(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】電波吸収用積層体、電波吸収体、及びミリ波レーダ
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20221118BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20221118BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/025
(21)【出願番号】P 2018155332
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】請井 博一
(72)【発明者】
【氏名】宇井 丈裕
(72)【発明者】
【氏名】青木 亮佑
【審査官】菊地 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-307088(JP,A)
【文献】特開2013-093464(JP,A)
【文献】特開2001-308583(JP,A)
【文献】特開2007-094191(JP,A)
【文献】特開2017-079218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属又は金属化合物を含む抵抗層と、
前記抵抗層に密着している第一誘電体層と、
酸成分を含有している粘着性の第二誘電体層と、
前記抵抗層を支持する支持体と、を備え、
前記第一誘電体層は、前記第一誘電体層の厚み方向において前記抵抗層と前記第二誘電体層との間に配置されており、
前記抵抗層は、前記第一誘電体層の厚み方向において前記支持体と前記第一誘電体層との間に配置されており、
前記第一誘電体層における質量基準の酸成分の含有率は、前記第二誘電体層における質量基準の前記酸成分の含有率よりも低い、
電波吸収用積層体。
【請求項2】
前記第一誘電体層は、実質的に酸成分を含有していない、請求項1に記載の電波吸収用積層体。
【請求項3】
前記第一誘電体層は、5μm以上の厚みを有する、請求項1又は2に記載の電波吸収用積層体。
【請求項4】
前記第二誘電体層は、難燃剤を含有している、請求項1~3のいずれか1項に記載の電波吸収用積層体。
【請求項5】
前記第一誘電体層は、実質的に難燃剤を含有していない、請求項1~4のいずれか1項に記載の電波吸収用積層体。
【請求項6】
前記第一誘電体層は、80μm未満の厚みを有する、請求項5に記載の電波吸収用積層体。
【請求項7】
UL規格のUL94 V-1に適合している、請求項1~6のいずれか1項に記載の電波吸収用積層体。
【請求項8】
前記第一誘電体層の厚み方向において前記第一誘電体層と第二誘電体層との間に配置された第三誘電体層をさらに備え、
前記第三誘電体層における質量基準の酸成分の含有率は、前記第二誘電体層における質量基準の前記酸成分の含有率よりも低い、請求項1~
7のいずれか1項に記載の電波吸収用積層体。
【請求項9】
前記第三誘電体層は、難燃剤を含有している、請求項
8に記載の電波吸収用積層体。
【請求項10】
金属を含む被着体と、
前記第二誘電体層が前記被着体に粘着した、請求項1~
9のいずれか1項に記載の電波吸収用積層体と、を備えた、
電磁波吸収体。
【請求項11】
請求項
10に記載の電波吸収体を備えた、ミリ波レーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収用積層体、電波吸収体、及びミリ波レーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不要な電波を吸収する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アンテナと、制御回路と、ハウジングと、レドームと、遮蔽部材とを備えたミリ波レーダ装置が記載されており、遮蔽部材は、電波を吸収するための電波吸収材から構成されている。遮蔽部材は、アンテナと制御回路との間に配置されている。これにより、制御回路からの電源のノイズ等の不要電波を遮断できる。遮蔽部材はレドームよりも誘電損失の大きい誘電損失層又は磁気損失層を備えている。電波吸収特性を向上させるために遮蔽部材の外側側面に導電体層が積層されている。
【0004】
特許文献2には、アンテナベースと、ハウジングと、レドームとを備えたミリ波レーダが記載されており、レドームの内側面に電波吸収層が設けられている。電波吸収層は、レドームよりも誘電損失の大きな層又は磁気損失層である。電波吸収層の外側に導電体層が設けられている。電波吸収層により送信アンテナから送信されるサイドローブが吸収される。
【0005】
特許文献3には、耐熱性のシートと、そのシートのいずれかの表面を被覆した金属層とを含むミリ波用電磁波吸収体が記載されている。耐熱性のシートにおいて、ゴム又はプラスチックのマトリクス中に軟磁性金属粉末が埋設されている。ミリ波用電磁波吸収体をミリ波レーダの筐体の所定の位置に配置すると、不必要なミリ波を確実に吸収できる。
【0006】
特許文献4には、高周波通信装置のシールドケースの天井面に貼り付けられた電波吸収シートが記載されている。シールドケースの表面は金属によって形成されている。
