IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トーヨーカネツ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-アンカーストラップ構造 図1
  • 特許-アンカーストラップ構造 図2A
  • 特許-アンカーストラップ構造 図2B
  • 特許-アンカーストラップ構造 図3
  • 特許-アンカーストラップ構造 図4
  • 特許-アンカーストラップ構造 図5
  • 特許-アンカーストラップ構造 図6
  • 特許-アンカーストラップ構造 図7
  • 特許-アンカーストラップ構造 図8
  • 特許-アンカーストラップ構造 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】アンカーストラップ構造
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/08 20060101AFI20221118BHJP
   B65D 88/06 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
F17C13/08 302D
B65D88/06 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018154159
(22)【出願日】2018-08-20
(65)【公開番号】P2020029874
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000110011
【氏名又は名称】トーヨーカネツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110559
【弁理士】
【氏名又は名称】友野 英三
(72)【発明者】
【氏名】轟 章
(72)【発明者】
【氏名】藤極 之徳
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-250291(JP,A)
【文献】実開昭60-061596(JP,U)
【文献】特開2000-027590(JP,A)
【文献】実開昭50-049019(JP,U)
【文献】特開2002-227067(JP,A)
【文献】特開2013-137075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/08
B65D 88/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台構造と立設構造との接続箇所に、金属よりも熱伝導率の低い繊維強化プラスチックを備え
前記繊維強化プラスチックは、前記金属と接合される継手部と、前記継手部から板厚が緩やかに変化するすりつけ部と、板厚が前記継手部より薄くその厚さが変化しない一般部と、を備え
たことを特徴とする低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項2】
前記基台構造と前記立設構造との前記接続箇所に金属をさらに備え、
前記繊維強化プラスチックと前記金属との接合は、ボルト・ナットによる機械的接合、接着接合、機械的接合と接着接合とが組み合わされた接合、のうち少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項3】
前記基台構造と前記立設構造との前記接続箇所に金属をさらに備え、
前記繊維強化プラスチックと前記金属との接合は、前記繊維強化プラスチックを前記金属に引っ掛けることによる接合であることを特徴とする請求項1に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項4】
前記繊維強化プラスチックは、前記継手部、前記すりつけ部、前記一般部がこの順で連接されてなる部分を有し、前記すりつけ部の厚さは前記一般部の側から前記継手部の側に向かって厚くなることを特徴とする請求項2もしくは3に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項5】
前記継手部には、ボルトを貫通するための貫通孔が穿設されることを特徴とする請求項4に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項6】
前記貫通孔は、前記ボルトと略同径であることを特徴とする請求項5に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項7】
