】
一方、ガソリンエンジンの排気通路には、排気中に含まれるCO、HC及びNOxを浄化する三元触媒(以下、「TWC」という)が、ハニカム支持体に担持された状態で設けられる。TWCとGPFは排気ルート上に直列に配置されている。
【0005】
ここで、上記のGPFにもTWCを担持させ、粒子状物質捕捉性能に加えて三元浄化機能をGPFに付与することも検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2018-537265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、隔壁に担持された排気浄化触媒の層厚は、排気方向に沿って層厚が傾斜している。具体的には、流入側セル及び流出側セルの排気方向に沿って連続的に変化し、最大層厚が流入側セルの開いた端部側と、流出側セルの開いた端部側に存在している(オンウォールくさび形コーティングプロファイル)。この結果、排気方向の中間部においては、排気浄化触媒の層厚が薄くなっている。また、特許文献1は、隔壁に担持された排気浄化触媒が粒子状物質の捕捉性能に及ぼす影響については検討されていない。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、粒子状物質の高い捕捉性能を有する排気浄化フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 内燃機関の排気通路に設けられ、前記内燃機関の排気中の粒子状物質を捕捉して浄化する排気浄化フィルタであって、
排気の流入側端面から流出側端面まで延びる複数のセルが多孔質の隔壁により区画形成され、且つ、前記流出側端面における開口が目封じされた流入側セルと、前記流入側端面における開口が目封じされた流出側セルと、が交互に配置されたフィルタ基材と、
前記隔壁に担持された排気浄化触媒と、を備え、
前記排気浄化触媒のウォッシュコート量が60g/L以上110g/L以下であり、
前記排気浄化触媒は前記隔壁内部及び前記隔壁表面に担持されており、
前記排気浄化フィルタの流入側から流出側に沿って、上流部、中間部、下流部と区分した際に、
前記上流部、前記中間部、前記下流部のそれぞれにおいて、
前記流入側セルの所定箇所において前記隔壁表面に担持されている前記排気浄化触媒の面積率をSEMで測定した流入側触媒面積率と、
前記流出側セルの所定箇所において前記隔壁表面に担持されている前記排気浄化触媒の面積率をSEMで測定した流出側触媒面積率と、の平均値を求め、
前記平均値の最小値が28%以上であり、
前記上流部、前記中間部、前記下流部の前記排気浄化触媒の担持後の前記隔壁における、体積基準によるメジアン気孔径(D50)を求め、その最大値が14.6μm以下である、排気浄化フィルタ。
【0010】
(1)の発明によれば、ウォッシュコート量が60g/L以上110g/L以下であり、かつ、流入側セル及び流出側セルの排気方向に沿って、排気浄化触媒の担持量がより均一であり、排気方向での変化も少ない。この構成によると、意外にも、NOxなどの浄化性能のみならず、粒子状物質の捕捉性能も向上できることを本発明者等が見出したものである。
【0011】
また、(1)の発明によれば、フィルタ基材の体積基準によるメジアン気孔径(D50)の最大値が14.6μm以下と小さいために、比表面積が増大し、排気との接触確率が高まるので、浄化性能も向上する。
【0012】
(2) 前記平均値の最小値が64%以上である、(1)に記載の排気浄化フィルタ。
【0013】
(2)の発明によれば、粒子状物質の捕捉性能を更に向上できる。
【0014】
(3) 前記隔壁の厚さが11mil(0.2794mm)以下である、(1)又は(2)に記載の排気浄化フィルタ。
【0015】
(3)の発明によれば、粒子状物質の捕捉性能を向上しつつ、圧力損失を抑制できる。なお、1mil=0.0254mmである。
【0016】
(4) 前記排気浄化触媒の担持前の前記隔壁のメジアン気孔径(D50)が12μm以上である、(1)から(3)のいずれか一つに記載の排気浄化フィルタ。
【0017】
(4)の発明によれば、粒子状物質の捕捉性能を向上しつつ、圧力損失を抑制できる。
【0018】
