(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】レーザ修正方法、レーザ修正装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20221118BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20221118BHJP
H05K 3/08 20060101ALI20221118BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20221118BHJP
G01N 21/956 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23K26/03
H05K3/08 D
H05K3/00 N
G01N21/956 B
(21)【出願番号】P 2019129341
(22)【出願日】2019-07-11
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】水村 通伸
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-188638(JP,A)
【文献】特開2008-85279(JP,A)
【文献】特表2007-520874(JP,A)
【文献】特表2016-528496(JP,A)
【文献】特開平10-235490(JP,A)
【文献】特開2005-217161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
H05K 3/00 - 3/34
G01N 21/84 - 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層膜基板の欠陥部に対してレーザ照射範囲を設定し、設定されたレーザ加工条件で前記欠陥部にレーザ光を照射して修正加工を行うレーザ修正方法であって、
レーザ光照射位置の周辺領域を特定し、
前記周辺領域を共通する反射光情報毎に複数の区分領域に区画し、
前記レーザ光照射位置の周囲に位置する前記区分領域の配置パターンに基づいて、前記レーザ光照射位置の層構造を類推し、
類推した層構造に基づいて、照射するレーザ光のレーザ加工条件を設定することを特徴とするレーザ修正方法。
【請求項2】
前記反射光情報は、欠陥部画像のピクセル毎に取得された分光スペクトルデータであることを特徴とする請求項1記載のレーザ修正方法。
【請求項3】
前記レーザ加工条件は、前記欠陥部画像におけるピクセル毎に設定されることを特徴とする請求項2記載のレーザ修正方法。
【請求項4】
前記層構造の類推は、学習済みのニューラルネットワークによって行われ、
前記ニューラルネットワークは、修正対象の多層膜基板と同じ多層膜構造を有するテスト基板の実測データを区画した区分領域データと、該区分領域毎の実際の層構造をデータ化した正解データを訓練データとして機械学習されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載のレーザ修正方法。
【請求項5】
前記多層膜基板は、2次元的な周期パターンを有しており、
修正工程に先立って行われる検査工程の結果から前記欠陥部の位置を特定し、
前記欠陥部を含む周期パターン画像を、前記欠陥部を含まない周期パターン画像と比較して、前記欠陥部の形状を特定し、
特定された前記欠陥部の形状が含まれるように前記レーザ照射範囲を設定することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載のレーザ修正方法。
【請求項6】
多層膜基板の欠陥部に対してレーザ照射範囲を設定し、設定されたレーザ加工条件で前記欠陥部にレーザ光を照射して修正加工を行う修正加工部を備え、
前記修正加工部は、
レーザ光照射位置の周辺領域を特定し、
前記周辺領域を共通する反射光情報毎に複数の区分領域に区画し、
前記レーザ光照射位置の周囲に位置する前記区分領域の配置パターンに基づいて、前記レーザ光照射位置の層構造を類推し、
類推した層構造に基づいて、照射するレーザ光のレーザ加工条件を設定することを特徴とするレーザ修正装置。
【請求項7】
