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特許7178531回転摩擦溶接における溶融金属閉じ込めリングによる溶融金属の閉じ込め方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】回転摩擦溶接における溶融金属閉じ込めリングによる溶融金属の閉じ込め方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20221118BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
B23K20/12 Z
E04B1/58 503F
E04B1/58 509E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018105862
(22)【出願日】2018-06-01
(65)【公開番号】P2019209340
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】518283506
【氏名又は名称】エードス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上谷 宏二
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-167496(JP,A)
【文献】特表2018-504281(JP,A)
【文献】特開2000-312981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転摩擦によって第1の鋼材と第2の鋼材とを接合金属を介して接合する接合方法であって、前記第1の鋼材と前記第2の鋼材とを隣接した位置に配置すると共に前記第1の鋼材の端面と前記第2の鋼材の端面とを対向させて配置し、前記第1の鋼材の端面と前記第2の鋼材の端面とに跨り前記第1の鋼材の表面と前記第2の鋼材の表面とに垂直もしくは略垂直な直線を回転軸とする回転対称形状で側周面と底部を有する空所を加工し、前記接合金属は容易に前記空所に挿入されうる形状の回転対称体であって、前記接合金属を前記空所に挿入し、前記接合金属の先端部と前記空所の前記底部との接触部に押圧力を加えた状態で前記接合金属を回転軸周りに回転させて摩擦を生ぜしめ、前記摩擦による摩擦熱を利用して前記接触部近傍の材料組織を溶融させて溶融金属を生成し、液体化した前記溶融金属を前記接合金属の先端部に生じる押圧力と回転運動を利用して前記接合金属の前記側周面と前記空所の前記側周面との隙間に充填させ、ついで回転運動を停止させて前記溶融金属を凝固させ前記隙間近傍の組織と一体化させることによる前記接合金属を介しての前記第1の鋼材と前記第2の鋼材との接合において、溶融金属閉じ込めリングをリング部内側面と前記接合金属の前記側周面との間に僅かな隙間を介して装着し、リング部裏面を前記第1の鋼材の表面と前記第2の鋼材の表面とに載置することにより、前記溶融金属が前記空所から吐出することを防止し前記空所内に閉じ込めて密実に充填することを特徴とする回転摩擦による鋼材の接合方法。
【請求項2】
回転摩擦によって第1の鋼材と第2の鋼材とを接合金属を介して接合する接合方法であって、前記第1の鋼材と前記第2の鋼材とを重ねた位置に配置すると共に前記第1の鋼材の裏面と前記第2の鋼材の表面を対向させて配置し、前記第1の鋼材の裏面と前記第2の鋼材の表面とを貫く直線を回転軸とする回転対称形状で側周面と底部を有する空所を加工し、前記接合金属は、容易に前記空所に挿入されうる形状の回転対称体であって、前記接合金属を前記空所に挿入し、前記接合金属の先端部と前記空所の前記底部との接触部に押圧力を加えた状態で前記接合金属を回転軸周りに回転させて摩擦を生ぜしめ、前記摩擦による摩擦熱を利用して前記接触部近傍の材料組織を溶融させて溶融金属を生成し、液体化した前記溶融金属を前記接合金属の先端部に生じる押圧力と回転運動を利用して前記接合金属の前記側周面と前記空所の前記側周面との隙間に充填させ、ついで回転運動を停止させて前記溶融金属を凝固させ前記隙間近傍の組織と一体化させることによる前記接合金属を介しての前記第1の鋼材と前記第2の鋼材との接合において、溶融金属閉じ込めリングをリング部内側面と前記接合金属の前記側周面との間に僅かな隙間を介して装着し、リング部裏面を前記第1の鋼材の表面に載置することにより、前記溶融金属が前記空所から吐出することを防止し前記空所内に閉じ込めて密実に充填することを特徴とする回転摩擦による鋼材の接合方法。
【請求項3】
前記溶融金属閉じ込めリングは、前記リング部内側面が前記接合金属の側周面との間に僅かな隙間を介して対向する形状であり、前記リング部裏面が前記第1の鋼材および/または前記第2の鋼材の表面に重なり合う形状であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の回転摩擦による鋼材の接合方法。
【請求項4】
前記溶融金属閉じ込めリングは、鋼材、非鉄金属、セラミックス、合成樹脂または木材のいずれかからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の回転摩擦による鋼材の接合方法。
【請求項5】
前記溶融金属閉じ込めリングには、前記溶融金属の吐出の防止効果を確実にするとともに前記接合金属の回転に共回りしないように、前記第1の鋼材および/または前記第2の鋼材の表面に定着させる手段を用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の回転摩擦による鋼材の接合方法。
