(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】炭化水素油用流動接触分解触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 35/10 20060101AFI20221118BHJP
B01J 29/08 20060101ALI20221118BHJP
C10G 11/05 20060101ALI20221118BHJP
C10G 11/18 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
B01J35/10 301A
B01J29/08 M
C10G11/05
C10G11/18
(21)【出願番号】P 2018160535
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 隆喜
(72)【発明者】
【氏名】三津井 知宏
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-036934(JP,A)
【文献】特開2017-087204(JP,A)
【文献】特開2010-110698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 35/10
B01J 29/08
C10G 11/05
C10G 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種の流動接触分解触媒を混合してなる炭化水素油用流動接触分解触媒であって、
一の触媒は、擬平衡化を施した後の細孔分布において、細孔径が4nm以上50nm以下である細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい細孔容積(PV2)に対する割合(PV1/PV2)が0.8未満である触媒(A)であり、
前記触媒(A)は、ゼオライトと、結合剤としてシリカ系バインダーを含み、触媒組成基準で、前記ゼオライトを15~60質量%、前記シリカ系バインダーを5~30質量%含み、
他の触媒は、擬平衡化を施した後の細孔分布において、(a)細孔径が4nm以上50nm以下である細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい細孔容積(PV2)に対する割合(PV1/PV2)が0.8以上で、かつ、(b)細孔径が4nmより大きい細孔容積(PV3)に対する、細孔径が30nm以上100nm以下の細孔容積(PV4)の割合(PV4/PV3)が0.2未満である触媒(B)であり、
前記触媒(B)は、ゼオライトと、結合剤としてアルミニウム化合物バインダーを含み、触媒組成基準で、前記ゼオライトを15~60質量%、前記アルミニウム化合物バインダーを5~30質量%含み、
前記触媒(A)を100質量部に対して、前記触媒(B)を10~200質量部混合してなり、
ここで、擬平衡化は、触媒を、予め雰囲気温度600℃にて2時間焼成した後、ニッケルオクチル酸塩およびバナジウムオクチル酸塩をそれぞれ触媒の質量で除算した質量基準の金属換算で1000ppmおよび2000ppmの量で、焼成した触媒粒子に沈着させ、次いで、触媒を雰囲気温度110℃で乾燥した後、雰囲気温度600℃で1.5時間焼成し、その後、触媒に雰囲気温度780℃で13時間のスチーム処理を施す、ことを特徴とする炭化水素油用流動接触分解触媒。
【請求項2】
前記シリカ系バインダーは、シリカゾル、水ガラス、および酸性ケイ酸液のいずれか1又は2以上であることを特徴とする請求項
1に記載の炭化水素油用流動接触分解触媒。
【請求項3】
前記アルミニウム化合物バインダーは、下記(a)~(c)から選ばれるいずれか少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項
1または2に記載の炭化水素油用流動接触分解触媒。
(a)塩基性塩化アルミニウム。
(b)重リン酸アルミニウム。
(c)アルミナゾル。
【請求項4】
前記触媒(A)および前記触媒(B)に含まれる
前記ゼオライトは、FAU型(フォージャサイト型)、MFI型、CHA型、およびMOR型のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項
1~
3のいずれか1項に記載の炭化水素油用流動接触分解触媒。
【請求項5】
前記FAU型のゼオライトは、水素型Y型ゼオライト(HY)、超安定化Y型ゼオライト(USY)、レアアース交換Y型ゼオライト(REY)、およびレアアース交換超安定化Y型ゼオライト(REUSY)のいずれかであることを特徴とする請求項
4に記載の炭化水素油用流動接触分解触媒。
【請求項6】
前記触媒(A)および前記触媒(B)は、前記ゼオライトおよび前記結合剤の他に、粘土鉱物を含むことを特徴とする請求項
1~
