(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】水性塗料組成物及び建築材料
(51)【国際特許分類】
C09D 133/04 20060101AFI20221117BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221117BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221117BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20221117BHJP
E04F 13/02 20060101ALI20221117BHJP
B41M 5/52 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D5/02
C09D7/61
C09D5/00 D
E04F13/02 A
E04F13/02 F
B41M5/52 110
(21)【出願番号】P 2021214300
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2022-08-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】五代 裕
(72)【発明者】
【氏名】垣本 信生
(72)【発明者】
【氏名】倉田 透
(72)【発明者】
【氏名】木村 直人
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-297473(JP,A)
【文献】特開2011-212954(JP,A)
【文献】特開2009-056615(JP,A)
【文献】特開2016-068405(JP,A)
【文献】特開2005-013939(JP,A)
【文献】国際公開第2020/229647(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-13/00;101/00-201/10
E04F13/00-15/22
B41J2/01-2/215
B41M5/00;5/50-5/52
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成樹脂(A)及び微粒子(B)を含む水性塗料組成物であって、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂エマルション(A1)を含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A1)は、コア部とシェル部とを有し、
前記コア部のガラス転移温度(Tg
c)は、15℃未満であり、
前記シェル部のガラス転移温度(Tg
s)は、25℃以上であり、
前記微粒子(B)は、微粒子(B1)、微粒子(B2)及び微粒子(B3)を含み、
前記微粒子(B1)は、炭酸カルシウムを含み、
前記微粒子(B1)の平均粒子径は、1μm以上5μm以下であり、
前記微粒子(B1)の吸油量は、60mL/100g以上であり、
前記微粒子(B1)のかさ比重は、0.20g/cm
3以上であり、
前記微粒子(B2)の平均粒子径は、1μm未満であり、
前記微粒子(B2)のかさ比重は、0.20g/cm
3以上であり、
前記微粒子(B3)は、シリカを含み、
前記微粒子(B3)の吸油量は、60mL/100g以上であり、
前記微粒子(B3)のかさ比重は、0.15g/cm
3以下である
、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記コア部と前記シェル部の質量比(コア部/シェル部)は、5/95~95/5である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前
記微粒子(B1)のBET比表面積は、10m
2/g以上である、請求項1又は2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記微粒子(B)の含有率は、前記塗料組成物の固形分中、35質量%以上75質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前
記微粒子(B2)は、前
記微粒子(B1)100質量部に対して、100質量部以上400質量部以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前
記微粒子(B3)は、前
記微粒子(B1)100質量部に対して、25質量部以上150質量部以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
前
記微粒子(B3)の吸油量は、前
記微粒子(B1)の吸油量より大きい、請求項1~6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
インク受理層用である、請求項1~7のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項9】
基材と、前記基材上に設けられ、請求項1~8のいずれか1項に記載の水性塗料組成物から形成されるインク受理層とを備える、建築材料。
【請求項10】
前記基材は、無機基材である、請求項9に記載の建築材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水性塗料組成物及び建築材料に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、各種印刷法の中でも、被塗物の形状に関係なく、複雑で精細な模様や絵柄の印刷が可能であることから、住宅やビル等の建築物の内壁又は外壁等の壁面や屋根に用いられる建築材料への適用も検討されている。前記建築材料としては、無機材料建材、木質建材、金属建材、プラスチック建材等が挙げられる。これらの建築材料にインクジェット印刷を適用する場合、意匠性及び製品物性の向上を目的として、被塗物にインクを受容し定着させるためのインク受理層(インク受容層、インク吸収層ともいう)を予め形成することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インク受理層の上にインクジェット印刷層を形成した化粧建築板が記載されている。
特許文献2には、アクリル系樹脂と微細粒子を含み、該アクリル系樹脂の計算Tgが-5~30℃であり、微細粒子の不揮発分に対する含有量が20~50質量%であるインク受理層形成塗料が記載されている。
特許文献3には、バインダー樹脂と、無機粒子と、特定粒径の樹脂ビーズとを含むインク受理層用塗料組成物が記載されている。
特許文献4には、無機質化粧板に用いられ、樹脂、顔料、インクにじみ防止剤及び希釈剤を含むインクジェット印刷用の下塗り着色塗膜が記載されている。
特許文献5には、塗膜化した後のケーニッヒ硬度が、塗膜表面温度25℃条件下と60℃条件下でそれぞれ測定した場合に、その差が0~5回となるインク受理層形成塗料が記載されている。
また、特許文献6には、第四級アンモニウム基及びアミド基を所定量有し、ガラス転移温度が100℃以下であるカチオン性非水溶性ポリマーラテックスを含むインクジェット定着性コーティング組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-057131号公報
【文献】特開2016-068405号公報
【文献】特開2020-111659号公報
【文献】特開2005-013939号公報
【文献】特開2014-205243号公報
【文献】特開2005-119309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インク受理層を有する建築材料を工業的に製造する際、インク受理層を形成するための水性塗料組成物は貯留容器に貯留される。その際、成分の滞留や沈降を防ぐために、当該水性塗料組成物を絶えず循環させる塗料サーキュレーションを実施する場合がある。しかしながら、本発明者らの検討によれば、塗料サーキュレーションを実施することにより、特に循環装置の近傍において激しい乱流が引き起こされうる。そうすると、水性塗料組成物に含まれる顔料に対して不規則な応力が継続的に加えられ、塗料組成物の調製時は均一に分散していた顔料が、吸着して微小な凝集を起こしたり、逆に塗料組成物の調製時は凝集体を形成していた顔料が解砕され得る。しかしながら、顔料の粒子径は、インク定着性と相関するため、継続的な顔料の凝集又は解砕により顔料の粒子径が変化すると、形成されるインク受理層のインク定着性も経時的に変化してしまい、その結果、建築材料自体の意匠性も大きく変化してしまうという不具合があることが判明した。
【0006】
本開示は、塗料安定性(循環安定性)に優れ、且つインク定着性の良好な塗膜(インク受理層)を形成できる水性塗料組成物の提供を課題とする。また、該水性塗料組成物を用いて得られる建築材料の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下を含む。
[1]塗膜形成樹脂(A)及び微粒子(B)を含む水性塗料組成物であって、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂エマルション(A1)を含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A1)は、コア部とシェル部とを有し、