【請求項6】
前記溶融金属閉じ込めリングは、永久磁石であって、前記第1の鋼材および/または前記第2の鋼材の表面に磁力により定着させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の回転摩擦による鋼材の接合方法。
【請求項7】
前記第1の鋼材と前記第2の鋼材とが請求項1乃至6のいずれかに記載の方法により接合されることを特徴とする回転摩擦による鋼材の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転摩擦による鋼材の接合方法および接合構造に関するものである。 特に、建築鋼構造に用いられる柱や梁など鋼構造骨組を構成する鋼材の接合方法および接合構造に関する。さらには、回転摩擦溶接における溶融金属閉じ込めリングによる溶融金属の閉じ込め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図14に従来の摩擦圧接法による鋼材の接合例を示す。図14aに示すように、第1の鋼材110と第2の鋼材120とを押圧(摩擦圧力)しつつ第1の鋼材110と第2の鋼材120との接触部160に生ずる摩擦により接触部160近傍の材料組織を溶融または軟化させた後、さらに大きな押圧(アプセット圧力)を付加して一体化させる第1の鋼材110と第2の鋼材120との接合方法および接合構造である。摩擦圧接法の場合、図14bに示すように、溶融により液状化した接触部160近傍の組織は摩擦圧力およびアプセット圧力により摩擦面から排出されてバリ181の大部分を形成し、通常は接合に有効利用されることはない。一方、軟化した固体組織は摩擦面近傍に残存し鋼材同士の固体接合に寄与する。
【0003】
特許文献1には、ステンレス鋼の丸棒と黄銅の丸棒との先端を接するように接触部を加工して、接触部同士を押圧しつつ相互に相対回転させて生じる摩擦により接触部近傍の材料組織を溶融または軟化させて一体化させる摩擦圧接法および接合構造が提示されている。特許文献2には、2本のパイプの間に同径のリング部材を挟むように接触させて配置し、リング部材とパイプとに接触部を形成して、両側のパイプをリング部材に押圧しつつリング部材を回転させることにより生じる摩擦により接触部近傍の材料組織を溶融または軟化させて、最終的に両側のパイプとリング部材と一体として接合させる、いわゆるインサート法と称されている摩擦圧接法および接合構造が提示されている。特許文献3には、2本の鉄筋の間に鉄筋と同断面形状短尺の接合補助材を挟むように接触させて配置し、接合補助材とそれぞれ鉄筋の先端に接触部を形成し、両側の鉄筋を接合補助材に押圧しつつ接合補助材を回転させることにより生じる摩擦により接触部近傍の材料組織を溶融または軟化させて一体化させる摩擦圧接法および接合構造が提示されている。特許文献4には、空所に該空所より若干大径の棒状の挿入物を挿入させるに際し、挿入物に回転運動と挿入方向に大きな力を加え、空所入口近傍さらには空所内部を摩擦発熱によって軟化または溶融させ徐々に挿入物を挿入させる方法が提示されている。
【0004】
出願人らによる従前の出願、特許文献5では、回転摩擦による鋼材の接合方法として図15図16に示す回転摩擦溶接を提供している。すなわち、第1の鋼材210と第2の鋼材220とを隣接した位置に配置すると共に第1の鋼材210の端面211と第2の鋼材220の端面221とを対向させて配置する。空所250として、第1の鋼材210の端面211と第2の鋼材220の端面221とに跨り、第1の鋼材210の表面212と前記第2の鋼材220の表面222とに垂直な直線を回転軸271とし単調変化する曲線を母線とする回転対称形状の側周面252と、側周面252に連続する円錐体形状の底部251を加工する。一方、接合金属240は、単調変化する曲線を母線とする回転対称形状の側周面242を有する接合金属本体241と、接合金属本体241に連続する円錐体形状の先端面247aを有する先端部247とからなり、空所250に容易に挿入されうる大きさとする。接合金属240を空所250に回転軸271が一致するように挿入する。次いで、図16bに示すように、接合金属240に押し付け力Pを作用させながら回転軸271回りに回転ωを与えることにより接合金属240の先端部247と空所250の底部251との間の回転摩擦面262にて摩擦を生ぜしめる。摩擦熱によって液体化した溶融金属280を押し付け力Pによる押圧力と回転運動を利用して接合金属240の側周面242と空所250の側周面252との隙間261に充填させ、溶融金属280が隙間261の全域に充填されたときに回転運動を停止させる。その後の温度低下に伴って溶融金属280は凝固し、隙間261近傍の組織と一体化することにより接合が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-301364号公報
【文献】特開2000-094157号公報
【文献】特開2011-152563号公報
【文献】特開昭52-075641号公報
