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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1506 20190101AFI20221118BHJP
   G02F 1/15 20190101ALI20221118BHJP
【FI】
G02F1/1506
G02F1/15 502
G02F1/15 508
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018244376
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020106638
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】小林 範久
(72)【発明者】
【氏名】中村 一希
(72)【発明者】
【氏名】杉田 朋子
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/103629(WO,A1)
【文献】特開2016-045242(JP,A)
【文献】特開2012-181389(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0284557(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0112334(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置され、対向面に電極を有する第1、第2の基板と、
前記第1、第2の基板間に挟持され、エレクトロクロミック材料及びメディエータを含む電解質層と、を有するエレクトロクロミック素子において、
前記第1、第2の基板が有する電極は、いずれも平滑であり、
前記電解質層に前記メディエータの機能を抑制し、かつ前記電極の表面に析出する前記エレクトロクロミック材料の微粒子の溶解を防ぎ黄色発色させる保護剤添加されており、
前記保護剤が、ラクトン環を有するビニルポリマーであることを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
対向配置され、対向面に電極を有する第1、第2の基板と、
前記第1、第2の基板間に挟持され、エレクトロクロミック材料及びメディエータを含む電解質層と、を有するエレクトロクロミック素子において、
前記第1、第2の基板が有する電極は、いずれも平滑であり、
前記電解質層に前記メディエータの機能を抑制し、かつ前記電極の表面に析出する前記エレクトロクロミック材料の微粒子の溶解を防ぎ黄色発色させる保護剤が添加されており、
前記保護剤が、ポリビニルピロリドンであることを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記メディエータは、銅(II)イオンを含む請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
前記エレクトロクロミック材料が、銀化合物又は銀イオンを含有する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
前記第1、第2の基板間に直流電圧を印加する電圧印加手段を有し、前記電圧印加手段が前記エレクトロクロミック材料の粒子の核生成を行わせる第一の印加期間と、該エレクトロクロミック材料の粒子の核成長を行わせる第二の印加期間とで、前記第1、第2の基板に印加する直流電圧の絶対値と印加時間を異ならせるステップ電圧を印加することにより、前記エレクトロクロミック素子のカラー状態とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子を用いたことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック素子に関し、より詳細には、エレクトロクロミック材料を含み、エレクトロクロミック材料の光物性を変化させることで調光、調色する素子及びこれを用いた製品、例えばディスプレイなどの表示装置、外部から入射する光量を調整する装置等に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
透過する光量を調節する素子は、例えば表示装置、調光フィルタ等として現在市販されている。
【0003】
