(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】刺繍装飾品の製造方法及び刺繍装飾品の製造システム
(51)【国際特許分類】
D05C 11/24 20060101AFI20221117BHJP
D05B 67/00 20060101ALI20221117BHJP
A41H 43/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
D05C11/24
D05B67/00
A41H43/00 A
(21)【出願番号】P 2021123800
(22)【出願日】2021-07-29
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】507272670
【氏名又は名称】佐川印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142217
【氏名又は名称】小笠原 宜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100119367
【氏名又は名称】松島 理
(72)【発明者】
【氏名】佐川 正純
(72)【発明者】
【氏名】山中 益生
(72)【発明者】
【氏名】山岡 勇希
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-064183(JP,A)
【文献】特開2004-263350(JP,A)
【文献】特開2015-175071(JP,A)
【文献】国際公開第2006/087807(WO,A1)
【文献】特開2019-173210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05C 11/24
D05B 67/00
A41H 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被装飾品を装飾する刺繍装飾品の製造方法であって、
前記被装飾品の刺繍が施される範囲である刺繍範囲の表面及び裏面の少なくとも一方に、該刺繍範囲が覆われるよう、該刺繍範囲よりも大きいシート状の部材であるマスキング部材を配するマスキング工程と、
前記マスキング工程において配されたマスキング部材ごと、前記被装飾品に施される刺繍による装飾である刺繍部を作製する刺繍部作製工程と、
前記刺繍部作製工程において作製された刺繍部を加圧して、該刺繍部の厚みを調節する加圧工程と、
前記加圧工程において厚みが調節された刺繍部に対してインクジェット印刷を行う印刷工程と、
前記刺繍範囲からはみ出た前記マスキング部材を取り除くマスキング除去工程と、
を含む刺繍装飾品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の刺繍装飾品の製造方法であって、
前記マスキング部材が水解性を有することを特徴とする刺繍装飾品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の刺繍装飾品の製造方法であって、さらに、
透明又は半透明のシート状の部材である被仮印刷部材に対して、前記印刷工程と同一のインクジェット印刷を行う仮印刷工程と、
前記仮印刷工程における前記被仮印刷部材に対する印刷結果に基づいて、前記印刷工程においてインクジェット印刷を行う位置を決定する第一位置決定工程と、
を含む刺繍装飾品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の刺繍装飾品の製造方法であって、さらに、
前記マスキング部材はシンボルを有し、
前記シンボルに基づいて、前記刺繍部作製工程において刺繍部を作製する位置、又は、前記印刷工程においてインクジェット印刷を行う位置の少なくとも一方を決定する第二位置決定工程を含む刺繍装飾品の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一に記載の刺繍装飾品の製造方法であって、さらに、
前記印刷工程後に、前記刺繍部を加熱して、前記インクジェット印刷に係るインクを該刺繍部に定着させる加熱工程を含む刺繍装飾品の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一に記載の刺繍装飾品の製造方法であって、さらに、
前記刺繍装飾品の原画に基づいて、前記刺繍部作製工程において刺繍を施す範囲、該刺繍部作製工程において刺繍針を刺す順番、該刺繍部作製工程における刺繍に用いる糸の種類、前記印刷工程においてインクジェット印刷を行う範囲、及び、該印刷工程におけるインクジェット印刷に用いるインクの種類のうち、少なくとも1つを決定する製造内容決定工程を含む刺繍装飾品の製造方法。
【請求項7】
被装飾品を装飾する刺繍装飾品を製造する刺繍装飾品の製造システムであって、
前記被装飾品を着脱自在に取り付ける取付装置と、
前記被装飾品の刺繍が施される範囲である刺繍範囲の表面及び裏面の少なくとも一方に、該刺繍範囲が覆われるよう配される、該刺繍範囲よりも大きいシート状の部材であるマスキング部材ごと、前記取付装置に取り付けられた前記被装飾品に施される刺繍による装飾である刺繍部を作製する刺繍部作製装置と、
前記刺繍部作製装置において作製された刺繍部を加圧して、該刺繍部の厚みを調節する加圧装置と、
前記加圧装置によって厚みが調節された刺繍部の、前記マスキング部材が配された面の一部又は全部に対して、インクジェット印刷を行う印刷装置と、
を備え
、
前記取付装置が、前記加圧装置の加圧による負荷に耐える強度を有する刺繍装飾品の製造システム。
【請求項8】
請求項
7に記載の刺繍装飾品の製造システムであって、さらに、
被装飾品を撮像し、画像データを作製する撮像装置と、