前記コア部のガラス転移温度(Tgc)は、15℃未満であり、
前記シェル部のガラス転移温度(Tgs)は、25℃以上であり、
前記微粒子(B)は、微粒子(B1)、微粒子(B2)及び微粒子(B3)を含み、
前記微粒子(B1)は、炭酸カルシウムを含み、
前記微粒子(B1)の平均粒子径は、1μm以上5μm以下であり、
前記微粒子(B1)の吸油量は、60mL/100g以上であり、
前記微粒子(B1)のかさ比重は、0.20g/cm3以上であり、
前記微粒子(B2)の平均粒子径は、1μm未満であり、
前記微粒子(B2)のかさ比重は、0.20g/cm3以上であり、
前記微粒子(B3)は、シリカを含み、
前記微粒子(B3)の吸油量は、60mL/100g以上であり、
前記微粒子(B3)のかさ比重は、0.15g/cm3以下である
、水性塗料組成物。
[2]前記コア部と前記シェル部の質量比(コア部/シェル部)は、5/95~95/5である、[1]に記載の水性塗料組成物。
[3]前記親水性微粒子(B1)のBET比表面積は、10m2/g以上である、[1]又は[2]に記載の水性塗料組成物。
[4]前記微粒子(B)の含有率は、前記塗料組成物の固形分中、35質量%以上75質量%以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物。
[5]前記親水性微粒子(B2)は、前記親水性微粒子(B1)100質量部に対して、100質量部以上400質量部以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物。
[6]前記疎水性微粒子(B3)は、前記親水性微粒子(B1)100質量部に対して、25質量部以上150質量部以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物。
[7]前記疎水性微粒子(B3)の吸油量は、前記親水性微粒子(B1)の吸油量より大きい、[1]~[6]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物。
[8]インク受理層用である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物。
[9]基材と、前記基材上に設けられ、[1]~[8]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物から形成されるインク受理層とを備える、建築材料。
[10]前記基材は、無機基材である、[9]に記載の建築材料。
【発明の効果】
【0008】
本開示の水性塗料組成物は、塗料安定性(循環安定性)に優れ、且つインク定着性の良好な塗膜(インク受理層)を形成できる。また、本開示の水性塗料組成物を用いて得られる建築材料は、インク定着性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、循環の際、顔料の粒子径が経時で減少することに着目し、当初から小さな粒子径の顔料を用いることで、循環による顔料の粒子径の減少を抑制することを想起した。通常であれば、小さな粒子径の顔料を用いると、顔料がインクを十分に吸収しにくくなり、インク定着性が低下する傾向がある。しかし、本発明者らは、こうした通常の理解に反し、小さな粒子径の顔料微粒子(B1)と、更に小さな微小粒子径の微粒子(B2)とを併用し、これらに加えて、該顔料微粒子(B1)や微小粒子径の微粒子(B2)よりも、かさ比重の低い微粒子(B3)を用いると、意外にも塗膜のインク定着性が向上することを見出した。特定の理論に拘束されないが、本発明者らの検討によれば、微小粒子径の微粒子(B2)は、顔料微粒子(B1)の間に介在して、顔料微粒子(B1)の更なる微細化を防ぎつつ塗膜表面の表面積を高め、これにより水性塗料組成物の塗料安定性(循環安定性)と得られる塗膜へのインクの浸透性を高めることができると考えられる。同時に、かさ比重の低い微粒子(B3)は、塗膜形成過程において、塗膜表層に偏在する傾向があることから、塗膜表面に着弾したインクは、当該かさ比重の低い微粒子(B3)によって吸収されつつ塗膜表面で拡がると考えられる。そして、これら顔料微粒子(B1)及び微小粒子径の微粒子(B2)によるインクの浸透性と、かさ比重の低い微粒子(B3)による塗膜表面でのインクの拡がり性が相乗的に作用することで、インク定着性を向上できると考えられる。
【0010】
更に、本発明者らは、これらの微粒子(顔料)によるインク定着性向上効果を最大限に発揮するための塗膜形成樹脂についても検討を行い、塗膜形成樹脂として、コア部とシェル部とを有するアクリル樹脂エマルションを用い、シェル部のガラス転移温度を高めつつ、シェル部のガラス転移温度を引き下げることを想起した。その結果、上述した微粒子によるインク定着性向上作用が効果的に発揮されることを見出し、本発明を完成させた。特定の理論に拘束されないが、本発明者らの検討によれば、コア部のガラス転移温度が抑制されていることで、造膜性が維持されつつ、シェル部のガラス転移温度が高められていことで、塗膜表面の表面自由エネルギーが引き下げられると考えられる。塗膜表面の表面自由エネルギーが引き下げられることで、インクの浸透性が向上し、更に上述した微粒子によるインク定着性向上作用が効果的に発揮されたためと考えられる。
【0011】
本開示の水性塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)及び微粒子(B)を含む。
【0012】
[塗膜形成樹脂(A)]
塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂エマルション(A1)を含む。本開示において、エマルション型樹脂は、粒子状となって水性媒体に分散している樹脂を意味し、アクリル樹脂エマルション(A1)は、エマルション型のアクリル樹脂、すなわち、粒子状となって媒体に分散しているアクリル樹脂を意味する。
【0013】
本開示のアクリル樹脂エマルション(A1)は、単一の粒子に着目すると、コア部と、コア部の表面の少なくとも一部を被覆するシェル部とを含む多層構造を有する。シェル部は、好ましくはコア部の表面の全体を被覆する。シェル部のガラス転移温度(Tgs)は、コア部のガラス転移温度(Tgc)よりも高く、具体的に、コア部のガラス転移温度(Tgc)は、15℃未満であり、シェル部のガラス転移温度(Tgs)は、25℃以上である。
【0014】
コア部のガラス転移温度(Tgc)は、得られる塗膜の強度の観点から、好ましくは-50℃以上、より好ましくは-20℃以上、更に好ましくは-10℃以上であり、造膜性の観点から、好ましくは25℃以下、より好ましくは20℃以下、更に好ましくは15℃未満である。また、シェル部のガラス転移温度(Tgs)は、インク定着性の観点から、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは35℃以上であり、塗膜の靭性の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0015】
本開示において、樹脂(重合体)のガラス転移温度(Tg)は、樹脂(重合体)を構成する各モノマーの質量分率を、各モノマーから誘導される単独重合体(ホモポリマー)のTg(K:ケルビンで表す。)値で割ることによって得られるそれぞれの商の合計の逆数として計算することができる。
【0016】
より詳細には、本開示において、微粒子のガラス転移温度(Tg)は、Foxの式(T.G.Fox;Bull.Am.Phys.Soc.,1(3),123(1956))によって算出できる。
【0017】
具体的には、樹脂(重合体)が、複数のモノマー1、2、…、Nの重合体である場合、下記一般式によって算出できる。
1/Tg=w1/Tg1+w2/Tg2+・・・+wn/Tgn
で表されるTgを樹脂(重合体)のTgとする。
Tg1:モノマー1のホモポリマーのガラス転移温度(K)、w1:モノマー1の質量分率
Tg2:モノマー2のホモポリマーのガラス転移温度(K)、w2:モノマー2の質量分率
Tgn:モノマーNのホモポリマーのガラス転移温度(K)、wn:モノマーNの質量分率
(w1+w2+・・・+wn=1)
【0018】
前記アクリル樹脂エマルション(A1)のコア部は、ラジカル重合性モノマーの(共)重合体を含み、該ラジカル重合性モノマーに由来する単位を有する。
【0019】
