(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】表面硬化材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 8/80 20060101AFI20221118BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20221118BHJP
C23C 8/34 20060101ALI20221118BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20221118BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20221118BHJP
【FI】
C23C8/80
C21D1/06 A
C23C8/34
C22C38/00 301N
C22C38/60
(21)【出願番号】P 2018163627
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 太郎
(72)【発明者】
【氏名】松川 竜也
(72)【発明者】
【氏名】別府 正昭
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102605315(CN,A)
【文献】特公昭45-009045(JP,B1)
【文献】特開昭62-040362(JP,A)
【文献】特開昭62-070561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/80
C21D 1/06
C23C 8/34
C22C 38/00
C22C 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cを0.01%以上1.5%以下、
Siを3%以下、
Mnを2%以下、
Cr、Mo、Cu及びNiを合計で5%以下、
Nb、Ti、V及びBを合計で1%以下、
Pを0.1%以下、
Sを0.05%以下
を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる鉄鋼材料の表面に窒素が固溶され、窒素含有量が0.05質量%以上の窒素拡散層が形成された
前記鉄鋼材料を、塩化物を含む溶融物に650℃~900℃の範囲内で5分~60分間、浸漬する浸漬ステップと、
浸漬した前記鉄鋼材料を、マルテンサイト変態が開始する下部臨界冷却速度以上の冷却速度にて、マルテンサイト変態開始温度以下まで冷却する冷却ステップと、
を含む、表面硬化材料の製造方法。
【請求項2】
表面に窒素が固溶された鉄鋼材料は、表層として鉄窒素化合物層を更に含む、請求項1に記載の表面硬化材料の製造方法。
【請求項3】
鉄鋼材料を窒化処理することにより、表面に窒素を固溶する窒化処理ステップを更に含む、請求項1又は2に記載の表面硬化材料の製造方法。
【請求項4】
表面に窒素が固溶された鉄鋼材料は、表面に炭素も固溶されている、請求項1又は2に記載の表面硬化材料の製造方法。
【請求項5】
前記窒化処理ステップの前に、鉄鋼材料に浸炭処理を施す浸炭処理ステップを更に含む、請求項3に記載の表面硬化材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に窒素が固溶された鉄鋼材料に所定の処理を施すことにより、深い位置まで硬化させた表面硬化材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料の表面硬化処理法として、従来、様々な方法が開発されている。例えば、特許文献1には、鋼に軟窒化処理を施し、表面に所定の厚さの窒化物層を形成し、次いで、1000~1200℃で30~120分加熱する方法が開示されている。また、特許文献2には、金型材に対して窒化処理を行った後に表面の加熱を行い、マルテンサイト変態の臨界冷却速度以上30℃/sec以下の冷却速度にてマルテンサイト変態開始温度以下まで冷却し、表面の窒素化合物を減少ないしは消滅させかつ内部に窒素を拡散・固溶させ、表面硬化層を窒化処理単独に比べて深くする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-59248号公報
【文献】特開平7-138733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び2に記載の方法では、表面に窒素が固溶された鉄鋼材料に対し、多くの窒素を深くまで浸透させることができなかったり、表層が酸化したりして、深い位置まで硬質な表面を形成できない場合があった。そこで、本発明の目的は、上記問題を解決するものであり、深い位置まで硬質な表面を有する表面硬化材料を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、以下のものを含む。