前記撮像装置にて作製された画像データを記憶する第一記憶装置と、
前記第一記憶装置に記憶された画像データに基づいて、前記刺繍部作製装置において刺繍部を作製する位置、又は、前記印刷装置においてインクジェット印刷を行う位置の少なくとも一方を決定する位置決定装置と、
を備える刺繍装飾品の製造システム。
【請求項9】
被装飾品を装飾する刺繍装飾品を製造する刺繍装飾品の製造システムであって、
前記被装飾品を着脱自在に取り付ける取付装置と、
前記被装飾品の刺繍が施される範囲である刺繍範囲の表面及び裏面の少なくとも一方に、該刺繍範囲が覆われるよう配される、該刺繍範囲よりも大きいシート状の部材であるマスキング部材ごと、前記取付装置に取り付けられた前記被装飾品に施される刺繍による装飾である刺繍部を作製する刺繍部作製装置と、
前記刺繍部作製装置において作製された刺繍部の、前記マスキング部材が配された面の一部又は全部に対して、インクジェット印刷を行う印刷装置と、
被装飾品を撮像し、画像データを作製する撮像装置と、
前記撮像装置にて作製された画像データを記憶する第一記憶装置と、
前記第一記憶装置に記憶された画像データに基づいて、前記刺繍部作製装置において刺繍部を作製する位置、又は、前記印刷装置においてインクジェット印刷を行う位置の少なくとも一方を決定する位置決定装置と、
前記マスキング部材の色に係るデータである色データを記憶する第二記憶装置をと備え、
前記位置決定装置は、前記第一記憶装置に記憶された画像データと前記第二記憶装置に記憶された色データとに基づいて、マスキング部材の位置又は刺繍部の位置の少なくとも一方を判断し、該判断に基づいて、前記印刷装置においてインクジェット印刷を行う位置を決定する刺繍装飾品の製造システム。
【請求項10】
被装飾品を装飾する刺繍装飾品を製造する刺繍装飾品の製造システムであって、
前記被装飾品を着脱自在に取り付ける取付装置と、
前記被装飾品の刺繍が施される範囲である刺繍範囲の表面及び裏面の少なくとも一方に、該刺繍範囲が覆われるよう配される、該刺繍範囲よりも大きいシート状の部材であり、シンボルを有するマスキング部材ごと、前記取付装置に取り付けられた前記被装飾品に施される刺繍による装飾である刺繍部を作製する刺繍部作製装置と、
前記刺繍部作製装置において作製された刺繍部の、前記マスキング部材が配された面の一部又は全部に対して、インクジェット印刷を行う印刷装置と、
被装飾品を撮像し、画像データを作製する撮像装置と、
前記撮像装置にて作製された画像データを記憶する第一記憶装置と、
前記第一記憶装置に記憶された画像データに基づいて、前記刺繍部作製装置において刺繍部を作製する位置、又は、前記印刷装置においてインクジェット印刷を行う位置の少なくとも一方を決定する位置決定装置と、
前記マスキング部材のシンボルに係るデータであるシンボルデータを記憶する第三記憶装置とを備え、
前記位置決定装置は、前記第一記憶装置に記憶された画像データと前記第三記憶装置に記憶されたシンボルデータとに基づいて、マスキング部材の位置を判断し、該判断に基づいて、前記刺繍部作製装置において刺繍部を作製する位置、又は、前記印刷装置においてインクジェット印刷を行う位置の少なくとも一方を決定する刺繍装飾品の製造システム。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか一に記載の刺繍装飾品の製造システムであって、
前記マスキング部材が水解性を有することを特徴とする刺繍装飾品の製造システム。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか一に記載の刺繍装飾品の製造システムであって、さらに、
前記印刷装置において前記刺繍部にインクジェット印刷を行った後に、該刺繍部を加熱して、前記インクジェット印刷に係るインクを該刺繍部に定着させる加熱装置を備え、
前記取付装置が、前記加熱装置による加熱に耐える耐熱性を有する刺繍装飾品の製造システム。
【請求項13】
請求項7~12のいずれか一に記載の刺繍装飾品の製造システムであって、
前記刺繍装飾品の原画に基づいて、前記刺繍部作製装置より刺繍を施す範囲、該刺繍部作製装置より刺繍針を刺す順番、該刺繍部作製装置よる刺繍に用いる糸の種類、前記印刷装置よりインクジェット印刷を行う範囲、及び、該印刷装置よるインクジェット印刷に用いるインクの種類のうち、少なくとも1つを決定する製造内容決定部を備える刺繍装飾品の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被装飾品を装飾する刺繍装飾品の製造方法及び刺繍装飾品の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
「刺繍」は、刺繍糸を使用して被服等の被装飾品を装飾する技術であり(以下、刺繍による装飾を「刺繍部」という。)、立体的な表現が可能な点で優れているといえる。具体的に、刺繍は、刺繍部がふっくらと盛り上がることによる立体的な表現に加え、ステッチ(縫い目)による立体的な表現も可能である。例えば、動物のデザインを刺繍で表現する際には、動物の毛並みに沿ったステッチにすることで、より写実的な表現が可能である。
【0003】
一方、刺繍には平面的な表現には限界があり、例えば、刺繍糸の太さよりも細かい表現や、色を連続的に変化させる表現(いわゆる「グラデーション」)は不可能である。また、表現に使用できる色も準備できる刺繍糸の色に制限される。言い換えれば、色の異なる刺繍糸を大量に準備しておけば、例えば、グラデーション風のような多くの色を用いる表現(類似する色を断続的に配することで、グラデーションのように見せる表現)を行うことも可能ではあるが、多くの刺繍糸の在庫を抱えることとなる。
【0004】
