(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】ピーン成形条件設定方法、ピーン成形方法およびピーン成形条件設定装置
(51)【国際特許分類】
B21D 31/06 20060101AFI20221117BHJP
B24C 1/00 20060101ALI20221117BHJP
B24C 3/32 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B21D31/06
B24C1/00 Z
B24C3/32 A
(21)【出願番号】P 2021551102
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2019040339
(87)【国際公開番号】W WO2021070395
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡井 大河
(72)【発明者】
【氏名】河野 亮
(72)【発明者】
【氏名】山田 毅
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 貴史
(72)【発明者】
【氏名】赤沼 宏輔
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼野 敏宏
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-155387(JP,A)
【文献】特開昭52-99961(JP,A)
【文献】特開2003-191028(JP,A)
【文献】特開昭56-146672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 31/06
B24C 1/00
B24C 3/32
B21D 22/20
B21D 22/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項9】
被成形部材の解析モデルを複数の領域に区画し、所定の仮成形条件に基づいて解析を実行することで取得される仮成形形状について、基準形状に対する個別領域の乖離量と、前記個別領域の変形量とを取得し、前記仮成形条件と前記乖離量と前記変形量との関係式を取得する手段と、
前記関係式に所定の前記仮成形条件を代入することにより前記乖離量および前記変形量を算出する手段と、
算出された前記乖離量および前記変形量のうち、前記乖離量が最小であり、且つ、目標変形量に対する前記変形量の差が最小である前記仮成形条件を最適成形条件に設定する手段と、
を有するピーン成形条件設定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーン成形条件設定方法、ピーン成形方法およびピーン成形条件設定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板ピーン成形条件の設定は、成形前後における被成形部材の表面に区画された複数の領域の変形量を指標として行われていた。
【0003】
特許文献1では、ピーン成形方法において、金属部材を複数領域に分割し、各領域毎の板厚および成形すべき曲率を求める加工エリア分割工程と、異なる板厚を有する複数のテストピースに対して所定曲率を与えるためのショットの投射条件をまとめた投射条件データを参照して、各領域毎の板厚および成形すべき曲率の組み合わせに対応する投射条件を求め、この求められた投射条件に基づいて各領域を成形する成形工程を有する発明が開示されている。
【0004】
特許文献2では、部材の表面を複数の領域に区分して領域毎に仮成形条件を設定し、仮成形条件で成形した場合の一の領域における変形量が、他の領域における変形量に及ぼす影響度合いを関係情報として領域毎に算出し、目標形状となる変形量となるための一の領域および他の領域におけるピーン成形条件を、関係情報に基づきを設定する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-220428号公報