(1)表面に窒素が固溶された鉄鋼材料を、塩化物を含む溶融物に650℃~900℃の範囲内で浸漬する浸漬ステップと、
浸漬した前記鉄鋼材料を、マルテンサイト変態が開始する下部臨界冷却速度以上の冷却速度にて、マルテンサイト変態開始温度以下まで冷却する冷却ステップと、
を含む、表面硬化材料の製造方法;
(2)表面に窒素が固溶された鉄鋼材料は、表層として鉄窒素化合物層を更に含む、上記(1)に記載の表面硬化材料の製造方法;
(3)表面に窒素が固溶された鉄鋼材料は、表面に炭素も固溶されている、上記(1)又は(2)に記載の表面硬化材料の製造方法;
(4)鉄鋼材料を窒化処理することにより、表面に窒素を固溶する窒化処理ステップを更に含む、上記(1)又は(2)に記載の表面硬化材料の製造方法;
(5)前記窒化処理が、ガス窒化処理、ガス軟窒化処理、プラズマ窒化処理、又は塩浴軟窒化処理である、上記(4)に記載の表面硬化材料の製造方法;
(6)前記窒化処理ステップの前に、鉄鋼材料に浸炭処理を施す浸炭処理ステップを更に含む、上記(4)又は(5)に記載の表面硬化材料の製造方法;
(7)表面に窒素を固溶する(前記窒化処理を行う)鉄鋼材料が、質量%で、
Cを0.01%以上1.5%以下、
Siを3%以下、
Mnを2%以下、
Cr、Mo、Cu及びNiを合計で5%以下、
Nb、Ti、V及びBを合計で1%以下、
Pを0.1%以下、
Sを0.05%以下、
Feを70.0%以上99.5%以下
の範囲内で含む、上記(1)~(6)のいずれかに記載の表面硬化材料の製造方法;
(8)表面に窒素を固溶する(前記窒化処理を行う)鉄鋼材料が、質量%で、
Cを0.01%以上1.5%以下、
Siを3%以下、
Mnを2%以下、
Cr、Mo、Cu及びNiを合計で5%以下、
Nb、Ti、V及びBを合計で1%以下、
Pを0.1%以下、
Sを0.05%以下
の範囲内で含み、Feおよび不可避不純物を残部として更に含む、上記(1)~(6)のいずれかに記載の表面硬化材料の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、深い位置まで硬質な表面を有する表面硬化材料を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明に係る表面硬化材料の製造方法は、表面に窒素が固溶された鉄鋼材料を、塩化物を含む溶融物に650℃~900℃の範囲内で浸漬する浸漬ステップと、浸漬した前記鉄鋼材料を、マルテンサイト変態が開始する下部臨界冷却速度以上の冷却速度にて、マルテンサイト変態開始温度以下まで冷却する冷却ステップと、を含む。以下、具体的に説明する。
【0008】
表面に窒素が固溶された鉄鋼材料とは、鉄鋼材料の表面において窒素が固溶状態にあるものを意味する。表面に窒素を固溶するための鉄鋼材料としては、少なくとも鉄と炭素を含み、鉄が70質量%以上(好ましくは80質量%以上)含まれるものであれば特に制限されるものではなく、具体的には、一般構造用圧延鋼材、冷間圧延鋼材及び鋼帯、機械構造用炭素鋼鋼材、機械構造用合金鋼鋼材、炭素工具鋼鋼材、高速度工具鋼鋼材、ばね鋼鋼材、高炭素クロム軸受鋼鋼材などが挙げられる。なお、鉄鋼材料と同様の組成で構成されているめっき被膜を有する鉄鋼材料も対象となり得る。この場合、鉄鋼材料とめっき被膜は同一組成からなるものであっても、異なる組成からなるものであってもよい。また、鉄鋼材料は、鉄及び炭素以外に他の元素を含むものであってもよい。他の元素としては、例えば、Si、Mn、Cr、Mo、Cu、Ni、Nb、Ti、V、B、P、S、O等が挙げられる。これらのうち、1種又は2種以上が鉄鋼材料に含まれていてもよいし、全部が鉄鋼材料に含まれていてもよい。
【0009】
鉄鋼材料に含まれる各元素の含有量について説明する。C(炭素)の含有量は、通常0.01質量%以上1.5質量%以下の範囲内であり、好ましくは0.4質量%以上1.0質量%以下の範囲内である。Si(ケイ素)の含有量は、通常3質量%以下であり、好ましくは1質量%以下である。Mn(マンガン)の含有量は、通常2質量%以下であり、好ましくは0.6質量%以下である。Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Cu(銅)、Ni(ニッケル)等の合計含有量は、通常5質量%以下である。Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、B(ホウ素)等の合計含有量は、1質量%以下であればよいが、不純物レベルであることが好ましい。P(燐)の含有量は、通常0.1質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以下である。S(硫黄)の含有量は、通常0.05質量%以下であり、好ましくは0.03質量%以下である。O(酸素)の含有量は、不純物レベルであることが好ましい。