【文献】特願2017-179523号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の摩擦圧接法は、鉄筋のように比較的小規模な鋼材の接合に実用化されている。ただし、特許文献3の長尺の鉄筋の場合は、回転するのに大規模な設備が必要である。特許文献4の方法では、空所入口近傍で接合に寄与しないバリが多く発生し、挿入を妨害するのでそれに打ち勝つような多大な力が必要である。さらにこれらの方法を建築鋼構造の柱や梁のように大規模な鋼材の接合に適用しようとすると、押圧および摩擦を加えるために要する加圧機構や動力機構の性能が巨大化する。従って、建築鋼構造の工事現場での現場接合に適用することは困難である。一方現状では、建築鋼構造の柱や梁などの鋼構造骨組を構成する鋼材の接合は、溶接または高力ボルト摩擦接合のいずれかによる場合がほとんどである。ところが、高力ボルト摩擦接合の場合にはボルト孔による被接合鋼材の断面欠損やボルト孔の片側だけからの締め付けが困難といった欠点があり、また、溶接の場合には施工現場の環境や技術者の技量によって欠陥が生じ得る欠点があり、これらの課題を解決できる新しい接合方法の提供が要望されている。
さらに、特許文献5で提示した回転摩擦溶接では、空所の底部で摩擦により生成された溶融金属を、空所と接合金属の側周面間の空間に隙間なく充填させる必要がある。静止面で囲まれた空隙に溶融金属が侵入すると、温度低下によって急激に凝固する。一方、空所と接合金属の側周面間の空隙のように壁面が大きな相対速度を持つ場合、ここに侵入した溶融金属は粘性流動を強いられ、エネルギーが供給され続けて容易に凝固せず、流体を保持して空隙に侵入していくことが可能になる。しかし、活発に流動する溶融金属が挿入体の回転運動によって、空所と接合金属の側周面間の空隙から吐出してバリを形成したり飛沫となって飛散する。溶融金属の吐出は空所内部に空隙を残し、材料欠陥となり接合強度を低下させる原因となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、溶融金属の吐出によって空所内に残された空隙が材料欠陥となって接合強度を低下させるメカニズムを断ち切る有効な方法として、溶融金属閉じ込めリングの載置による溶融金属の閉じ込め方法を提供する。溶融金属が空所の外部に吐出することを防止出来れば、摩擦によって生成された溶融金属を空所と接合金属の側周面間の空隙に密実に充填させることができ、空所の側周面と接合金属の側周面とが完全に一体化した接合組織が実現される。
なお、「表面」とは、挿入される接合金属の基端部側の面とし、「裏面」とは、挿入される接合金属の先端部側の面とする。「側周面」とは、回転対称体における母線の生成する面を意味する。「容易に空所に挿入されうる」とは、接合金属の側周面と空所の側周面との間に適度の隙間を有して挿入が容易なことを意味する。
【0008】
請求項1の発明では、
回転摩擦によって第1の鋼材と第2の鋼材とを接合金属を介して接合する接合方法であって、前記第1の鋼材と前記第2の鋼材とを隣接した位置に配置すると共に前記第1の鋼材の端面と前記第2の鋼材の端面とを対向させて配置し、前記第1の鋼材の端面と前記第2の鋼材の端面とに跨り前記第1の鋼材の表面と前記第2の鋼材の表面とに垂直もしくは略垂直な直線を回転軸とする回転対称形状で側周面と底部を有する空所を加工し、前記接合金属は容易に前記空所に挿入されうる形状の回転対称体であって、前記接合金属を前記空所に挿入し、前記接合金属の先端部と前記空所の前記底部との接触部に押圧力を加えた状態で前記接合金属を回転軸周りに回転させて摩擦を生ぜしめ、前記摩擦による摩擦熱を利用して前記接触部近傍の材料組織を溶融させて溶融金属を生成し、液体化した前記溶融金属を前記接合金属の先端部に生じる押圧力と回転運動を利用して前記接合金属の前記側周面と前記空所の前記側周面との隙間に充填させ、ついで回転運動を停止させて前記溶融金属を凝固させ前記隙間近傍の組織と一体化させることによる前記接合金属を介しての前記第1の鋼材と前記第2の鋼材との接合において、溶融金属閉じ込めリングをリング部内側面と前記接合金属の前記側周面との間に僅かな隙間を介して装着し、リング部裏面を前記第1の鋼材の表面と前記第2の鋼材の表面とに載置することにより、前記溶融金属が前記空所から吐出することを防止し前記空所内に閉じ込めて密実に充填する。
ここで、第1の鋼材および第2の鋼材の材質は、任意の構造用鋼材であって、接合金属の材質は、摩擦により溶融し、第1の鋼材と接合金属および第2の鋼材と接合金属とを一体化することが可能な金属である限り任意である。例えば、鋼材、合金鋼材、アルミニウム材、アルミニウム合金材などが挙げられる。空所の形状および接合金属の形状は、接合金属を空所に押し付けつつ回転することが容易な回転対称形状とする。
【0009】
請求項2の発明では、
回転摩擦によって第1の鋼材と第2の鋼材とを接合金属を介して接合する接合方法であって、前記第1の鋼材と前記第2の鋼材とを重ねた位置に配置すると共に前記第1の鋼材の裏面と前記第2の鋼材の表面を対向させて配置し、前記第1の鋼材の裏面と前記第2の鋼材の表面とを貫く直線を回転軸とする回転対称形状で側周面と底部を有する空所を加工し、前記接合金属は、容易に前記空所に挿入されうる形状の回転対称体であって、前記接合金属を前記空所に挿入し、前記接合金属の先端部と前記空所の前記底部との接触部に押圧力を加えた状態で前記接合金属を回転軸周りに回転させて摩擦を生ぜしめ、前記摩擦による摩擦熱を利用して前記接触部近傍の材料組織を溶融させて溶融金属を生成し、液体化した前記溶融金属を前記接合金属の先端部に生じる押圧力と回転運動を利用して前記接合金属の前記側周面と前記空所の前記側周面との隙間に充填させ、ついで回転運動を停止させて前記溶融金属を凝固させ前記隙間近傍の組織と一体化させることによる前記接合金属を介しての前記第1の鋼材と前記第2の鋼材との接合において、溶融金属閉じ込めリングをリング部内側面と前記接合金属の前記側周面との間に僅かな隙間を介して装着し、リング部裏面を前記第1の鋼材の表面に載置することにより、前記溶融金属が前記空所から吐出することを防止し前記空所内に閉じ込めて密実に充填する。
