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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】ガス分析器
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/67 20060101AFI20221118BHJP
【FI】
G01N21/67 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019551159
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2018039358
(87)【国際公開番号】W WO2019082893
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2017205223
(32)【優先日】2017-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510186292
【氏名又は名称】株式会社 マルナカ
(73)【特許権者】
【識別番号】517372999
【氏名又は名称】三弘エマテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(72)【発明者】
【氏名】中川 貢
(72)【発明者】
【氏名】榎本 和巳
(72)【発明者】
【氏名】山本 節夫
(72)【発明者】
【氏名】栗巣 普揮
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-072491(JP,A)
【文献】特開2016-170072(JP,A)
【文献】国際公開第2012/005199(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/141463(WO,A1)
【文献】特許第2926943(JP,B2)
【文献】特許第5415420(JP,B2)
【文献】特表2012-517586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - 21/74
G01M 3/00 - 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
概略筒状の形状を有する密閉可能な真空容器と、該真空容器中に設けられた陽極電極及び陰極電極と、該陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させる磁界印加手段と、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に磁界中で発生した放電発光を検出するための光検出手段とを備えてなり、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる放電発光の領域に生じる磁界を集中及び/または増強させることにより放電発光を局在化させて発光強度を増大させ、それによって低い検出下限が得られるようにする放電発光を用いたガス分析器であって、前記真空容器が前記陰極電極をなすように導電性部材で形成され、前記陽極電極が前記真空容器内で縦方向に片持梁状に延びるように前記真空容器の一方の端面側に支持固定された細長い導電性の部材からなるとともに少なくとも先端側の部分が導電性の強磁性部材で形成されており、前記陽極電極と前記陰極電極をなす前記真空容器の内周部との間の放電発光の領域において磁界が集中するように磁界印加手段としての磁石を配置して放電発光を前記陽極電極の先端部近傍に局在化させるようにしたことを特徴とするガス分析器。
【請求項2】
概略筒状の形状を有する密閉可能な真空容器と、該真空容器中に設けられた陽極電極及び陰極電極と、該陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させる磁界印加手段と、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に磁界中で発生した放電発光を検出するための光検出手段とを備えてなり、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる放電発光の領域に生じる磁界を集中及び/または増強させることにより放電発光を局在化させて発光強度を増大させ、それによって低い検出下限が得られるようにする放電発光を用いたガス分析器であって、前記真空容器が前記陰極電極をなすように導電性部材で形成され、前記陽極電極が前記真空容器内で縦方向に片持梁状に延びるように前記真空容器の一方の端面側に支持固定された細長い導電性で非磁性の部材からなるとともに、前記陽極電極に近接して沿うように片持梁状に延びる細長い強磁性体部材が先端部を前記陽極電極の先端部と同等の位置になるようにして前記真空容器の一方の端面側に支持固定されており、前記陽極電極と前記陰極電極をなす前記真空容器の内周部との間の放電発光の領域において磁界が集中するように磁界印加手段としての磁石を配置して放電発光を前記陽極電極の先端部近傍に局在化させるようにしたことを特徴とするガス分析器。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載のガス分析器において、前記陽極電極の先端部の位置の周囲である前記真空容器の周面において前記磁界印加手段である磁石を配設し、前記陽極電極の先端部近辺において放電発光が局在化されるものであることを特徴とするガス分析器。
【請求項4】
請求項に記載のガス分析器において、前記真空容器の一方の端面側に前記陽極電極が支持固定されるとともに、前記真空容器の他方の端面側に棒状の磁界印加手段である棒状磁石が片持梁状に、かつ前記陽極電極の延長方向に延びるように支持固定され、前記陽極電極の先端部と前記棒状磁石の一方の極とが対向する位置関係にあって、前記陽極電極の先端部近辺に磁界が集中して前記陽極電極の先端部近辺において放電発光が局在化されるものであることを特徴とするガス分析器。
【請求項5】
概略筒状の形状を有する密閉可能な真空容器と、該真空容器中に設けられた陽極電極及び陰極電極と、該陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させる磁界印加手段と、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に磁界中で発生した放電発光を検出するための光検出手段とを備えてなり、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる放電発光の領域に生じる磁界を集中及び/または増強させることにより放電発光を局在化させて発光強度を増大させ、それによって低い検出下限が得られるようにする放電発光を用いたガス分析器であって、前記真空容器が前記陰極電極をなすように導電性を有し、かつ強磁性体の軟磁性材料で形成され、前記陽極電極が前記真空容器内で縦方向に片持梁状に延びるように前記真空容器の一方の端面側に支持固定された細長い導電性の部材からなるとともに少なくとも先端側の部分が導電性の強磁性部材で形成されており、前記陽極電極と前記陰極電極をなす前記真空容器の内周部との間の放電発光の領域において磁界が集中するように磁界印加手段としての磁石が配置されて、該磁界印加手段としての磁石からの磁力線の多くが磁力線の通り易い強磁性体で軟磁性の前記真空容器内を通ることによって磁界が前記陽極電極の先端部近辺に集中して放電発光が局在化されるものであることを特徴とするガス分析器。