【文献】特開2019-155387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の記載に係るピーン成形方法では、領域毎の板厚および曲率の組み合わせに最適化された投射条件が、そのまま全体の成形における各領域の投射条件として使用されていた。また、特許文献2の記載に係るピーン成形方法では、部材を成形後形状に成形するための領域毎の変形量のみを指標としていた。これにより、成形形状において特に精度を必要とする箇所における成形の精度が低下することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本開示に係るピーン成形条件設定方法は、被成形部材の解析モデルを複数の個別領域に区画し、所定の仮成形条件に基づいて解析を実行することで仮成形形状を取得するステップと、前記仮成形形状について、基準形状に対する前記個別領域の乖離量と、前記個別領域の変形量とを取得するステップと、前記仮成形条件と前記乖離量と前記変形量との関係式を取得するステップと、前記関係式に前記仮成形条件を代入して算出された前記乖離量および前記変形量のうち、前記乖離量が最小であり、且つ、目標変形量に対する前記変形量の差が最小である前記仮成形条件を最適成形条件に設定するステップと、を有する。
【0008】
上記目的を達成するための本開示に係る成形方法は、ピーン成形条件設定方法により設定された前記最適成形条件で、前記被成形部材をピーン成形加工するステップを有する。
【0009】
ピーン成形条件を設定するピーン成形条件設定装置であって、被成形部材の解析モデルを複数の領域に区画し、所定の仮成形条件に基づいて解析を実行することで取得される仮成形形状について、基準形状に対する前記個別領域の乖離量と、前記個別領域の変形量とを取得し、前記仮成形条件と前記乖離量と前記変形量との関係式を取得する手段と、前記関係式に所定の前記仮成形条件を代入することにより前記乖離量および前記変形量を算出する手段と、算出された前記乖離量および前記変形量のうち、前記乖離量が最小であり、且つ、目標変形量に対する前記変形量の差が最小である前記仮成形条件を最適成形条件に設定する手段と、を有する。
【0010】
本発明によれば、ピーン成形加工による成形形状の、基準形状に対する乖離量および目標変形量と変形量との差が最小となる成形条件を最適成形条件に設定するので、最適成形条件にて成形された成形形状の全体としての、目標成形形状に対する精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係る被成形部材の複数の領域に区画された解析モデルを示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例に係る成形条件設定装置を含むピーン成形システムを示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例に係る被成形部材の成形形状における乖離量を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例に係る被成形部材の成形形状における変形量であるアークハイトを示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例に係るピーン成形条件設定方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の実施例に係る補強部材を備える被成形部材を示した図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例に係る補強部材を備える被成形部材が複数の領域に区画された解析モデルの詳細を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ピーン成形加工について>
ピーン成形加工とは、複数の小さな粒状の鋼球を板状部材等の表面に投射し、その圧力により板状部材の表面側から塑性変形を生じさせて板状部材に曲げ変形を生じさせる加工である。ピーン加工された板状部材は、原理的に加工中心を中心とした加工表面側が突出するような湾曲形状を生じる、いわゆる等方性のひずみを有している。ピーン成形加工に用いられる成形条件は、例えば、鋼球を投射する速度、時間当たりの投射量、および鋼球を投射するショット投射部の移動速度があり、これらの成形条件を変化させることにより、成形形状の調整を行うことができる。
【0013】
以下に、本発明の実施例について、図を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例のみに限定されるものではない。
【0014】