ここで、第1の鋼材および第2の鋼材の材質は、任意の構造用鋼材であって、接合金属の材質は、摩擦により溶融し、第1の鋼材と接合金属および第2の鋼材と接合金属とを一体化することが可能な金属である限り任意である。例えば、鋼材、合金鋼材、アルミニウム材、アルミニウム合金材などが挙げられる。空所の形状および接合金属の形状は、接合金属を空所に押し付けつつ回転することが容易な回転対称形状とする。
【0010】
請求項3の発明では、
前記溶融金属閉じ込めリングは、前記リング部内側面が前記接合金属の側周面との間に僅かな隙間を介して対向する形状であり、前記リング部裏面が前記第1の鋼材および/または前記第2の鋼材の表面に重なり合う形状である。すなわち、第1の鋼材および/または第2の鋼材の表面が鋼管のような曲面であれば、リング部裏面もそれらに沿って重なり合う曲面形状である。なお、リング部外側面の形状およびリング部表面の形状は任意であるが、それぞれリング部内側面の形状およびリング部裏面の形状と同種であることが望ましい。
【0011】
請求項4の発明では、
前記溶融金属閉じ込めリングは、鋼材、非鉄金属、セラミックス、合成樹脂または木材のいずれかからなる。
【0012】
請求項5の発明では、
前記溶融金属閉じ込めリングには、前記溶融金属の吐出の防止効果を確実にするとともに前記接合金属の回転に共回りしないように、前記第1の鋼材および/または前記第2の鋼材の表面に定着させる手段を用いる。定着させる手段としては、ネジ等の機械的な締結による締着の手段、接着剤等の湿式充填による接着の手段、磁力による磁着の手段などが考えられる。
【0013】
請求項6の発明では、
前記溶融金属閉じ込めリングは、永久磁石であって、前記第1の鋼材および/または前記第2の鋼材の表面に磁力により定着させる。ここで、溶融金属閉じ込めリングは、フェライトを主成分としたセラミックス磁石、または希土類金属やニッケル、コバルトを主成分とした金属磁石、またはそれらとゴムまたはプラスチックスとの合成物であるボンド磁石から構成される。
【0014】
請求項7の発明では、
前記第1の鋼材と前記第2の鋼材とが請求項1乃至6のいずれかに記載の方法により接合される回転摩擦による鋼材の接合構造であって、鋼構造骨組の接合構造、特に、建築鋼構造に用いられる柱や梁など鋼構造骨組を構成する鋼材の接合構造に用いられる。
【発明の効果】
【0015】
建築鋼構造の柱や梁などの鋼構造骨組を構成する鋼材の接合のため、比較的小さな機構で、好ましくは携帯可能なサイズの工具で、大規模な鋼材の接合に適用できる回転摩擦による接合方法および接合構造を提供した。特に、大きな押し付け力を必要とせず回転のみの簡易な機構を用いた回転摩擦による接合を実現する方法を提供した。
本発明では、接合金属の先端部と空所の底部との接触部での摩擦により発生させた溶融金属を溶融金属閉じ込めリングの働きによって空所内に密実に充填させることにより次の効果が生じ技術的に有用なものとなる。
(1) 接合組織内に欠陥となる空隙が残ることを防止し、所要の接合部強度を安定して得られる。
(2) 溶融金属の吐出によるエネルギー浪費を除去することにより接合のエネルギー効率が大幅に高まり、回転を与えるモーターのトルクや仕事率を大きく低減できる。
(3) 装置が小型化でき、操作性や仕事効率を高められる。
(4) 接合金属と空所の形状は「円筒」でも成立するため、加工が容易になる。これによってもたらされる量産化、コスト・メリットは、実用化にとって極めて重要である。
【0016】
接合金属を空所内に挿入し、押し付け力を加えながら同時に接合金属を回転軸周りに回転させる。接合金属の先端部と空所の底部との接触部で摩擦が生じ、摩擦熱が摩擦面近傍にある金属組織の一部を溶融化せしめる。溶融流体化したすなわち溶融金属は押圧の作用によって押し出され、接合金属の側周面と空所の側周面の間の空隙に侵入していく。接合金属の側周面と空所の側周面とは接合金属の回転による相対速度を有しているので、粘性抵抗を有する溶融金属は絶えず撹拌され、力学的エネルギーから変換された熱エネルギーの供給を受けて高温の液体状態を保ち続けることができ、すぐには凝固せず接合金属と空所の間の空隙に浸透し続けることが可能である。空隙に侵入した溶融金属は、回転停止とともに空所周囲からの抜熱による温度低下によって固体化し溶接金属としての機能を果たす作用を起こし接合金属と空所周囲が一体組織となる。
なお、上記方法では、従来の摩擦圧接法のように接合部材の接触部界面で発生した溶融金属を無用な凝固物であるバリとして吐出するものではなく、被接合鋼材と接合金属とを接合する溶接金属として有効に利用する新しい技術である。溶融金属が溶鋼の場合、粘性抵抗が極めて小さい流体であるため押し付け力と接合金属の回転運動によって容易に空隙に浸透せしめることが可能である。さらに摩擦は接合金属の先端部と空所の底部との接触部のみで生じさせるため、接合金属に加える押し付け力、及び、回転を与えるモーターのトルクは共に小さくて済む。すなわち、簡易な機構を用いた回転摩擦による接合が可能となる。
【0017】
溶融金属が空所の外部に吐出することを防止し、摩擦によって生成された溶融金属を空所と接合金属の側周面間の空隙に密実に充填させることによって、接合部の強度低下の原因となる空隙が空所内に残存すること防止でき、所要の接合強度を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態で用いられる溶融金属閉じ込めリングの部品図である。
図2】第1実施形態を説明するアイソメ図である。
図3】第1実施形態を説明する平面図および縦断面図である。