【請求項6】
概略筒状の形状を有する密閉可能な真空容器と、該真空容器中に設けられた陽極電極及び陰極電極と、該陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させる磁界印加手段と、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に磁界中で発生した放電発光を検出するための光検出手段とを備えてなり、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる放電発光の領域に生じる磁界を集中及び/または増強させることにより放電発光を局在化させて発光強度を増大させ、それによって低い検出下限が得られるようにする放電発光を用いたガス分析器であって、前記真空容器が前記陰極電極をなすように導電性を有し、かつ強磁性体の軟磁性材料で形成され、前記陽極電極が前記真空容器内で縦方向に片持梁状に延びるように前記真空容器の一方の端面側に支持固定された細長い導電性で非磁性の部材からなるとともに、該陽極電極に近接して沿うように片持梁状に延びる細長い強磁性体部材が先端部を前記陽極電極の先端部と同等の位置になるようにして前記真空容器の一方の端面側に支持固定されており、前記陽極電極と前記陰極電極をなす前記真空容器の内周部との間の放電発光の領域において磁界が集中するように磁界印加手段としての磁石が配置されて、該磁界印加手段としての磁石からの磁力線の多くが磁力線の通り易い強磁性体で軟磁性の前記真空容器内を通ることによって磁界が前記陽極電極の先端部近辺に集中して放電発光が局在化されるものであることを特徴とするガス分析器。
【請求項7】
請求項5または6のいずれか1項に記載のガス分析器において、前記陽極電極の先端部の位置の周囲である前記真空容器の周面において前記磁界印加手段である磁石を配設し、前記陽極電極の先端部近辺において放電発光が局在化されるものであることを特徴とするガス分析器。
【請求項8】
請求項に記載のガス分析器において、前記真空容器の一方の端面側に前記陽極電極が支持固定されるとともに、前記真空容器の他方の端面側に棒状の磁界印加手段である棒状磁石が片持梁状に、かつ前記陽極電極の延長方向に延びるように支持固定され、前記陽極電極の先端部と前記棒状磁石の一方の極が対向する位置関係にあって、前記陽極電極の先端部近辺に磁界が集中して前記陽極電極の先端部近辺において放電発光が局在化されるものであることを特徴とするガス分析器。
【請求項9】
概略筒状の形状を有する密閉可能な真空容器と、該真空容器中に設けられた陽極電極及び陰極電極と、該陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させる磁界印加手段と、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に磁界中で発生した放電発光を検出するための光検出手段とを備えてなり、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる放電発光の領域に生じる磁界を集中及び/または増強させることにより放電発光を局在化させて発光強度を増大させ、それによって低い検出下限が得られるようにする放電発光を用いたガス分析器であって、前記真空容器が強磁性体の軟磁性材料で形成され、細長い強磁性体部材が前記真空容器内で縦方向に片持梁状に延びるように前記真空容器の一方の端面側に支持固定され、前記真空容器の他方の端面側に棒状の磁界印加手段である棒状磁石が片持梁状に、かつ前記強磁性体部材の延長方向において前記強磁性体部材の先端部と前記棒状磁石の一方の極とが対向する位置関係となるように支持固定され、前記真空容器内において前記細長い強磁性体部材の先端部を挟む位置に対向して陽極電極及び陰極電極が配設され、該磁界印加手段としての磁石からの磁力線の多くが磁力線の通り易い強磁性体で軟磁性の前記真空容器内を通ることによって磁界が前記陽極電極の先端部近辺に集中して放電発光が局在化されるものであることを特徴とするガス分析器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析器に関し、特に低い検出下限をもつ放電発光を用いたガス分析器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス製造用真空装置をはじめ種々の真空装置では、プロセス管理を行うために真空プロセス中のガス分析を行うことが有効である。以下では、真空の程度について、日本工業規格(JIS)に従い、10-1Paから102Paを中真空、10-5Paから10-1Paを高真空、10-9Paから10-5Paを超高真空として記載する。
【0003】
各種真空装置に適用できるガス分析器には、(1)10-7Paの超高真空から102Paの中真空の広い稼働範囲を持つこと、(2)超低濃度な分圧10-7Paの低い検出下限を持つことが要求される。従来のガス分析器の中で、微量ガス濃度が検出できる四重極質量分析計は、熱フィラメントが1Paの中真空以上では損耗してしまうこと、質量分析するためのイオン化ガスの飛行距離が数センチメートル以上と長く、中真空以上ではイオン化ガスが他のガスと衝突し、質量数毎の振り分けが困難となってしまうことから、中真空での稼働が原理的に困難である。
【0004】
一般に、真空中において対向する陰極と陽極に高電圧を印加して発生させる放電は、中真空で発現し、その圧力下限は1Pa程度である。これ以下の高真空領域で放電を維持させるために、高電圧電界と磁界を印加することで放電を維持する手段があり、冷陰極電離真空計やイオンポンプなどに利用されている。この高電圧電界と磁界を印加することで発生する放電(以降では磁界放電と呼ぶ)による励起ガスの発光を検出するガス分析器が、高真空から中真空に及ぶ広い真空領域で稼働できるガス分析器として有望視され、幾つかの先行技術が提案されている。
【0005】
特許文献1では、ガスを励起する方式として磁界放電方式の一つであるペニング放電方式を採用し、イオン電流計測による全圧測定機構と各種ガスの発光強度計測による分圧測定機構を備えた真空装置用のガス分析器が開示されている。しかしながら、ペニング放電方式の場合、高電圧電界と磁界が直交していないことから10-4Pa以下で安定に放電を維持することが困難であり、且つ放電発光も弱いので、発光計測による分圧検出下限は10-3Pa程度であり、超低濃度な分圧10-7Paの低い検出下限を達成させるには問題がある。
【0006】
特許文献2、特許文献3では、ガスを励起する方式として磁界放電方式の一つである逆マグネトロン放電方式を採用し、イオン電流計測による全圧測定機構と各種ガスの発光強度計測による分圧測定機構を備えたガス分析器について開示されている。以下では、図9に示す逆マグネトロン放電式を用いた磁界放電発光検出によるガス分析器の仕組みについて説明し、その後、先行技術である特許文献2と特許文献3について記述する。
【0007】
図9に逆マグネトロン放電方式を用いた磁界放電発光検出によるガス分析器の模式図を示す。陰極となる真空容器1に陽極となる電極2が絶縁端子3を介して接続される。電極2には直流電源4と電流計5が接続されている。そして、真空容器1の外側に磁界印加手段(磁石)6が配置されている。
電極2に数キロボルトの直流電圧を印加すると、陽極の電極2と陰極の真空容器1の間に電界Eが発生する。一方、磁界印加手段6により磁界Mが発生する。陰極である真空容器1から放射された電子は、電界Eにより加速されるとともに、電界Eと磁界Mによるローレンツ力を受け磁界Mに巻き付くように螺旋運動することで、真空空間中での飛行距離が長くなり且つ磁界Mに局在する。この電子がガスに衝突することでガスは励起され、イオン化またはラジカル化し放電が発生する。図9に示すように、電界Eと磁界Mが直交する付近で強い放電が発生し、励起されたガスによる放電発光Lを発する。電子の飛行距離が長くなり且つ局在することから、10-7Paの超高真空下でも放電を維持することが可能となる。