本発明に係る被成形部材Pは、
図1に示す通り、長尺の板状部材であり、材料は、例えばアルミニウム合金を含む金属である。本実施例に係る被成形部材Pは、飛行機の翼体を構成する部品に使用される。
【0015】
<ピーン成形システム>
ピーン成形システム100は、
図2に示す通り、ピーン成形条件Rを設定するピーン成形条件設定装置200と、実際にピーン成形加工を行うピーン成形装置300とを有している。ピーン成形システム100では、ピーン成形条件設定装置200にて、被成形部材Pをピーン成形加工するためのピーン成形条件Rが設定され、ピーン成形装置300にて、ピーン成形条件Rに基づいて被成形部材Pに対しピーン成形加工がされ、成形形状が取得される。本実施例において、ピーン成形条件Rは、鋼球を投射する投射速度、時間当たりの投射量および後述するショット投射部350の被成形部材Pに対する移動速度から構成される。なお、ピーン成形条件Rは、これらの構成に限られない。以下、
図2を参照して、ピーン成形システム100を構成するピーン成形条件設定装置200およびピーン成形装置300について説明する。なお、ピーン成形条件設定装置200とピーン成形装置300とは、一体に構成されていてもよい。
【0016】
<ピーン成形条件設定装置>
ピーン成形条件設定装置200は、
図2に示す通り、演算処理を行う演算部210と、外部との入出力処理を行う入出力部220と、プログラムおよびデータの記録処理を行う記録部230とを備えている。記録部230および入出力部220はそれぞれ演算部210と接続されている。ピーン成形条件設定装置200は、コンピュータ端末として構成されており、入出力部220に、外部入力装置として例えばキーボード、マウス、および表示モニタを備えていてもよい。
【0017】
演算部210は、入出力部220からの入力並びに記録部230のプログラムおよびデータに基づき演算処理を行う。演算部210は、設定されたピーン成形条件Rを入出力部220に出力するとともに、ピーン成形条件設定装置200の全般の制御を行う。演算部210は、CPUとして構成される。
【0018】
記録部230は、プログラムおよびデータの記録を行う。記録部230は、
図2に示す通り、領域区画プログラム232、仮成形条件設定プログラム234、形状取得プログラム236、乖離量取得プログラム238、変形量取得プログラム240、学習モデルプログラム242、関係式取得プログラム244、算出プログラム246、および成形条件設定プログラム248を備えている。また記録部230は、成形結果データベース250を備えている。記録部230は、メモリおよびHDDにより構成される。
【0019】
領域区画プログラム232は、入力された被成形部材Pの解析モデルMおよび目標成形形状Hに基づいて、解析モデルMの表面および裏面に複数の領域を区画する。解析モデルMは、成形前の被成形部材Pの形状であり、例えばCADデータにより与えられる。解析モデルMは、材料に関する情報を有している。目標成形形状Hは、ピーン成形加工により得るべき形状のモデルであり、例えばCADデータにより与えられる。解析モデルMへの複数の領域の区画は、例えば材料、板厚および曲率に応じて行われ、解析モデルMへの複数の領域の区画は、例えば形状や曲率の変化が大きい箇所に対して多くの領域が区画され、形状や曲率の変化が小さい箇所に対しては少ない領域が区画されてもよい。
【0020】
仮成形条件設定プログラム234は、仮成形条件Tを複数設定する。本実施例において、仮成形条件Tは、鋼球を投射する投射速度、時間当たりの投射量、およびショット投射部330の移動速度から構成される。なお、仮成形条件Tは、これらの構成に限られない。
【0021】
形状取得プログラム236は、入力された解析モデルおよび成形条件に基づいて、ピーン成形加工のシミュレーションを行い、成形形状(仮成形形状)を出力する。すなわち形状取得プログラム236は、解析モデルMおよび仮成形条件Tが入力された場合には、解析モデルMについての成形形状である全体仮成形形状Bを出力する。形状取得プログラム236で、ピーン成形加工のシミュレーションに用いられる手法としては、例えば有限要素法が挙げられる。
【0022】
乖離量取得プログラム238は、基準形状Sの設定領域Uに対する成形形状における個別領域Aの乖離量Gを取得する。ここで、基準形状Sは、
図3に示すように、成形後の面形状を備えており、基準形状Sには設定領域Uが区画されている。ここで、基準形状Sの設定領域Uは、複数の個別領域を含むよう構成される。また、乖離量Gとは、
