(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】注入器用アドレナリン薬液
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20221117BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20221117BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221117BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20221117BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20221117BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221117BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20221117BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20221117BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A61K31/137
A61K47/22
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/04
A61K47/02
A61P37/08
A61P9/04
A61P11/06
(21)【出願番号】P 2021561040
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2020060523
(87)【国際公開番号】W WO2020212381
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-10-26
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506257331
【氏名又は名称】クロスジェクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】テイヨー エリック
(72)【発明者】
【氏名】ボマール ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】レスジャック オドレ
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/041687(WO,A1)
【文献】仏国特許出願公開第03014317(FR,A1)
【文献】仏国特許出願公開第02779061(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
アドレナリンまたはその薬学的に許容な塩と、
D-α-トコフェリルポリエチレングリコールスクシナート(以下、「ビタミンE TPGS」と略する)と、
キレート剤と、
溶媒と
を含み、
前記キレート剤がエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(以下、「EDTA二ナトリウム」と略する)、エチレンジアミン四酢酸、およびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムカルシウムから選択される、
アドレナリン薬液。
【請求項2】
請求項1に記載の薬液において、
前記アドレナリンの薬学的に許容な塩が酒石酸アドレナリンおよび塩酸アドレナリンから選択されることを特徴とする薬液。
【請求項3】
請求項2に記載の薬液において、
前記アドレナリンの薬学的に許容な塩が酒石酸アドレナリンであることを特徴とする薬液。
【請求項4】
請求項1に記載の薬液において、
前記キレート剤がEDTA二ナトリウムであることを特徴とする薬液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の薬液において、
前記薬液が塩酸およびソーダから選択される、少なくとも1つのpH緩衝剤をさらに含むことを特徴とする薬液。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の薬液において、