(5) 前記流出側セルの開口径が前記流入側セルの開口径より小さい、(1)から(4)のいずれか一つに記載の排気浄化フィルタ。
【0019】
(5)の発明によれば、粒子状物質の捕捉性能を向上しつつ、圧力損失を抑制できる。
【0020】
(6) 前記隔壁表面に担持される前記排気浄化触媒上に、ゼオライトが配置されている、(1)から(5)のいずれか一つに記載の排気浄化フィルタ。
【0021】
(6)の発明によれば、粒子状物質の捕捉性能を向上しつつ、ハイドロカーボン(HC)の浄化率を向上できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、粒子状物質の捕捉性能に優れる排気浄化フィルタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置の構成を示す図である。
図2】上記実施形態に係るGPFの断面模式図である。
図3図2における、一対の流入側セル及び流出側セルの拡大図である。
図4】実施例における、流入側セルの流入側触媒面積率(On-wall率)を測定したグラフである。
図5】実施例における、流出側セルの流出側触媒面積率(On-wall率)を測定したグラフである。
図6】実施例における、排気浄化触媒の担持後の隔壁におけるメジアン気孔径(D50)を測定したグラフである。
図7】実施例における、隔壁の厚さと、粒子状物質の捕捉率との関係を示すグラフである。
図8】実施例における、隔壁の厚さと、圧損との関係を示すグラフである。
図9】実施例における、排気浄化触媒の担持前の隔壁におけるメジアン気孔径(D50)と、圧損との関係を示すグラフである。
図10】実施例における、セルの開口径と圧損との関係を示すグラフである。
図11】排気浄化触媒上に、ゼオライトが配置されている場合のHC浄化率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
<排気浄化装置の全体構成>
図1は、本実施形態に係る内燃機関(以下、「エンジン」という。)1の排気浄化装置2の構成を示す図である。
エンジン1は、直噴方式のガソリンエンジンである。図1に示すように、排気浄化装置2は、排気が流通する排気管3の上流側から順に設けられた、TWC31と、排気浄化フィルタとしてのGPF32と、を備える。
【0026】
TWC31は、排気中のHCをHOとCOに、COをCOに、NOxをNにそれぞれ酸化又は還元することで浄化する。TWC31は、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、ゼオライト等の酸化物からなる担体に、触媒金属としてPdやRh等の貴金属を担持させたものが用いられる。このTWC31は、通常、ハニカム支持体上に担持される。
【0027】
また、TWC31は、OSC能を有するOSC材を含む。OSC材としては、CeOの他、CeOとZrOの複合酸化物(以下、「CeZr複合酸化物」という。)等が用いられる。中でも、CeZr複合酸化物は、高い耐久性を有するため好ましく用いられる。なお、これらOSC材に、上記触媒金属が担持されていてもよい。
【0028】
TWC31の調製方法については特に限定されず、従来公知のスラリー法等により調製される。例えば、上記の酸化物、貴金属、OSC材等を含むスラリーを調製後、調製したスラリーをコージェライト製ハニカム支持体にコートして焼成することにより調製される。
【0029】
GPF32は、排気中の粒子状物質を捕捉して浄化する。具体的には、後述する隔壁内の微細な細孔を排気が通過する際に、隔壁の表面に粒子状物質が堆積することで、粒子状物質を捕捉する。
【0030】
ここで、本明細書における粒子状物質には、すす(カーボンスート)、オイルの燃え残り(SOF)、オイルの燃え滓であるアッシュ(Ash、灰)、PM等の粒子状物質が含まれる。近年では、これら粒子状物質の排出規制が厳格化されてきており、これら粒子状物質の総排出重量(g/km、g/kW)の規制(PM規制)だけでなく、例えばPM2.5等の粒子径2.5μm以下の小さな粒子状物質の排出個数が規制(PN規制)されるようになってきている。これに対して、本実施形態に係るGPF32は、これらPM規制やPN規制に対応可能なものである。
【0031】
