(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、繊維強化複合材料及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20221118BHJP
C08J 5/10 20060101ALI20221118BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08J5/10 CFC
C08G59/40
(21)【出願番号】P 2018183620
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】三宅 力
(72)【発明者】
【氏名】中西 哲也
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-265371(JP,A)
【文献】特表2017-536441(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199857(WO,A1)
【文献】特開2001-226580(JP,A)
【文献】特開2001-123044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08J 5/10
C08G 59/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、ジシアンジアミド(B)、イミダゾール系硬化助剤(C)、及びコアシェルゴム(D)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂(A)が1分子中に2個のエポキシ基を有し、E型粘度計を使用して測定した25℃における粘度が2~30Pa・sである液状のエポキシ樹脂であること、イミダゾール系硬化助剤(C)が2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物または2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールであること、(A)、(B)及び(C)のエポキシ樹脂組成物をDSCにて昇温速度10℃/分の条件で測定したときの発熱開始温度が135℃以上になること、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量に対し、ジシアンジアミド(B)を0.2~0.8当量含有し、ジシアンジアミド(B)100質量部に対し、イミダゾール系硬化助剤(C)を25~50質量部含有することを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
コアシェルゴム(D)の体積平均粒子径が1~500nmである請求項
1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
E型粘度計を使用して測定した25℃における粘度が5~30Pa・sである請求項
1又は2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に、強化繊維を配合してなることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項5】
強化繊維の体積含有率が30~75%である請求項
4に記載の繊維強化複合材料。
【請求項6】
請求項
4又は5に記載の繊維強化複合材料を、フィラメントワインディング法で成形及び硬化して得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料及びそれに用いるエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性、また耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に、高性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れた炭素繊維が、そしてマトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、中でも特に炭素繊維との接着性に優れたエポキシ樹脂が多く用いられている。しかし、一般にエポキシ樹脂(硬化物)は脆い、すなわち靭性や伸びが低いことが欠点であるため、これをそのまま用いた繊維強化複合材料の力学特性は低くなってしまい満足するものではなかった。
【0003】
エポキシ樹脂の靱性や伸びを向上させる方法として、靱性に優れるゴム成分や熱可塑性樹脂を配合する方法などが試されてきた。例えば、カルボキシル基を含有するアクリロニトリル-ブタジエンゴムのようなゴム成分をエポキシ樹脂に配合することにより、エポキシ樹脂の靱性が改善されることは1970年代から検討されており、一般によく知られている。しかしながら、ゴム成分は、耐熱性低下や弾性率低下を引き起こす上、ゴム成分による靱性改質効果を十分に得るためには、ゴム成分を多量に配合する必要がある。このため、エポキシ樹脂本来の耐熱性や力学特性が低下し、良好な物性を有する複合材料が得られないという欠点があった。
【0004】
また、エポキシ樹脂に熱可塑性樹脂を配合する方法としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンおよびポリエーテルイミドのような熱可塑性樹脂をエポキシ樹脂に溶解、あるいは微粉末で配合し溶解することにより、エポキシ樹脂中に熱可塑性樹脂を均一に分散させる方法があり、エポキシ樹脂の持つ機械物性を損なうことなしに靱性を向上し、耐衝撃性に優れた繊維強化複合材料が得られることが知られている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、この方法では、靱性改質効果を十分に得るためには、これらの熱可塑性樹脂を多量に配合する必要がある。その結果、エポキシ樹脂組成物の粘度が大幅に上昇し、プリプレグを得る際のプロセス性の大幅な低下や、得られるプリプレグにおける樹脂未含浸部を生じたり、プリプレグを硬化して得られる繊維強化複合材料にボイドが生じるというような欠点があった。