前記薬液のpHが2.2~5であることを特徴とする薬液。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の薬液において、
前記薬液が、塩化ナトリウムである、少なくとも1つの張力調整剤をさらに含むことを特徴とする薬液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の薬液において、
前記薬液のアドレナリン濃度は、0.1~1mg/mlであることを特徴とする薬液。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の薬液において、
前記薬液が、薬液1mLに対するmg単位で、
0.1~1mgのアドレナリンまたはその薬学的に許容な塩と、
0.1~20mgのビタミンE TPGSと、
0.1~2mgのキレート剤と、
Q.S.1mLの溶媒と
を含むことを特徴とする薬液。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の薬液を調製するためのプロセスであって、
a)前記薬液の、アドレナリンまたはアドレナリンの薬学的に許容な塩を除く、すべての成分を含む混合物を、前記成分を溶解させるように、撹拌しながら、調製する工程と、
b)アドレナリンまたはその薬学的に許容な塩を溶媒に溶解させる工程と、
c)工程a)の混合物に、必要に応じて撹拌しながら、前記溶解させたアドレナリンまたは前記溶解させたその薬学的に許容な塩を添加する工程と
を包含することを特徴とするプロセス。
【請求項11】
アナフィラキシーショック、心停止、喘息、および心循環系窮迫の処置において使用するための請求項1~9のいずれか1項に記載の薬液。
【請求項12】
請求項11に記載の薬液において、
前記薬液が非経口経路による投与に適切な形態をとることを特徴とする薬液。
【請求項13】
注入器と、
請求項1~9のいずれか1項に記載の薬液と
を備える注入キット。
【請求項14】
請求項13に記載の注入キットにおいて、
前記注入器が点火カートリッジを有する無針注入器であることを特徴とする注入キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非経口経路、特に、筋肉内経路による注入を意図する、アドレナリン(別名:エピネフリン)またはその薬学的に許容な塩の薬液(以下、「アドレナリン薬液」と略する)に関する。
【背景技術】
【0002】
アドレナリンは、中枢神経系や副腎によって分泌されるホルモンである。恐れや怒りなどの強い感情が生じるとアドレナリンが血流中に放出され、これにより心拍数、筋緊張、動脈圧および糖代謝が亢進する。
【0003】
医学分野において、アドレナリンまたはアドレナリン塩の注入は、心循環系停止、アナフィラキシーショック(アレルギーに関連する)またはいくつかの他の重篤なショック状態のための適切な処置として知られている。
【0004】
例えば、アナフィラキシーショックの場合、患者が注入器を用いてアドレナリンを自分自身に筋肉内注入することがある。実際のところ、アナフィラキシーは、突発的で重度の全身的なアレルギー反応であり、適切な処置がなされない場合は、わずか数分で死に至る場合がある。
【0005】
アドレナリンおよびその塩は、カテコールアミン類に属する。
【0006】
アドレナリンおよびその塩は、酸化されやすい。より具体的には、アドレナリン水溶液は、空気、光および/または熱にさらされると急速に劣化する。この劣化は、アドレナリンおよびその塩が酸化によってアドレノクロムに変わることにより溶液がピンク色に変わり、さらに、メラミンの形成によって茶色に変わるので、目で見て分かる。
【0007】
したがって、このようにアドレナリンが自己酸化するので、アドレナリンの劣化を回避するための適切な対策を実施することが必要不可欠である。例えば、アドレナリン溶液の貯蔵寿命を延ばすためにアドレナリン溶液を適切に冷蔵して保存することが知られている。
【0008】
さらに、アドレナリンを酸化防止剤と組み合わせることによって自己酸化から保護することが知られている。特に注入可能な溶液などのアドレナリン薬液を安定化するために多くの酸化防止剤が使用されてきた。これらの酸化防止剤には、亜硫酸塩(特にメタ重亜硫酸塩)、アスコルビン酸、チオグリコレート、チオグリセロール、Lシステイン、没食子酸プロピル、ホルムアルデヒドスルホキシレート、クエン酸、およびモノチオグリセロールなどがある。
【0009】
