(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】がんを治療するための癌胎児性抗原関連細胞接着分子6を標的とするCAR免疫細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20221118BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221118BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20221118BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20221118BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221118BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221118BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221118BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221118BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221118BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221118BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221118BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20221118BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C07K19/00
C07K14/725
C07K16/30
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/63 Z
A61P35/00
A61K48/00
A61K45/00
A61K35/12
A61K39/395 T
(21)【出願番号】P 2019502217
(86)(22)【出願日】2017-07-17
(86)【国際出願番号】 CA2017050860
(87)【国際公開番号】W WO2018014122
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-07-17
(32)【優先日】2016-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506175792
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チャオ,へマン ラプマン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,ワー ヤウ
(72)【発明者】
【氏名】ティアン,バオミン
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナン,ラクシュミ
(72)【発明者】
【氏名】タンハ,ジャムシッド
(72)【発明者】
【氏名】ウジャー,マーニ ダイアン
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/040824(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/095895(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/069922(WO,A2)
【文献】特表2016-520074(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0071414(US,A1)
【文献】Anticancer Research,2010年,vol.30, p.2731-2738
【文献】Gene Therapy,2011年,vol.18, p.849-856
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の配列からなる、または以下の配列を含む、キメラ抗原受容体(CAR):
MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIPASQVKLEESGGGLVQAGGSLRLSCRTSGRTNSVYTMGWFRQAPGKEREFVAQIMWGAGTNTHYADSVKGRFTISRDSAESTVYLQMNSLKPEDTAVYYCAANRGIPIAGRQYDYWGQGTQVTVSSLEIEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号5)。
【請求項2】
ヒト化されている、請求項1に記載のCAR。
【請求項3】
請求項1または2に記載のCARを含む免疫細胞であって、
T細胞またはサイトカイン誘導キラー(CIK)細胞である、免疫細胞。
【請求項4】
少なくとも第2のCARをさらに含む、請求項3に記載の免疫細胞。
【請求項5】
ハイパーアクティブであってもよいトランスポゾン/トランスポゼースシステムをさらに含む、請求項3または4に記載の免疫細胞。
【請求項6】
前記トランスポゾン/トランスポゼースシステムは、Sleeping Beautyトランスポゾン/トランスポゼースシステムである、請求項5に記載の免疫細胞。
【請求項7】
前記トランスポゾン/トランスポゼースシステムは、SB100Xトランスポゾン/トランスポゼースシステムである、請求項5または6に記載の免疫細胞。
【請求項8】
自殺遺伝子をさらに含む、請求項3~7のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項9】
薬学的キャリア、希釈剤および/または賦形剤を含む組成物の形に処方されている、請求項3~8のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項10】
請求項1または2のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項12】
請求項3~9のいずれか1項に記載の免疫細胞を含む薬学的組成物。
【請求項13】
哺乳動物におけるがんを治療または予防するための薬学的組成物であって、
請求項3~9のいずれか1項に記載の免疫細胞を含む薬学的組成物。
【請求項14】
前記がんは、CEACAM6を発現しているがんである、請求項13に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記がんは、膵臓がん、乳がん、結腸直腸がん、肺がん、胃がん、肝細胞がん、卵巣がんまたは膀胱がんである、請求項13または14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
化学療法剤を同時に投与される、請求項13~15のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
化学療法剤をさらに含む、請求項13~15のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
哺乳動物におけるがんを治療または予防するための薬剤であって、請求項3~9のいずれか1項に記載の免疫細胞を有効成分として含有する薬剤。
【請求項19】
前記がんは、CEACAM6を発現しているがんである、請求項18に記載の薬剤。
【請求項20】
前記がんは、膵臓がん、乳がん、結腸直腸がん、肺がん、胃がん、肝細胞がん、卵巣がんまたは膀胱がんである、請求項19に記載の薬剤。
【請求項21】
化学療法剤を同時に投与される、請求項18~20のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項22】
化学療法剤をさらに含む、請求項18~20のいずれか1項に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん免疫療法に関し、特に、ヒトのがんを治療するための組成物および方法に関する。本発明には、人為的に操作されたCAR(キメラ受容体抗原)と、がん関連抗原に対する親和性が高い、そのようなCARを発現する遺伝子改変免疫細胞とを含む。より具体的には、これらの細胞は固形腫瘍抗原を認識するCAR-T細胞であり、それらの使用、それらの組成物、作製方法である。また、本発明は、CEACAM6依存性がんを治療するための治療法も含む。
【背景技術】
【0002】
養子細胞移植(ACT)は、患者に対する細胞の移植であり、特に、自己の腫瘍細胞を認識して攻撃するように患者自身の免疫細胞を人為的に操作することに関する。いくつかの手法では、被検体からT細胞を採取して遺伝子操作し、キメラ抗原受容体(CAR)と呼ばれる特別な受容体を細胞表面に産生させる。T細胞は、この受容体によって腫瘍細胞の特定のタンパク質(抗原)を認識することができる。これらの人為的に操作されたCAR-T細胞の数を研究所で増やして患者に戻すと、細胞は患者の体内で腫瘍抗原を検出してすばやく活性化し、細胞傷害活性をトリガーし、腫瘍微小環境内でサイトカインを放出してさらに増殖する。そのことが、表面に抗原のあるがん細胞を殺すことにつながる。
【0003】
今日までの研究では、非固形腫瘍抗原を同定してACT療法の開発に使用することに焦点が当てられてきた。ほぼすべてのB細胞、すなわち正常細胞とがん細胞のどちらの表面にもCD19抗原が存在し、リンパ腫の治療に適した標的となっている。しかしながら、大多数の固形がんで腫瘍特異的抗原はいまだ十分には特定されておらず、抗原標的の選択が困難になっている。
【0004】
グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型細胞表面糖タンパク質をメンバーとするCEACAMファミリーのタンパク質のメンバーに、グリコシルホスホイノシトール(GPI)結合細胞表面タンパク質である癌胎児性抗原関連細胞接着分子6(CEACAM6)がある。CEACAM6は、乳がん、膵臓がん、卵巣がん、肺がん、肝細胞がん、結腸がんなどの多くの固形腫瘍において、発現が亢進する(Blumenthal et al, 2007, BMC Cancer 2007; 7:2.7)。さらに、膵臓がん組織でCEACAM6が過剰発現することで、膵臓がん細胞の浸潤、転移、血管新生が促され、CEACAM6を膵臓がん治療の標的にしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CAR細胞療法を利用する養子細胞移植は、外科手術、化学療法、放射線療法に代わる魅力的な手法であるようにみえるが、治療は小規模の臨床試験に限られ、臨床への応用に関しても問題がある。たとえば、in vivoでCAR-T細胞の数を増やすには限度があったり、注入後のCAR-T細胞の消失、サイトカイン放出症候群などの副作用があったりする場合がある。最も注目すべきこととして、標的となるがん抗原に対する親和性が大幅に異なるがゆえに、臨床活性が異なる場合がある。さらに、CAR-T細胞が健常細胞と腫瘍細胞を同様に無差別に攻撃し、結果として「on-target off-tumor毒性」が生じる可能性がある。on-target, off-tumorの反応性によって重要な組織が破壊または損傷されるかサイトカインが大量に分泌されると、そのCAR-T細胞療法による副作用が許容範囲をこえる可能性がある。したがって、臨床的な有効性が実証され、なおかつ起こり得る副作用が許容されるのであれば、標的となるがん抗原に対して高い親和性を持ち、そのような抗原を発現する特定のがんを効果的に治療するCARおよびCAR細胞を開発すると有利であろう。
【0006】
従来技術においては、組成物、そのような組成物の製造方法、特定かつ所望の有効な臨床活性を有する、CEACAM6腫瘍抗原を認識するCARを用いて固形腫瘍を治療する方法に差し迫った需要がある。本発明では、この需要に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、固形腫瘍抗原を標的とするように人為的に操作されたCARを提供する。本明細書に記載のCARは、固形腫瘍抗原に対して高い親和性を有する。複数の態様において、本明細書に記載のCARは、CEACAM6依存性がんに対して高い親和性を有する。本明細書に記載のCARの独特の特異性は、人為的に操作されたCARのscFvの代わりにsdAb(シングルドメイン抗体)を使用することに由来する。この抗体は小さいため、親和性が高くなる。また、そのような抗体はリフォールディングしやすく、生物物理学的な安定性がある。さらに、従来の抗体では対処できないエピトープを認識することができ、人為的に操作することも可能である。
【0008】
本明細書に記載の複数の態様において、sdAbは固形腫瘍抗原に特異的なラクダシングルドメイン抗体である。複数の態様において、sdAbは、CEACAM6腫瘍抗原ならびにその断片またはバリアントに特異的である。
【0009】
複数の態様において、本明細書に記載のCARを発現する免疫細胞が提供される。この免疫細胞は、典型的にはT細胞またはCIK細胞である。
【0010】
本明細書に記載の複数の態様において、CEACAM6に特異的なCAR-Tを作製するための方法が提供される。複数の態様において、本方法は、ウイルスによっても、ウイルスによらなくてもよい。より具体的には、複数の態様における方法はトランスポゾンを含む、ウイルスによらない方法である。
【0011】
本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離された核酸配列であって、CARが、CEACAM6ならびにそのバリアント、断片およびその特定のエピトープに結合する抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、1つまたは複数の共刺激シグナル伝達領域と、CD3ζシグナル伝達ドメインとを含む、単離された核酸配列を提供する。一態様では、CARをコードする核酸配列は、配列番号5の核酸配列を含む。
【0012】
一態様では、CARの抗原結合ドメインは、抗体またはその抗原結合断片である。典型的には、抗原結合断片は、シングルドメイン抗体またはその断片である。
【0013】
一態様では、CARの抗原結合ドメインは、腫瘍抗原に結合する。一態様において、腫瘍抗原は固形腫瘍に存在する。さらに別の態様では、腫瘍抗原は、CEACAM6、その断片、そのバリアントおよびそのエピトープからなる群から選択される。
【0014】
一態様では、CARの共刺激シグナル伝達領域は、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、それらの任意の組み合わせからなる群から選択される共刺激分子の細胞内ドメインを含む。
【0015】
また、本発明は、抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、共刺激シグナル伝達領域と、CD3ζシグナル伝達ドメインと、を含む単離されたCARを提供する。
【0016】
また、本発明は、CARをコードする核酸配列を含む細胞であって、CARが、抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、共刺激シグナル伝達領域と、CD3ζシグナル伝達ドメインと、を含む細胞を提供する。
【0017】
一態様では、CARを含む免疫細胞は、T細胞と、ナチュラルキラー(NK)細胞と、CIK細胞と、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)と、調節性T細胞と、からなる群から選択される。
【0018】
また、本発明は、CARをコードする核酸配列を含むベクターであって、CARが、抗原結合ドメインと、共刺激シグナル伝達領域と、CD3ζシグナル伝達ドメインと、を含むベクターを提供する。
【0019】
また、本発明は、哺乳動物における標的組織に対するT細胞媒介性免疫応答を刺激するための方法を提供する。一態様において、本方法は、CARを発現するように遺伝子改変された有効量の細胞を哺乳動物に投与することを含み、CARが、抗原結合ドメインと、共刺激シグナル伝達領域と、CD3ζシグナル伝達ドメインと、を含み、抗原結合ドメインは、標的細胞集団または組織を特異的に認識するように選択される。
【0020】
また、本発明は、CEACAM6抗原の発現亢進に関連する疾患、障害または状態のある哺乳動物を治療する方法を含む。一態様において、本方法は、CARを発現するように遺伝子改変された有効量の細胞を哺乳動物に投与することを含み、CARが、CEACAM6に特異的な抗原結合ドメインと、共刺激シグナル伝達領域と、CD3ζシグナル伝達ドメインと、を含み、それによって哺乳動物を治療する。
【0021】
一態様では、細胞は自己T細胞である。
【0022】
他の態様では、細胞は同種T細胞である。
【0023】
一態様では、腫瘍抗原は、CEACAM6、そのバリアント、その断片、それらの任意の組み合わせである。
【0024】
また、本発明は、がんであると診断されたヒトにおいて遺伝子操作されたT細胞の長時間生存する集団を作製する方法を含む。一態様において、本方法は、CARを発現するように遺伝子操作されたT細胞をヒトに投与することを含み、CARは、抗原結合ドメインと、共刺激シグナル伝達領域と、CD3ζシグナル伝達ドメインと、を含み、遺伝子操作されたT細胞の長時間生存する集団は、投与後少なくとも1ヶ月間、ヒトの体内で生存する。
【0025】
一態様において、遺伝子操作されたT細胞の長時間生存する集団は、ヒトに投与されたT細胞と、ヒトに投与されたT細胞の子孫と、それらの組み合わせと、からなる群から選択される少なくとも1つの細胞を含む。
【0026】
一態様において、遺伝子操作されたT細胞の長時間生存する集団は、メモリーT細胞を含む。
【0027】
一態様において、遺伝子操作されたT細胞の長時間生存する集団は、投与後少なくとも3ヶ月間、ヒトの体内で生存する。別の態様では、遺伝子操作されたT細胞の長時間生存する集団は、投与後少なくとも4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、12ヶ月間、2年間または3年間、ヒトの体内で生存する。
【0028】
また、本発明は、がんと診断されたヒトで遺伝子操作されたT細胞の集団の細胞数を増やす方法を提供する。一態様において、本方法は、CEACAM6に特異的な抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、CD3ζシグナル伝達ドメインを含むCARを発現するように遺伝子操作されたT細胞をヒトに投与することを含み、投与後の遺伝子操作されたT細胞は、ヒトにおいて子孫T細胞の集団を産生する。
【0029】
一態様において、ヒトにおける子孫T細胞は、メモリーT細胞を含む。
【0030】
一態様において、T細胞は、自己T細胞または同種T細胞である。
【0031】
別の複数の態様において、免疫細胞は、自己CIK細胞であっても同種CIK細胞であってもよいCIK細胞である。
【0032】
別の態様において、ヒトは、少なくとも1種の化学療法剤に対して耐性がある。
【0033】
一態様において、がんは、CEACAM6及びそのバリアントまたはエピトープを発現するがんであれば、いかなるがんでもよい。そのようながんは、膵臓、乳房、結腸直腸、肺、胃、卵巣および膀胱を含むが、これらに限定されるものではない。
【0034】
一態様において、子孫T細胞の集団は、投与後少なくとも3ヶ月間、ヒトの体内で生存する。別の態様では、子孫T細胞の集団は、投与後少なくとも4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、12ヶ月間、2年間または3年間、ヒトの体内で生存する。
【0035】
本発明の複数の態様は、CEACAM6、そのエピトープもしくは断片、またはそのバリアントに結合する、キメラ抗原受容体(CAR)である。
【0036】
複数の態様において、CARは、CEACAM6に結合するためのシングルドメイン抗体またはその断片を含む。
【0037】
複数の態様において、シングルドメイン抗体またはその断片は、Camelidaeの種のものである。
【0038】
複数の態様において、CARは、以下の配列を含むか以下の配列からなるCEACAM6のエピトープに結合する。
【0039】
NRIGYSWYKG(配列番号6)
複数の態様において、CARは、CEACAM6に結合するための、配列GRTNSVYTMG(配列番号1)を含む相補性決定領域(CDR)1と、配列IMWGAGTNTHYADSVKG(配列番号2)を含むCDR2と、配列AANRGIPIAGRQYDY(配列番号3)を含むCDR3と、を含む。
【0040】
複数の態様において、CARは、以下の配列または以下の配列と少なくとも90%一致する配列を含む。
【0041】
QVKLEESGGGLVQAGGSLRLSCRTSGRTNSVYTMGWFRQAPGKEREFVAQIMWGAGTNTHYADSVKGRFTISRDSAESTVYLQMNSLKPEDTAVYYCAANRGIPIAGRQYDYWGQGTQVTVSS(配列番号4)
複数の態様において、CARは、スペーサー分子と、膜貫通領域と、ヒトCD8αタンパク質、ヒトCD28タンパク質、ヒトCD3ζタンパク質、ヒトFcRyタンパク質、CD27タンパク質、OX40タンパク質、ヒト4-IBBタンパク質、上記のいずれかの修飾型、上記の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の細胞シグナル伝達ドメインと、を含む。
【0042】
複数の態様において、CARは、以下の配列を含むか以下の配列からなる。
【0043】
(配列番号5)
複数の態様は、本明細書で説明するようなCARを含む免疫細胞である。この細胞は、T細胞またはサイトカイン誘導キラー(CIK)細胞であってもよい。複数の態様において、免疫細胞は、少なくとも第2のCARをさらに含んでもよい。
【0044】
複数の態様において、免疫細胞は、ハイパーアクティブであってもよいトランスポゾン/トランスポゼースシステムを含む。複数の態様において、トランスポゾン/トランスポゼースシステムは、Sleeping Beautyトランスポゾン/トランスポゼースシステムである。さらに別の複数の態様では、トランスポゾン/トランスポゼースシステムは、SB100Xトランスポゾン/トランスポゼースシステムである。
【0045】
さらに別の複数の態様では、CAR免疫細胞は、自殺遺伝子をさらに含んでもよい。
【0046】
さらに別の複数の態様では、CAR免疫細胞は、薬学的キャリア、希釈剤および/または賦形剤を含む組成物として提供される。この組成物は、冷蔵、冷凍または解凍されていてもよい。
【0047】
本発明の複数の態様は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子であって、CARは、CEACAM6結合部分と免疫細胞活性化部分とを含み、CEACAM6結合部分は、CEACAM6またはそのバリアントまたは断片と結合する。
【0048】
複数の態様において、CEACAM6結合部分は、CEACAM6またはそのバリアントまたは断片を標的とするモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を含む。複数の態様において、CEACAM6結合部分は、モノクローナル抗体の可変領域を含む。
【0049】
複数の態様において、免疫細胞活性化部分は、ヒトCD8αタンパク質、ヒトCD28タンパク質、ヒトCD3ζタンパク質、ヒトFcRyタンパク質、CD27タンパク質、OX40タンパク質、ヒト4-IBBタンパク質、それらのバリアントまたは断片のうちの任意の1つ以上のT細胞シグナル伝達ドメインを含む。
【0050】
複数の態様において、本発明の核酸分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5のうちの少なくとも1つの核酸配列を含むおよび/または配列番号6の配列に結合する。
【0051】
複数の態様は、キメラ抗原受容体(CAR)のポリペプチド鎖の一方または両方をコードする塩基配列を含む核酸分子であって、CARは、N末端からC末端の方向で、