このような問題に対して、例えば、特許文献1には、刺繍パターン情報と糸送り量検出情報とに基づいて刺繍糸に対して染色(印刷)し、刺繍パターン情報に応じて自動刺繍する技術が開示されている。また、特許文献2には、マスキングシートを被装飾品に重ね、その上から刺繍した後、刺繍部に対して昇華転写印刷する技術が開示されている。
【0005】
これらの技術によれば、印刷によって刺繍糸又は刺繍部を着色できるので、従来の刺繍よりも細かい表現や、色を連続的に変化させる表現が可能となる。また、印刷によって様々な色を表現することができるので、色の異なる刺繍糸を大量に準備しておく必要もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-299458号公報
【文献】特開平6-220780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、刺繍糸の延伸方向に対しては、細かい表現や、色を連続的に変化させる表現が可能となるものの、刺繍糸の太さ方向に対しては、これらの表現が不可能である。また、特許文献1に開示された技術は、その構成上、一度、ステッチがずれてしまうと、印刷した刺繍糸の色がずれてしまい、所望の刺繍部を製造することができない。
【0008】
特許文献2に開示された技術は、昇華転写印刷、すなわち、被装飾品に転写紙を貼り合わせ、これを190℃~220℃の高温で加熱することで転写紙に印刷されたインクを被装飾品に転写する技術を用いる関係上、被装飾品の材質が制限され、例えば、綿の刺繍糸による刺繍部には適用することができない。また、色の異なる刺繍糸を準備しておく必要は無いが、代わりに転写紙が必要となってしまい、在庫コスト等のコスト面では、改善したとはいい難い。
【0009】
本発明は、従来のこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の一は、従来の刺繍よりも細かい表現や、色を連続的に変化させる表現が可能であり、低廉に実施可能な刺繍装飾品の製造方法及び刺繍装飾品の製造システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明の第1の側面に係る刺繍装飾品の製造方法は、被装飾品を装飾する刺繍装飾品の製造方法であって、前記被装飾品の刺繍が施される範囲である刺繍範囲の表面及び裏面の少なくとも一方に、該刺繍範囲が覆われるよう、該刺繍範囲よりも大きいシート状の部材であるマスキング部材を配するマスキング工程と、前記マスキング工程において配されたマスキング部材ごと、前記被装飾品に施される刺繍による装飾である刺繍部を作製する刺繍部作製工程と、前記刺繍部に対してインクジェット印刷を行う印刷工程と、前記刺繍範囲からはみ出た前記マスキング部材を取り除くマスキング除去工程とを含むことができる。
【0011】
前記構成によれば、印刷工程におけるインクジェット印刷により刺繍部を着色できるので、従来の刺繍よりも細かい表現や、色を連続的に変化させる表現が可能である。また、色の異なる刺繍糸を準備しておく必要が無く、印刷の際に、昇華転写印刷の転写紙のように、別途、部材が必要となることもないため、低廉に実施可能であり、作業効率を高めることができる。また、マスキング工程により、該刺繍範囲よりも大きいシート状の部材であるマスキング部材を配することができるので、印刷工程において刺繍部からはみ出して被装飾品を着色することを防止できる。また、昇華転写印刷は、190℃~220℃の高温で加熱する必要があるため、綿への印刷ができないが、本発明に係る刺繍装飾品の製造方法は、インクジェット印刷を用いるため、綿の刺繍糸を使用できる。
【0012】
本発明の第2の側面に係る刺繍装飾品の製造方法は、前記刺繍部作製工程において作製された刺繍部を加圧して、該刺繍部の厚みを調節する加圧工程を含むことができる。
【0013】
インクジェット印刷は、通常、立体的な被印刷物に対して印刷した場合、印刷の精度が落ち、鮮明な印刷ができなくなるところ、前記構成によれば、加圧工程により、刺繍部の厚みを調節できるので、より鮮明な印刷が可能となる。
【0014】
また、本発明の第3の側面に係る刺繍装飾品の製造方法は、透明又は半透明のシート状の部材である被仮印刷部材に対して、前記印刷工程と同一のインクジェット印刷を行う仮印刷工程と、前記仮印刷工程における前記被仮印刷部材に対する印刷結果に基づいて、前記印刷工程においてインクジェット印刷を行う位置を決定する第一位置決定工程とを含むことができる。
【0015】
前記構成によれば、仮印刷部材に対する印刷結果に基づいて、容易に、インクジェット印刷を行う位置の位置合わせができる。
【0016】
さらにまた、本発明の第4の側面に係る刺繍装飾品の製造方法は、前記マスキング部材はシンボルを有し、前記シンボルに基づいて、前記刺繍部作製工程において刺繍部を作製する位置、又は、前記印刷工程においてインクジェット印刷を行う位置の少なくとも一方を決定する第二位置決定工程を含むことができる。
【0017】
前記構成によれば、マスキング部材が有するシンボルを基準に、刺繍部を作製する位置、又は、前記印刷工程においてインクジェット印刷を行う位置の位置合わせができる。また、刺繍部を作製する位置、及び、前記印刷工程においてインクジェット印刷を行う位置の基準をマスキング部材が有する同一のシンボルにすること、すなわち、基準を共有することもできるので、刺繍部とインクジェット印刷のずれを抑えることができる。また、マスキング除去工程により、刺繍範囲からはみ出た前記マスキング部材は取り除かれるので、シンボルが刺繍装飾品の外観に影響を与えることもない。
【0018】