しかし、これらの酸化防止剤の中には、亜硫酸塩系の化合物(例えば、メタ重亜硫酸ナトリウムまたは重亜硫酸ナトリウム)などのように重いアレルギー反応の原因となるものがある。さらに、重亜硫酸ナトリウムは、アドレナリンと反応して、この活性物質の完全な効力を低減し、副生成物としてアドレナリンスルホン酸を生成することがある。
【0010】
寿命の長いアドレナリン薬液を開発することは、単純ではない。なぜなら、この活性物質は、熱、空気および/または光が存在すると容易に酸化することや、亜硫酸塩などのある種の酸化防止剤と反応して、その処置効力全体が低減することを考慮した工程を実施することがどうしても必要となるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明者らは、これらの上記に詳述したすべての短所を克服するための検討を行い、そして、アドレナリンまたはその薬学的に許容な塩の新規な薬液を開発した。この新規な薬液は、非経口経路、特に、筋肉内経路によって注入されることが意図され、その経時的な安定性は、当該技術分野で既知のアドレナリン溶液と比較して向上し、亜硫酸塩タイプの酸化防止剤を必要としない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、本願発明者らは、アドレナリンまたはその薬学的に許容な塩の薬液において、D-α-トコフェリルポリエチレングリコールスクシナート(以下、「ビタミンE TPGS」と略する)からなる酸化防止剤をキレート剤と組み合わせることによって、上記の目的を完全に達成することが可能であることを発見した。
【0013】
ビタミンE TPGSは、D-α-トコフェリル酸スクシナートをポリエチレングリコール(以下、「PEG」と略する)を用いてエステル化することによって生成される。
【0014】
したがって、本発明の第1の目的は、少なくとも、
アドレナリンまたはその薬学的に許容な塩と、
ビタミンE TPGSと、
キレート剤と、
溶媒と
を含むアドレナリン薬液である。
【0015】
キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(別名:エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物。以下、「EDTA二ナトリウム」と略する)、エチレンジアミン四酢酸、およびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムカルシウムから選択され得る。
【0016】
好ましくは、キレート剤は、EDTA二ナトリウムである。
【0017】
驚くべきことに、本願発明者らは、ビタミンE TPGSをキレート剤、好ましくは、EDTA二ナトリウムと組み合わせることによって、アドレナリン溶液に、当該技術分野で既知のアドレナリン溶液と比較してより良好な経時的な安定性が与えられることを発見した。実際に、当該技術分野で既知のアドレナリン溶液の有効期限は、18~21か月である。本発明に係るアドレナリン溶液の有効期限は、24か月を超える場合がある。
【0018】
したがって、本発明は、アドレナリン薬液を安定化するために、ビタミンE TPGSとキレート剤(好ましくは、EDTA二ナトリウム)との組み合わせを選択することにある。
【0019】
実際に、本発明に係る薬液は、経時的に完全に安定なままであり、過酷な貯蔵条件(すなわち、40℃の温度)下においても安定であることが実験から分かっている。より具体的には、このような貯蔵条件下において、他の比較用のアドレナリン溶液と異なり、
本発明に係るアドレナリン溶液は、清澄かつ無色のままであること、
そのpHは、ほとんど変化のないままであること、
その純度消失率は、非常に低いこと
が観察された。
【0020】
したがって、本願発明者らは、以下の事実に基づく、ビタミンE TPGSとキレート剤(好ましくは、EDTA二ナトリウム)との相乗効果を見出すに至った。
ビタミンE TPGSがアドレナリンの自己酸化による劣化を回避し、
他方、キレート剤が当該溶液のpHの低減を制限し、これにより、アドレナリンを劣化させ得る溶液内の化学反応を回避すること。
【0021】
アドレナリンの薬学的に許容な塩は、酒石酸アドレナリンおよび塩酸アドレナリンから選択され得る。これらは、単独または組み合わせて用いられてもよい。
【0022】
好ましくは、アドレナリン塩は、酒石酸アドレナリンである。
【0023】
溶媒は、アドレナリンおよびその塩、ならびに本発明に係る薬液が含む他の化合物と相溶な溶媒であれば、いずれの薬学的に許容な溶媒でもよい。溶媒は、水、特に、注入器において使用される水(言い換えると、注入調製物用の水)を含んでもよい。注入調製物用の水は、細菌が混入していない超純水である。