【0007】
特許文献1~3には、誘電損失型の電波吸収体又は磁性損失型の電波吸収体が記載されているが、電波吸収体としてはλ/4型の電波吸収体も知られている。例えば、特許文献4には、λ/4型の電波吸収シートが記載されている。例えば、特許文献5に示すように、λ/4型の電波吸収体は、例えば、電波反射層(導電層)と、λ/4に相当する厚みを有する誘電体層と、抵抗薄膜層(抵抗層)とを備えている。誘電体層が導電層と抵抗層との間に配置される。なお、λは吸収対象とする電波の波長である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-74662号公報
【文献】特開2004-77399号公報
【文献】特開2002-118008号公報
【文献】特開2012-199463号公報
【文献】特開2017-163141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3には、λ/4型の電波吸収体は記載されていない。一方、特許文献4及び5には、λ/4型の電波吸収体が記載されており、特許文献4には、電波吸収シートを金属に貼り付けることが示唆されている。しかし、特許文献4において、電波吸収シートのどの部分をシールドケースの金属表面と接触させるのか定かではない。特許文献1~5には、抵抗層及び誘電体層を含む積層体の誘電体層を、金属を含む被着体に接触させてλ/4型の電波吸収体を構成することは記載されていない。
【0010】
そこで、本発明は、金属を含む被着体に対して良好な粘着性を有する誘電体層と、抵抗層とを備え、良好な耐久性を有するλ/4型の電波吸収体を構成するのに適した電波吸収用積層体を提供する。加えて、本発明は、このような電波吸収体用積層体を備えた電波吸収体と、この電波吸収体を備えたミリ波レーダとを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、
金属又は金属化合物を含む抵抗層と、
前記抵抗層に密着している第一誘電体層と、
酸成分を含有している粘着性の第二誘電体層と、を備え、
前記第一誘電体層は、前記第一誘電体層の厚み方向において前記抵抗層と前記第二誘電体層との間に配置されており、
前記第一誘電体層における質量基準の酸成分の含有率は、前記第二誘電体層における質量基準の前記酸成分の含有率よりも低い、
電波吸収用積層体を提供する。
【0012】
また、本発明は、
金属を含む被着体と、
前記第二誘電体層が前記被着体に粘着した、上記の電波吸収用積層体と、を備えた、
電波吸収体を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、
上記の電波吸収体を備えた、ミリ波レーダを提供する。
【発明の効果】
【0014】
上記の電波吸収用積層体の第二誘電体層は、金属を含む被着体に対する良好な粘着性を有するとともに、電波吸収用積層体は、良好な耐久性を有するλ/4型の電波吸収体を構成するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明に係る電波吸収用積層体の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る電波吸収体の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る電波吸収用積層体の別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、λ/4型の電波吸収体に関する下記の新たな知見に基づいて本発明に係る電波吸収用積層体を案出した。
【0017】
λ/4型の電波吸収体は、誘電体層をなす材料の比誘電率を調整することによって誘電体層の厚さを調節でき、薄型化の観点から有利である。一方、抵抗層、誘電体層、及び導電層を備えた積層体を粘着剤によって被着体に取り付ける場合、抵抗層、誘電体層、及び導電層に加えて粘着剤層が必要となる。このことは、薄型化を推進するために好都合であるとは言い難い。λ/4型の電波吸収体において、誘電体層の一方の主面は電波反射能を有する物体と接していればよい。このため、被着体が電波反射能を有するのであれば、誘電体層に所定の粘着性を付与して、抵抗層及び誘電体層を含む積層体を被着体に貼り付け、λ/4型の電波吸収体を構成することが考えられる。これにより、λ/4型の電波吸収体の薄型化を推進できる。
【0018】
電波反射能を有する被着体に対する誘電体層の粘着力を高めるためには、誘電体層が酸成分を含有していることが有利である。一方、誘電体層は抵抗層にも接している。本発明者らは、抵抗層が金属又は金属化合物を含んでいると、抵抗層の厚みは薄いので、誘電体層に含まれる酸成分によって抵抗層が腐食し抵抗層の特性が変動する可能性があることを新たに見出した。抵抗層の特性の変動は、電波吸収性能の低下をもたらす。そこで、本発明者らは、電波反射能を有する被着体に対する誘電体層の粘着力が高く、かつ、抵抗層の腐食を防止できる電波吸収用積層体を開発すべく日夜検討を重ねた。多大な試行錯誤を重ねた結果、本発明者らは、複数の誘電体層を備えるように電波吸収用積層体を構成したうえで、複数の誘電体層における酸成分の含有率を所定の関係にすることにより、所望の電波吸収用積層体が得られることを新たに見出した。