前記ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸モノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の不飽和カルボン酸アルキルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル、(メタ)アクリル酸シクロデシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル等の不飽和カルボン酸シクロアルキルエステルモノマー;マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステルモノマー;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの反応物等のヒドロキシル基含有不飽和カルボン酸アルキルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等の不飽和カルボン酸アミノアルキルエステルモノマー;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミドモノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル等の不飽和脂肪酸グリシジルエステルモノマー;(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪族カルボン酸ビニルエステルモノマー;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリブトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸ジメトキシメチルシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシジメチルシリルプロピル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルメトキシジメチルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン等の反応性シリル基含有モノマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本開示において(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸を表す。
【0020】
前記コア部は、不飽和カルボン酸アルキルエステルモノマーに由来する単位を含むことが好ましい。また、前記コア部は、分散性及び貯蔵安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和ジカルボン酸のモノエステルモノマー等のカルボキシ基を有するモノマーに由来する単位を含んでいてもよい。
【0021】
また、前記コア部は、反応性シリル基含有モノマーに由来する単位を含んでもよい。反応性シリル基含有モノマーに含まれる反応性シリル基が脱水結合することにより、シロキサン結合を形成して架橋したり高分子量化したりするので、得られる塗膜の造膜性、耐ブロッキング性及び耐温度変化性が向上し、特に、優れた耐候性、耐温水性を得ることができる利点がある。また、反応性シリル基含有モノマーは、反応性シリル基に加えてラジカル重合性基を有するため、付加重合を行うこともでき、前記シロキサン結合による効果に加えて、得られる塗膜の造膜性、耐ブロッキング性及び耐温度変化性を向上させることができる。
【0022】
コア部の溶解性パラメータ(SP値)は、分散性、貯蔵安定性の観点から、好ましくは9.5(cal/cm)1/2以上、より好ましくは10.0(cal/cm)1/2以上であり、インク定着性の観点から、好ましくは10.9(cal/cm)1/2以下、より好ましくは10.7(cal/cm)1/2以下である。
【0023】
SP値は、極性の指標であり、SP値が大きいほど極性が高く、SP値が小さいほど極性が低い。本開示において、SP値は、以下の方法により実測できる(参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A-1、5、1671~1681(1967))。
【0024】
[溶解性パラメータの測定方法]
サンプルとして、モノマー0.5gを100mlビーカーに秤量し、アセトン10mlを、ホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解したものを使用する。このサンプルに対して測定温度20℃で、50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。貧溶媒は、高SP貧溶媒としてイオン交換水を用い、低SP貧溶媒としてn-ヘキサンを使用して、それぞれ濁点測定を行う。モノマーのSP値δは下記計算式によって与えられる。
δ=(Vml
1/2δml+Vmh
1/2δmh)/(Vml
1/2+Vmh
1/2)
Vi:溶媒iの分子容(ml/mol)
φi:濁点における各溶媒iの体積分率
δi:溶媒iのSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
また、溶媒1及び溶媒2を含む溶媒混合系の分子容及びSP値は、下記計算式によって与えられる。
Vm=V1V2/(φ1V2+φ2V1)
δm=φ1δ1+φ2δ2
【0025】
なお、アクリル樹脂エマルション(A1)が複数種のアクリル樹脂エマルションを含む場合、アクリル樹脂エマルション(A1)のSP値は、各モノマーのSP値を用いて、アクリル樹脂エマルション(A1)成分中における固形分質量比を元に加重平均値を算出することによって、求めることができる。
【0026】
前記アクリル樹脂エマルション(A1)のシェル部は、ラジカル重合性モノマーの(共)重合体を含み、該ラジカル重合性モノマーに由来する単位を有する。シェル部を形成するラジカル重合性モノマーとしては、コア部を形成するラジカル重合性モノマーとして例示した化合物と同様の化合物が挙げられる。
【0027】
前記シェル部は、不飽和カルボン酸アルキルエステルモノマーに由来する単位を含むことが好ましい。また、前記シェル部は、分散性及び貯蔵安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和ジカルボン酸のモノエステルモノマー等のカルボキシ基を有するモノマーに由来する単位を含むことも好ましい。また、前記シェル部は、反応性シリル基含有モノマーに由来する単位を含んでもよい。
【0028】
シェル部の溶解性パラメータ(SP値)は、分散性、貯蔵安定性の観点から、好ましくは9.5(cal/cm)1/2以上、より好ましくは10.0(cal/cm)1/2以上であり、インク定着性の観点から、好ましくは10.9(cal/cm)1/2以下、より好ましくは10.7(cal/cm)1/2以下である。
【0029】
本開示のアクリル樹脂エマルション(A1)において、コア部とシェル部の質量比(コア/シェル)は、良好な分散性及び得られる塗膜の靭性の観点から、例えば、95/5~5/95であり、70/30~30/70であり、50/50~95/5である。
【0030】
アクリル樹脂エマルション(A1)全体の酸価は、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは12mgKOH/g以上であり、塗膜の耐水性の観点から、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下である。
【0031】
アクリル樹脂エマルション(A1)全体の水酸基価は、塗膜の耐水性の観点から、例えば20mgKOH/g以下、更に10mgKOH/g以下、とりわけ5mgKOH/g以下であってよく、0mgKOH/g以上であり、1mgKOH/g以上であってもよい。なお、本開示において、酸価、水酸基価は、それぞれ、固形分酸価、固形分水酸基価を意味し、JIS K 0070:1999に準じて測定できる。
【0032】
アクリル樹脂エマルション(A)は、前記ラジカル重合性モノマーを含むモノマー混合物を水性媒体中で重合させることにより調製できる。重合反応は、バッチ重合、モノマー滴下重合、乳化モノマー滴下重合等を含む乳化重合であることが好ましい。特に、製造時の安定性を確保する上で乳化モノマー滴下重合が好適である。
【0033】
コア部及びシェル部は、多段モノマーフィード法であるコアシェル重合法により形成できる。具体的には、本開示のアクリル樹脂エマルション(A1)は、水性媒体の存在下、コア部を形成するモノマー混合物を重合して、コア部を形成させる工程(第1工程)、その後、シェル部を形成するモノマー混合物を反応液中に滴下して、第1工程で形成したコア部の外部に供給し、更に当該シェル部を形成するモノマー混合物を重合して、シェル部を形成させる工程(第2工程)を経ることにより製造できる。なお、コア部及びシェル部の性質等に応じ、シェル部を形成した後、コア部を形成してもよい。
【0034】
前記重合反応は、反応媒体(好ましくは水性媒体)中で行ってよく、必要に応じ、乳化剤及び/又は重合開始剤の存在下で行ってよい。
【0035】
前記乳化剤としては、例えば、分子中にビニル基等の重合性の不飽和結合を有しない非反応性乳化剤、及び/又は、分子中にビニル基等の重合性の不飽和結合を有する反応性乳化剤を使用できる。前記非反応性乳化剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸アンモニウム、ジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエステル等が挙げられる。前記反応性乳化剤としては、例えば、アクアロンHS-10等のアクアロンHSシリーズ(第一工業製薬社製)、アクアロンRNシリーズ(第一工業製薬社製)、エレミノールJS-2(三洋化成工業社製)、ラテムルS-120、S-180A(花王社製)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記乳化剤は、モノマー混合物の総量100質量部に対して、0.5質量部以上、10質量部以下であることが好ましい。
【0036】
乳化剤は、第1工程及び第2工程のいずれの重合反応に共存させてもよく、アクリル樹脂エマルション(A1)の分散性の観点から、シェル部を形成する第1工程の重合反応に共存させることが好ましい。