5のいずれか1項に記載の炭化水素油用流動接触分解触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質留分の低減やコーク生成の抑制に有効で、ガソリンや液化石油ガス(LPG)を高い収率で得る際に有効な炭化水素油の流動接触分解触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に接触分解用触媒は、常圧蒸留残油などの重質炭化水素油に対する分解能力(「ボトム分解能」ともいう)が高いこと、あるいは、触媒表面に析出するコークの析出量が少ないことなど、種々の観点で高い性能を発揮できるものが求められる。この点に関し、従来、炭化水素油の流動接触分解にあたっては、コークの収率を低くして、ガソリンや中間留分(軽油および灯油)などの収率をあげるために、異なる二種の触媒が混合して用いる方法などが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭化水素油の流動接触分解に用いられる触媒について、二種の触媒を1:9~9:1の割合で物理的に混合してなるクラッキング触媒につき、一方の触媒をゼオライト含有クラッキング触媒とし、他方の触媒を20~200Å(2~20nm)の細孔直径範囲において、同じ細孔直径範囲における一方の触媒より高い平均細孔体積を有するとともにM41S物質を含まない触媒としたものが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ゼオライトと、活性マトリックス成分および不活性マトリックス成分からなる無機酸化物マトリックスとを含有する触媒を2種以上混合してなる炭化水素油の流動接触分解触媒であって、各触媒のゼオライトの含有量を変えることを特徴とする炭化水素油の流動接触分解触媒が開示されている。
【0005】
そして、特許文献3には、ゼオライトおよび結合剤として10~30質量%のシリカ系バインダーを含む触媒と、ゼオライトおよび結合剤として10~30質量%のアルミニウム化合物バインダーを含む触媒とを、質量比が10:90~90:10の範囲内で混合してなる流動接触分解触媒が開示されている。これにより、低コークとボトム(重質留分)分解能に優れたものになるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2004-528963号公報
【文献】特開2010-110698号公報
【文献】国際公開第2009/145311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の前記流動接触分解触媒については、実際には、低重質留分、低コークを十分に達成し、かつ、高付加価値製品(ガソリンやLPG)を高収率で得る触媒になっていないという問題があった。
【0008】
本発明は、従来材が抱えている前記事情に鑑みてなされたものであって、重質留分の低減やコーク生成の抑制に有効な、かつ、ガソリンやLPGを高い収率で得るのに有効な炭化水素油の流動接触分解触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような技術的背景のもと、発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の細孔分布(細孔径―細孔容積分布)をもつ流動接触分解触媒ではコークの生成が効果的に抑制される一方、それとは異なる細孔分布(細孔径―細孔容積分布)をもつものでは高い重質油分解能を示すことを見出した。
【0010】
そして、それらの触媒を適正な比率で混合することで、重質留分を低減しつつ、コーク生成を抑制して、高付加価値製品の収率を上げることを知見し、本発明を開発するに至った。
【0011】
前記課題を解決し上記の目的を実現するため開発した本発明は、下記のとおりのものである。すなわち、本発明は、第一に、他の触媒に配合して用いられる炭化水素油用流動接触分解触媒であって、
擬平衡化を施した後の細孔分布において、(a)細孔径が4nm以上50nm以下である細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい細孔容積(PV2)に対する割合(PV1/PV2)が0.8以上で、かつ、(b)細孔径が4nmより大きい細孔容積(PV3)に対する、細孔径が30nm以上100nm以下の細孔容積(PV4)の割合(PV4/PV3)が0.2未満であることを特徴とする重質油分解性能に優れる炭化水素油用流動接触分解触媒である。
【0012】
なお、本発明に係る上記重質油分解性能に優れる炭化水素油用流動接触分解触媒については、
(1)前記触媒は、ゼオライトと、結合剤としてアルミニウム化合物バインダーを含み、触媒組成基準で、前記ゼオライトを15~60質量%、前記アルミニウム化合物バインダーを5~30質量%含むこと、
(2)前記アルミニウム化合物バインダーは、下記(a)~(c)から選ばれるいずれか少なくとも1種を含むこと、(a)塩基性塩化アルミニウム、(b)重リン酸アルミニウム、(c)アルミナゾル、
(3)前記触媒に含まれるゼオライトは、FAU型(フォージャサイト型)、MFI型、CHA型、およびMOR型のいずれか1種又は2種以上であること、
(4)前記FAU型のゼオライトは、水素型Y型ゼオライト(HY)、超安定化Y型ゼオライト(USY)、レアアース交換Y型ゼオライト(REY)、およびレアアース交換超安定化Y型ゼオライト(REUSY)のいずれかであること、
(5)前記触媒は、前記ゼオライトおよび前記結合剤の他に、粘土鉱物を含むこと、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0013】
また、本発明は、第二に、2種の流動接触分解触媒を混合してなる炭化水素油用流動接触分解触媒であって、
一の触媒は、擬平衡化を施した後の細孔分布において、細孔径が4nm以上50nm以下である細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい細孔容積(PV2)に対する割合(PV1/PV2)が0.8未満である触媒(A)であり、