前記修正加工部は、
顕微鏡を介して欠陥部画像を取得する画像取得部と、
前記顕微鏡を通して、前記欠陥部にレーザ光を照射するレーザ照射部と、
前記顕微鏡と同軸の白色落射光を前記多層膜基板に照射して、前記多層膜基板からの反射光を分光してピクセル毎の分光スペクトルデータを取得するスペクトル分光カメラと、
前記レーザ加工条件を設定するレーザ制御部とを備え、
前記レーザ制御部は、
前記分光スペクトルデータを前記反射光情報として、前記欠陥部画像におけるピクセル毎に前記レーザ加工条件を設定することを特徴とする請求項6記載のレーザ修正装置。
【請求項8】
前記修正加工部は、
前記層構造の類推を行う学習済みのニューラルネットワークを備え、
前記ニューラルネットワークは、修正対象の多層膜基板と同じ多層膜構造を有するテスト基板の実測データを区画した区分領域データと、該区分領域毎の実際の層構造をデータ化した正解データを訓練データとして機械学習されていることを特徴とする請求項6又は7記載のレーザ修正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ修正方法、レーザ修正装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ修正(laser repair)は、FPD(Flat Panel Display)などの製造工程において、検査工程後に行われ、TFT(Thin Film Transistor)などの多層膜基板を対象に、検査工程で特定された欠陥部に対してレーザ光を照射して修正加工を行うものである。このレーザ修正は、加工対象の欠陥部形状が欠陥部毎に異なることや、欠陥部毎に加工条件などを変更する必要があることから、通常、高いスキルを有するオペレータのマニュアル操作で行われている。
【0003】
これに対して、画像処理技術を用いて、修正工程の一部を自動化することが提案されている。従来技術では、検査対象箇所を撮影した欠陥画像と欠陥の無い参照画像とを照合して欠陥部を検出し、入力される指示内容に基づいて、検出された欠陥に対してレーザ光が照射される加工位置及び加工範囲を指定することなどが行われている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多層膜基板を対象にして、レーザ修正をマニュアル操作で行う場合、欠陥部の周辺層や下地層にダメージを与えること無く、欠陥部のみを加工することが求められる。オペレータは、検査工程で特定された欠陥部とその周辺の層構造を認識しており、自身の経験から必要最小限の加工範囲を定めて、認識している層構造の情報に基づいて、加工条件(レーザ加工レシピ)を適宜選択しながら作業を行う。このため、作業が長時間になることは避けられず、また、オペレータのスキルが修正品質に影響することになる。
【0006】
また、従来技術のように、画像処理技術を用いて修正工程の一部を自動化する場合には、表面の2次元画像のみでは欠陥部及びその周辺の層構造の情報が得られないため、下地層の違いや層厚のばらつきがある場合にも一定の加工条件で加工処理が行われることになる。このため、加工不足や過剰な加工が進んで、修正に失敗したり、良質な修正を行うことができなかったりする問題が生じる。
【0007】
特に、加工対象の表面層が金属層の場合には、表面の反射光がその下層の情報を含まないことが多いので、下地の層構造が異なる場合にも同じ加工条件で加工を行ってしまい、下地層の違いによって加工のされ方に違いが生じ、加工不足や過剰な加工になり易い問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものである。すなわち、レーザ修正の自動化を可能にして、作業効率の改善を図り、オペレータのスキルに影響されること無く一定の修正品質が得られるようにすること、反射光の情報のみで下地層の違いを把握できない場合であっても、下地層の違いを正確に類推して良質な修正を行うことができるようにすること、などが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