【0010】
本実施の形態において、好ましい鉄鋼材料としては、Cを0.01質量%以上1.5質量%以下の範囲内;Siを3質量%以下;Mnを2質量%以下;Cr、Mo、Cu及びNiを合計で5質量%以下;Nb、Ti、V及びBを合計で1質量%以下;Pを0.1質量%以下;Sを0.05質量%以下;および、Feを70.0質量%以上99.5質量%以下、または、残部としてFeおよび不可避不純物;を含むものである。具体的には、JIS鋼種でいえば、SPCC、S10C、S45C、S55C、SK65(SK7)、SK105(SK3)、SUJ2、SCM420、SCM440などが挙げられる。これらの鉄鋼材料は、予め焼鈍や球状化焼鈍が施されたものであってもよい。
【0011】
鉄鋼材料の表面に窒素を固溶する方法としては、例えば、鉄鋼材料に対する窒化処理を挙げることができる。本発明に係る表面硬化材料の製造方法は、「浸漬ステップの前に、鉄鋼材料を窒化処理することにより、表面に窒素を固溶する窒化処理ステップ」を更に含んでもよい。また、窒化処理ステップの後であって、後述の浸漬ステップの前に、表面に窒素が固溶された鉄鋼材料を冷却したり、表面に窒素が固溶された鉄鋼材料を冷却した後洗浄したりしてもよい。鉄鋼材料に対する窒化処理としては、従来知られている方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、ガス窒化処理、ガス軟窒化処理、プラズマ窒化処理、塩浴軟窒化処理等を挙げることができる。また、後述の浸炭処理ステップを行う場合には、窒化処理として浸炭窒化処理を行ってもよい。これらの窒化処理を行うことにより、鉄鋼材料の表面において、窒素が固溶された窒素拡散層、あるいは、その窒素拡散層と該窒素拡散層上に形成される鉄窒素化合物層との複合層が形成される。
【0012】
上記窒素拡散層中の窒素は、通常0.05質量%以上であるが、この値に限定されるものではない。また、鉄窒素化合物層中の鉄窒素化合物は、例えば、ε-Fe2-3N;γ’-Fe4N;Fex(N,C)[xは任意の数値である。];CrN、Cr2N、TiN、Si3N4、VN等のMxN[M:鉄鋼材料に含まれる金属元素、例えば、Cr、Ti、Si、V等であり、xは任意の数値である。]などである。鉄窒素化合物層の厚さは、通常1μm以上50μm以下の範囲内で形成される。窒化処理の、温度及び時間等の条件は、鉄鋼材料の種類、処理の方法等によって異なるが、一般的には、A1変態点以下の温度で所定時間行われ、例えば、300℃以上600℃以下の範囲内で、かつ、5分間以上120分間以下の範囲内で行われる。より具体的には、塩浴軟窒化処理の場合、温度は、550℃以上600℃以下の範囲内であることが好ましく、570℃以上590℃以下の範囲内であることがより好ましい。処理時間は、60分間以上120分間以下の範囲内であることが好ましい。
【0013】
鉄窒素化合物層の厚さは、鉄鋼材料を窒化処理することにより得られる、表面に窒素が固溶された鉄鋼材料、の断面を光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡により測定できる。鉄窒素化合物層の組成はEPMA(電子線マイクロアナライザ)分析により測定できる。窒素拡散層の厚さは、鉄に窒素が単に固溶した層、あるいは窒素を固溶した母相に合金元素(Cr、V、Nb、Ti、Al)の窒化物を分散析出した複合層、の厚さとして、EPMA(電子線マイクロアナライザ)分析により測定できる。
【0014】
本発明に係る表面硬化材料の製造方法は、浸漬ステップの前、より具体的には、上記窒化処理ステップの前に、「鉄鋼材料に浸炭処理を施す浸炭処理ステップ」を更に含んでもよい。この浸炭処理ステップを行うことにより、鉄鋼材料の表面に炭素を固溶することができる。また、この浸炭処理ステップと窒化処理ステップを行うことにより、表面に炭素と窒素が固溶化された鉄鋼材料を得ることができる。ここで、浸炭処理としては、例えば、固体浸炭処理;塩浴浸炭処理等の液体浸炭処理;ガス浸炭処理;真空浸炭処理(真空ガス浸炭処理);プラズマ浸炭処理(イオン浸炭処理);等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。浸炭処理の、温度及び時間等の条件は、鉄鋼材料の種類、処理の方法、炭素を浸透させる深さ等によって異なるが、鉄鋼材料の表面に炭素が固溶されるように適宜設定される。なお、本発明に係る表面硬化材料の製造方法は、浸炭処理ステップを行った後、窒化処理ステップ前に、鉄鋼材料の表面硬さを向上させるため、適した条件下で、焼入れ、焼き戻し等の処理を更に行ってもよい。