【0006】
この問題に対して、エポキシ樹脂に実質的に不溶なポリマー粒子を用いる方法が提案されている。中でも、ポリマーを主成分とする粒子状のコア部分と、コア部分とは異なるポリマーをグラフト重合するなどの方法でコア部分の表面の一部あるいは全体を被覆したコアシェルゴム粒子を配合する方法が提案されている(例えば、特許文献2、3)。この方法ではエポキシ樹脂組成物の粘度上昇、エポキシ樹脂硬化物のTg低下を抑制できることが知られている。
【0007】
しかしながら、十分な靱性向上効果を得るためには大量のコアシェルゴム粒子の配合が必要であり、この結果エポキシ樹脂硬化物の弾性率が低下し、ひいては繊維強化複合材料の力学特性の低下を引き起こすという問題が依然として残されていた。
【0008】
それらを補う手段として、コアシェルゴムと分子量の大きい長鎖エポキシ樹脂を併用する手法も提案されている(特許文献4)。しかしながら、長鎖エポキシ樹脂は組成物の粘度を上昇させる上、貯蔵安定性の悪化を招く、靱性の向上も満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特公平6-43508号公報
【文献】特開平5-65391号公報
【文献】特開2003-277579号公報
【文献】特許第5293629号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明ではプリプレグ製造時の含浸性と貯蔵安定性を両立させながら成形物の力学特性に優れる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供するもので、特にフィラメントワインディング法において使用するトウプリプレグの保存安定性を向上できる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、エポキシ樹脂(A)、ジシアンジアミド(B)、イミダゾール系硬化助剤(C)、及びコアシェルゴム(D)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、(A)、(B)及び(C)のエポキシ樹脂組成物をDSCにて昇温速度10℃/分の条件で測定したときの発熱開始温度が135℃以上になること、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量に対し、ジシアンジアミド(B)を0.2~0.8当量含有し、ジシアンジアミド(B)100質量部に対し、イミダゾール系硬化助剤(C)を25~50質量部含有することを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。
【0012】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、以下のいずれかを満たすことが望ましい。
1)エポキシ樹脂(A)が1分子中に2個のエポキシ基を有し、E型粘度計を使用して測定した25℃における粘度が5~30Pa・sであること、
2)イミダゾール系硬化助剤(C)が2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物または2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールであること、
3)コアシェルゴム(D)の体積平均粒子径が1~500nmであること、
4)E型粘度計を使用して測定した25℃における粘度が5~30Pa・sであること。
【0013】
本発明の別の態様は、上記エポキシ樹脂組成物に、強化繊維を配合してなることを特徴とする繊維強化複合材料である。強化繊維の体積含有率が30~75%であることが好ましい。
本発明のさらに別の態様は、上記繊維強化複合材料を、フィラメントワインディング法で成形及び硬化して得られる成形体である。
【発明の効果】
【0014】
プリプレグ製造時の含浸性に優れ、高い貯蔵安定性及び高い破壊靭性と伸びを両立する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】DSCチャートから求められる発熱開始温度と発熱ピーク温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物(以下、単にエポキシ樹脂組成物とも言う)は、エポキシ樹脂(A)、ジシアンジアミド(B)、イミダゾール系硬化助剤(C)、コアシェルゴム(D)を必須成分とする。以下、エポキシ樹脂(A)、ジシアンジアミド(B)、イミダゾール系硬化助剤(C)、コアシェルゴム(D)を、それぞれ(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分ともいう。
【0017】
本発明で使用するエポキシ樹脂(A)の配合量は、(A)~(D)成分の合計100質量部の内、40~75質量部、好ましくは40~70質量部、より好ましくは50~70質量部である。