i)CEACAM6に特異的な抗原結合シングルドメイン抗体と、
ii)膜貫通ドメインと、
iii)4-1BBポリペプチドおよび/またはOX-40ポリペプチドである共刺激ポリペプチドと、
iv)細胞内シグナル伝達ドメインと、を含む。
【0052】
複数の態様において、第1のポリペプチドは、シングルドメイン抗体と膜貫通ドメインとの間に介在するヒンジ領域を含む。
【0053】
複数の態様において、ヒンジ領域は、免疫グロブリンIgGヒンジ領域またはCD8由来のヒンジである。
【0054】
複数の態様において、細胞内シグナル伝達ドメインは、免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む。
【0055】
複数の態様において、ITAMを含む細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζおよびZAP70から選択される。
【0056】
複数の態様において、塩基配列は、T細胞特異的プロモーターに、発現調節できるように結合されている。
【0057】
複数の態様において、塩基配列は、NK細胞特異的プロモーターに、発現調節できるように結合されている。
【0058】
本発明の複数の態様は、本明細書で開示するような核酸配列によってコードされるキメラ抗原受容体(CAR)であり、複数の態様において、CARは、CEACAM6に特異的である。
【0059】
複数の態様において、本発明のCARは、配列番号1、配列番号1、配列番号3、配列番号4または配列番号5のアミノ酸配列を含む。
【0060】
複数の態様は、本明細書で説明するような核酸分子を含むベクターである。
【0061】
複数の態様は、本明細書で説明するような核酸分子またはCARを発現する宿主細胞であり、複数の態様において、宿主細胞は免疫細胞である。
【0062】
複数の態様において、宿主細胞は、T細胞およびサイトカイン誘導キラーCIK細胞からなる群から選択され、複数の態様において、少なくとも第2のCARをさらに含んでもよい。
【0063】
複数の態様において、宿主細胞は、ハイパーアクティブであってもよいトランスポゾン/トランスポゼースシステムをさらに含んでもよく、複数の態様において、トランスポゾン/トランスポゼースシステムは、Sleeping Beautyトランスポゾン/トランスポゼースシステムである。さらに別の複数の態様では、トランスポゾン/トランスポゼースシステムは、SB100Xトランスポゾン/トランスポゼースシステムである。
【0064】
複数の態様において、宿主細胞は、自殺遺伝子をさらに含んでもよい。
【0065】
複数の態様は、明細書で説明するような宿主細胞を少なくとも1つ含む細胞集団である。
【0066】
複数の態様は、本明細書で説明するような免疫細胞または宿主細胞を含む薬学的組成物である。
【0067】
複数の態様は、哺乳動物におけるCEACAM6発現がんを治療または予防する方法であって、本明細書で説明するような免疫細胞または宿主細胞を、哺乳動物におけるがんを治療または予防するのに有効な量で、哺乳動物に投与することを含む方法である。複数の態様において、腫瘍は固形腫瘍である。複数の態様において、がんは、膵臓がん、乳がん、結腸直腸がん、肺がん、胃がん、肝細胞がん、卵巣がんまたは膀胱がんである。
【0068】
複数の態様は、被検体におけるCEACAM6発現腫瘍の増殖を減少させるか大きさを小さくするための方法であって、CEACAM6抗原に特異的なCAR-Tを含む組成物を投与することを含む、方法である。
【0069】
1.CEACAM6、そのエピトープもしくは断片、またはそのバリアントに結合する、キメラ抗原受容体(CAR)。
【0070】
2.CEACAM6に結合するためのシングルドメイン抗体またはその断片を含む、請求項1に記載のCAR。
【0071】
3.前記シングルドメイン抗体またはその断片は、Camelidaeの種のものである、請求項2に記載のCAR。
【0072】
4.以下の配列を含むか以下の配列からなるCEACAM6のエピトープに結合する、請求項1~3のいずれか1項に記載のCAR。
【0073】
NRIGYSWYKG(配列番号6)
5.CDR1、CDR2、CDR3から選択される、CEACAM6に結合するための相補性決定領域(CDR)を少なくとも1つ含む前記CARであって、CDR1は、配列GRTNSVYTMG(配列番号1)を含み、CDR2は、配列IMWGAGTNTHYADSVKG(配列番号2)を含み、CDR3は、配列AANRGIPIAGRQYDY(配列番号3)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のCAR。
【0074】
6.以下の配列またはこれと少なくとも90%一致する配列を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のCAR。
【0075】
QVKLEESGGGLVQAGGSLRLSCRTSGRTNSVYTMGWFRQAPGKEREFVAQIMWGAGTNTHYADSVKGRFTISRDSAESTVYLQMNSLKPEDTAVYYCAANRGIPIAGRQYDYWGQGTQVTVSS(配列番号4)
7.スペーサー分子と、膜貫通領域と、ヒトCD8αタンパク質、ヒトCD28タンパク質、ヒトCD3ζタンパク質、ヒトFcRyタンパク質、CD27タンパク質、OX40タンパク質、ヒト4-IBBタンパク質、上記のいずれかの修飾型、上記の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の細胞シグナル伝達ドメインと、を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のCAR。
【0076】
8.以下の配列を含むか以下の配列からなる請求項1~7のいずれか1項に記載のCAR。
【0077】
(配列番号5)
9.ヒト化されている、請求項1~8のいずれか1項に記載のCAR。
【0078】
10.請求項1~9のいずれか1項に記載のCARを含む免疫細胞。
【0079】
11.T細胞またはサイトカイン誘導キラー(CIK)細胞である、請求項10に記載の免疫細胞。
【0080】
12.少なくとも第2のCARをさらに含む、請求項10または11に記載の免疫細胞。
【0081】
13.ハイパーアクティブであってもよいトランスポゾン/トランスポゼースシステムをさらに含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【0082】
14.前記トランスポゾン/トランスポゼースシステムは、Sleeping Beautyトランスポゾン/トランスポゼースシステムである、請求項13のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【0083】
15.前記トランスポゾン/トランスポゼースシステムは、SB100Xトランスポゾン/トランスポゼースシステムである、請求項13または14に記載の免疫細胞。
【0084】
16.自殺遺伝子をさらに含む、請求項10~15のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【0085】
17.薬学的キャリア、希釈剤および/または賦形剤を含む組成物の形に調製されている、請求項10~16のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【0086】
18.キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子であって、前記CARは、CEACAM6結合部分と免疫細胞活性化部分とを含み、前記CEACAM6結合部分は、CEACAM6またはそのバリアントまたは断片と結合する、核酸分子。
【0087】
19.前記CEACAM6結合部分は、CEACAM6またはそのバリアントまたは断片を標的とするモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を含む、請求項18に記載の核酸分子。
【0088】
20.前記CEACAM6結合部分は、前記モノクローナル抗体の可変領域を含む、請求項19に記載の核酸分子。
【0089】
21.前記免疫細胞活性化部分は、ヒトCD8αタンパク質、ヒトCD28タンパク質、ヒトCD3ζタンパク質、ヒトFcRyタンパク質、CD27タンパク質、OX40タンパク質、ヒト4-IBBタンパク質、それらのバリアントまたは断片のうちの任意の1つ以上のT細胞シグナル伝達ドメインを含む、請求項18~20のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0090】
22.配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5のうちの少なくとも1つの核酸配列を含むおよび/または配列番号6の配列に結合する、請求項18~21のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0091】
23.キメラ抗原受容体(CAR)のポリペプチド鎖の一方または両方をコードする塩基配列を含む核酸分子であって、前記CARは、N末端からC末端への方向で、
i)CEACAM6に特異的な抗原結合シングルドメイン抗体と、
ii)膜貫通ドメインと、
iii)4-1BBポリペプチドおよび/またはOX-40ポリペプチドである共刺激ポリペプチドと、
iv)細胞内シグナル伝達ドメインと、を含む、核酸分子。
【0092】
24.前記第1のポリペプチドは、前記シングルドメイン抗体と前記膜貫通ドメインとの間に介在するヒンジ領域を含む、請求項23に記載の核酸分子。
【0093】
25.前記ヒンジ領域は、免疫グロブリンIgGヒンジ領域またはCD8由来のヒンジである、請求項24に記載の核酸分子。
【0094】
26.前記細胞内シグナル伝達ドメインは、免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む、請求項23~26のいずれか1項に記載の核酸。
【0095】
27.ITAMを含む前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζおよびZAP70から選択される、請求項26に記載の核酸分子。
【0096】
28.前記塩基配列は、T細胞特異的プロモーターに、発現調節できるように結合されている、請求項23~27のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0097】
29.前記塩基配列は、NK細胞特異的プロモーターに、発現調節できるように結合されている、請求項23~28のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0098】
30.請求項20~29のいずれか1項に記載の核酸配列によってコードされるキメラ抗原受容体(CAR)。
【0099】
31.配列番号1、配列番号1、配列番号3、配列番号4または配列番号5のアミノ酸配列を含む、請求項30に記載のCAR。
【0100】
32.請求項20~29のいずれか1項に記載の核酸分子を含むベクター。
【0101】
33.請求項20~29のいずれか1項に記載の核酸分子または請求項30または31に記載のCARを発現する、宿主細胞。
【0102】
34.免疫細胞である、請求項33に記載の宿主細胞。
【0103】
35.T細胞およびサイトカイン誘導キラーCIK細胞からなる群から選択される、請求項34に記載の宿主細胞。
【0104】
36.少なくとも第2のCARをさらに含む、請求項33~35のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【0105】
37.ハイパーアクティブであってもよいトランスポゾン/トランスポゼースシステムをさらに含む、請求項33~36のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【0106】
38.前記トランスポゾン/トランスポゼースシステムは、Sleeping Beautyトランスポゾン/トランスポゼースシステムである、請求項37に記載の宿主細胞。
【0107】
39.前記トランスポゾン/トランスポゼースシステムは、SB100Xトランスポゾン/トランスポゼースシステムである、請求項37または38に記載の宿主細胞。
【0108】
40.自殺遺伝子をさらに含む、請求項33~39のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【0109】
41.請求項33~40のいずれか1項に記載の宿主細胞を少なくとも1つ含む、細胞集団。
【0110】
42.請求項10~17のいずれか1項に記載の免疫細胞または請求項33~38のいずれか1項に記載の宿主細胞を含む薬学的組成物。
【0111】
43.請求項10~17のいずれか1項に記載の免疫細胞または請求項33~40のいずれか1項に記載の宿主細胞を、哺乳動物におけるがんを治療または予防するのに有効な量で、前記哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物におけるがんを治療または予防する方法。
【0112】
44.前記がんは、CEACAM6を発現しているがんである、請求項43に記載の方法。
【0113】
45.前記がんは、膵臓がん、乳がん、結腸直腸がん、肺がん、胃がん、肝細胞がん、卵巣がんまたは膀胱がんである、請求項43または44に記載の方法。
【0114】
46.化学療法剤の投与をさらに含む、請求項43~45のいずれか1項に記載の方法。
【0115】
47.化学療法剤をさらに含む、請求項42に記載の薬学的組成物。
【0116】
48.CEACAM6、そのエピトープもしくは断片、またはそのバリアントを発現するがんを治療するための、T細胞またはサイトカイン誘導キラー(CIK)細胞から選択される免疫細胞を作製するための請求項1~9のいずれか1項に記載のCARの使用。
【0117】
49.CEACAM6、そのエピトープもしくは断片、またはそのバリアントを発現するがんを治療するための、請求項10~17のいずれか1項に記載の免疫細胞の使用。
【0118】
50.CEACAM6、そのエピトープもしくは断片、またはそのバリアントを発現するがんを治療するための、請求項17または42に記載の組成物の使用。
【0119】
51. CEACAM6、そのエピトープもしくは断片、またはそのバリアントを発現するがんを治療するための医薬を調製するための、請求項41に記載の細胞集団の使用。
【0120】
52.配列番号9を有する核酸分子。
【0121】
53.配列番号10を有する核酸分子。
【図面の簡単な説明】
【0122】
本明細書に記載の典型的な態様の以下の詳細な説明は、添付の図面を参照して読むことでよりよく理解されるであろう。本発明を説明する目的で、現時点で典型的な態様を図面に示す。しかしながら、本発明は図面に示された態様の正確な配置および手段に限定されないことを理解されたい。
【
図1】
図1は、CAR-T細胞の存在下で死んだ標的細胞の増加を示すグラフである。BXPC3(CEACAM6陽性)標的細胞を用いたRTCA。標的細胞に対するエフェクター細胞の比は10:1であった。エフェクター細胞の導入後、RTCAデータの収集をさらに56時間続けた。
【
図2】
図2は、CEACAM6陰性細胞がCAR-T細胞の存在下で死なないことを示すグラフである。Pan02a(CEACAM6陰性)標的細胞を用いたRTCA。標的細胞に対するエフェクター細胞の比は10:1であった。エフェクター細胞の導入後、RTCAデータの収集をさらに36時間続けた。
【
図3】
図3Aは、インターフェロンγ分泌レベルが有意かつCAR-T特異的に増加することを示すグラフである。
図3Bは、IFN-γ分泌アッセイで作成した標準曲線を示す。
【
図4】
図4Aは、IL-2分泌レベルが有意なCAR-T特異的な形で増加することを示すグラフである。
図4Bは、IL-2分泌アッセイで作成した標準曲線を示すグラフである。
【
図5】
図5は、CAR-T細胞に結合する抗Fab抗体を示し、形質導入効率が26%を超えることを示している。
【
図6】
図6は、標的BxPC-3細胞に対するCEACAM-6 CAR-T細胞の亢進された細胞傷害作用を示すRTCAを示す。エフェクター細胞:標的細胞の比=10:1。A.1日目の注射No.1でのCAR-T細胞。B.8日目に注射No.2で使用したCAR-T細胞。C.15日目に注射No.3で使用したCAR-T細胞。
【
図7】CEACAM-6 CAR-T細胞がin vivoでBxPC3異種移植腫瘍の増殖を有意に減少させたことを示すグラフである。1群あたりN=マウス5匹。矢印は注射日を示す(1、8、15日目)。平均±標準誤差を示す。p値を算出し、29日目に、CAR-T群対PBSおよび対照のMock T細胞群においてp<0.001で差が有意であった。
【
図8】
図8は、CEACAM-6-CAR-TおよびT細胞の注射後のマウスの体重を示す。
【
図9】
図9は、BxPC3細胞注射後30日目に採取した腫瘍を示す。CEACAM-6処置マウスでは、腫瘍の大きさが有意に減少し、1つの腫瘍が完全に消滅した。
【
図10】
図10は、レンチウイルスCARによるT細胞の効果的な形質導入とCEACAM-6 scFvの発現を示すフローサイトメトリー分析結果を示す。CD3-APC染色では、高比率のT細胞を検出した。
【
図11】
図11は、膵臓がんBXPC3(CEACAM6陽性)標的細胞を用いたRTCAの結果を示す。標的細胞に対するエフェクター細胞の比は10:1であった。エフェクター細胞の導入後、RTCAデータの収集をさらに26時間続けた。データから、CEACAM-6 CAR-T細胞の存在下で、死んだ標的細胞が増えたことがわかる。
【
図12】
図12は、結腸がんS174-T(CEACAM6陽性)標的細胞を用いたRTCAの結果を示す。標的細胞に対するエフェクター細胞の比は10:1であった。エフェクター細胞の導入後、RTCAのデータ収集をさらに26時間続けた。データから、CEACAM-6 CAR-T細胞の存在下で、死んだ標的細胞が増えたことがわかる。
【
図13】
図13は、乳がんHCC-1954(CEACAM6陽性)標的細胞を用いたRTCAの結果を示す。標的細胞に対するエフェクター細胞の比は10:1であった。エフェクター細胞の導入後、RTCAのデータ収集をさらに26時間続けた。データから、CEACAM-6 CAR-T細胞の存在下で、死んだ標的細胞が増えたことがわかる。
【
図14】
図14は、肺がんA549(CEACAM6陽性)標的細胞を用いたRTCAの結果を示す。標的細胞に対するエフェクター細胞の比は10:1であった。エフェクター細胞の導入後、RTCAデータの収集をさらに26時間続けた。データから、CEACAM-6 CAR-T細胞の存在下で、死んだ細胞が増えたことがわかる。
【
図15】
図15は、標的BxPC-3細胞に対するCEACAM-6 CAR-T細胞の亢進された増強された細胞傷害作用を示すRTCAの結果を示す。標的細胞に対するエフェクター細胞の比=10:1。T細胞およびCAR-T細胞を13日目に添加した。A.注射No.1で使用したCAR-T細胞。B.注射No.2で使用したCAR-T細胞。C.注射No.3で使用したCAR-T細胞。
【
図16】
図16は、CEACAM-6 CAR-T細胞がin vivoで樹立されたBxPC3異種移植腫瘍の増殖を有意に減少させたことを示す。1群あたりN=マウス5匹。矢印は注射日を示す。平均±標準誤差を示す。
【
図17】
図17は、PBS、CEACAM-6-CAR-T細胞、T細胞の注射後のマウスの体重を示す。
【
図18】
図18は、BxPC3細胞注射後34日目に採取した腫瘍の画像を示す。CEACAM-6処置マウスでは、腫瘍の大きさが有意に減少し、2つの腫瘍が完全に消滅した。
【発明を実施するための形態】
【0123】
定義
別途定義しない限り、本明細書で用いる技術用語および科学的用語はいずれも、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されているものと同じ意味を持つ。本明細書に記載するものと類似または同等の方法および材料を本発明の試験の実施に使用することができるが、本明細書には一般的な材料と方法を記載する。本発明の説明および特許請求の範囲において、以下の用語を使用することにする。
【0124】
また、本明細書で用いる用語は特定の態様を説明することのみを目的としており、限定することを意図していないことも理解されるべきである。
【0125】
冠詞「a」および「an」は、本明細書では、冠詞の文法上の目的語の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「因子(an element)」とは、1つの因子または2以上の因子を意味する。
【0126】
量、時間的長さなどの測定可能な値に言及して本明細書で用いる「約」は、表記の値の±20%または±10%、より典型的には±5%、さらにより典型的には±1、さらにより典型的には±0.1%のばらつきを包含することを意味するが、これは、そのようなばらつきが、開示された方法を実施する上で妥当であるためである。
【0127】
本発明で使用する場合、「活性化」とは、検出可能な細胞増殖を誘導するために十分に刺激された、CIK細胞またはT細胞などの免疫細胞の状態をいう。また、活性化が、誘導されたサイトカイン産生および検出可能なエフェクター機能と関連する場合もある。「活性化されたT細胞」という用語は、とりわけ、細胞分裂を行っているT細胞をいう。
【0128】
本明細書で使用する、従来技術において「免疫グロブリン」(Ig)とも呼ばれる「抗体」という用語は、対になった重鎖と軽鎖のポリペプチド鎖から構築されるタンパク質をいう。Igには、IgA、IgD、IgE、IgG、IgMをはじめとする、さまざまなアイソタイプが存在する。抗体が正しく折り畳まれると、それぞれの鎖が折り畳まれて多数の異なる球状ドメインになり、これらのドメインは、それよりも線状のポリペプチド配列で結合されている。たとえば、免疫グロブリンの軽鎖は、折り畳まれて可変(VL)ドメインと定常(CL)ドメインになり、一方、重鎖は、折り畳まれて可変(VH)ドメインと3つの定常(CH、CH2、CH3)ドメインになる。重鎖と軽鎖の可変ドメイン(VHおよびVL)の相互作用によって、抗原結合領域(FV)が形成される。各ドメインは、当業者によく知られている十分に確立された構造を有する。
【0129】
軽鎖および重鎖の可変領域は標的抗原との結合を担うため、抗体間で配列の多様性が大きくなり得る。配列多様性は定常領域のほうが少なく、定常領域は重要な生化学的イベントを誘発するための多くの天然タンパク質との結合を担う。抗体の可変領域には、分子の抗原結合決定基が含まれる。このため、標的となる抗原に対する特異性は可変領域によって決まる。配列変異性の多くは6つの超可変領域で生じる。これらの領域は、可変重鎖と軽鎖にそれぞれ3つずつある。超可変領域同士が組み合わさると抗原結合部位が形成され、抗原決定基との結合ならびにその認識に寄与する。抗体の抗原に対する特異性および親和性は、超可変領域の構造ならびに、それらの大きさ、形状、抗原に対して提示する表面の化学的性質によって決まる。超可変性の領域を同定するための様々なスキームが存在し、このうち最も一般的な2つが、KabatのスキームとChothiaおよびLeskのスキームである。Kabat et al (1991 a; 1991b)は、VHドメインおよびVLドメインの抗原結合領域における配列のばらつきに基づいて、「相補性決定領域(complementarity-determining region)」(CDR)を定義している。Chothia and Lesk (1987)は、VHドメインおよびVLドメインにおける構造的ループ領域の位置に基づいて「超可変ループ」(HまたはL)を定義している。これらの個別のスキームでは、隣接するかオーバーラップするCDR領域および超可変ループ領域を定義しているため、抗体の技術分野における当業者は、「CDR」および「超可変ループ」という用語を多くの場合に同義に使用し、本明細書においてもそのように使用する場合がある。このため、VHドメインおよびVLドメインを含む抗体の場合、抗原結合部位を形成する領域を、CDR L1、CDR L2、CDR L3、CDR H1、CDR H2、CDR H3と呼ぶ。あるいは、重鎖または軽鎖のいずれかの抗原結合領域の場合、CDR1、CDR2、CDR3と呼ぶ。本明細書では、CDR/ループを、可変ドメインの比較を容易にすべく開発されたEVIGTナンバリングシステム(Lefranc et al., 2003)に従って称する。本明細書において参照される。このシステムにおいて、保存アミノ酸(たとえばCys23、Trp41、Cys104、Phe/Trp118、位置89の疎水性残基など)は、常に同じ位置にある。また、フレームワーク領域(FR1:位置1~26;FR2:39~55;FR3:66~104;FR4:118~128)およびCDR(CDR1:27~38、CDR2:56~65;CDR3:105~117)の標準化された境界が設定される。