【0024】
薬液は、少なくとも1つのpH緩衝剤をさらに含んでもよい。例えば、薬液は、塩酸およびソーダから選択されるpH緩衝剤を含んでもよい。
【0025】
薬液のpHは、有利には、2.2~5、好ましくは3~3.8である。
【0026】
薬液は、少なくとも1つの張力調整剤をさらに含んでもよい。例えば、張力調整剤は、塩化ナトリウムを含んでもよい。
【0027】
薬液は、少なくとも1つの薬学的に許容な賦形剤をさらに含んでもよい。
【0028】
本発明の一実施形態において、薬液は、
アドレナリンまたはその薬学的に許容な塩と、
ビタミンE TPGSと、
キレート剤、好ましくは、EDTA二ナトリウムと、
必要に応じて、少なくとも1つのpH緩衝剤と、
必要に応じて、少なくとも1つの張力調整剤と、
溶媒、好ましくは、注入調製物用の水と
を含む。
【0029】
好ましくは、薬液は、
アドレナリンまたはその薬学的に許容な塩と、
ビタミンE TPGSと、
EDTA二ナトリウムと、
必要に応じて、ソーダまたは塩酸と、
必要に応じて、塩化ナトリウムと、
溶媒、好ましくは、注入調製物用の水と
を含む。
【0030】
さらに好ましくは、薬液は、
酒石酸アドレナリンと、
ビタミンE TPGSと、
EDTA二ナトリウムと、
必要に応じて、ソーダまたは塩酸と、
必要に応じて、塩化ナトリウムと、
溶媒、好ましくは、注入調製物用の水と
を含む。
【0031】
薬液のアドレナリン濃度は、有利には、0.1~1mg/mLである。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態において、薬液のアドレナリン濃度は、0.48mg/mLまたは0.8mg/mLである。
【0033】
本発明に係る薬液は、薬液1mLに対するmg単位で、
0.1~1mg、より好ましくは、0.48~0.8mgのアドレナリンまたはその薬学的に許容な塩と、
0.1~20mg、好ましくは、2.5~15mgのビタミンE TPGSと、
0.1~2mg、好ましくは、1~1.5mgのキレート剤と、
Q.S.1mLの溶媒、好ましくは、注入調製物用の水と
を含んでもよい。
【0034】
「Q.S.」は、「Quantum Satis」の略であり、混合物の成分の体積の合計を1mLに等しくするために十分な量の溶媒を混合物に添加することを意味する。
【0035】
本発明に係る薬液は、薬液1mLに対するmg単位で、
0.1~1mg、より好ましくは、0.48~0.8mgのアドレナリンまたはその薬学的に許容な塩と、
0.1~20mg、好ましくは、2.5~15mgのビタミンE TPGSと、
0.1~2mg、好ましくは、1~1.5mgのEDTA二ナトリウムと、
Q.S.1mLの溶媒、好ましくは、注入調製物用の水と
を含んでもよい。
【0036】
薬液は、最大で10mgの少なくとも1つの薬学的に許容な賦形剤をさらに含んでもよい。
【0037】
本発明の別の目的は、上記の本発明に係る薬液を調製するためのプロセスであって、少なくとも、
a)薬液の、アドレナリンまたはアドレナリンの薬学的に許容な塩を除く、すべての成分を含む混合物を、成分を溶解させるように、撹拌しながら、調製する工程と、
b)アドレナリンまたはその薬学的に許容な塩を溶媒に溶解させる工程と、
c)工程a)の混合物に、必要に応じて撹拌しながら、溶解させたアドレナリンまたは溶解させたその薬学的に許容な塩を添加する工程と
を包含するプロセスである。
【0038】
調製プロセスを通して、撹拌を実施するステップは、有利には、200~400rpm、より好ましくは、250~300rpmの撹拌速度で実施される。
【0039】
方法は、窒素またはアルゴン雰囲気下において実施されてもよい。あるいは、混合物は、窒素またはアルゴンを用いて泡立ててもよい。
【0040】
本発明の別の目的は、アナフィラキシーショック、心停止、喘息、および心循環系窮迫(特に、アナフィラキシーショック、出血性ショック、外傷性ショック、感染性ショック、または心臓手術後のショックの状態をともなう心循環系窮迫)を処置する際に使用するための上記薬液である。好ましくは、アナフィラキシーショックの処置を含む。
【0041】
薬液は、有利には、非経口経路、好ましくは、筋肉内経路による投与に適切な形態をとる。
【0042】
本発明の別の目的は、
注入器と、
上記の本発明に係る薬液と
を含む注入キット、好ましくは、筋肉内経路のよる注入のためのキットである。