前記継手部は、前記金属に引っ掛けられるフック形状を有することを特徴とする請求項4に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項8】
前記金属には前記継手部を引っ掛けるための孔及び/もしくは突起物が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項9】
前記継手部における繊維配向は、前記低熱伝導型アンカーストラップ構造の軸方向に等しい繊維方向と、前記繊維強化プラスチックのせん断破壊を防ぐための斜交積層とを有していることを特徴とする請求項5に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項10】
前記継手部の前記軸方向に対する前記斜交積層の角度は、略±45°であることを特徴とする請求項9に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項11】
前記繊維強化プラスチックの板厚中心線に対して繊維方向が略対称となっていることを特徴とする請求項4に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項12】
前記繊維強化プラスチックが板厚方向に2枚以上積層されるバンドル構造を有していることを特徴とする請求項4~6、9~11のうちいずれか一項に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項13】
前記継手部は、前記金属と前記繊維強化プラスチックとの突き合わせ部に金属からなる継手板が両側から挟み込まれ、前記金属、前記繊維強化プラスチック、前記継手板の各々が前記ボルト・ナット及び/もしくは接着剤にて接合される構造を有する、請求項5に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項14】
前記ボルト・ナットによる接合手段は所定のトルクで前記ナットが締め付けられることを特徴とする請求項13に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【請求項15】
前記継手部は、前記金属と前記繊維強化プラスチックとの突き合わせ部に繊維強化プラスチックからなる継手板が両側から挟み込まれ、その各々が前記ボルト・ナット及び/もしくは接着材にて接合される構造を有する、請求項2に記載の低熱伝導型アンカーストラップ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はたとえばアンカーストラップ構造に係り、特に液化ガスを貯蔵する極低温タンクのアンカーストラップ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、一般的な極低温タンクの正面部分断面図である。液体水素等の極低温液を貯留する極低温タンクとしては、図1に示すような内部に極低温液を実質的に貯留する内槽と、所定厚さの真空保冷層を挟んでこれを取り囲む外槽とから形成される二重殻構造の極低温タンクが知られている。
【0003】
この種の極低温タンク100は、円筒体状のものが多く、代表的な浮床式タンクは、屋根が球面状に形成され、地中に埋設された杭上に地上より所定の間隔を隔ててコンクリート製の基台3が設けられ、基台3の上に、底部構造5が設けられ、この底板構造5の上に内槽1が着座され荷重支持されており、内槽1の外周部に、これを覆って所定厚さの保冷層を形成すべく外槽2が設けられたものである。内槽1の側板30と基台3との間には極低温タンク100の浮き上がり及び転倒防止のため、多数の金属製アンカーストラップ4が側板30の外周に約1m間隔で設けられている。
【0004】
この種のアンカーストラップとしては、例えば特許文献1に示すものが挙げられる。
【0005】
特許文献1に記載の発明は、9%ニッケル鋼の使用量を減らしてコストを削減できるようにすることを目的とするものであり、低温貯蔵タンクにおける内槽の側板に、9%ニッケル鋼製のプレートを溶接により取り付け、その表面に、デッドアンカーを溶接して取り付けるものであり、デッドアンカーに、PC(Prestressed Concrete)鋼線の上端部を固定し、PC鋼線の下端側を外槽の底板に設けたボルト孔に通し、外槽の底板の下面側に埋設したPCアンカーにPC鋼線の下端部を連結して、アンカーストラップを形成するものである。
【0006】