【0130】
本明細書において参照される「抗体断片」には、従来技術において知られている任意の好適な抗原結合抗体断片を含んでもよい。抗体断片は、天然抗体断片でもよいし、天然抗体の操作もしくは組換え方法の使用によって得られたものであってもよい。たとえば、抗体断片には、Fv、単鎖Fv(scFv、ペプチドリンカーで接続されたVLとVHとからなる分子)、Fab、F(ab’)2、シングルドメイン抗体(sdAb、単一のVLまたはVHからなる断片)、これらのうちのいずれかを多価で提示することを含んでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0131】
本発明で使用する場合、「合成抗体」という用語は、たとえば本明細書で説明するようなバクテリオファージによって発現される抗体など、組換えDNA技術を使用して作製される抗体を意味する。また、この用語は、抗体をコードするDNA分子の合成によって作製され、そのDNA分子が抗体タンパク質を発現する抗体、または抗体を特定するアミノ酸配列であって、このDNAまたはアミノ酸配列が従来技術で利用可能でなおかつ周知である合成DNAまたはアミノ酸配列技術を用いて得られるものを意味すると解釈されるべきである。
【0132】
非限定的な一例において、抗体断片は、天然起源由来のsdAbであってもよい。ラクダ科動物由来の重鎖抗体(Hamers-Casterman et al, 1993)には軽鎖がないため、それらの抗原結合部位は、VHHと呼ばれる1つのドメインからなる。また、sdAbは、サメでも観察されており、VNARと呼ばれる(Nuttall et al, 2003)。ヒトIgの重鎖配列および軽鎖配列に基づいて、他のsdAbを人為的に操作することもできる(Jespers et al, 2004; To et al, 2005)。本明細書において使用する場合、「sdAb」という用語には、起源を問わないVH、VHH、VLまたはVNARリザーバーから、ファージディスプレイまたは他の技術によって直接単離されるsdAb、前述のsdAbに由来するsdAb、組換え産生sdAbならびに、ヒト化、親和性成熟、安定化、可溶化、たとえばラクダ化など、または抗体工学の他の方法によって、そのようなsdAbをさらに改変して作製されるsdAbが含まれる。また、本発明には、sdAbの抗原結合機能と特異性を保持するホモログ、誘導体または断片も包含される。
【0133】
sdAbは、熱安定性が高く、界面活性剤耐性が高く、プロテアーゼ耐性が比較的高い(Dumoulin et al, 2002)上、生産収率も高い(Arbabi-Ghahroudi et al, 1997)ため、新規な抗体分子を構築するための優れたブロックである。また、免疫ライブラリーからの単離(Li et al, 2009)またはin vitro親和性成熟(Davies & Riechmann, 1996)によって、非常に高い親和性を有するよう人為的に操作することができる。
【0134】
当業者は、シングルドメイン抗体の構造によく精通していると考えられる(たとえば、Protein Data Bankの3DWT, 2P42を参照のこと)。sdAbは、免疫グロブリンのフォールドを保持する単一の免疫グロブリンドメインを含み、とりわけ、3つのCDRだけが抗原結合部位を形成している。しかしながら、当業者に理解されていると考えられるとおり、すべてのCDRが抗原の結合に必要とされるわけではない場合がある。たとえば、限定を望むわけではないが、CDRのうち1つ、2つまたは3つが、本発明のsdAbによる抗原との結合および抗原の認識に寄与し得る。可変ドメインまたはsdAbのCDRを、本明細書ではCDR1、CDR2、CDR3と称し、Kabat et al (1991b)による定義どおりナンバリングする。
【0135】
本明細書で使用する場合、「抗原」または「Ag」という用語は、免疫応答を惹起する分子として定義される。この免疫応答には、抗体産生もしくは特異的な免疫能のある細胞の活性化のいずれか、または両方が含まれ得る。当業者は、実質的にすべてのタンパク質またはペプチドを含むあらゆる巨大分子が抗原として機能し得ることを理解するであろう。さらに、抗原は、組み換えDNA由来またはゲノムDNA由来であってもよい。当業者であれば、免疫応答を引き出すタンパク質をコードする塩基配列または部分塩基配列を含むDNAであれば、どのようなものであっても、本明細書で使用される「抗原」をコードすることを理解するであろう。さらに、当業者であれば、抗原は、必ずしも遺伝子の全長塩基配列によってのみコードされるわけではないことを理解するであろう。本発明には2つ以上の遺伝子からなる部分塩基配列を用いることも含まれるが、これらに限定されるものではなく、望ましい免疫反応を引き出すために、これらの塩基配列を様々な組み合わせにしてもよいことが、容易に理解される。さらに、当業者であれば、抗原は、必ずしも「遺伝子」によってコードされていなくてもよいことを理解するであろう。抗原は、合成されてもよく、生体試料由来であってもよいことが、容易に理解される。このような生体試料としては、組織試料、腫瘍試料、細胞または他の生体流体があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0136】
本明細書において用いられる「抗腫瘍効果」または「がんの治療」という用語は、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、腫瘍増殖率の減少、転移数の減少、病気の安定化、平均余命の延長またはがん性の病状に付随する様々な生理的症状の改善によって明らかになりうる生物学的効果をいう。また、「抗腫瘍効果」は、腫瘍自体の発生を予防する上での、本明細書に記載のペプチド、ポリヌクレオチド、細胞、抗体の能力によっても明らかになりうる。
【0137】
「自己抗原」という用語は、本発明によれば、免疫系によって誤って外来性であると認識されるあらゆる自己抗原を意味する。自己抗原としては、細胞表面受容体を含めて、細胞タンパク質、リンタンパク質、細胞表面タンパク質、細胞脂質、核酸、糖タンパク質があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0138】
本明細書において使用する場合、「自己」という用語は、ある個体に由来し、後にその同じ個体に再び導入される材料をいうことを意図したものである。
【0139】
「同種」とは、同じ種の異なる動物に由来する移植物をいう。
【0140】
「異種」とは、異なる種に由来する移植物をいう。
【0141】
「同系」とは、同一の個体に由来する移植物をいう。
【0142】
本明細書において用いられる「がん」という用語は、異常な細胞の急速かつ制御不能な増殖を特徴とする疾患と定義される。がん細胞は局所的に広がることもあれば、血流およびリンパ系によって身体の他の部分まで広がることもある。様々ながんの例として、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん、膵臓がん、結腸直腸がん、腎臓がん、肝臓がん、脳がん、リンパ腫、白血病、肺がんなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0143】
「共刺激リガンド」は、この用語を本明細書において使用する場合、T細胞上のコグネイトな共刺激分子に特異的に結合することで、たとえばTCR/CD3複合体とペプチドで負荷したMHC分子との結合によって生じる一次シグナルに加えて、増殖、活性化、分化などを含むがこれらに限定されないT細胞応答を媒介するシグナルも与える抗原提示細胞上(たとえば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)の分子を含む。共刺激リガンドにとしては、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB、HVEM、リンホトキシンβ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、HVEM、Tollリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、B7-H3と特異的に結合するリガンドがあげられるが、これらに限定されるものではない。特に、共刺激リガンドとしては、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3などであるがこれらに限定されるものではないT細胞上に存在する共刺激分子と特異的に結合する抗体、CD83と特異的に結合するリガンドがあげられる。
【0144】
「共刺激分子」とは、共刺激リガンドに特異的に結合することで、増殖などであるがこれに限定されるものではないT細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上のコグネイトな結合パートナーをいう。共刺激分子としては、MHCクラスI分子、BTLA、Tollリガンド受容体があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0145】
本明細書で使用する場合、「共刺激シグナル」とは、TCR/CD3ライゲーションなどの一次シグナルとの組み合わせで、T細胞の増殖および/または鍵となる分子のアップレギュレーションもしくはダウンレギュレーションにつながるシグナルをいう。
【0146】
本明細書で使用する場合、「有効量」とは、治療的または予防的な利益を生む量を意味する。
【0147】
「コードする」とは、遺伝子、cDNAまたはmRNAなどのポリヌクレオチドにおける特定の塩基配列が持つ、固有の特性ならびにそれに起因する生物学的特性をいうが、このポリヌクレオチドは、生物学的過程において、特定の塩基配列(たとえば、rRNA、tRNA、mRNAなど)または特定のアミノ酸配列のいずれかを有する、他のポリマーおよび巨大分子の合成用の鋳型として機能する。したがって、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳によって細胞または他の生体系でタンパク質が産生されるのであれば、その遺伝子はそのタンパク質をコードしている。mRNA配列と同一であり通常は配列表に示される塩基配列であるコード鎖も、遺伝子またはcDNAの転写用の鋳型として用いられる非コード鎖も、タンパク質、またはその遺伝子もしくはcDNAの他の産物をコードするということができる。
【0148】
本明細書において使用する場合、「内因性」とは、生物、細胞、組織もしくは系の内部に由来するか、またはそれらの内部で産生される材料をいう。
【0149】
本明細書において使用する場合、「外因性」という用語は、生物、細胞、組織もしくは系の外から導入されるか、またはそれらの外で産生される材料をいう。
【0150】
本明細書において使用する場合、「発現」という用語は、プロモーターによって駆動される特定の塩基配列の転写および/または翻訳と定義される。
【0151】
「発現ベクター」とは、発現対象となる塩基配列に、転写制御できるように結合された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターをいう。発現ベクターは、発現のために十分なシス作用性因子を含み、発現のための他の因子は、宿主細胞によって、あるいはin vitro発現系において供給されうる。発現ベクターとしては、組換えポリヌクレオチドを組み入れたコスミド、プラスミド(たとえば、裸のもの、またはリポソームに含まれるもの)ならびにウイルス(たとえば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)など、従来技術において知られたすべての発現ベクターがあげられる。
【0152】
「相同性」とは、2つのポリペプチド間または2つの核酸分子間の配列類似性もしくは配列同一性をいう。比較する2つの配列の両方である位置に同じ塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットがある場合、たとえば、2つのDNA分子各々で、ある位置にアデニンがあるのであれば、これらの分子はその位置において相同である。2つの配列間の相同性の割合は、2つの配列に共通の一致する位置または相同である位置の数を比較対象とする数で割って得られる関数に100を掛けた値である。たとえば、2つの配列で10箇所のうち6箇所が一致または相同であるなら、これらの2つの配列は60%相同である。一例として、DNA配列は、ATTGCCおよびTATGGCが50%の相同性を持つ。通常、比較は、相同性が最大になるように2つの配列を整列させて行われる。
【0153】
「単離された」とは、天然の状態から変えられたまたは取り出されたことを意味する。たとえば、生きている動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されて」いないが、その天然状態で共存している物質から部分的にまたは完全に分離された同じ核酸またはペプチドは「単離されて」いる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することができ、宿主細胞などの非天然の環境で存在することもできる。
【0154】
本発明の文脈において、通常存在する核酸塩基には以下の略語が用いられる。「A」はアデノシンをいい、「C」はシトシンをいい、「G」はグアノシンをいい、「T」はチミジンをいい、「U」はウリジンをいう。
【0155】
別途明記しない限り、「アミノ酸配列をコードする塩基配列」は、互いにコドンが異なっていても同じアミノ酸をコードしているすべての塩基配列を含む。タンパク質またはRNAをコードする塩基配列という表現にも、タンパク質をコードする塩基配列が、型によってはイントロンを含みうる程度まで、イントロンを含むことがある。
【0156】
本明細書において使用する場合、「レンチウイルス」とは、Retroviridaeファミリーの属をいう。レンチウイルスは、非分裂細胞に感染することができるという点で、レトロウイルスの中でも独特である。このウイルスは相当な量の遺伝情報を宿主細胞のDNAに送り込むことができるため、遺伝子デリバリー用ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIV、FIVはいずれもレンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、in vivoで有意なレベルの遺伝子導入を達成するための手段となる。
【0157】
「トランスポゾン」または「転移因子」とは、ゲノム内での位置を変化させることができ、ときには突然変異を生み出すまたは逆転させ、細胞のゲノムサイズを変化させることができるDNA配列である。転移によって、トランスポゾンが重複することが多い。トランスポゾンには、2つの異なるタイプがある。クラスIIトランスポゾンは、異なる位置に直接移動するDNAで構成される。クラスIトランスポゾンは、まずDNAをRNAに転写した後、逆転写酵素を用いてRNAのDNAコピーを新たな位置に挿入するレトロトランスポゾンである。トランスポゾンは一般にトランスポゼースと相互作用し、これがトランスポゾンの動きを媒介する。トランスポゾン/トランスポゼースシステムの非限定的な例として、Sleeping Beauty、Piggybac、Frog Prince、Prince Charmingがあげられる。
【0158】
本明細書において使用する場合、「調節する」という用語は、治療もしくは化合物の非存在下での被検体における応答のレベルと比較および/または他の点では同一であるが治療を受けていない被検体における応答のレベルと比較して、被検体における応答のレベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は、被検体、好ましくはヒトにおいて、天然のシグナルもしくは応答を撹乱するおよび/またはそれに影響を与ることにより、有益な治療応答を媒介することを包含する。
【0159】
「発現調節できるように結合された」という表現は、調節配列と異種核酸配列との間で、異種核酸配列の発現が生じる機能的な結合をいう。たとえば、第1の核酸配列が第2の核酸配列との間で機能的な関係におかれている場合、第1の核酸配列は、第2の核酸配列に、発現調節できるように結合されている。たとえば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響するのであれば、このプロモーターは、そのコード配列に、発現調節できるように結合されている。一般に、発現調節できるように結合されたDNA配列は連続的であり、2つのタンパク質コード領域をつなぎ合わせることが必要な場合、同じ読み枠の中にある。
【0160】
「過剰発現された」腫瘍抗原または腫瘍抗原の「過剰発現」という表現では、患者の特定の組織または臓器の内部にある固形腫瘍などの疾患領域から得られる細胞における腫瘍抗原の発現が、その組織または臓器からの正常細胞での発現のレベルと比較して異常なレベルであることを示すことが意図されている。腫瘍抗原の過剰発現を特徴とする固形腫瘍または血液悪性腫瘍を有する患者については、従来技術において知られた標準的なアッセイ法で決定することができる。
【0161】
免疫原性組成物の「非経口」投与には、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)もしくは胸骨内への注射または輸液技術が含まれる。
【0162】
「患者」、「被検体」、「個体」などの用語は、本明細書では同義に用いられ、in vitroであるかin situであるかを問わず、本明細書に記載の方法に従う動物またはその細胞をいう。
【0163】
さらに、「患者」、「被検体」、「個体」という用語は、免疫応答を誘発することができる生物(哺乳動物など)を含む。特定の非限定的な態様において、患者、被検体または個体は哺乳動物であり、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、それらのトランスジェニック種を含む。
【0164】
本明細書において使用する場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドの鎖と定義される。さらに、核酸はヌクレオチドの重合体である。したがって、本明細書において、核酸とポリヌクレオチドは同義に用いられる。当業者であれば、核酸がポリヌクレオチドであり、これを加水分解して単量体である「ヌクレオチド」にできるという一般知識を有する。単量体であるヌクレオチドを加水分解し、ヌクレオシドにすることができる。本明細書において使用する場合、ポリヌクレオチドには、非限定的に、組換え手段すなわち通常のクローニング技術やPCRなどを用いた組換えライブラリーまたは細胞ゲノムからの核酸配列のクローニングを含む、従来技術において利用可能な任意の手段によって得られる全ての核酸配列、ならびに合成手段により得られる全ての核酸配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0165】
本明細書において使用する場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は同義に用いられ、ペプチド結合によって共有結合されたアミノ酸残基で構成される化合物をいう。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含む必要があり、タンパク質またはペプチドの配列を構成しうるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって互いに結合した2つ以上のアミノ酸を含むあらゆるペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書で使用する場合、この用語は、従来技術において一般にペプチド、オリゴペプチド、オリゴマーなどとも呼ばれる短鎖と、従来技術において一般にタンパク質と呼ばれる長鎖の両方をいい、これには多くのタイプがある。「ポリペプチド」には、とりわけ、たとえば生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドの変種、修飾されたポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチドまたはそれらの組み合わせが含まれる。
【0166】
本明細書で使用する場合、「プロモーター」という用語は、ポリヌクレオチドの配列の特異的な転写を開始させるのに必要な、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列と定義される。
【0167】
本明細書で使用する場合、「プロモーター/調節配列」という用語は、プロモーター/調節配列に発現調節できるように結合された遺伝子産物の発現に必要とされる核酸配列を意味する。場合によっては、この配列はコアプロモーター配列であってよく、他の場合には、この配列はエンハンサー配列および遺伝子産物の発現に必要とされる他の調節因子を含んでもよい。プロモーター/調節配列は、たとえば、組織特異的な形で遺伝子産物を発現するものであってもよい。
【0168】
「構成的」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレオチドと発現調節できるように結合された場合、細胞のほとんどまたは全ての生理学的条件の下で、遺伝子産物を細胞内で産生させる塩基配列である。
【0169】
「誘導性」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレオチドと発現調節できるように結合された場合、実質的にはプロモーターに対応する誘導因子が細胞内に存在する場合にのみ、遺伝子産物を細胞内で産生させる塩基配列である。
【0170】
「組織特異的」プロモーターは、遺伝子をコードするまたは遺伝子によって特定されるポリヌクレオチドと発現調節できるように結合された場合、実質的には細胞がプロモーターに対応する組織型の細胞である場合にのみ、遺伝子産物を細胞内で産生させる塩基配列である。
【0171】
抗体に関して本明細書で使用する場合、「特異的に結合する」という用語は、特定の抗原を認識するが、試料中の他の分子を実質的に認識または結合しない抗体を意味する。たとえば、1つの種由来の抗原に特異的に結合する抗体が、1以上の種に由来する同じ抗原に結合する場合もある。しかしながら、そのような異種間反応性それ自体によって、特異的抗体としての抗体の分類が変わることはない。別の例において、抗原に特異的に結合する抗体が、その抗原の異なるアレル型に結合してもよい。しかしながら、そのような交差反応性それ自体によって、特異的抗原としての抗体の分類が変わることはない。場合によっては、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語を、抗体、タンパク質またはペプチドと第2の化学種との相互作用に関連して使用し、その相互作用がその化学種での特定の構造(たとえば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味するようにしてもよい。たとえば、抗体は、タンパク質全般ではなく特定のタンパク質構造を認識し、それに結合する。抗体がエピトープ「A」に特異的であるなら、エピトープAを含む分子(または遊離した、標識されていないA)の存在は、標識された「A」およびその抗体を含む反応において、その抗体に結合した標識されたAの量を減らすであろう。
【0172】
「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合することができるタンパク質決定基を意味する。エピトープは通常、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面群からなり、通常は特定の三次元構造特性および特定の電荷特性を有する。立体配座エピトープと非立体配座エピトープは、変性溶媒の存在下で、非立体配座エピトープではなく立体配座エピトープへの結合が失われるという点で区別される。