【0019】
本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、以下の実施形態には限定されない。
【0020】
図1に示す通り、電波吸収用積層体1aは、抵抗層10と、第一誘電体層21と、第二誘電体層22とを備えている。抵抗層10は、金属又は金属化合物を含んでいる。第一誘電体層21は、抵抗層10に密着している。本明細書において、「密着」とは、実施例に記載した180°はく離試験において、3[N/20mm]以上の粘着力でくっついていることを意味する。第二誘電体層22は、酸成分を含有しており、粘着性を有する。第一誘電体層21は、第一誘電体層21の厚み方向において抵抗層10と第二誘電体層22との間に配置されている。第一誘電体層21における質量基準の酸成分の含有率は、第二誘電体層22における質量基準の酸成分の含有率よりも低い。本明細書において、水酸化アルミニウム等の両性化合物は「酸成分」に該当しない。
【0021】
電波吸収用積層体1aを用いてλ/4型の電波吸収体を提供できる。
図2に示す通り、電波吸収体2は、被着体30と、電波吸収用積層体1aとを備えている。被着体30は、金属を含んでおり、電波反射能を有する。電波吸収体2において、電波吸収用積層体1aが被着体30に粘着している。第二誘電体層22は粘着性を有しているので、第二誘電体層22が被着体30に押し当てられることによって電波吸収用積層体1aを被着体30に粘着させることができる。
【0022】
電波吸収体2に、吸収対象とする波長(λO)の電波が入射すると、抵抗層10の表面での反射(表面反射)による電波と、被着体30における反射(裏面反射)による電波とが干渉するように、電波吸収用積層体1aが設計されている。λ/4型の電波吸収体においては、下記の式(1)に示す通り、誘電体層の厚み(t)及び誘電体層の比誘電率(εr)によって吸収対象の電波の波長(λO)が決定される。すなわち、誘電体層の材料及び厚みを適宜調節することにより、吸収対象の波長の電波を設定できる。式(1)においてsqrt(εr)は、比誘電率(εr)の平方根を意味する。
λO=4t×sqrt(εr) 式(1)
【0023】
第二誘電体層22は酸成分を含有しているので、被着体30に対し高い粘着力を発揮できる。第二誘電体層22は、例えば、第二誘電体層22の一部からなる試料に対し、日本工業規格(JIS) K 0070-1992の「3.1 中和滴定法」に従って決定される酸価が5以上になるように、酸成分を含有している。これにより、第二誘電体層22がより確実に被着体30に対し高い粘着力を発揮できる。第二誘電体層22における質量基準の酸成分の含有率は、例えば10%以上であり、望ましくは15%以上である。第二誘電体層22における質量基準の酸成分の含有率は、例えば80%以下である。
【0024】
第一誘電体層21における質量基準の酸成分の含有率は、第二誘電体層22における質量基準の酸成分の含有率よりも低いので、金属又は金属化合物を含んでいる抵抗層10の腐食を防止できる。その結果、電波吸収用積層体1a、ひいては電波吸収体2が高い耐久性を有する。
【0025】
第一誘電体層21における質量基準の酸成分の含有率は、第二誘電体層22における質量基準の酸成分の含有率よりも低い限り特定の含有率に限定されない。第一誘電体層21における質量基準の酸成分の含有率は、例えば10%未満であり、望ましくは5%以下である。より望ましくは、第一誘電体層21は実質的に酸成分を含有していない。これにより、より確実に、抵抗層10の腐食を防止できる。「実質的に酸成分を含有していない」とは、抵抗層10の特性が所望の範囲に保たれるのであれば、微量の酸成分の含有が許容されることを意味する。例えば、温度85℃及び相対湿度85%の環境で電波吸収用積層体1aを500時間保管した後に、保管前後の抵抗層10のシート抵抗の変動量が、保管前の抵抗層10のシート抵抗の20%未満であれば、仮に微量の酸成分が含有されていても、第一誘電体層21は実質的に酸成分を含有していないといえる。とりわけ望ましくは、第一誘電体層21は酸成分を全く含有していない。
【0026】
第一誘電体層21は、例えば、5μm以上の厚みを有する。この場合、第二誘電体層21が含まれる酸成分が第一誘電体層21を通過して抵抗層10に到達することを防止できる。その結果、より確実に、抵抗層10の腐食を防止できる。第一誘電体層21の厚みは、10μm以上であってもよいし、15μm以上であってもよい。
【0027】
第二誘電体層22は、例えば、難燃剤を含有している。電波吸収用積層体1aは、難燃性を有していることが望ましい。第二誘電体層22が難燃剤を含有していれば、電波吸収用積層体1aが所望の難燃性を有しやすい。第二誘電体22に含有される難燃剤は、特定の難燃剤に限定されず、公知の難燃剤でありうる。例えば、難燃剤は、水酸化アルミニウム等の無機系難燃剤である。難燃剤は、有機難燃剤であってもよい。
【0028】