【0008】
励起ガスによる放電発光Lは、孔付き板7を通過し、集光レンズ8を用いて光検出手段9の受光素子に集光され光検出される。ここで、放電により励起された陽イオンガスは陰極である真空容器1に衝突し、真空容器材料の粒子(原子または分子)を叩き出すスパッタリング現象が発現し、飛散粒子が真空容器内に付着してしまう。孔付き板7は、このスパッタリング現象の飛散粒子による集光レンズ8の汚れを防止するために設置される。放電発光Lは、ガス種毎に原子発光または分子発光から構成されるが、その発光波長がガス種により異なる。光検出手段9として多波長同時測定が可能なマルチチャンネル分光器を用い放電発光Lを検出することで、多数のガス種の固有発光を数秒未満の時間で計測することができる。ガス種毎の固有発光の発光強度とガスの圧力(分圧)を予め測定しておき、発光強度をガスの圧力に変換する。
【0009】
図9に示す先行技術の逆マグネトロン方式による磁界放電では、磁界印加手段6の磁石による磁界Mが電極2の電極軸と平行(電界Eと垂直)となる領域が、磁石を設置した領域に分布し、これにより放電が電極軸方向に分布する。この放電発光を集光レンズ8で集光する場合、放電発光Lが電極軸方向に広く分布していることから集光位置の範囲が広くなり、放電発光の一部だけを集光レンズ8により光検出手段9に集光しているに過ぎない。このため、従来技術のガス検出器では、10-7Paの超高真空において放電維持は可能であるものの、磁界放電発光計測による分圧検出下限は10-5Pa程度である。
【0010】
図10に模式図で示される特許文献2の磁界放電発光ガス分析器では、図9に示されるものに対して、陰極である真空容器1に導通させた有孔金属板10を配置することで、有孔金属板10の中央孔部の電界Eが増強され強い放電発光が発生し、これにより10-6Paのガス検出が可能とされている。しかし、このガス分析機器では、説明されるように有孔金属板10の中央孔部に実際に強い発光が得られるか明確ではない。
【0011】
特許文献2において、カソードのディスクの中央孔径は数ミリメートルであるが([0041])、この場合、金属板がアースシールドとなり、孔内には放電が発生しない。実際[0047]では孔内でスパッタリングが発生せず、発光が若干低下するとも記載されている。有孔金属板の中央孔部に強い発光が得られたとしても、その発光に対し、集光レンズ8が遠方に位置しており(約10cmと記載がある。)、且つその前段に防レンズ汚れのための孔付き板7を配置していることから、有孔金属板10の中央孔部の発光を光検出手段9に高効率に集光し検出精度を高めるには難点がある。
【0012】
図11に模式図で示される特許文献3の磁界放電発光ガス分析器は、逆マグネトロン型のガス分析器において、2つの円筒状磁石から構成される磁界印加手段6による磁界中で放電発光させ、放電を10-7Paまで維持することを可能としたものである。しかしながら、磁界Mの増大はあまり大きくなく、放電強度は図9に示すものと同等である。したがって、特許文献3の放電発光計測による分圧検出下限は10-5Pa程度であると考えられる。
【0013】
以上のように、先行技術である特許文献2及び特許文献3の逆マグネトロン方式の磁界放電を用いたガス検出器では、10-7Paの超高真空において放電維持は可能であるものの、超低濃度な分圧10-7Paの低い検出下限は達成されていない。これを解決するために、放電のための電圧を高く設定することが考えられるが、この場合高いスパッタリングが発生してしまい、集光レンズが汚れることによって検出精度が低下することになり、実用的でない。一方、放電はそのままで、光検出手段について極微弱光の検出が可能なフォトンカウンティング(光子計数法)を用いることも考えられるが、この場合、極微弱光の計測に数分以上の長時間を必要とすること、また装置が高コストであることから、やはり実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開昭52-131780号公報
【文献】特許第5415420号公報
【文献】特開2016-170072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
電子デバイス製造用真空装置をはじめ種々の真空装置では、プロセス管理を行うために真空プロセス中のガス分析を行うことが有効である。各種真空装置に適用できるガス分析器には、(1)10-7Paの超高真空から102Paの中真空の広い稼働範囲を持つこと、(2)超低濃度な分圧10-7Paの低い検出下限をもつことが要求される。しかし、従来のガス分析器の中で、四重極質量分析計は(2)の低い検出下限は達成されているが、(1)の広い稼働範囲は原理的に達成できない。このような背景の下、真空中のプロセスガスや残留ガスの放電発光を検出するガス分析器が提案されているが、(1)の広い真空稼働範囲がある程度達成されているものの、(2)の低い検出下限については、現状で10-5Paであり、大幅な改善が必要である。本発明は、検出精度を高め、10-7Paの超高真空を検出下限とするガス分析器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は前述した課題を達成すべくなされたものであり、請求項1による本発明のガス分析器は、概略筒状の形状を有する密閉可能な真空容器と、該真空容器中に設けられた陽極電極及び陰極電極と、該陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させる磁界印加手段と、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に磁界中で発生した放電発光を検出するための光検出手段とを備えてなり、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる放電発光の領域に生じる磁界を集中及び/または増強させることにより放電発光を局在化させて発光強度を増大させ、それによって低い検出下限が得られるようにする放電発光を用いたガス分析器であって、前記真空容器が前記陰極電極をなすように導電性部材で形成され、前記陽極電極が前記真空容器内で縦方向に片持梁状に延びるように前記真空容器の一方の端面側に支持固定された細長い導電性の部材からなるとともに少なくとも先端側の部分が導電性の強磁性部材で形成されており、前記陽極電極と前記陰極電極をなす前記真空容器の内周部との間の放電発光の領域において磁界が集中するように磁界印加手段としての磁石を配置して放電発光を前記陽極電極の先端部近傍に局在化させるようにしたものである。
【0018】