【0173】
「刺激」という用語は、刺激分子(たとえば、TCR/CD3複合体)がそのコグネイトなリガンドと結合することで、限定されるものではないがTCR/CD3複合体を介するシグナル伝達などのシグナル伝達イベントを媒介することにより誘導される、一次応答を意味する。刺激は、TGF-βのダウンレギュレーションおよび/または細胞骨格構造の再編成など、ある分子の発現の変化を媒介することができる。
【0174】
「刺激分子」とは、この用語を本明細書で使用する場合、抗原提示細胞上に存在するコグネイトな刺激リガンドと特異的に結合する、T細胞上の分子を意味する。
【0175】
本明細書で使用する場合、「刺激リガンド」は、抗原提示細胞(たとえば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上に存在する場合、T細胞上のコグネイトな結合パートナー(本明細書では「刺激分子」と呼ぶ)と特異的に結合でき、それによって、活性化、免疫応答の開始、増殖などを含むが、これらに限定されるものではない、T細胞による一次応答を媒介するリガンドを意味する。刺激リガンドは従来技術において周知であり、とりわけ、ペプチドで負荷したMHCクラスI分子、抗CD3抗体、スーパーアゴニスト抗CD28抗体、スーパーアゴニスト抗CD2抗体を包含する。
【0176】
本明細書で使用する場合、「実質的に精製された」細胞は、他の細胞型を実質的に含まない細胞である。また、実質的に精製された細胞とは、天然の状態において通常は結び付いている他の細胞型から分離された細胞をいう。場合によっては、実質的に精製された細胞の集団とは、均質な細胞集団をいう。他の例では、この用語は、単に、天然の状態において通常は結び付いている細胞から分離された細胞をいう。いくつかの態様において、細胞はin vitroで培養される。他の態様において、細胞はin vitroで培養されない。
【0177】
本発明で使用する場合、「治療」または「療法」とは、有益な臨床結果または望ましい臨床結果を得るための手法である。本明細書に記載の目的のために、有益な臨床結果または望ましい臨床結果には、検出可能か否かを問わず、症状の軽減、疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化(すなわち悪化しない)、疾患進行の遅延または遅れ、疾患の状態の改善または緩和、寛解(一部か全部かを問わない)が含まれるがこれらに限定されるものではない。また、「治療」および「療法」とは、これを受けていない場合の予想生存期間と比較して、生存期間が長くなることを意味することもある。したがって、「治療」または「療法」は、障害の病理を変えることを意図して行われる介入である。具体的には、「治療」または「療法」は、がんなどの疾患または障害の病状を直接予防、減速または他の方法で減少させることができ、あるいは細胞を他の治療薬による「治療」または「療法」に対してより感受性にすることができる。
【0178】
本明細書で使用する場合、「治療的」という用語は、治療および/または予防を意味する。疾患の状態の抑制、寛解または根絶によって治療効果が得られる。
【0179】
「治療有効量」という用語は、研究者、獣医師、医師または他の臨床医によって探求されている組織、系または被検体の生物学的応答または医学的応答を誘発する対象化合物の量をいう。「治療有効量」という用語は、投与されたときに、治療されている障害または疾患の1つまたは複数の徴候または症状の発症を予防またはある程度軽減するのに十分な化合物の量を含む。治療有効量は、化合物、疾患およびその重症度ならびに治療対象となる被検体の年齢、体重などに応じて変わるであろう。
【0180】
疾患を「治療する」とは、この表現を本明細書において使用する場合、被検体が被っている疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を低減することを意味する。
【0181】
さらに、治療有効量での被検体の治療レジメンは、単回投与からなるものであってもよいし、一連の適用を含むものであってもよい。治療期間の長さは、疾患の重症度、被検体の年齢、薬剤の濃度、薬剤に対する患者の応答性またはそれらの組み合わせなどの様々な要因に依存する。治療に使用される薬剤の有効投与量を、特定の治療レジメンの過程で増やしたり減らしたりしてもよいことも理解されよう。投与量の変化は、従来技術において知られた標準的な診断アッセイによって生じ、明らかになり得る。本明細書に記載の抗体は、複数の態様において、がんなどの問題の疾患または障害に対する従来の治療法による治療の前、最中または後に投与することができる。
【0182】
本明細書において使用する場合、「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」という用語は、外因性核酸が宿主細胞に移植または導入される過程をいう。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞は、外因性核酸でトランスフェクトされた、形質転換された、または形質導入されたものである。この細胞には、対象となる初代の細胞およびその子孫が含まれる。
【0183】
「転写制御下」または「転写制御できるように結合された」という句は、本明細書において使用する場合、RNAポリメラーゼによる転写の開始およびポリヌクレオチドの発現を制御するためにプロモーターがポリヌクレオチドに対して正しい位置と向きにあることを意味する。
【0184】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、かつ単離された核酸を細胞の内部にデリバリーするために使用することができる組成物である。直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と結び付いたポリヌクレオチド、プラスミドおよびウイルスを含むが、これらに限定されるものではない、多数のベクターが従来技術において知られている。したがって、「ベクター」という用語は、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスを含む。また、この用語は、たとえばポリリジン化合物、リポソームなど、細胞内への核酸の移植を容易にする、プラスミドではなく、ウイルスでもない化合物を含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0185】
範囲:本開示の全体を通して、本明細書に開示する様々な態様を範囲の形式で提示することができる。範囲の形式での記述は、単に簡便にするためのものであり、本発明の範囲に対する変わることのない限定と解釈されるべきではない旨を理解されたい。したがって、範囲の記述は、可能な全ての部分的な範囲および範囲内の個々の数値を具体的に開示したものとみなされるべきである。たとえば、1~6といった範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分的な範囲ならびに、範囲内の個々の数字、たとえば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、6を具体的に開示したものとみなされるべきである。これは、範囲の大きさに関係なく当てはまる。
【0186】
ある構成要素を「含む(comprising)」ものとして説明された態様は、その構成要素「からなる(consist of)」または「実質的に~からなる(consist essentially of)」場合も含み得るものであり、ここで、「からなる」はクローズドエンドまたは制限的な意味を持ち、「実質的に~からなる(consisting essentially of)」は、表記の成分を含むが、不純物として存在する物質、この成分を提供するために用いるプロセスの結果として存在する回避できない物質、本明細書で説明する技術的な効果を達成する以外の目的で添加される成分以外の他の成分を排除することを意味することは、理解できよう。たとえば、「実質的に~からなる」という句を使用して定義される組成物は、公知の薬学的に許容される添加剤、賦形剤、希釈剤、担体など任意の成分を包含する。典型的には、本質的に一組の成分からなる組成物は5重量%未満を含む。一般に、実質的に一組の成分からなる組成物は、5重量%未満、一般に3重量%未満、より一般には1重量%未満の不特定成分を含むことになる。
【0187】
含まれるものとして本明細書に定義される成分はいずれも、条件または否定的な限定として、特許請求の範囲に記載の発明から明示的に除外することができる旨も理解できよう。
【0188】
1つ以上の別の治療薬と「組み合わせて」投与することは、任意の順序での同時(同時並行)投与および連続投与を含む。
【0189】
「薬学的に許容される」という用語は、化合物または化合物の組み合わせが薬学的使用のための製剤の残りの成分と適合し、米国食品医薬品局によって公布されたものを含む政府によって確立された標準に従ってヒトに投与することが一般に安全であることを意味する。
【0190】
「薬学的に許容される担体」という用語は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤および/または吸収遅延剤などを含むがこれらに限定されるものではない。薬学的に許容される担体の使用はよく知られている。
【0191】
単離:「単離された」生物学的成分(タンパク質など)は、その成分が天然に存在する生物の細胞中の他の生物学的成分、すなわち染色体および染色体外DNAおよびRNA、他のタンパク質、細胞小器官から実質的に分離または精製されている。「単離された」タンパク質およびペプチドは、標準的な精製方法によって精製されたタンパク質およびペプチドを含む。また、この用語は、宿主細胞における組換え発現によって調製されたタンパク質およびペプチドならびに化学合成されたタンパク質およびペプチドを含む。
【0192】
本発明で使用する場合、「腫瘍」は、悪性であるか良性であるかを問わず、すべての新生物細胞の増殖ならびにすべての前がん性およびがん性の細胞および組織をいう。
【0193】
「がん」および「がん性」という用語は、一般に無秩序な細胞の増殖を特徴とする哺乳動物における生理学的状態をいうかまたは説明している。治療対象となるがんは、どのようなタイプの悪性腫瘍であってもよく、一態様では、小細胞肺がんおよび非小細胞肺がん(たとえば、腺がん)を含む肺がん、膵臓がん、結腸がん(たとえば、結腸腺がんおよび結腸腺腫などの結腸直腸がん)、食道がん、口腔扁平上皮がん、舌がん、胃がん、肝臓がん、鼻咽頭がん、リンパ系譜の造血器腫瘍(たとえば、急性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫)、非ホジキンリンパ腫(たとえば、マントル細胞リンパ腫)、ホジキン病、骨髄性白血病(たとえば、急性骨髄性白血病(AML)または慢性骨髄性白血病(CML))、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病(CLL)、甲状腺濾胞がん、骨髄異形成症候群(MDS)、間葉系起源の腫瘍、軟部組織肉腫、脂肪肉腫、消化管間質肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、間葉性軟骨肉腫、リンパ肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、黒色腫、奇形腫、神経芽細胞腫、脳腫瘍、髄芽腫、神経膠腫、皮膚の良性腫瘍(たとえば、ケラトアカントーマ)、乳がん(たとえば、進行性乳がん)、腎臓がん、腎芽細胞腫、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、膀胱がん、進行性疾患およびホルモン不応性前立腺がんを含む前立腺がん、精巣がん、骨肉腫、頭頸部がん、表皮がん、多発性骨髄腫(たとえば、難治性多発性骨髄腫)または中皮腫である。一態様では、がん細胞は、固形腫瘍に由来する。典型的には、がん細胞は、乳がん、結腸直腸がん、黒色腫、卵巣がん、膵臓がん、胃がん、肺がんまたは前立腺がんに由来する。より典型的には、がん細胞は、前立腺がん、肺がん、乳がん、または黒色腫に由来する。
【0194】
「化学療法剤」は、がんの治療において有用な化合物である。化学療法剤の例としては、チオテパおよびCYTOXAN(商標)シクロスホスファミドなどのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、ピポスルファンなどのアルキルスルホネート;ベンゾドパ、カルボコン、メツレドーパ、ウレドーパなどのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、トリメチロールメラミンを含むエチレンイミンおよびメチラメラミン(methylamelamine);ブラタシンおよびブラタシノンなどのアセトゲニン;トポテカンなどのカンプトテシン;ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065およびそのアドゼレシン、カルゼルシンおよびビゼレシン合成類縁体;クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8などのクリプトフィシン;ドラスタチン;合成類縁体KW-2189およびCB1-TM1などのデュオカルマイシン;エレウテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノブエンビキン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソ尿素;エンジイン抗生剤などの抗生剤、たとえば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンガンマ1IおよびカリケアマイシンオメガI1、ジネマイシンAを含むジネマイシン、クロドロネートなどのビスホスホネート、エスペラマイシン、ネオカルチノスタチン発色団および関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団;アクラシノマイシン;アクチノマイシン、オースラマイシン;アザセリン;ブレオマイシン;カクチノマイシン;カラビシン;カルミノマイシン;カルジノフィリン;クロモマイシン;ダクチノマイシン;ダウノルビシン;デトルビシン;6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン;ADRIAMYCIN(商標)ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、デオキシドキソルビシンを含む);エピルビシン;エソルビシン;イダルビシン;マルセロマイシン;マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU)などの代謝拮抗薬;デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサートなどの葉酸類縁体;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリン類縁体;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジンなどのピリミジン類縁体;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗副腎薬;フロリン酸(frolinic acid)などの葉酸補充物;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン;エルホルニチン;エリプチニウムアセテート;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシンおよびアンサミトシンなどのマイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSKTM多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;T-2毒素、ベラクリンA、ロリジンA、アングイジンなどのトリコテセン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);TAXOL(商標)パクリタキセル、ABRAXA E(商標)パクリタキセルのクレモフォールを含まないアルブミン改変ナノ粒子製剤、TAXOTERE(商標)、ドキセタキセルなどのタキソイド;クロランブシル(chloranbucil);GEMZARゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチンなどの白金配位錯化合物;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ビンクリスチン;NAVELBINE(商標)ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT-11などのイリノテカン;RFS 2000などのトポイソメラーゼ阻害剤;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド;カペシタビン;上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体があげられる。
【0195】
同様に本定義に含まれるのは、たとえばタモキシフェン(NOLVADEX(商標)タモキシフェンを含む)、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、FARESTONトレミフェンを含む、抗エストロゲンおよび選択的エストロゲン受容体調節物質(SERM)などの、腫瘍に対するホルモン作用を調節または阻害するように作用する抗ホルモン剤;たとえば、4(5)-イミダゾール、アミノグルテチミド、MEGASE(商標)酢酸メゲストロール、AROMASIN(商標)エキセメスタン、ホルメスタン、ファドロゾール、RIVISOR(商標)ボロゾール、FEMARA(商標)レトロゾール、ARIMIDEX(商標)アナストロゾールなどの、副腎におけるエストロゲン産生を調節する酵素アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤;フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、ゴセレリンなどの抗アンドロゲン剤;ならびにトロキサシタビン(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシン類縁体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に、たとえば、PKC-アルファ、RalfおよびH-Rasなどの、異常な細胞増殖に関係するシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの;VEGF発現阻害剤(たとえば、ANGIOZYME(商標)リボザイム)およびHER2発現阻害剤などのリボザイム;抗VEGF抗体(たとえば、AVASTIN(商標)抗体)などの抗体;遺伝子療法ワクチンなどのワクチン、たとえば、ALLOVECTIN(商標)ワクチン、LEUVECTIN(商標)ワクチン、VAXID(商標)ワクチンなど;PROLEUKIN(商標)rIL-2;LURTOTECAN(商標)トポイソメラーゼ1阻害剤;ABARELIX(商標)rmRH;ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体である。
【0196】
複数の態様において、本明細書に記載の抗体は、従来の他の抗がん治療剤と相加的または相乗的に作用する。
【0197】
本明細書では、説明した態様に対する理解を助けるために、多くの特許出願、特許、刊行物が参照されている。これらの参考文献各々の内容全体を本明細書に援用する。
【0198】
本発明は、複数の態様において固形腫瘍であるがんを治療するための組成物および方法に関する。本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように形質導入された免疫細胞の養子細胞移植の戦略に関する。CARは、抗体に基づく所望の抗原(たとえば、腫瘍抗原)に対する特異性とT細胞受容体活性化細胞内ドメインとを組み合わせて、特異的な抗腫瘍細胞性免疫活性を示すキメラタンパク質を産生する分子である。遺伝子改変T細胞療法は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸をT細胞に導入することを含み、CARは腫瘍細胞の表面抗原に対する特異性およびT細胞を活性化する能力を有し、ex vivoでこのようにして得られた形質導入T細胞を増殖させた後、その細胞を患者に移植する。
【0199】
本発明は主に、固形腫瘍抗原、より具体的には、CEACAM6抗原、その断片および/またはエピトープ、ならびにこれらのバリアントを発現する固形腫瘍に特異的なCARを安定的に発現するように遺伝子改変されたT細胞の使用に関する。CARを発現するT細胞を、本明細書ではCAR-T細胞またはCAR改変T細胞と呼ぶ。本発明の複数の態様において、T細胞は、CEACAM6に特異的なsdAbの抗原認識ドメインと1つまたは複数の細胞内共刺激ドメインおよびシグナル伝達ドメインとを組み合わせるCARを単一のキメラタンパク質に安定的に発現するように遺伝子改変されている。
【0200】
キメラ抗原受容体(CAR)
一態様において、人為的に操作されたCARが本明細書に記載されている。CARは、CEACAM6に結合するCEACAM6結合部分、そのエピトープ、その断片、または前述のバリアントを含み、さらに免疫細胞活性化ドメインを含む。免疫細胞によって発現されると、CEACAM6結合部分は細胞外ドメインであるかまたはその一部であり、免疫細胞活性化ドメインは細胞内シグナル伝達ドメイン、典型的にはT細胞抗原受容体複合体ζ鎖(たとえば、CD3ζ)であるかまたはその一部である。共刺激シグナル伝達領域も細胞内ドメインに含まれることがあり、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要とされる抗原レセプターまたはそれらのリガンド以外の細胞表面分子である。スペーサー部分(ヒンジ部分とも呼ばれる)は、一般に細胞外ドメインに含まれて、CEACAM6結合部分がそのエピトープに効率的に結合できるようにしている。細胞内ドメインおよび細胞外ドメインは、細胞質膜を横切る膜貫通ドメインを介して結合されている。
【0201】
本発明のCARの代表的な非限定的構造は、腫瘍細胞のCEACAM6表面抗原を認識するシングルドメイン抗体と、膜貫通ドメインと、T細胞を活性化するTCR複合体CD3ζの細胞内ドメイン(第一世代CARと呼ばれる)と、を含む。そのようなシングルドメイン抗体の核酸配列は、当業者によって理解されているように、様々な方法によって得ることができる。CARを発現するT細胞は、腫瘍細胞上の主要組織適合抗原クラスIの発現とは無関係に腫瘍細胞の表面抗原を直接認識すると同時にT細胞を活性化し、それによってCAR発現T細胞が腫瘍細胞を効率的に殺すことができる。
【0202】
第1世代のCARがT細胞を活性化する能力を増強するために、第2世代のCARを作製することができ、それによってT細胞の共刺激分子であるCD28の細胞内ドメインが第1世代のCARに結合される。また、第3世代のCARを作製することもでき、それによって腫瘍壊死因子(TF)受容体スーパーファミリーである(たとえば)CD137(4-1BB)またはCD134(OX40)由来の細胞内ドメインが第1世代のCARに直列に結合される。このように、CEACAM6を標的とする多くのCAR分子が本発明に含まれる。
【0203】
CEACAM6結合部分
典型的な態様において、本明細書で説明するCARは、癌胎児性抗原関連細胞接着分子6(CEACAM6)、それらの断片、それらのエピトープおよび上記のいずれかのバリアントに特異的である。また、CEACAM6は、非特異的交差反応性抗原(NCA)またはCD66cとして当該分野で公知である。本発明のCEACAM6結合部分は、細胞/腫瘍表面に保持されているCEACAM6に所望の親和性で結合し、そのことによって、CEACAM6結合部分が存在する免疫細胞の活性化が生じ、細胞傷害活性にトリガーが与えられ、腫瘍微小環境内でサイトカインが放出し、さらに免疫細胞が増殖するようになっている。