多層膜基板の欠陥部に対してレーザ照射範囲を設定し、設定されたレーザ加工条件で前記欠陥部にレーザ光を照射して修正加工を行うレーザ修正方法であって、レーザ光照射位置の周辺領域を特定し、前記周辺領域を共通する反射光情報毎に複数の区分領域に区画し、前記レーザ光照射位置の周囲に位置する前記区分領域の配置パターンに基づいて、前記レーザ光照射位置の層構造を類推し、類推した層構造に基づいて、照射するレーザ光のレーザ加工条件を設定することを特徴とするレーザ修正方法。
【0010】
多層膜基板の欠陥部に対してレーザ照射範囲を設定し、設定されたレーザ加工条件で前記欠陥部にレーザ光を照射して修正加工を行う修正加工部を備え、前記修正加工部は、レーザ光照射位置の周辺領域を特定し、前記周辺領域を共通する反射光情報毎に複数の区分領域に区画し、前記レーザ光照射位置の周囲に位置する前記区分領域の配置パターンに基づいて、前記レーザ光照射位置の層構造を類推し、類推した層構造に基づいて、照射するレーザ光のレーザ加工条件を設定することを特徴とするレーザ修正装置。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】レーザ修正方法を実行するための装置(レーザ修正装置)の構成例を示した説明図。
【
図2】スペクトル分光カメラの構成例と機能を示した説明図。
【
図3】層構造の類推方法を説明する説明図((a)が分光画像を反射光情報毎に区画した区分領域を示し、(b)が区分領域の配置パターンから類推された層構造の領域を示している。)。
【
図5】多層膜基板表面の周期パターンの例を示した説明図。
【
図7】区分領域毎に設定されるレーザ加工条件を説明する説明図。
【
図8】ニューラルネットワークの訓練データと入出力の関係を示した説明図。
【
図9】修正加工工程におけるレーザ走査を説明する説明図。
【
図10】修正加工工程でのレーザ制御部の動作フローを示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0013】
本発明の実施形態に係るレーザ修正方法は、TFT(Thin Film Transistor)などの多層膜基板を対象にして、その表面にレーザ光を照射して欠陥部を修正加工するものである。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係るレーザ修正方法を実行するための装置(レーザ修正装置)の一例を示している。レーザ修正装置1は、水平面上を移動するステージS上に載置した多層膜基板100の表面にレーザ光Lを照射する修正加工部1Aを備えており、修正加工部1Aは、画像取得部2、レーザ照射部3、スペクトル分光カメラ4、レーザ制御部5等を具備している。
【0015】
画像取得部2は、例えば、顕微鏡20、白色光源21、撮像カメラ26などを備え、顕微鏡20を介して多層膜基板100の表面画像を取得するものであり、多層膜基板100に欠陥部が有る場合には欠陥部画像を取得する。白色光源21からミラー22とハーフミラー23とレンズ系24を介して多層膜基板100の表面に白色落射光が照射され、多層膜基板100の表面で反射された光が、レンズ系24とハーフミラー23とハーフミラー25を介して撮像カメラ26の撮像面に結像する。撮像カメラ26で撮像された画像は、画像処理部27にて適宜の画像処理がなされて、適宜倍率の拡大画像として表示装置28に表示される。
【0016】
レーザ照射部3は、例えば、レーザ光源30、レーザスキャナ32などを備え、顕微鏡20を通して、多層膜基板100の表面にレーザ光Lを照射するものである。レーザ光源30から出射されたレーザ光が、ミラー31とガルバノミラー32A,32Bからなるレーザスキャナ32を介して顕微鏡20に入射され、顕微鏡20内の光学系を通って多層膜基板100の表面に照射される。
【0017】
スペクトル分光カメラ4は、多層膜基板100表面の反射光情報として、分光画像を取得するものである。白色光源21から出射された顕微鏡20と同軸の白色落射光が多層膜基板100の表面に照射され、その表面からの反射光を顕微鏡20の光軸に挿入されるミラー29で反射してスペクトル分光カメラ4に入射する。スペクトル分光カメラ4は、多層膜基板100の表面からの反射光を分光して分光画像のピクセル毎の分光スペクトルデータを取得する。ここでは、スペクトル分光カメラ4を用いて、欠陥部画像から得る反射光情報として、分光スペクトルデータを取得する例を示しているが、これに限らず、欠陥部画像から得る反射光情報としては、ピクセル毎の色度データなどであってもよい。
