(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】グラフェントランジスタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 51/30 20060101AFI20221118BHJP
H01L 51/05 20060101ALI20221118BHJP
H01L 51/40 20060101ALI20221118BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20221118BHJP
H01L 29/66 20060101ALI20221118BHJP
H01L 29/16 20060101ALI20221118BHJP
H01L 29/167 20060101ALI20221118BHJP
H01L 21/388 20060101ALI20221118BHJP
G01N 27/414 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
H01L29/28 250E
H01L29/28 100A
H01L29/28 310E
H01L29/78 618B
H01L29/66 Z
H01L29/16
H01L29/167
H01L29/78 625
H01L21/388
G01N27/414 301V
(21)【出願番号】P 2021501820
(86)(22)【出願日】2020-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2020004066
(87)【国際公開番号】W WO2020170799
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2019029080
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業「グラフェン・糖鎖・ウイルスを統合したシステム構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 成人
(72)【発明者】
【氏名】品川 歩
(72)【発明者】
【氏名】牛場 翔太
(72)【発明者】
【氏名】木村 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 尭生
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0270350(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0111180(US,A1)
【文献】特開2012-248842(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0323945(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0095268(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0034349(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/30
H01L 51/05
H01L 51/40
H01L 29/786
H01L 29/66
H01L 29/16
H01L 29/167
H01L 21/388
G01N 27/414
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一層のグラフェンからなるグラフェン層と、
前記グラフェン層と電気的に接続されているドレイン電極およびソース電極と、
前記グラフェン層の少なくとも一方の主面上に存在し、不純物電荷を含む電荷供与体と、を含む、グラフェントランジスタであって、
前記不純物電荷とは異なる符号の電荷を有するイオンであるカウンターイオンをさらに含
み、
前記電荷供与体は、前記グラフェン層を支持する絶縁性基板、および、絶縁性異物の少なくともいずれかである、グラフェントランジスタ。
【請求項2】
前記カウンターイオンは、前記電荷供与体の内部、および、前記電荷供与体と前記グラフェン層との界面の少なくともいずれかに含まれる、請求項1に記載のグラフェントランジスタ。
【請求項3】
前記グラフェン層を支持する絶縁性基板を備える、請求項1
または2に記載のグラフェントランジスタ。
【請求項4】
前記グラフェン層に外部から電界を印加することのできるゲート電極をさらに備える、請求項1~
3のいずれか1項に記載のグラフェントランジスタ。
【請求項5】