【0037】
重合開始剤は、熱又は還元性物質等によりラジカルを生成してモノマーを付加重合させる作用を有するものであり、水溶性重合開始剤又は油溶性重合開始剤を使用できる。前記水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩系開始剤;過酸化水素等の無機系開始剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記油溶性重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリル等のアゾビス化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
重合開始剤と併せて、亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤を併用してもよい。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温における乳化重合を行うことが容易になる。
【0040】
重合開始剤としては、水溶性重合開始剤が好ましく、例えば、過硫酸アンモニウムが特に好ましい。
【0041】
前記重合開始剤は、コア部及びシェル部を形成するためのモノマー混合物の総量100質量部に対して、0.5質量部以上、10質量部以下であることが好ましい。
【0042】
前記水性媒体は水を含み、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコールを含んでいてもよい。水性媒体における水の含有率は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0043】
一実施態様において、コア部又はシェル部を形成するためのモノマー混合物は、予め反応前乳化混合物を調製した後、重合反応に供することが好ましい。この場合、反応前乳化混合物は、モノマー混合物に、乳化剤及び水性媒体を加え混合して調製してもよく、乳化剤及び水性媒体を混合した後、この混合物とモノマー混合物を混合して調製してもよい。乳化モノマー滴下重合は、反応前乳化混合物及び重合開始剤を、それぞれ水性媒体中に滴下することによって実施できる。反応前乳化混合物及び重合開始剤の滴下に要する時間は、反応スケール及び反応容器等に依存して任意に選択することができ、例えば30分~6時間の範囲で選択することができる。
【0044】
重合温度は、重合開始剤の使用の有無や種類等に応じ、適宜設定でき、例えば、反応を促進し、副生しうるアルコールの還流を抑制する観点から、例えば40~120℃であってよく、更に50~85℃であってよく、とりわけ60~80℃であってよい。重合反応は、常圧条件下において行ってもよく、又はモノマーの蒸気圧等の物性に応じて高圧条件下において行ってもよい。
【0045】
重合反応を実施する際の水性媒体のpHは、安全性及びアクリル樹脂エマルション(A1)の貯蔵安定性の観点から、好ましくは2~6であり、より好ましくは2.5~5.5、更に好ましくは2.5~5である。
【0046】
重合反応が完了した後、貯蔵安定性の観点から、反応溶液のpHを、好ましくは7~10、8~9.5、より好ましくは8.5~9.5に調整してよい。中和は、塩基性化合物を添加することにより実施できる。
【0047】
塩基性物質としては特に限定されず、例えば、アンモニア、トリブチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、アミノメチルプロパノール等のアミン化合物、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属化合物等を挙げることができる。これらは1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。これらのうち、本開示においては、バインダーへの分散性、粘性の点から、アミン化合物が好ましい。
【0048】
アクリル樹脂エマルション(A1)の平均粒子径は、好ましくは80~200nm、より好ましくは100~150nmである。これにより、得られる塗膜の耐水性が良好となる。本開示において、平均粒子径は、動的光散乱法によって決定される平均粒子径であり、具体的には、電気泳動光散乱光度計ELSZシリーズ(大塚電子社製)等を使用して測定することができる。
【0049】
塗膜形成樹脂(A)において、アクリル樹脂エマルション(A1)の含有率は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、好ましくは100質量%以下である。
【0050】
塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂エマルション(A1)以外に、その他の樹脂を含んでいてもよい。その他の樹脂としては、例えば、アクリル-スチレン樹脂エマルション、アクリルシリコン樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション等が挙げられる。
【0051】
水性塗料組成物の固形分中、塗膜形成樹脂(A)の含有率は、分散性及び貯蔵安定性の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、インク浸透性の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
本開示において、水性塗料組成物の固形分とは、水性塗料組成物を乾燥させた際に固形物を形成する成分の総量を意味する。
【0052】
[微粒子(B)]
本開示の微粒子(B)は、微粒子(B1)、微粒子(B2)及び微粒子(B3)を含む。
【0053】
前記微粒子(B1)は、炭酸カルシウムを含み、好ましくは、多孔質炭酸カルシウムを含む。一実施態様において、微粒子(B1)は、複数の一次粒子からなる軽凝集体である。微粒子(B1)は、凝集、合成、酸処理等により製造されたものを含む。微粒子(B1)を含むことで、インク受理層表面に、微細な凹凸が形成され、これにより、塗膜表面(インク受理層表面)に着弾したインクを均一に浸透させることが可能となる。
【0054】
前記微粒子(B1)の吸油量は、インク定着性の観点から、好ましくは60mL/100g以上、より好ましくは70mL/100g以上、更に好ましくは100mL/100g以上であり、例えば300mL/100g以下、更に180mL/100g以下であってもよい。
なお本開示において、吸油量は、JIS K 5101-13-2に準じて測定できる。
【0055】
前記微粒子(B1)のBET比表面積は、インク定着性の観点から、好ましくは10m2/g以上、より好ましくは15m2/g以上、更に好ましくは20m2/g以上であり、例えば300m2/g以下、更に200m2/g以下、特に100m2/g以下であってよい。
なお本開示において、BET比表面積は、例えば、自動比表面積測定装置ジェミニVII23900(島津製作所社製)等を用いて測定することができる。
【0056】
前記微粒子(B1)のかさ比重は、0.20g/cm3以上であり、分散性及び貯蔵安定性の観点から、好ましくは0.25g/cm3以上、より好ましくは0.30g/cm3以上であり、インク定着性の観点から、1.0g/cm3以下、より好ましくは0.8g/cm3以下、更に好ましくは0.7g/cm3以下である。
【0057】
本開示において、かさ比重は、JIS K 5101-12-1に準拠して測定できる。
【0058】
前記微粒子(B1)は、炭酸カルシウムを含み、微粒子(B1)における炭酸カルシウムの含有率は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【0059】
前記微粒子(B1)は、親水性であることが好ましい。微粒子(B1)が親水性であることで、水性塗料組成物中での分散性が良好であり、得られる塗膜内で均一に分布するため、インクの定着性を向上させることができる。
【0060】
本開示において、微粒子(B)の親水性は、メタノール湿潤性を示すM値により評価できる。
前記M値は、微粒子表面の疎水化処理の程度を表す特性値であり、水/メタノール混合溶液に微粒子を均一分散させるために必要なメタノールの容量割合で表され、M値が高いほど親水性が低く、疎水化処理の割合が高いことを示す。M値は以下の方法で求めることができる。
<M値の測定方法>
メタノール濃度を5容量%の間隔で変化させた水/メタノール混合溶液を調整し、これを容積10mlの試験管に5ml入れる。次いで測定試料0.2gを入れ、試験管に蓋をして、20回上下転倒してから静置した後、凝集物を観察する。凝集物が無く、測定試料の全部が湿潤して均一混合した混合溶液のうち、メタノール濃度が最も小さい混合溶液のメタノール濃度(容量%)をM値とする。
【0061】
前記微粒子(B1)のM値は、好ましくは10容量%以下、より好ましくは8容量%以下、更に好ましくは6容量%以下であり、0容量%以上である。微粒子(B1)のM値が前記範囲にあることで、微粒子(B1)の水性塗料組成物中での分散性を良好にでき、且つ得られる塗膜のインクの定着性を向上させることができる。
【0062】
前記微粒子(B1)の平均粒子径は、1μm以上であり、インク浸透性の観点から、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは2μm以上であり、5μm以下であり、塗料安定性(循環安定性)の観点から、好ましくは4μm以下である。
