(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】プレビュー路面検出装置
(51)【国際特許分類】
B60G 23/00 20060101AFI20221117BHJP
G01B 21/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B60G23/00
G01B21/00 T
(21)【出願番号】P 2021041694
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小灘 一矢
(72)【発明者】
【氏名】柳 貴志
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 亮輔
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-144406(JP,U)
【文献】特開2019-078648(JP,A)
【文献】実開昭62-115612(JP,U)
【文献】特開2003-307564(JP,A)
【文献】特開平08-210828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 23/00
G01B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレビュー路面検出装置であって、
車体部材に設けられ、車輪の路面接地幅の中央部を含み接地部分に対応する車両前方の路面の複数の測定点との距離を検出する距離センサと、
前記距離センサの検出値に基づいて前記車体部材から前記測定点までの路面距離を算出する距離算出部と、を備え、
前記距離算出部は、
前記距離センサで検出した複数の車輪前方の距離のそれぞれに重みを付け、
車両が直進中の場合には、中央部の距離の重みを大きくし、
車両が右旋回中の場合には、左側の距離の重みを大きくし、
車両が左旋回中の場合には、右側の距離の重みを大きく
して、
加重平均値を路面距離として算出するようにし、
前記路面距離と前記距離センサで距離を検出した際の前記車体部材の車高とから算出した車両前方の路面変位を路面状態として検出することを特徴とするプレビュー路面検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブサスペンションのためのプレビュー路面検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輌のアクティブサスペンションのひとつとして、前方の路面変位を光学式センサで検知する路面検出手段と、車速を検知する車速検出手段と、前輪に対応する部位にて車体に取り付けられ車体の上下加速度を検知する上下加速度検出手段と、路面変位の情報と上下加速度の情報を時系列に記憶する記憶手段とを有し、路面変位の検出が異常である旨の判定が行われたときには、ホイールベース及び車速に基き車輌がホイールベースの距離だけ走行した際の車体の後輪に対応する部位の上下加速度が記憶手段に記憶された上下加速度より推定され、その推定された上下加速度に応じて後輪のアクチュエータが予見制御されるアクティブサスペンションが知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、車両の旋回時などでタイヤが変形する場合については、考慮されていないため、乗り心地が悪くなる恐れがある。
本発明は、上記の問題を解決し、車両の旋回時などでタイヤが変形している場合でも、プレビュー路面検出装置で検出した路面変位に基づいてアクティブサスペンションが予見制御されるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明のプレビュー路面検出装置は、車体部材に設けられ、車輪の路面接地幅の中央部を含み接地部分に対応する車両前方の路面の複数の測定点との距離を検出する距離センサと、前記距離センサの検出値に基づいて前記車体部材から前記測定点までの路面距離を算出する距離算出部と、を備え、前記距離算出部は、前記距離センサで検出した複数の車輪前方の距離のそれぞれに重みを付け、車両が直進中の場合には、中央部の距離の重みを大きくし、車両が右旋回中の場合には、左側の距離の重みを大きくし、車両が左旋回中の場合には、右側の距離の重みを大きくして、加重平均値を路面距離として算出するようにし、前記路面距離と前記距離センサで距離を検出した際の前記車体部材の車高とから算出した車両前方の路面変位を路面状態として検出するようにした。
【発明の効果】
【0006】
本発明のプレビュー路面検出装置によれば、車両の旋回時などでタイヤが変形している場合でも、精度よく路面変位を検出できるので、アクティブサスペンションの予見制御が行うことができ、乗り心地が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】車両のサスペンションシステムの概要を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、実施形態のプレビュー路面検出装置1が適用される車両のサスペンションシステムの概要を説明する図である。
【0009】
サスペンションシステムでは、スカイフック理論等に基づいて、サスペンション制御部5が、車体部材3の姿勢が安定するようにアクティブサスペンションDを制御する。この際、プレビュー制御部4が、プレビュー路面検出装置1で検出した車両前方の路面変位を予見情報として取得し、アクティブサスペンションDの応答遅れを補償することで、乗り心地の向上を図っている。