図4】溶融金属閉じ込めリングを使用しないときの回転摩擦溶接の接合状態を示す図である。
図5】溶融金属閉じ込めリングを使用するときの回転摩擦溶接の接合状態を示す図である。
図6】第2実施形態を説明する平面図および縦断面図である。
図7】第2実施形態の実施手順を説明する図である。
図8】接合ユニットを説明する図である。
図9】第2実施形態の変形例を説明するアイソメ図である。
図10】第3実施形態を説明する縦断面図である。
図11】第3実施形態の応用例を説明する図である。
図12】第3実施形態のスプライスプレートへの適用例を説明する図である。
図13】第4実施形態を説明する図である。
図14】従来技術を説明する図である。
図15】出願人らによる従前の出願の技術を説明する図である。
図16】出願人らによる従前の出願の技術を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0020】
本発明の実施形態で用いられる溶融金属閉じ込めリング90を、図1に示す。溶融金属閉じ込めリング90は、リング部91と孔部96からなり、リング部91は、リング部91の表裏面のうち接合金属40の基端部48側の面であるリング部表面92、リング部91の表裏面のうち接合金属40の先端部47側の面であるリング部裏面93、孔部96を形成するリング部内側面94およびリング部外側面95で構成される。溶融金属閉じ込めリング90は、リング部内側面94が前記接合金属の側周面42との間に僅かな隙間を介して対向する円筒形であり、リング部裏面93が第1の鋼材10および/または第2の鋼材20の表面12、22に重なり合う平面形である。溶融金属閉じ込めリング90は、鋼材、非鉄金属、セラミックス、合成樹脂または木材のいずれかからなる。
本発明の第1実施形態を、図2図3を参照して説明する。第1の鋼材10および第2の鋼材20は、端面を持つ鋼材である。端面を持つ鋼材とは、例えば鋼板、H形鋼を構成するフランジおよびウェブ、角形鋼管や円形鋼管など閉鎖断面部材の管鋼板本体などが挙げられる。端面同士を対向させて配置した接合とは、具体的には突き合わせ接合である。第1の鋼材10と第2の鋼材20とを隣接した位置に配置すると共に第1の鋼材10の端面11と第2の鋼材20の端面21とを対向させて配置する。このとき、第1の鋼材10の端面11と第2の鋼材20の端面21とは、面接触(メタルタッチ)状に配置されることが望ましいが、不可避の建方誤差等に伴う微小のズレは許容される。空所50として、第1の鋼材10の端面11と第2の鋼材20の端面21とに跨り、第1の鋼材10の表面12と前記第2の鋼材20の表面22とに垂直な直線を回転軸71とし単調変化する曲線を母線とする回転対称形状の側周面52と、側周面52に連続する円錐体形状の底部51を加工する。
一方、接合金属40は、回転軸71からの距離が基端部48から先端部47に向かって単調減少する母線によって形成される回転対称形状の側周面42を有する接合金属本体41と、接合金属本体41に連続する円錐体形状の先端面47aを有する先端部47とからなり、空所50に容易に挿入されうる大きさとする。接合金属本体41は基端部48側に半径が一定である円筒形の側周面42aを有し、溶融金属閉じ込めリング90を接合金属本体41の円筒形側周面42aに僅かな隙間を介して装着し、接合金属40をその先端60が空所50の底部に達するまで挿入する。この挿入過程で溶融金属閉じ込めリング90のリング部裏面93は第1の鋼材10の表面12と第2の鋼材20の表面22とに載置する。載置された溶融金属閉じ込めリング90には、溶融金属の吐出の防止効果を確実にするとともに接合金属40の回転に共回りしないように、溶融金属閉じ込めリング90を鋼材の表面12、22に定着させる手段を用いることが望ましい。定着させる手段としては、ネジ等の機械的な締結による締着の手段、接着剤等の湿式充填による接着の手段、磁力による磁着の手段などが考えられる。本実施形態では、溶融金属閉じ込めリング90を永久磁石とし、永久磁石の磁力により定着させる手段を採用する。
次いで、図3bに示すように、接合金属40に押し付け力Pを作用させながら回転軸71回りに回転ωを与えることにより接合金属40の先端部47と空所50の底部51との間の回転摩擦面62に摩擦を生じさせる。このとき溶融金属閉じ込めリング90のリング部裏面93と鋼材の表面12、22との間には磁石の吸着力が働いているため、溶融金属閉じ込めリング90は接合金属40に対して共回りしない。摩擦熱によって液体化した溶融金属80は、押し付け力Pによる押圧力と溶融金属80に作用する浮力と接合金属40の回転運動による遠心力の作用によって接合金属40の側周面42と空所50の側周面52との隙間61に侵入して行く。溶融金属80は溶融金属閉じ込めリング90によって空所50からの吐出が防止されているため、空所50の全域を密実に充填させることができる。溶融金属80の充填が完了したとき接合金属40の回転運動を停止させる。その後生じる温度低下によって溶融金属80は凝固し、隙間61近傍の組織と一体化することにより接合が完了する。
【0021】
本発明における溶融金属の閉じ込め方法を、図4図5を参照して詳細に説明する。図4は溶融金属閉じ込めリング90を使用しないときの回転摩擦溶接の接合状況を示し、図5溶融金属閉じ込めリング90を使用するときの回転摩擦溶接の接合状況を示す。