【0015】
浸漬ステップ
表面に窒素が固溶された鉄鋼材料は、次に塩化物を含む溶融物に浸漬される。この浸漬ステップにより、より多くの、表面に固溶された窒素を深くまで浸透させることができ、かつ、表層が酸化されるのを防ぐことができるため、後述の冷却ステップにより、深い位置まで表面強度も向上させることができるようになる。溶融物に含まれる塩化物としては、例えば、NaCl、KCl、BaCl2等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。これらの塩化物は、1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。溶融物には、Na、K、Ba等の、硝酸金属塩および/または炭酸金属塩が含まれていてもよいが、含まれていなくてもよい。溶融物に浸漬する温度(浸漬温度)は、通常、650℃以上900℃以下の範囲内である。この温度範囲に限定した理由は、この温度範囲で浸漬しないと、表面硬化材料における表面硬度を深い位置まで十分に高めることができないからである。溶融物に浸漬する時間は、表面に窒素を固溶するための鉄鋼材料の種類、浸漬温度等によって異なるが、通常、5分間以上60分間以下であり、好ましくは5分間以上30分間以下である。
【0016】
冷却ステップ
浸漬ステップで浸漬した上記鉄鋼材料を急冷することにより、表面部にマルテンサイト変態を生じさせ、深い位置まで硬質な表面を有する表面硬化材料を製造することができる。冷却(急冷)の条件としては、マルテンサイト変態が開始する(生じる)下部臨界冷却速度以上の冷却速度であれば特に制限されるものではないが、上部臨界冷却速度以上の冷却速度であることが好ましい。下部臨界冷却速度及び上部臨界冷却速度は、浸漬する上記鉄鋼材料の組成によって異なるが、一般的に、20℃/秒~30℃/秒以上である。なお、冷却する温度としては、マルテンサイト変態開始温度以下であれば特に制限されるものではない。また、冷却(急冷)方法は、特に制限されるものではないが、水、塩水、ポリマー分散水溶液、油、塩浴、鉛浴などの冷却媒体に浸漬することが好ましい。冷却ステップを行った後、冷却した上記鉄鋼材料に対し、水洗したり、水洗後さらに焼き戻しを行ったりしてもよい。焼き戻しを行うことにより、靭性を向上させた表面硬化材料を製造することが可能となる。焼き戻しは、通常行われる条件で行うことができる。焼き戻しの温度及び時間等の条件は、冷却した上記鉄鋼材料の組成や使用用途により異なるが、例えば、150℃以上180℃以下の範囲内の温度、及び、60分間以上90分間以下の範囲内の時間等を挙げることができる。
【実施例】
【0017】
本発明による製造方法の効果を確認するために、7種類の試験片を作製した。なお、試験片の作製に用いた各JIS鋼種の成分組成を表1に示す。残部は鉄および不純物、単位は質量%である。
(1)試験片1
機械構造用炭素鋼鋼材S45Cを850℃にて4時間の焼鈍を行い、機械加工により、直径20mm×長さ50mmに成形し、試験片1を作製した。
(2)試験片2
板厚1mmの自動車用極軟鋼薄鋼板SPCCを70mm×150mmに切断し、試験片2を作製した。
(3)試験片3
S10Cを900℃で4時間の焼鈍を行い、機械加工により、直径20mm×長さ50mmに成形し、試験片3を作製した。
(4)試験片4
S55Cを850℃で4時間の焼鈍を行い、機械加工により、直径20mm×長さ50mmに成形し、試験片4を作製した。
(5)試験片5及び試験片6
SCM420を850℃で4時間の焼鈍を行い、機械加工により、直径20mm×長さ50mmに成形し、試験片5を作製した。この試験片を、プロパン変成ガス(RXガス)及びプロパンエンリッチガスを注入しながら浸炭炉内にて、930℃で180分間浸炭処理を行った。その後、850℃まで温度を下げてから油冷(焼入れ)を行い、有効硬化層深さ(550HV)が0.8mmとなるように焼き戻しを行い、表面を機械研磨して直径20mm×長さ50mmに成形し、表面に浸炭層を備えた試験片6を作製した。なお、有効硬化層深さは、JIS G 0557:2006における「鋼の浸炭硬化層深さ測定方法」に基づき測定した。
(6)試験片7
SCM440を球状化焼鈍し、機械加工により、直径20mm×長さ50mmに成形し、試験片を作製した。
【0018】
【0019】
No.1~5の評価材料の作製