【0010】
詳しくは、車体を形成する車体部材3の下側に、車輪W(左、右の前輪)が設けられ、アクティブサスペンションDと車輪Wのタイヤ(不図示)が、路面Rの凹凸を吸収する。サスペンション制御部5は、車輪WのタイヤをばねW1とダンパW2とが並列接続した振動モデルとして制御する。
【0011】
アクティブサスペンションDは、懸架ばねD1と、油圧アクチュエータを用いて減衰力を制御するか、または、電磁力により減衰力および推力を制御する可変ダンパD2とが並列に構成され、車体部材3と車輪Wとの間に介装している。
サスペンション制御部5は、可変ダンパD2を制御対象として制御を行う。
【0012】
プレビュー路面検出装置1は、車体部材3に設置され、超音波、レーザ光またはミリ波レーダにより路面Rの複数の計測点との距離を計測する距離センサ11と、距離センサ11の計測値に基づいて、車輪Wの前方の路面変位を算出する距離算出部12と、を備える。
より詳細には、プレビュー路面検出装置1は距離算出部12の検出値から計測時の車高(車体部材3の路面距離)を減じて、車輪Wの前方の路面変位を算出する。この際の計測時の車高は、サスペンション制御部5が制御変数として算出している値を参照する。
【0013】
プレビュー制御部4は、路面変位の計測時の車速と、距離センサ11の取付位置から求まる、タイヤの接地点から路面変位の計測点までの車両の進行方向の距離とから、路面変位の計測点を走行(通過)するまでの所要時間を求める。
【0014】
プレビュー路面検出装置1とプレビュー制御部4とは、周期的に処理を行うことで、路面変位の予見情報、つまり、所定時間後に通過する車輪Wの前方の路面状態(凹凸)を検出する。
サスペンション制御部5は、路面変位の予見情報に基づいてアクティブサスペンションDを制御するので、乗り心地を向上できる。
【0015】
次に、プレビュー路面検出装置1の取付構造を説明する。
実施形態のプレビュー路面検出装置1では、距離センサ11が車体部材3に設置され、距離算出部12が、車両のECU(Electronic Control Unit)に実装される。以下では、距離センサ11の取付について説明する。
【0016】
以下の距離センサ11の取付構造は、説明の便宜上、簡略化して図示しているものであり、本実施形態に限定されるものではない。なお、車両の進行方向を「前」、後退方向を「後」、鉛直上方側を「上」、鉛直下方側を「下」、車幅方向を「左」、「右」として説明する。また、車両用センサの取付構造は、左右対称であるため、以下では左右のうちの一方側(左側)を主に説明して、他方側(右側)の説明を適宜省略する。
【0017】
図2は、距離センサ11の取付構造を示す側面図である。なお、
図2では、車両Vの外形を二点鎖線で示している。
図2に示すように、距離センサ11は、車体を形成する車体部材3に固定して構成されている。
【0018】
車両Vは、車体部材3と、車両Vの外側部位(外郭)を形成する外装部材2と、路面状態を検出する距離センサ11と、を主に備えて構成されている。このように車両Vは、車体部材3と、外装部材2と、距離センサ11と、を備えた自動車であれば、その形式・種類は特に限定されない。つまり、車両Vは、乗用車、バス、トラック、作業車等である。
【0019】
車体部材3は、外装部材2を支持するものであり、フロントサイドフレーム31(フレーム部材)、アッパメンバ32(フレーム部材)、バンパビームエクステンション33、バンパビーム34(フレーム部材)などを備えて構成されている。
【0020】
外装部材2は、エンジンフード21と、フロントバンパ22(バンパ)と、フロントフェンダ23と、を備えて構成されている。エンジンフード21は、フロントガラスの前方の上面を覆うパネル部材である。フロントバンパ22は、車両Vの前面側に位置し、例えば合成樹脂製のパネル部材によって構成されている。また、フロントバンパ22は、エアインテークなどが設けられた前面部22aと、前面部22aの下端から後方に向けて延びる底面部22bと、を有している。フロントフェンダ23は、車輪W(左前輪)の周囲を覆うパネル部材である。
【0021】
距離センサ11は、車両Vの前方の路面Rの状態(路面状態)を検出して、車両VのアクティブサスペンションDを制御するセンサであり、車輪Wの前方に位置するアッパメンバ32に固定されている。
詳しくは、距離センサ11は、アッパメンバ32の車幅方向外側の側面に取り付けられている。また、距離センサ11は、アッパメンバ32の前後方向の前端部に位置している。
【0022】
本実施形態における距離センサ11は、太い実線矢印で示すように、車輪Wの直前の路面Rとの路面距離を検出するように構成されている。また、距離センサ11は、レーダ式、カメラ式、レーザ式などのセンサから適宜選択することができる。また、距離センサ11としては、単一のセンサに限定されるものではなく、カメラ式とレーザ式など複数の方式のセンサを組み合わせて構成してもよい。
【0023】
次に、
図3により、プレビュー路面検出装置1の距離センサ11の構成を説明する。
実施形態の距離センサ11は、3つの三角測量原理や発光した赤外光の反射光強度を距離に換算する方式やレーザ光の飛行時間を距離換算する方式等の赤外線方式の距離センサ11a、11b、11cから構成する。