第二誘電体層22における難燃剤の質量基準の含有率は、例えば60~90%である。これにより、電波吸収用積層体1aに所望の難燃性を付与しやすく、かつ、第二誘電体層22の被着体30に対する粘着力を高く保つことができる。第二誘電体層22における難燃剤の質量基準の含有率は、望ましくは65~80%であり、より望ましくは70~75%である。
【0029】
第一誘電体層21は、例えば、実質的に難燃剤を含有していない。難燃剤は、第一誘電体層21の抵抗層10に対する密着性を低下させる可能性がある。しかし、第一誘電体層21が実質的に難燃剤を含有していなければ、第一誘電体層21の抵抗層10に対する良好な密着性が保たれる。「実質的に難燃剤を含有していない」とは、第一誘電体層21が抵抗層10に密着するのであれば、微量の難燃剤の含有が許容されることを意味する。望ましくは、第一誘電体層21は難燃剤を全く含有していない。
【0030】
第一誘電体層21は、例えば80μm未満の厚みを有する。この場合、第一誘電体層21が難燃剤を含有していなくても、電波吸収用積層体1aが所望の難燃性を有しやすい。第一誘電体層21の厚みは、望ましくは75μm以下の厚みを有し、より望ましくは70μm以下の厚みを有する。
【0031】
電波吸収用積層体1aは、例えば、UL規格のUL94 V-1に適合している。この場合、電波吸収用積層体1aが所望の難燃性を有する。
【0032】
λ/4型の電波吸収体の設計において、伝送理論を用いて抵抗層10の前面から見込んだインピーダンスが特性インピーダンスと等しくなるように、抵抗層10のシート抵抗が定められる。抵抗層10に求められるシート抵抗は、λ/4型の電波吸収体に入射する電波の想定される入射角度によって変動しうる。抵抗層10は、例えば、180~750Ω/□のシート抵抗を有する。
【0033】
上記の通り、抵抗層10は、金属又は金属化合物を含んでいる。抵抗層10に含まれる金属は、特に限定されないが、例えば、インジウム、スズ、亜鉛、及び銀からなる群より選ばれる少なくとも1つである。抵抗層10に含まれる金属化合物は、特に限定されないが、例えば、インジウム、スズ、及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化物である。抵抗層10は、例えば、インジウム、スズ、及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化物を主成分とする金属化合物、金属ナノワイヤー、及びメタルメッシュのいずれかを含む層である。抵抗層10のシート抵抗の安定性及び抵抗層10の耐久性の観点から、抵抗層10は、望ましくは酸化インジウムスズ(ITO)を主成分として含んでいる。この場合、抵抗層10におけるSnO2の含有量は、望ましくは20~40重量%であり、より望ましくは25~35重量%である。このような抵抗層10は、極めて安定な非晶質構造を有し、高温高湿の環境において抵抗層10のシート抵抗の変動を抑制できる。なお、本明細書において、「主成分」とは、質量基準で最も多く含まれる成分を意味する。
【0034】
抵抗層10の厚みは、特に制限されないが、例えば20~90nmである。このように、抵抗層10の厚みが小さいと、抵抗層10が少量の酸成分によって腐食されやすい。しかし、上記の通り、第一誘電体層21における酸成分の含有率は低いので、抵抗層10の厚みが小さくても、抵抗層10が腐食されにくい。
【0035】
第一誘電体層21をなす材料は、第一誘電体層21が抵抗層10に密着できる限り、特定の材料に限定されない。第一誘電体層21は、例えば、所定のエラストマーを主成分又はマトリクスとして含有している。第一誘電体層21に含有されるエラストマーは、天然ゴム、合成ゴム、アクリル系エラストマー、シリコーンゴム、又はウレタン系エラストマーでありうる。第一誘電体層21は、必要に応じて、粘着付与剤等の成分を含んでいてもよい。
【0036】
第二誘電体層22をなす材料は、酸成分を含有しており粘着性を有する限り、特定の材料に限定されない。第二誘電体層22は、例えば、酸成分に対して化学的に安定なエラストマーを主成分として含有している。第二誘電体層22に含有されるエラストマーは、天然ゴム、合成ゴム、アクリル系エラストマー、シリコーンゴム、又はウレタン系エラストマーでありうる。第二誘電体層22に含有されるエラストマーは、望ましくは、アクリル系エラストマーである。第二誘電体層22は、必要に応じて、粘着付与剤等の成分を含んでいてもよい。
【0037】
第二誘電体層22に含有される酸成分は、例えば、リン酸等の無機酸及びアクリル酸等の有機酸の少なくとも1つである。第二誘電体層22にこのような酸成分が含有されることにより、第二誘電体層22の一部からなる試料に対し、JIS K 0070-1992の「3.1 中和滴定法」に従って決定される酸価が5以上になりやすい。その結果、第二誘電体層22がより確実に被着体30に対し高い粘着力を発揮しやすい。
【0038】