PC鋼線はJISG3536に規定されたものとし、地震発生時には、内槽の側板に取り付けたデッドアンカーと、外槽の底板に埋設したPCアンカーとを所要のテンションを掛けた状態で繋ぐことで生成されるPC鋼線の引張方向の強度により、内槽の浮き上がりを未然に防止させるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-250291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した特許文献1に記載の技術思想においては、コスト削減や強度については考慮されているものの、基台から極低温タンクへのアンカーストラップを通じて侵入する熱量の低減については考慮されていない。液体水素等の極低温タンクに設置するアンカーストラップは、浮き上がり及び転倒を防止することができる十分な引張軸剛性と侵入する熱量を低減する低熱伝導性との両者を兼ね備えている必要がある。
【0009】
本発明は、上述の従来からの問題点の解決を企図したものであり、極低温タンクの浮き上がり及び転倒を防止するための低熱伝導型のアンカーストラップ構造を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の別の目的は、アンカーストラップ構造より侵入する熱量を低減するための、合理的な繊維強化プラスチックの構造及び金属との接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、基台から極低温タンクへの入熱を抑制する低熱伝導型のアンカーストラップ構造を開発した。すなわち、本発明者らは、金属よりも熱伝導率の低い繊維強化プラスチックをアンカーストラップに使用することで、熱の浸入を低減する構造を採用することに着眼したものである。金属と繊維強化プラスチックとを併用する場合、その接合方法は、ボルト・ナットによる機械的接合、または接着接合、またはフック爪を引っ掛けることにより行われる。
【0012】
アンカーストラップには、極低温タンクの運用時において引張力が作用するが、ボルト・ナットによる機械的接合においては、ボルト及び繊維強化プラスチックのボルト孔周りの面圧を介して力を伝達する。よって、ボルト締結部の繊維強化プラスチックには、面圧荷重に対して有効な斜交積層を付加する必要があるが、単に積層を付加するだけでは、板厚が厚くなって断面積が増加し、入熱が増えることで断熱性能が低下してしまう。そこで、本発明者らは、繊維強化プラスチックの板厚を金属との接合部のみ厚くして、その他の一般部位は必要な引張軸剛性に応じて板厚を薄くする構造とすることで断熱性能の低下を防ぐことを指向し、発生する力に応じて合理的に断面変化を行うこととした。その上で、繊維強化プラスチックの部位を継手部、すりつけ部、及び一般部に分けた。ここで、引張力が作用する繊維強化プラスチックの板厚を変化させるために、繊維を荷重方向に対して傾ける場合は、荷重直角方向の分力の発生による層間相互の剥離を避けるため、緩やかな勾配ですり付ける必要があるとの認識に至った。
【0013】
すりつけ部は、板厚が継手部から離れるにつれて厚さが薄くなる部分であり、その勾配はなだらかであることが必要であるとの認識に至った、例えば航空機の設計では1:100ですりつけられている。
【0014】
ところが、継手部の板厚と一般部との板厚を例えば1:100ですり付ける場合、繊維強化プラスチックの全長に渡ってすり付け部が必要となってしまい、結果的に断面積が増えて断熱性能が低下してしまう。また、繊維強化プラスチックの全長の大部分がすりつけ部になることは、製造に手間がかかり、かつコストアップするデメリットを伴う。
【0015】
そこで、本発明においては、アンカーストラップ構造より侵入する熱量を低減するため、繊維強化プラスチックと金属との接合において独特の構造とするものである。
【0016】
具体的に、本願の第1の態様は、基台構造と立設構造との接続箇所に、金属よりも熱伝導率の低い繊維強化プラスチックを備えたことを特徴とする低熱伝導型アンカーストラップ構造として実現される。
【0017】
「基台構造」とは、ベースとなる構造体をいい、たとえば、低温タンクの床板構造もしくは床板構造上に形成される底部構造、或いはこれらの上に形成される基台を含むものをいう。
【0018】
「立設構造」とは、(略)垂直方向に立設される壁面構造体をいい、たとえば、低温タンクの内槽側板もしくは外槽側板を含むものをいう。
【0019】