【0204】
CEACAM6の配列は、配列番号7、またはそれと実質的に同一の配列であればよいが、これらに限定されるものではない。
【0205】
配列番号7:
MGPPSAPPCRLHVPWKEVLLTASLLTFWNPPTTAKLTIESTPFNVAEGKEVLLLAHNLPQNRIGYSWYKGERVDGNSLIVGYVIGTQQATPGPAYSGRETIYPNASLLIQNVTQNDTGFYTLQVIKSDLVNEEATGQFHVYPELPKPSISSNNSNPVEDKDAVAFTCEPEVQNTTYLWWVNGQSLPVSPRLQLSNGNMTLTLLSVKRNDAGSYECEIQNPASANRSDPVTLNVLYGPDGPTISPSKANYRPMGENLNLSCHAASNPPAQYSWFINGTFQQSTQELFIPNITVNNSGSYMCQAHNSATGNLRTTVTMITVSGSAPVLSAVATVGITIGVLARVALI
特定の態様では、抗体および/またはエピトープは、全文を本明細書に援用する米国特許第9,066,986号に記載されているものであってもよい。具体的には、CEACAM6結合ドメインは、2A3抗CEACAM6抗体またはその断片もしくはバリアントを含んでもよい。理論に拘泥することを望むものではないが、この抗体/エピトープ相互作用は有利なレベルの親和性(高すぎず低すぎない)を有し、そのため抗体は最初の細胞上のエピトープに結合し、細胞を殺し始めることができ、その後移動して2番目以降の細胞の別のエピトープに結合し、さらに細胞を殺し始めると思われる。
【0206】
したがって、CEACAM6結合部分内に、配列GRTNSVYTMG(配列番号1)を含む相補性決定領域(CDR)1と、配列IMWGAGTNTHYADSVKG(配列番号2)を含むCDR2と、配列AANRGIPIAGRQYDY(配列番号3)を含むCDR3と、を含むCARであって、抗体またはその断片がCEACAM6に特異的であるCARも本明細書に記載される。上記のCEACAM6結合部分は、以下の配列を含むか以下の配列からなるエピトープを認識してそれに結合することができる。
【0207】
NRIGYSWYKG(配列番号6)
非限定的な具体例では、抗体またはその断片は、以下のまたはそれと実質的に同一の配列を含み得る。
【0208】
配列番号4:
QVKLEESGGGLVQAGGSLRLSCRTSGRTNSVYTMGWFRQAPGKEREFVAQIMWGAGTNTHYADSVKGRFTISRDSAESTVYLQMNSLKPEDTAVYYCAANRGIPIAGRQYDYWGQGTQVTVSS
「抗体」および「抗体断片」(「その断片」)という用語は、上記で定義した通りである。前述のように、抗体またはその断片は、sdAbであってもよい。sdAbは、ラクダ科動物(たとえば、Camelidaeの種由来など)であってもよいし、ラクダ科のVHH由来であってもよく、従ってラクダ科動物のフレームワーク領域に基づくものでもよい。あるいは、上記のCDRを、VNAR、VHHまたはVLのフレームワーク領域に移植してもよい。さらに別の例として、上記の超可変ループを他のタイプの抗体断片(Fv、scFv、Fab)のフレームワーク領域に移植してもよい。
【0209】
本態様はさらに、従来技術において知られた任意の適切な方法、たとえば、限定されるものではないが、CDR移植およびベニアリングによって「ヒト化」された抗体断片を包含する。抗体または抗体断片のヒト化は、抗原結合能力または特異性を失うことなく、配列中のアミノ酸を、ヒトコンセンサス配列に見られるようなヒトの対応するアミノ酸と置換することを含む。この手法は、ヒトの被検体に導入されたときに抗体またはその断片の免疫原性を低下させる。CDR移植の過程において、本明細書に定義される1つ以上の重鎖CDRは、ヒトの可変領域(VHまたはVL)、または他のヒト抗体断片のフレームワーク領域(FV、scFv、Fab)に融合または移植されてもよい。そのような場合、該1つ以上の超可変ループのコンフォメーションは保存され、その標的(すなわちトキシンAおよびB)に対するsdAbの親和性および特異性も保存される。
【0210】
CDRの移植は、少なくとも米国特許第6,180,370号、同第5,693,761号、同第6,054,297号、同第5,859,205号および欧州特許第626390号(これらの開示内容全体を本明細書に援用する)に記載されている。従来技術において「可変領域表面再形成」とも呼ばれるベニヤ化は、抗体または断片の溶媒に曝された位置をヒト化することを含む。したがって、CDRのコンフォメーションにとって重要な場合がある、分子の内側にある非ヒト化残基は、溶媒曝露領域に対する免疫学的反応の可能性を最小にしつつ保存される。ベニアリングについては、少なくとも米国特許第5,869,619号、同第5,766,886号、同第5,821,123号および欧州特許第519596号(これらの開示内容全体を本明細書に援用する)に記載されている。当業者であれば、そのようなヒト化抗体断片を調製する方法に精通しているであろう。
【0211】
実質的に同一の配列は、1つ以上の保存されたアミノ酸変異を含み得る。参照配列に対する1つ以上の保存されたアミノ酸変異が、参照配列と比較して、生理学的、化学的または機能的特性に実質的な変化を伴わずに変異ペプチドを生じ得ることは、従来技術において知られている。このような場合、参照配列と変異配列は「実質的に同一の」ポリペプチドと見なされるであろう。保存されたアミノ酸変異は、アミノ酸の付加、欠失または置換を含み得る。保存されたアミノ酸置換は、本明細書において、化学的性質(たとえば、大きさ、電荷または極性)が類似した別のアミノ酸残基に対するアミノ酸残基の置換として定義される。
【0212】
非限定的な例では、保存された変異は、アミノ酸置換であってもよい。そのような保存されたアミノ酸置換は、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸、疎水性アミノ酸または酸性アミノ酸を同じ基の別のアミノ酸に置換してもよい。「塩基性アミノ酸」という用語は、一般に生理学的pHで正の電荷を持つ、側鎖のpK値が7よりも大きい親水性アミノ酸を意味する。塩基性アミノ酸は、ヒスチジン(HisまたはH)、アルギニン(ArgまたはR)、リシン(LysまたはK)を含む。用語「中性アミノ酸」(「極性アミノ酸」ともいう)という用語は、生理学的pHで側鎖が無電荷であるが、2個の原子で共有される電子対が、原子の一方のより近くで保持された少なくとも1個の結合を有する親水性アミノ酸を意味する。極性アミノ酸は、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、システイン(CysまたはC)、チロシン(TyrまたはY)、アスパラギン(AsnまたはN)およびグルタミン(GlnまたはQ)を含む。「疎水性アミノ酸」(「非極性アミノ酸」ともいう)という用語は、Eisenberg(1984年)の正規化コンセンサス疎水性スケールでゼロよりも大きい疎水性を示すアミノ酸を包含することを意味する。疎水性アミノ酸は、プロリン(ProまたはP)、イソロイシン(IleまたはI)、フェニルアラニン(PheまたはF)、バリン(ValまたはV)、ロイシン(LeuまたはL)、トリプトファン(TrpまたはW)、メチオニン(MetまたはM)、アラニン(AlaまたはA)およびグリシン(GlyまたはG)を含む。「酸性アミノ酸」とは、一般に生理学的pHで負の電荷を持つ、側鎖のpK値が7未満である親水性アミノ酸をいう。酸性アミノ酸は、グルタミン酸(GluまたはE)およびアスパラギン酸(AspまたはD)を含む。
【0213】
配列同一性は、2つの配列の類似性の評価に用いられる。これは、残基の位置が最大限に一致するように2つの配列が整列したとき、同じである残基の割合を計算することによって決定される。公知の任意の方法を用いて、配列同一性を計算することができる。たとえば、配列同一性の計算にコンピュータソフトウェアを利用できる。限定を望むわけではないが、配列同一性は、Swiss Institute of Bioinformaticsにより維持される(また、ca.expasy.org/tools/blast/に見られる)NCBI BLAST2サービス、BLAST-P、Blast-NもしくはFASTA-Nまたは従来技術において知られた他いずれかの妥当なソフトウェアなどのソフトウェアにより計算することができる。
【0214】
本発明の実質的に同一な配列は、少なくとも90%同一となり得る。別の一例において、実質的に同一な配列は、本明細書に記載の配列に対し、アミノ酸レベルで少なくとも85%同一であり、別の例では、実質的に同一な配列は、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%(またはこれらの間のいずれかのパーセンテージ)同一となり得る。重要なことに、実質的に同一な配列は、参照配列の活性と特異性を保持する。非限定的な態様において、配列同一性における差異は、保存されたアミノ酸変異によるものである場合がある。
【0215】
本発明のシングルドメイン抗体またはその断片は、組換え抗体もしくはその断片の発現、検出または精製を補助する追加の配列を含んでもよい。当業者に知られているこのような任意の配列またはタグを使用することができる。たとえば、限定を望むわけではないが、抗体またはその断片は、ターゲティング配列またはシグナル配列(たとえば、ompAであるが、これに限定されるものではない)、検出タグ、例示的なタグカセットは、Strepタグまたはそれらの任意のバリアント(たとえば、米国特許第7,981,632号を参照のこと)、Hisタグ、DYKDDDDK配列モチーフを持つFlagタグ、Xpressタグ、Aviタグ、カルモジュリンタグ、ポリグルタメートタグ、HAタグ、Mycタグ、Nusタグ、Sタグ、SBPタグ、Softag 1、Softag 3、V5タグ、CREB結合タンパク質(CBP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、チオレドキシンタグまたはこれらの任意の組み合わせ、精製タグ(たとえば、HissまたはHis6であるがこれらに限定されるものではない)またはこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0216】
別の例において、追加の配列は、ビオチン認識部位、たとえばCronanらによりWO 95/04069に記載されたものやVogesらによりWO/2004/076670に記載されたものであってもよい。同じく当業者に知られているとおり、リンカー配列を、追加の配列やタグと併せて使用してもよい。
【0217】
より具体的には、タグカセットは、高い親和性または活性で抗体に特異的に結合することができる細胞外成分を含んでもよい。一本鎖融合タンパク質構造内で、タグカセットは、(a)結合領域のすぐアミノ末端、(b)リンカーモジュールの間に介在してこれらを結合する、(c)結合ドメインのすぐカルボキシ末端、(d)結合ドメイン(たとえば、scFv)をエフェクタードメインに介在させてこれらを結合する、(e)結合ドメインのサブユニット間に介在してこれらを結合する、または(f)単鎖融合タンパク質のアミノ末端に位置してもよい。ある実施形態では、1つ以上の接合アミノ酸がタグカセットと疎水性部分との間に配置されてこれらを接続してもよく、タグカセットとコネクタ領域との間に配置されてこれらを接続してもよいし、タグカセットとリンカーモジュールとの間に配置されてこれらを接続してもよく、タグカセットと結合ドメインとの間に配置されてこれらを接続してもよい。
【0218】
膜貫通ドメイン
特定の態様では、CARは、CARの細胞外ドメインおよび細胞内ドメインに融合している膜貫通ドメインを含む。一態様では、天然でCARのドメインのうちの1つと会合している膜貫通ドメインを使用する。場合によっては、膜貫通ドメインを選択するかアミノ酸置換によって修飾し、そのようなドメインが同一または異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインと結合するのを回避して、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小化することができる。
【0219】
膜貫通ドメインは、天然供給源に由来するものであってもよいし、合成供給源に由来するものであってもよい。供給源が天然である場合、ドメインは、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来するものであってもよい。本発明における特定用途の膜貫通領域は、T細胞受容体のα鎖、β鎖またはζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154由来のものであってもよい(すなわち、それらの少なくとも膜貫通領域を含む)。一般に、本明細書に記載のCARの膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメインである。
【0220】
あるいは、膜貫通ドメインは合成であってもよく、その場合、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を主に含むことになる。一般に、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが、合成膜貫通ドメインの各末端に見られることになる。任意に、一般に2~10アミノ酸長の短いオリゴリンカーまたはポリペプチドリンカーが、CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインとの間の結合を形成しうる。グリシン-セリンダブレットは、特に適したリンカーを提供する
スペーサードメイン
CARの細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの間またはCARの細胞質ドメインと膜貫通ドメインとの間には、ヒンジドメインとも呼ばれるスペーサードメインが組み込まれていてもよい。本明細書で使用する場合、「スペーサードメイン」という用語は、一般に、ポリペプチド鎖において膜貫通ドメインを細胞外ドメインまたは細胞質ドメインのいずれかに結合し、細胞表面からCEACAM6結合ドメインを上昇させるように機能する、任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドのことを意味する。スペーサードメインは、最大で300個のアミノ酸、一般に10~100個のアミノ酸、最も一般には25~50個のアミノ酸を含み得る。スペーサーは、たとえば、ヒトIgG1 Fcドメイン、IgG1ヒンジ、IgG1ヒンジ-CD8ストーク、CD8ストーク、IgG1ヒンジ-CD28ストーク、CD28ストークのうちの1つを含んでもよい。
【0221】
細胞質ドメイン
本明細書に記載のCARの細胞質ドメインまたは細胞内シグナル伝達ドメインは、CARがその中にある免疫細胞の正常なエフェクター機能のうちの少なくとも1つの活性化の原因である。「エフェクター機能」という用語は、細胞の特化した機能をいう。たとえば、T細胞のエフェクター機能は、細胞溶解活性またはサイトカインの分泌を含むヘルパー活性である場合がある。したがって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクター機能シグナルを伝達し、特化した機能を細胞に果たさせるタンパク質の一部のことをいう。通常はシグナル伝達ドメイン全体を用いることができるが、多くの場合には、鎖全体を用いる必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの短縮部分が用いられる限り、そのような短縮部分は、エフェクター機能シグナルを伝達するのであればインタクトな鎖の代わりに用いられてもよい。よって、細胞内シグナル伝達ドメインという用語は、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な、シグナル伝達ドメインの任意の短縮部分を含むことを意図している。
【0222】
本明細書に記載のCARで使用するための細胞内シグナル伝達ドメインの典型例として、抗原受容体結合後にシグナル伝達を開始するように協力して作用する、T細胞受容体(TCR)および共受容体の細胞質配列ならびに、これらの配列の任意の誘導体またはバリアント、同じ機能的能力を有する任意の合成配列があげられる。
【0223】
一次細胞質シグナル伝達配列は、刺激する方法または阻害する方法のいずれかで、TCR複合体の一次活性化を調節する。刺激する形で作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシン活性化モチーフまたはITAMとして知られるシグナル伝達モチーフを含有してもよい。
【0224】
本発明において特に役に立つ、ITAMを含有する一次細胞質シグナル伝達配列の例としては、TCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、CD66d由来のものが含まれる。本明細書に記載のCARにおける細胞質シグナル伝達分子は、CD3ζ由来の細胞質シグナル伝達配列を含むことが、特に典型的である。
【0225】
典型的な態様において、CARの細胞質ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを単独で、あるいは本明細書に記載のCARに関連して有用な他の任意の望ましい細胞質ドメインと組み合わせて含むように設計することができる。たとえば、CARの細胞質ドメインは、CD3ζ鎖部分および1つ以上の共刺激シグナル伝達領域を含むことができる。共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの一部のことをいう。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的な応答のために必要とされる、抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。そのような分子の例として、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、KG2C、B7-H3、CD83特異的結合リガンドなどがあげられる。
【0226】
本明細書に記載のCARの細胞質シグナル伝達部分内の細胞質シグナル伝達配列は、ランダムな順序または特定の順序で互いに結合されていてもよい。任意に、一般には2~10アミノ酸長の短いオリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカーが結合を形成してもよい。グリシン-セリンダブレットが特に適切なリンカーとなる。
【0227】
一態様において、細胞質ドメインは、CD3ζのシグナル伝達ドメインとCD28のシグナル伝達ドメインを含むように設計されている。別の態様において、細胞質ドメインは、CD3ζのシグナル伝達ドメインと4-1BBのシグナル伝達ドメインを含むように設計されている。さらに別の態様では、細胞質ドメインは、CD3ζのシグナル伝達ドメインとCD28および4-1BBのシグナル伝達ドメインを含むように設計されている。
【0228】
一態様において、本明細書に記載のCARの細胞質ドメインは、CD28および/または4-1BBのシグナル伝達ドメインならびにCD3-ζのシグナル伝達ドメインを含むように設計されている。
【0229】
ベクター
本発明のDNAが挿入されるベクターも本明細書に記載される。レンチウイルスなどのレトロウイルスに由来するベクターは、長期的な遺伝子導入を達成するための適したツールである。なぜなら、このようなベクターが、導入遺伝子の長期的で安定的な組み込みと娘細胞における導入を可能にするためである。レンチウイルスベクターには、マウス白血病ウイルスなどのオンコレトロウイルスに由来するベクターよりも利点がある。それらのベクターが、肝細胞などの非増殖性細胞の形質導入も行うことができるためである。また、それらのベクターには、免疫原性が低いという利点も加わっている。
【0230】
簡単に説明すると、CARをコードする天然または合成の核酸の発現は一般に、CARポリペプチドまたはその一部をコードする核酸をプロモーターと発現調節できるように結合させて、その構築物を発現ベクターに組み入れることによって達成される。ベクターは、真核生物における複製と組み込みに適している。典型的なクローニングベクターは、転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、開始配列、所望の核酸配列の発現の調節に有用なプロモーターを含有する。
【0231】
本発明の発現構築物を標準的な遺伝子デリバリープロトコールを用いる核酸免疫療法および遺伝子療法に用いることもできる。遺伝子デリバリーのための方法は、従来技術において知られている。たとえば、米国特許第5,399,346号、第5,580,859号、第5,589,466号(これらの内容全体を本明細書に援用する)を参照のこと。別の態様において、本発明は、遺伝子療法ベクターを提供する。
【0232】
核酸は、様々な種類のベクターにクローニングすることができる。たとえば、核酸を、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、コスミドを含むがこれらに限定されるものではないベクターにクローニングすることができる。特に注目されるベクターとして、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、シークエンシングベクターがあげられる。
【0233】
さらに、発現ベクターを、ウイルスベクターの形で細胞に与えることもできる。ウイルスベクター技術は従来技術において周知であり、たとえば、Sambrookら(2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)、ならびにウイルス学および分子生物学の他のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスおよびレンチウイルスがあげられるが、これらに限定されるものではない。一般に、好適なベクターは、少なくとも1つの生物において機能する複製起点、プロモーター配列、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、1つ以上の選択可能なマーカーを含有する(たとえば、WO01/96584号;WO01/29058号;米国特許第6,326,193号(これらの内容全体を本明細書に援用する)を参照のこと)。
【0234】
多数のウイルスをベースにしたシステムが、哺乳動物細胞への遺伝子導入用に開発されている。たとえば、レトロウイルスは、遺伝子デリバリーシステムのための好都合なプラットフォームとなる。従来技術において知られた手法を用いて、選択された遺伝子をベクターに挿入し、レトロウイルス粒子にパッケージングすることができる。続いて、組換えウイルスを単離して、被検体の細胞にin vivoまたはex vivoでデリバリーすることができる。多数のレトロウイルスシステムが従来技術において知られている。いくつかの態様では、アデノウイルスベクターを使用する。多数のアデノウイルスベクターが従来技術において知られている。一態様では、レンチウイルスベクターを用いる。
【0235】
他のプロモーター因子、たとえばエンハンサーなどは、転写開始の頻度を調節する。一般に、これらは開始部位よりも30~110bp上流の領域に位置するが、最近になって多数のプロモーターが開始部位の下流にも機能的因子を含むことが示されている。多くの場合、プロモーター因子間の間隔は変動可能であるため、因子同士が互いに逆位になったり移動したりしてもプロモーターの機能は保持される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターでは、活性が低下しはじめる前に、プロモーター因子間の間隔を50bpまで増すことができる。プロモーターによっては、個々の因子が協調的にまたは独立して、転写を活性化するように機能できると思われる。
【0236】