【0018】
ここで、顕微鏡20内でのレーザ光Lの光軸と、画像取得部2の顕微鏡20内の光軸と、スペクトル分光カメラ4の顕微鏡20内の光軸は、同軸になっている。これにより、表示装置28のモニタ画面内に、常にレーザ光Lの照射位置を設定することができ、また、表示装置28のモニタ画像とスペクトル分光カメラ4の分光画像を同軸画像にすることができる。
【0019】
スペクトル分光カメラ4は、例えば、
図2に示すように、レンズ40、スリット41、分光器42、2次元センサ43を備えており、ライン分光方式によって被測定面MにおけるX方向の1ライン分の反射光をそれと垂直方向に分光し、2次元センサ43にて、X方向の空間情報とその分光データを検出するものである。そして、1ライン分の反射光をY方向に随時走査することで、2次元センサ43のX-Y方向の分解能1ピクセル(Xn,Yn)毎に一つの分光スペトルデータを得る。
【0020】
レーザ制御部5は、多層膜基板100の欠陥部を含む表面にレーザ照射範囲を設定し、設定されたレーザ加工条件で欠陥部にレーザ光を照射するための制御を行う。レーザ制御部5は、学習済みのニューラルネットワーク50の設定に応じて制御される。ニューラルネットワーク50には、反射光情報として、スペクトル分光カメラ4が取得した分光画像のピクセル毎の分光スペクトルデータが入力され、ニューラルネットワーク50は、入力された分光スペクトルデータに基づいて、分光画像のピクセル毎に欠陥部に照射するレーザ光のレーザ加工条件を設定する。
【0021】
ニューラルネットワーク50は、レーザ加工条件を設定するために、反射光情報である分光スペクトルデータから、多層膜基板100の層構造の類推を行っている。
図3によって、ニューラルネットワーク50が行っている層構造類推の考え方を説明する。
【0022】
図3(a)は、設定されたレーザ光照射位置(顕微鏡20の光軸位置)周辺領域から取得される分光画像を示している。この分光画像は、ピクセル毎に分光スペクトルデータ(反射光情報)を有しており、レーザ光照射位置の周辺領域を特定し、その周辺領域を共通する分光スペクトルデータ毎に複数の区分領域I~VIIに区画することで、多層膜のパターンを反射光情報の違いによって把握することができる。図示の例では、区分領域I,III,VI,VIIが同類の分光スペクトルであることから、その領域が同層のパターンであることが把握でき、区分領域IV,Vが、区分領域I,III,VI,VIIとは異なる別の同類分光スペクトルであることから、その領域が、区分領域I,III,VI,VIIとは別の同層パターンであることが把握できる。
【0023】
これに対して、区分領域IIは、その領域全体で同類の分光スペクトルになるが、この層が加工対象の金属層である場合には、金属層表面の反射光が下地層の情報を含まないため、その領域内に下地層の層構造が異なる領域があったとしても、全域で同じ分光スペクトルになってしまう。このため、下地層が異なる領域に対して異なるレーザ加工条件を設定しようとすると、区分領域IIにおけるレーザ照射位置において層構造の類推が必要になる。
【0024】
ここで、反射光情報から
図3(a)に示すような区分領域が得られた場合に、同層パターンであると認識される2つの区分領域(例えば、区分領域Iと区分領域III)の間に他の層パターンであると認識される区分領域(例えば、区分領域II)が存在する場合に、前述した2つの区分領域の間にも同層パターンが存在して、その上に他の層パターンが積層されていると類推する。
【0025】
具体的に、
図3(a)に示した例では、区分領域I,III,VI,VIIの層が、区分領域IIの層と区分領域IV,Vの層の下に一様に広がる一つの層の露出領域であり、その上に区分領域IVと区分領域Vの層が積層されて、区分領域IVから区分領域Vに繋がる層を形成しており、その層の上にクロスするように区分領域IIの層が形成されているということを類推することができる。
【0026】