本願の第2の態様は、第1の態様において、上記基台構造と上記立設構造との上記接続箇所に金属をさらに備え、上記繊維強化プラスチックと上記金属との接合は、ボルト・ナットによる機械的接合、接着接合、機械的接合と接着接合とが組み合わされた接合、のうち少なくともいずれか一つであることを特徴とする。
【0020】
本願の第3の態様は、第1の態様において、上記基台構造と上記立設構造との上記接続箇所に金属をさらに備え、上記繊維強化プラスチックと上記金属との接合は、上記繊維強化プラスチックを上記金属に引っ掛けることによる接合であることを特徴とする。
【0021】
本願の第4の態様は、第2もしくは第3の態様において、上記繊維強化プラスチックは、上記金属と接合される継手部を備え、上記継手部から板厚が緩やかに変化するすりつけ部及び/若しくは板厚が上記継手部より薄く、その厚さが変化しない一般部を備えていることを特徴とする。
【0022】
本願の第5の態様は、第4の態様において、上記継手部には、ボルトを貫通するための貫通孔が穿設されることを特徴とする。
【0023】
本願の第6の態様は、第5の態様において、上記貫通孔は、上記ボルトと略同径であることを特徴とする。
【0024】
本願の第7の態様は、第4の態様において、上記継手部は、上記金属に引っ掛けられるフック形状を有することを特徴とする。
【0025】
本願の第8の態様は、第7の態様において、上記金属には上記継手部を引っ掛けるための孔及び/もしくは突起物が設けられていることを特徴とする。
【0026】
本願の第9の態様は、第5の態様において、上記継手部における繊維配向は、上記低熱伝導型アンカーストラップ構造の軸方向に等しい繊維方向と、上記繊維強化プラスチックのせん断破壊を防ぐための斜交積層とを有していることを特徴とする。
【0027】
本願の第10の態様は、第9の態様において、上記継手部の上記軸方向に対する上記斜交積層の角度は、略±45°であることを特徴とする。
【0028】
本願の第11の態様は、第4の態様において、上記繊維強化プラスチックの板厚中心線に対して繊維方向が略対称となっていることを特徴とする。
【0029】
本願の第12の態様は、第4~6、9~11の態様のいずれかにおいて、上記繊維強化プラスチックが板厚方向に2枚以上積層されるバンドル構造を有していることを特徴とする。
【0030】
本願の第13の態様は、第5の態様において、上記継手部は、上記金属と上記繊維強化プラスチックとの突き合わせ部に金属からなる継手板が両側から挟み込まれ、上記金属、上記繊維強化プラスチック、上記継手板の各々が上記ボルト・ナット及び/もしくは接着剤にて接合される構造を有することを特徴とする。
【0031】
本願の第14の態様は、第13の態様において所定のトルクで上記ナットが締め付けられることを特徴とする。
【0032】
本願の第15の態様は、第2の態様において、上記継手部は、上記金属と上記繊維強化プラスチックとの突き合わせ部に繊維強化プラスチックからなる継手板が両側から挟み込まれ、その各々が上記ボルト・ナット及び/もしくは接着材にて接合される構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
アンカーストラップ構造に金属よりも熱伝導率の低い繊維強化プラスチックを使用することで基台からタンク内槽に侵入する熱量を軽減することができる。
【0034】
繊維強化プラスチックと金属が多様な方法により接合されることで、適材適所の合理的なアンカースラップ構造の成立が可能となる。
【0035】
バンドル構造とすることで、継手部と一般部との板厚差が小さくなり、緩やかな勾配を確保しつつも、すりつけ部の長さを減じて繊維強化プラスチックの総断面積を減じることが可能となるため、層間相互の剥離を防止し、かつ、侵入する熱量を低減することができる。
【0036】
繊維強化プラスチックを剛性の高い金属性の継手板で挟み込み、ボルトにトルクをかけることで、繊維強化プラスチックの板厚方向に圧縮力が導入される。この効果により、繊維の微視座屈が抑制され、ボルト孔周りの面圧強度を向上させることができる。よって、継手部のバンドル数を減じる設計が可能となり、上記に加えて、侵入熱量の低減が可能となる。
【0037】
繊維強化プラスチックの面圧強度は、繊維強化プラスチックのボルト貫通孔とボルトが同径であるときに最大となる。従って、上記同様に侵入熱量の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】一般的な極低温タンクの正面部分断面図である。
図2A】本発明の一実施形態に係るアンカーストラップ4の正面図である。