図1に示す通り、電波吸収用積層体1aは、例えば、支持体12をさらに備えている。支持体12は、抵抗層10を支持している。この場合、抵抗層10は、例えば、支持体12上にスパッタリング、イオンプレーティング、又はコーティング(例えば、バーコーティング)等の方法を用いて成膜することによって作製されうる。支持体12は、例えば、電波吸収体2において、抵抗層10よりも被着体30から遠い位置に配置されている。このため、支持体12によって、抵抗層10、第一誘電体層21、及び第二誘電体層22が保護され、電波吸収体2が高い耐久性を有する。加えて、支持体12は、抵抗層10の厚みを高精度に調節するための補助材としての役割も果たす。支持体12の材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリウレタン、ウレタンアクリル樹脂、無軸延伸ポリプロピレン(CPP)、又は塩化ビニリデン樹脂である。なかでも、良好な耐熱性と、寸法安定性と、製造コストとのバランスの観点から、支持体12の材料は、望ましくはPET又はPIである。
【0039】
支持体12は、例えば10~150μmの厚みを有し、望ましくは15~100μmの厚みを有し、より望ましくは20~80μmの厚みを有する。これにより、支持体12の曲げ剛性が低く、かつ、抵抗層10を形成する場合に支持体12において皺の発生又は変形を抑制できる。
【0040】
電波吸収体2において、例えば、被着体30の電波吸収用積層体1aとの被着面が金属によって形成されている。これにより、被着体30は、被着面において電波反射能を有する。被着体30の電波吸収用積層体1aとの被着面を形成する金属は、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、アルミニウム合金、銅合金、又はニッケル合金である。
【0041】
電波吸収用積層体1aは、様々な観点から変更可能である。電波吸収用積層体1aは、例えば、
図3に示す電波吸収用積層体1bのように変更されてもよい。電波吸収用積層体1bは、特に説明する場合を除き、電波吸収用積層体1aと同様に構成されている。電波吸収用積層体1aの構成要素と同一又は対応する電波吸収用積層体1bの構成要素には、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。電波吸収用積層体1aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、電波吸収用積層体1bにも当てはまる。なお、電波吸収体2は、電波吸収用積層体1aの代わりに電波吸収用積層体1bを備えていてもよい。
【0042】
電波吸収用積層体1bは、第三誘電体層23をさらに備えている。第三誘電体層23は、第一誘電体層21の厚み方向において第一誘電体層21と第二誘電体層22との間に配置されている。第三誘電体層23における質量基準の酸成分の含有率は、第二誘電体層22における質量基準の酸成分の含有率よりも低い。電波吸収用積層体1bによれば、第三誘電体層23によって、第二誘電体層22に含まれる酸成分が抵抗層10に到達することを抑制でき、抵抗層10の腐食を防止できる。
【0043】
第二誘電体層22の厚みに対する第三誘電体層23の厚みの比は、式(1)の関係が満たされる限り、特に限定されない。
【0044】
第三誘電体層23における質量基準の酸成分の含有率は、第二誘電体層22における質量基準の酸成分の含有率よりも低い限り特定の含有率に限定されない。第三誘電体層23における質量基準の酸成分の含有率は、例えば10%未満であり、望ましくは5%以下である。より望ましくは、第三誘電体層23は実質的に酸成分を含有していない。これにより、より確実に、抵抗層10の腐食を防止できる。「実質的に酸成分を含有していない」とは、抵抗層10の特性が所望の範囲に保たれるのであれば、微量の酸成分の含有が許容されることを意味する。例えば、温度85℃及び相対湿度85%の環境で電波吸収用積層体1bを500時間保管した後に、保管前後の抵抗層10のシート抵抗の変動量が、保管前の抵抗層10のシート抵抗の20%未満であれば、仮に微量の酸成分が含有されていても、第一誘電体層23は実質的に酸成分を含有していないといえる。とりわけ望ましくは、第一誘電体層23は酸成分を全く含有していない。
【0045】
電波吸収用積層体1bにおいて、第三誘電体層23は、例えば、難燃剤を含有している。これにより、電波吸収用積層体1bが所望の難燃性を有しやすい。
【0046】
第三誘電体23に含有される難燃剤は、特定の難燃剤に限定されず、公知の難燃剤でありうる。例えば、難燃剤は、水酸化アルミニウム等の無機系難燃剤である。難燃剤は、有機難燃剤であってもよい。第三誘電体層23における難燃剤の質量基準の含有率は、例えば60~90%である。これにより、電波吸収用積層体1bがより確実に所望の難燃性を有しやすい。第三誘電体層23における難燃剤の質量基準の含有率は、望ましくは65~80%であり、より望ましくは70~75%である。
【0047】
例えば、電波吸収用積層体1a又は電波吸収用積層体1bを用いて、電波吸収体2を備えたミリ波レーダを提供できる。この場合、ミリ波レーダの金属を含む部品が被着体30に該当しうる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0049】
<実施例1>
(電波吸収用積層体の作製)