エポキシ樹脂としては、1分子中に2つのエポキシ基を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、イソホロンビスフェノール型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂や、これらビスフェノール型エポキシ樹脂のハロゲン、アルキル置換体、水添品、単量体に限らず複数の繰り返し単位を有する高分子量体、アルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテルや、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂や、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレ-ト、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-エポキシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂や、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂や、フタル酸ジグリシジルエステルや、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルや、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルや、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミン等のグリシジルアミン類等を用いることができる。これらのエポキシ樹脂中、粘度増加率の観点から1分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましく、それよりエポキシ基が多い多官能のエポキシ樹脂は好ましくない。その中でビスフェノールF型エポキシ樹脂が最も好ましい。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明で使用するエポキシ樹脂(A)は、25℃におけるE型粘度計(コーンプレートタイプ)を使用して測定した粘度が5~30Pa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは6~25Pa・s、より好ましくは7~20Pa・sである。これにより良好な強化繊維への含浸性を有し、含浸後にも繊維から樹脂の液垂れが起きにくいものとなる。また、エポキシ樹脂(A)は数種類の混合物でも良く、その混合物の粘度が上記範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、硬化剤としてジシアンジアミド(B)が用いられる。ジシアンジアミドは常温で固体の硬化剤であり、室温ではエポキシ樹脂にほとんど溶解しないが、180℃以上まで加熱すると溶解し、エポキシ基と反応するという特性を有する室温での保存安定性に優れた潜在性硬化剤である。使用する量としてはエポキシ樹脂(A)のエポキシ当量に対して0.2~0.8当量(ジシアンジアミド1モルを4当量として計算)の範囲で配合する。より好ましくは0.2~0.5当量である。エポキシ当量に対して0.2当量未満では硬化物の架橋密度が低くなり、破壊靱性が低くなりやすくなり、0.8当量を超えると未反応のジシアンジアミドが残り易くなるため、機械物性が悪くなる傾向にある。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物の製造は、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、各成分をニーダーにて混練する方法がある。また、二軸の押出機を用いて混練してもよい。ジシアンジアミド(B)は、固形状態のまま各成分中に分散されるが、一度に全ての成分を混練した場合、ジシアンジアミドが凝集して分散不良となる場合がある。分散不良のエポキシ樹脂組成物は、硬化物中に物性ムラが生じたり、硬化不良を生じたりするため好ましくない。よって、ジシアンジアミドはエポキシ樹脂の一部を使用し、三本ロールにて予備混練を行い、マスターバッチとして使用することが好ましい。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂組成物に含まれるイミダゾール系硬化助剤(C)の配合量は、ジシアンジアミド(B)の量100質量部に対し、25~50質量部である。より好ましくは35~50質量部とする。イミダゾール系硬化助剤が25質量部より少ない場合、速硬化性の発現が困難となり、50質量部より多くなると速硬化性に変化はないもののTgが低下し、硬化物が脆くなる傾向にある。
【0022】
イミダゾール系硬化助剤(C)としては、粘度増加率の抑制(保存安定性)を向上させるために、(A)、(B)及び(C)のエポキシ樹脂組成物としたときのDSC(示差走査熱量分析)発熱開始温度が135℃以上であり、好ましくは137℃以上、より好ましくは140℃以上であるものがよい。発熱開始温度が135℃より低いと室温での保存安定性が低下するばかりでなく、含浸時に硬化反応が進行してしまい流動性向上効果が十分に発現されない。このDSC発熱開始温度は、硬化触媒としてのイミダゾール系硬化助剤(C)を配合した(A)、(B)及び(C)のエポキシ樹脂組成物を、昇温速度10℃/分の条件でDSC測定したときの時間当たりの発熱量の外挿で表される温度であり、
図1にその測定法を示す。
図1において、(A)、(B)及び(C)のエポキシ樹脂組成物について、時間当たりの発熱量を外挿し、その交点を発熱開始温度と定義し、また発熱量の最大値を示す温度を発熱ピーク温度とした。
【0023】
更にイミダゾール系硬化助剤(C)としては、硬化時の発熱を抑制させるために、エポキシ樹脂組成物としたときのDSC発熱ピーク温度が、好ましくは145℃~160℃、より好ましくは148℃~155℃であるものがよい。発熱ピーク温度が145℃より低いと室温での保存安定性が低下するばかりでなく、含浸時に硬化反応が進行してしまい流動性向上効果が十分に発現されない。また、160℃を超えると硬化時の硬化発熱により樹脂自体の異常発熱、分解が起こるため好ましくない。このDSC発熱ピーク温度は、硬化触媒としてのイミダゾール系硬化助剤(C)を配合したエポキシ樹脂組成物を、昇温速度10℃/分の条件でDSC測定したときの、発熱ピーク温度である。