請求項による本発明のガス分析器は、概略筒状の形状を有する密閉可能な真空容器と、該真空容器中に設けられた陽極電極及び陰極電極と、該陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させる磁界印加手段と、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に磁界中で発生した放電発光を検出するための光検出手段とを備えてなり、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる放電発光の領域に生じる磁界を集中及び/または増強させることにより放電発光を局在化させて発光強度を増大させ、それによって低い検出下限が得られるようにする放電発光を用いたガス分析器であって、前記真空容器が前記陰極電極をなすように導電性部材で形成され、前記陽極電極が前記真空容器内で縦方向に片持梁状に延びるように前記真空容器の一方の端面側に支持固定された細長い導電性で非磁性の部材からなるとともに、前記陽極電極に近接して沿うように片持梁状に延びる細長い強磁性体部材が先端部を前記陽極電極の先端部と同等の位置になるようにして前記真空容器の一方の端面側に支持固定されており、前記陽極電極と前記陰極電極をなす前記真空容器の内周部との間の放電発光の領域において磁界が集中するように磁界印加手段としての磁石を配置して放電発光を前記陽極電極の先端部近傍に局在化させるようにしたものである。
【0019】
請求項による本発明のガス分析器は、請求項1または2のいずれか1項によるガス分析器において、前記陽極電極の先端部の位置の周囲である前記真空容器の周面において前記磁界印加手段である磁石を配設し、前記陽極電極の先端部近辺において放電発光が局在化されるものである。

【0020】
請求項による本発明のガス分析器は、請求項によるガス分析器において、前記真空容器の一方の端面側に前記陽極電極が支持固定されるとともに、前記真空容器の他方の端面側に棒状の磁界印加手段である棒状磁石が片持梁状に、かつ前記陽極電極の延長方向に延びるように支持固定され、前記陽極電極の先端部と前記棒状磁石の一方の極とが対向する位置関係にあって、前記陽極電極の先端部近辺に磁界が集中して前記陽極電極の先端部近辺において放電発光が局在化されるものである。
【0021】
請求項による本発明のガス分析器は、概略筒状の形状を有する密閉可能な真空容器と、該真空容器中に設けられた陽極電極及び陰極電極と、該陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させる磁界印加手段と、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に磁界中で発生した放電発光を検出するための光検出手段とを備えてなり、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる放電発光の領域に生じる磁界を集中及び/または増強させることにより放電発光を局在化させて発光強度を増大させ、それによって低い検出下限が得られるようにする放電発光を用いたガス分析器であって、前記真空容器が前記陰極電極をなすように導電性を有し、かつ強磁性体の軟磁性材料で形成され、前記陽極電極が前記真空容器内で縦方向に片持梁状に延びるように前記真空容器の一方の端面側に支持固定された細長い導電性の部材からなるとともに少なくとも先端側の部分が導電性の強磁性部材で形成されており、前記陽極電極と前記陰極電極をなす前記真空容器の内周部との間の放電発光の領域において磁界が集中するように磁界印加手段としての磁石が配置されて、該磁界印加手段としての磁石からの磁力線の多くが磁力線の通り易い強磁性体で軟磁性の前記真空容器内を通ることによって磁界が前記陽極電極の先端部近辺に集中して放電発光が局在化されるものである。
【0022】
請求項による本発明のガス分析器は、概略筒状の形状を有する密閉可能な真空容器と、該真空容器中に設けられた陽極電極及び陰極電極と、該陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させる磁界印加手段と、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に磁界中で発生した放電発光を検出するための光検出手段とを備えてなり、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる放電発光の領域に生じる磁界を集中及び/または増強させることにより放電発光を局在化させて発光強度を増大させ、それによって低い検出下限が得られるようにする放電発光を用いたガス分析器であって、前記真空容器が前記陰極電極をなすように導電性を有し、かつ強磁性体の軟磁性材料で形成され、前記陽極電極が前記真空容器内で縦方向に片持梁状に延びるように前記真空容器の一方の端面側に支持固定された細長い導電性で非磁性の部材からなるとともに、該陽極電極に近接して沿うように片持梁状に延びる細長い強磁性体部材が先端部を前記陽極電極の先端部と同等の位置になるようにして前記真空容器の一方の端面側に支持固定されており、前記陽極電極と前記陰極電極をなす前記真空容器の内周部との間の放電発光の領域において磁界が集中するように磁界印加手段としての磁石が配置されて、該磁界印加手段としての磁石からの磁力線の多くが磁力線の通り易い強磁性体で軟磁性の前記真空容器内を通ることによって磁界が前記陽極電極の先端部近辺に集中して放電発光が局在化されるものである。
【0023】
請求項による本発明のガス分析器は、請求項5または6のいずれか1項によるガス分析器において、前記陽極電極の先端部の位置の周囲である前記真空容器の周面において前記磁界印加手段である磁石を配設し、前記陽極電極の先端部近辺において放電発光が局在化されるものである。
【0024】
請求項による本発明のガス分析器は、請求項によるガス分析器において、前記真空容器の一方の端面側に前記陽極電極が支持固定されるとともに、前記真空容器の他方の端面側に棒状の磁界印加手段である棒状磁石が片持梁状に、かつ前記陽極電極の延長方向に延びるように支持固定され、前記陽極電極の先端部と前記棒状磁石の一方の極が対向する位置関係にあって、前記陽極電極の先端部近辺に磁界が集中して前記陽極電極の先端部近辺において放電発光が局在化されるものである。
【0025】
請求項による本発明のガス分析器は、概略筒状の形状を有する密閉可能な真空容器と、該真空容器中に設けられた陽極電極及び陰極電極と、該陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させる磁界印加手段と、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に磁界中で発生した放電発光を検出するための光検出手段とを備えてなり、前記陽極電極と陰極電極との間に高電圧を印加した時に生じる放電発光の領域に生じる磁界を集中及び/または増強させることにより放電発光を局在化させて発光強度を増大させ、それによって低い検出下限が得られるようにする放電発光を用いたガス分析器であって、前記真空容器が強磁性体の軟磁性材料で形成され、細長い強磁性体部材が前記真空容器内で縦方向に片持梁状に延びるように前記真空容器の一方の端面側に支持固定され、前記真空容器の他方の端面側に棒状の磁界印加手段である棒状磁石が片持梁状に、かつ前記強磁性体部材の延長方向において前記強磁性体部材の先端部と前記棒状磁石の一方の極とが対向する位置関係となるように支持固定され、前記真空容器内において前記細長い強磁性体部材の先端部を挟む位置に対向して陽極電極及び陰極電極が配設され、該磁界印加手段としての磁石からの磁力線の多くが磁力線の通り易い強磁性体で軟磁性の前記真空容器内を通ることによって磁界が前記陽極電極の先端部近辺に集中して放電発光が局在化されるものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明においては、電極間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させ磁界中で発生した放電発光を検出するようにした放電発光を用いたガス分析器において、(1)陽極電極を強磁性体とし、あるいは陽極電極近辺に強磁性体を配置すること、さらに、(2)真空容器を強磁性体の軟磁性材料として磁力線の通り易い磁気回路を構成して、磁界印加手段の磁石と強磁性電極間に発生する磁界を増強することにより、磁界中での放電発光を陽極電極先端部近辺に局在化させ、それによって発光強度を増大させるとともに、検出精度を高め、10-7Paの超高真空の検出下限をもつようにすることができる。