図3及び
図4に示す通り、成形形状の個別領域Aの中心点ACの、基準形状Sの設定領域Uに対する面方向における距離を意味する。基準形状Sは、
図3に示すように、成形形状に対するモールド形状であってもよい。基準形状Sは、例えばCADデータにより作成されている。
【0023】
変形量取得プログラム240は、解析モデルMの成形前後における各個別領域の変形量Dを取得する。変形量Dとは、ピーン成形加工による個別領域Aの中心点ACの変形の量である。本実施例では、変形量Dは各個別領域におけるアークハイトを指すものとする。本実施例においては、成形前の被成形部材Pの形状は平面であるため、アークハイトは成形後の形状により求めることができる。アークハイトは、
図4に示す通り、成形後の形状における個別領域Aの面の中心点ACと、個別領域Aを構成する辺の、X軸方向と平行な2辺DX1およびDX2の中点同士XM1およびXM2を結んだ線AXとの距離HX、および同様にY軸方向に平行な2辺DY1およびDY2の中点YM1およびYM2同士を結んだ線AYとの距離HYである。なお、変形量Dは個別領域Aがピーン成形加工により変形を表す量であればよく、必ずしもアークハイトに限らない。
【0024】
学習モデルプログラム242は、成形条件、乖離量Gおよび変形量Dのデータ群から成形条件から乖離量Gおよび変形量Dを導出する学習モデルLを得る。なお、本実施例においては、学習モデルLは、後述する関係式Fに包含される。学習モデルLは、説明変数である成形条件から目的変数である乖離量Gおよび変形量Dを算出するための、重みつき関数である。学習モデルLは、例えば、全体仮成形形状Bにおいては、仮成形条件Tから乖離量Gおよび変形量Dを算出するための重みつき関数となる。学習モデルLは、例えばニューラルネットワークとして取得される。
【0025】
学習モデルLは、成形条件、乖離量G、変形量Dおよび成形良否結果Jを含む正解付データKを、いわゆる教師あり学習として機械学習した後の学習モデルLとして取得してもよい。教師あり学習による機械学習により、学習モデルLは、与えられた成形条件から算出される乖離量Gおよび変形量Dが正解となるよう重みが修正されることにより精度の高いデータを算出することができる。ここで、成形結果データは、実際のピーン成形加工したピーン成形条件R、基準形状Sに対する乖離量G、変形量Dおよび成形良否結果Jを含んでおり、いわゆる正解付データKとして使用することができる。学習モデルプログラム242は、後述する成形結果データベース250に記録されている成形結果データを使用することができる。
【0026】
関係式取得プログラム244は、成形条件、乖離量Gおよび変形量Dのデータ群から関係式Fを取得する。関係式Fは、乖離量Gおよび変形量Dを目的変数、成形形状を説明変数として相関関係を求めたものである。関係式Fは成形条件、乖離量Gおよび変形量Dのデータ群を、例えば重回帰分析することにより取得される。関係式取得プログラム244は、後述する成形結果データベース250に記録されている成形結果データを使用することができる。
【0027】
以下に、関係式Fを重回帰分析にて取得した場合の一例として、仮成形条件Tにより乖離量Gおよび変形量DとしてのアークハイトHXおよびHYを表した式を示す。
G=C0+C1・T1+C2・T2・・・(1)
HX=C3+C4・T1+C5・T2・・・(2)
HY=C6+C7・T1+C8・T2・・・(3)
ここで、T1は、個別領域Aの表面へのショット投射についての仮成形条件であり、T2は、個別領域Aの裏面へのショット投射についての仮成形条件である。また、C0~C8は、重回帰分析等により求められる重みである。
【0028】
算出プログラム246は、所定の範囲の成形条件を関係式Fに代入し、乖離量Gおよび変形量Dを算出する。ここで、上述の通り、本実施例においては、関係式Fは学習モデルLを包含するため、以下の説明にて関係式Fに成形条件を代入して乖離量Gおよび変形量Dを算出する場合には、学習モデルLに成形条件を代入して乖離量Gおよび変形量Dを取得する場合も含むものとする。
【0029】
成形条件設定プログラム248は、算出プログラム246で算出された乖離量G、および目標変形量と変形量Dとの差が最小かの判定を行う。複数の乖離量Gおよび変形量Dが存在する場合には、その中で乖離量Gおよび目標変形量と変形量Dとの差が最小である場合の成形条件を、最適なピーン成形条件Rとして設定する。