図2は、本実施形態に係るGPF32の断面模式図である。図3は、図2における一対の流入側セル及び流出側セルの拡大断面図である。
【0032】
<排気浄化フィルタの全体構成>
図2に示すように、GPF32は、フィルタ基材320と、フィルタ基材320の隔壁323に担持された排気浄化触媒(本実施形態ではTWC33)と、を備える。
【0033】
フィルタ基材320は、例えば軸方向に長い円柱形状であり、コージェライト、ムライト、シリコンカーバイド(SiC)等の多孔質体により形成される。フィルタ基材320には、流入側端面32aから流出側端面32bまで延びる複数のセルが設けられ、これらセルは隔壁323により区画形成される。
【0034】
フィルタ基材320は、流入側端面32aにおける開口を目封じする流入側目封じ部324を備える。流入側目封じ部324によって流入側端面32aにおける開口が目封じされたセルは、流入側端部が閉塞している一方で流出側端部が開口し、隔壁323内を通過した排気を下流へ流出させる流出側セル322を構成する。流入側目封じ部324は、フィルタ基材320の流入側端面32aから目封じ用セメントを封入することで形成される。
【0035】
フィルタ基材320は、流出側端面32bにおける開口を目封じする流出側目封じ部325を備える。流出側目封じ部325によって流出側端面32bにおける開口が目封じされたセルは、流入側端部が開口する一方で流出側端部が閉塞しており、排気管3から排気が流入する流入側セル321を構成する。流出側目封じ部325は、フィルタ基材320の流出側端面32bから目封じ用セメントを封入することで形成される。
【0036】
セルの流入側端面32aにおける開口と、流出側端面32bにおける開口とが互い違いに目封じされることで、流出側端面32bにおける開口が目封じされた流入側セル321と、流入側端面32aにおける開口が目封じされた流出側セル322と、が交互に配置されている。
【0037】
図2中に矢印で示すように、流入側セル321に流入した排気は、隔壁323内に流入した後、隔壁323内を通過して流出側セル322へと流出する。排気が隔壁323に流入する側が入口側(Inlet)であり、排気が隔壁323から流出する側が出口側(Outlet)である。
【0038】
<排気浄触媒>
図3に示すように、流入側セル321と流出側セル322を構成する隔壁323の内表面には、三元触媒であるTWC33が担持されている。三元触媒としては、上記のTWC31の触媒を用いることができる。
【0039】
TWC33は、上述のTWC31と同様に、排気中のHCをHOとCOに、COをCOに、NOxをNにそれぞれ酸化又は還元することで浄化する。TWC33は、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、ゼオライト等の酸化物からなる担体に、触媒金属としてPdやRh等の貴金属を担持させたものが用いられる。なかでも、触媒金属としてPd及びRhを担持させたものが好ましい。そして、本発明においては、TWC33が粒子状物質を捕捉という効果を更に奏する。
【0040】
TWC33は、OSC材(酸素吸放出材)を含んでもよい。OSC材としては、CeOの他、CeOとZrOの複合酸化物(以下、「CeZr複合酸化物」という。)等が用いられる。中でも、CeZr複合酸化物は、高い耐久性を有するため好ましく用いられる。なお、これらOSC材に、上記触媒金属が担持されていてもよい。上述のTWCの触媒作用を同時に有効に生じさせるためには、燃料と空気の比(空燃比)を完全燃焼反応における化学量論比近傍に保つことが好ましいところ、酸化雰囲気下で酸素を吸蔵し、還元雰囲気下で酸素を放出する酸素吸蔵放出能を有するOSC材を助触媒として触媒金属とともに用いることにより、より高い触媒浄化性能が得られる。
【0041】
TWC33の調製方法については特に限定されず、従来公知のスラリー法等により調製される。例えば、上記の酸化物、貴金属、OSC材等を含むスラリーをミリングして調製した後、調製したスラリーをフィルタ基材320にコートして焼成することにより調製される。
【0042】