図2B図2Aの側面図である。
図3】本発明に係るアンカーストラップ4に用いられる1バンドル構造の積層構成の一例を示す図である。
図4図3に示した積層構成の部分拡散図の一例を示す図である。
図5図3に示した1バンドル構造を複数束ねて接着したアンカーストラップ構造の繊維強化プラスチック部分を示す図である。
図6図5に示した繊維強化プラスチックと金属板との接合部の一例を示す図である。
図7】本発明の他の実施形態に係る、繊維強化プラスチックと金属板との接合部の一例を示す図である。
図8】本発明の別の実施形態に係る、繊維強化プラスチックを金属に開けた孔に引っ掛ける構造を示す図である。
図9】本願のまた別の実施形態に係る、繊維強化プラスチックと金属板との連結部の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して実施の形態について述べる。
【0040】
<アンカーストラップ概要>
図2Aは、本発明の一実施形態に係るアンカーストラップ4の正面図であり、図2B図2Aの側面図である。
【0041】
アンカーストラップ4は、極低温タンク100に接続された第一の金属板11と基台3に接続された第二の金属板12と、第一の金属板11と第二の金属板12との間にそれぞれ第一の接合部13、第二の接合部14を介して接続される繊維強化プラスチック10と、を備えて構成される。
【0042】
具体的には、アンカーストラップ4は、第一の継手部10-1、第二の継手部10-5、第一のすりつけ部10-2、第二のすり付け部10-4、及び一般部10-3、を有する繊維強化プラスチック10と、側板30に一端が取付けられた第一の金属板11と、基台3に埋設された第二の金属板12と、第一の金属板11と第一の継手部10-1とを接続する第一の接合部13と、第二の継手部10-5と第二の金属板12とを接続する第二の接合部14と、を備え、一般部10-3の両端であって第1の接合部13及び第二の接合部14に向かって厚さが厚くなるすりつけ部10-2、10-4を有する。
【0043】
第一の接合部13は、第一の継手部10-1と第一の金属板11の端部との両主面を覆うように挟む第一の継手板13-1、13-2の対と、第一の継手部10-1及び第一の金属板11の端部に形成された複数のボルト孔を貫通するように第一の継手部10-1、第一の金属板11、第一の継手板13-1、13-2の対を締結する手段としてのボルト17a、ワッシャ18a、及びナット19aと、を備えたものである。
【0044】
第二の接合部14は、第二の継手部10-5と第二の金属板12の端部との両主面を覆うように挟む第二の継手板14-1、14-2の対と、第二の継手部14、及び第二の金属板12の端部に形成された複数のボルト孔を貫通するようにして第二の継手部10-5、第二の金属板12、第二の継手板14-1、14-2の対を締結する第二の締結手段としてのボルト17b、ワッシャ18b及びナット19bと、を備えたものである。
【0045】
ハンマーヘッド15は第一の金属板11に固定され、パッドプレート16は極低温タンク100の側板30に固定されており、両者ともにアンカーストラップ4と側板30とを接続するための部材である。
【0046】
一般部10-3、すりつけ部10-2、同10-4、及び第一の継手部10-1、第二の継手部10-5は、好適には繊維強化プラスチックによってなる。第一の金属板11及び第二の金属板12の材質としては、例えばステンレス鋼を採用することができる。
【0047】
<アンカーストラップ4の主要部>
<バンドル構造>
図3は、本発明の一実施形態に係るアンカーストラップ4に用いられる1バンドル構造の積層構成の一例を示す概念的断面図である。尚、図3中ボルト孔は省略してある。
【0048】
1バンドルは、アンカーストラップの軸方向と同一に配向したUD0°層20-1~20-10の一般部10-3を含め、すりつけ部10-2及び継手部10-1を有する両端部(図では右端部)を備えて構成される。継手部10-1においては、UD0°層20-1~20-10に加え、繊維の方向性(角度θ1)が例えば+45°回転した第二の層としてのUD+45°層21-1~21-8と、UD0°層20-1~20-10とは繊維の方向性(角度θ2)が例えば-45°回転した第三の層としてのUD-45°層22-1~22-8とを2枚ずつ重ねて挿入した構造を有する。
【0049】
ここで、UDは、Uni-Directionの略であり、単一方向性を有することを意味する。
【0050】