23μmの厚みを有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に、30重量%のSnO2及び2.5%重量%のSiO2を含有し、残部が酸化インジウムであるターゲット材を用いて、スパッタリングにより抵抗層を形成した。このようにして、抵抗層付PETフィルムを得た。抵抗層の初期のシート抵抗は390Ω/□であった。抵抗層のシート抵抗は、非接触式のシート抵抗測定装置(ナプソン社製、製品名:NC-80MAP)を用いて渦電流法に従って測定した。
【0050】
アクリル系ブロック共重合体(クラレ社製、製品名:クラリティLA2330)に、粘着付与剤としての重合ロジンエステル(荒川化学工業社製、製品名:ペンセルC)を10重量%添加した混合物をミキシングロールで撹拌した。その後、この混合物を150℃で加熱プレスして70μmの厚みのシートを得た。このようにして、実施例1に係る第一誘電体層用シートを得た。実施例1に係る第一誘電体層用シートは、酸成分を含有していなかった。
【0051】
アクリル系粘着剤を含む両面テープ(日東電工社製、製品名:TR-5920FS、厚み:200μm)を3層に重ねた積層体を100℃で加熱プレスして400μmの厚みを有するシートを得た。このようにして、実施例1に係る第二誘電体層用シートを得た。実施例1に係る第二誘電体層用シートは、酸成分として18質量%のアクリル酸を含有しており、かつ、難燃剤として72質量%の水酸化アルミニウムを含有していた。
【0052】
抵抗層付PETフィルムの抵抗層上に第一誘電体層用シートを重ね、さらに第一誘電体層用シート上に第二誘電体層用シートを重ねて、実施例1に係る電波吸収用積層体を得た。
【0053】
(試験体Aの作製)
抵抗層付PETフィルムを切り取って20mmの幅のストリップを得た。また、第一誘電体層用シートを切り取って20mm幅の小片を得た。SUS304BA製の板材の表面に両面粘着テープ(日東電工社製、製品名:No.5000N)を貼り付けた。両面粘着テープの上に第一誘電体層用シートの小片を重ねて貼り付けた。次に、第一誘電体層用シートの小片の上に抵抗層付PETフィルムのストリップの長さ方向における抵抗層の端部を重ねて貼り付けた。この状態を23℃の環境で30分間保って、実施例1に係る試験体Aを得た。
【0054】
(試験体Bの作製)
23μmの厚みを有するPETフィルムを切り取って20mmの幅のストリップを得た。また、第二誘電体層用シートを切り取って20mm幅の小片を得た。PETフィルムのストリップの長さ方向の端部に第二誘電体層用シートの小片を貼り付けた。次に、第二誘電体層用シートの小片をSUS304BA製の板材の表面に貼り付けた。この状態を23℃の環境で30分間保って、実施例1に係る試験体Bを得た。
【0055】
(試験片Cの作製)
実施例1に係る電波吸収用積層体を125±5mmの長さ及び13±0.5mmの幅を有するストリップ状に切り取って、実施例1に係る試験片Cを得た。
【0056】
<実施例2>
実施例1と同様にして、第一誘電体層用シートを作製し、70μmの厚みを有する、実施例2に係る第一誘電体層用シートを得た。アクリル系粘着剤を含む両面テープ(日東電工社製、製品名:TR-5920FS、厚み:200μm)を実施例2に係る第二誘電体層用シートとして用いた。実施例2に係る第二誘電体層用シートは、酸成分として18質量%のアクリル酸を含有しており、かつ、難燃剤として72質量%の水酸化アルミニウムを含有していた。
【0057】
100重量部のアクリル系ブロック共重合体(クラレ社製、製品名:クラリティLA2330)に、250重量部の水酸化アルミニウム含有粒子(昭和電工社製、製品名:ハイジライトH-42)を加えた混合物をミキシングロールで撹拌した。その後、その混合物を150℃で加熱プレスして200μmの厚みのシートを得た。このようにして、実施例2に係る第三誘電体層用シートを得た。第三誘電体層用シートは、酸成分を含有しておらず、かつ、難燃剤として72質量%の水酸化アルミニウムを含有していた。
【0058】
抵抗層付PETフィルムの抵抗層上に第一誘電体層用シートを重ね、次に第一誘電体層用シート上に第三誘電体層用シートを重ね、最後に第三誘電体層用シートの上に第二誘電体層用シートを重ねて、実施例2に係る電波吸収用積層体を得た。
【0059】
実施例1と同様にして実施例2に係る試験体Aを作製した。実施例1に係る第二誘電体層用シートの代わりに実施例2に係る第二誘電体層用シートを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る試験体Bを作製した。実施例1に係る電波吸収用積層体の代わりに実施例2に係る電波吸収用積層体を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る試験片Cを作製した。
【0060】
<比較例1>
100重量部のアクリル系ブロック共重合体(クラレ社製、製品名:クラリティLA2330)に、250重量部の水酸化アルミニウム含有粒子(昭和電工社製、製品名:ハイジライトH-42)を加えた混合物をミキシングロールで撹拌した。その後、その混合物を150℃で加熱プレスして460μmの厚みのシートを得た。このようにして、比較例1に係る誘電体層用シートを得た。実施例1と同様にして作製した抵抗層付PETフィルムの抵抗層上に比較例1に係る誘電体層用シートを重ね、比較例1に係る電波吸収用積層体を得た。比較例1に係る誘電体層用シートは、酸成分を含有しておらず、かつ、難燃剤として72質量%の水酸化アルミニウムを含有していた。