接合金属40の先端部47と空所50の底部51との間での摩擦によって生成された溶融金属80は、押し付け力Pによる押圧力と溶融金属80に作用する浮力と接合金属40の回転運動による遠心力の作用によって接合金属40の側周面42と空所50の側周面52との隙間61に侵入して行く。図4に示すように溶融金属閉じ込めリング90が無ければ、溶融金属80は前記隙間61の外部空間へ通じる出口61aから吐出し、周囲への熱伝導で熱が失われることにより凝固してバリ81となるかまたは接合金属40の回転による遠心力が働いて飛散する。吐出した溶融金属が吐出前に空所内に存在していた箇所には空隙99が形成され、前記空隙99は接合部の強度を低下させる。一方、図5に示すように溶融金属閉じ込めリング90が溶融金属80の吐出を防止すれば、溶融金属80は前記空隙99を形成することなく前記隙間61の全域を密実に充填でき良好な接合が実現できる。
図5bに示すように溶融金属が空所の外部に吐出する可能性がある経路は、溶融金属閉じ込めリング90のリング部内側面94と接合金属40の側周面42との間の境界97と、溶融金属閉じ込めリング90の裏面93と鋼材の表面12および/または22との間の境界98の2か所である。
前者の吐出経路である境界97には、接合金属に押付力Pを作用させ軸回りの回転ωを生ぜしめる回転摩擦溶接の過程において有意な圧力は生じない。よって、境界97を経由して溶融金属80が吐出しない程度に溶融金属閉じ込めリング90のリング部内側面94と接合金属40の側周面42との間の間隔を十分に小さく保てば、溶融金属40がその粘性作用により境界97を通過することは無く溶融金属80の吐出は防止される。さらに、前記境界97に有意な圧力は生じないので接触部での摩擦力は小さく接合金属40の回転を妨げることは無く、また摩擦熱によって境界97の近傍組織が溶解して新たな溶融金属吐出経路が形成されることは無い。
一方、後者の吐出経路である境界98においては、溶融金属80による圧力が溶融金属閉じ込めリング90のリング部裏面93を鋼材の表面12および/または22から離反させるように作用する。接触面が離反すればその隙間から溶融金属80が吐出する可能性が生じるため、溶融金属80の圧力を打ち消して離反を生じさせない大きさの押付圧または吸着力が必要である。溶融金属閉じ込めリング90が永久磁石であるとリング部裏面93と鋼材の表面12および/または22との間には磁気による吸着力が働いており、溶融金属80の内圧による溶融金属閉じ込めリング90のリング部裏面93が鋼材の表面12および/または22からの離反が防止される。また、溶融金属80が境界98の隙間に侵入しても、その隙間は静止した溶融金属閉じ込めリング90のリング部裏面93と静止した第1の鋼材の表面12および/または第2の鋼材の22で囲まれているため熱伝導によって溶融金属80の温度は急激に低下して凝固するため外部への吐出は防止される。
【0022】
本発明の第2実施形態を、図6を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態と同様の突き合わせ接合であるが、具体的な寸法と材質を付して詳細に説明する。第1の鋼材10および第2の鋼材20は、それぞれSN400厚さ22mmの鋼板であり、第1の鋼材10の端面11には半径15mmの半円筒形状の空所50aを加工し、第2の鋼材20の端面21には半径15mmの半円筒形状の空所50bを加工する。半円筒形状の空所50aおよび半円筒形状の空所50bは、それぞれ頂点での開き角が122°の円錐体形状の底部51a、底部51bを有する有底空所であって、空所50a、空所50bの最深部の深さは17mmである。第1の鋼材10と第2の鋼材20とを隣接した位置に配置すると共に第1の鋼材10の端面11と第2の鋼材20の端面21とを対向させて配置すると、第1の鋼材10の端面11と第2の鋼材20の端面21とに跨る直径30mm、深さ17mmの円筒形状の側周面52、底部51を有する空所50が形成される。このとき、第1の鋼材10の端面11と第2の鋼材20の端面21とは、面接触(メタルタッチ)状に配置されることが望ましいが、不可避の建方誤差等に伴う微小のズレは許容される。一方、接合金属40は、SN400鋼材である直径29.5mmの円柱体の接合金属本体41と、先端部47で構成される。先端部47は頂点での開き角が120°の円錐体形状の先端面47aを有する。なお、本実施形態では、接合金属40の側周面42に凹凸を設けていない。直径29.6mmの円筒形の孔部96を有する厚さ5mmのリング形状を持つ溶融金属閉じ込めリング90を接合金属40の円筒形の側周面42aに僅かな隙間を介して装着する。溶融金属閉じ込めリング90はフェライトを磁化させた永久磁石であり、磁界の向きは溶融金属閉じ込めリング90の厚さ方向、磁束密度は300mT(ミリテスラ)である。
溶融金属閉じ込めリング90を装着した接合金属40を回転装置70に取り付け、空所50に挿入する。挿入の過程で溶融金属閉じ込めリング90のリング部裏面93は第1の鋼材10の表面12と第2の鋼材20の表面22に載置され、溶融金属閉じ込めリング90の磁力によって定着させられる。次いで、図6bに示すように、接合金属40に押し付け力Pを作用させながら回転軸71回りに回転ωを与えることにより接合金属40の先端部47と空所50の底部51との間の回転摩擦面62にて摩擦を生ぜしめる。回転数は3000rpmで押し付け力は7000Nである。このとき溶融金属閉じ込めリング90のリング部裏面93と鋼材の表面12、22との間には磁石の吸着力が働いているため、溶融金属閉じ込めリング90は接合金属40に対して共回りしない。摩擦熱によって液体化した溶融金属80は押し付け力Pによる押圧力と溶融金属80に作用する浮力と接合金属40の回転運動による遠心力の作用によって接合金属40の側周面42と空所50の側周面52との隙間61に侵入していく。溶融金属80は溶融金属閉じ込めリング90によって空所50からの吐出が防止されているため、空所50の全域を密実に充填させることができる。溶融金属80が隙間61の全域にわたって密実に充填されたとき回転運動を停止させる。その後の温度低下に伴って溶融金属80は凝固し、隙間61近傍の組織と一体化することにより接合が完了する。ところで、本実施形態では、空所の底部51および接合金属40の先端部47をそれぞれ円錐体形状としたが、それぞれ平坦面形状であってもよい。