UD+45°層21-1~21-8と、UD-45°層22-1~22-8とは内側の層から外側の層に向かって長手方向の長さがすりつけ部10-2の傾斜に沿って短くなるように形成されている。このようなバンドル構造を構成することにより、継手部と一般部との板厚差が小さくなることで、緩やかな傾斜を確保しつつすり付け部の長さを短くすることができる。
【0051】
第二の層21-1~21-8及び第三の層22-1~22-8の配置及び総数は、第一の継手部10-1、第二の継手部10-5、第一のすりつけ部10-2及び第二のすりつけ部10-4において、板厚中心線に対して断面形状が線対称となるように設定されている。これにより、製造時に行われる熱プレスによる熱の伝わり方が均等となり、反り変形等が生じにくくなる。これにより、バンドル化の妨げとなる有害な変形の発生を抑えることができる。
【0052】
上記において、±45°層の総厚さは、継手部全厚の40%以上となるように設定するのが好ましい。
【0053】
図4は、図3に示した1バンドルの部分拡散図の一例を示した概念図である。図4の上からUD0°層20-1、UD+45°層21-1、UD-45°層22-1、UD0°層20-2、UD+45°層21-2、UD-45°層22-2、UD0°層20-3、…の順に積層される。UD+45°層21-1、21-2、…、及びUD-45°層22-1、22-2、…の長さは、すりつけ部10-2(図3参照)の勾配に応じて長さが異なっている。
【0054】
UD0°層20-1、20-2、20-3、…、UD+45°層21-1、21-2、…、及びUD-45°層22-1、22-2、…のうちの継手部10-1には、締結手段としてのボルト17a、ワッシャ18a、及びナット19a(図2A参照)用のボルト孔20-1a、21-1a、22-1a、21-2a、22-2a、20-3a、…が(図4では、たとえば2箇所ずつ)形成されており、孔径はボルト径と略同一とする。
【0055】
ここで、長手方向に対する単一方向を示す角度θ1、θ2は、それぞれ+45°、-45°のとき、面圧強度向上の効果が得られる。
【0056】
<バンドル型繊維強化プラスチック>
図5は、図3に示した1バンドルの繊維強化プラスチックを複数枚(同図では10枚である例を示しているが10枚に限定されない)積層した側面図の一例である。尚、図5中、ボルト孔は省略してある。
【0057】
バンドル型繊維強化プラスチック10は、1バンドル25-1、25-2、…、25-10が各々成型された後、接着剤で接着される。尚、1バンドル25-1、25-2、…、25-10は、それぞれ、図3で示した構造もしくは積層数を適時増減された類似構造を備える。このとき、厚さや長さの比については図5図6に示したものに限定されるものではない。
【0058】
<接合部>
図6図5に示したバンドル型繊維強化プラスチック10と第一の金属板11とを接続する第一の接合部13の近傍を示す部分拡大断面図の一例である。
【0059】
バンドル型繊維強化プラスチック10の第一の継手部10-1と第一の金属板11の端部とが突き合う状態で第一の継手板13-1、13-2の対によって第一の継手部10-1と第一の金属板11との両主面を覆うように挟まれた状態で、ボルト17a、ワッシャ18a、及びナット19aによってこれらが締結される。所定のトルクでナット19aを締め付けることで第一の継手板13-1、13-2がバンドル型繊維強化プラスチック10を圧縮する。これにより、継手部10-1及び10-5のボルト孔周りの面圧強度が向上する。よって、トルクをかけたことにより、バンドル数を低減できる設計が可能となり、侵入する熱量を低減させることが可能になる。
【0060】
ボルト17a及びナット19aの締め付けは、好適には、バンドル型繊維強化プラスチックを破壊しない程度のトルクで行われる。第二の接合部14におけるボルト17b、ワッシャ18b、及びナット19bについても同様である。
【0061】
次に、上記のように構成される本願の一実施形態に係るアンカーストラップの作用・動作について説明する。
【0062】
一般に、アンカーストラップには、極低温タンクの運用時において引張力が作用する。ボルト・ナットによる機械的接合においては、ボルトと繊維強化プラスチックのボルト孔周りの面圧を介して力を伝達する。この際、ボルト締結部の繊維強化プラスチックには、面圧荷重に対して有効な斜交積層を付加する必要があるが、単に斜交積層を付加するだけでは、板厚が厚くなって断面積が増加し、入熱が増えることで断熱性能が低下してしまう。
【0063】