【0043】
注入器の注入体積は、有利には、0.3125~0.625mlである。
【0044】
注入器は、一回きりの使用を意図されてもよい。例えば、注入器は、すぐに使用できる充填済みのチューブを含んでもよい。
【0045】
本発明の好適な実施形態において、注入器は、使い捨てで、針のない、それに備えつけられたガス生成器によって自動で働く、充填済みの注入器である。注入器は、点火カートリッジを有する無針注入器を含んでもよい。これに関して、仏国特許出願第2 815 544 A1号および第2 807 946 A1号にこの注入器の例が記載されている。
【0046】
注入器は、非常に有利には、Crossject社によってZENEO(登録商標)の商品名で市販されているデバイスである。
【0047】
このように、本発明に係る注入キットの一実施形態は、点火カートリッジを有する無針注入器である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
実験パート
本発明に係るアドレナリン薬液と、酸化防止剤を含まない比較用薬液、またはアドレナリン薬液を安定化することが当該技術分野で知られている酸化防止剤を含む比較用薬液(必要に応じて、EDTA二ナトリウムであるキレート剤も含む)とを、それらの安定性について、比較する実験を行った。
【0049】
より具体的には、以下に示す19のアドレナリン溶液を調製した。
【0050】
溶液S1およびS2:本発明に係る2つのアドレナリン溶液
溶液C1およびC2:酸化防止剤を含まない2つの比較用アドレナリン溶液
溶液C3およびC4:酸化防止剤としてビタミンE TPGSを含むが、キレート剤を含まない2つの比較用アドレナリン溶液
溶液C5~C11:ビタミンE TPGS以外の1つ以上の酸化防止剤を含むが、キレート剤を含まない7つの比較用アドレナリン溶液
溶液C12~C17:ビタミンE TPGS以外の1つ以上の酸化防止剤およびキレート剤を含む5つの比較用アドレナリン溶液
【0051】
上記19の溶液のすべてを以下のようにして調製した。
【0052】
まず、19の溶液の調製において、使用する注入溶液用の水にわずかに残存する二酸素を抑制するために(その含有率が0.5ppm未満となるように)、二窒素を用いて、その水を12時間泡立てた。
【0053】
活性物質(すなわち、アドレナリンまたは酒石酸アドレナリン)を除く、すべての成分を200mLバイアル内において混合した。
【0054】
その後、注入調製物用の水を180mLの体積となるまでバイアルに加えた。
【0055】
このようにして得られた溶液をマグネチックスターラを用いて撹拌し、すべての成分を溶解させた。
【0056】
溶液のpHの値を濃度1mol/Lのソーダ(NaOH)または塩酸(HCl)溶液を用いて3.4の値に調節した。これらの溶液をあらかじめ二窒素を用いて泡立てた。
【0057】
注入調製物用の水を用いて、溶液の体積を200mLにした。このようにして、第1の溶液を得た。
【0058】
その後、この第1の溶液の約1mLを使用して、アドレナリンまたは、適宜、酒石酸アドレナリンをバイアル内において溶解させた。
【0059】
このようにして得られたアドレナリン溶液を100mLバイアルに移した。
【0060】
少量の(約1mL)の第1の溶液を用いて、アドレナリンを溶解させたバイアルを数回すすぎ、このとき、バイアル内にあったアドレナリンのすべてを回収するために、このすすぎに使用した溶液は、上記100mLバイアルに移した。
【0061】
最後に、すすぎを終えた後に、第1の溶液を用いて体積を100mLとなるようにした。
【0062】
このようにして得られた19のアドレナリン溶液はすべて、清澄かつ無色であった。
【0063】
下記の表1~3において、「Q.S.」は、「Quantum Satis」の略であり、以下を意味する。
濃度1mol/Lのソーダまたは塩酸の添加量が、pHを約3.4に調節するような添加量であり、
水の量が、溶液の体積を100mLとするような量であることである。
【0064】
下記の表1は、溶液S1、S2、C1~C4のそれぞれの体積1mLに対する各成分の量の詳細を示す。
【0065】
【表1】
表1は、溶液S1、S2およびC1~C4の各成分の量の詳細を示す。
【0066】
下記の表2は、溶液C5~C11のそれぞれの体積1mLに対する各成分の量の詳細を示す。
【0067】
【表2】
表2は、溶液C5~C11の各成分の量の詳細を示す。
【0068】
下記の表3は、溶液C12~C17のそれぞれの体積1mLに対する各成分の量の詳細を示す。