他の触媒は、擬平衡化を施した後の細孔分布において、(a)細孔径が4nm以上50nm以下である細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい細孔容積(PV2)に対する割合(PV1/PV2)が0.8以上で、かつ、(b)細孔径が4nmより大きい細孔容積(PV3)に対する、細孔径が30nm以上100nm以下の細孔容積(PV4)の割合(PV4/PV3)が0.2未満である触媒(B)であり、
前記触媒(A)を100質量部に対して、前記触媒(B)を10~200質量部混合してなることを特徴とする製品収率に優れる炭化水素油用流動接触分解触媒である。
【0014】
なお、本発明に係る上記製品収率に優れる炭化水素油用流動接触分解触媒については、
(1)前記触媒(A)は、ゼオライトと、結合剤としてシリカ系バインダーを含み、触媒組成基準で、前記ゼオライトを15~60質量%、前記シリカ系バインダーを5~30質量%含むこと、
(2)前記シリカ系バインダーは、シリカゾル、水ガラス、および酸性ケイ酸液のいずれか1又は2以上であること、
(3)前記触媒(B)は、ゼオライトと、結合剤としてアルミニウム化合物バインダーを含み、触媒組成基準で、前記ゼオライトを15~60質量%、前記アルミニウム化合物バインダーを5~30質量%含むこと、
(4)前記アルミニウム化合物バインダーは、下記(a)~(c)から選ばれるいずれか少なくとも1種を含むこと、(a)塩基性塩化アルミニウム、(b)重リン酸アルミニウム、(c)アルミナゾル、
(5)前記触媒(A)および前記触媒(B)に含まれるゼオライトは、FAU型(フォージャサイト型)、MFI型、CHA型、およびMOR型のいずれか1種又は2種以上であること、
(6)前記FAU型のゼオライトは、水素型Y型ゼオライト(HY)、超安定化Y型ゼオライト(USY)、レアアース交換Y型ゼオライト(REY)、およびレアアース交換超安定化Y型ゼオライト(REUSY)のいずれかであること、
(7)前記触媒(A)および前記触媒(B)は、前記ゼオライトおよび前記結合剤の他に、粘土鉱物を含むこと、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、細孔分布の異なる2種の流動接触分解触媒、その一方を重質油分解性能に優れる流動接触分解触媒として混合した炭化水素油用流動接触分解触媒とすることにより、重質留分を低減しつつ、コーク収率も低くでき、特に高付加価値製品であるガソリンの収率やLPGの収率を高くすることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】触媒の細孔径-ログ微分細孔容積dVp/dlogd分布の一例を示す図である。
【
図2】触媒の細孔径-細孔容積分布(PV1/PV2)が炭化水素油の分解に与える影響を示す図である。
【
図3】触媒の細孔径-細孔容積分布(PV4/PV3)が混合触媒の原油分解性能に与える影響を示す図である。
【
図4】触媒の混合比率がガソリン+LPG収率に与える影響を示す図である。
【
図5】触媒の混合比率がコーク+HCO収率に与える影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の流動接触分解触媒では、擬平衡化の処理が施された後の細孔分布の異なる、炭化水素油用流動接触分解触媒を2種混合して調整する。以下、それぞれの触媒について、詳しく説明する。
【0018】
上掲のいずれの触媒も炭化水素油用流動接触分解触媒として機能する必要があり、まず共通する事項について説明する。
【0019】
<触媒の構成>
a.構成成分について
バインダー成分として、シリカゾルなどのシリカ系バインダーや、塩基性塩化アルミニウム等のアルミニウム化合物バインダーを用いることができる。そのうちシリカ系バインダーとしては、シリカゾルの他に、ナトリウム型、リチウム型、酸型等のコロイダルシリカも使用することができる。これらのうちシリカゾルが好適である。アルミニウム化合物バインダーとしては、塩基性塩化アルミニウムの他に、重リン酸アルミニウム溶液、ジブサイト、バイアライト、ベーマイト、ベントナイト、結晶性アルミナなどを酸溶液中に溶解させた粒子や、ベーマイトゲル、無定形のアルミナゲルを水溶液中に分散させた粒子、あるいはアルミナゾルも使用することができる。これらは単独で、もしくは混合して、または複合して用いることができる。
【0020】
増量剤として、カオリンやベントナイト、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト等の粘土鉱物を用いることができる。
【0021】
その他の成分として、活性マトリックス成分や、ゼオライト、金属捕捉剤(メタルトラップ剤)を含有させることができる。
【0022】
活性マトリックス成分として、活性アルミナやシリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、アルミナ-マグネシア、シリカ-マグネシア-アルミナなどの固体酸を有する物質を含むものを用いることができる。なお、固体酸とは、触媒が使用される温度領域において固体酸性を示すものであり、固体酸性の確認は、アンモニアを用いた昇温脱離法や、アンモニア又はピリジンを用いる in situ FTIR(フーリエ変換赤外線吸収スペクトル)法によりなされる。
【0023】
ゼオライトとして、通常、炭化水素油の接触分解触媒に使用されるゼオライトを用いることができる。例えば、FAU型(フォージャサイト型。例えば、Y型ゼオライト、X型ゼオライト等)、MFI型(例えば、ZSM-5、TS-1等)、CHA型(例えば、チャバサイト、SAPO-34等)、およびMOR型(例えば、モルデナイト、Ca-Q等)のいずれか1又は2以上であり、特にFAU型が好適である。なお、フォージャサイト型のゼオライトとしては、水素型Y型ゼオライト(HY)、超安定化Y型ゼオライト(USY)や、HYおよびUSYにそれぞれ希土類金属をイオン交換等により担持させたレアアース交換Y型ゼオライト(REY)、あるいはレアアース交換超安定化Y型ゼオライト(REUSY)が例示される。