【0029】
また、本発明においては、電極間に高電圧を印加した時に生じる電界に交叉する方向の磁界を発生させ磁界中で発生した放電発光を検出するようにした放電発光を用いたガス分析器において、検出対象ガス以外のガスを微量に導入することにより、検出対象ガスの発光強度を増大させるとともに、検出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態1によるガス分析器の構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態2によるガス分析器の構成を示す図である。
図3】本発明の実施形態3によるガス分析器の構成を示す図である。
図4】本発明の実施形態4によるガス分析器の構成を示す図である。
図5】本発明の実施形態5によるガス分析器の構成を示す図である。
図6】実施形態1ないし4によるガス分析器における陽極電極の別の形態を示す図である。
図7】実施形態1ないし4によるガス分析器における陽極電極の別の形態を示す図である。
図8】本発明のガス分析器の性能測定装置の概略構成を示す図である。
図9】従来の放電発光を用いたガス分析器の構成を示す図である。
図10】従来の放電発光を用いたガス分析器の構成を示す図である。
図11】従来の放電発光を用いたガス分析器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明による放電発光を用いたガス分析器は、密閉可能な容器内に陽極電極を備え、容器を陰極とするとともに、電界方向と交叉する磁界を発生させる磁界印加手段を備え、電極に高電圧を印加することにより磁界中で発生した放電発光を検出することによりガス分析を行うことにおいては、図9~11に示す従前の場合と同様であるが、さらに10-7程度の検出下限を達成するために、次のような構成手段を備える。
【0032】
(1)放電発光を局在させる新たな放電発光生成手段
(a)強磁性体の放電発光の領域への配置(実施形態1~実施形態5)
陽極電極を強磁性体とし、あるいは陽極電極近辺に強磁性体を配置することにより、磁界中での放電発光を陽極電極先端部近辺に局在化させ、発光強度を増大させるとともに、検出精度を高める。
(b)磁力線の通り易い磁気回路の構成(実施形態3~実施形態5)
真空容器を強磁性体の軟磁性材料として磁力線の通り易い磁気回路を構成して、磁界印加手段の磁石と強磁性陽極電極間に発生する磁界を増強する。これにより、放電発光をさらに局在化させ、発光強度を増大させるとともに、検出精度を高める。
【0033】
放電発光が局在化することにより、検出精度が高められるのは、発光の検出部における集光レンズの光軸方向の強い発光の範囲が狭まり、それによって放電発光の領域が有効に集光レンズの焦点付近に集中し、より多くの発光が検出されるためである。
(2)微量ガスの導入
検出対象ガス以外のガスを微量に導入する。それにより、イオン化したガスまたは長い寿命を持つラジカルガスが検出対象ガスと衝突した時に、検出対象ガスが励起され発光して、検出対象ガスの放電発光が増大する。
【0034】
以下、本発明の実施形態について説明する。実施形態によるガス分析器の使用形態については、ガス分析器の性能に関連して説明する。
[実施形態1]
本発明の実施形態1によるガス分析器を図1に示す。図1は実施形態1によるガス分析器の構成を示しており、密閉可能な筒状の真空容器21内にその縦方向に陽極として細長い強磁性体陽極電極22が設けられ、真空容器21の外周部に磁界印加手段26としての筒状の磁石が設けられている。真空容器21は陰極をなすものであって、導体で形成されており、強磁性体陽極電極22は筒状の真空容器21の一方の端面側において、絶縁部材23を介して真空容器21の縦方向に片持梁状に延在するように取り付けられ、真空容器21の外側に突出した陽極電極22の端部は直流電源24に接続されている。25は電流計である。
【0035】
陽極電極22は筒状の真空容器21内の他方の端面側よりある程度手前まで筒状の真空容器21内で片持梁状に延在し、真空容器21の外周部で陽極電極22の先端部を周回包囲する位置において磁界印加手段26としての磁石が設けられる。磁石は筒状の真空容器21を周回する形でも、あるいは陽極電極22の端部を挟んで対向する位置関係に配置するのでもよい。真空容器21の他方の端面側における陽極電極22の延長方向の位置には窓部が形成され、この他方の端面側に接して光検出部28が取り付けられ、真空容器21の他方の端面側の窓部を覆う形で集光レンズ29が取り付けられており、容器21の内部において他方の端面側より電極22の側に孔付き板27が設けられる。孔付き板27はスパッタリングにより飛散する粒子がレンズに付着するのを防止するためのものである。30は制御部であり、直流電源24及び電流計25を含む電源部及び光検出部28に接続され、放電発光の制御及び光検出部28において検出された放電発光の光量をもとにガス分析のための演算を行うものである。
【0036】
孔付き板27において陽極電極22の延長方向の位置に孔が形成されて、陽極電極22の先端部近辺に生じた発光による光がこの孔を通り、集光レンズ29を通って光検出部28に向かうようになっている。真空容器21は集光レンズ29及びその取付部を含めて密閉性を有するものであるが、光検出部28内は大気圧として、密閉性は必要ない。光検出部28は、集光レンズ29を通った発光による光が絞り板aの孔を通り、凹面鏡bで反射して回折格子cに向かい、回折した光が反射鏡dで反射して検出用の受光素子eに達するように各光学素子が配置されたマルチチャネル分光器の形をなしている。
【0037】
真空容器21を円筒形状とし、細長い強磁性体の陽極電極22を磁界印加手段26の円筒形の磁石の中心部に配置すると、磁界印加手段26から発せられる磁界Mは細長い強磁性体の陽極電極22の先端部近辺に集中する。この細長い強磁性体陽極電極22の先端部付近の磁界Mは電界Eとほぼ直交していることから、この領域に電子は局在化し、局所的な強い放電発光が発現する。この放電発光は強く且つ局在化していることから、集光レンズ29を用いて光検出部28において高効率に集光することが可能となり、10-7Paの低いガス分圧の発光を計測できる。
【0038】
一方、細長い強磁性体の陽極電極22は磁界を引き寄せる性質を持つことから、磁界印加手段26のS極側の磁界Mは疎になり、且つ電界Eと垂直とならない。このため、磁界印加手段26のS極側の領域の放電は弱い放電となり、この付近のスパッタリングを抑制し、飛散粒子による集光レンズ29の汚れを防止する効果がある。
【0039】
真空容器21を円筒形状とした実施形態1によるガス分析器における構成要件について示す。
(1a)容器の寸法関係
真空容器21の内径は10mm以上、100mm以下である。
真空容器21を陰極とし、強磁性体の陽極電極22を陽極として放電を発生させるのであるが、これら2つの電極間距離が短い場合、シールド効果により放電が発生しない。そこで、種々の内径の真空容器を製作し、放電安定性について調べた結果、内径8mmの真空容器では放電が発生せず、内径10mmの真空容器では、中真空の高い圧力において放電は発生し安定したが、高真空の低い圧力では放電が安定しなかった。これらの結果から、真空容器21の内径は10mm以上が望ましいと言える。