【0063】
本開示において、微粒子(B)の平均粒子径は、50%体積平均粒子径(D50、体積累積粒子径D50とも言われる)を意味する。具体的には、微粒子の粒度分布において、小粒子径側からある粒子径までの間で積算した粒子の合計体積を、粒子全体の体積に対する百分率で表したときに、その値が50%となるときの粒子径である。50%体積平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法、例えば、UPA-150(マイクロトラック・ベル社製粒度分布測定装置)等を用いて測定することができる。
【0064】
前記微粒子(B1)としては、市販品を用いることもでき、例えばカルライトKT(太陽化学工業社製)が挙げられる。
【0065】
また、前記市販品に対して、粒子径を調整するために、水中でかくはんする粒子径調整処理を行ってもよく、親水性を調整するために、有機酸を用いる親水化処理を行ってもよい。粒子径調整処理の際、分散剤を共存させてもよい。
【0066】
水性塗料組成物の固形分中、前記微粒子(B1)の含有率は、インク定着性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、分散安定性の観点から好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0067】
微粒子(B)中、前記微粒子(B1)の含有率は、インク定着性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、分散安定性の観点から好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。
【0068】
前記微粒子(B2)の材質は、特に限定されず、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、合成ゼオライト、アルミナ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、カオリン、クレー、焼成クレー、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の無機材料;尿素樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、アクリル-スチレン樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂(特に、ポリエチレン樹脂)等の有機材料であってよい。好ましくは、炭酸カルシウム等の無機材料である。
【0069】
前記微粒子(B2)の平均粒子径は、分散性及び貯蔵安定性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは200nm以上であり、1μm未満であり、インク定着性の観点から、好ましくは700nm以下、より好ましくは500nm以下である。
【0070】
前記微粒子(B2)のかさ比重は、0.20g/cm3以上であり、分散性及び貯蔵安定性の観点から、好ましくは0.25g/cm3以上、より好ましくは0.30g/cm3以上であり、インク定着性の観点から、1.0g/cm3以下、より好ましくは0.8g/cm3以下、更に好ましくは0.7g/cm3以下である。
【0071】
前記微粒子(B2)の吸油量は、例えば、好ましくは1mL/100g以上、より好ましくは5mL/100g以上であってよく、例えば300mL/100g以下、更に180mL/100g以下であってよい。
【0072】
前記微粒子(B2)は、親水性であることが好ましい。微粒子(B2)が親水性であることで、水性塗料組成物中での分散性が良好であり、得られる塗膜内で均一に分布するため、インクを均一に定着させることができる。
【0073】
前記微粒子(B2)のM値は、好ましくは10容量%以下、より好ましくは8容量%以下、更に好ましくは6容量%以下であり、0容量%以上である。微粒子(B2)のM値が前記範囲にあることで、微粒子(B2)の水性塗料組成物中での分散性を良好にでき、且つ得られる塗膜のインクの定着性を向上させることができる。
【0074】
前記微粒子(B2)としては、市販品を用いることもでき、例えば、ルミナス、軽質炭酸カルシウム(いずれも丸尾カルシウム社製)等が挙げられる。
【0075】
また、前記市販品に対して、粒子径を調整するために、水中でかくはんする粒子径調整処理を行ってもよく、親水性を調整するために、有機酸を用いる親水化処理を行ってもよい。粒子径調整処理の際、分散剤を共存させてもよい。
【0076】
前記微粒子(B2)は、微粒子(B1)100質量部に対して、インク定着性の観点から、好ましくは80質量部以上、より好ましくは90質量部以上、更に好ましくは100質量部以上であり、好ましくは500質量部以下、より好ましくは450質量部以下、更に好ましくは400質量部以下である。
【0077】
前記微粒子(B3)は、シリカを含み、好ましくは多孔質シリカを含む。前記シリカとしては、乾式シリカ、湿式シリカ(シリカゲル)等が挙げられ、湿式シリカが好ましい。前記シリカは、カルシウムイオン交換されたものであってもよく、コロイダルシリカとして水性塗料組成物の調製に用いてもよい。
【0078】
前記乾式シリカとしては、フュームドシリカが挙げられる。フュームドシリカは、四塩化炭素の燃焼加水分解により製造され、球状粒子が数珠状に凝集・融着した形状を有する。
【0079】
前記湿式シリカとしては、アルコキシド法やいわゆる水ガラス法等によるシリカ微粒子が挙げられる。アルコキシド法は、ケイ素アルコキシドを酸触媒又は塩基触媒の存在下、加水分解重縮合してシリカ微粒子を得る方法である。また、水ガラス法は、珪酸ナトリウム(Na2SiO3。水ガラスともいう)のイオン交換により活性珪酸(H2SO3)を調製し、中性から塩基性条件下で、シリカ微粒子を核生成成長させる方法である。
【0080】
前記微粒子(B3)の吸油量は、インク定着性の観点から、好ましくは60mL/100g以上、より好ましくは200mL/100g以上、更に好ましくは300mL/100g以上であり、例えば600mL/100g以下、更に500mL/100g以下であってもよい。
【0081】
前記微粒子(B3)のBET比表面積は、インク定着性の観点から、好ましくは200m2/g以上、より好ましくは300m2/g以上、更に好ましくは400m2/g以上であり、例えば1,000m2/g以下、更に900m2/g以下、特に800m2/g以下であってよい。
【0082】
前記微粒子(B3)のかさ比重は、分散性及び貯蔵安定性の観点から、好ましくは0.01g/cm3以上、より好ましくは0.05g/cm3以上であり、0.15g/cm3以下であり、インク定着性の観点から、好ましくは0.12g/cm3以下である。
【0083】
前記微粒子(B3)は、疎水性であることが好ましい。微粒子(B3)が疎水性であることで、得られる塗膜の比較的表面に存在して、インクを固定化し、インクジェット印刷に供した際の下地隠蔽性や発色性を向上することが容易である。
【0084】
前記微粒子(B3)のM値は、好ましくは15容量%以上、より好ましくは20容量%以上、更に好ましくは25容量%以上であり、好ましくは50容量%以下、より好ましくは45容量%以下、更に好ましくは40容量%以下である。微粒子(B3)のM値が前記範囲にあることで、微粒子(B3)は、塗膜の比較的表面に存在して、インクを固定化し、インクジェット印刷に供した際の下地隠蔽性や発色性を向上することが容易である。
【0085】
前記微粒子(B3)の形状は特に限定されず、球状であることが好ましい。
【0086】
前記微粒子(B3)の平均粒子径は、インク浸透性の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは1.5μm以上、更に好ましくは3μm以上であり、塗料安定性(循環安定性)の観点から、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは5μm以下である。
【0087】
前記微粒子(B3)としては、市販品を用いることもでき、例えばミズカシルP-526、ミズカシルP-801、ミズカシルNP-8、ミズカシルP-802、ミズカシルP-802Y、ミズカシルC-212、ミズカシルP-73、ミズカシルP-78A、ミズカシルP-78F、ミズカシルP-87、ミズカシルP-705、ミズカシルP-707、ミズカシルP-707D、ミズカシルP-709、ミズカシルC-402、ミズカシルC-484(以上、水澤化学工業社製)、トクシールU、トクシールUR、トクシールGU、トクシールAL-1、トクシールGU-N、トクシールN、トクシールNR、トクシールPR、ソーレックス、ファインシールE-50、ファインシールT-32、ファインシールX-30、ファインシールX-37、ファインシールX-37B、ファインシールX-45、ファインシールX-60、ファインシールX-70、ファインシールRX-70、ファインシールA、ファインシールB(以上、OSCジャパン社製)、シペルナート、カープレックスFPS-101、カープレックスCS-7、カープレックス80、カープレックス80D、カープレックス67、カープレックス#80、カープレックスBS304F(以上、DSLジャパン社製)、サイリシア350、サイリシア445、サイシリア446(以上、富士シリシア化学(株)製)、ニップジェルAY-200、ニップジェルAY-6A3、ニップジェルAZ-200、ニップジェルAZ-460、ニップジェルBY-200、ニップジェルCX-200、ニップジェルCY-200、ニップシールE-150J、ニップシールE-220A、ニップシールE-200A、SS-50B、SS-50F(以上、東ソー・シリカ社製)、HDKシリーズ(旭化成ワッカーシリコン社製)、レオロシールシリーズ(トクヤマ社製)、AEROSILシリーズ(エボニック社製)、CAB-O-SILシリーズ(CABOT社製)、QSG-30、QSG-100(信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0088】