グラフェンからなるグラフェン層と、
前記グラフェン層と電気的に接続されているドレイン電極およびソース電極と、
前記グラフェン層の少なくとも一方の主面上に存在し、不純物電荷を含む電荷供与体と、を含む、グラフェントランジスタの製造方法であって、
前記グラフェントランジスタに前記不純物電荷とは異なる符号の電荷を有するイオンであるカウンターイオンを付与する、カウンターイオン付与工程を含む、グラフェントランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記カウンターイオン付与工程において、
前記カウンターイオンを含むイオン溶液中に前記グラフェントランジスタを浸漬する、請求項
5に記載のグラフェントランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェントランジスタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1(特開2012-247189号公報)、特許文献2(特開2018-163146号公報)等に開示されるグラフェントランジスタ(GFET)は、グラフェン層(グラフェン層の絶縁性基板と接している面とは反対側の面)が検体を含む液体に接触した状態で、バイオセンシングに用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-247189号公報
【文献】特開2018-163146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、グラフェントランジスタのグラフェン層は、イオンを含む液体に浸漬された状態で使用される場合、経時的にグラフェン層の特性(応答電流、ディラック点電圧など)が変化するという問題があった。この場合、グラフェントランジスタを用いたセンシングの結果を誤認識してしまう可能性がある。
【0005】
これは、初期(使用前)の状態では、グラフェン層3や電極21,22のパターニングに用いられるレジスト等の有機物(PMMAなど)の残渣(絶縁性異物4)や、絶縁性基板1などが、不純物電荷を含む電荷供与体としてグラフェン層3のドープ源、クーロン散乱源となり、グラフェン層3の移動度が低下した(電流が流れにくくなった)状態であるが(
図1参照)、使用中(測定中)に徐々に、イオンを含む液体中のイオンが電荷供与体中に浸透し、不純物電荷の影響をスクリーニングする(徐々に打ち消す)ため、グラフェン層3の移動度が徐々に変化するからであると考えられる(
図2参照)。
【0006】
したがって、本発明は、グラフェン層の特性の経時的な変化が抑制されたグラフェントランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕 少なくとも一層のグラフェンからなるグラフェン層と、
前記グラフェン層と電気的に接続されているドレイン電極およびソース電極と、
前記グラフェン層の少なくとも一方の主面上に存在し、不純物電荷を含む電荷供与体と、を含む、グラフェントランジスタであって、
前記不純物電荷とは異なる符号の電荷を有するイオンであるカウンターイオンをさらに含む、グラフェントランジスタ。
【0008】
〔2〕 前記カウンターイオンは、前記電荷供与体の内部、および、前記電荷供与体と前記グラフェン層との界面の少なくともいずれかに含まれる、〔1〕に記載のグラフェントランジスタ。
【0009】
〔3〕 前記電荷供与体は、前記グラフェン層を支持する絶縁性基板、および、絶縁性異物の少なくともいずれかである、〔1〕または〔2〕に記載のグラフェントランジスタ。
【0010】
〔4〕 前記グラフェン層を支持する絶縁性基板を備える、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のグラフェントランジスタ。
【0011】
〔5〕 前記グラフェン層に外部から電界を印加することのできるゲート電極をさらに備える、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のグラフェントランジスタ。
【0012】
〔6〕 グラフェンからなるグラフェン層と、
前記グラフェン層と電気的に接続されているドレイン電極およびソース電極と、
前記グラフェン層の少なくとも一方の主面上に存在し、不純物電荷を含む電荷供与体と、を含む、グラフェントランジスタの製造方法であって、
前記グラフェントランジスタに前記不純物電荷とは異なる符号の電荷を有するイオンであるカウンターイオンを付与する、カウンターイオン付与工程を含む、グラフェントランジスタの製造方法。
【0013】
〔7〕 前記カウンターイオン付与工程において、