【0023】
図7は、第2実施形態における鋼材の接合方法の実施手順を段階的に示す。
(手順1)図7aは、隣接した位置に配置した鋼板である第1の鋼材10と第2の鋼材20の突き合わせ面に跨る円筒形状の空所50に、溶融金属閉じ込めリング90を円柱形状の接合金属本体41に装着した接合金属40を回転装置70に取り付けて挿入し、接合金属40の先端部47と空所50の底部51との間に接触部60が生じた状態を示す。
(手順2)図7bは、接合中の状態を示す。接合金属40に押し付け力Pを作用させ、押し付け力Pを一定に保持しながら接合金属40を回転軸71回りに回転速度ωで回転を与えることにより接合金属40の先端部47と空所50の底部51との間の回転摩擦面62にて摩擦を生じさせる。摩擦熱によって液体化した溶融金属80は、押し付け力Pによる押圧力と溶融金属80に作用する浮力と接合金属40の回転運動による遠心力の作用によって接合金属40の側周面42と空所50の側周面52との隙間61に侵入していく。このとき溶融金属閉じ込めリング90は、溶融金属80が空所50から外部に吐出することを防止する。
(手順3)図7cは、接合後の状態を示す。接合金属40の先端部47と空所50の底部51との間の回転摩擦面62(図7b参照)における摩擦によって生成された溶融金属80(図7b参照)が、接合金属40の側周面42と空所50の側周面52との隙間61の全域に充填されたときに接合金属40の回転運動を停止させ、その後の温度低下に伴って隙間内部に残留して凝固した溶融金属80aが近傍の組織と一体化することにより接合が完了する。なお、図7c中の62aは、接合完了時における接合金属の先端部47と空所の底部51との間の回転摩擦面を表す。
【0024】
なお、回転軸71方向の押し付け力Pを加える方法、回転軸71回りの回転を加える方法は任意である。
【0025】
本発明の第2実施形態の空所50と接合金属40による接合は、空所50と接合金属40とを接合ユニット72として、図8に示すように複数の接合ユニット72を第1の鋼材10の端面11と第2の鋼材20の端面21の境界に沿って適宜間隔で並設する。複数の接合ユニット72を並設することにより必要な接合強度を確保する。このような第1の鋼材10の端面11と第2の鋼材20の端面21とに跨る空所50を加工するに際しては、図8に示すように空所50の回転軸71が端面11、21内に存在し、端面11、21の短辺方向である鋼材断面の厚さ方向を向くように空所50を加工する。
【0026】
本発明の第2実施形態の第1の鋼材10の端面11と第2の鋼材20の端面21とに跨る空所50を加工するに際しては、図9に示すように空所50の回転軸71が端面11、21内に存在し、端面11、21の長辺方向である鋼材断面の幅方向を向くように空所50を加工してもよい。
【0027】
本発明の第3実施形態を、図10を参照して説明する。第1の鋼材10および第2の鋼材20は、表面と裏面とを持つ鋼材である。表面と裏面とを持つ鋼材とは、例えば鋼板、スプライスプレートなどの接合用鋼板、H形鋼を構成するフランジおよびウェブなどが挙げられる。裏面と表面とを対向させて配置した接合とは、具体的には重ね合わせ接合である。
本実施形態では、第1の鋼材10および第2の鋼材20は、それぞれSN400厚さ22mmの鋼板であり、第1の鋼材10には表面12から裏面13に貫く直径30mmの円筒形状の空所50cを加工し、第2の鋼材20には表面22から裏面23に貫く直径30mmの円筒形状の空所50dを加工し、第1の鋼材10と第2の鋼材20とを重ねた位置に配置すると共に第1の鋼材10の裏面13と第2の鋼材20の表面22を対向させ、且つ第1の鋼材10に加工した円筒形状の空所50cの中心と、第2の鋼材20に加工した円筒形状の空所50dの中心が回転軸71として一致するように配置すると、第1の鋼材10と第2の鋼材20とを貫く直線を回転軸71とする回転対称形状の空所50が形成される。さらに、第2の鋼材20の裏面23に空所50を塞ぐように裏当板55を付接して空所50の底部51を形成する。このとき、第1の鋼材10の裏面13と第2の鋼材20の表面22とは、面接触(メタルタッチ)状に配置されることが望ましいが、不可避の建方誤差等に伴う微小のズレは許容される。一方、接合金属40は、SN400鋼材であり接合金属本体41が直径29.5mmの円柱体であり、先端部47は先端直径29mm、開き角120°の円錐形テーパ部である。直径29.6mmの円筒形の孔部96を有する厚さ5mmのリング形状を持つ溶融金属閉じ込めリング90を接合金属40の円筒形状を持つ接合金属本体41に通して取り付ける。溶融金属閉じ込めリング90はフェライトを磁化させた永久磁石であり、磁界の向きは溶融金属閉じ込めリング90の厚さ方向、磁束密度は300mT(ミリテスラ)である。