【0024】
イミダゾール系硬化助剤(C)として、本発明における混合時での強化繊維への含浸性に加え、硬化時における耐熱性をより満足させるためには、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールが好ましい。また、発熱ピーク温度が145℃以上を示す組成となるものであれば、その他のイミダゾール系化合物を、硬化助剤成分の一部として1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えばこれら他のイミダゾール系硬化助剤(C1)としては、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル6-4′,5′-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物を用いることが良い。更に、トリアジン環を含有するイミダゾール化合物としては、例えば、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン等が挙げられる。
【0025】
また、イミダゾール系硬化助剤(C)も固形であるため、分散不良を起こしやすいためジシアンジアミド(B)と同様にエポキシ樹脂の一部を使用し、三本ロールにて予備混練を行い、マスターバッチとして使用することが好ましい。
【0026】
コアシェルゴム(D)としては、架橋されたゴム状ポリマーまたはエラストマーを主成分とする粒子状コア成分の表面に、コア成分とは異種のシェル成分ポリマーをグラフト重合することで粒子状コア成分の表面の一部あるいは全体をシェル成分で被覆したものである。
【0027】
コアシェルポリマーを構成するコア成分としては、ビニルモノマー、共役ジエン系モノマー、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーより選ばれる1種または複数種から重合されたポリマーまたはシリコーン樹脂などを使用することができるが、芳香族系ビニルモノマーと共役ジエン系モノマー、中でもスチレンとブタジエンから構成される架橋ゴム状ポリマーが、靭性向上効果が高く好ましく用いることができる。
【0028】
コアシェルポリマーを構成するシェル成分は、前記したコア成分にグラフト重合されており、コア成分を構成するポリマーと化学結合していることが好ましい。このようなシェル成分を構成する成分としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物等から選ばれた1種または複数種から重合された重合体を用いることができる。コア成 分としてスチレンとブタジエンから構成される架橋ゴム状ポリマーを使用する場合、(メタ)アクリル酸エステルであるメタクリル酸メチルと芳香族ビニル化合物であるスチレンの混合体を好適に用いることができる。
【0029】
また、シェル成分には分散状態を安定化させるために、本発明のエポキシ樹脂組成物と反応する官能基が導入されていることが好ましい。このような官能基としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基が挙げられ、中でもエポキシ基が好ましい。エポキシ基を導入する方法としては、シェル成分に、例えばメタクリル酸2,3-エポキシプロピルを併用して、コア成分にグラフト重合する方法がある。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物に適用できるコアシェルポリマーとしては、上述されるものであれば特に制限はなく、周知の方法で製造されたものを使用できる。しかしながら、通常コアシェルポリマーは塊状で取り出されたものを粉砕して粉体として取り扱われており、粉体状コアシェルポリマーを再度エポキシ樹脂中に分散させることが多いが、この方法では、一次粒子の状態で安定に分散させることが難しい。よって、コアシェルポリマーの製造過程から一度も塊状で取り出すことなく、最終的にはエポキシ樹脂中に一次粒子で分散したマスターバッチの状態で取り扱うことができるものが好ましい。例えば、特開2004-315572号公報に記載の方法、すなわち、コアシェルポリマーを乳化重合、分散重合、懸濁重合に代表される水媒体中で重合する方法で重合を行い、コアシェルポリマーが分散した懸濁液を得て、得られた懸濁液に水と部分溶解性を示す有機溶媒、例えば、アセトンやメチルエチルケトンなどのエーテル系溶媒を混合後、水溶性電解質、例えば塩化ナトリウムや塩化カリウムを接触させ、有機溶媒層と水層を相分離させ、水層を分離除去して得られたコアシェルポリマー分散有機溶媒に適宜エポキシ樹脂を混合した後、有機溶媒を蒸発除去する方法などが使用できる。例えば、コアシェルポリマー分散エポキシマスターバッチとしては、株式会社カネカ社から市販されている“カネエース”を好適に使用できる。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物にコアシェルポリマーを適用する場合、コアシェルポリマーは平均粒子径が体積平均粒子径で1~500nmであることが好ましく、3~300nmであればさらに好ましい。なお、体積平均粒子径はナノトラック粒度分布測定装置(日機装(株)製)を用いて測定することができる。本発明で使用されるコアシェルポリマーの体積平均粒子径が1nm以下では製造することが困難であるか、または非常に高価となり実質的に使用することができず、体積平均粒子径が500nm以上ではトウプリプレグの製造工程において、エポキシ樹脂組成物を含浸させる工程において、数千本レベルで存在する強化繊維が網のような状態になるため、この強化繊維で濾別され、トウプリプレグ中において分散状態が不均一になる場合があるので好ましくない。