好適なプロモーターの一例に、サイトメガロウイルス(CMV)の最初期プロモーター配列がある。このプロモーター配列は、自己に転写制御できるように結合されたポリ塩基配列の高レベルの発現を作動させることのできる、強力な構成性プロモーター配列である。好適なプロモーターのもう1つの例に、伸長増殖因子-1α(Elongation Growth Factor-1α)(EF-1α)がある。しかしながら、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復配列(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーターならびに、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーターおよびクレアチンキナーゼプロモーターなどであるがこれらには限定されないヒト遺伝子プロモーターを含むがこれらに限定されるものではない、他の構成性プロモーター配列を用いることもできる。さらに、本発明は、構成性プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターも本発明に記載の一部として企図される。誘導性プロモーターを使用することで、それと転写制御できるように結合されたポリ塩基配列の発現を、そのような発現が望まれる場合には有効にし、発現が望まれない場合には無効にすることができる、分子スイッチが提供される。誘導性プロモーターの例として、メタロチオニンプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、テトラサイクリンプロモーターがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0237】
CARポリペプチドまたはその一部の発現を評価するために、細胞に導入される発現ベクターに、選択マーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子またはその両方を含有させ、ウイルスベクターによってトランスフェクトまたは感染させようとする細胞の集団からの発現細胞の同定および選択を容易にすることもできる。他の態様において、選択マーカーを別のDHA片に保持させ、同時トランスフェクション法に用いることもできる。宿主細胞での発現を可能にするために、選択マーカー遺伝子とレポーター遺伝子のどちらも適切な調節配列に隣接させることができる。有用な選択マーカーとして、たとえば、neoなどの抗生物質耐性遺伝子があげられる。
【0238】
レポーター遺伝子は、トランスフェクトされた可能性のある細胞を同定するためと、調節配列の機能性を評価するために用いられる。通常、レポーター遺伝子とは、レシピエント生物もしくは組織に存在しないか、それらによって発現されず、かつ、容易に検出可能な何らかの特性、たとえば、酵素活性によって発現が明らかになるポリペプチドをコードする遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、DNAをレシピエント細胞に導入した後の適した時点でアッセイされる。好適なレポーター遺伝子として、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌性アルカリホスファターゼをコードする遺伝子または緑色蛍光性タンパク質の遺伝子(たとえば、Ui-Tei et al., 2000 FEBS Letters 479:79-82)があげられる。好適な発現系は周知であり、公知の手法を用いて調製してもよいし、市販のものを入手してもよい。通常、レポーター遺伝子の発現が最も高レベルで示される最小限の5’フランキング領域を有する構築物が、プロモーターとして同定される。そのようなプロモーター領域をレポーター遺伝子と結合して、プロモーターにより作動する転写を作用物質がモジュレートする能力の評価に用いることができる。
【0239】
細胞に遺伝子を導入して発現させる方法は、従来技術において知られている。発現ベクターに関連して、ベクターを、たとえば哺乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞または昆虫細胞などの宿主細胞に、従来技術における任意の方法で容易に導入することができる。たとえば、発現ベクターを、物理的、化学的または生物学的手段によって宿主細胞に導入することができる。
【0240】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための物理的方法としては、リン酸カルシウム沈殿法、リポフェクション、微粒子銃法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどがあげられる。ベクターおよび/または外因性核酸を含む細胞を作製するための方法は、従来技術において周知である。たとえば、Sambrook et al. (2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)を参照のこと。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する一般的な方法のひとつが、リン酸カルシウムトランスフェクションである。
【0241】
注目のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法としては、DNAベクターおよびRNAベクターの使用があげられる。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、ヒト細胞などの哺乳動物細胞に遺伝子を挿入するために最も広く使用される方法となっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI型、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどに由来するものであってもよい。たとえば、米国特許第5,350,674号および第5,585,362号を参照のこと。
【0242】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段としては、高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズなどのコロイド分散系ならびに、水中油型エマルション、ミセル、混合ミセルおよびリポソームを含む脂質をベースとした系があげられる。インビトロおよびインビボでデリバリー媒体として用いるための例示的なコロイド系の1つがリポソーム(たとえば、人工膜小胞)である。
【0243】
非ウイルス性のデリバリーシステムを用いる場合、例示的なデリバリー媒体の1つはリポソームである。宿主細胞への核酸の導入用には、脂質調製物が企図される(in vitro、ex vivoまたはin vivo)。別の態様において、核酸を脂質と会合させてもよい。脂質と会合した核酸をリポソームの水性の内部に封入し、リポソームの脂質二重層の内部に点在させ、リポソームおよびオリゴヌクレオチドの両方と会合する結合分子を介してリポソームと結合させ、リポソーム内に封じ込め、リポソームと複合体を形成させ、脂質を含有する溶液に分散させ、脂質と混合し、脂質と合わせ、脂質中に懸濁物として含有させ、ミセル中に含有させるかもしくはミセルと複合体を形成させ、あるいは他の方法で脂質と会合させることができる。脂質、脂質/DNAまたは脂質/発現ベクターが会合した組成物は、溶液中のいかなる特定の構造にも限定されるものではない。たとえば、そのような組成物が二重層構造の中にミセルとして、または「崩壊した」構造として存在しうる。また、溶液中に単に点在し、大きさも形状も一定ではない凝集物を形成する可能性があってもよい。脂質は、天然脂質であっても合成脂質であってもよい脂肪性物質である。たとえば、脂質としては、細胞質中に天然に存在する脂肪小滴ならびに、たとえば脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、アルデヒドなどの長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体を含むクラスの化合物があげられる。
【0244】
使用に適した脂質は、販売元から入手することができる。たとえば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)はSigma, St. Louis, MOから入手することができ、ジアセチルホスフェート(「DCP」)はK & K Laboratories(Plainview, NY)から入手することができ、コレステロール(「Choi」)はCalbiochem-Behringから入手することができ、ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質は、Avanti Polar Lipids, Inc.(Birmingham, AL)から入手することができる。クロロホルムまたはクロロホルム/メタノールに入れた脂質のストック溶液は、約-20℃で保存することができる。クロロホルムはメタノールよりも簡単に蒸発するため、クロロホルムを唯一の溶媒として用いる。「リポソーム」とは、閉じた脂質二重層または凝集物の生成によって形成される、様々な単層および多重層の脂質媒体を包含する総称である。リポソームは、リン脂質二重層膜による小胞構造と内部の水性媒質を有するものと特徴づけることができる。多重層リポソームは、水性媒質で隔てられた複数の脂質層を有する。これらの層は、リン脂質を過剰量の水溶液に懸濁させると自発的に形成される。脂質成分は自己再配列を起こし、その後に閉鎖構造の形成が生じて水と溶解された溶質が脂質二重層の間に封じ込められる(Ghosh et al., 1991 Glycobiology 5:505-10)。しかしながら、溶液中で通常の小胞構造とは異なる構造を持つ組成物も企図される。たとえば、脂質がミセル構造をとってもよく、単に脂質分子の不均一な凝集物として存在してもよい。また、リポフェクタミン-核酸複合体も企図される。
【0245】
宿主細胞に外因性核酸を導入するか細胞を本発明の阻害因子に曝露するのに用いる方法とは関係なく、宿主細胞における組換えDNA配列の存在を確認するために、様々なアッセイを実施することができる。好適なアッセイとしては、たとえば、サザンブロット法およびノーザンブロット法、RT-PCRおよびPCRなどの当業者に周知の「分子生物学的」アッセイ、あるいは、免疫学的手段(ELlSAおよびウエスタンブロット)または本発明の範囲内にある作用物質を同定するための本明細書に記載のアッセイによって、特定のペプチドの有無を検出することなどの「生化学的」アッセイがあげられる。
【0246】
トランスポゾン/トランスポゼースシステム
DNAを細胞に導入する典型的な方法としては、リン酸カルシウムおよびポリエチレングリコールなどのDNA縮合試薬、リポソームおよび多重膜小胞などの脂質含有試薬、ウイルスを介した方法があげられる。
【0247】
しかしながら、これらの方法にはいずれも制約がある。たとえば、DNA縮合試薬およびウイルスを介した方法では、大きさの制限がある。さらに、ウイルスによる方法では、細胞内にトランスフェクトすることができる核酸の量が限られている。すべての方法において、デリバリーされた核酸を細胞の核酸に容易に挿入できるわけではないが、DNA縮合法と脂質含有試薬は、調製が比較的容易であり、ウイルスベクターに核酸を挿入するには労力が必要になる場合がある。さらに、ウイルスを介した方法は、細胞型または組織型に特異的なことがあり、また、ウイルスを介した方法ではin vivoで使用する場合に免疫学的な問題を生じる可能性がある。
【0248】
これらの問題の解消に適したツールの1つがトランスポゾンである。トランスポゾン(または転移因子)は、上流と下流に端末反復配列を持つ(短い)核酸配列を含む。活性トランスポゾンは、核酸の切断と標的DNA配列に対する挿入を容易にする酵素をコードする。
【0249】
現在、トランスポゾンには2つのクラス(すなわちクラスIおよびクラスII)が知られている。
【0250】
レトロトランスポゾンまたはレトロポゾンとも呼ばれるクラスIのトランスポゾンとしては、レトロウイルスに似たレトロトランスポゾンおよびレトロウイルスに似ていないレトロトランスポゾンがあげられる。クラスIのトランスポゾンは、自己をコピーして複数の位置でコピーをゲノムに貼り戻すことで作用する。まず、レトロトランスポゾンは自己をRNAにコピー(転写)するが、翻訳されるのではなく逆転写酵素(トランスポゾン自体にコードされていることが多い)によってRNAがDNAにコピーされ、ゲノムに挿入して戻される。クラスIトランスポゾンの典型的な例として、たとえば、Copia(ショウジョウバエ)、Ty1(酵母)、THE-1(ヒト)、Bs1(トウモロコシ)、F-因子、L1(ヒト)またはCin4(トウモロコシ)があげられる。
【0251】
第1のステップとして、クラスIIのトランスポゾンは、ウイルス感染などの標準的な方法で細胞にトランスフェクトされる必要がある。これに続いて、「DNAのみのトランスポゾン」とも呼ばれるクラスIIのトランスポゾンは、コピー&ペースト機構ではなくカット&ペースト機構によって移動し、この機構でトランスポゼース酵素を使う。トランスポゼースのタイプが異なれば、作用する方法も異なる場合がある。トランスポゼースによっては、DNA分子のどの部分にも結合可能であり、標的部位もどこにあってもよいが、特定の配列に結合するトランスポゼースもある。その後、トランスポゼースは標的部位をカットして粘着性の末端を作り、トランスポゾンを放出し、このトランスポゾンを標的部位にライゲートする。クラスIIの典型的な例としては、P因子(ショウジョウバエ)、Ac-Ds(トウモロコシ)、TN3およびIS1(大腸菌)、Tam3(キンギョソウ)などがあげられる。
【0252】
特に、クラスIIのトランスポゾンでは、因子にコードされたトランスポゼースが、トランスポゾンの元の位置からの切断を触媒し、ゲノムの他の位置への挿入を促進する(Plasterk, 1996 Curr. Top. Microbiol. Immunol. 204, 125-143)。トランスポゾンファミリーの自律性のメンバーは、転移のトランス作用性因子である活性トランスポゼースを発現可能であるため、自らも転移可能である。非自律性の因子は変異トランスポゼース遺伝子を持つが、シス作用性DNA配列を保持することができる。これらのシス作用性DNA配列は、逆方向末端反復配列(IR)とも呼ばれる。いくつかの逆方向反復配列には、1つ以上の直列反復配列が含まれる場合がある。通常、これらの配列は、因子の端末に位置する逆方向反復配列(IR)に埋め込まれており、相補的トランスポゼースの存在下における他の因子からの移動に必要である。現在までのところ、Tol2(下記参照)を除けば脊椎動物から自律性因子は1つも単離されておらず、すべてのトランスポゾン様配列には欠損がある。これはおそらく、「垂直不活性化(vertical inactivation)」と呼ばれる過程の結果である(Lohe et al., 1995 Mol. Biol. Evol. 12, 62-72)。ある系統学モデル(Hartl et al., 1997 Trends Genet. 13, 197-201)によれば、真核生物のゲノムにおける自律性に対する非自律性因子の比率は、転移のトランス相補性がゆえに増加する。この過程によって、トランスポゼースを生成する活性コピーがゲノムにおいて最終的に消滅することが避けられない状態が生じる。その結果、DNAトランスポゾンをゲノムの一過性の構成要素とみることができる。これは、消滅を避けるために、新たな宿主で自己を定着させる方法を探さざるを得ない。実際、種をまたがる水平遺伝子導入は、トランスポゾンの進化における重要な過程の1つであると考えられている(Lohe et al., 1995 supra and Kidwell, 1992. Curr. Opin. Genet Dev. 2, 868-873)。
【0253】
水平遺伝子導入の自然な過程は、実験室での条件下で模倣することができる。植物では、Ac/DsファミリーおよびSpmファミリーのトランスポゾンが、異なる種に日常的にトランスフェクトされている(Osborne and Baker, 1995 Curr. Opin. Cell Biol. 7, 406-413)。しかしながら、動物では、1つの種から他の種に活性トランスポゾンシステムを導入するには、天然の宿主が産生する因子に対する要件に起因する、転移の種特異性という大きな障害がある。
【0254】
上述したトランスポゾンシステムは、脊椎動物および無脊椎動物の系で発生する場合がある。脊椎動物では、DNA中間体を介して転移する転移因子であるDNAトランスポゾンが発見されたのは、比較的最近である(Radice, A. D., et al., 1994. Mol. Gen. Genet. 244, 606-612)。それ以来、真核生物トランスポゾンのTd/marinerおよびhAT (hobo/Ac/Tam)スーパーファミリーの不活性で高度に変異されたメンバーが、異なる魚の種、アフリカツメガエルおよびヒトのゲノムから単離されている(Oosumi et al., 1995. Nature 378, 873; Ivies et al. 1995. Mol. Gen. Genet. 247, 312-322; Koga et al., 1996. Nature 383, 30; Lam et al., 1996. J. Mol. Biol. 257, 359-366 and Lam, W. L., et al. Proc. Natl. Acad Sci. USA 93, 10870-10875)。
【0255】
無脊椎動物と脊椎動物のどちらのトランスポゾンも、モデル生物での形質導入と挿入変異誘発の可能性を持つ。特に、同じ種における代わりのトランスポゾンシステムの利用可能性は、遺伝子分析の新しい可能性を開く。たとえば、piggyβacトランスポゾンは、安定的に挿入されたP因子の存在下、ショウジョウバエで移動することができる(Hacker et al., (2003), Proc Natl Acad Sci U S A 100, 7720-5)。P因子とpiggyBacを用いたシステムでは挿入部位の優先度が異なるため(Spradling et al. (1995), Proc Natl Acad Sci U S A 92, 10824-30, Hacker et al., (2003), Proc Natl Acad Sci U S A 100, 7720-5)、トランスポゾンの挿入によって不活性化されるハエ遺伝子の数を大幅に増やすことができる。また、P因子ベクターは、安定な生殖系列の形質転換によってmarinerトランスポゾンの構成要素をキイロショウジョウバエのゲノムに挿入する目的でも使用されている。これらのトランスジェニックハエにおいて、P因子の偶発的な移動がない条件下で、marinerの転移を研究することができる(Lohe and Hard, (2002), Genetics 160, 519-26)。
【0256】
脊椎動物では、現在、メダカのTol2因子、再構築されたトランスポゾンであるSleeping Beauty (SB)、Frog Prince (FP))という3種類の活性トランスポゾンが知られており、使用されている。脊椎動物における別の興味深いトランスポゾンシステムに、PiggyBacトランスポゾンシステム(Ding et al., Cell, 2005)がある。
【0257】
Tol2因子は、メダカにおけるhATトランスポゾンファミリーの活性メンバーである。Tol2因子は、日本のメダカ(Oryzias latipes、東アジアに生息する小型の淡水魚)のアルビノ表現型の原因となる劣勢変異によって発見された。この変異は、チロシナーゼ遺伝子の第5エキソンへの4.7kb長のTEの挿入に起因していることが見出された。Tol2と名付けられたこの因子のDNA配列は、ショウジョウバエのhobo、トウモロコシのAcoi、キンギョソウのTam3をはじめとするhATファミリーのトランスポゾンに類似している。
【0258】
Sleeping Beauty (SB) は、魚から得られるTc1/mariner様因子であり、in vivoにおける脊椎動物の様々な培養細胞株、胚性幹細胞、マウスの体細胞と生殖細胞の両方において高い転移活性を示す。
【0259】
また、Frog Prince (FP)もTcl/mariner様因子であり、最近、キタヒョウガエル(Rana pipiens)のゲノムのトランスポゾンのコピーから再活性化された。オープンリーディングフレームトラップ法が、非断続トランスポゼースコード領域の同定に使用され、これらの配列に共通する多数決原理によって活性トランスポゼース遺伝子が現れた。このように、SBの「復活」工程とは対照的に、Rana pipiensのゲノム因子が比較的若い状態にあることから、単一の種に由来するトランスポゾンのコピーに基づいて、共通の多数決原理を行うことができるのである。SBトランスポゾンとFPトランスポゾンは、トランスポゼース配列の同一性が-50%にしかならず、明確に区別することが可能である
上述したようなトランスポゾン、Tol2、SB、FPならびにpiggyback(Ding et al., Cell 2005)は相互作用しないため、他のトランスポゾンの存在下で遺伝的ツールとして使用することができる。これによって、これらの因子の用途が大幅に広がることになる。これらのトランスポゾンが、発現された遺伝子と非コードDNAに挿入される優先度、遺伝子内の挿入部位に関する優先度は、大きく異なる場合がある。優先度が異なる場合には、挿入パターンの異なるこれらのトランスポゾンシステムを、相補的な方法で利用することができる。たとえば、異なるトランスポゾンシステムを使用すれば、挿入済みの導入遺伝子に予想外にも望ましくない移動を生じることなく、いくつかの導入遺伝子を連続して細胞にトランスフェクトすることができる。また、ゲノム全体のスクリーニングに異なるトランスポゾンシステムを組み合わせることで、トランスポゾンベクターによって変異誘発され得る標的の遺伝子座の数を劇的に増やすことができる。
【0260】
また、宿主における転移活性のばらつきおよび標的部位の特異性の差に加えて、用途によっては様々な因子の異なる構造的性質が利点となり得る。たとえば、トランスポゾンの挿入を利用して遺伝子を誤発現させ、機能獲得性の表現型を探すことができる。Rorth, P. (1996, A modular misexpression screen in Drosophila detecting tissue-specific phenotypes. Proc Natl Acad Sci U S A 93, 12418-22.)は、支配下に誘導性プロモーターを有する改変P因子トランスポゾンを使用して、トランスポゾン挿入部位付近の宿主遺伝子を強制的に発現させ、組織特異的な表現型を検出した。このような実験セットアップの前提条件は、トランスポゾンのIRによって、IRの間で転写/翻訳を行うことができることである。
【0261】
上述したように、DNAトランスポゾンは、無脊椎動物モデル生物における形質導入ベクターとして開発され、最近になって、脊椎動物でも開発されている。また、DNAトランスポゾンは、ヒト遺伝子療法でのレトロウイルスシステムの強力なライバルになった。上述したように、実験室での取り扱いが容易で制御可能な性質から、遺伝子分析および治療法で最も有用な転移因子(TE)は、「カット&ペースト」機構を介して宿主ゲノムで移動するクラスIIのTEである。Sleeping Beauty(以下、「SB」と略す)は、「カット&ペースト」トランスポゾンのTcI/marinerファミリーに属する。これらの移動可能なDNA因子は、単純な構成を有し、逆方向末端反復配列(ITR)に隣接するゲノムでトランスポゼースタンパク質をコードしている。ITRは転移に必要なトランスポゼース結合部位を持つ。トランスポゼース源とITRを持つ転移可能なDNAとを分離することによって、ITRの活性を容易に制御し、これによって非自律性TEを作製することが可能である。このような2つの構成要素からなるシステムにおいて、トランスポゾンは、トランスポゼースタンパク質をトランス補充するfr3/75によってしか移動できない。実験における必要性にあわせて、実用上すべての注目配列をITR因子の間に配置することができる。転移によって、ベクターDNAから因子が切除され、その後、単一のコピーが新たな配列環境に組み込まれる。
【0262】