ニューラルネットワーク50は、このような層構造の類推を自動且つ高い精度で行うために、レーザ光の照射位置の周辺領域を特定し、入力された分光スペクトルデータに基づいて、特定した周辺領域を共通する分光スペクトル(反射光情報)毎に複数の区分領域に区画し、レーザ照射位置の周囲に位置する区分領域の配置パターンに基づいて、レーザ照射位置の層構造を類推している。そして、類推した層構造に基づいて、照射するレーザ光のレーザ加工条件を設定している。
【0027】
例えば、ニューラルネットワーク50は、入力された分光スペクトルデータに基づいて、
図3(a)に示すような区分領域の配置パターンが得られた場合には、
図3(b)に示すように、レーザ光照射位置の周囲に複数(8つ)の区分領域を推定し、分光スペクトルデータ(反射光情報)では一つの区分領域としか認識できない区分領域IIを、下地層の層構造が異なる複数の領域に分割して把握する。これにより、
図3(a),(b)に示す例では、ニューラルネットワーク50は、レーザ照射位置の層構造を、区分領域IIにて露出する金属層が最上層にあり、その下に区分領域IV,Vにて露出する層があり、更にその下に区分領域I,III,VI,VIIにて露出する層が存在する多層構造であると類推することができる。
【0028】
以下に、このような層構造の類推を行うレーザ修正方法の具体例を説明する。
図4に示すように、このレーザ修正方法は、検査工程S1の後に行われ、欠陥位置特定工程S2、欠陥形状特定工程S3、修正加工工程S4を有している。修正対象の多層膜基板100は、
図5に示すように、X方向の周期ピッチPxとこれに直交するY方向の周期ピッチPyを備えた2次元的な周期パターンを有している。この周期パターンは、多層膜基板100がFPDのTFT基板である場合には、一つの表示画素に対応している。
【0029】
欠陥位置特定工程S2では、修正工程に先立って行われる検査工程S1の結果から欠陥部の位置を特定する。その際には、画像取得部2で取得される拡大画像を低倍率に設定して、複数の周期パターンを含む画像を取得し、これを画像処理部27にて画像処理することで、前述した周期ピッチ(Px,Py)を特定した後、欠陥部が存在する周期パターンの位置を特定する。そして、特定された位置に顕微鏡20の光軸を合わせて、欠陥部の形状がモニタリングできるように拡大倍率を高め、欠陥部がセンタリングされた拡大画像を得る。
【0030】
欠陥形状特定工程S3では、欠陥部がセンタリングされた拡大画像によって、欠陥部の形状を特定する。その際には、画像処理部27が、欠陥部を含む周期パターン画像を、欠陥部を含まない周期パターン画像と比較することで、欠陥部の形状が特定される。
【0031】
この欠陥部の形状特定においても、ニューラルネットワークを用いることができる。具体的には、
図6に示すように、欠陥部を含む周期パターン画像(欠陥部がセンタリングされた拡大画像)Gdをニューラルネットワークにおける学習済みの機械学習モデル50Aに入力して、この機械学習モデル50Aの出力に基づいて、画像処理部27が欠陥部を含む周期パターン画像Gs内から欠陥部の形状Fdを特定する。
【0032】
周期パターンは、全ての周期パターンが同一形状に形成されている訳では無く、パターンの形状誤差を含んでいる。このため、単純な画像比較のみでは、欠陥部の形状を正確に特定することが難しい。ニューラルネットワークの学習済み機械学習モデル50Aを用いることで、欠陥部の形状特定の精度を高めることができる。機械学習モデル50Aは、修正対象の多層膜基板100のテスト基板を用いて取得した多数の周期パターン画像Gsが学習データになる。
【0033】
修正加工工程S4では、先ず、画像処理部27にて特定された欠陥部の形状が含まれるように、
図7に示すように、レーザ制御部5が、レーザ照射範囲を設定する。レーザ照射範囲は、レーザスキャナ32の走査範囲であり、欠陥部の形状Fdが複数箇所に分離して存在する場合には、これらの全てを含むように、走査範囲が設定される。
【0034】
修正加工工程S4では、スペクトル分光カメラ4によって取得される欠陥部画像のピクセル毎の分光スペクトルデータが、ニューラルネットワーク50に入力され、ニューラルネットワーク50は、設定されたレーザ照射範囲内のレーザ照射位置毎に、区画した区分領域に基づいて、前述した層構造の類推を行い、層構造の違いに対応した複数の区分領域(区分領域A,B,C)を特定し、その区分領域毎にレーザ加工条件(レーザ加工レシピ1~3)を設定する。
【0035】