さらにまた、本発明の第5の側面に係る刺繍装飾品の製造方法は、前記印刷工程後に、前記刺繍部を加熱して、前記インクジェット印刷に係るインクを該刺繍部に定着させる加熱工程を含むことができる。
【0019】
さらにまた、本発明の第6の側面に係る刺繍装飾品の製造方法は、前記刺繍装飾品の原画に基づいて、前記刺繍部作製工程において刺繍を施す範囲、該刺繍部作製工程において刺繍針を刺す順番、該刺繍部作製工程における刺繍に用いる糸の種類、前記印刷工程においてインクジェット印刷を行う範囲、及び、該印刷工程におけるインクジェット印刷に用いるインクの種類のうち、少なくとも1つを決定する製造内容決定工程を含むことができる。
【0020】
前記構成によれば、刺繍装飾品の原画に基づいて、好適な表現を選択できる。
【0021】
さらにまた、本発明の第7の側面に係る刺繍装飾品の製造システムは、前記被装飾品を着脱自在に取り付ける取付装置と、前記被装飾品の刺繍が施される範囲である刺繍範囲の表面及び裏面の少なくとも一方に、該刺繍範囲が覆われるよう配される、該刺繍範囲よりも大きいシート状の部材であるマスキング部材ごと、前記取付装置に取り付けられた前記被装飾品に施される刺繍による装飾である刺繍部を作製する刺繍部作製装置と、前記刺繍部作製装置において作製された刺繍部の、前記マスキング部材が配された面の一部又は全部に対して、インクジェット印刷を行う印刷装置とを備えることができる。
【0022】
前記構成によれば、印刷装置におけるインクジェット印刷により刺繍部を着色できるので、従来の刺繍よりも細かい表現や、色を連続的に変化させる表現が可能である。また、色の異なる刺繍糸を準備しておく必要が無く、昇華転写印刷の転写紙のように、別途、部材が必要となることもないため、低廉に実施可能であり、作業効率を高めることができる。また、刺繍部作製装置は、刺繍範囲よりも大きいシート状の部材であるマスキング部材ごと刺繍できるので、印刷装置が刺繍部からはみ出して被装飾品を着色することを防止できる。
【0023】
さらにまた、本発明の第8の側面に係る刺繍装飾品の製造システムは、前記印刷装置において前記刺繍部にインクジェット印刷を行う前に、前記刺繍部作製装置において作製された刺繍部を加圧して、該刺繍部の厚みを調節する加圧装置を備え、前記取付装置が、前記加圧装置の加圧による負荷に耐える強度を有することができる。
【0024】
インクジェット印刷は、通常、立体的な被印刷物に対して印刷した場合、印刷の精度が落ち、鮮明な印刷ができなくなるところ、前記構成によれば、加圧装置により、刺繍部の厚みを調節できるので、より鮮明な印刷が可能となる。また、刺繍装飾品の製造システムは、取付装置上で刺繍部を加圧可能な態様であるため、被装飾品を取付装置から取り外すことなく刺繍部を加圧でき、作業効率を高めることができる。また、昇華転写印刷は、190℃~220℃の高温で加熱する必要があるため、綿への印刷ができないが、本発明に係る刺繍装飾品の製造方法は、インクジェット印刷を用いるため、綿の刺繍糸を使用できる。
【0025】
さらにまた、本発明の第9の側面に係る刺繍装飾品の製造システムは、被装飾品を撮像し、画像データを作製する撮像装置と、前記撮像装置にて作製された画像データを記憶する第一記憶装置と、前記第一記憶装置に記憶された画像データに基づいて、前記刺繍部作製装置において刺繍部を作製する位置、又は、前記印刷装置においてインクジェット印刷を行う位置の少なくとも一方を決定する位置決定装置とを備えることができる。
【0026】
前記構成によれば、画像データに基づいて、容易に、前記刺繍部作製装置において刺繍部を作製する位置、又は、前記印刷装置においてインクジェット印刷を行う位置の位置合わせができる。
【0027】
さらにまた、本発明の第10の側面に係る刺繍装飾品の製造システムは、前記マスキング部材の色に係るデータである色データを記憶する第二記憶装置を備え、前記位置決定装置は、前記第一記憶装置に記憶された画像データと前記第二記憶装置に記憶された色データとに基づいて、マスキング部材の位置又は刺繍部の位置の少なくとも一方を判断し、該判断に基づいて、前記印刷装置においてインクジェット印刷を行う位置を決定することができる。
【0028】
さらにまた、本発明の第11の側面に係る刺繍装飾品の製造システムは、前記マスキング部材はシンボルを有し、前記マスキング部材のシンボルに係るデータであるシンボルデータを記憶する第三記憶装置を備え、前記位置決定装置は、前記第一記憶装置に記憶された画像データと前記第三記憶装置に記憶されたシンボルデータとに基づいて、マスキング部材の位置を判断し、該判断に基づいて、前記刺繍部作製装置において刺繍部を作製する位置、又は、前記印刷装置においてインクジェット印刷を行う位置の少なくとも一方を決定することができる。
【0029】
前記構成によれば、マスキング部材が有するシンボルを基準に、刺繍部を作製する位置、又は、前記印刷装置においてインクジェット印刷を行う位置の位置合わせができる。また、刺繍部を作製する位置、及び、前記印刷装置においてインクジェット印刷を行う位置の基準をマスキング部材が有する同一のシンボルにすること、すなわち、基準を共有することもできるので、刺繍部とインクジェット印刷のずれを抑えることができる。また、刺繍範囲からはみ出た前記マスキング部材は取り除くことができるので、シンボルが刺繍装飾品の外観に影響を与えることもない。
【0030】
さらにまた、本発明の第12の側面に係る刺繍装飾品の製造システムは、前記印刷装置において前記刺繍部にインクジェット印刷を行った後に、該刺繍部を加熱して、前記インクジェット印刷に係るインクを該刺繍部に定着させる加熱装置を備え、前記取付装置が、前記加熱装置による加熱に耐える耐熱性を有することができる。
【0031】