本願の一実施形態においては、上記の構成をとることにより、繊維強化プラスチックの板厚を金属との接合部のみ厚くして、その他の一般部位は必要な引張軸剛性に応じて板厚を薄くするアンカーストラップ構造が実現され、このアンカーストラップ構造に金属よりも熱伝導率の低い繊維強化プラスチックを使用したことで、基台からタンク内槽に侵入する熱量を軽減することができる。
【0064】
上記のアンカーストラップ構造においては、繊維強化プラスチックと金属とが多様な方法により接合されることで、発生する力に応じて合理的に断面変化を行うアンカースラップ構造が提供される。
【0065】
また、上記のバンドル構造とすることで、継手部と一般部との板厚差が小さくなり、緩やかな勾配を確保しつつも、すりつけ部の長さを減じて繊維強化プラスチックの総断面積を減じることが可能となるため、層間相互の剥離を防止し、かつ、侵入する熱量を低減することができる。
【0066】
さらに上記のアンカーストラップ構造においては、繊維強化プラスチックを金属板で挟み込み、ボルトにトルクをかけることで、繊維の微視座屈を抑制し、ボルト孔周りの面圧強度を向上させることができる。よって、継手部のバンドル数を減じる設計が可能となり、上記に加えて、侵入熱量の低減が可能となる。
【0067】
繊維強化プラスチックの面圧強度は、繊維強化プラスチックのボルト貫通孔とボルトが同径であるときに最大となることに鑑みれば、上記のアンカーストラップ構造をとることで侵入熱量の低減が可能となる。
【0068】
さらに、上述したように、本願の一実施形態においては、繊維強化プラスチックの部位を継手部、すりつけ部、及び一般部に分けた上で、引張力が作用する繊維強化プラスチックの板厚を変化させた。繊維を荷重方向に対して傾斜させ、荷重直角方向の分力の発生による層間相互の剥離を避けるための緩やかな勾配でのすり付け構造として、上述した構成をとったために、繊維強化プラスチックの全長に渡ってすり付け部を設ける必要をなくし、結果として、断面積が増えて断熱性能が低下してしまうことを防止し、繊維強化プラスチックの全長の大部分がすりつけ部になることによる製造手間を低減でき、コストダウンを実現することができる。
【0069】
総じて、本願の一実施形態によれば、アンカーストラップ構造より侵入する熱量を低減するための合理的な繊維強化プラスチックの構造が提供されることになる。
【0070】
次に、本願の他の実施形態について説明する。なお、以下においては、上述した実施形態と同様の箇所は当該実施形態における説明をもって換え、説明を省略する。
【0071】
図7は、本願の他の実施形態に係る、繊維強化プラスチックと金属板との接合部の他の一例を示す図である。
【0072】
<接合部2>
図6に示した接合部13と図7に示した接合部13’との相違点は、バンドル型繊維強化プラスチック10の第一の継手板10-1’と第一の継手板13-1’、13-2’の対とが接着剤200により接着接合されている点である。
【0073】
すなわち、バンドル型繊維強化プラスチック10の第一の継手部10-1’と第一の金属板11の端部とが突き合わされた状態で第一の継手板13-1’、13-2’の対で第一の継手部10-1’と第一の金属板11の端部との両主面を覆うように挟まれる際に、第一の継手部10-1’と第一の継手板13-1’、13-2’の対とが接触する面の少なくとも一方に接着剤200が塗布され(同図では接触する両方の面に接着剤200が塗布される態様が示されている)、ボルト17a、ワッシャ18a、及びナット19aによって、第一の金属板11と第一の継手板13-1’、13-2’の対とが締結される。このような構造においても、図6に示した接合部と同様の効果が得られる。
【0074】
図8は、本願の別の実施形態に係る、繊維強化プラスチックと金属板との連結部の一例を示す図である。
【0075】
<連結部1>
図6に示した接合部13と図8に示した連結部300,301との相違点は、繊維強化プラスチック10’の湾曲した両端部10b’、10c’が金属11’、12’の端部に形成された貫通孔11a’、12a’に連結されている点である。
【0076】
図8に示されるように、本実施形態においては、バンドル型繊維強化プラスチック10’の一般部10a’の両突端に形成される両端部10b’、10c’に、金属板11’、12’にそれぞれに形成された貫通孔11a’、12a’に引っ掛けられるフック形状を有している。この形状を有することにより、バンドル型繊維強化プラスチック10’の両端部10b’、10c’が金側板11’、12’の端部に形成された貫通孔11a’、12a’を貫通することで連結される状態が保持される。このような構造においても、図6に示した接合部と同様の効果が得られる。なお、上記では、両端部10b’、10c’の形状についてフック形状を例として説明したが、当該形状としては、フック形状に限定される必要はなく、貫通孔11a’、12a’に引っ掛かることで連結され、この連結状態を保持できるものであれば、カギ型、L字型等いかなる形状であってもよい。