TWC33のウォッシュコート量は60g/L以上110g/L以下である。これにより、圧損上昇を低減しつつ、粒子状物質の捕捉効果が得られる。なお、本発明におけるウォッシュコート量は、隔壁323の隔壁体積1Lあたりの担持された排気浄化触媒の量(g)を意味する。なお、排気浄化触媒であるTWC33前記は、隔壁323の表面(On-wall)のみならず、隔壁323内部(In-wall)にも担持されている。
【0043】
図3に示すように、排気浄化フィルタ320の流入側セル321と流出側セル322は、流入側から流出側に沿って、上流部A、中間部B、下流部Cと便宜的に3区分されている。そして、上流部A、中間部B、下流部Cのそれぞれを構成する隔壁323A、323B、323Cの内壁面には、TWC33A、TWC33B、TWC33Cがそれぞれ担持されている。
【0044】
本発明において、上流部、中間部、下流部とは、流入側から流出側に至るセル長手方向の略3等分のそれぞれを意味する。
【0045】
以上の構成を備える本実施形態に係るGPF32は、例えばピストン押し上げ法により製造される。ピストン押し上げ法では、排気浄化触媒の構成材料を所定量含むスラリーをミリングにより作製し、フィルタ基材320の流入側端面をスラリー流入入口として、所定の条件でピストン押上げ方法にて、所定のWC量でフィルタ基材320に排気浄化触媒を担持させる。その後、乾燥させて焼成を行うことにより、GPF32が得られる。
【0046】
本発明における、上流部、中間部、下流部のいずれにおいても、流入側セルと隣接する流出側セルを一対として、触媒面積率の測定を行う。すなわち、上流部の流入側セルと隣接する流出側セルの平均値(上流部平均値)、中間部の流入側セルと隣接する流出側セルの平均値(中間部平均値)、下流部の流入側セルと隣接する流出側セルの平均値(中間部平均値)、をそれぞれ求め、3つの平均値のうちの最小値が、本発明の「平均値の最小値」である。
【0047】
より具体的には、流入側セル321の上流部Aにおける隔壁323A内側において、隔壁表面に担持されている排気浄化触媒の面積率をSEMで測定した流入側触媒面積率Ainを求め、次いで、流出側セル322の上流部Aにおける隔壁323A内側において、隔壁表面に担持されている排気浄化触媒の面積率をSEMで測定した流入側触媒面積率Aoutを求め、両者の平均値を上流部平均値Aaveとする。
【0048】
同様に、中間部Bについても、流入側触媒面積率Bin、流入側触媒面積率Boutを求め、両者の平均値を中間部平均値Baveとする。
【0049】
同様に、下流部Cについても、流入側触媒面積率Cin、流入側触媒面積率Coutを求め、両者の平均値を下流部平均値Caveとする。
【0050】
最後に、上流部平均値Aave、中間部平均値Bave、下流部平均値Caveを比較して、そのなかの最小値を、本発明における最小値とする。例えば、Aave>Bave>Caveであれば、下流部平均値Caveが本発明の最小値である。本発明においては、この最小値が28%以上であり、これにより、上流部A、中間部B、下流部Cのいずれにおいても、隔壁表面に担持されている排気浄化触媒の面積率が高く、NOxなどの浄化性能のみならず、粒子状物質の捕捉性能も向上できる。最小値は30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることが特に好ましく、60%以上であることが特に好ましく、64%以上であることが最も好ましい。上限は特に無く100%である。
【0051】
隔壁表面に担持されている面積率を上記範囲とすることにより、粒子状物質の捕捉性能も向上できる理由は、粒子状物質が抜ける基材表面に露出している大きな穴がなくなるためであると考えられる。
【0052】
なお、上流部平均値Aave、中間部平均値Bave、下流部平均値Caveのすべてが43%以上であることが好ましい。また、少なくとも2つ以上が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが特に好ましく、80%以上であることが最も好ましい。
【0053】
本発明において、流入側セル及び流出側セルの面積率の測定を行う「所定箇所」とは、上流部A、中間部B、下流部Cのそれぞれの開口部(中間部Bにおいては実際の開口部はないが、切断部における仮想の開口部を意味する)から同一距離の位置であることが好ましい。
【0054】