通常、トランスポゾンを介した染色体の挿入は、ウイルスを用いる手法より有利であるように思われる。これは、一方では、ウイルスシステムと比較した場合、トランスポゾンが活性遺伝子や5’調節領域をさほど好まないため、これらの遺伝子や領域に変異が生じない傾向にあり、他方では、所望の遺伝子を染色体に挿入するトランスポゾンの特殊な機構が、より生理的に制御されるからである。
【0263】
SBは、様々な脊椎動物モデル生物における機能的ゲノミクスにとって価値のあるツールであることが証明され(Miskey, C, Izsvak, Z., Kawakami, K. and Ivies, Z. (2005); DNA transposons in vertebrate functional genomics. Cell Mol. Life. Sci. 62: 629-641)、ヒト遺伝子治療の用途で有望であることが示されている(Ivies, Z. and Izsvak, Z. (2006). Transposons for gene therapy; Curr. Gene Ther. 6: 593-607)。しかしながら、これらの用途ではいずれも、システムの転移活性が有用性と効率の重要な問題である。今日の時点でよく知られ、説明されているように、機能的かつ有用であるにもかかわらず、依然としてSBシステムが行き詰まる一因がトランスポゼース活性であるようである。したがって転移活性を顕著に向上させることで、どちらの方向からも現在の実験的な障壁を打ち砕くことができる。
【0264】
複数の態様において、SB 10トランスポゼースの高活性バリアントが本明細書に記載の方法で使用される。特定の態様において、高活性バリアントは、全文を本明細書に援用するWO2009/003671に記載されているものであってもよい。たとえば、K14R、K13D、K13A、K30R、K33A、T83A、I100L、R115H、R143RL、R147E、A205K/H207V/K208R/D210E、H207V/K208R/D210E、R214D/K215A/E216V/N217Q、M243H、M243Q、E267D、T314N、G317Eから選択される変異または変異群の少なくとも1つを含む、配列番号8の天然SB 10トランスポゼースの配列とはアミノ酸1~20個だけ異なるアミノ酸配列を含むSB 10トランスポゼースのバリアントから選択されるポリペプチド。
【0265】
配列番号8は、以下のとおりである。
【0266】
本明細書では、単数または複数の「変異」を、公知のアミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸を他のアミノ酸に交換することと定義し、特に断りがある場合、単数または複数の「変異群」と表示する場合もある。本明細書では、「変異群」とは、もとの配列のたとえば3個または4個のアミノ酸を、表記の位置で3個または4個の他のアミノ酸と交換することと定義される。定義として、以下の記号を使用して上記変異を特定する。「X数字Z」は、もとのアミノ酸配列の「数字」の位置におけるアミノ酸「X」がアミノ酸「Z」と交換されることを意味するのに対し、「X数字Y/X’数字’Z’/X’’数字’’Z’’」は、この変異において、「数字」の位置におけるアミノ酸「X」、「数字’」の位置におけるアミノ酸「X’」、「数字’’」の位置におけるアミノ酸「X’’」が各々、アミノ酸「Z」、「Z’」および「Z’’」と同時に交換されることを意味する。「変異の組み合わせ」が定義される場合、「//」は、この組み合わせにおける「同時変異」を区別して示すために用いるが、他の点では1本のスラッシュ「/」と同一である。
【0267】
別の典型的な態様において、バリアントは、少なくとも2個または少なくとも1~8個、典型的には2~7個の上述した変異または変異群、さらに典型的には少なくとも4~7個の上記の変異または変異群だけ異なる。
【0268】
別の態様において、SB 10トランスポゼースのバリアントは、以下の変異の組み合わせを含むバリアントから選択される。
【0269】
典型的な態様では、トランスポゼースはSB100Xトランスポゼースであり、上記のリストではVariant 27として示してある。
【0270】
免疫細胞
本明細書に記載の免疫細胞の増加と遺伝子改変の前に、被検体から免疫細胞源を取得する。どのような免疫細胞源であっても使用でき、自己のものであっても、同種、異種、同系のものであってもよいことは理解できよう。典型的な態様では、免疫細胞は自己または同種免疫細胞である。
【0271】
たとえば全文を本明細書に援用するWO2016/071513に記載されているように、すでに知られている任意の方法でPBMCを取得した後に刺激して、CIK細胞にすることができる。このCIK細胞をCIK CAR細胞にすることができる。あるいは、すでに知られている任意の方法でT細胞を取得し、これを用いてCAR-T細胞を作製することもできる。
【0272】
本明細書で説明するようなCARを発現させるための免疫細胞の遺伝子改変の前または後のいずれかにおいて、通常、たとえば米国特許第6,352,694号、同第6,534,055号、同第6,905,680号、同第6,692,964号、同第5,858,358号、同第6,887,466号、同第6,905,681号、同第7,144,575号、同第7,067,318号、同第7,172,869号、同第7,232,566号、同第7,175,843号、同第5,883,223号、同第6,905,874号、同第6,797,514号、同第6,867,041号ならびに米国特許出願公開第20060121005号、WO2016/071513(いずれも内容全体を本明細書に援用する)に記載された方法を使用して、免疫細胞を活性化して数を増やすことができる。
【0273】
治療用途
本明細書に記載のCARおよびCARを発現する免疫細胞は、CEACAM6抗原を遮断して、浸潤性を低下させる。また、結合によって、CAR-T細胞またはCIK CAR細胞が活性化され、免疫細胞によるがん細胞を殺すこと刺激される。これらの抗体が化学療法薬にまさる利点は、CEACAM6抗原を過剰発現する腫瘍に対する特異性が高いことである。したがって、一般的な細胞毒性とがん細胞の化学療法抵抗性の低下につながり得る。さらに、本明細書中に記載のCARは大きさが小さいため、組織浸透力を持つ。
【0274】
本発明は、レンチウイルスベクター(LV)で形質導入された、あるいはトランスポゾンでトランスフェクトされた細胞(T細胞など)を包含する。たとえば、LVまたはトランスポゾンは、特定の抗体の抗原認識ドメインを、CD3ζ、CD28、4-1BBまたはそれらの任意の組み合わせの細胞内ドメインと組み合わせるCARをコードする。したがって、形質導入されたT細胞は、CAR媒介T細胞応答を誘発して、腫瘍の増殖を低減するとともに細胞を殺すことを誘発する一助となり得る。
【0275】
本発明は、一次T細胞の特異性を腫瘍抗原に再度向けるためのCARの使用を提供する。よって、本発明は、CARを発現するT細胞を哺乳動物に投与するステップを含む、哺乳動物における標的細胞集団または組織に対するT細胞媒介免疫応答を刺激するための方法も提供し、CARは、予め定められた標的と特異的に相互作用する結合部分、たとえばヒトCD3ζの細胞内ドメインを含むζ鎖部分、共刺激シグナル伝達領域を含む。
【0276】
一態様において、本発明は、T細胞またはCIK細胞が遺伝子改変されてCARを発現し、CAR-T細胞またはCIK-CAR細胞が、これを必要とするレシピエントに注入される、一種の細胞療法を含む。注入される細胞は、レシピエントでる腫瘍細胞を殺すことができる。抗体療法とは異なり、CAR-T細胞およびCIK-CAR細胞は、in vivoで複製することができ、長期にわたって生存して持続的な腫瘍制御につなげることができる。
【0277】
一態様において、本明細書に記載のCAR-T細胞またはCIK-CAR細胞は、in vivoでT細胞の数が大幅に増え、長時間にわたって生存することができる。別の態様において、本明細書に記載のCAR-T細胞は、再活性化されて、腫瘍がさらに形成されたり増殖したりするのを阻害することができる特定のメモリーT細胞に進化する。特定の理論に拘泥されるものではないが、CAR-T細胞は、代理抗原を発現する標的細胞と遭遇してこれを排除する際に、in vivoでセントラルメモリーのような状態に分化することができる。
【0278】
さらに、CAR修飾T細胞またはCIK細胞によって誘発される抗腫瘍免疫応答は、能動的免疫応答であってもよいし、受動的免疫応答であってもよい。さらに、CAR媒介免疫応答は、CAR修飾T細胞がCARの抗原結合部分に特異的な免疫応答を誘導する養子免疫療法の手法の一部であってもよい。たとえば、CEACAM6特異的CAR-T細胞またはCIK細胞は、CEACAM6を発現する細胞に対して特異的な免疫応答を誘発する。
【0279】
一態様では、本明細書に記載のCARの抗原結合部分の部分は、特定の抗原を発現する特定のがんを治療するように設計されている。たとえば、本明細書に記載のCARは、典型的にはCEACAM6に特異的であり、膵臓がん、卵巣がん、膀胱がん、乳がん、肺がん、肝細胞がん、結腸がんなど、CEACAM6に関連するがんおよび障害を治療するために使用することができる。
【0280】
また、本明細書に記載のCAR修飾T細胞は、哺乳動物におけるex vivoでの免疫および/またはin vivo療法のための一種のワクチンとして役立ち得る。典型的には、哺乳動物はヒトである。
【0281】
ex vivoでの免疫化に関して、細胞を哺乳動物に投与する前に、in vitroにおいて、i)細胞数の増加、ii)CARをコードする核酸の細胞への導入および/またはiii)細胞の凍結保存のうちの少なくとも1つがなされる。
【0282】
ex vivoでの手順は、従来技術において周知であり、以下でさらに説明する。簡単にいうと、哺乳動物(好ましくは、ヒト)から細胞を単離し、本明細書に開示されるCARを発現するベクターで遺伝子改変する(すなわち、in vitroで形質導入またはトランスフェクトする)。CAR修飾細胞を哺乳類のレシピエントに投与し、治療効果を提供することができる。哺乳類のレシピエントは、ヒトであってもよく、CAR修飾細胞はレシピエントにとって自己の細胞であってもよい。あるいは、細胞は、レシピエントにとって同種、同系または異種であってもよい。
【0283】
造血幹細胞および前駆細胞のex vivoで細胞数を増やす手順は、本明細書に援用する米国特許第5,199,942号に記載されており、本明細書に記載の細胞に適用することができる。他の好適な方法が従来技術において知られているため、本発明は、ex vivoで細胞数を増やす特定の方法に限定されるものではない。簡単に説明すると、T細胞のex vivoでの培養と数の増加は、(1)末梢血採取または骨髄外移植物からCD34+造血幹細胞および前駆細胞を採取すること、(2)このような細胞の数をex vivoで増やすことを含む。細胞のex vivoでの培養と数の増加には、米国特許第5,199,942号に記載された細胞増殖因子だけでなく、flt3-L、IL-1、IL-3、c-kitリガンドなどの他の因子を使用することもできる。
【0284】
ex vivoでの免疫化に関して細胞ベースのワクチンを用いることに加えて、本発明は、患者で抗原に対する免疫応答を誘発するためのin vivoでの免疫化のための組成物および方法も提供する。
【0285】
特に、本明細書に記載のCAR修飾T細胞は、CEACAM6発現がんの治療に使用される。ある態様では、本明細書に記載の細胞は、CEACAM6発現がんを発症する危険性がある患者の治療に使用される。したがって、本発明は、必要な被検体に治療有効量の本明細書に記載のCAR修飾T細胞を投与することを含む、CEACAM6発現がんの治療または予防方法を提供する。
【0286】
本発明のCAR修飾されたT細胞は、単独で投与されてもよいし、希釈剤および/またはIL-2もしくは他のサイトカインまたは細胞集団などの他の成分と組み合わせた薬学的組成物として投与されてもよい。簡単に説明すると、本発明の薬学的組成物は、1種以上の薬学的または生理学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて、本明細書で説明するような標的細胞集団を含み得る。かかる組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン、マンニトールなどの炭水化物、タンパク質、ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸、酸化防止剤、EDTAまたはグルタチオンなどのキレート剤、アジュバント(たとえば、水酸化アルミニウム)、防腐剤を含み得る。本発明の組成物は、典型的には静脈内投与用に調製される。
【0287】
本発明の薬学的組成物は、治療対象となる(または予防対象となる)疾患に適切な様式で投与すればよい。投与の量と頻度は、患者の状態、患者の疾患のタイプと重症度などの要因によって決まることになるが、適切な用量を臨床試験で決定してもよい。
【0288】
「免疫学的有効量」、「抗腫瘍有効量」、「腫瘍阻害有効量」または「治療量」が提示される場合、投与対象となる本発明の組成物の正確な量は、患者(被検体)の年齢、体重、腫瘍の大きさ、感染または転移の程度、および状態の個体差を医師が検討することによって決定することができる。一般論として、本明細書に記載のT細胞を含む薬学的組成物を、範囲内の全ての整数値を含めて、体重1kgあたり細胞104~109個の用量、典型的には体重1kgあたり細胞105~106個/の用量で投与してもよいと言うことができる。また、T細胞組成物を、これらの用量で複数回投与してもよい。細胞の投与は、免疫療法で一般によく知られている注入技術を使用して行ってもよい(たとえば、Rosenberg et al., New Eng. J. of Med. 319:1676, 1988を参照のこと)。特定の患者に最適な用量と治療レジメンは、疾患の徴候について患者をモニターし、適切に治療を調整することにより、医療分野の当業者が容易に決定することができる。
【0289】
ある態様において、活性化されたT細胞を被検体に投与した後、血液を再び採取(またはアフェレーシスを実施)し、そこから得られるT細胞を本発明に従って活性化し、これらの活性化されて数が増えたT細胞を患者に再注入すると望ましい場合がある。このプロセスを数週間ごとに複数回実行してもよい。ある態様において、10cc~400ccの採取された血液から、T細胞を活性化することができる。ある態様において、20cc、30cc、40cc、50cc、60cc、70cc、80cc、90cc、または100ccの採取された血液から、T細胞を活性化する。理論に拘泥するものではないが、このように複数回の採血/複数回の再注入で構成されるプロトコールを使用すると、あるT細胞集団を選択する上で役に立つ場合がある。
【0290】
本組成物の投与は、たとえばエアロゾル吸入、注射、経口摂取、輸注、埋め込みまたは移植などによるあらゆる便利な方式で実行することができる。本明細書に記載の組成物は、皮下、皮内、腫瘍内、リンパ節経由(intranodally)、髄内、筋肉内、静脈内(i.v.)注射または腹腔内で、患者に投与されてもよい。一態様では、本発明のT細胞組成物、を、皮内注射または皮下注射によって患者に投与する。別の態様では、本発明のT細胞組成物を、一般にi.v.注射で投与する。T細胞の組成物を、腫瘍、リンパ節または感染部位に直接注射してもよい。
【0291】
本発明のある態様においては、本明細書に記載の方法またはT細胞の数を治療レベルまで増やすことが従来技術において知られた他の方法を用いて活性化されて数が増えた細胞を、化学療法、放射線照射、たとえばシクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノレートおよびFK506などの免疫抑制剤、抗体またはCAM PATHなどの他の免疫除去薬、抗CD3抗体または他の抗体療法、サイトキシン、フルダリビン、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、サイトカイン、放射線などであるがこれらに限定されるものではない任意の数の関連する治療と組み合わせて(たとえば、その前、同時または後に)患者に投与する。これらの薬物は、カルシウム依存型ホスファターゼのカルシニューリン(シクロスポリンおよびFK506)を阻害するか、増殖因子が誘導したシグナル伝達に重要であるp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)かのいずれかである(Liu et al., Cell 66:807-815, 1991; Henderson et al., Immun 73 :316-321, 1991; Bierer et al., Curr. Opin. Immun 5:763-773, 1993)。さらに別の態様では、本発明の細胞組成物を、骨髄移植、フルダラビンなどの化学療法剤、外部ビーム照射療法(XRT)、シクロホスファミドまたはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体のいずれかを用いるT細胞除去療法と組み合わせて(たとえば、その前、同時または後に)患者に投与する。別の態様では、本発明の細胞組成物を、CD20と反応する薬剤、たとえばリツキサンなどによるB細胞除去療法の後に投与する。たとえば、一態様において、被検体は、高用量での化学療法に続いて末梢血幹細胞移植を行う標準的な治療を受けることができる。ある態様においては、移植後に、被検体は本明細書に記載の数が増えた免疫細胞の輸注を受ける。さらに別の態様において、数が増えた細胞は、手術の前または後に投与される。
【0292】
患者に投与される上記治療薬の用量は、治療される病状および治療のレシピエントの細かな性質に応じて異なることになる。ヒトへの投与に関する投与量の増減は、従来技術において許容される実施内容に従って行うことができる。たとえば、CAMPATHの用量は、一般に成人患者で1mgから約100mgの範囲であり、通常は1~30日の期間にわたって毎日投与される。典型的な一日量は1~10mgであるが、場合によっては、最大40mg/日までのより多くの用量を用いることもできる(たとえば、米国特許第6,120,766号に記載されている)。
【0293】
本発明の複数の態様において、本発明のCAR-Tを含む組成物は、使用するまで冷蔵保存するか、使用に必要となるまで凍結(その後解凍)することができる。これらの組成物は、CEACAM6がんの治療的処置のためのCAR-T細胞の「バンク」として調製および提供されてもよい。
【0294】
本発明の実施形態では、細胞療法に使用される細胞はキットで提供され、場合によっては、実質的に細胞がキットの唯一の構成要素である。キットは、所望の細胞を作製するための試薬および材料を含んでもよい。特定の実施形態では、試薬および材料は、所望の配列を増幅するためのプライマー、ヌクレオチド、適切な緩衝液または緩衝試薬、塩などを含み、場合によっては、試薬は、ベクターおよび/または本明細書に記載のCARをコードするDNAおよび/またはその調節要素を含む。
【0295】
特定の実施形態では、個体から1つ以上の試料を抽出するのに適したキットに、1つ以上の装置がある。装置は、シリンジ、メスなどの場合がある。
【0296】
本発明のいくつかの場合において、キットは、細胞療法の実施形態に加えて、化学療法、ホルモン療法および/または免疫療法などの二次的ながん療法も含む。キットは、個人用の特定のがんに合わせて作られていてもよく、個人用のそれぞれの二次的ながん療法を含んでもよい。
【実施例】
【0297】
以下の実験例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。これらの例は例示のみを目的として提供されるものであり、別途記載がないかぎり限定を意図したものではない。したがって、本発明は、以下の例に限定されると解釈されるものではなく、本明細書で示された教示の結果として明らかになるすべての変更も包含すると解釈されるものとする
これ以上の説明がなくても、当業者であれば、上記の説明と以下の例示的な例を用いて、本発明の化合物を作成して利用し、特許請求の範囲に記載の方法を実施することができると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の典型的な態様を具体的に指摘しており、本開示の残りを何ら限定するものとは解釈されるものではない。
【0298】
調査結果の概要
CEACAM6は、乳がん、膵臓がん、結腸直腸がん、非小細胞肺腺がんなどヒトにおける多くの種類のがんで過剰発現しており、生存全体および無病生存の独立した予測因子である。抗体によってこの分子を標的とすると、ある動物モデルでは腫瘍の進行が遅れている。2A3は、whole cancer cell immunized llama libraryから単離されたラクダのシングルドメイン抗体である。この抗体は高い親和性(SPRで測定して5nM)でCEACAM6抗原に特異的に結合し、CEACAM6発現がん細胞の増殖をin vitroで阻害する。本試験では、キメラCD3ζに融合した修飾キメラCD28シグナル伝達ドメインを作製するために2A3抗体配列を形質導入してキメラ抗原受容体(CAR)T細胞を人為的に操作し、ヒトCEACAM6抗原を標的とするようにした。2A3抗体の形質導入効率および発現はフローサイトメトリーで確認した。CEACAM6特異的CAR-T(CEACAM6-CAR-T)細胞とCEACAM6発現膵臓細胞株BxPC-3とを共インキュベーションしたところ、細胞傷害性とサイトカイン(IL-2およびIFN-γ)放出量が増えたことから、CAR-T細胞の潜在的な抗がん活性が示唆された。
【0299】
リアルタイムの細胞分析で得られるデータから、CEACAM6-CAR-T細胞によって、BxPC-3の細胞傷害性が未変性T細胞より大幅に高まることがわかった。しかしながら、CEACAM6-CAR-T細胞は陰性対照の細胞システムに対しては細胞傷害活性がかなり低かった。異種移植モデルにおけるCEACAM6-CAR-T細胞の有効性をin vivoで調べた。CIEA NOGマウスの後側腹部の皮下にBxPC3細胞を接種した。その後、3群のマウスで、1日目、8日目、15日目に、PBS、未変性T細胞またはCEACAM6-CAR-T細胞のいずれかを静脈注射した。データから、膵がん異種移植物に対してCEACAM6-CAR-T細胞の極めて高い有効性が示された。CEACAM6-CAR-T細胞は、未変性T細胞(p値=0.00025)およびPBS(p値=7.91×106)の増殖と比較して、BxPC-3異種移植物で増殖を有意に減少させた。体重の測定値に基づく毒性の影響は観察されなかった。この結果は、CEACAM6-CAR-T細胞をCEACAM6発現がんに対する有効な免疫療法剤として使用できること、ラクダのシングルドメイン抗体をCAR-T型治療に容易に採用できることを強く裏付けている。
【0300】
実施例1
CARをレンチウイルスプラスミドLenti CMV-MCS-EFla-puro (Alstem, Richmond, CA)のXbalおよびEcoRIクローニング部位にクローニングした。合成およびクローニング後、全プラスミドインサートの配列を確認した。レンチウイルスのストックを作製する前に、トランスフェクション対応DNAの産生および単離用に各CARプラスミドをE. coli BL21細胞に形質転換した。ウイルス力価は、ゲノムレンチウイルスRNAのqRT-PCR分析によって検出された。形質導入されるヒトT細胞の供給源は、Ficoll-Paque勾配により全血から単離された末梢血単核球(PBMC)であった。
【0301】
リアルタイム細胞アッセイ(RTCA)プロトコール
1日目:
A.(接着)標的細胞の準備
1.フラスコから古い培地を吸引する。
【0302】
2.5~10mLの通常の培地(血清なし)をフラスコに加え、残った血清を洗い流す。その後、培地を吸引する。
【0303】
3.フラスコに0.5mL~1mLの0.05%トリプシン-EDTAを加え、細胞を剥がす。
【0304】
4.4.5mL~9.5mLの培地(FBSあり)をフラスコに加え、培地をフラスコの底まで上下にピペッティングして細胞を単一細胞溶液にする。
【0305】
5.懸濁した細胞懸濁液を15mLのチューブに移す。
【0306】
6.細胞懸濁液を10μL取り、血球計を用いて計数し、細胞濃度を決定する。
【0307】
7.細胞懸濁液を25℃、1000rpm(または300×g)で5分間遠心処理する。
【0308】
8.遠心分離後、上清を吸引し、濃度が1×105細胞/mLになるまで細胞ペレットを培地(FBSあり)に再懸濁する。