【0024】
金属捕捉剤として、アルミナ粒子やリン-アルミナ粒子、結晶性カルシウムアルミネート、セピオライト、チタン酸バリウム、スズ酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化マンガン、マグネシア、マグネシア-アルミナなどを用いることができる。
また、メタルトラップ剤原料として、酸化雰囲気で焼成することによりアルミナなどとなるベーマイトなどの前駆体物質を用いることができる。
【0025】
本発明触媒には、希土類金属(Rare Earth:RE)をイオン交換したものを含有させてもよい。その希土類金属としては、例えば、セリウム(Ce)、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、およびネオジム(Nd)などの使用が可能である。これらは単独ないし2種以上の金属酸化物としてもよい。なおこれらは、ゼオライトをイオン交換したものでもよく、それは希土類金属を含むことで、ゼオライトの耐水熱性が向上するからである。
【0026】
b.成分組成について
前記バインダー成分は、5~30質量%含有することが好ましい。より好ましくは10~25質量%である。その理由は、バインダー成分が5質量%より少ないと接触分解活性が高くなるものの、触媒のアトリッション(摩耗)強度が十分に保てない。一方、30質量%より多いと、十分な接触分解活性が得られないおそれがある。
【0027】
前記ゼオライトは、15~60質量%が好ましい。より好ましくは20~50質量%である。さらに好ましくは20~40質量%である。その理由は、触媒に対するゼオライトの含有量が、15%未満では接触分解活性が低くなる傾向があり、また、60質量%を超えると接触分解活性が高くなりすぎてコークの析出量が多くなり、また、嵩密度が高くなると共に強度が低くなるためである。
【0028】
前記希土類金属を用いる場合、RE2O3として、10.0質量%以下、好ましくは0.5~5.0質量%となるように含有させる。ここで、触媒としては、RE2O3/ゼオライト質量比が一定となるように、RE2O3の添加を調整する。
【0029】
さらに、各触媒には、粘土鉱物(増量剤)を15~45質量%含むことができる。その理由は、粘土鉱物が15質量%未満では、活性成分が多くなるため、コーク生成が過剰となり十分な性能を示さない場合があるためであり、一方、45質量%を超えると触媒中の固体酸量が少なくなりすぎて触媒活性が低下する恐れがある。また、各触媒が金属捕捉剤を含む場合、その含有量は、各触媒中に0.1~10質量%、好ましくは0.1~5質量%の範囲内とすることが望ましい。
【0030】
<擬平衡化処理>
炭化水素油の流動接触分解触媒の性能を実験室の反応装置で評価する際には、前処理として擬平衡化と呼ばれる処理を行う。その擬平衡化は、流動接触分解触媒にVやNi等のメタルを担持してスチーム処理を行うことで、活性を平衡触媒と同等のレベルまで低下させる処理である。この擬平衡化の処理により、平衡触媒の性状を再現することは、より精度の高い活性評価を得るためには重要である。
【0031】
<比表面積の測定>
擬平衡化した触媒は、BET法、例えば、MOUNT ECH社製Macsorb HM model―1200を用いて、比表面積を測定する。また、マトリックス成分の比表面積は、例えば、日本ベル製ベルソープmini―II型を用いて、窒素の吸着等温線を測定し、得られた吸着側の等温線からVa-tプロットにより求める。なお、全体の比表面積からマトリックス成分の比表面積を差し引くことでゼオライト成分の比表面積を求めることができる。本発明では、触媒全体の比表面積(SA)は、100~200m2/gの範囲にあることが好ましい。マトリックス成分の比表面積は45m2/g以上が好ましく、さらに50m2/g以上であることがより好ましい。
【0032】
<細孔径-細孔容積分布の測定>
擬平衡化した触媒は水銀圧入法により、細孔径-細孔容積分布を測定する。測定装置としては、例えば、Quanta chrome社製Pore Master-60GTを用いて、細孔径-細孔容積分布を測定する。細孔径は、水銀の表面張力480dyne/cm、接触角150°を用いて計算した値である。また、各細孔径範囲の細孔容積(PVn)は、水銀圧入法により測定した各細孔直径範囲における細孔容積の積算値である。本発明では、触媒の全細孔容積(PV)は、0.15ml/g以上、さらに好ましくは0.20~0.40ml/gの範囲にあることが好ましい。
【0033】
上記試験により測定した触媒の細孔径-細孔容積分布の一例を
図1に示す。横軸に細孔径(nm)を、縦軸にログ微分細孔容積dVp/dlogdを取っている。後述する実施例に基づき、a1は触媒(A)の分布を、b1は触媒(B)の分布を、R1はPV4/PV3が0.2超えの比較例触媒の分布を表す。
【0034】
流動接触分解触媒の比表面積が小さすぎ、全細孔容積が小さすぎる場合には、所望の分解反応活性が得られないことがある。比表面積の増大の観点からは、径の小さい細孔が多数あることが好ましい。ただし、4nm未満の細孔径では重質油の接触分解への寄与が小さいので、4nm以上の細孔径を有することが好ましい。また、炭化水素油の接触分解においては、コーク収率を低減する反応面からは、触媒の細孔は細孔直径が10nmより大きい方が反応物の拡散性がよくなるので望ましい。一方、細孔直径が1000nmより大きい細孔は、触媒の耐摩耗性を悪くすることがあるので少ない方が望ましい。