さらにまた、本発明の第13の側面に係る刺繍装飾品の製造システムは、前記刺繍装飾品の原画に基づいて、前記刺繍部作製装置より刺繍を施す範囲、該刺繍部作製装置より刺繍針を刺す順番、該刺繍部作製装置よる刺繍に用いる糸の種類、前記印刷装置よりインクジェット印刷を行う範囲、及び、該印刷装置よるインクジェット印刷に用いるインクの種類のうち、少なくとも1つを決定する製造内容決定部を備えることができる。
【0032】
前記構成によれば、刺繍装飾品の原画に基づいて、好適な表現を選択できる。
【0033】
さらにまた、本発明の第14の側面に係る刺繍装飾品の製造方法は、前記被装飾品に施される刺繍による装飾である刺繍部を作製する刺繍部作製工程と、前記刺繍部に対してインクジェット印刷を行う印刷工程とを含むことができる。
【0034】
さらにまた、本発明の第15の側面に係る刺繍装飾品の製造システムは、被装飾品を装飾する刺繍装飾品を製造する刺繍装飾品の製造システムであって、前記被装飾品を着脱自在に取り付ける取付装置と、前記取付装置に取り付けられた前記被装飾品に施される刺繍による装飾である刺繍部を作製する刺繍部作製装置と、前記刺繍部作製装置において作製された刺繍部に対してインクジェット印刷を行う印刷装置とを備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明を適用した刺繍装飾品の製造装置の機能ブロック図である。
【
図2】マスキング部材について説明するための模式図である。
【
図3】マスキング部材について説明するための模式図である。
【
図4】刺繍装飾品の製造装置の使用方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明はそれらを以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
[刺繍装飾品の製造方法]
【0037】
本発明の一実施の形態に係る刺繍装飾品の製造方法は、被装飾品DIに施した刺繍部EPに対してインクジェット印刷を行うことで、従来の刺繍よりも細かい表現や、色を連続的に変化させる表現が可能であり、低廉に実施可能である。
【0038】
以下で、本発明の一実施の形態に係る刺繍装飾品の製造装置1(特許請求の範囲における「刺繍装飾品の製造システム」の一例に対応する。)を用いた刺繍装飾品の製造方法について、
図1~
図4に基づいて説明する。
〈刺繍装飾品の製造装置1〉
【0039】
刺繍装飾品の製造装置1は、
図1に示すように、取付装置11、刺繍部作製装置12、ヒートプレス13(特許請求の範囲における「加圧装置」及び「加熱装置」の一例に対応する。)、印刷装置14、カメラ15(特許請求の範囲における「撮像装置」の一例に対応する。)、記憶装置16(特許請求の範囲における「第一記憶装置」、「第二記憶装置」及び「第三記憶装置」の一例に対応する。)及び制御装置17(特許請求の範囲における「位置決定装置」及び「製造内容決定部」の一例に対応する。)を一体化した装置である。以下で各装置について説明する。
【0040】
なお、特許請求の範囲における「刺繍装飾品の製造システム」は、刺繍装飾品の製造装置1のように、各装置を一体化したものに限定されず、装置の全部又は一部が独立したものであってもよい。すなわち、例えば、刺繍部作製装置12を刺繍ミシン、ヒートプレス13をアイロン、印刷装置14をガーメントプリンタというように、それぞれ独立した装置に置き換えることができる。
《取付装置11》
【0041】
取付装置11は、装飾する被装飾品DIが着脱自在に取り付けられる装置であり、後述する、刺繍部作製装置12を用いて刺繍部EPの作製する刺繍部作製工程や、ヒートプレス13を用いて刺繍部EPを加圧及び加熱する第一ヒートプレス工程(特許請求の範囲における「加圧工程」の一例に対応する。)及び第二ヒートプレス工程(特許請求の範囲における「加熱工程」の一例に対応する。)、印刷装置14を用いて刺繍部EPへの印刷を行う印刷工程は、被装飾品DIが取付装置11に取り付けられた状態で行われる。このため、取付装置11は、ヒートプレス13の加圧による負荷に耐える強度と、ヒートプレス13の加熱に耐える耐熱性とを有するよう構成される。以上の構成により、刺繍装飾品の製造装置1は、被装飾品DIを着脱することなく、刺繍部作製工程、第一ヒートプレス工程、印刷工程及び第二ヒートプレス工程(詳細は後述する。)を連続的に実施することができるので、作業効率を高める事ができる。
《刺繍部作製装置12》
【0042】
刺繍部作製装置12は、
図2に示すように、制御装置17の制御によって、マスキング部材MEが取り付けられた被装飾品DIに、マスキング部材MEごと刺繍を施し、刺繍部EPを作製する部材であり、一般的な刺繍ミシンと同様の原理で被装飾品DIに刺繍を施すことができる。刺繍部作製装置12の態様は特に限定されないが、印刷装置14によって刺繍部EPに着色できるので、例えば、所望の刺繍部EPに応じて、複数の色の異なる刺繍糸を自動的に切り替えて、複数の色の刺繍糸を用いた刺繍部EPを作製する機能は、必ずしも必要ではなく、少なくとも、一色の刺繍糸を用いて刺繍部EPを作製できればよい。一種類の刺繍糸のみを使用するようにすれば、刺繍糸の取り付け及び切り替えの手間が省けるので、作業効率を高めることができる。
《ヒートプレス13》
【0043】
ヒートプレス13は、温度調整可能な板状の装置であり、印刷装置14によるインクジェット印刷の前後で、制御装置17の制御によって温度調整されながら押し当てられることで、刺繍部EPを加熱しながら加圧する装置である。
【0044】