【0040】
一方、真空容器の内径が大きい場合、強磁性体の陽極電極22に集中する磁界の集中度合が変化する。この磁界の集中度合は、磁界印加手段26の磁石の磁力とその長さ、そして強磁性体の透磁率にも依存する。ある設定の磁界シミュレーションの結果、真空容器内径が100mm以下であればよく、さらに50mm以下が望ましいと言える。
【0041】
(1b)強磁性体陽極電極22
(1b-1)陽極電極の材料
強磁性体陽極電極22は高電圧印加のための電極と磁界印加手段26の磁石から発せられる磁界Mを集中させる役割を有し、その材料としては、軟磁性材料の強磁性体または硬磁性材料の強磁性体が用いられる。
(i)軟磁性材料: 鉄、炭素鋼、磁性ステンレス鋼、ニッケルなどの比透磁率2以上で電気伝導する軟磁性金属材料が用いられ、これらの材料を用いた場合に、ガス分析器の放電発光はほぼ同じ強度であった。また、強磁性体陽極電極22の透磁率を変化させてガス分析器の磁界シミュレーションを行った結果、比透磁率2以上であれば、磁界印加手段26の磁石から発せられる磁界は強磁性体電極22に集中した。これらの結果から、強磁性体陽極電極22は軟磁性材料の場合には比透磁率2以上の軟磁性材料で且つ電気伝導する金属とするのがよい。
(ii)硬磁性材料: 永久磁石で電気伝導する金属
一方、強磁性体陽極電極22として硬磁性材料の永久磁石を用いる場合は、電気伝導性をもつ永久磁石を使用すればよく、このような磁石としてネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石が望ましい。なお、強磁性陽極電極22として硬磁性材料の磁石を用いる場合、その先端の磁極は、磁界印加手段26の磁石が作る磁界を集中するように配置する。
【0042】
(1b-2)電極先端の位置
強磁性体陽極電極22は、磁界印加手段26としての磁石から発せられる磁界Mを集中させるが、この時、集中される磁界が電極軸に対し平行である方がよく、また、磁界の集中度が高いことが望ましい。そこで、磁界印加手段26の磁石に対する強磁性体陽極電極22の先端位置を変化させ、磁界シミュレーションを実施した。その結果、強磁性体陽極電極22の先端位置は、磁界印加手段26としての磁界軸方向の磁石の長さの1/2だけ突き出た位置から磁石の端部位置までであればいずれでもよく、さらに磁界印加手段26の磁石の中央付近に位置させることが望ましい。
【0043】
(1c)直流電源24
放電は直流電圧数kVで発生するので、最大10kVまで印加できればよい。
(1d) 磁界印加手段26
磁界印加手段26としての磁石26は、高真空以上の圧力領域において放電を維持するために必要であり、その磁力は強い方が良いことから、材料としては、強力磁石であるネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石が望ましい。一方、その磁石の磁界軸方向の長さは、従来の逆マグネトロン磁界放電方式の場合、陽極電極付近に電極軸に対し平行な磁界を印加するために5mm以上の強力磁石とし、例えば長さ10mm以上が望ましいとされているが、本発明の磁界放電では、強磁性体の陽極電極22に磁界を集中させることから、磁界印加手段26の磁石の長さはそれより短くてもよい。幾つかの長さの磁石を用いて放電発光強度を測定したところ、磁石の長さは5mm以上あればよいことが判明した。
【0044】
(1e) 孔付き板27
放電のスパッタリングにより真空容器21の材料が飛散するが、このスパッタ粒子による集光レンズ29の汚れを防止するために孔付き板27を設置する。孔付き板27の設置位置は陽極電極22の先端から真空容器の内半径以上離すのがよく、その材質は金属または絶縁体(誘電体)のいずれでもよい。金属の場合、孔付き板27は陰極となることから、放電によりスパッタされる。これを防ぐために、孔付き板27の磁性体電極22の先端からの距離は真空容器21の内半径よりも長くすることが望ましい。また、異常放電を防ぐために、孔付き板27の孔の開口部の周面は滑らかに凸の丸みをもつのが望ましい。
【0045】
孔付き板27の材質を絶縁体とした場合、絶縁体は電界が印加されると誘電分極し、放電が発生している側の孔付き板表面は正に帯電し、孔付き板が放電によりスパッタされることを回避できる。したがって、孔付き板27の材質は絶縁材料がより好ましい。導電性材料の孔付き板27の場合には、絶縁性部材を介して真空容器21内に取り付けるのがよい。
【0046】
(1f)集光レンズ29
集光レンズ29は石英レンズであるのが望ましく、その焦点距離は放電発光位置と孔付き板27の位置を考慮して決定する。集光レンズ29は光検出部28において受光素子eに集光するように設置するが、各種ガスの原子発光及び分子発光が透過し、且つ光検出部28の計測波長領域の光が透過することが要求される。一般に、光検出部28に用いるマルチチャンネル分光器は、200nmから1000nmの光を検出するものが多い。この場合、集光レンズ29は紫外光が透過する石英レンズが望ましい。ただし、低コストなほう珪酸ガラス製のレンズでも400nm以上の光は透過するので、これを用いてもよい。
【0047】
本発明のガス分析器では、放電発光Lと集光レンズ29の間に孔付き板27を設置することから、孔付き板の孔を通過した光を集光することになる。この場合、集光レンズ29の焦点距離は、放電発光位置と孔付き板位置を考慮して決定するのであるが、概ね孔付き板27の位置を点光源とし、孔付き板-レンズ間隔の1/2を焦点距離としたレンズを選択すればよい。
【0048】
(1g)光検出部28
マルチチャンネル分光器を使用するのがよい。光検出部28は、高感度に多波長同時測定が可能なマルチチャンネル分光器を使用する。マルチチャンネル分光器は、入射した光を回折格子で分光し、その分光した光を相補性金属酸化膜半導体(CMOS)を多数配列したCMOSセンサまたは電荷結合素子(CCD)を多数配列したCCDセンサで検出するもので、高感度な光検出を多波長同時に実行するものである。
【0049】
(1h)制御手段30
制御手段30は、ガス分析器をコントロールするもので、磁界放電の制御機能と放電発光シグナルを分圧変換する制御機能とを有するものである。本発明の磁界放電ガス分析器では、各種ガス分子の放電発光強度が全圧に対し、概ね線形応答するように放電を制御し、ガス種毎の固有発光の発光強度とガスの圧力(分圧)を予め測定しておき、発光強度をガスの圧力に変換するようにする。
【0050】
[実施形態2]
図2に示す実施形態2によるガス分析器では、磁界印加手段36の磁石から発生する磁界Mを細い強磁性体陽極電極32の先端部に集中させる別の形態を有し、また、光検出部38の取り付け位置が異なることにおいて図1に示す実施形態1によるものと相違し、他の点では実施形態1と同様である。
【0051】
図2に示すガス分析器において、磁界印加手段36としての磁石を太い棒磁石としており、これは筒状の密閉可能な真空容器31の一方の端面側に絶縁部材33-1を介して取り付けられ、筒状の真空容器31の縦方向に片持梁状に延在する細長い強磁性体陽極電極32の延長方向に対向させて配置させて、磁界印加手段36としての棒磁石を片持梁状に絶縁部材33-2を介して筒状の容器31の他方の端面側に取り付けてある。
【0052】
強磁性体陽極電極32の先端と、これに対向する棒磁石の磁極との間には特に磁界Mが集中し、強磁性体陽極電極32に高電圧を印加した時に陽極電極32の先端近辺に局在化した放電発光が生じるが、その光を検出するための光検出部38は筒状の容器31の周面側に設けられる。すなわち、放電発光が生じる強磁性体電極32の先端の位置を通り筒状の容器の縦方向に垂直な面内の1つの方向(図2で上向きの方向)に進む光を検出するように光検出部38が筒状の容器の外側に設けられ、光検出部38を取り付ける箇所の筒状の容器31の側面部分は除去され、その部分に放電発光の光が通過するための孔が形成された孔付き板37が嵌め込まれている。