溶融金属閉じ込めリング90を装着した接合金属40を回転装置70に取り付け、空所50に挿入する。挿入の過程で溶融金属閉じ込めリング90のリング部裏面93は第1の鋼材10の表面12に載置され、溶融金属閉じ込めリング90の磁力によって定着させられる。接合金属40に押し付け力を作用させながら回転軸71回りに回転を与えて摩擦を生じさせる。ここで回転数は3000rpmで押し付け力は7000Nである。このとき溶融金属閉じ込めリング90のリング部裏面93と鋼材の表面12との間には磁石の吸着力が働いているため、溶融金属閉じ込めリング90は接合金属40に対して共回りしない。摩擦熱によって液体化した溶融金属80は押し付け力Pによる押圧力と溶融金属80に作用する浮力と接合金属40の回転運動による遠心力の作用によって接合金属40の側周面42と空所50の側周面52との隙間61に侵入していく。溶融金属80は溶融金属閉じ込めリング90によって空所50からの吐出が防止されているため、空所50の全域を密実に充填させることができる。溶融金属80が隙間61の全域にわたって密実に充填されたとき回転運動を停止させる。その後の温度低下に伴って溶融金属80は凝固して組織が一体化し、接合金属40を介して第1の鋼材10と第2の鋼材20とを接合する。ところで、本実施形態では、空所50および接合金属40をそれぞれ円筒形状、円柱体としたが、図2図3に示した第1実施形態のように、単調変化する曲線部を持つ母線によって形成される回転対称形状の側周面52、42を有するものとしてもよい。
【0028】
第3実施形態の方法を応用すると、図11に示すように3以上の鋼材を重ね合わせて接合することができる。すなわち、第1の鋼材10、第2の鋼材20および第3の鋼材30の裏面と表面をそれぞれ重ね合わせて配置し、接合金属40を介して接合する。
【0029】
更に、図12に示すように建築鋼構造のスプライスプレートによる接合部に応用することができる。ここで、第1の鋼材10、第2の鋼材20および第3の鋼材30は、それぞれ上スプライスプレート34、H形鋼のフランジプレート35、35および下スプライスプレート36であって、接合金属40を介して接合する。
【0030】
本発明の第4実施形態は、図13に示すように建築鋼構造の接合構造で多用されるH形鋼37、38への適用を表している。すなわち、H形鋼37、38のそれぞれのフランジプレートおよびウェブプレートの端面を突き合わせて、本発明の接合ユニット72を並列することによって、H形鋼37、38同士を接合することができる。角型鋼管や円形鋼管のような閉鎖断面鋼材に対しても本発明の接合方法が適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
建築鋼構造の柱や梁などの鋼構造骨組を構成する鋼材の接合のための、溶接または高力ボルト摩擦接合に代わるまたは併用できる新しい接合方法と接合構造を提供した。
【符号の説明】
【0032】
10:第1の鋼材(被接合鋼材)
11:第1の鋼材の端面
12:第1の鋼材の表面
13:第1の鋼材の裏面
20:第2の鋼材(被接合鋼材)
21:第2の鋼材の端面
22:第2の鋼材の表面
23:第2の鋼材の裏面
30:第3の鋼材(被接合鋼材)
32:第3の鋼材の表面
33:第3の鋼材の裏面
34:上スプライスプレート
35:フランジプレート
36:下スプライスプレート
37:第1のH形鋼
38:第2のH形鋼
40:接合金属
41:接合金属本体
42:接合金属の側周面
42a:接合金属の基端部にある円筒形側周面
47:接合金属の先端部
47a:接合金属の先端面
48:接合金属の基端部
50:空所
50a:第1の鋼材に設けられる半円筒形状の空所
50b:第2の鋼材に設けられる半円筒形状の空所
50c:第1の鋼材に設けられる円筒形状の空所
50d:第2の鋼材に設けられる円筒形状の空所
51:空所の底部
51a:第1の鋼材に設けられる空所の底部
51b:第2の鋼材に設けられる空所の底部
52:空所の側周面
55:裏当板
60:接合金属の先端部と空所の底部との接触部
61:接合金属の側周面と空所の側周面との隙間
61a:接合金属の側周面と空所の側周面との隙間の出口
62:接合金属の先端部と空所の底部との間の回転摩擦面
62a:接合完了時における接合金属の先端部と空所の底部との間の回転摩擦面
70:回転装置
71:回転対称体の回転軸
72:接合ユニット
80:溶融金属
80a:隙間に充填され凝固した溶融金属
81:バリ
90:溶融金属閉じ込めリング
91:リング部
92:リング部表面(リング部表裏面のうち接合金属の基端部側の面)
93:リング部裏面(リング部表裏面のうち接合金属の先端部側の面)
94:リング部内側面(=孔部外側面)
95:リング部外側面
96:孔部
97:リング部内側面と接合金属の側周面との間の境界
98:リング部裏面と鋼材の表面との間の境界
99:溶融金属の吐出によって空所内に形成された空隙
110:従来技術における第1の鋼材
120:従来技術における第2の鋼材
160:従来技術における接触部
181:従来技術におけるバリ
210:従前出願における第1の鋼材
211:従前出願における第1の鋼材の端面
212:従前出願における第1の鋼材の表面
220:従前出願における第2の鋼材
221:従前出願における第2の鋼材の端面
222:従前出願における第2の鋼材の表面
240:従前出願における接合金属
241:従前出願における接合金属本体
242:従前出願における接合金属の側周面
247:従前出願における接合金属の先端部
247a:従前出願における接合金属の先端面
248:従前出願における接合金属の基端部
250:従前出願における空所
251:従前出願における空所の底部
252:従前出願における空所の側周面
260:従前出願における接合金属の側周面と空所の側周面との接触面
261:従前出願における接合金属の側周面と空所の側周面との隙間
271:従前出願における回転対称体の回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16