印刷装置14によるインクジェット印刷の前に行う加熱及び加圧は、刺繍部EPの厚みを調節し、立体的な刺繍部に対して適切なインクジェット印刷を可能にするための工程(第一ヒートプレス工程)である。インクジェット印刷は、平らな被印刷物に対して印刷を行う技術であるため、通常、立体的な刺繍部EPに対して適切なインクジェット印刷はできない。これに対し、刺繍装飾品の製造装置1は、ヒートプレス13を用いて刺繍部EPを加圧し、刺繍部EPの厚みを調節することにより、立体的な刺繍部に対して適切にインクジェット印刷が可能である。
【0045】
一方、印刷装置14によるインクジェット印刷の後に行う加熱及び加圧は、インクジェット印刷に係るインクを刺繍部EPに定着させるための工程(第二ヒートプレス工程)である。
《印刷装置14》
【0046】
印刷装置14は、
図2に示すように、制御装置17の制御によって、刺繍部作製装置12にて作製された刺繍部EPに対してインクジェット印刷を行う装置であり、一般的なガーメントプリンタと同様の原理で、刺繍部EPに対してインクジェット印刷を行うことができる。これにより、刺繍装飾品の製造装置1は、刺繍部EPを着色できるので、従来の刺繍よりも細かい表現や、色を連続的に変化させる表現が可能である。また、色の異なる刺繍糸を準備しておく必要が無く、昇華転写印刷の転写紙のように、別途、部材が必要となることもないため、低廉に実施可能である。
《カメラ15》
【0047】
カメラ15は、制御装置17の制御によって、取付装置11に取り付けられた被装飾品DI、ひいては、刺繍部EPやマスキング部材ME等を撮像し、画像データIDを作製する装置である。作製された画像データIDは、後述する、記憶装置16に記憶され、制御装置17にて、刺繍部作製装置12を用いて刺繍部EPを作製する位置、及び、印刷装置14を用いてインクジェット印刷を行う位置を決定する基準として使用される。
《記憶装置16》
【0048】
記憶装置16は、カメラ15で作製した画像データID、マスキング部材MEに設けられたシンボルSBに係るデータであるシンボルデータSD等の刺繍装飾品の製造装置1の動作を制御するために必要な電子データを記憶する装置である。記憶装置16に記憶されたデータは、制御装置17にて使用される。
《制御装置17》
【0049】
制御装置17は、記憶装置16に記憶されたデータに基づいて、刺繍装飾品の製造装置1の動作を制御する(詳細は後述する。)装置である。
《マスキング部材ME》
【0050】
マスキング部材MEは、例えば、
図3に示すように、被装飾品DIの刺繍が施される範囲(以下、「刺繍範囲ER」という。)よりも大きい水解性のシート状部材である。マスキング部材MEは、刺繍範囲ERを覆うように配され、刺繍部作製装置12によって、被装飾品DIと共に刺繍が施される。
【0051】
すなわち、
図2に示すように、刺繍範囲ERよりも大きいシート状の部材であるマスキング部材MEにより、刺繍範囲ERの周囲をカバーできるので、印刷装置14が刺繍部EPからはみ出して被装飾品DIを着色することを防止できる。また、刺繍部EPからはみ出したマスキング部材MEは、被装飾品DIと共に刺繍されており、刺繍針によって複数の穴が空けられているため、刺繍部EPの外縁部に沿って、容易にちぎり取ることができる。さらにまた、マスキング部材MEは水解性であるため、刺繍部EPと、被装飾品DIとの間に配される(ちぎり取れない)マスキング部材MEは、被装飾品DIを水洗いすることで除去することができる。
【0052】
さらにまた、マスキング部材MEは、
図3に示すように、十字模様のシンボルSBが印刷されており、これを基準に、刺繍部作製装置12により刺繍部EPを作製する位置、及び、印刷装置14によりインクジェット印刷を行う位置の位置合わせができる(詳細は後述する。)。
【0053】
なお、マスキング部材MEの態様は前述のものに限定されない。例えば、マスキング部材MEは必ずしも、水解性である必要はなく、インクジェット印刷に係るインクを透過させず、被装飾品DIと共に刺繍可能な材料であればよい。また、シンボルSBは、十字模様に限定されず、バーコードや、パスワード、QRコード(登録商標)等であってもよい。
〈刺繍装飾品の製造装置1の使用方法〉
【0054】
前述の刺繍装飾品の製造装置1は、
図4のフローチャートに示す手順で使用することができ、刺繍装飾品の製造することができる。以下で各工程について説明する。
《ステップST101:製造内容決定工程》
【0055】
この工程では、刺繍装飾品の原画に基づいて、刺繍装飾品をどのように製造するかを決定する。具体的には、刺繍を施す範囲、刺繍針を刺す順番、刺繍糸の種類、インクジェット印刷を行う範囲、及び、インクの種類等の内容について決定する。
【0056】
例えば、刺繍針を刺す順番、すなわち、ステッチ(縫い目)は、刺繍装飾品の美観に大きく影響を及ぼすので、製造する刺繍装飾品に合わせて決定するのが好ましい。例えば、動物のデザインを刺繍で表現する際には、動物の毛並みに沿ったステッチにし、植物のデザインを刺繍で表現する際には、葉脈に沿ったステッチにすることで、より写実的な表現が可能である。
【0057】
また、刺繍糸の色は特に限定されず、例えば、白色の刺繍糸を使用すれば、インクが綺麗に発色させることができる。また、黄色の刺繍糸を用いて作製した刺繍部EPに対して、黒色のインクを用いて縞模様をインクジェット印刷すれば虎柄を再現することができる。このように、刺繍糸の色は、製造する刺繍装飾品に合わせて適宜選択すればよい。
【0058】
また、刺繍糸の素材も特に限定されず、綿(昇華転写印刷を用いた方法では使用できない。)やポリエステル、レーヨン等の一般的な刺繍糸が使用できる。例えば、綿を用いて刺繍装飾品を製造した場合はマット調の優しい風合いになり、ポリエステルを用いて刺繍装飾品を製造した場合は光沢感が出るので製造する刺繍装飾品に合わせて適宜変更すればよい。
【0059】