テレビやパソコンモニタ、携帯電話ディスプレイを始めとした情報を表示するための装置(表示装置)は、近年の情報化社会において欠かすことのできない装置である。また、外部から入射する光量を調節する調光フィルタ、防眩ミラー等の調光装置は、屋内、車、航空機等の空間において、外部からの光を調節するためのカーテン等と同様の効果を有し、生活において非常に役立つものである。
【0004】
公知の技術として、例えば、下記特許文献1には、一対の基板の対向する面に一対の電極を形成し、この一対の電極間に銀を含むエレクトロクロミック材料及びメディエータを含む電解液を挟持させ、銀を透明電極上に電解析出させることで、透明状態から鏡状態・黒状態・カラー状態への可逆的な色変化を可能にするエレクトロクロミック素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/180125号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のエレクトロクロミック素子は、電解液にメディエータとして、塩化銅(II)の添加を行っている。塩化銅(II)には二つの役割がある。一つ目の役割は、発色状態の銀の溶解を補助するメディエーション剤としての役割である。また二つ目の役割は、対極における酸化還元反応の材料としての役割であり、作用極における銀の酸化還元反応に必要な電荷量も補償する。
【0007】
塩化銅(II)を添加したエレクトロクロミック素子には発色保持時間が短いという問題点を有していた。エレクトロクロミック素子の電極間に印加される電圧を解除し、電力の供給を停止した場合、塩化銅(II)の影響で、直ちに銀の溶解が起こってしまうためである。
【0008】
また、従来のエレクトロクロミック素子において、赤色、青色等のカラー発色は簡易な構造である平滑ITO電極を用いて良好な発色が得られていた。しかしながら、黄色の発色特性は非常に低かった。黄色は溶解性が高い10nm程度の微小な銀粒子を密に析出させることが必要であり、良好な発色のためには表面の粗いITO粒子修飾電極を用いなければならないという問題点を有していた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、エレクトロクロミック素子への電力供給を停止した場合でも、発色保持時間が長く、更に、簡易な構造である平滑ITO電極を用いても良好な黄色発色が可能なエレクトロクロミック素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、電解質層にメディエータの機能を抑制する保護剤を添加することで、目的とする発色保持時間を長くすることができ、更に、良好な黄色発色が可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の一観点に係るエレクトロクロミック素子は、対向配置され、対向面に電極を有する第1、第2の基板と、第1、第2の基板間に挟持され、エレクトロクロミック材料及びメディエータを含む電解質層と、を有する構成において、電解質層にメディエータの機能を抑制する保護剤を添加したことを特徴とするものである。
【0012】
さらに、保護剤が、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ラクトン環を有するビニルポリマー、又は、セチルトリメチルアンモニウムブロマイドであると望ましい。
【0013】
さらに、メディエータは、銅(II)イオンを含むと望ましい。
【0014】
さらに、エレクトロクロミック材料が、銀化合物又は銀イオンを含有すると望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電解質層にメディエータの機能を抑制する保護剤を添加することで、メディエーションを防ぎ、発色保持時間を長くすることができ、更に、微小な銀粒子の溶解が防がれ、平滑ITO電極を用いた場合でも良好な黄色発色が可能なエレクトロクロミック素子を提供できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係るエレクトロクロミック素子の概略断面を示す図である。
図2】実施形態に係るエレクトロクロミック素子の駆動方式を示す図である。
図3】実施例に係るエレクトロクロミック素子のITO電極上に析出した銀微粒子のSEMによる観察結果を示す図である。
図4】実施例に係るエレクトロクロミック素子の発色電圧を印加した後、回路を開放した際の透過率の時間変化を示す図である。
図5】実施例に係るエレクトロクロミック素子の黄色発色時の透過スペクトル測定結果を示す図である。
図6】実施例に係るエレクトロクロミック素子の黄色発色時のITO電極上に析出した銀微粒子のSEMによる観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0018】