【0032】
コアシェルゴム(D)の配合量は、エポキシ樹脂組成物100質量部中に、0.5~15質量部配合されることが好ましく、1~10質量部であればさらに好ましい。配合量が0.5質量部以上であれば、成形後の繊維強化複合材料に必要とされる破壊靭性が得られやすく、さらに、配合量が15質量部以下であれば、得られるエポキシ樹脂組成物の粘度が高くなることを抑え、強化繊維に無理なく含浸できるため、繊維強化複合材料用により適したものとなる。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに他の安定剤、改質剤等を含んでいても良い。好ましい安定剤としては、B(OR)3(但し、Rは水素原子、アルキル基あるいはアリール基を表す。)で表されるホウ酸化合物が好ましい。ホウ酸化合物の配合量は、樹脂組成物全体を100質量部に対して0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~3質量部である。0.01質量部未満の添加量では貯蔵時の安定性を確保することができず、また10質量部を越えると硬化反応を阻害する効果のほうが大きくなってしまい、硬化不良を誘発するので好ましくない。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、添加剤として表面平滑性を向上させる目的で消泡剤、レベリング剤を添加することが可能である。これら添加剤は樹脂組成物全体を100質量部に対して0.01~3質量部、好ましくは0.01~1質量部を配合することができる。配合量が0.01質量部未満では表面を平滑にする効果が表れず、3質量部をこえると添加剤が表面にブリードアウトを起こしてしまい、逆に平滑性を損なう要因となるため好ましくない。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記の(A)成分~(D)成分等を均一に混合することにより製造される。得られた繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、良好な強化繊維への含浸性を有し、含浸後にも繊維から樹脂の液垂れが起きにくい。さらに本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、室温23℃では安定で粘度変化がほとんどなく、温度40℃、大気雰囲気または不活性ガス雰囲気の条件下において、72時間経過後の粘度増加率が20%以下であり、長時間の含浸工程を有するプリプレグの製造時に安定した強化繊維への含浸性を担保できるだけでなく、保管時に増粘することがないことから、樹脂流れ性が悪くなることに起因する硬化時に空隙が少なく、表面平滑性に優れた繊維強化複合材料が得られる。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、他の硬化性樹脂を配合することもできる。このような硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、硬化性アミノ樹脂、硬化性メラミン樹脂、硬化性ウレア樹脂、硬化性シアネートエステル樹脂、硬化性ウレタン樹脂、硬化性オキセタン樹脂、硬化性エポキシ/オキセタン複合樹脂等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、E型粘度計を使用して測定した粘度が好ましくは5~30Pa・s/25℃、より好ましくは6~25Pa・s/25℃、特に好ましくは7~20Pa・s/25℃である。粘度が高すぎると炭素繊維への含浸性が悪化し、粘度が低すぎる場合、ジシアンジアミドやイミダゾール系硬化助剤の沈降を招く。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、トウプリプレグ繊維強化複合材料に好適に用いられる。ここで用いられるトウプリプレグの製造方法は特に限定されないが、該エポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトンやメタノールなどの有機溶媒に溶解させて低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させた後、オーブンなどを用いて有機溶媒を蒸発させてトウプリプレグとするウェット法、あるいは、有機溶媒を用いずに加熱して低粘度化した該エポキシ樹脂組成物をロールや離型紙上にフィルム化し、次いで強化繊維束の片面、あるいは両面に転写したあと、屈曲ロールあるいは圧力ロールを通すことで加圧して含浸させるホットメルト法、該エポキシ樹脂組成物を、加熱により低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させるフィラメントワインディング法などで製造でき、トウプリプレグ中に残留する有機溶媒が実質的に皆無であり、生産性が高く高品位なトウプリプレグが製造できることから、フィラメントワインディング法を好ましく用いることができる。このような製造法を用いることで樹脂含浸されたトウプリプレグを得ることができる。