【0035】
<触媒(A)の構成>
触媒(A)は、本発明に係る流動接触分解触媒の主たる構成要素である。以下にその特性等について説明する。
a.細孔分布
触媒(A)は、擬平衡化が施された後の細孔分布(細孔径-細孔容積分布)について、細孔径が4nm以上50nm以下の範囲のメソ細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい範囲のマクロ細孔容積(PV2)に対する割合(PV1/PV2)が0.8未満を有する。その細孔構造によって、コークの生成が抑制される。
(PV1/PV2)が0.8以上では、コークの生成抑制効果が小さくなるので好ましくない。
また、(PV1/PV2)が低い、つまり、マクロ細孔を多量に有する場合には、耐摩耗性の低下が懸念されるので、好ましくは、(PV1/PV2)が0.4~0.7の範囲である。
【0036】
b.各成分
バインダー成分として、コークの生成を抑制する観点から、シリカ系バインダー単独、または、過半を有するバインダーが好ましい。シリカ系バインダーは、本発明触媒(A)の耐摩耗性を向上させる目的のため、および本発明触媒(A)の固体酸量や酸強度を調節する目的のために添加される。
【0037】
<触媒(A)の製造方法>
触媒(A)の好適な製造方法の1例を以下に示す。
1.調整工程
前記したシリカゾル(シリカ系バインダーの一例)、カオリン、活性アルミナ粉末をスラリー形成用の液体(例えば純水)に加え、さらに、硫酸にてpHを3.9に調整した超安定化Y型ゼオライトスラリーを加えて、混合スラリーを調整する。添加物の組成は、予め、上記細孔分布となるように把握したものを用いる。
【0038】
2.噴霧乾燥、洗浄、乾燥工程
この混合スラリーを噴霧乾燥し球状粒子を得る。得られた球状粒子を洗浄し、さらに希土類金属(RE)塩化物の水溶液と接触させて、RE2O3として0.5~5.0質量%となるようにイオン交換した後、乾燥して、触媒(A)を得る。得られた触媒(A)の平均粒子径は、後述する触媒(B)と混合できる範囲であれば特に制限されないが、50~100μm程度である。
【0039】
<触媒(B)の構成>
触媒(B)は、本発明の根幹をなす、重質油分解性能に優れる炭化水素油用流動接触分解触媒であって、触媒(A)に混合することで効果を発揮する。以下、その特性を説明する。
【0040】
a.細孔分布
触媒(B)は、擬平衡化が施された後の細孔径-細孔容積分布について、(a)細孔径が4nm以上50nm以下の範囲のメソ細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい範囲のマクロ細孔容積(PV2)に対する割合(PV1/PV2)が0.8以上であり、かつ、(b)細孔径が4nmより大きい範囲の細孔容積(PV3)に対する、細孔径が30nm以上100nm以下の範囲の細孔容積(PV4)割合(PV4/PV3)が0.2未満であり、このような細孔構造をとることによって、高い重質留分の分解能をもつことになる。
その理由は前記(PV1/PV2)が0.8未満では重質留分の分解能が十分ではない。(PV1/PV2)が高すぎるとコーク生成が増加する恐れがあるので3.0以下とするのが望ましい。(PV4/PV3)が0.2以上では触媒(A)との混合による重質留分の分解能が十分ではない。
(PV4/PV3)の下限は特に定めないが、触媒に含まれる構成成分のサイズに起因するため0.03を下回ることは難しい。
好ましくは、(PV1/PV2)が1.2~2.8の範囲、(PV4/PV3)が0.08~0.15の範囲である。
【0041】
細孔径が30nm以上100nm以下の範囲の細孔容積を低くすることで、触媒(A)との混合触媒が高い重質油の分解性能を有する理由は明らかではないが、発明者らは次のように考えている。
【0042】
30nm以上100nm以下の範囲の細孔が多くなると、中間生成物であるLCO(Light Cycle Oil)留分等の触媒(B)の粒子内部への拡散が起こりやすくなるため、触媒(A)と混合した時に、HCO(Heavy Cycle Oil)等のより重質油の分解により生成したLCO留分等の中間生成物の粒子(触媒(B))-粒子間(触媒(A))への拡散が低下することで十分な触媒混合による効果が得られない、と考えている。
【0043】
b.各成分
バインダー成分として、重質留分の分解の観点から、アルミニウム化合物バインダー単独、または、過半を有するバインダーが好ましい。
【0044】
アルミニウム化合物バインダーの原料としては、例えば塩基性塩化アルミニウム([Al2(OH)nCl6-n]m(但し、0<n<6、m≦10))を用いることができる。塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライトなどに含まれるアルミニウムおよびナトリウムやカリウムなどのカチオンの存在下で200~450℃程度の比較的低温で分解する。この結果、塩基性塩化アルミニウムの一部が分解して、水酸化アルミニウムなどの分解物が存在するサイトがゼオライトの近傍に形成されるものと考えられる。さらに分解した塩基性塩化アルミニウムを300~600℃の範囲の温度で焼成することにより、アルミナバインダー(アルミナ)が形成される。このとき、ゼオライト近傍の分解物が焼成されてアルミナバインダーになる際に、細孔径が4nm以上、50nm以下の範囲のメソ細孔が比較的多く形成され、本発明に係る触媒(B)の比表面積を増大させることができると推定される。一方で、耐摩耗性を低下させる要因となる、細孔径が50nmより大きく、1000nm以下の範囲のマクロ孔の形成を抑えることも確認している。