【0061】
実施例1に係る第一誘電体層用シートの代わりに比較例1に係る誘電体層用シートを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る試験体Aを作製した。実施例1に係る第二誘電体層用シートの代わりに比較例1に係る誘電体層用シートを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る試験体Bを作製した。実施例1に係る電波吸収用積層体の代わりに比較例1に係る電波吸収用積層体を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る試験片Cを作製した。
【0062】
<比較例2>
アクリル系粘着剤を含む両面テープ(日東電工社製、製品名:TR-5920FS、厚み:200μm)を3層に重ねた積層体を100℃で加熱プレスして450μmの厚みを有するシートを得た。このようにして、比較例2に係る誘電体層用シートを得た。比較例2に係る誘電体層用シートは、酸成分として18質量%のアクリル酸を含有しており、かつ、難燃剤として72質量%の水酸化アルミニウムを含有していた。
【0063】
実施例1と同様にして作製した抵抗層付PETフィルムの抵抗層上に比較例2に係る誘電体層用シートを重ね、比較例2に係る電波吸収用積層体を得た。
【0064】
実施例1に係る第一誘電体層用シートの代わりに比較例2に係る誘電体層用シートを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る試験体Aを作製した。実施例1に係る第二誘電体層用シートの代わりに比較例2に係る誘電体層用シートを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る試験体Bを作製した。実施例1に係る電波吸収用積層体の代わりに比較例2に係る電波吸収用積層体を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る試験片Cを作製した。
【0065】
<比較例3>
100重量部のアクリル系ブロック共重合体(クラレ社製、製品名:クラリティLA2330)に、250重量部水酸化アルミニウム含有粒子(昭和電工社製、製品名:ハイジライトH-42)を加えた混合物をミキシングロールで撹拌した。その後、その混合物を150℃で加熱プレスして70μmの厚みのシートを得た。このようにして、比較例3に係る第一誘電体層用シートを得た。比較例3に係る第一誘電体層用シートは、酸成分を含有しておらず、かつ、難燃剤として72質量%の水酸化アルミニウムを含有していた。
【0066】
アクリル系粘着剤を含む両面テープ(日東電工社製、製品名:TR-5920FS、厚み:200μm)を3層に重ねた積層体を100℃で加熱プレスして380μmの厚みを有するシートを得た。このようにして、比較例3に係る第二誘電体層用シートを得た。比較例3に係る第二誘電体層用シートは、酸成分として18質量%のアクリル酸を含有しており、かつ、難燃剤として72質量%の水酸化アルミニウムを含有していた。
【0067】
実施例1と同様にして作製した抵抗層付PETフィルムの抵抗層上に比較例3に係る第一誘電体層用シートを重ね、さらに第一誘電体層用シート上に比較例3に係る第二誘電体層用シートを重ねて、比較例3に係る電波吸収用積層体を得た。
【0068】
実施例1に係る第一誘電体層用シートの代わりに比較例3に係る第一誘電体層用シートを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3に係る試験体Aを作製した。実施例1に係る第二誘電体層用シートの代わりに比較例3に係る第二誘電体層用シートを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3に係る試験体Bを作製した。実施例1に係る電波吸収用積層体の代わりに比較例3に係る電波吸収用積層体を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3に係る試験片Cを得た。
【0069】
<比較例4>
比較例3と同様にして、比較例4に係る第一誘電体層用シートを得た。アクリル系粘着剤を含む両面テープ(日東電工社製、製品名:CS9864、厚み:100μm)を4層に重ね、400μmの厚みを有するシートを得た。このようにして、比較例4に係る第二誘電体層用シートを得た。比較例4に係る第二誘電体層用シートは、酸成分として42質量%のアクリル酸を含有しているものの、難燃剤を含有していなかった。
【0070】
実施例1と同様にして作製した抵抗層付PETフィルムの抵抗層上に比較例4に係る第一誘電体層用シートを重ね、さらに第一誘電体層用シート上に比較例4に係る第二誘電体層用シートを重ねて、比較例4に係る電波吸収用積層体を得た。
【0071】