また、インクジェット印刷は、基本的には、刺繍部EPよりも一回り大きい範囲に行う。これにより、刺繍部EP全体を確実に刺繍することができ、刺繍部EPからはみ出した部分は、マスキング部材MEをちぎり取ることで除去できる。逆に、刺繍部EPよりも小さい範囲にインクジェット印刷を行い、一部は刺繍糸の色がそのまま表出するようにしてもよい。
【0060】
さらにまた、インクジェット印刷は、刺繍部EPの裏面に対しても行うことができ、ハンカチ等の裏面も見える被装飾品DIへの装飾に適している。この場合、上記内容は、刺繍部EPの裏面へインクジェット印刷を行うことを考慮して決定することが好ましい。
【0061】
なお、製造内容決定工程は、刺繍装飾品の製造装置1の使用者が行うだけでなく、制御装置17が行うようにもできる。制御装置17が製造内容決定工程を行う方法としては、刺繍装飾品の原画を特定のアルゴリズムに基づいて処理させる方法や、機械学習により予め複数の刺繍装飾品の原画を学習させて学習モデルを作成し、該学習モデルに基づいて処理させる方法等がある。
《ステップST102:データ入力工程》
【0062】
この工程では、製造内容決定工程での決定された内容に基づいて、刺繍糸の流れ(刺繍針を刺す順番)を決めたデータである刺繍データEDと、インクジェット印刷で着色する色及びその位置を決めたデータである印刷データPDと、シンボルデータSDを作成し、記憶装置16に記憶させる。
【0063】
刺繍データEDは、刺繍装飾品の原画から刺繍ミシン用のソフトウェアを用いて作成することができ、印刷データPD及びシンボルデータSDは、刺繍装飾品の原画から一般的に普及している画像編集ソフトウェアを用いて作成することができる。
《ステップST103:刺繍糸取付工程》
【0064】
この工程では、製造内容決定工程での決定された内容に基づいて、使用する刺繍糸を刺繍装飾品の製造装置1に取り付ける。
《ステップST104:被装飾品取付工程》
【0065】
この工程では、被装飾品DIを取付装置11に取り付ける。取付装置11は、ヒートプレス13の加圧による負荷に耐える強度と、ヒートプレス13の加熱に耐える耐熱性とを有するよう構成されているため、刺繍装飾品の製造装置1は、後述する、被装飾品取付工程以降の工程を、被装飾品DIを着脱することなく、連続的に実施することができ、作業効率を高める事ができる。
《ステップST105:マスキング工程》
【0066】
この工程では、
図3に示すように、被装飾品DIに、刺繍範囲ERを覆うようにマスキング部材MEを配する。《ステップST101:製造内容決定工程》にて説明したように、刺繍部EPの裏面に対してもインクジェット印刷する場合には、刺繍範囲ERの裏面にもマスキング部材MEを配する。これにより、刺繍範囲ERの周囲をカバーできるので、印刷装置14が刺繍部EPからはみ出して被装飾品DIを着色することを防止できる。
《ステップST106:刺繍位置決定工程》
【0067】
この工程では、後述する刺繍部作製工程において刺繍部を作製する位置を決定する(特許請求の範囲における「第二位置決定工程」の一例に対応する。)。刺繍部を作製する位置の決定は、制御装置17によって行われる。具体的には、まず、カメラ15が、制御装置17の制御によって、被装飾品DIに取り付けられたマスキング部材ME等を撮像し、画像データIDを作製する。画像データIDは記憶装置16に記憶される。次に、制御装置17は、記憶装置16からシンボルデータSDと画像データIDとを読み込み、シンボルデータSDに基づいて画像データID内のシンボルSBの座標(十字の交差部分の座標)を検出する。最後に、制御装置17は、検出した画像データID内のシンボルSBの座標を現実でのシンボルSBの座標に変換し、座標データCDとして記憶装置16に記憶させる。このようにして作成された座標データCDは、刺繍部作製工程で刺繍部EPを作製する基準(原点)として使用される。
《ステップST107:刺繍部作製工程》
【0068】
この工程では、刺繍位置決定工程で作成された座標データCDに基づいて刺繍部EPを作製する。具体的に、制御装置17は、記憶装置16から刺繍データEDと座標データCDとを読み込み、これらに基づいて刺繍部作製装置12に刺繍部EPを作製させる。このとき、座標データCD、すなわち、現実でのシンボルSBの座標に、刺繍データEDにおける原点が一致するよう制御される。
【0069】
なお、刺繍部作製工程は前述の態様に限定されない。例えば、現実でのシンボルSBの座標に、刺繍データEDにおける原点を一致させる制御に限定されず、刺繍データEDにおける中心を一致させるよう制御してもよい。
《ステップST108:第一ヒートプレス工程》
【0070】
この工程では、刺繍部作製工程で作製された刺繍部EPを加熱しながら加圧する。これにより、刺繍部EPの厚みを調節し、立体的な刺繍部に対して適切なインクジェット印刷が可能となる。
【0071】
なお、第一ヒートプレス工程は、刺繍部EPの厚みの調節が目的であるため、必ずしも加熱する必要はない。また、加熱及び加圧の程度は適切なインクジェット印刷が可能で、且つ、刺繍の立体的な表現を損なわない程度であれば特に限定されない。このような加熱及び加圧の程度は、例えば、製造内容決定工程において予め設定しておいたり、製造する刺繍装飾品に基づいて制御装置17が制御するようにしたりしてもよい。
《ステップST109:印刷位置決定工程》
【0072】
この工程では、後述する印刷工程においてインクジェット印刷を行う位置を決定する(特許請求の範囲における「第二位置決定工程」の一例に対応する。)。インクジェット印刷を行う位置の決定は、制御装置17によって行われる。具体的には、まず、カメラ15が、制御装置17の制御によって、被装飾品DIに取り付けられたマスキング部材ME等を撮像し、画像データIDを作製する。画像データIDは記憶装置16に記憶される。次に、制御装置17は、記憶装置16からシンボルデータSDと画像データIDとを読み込み、シンボルデータSDに基づいて画像データID内のシンボルSBの座標を検出する。最後に、制御装置17は、検出した画像データID内のシンボルSBの座標を現実でのシンボルSBの座標に変換し、座標データCDとして記憶装置16に記憶させる。このようにして作成された座標データCDは、印刷工程で刺繍部EPを作製する基準(原点)として使用される。