前記カウンターイオンを含むイオン溶液中に前記グラフェントランジスタを浸漬する、〔6〕に記載のグラフェントランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、グラフェン層の特性の経時的な変化が抑制されたグラフェントランジスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】従来のグラフェントランジスタの模式的な断面図である。
【
図2】実施形態のグラフェントランジスタの模式的な断面図である。
【
図3】実施形態のグラフェントランジスタの模式的な斜視図である。
【
図4】実施形態のグラフェントランジスタの模式的な断面図である。
【
図5】実施例におけるグラフェンのI
DS-V
g特性(ゲート電圧とドレイン電流との関係)を示すグラフである。
【
図6】実施例におけるゲート電圧(V
g)とトランスコンダクタンス(gm)との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例における測定開始後の経過時間とディラック点電圧(V
Dirac)との関係を示すグラフである。
【
図8】実施例における測定開始後の経過時間とトランスコンダクタンス(gm)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。
【0017】
<グラフェントランジスタ>
図2を参照して、本実施形態のグラフェントランジスタ(グラフェン電界効果トランジスタ:GFET)は、少なくとも一層のグラフェンからなるグラフェン層3と、グラフェン層3と電気的に接続されているドレイン電極21およびソース電極22とを含む。
【0018】
本実施形態のグラフェントランジスタは、さらに電荷供与体を含む。電荷供与体は、不純物電荷を含み、グラフェン層3の少なくとも一方の主面上に存在する。不純物電荷は、正または負の電荷である。不純物電荷としては、例えば、分極分子(H2Oなど)、電離した官能基(アミノ基、カルボキシル基など)、ラジカル、共有結合性材料のダングリングボンド、材料中の元素欠損(酸化物中の酸素欠損など)が挙げられる。
【0019】
電荷供与体は、例えば、グラフェン層3を支持する絶縁性基板1、および、絶縁性異物4の少なくともいずれかである。絶縁性異物としては、例えば、グラフェン層3や電極21,22のパターニングに用いられるレジスト等の有機物(PMMAなど)の残渣が挙げられる。
【0020】
本実施形態のグラフェントランジスタは、カウンターイオンをさらに含むことを特徴とする。カウンターイオンは、電荷供与体中の不純物電荷とは異なる符号の電荷を有するイオンである。カウンターイオンにより、電荷供与体中の不純物電荷を打ち消すことができ、電荷供与体がグラフェン層に与える経時的な影響を低減することができる。これにより、グラフェン層の特性の経時的な変化を抑制することができる。
【0021】
不純物電荷が負電荷である場合、カウンターイオンとしては、例えば、金属イオン、水素イオン、または、正帯電性の官能基を有するイオンが挙げられる。金属イオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン(ナトリウムイオン(Na+)など)、アルカリ土類金属イオンが挙げられる。
【0022】
不純物電荷が正電荷である場合、カウンターイオンとしては、例えば、ハロゲンイオン、水酸化物イオン、負帯電性の官能基を有するイオンが挙げられる。
【0023】
カウンターイオンは、電荷供与体の不純物電荷によるグラフェン層への影響を打ち消す効果が得られるように、電荷供与体中または電荷供与体の近傍に存在することが好ましい。具体的には、カウンターイオンは、例えば、電荷供与体の内部、および、電荷供与体とグラフェン層との界面の少なくともいずれかに含まれることが好ましい。このような位置にカウンターイオンが存在することで、電荷供与体によるグラフェン層に与える経時的な影響をより確実に低減することができる。
【0024】
なお、
図2に示されるグラフェントランジスタは、絶縁性基板1を含み、絶縁性基板1の一方の主面上にグラフェン層3、ドレイン電極21、ソース電極22などが設けられている。ただし、本実施形態において、グラフェントランジスタは必ずしも絶縁性基板1を含んでいなくてもよい。
【0025】
本実施形態のグラフェントランジスタは、グラフェン層3に外部から電界を印加することのできるゲート電極(図示せず)をさらに備えていてもよい。
【0026】