【0053】
孔付き板37の外側に集光レンズ取り付け板を介して集光レンズ39が取り付けられ、さらに外側に光検出部38が取り付けられる。集光レンズ取り付け板、集光レンズ39までは筒状の容器21とともに密閉された気密な構成とし、光検出部38内は大気圧でよい。光検出部38は実施形態1と同様にマルチチャネル分光器とするのがよい。
【0054】
図2に示す実施形態2によるガス分析器において、磁界印加手段36としての棒磁石から発する磁界Mは強磁性体陽極電極32の先端に集中し且つ電界Eと直交することから、強磁性体陽極電極32の先端部付近に局在し且つ増強した放電発光Lを得ることができる。ここで、磁界印加手段36としての棒磁石が導体である場合には、陰極である真空容器31と電気絶縁した方が望ましいことから、絶縁部材33-2を介して容器31の他方の端面側に取り付ける。一方、磁界印加手段36としての棒磁石が絶縁体である場合には、真空容器31に直接取り付けることができる。
【0055】
実施形態2の構成要件について示すと、次のようになる。
(2a) 磁界印加手段36
磁界印加手段36としての磁石は、高温の放電に晒されることから、高温でも磁力を失わない高いキュリー温度を持つ磁石が好適であり、このような磁石としてサマリウムコバルト磁石やフェライト磁石が望ましい。
実施形態2のその他の構成要件は、実施形態1と同様であり、磁界放電の制御機能と放電発光シグナルを分圧変換する制御機能とを有する制御部(図示せず)が実施形態1と同様に備えられる。
【0056】
実施形態1乃至実施形態2は強磁性体電極を電界Eと磁界Mが印加された放電領域へ配置したものであり、磁界印加手段の磁石から発生する磁界Mを細長い強磁性体陽極電極の先端部に集中させることで、この領域に電子を拘束し、放電発光Lを局在化させて発光強度を増大させるものであった。これら2つの実施形態に対し、磁力線の通り易い磁気回路を構成することで、さらに放電発光Lを局在化することができる。以下そのようにした実施形態について説明する。
【0057】
[実施形態3]
図3に示す本発明の実施形態3によるガス分析器は、密閉可能な筒状の真空容器においてその側面における磁界印加手段26としての磁石の取り付け部を非磁性真空容器部21-1とし、その他の部分を強磁性体真空容器部21-2とし、そして強磁性体の孔付き板27を用いることで、磁界印加手段26としての磁石から強磁性体陽極電極22までと磁石から強磁性体孔付き板27まで磁力線の通過し易い磁気回路を構成する。これにより磁界印加手段26から発せられ強磁性体陽極電極22に集中する磁界Mを増強且つ電界Eと直交させることができ、電子をさらにこの空間に拘束し放電を局在化させ且つ増強させることができる。
【0058】
実施形態3の構成要件は次のようになる。
(3a)強磁性体真空容器部21-2
強磁性体真空容器部21-2は磁力線の通り易い磁気回路を構成する事情から強磁性体とするが、強磁性体の軟磁性材料が望ましい。ここで、非磁性真空容器部21-1と強磁性体真空容器部21-2との端面を溶接などにより接合して一体化するか、または、非磁性真空容器21-1の外側に凹所を形成し、強磁性体のスリーブを磁界印加手段26としての磁石の両側に配置してもよい。
【0059】
(3b)強磁性体孔付き板27
孔付き板27は磁界印加手段26としての磁石から孔付き板までを磁力線の通り易い磁気回路とするために強磁性体材料とする。なお、異常放電を防ぐためと強磁性体陽極電極22に有効に集中する磁界Mを発するために、孔付き板27の孔の開口部内周面は滑らかな凸の丸みをもつ形状とすることが望ましい。
実施形態3のその他の構成要件は、実施形態1と同様であり、磁界放電の制御機能と放電発光シグナルを分圧変換する制御機能とを有する制御部(図示せず)が実施形態1の同様に備えられる。
【0060】
[実施形態4、実施形態5]
実施形態4及び実施形態5によるガス分析器は、実施形態2のように磁界印加手段26としての棒磁石を備える形態において磁力線の通り易い磁気回路を構成したものである。図4に示す実施形態4によるガス分析器は、実施形態2において真空容器31を強磁性体の軟磁性材料としたものである。軟磁性材料は容易に磁力線を通過させることから、細長い強磁性体陽極電極32-強磁性体真空容器31-磁界印加手段36としての棒磁石において、磁力線の通り易い磁気回路が構成でき、磁界印加手段36としての棒磁石と細長い強磁性体陽極電極32の間に発生する磁界Mが増強される。磁力線の通り易い磁気回路を構成することで、放電はさらに局在化し放電発光Lの強度が増大できるとともに、その他の真空空間では、磁界がほとんどなくなることから、スパッタリングを抑制し、飛散粒子による集光レンズ汚れを防止できる。
【0061】
図4において強磁性体陽極電極32と、磁界印加手段36としての太い棒磁石36とが絶縁部材33-1、33-2を介してそれぞれ取り付けられる場合、絶縁材料の透磁率が低いために、磁気損失が発生する。図5に示す実施形態5によるガス分析器は、強磁性体真空容器31をフローティングし、筒状の真空容器31の一方の端面側に取り付けられ片持梁状に延材する細長い強磁性体部材32-1と、真空容器の他方の端面側に取り付けられた磁界印加手段36としての棒磁石36とを先端部同士が対向するように配置して真空容器に接続することによって、完全に閉じた磁気回路を構成したものであり、磁気損失を非常に小さくしたものである。一方、細長い強磁性体部材32-1の先端部を挟むように、それぞれ絶縁部材33-3、33-4を介して陽極電極40と陰極電極41とを対向する形で別途設置し、真空容器に対して電気絶縁して、細長い強磁性体部材32-1の先端部の位置に電界を発生させるようにする。
【0062】
実施形態4乃至実施形態5の構成要件は次のようになる。
(4-5a)強磁性体真空容器31
強磁性体真空容器31は、実施形態3の強磁性体真空容器部21-2と同様に磁力線の通り易い磁気回路を構成する事情から強磁性体とするが、強磁性体の軟磁性材料が望ましい。
(4-5b) 磁界印加手段36
実施形態4乃至実施形態5における磁石は、実施形態2における磁石と同様に高温の放電に晒されることから、高温でも磁力を失わない高いキュリー温度を持つ磁石が好適であり、このような磁石としてサマリウムコバルト磁石やフェライト磁石が望ましい。
【0063】
図5に示す実施形態5において、光検出部38は点線で示されているが、真空容器31に対して図の奥側、または手前側の側面に取り付けられている。その他の構成要件については実施形態2と同様であり、磁界放電の制御機能と放電発光シグナルを分圧変換する制御機能とを有す制御部(図示せず)が実施形態1の同様に備えられる。
【0064】
[電極の構成]
実施形態1乃至実施形態4では、電極に強磁性体材料を用いることで、磁界印加手段の磁石から発生する磁界Mを細い強磁性体陽極電極の先端部に集中させたが、図6乃至図7に示すように、強磁性体陽極電極を他の態様とすることができる。図6図7に示す、実施形態1における陽極電極構成を他の態様にしたものについて説明する。陽極電極22を全体として強磁性体で形成したものに代えて、図6に示すような非磁性陽極電極22-1と併設した強磁性体22-2とを用いた構成や、図7に示すような非磁性陽極電極22-1の先端部を強磁性体22-2とする構成としても、磁界印加手段26の磁石から発せられる磁界Mは有効に強磁性体の先端部に集束し、局在化し且つ強い放電発光Lを発現することができる。