前記微粒子(B3)は、親水性のシリカ粒子に対し、シランカップリング剤を用いて疎水化処理を施したものであってもよい。前記シランカップリング剤としては、アルキルクロロシラン等のハロゲン化シラン;ジメチルシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン等のポリオルガノシロキサン;ポリアルコキシシラン;オルガノシラザン;アルキルアルコキシシラン(アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルトリアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシランを含む)等が挙げられる。
【0089】
前記微粒子(B3)は、インク定着性の観点から、前記微粒子(B1)100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは25質量部以上であり、好ましくは200質量部以下、より好ましくは180質量部以下、更に好ましくは150質量部以下である。
【0090】
微粒子(B)中、微粒子(B1)、微粒子(B2)及び微粒子(B3)の合計の含有率は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、好ましくは100質量%以下である。
【0091】
水性塗料組成物の固形分中、微粒子(B)の含有率は、インク定着性の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、造膜性及び塗膜の靭性の観点から、好ましくは90質量%、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0092】
前記水性塗料組成物は、水分散体であり、水を含む。前記水性塗料組成物における固形分の含有率は、例えば5~60質量%であってよく、さらに10~40質量%であってよい。本開示において、前記水性塗料組成物における固形分は、水性塗料組成物のJIS K 5601-1-2に準じて測定できる加熱残分を意味する。
【0093】
前記水性塗料組成物は、粘性調整剤を含むことが好ましい。
【0094】
前記粘性調整剤として、例えば、ポリアマイド系粘性調整剤、ウレタン系粘性調整剤、ポリカルボン酸系粘性調整剤、セルロース系粘性調整剤、無機層状化合物系粘性調整剤及びアミノプラスト系粘性調整剤等の粘性調整剤が挙げられる。
【0095】
ポリアマイド系粘性調整剤として、例えば、脂肪酸アマイド、ポリアマイド、アクリルアマイド、長鎖ポリアミノアマイド、アミノアマイド及びこれらの塩(例えばリン酸塩)等が挙げられる。
ウレタン系粘性調整剤として、例えば、ポリエーテルポリオール系ウレタンプレポリマー、ウレタン変性ポリエーテル型粘性調整剤等が挙げられる。
ポリカルボン酸系粘性調整剤として、例えば高分子量ポリカルボン酸、高分子量不飽和酸ポリカルボン酸及びこれらの部分アミド化物等が挙げられる。
セルロース系粘性調整剤として、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系粘性調整剤等が挙げられる。
無機層状化合物系粘性調整剤として、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、クレイ等の層状化合物が挙げられる。
アミノプラスト系粘性調整剤として、例えば、疎水変性エトキシレートアミノプラスト系会合型粘性調整剤等が挙げられる。
前記粘性調整剤は1種のみを用いてもよく、2種又は以上を併用してもよい。
【0096】
粘性調整剤として市販品を用いてもよい。市販される粘性調整剤として、例えば、
ポリアマイド系粘性調整剤である、ディスパロンAQ-600(楠本化成社製)、Anti-Terra-U(BYK Chemie社製)、Disperbyk-101、Disperbyk-130(BYK Chemie社製)等;
ポリカルボン酸系粘性調整剤である、Anti-Terra-203、204(BYK Chemie社製)、Disperbyk-107(BYK Chemie社製)、BYK-P104、BYK-P105(BYK Chemie社製)、プライマルASE-60、プライマルTT-615(ダウ・ケミカル社製)、ビスカレックスHV-30(BASF社製)、SNシックナー617、SNシックナー618、SNシックナー630、SNシックナー634、SNシックナー636(サンノプコ社製)等;
ウレタン系粘性調整剤である、アデカノールUH-814N、UH-752、UH-750、UH-420、UH-462(ADEKA社製)、SNシックナー621N、SNシックナー623N(サンノプコ社製)、RHEOLATE244、278(エレメンティス社製)等;
セルロース系粘性調整剤である、HECダイセルSP600N(ダイセルファインケム社製)等;
層状化合物系粘性調整剤である、BENTONE HD(エレメンティス社製)等;
アミノプラスト系粘性調整剤である、Optiflo H600VF(BYK Chemie社製)等;
が挙げられる。
【0097】
前記粘性調整剤は、ポリカルボン酸系粘性調整剤及びウレタン系粘性調整剤のうち1種又はそれ以上を含むのが好ましい。ポリカルボン酸系粘性調整剤を含む粘性調整剤がより好ましい。粘性調整剤がポリカルボン酸系粘性調整剤を含む場合は、中和剤としてアンモニアを用いるのが更に好ましい。粘性調整剤がポリカルボン酸系粘性調整剤を含む場合において、中和剤としてアンモニアを用いることによって、ゲル分率(JIS K 6796に準拠して測定される、乾燥塗膜の有機溶媒に対する抽出不溶分の質量分率)を良好な範囲に保持できる利点がある。
【0098】
前記粘性調整剤の含有量は、塗膜形成樹脂(A)100質量部(固形分)に対して、好ましくは0.01~20質量部、より好ましくは0.05~10質量部、更に好ましくは0.5~5質量部である。
【0099】
[その他の成分]
前記水性塗料組成物は、必要に応じて、更に、その他の添加剤を含んでいてもよい。前記その他の添加剤としては、例えば、体質顔料;着色顔料、染料等の着色剤;遮熱顔料;光輝性顔料;骨材(樹脂粒子、シリカ粒子等);ワックス;溶剤;紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等);酸化防止剤(フェノール系、スルフォイド系、ヒンダードアミン系酸化防止剤等);造膜助剤;可塑剤;カップリング剤(シラン系、チタン系、ジルコニウム系カップリング剤等);タレ止め剤;顔料分散剤;顔料湿潤剤;表面調整剤(シリコーン系、有機高分子系等);レベリング剤;色分かれ防止剤;沈殿防止剤;沈降防止剤;消泡剤;界面活性剤;凍結防止剤;乳化剤;防錆剤;防腐剤;防かび剤;抗菌剤;安定剤等がある。これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい
【0100】
[水性塗料組成物の製造方法]
本開示の水性塗料組成物の製造方法は、前記塗膜形成樹脂(A)と、前記微粒子(B1)と、前記微粒子(B2)と、前記微粒子(B3)とを混合することを含み、代表的には、前記塗膜形成樹脂(A)と、前記微粒子(B1)と、前記微粒子(B2)と、前記微粒子(B3)と、必要に応じて用いる顔料分散剤、塩基性物質、粘性調整剤及びその他の添加剤(特に、顔料、造膜助剤、溶剤等)とを混合することを含む。前記混合は、当分野で通常用いられるかくはん機を用いて実施することができ、例えば、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダー、ペイントシェーカー又はディスパー等の混合機、分散機、混練機等を選択して実施することができる。
【0101】
顔料が含まれる場合における顔料は、特に限定されるものではなく、例えば、体質顔料、無機着色顔料、有機着色顔料等が挙げられる。但し、顔料と前記微粒子(B)とは異なる。顔料を用いる場合は、塗料組成物の樹脂固形分に対する顔料質量濃度(PWC)が、5~60質量%となる範囲内で用いるのが好ましい。
【0102】
本開示の水性塗料組成物の製造方法は、微粒子(B)の原材料を、水及び必要に応じて用いる顔料分散剤の存在下、かくはんして、微粒子(B)の分散体を得ることを更に含んでいてもよい。代表的には、微粒子(B1)の原料を、水及び必要に応じて用いる顔料分散剤の存在下、かくはんして、微粒子(B1)の分散体を得ることを含んでいてよく、微粒子(B2)の原材料を、水及び必要に応じて用いる分散剤の存在下、かくはんして、微粒子(B2)の分散体を得ることを含んでいてよく、微粒子(B3)の原材料を、水及び必要に応じて用いる分散剤の存在下、かくはんして、微粒子(B3)の分散体を得ることを含んでいてよい。前記かくはんは、当分野で通常用いられるかくはん機を用いて実施することができ、例えば、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダー、ペイントシェーカー又はディスパー等の混合機、分散機、混練機等を選択して実施することができる。