【0077】
図9は、本願のまた別の実施形態に係る、繊維強化プラスチックと金属板との連結部の他の一例を示す図である。
【0078】
<連結部2>
図9に示した連結部300’、301’の図8に示した連結部300、301との相違点は、金属板11’、12’の端部に形成された突起部110、120にそれぞれ、繊維強化プラスチック10’の両端部10b”、10c”が引っ掛けられている構成を有している点である。
【0079】
図9に示されるように、本実施形態においては、バンドル型繊維強化プラスチック10’の両端部10b”、10c”は、金属板11’、12’の端部に形成された突起部110、120にそれぞれ、引っ掛けられるフック形状を有している。この形状を有することにより、バンドル型繊維強化プラスチック10’の両端部10b”、10c”が金側板11’、12’の端部に形成された突起部110、120に引っ掛かることで両者が連結される状態が保持される。したがって、このような構造においても、図6に示した接合部と同様の効果が得られる。なお、上記では、両端部10b”、10c”の形状についてフック形状を例として説明したが、当該形状としては、フック形状に限定される必要はなく、突起部110、120に引っ掛かることで連結され、この連結状態を保持できるものであれば、カギ型、L字型等いかなる形状であってもよい。
【0080】
尚、上述した実施の形態は、本発明の好適な実施の形態の一例を示すものであり、本発明はそれに限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、種々変形実施することが可能である。たとえば、継手部の繊維方向は0°と±45°に限定されず90°層を入れてもよい。また、UD材の使用のみに限定されず、クロス材の積層も可能である。また、金属板の板厚とバンドル型アンカーストラップ10の板厚は同一とする必要は必ずしも無い。また、角度は0°,±45°,90°などとしたものは各々、略0°,略±45°,略90°であってもよい(その他の角度についても同様)。
【0081】
また、たとえば、上記の説明では、すりつけ部や一般部を設ける構造を例示したが、侵入熱が許容できる範囲であれば、これらすりつけ部や一般部なしに継手部の積層構造のみを有する構造としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る構造は、工業的に製造することができ、また商取引の対象とすることができるため、経済的価値を有しており、エネルギー産業、建設業をはじめ、各種産業において利用することができる発明である。例えば、二重殻式の極低温タンクにおける内槽の吊り材等の引張材に使用することが可能と考えられる。荷重に応じた適切なバンドル数を選定することにより、鋼材に比べて侵入熱量を低減することが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 ・・・内槽
2 ・・・外槽
3 ・・・基台
4 ・・・アンカーストラップ
5 ・・・底部構造
10、10’、10” ・・・バンドル型繊維強化プラスチック(樹脂板)
10-1 ・・・第一の継手部
10-2 ・・・第一のすり付け部
10-3 ・・・一般部
10-4 ・・・第二のすり付け部
10-5 ・・・第二の継手部
10-2、10-4 ・・・すりつけ部
10-3、10a’ ・・・一般部
11、11’ ・・・第一の金属板
12、12’ ・・・第二の金属板
13、13’ ・・・第一の接合部
14 ・・・第二の接合部
13-1、13-2 ・・・第一の継手板
14-1、14-2 ・・・第二の継手板
17a、17b ・・・ボルト
18a、18b ・・・ワッシャ
19a、19b ・・・ナット
20-1~20-10 ・・・UD0°層(第一の樹脂層)
21-1~21-8 ・・・UD+45°層(第二の樹脂層)
22-1~22-8 ・・・UD-45°層(第三の樹脂層)
25 ・・・積層板
30 ・・・側板
100 ・・・極低温タンク
200 ・・・接着剤
300,300’、301,301’ ・・・連結部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9