【0045】
上記測定に係るゼオライト成分の比表面積として、60~100m2/gが重質留分の分解の点で好ましい。
【0046】
<触媒(B)の製造方法>
触媒(B)の製造方法の1例を以下に示す。
1.調整工程
前記した塩基性塩化アルミニウム水溶液(アルミニウム化合物バインダーの一例)を純水で希釈し、カオリン、活性アルミナ粉末および超安定化Y型ゼオライトスラリーを加えて、よく撹拌した後、塩化ランタン溶液を添加し、調合スラリーを調整する。添加物の組成は、予め、上記細孔分布となるように把握したものを用いる。
【0047】
2.噴霧乾燥、焼成、洗浄、乾燥工程
上記の調合したスラリーを噴霧乾燥し球状粒子とする。次に得られた球状粒子の乾燥粉末を焼成し、温水懸濁-脱水濾過後、温水を掛水し、さらに乾燥して、触媒(B)を得る。得られた触媒(B)の平均粒子径は、前記触媒(A)と混合できる範囲であれば特に制限されないが、50~100μm程度である。
【0048】
<混合触媒の調整>
本発明に係る流動接触分解触媒は、まず、擬平衡化が施された後の、細孔径-細孔容積分布の異なる2種の触媒を調製したのち、公知の方法で混合して製造される。このようにして得られた本発明の流動接触分解触媒は、上記触媒(A)の100質量部に対して、上記触媒(B)を10~200質量部混合したものである。触媒(B)の配合量が触媒(A)の100質量部に対し10質量部未満だと、重質留分の分解能が十分ではなく、ガソリン+LPG収率が向上しない。一方、200質量部を超えると触媒(A)のコーク生成抑制効果が薄れてしまい、ガソリン+LPG収率が低下する。従って、上記触媒(A)の100質量部に対して、上記触媒(B)を10~200質量部混合する。好ましくは、触媒(A)の100質量部に対して、触媒(B)を40~100質量部混合する。なお、触媒(A)と触媒(B)との混合割合(質量比)は、炭化水素油を本流動接触分解触媒により分解して得られる分解生成物(特に、ガソリン、LPG)が所望の組成(収率)となるように決めるのがよい。
【0049】
<流動接触分解方法>
本発明に係る流動接触分解触媒を用いる流動接触分解については、通常の炭化水素油の流動接触分解条件を採用することができ、例えば、以下に述べる条件が好適である。
【0050】
接触分解に使用される原料油としては、通常の炭化水素原料油、例えば、水素化脱硫減圧蒸留軽油(DSVGO)や、減圧蒸留軽油(VGO)を用いることができる他、常圧蒸留残渣油(AR)、減圧蒸留残渣油(VR)、脱硫常圧蒸留残渣油(DSAR)、脱硫減圧蒸留残渣油(DSVR)、脱アスファルテン油(DAO)等の残渣油も使用することができ、これらの単独又は混合したものも使用できる。なお、本発明に係る流動接触分解触媒においては、ニッケルおよびバナジウムがそれぞれ0.5ppm以上含まれている残渣油も処理可能であり、原料油として残渣油を単独で用いる残渣油接触分解装置(Resid FCC。RFCC)にも使用できる。ここで、従来の流動接触分解触媒をRFCCで使用した場合には、残渣油中のニッケルおよびバナジウムが触媒に付着して活性が低下するが、本発明の流動接触分解触媒では、バナジウムおよびニッケルがそれぞれ0.5ppm以上含有している残渣油を処理しても、優れた触媒性能を保持できる。また、本発明の流動接触分解触媒は、バナジウムおよびニッケルがそれぞれ300ppm以上含有されていても触媒性能を保持できる。本発明の流動接触分解触媒に含有されるバナジウムおよびニッケルの上限は、それぞれ10000ppm程度である。
【0051】
また、前述の炭化水素原料油を接触分解する際の反応温度は470~550℃の範囲が好適に採用され、反応圧力は一般的にはおよそ1~3kg/cm2の範囲が好適であり、触媒/油の質量比(触媒/油比)は2.5~9.0の範囲が好ましく、更に接触時間は10~60hr-1の範囲が好ましい。
【0052】
《ガソリン+LPG収率G》
流動接触分解触媒のガソリン+LPG収率Gmが、触媒(A)のガソリン+LPG収率GAおよび触媒(B)のガソリン+LPG収率GBよりも高いのが好ましい。ここで、ガソリン+LPG収率は、前記した方法で原料油を接触分解し、得られたガソリンの質量+LPGの質量と、原料油の質量とから計算される。
【0053】
また、本発明の流動接触分解触媒は、触媒(A)および触媒(B)の単独のものから混合組成に基づき単純平均した値よりも、水素収率、C1+C2収率、HCO収率、およびコーク収率が低くなる傾向にある。すなわち、本発明の流動接触分解触媒は、触媒(A)および触媒(B)の単体よりも、ガソリンやLPGなどの高付加価値製品の収率が増える傾向にあるが、ガスや重質油、コークなどの収率は低くなる傾向にある。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
(製造例)
<触媒a1>
a.調合工程
水ガラス(SiO2濃度:17質量%)2941gと硫酸(硫酸濃度:25質量%)1059gを同時に連続的に加えて、SiO2濃度が12.5質量%のシリカゾル(シリカ系バインダーの一例)4000gを調整した。このシリカゾルにカオリン(固形分濃度:84%質量)893g、活性アルミナ粉末(固形分:81%質量)556gを加え、さらに、硫酸にてpHを3.9に調整した超安定化Y型ゼオライトスラリー(固形分濃度:33%質量)を2424g加えて混合スラリーを調整した。
【0055】
b.噴霧乾燥、洗浄、乾燥工程