【0030】
なお、成形条件設定プログラム248は、最小であると判定するための閾値が与えられてもよい。この場合において、成形条件設定プログラム248は、乖離量Gおよび目標変形量と変形量Dとの差が閾値以下であった場合に最小と判定することができ、この場合における成形条件を最適なピーン成形条件Rとして設定する。
【0031】
成形結果データベース250は、実際にピーン成形加工された被成形部材に関する情報、材料、成形形状、成形条件および加工結果の良否のデータを有する。ここで、成形結果データベース250は、ピーン成形装置300での成形結果が入出力部220を介してピーン成形条件設定装置200に入力され、成形結果データベース250に記録されるよう構成されてもよい。
【0032】
入出力部220は、演算部210からの指示に基づきピーン成形条件設定装置200の外部とのデータの入出力処理を行う。入出力部220は、
図2に示すように、ピーン成形装置300の入出力部320と接続されている。入出力部220は、図示しないLANに有線接続される。また、入出力部220は、WiFiなどにより無線接続されてデータの入出力が行われてもよく、さらにUSBメモリなどの持ち運び可能な記録媒体を介してデータの入出力が行われてもよい。
【0033】
<ピーン成形装置>
ピーン成形装置300は、被成形部材Pに対して設定されたピーン成形条件Rに基づき実際にピーン成形を行う。ピーン成形装置300は、
図2に示すように、制御部310、入出力部320、ショット投射部330および記録部340を備えている。本実施例におけるピーン成形加工は、ピーン成形装置300に取り付けられる被成形部材Pに対し、ショット投射部330を所定の移動速度で移動させることにより行う。なお、ピーン成形加工は、ショット投射部330に対し、被成形部材Pを所定の移動速度で移動させることにより行われてもよい。
【0034】
制御部310は、設定されたピーン成形条件Rに基づいてショット投射部330の動作の制御を行うほか、ピーン成形装置300に関する全般の制御を行う。制御部310は、図示しないCPU、メモリ、HDDを備えている。さらに制御部310は、ピーン成形加工の状態を表示する表示モニタを備えていてもよい。
【0035】
入出力部320は、ピーン成形条件設定装置200からピーン成形条件Rを受け取るほか、外部とのデータの入出力処理を行う。入出力部320は、図示しないLANに有線接続される。また、入出力部320は、WiFiなどにより無線接続されてデータの入出力が行われてもよく、また、USBメモリなどの持ち運び可能な記録媒体を介してデータの入出力が行われてもよい。
【0036】
ショット投射部330は、制御部310から指示されるピーン成形条件Rに基づいて、板状部材に対し実際にピーン成形加工を行う。ショット投射部330は、ピーン成形条件Rに基づいて鋼球をショット投射可能に構成されており、鋼球の投射速度、時間当たりの投射量、およびショット投射部330の移動速度が調整可能となっている。なお、被成形部材Pがショット投射部330に対して移動する場合には、移動速度は、被成形部材Pの移動速度となる。
【0037】
<成形方法>
被成形部材Pの成形方法について、
図5に示すフローチャートに基づき説明する。ここで、成形方法は、大きく3つの段階に分けられる。すなわち、1つ目の段階は、成形条件を算出する関係式Fの導出を行う段階(S10~S50)であり、2つ目の段階は、関係式Fからピーン成形条件Rの算出を行う段階(S60~S80)であり、3つ目の段階は、算出されたピーン成形条件Rに基づいて、実際に板状部材に対してピーン成形加工を行う段階(S90)である。以下、それぞれの段階に分けて詳細に説明する。
【0038】
<関係式の取得>
関係式Fの取得を行う段階について説明する。関係式Fの取得を行う段階は、
図5に示すように、被成形部材Pの解析モデルMに複数の領域を区画するステップ(S10)と、仮成形条件Tを設定するステップ(S20)と、被成形部材Pの全体仮成形形状Bを取得するステップ(S30)と、全体仮成形形状Bの基準形状Sに対する乖離量Gおよび変形量Dを取得するステップ(S40)と、成形条件、乖離量Gおよび変形量Dの関係式Fを取得するステップ(S50)とを有する。
【0039】