本発明において、「流入側触媒面積率」「流出側触媒面積率」は、排気浄化触媒の表面視の面積率であり、これを、SEM画像の2値化により測定したものである。具体的には、一般的なSEM(電子顕微鏡)を用いて、流入側2セルと流出側2セル分の画像を取得し、取得した画像における基材と触媒のコントラスト差から2値化を実施。切断された壁面を除いた基材平面の触媒が塗布される面積における実際塗布された触媒の面積を面積率として特定したものである。
【0055】
上流部A、中間部B、下流部Cを構成する排気浄化触媒の担持後の隔壁である、隔壁323A+TWC33A、隔壁323B+TWC33B、隔壁323C+TWC33C、における、体積基準によるメジアン気孔径(D50)は、その最大値が14.6μm以下である。A、B、Cそれぞれのメジアン気孔径(D50)は、上記上流部A、中間部B、下流部Cの箇所で測定されたものである。具体的には、メジアン気孔径(D50)が、(隔壁323A+TWC33A)>(隔壁323B+TWC33B)>(隔壁323C+TWC33C)、であったとすると、最大値をとる(隔壁323A+TWC33A)のメジアン気孔径(D50)が14.6μm以下であり、好ましくは14.0μm以下であり、より好ましくは13.0μm以下であり、特に好ましくは12.4μm以下である。下限値は、7.5μm以上であることが好ましい。
【0056】
メジアン気孔径はHgポロシメータにより測定される、体積率50%(D50)における気孔径である。
【0057】
図4は、実施例1及び比較例における、流入側セルの流入側触媒面積率(On-wall率)を測定したグラフであり、図5は、実施例1及び比較例における、流出側セルの流出側触媒面積率(On-wall率)を測定したグラフである(実施例2の記載は省略)。図中、A(top)は上流部Aであり、B(mid)が中間部Bであり、C(bot)は下流部Cである。
【0058】
また、図6は、実施例1における、排気浄化触媒の担持後の隔壁におけるメジアン気孔径(D50)を測定したグラフである。図中、縦軸のMPSはメジアン気孔径(D50)である。実施例及び比較例の排気浄化触媒は、以下の手順で作成されたものであり、上記の触媒面積率(On-wall率)の最小値、後述するメジアン気孔径(D50)の最大値は以下である。
<実施例1>
Aave:84%
Bave:84%
Cave:64%
⇒触媒面積率(On-wall率)の最小値64%
上流部Aのメジアン気孔径(D50):10.6μm
中間部Bのメジアン気孔径(D50):11.5μm
下流部Cのメジアン気孔径(D50):12.4μm
⇒メジアン気孔径(D50)の最大値12.4μm
<実施例2>
⇒触媒面積率(On-wall率)の最小値28%
⇒メジアン気孔径(D50)の最大値14.6μm
<比較例>
⇒触媒面積率(On-wall率)の最小値12%
⇒メジアン気孔径(D50)の最大値15.0μm
【0059】
先ず、硝酸Pdと硝酸Rhの水溶液とAl担体(市販のγ-アルミナ)とをエバポレータ内に投入し、Al担体にPdとRhを質量比で6/1で含侵担持させた。次いで、乾燥させた後に600℃で焼成を行い、Pd-Rh/Al触媒を得た。同様にして、硝酸Pdと硝酸RhとCeOを調製し、Pd-Rh/CeO触媒を得た。いずれも、貴金属の担持量は、Pdを1.51質量%、Rhを0.25質量%とした。
【0060】
次いで、Pd-Rh/Al触媒とPd-Rh/CeO触媒とを等量混合し、水及びバインダーを混合してボールミルにてミリングを行い、スラリーを調製した。ウォッシュコート(WC)量80g/Lでフィルタ基材に上記TWCを担持させた。その後、空気を流しながら150℃で乾燥した後、600℃で焼成を行い、各実施例及び比較例において、触媒面積率(On-wall率)及びメジアン気孔径が上記になるように調整して実施例及び比較例の排気浄化フィルタを得た。
【0061】
実施例及び比較例の排気浄化フィルタについて、下記の包装、条件で、粒子状物質の捕捉性能を測定した結果、比較例を1とした場合の相対値で、実施例1は1.23、実施例2は1.12の結果が得られた。このため、実施例は、比較例に比べて粒子状物質の捕捉性能に優れることが理解できる。
【0062】
[実車粒子状物質捕集試験]