【0065】
[微量ガス導入による放電発光の増強]
本発明では、ガス検出時において、検出対象ガス以外のガスを微量に導入すると、放電発光が増強することも見出した。これは、放電において、イオン化したガスまたは長い寿命を持つ励起ガスが検出対象ガスと衝突した時に、検出対象ガスが励起されるという現象を利用したものであるが、従来の放電電圧の低減や気体イオン化の増強で利用されるペニング電離とは異なるものである。
【0066】
ペニング電離は、イオン化したいガスAに、ガスAのイオン化エネルギーよりも高いイオン化エネルギーまたはイオン化エネルギーに近い高い準安定励起エネルギーを持つガスBを導入した時に、放電により高いエネルギー状態に励起されたガスBがガスAに衝突することで、ガスAがイオン化する現象である。例えば、放電ランプにおいて、アルゴンガスを僅かに導入することで水銀蒸気が有効にイオン化され、これにより放電ランプの放電電圧を低下させることができる。別例としてスパッタリング成膜において、ヘリウムガスを僅かに導入することでアルゴンガスが有効にイオン化され、これにより薄膜形成のためのアルゴンイオンによるスパッタリングが増大し成膜速度を上昇することができるなどがある。
【0067】
本発明では、検出したいガスAに、ガスAのイオン化エネルギーよりも高いイオン化エネルギーまたは高い準安定励起エネルギーを持つガスBだけでなく、ガスAのイオン化エネルギーよりも低いイオン化エネルギーを持つガスCを導入した時においても、検出対象ガスAが励起され、その放電発光が増強されるという現象を見出した。これは、検出対象ガスAの放電発光のための励起エネルギーが、イオン化エネルギーや高い準安定励起エネルギーよりも低いことから、低いイオン化エネルギーを持つガスCを用いても励起できるものである。すなわち、導入ガスCは検出対象ガスAの放電発光のための励起エネルギーよりも高い準安定励起エネルギーを持つガスである。
【0068】
例えば、検出対象ガスAを窒素ガスとした場合、窒素ガスのイオン化エネルギーよりも高いイオン化エネルギーを持つヘリウムガス(ガスB)を導入すると、窒素ガスの放電発光は当然増強された。一方、窒素ガスのイオン化エネルギーよりも低いイオン化エネルギーを持つ酸素ガス(ガスC)を導入した場合でも、窒素ガスの放電発光が増強した。このほか、検出対象ガスAをネオンガスまたはアルゴンガスとした場合、ヘリウムガス(ガスB)を導入すると、これら不活性ガスの放電発光は当然増強され、一方、低いイオン化エネルギーを持つ窒素ガス(ガスC)を導入しても、これら不活性ガスの放電発光は増強された。導入する微量ガスは、安全性と不活性そしてコストの面から、ヘリウムガス、窒素ガス、空気ガスそしてアルゴンガスが望ましい。
【0069】
なお、ガスBまたはガスCのガス導入量は、検出対象ガスAの1/100から1/10で、検出ガスの放電発光は約2倍から3倍増大した。これにより、発明のガス分析器の検出下限を低くできる。
実際の実験として、検出対象ガスはアルゴンとした。励起アシストガスは、ヘリウムガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、空気を用いた。いずれのアシストガスも、その導入量は、検出対象ガスの約1/10とした。結果として、いずれのアシストガスにおいても、アルゴン発光強度は約2倍から2.5倍増大した。気体原子の第1イオン化エネルギーを表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
[本発明のガス分析器の性能]
図8に示すガス分析器性性能測定装置を用いて、本発明のガス分析器の性能について調べた。ガス分析器性能測定装置は真空容器51に基準ガス流量導入器52を接続し、種々の流量Q[Pam3-1]の各種ガスを真空容器51に導入した。真空容器51には吸気口における実効排気速度をSe[m3-1]に設定した高真空ポンプ53を接続した。そして、全圧測定のために真空計54を接続し、そして試験対象のガス分析器55を接続した。
【0072】
ガス分析器の試験では、ある流量Q[Pam3-1]のガスを流し、Q=Se×pの関係から、圧力p[Pa]を求め、一方、その時のガス分析器の導入ガスの固有発光を測定した。ガス種として典型ガスである水素、ヘリウム、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素とし、流量Qは10-9 ~10-4Pam3-1の範囲で順次変更して設定した。なお、ガス流量導入器52には国家二次標準器である標準コンダクタンスエレメントを用いた。
【0073】
本発明による磁界放電発光ガス分析器の性能を実証するために、図9に相当する(1)電極を従来の非磁性電極としたガス分析器(従来ガス分析器1と呼ぶ)と、図11に相当する(2)電極を従来の非磁性電極とし且つ2つの円筒磁石を設置したガス分析器(従来ガス分析器2と呼ぶ)と、そして(3)電極を磁性体とした本発明の実施形態1によるガス分析器と、(4)磁気回路を構成した本発明の実施形態3によるガス分析器との4つのガス分析器について、図8のガス分析評価装置を用いて種々のガスを導入し、それぞれの性能について比較した。ここで、実施形態3のガス分析器では、本発明の実施形態1のガス分析器において強磁性体スリーブを磁界印加手段の磁石の両側に設置し、且つ強磁性体の孔付き板を設置した。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
本発明では、ガス検出時において、検出対象ガス以外のガスを微量に導入すると、放電発光が数倍増強し、分圧検出下限がさらに低下できたので、これの結果も表に示した。発明した実施形態1及び実施形態3のガス分析器は、従来ガス分析器と比較して、分圧検出下限が2桁以上高度化でき、感度線形性もよく、耐久性も改善した。
【0076】
なお、本発明の実施形態2のガス分析器は実施形態1と、実施形態4乃至実施形態5のガス分析器は実施形態3と同様の性能を示すことも確かめた。
【0077】
[種々の真空装置への適用]
本発明によるガス分析器をスパッタリング成膜装置と漏れ検査装置に適用し稼働させたところ、スパッタリング装置では、プロセスガスであるアルゴンガスをはじめ水蒸気ガスなど残留ガスが検出できた。また、実用の漏れ検査装置では実用の短時間のマシンタイム60秒以内で漏れ流量10-8Pam3-1が検出可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、(1)デバイス製造用真空装置、(2)漏れ検査装置、(3)真空溶解炉・真空凍結乾燥装置など種々の真空装置を使用する際のガス分析に利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
21 真空容器
21-1 非磁性真空容器部
21-2 強磁性体真空容器部
22 強磁性体陽極電極
22-1 非磁性陽極電極
22-2 強磁性体
23 絶縁部材
24 直流電源
25 電流計
26 磁界印加手段
27 孔付き板
28 光検出部
29 集光レンズ
30 制御部
31 真空容器
32 強磁性体陽極電極
32-1 強磁性体部材
33-1 絶縁部材
33-2 絶縁部材
33-3 絶縁部材
33-4 絶縁部材
34 直流電源
35 電流計
36 磁界印加手段
37 孔付き板
38 光検出器
39 集光レンズ
40 陽極電極
41 陰極電極
51 真空容器
52 基準ガス流量導入器
53 高真空ポンプ
54 真空計
55 試験対象ガス分析器
E 電界
L 放電発光
M 磁界
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11