図1は、本発明のエレクトロクロミック素子1の概略断面を示す図である。図1で示すように、本エレクトロクロミック素子1は、一対の電極(作用極2、対極3)と、一対の電極2、3の間に挟持され、エレクトロクロミック材料、メディエータ及びメディエータの機能を抑制する保護剤を含む電解質層4とを有する。なお、図1において、一対の電極2、3をそれぞれ支持する一対の基板は省略されている。
【0019】
本実施形態において一対の基板は、電解質層4を挟み保持するために用いられるものであって、一対の基板の少なくとも一方が透明であればよいが、双方透明であれば、透過型のエレクトロクロミック素子1を実現することができる。本実施形態では双方透明な場合で説明する。なお、基板の材料としては、ある程度の硬さ、化学的安定性を有し、安定的に電解質層4を保持することができる限りにおいて限定されるわけではないが、ガラス、プラスチック、金属、半導体等を採用することができ、透明な基板として用いる場合は、ガラス、プラスチックが適している。
【0020】
また、本実施形態において、一対の基板のそれぞれには、対向面に電極2、3が形成されている。この電極は電解質層4に電圧を印加するために用いられるものである。電極の材料としては、好適な導電性を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えば基板の材質が透明な場合はITO、IZO、SnO、ZnO等の少なくともいずれかを含む透明電極であることが好ましい。なお、本実施形態においてはITOを採用した。
【0021】
また、本実施形態において、電極2、3は、いずれも平滑な電極であることが好ましい。平滑な電極とは、凹凸のない、凹凸があってもナノオーダー以下である電極であって、限定されるわけではないが、凹凸の高低差が20nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは5nm以下である。
【0022】
また、本実施形態において、平滑な電極の表面粗さとしては、触針式の測定による表面粗さ(Ra)が、20nm以下、より好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下であることが好ましい。この範囲とすることで、後で詳述する鏡状態を実現することができる。
【0023】
また、本実施形態に係る電極2、3は、基板上に、表示したい文字などのパターンにあわせた形状として形成してもよく、また、領域ごとに区分された複数の電極を基板上に並べて形成したものであってもよい。領域ごとに区分すると、この各領域を画素として、画素ごとに表示を制御して、複雑な形状の表示にも対応できるといった利点がある。
【0024】
また、電極2、3間の距離としては、後で詳述するエレクトロクロミック材料が、微粒子として十分に析出し、又、消失する電界を印加することができる限りにおいて限定されるわけではないが、1μm以上10mm以下が可能であり、望ましくは1μm以上1mm以下の範囲である。なお、本実施形態においては、スペーサー5で電極2、3間の距離を規定している。
【0025】
なお、本実施形態に係る電極2、3は、それぞれ導電性を有する配線を介して電源に接続されており、この電源により供給される電圧を調整することによって、電解質層4に対する電圧調整、並びに電圧の印加及び解除を制御することができる。
【0026】
また、本実施形態に係る電解質層4は、支持塩としての電解質を含むとともに、エレクトロクロミック材料、メディエータ及びメディエータの機能を抑制する保護剤を含んでいる。また、本実施形態に係る電解質層4は、そのほか含有材料を保持するための溶媒を含んでいる。
【0027】
本実施形態の電解質層4における電解質は、エレクトロクロミック材料の酸化還元等を促進するためのものであり支持塩であることは好ましい一例である。電解質は、臭素イオンを含むことが好ましく、例えば、LiBr、KBr、NaBr、臭化テトラブチルアンモニウム(TBABr)等を例示することができる。なお、電解質の濃度としては、限定されるわけではないが、モル濃度でエレクトロクロミック材料の5倍程度、具体的には3倍以上6倍以下含んでいることが好ましく、例えば、3mM以上6M以下であることが好ましく、より好ましくは5mM以上5M以下、より好ましくは6mM以上3M以下、更に好ましくは15mM以上600mM以下、更に好ましくは25mM以上500mM以下、更に好ましくは30mM以上300mM以下の範囲である。
【0028】