前記混合スラリーを液滴として、入口温度が230℃、出口温度が130℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥し、平均粒径が70μmの球状粒子を得た。得られた噴霧乾燥粒子を質量で10倍量の温水(60℃)に懸濁し、脱水濾過した。次いで、質量で10倍量の温水(60℃)を掛水した後、さらに懸濁し、希土類金属(RE)塩化物の水溶液(セリウムおよびランタンの塩化物を含む)と接触させて、RE2O3として2.1質量%となるようにイオン交換処理した。その後、触媒粒子を雰囲気135℃の乾燥機で乾燥して、触媒a1を得た。
【0056】
c.擬平衡化工程
前記のようにして得られた触媒a1を予め雰囲気温度600℃にて2時間焼成した。その後、ニッケルオクチル酸塩およびバナジウムオクチル酸塩をそれぞれ金属換算で1000ppm(ニッケルの質量を触媒の質量で除算している)および2000ppm(バナジウムの質量を触媒の質量で除算している)の量で、焼成した触媒粒子に沈着させた。次いで、触媒を雰囲気温度110℃で乾燥した後、雰囲気温度600℃で1.5時間焼成し、その後、触媒に雰囲気温度780℃で13時間のスチーム処理を施し、触媒a1の擬平衡化処理品を得た。
【0057】
d.細孔径-細孔容積分布の測定
擬平衡化を施した触媒a1について、前述の水銀圧入法による細孔径-細孔容積分布測定を行った。擬平衡化を施した触媒a1は測定前に空気雰囲気下、600℃で1時間焼成した。全細孔容積は0.28ml/gであった。細孔径が4nm以上50nm以下の範囲のメソ細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい範囲のマクロ細孔容積(PV2)に対する割合はPV1/PV2=0.56であった。擬平衡化を施した触媒a1の細孔径[nm]に対するログ微分細孔容積dV/dlogdの分布を
図1に示す。
【0058】
e.比表面積
擬平衡化した触媒a1について、前述の比表面積測定を行ったところ169m2/gであった。また、マトリックス成分の表面積は48m2/gであり、ゼオライト成分の比表面積は121m2/gであった。
【0059】
<触媒b1>
a.調合工程
23.5質量%の塩基性塩化アルミニウム水溶液531.9gと純水1138.0gを混合した。次いで、この混合溶液をよく攪拌しながら、カオリン(固形分濃度:84%質量)452.4g、活性アルミナ粉末(固形分濃度:81%質量)246.9gおよび超安定化Y型ゼオライト粉末(固形分濃度:75質量%)333.3gを順次添加した。その後、塩化ランタン溶液(La2O3濃度:29.1質量%)を154.6g添加し、よく撹拌し、調合スラリーを得た。得られた調合スラリーは、ホモジナイザーを用いて分散処理した結果、固形分濃度は35質量%、pHは3.8であった。
【0060】
b.噴霧乾燥、焼成、洗浄、乾燥工程
前記のようにして得られた調合スラリーを液滴として、入口温度が230℃、出口温度が130℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が70μmの球状粒子を得た。この乾燥粉末は電気炉にて空気雰囲気下、400℃で1時間焼成した後、焼成品に対して質量にて10倍量の温水(60℃)に懸濁させ、脱水濾過を施した。さらに、質量で10倍量の温水(60℃)を掛水した後、ケーキを回収し、雰囲気温度140℃に保持した乾燥機にて10時間乾燥させて、触媒b1を得た。
【0061】
c.擬平衡化工程
得られた触媒b1は、触媒a1と同様の条件で擬平衡化処理を施した。
【0062】
d.細孔径-細孔容積分布の測定
擬平衡化を施した触媒b1について、触媒a1と同様に、前述の水銀圧入法による細孔径-細孔容積分布測定を行った。全細孔容積は0.39ml/gであり、細孔径が4nm以上50nm以下の範囲のメソ細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい範囲のマクロ細孔容積(PV2)に対する割合はPV1/PV2=1.53であった。また、細孔径が4nmより大きい範囲の細孔容積(PV3)に対する、細孔径が30nm以上100nm以下の範囲の細孔容積(PV4)割合は、PV4/PV3=0.11であった。擬平衡化を施した触媒b1の細孔径[nm]に対するログ微分細孔容積dV/dlogdの分布を
図1に示す。
【0063】
e.比表面積
擬平衡化した触媒b1について、前述の比表面積測定を行ったところ166m2/gであった。マトリックス成分の表面積は90m2/gであり、計算されるゼオライト成分の比表面積は76m2/gであった。
【0064】
<ブレンド触媒a1b1>
得られた触媒a1の固形分100質量部に対し、触媒b1を固形分42.9質量部および100質量部混合し、本発明に係るブレンド触媒a1b1を得た。
【0065】
(比較例)
<触媒R1>
a.調合工程
23.5質量%の塩基性塩化アルミニウム水溶液531.9gと純水299.3gを混合した。次いで、この混合溶液をよく攪拌しながら、カオリン(固形分濃度:84%質量)452.4g、活性アルミナ粉末(固形分濃度:81%質量)61.7g、事前に硫酸を用いてpHを3.1に調整した活性アルミナスラリー(ベーマイトゲルスラリー。固形分濃度:10質量%)1500gおよび超安定化Y型ゼオライト粉末(固形分濃度:75質量%)333.3gを順次添加した。その後、塩化ランタン溶液(La2O3濃度:29.1質量%)を154.6g添加し、よく撹拌し、調合スラリーを得た。得られた調合スラリーは、ホモジナイザーを用いて分散処理を行い、固形分濃度が30質量%、pHが3.4であった。
【0066】
b.噴霧乾燥、焼成、洗浄、乾燥工程