【0073】
なお、印刷位置決定工程は前述のものに限定されない。例えば、マスキング部材MEの色に基づいて、インクジェット印刷を行う位置を決定することもできる。具体的には、まず、マスキング部材MEの色に係るデータである色データを作成し、記憶装置16に記憶させる。次に、カメラ15が、制御装置17の制御によって、被装飾品DIに取り付けられたマスキング部材ME等を撮像し、画像データIDを作製する。画像データIDは記憶装置16に記憶される。次に、制御装置17は、記憶装置16から色データと画像データIDとを読み込み、色データに基づいて画像データID内のマスキング部材MEの色と一致する範囲を検出する。この検出結果から、マスキング部材MEの位置と、刺繍部EPの位置を特定できるので、これに基づいて、インクジェット印刷を行う位置を決定する。
【0074】
その他にも、OHPシート等の透明又は半透明のシート状部材(特許請求の範囲における「被仮印刷部材」の一例に対応する。)を用いてインクジェット印刷を行う位置を決定することもできる。具体的には、まず、シート状部材を取付装置11に対して固定した状態で印刷工程と同一のインクジェット印刷(特許請求の範囲における「仮印刷工程」の一例に対応する。)を行い、取付装置11を基準に、どの位置にインクジェット印刷されるかを明らかにする。次に、インクジェット印刷されたシート状部材と被装飾品DIとを重ね、被装飾品DIを透かせながら、被装飾品DIの所望の位置にインクジェット印刷されるよう、被装飾品DIを取付装置11に取り付ける位置を調整して、インクジェット印刷を行う位置を決定する。
【0075】
さらにいえば、印刷位置決定工程は必ずしも行う必要はなく、刺繍位置決定工程において作成された座標データCDを流用することも可能である。
《ステップST110:印刷工程》
【0076】
この工程では、印刷位置決定工程で作成された座標データCDに基づいてインクジェット印刷を行う。具体的に、制御装置17は、記憶装置16から印刷データPDと座標データCDとを読み込み、これらに基づいて印刷装置14に刺繍部EPに対してインクジェット印刷させ、刺繍部EPを着色する。このとき、座標データCD、すなわち、現実でのシンボルSBの座標に、印刷データPDにおける原点が一致するよう制御される。
《ステップST111:第二ヒートプレス工程》
【0077】
この工程では、印刷工程でインクジェット印刷され、着色された刺繍部EPを加熱しながら加圧する。これにより、インクジェット印刷に係るインクを刺繍部EPに定着させることができる。
【0078】
なお、第二ヒートプレス工程は、インクジェット印刷に係るインクを刺繍部EPに定着させることが目的であるため、必ずしも加圧する必要はない。また、加熱及び加圧の程度はインクジェット印刷に係るインクを刺繍部EPに定着させることが可能で、且つ、刺繍の立体的な表現を損なわない程度であれば特に限定されない。このような加熱及び加圧の程度は、例えば、製造内容決定工程において予め設定しておいたり、製造する刺繍装飾品に基づいて制御装置17が制御するようにしたりしてもよい。
《ステップST112:マスキング除去工程》
【0079】
この工程では、刺繍部EPからはみ出したマスキング部材MEを刺繍部EPの外縁部に沿ってちぎり取る。このようにして刺繍部EPの外観を整えることで、刺繍装飾品は完成する。
【0080】
なお、マスキング部材MEの除去方法は前述のものに限定されない。例えば、水解性のマスキング部材MEを用いる場合は、被装飾品DIを水洗いすることで除去することもでる。
【0081】
以上説明したように、本発明の一実施の形態に係る刺繍装飾品の製造方法、及び、刺繍装飾品の製造システムによれば、印刷工程におけるインクジェット印刷により刺繍部を着色できるので、従来の刺繍よりも細かい表現や、色を連続的に変化させる表現が可能である。また、色の異なる刺繍糸を準備しておく必要が無く、印刷の際に、昇華転写印刷の転写紙のように、別途、部材が必要となることもないため、低廉に実施可能であり、作業効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0082】
1…刺繍装飾品の製造システム
11…取付装置
12…刺繍部作製装置
13…ヒートプレス
14…印刷装置
15…カメラ
16…記憶装置
17…制御装置
DI…被装飾品
ER…刺繍範囲
PR…印刷範囲
EP…刺繍部
ME…マスキング部材
SB…シンボル
ID…画像データ
SD…シンボルデータ
ED…刺繍データ
PD…印刷データ
CD…座標データ
【要約】
【課題】従来の刺繍よりも細かい表現や、色を連続的に変化させる表現が可能であり、低廉に実施可能な刺繍装飾品の製造システムを提供する。
【解決手段】被装飾品DIを着脱自在に取り付ける取付装置11と、被装飾品DIの刺繍が施される範囲である刺繍範囲ERの表面及び裏面の少なくとも一方に、刺繍範囲ERが覆われるよう配される、刺繍範囲ERよりも大きいシート状の部材であるマスキング部材MEごと、取付装置11に取り付けられた被装飾品DIに施される刺繍による装飾である刺繍部EPを作製する刺繍部作製装置12と、刺繍部作製装置12において作製された刺繍部EPの、マスキング部材MEが配された面の一部又は全部に対して、インクジェット印刷を行う印刷装置14とを備えるよう構成する。
【選択図】
図1