【0103】
前記微粒子(B)の分散体中、微粒子(B)の含有率は、例えば、40質量%以上70質量%以下、さらに50質量%以上65質量%以下であってよい。
【0104】
また、分散剤としては、例えば、アクリル樹脂系分散剤を用いてよい。前記微粒子(B)の分散体中、分散剤の含有率は、例えば0.5質量%以上5質量%以下、さらに1質量%以上3質量%以下であってよい。
【0105】
この場合、前記塗膜形成樹脂(A)と、前記微粒子(B1)と、前記微粒子(B2)と、前記微粒子(B3)とを混合する際、前記微粒子(B1)として前記微粒子(B1)の分散体を用いてよく、前記微粒子(B2)として前記微粒子(B2)の分散体を用いてよく、前記微粒子(B3)として前記微粒子(B3)の分散体を用いてよい。例えば、本開示の水性塗料組成物の製造方法は、前記塗膜形成樹脂(A)と、前記微粒子(B1)の分散体と、前記微粒子(B2)の分散体と、前記微粒子(B3)の分散体とを混合することを含んでいてよく、必要に応じ、前記塗膜形成樹脂(A)と、前記微粒子(B1)の分散体と、前記微粒子(B2)の分散体と、前記微粒子(B3)の分散体と、塩基性物質、粘性調整剤及びその他の添加剤(特に、顔料、造膜助剤、溶剤等)とを混合することを含んでいてよい。
【0106】
[塗膜形成方法]
こうして調製される水性塗料組成物は、各種被塗物に塗装することができる。被塗物として、例えば、住宅又はビル等の建築物の内壁若しくは外壁等の壁面又は屋根に用いられる建材が好ましい。従って前記水性塗料組成物は、建材塗装用水性塗料組成物、又は建築物塗装用水性塗料組成物として用いることができる。前記水性塗料組成物は例えば、建材塗装用水性クリヤー塗料組成物、又は建築物塗装用水性クリヤー塗料組成物として用いることができる。
【0107】
本開示の水性塗料組成物の被塗物として好適な基材としては特に限定されず、例えば、無機材料基材、木質基材、金属基材、プラスチック基材等を挙げることができる。
前記無機材料基材としては、例えば、JIS A 5422、JIS A 5430等に記載された窯業基材、ガラス基材等が挙げられ、例えば、珪カル板、パルプセメント板、スラグ石膏板、炭酸マグネシウム板、石綿パーライト板、木片セメント板、硬質木質セメント板、コンクリート板、軽量気泡コンクリート板等が挙げられる。
【0108】
木質基材としては、例えば、製材、集成材、合板、パーティクルボード、ファイバーボード、改良木材、薬剤処理木材、床板等が挙げられる。
前記プラスチック基材としては、例えば、アクリル板、ポリ塩化ビニル板、ポリカーボネート板、ABS板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリオレフィン板等が挙げられる。
前記金属基材としては、例えば、アルミニウム板、鉄板、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛メッキ鋼板、ステンレス板、ブリキ板等が挙げられる。
【0109】
前記被塗物は、必要に応じて、シーラー組成物、下塗り塗料組成物等が予め塗装されていてもよい。下塗り塗料組成物として、例えば、顔料(例えば各種着色顔料等)を含む水性下塗り塗料組成物が挙げられる。前記水性塗料組成物は、着色顔料を含む各種下塗り塗料組成物の塗膜に対して良好に密着する利点も有する。
【0110】
前記水性塗料組成物を塗装する方法は特に限定されず、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等の一般に用いられている塗装方法等を挙げることができる。これらは建材の種類等に応じて適宜選択することができる。水性塗料組成物は、乾燥膜厚として10μm~1mmとなるように塗装することが好ましく、10~100μmとなるように塗装するのがより好ましい。
【0111】
前記水性塗料組成物を塗装した後、必要に応じて乾燥工程を行ってよい。乾燥条件は、被塗物の形状及び大きさ等によって適宜選択してよく、例えば、50~200℃の温度で1~60分間加熱してよい。
【0112】
[建築材料]
基材と、前記基材上に設けられ、本開示の水性塗料組成物から形成されるインク受理層とを備える建築材料も本開示の技術的範囲に包含される。
なお、本開示において、「基材上」とは、基材表面を境界とする基材の外側と内側とのうち、外側に向かう方向を指し、「基材上」には、当該基材と接する直上の位置(on)だけでなく、当該基材と離れた上方、すなわち、当該基材上の他の層を介した上側の位置も含む。
【0113】
前記基材としては、水性塗料組成物の被塗物として好適な基材として例示した基材をいずれも用いることができる。
【0114】
本開示の建築材料は、インク受理層上にインクを塗布することにより形成されるインク層を含むのが好ましい。本開示の水性塗料組成物から形成されるインク受理層の上にインクを塗布することによって、得られるインク層の定着性が良好となる。
【0115】
インク層に用いられるインクとしては、特に限定されず、溶剤形インク、水性インク、無溶剤形インク等を使用することができる。また、本開示の水性塗料組成物は、紫外線硬化型インク等の速乾性のインクに対しても、優れたインク定着性を発揮しうる。
【0116】
前記インクは、例えば、インクジェット印刷を行うことで、インク層を形成することができる。インクジェット印刷に用いられるインクジェットプリンタの方式は特に限定されず、当該分野で通常用いられる方式が適用できる。
【0117】
本開示の建築材料は、基材とインク受理層との間に、他の層として、下塗り層、中塗り層等を含んでいてもよく、インク受理層上に形成されたインク層の上に更にクリヤー層等を含んでいてもよい。
【0118】
前記下塗り層、中塗り層、クリヤー層は、従来知られた成分及び方法により形成できる。
【実施例】
【0119】
以下の実施例により本開示を更に具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されない。
【0120】
製造例1:アクリル樹脂エマルションの製造例
ステンレス容器に、コア部を形成するモノマーとして、メタクリル酸メチル40.0質量部、アクリル酸エチル34.0質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル24.0質量部及びアクリル酸2.0質量部をかくはん混合後、乳化剤としてスルホコハク酸ジエステルアンモニウム塩(ラテムルS-180A、花王社製)2.5質量部と水61.0質量部を添加し、ホモミキサーを用いて、室温で15分かくはんし、第1反応前乳化混合物を得た。
【0121】
別容器にて、シェル部を形成するモノマーとして、メタクリル酸メチル66.0質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル27.0質量部、アクリル酸エチル5.0質量部及びアクリル酸2.0質量部をかくはん混合後、乳化剤としてスルホコハク酸ジエステルアンモニウム塩(ラテムルS-180A、花王社製)2.5質量部と水61.0質量部を添加し、ホモミキサーを用いて、室温で15分かくはんし、第2反応前乳化混合物を得た。
【0122】
かくはん機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を取り付けた反応容器に、水61.1質量部を入れ、反応容器中の温度を80℃に上げてから、前記第1反応前乳化混合物91.8質量部と、反応開始剤として過硫酸アンモニウムの1.5質量%水溶液5.5質量部を別々の滴下ロートから、同時に2時間かけて滴下した。滴下が終了してから反応容器中の温度を80℃で30分間維持し、アクリル樹脂エマルションを得た。
【0123】
得られたアクリル樹脂エマルションを含む容器に、前記第2反応前乳化混合物91.8質量部と反応開始剤として過硫酸アンモニウムの1.5質量%水溶液5.5質量部を別々の滴下ロートから、同時に2時間かけて滴下した。滴下が終了してから反応容器中の温度を80℃で1時間維持した後、30℃まで冷却し、塗膜形成樹脂1(アクリル樹脂エマルション(A1-1))の分散液255.7質量部(固形分濃度:45.0質量%、粒子径:130nm)を得た。
【0124】
製造例2~13
コア部を形成するモノマーおよびシェル部を形成するモノマー及び配合量を、表1に示す通りに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、塗膜形成樹脂(アクリル樹脂エマルション(A1-2)~(A1-11)、(a1-1)~(a1-2))の分散液(固形分濃度45.0質量%)を得た。各アクリル樹脂エマルションの粒子径を表1に示す。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
<水性塗料組成物の製造例>
顔料分散剤としてBYK-190(ビックケミー・ジャパン社製)1.4質量部、微粒子(B1-1)としてカルライト-KT(太陽化学工業社製)52質量部、消泡剤としてSN1316(サンノプコ社製)0.01質量部及び水道水47質量部を、ディスパーを用いて予備混合した後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,500回転/分で分散処理を行って、微粒子(B1-1)の分散液(平均粒子径:2.0μm)を得た。