また、本実施形態の電解質層4における溶媒は、エレクトロクロミック材料、メディエータ、メディエータの機能を抑制する保護剤及び電解質を安定的に保持することができる限りにおいて限定されるわけではないが、水等の極性溶媒であってもよいし、極性のない有機溶媒等一般的なものも用いることができる。そして、本実施形態においては、DMSO(ジメチルスルホキシド)を用いた。
【0029】
また、本実施形態の電解質層4におけるエレクトロクロミック材料とは、直流電圧を印加することによって酸化還元反応を起こす材料であり、銀イオンを含む塩であることが好ましい。このエレクトロクロミック材料は、酸化還元反応によって銀微粒子を析出又は消失させ、これに基づいて色の変化を生じさせ表示を行なうことができる。銀を含むエレクトロクロミック材料としては限定されるわけではないが、AgNO、AgClO、AgBr、CHCOOAgを挙げることができる。また、銀以外の金属を用いたエレクトロクロミック材料として、銅、ビスマスを用いたものが挙げられる。なお、エレクトロクロミック材料の濃度については、上記機能を有する限りにおいて特に限定されるわけではなく、材料によって適宜調整が可能であるが、5M以下であることが望ましく、より望ましくは1mM以上1M以下、更に望ましくは5mM以上100mM以下である。
【0030】
また、本実施形態の電解質層4におけるメディエータとは、銀よりも電気化学的に低いエネルギーで酸化還元反応を行なうことのできる材料である。メディエータの酸化体が銀から随時電子を授受することによって、銀の酸化による消色反応を補助することができる。なお、メディエータとしては、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、銅(II)イオンの塩であることが好ましく、例えば、CuCl、CuSO、CuBrを挙げることができる。また、メディエータの濃度としては、上記機能を有する限りにおいて限定されず、また、材料によって適宜調整が可能であるが、5mM以上20mM以下であることが望ましく、より望ましくは15mM以下である。20mM以下とすることで過度の色付きを防止することができる、なお、銀イオンと銅(II)イオンとの濃度比としては、限定されるわけではないが、銀イオンを10とした場合、銅(II)イオンは1以上3以下の範囲であることが好ましい。
【0031】
また、本実施形態の電解質層4におけるメディエータの機能を抑制する保護剤とは、析出した銀微粒子の表面を覆うように作用し、銀微粒子の析出時の溶解を抑制する材料である。そのため、小さい銀微粒子に維持するように形態制御や凝集防止が可能となる。黄色の発色は、溶解性が高い10nm程度の微小な銀粒子を密に析出させることが必要であるが、保護剤を添加することにより、小さい銀微粒子に維持することが可能となり、良好な黄色発色が可能となった。また、エレクトロクロミック素子1の電極間に印加される電圧を解除し、電力の供給を停止した場合、従来はメディエータの影響で、直ちに銀の溶解が発生するが、本実施形態はメディエータの機能を抑制する保護剤の作用により、銀の溶解が抑制され発色保持時間を長くすることが可能となった。代表的な保護剤であるポリビニルピロリドンは、下記一般式で示される化合物である。カルボニル基が銀と相互作用して、上記機能が発現すると考えられる。
【化1】
【0032】
なお、保護剤としては、メディエータの機能を抑制する限りにおいて限定されず、ポリビニルピロリドンの他にも、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ラクトン環を有するビニルポリマー、又は、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド等を例示することができる。
【0033】
また、本実施形態の電解質層4においては、上記構成要件のほか、例えば増粘剤を加えることができる。増粘剤を加えることでエレクトロクロミック素子のメモリ性をさらに向上させることができる。なお、増粘剤の例としては、特に限定されるわけではないが、例えばポリビニルアルコールを例示することができる。なお、増粘剤の濃度としては、特に限定されるわけではないが、例えば、電解質層4の総重量に対し5重量%以上20重量%以下の範囲で含ませておくことが好ましい。
【0034】
ところで、本実施形態のエレクトロクロミック素子1の駆動方式の一例を図2に示しておく。一対の電極2、3間に定電圧を印加する方式と、ステップ電圧を印加する方式等がある。本実施形態に係るエレクトロクロミック素子1は、このような電圧印加を取り入れることで、透明状態及び鏡状態だけでなく、カラー状態を実現することができるようになる。
【0035】
まず、定電圧を印加する方式、又は電圧の印加を解除することで鏡状態、透明状態を実現することができる。
【0036】