実施例1に係る第一誘電体層用シートの代わりに比較例4に係る第一誘電体層用シートを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例4に係る試験体Aを作製した。実施例1に係る第二誘電体層用シートの代わりに比較例4に係る第二誘電体層用シートを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例4に係る試験体Bを作製した。実施例1に係る電波吸収用積層体の代わりに比較例4に係る電波吸収用積層体を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例4に係る試験片Cを得た。
【0072】
<比較例5>
アクリル系ブロック共重合体(クラレ社製、製品名:クラリティLA2330)を150℃で加熱プレスして560μmの厚みのシートを得た。このようにして、比較例5に係る誘電体層用シートを得た。比較例5に係る誘電体層用シートは、酸成分及び難燃剤を含有していなかった。実施例1と同様にして作製した抵抗層付PETフィルムの抵抗層上に比較例5に係る誘電体層用シートを重ね、比較例5に係る電波吸収用積層体を得た。
【0073】
実施例1に係る第一誘電体層用シートの代わりに比較例5に係る誘電体層用シートを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例5に係る試験体Aを作製した。実施例1に係る第二誘電体層用シートの代わりに比較例5に係る誘電体層用シートを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例5に係る試験体Bを作製した。実施例1に係る電波吸収用積層体の代わりに比較例5に係る電波吸収用積層体を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例5に係る試験片Cを得た。
【0074】
[誘電率測定]
ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー社製、製品名:N5230C)を用いて、空洞共振法に従って、実施例及び各比較例に係る電波吸収用積層体の誘電体層の10GHzにおける比誘電率を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
[誘電体層の抵抗層に対する粘着性の評価]
実施例及び各比較例に係る試験体Aを用いて抵抗層に対する誘電体層の粘着性を評価した。試験体Aにおいて、300mm/分の速度で抵抗層付PETフィルムのストリップを誘電体層に対して180°に引きはがした。この引きはがしに要する力を測定して、誘電体層の抵抗層に対する粘着力を決定した。結果を表1に示す。
【0076】
[誘電体層の金属に対する粘着性の評価]
実施例及び各比較例に係る試験体Bを用いて金属に対する誘電体層の粘着性を評価した。試験体Bにおいて、300mm/分の速度でPETフィルムのストリップを引っ張って、誘電体層をSUS304BA製の板材の表面に対して180°に引きはがした。この引きはがしに要する力を測定して、誘電体層の金属に対する粘着力を決定した。結果を表1に示す。
【0077】
[難燃性評価]
実施例及び各比較例に係る試験片Cを用いてUL規格に定められたUL94V試験に従って実施例及び各比較例に係る電波吸収用積層体の難燃性を評価した。結果を表1に示す。なお、UL94V試験における難燃性の判定基準は、表2に記載の通りである。
【0078】
[耐久試験]
実施例及び各比較例に係る電波吸収用積層体を85℃及び相対湿度85%の環境で500時間保管した。保管後の抵抗層のシート抵抗を非接触式のシート抵抗測定装置(ナプソン社製、製品名:NC-80MAP)を用いて渦電流法に従って測定した。初期の抵抗層のシート抵抗Riに対する保管前後における抵抗層のシート抵抗の変動量ΔRの比(ΔR/Ri)を求め、下記の基準に従って実施例及び各比較例に係る電波吸収用積層体の耐久性を評価した。なお、変動量ΔRは、初期の抵抗層のシート抵抗Riから保管後の抵抗層のシート抵抗Raを差し引いた差の絶対値である。
A+:ΔR/Riが10%未満である。
A:ΔR/Riが10%以上かつ20%未満である。
X:ΔR/Riが20%以上である。
【0079】
比較例1及び5と実施例1及び2との対比より、金属の被着体に被着されうる誘電体層が酸成分を含有していることが金属に対する粘着性を高めるうえで望ましいことが示唆された。一方、実施例1及び2と比較例2との対比より、抵抗層に接する誘電体層が酸成分を含有していないことが、抵抗層の耐久性、ひいては電波吸収体の耐久性を高める観点から、有利であることが示唆された。
【0080】
比較例1、3及び4と実施例1及び2との対比より、抵抗層に接する誘電体層が難燃剤を含有していないことが抵抗層に対する誘電体層の粘着性を高めるうえで望ましいことが示唆された。
【0081】
実施例1及び2と比較例4及び5との対比より、電波吸収用積層体が難燃剤を含有していない誘電体層を有する場合、その誘電体層の厚みが所定の厚み以下であることが電波吸収用積層体の難燃性を高める観点から有利であることが示唆された。
【0082】
【0083】
【符号の説明】
【0084】
1 電波吸収用積層体
2 電波吸収体
10 抵抗層
12 支持体
21 第一誘電体層
22 第二誘電体層
23 第三誘電体層
30 被着体