被成形部材Pの解析モデルMに複数の領域を区画するステップ(S10)では、入力された被成形部材Pおよび目標成形形状Hに基づき、被成形部材Pの解析モデルMの表面および裏面を、複数の領域に区画する。解析モデルMの複数の領域への区画は、領域区画プログラム232により行われる。
【0040】
仮成形条件Tを設定するステップ(S20)では、領域が区画された解析モデルMに対して、仮成形条件Tの設定を行う。仮成形条件Tの取得は、仮成形条件設定プログラム234により行われる。
【0041】
被成形部材Pの全体仮成形形状Bを取得するステップ(S30)では、複数の仮成形条件Tに基づき、解析モデルMの全体について数値解析によるシミュレーションを行い複数の全体仮成形形状Bを取得する。全体仮成形形状Bの取得は、形状取得プログラム236により行われる。
【0042】
全体仮成形形状Bの基準形状Sに対する乖離量Gおよび変形量Dを取得するステップ(S40)では、取得された全体仮成形形状Bについて、仮成形条件T、基準形状Sとの乖離量Gおよび変形量Dを取得する。乖離量Gの取得は乖離量取得プログラム238により行われ、また変形量Dの取得は変形量取得プログラム240により行われる。
【0043】
成形条件、乖離量Gおよび変形量Dの関係式Fを取得するステップ(S50)では、仮成形条件Tについて、それぞれの乖離量Gおよび変形量Dとの学習モデルLを含む関係式Fを取得する。学習モデルLの取得は、学習モデルプログラム242により行われる。関係式Fの取得は、関係式取得プログラム244により行われる。
【0044】
<成形条件の設定>
成形条件の設定を行う段階について説明する。成形条件の設定を行う段階は、
図5に示すように、関係式Fに成形条件を代入し乖離量Gおよび変形量Dを算出するステップ(S60)と、乖離量Gが最小か、および目標変形量に対する変形量Dの差が最小かを判定するステップ(S70)と、最適成形条件を設定するステップ(S80)と、を有する。
【0045】
関係式Fに成形条件を代入し乖離量Gおよび変形量Dを算出するステップ(S60)では、関係式Fに所定の範囲の成形条件を代入し、所定の範囲の成形条件における乖離量Gおよび変形量Dを算出する。ここで、関係式Fに代入される所定の範囲の仮成形条件としては、例えば仮成形条件Tで用いた成形条件などが用いられる。乖離量Gおよび変形量Dの算出は算出プログラム246により行う。
【0046】
乖離量Gが最小か、および目標変形量に対する変形量Dの差が最小かを判定するステップ(S70)および最適成形条件を設定するステップ(S80)では、関係式Fに所定の範囲の成形条件を代入して算出された乖離量Gおよび変形量Dのうち、乖離量Gおよび目標変形量と変形量Dの差が最小と判定される場合(S70のYes)の成形条件が、最適な成形条件として設定することにより行われる(S80)。また、乖離量Gおよび目標変形量と変形量Dとの差が最小と判断されない場合(S70のNo)には、再度別の成形条件について、新たに乖離量Gおよび変形量Dの算出が行われ、乖離量Gと変形量Dとの差の判定がされる。ここで、成形条件の判定は、成形条件設定プログラム248により行う。設定されたピーン成形条件Rは、ピーン成形装置300に送られる。
【0047】
<ピーン成形加工>
ピーン成形加工の段階では、実成形加工するステップ(S90)で、ピーン成形条件Rに基づいて被成形部材Pに対して実際のピーン成形加工が行われる。ピーン成形加工は、ピーン成形装置300により行われ、ピーン成形装置300に対して取り付けられた被成形部材Pに対し、ショット投射部330により、設定されたピーン成形条件Rの投射速度、時間当たりの投射量およびショット投射部330の移動速度でショット投射することにより行う。
【0048】
<異方性ひずみについて>
本発明に係るピーン成形条件設定方法は、ピーン成形加工により被成形部材に異方性ひずみを生じさせる場合においても、適用することができる。上述の通り、ピーン成形加工は原理的に板状体に等方性ひずみを生じさせる2軸方向の成形であるところ、異方性ひずみとは、特に1軸方向にのみ湾曲した形状に成形することができる。異方性ひずみを生じさせる手法については、さまざまな手法があり、例えば被成形部材の表面および裏面からショット投射を行う手法、被成形部材をショット面が突出するようクランプし、予め被成形部材のショット面側に引張力を生じさせた状態でショット投射を行う手法、およびショット面に対して長方形状の圧子をショット投射を行う手法がある。いずれの方法においても仮成形条件Tと乖離量Gおよび変形量Dとの学習モデルLを含む関係式Fを取得し、成形条件から乖離量Gおよび変形量Dを算出し、最適成形条件Rを設定することができる。