図3は、車輪Wを車両の前方から見た際の、距離センサ11(11a、11b、11c)が距離を検出する様子を示している。
【0024】
車輪Wは、路面Rのタイヤの路面接地面に接地している。そして、
図1に示したように、距離センサ11a、11b、11cは、車輪Wの路面接地幅の中央部、または路面接地幅の内側の所定幅に対応する車両前方における計測面の測定点(図の矢印先端)の距離を検出する。距離センサ11a、11b、11cがこの測定点の距離を検出することで、コーナリング等のステア角操作により車輪Wに加わる荷重が変化してタイヤが変形し、路面接地幅が変わる場合でも、プレビュー路面検出装置1は路面変位を算出できる。つまり、プレビュー路面検出装置1は、タイヤが潰れるかまたは浮いた状態になる、タイヤの路面接地幅の端部に対応する位置を測定点にしないようにする。より詳細には、測定点の位置は、乗員が搭乗していない状態で平らな路面に車両を置いた際の、車輪Wの路面接地幅の中央部、または路面接地幅の内側の所定幅に対応する車両前方とすることが望ましい。
【0025】
プレビュー路面検出装置1の距離算出部12(
図1参照)は、距離センサ11a、11b、11cで検出した距離の平均値を求めて、路面距離とする。
図3では、3つの距離センサ11a、11b、11cを示し、3つの計測点までの距離の平均値を路面距離とする場合を説明したが、少なくとも2つの計測点までの距離を検出するようにする。これにより、路面変位の検出精度を向上することができる。
【0026】
上記では、距離センサ11a、11b、11cが、車輪Wに加わる荷重が変化してもタイヤが接地する路面接地幅の中央部、または路面接地幅の内側の所定幅に対応する車両前方の測定点の路面距離を求める場合について説明した。つぎに、
図4により、距離算出部12で、車輪Wに加わる荷重変化(路面接地幅の変化)に応じて、車両前方の測定点の路面距離を求める場合について説明する。
【0027】
図4は、車輪Wを車両の前方から見た際の、距離センサ11(11a、11b、11c、11d、11e)により路面距離を検出する様子を示している。
図4では、距離センサ11が、車輪Wに加わる荷重が変化した際に路面接地する接地部分に対応する車両前方の測定点の距離を検出できるように距離センサ11d、11eを追加している。
【0028】
プレビュー路面検出装置1では、距離センサ11a、11b、11c、11d、11eで計測した距離をXa、Xb、Xc、Xd、Xeとし、距離センサ11a、11b、11c、11d、11eの距離の重みをwa、wb、wc、wd、weにした際に、距離算出部12は、(wa×Xa+wb×Xb+wc×Xc+wd×Xd+we×Xe)/(wa+wb+wc+wd+we)を算出して路面距離とする。つまり、距離算出部12は、距離センサ11で検出した距離の加重平均値を路面距離とする。
【0029】
そして、距離算出部12は、車両が直進中の場合には、路面接地幅の中央部に対応する距離センサ11a、11b、11cの重みwa、wb、wcを大きくし、距離センサ11d、11eの重みwd、weを小さくして距離の加重平均値を算出する。例えば、重みwa、wb、wcを1にし、重みwd、weを0にして距離の加重平均値を算出し、路面距離とする。
【0030】
また、距離算出部12は、車両が左旋回中の場合には、路面接地幅の右側(車両進行方向に向かって右側)に対応する距離センサ11d、11a、11bの重みwd、wa、wbを大きくし、距離センサ11c、11eの重みwc、weを小さくして距離の加重平均値を算出する。例えば、重みwd、wa、wbを1にし、重みwc、weを0にして距離の加重平均値を算出し、路面距離とする。
【0031】
さらに、距離算出部12は、車両が右旋回中の場合には、路面接地幅の左側(車両進行方向に向かって左側)に対応する距離センサ11b、11c、11eの重みwb、wc、weを大きくし、距離センサ11d、11aの重みwd、waを小さくして距離の加重平均値を算出する。例えば、重みwb、wc、weを1にし、重みwd、waを0にして距離の加重平均値を算出し、路面距離とする。
【0032】
つまり、プレビュー路面検出装置1は、距離センサ11で検出した複数の車輪前方の距離それぞれに重みを付けて加重平均値を路面距離として算出するようにし、車両の旋回に応じて、旋回外周側が大きな重みの配置になるようにする。
【0033】
なお、左旋回中でも右旋回中でも、旋回中は、車両の旋回外輪と旋回内輪とを比較すると、車両の旋回外輪の方が遠心力が大きく作用する(加わる荷重が大きくなる)。このため、旋回中は、車両の旋回内輪よりも旋回外輪のタイヤの方が潰れが大きくなる。
また、1本のタイヤについて、左旋回でも右旋回でも、旋回中は、タイヤの旋回外周側と旋回内周側とを比較すると、旋回外周側の方が遠心力が大きく作用する(加わる荷重が大きくなる)。このため、同じ1本のタイヤ内でも旋回外周側に位置する部分の方が潰れが大きくなる。
【0034】
上記によれば、車輪Wの路面接地幅の変化に応じて車両前方の測定点を変えての路面距離を求めているので、路面変位の検出精度を向上することができる。
【0035】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 プレビュー路面検出装置
11 距離センサ
12 距離算出部
2 外装部材
3 車体部材
D アクティブサスペンション
D1 懸架ばね
D2 可変ダンパ
W 車輪
W1 ばね
W2 ダンパ
4 プレビュー制御部
5 サスペンション制御部