各実施例及び比較例に係るGPFについて、排気量1.5Lのガソリン直噴エンジン車両の直下0.6L三元触媒の後段に、試験対象となるGPFを搭載し、室温25℃、湿度50%の条件において走行し、その際のGPF前後のPM数(PN)を測定し、PM数(PN)捕集効率(低減率)を算出した。測定にあたっては、前処理として、WLTPを1サイクル走行して、GPFに残る粒子状物質を除去後、室温25℃にて24時間ソークを行い、コールド状態から測定を実施してデータとした。
【0063】
また、NOx浄化性能については、予め熱でエージング処理を行ったテストピースを、排気モデルガス(NO=500ppm、C=1200ppmC、H=0.17%、CO=0.5%、O=0.49%、CO=14%、HO=10%、Nバランスガス、SV=25万/h)の条件で、400℃5min定常試験を行った時の最後1分の平均浄化率として算出、比較例が78.4%に対して、実施例1で80.4%、実施例2で80.3%が得られ、NOx浄化性能についても実施例は、比較例に比べて優れることが理解できる。
【0064】
図7は、実施例1における、隔壁の厚さと、粒子状物質の捕捉率との関係を示すグラフである。図8は、実施例1における、隔壁の厚さと、圧損との関係を示すグラフである。圧損は以下の試験方法により得られた値である。Ash堆積量としては96g、測定流量25m/minとした。
【0065】
[圧損]
各実施例及び比較例に係るGPFの圧損については、ツクバリカセイキ製の触媒担体圧損試験装置を用いて測定を実施した。
【0066】
[Ash体積圧損]
各実施例及び比較例に係るGPFについて、模擬アッシュとして石膏を用いた耐久性試験を行った。具体的には、先ず石膏を焼成後、実際のアッシュに近い粒径となるまでミリングを実施した。次いで、自作吸引装置(大型ドライポンプ(設計排気量1850L/分)をタンクに繋いで真空引き)を用いて、フィルタ基材に所定の模擬アッシュ量を吸引させることによって、実走の耐久を模擬した。
【0067】
図7図8より、隔壁の厚さは9mil以上11mil以下(0.2286mm以上0.2794mm以下)の範囲で、粒子状物質の捕捉率、圧損共に向上していることが理解できる。
【0068】
図9は、実施例1における、排気浄化触媒の担持前の隔壁におけるメジアン気孔径(D50)と圧損との関係を測定したグラフである。Ash堆積量としては150g、測定流量12m/minとした。
【0069】
図9より、メジアン気孔径が12μm以上18μm以下の範囲で、圧損が向上していることが理解できる。
【0070】
図10は、実施例1における、セルの開口径と圧損との関係を示すグラフである。図中、HAC(図3のD1>D2)が実施例1であり、SQは流入側セルの開口径と流出側セルの開口径とが同一の場合(図3のD1=D2)の参考例である。
【0071】
図10より、D1>D2の場合に、圧損が向上していることが理解できる。
【0072】
図11は、実施例1の排気浄化触媒上に、ゼオライトを配置した場合のHC浄化率を示す図である。図11に示すように、排気浄化触媒上にゼオライトを配置した場合には、HCの吸着率を脱離率が上回り、差分の3.0%、HC浄化率が向上していることが理解できる。
【0073】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【0074】
上記実施形態では、本発明に係る排気浄化フィルタをGPFに適用したが、これに限定されない。本発明に係る排気浄化フィルタをDPFに適用してもよい。この場合、排気浄化触媒としては、TWCに限定されず他の排気浄化触媒を用いてもよく、例えばPM燃焼触媒等の酸化触媒を用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
1…エンジン(内燃機関)
2…排気浄化装置
3…排気管(排気通路)
32…GPF(排気浄化フィルタ)
32a…流入側端面
32b…流出側端面
33、33A、33B、33C…TWC(排気浄化触媒)
320…フィルタ基材
323、323A、323B、323C…隔壁
321…流入側セル
322…流出側セル
324…流入側目封じ部
325…流出側目封じ部
A:上流部
B:中間部
C:下流部
D1、D2:開口径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11