【0049】
<異方性部材について>
関係式Fは、
図1に示すような板状材のみからなる被成形部材Pに限らず、
図6に示すように、被成形部材Qが、板状部材Q1と補強部材Q2とを備え、補強部材Q2が板状部材Q1の片面に板状部材Q1の長辺と平行に配置され、被成形部材Qの板状部材Q1と補強部材Q2とが一体構造となっている場合にも適用することができる。この場合においても、
図7に示す通り、被成形部材Qの解析モデルNについて、板状部材Q1および補強部材Q2の表面および裏面に複数の個別領域を区画し、板状部材Q1および補強部材Q2の表面および裏面における成形条件と、乖離量Gおよび変形量Dとの学習モデルLを含む関係式Fを取得することにより、被成形部材Pと同様の手法で、最適成形条件Rを設定することができる。
【0050】
被成形部材Qが板状部材Q1およびが補強部材Q2を有する場合の関係式Fを重回帰分析にて取得した場合の一例として以下に示す。
G=C9+C10・T1+C11・T2+C12・T3+C13・T4・・・(4)
HzX=C14+C15・T1+C16・T2+C17・T3+C18・T4・・・(5)
HzY=C19+C20・T1+C21・T2+C22・T3+C23・T4・・・(6)
HxY=C24+C25・T1+C26・T2+C27・T3+C28・T4・・・(7)
HxZ=C29+C30・T1+C31・T2+C32・T3+C33・T4・・・(8)
ここで、HzXおよびHzYは、それぞれZ方向におけるAzX軸およびAzY軸に対するアークハイト、HxYおよびHxZは、それぞれ図示しないX方向におけるAxY軸およびAxZ軸に対するアークハイトである。また、T3は補強部材Q2の側面(YZ面)におけるX+方向の面における成形条件、T4は補強部材Q2の側面(YZ面)におけるX-方向の面における成形条件である。また、C9~C33は重回帰分析等により求まる重みである。このようにして求められる関係式Fから、被成形部材Pの場合と同様の方法により、被成形部材Qについても最適成形条件Rを設定することができる。
【0051】
以下に、本発明に係る実施態様の効果について、各実施態様ごとに述べる。
本発明に係る第1の実施態様は、ピーン成形条件設定方法であって、被成形部材Pの解析モデルMを複数の個別領域に区画し、所定の仮成形条件Tに基づいて解析を実行することで全体仮成形形状Bを取得するステップと、全体仮成形形状Bについて、基準形状Sに対する個別領域の乖離量Gと、個別領域の変形量Dとを取得するステップと、仮成形条件Tと乖離量Gと変形量Dとの関係式Fを取得するステップと、関係式Fに仮成形条件Tを代入して算出された乖離量Gおよび変形量Dのうち、乖離量Gが最小であり、且つ、目標変形量に対する変形量Dの差が最小である仮成形条件Tを最適なピーン成形条件Rに設定するステップと、を有する。
【0052】
第1の実施態様によれば、仮成形条件Tと、仮成形条件Tに基づいて取得された全体仮成形形状Bと、全体仮成形形状Bから取得された乖離量Gおよび変形量Dとから、成形条件と、乖離量および変形量との関係式Fを取得することができる。また、関係式Fに成形条件を代入して算出された乖離量Gおよび変形量Dについて、乖離量Gおよび目標変形量と変形量Dとの差が最小となるものを最適なピーン成形条件Rとして設定するので、成形形状の全体の目標形状に対する全体の形状の精度を高めることができる。
【0053】
本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様に記載のピーン成形条件設定方法において、基準形状Sは治具面板として構成され、乖離量Gは、治具面板と成形形状との法線方向における差である。
【0054】
第2の実施態様によれば、基準形状Sは治具面板として構成され、治具面板と成形形状との法線方向における差を、乖離量Gとして取得することができる。
【0055】
本発明の第3の実施態様は、第1の実施態様または第2の実施態様に係るピーン成形条件設定方法において、複数の個別領域に亘って乖離量Gを設定する設定領域に乖離量Gが設定されることで、個別領域の乖離量Gが取得されるピーン条件設定方法である。
【0056】
第3の実施態様によれば、基準形状Sの設定領域Uは、複数の個別領域に対応して構成されるので、個別領域は、複数の個別領域に対応する設定領域Uに対して乖離量Gを取得することができる。