【0309】
B.RTCAプレートの準備
1.測定するウェルに、培地のみ(細胞懸濁液に使用したものと同じ培地)を50μL加える。
【0310】
2.E-Plate(ACEA Biosciences, Inc, カタログ番号:JL-10-156010-1A)をステーションに戻す。
【0311】
3.RTCA2.0ソフトウェアを起動する。
【0312】
a.レイアウト情報を入力する。
【0313】
i.少なくともすべてのウェルを選択し、「Apply」をクリックする。これによってウェルがアクティブになる
b.スケジュールを入力する
i.手順1=バックグラウンド測定。変更しないように。
【0314】
ii.手順2=細胞のモニタリング
iii.手順3=短期間の細胞傷害性
iv.手順4=長期の細胞傷害性(「Auto」のボックスにチェック)
**各手順のサイクル数と各サイクルの間隔は変更可能**
4.[Step 1]をクリックし、[Start]を押して実験に名前を付け、培地からのバックラウンドを測定する。
【0315】
5.「Step 1」が完了したら、ステーションからE-Plateを取り外す。
【0316】
6.パートAで得られた細胞懸濁液100μLをウェルに加える(先の培地を除去しない。各ウェルに合計150μLの最終量があるはずである)。
【0317】
7.フード内で細胞を5分間沈降させる。
【0318】
8.E-Plateをステーションに戻す。
【0319】
9.[Step 2]をクリックし、[Start]を押して記録を再開する
2日目-処置:
A.CAR-Tエフェクター細胞の準備:
1.6ウェルのプレートから懸濁しているすべてのCAR-T細胞を取り出し、十分に混合する。
【0320】
2.細胞懸濁液10μLを取り、血球計を用いて細胞濃度を決定する。
【0321】
3.細胞懸濁液を25℃、1000rpm(または300×g)で5分間遠心処理する。
【0322】
4.上清を吸引し、細胞ペレットを2mLの細胞傷害性緩衝液(RPMI 1640 Phenol Free (Invitrogen) + 1% P/S (Invitrogen) + 5% Human AB Serum (Gemini Bioproducts; 100-318)に再懸濁する。
【0323】
5.手順3を繰り返す。
【0324】
6.上清を吸引し、細胞ペレットを細胞傷害性培地(Phenol red-free RPMI1640 (Invitrogen) plus 5% AB serum (Gemini Bioproducts; 100-318))に再懸濁し、最終濃度を1×106細胞/mLとする。
【0325】
B.RTCAプレートの準備
1.パートAが完了したら、早送りを押して手順3に進む。
【0326】
2.ステーションからE-Plateを取り外す。
【0327】
3.各ウェルから上清を慎重に吸引する。
【0328】
4.各ウェルに100μLの細胞傷害性培地を加える。
【0329】
5.手順3を繰り返す。
【0330】
6.各ウェルに50μLの細胞傷害性培地を加える。
【0331】
7.設計ごとにパートAで得られたCAR-T細胞懸濁液(1×105個)100μLを分注する。
【0332】
8.E-Plateをステーションに戻す。
【0333】
9.[Step 3]をクリックし、Startを押して記録を再開する。
【0334】
CARの配列:第二世代CEACAM-6 scFv-CD28-CD3ζ(配列番号5):
フローサイトメトリー用プロトコール
細胞を洗浄し、FACS緩衝液(リン酸緩衝食塩水(PBS)+0.1%アジ化ナトリウムおよび0.4%BSA)に懸濁する。次に、細胞を、1×10
6のアリコートに分割する。
【0335】
Fc受容体は、正常ヤギIgG(LifeTechnologies)でブロックされる。1:1000希釈した正常ヤギIgG 100μlを各チューブに加え、氷中で10分間インキュベートする。
【0336】
各チューブに1.0mlのFACバッファーを加え、十分に混合し、300×gで5分間スピンダウンする。
【0337】
CD19 scFvを検出するためにビオチン標識ポリクローナルヤギ抗マウスF(ab)2抗体(Life Technologies)を加える。ビオチン標識正常ポリクローナルヤギIgG抗体(Life Technologies)をアイソタイプ対照として役立つように加える。(1:200希釈、反応容量100μl)。
【0338】
細胞を4℃で25分間インキュベートし、FACS緩衝液で1回洗浄する。
【0339】
細胞をFAC緩衝液に懸濁し、100μlの1:1000希釈した正常マウスIgGを各チューブに添加することによって正常マウスIgG(Invitrogen)でブロックする。氷中で10分間インキュベートする。細胞をFACS緩衝液で洗浄し、100μlのFACS緩衝液に再懸濁する。
【0340】
次に細胞をフィコエリトリン(PE)標識ストレプトアビジン(BD Pharmingen, San Diego, CA)およびアロフィコシアニン(APC)標識CD3(eBiocience, San Diego, CA)で染色する。チューブ2および3にそれぞれ1.0μlのPEおよびAPCを加える。
【0341】
フローサイトメトリー取得はBD FacsCalibur(BD Biosciences)を用いて行い、分析はFlowJo(Treestar, Inc. Ashland, OR)を用いて行った。
【0342】
配列番号9および配列番号11は以下のとおりである。
【0343】
配列番号10
実施例2
ヒトCEACAM6に対する抗ラクダ特異的抗体を使用して、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)を作製した。これらのCAR-Tは最初、CEACAM6標的抗原を提示する細胞に対する強力な細胞傷害活性を示すことが示され、複数のPBMCドナーに対する細胞傷害効果のばらつきを観察するためにさらなる試験が開始された。
【0344】
データは、抗CEACAM6 CAR-TがT細胞の一定範囲のヒトドナーで効果的であることを示唆している。
【0345】
複数の独立したT細胞集団の形質導入物を収容するために作られた過剰のウイルスストックと、すぐには使用されなかったウイルスを-80℃で保存した。形質導入は、感染多重度(MOI)(ウイルス対細胞比)5:1で生じた。
【0346】
ドナー1 PBMCを初期抗CEACAM6データの生成に使用した。3名の追加のドナーを調べたが、追加のドナーのうちの1名から得たPBMCは、活性化と形質導入後の細胞数の増加に繰り返し困難が生じていた。このため、追加した3名のドナーのうち2名だけ後の実験に使用し、本レポートで論じる「ドナー2」および「ドナー3」を含む。したがって、ウイルスストックAを用いてドナー1のPBMCを伝子導入し、ウイルスストックBをそれぞれドナー2およびドナー3からのPBMCの伝子導入に用いた。
【0347】
リアルタイム細胞アッセイ(RTCA)、CAR-T細胞傷害性
図1および
図2の細胞傷害アッセイに使用した細胞は使用前に14~15日目まで細胞数を増加させた(ドナー1由来の細胞は14日目まで細胞数を増加させ、ドナー2および3由来の細胞は15日目まで細胞数を増加させた)。BXPC3を陽性標的細胞株として使用し、陰性標的細胞株としてPan02a細胞を使用した。標的細胞を、(96ウェルプレートの)1ウェルあたり1×10
4個の細胞を播種し、24時間インキュベートした。抗CEACAM6 CAR-T細胞を、陰性対照としての非形質導入CAR-T細胞と共に、エフェクター細胞として使用した。抗CEACAM 6 CARによる形質導入と細胞数の増加後、抗CEACAM6 CAR-T細胞を凍結ストックから導入した。CAR-T細胞を、標的細胞を含む適切なウェルに10:1の比率で加えた。
【0348】
BXPC3データは、RTCA細胞指標値によって示されるように、特異的で実質的に同一の細胞傷害性プロフィールを示唆し、初期抗CEACAM6 CAR-T細胞傷害性データを確認する。ヒトCEACAM6発現について陰性であるマウス膵臓系であるPan02a細胞は、CEACAM6 CAR-T細胞による影響を受けない。
【0349】
サイトカイン分泌アッセイ
サイトカイン分泌アッセイに使用した細胞を15日まで細胞数を増加させた。(96ウェルプレートの)1ウェルあたり1×10
4個の標的細胞を播種し、エフェクター細胞を1:1のエフェクター対標的細胞比で添加し、
図3Aおよび
図4Aに示すIFN-γとIL-2濃度をアッセイするための上清の除去前に約18時間一緒にインキュベートした。標準曲線を
図3Bおよび
図4Bに示す。
【0350】
実施例3
膵臓がん細胞、BxPC3異種移植物におけるCEACAM-6-CAR-T細胞の有効性をin vivoで試験した。前の実験で、in vitroでのBxPC3細胞に対するCEACAM-6-CAR-T細胞の高い細胞傷害性が実証された。この例では、CIEA-NOGマウス(Taconic)の後側腹部に、BxPC3細胞(マウス1匹あたり細胞2×106個)を皮下注射した。3群のマウスで、1日目、8日目、15日目に、PBS、Mock(T細胞)、CEACAM-6 CAR-T細胞(1群あたりマウス5匹)のいずれかを、PBSまたは1×107個のT細胞もしくはCARで静脈(i.v)注射した。
【0351】
データから、異種移植物マウスモデルを用いてCEACAM6 CAR-T細胞の極めて高い有効性が示された。CEACAM6 CAR-T細胞は、Mock T細胞(p値=0.00025)およびPBS(p値=7.90984E-06)の増殖と比較して、膵臓細胞BxPC3異種移植腫瘍の増殖を有意に減少させた。
【0352】
データは、膵臓がんに対するCEACAM-6 CAR-T細胞の高い治療的可能性を示唆している。
【0353】
in vitroでのT細胞活性化、形質導入、CEACAM-6 CAR-T細胞の増殖後の形質導入効率の憲章検証
形質導入対象となるヒトT細胞の供給源は、Ficoll-Paque勾配により全血から単離した末梢血単核球(PBMC)であった(付録参照)。
【0354】
細胞をIL-2(300 IU/mL)で細胞1×106個/mLに懸濁し、CD28/CD3マイクロビーズで活性化し、活性化の24時間後に組換えレンチウイルスの各ストックで形質導入した。次に、細胞を2~3日間隔で継代し、huIL-濃度を300IU/mに維持した。新鮮なCEACAM-6 CAR-T細胞を毎週新しいレンチウイルス形質導入物で調製した。新鮮なレンチウイルスを同じDNAから調製し(力価はPCRで決定し、3.40+/-0.31*108 IFU/mLに等しい)、3週間にわたって毎週形質導入に使用してCAR-T細胞を作製し、これを、BxPC3膵臓がん細胞注射後1日目、8日目、15日目に、マウス1匹あたり細胞1×107個の濃度でマウスに3回静脈(i.v.)注射(細胞2×106個/マウス皮下)した。また、対照のT細胞も同じ注射日数で同じ濃度でマウスにMock対照を注射するために培養した。
【0355】
抗マウスFab抗体を使用して、CAR-T細胞におけるCEACAM-6の発現をフローサイトメトリーで検出し、CEACAM-6 scFvを検出した。形質導入されていないT細胞を陰性対照として使用した。また、集団内のCD3陽性細胞の全体的な分布を調べるために、抗CD3抗体も使用した。フローサイトメトリーデータを
図5に示し、>26%の形質導入効率を実証する。
【0356】
BxPC3細胞に対するCEACAM-6 CAR-Tの高い細胞傷害性
RTCAアッセイ
BxPC3標的細胞に対するCEACAM-6-CAR-T細胞の細胞傷害性を、各バッチのCAR-T細胞(#1、2および3)についてリアルタイム細胞分析(RTCA)によって測定した(
図6A、
図6B、
図6C)。
【0357】
今日までのRTCAは、接着細胞システムを使用するときに信頼できるデータを提供する。我々の標的細胞はBxPC3細胞であり、エフェクター細胞は1:10の比率のCAR-T細胞であった。
【0358】
RTCA実験サンプルには以下のものが含まれる。
【0359】
(i)標的BxPC3
(ii)形質導入されていない正常CAR-T細胞(ネガティブエフェクター細胞対照)
(iii)CEACAM-6-CAR-T細胞、CEACAM-6 CARレンチウイルスで形質導入したヒトT細胞(ポジティブエフェクター細胞)。
【0360】
簡単に説明すると、CEACAM-6 CAR-Tエフェクター細胞の導入の24時間前に、1ウェルあたり1×104個で細胞を播種した。この時点から、E-plate全体のインピーダンス値を記録した。細胞がコンフルエントになったら、ウェルを洗浄し、所望のエフェクター:標的細胞比に応じて適切な数のCAR-T細胞を添加した。
【0361】
データ(
図6)は、陰性対照T細胞と比較して、CEACAM-6-CAR-TによるBxPC3細胞の細胞傷害性の有意な増加を明らかに示している。T細胞は、一部のドナーにおいて以前に見られたいくらかの細胞傷害活性を有する。
【0362】
CEACAM-6 CAR-T細胞は、in vivoでBxPC3異種移植腫瘍の増殖を有意に減少させた。
【0363】
5週齢のCIEA NOG(NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm l Sug/JicTac)雌マウスをTaconic Bioscience(Hudson, NY)から入手した。膵臓BxPC3がん細胞(マウス1匹あたり細胞2×106個)をNOGマウスの後側腹部に皮下注射した。BxPC3細胞注射の翌日、PBS、T細胞またはCEACAM-6-CAR-T細胞をマウスの静脈尾部に静脈内注射した(マウス1匹あたり1×107)。腫瘍の大きさとマウスの体重を、カリパスで週に2回測定し、以下の式を用いて腫瘍の体積を計算した:(長さ×幅2)/2。
【0364】
CEACAM-6 CAR-T細胞は、in vivoで異種移植物BxPC3腫瘍の増殖を有意に減少させた(p値対PBS=7.9E-06;p値対Mock対照T細胞=0.00025、スチューデントのt検定)(
図7)。
【0365】
CEACAM-6 CAR-T細胞はマウスの体重に影響を及ぼさなかった。
【0366】
図8は、CEACAM-6-CAR-T細胞がマウス体重に対して有毒な作用を持たないことを示し、CEACAM-6-CAR-T細胞の3回の注射後もすべてのマウスが生存していた(3回の注射の間に合計3×10
7個を注射し、これはヒトでいえば3×10
10の用量に等しい)。
【0367】
実験の終わりに、生化学的および遺伝学的分析のために異種移植腫瘍を採取した。
【0368】
図9は、CEACAM-6処置マウスにおける腫瘍重量の減少および1つの腫瘍の完全消滅を示す。
【0369】
結論
CEACAM-6-CAR-T細胞は、in vitroでBxPC3膵臓がん細胞の増殖を有意に減少させ、in vivoでBxPC3膵臓がん異種移植腫瘍の増殖を有意に減少させる。
【0370】
この結果は、CEACAM-6を膵臓腫瘍に対する新規で効果的な免疫療法治療として使用できることを強く裏付けている。
【0371】
付録A
A1.NOGマウスにおける異種移植腫瘍の増殖
表:試験デザイン
手順
1)雌、CIEA NOGマウス(登録商標)(NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm l Sug/JicTac)マウス5週齢をTaconic Bioscience(Hudson, NY)から入手した。
2)受け取り次第、5日間、マウスを動物施設に馴化させる。
3)BxPC3細胞株を注射に使用する。
・移植日(0日目)に、BxPC3細胞を遠心し、PBSで1回洗浄し、1mLあたり細胞2×10
7個でPBSに再懸濁する。
・0.10mL容量で200万個の細胞(2×10
6)を皮下注射する。
4)移植よりも後の日(1日目、8日目、15日目)に、PBS、Mock-T、CAR-T細胞を尾静脈にiv内注射する。
・処置日に、Mock-T細胞およびCAR-T細胞を遠心し、1回洗浄し、1mLあたり細胞5×10
7個でPBSに再懸濁する。
・0.20mL容量で1000万個の細胞(1×10
7)を尾静脈に静脈内注射する。
i.第1群にはPBSを注射する。
ii.第2群にはMock T細胞を注射する
iii.第3群にはCAR-T細胞を注射する
5)全ての動物を、全身活動レベルならびに罹患率および歩行不快感の臨床症状について毎日観察する。体重および腫瘍測定値を週に2回記録する。
・次の式を使用して、腫瘍体積をmm
3単位で計算する。
・(長さ×幅
2)/2
6)腫瘍体積が終点の腫瘍体積(600~1000mm
3)に達したら、動物を安楽死させ、腫瘍を採取する。安楽死の際に、全腫瘍を採取して組織カセットに保存し、急速冷凍し、-80℃で保存する。
【0372】
A2.統計分析。
群間の有意差を測定するために、スチューデントt検定を実施した。P値0.05未満を有意とした。異種移植腫瘍増殖の29日目の実験の終わりに、p値<0.001で有意な差があるとした。
【0373】
実施例4
CEACAM6 CAR-T細胞を、乳がんHCC1954細胞株、結腸腺がんLS-174T細胞株、肺がんA549細胞株に対して、RTCA(リアルタイム細胞傷害アッセイ)分析で試験した。BxPC3膵臓がん細胞株を陽性対照として使用した。データから、分析した3つ全ての細胞株において抗CEACAM6 CAR-Tが非常に有効であることがわかる。
【0374】
フローサイトメトリーによるCAR-T細胞の生成、CARの発現
新たに調製したCEACAM6 CAR-T細胞の数を13日間増加させ、抗ラマ抗体および二次抗ウサギFITC抗体を用いたフローサイトメトリーに使用した。
図10に示すように、一次ウサギ抗ラマ抗体およびアイソタイプIgG陰性対照を用いたフローサイトメトリー分析、これに続く抗ウサギFITC抗体染色は、レンチウイルスCARを用いたT細胞の効果的な形質導入およびCEACAM-6 scFvの発現を示した。CD3-APC染色は、高い割合のT細胞を検出した。
【0375】
リアルタイム細胞アッセイ(RTCA)、CAR-T細胞傷害性
13日間細胞数を増加させた、新たに調製したCAR-T細胞をRTCAアッセイに使用した。陽性標的細胞株としてBXPC3を使用した。標的細胞を、(96ウェルプレートの)1ウェルあたり細胞1×104個で播種し、24時間インキュベートした。抗CEACAM6 CAR-T細胞を、陰性対照としての非形質導入CAR-T細胞と共に、エフェクター細胞として使用した。CAR-T細胞および非形質導入T細胞を、標的細胞を含む適切なウェルに10:1(エフェクター対標的細胞)の比率で加えた。
【0376】
BxPC-3細胞での結果を
図11に示し、LS-174-T細胞での結果を
図12に示し、HCC1954細胞での結果を
図13に示し、A549細胞での結果を
図14に示す。いずれの場合も、CEACAM6 CAR-T細胞が、がん細胞に対して高い細胞傷害活性を示したことは明らかである。
【0377】
これらのデータは、膵臓がんのBxPC3細胞、乳がんのHCC1954細胞、結腸がんのLS174T細胞、肺がんのA549細胞の4種類すべての細胞株に対する特異的かつ高いCEACAM-CAR-T細胞傷害活性を示している。これらのがん細胞株はすべて、CEACAM-CAR-T細胞を用いたin vivo研究のモデル細胞として使用することができる。これらのデータは、CEACAM6 CAR-T細胞があらゆるCEACAM6発現がんに対して細胞傷害活性を有することを示唆している。
【0378】
実施例5
樹立された膵臓がんBxPC3異種移植物におけるCEACAM-6-CAR-T細胞の有効性をin vivoで試験した。上記の例において、in vitroおよびin vivoでのBxPC3細胞に対するCEACAM-6-CAR-T細胞の高い細胞傷害性は、CAR-T細胞を腫瘍細胞注射の翌日に初めて注射したときに実証された。この例では、CIEA-NOGマウス(Taconic)を使用して、後側腹部にBxPC3細胞を皮下注射した(細胞2×106個)。3群のマウスで、12日目(異種移植腫瘍の体積が100mm3に達した)、20日目、26日目に、PBS、Mock(T細胞)、CEACAM-6 CAR-T細胞(1群あたりマウス5匹)のいずれかで処置し、1×PBSまたは1×107個のT細胞もしくはCAR-T細胞で静脈(i.v)注射した。
【0379】
データは、樹立された異種移植マウスモデルを用いたCEACAM-6 CAR-T細胞の非常に高い有効性を実証している。CEACAM-6 CAR-T細胞は、PBS対照群に対して膵臓がん細胞BxPC3異種移植腫瘍の増殖を有意に減少させた(p値<0.002)。データは、膵臓がんに対するCEACAM-6 CAR-T細胞の高い治療可能性を示し、上記のin vivoでの試験結果を確認し再現している。これらの結果は、CEACAM-6-CAR-T細胞が将来の臨床試験および治療法に有用であることを示唆している。
【0380】
RTCAアッセイ
BxPC3標的細胞に対するCEACAM-6-CAR-T細胞の細胞傷害性を、各バッチのCAR-T細胞(#1、2および3)についてリアルタイム細胞分析(RTCA)によって測定した(
図15、
図16および
図17)。今日までのRTCAは、接着細胞システムを使用するときに信頼できるデータを提供する。標的細胞はBxPC3細胞であり、エフェクター細胞は1:10の比のCAR-T細胞であった。
【0381】
RTCA実験サンプルには以下のものが含まれる。
(i)標的BxPC3細胞
(ii)形質導入されていない正常CAR-T細胞(ネガティブエフェクター細胞対照)
(iii)CEACAM-6-CAR-T細胞、CEACAM-6 CARレンチウイルスで形質導入したヒトT細胞(ポジティブエフェクター細胞)。
【0382】
簡単に説明すると、CEACAM-6 CAR-Tエフェクター細胞の導入の24時間前に、1ウェルあたり1×104個で細胞を播種した。この時点から、E-plate全体のインピーダンス値を記録した。細胞がコンフルエントになったら、ウェルを洗浄し、標的細胞比10:1で適切な数のCAR-T細胞を添加した。
【0383】
データ(
図15A、B、C)は、陰性対照T細胞と比較して、CEACAM-6-CAR-T細胞によるBxPC3細胞の細胞傷害性の有意な増加を明らかに示している。対照T細胞は、一部のドナーにおいて以前に見られたいくらかの細胞傷害活性を有する。
CEACAM-6 CAR-T細胞は、in vivoで樹立されたBxPC3異種移植腫瘍の増殖を有意に減少させた。
【0384】
5週齢のCIEA NOG(NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm l Sug/JicTac)雌マウスをTaconic Bioscience(Hudson, NY)から入手した。膵臓BxPC3がん細胞(マウス1匹あたり細胞2×106個)をNOGマウスの後側腹部に皮下注射した。腫瘍の体積が100mm3に達したら、12日目、20日目、26日目に、PBS、T細胞またはCEACAM-6-CAR-T細胞をマウスの尾静脈に静脈内注射した(マウス1匹あたり1×107)。腫瘍の大きさとマウスの体重を、カリパスで週に2回測定し、以下の式を用いて腫瘍の体積を計算した:(長さ×幅2)/2。
【0385】
CEACAM-6 CAR-T細胞は、樹立された異種移植BxPC3腫瘍の増殖をin vivoで有意に減少させた(p値対PBS=0.0386、p値対Mock T細胞=0.0005、3日目、Tukeyの多重比較検定を用いた一元ANOVA)(
図16)。
CEACAM-6 CAR-T細胞は腫瘍の大きさが小さくなった。
【0386】
マウスの体重に対するCEACAM-6-CAR-T細胞の有毒な作用は観察されず(
図17)、CEACAM-6-CAR-T細胞の3回の注射後もすべてのマウスが生存した(3回の注射の間に合計3×10
7個を注射し、これはヒトでいえば3×10
10の用量に等しい)。CEACAM-CAR-T群では異常な肉眼的観察結果はなかったが、対照群では腫瘍増殖による異常な観察結果が認められた。
図18に示すように、CEACAM-6 CAR-T処置マウスでは腫瘍の大きさが小さくなり、2つの腫瘍が完全に消滅した。
【0387】
CEACAM-6-CAR-T細胞は、in vitroでBxPC3膵臓がん細胞の増殖を有意に減少させ、in vivoで樹立されたBxPC3膵臓がん異種移植腫瘍の増殖を有意に減少させた。これらの結果は、上記の結果と合わせて、CEACAM-6をCEACAM-6発現腫瘍に対する新規かつ効果的な免疫療法治療として使用できることを強く裏付けている。
【配列表】