図7に示した例では、形状Fdの欠陥部画像内を、層構造が異なる区分領域A~Cに区画しており、ある層構造の区分領域Aに対しては加工条件1が設定され、他の層構造の区分領域Bに対しては加工条件2が設定され、更に異なる層構造の区分領域Cに対しては加工条件3が設定されている。
【0036】
区画された区分領域に基づいて、層構造の類推を行う層構造類推用のニューラルネットワーク60は、
図8に示すように、入力層61と中間層62と出力層63を有しており、レーザ照射位置毎に区画された区分領域データが入力され、レーザ照射位置の層構造が出力される。そして、前述したニューラルネットワーク50は、層構造類推用のニューラルネットワーク60の類推結果に基づいて、レーザ照射位置にて照射するレーザ光のレーザ加工条件を設定する。
【0037】
層構造類推用のニューラルネットワーク60を機械学習させるための訓練データは、
図8に示すように、修正対象の多層膜基板100と同じ多層膜構造を有するテスト基板の実測データを区画した区分領域データと、区分領域毎の実際の層構造をデータ化した正解データである。これらの区分領域データと正解データは、多数のテスト基板の周期パターン(表示画素)毎に予め実測されている。
【0038】
修正加工工程S4における修正の実行は、
図9に示すように、レーザスキャナ32によってレーザ照射範囲(走査範囲)内でのラスター走査が行われ、横走査の走査位置が欠陥部の形状Fd内に位置する場合にのみ、太線で図示しているようにレーザ光の出力がONになり、レーザ照射位置のピクセル毎に予め設定されている加工条件での加工がなされる。走査位置が欠陥部の外に有る場合には、破線で図示しているように、レーザ光の出力がOFF(又は低く)になる。
【0039】
図10にて、修正加工工程S4でのレーザ制御部5の動作を説明する。動作が開始(S40)されると、
図7に示すように、欠陥部に対してレーザ照射範囲が設定され(S41)、更に、設定された区分領域毎にレーザ加工条件が設定される(S42)。この設定で、
図7に示すように、欠陥部の形状Fd内のレーザ照射範囲がレーザ加工条件毎に予め区分される。
【0040】
その後、レーザ走査が開始されると(S43)、走査位置(レーザ光の照射位置)が欠陥部内か否かの判断がなされ(S44)、走査位置が欠陥部の外の場合には(S44:NO)、レーザ光はOFFになり(S45)、走査位置が欠陥部内に有ると(S44:YES)、レーザ光はONになる(S46)。この際のレーザ光は、予め設定されているレーザ加工条件で照射される。このようなレーザ走査(S43)は、終点検知がなされるまで(S47:NO)継続される。そして、欠陥部の修正加工が終了して、終点検知がなされた場合には(S47:YES)、レーザ制御部5の動作を終了する(S48)。
【0041】
このようなレーザ修正装置1を用いたレーザ修正方法によると、修正対象となる多層膜基板100の層膜構造を類推した上で、欠陥部を抽出して、適正な加工条件で欠陥部のみをレーザ加工することができる。また、このような修正加工を自動で行うことができる。これにより、オペレータのマニュアル作業に比べて作業効率を改善することができると共に、オペレータのスキルに影響されること無く、一定の修正品質を得ることができる。また、レーザ修正を自動化する上で、加工対象層の下地層の層膜構造に違いある場合であっても、下地層の層構造の違い毎に加工条件を設定して、欠陥部の周辺層や下地層にダメージを与えること無く、欠陥部のみを適正に修正加工することができる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1:レーザ修正装置,1A:修正加工部,
2:画像取得部,20:顕微鏡,21:白色光源,
22,29,31:ミラー,23,25:ハーフミラー,24:レンズ系,
26:撮像カメラ,27:画像処理部,28:表示装置,
3:レーザ照射部,30:レーザ光源,
32:レーザスキャナ,32A,32B:ガルバノミラー,
4:スペクトル分光カメラ,
40:レンズ,41:スリット,42:分光器,43:2次元センサ,
5:レーザ制御部,50,60:ニューラルネットワーク,
50A:機械学習モデル,
61:入力層,62:中間層,63:出力層,100:多層膜基板,
S:ステージ,L:レーザ光