【0057】
本発明の第4の実施態様は、第1の実施態様から第3の実施態様のいずれかに記載のピーン成形条件設定方法において、関係式Fは、取得した仮成形条件Tと乖離量Gと変形量Dとを用いて機械学習を行うことで生成される学習モデルLを含む。
【0058】
第4の実施態様によれば、関係式Fは、成形条件と、乖離量および全領域における変形量について機械学習した学習モデルLを含むので、成形条件を関係式Fに代入して算出される乖離量Gおよび変形量Dの信頼性を高めることができる。
【0059】
本発明の第5の実施態様は、第1の実施態様から第4の実施態様のいずれかに係るピーン成形条件設定方法において、仮成形条件Tは、被成形部材Pに異方性ひずみを生じさせる成形条件を含む。
【0060】
第5の実施態様によれば、第1の実施態様または第4の実施態様に係るピーン成形条件Rは、被成形部材Pに異方性ひずみを生じさせることができる成形条件を含むので、異方性ひずみによるピーン成形加工が必要な場合においても、第1の実施態様または第2の実施態様と同じ効果を奏することができる。
【0061】
本発明の第6の実施態様は、第1の実施態様から第5の実施態様のいずれかに記載のピーン成形条件設定方法において、被成形部材Qは、板状部材Q1と補強部材Q2とを有し、補強部材Q2は板状部材Q1の片面に板状部材Q1の長手方向に沿って配置され、板状部材Q1と補強部材Q2とは一体に構成される。
【0062】
第6の実施態様によれば、第1の実施態様から第5の実施態様のいずれかにおいて被成形部材Pは、板状部材Q1の片面の板状部材Q1の長手方向に配置される補強部材Q2が一体に構造される被成形部材Qにおいても第1の実施形態から第6の実施形態と同一の効果を奏することができる。
【0063】
本発明の第7の実施態様は、第1の実施態様から第6の実施態様のいずれかに係るピーン成形方法において、被成形部材Qは、飛行機の翼体に使用される部材である。
【0064】
第7の実施態様によれば、第1の実施態様から第6の実施態様に係る成形方法を、飛行機の翼体に使用することができる。
【0065】
本発明の第8の実施態様に係るピーン成形方法は、第1の実施態様から第7の実施態様のいずれかに係るピーン成形条件設定方法で設定されたピーン成形条件Rに基づいて、被成形部材Qを成形する成形ステップを有する。
【0066】
第8の実施態様によれば、第1の実施態様から第7の実施態様に係るピーン成形条件設定方法で設定されたピーン成形条件Rにおいて、ピーン成形加工を行うことができる。
【0067】
本発明の第9の実施態様に係るピーン成形条件設定装置は、被成形部材Pの解析モデルMを複数の領域に区画し、所定の仮成形条件Tに基づいて解析を実行することで取得される全体仮成形形状Bについて、基準形状Sに対する個別領域の乖離量Gと、個別領域の変形量Dとを取得し、仮成形条件Tと乖離量Gと変形量Dとの関係式Fを取得する手段と、関係式Fに所定の仮成形条件Tを代入することにより乖離量Gおよび変形量Dを算出する手段と、算出された乖離量Gおよび変形量Dのうち、乖離量Gが最小であり、且つ、目標変形量に対する変形量Dの差が最小である仮成形条件Tを最適成形条件に設定する手段と、を有する。
【0068】
第9の実施態様によれば、ピーン成形条件設定装置200において、第1の実施態様と同一の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0069】
100…ピーン成形システム、200…ピーン成形条件設定装置、
210…演算部、220…入出力部、230…記録部、
232…領域区画プログラム、234…仮成形条件設定プログラム、
236…形状取得プログラム、238…乖離量取得プログラム、
240…変形量取得プログラム、242…学習モデルプログラム、
244…関係式取得プログラム、246…算出プログラム、
248…成形条件設定プログラム、250…成形結果データベース、
300…ピーン成形装置、310…制御部、320…入出力部、
330…ショット投射部、340…記録部、
A…個別領域、B…全体仮成形形状、D…変形量、F…関係式、
G…乖離量、H…目標成形形状、K…正解付データ、M…解析モデル、
P、Q…被成形部材、Q1…板状部材、Q2…補強部材、
R…ピーン成形条件、最適成形条件、S…基準形状、T…仮成形条件、
U…設定領域