本実施形態のエレクトロクロミック素子1では、電極2、3間に定電圧を印加すると、一方の電極ではエレクトロクロミック材料の銀イオンが還元されて銀として析出する一方、電圧を解除すると、銀は再び銀イオンとして溶解する。銀が平滑な電極上に形成されれば鏡状態となる。なお、この定電圧印加の際の電界強度としては、一対の電極間の距離によって適宜調整が可能であり、限定されるものではなく、電界強度として例えば、絶対値で1.0×10V/m以上1.0×10V/m以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1.0×10V/m以下の範囲内である。
【0037】
次に、本実施形態のエレクトロクロミック素子1の駆動方式として、平滑な電極に銀微粒子を析出させる際、ステップ電圧を印加することで析出する銀の粒子径を異ならせ、表示状態を鏡状態だけでなく、カラー状態を実現することができる。カラー状態が現れる原理については、別途詳細な確認検討が必要であるが、銀の粒子径が調節されることでプラズモン吸収波長域が限定され、特定波長域の透過率が低くなるため、特定の色みを有することになるものと考えられる。更に本駆動方法では、印加電圧、印加電圧の印加時間を異ならせることで、電極上に析出する銀の粒子径を異ならせ、表示させる色を異ならせることができるようになる。すなわち、多色表示を行うことができるようになる。
【0038】
ステップ電圧を印加する方式に関して、図2を用いて詳述すると、第一の印加期間t1において銀粒子の核生成を行い、第二の印加期間t2において核成長を行わせる。すなわち、それぞれの電圧値を異ならせることで核生成期間に特化した期間と、核成長期間に特化した期間とをそれぞれ設け、銀の粒子をカラー状態の範囲となるよう調節することが可能となる。核生成期間(第一の印加期間t1)における電圧値や印加期間を異ならせることで着色であっても異なる色の状態を実現することが可能となる。この着色状態における色としては、銀の粒子径を調整することによって適宜調整可能であり、青状態、赤状態、黄状態を例示することができるがこれに限定されない。
【0039】
また、ステップ電圧を印加する方式において、限定されるわけではないが、第一の印加期間t1における電圧V1の絶対値は、第二の印加期間t2における電圧V2の絶対値よりも大きく、第一の印加期間t1の長さは、第二の印加期間t2の長さよりも短いことが好ましい。第一の印加期間t1における電圧V1の絶対値を大きくする一方、この期間t1を短くすることで、核生成期間と核成長期間を効果的に分離することができるようになる。具体的には、第一の印加期間t1における電圧V1の絶対値は、核生成電圧の絶対値よりも大きいことが好ましく、第二の印加期間t2における電圧V2の絶対値は核成長電圧の絶対値よりも高く核生成電圧の絶対値よりも低いことが好ましい(例えば図2参照)。また、この場合において、より具体的には、限定されるわけではないが、印加する第一の印加期間t1の電圧V1の絶対値は、第二の印加期間t2の電圧V2の絶対値の1.5倍以上5倍以下であることが好ましく、より好ましくは3倍以下である。この範囲とすることで、核生成のための電圧値と核成長のための電圧値を明確にし、効果的に現象を区切って制御することができるようになる。また、第一の印加期間t1の長さは、核生成を行うことができる一方で核成長が起こる前に終了させることが好ましく、適宜調整可能であり限定されるわけではないが例えば10ms以上1s以下であることが好ましく、より好ましくは500ms以下、更に好ましくは200ms以下である。この範囲とすることで上記のとおり、効果的に核生成を行うことができる一方で核成長が起こる前に終了させることができる。また第二の印加期間t2の長さは、核成長を行うことができる限りにおいて限定されず、適宜調整可能であるが、例えば1sより長く、3s以上であることが好ましい。この範囲とすることで十分核成長を達成することができる。
【0040】
本実施形態によると、印加電圧の値を変化させることで、鏡状態、カラー状態を可能とし、更にカラー状態も多色の表示が可能となる。また、印加電圧を解除した状態で透明状態を実現することができる。
【0041】
以上のような構成の本実施形態においては、電解質層4にメディエータの機能を抑制する保護剤を添加するだけの簡易な構成で、保護剤が析出した銀微粒子の表面を覆うように作用し、銀微粒子の析出時の溶解を抑制する。そのため、小さい銀微粒子に維持するように形態制御や凝集防止が可能となる。黄色の発色は、溶解性が高い10nm程度の微小な銀粒子を密に析出させることが必要であるが、保護剤を添加することにより、小さい銀微粒子に維持することが可能となり、良好な黄色発色が可能となった。また、エレクトロクロミック素子1の電極間に印加される電圧を解除し、電力の供給を停止した場合、従来はメディエータの影響で、直ちに銀の溶解が発生するが、本実施形態はメディエータの機能を抑制する保護剤の作用により、銀の溶解が抑制され発色保持時間を長くすることが可能となった。発色保持時間が長くなると、発色状態を維持するための電力が低下するので、消費電力を削減できる効果がある。