なお、例えば、グラフェン層3の主面(絶縁性基板と反対側の主面)は、被検知物を吸着可能、または、被検知物と結合可能な官能基で修飾されていてもよい。また、例えば、グラフェン層3の主面に、被検知物と結合可能なレセプター(抗体、アプタマー等)が結合されていてもよい。なお、レセプターはリンカーを介してグラフェン層に結合されていてもよい。これにより、本実施形態のグラフェントランジスタを被検知物を特異的に検出するためのセンサ(バイオセンサ等)として好適に用いることができる。
【0027】
グラフェン層3の厚み、および層数は、特に限定されないが、例えば、0.3~5nm(1層~10層)である。絶縁性基板1の厚みは、特に限定されない。
【0028】
<グラフェントランジスタの製造方法>
以下、本実施形態のグラフェントランジスタの製造方法の一例について説明する。
【0029】
本実施形態の製造方法は、グラフェンからなるグラフェン層3と、
グラフェン層3と電気的に接続されているドレイン電極21およびソース電極22と、
グラフェン層3の少なくとも一方の主面上に存在し、不純物電荷を含む電荷供与体と、を含む、グラフェントランジスタの製造方法である。
【0030】
本実施形態の製造方法は、グラフェントランジスタに不純物電荷とは異なる符号の電荷を有するイオンであるカウンターイオンを付与する、カウンターイオン付与工程を含む。
【0031】
カウンターイオン付与工程において、グラフェントランジスタにカウンターイオンを付与する方法としては、特に限定されないが、例えば、カウンターイオンを含むイオン溶液中にグラフェントランジスタを浸漬する方法が挙げられる。これにより、カウンターイオンを、電荷供与体の内部、および、電荷供与体とグラフェン層3との界面の少なくともいずれかに浸透させることができる。
【0032】
なお、イオン溶液としては、特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、塩化ナトリウム溶液、塩化カリウム溶液、塩化マグネシウム溶液、水酸化ナトリウム溶液、などが挙げられる。
【0033】
例えば、
図2を参照して、カウンターイオン(Na
+)を含むイオン溶液5中にグラフェントランジスタを浸漬することで、不純物電荷(負(-)電荷)を含む絶縁性異物4(電荷供与体)の内部にカウンターイオンを浸透させる(
図2(a)参照)。これにより、絶縁性異物4(電荷供与体)の不純物電荷によるグラフェン層3への影響(図中の白矢印)を低減することができると考えられる(
図2(b)参照)。
【0034】
また、例えば、
図3を参照して、カウンターイオン(Na
+)を含むイオン溶液5中にグラフェントランジスタを浸漬することで、不純物電荷(負(-)電荷)を含む絶縁性基板1(電荷供与体)とグラフェン層3との界面にカウンターイオンを浸透させる(
図3参照)。
図4を参照して、これにより、絶縁性基板1(電荷供与体)の不純物電荷によるグラフェン層3への影響(図中の白矢印)を低減することができると考えられる(
図4(a),(b)参照)。
【0035】
イオン溶液への浸漬時間は、特に限定されず、カウンターイオンが電荷供与体の内部、および、電荷供与体とグラフェン層3との界面の少なくともいずれかに浸透することが可能な時間であれば、それ以上は浸漬時間を長く例えば、好ましくは2時間以上であり、より好ましくは10時間以上である。
【0036】
なお、カウンターイオンを付与する工程において、グラフェントランジスタをイオン溶液中に浸漬した状態で、ゲート電極とグラフェン層3との間に電界を印可してもよい。また、グラフェントランジスタをイオン溶液中に浸漬した状態で、イオン溶液5の水圧を高めてもよい。このような操作により、カウンターイオンの電荷供与体等への浸透が効率的に行われることが期待される。
【0037】
また、カウンターイオンを付与する工程は、グラフェントランジスタをイオン溶液に浸漬する方法以外の方法で実施されてもよい。例えば、予め電荷供与体となり得る材料(絶縁性異物4となり得るレジスト材料(PMMA等)や絶縁性基板1)などに、カウンターイオンを含有させておき、それらを用いてグラフェントランジスタを作製することも、本実施形態においてカウンターイオンを付与する工程に包含される。
【0038】
グラフェントランジスタは種々公知の方法により製造することができる。なお、グラフェン層3を形成する方法としては、例えば、銅箔上に化学気相成長(CVD)法によってグラフェン層を形成し、このグラフェン層を絶縁性基板上に転写する方法が挙げられる。また、これに限られず、天然黒鉛等から機械剥離などによって得たグラフェン層を絶縁性基板上に転写する方法、SiC基板(絶縁性基板)を加熱処理することにより絶縁性基板上にグラフェン層を形成する方法、酸化グラフェンの還元によってグラフェン層を得る方法などを用いてもよい。
【実施例】
【0039】
(比較例1)