調合スラリーを液滴として、入口温度が230℃、出口温度が130℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が68μmの球状粒子を得た。この乾燥粉末は電気炉にて空気雰囲気下、400℃で1時間焼成した後、焼成品に対して質量にて10倍量の温水(60℃)に懸濁させ、脱水濾過を施した。さらに、質量で10倍量の温水(60℃)を掛水した後、ケーキを回収し、雰囲気温度140℃に保持した乾燥機にて10時間乾燥させ、触媒R1を得た。
【0067】
c.擬平衡化工程
得られた触媒R1は、触媒a1と同様の条件で擬平衡化処理を施した。
【0068】
d.細孔径-細孔容積分布の測定
擬平衡化を施した触媒R1について、触媒a1と同様に、前述の水銀圧入法による細孔径-細孔容積分布測定を行った。全細孔容積は0.31ml/gであり、細孔径が4nm以上50nm以下の範囲のメソ細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい範囲のマクロ細孔容積(PV2)に対する割合はPV1/PV2=1.14であった。また、細孔径が4nmより大きい範囲の細孔容積(PV3)に対する、細孔径が50nm以上100nm以下の範囲の細孔容積(PV4)割合は、PV4/PV3=0.25であった。擬平衡化を施した触媒R1の細孔径[nm]に対するログ微分細孔容積dV/dlogdの分布を
図1に示す。
【0069】
e.比表面積
擬平衡化した触媒R1について、前述の比表面積測定を行ったところ160m2/gであった。マトリックス成分の表面積は87m2/gであり、計算されるゼオライト成分の比表面積は73m2/gであった。
【0070】
<ブレンド触媒a1R1>
得られた触媒a1の固形分100質量部に対し、触媒R1を固形分42.9質量部混合し、比較例のブレンド触媒a1R1を得た。
【0071】
[触媒活性評価試験]
<性能評価試験>
前記した製造例、比較例に係る各触媒単体および各ブレンド触媒について、ACE-MAT(Advanced Cracking Evaluation-Micro Activity Test)を用い、同一原油、同一反応条件下で触媒の性能評価試験を行った。ただし、評価にあたって、すべて、前記の擬平衡化処理を施したものを用いた。
性能評価試験における運転条件は以下の通りである。
反応温度:520℃
再生温度:700℃
原料油:脱硫常圧残渣油(DSAR)50%:水素化脱硫減圧蒸留軽油(DSVGO)50%
触媒/油比:3.75,5.0
但し、
・転化率(質量%)=(A-B)/A×100
A:原料油の重量
B:生成油中の216℃以上の留分の重量
・水素(質量%)=C/A×100
C:生成ガス中の水素の重量
・C1+C2(質量%)=D/A×100
D:生成ガス中のC1(メタン)、C2(エタン、エチレン)の重量
・LPG(液化石油ガス、質量%)=E/A×100
E:生成ガス中のプロパン、プロピレン、ブタン、ブチレンの重量
・ガソリン(質量%)=F/A×100
F:生成油中のガソリン(沸点範囲:C5~216℃)の重量
・LCO(質量%)=G/A×100
G:生成油中のライトサイクルオイル(沸点範囲:216~343℃)の重量
・HCO(質量%)=H/A×100
H:生成油中のヘビーサイクルオイル(沸点範囲:343℃以上)の重量
・コーク(質量%)=I/A×100
I:触媒混合物上に析出したコーク重量
【0072】
上記で調整した触媒a1、b1およびR1単体の触媒活性評価試験の結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
表1の結果によれば、(PV1/PV2)が0.8未満であれば、コーク収率が低く、HCO収率が高くなり、逆に(PV1/PV2)が0.8以上であれば、コーク収率が高く、HCO収率が低くなることがわかる。横軸に(PV1/PV2)を縦軸にコーク収率およびHCO収率を取って、表1の結果を
図2に示す。
【0074】
上記で調整した本発明に係る混合触媒a1b1(a1:b1の質量比70:30および50:50)、比較例の混合触媒a1R1(a1:R1の質量比70:30)の触媒活性評価試験の結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
表2の結果によれば、触媒a1との混合比率が同じであれば(PV4/PV3)が0.2以下の混合触媒a1b1の方がa1R1より、HCO収率が低い。横軸に(PV4/PV3)を、縦軸に触媒単体から計算される混合触媒のHCO収率と測定されたHCO収率の差を取って表2の結果を
図3に示す。(PV4/PV3)が0.2以下であれば、混合による重質油の分解効果が計算値より高くなって好ましいことがわかる。
【0076】
触媒a1とb1との混合比率が高付加価値品であるガソリン+LPG収率に与える影響を
図4に示す。混合触媒は単体より高付加価値品であるガソリン+LPG収率が向上しており、特に混合触媒全体に対するb1の比率9質量%~66質量%(触媒a1の100質量部に対し、b1を10~200質量部)であれば、触媒単体より高付加価値品(製品)の収率が高いことがわかる。
【0077】
触媒a1とb1との混合比率がコーク+HCO収率に与える影響を
図5に示す。混合触媒では明らかに触媒単体より、コーク+HCO収率が低下しており、重質留分を高付加価値品であるガソリンやLPGに転化する性能が高い。
【0078】
以上説明したように、本発明によれば、重質留分を低減しつつ、コーク収率も低くでき、特に高付加価値製品であるガソリンの収率やLPGの収率を高くすることができる。