【0039】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に用いられる強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等から選ばれるが、強度に優れた繊維強化複合材料を得るためには炭素繊維を使用するのが好ましい。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物と強化繊維より構成された成形体において、強化繊維の体積含有率は、好ましくは30~75%、より好ましくは45~75%であり、この範囲であると空隙が少なく、かつ強化繊維の体積含有率が高い成形体が得られるため、優れた強度の成形材料が得られる。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、80~180℃、好ましくは135℃以上の温度の任意温度で、0.5~10時間の範囲の任意時間で加熱することで架橋反応を進行させて硬化物を得ることができる。加熱条件は1段階でも良く、複数の加熱条件を組み合わせた多段階条件でも良い。特に燃料電池に使用されるような水素ガスなどを充填する高圧力容器を想定した場合は、80~150℃の温度の範囲の任意温度で、0.5~5時間の範囲の任意時間で加熱硬化することにより、所望する硬化物の物性を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。各実施例の樹脂組成物を得るために、下記の樹脂原料を用いた。
【0043】
(A)エポキシ樹脂
・液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂:YDF-170(新日鉄住金化学株式会社製)(エポキシ当量160~180g/eq,粘度2~5Pa・s)
・液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂:YD-128(新日鉄住金化学株式会社製)(エポキシ当量184~194g/eq,粘度11~15Pa・s)
(B)ジシアンジアミド
・ジシアンジアミド:DICYANEX1400F(AIRPRODUCT社製)
(C)イミダゾール系硬化助剤
・2MZA-PW(四国化成工業製) 2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン
・2MAOK-PW(四国化成工業製) 2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物
・2P4MHZ-PW(四国化成工業製) 2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール
・PN-23J(味の素ファインテクノ株式会社製)
・PN-50J(味の素ファインテクノ株式会社製)
(D)コアシェルゴム
・MX-154(株式会社カネカ製):エポキシマスターバッチ
(コアシェルゴム配合量40wt%、BPA型エポキシ樹脂配合量60wt%、平均粒径100nm、株式会社カネカ製)
【0044】
測定方法を以下に示す。
エポキシ当量:JISK7236規格に準拠して測定した。具体的には、電位差滴定装置を用い、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液を用いた。
粘度:JIS K7117-1に準じた。具体的には硬化前樹脂組成物の25℃における粘度をE型粘度計で測定した。
増粘率:40℃の熱風循環式オーブンに3日間静置した後、JIS K7177-1に準じて測定した。
反応ピーク温度:示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC6200)にて10℃/分の昇温条件で測定を行った時の時間辺りの発熱量が最大になったときの温度で表した。
反応開始温度:示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC6200)にて10℃/分の昇温条件で測定を行った時の時間当たりの発熱量の外挿で表した。
Tg:示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC6200)にて10℃/分の昇温条件で測定を行った時のDSC外挿値の温度で表した。
破壊靭性(K1c):ASTM E399に準じた。具体的には、幅10mm、厚み4mm、長さ50mmの試験片を作成し、室温23℃下、クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定した。
引張り弾性率、引張り強度、引張り伸び:JIS K7161に準じた。具体的には、万能材料試験機(島津サイエンス株式会社製 オートグラフAGS-H)を使用した。室温にて、掴み部を含めた全長215mm、幅10mm、厚み4mmの寸法のダンベル試験片を、チャック間114mm、速度50mm/min.で引張試験し、得られた応力-歪線図から引っ張り強度、引っ張り弾性率、引っ張り伸びを求めた。
【0045】
参考例
発熱開始温度及び反応ピーク温度の測定に使用するエポキシ樹脂組成物は、以下に従い調製した。
YD-128(A)/ジシアンジアミド(B)/イミダゾール系硬化助剤(C)を、表1の配合(wt%)で加え混練して、エポキシ樹脂組成物とした。示差走査熱量測定装置にて10℃/分の昇温条件で測定を行った時の時間辺りの発熱量から外挿した発熱開始温度及び発熱ピーク温度の測定結果を合わせて表1に示す。
【0046】
【0047】
実施例1~4、比較例1
(1)エポキシ樹脂組成物の調製
(A)エポキシ樹脂、(B)ジシアンジアミド、(C)イミダゾール系硬化助剤および(D)コアシェルゴムを加えTHINKY PLANETARY VACUUM MIXER(株式会社シンキー社製)を用いて2000rpm、4.0mmhgの条件下で6分混練して、表2に示す組成(wt%)のエポキシ樹脂組成物を調製した。(B)ジシアンジアミドは、エポキシ樹脂の一部と予備混練したものを使用し、(D)コアシェルゴムもコアシェルポリマーの製造過程でエポキシ樹脂中に分散したマスターバッチを使用した。
【0048】
(2)試験片の作製
上記(1)で作製したエポキシ樹脂組成物を、80℃の温度に加熱して、モールドに注入し、50℃の温度のオーブンで3/分で150℃まで昇温後45分硬化して、厚さ4mmのエポキシ樹脂硬化物の板を作製した。次に、得られたエポキシ樹脂硬化物の板を切り出して試験分析に使用した。結果を表2に示す。
【0049】