試験片1を塩浴軟窒化剤(パーカー熱処理工業製;NS-2)に浸漬し、570℃で120分間塩浴軟窒化処理を行った。塩浴軟窒化処理を行った試験片1を、光学顕微鏡及びEPMA分析により観察したところ、鉄窒素化合物層が表面から約15μmの厚さで、鉄窒素化合物層の下に窒素拡散層が約200μmの厚さで、複合層が形成されているのが確認できた。塩浴軟窒化処理を行った試験片1を、塩化物金属塩を含む塩浴剤に浸漬し、600℃~1000℃で30分間塩浴加熱を行った。塩浴剤としては、600℃又は650℃で加熱する場合には、パーカー熱処理工業製GS540(融点540℃)を使用し、800~1000℃で加熱する場合には、パーカー熱処理工業製GS660(融点660℃)を使用した。塩浴加熱を行った後、試験片1を20~30℃の5%NaCl水溶液中に浸漬して冷却し(以下、「水冷」という)、No.1~5の評価材料を作製した。この際の冷却速度は、概ね170℃/秒であった。
【0020】
No.6~10の評価材料の作製
試験片1に対してプラズマ窒化処理を行い、プラズマ窒化処理を行った試験片1を、光学顕微鏡及びEPMA分析により観察した。なお、プラズマ窒化処理は、炉内のN2ガスとH2ガスの体積比が1:4となるように調整し、3torrに減圧して570℃で6時間行った。光学顕微鏡の観察の結果、鉄窒素化合物層が表面において不連続に形成し、また、窒素拡散層が鉄窒素化合物層の下あるいは表面から約200μmの厚さで形成されているのが確認できた。プラズマ窒化処理を行った試験片1の表面を機械研磨して、表面に不連続に形成した僅かな鉄窒素化合物層を除去し、上述と同様に、塩浴剤への浸漬及び水冷を行い、No.6~10の評価材料を作製した。
【0021】
特性評価
No.1~10の評価材料の特性(表面酸化、断面硬さ)を評価した。表面酸化は、水冷時に試験片1の表面から酸化物等の剥離や脱落の有無と、各評価材料を金属顕微鏡により断面観察(観察倍率500倍)した場合における、表面の酸化スケールの厚さと、を確認し、評価した。剥離や脱落がなく、酸化スケールの厚さが2μm未満である場合は実用化レベルと判断し、表面酸化が「無」と評価した。その他の場合、すなわち、剥離や脱落が確認された場合、又は酸化スケールの厚さが2μm以上である場合は、表面酸化が「有」と評価した。
断面硬さは、各評価材料を切断した後、断面を機械研磨により鏡面仕上げし、続いて、微小硬さ試験機(マイクロビッカース)を用いて、測定荷重0.3kgfにて、表面から深さ300μmの位置における微小硬さ(HV)を測定した。
これらの結果を表2に示す。
【0022】
【0023】
No.11~18の評価材料の作製
上述と同様に塩浴軟窒化処理を行った試験片1又は6を、光学顕微鏡及びEPMA分析により観察した。光学顕微鏡の観察の結果、鉄窒素化合物層が表面から約15μmの厚さで、鉄窒素化合物層の下に窒素拡散層が約200μmの厚さで形成されているのが確認できた。
塩浴軟窒化処理を行った試験片6に対し、800℃で5分間または30分間塩浴加熱を行った後、30~40℃のコールドクエンチ油(出光製;ダフニーマスタークエンチA)中に浸漬して冷却し(以下、「油冷」という)、No.11及び12の評価材料を作製した。この際の冷却速度は、概ね約100℃/秒であった。
また、塩浴軟窒化処理を行った試験片1又は6を、電気炉内において800℃で5分間または30分間加熱した(電気炉加熱)。加熱後、試験片1又は6を水冷または油冷し、No.13~15の評価材料を作製した。
塩浴軟窒化処理した試験片6を、高周波電源装置(最大出力:30kW、周波数:70kHz)を用いて800℃で0.5~5分間加熱した(IH)。加熱後、試験片6を油冷し、No.16~18の評価材料を作製した。
No.11~18の評価材料に対し、上述の同様に特性の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0024】
【0025】
No.19~26の評価材料の作製
上述と同様に、塩浴軟窒化処理を行った試験片1~7を、光学顕微鏡及びEPMA分析により観察した。光学顕微鏡の観察の結果、鉄窒素化合物層が表面から約15μmの厚さで、鉄窒素化合物層の下に窒素拡散層が約200μmの厚さで形成されているのが確認できた。塩浴軟窒化処理を行った試験片1~7に対し、850℃で5分間塩浴加熱を行った後、水冷又は油冷し、No.19及びNo.21~26の評価材料を作製した。また、塩浴軟窒化処理を行った試験片6に対し、850℃で5分間塩浴加熱を行った後、20℃の部屋に放置し、20℃になるまで冷却し、No.20の評価材料を作製した。この際の冷却速度は、概ね約10℃/秒であった。No.19~26の評価材料に対し、上述の同様に特性の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0026】