SiO基板(絶縁性基板)の一方の主面に、CVD法によりグラフェン層を形成し、レジストとしてPMMAを用いたパターニング(リソグラフィ)によって、
図1に示されるようなグラフェントランジスタ(GFET)を比較例1として作製した。
【0040】
(比較例2)
比較例1と同様のグラフェントランジスタを脱イオン水中に浸漬した状態で、50時間放置することで、比較例2のグラフェントランジスタを得た。
【0041】
(実施例1)
比較例1と同様のグラフェントランジスタを15mMのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に浸漬した状態で、50時間放置することで、実施例1のグラフェントランジスタを得た。
【0042】
<グラフェンのIDS-Vg特性の測定>
実施例1、比較例1および比較例2のグラフェントランジスタについて、グラフェン層のIDS-Vg特性を測定した。
【0043】
具体的には、グラフェン層、ドレイン電極およびソース電極の絶縁性基板と反対側の表面上にPBS(深さ:5mm)を存在させた状態で、先端がPBS中に浸漬した状態のゲート電極によって、ゲート電圧(Vg)〔トップゲート電圧〕を印加した。ゲート電圧を-0.1V~0.3Vの間で変化させたときのドレイン電流(I
DS)を測定することで、グラフェンのI
DS-V
g特性を測定した。測定結果を
図5に示す。
【0044】
図5に示されるように、比較例1と比べて、PBSに浸漬された実施例1では、V
Diracが変化することが分かる(図中の白矢印)。なお、水に浸漬されただけの比較例2では比較例1に対してV
Diracの変化がほとんどないことから、PBS中の成分がグラフェン層の特性に影響を与えていると考えられる。
【0045】
なお、ディラック点(DP:Dirac Point)電圧(V
Dirac)は、
図5に示されるようなドレイン電流(I
DS)-ゲート電圧(V
g)特性において、I
DSの値が最小となるVgの値である。
【0046】
グラフェントランジスタを用いたセンサでは、例えば、被検知物がグラフェン層に付着したときのVgの変化量や、特定のVgにおけるIDSの変化量などに基づいて、被検知物を測定することができる。
【0047】
図6に、実施例におけるゲート電圧(V
g)とトランスコンダクタンス(gm)との関係を示す。トランスコンダクタンス(gm)は、
図5に示されるようなI
DS-V
g特性における傾き(dI
DS/dV
g)である。トランスコンダクタンス(gm)は、ゲート電極とソース電極との間でのバイアス電圧の変化に対するドレイン電流の感度を表す指標である。
【0048】
図6に示されるように、実施例1では、gmの最大値が比較例1および比較例2よりも大きくなり(図中の白矢印)、また、gmの最小値は比較例1および比較例2よりも小さくなっている。gmの絶対値が大きい程、グラフェントランジスタを用いたセンシングの測定感度が高くなるため、実施例1のグラフェントランジスタでは比較例1,2よりも測定感度が向上すると考えられる。
【0049】
図5(および
図6)は、上記のI
DS-V
g特性の測定開始直後の結果を示すものであるが、実施例1および比較例1について、測定開始から50分経過後までのVDiracの変化とgmの変化をそれぞれ
図7および
図8に示す。
【0050】
図7に示されるように、PBSに浸漬された実施例1のグラフェントランジスタでは、V
Diracの経時的な変化(図中の白矢印)は、比較例1でのV
Diracの経時的な変化(図中の黒矢印)よりも小さくなっている。
【0051】
また、
図8に示されるように、PBSに浸漬された実施例1のグラフェントランジスタでは、
gmの経時的な変化
は、比較例1での
gmの経時的な変化
よりも小さいことが分かる。
【0052】
以上の結果から、グラフェントランジスタをPBSに浸漬することで、グラフェン層の経時的な特性変化が抑制されることが分かる。
【0053】
これは、初期(使用前)の状態において、イオン溶液(PBS)中のカウンターイオン(Na+)が、電荷供与体(PMMA残渣(絶縁性異物)および絶縁性基板の少なくともいずれか)の内部、および、電荷供与体とグラフェン層との界面の少なくともいずれかに浸透していることにより、既に、電荷供与体中の不純物電荷によるグラフェン層への影響が抑制されていたため、測定時に用いられる液体(PBS)によって電荷供与体中の不純物電荷によるグラフェン層への影響が徐々に抑制される現象が回避されたからであると推測される。
【0054】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1 絶縁性基板、21 ドレイン電極、22 ソース電極、3 グラフェン層、4 絶縁性異物、5 イオン溶液。