微粒子の分散液の平均粒子径は、分散処理後に、UPA-150(マイクロトラック・ベル社製粒度分布測定装置)を用いて測定した50%体積平均粒子径(D50)である。
【0129】
顔料分散剤としてBYK-190(ビックケミー・ジャパン社製)0.5質量部、微粒子(B2-1)としてルミナス(丸尾カルシウム社製)62質量部、消泡剤としてSN1316(サンノプコ社製)0.01質量部及び水道水37質量部を、ディスパーを用いて予備混合した後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,500回転/分で分散処理を行って、微粒子(B2-1)の分散液(平均粒子径:0.5μm)を得た。
【0130】
顔料分散剤としてBYK-190(ビックケミー・ジャパン社製)1.9質量部、微粒子(B3-1)としてサイリシア446(富士シリシア化学社製)52質量部、消泡剤としてSN1316(サンノプコ社製)0.01質量部及び水道水46質量部を、ディスパーを用いて予備混合した後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,500回転/分で分散処理を行って、微粒子(B3-1)の分散液(平均粒子径:4.5μm)を得た。
【0131】
前記製造例で得られた(B1-1)の分散液44質量部、(B2-1)の分散液55質量部、(B3-1)の分散液16質量部及びアクリル樹脂エマルション(A1-1)35質量部(固形分換算)の他に、着色剤としてCR-50(石原産業社製)19質量部、造膜助剤としてテキサノール(イーストマン社製)1質量部、アルカリ膨潤型増粘剤としてプライマルASE-60(ダウ・ケミカル社製、固形分濃度:30質量%)5質量部、中和アンモニア0.25質量部及び水道水194質量部をディスパーでかくはんかくはんしながら添加し、水性塗料組成物を得た。
【0132】
微粒子(B):
・微粒子(B1-1);カルライト-KT(炭酸カルシウム、太陽化学工業社製)、吸油量:135~165mL/100g、かさ比重:0.28g/cm3、BET比表面積:35~40cm2、M値:0容量%
・微粒子(B1-2):軽質炭酸カルシウム(炭酸カルシウム、丸尾カルシウム工業社製)、吸油量:50mL/100g、かさ比重:0.28g/cm3、BET比表面積:5.0cm2/g、M値:0容量%
・微粒子(B2-1);ルミナス(炭酸カルシウム、丸尾カルシウム社製)、吸油量:45~55mL/100g、かさ比重:0.55g/cm3、BET比表面積:10~14m2/g、M値:0容量%
・微粒子(B2-2):SATINTONE 5HB(カオリン、BASF社製)、吸油量:85~95mL/100g、かさ比重:0.21g/cm3、BET比表面積:15m2/g M値:0容量%
・微粒子(B2-3):スーパー#2000(炭酸カルシウム、丸尾カルシウム社製)、かさ比重:0.33g/cm3、吸油量:35mL/cm3、BET比表面積:2m2/g、M値:0容量%
・微粒子(B2-4):スーパーSSS(炭酸カルシウム、丸尾カルシウム社製)、吸油量:28mL/100g、かさ比重:0.43g/cm3、BET比表面積:1.2m2/g、M値:0容量%
・微粒子(B3-1);サイリシア446(二酸化ケイ素、富士シリシア化学社製)、かさ比重:0.10g/cm2、吸油量:200~300mL/100g、M値:20容量%
・微粒子(B3-2);CRYSTALITE VX-S2(二酸化ケイ素、龍森社製)、かさ比重:0.33g/cm2、吸油量:10~50mL/100g、M値:0容量%
【0133】
<インクの調製>
黒顔料としてミツビシカーボンブラックMA-220(三菱化学社製)4質量部、分散剤としてBYK-130(BYK社製)0.5質量部、反応性モノマーとしてRA-5000(三井化学社製)50質量部、ライトアクリレートDCP-A(共栄社製)25質量部及びKAYARAD FM-400(日本化薬社製)25質量部、光開始重合剤としてベンゾフェノン(東洋化成工業社製)5質量部、表面調整剤としてBYK-333(BYK社製)0.1質量部及び希釈溶剤として酢酸ブチル 10質量部を混合し、サンドミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、黒顔料の粗粒の最大粒子径が40μm以下になるまで分散し、紫外線硬化型インクを調製した。
【0134】
<試験板の調製>
サイディングボードに対して、着色顔料を含む水性下塗り塗料組成物であるオーデタイト345M-2(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製)を、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレー塗装し、ジェット乾燥器(風速:10m/s)にて100℃で3分間乾燥させた。
次いで、実施例及び比較例で得られた水性塗料組成物を、乾燥膜厚が20μmとなるようにスプレー塗装し、ジェット乾燥機(風速:10m/s)にて100℃で3分間乾燥させてインク受理層を有する試験板を得た。
更にその上に、インクジェットプリンタ(ビデオジェット・エックスライト社製)を用いて、前記紫外線硬化型インクをwet塗布量で7g/m2となるよう塗装し、高圧水銀灯(100W/cm)で紫外線を0.5秒照射することで、インク受理層の上にインク層を有する試験板を得た。
【0135】
(3)評価項目
<インク定着性(インク発色性)>
上記実施例及び比較例で得られた試験板を、色彩色差計CR-400(コニカミノルタ社製)を用いて測色を行い、インク定着性(インク発色性)を評価した。評価基準は以下のとおりである。評点○△以上を合格とした。
○:L*値が40以下である。
○△:L*値が40を超え45以下である。
△:L*値が45を超え50以下である。
×:L*値が50を超える。
【0136】
<塗料安定性(粘度安定性)>
前記実施例及び比較例で得られた水性塗料組成物を、水道水で希釈し、粘度を65KUに調整したものを50℃で7日間静置した。試験後の塗料組成物の粘度を測定し、水性塗料組成物の塗料安定性(粘度安定性)を評価した。評価基準は以下のとおりである。評点○△以上を合格とした。
試験前後の水性塗料組成物の粘度測定は、ストーマー粘度計(上島製作所社製)を用いて、25℃で測定した。
○:粘度変化が2KU以下である。
○△:粘度変化率が2KUを超え3KU以下である。
△:粘度変化率が3KUを超え4KU%以下である。
×:粘度変化率が4KUを超える。
【0137】
<塗料安定性(循環安定性)>
上記実施例及び比較例で得られた塗料組成物を、エアレスポンプ(ノードソン社製)を用いて、3時間循環試験を行った。その後、前記方法と同様にして、インク受容層(試験後)の上にインク層を有する試験板を得た。
得られた試験前及び試験後の試験板について、色彩色差計CR-400(コニカミノルタ社製)を用いて測色を行い、下記式に従って色差(ΔL*)を算出し、水性塗料組成物の塗料安定性(循環安定性)を評価した。評価基準は以下のとおりである。評点○△以上を合格とした。
色差(ΔL*)=循環試験前のL*値-循環試験後のL*値
○:ΔL*が3以下である。
○△:ΔL*が3を超え6以下である。
△:ΔL*が6を超え9以下である。
×:ΔL*が9を超える。
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
実施例1~20は、本発明の実施例であり、水性塗料組成物の塗料安定性(循環安定性)が良好であり、塗膜のインク定着性に優れるものであった。
比較例1は、アクリル樹脂エマルションのコア部のガラス転移温度が15℃を超える例であり、造膜性が十分でなく、インク定着性が十分に満足できるものではなかった。
比較例2は、アクリル樹脂エマルションのシェル部のガラス転移温度が25℃に満たない例であり、インク定着性が十分に満足できるものではなかった。
比較例3は、微粒子(B1)を含まず、吸油量が60mL/100gに満たない微粒子を用いた例であり、インク定着性が十分に満足できるものではなかった。
比較例4、5は、微粒子(B2)を含まず、平均粒子径が1.0μmを超える微粒子を用いた例であり、インク定着性が十分に満足できるものではなかった。
比較例6は、微粒子(B3)を含まず、吸油量が60mL/100gに満たない微粒子を用いた例であり、インク定着性が十分に満足できるものではなかった。
【要約】
【課題】塗料安定性、例えば循環安定性に優れ、且つインク定着性の良好な塗膜を形成できる水性塗料組成物の提供を目的とする。
【解決手段】塗膜形成樹脂(A)及び微粒子(B)を含み、
塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂エマルション(A1)を含み、
アクリル樹脂エマルション(A1)は、ガラス転移温度が15℃未満であるコア部と、ガラス転移温度が25℃以上であるシェル部とを有し、
微粒子(B)は、微粒子(B1)、微粒子(B2)及び微粒子(B3)を含み、
(B1)は、炭酸カルシウムを含み、平均粒子径1μm以上5μm以下であり、吸油量60mL/100g以上であり、かさ比重0.20g/cm3以上であり、
(B2)は、平均粒子径1μm未満であり、かさ比重0.20g/cm3以上であり、
(B3)は、シリカを含み、吸油量60mL/100g以上であり、かさ比重0.15g/cm3以下である、水性塗料組成物。
【選択図】なし