【0069】
【表3】
表3は、溶液C12~C17の各成分の量の詳細を示す。
【0070】
これら19のアドレナリン溶液の経時的な(すなわち、最大3か月にわたる)安定性を異なる貯蔵温度(25℃、40℃および60℃)で測定した。
【0071】
下記の表4~10は、溶液S1、S2およびC1~C17について、時間および貯蔵温度の関数として、以下の詳細を示す。
溶液のpH
溶液の見え方
注目する溶液におけるアドレナリンの純度消失率
【0072】
注目する溶液におけるアドレナリンの純度消失率は、欧州薬局方第9版の酒石酸アドレナリンモノグラフ第01/2008:0254号に詳述される方法にしたがって、紫外線検出と組み合わされた高速液体クロマトグラフィによって測定した。
【0073】
【表4】
表4は、溶液S1およびS2の安定性パラメータの詳細を示す。
【0074】
表4から分かるように、本発明に係る溶液S1およびS2は、経時的に安定なままであり、過酷な温度条件下でも安定なままである。実際に、溶液S1およびS2が退色し始めるのは、60℃の温度、すなわち、高温においてである。また、表4から分かるように、60℃という非常に高い温度を除いて、純度消失率が非常に低い。さらに、溶液S1およびS2のpHは、ほとんど変化しないままであり、60℃においてもほとんど変化しないままであることが分かる。
【0075】
これらの実験結果は、本発明に係るアドレナリン溶液の安定性が優れていることを示している。
【0076】
【表5】
表5は、溶液C1およびC2の安定性パラメータの詳細を示す。
【0077】
表5から分かるように、溶液C1およびC2を用いたこれらの試験は、酸化防止剤を含まないアドレナリン溶液が経時的に安定でないことを示している。実際に、溶液C1およびC2は、短時間で着色し、純度消失率が時間とともに増大する。
【0078】
【表6】
表6は、溶液C3およびC4の安定性パラメータの詳細を示す。
【0079】
表6から分かるように、溶液C3およびC4を用いたこれらの試験は、ビタミンE TPGSを含むが、キレート剤を含まないアドレナリン溶液の純度消失率が時間および温度とともに増大することを示している。溶液C3およびC4は、本発明に係る溶液S1およびS2よりも安定性が低い。
【0080】
【表7】
表7は、溶液C5~C7の安定性パラメータの詳細を示す。
【0081】
表7から分かるように、溶液C5~C7を用いたこれらの試験は、メタ重亜硫酸ナトリウムを酸化防止剤として含むアドレナリン溶液の純度消失率が時間および温度とともに増大することを示している。さらに、pHが時間とともに変化し、また温度の上昇とともに変化することが分かる。溶液C5~C7は、経時的に安定でない。
【0082】
【表8】
表8は、溶液C8~C11の安定性パラメータの詳細を示す。
【0083】
表8から分かるように、溶液C8~C11を用いたこれらの試験は、Lシステイン、クエン酸、またはモノチオグリセリンを酸化防止剤として含むアドレナリン溶液の純度消失率が時間および温度とともに増大することを示している。さらに、溶液が非常に短時間で着色することが分かる。溶液C8~C11は、経時的に安定でない。
【0084】
【表9】
表9は、溶液C12~C14の安定性パラメータの詳細を示す。
【0085】
表9から分かるように、溶液C12~C14を用いたこれらの試験は、酸化防止剤としてのメタ重亜硫酸ナトリウムと、EDTA二ナトリウムであるキレート剤とを組み合わせて含むアドレナリン溶液の純度消失率は、時間が経過し、温度が上昇する場合にも、溶液S1およびS2よりも大きいことを示している。さらに、溶液C12~C14について、pHが時間とともに変化し、また温度の上昇とともに変化することが分かる。これは、溶液S1およびS2には当てはまらない。したがって、溶液C12~C14は、溶液S1およびS2よりも経時的に安定でない。
【0086】
【表10】
表10は、溶液C15~C17の安定性パラメータの詳細を示す。
【0087】
表10から分かるように、溶液C15~C17を用いたこれらの試験は、酸化防止剤としてのLシステイン、クエン酸、およびモノチオグリセリンと、EDTA二ナトリウムであるキレート剤とを組み合わせて含むアドレナリン溶液の純度消失率が、ほんの1カ月の貯蔵後に、溶液S1およびS2よりもはるかに高くなっていることを示している。純度消失率のこの増大は、温度が高くなるにつれて大きくなる。したがって、溶液C15~C17の経時的な安定性は、溶液S1およびS2よりも著しく低い。