【0042】
また、本実施形態のエレクトロクロミック素子は、カラーによる多色表示を応用して、表示装置に適用可能であるが、表示装置に限られず、例えば、建築物の調光窓、店舗・商業施設におけるショーウインドウ、自動車・飛行機・電車等の防眩窓等のいわゆるスマートウインドウや、自動車・サングラス等のミラー、駅・空港・バス停等公共の場における情報表示媒体、電子広告等、光の量を調節することのできる極めて広い製品分野に採用することができる。
【実施例
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0044】
ここで、実際にエレクトロクロミック素子を作製し、その効果の確認を行なったので、以下に説明する。
【0045】
第1、第2の基板としてガラス基板を用い、一対の電極としてITO電極を用い、エレクトロクロミック材料としてAgNOを用い、溶媒としてDMSOを、電解質としてLiBrを、メディエータとしてCuClを、メディエータの機能を抑制する保護剤としてポリビニルピロリドン(PVP)を用いた。なお、本実施例において、一対の電極は平滑なITOが形成されたITO電極を用いた。また、本実施例において、AgNOの濃度は10mM、LiBrの濃度は50mM、CuClの濃度は10mM、PVPの濃度は3.6Mとした。また、テフロン制のスペーサーを用い、一対の電極間の距離を500μmとして上記電解質層を第1、第2の基板間に挟持させた。
【0046】
次に、保護剤としてPVPを含む素子および従来のPVPを含まない素子に-2.5Vの定電圧を8mC印加した際のITO電極上に析出した銀微粒子をSEMにより観察を行った。この結果を図3に示しておく。従来素子と比べ、PVPを含む素子では粒子形状が球形に近く単分散性も高いことから、電着銀微粒子においてPVPが保護剤として機能していることが確認できた。
【0047】
また、保護剤としてPVPを含む素子および従来のPVPを含まない素子に発色電圧(-2.5V、5mC)を印加した後、回路を開放した際の透過率の時間変化を測定した。この結果を図4に示しておく。従来素子では約120sで発色前の透過率へと戻ったのに対し、PVPを含む素子では約790sで発色前の透過率へと戻った。PVPの添加によって約6.6倍の保持特性を示した。この結果、PVPを添加することにより発色保持時間を長くできることを確認した。
【0048】
さらに、黄色発色に関して検討した。黄色の発色は、溶解性が高い10nm程度の微小な銀粒子を密に析出させることが必要であるが、溶解性が高いため、黄色の発色を維持できない。そこで、これまで平滑ITO電極を用いた場合、溶解性の低い大きな球状微粒子(約70nm)の析出で代替えしていた。このPVPを含まない従来の代替え素子と、PVPを含む素子にステップ電圧(V1=-4.4V、t1=70ms、V2=-1.75V、t2=140s)を印加したのち、酸化電圧(0.5V、10s)を印加した際の素子の透過スペクトル測定結果(図5)と、ITO電極上に析出した銀微粒子をSEMにより観察した結果(図6)を示す。図5よりPVPを含む素子において波長450nm付近の透過率が大きく減少し素子は良好な黄色発色を示した。そして、図6より、PVPを用いた今回の素子では平滑ITO電極上に10nm以下の銀微粒子が密に析出していた。このような銀微粒子の析出はPVPの添加により可能になったと考えられ、この結果、良好な黄色発色が得られたと考えられる。
【0049】
以上、本実施例により、エレクトロクロミック素子への電力供給を停止した場合でも、発色保持時間が長く、更に、簡易な構造である平滑ITO電極でも良好な黄色発色が可能なエレクトロクロミック素子を実現できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、消費電力が少なく、透明及び発色状態を可逆に切り替えることが可能なエレクトロクロミック素子として、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 エレクトロクロミック素子
2 作用極
3 対極
4 電解質層
5 スペーサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6