(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】コンクリート壁の補強工法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20221118BHJP
【FI】
E04G23/02 E
(21)【出願番号】P 2018192670
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝識
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 輝勝
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-070016(JP,A)
【文献】特開2013-217141(JP,A)
【文献】特開平07-238690(JP,A)
【文献】特開2006-057289(JP,A)
【文献】特開2012-102492(JP,A)
【文献】特開2016-089528(JP,A)
【文献】特開2009-287327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート壁に補強用孔を削孔する削孔工程と、
充填材圧縮用ロッドと、前記充填材圧縮用ロッドの先端に設けられ前記充填材圧縮用ロッドよりも断面形状が大きくかつ前記補強用孔に挿入可能な大きさの定着部材とを有する補強部材を前記補強用孔に挿入する挿入工程と、
前記補強用孔に充填材を充填する充填工程と、
前記挿入工程、前記充填工程の後に、前記補強用孔に充填された充填材を圧縮する圧縮工程と、
を備えるコンクリート壁の補強工法であって、
前記充填工程の前に、前記定着部材を含む前記充填材圧縮用ロッドの先部を前記補強用孔の底部に前記充填材により回転不能に取り付ける取り付け工程を行な
い、
前記定着部材寄りの前記充填材圧縮用ロッドの先部に、前記充填材圧縮ロッド上で支持され前記補強用孔の内周面に対向する外周面と前記充填材圧縮ロッドの外周面に対向する内周面とを有する筒状部材が設けられている、
ことを特徴とするコンクリート壁の補強工法。
【請求項2】
前記補強用孔の底面に対向する前記定着部材の箇所に、前記充填材圧縮用ロッドと同軸上で前記充填材圧縮用ロッドから離れるにつれて前記定着部材の断面積を次第に減少させる突起が設けられている、
ことを特徴とする請求項1記載のコンクリート壁の補強工法。
【請求項3】
前記補強部材には、前記定着部材と反対側の充填材圧縮用ロッドの基端から前記定着部材にわたって貫通する充填材供給路が設けられ、
前記取り付け工程において前記充填材は、前記充填材供給路から前記補強用孔の底部に供給される、
ことを特徴とする請求項1
または2記載のコンクリート壁の補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート壁の補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からコンクリート構造物の耐震性を強化する各種の補強工法が提案されている。
例えば、コンクリート壁に補強用孔を削孔したのち、補強用孔に充填材を充填し、補強用孔に補強部材を挿入し、充填材を硬化させることにより、補強部材とコンクリート壁とを結合させ、コンクリート壁のせん断力を補強する工法が提案されている。
しかしながら、単に充填材を細長い補強用孔に充填するのでは、充填の際に充填材に混入した空気を抜くことが難しく、補強用孔に充填された充填材には部分的に隙間が生じる場合がある。
補強用孔に充填された充填材に隙間が生じた状態で硬化すると、補強部材とコンクリート壁との結合強度が低下するため、コンクリート壁の補強強度を確保する上で改善の余地がある。
そこで、本出願人は、補強用孔への充填材の充填工程、補強用孔への補強部材の挿入工程の後に、前記補強用孔に充填された充填材を圧縮する圧縮工程を行なう工法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先の提案によれば、補強用孔に充填された充填材に部分的に生じていた隙間が閉塞され、充填材の充填率が高められ、コンクリート壁の補強強度を確保する上で有利となる。
一方、充填材に部分的に生じていた隙間を閉塞する作業は、回転板を回すことでなされ、この作業は充填材の半乾きの状態で行なわれる。
そのため、回転板の回転に伴って補強部材が多少回転し、充填材を効果的に圧縮する上で不利があった。
また、先の出願によれば、補強部材の回転を阻止する補強用孔の構造も開示されているものの、このような構造の補強用孔を削孔するには特別の削孔機を使わなければならず、現場において簡単に削孔することができない。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、補強用孔に充填した充填材を確実に圧縮でき、補強部材とコンクリート壁との結合強度を向上させ、コンクリート壁の補強強度を確保する上で有利なコンクリート壁の補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明は、コンクリート壁に補強用孔を削孔する削孔工程と、充填材圧縮用ロッドと、前記充填材圧縮用ロッドの先端に設けられ前記充填材圧縮用ロッドよりも断面形状が大きくかつ前記補強用孔に挿入可能な大きさの定着部材とを有する補強部材を前記補強用孔に挿入する挿入工程と、前記補強用孔に充填材を充填する充填工程と、前記挿入工程、前記充填工程の後に、前記補強用孔に充填された充填材を圧縮する圧縮工程と、を備えるコンクリート壁の補強工法であって、前記充填工程の前に、前記定着部材を含む前記充填材圧縮用ロッドの先部を前記補強用孔の底部に前記充填材により回転不能に取り付ける取り付け工程を行ない、前記定着部材寄りの前記充填材圧縮用ロッドの先部に、前記充填材圧縮ロッド上で支持され前記補強用孔の内周面に対向する外周面と前記充填材圧縮ロッドの外周面に対向する内周面とを有する筒状部材が設けられている特徴とする。
本発明は、前記補強用孔の底面に対向する前記定着部材の箇所に、前記充填材圧縮用ロッドと同軸上で前記充填材圧縮用ロッドから離れるにつれて前記定着部材の断面積を次第に減少させる突起が設けられていることを特徴とする。
本発明は、前記補強部材には、前記定着部材と反対側の充填材圧縮用ロッドの基端から前記定着部材にわたって貫通する充填材供給路が設けられ、前記取り付け工程において前記充填材は、前記充填材供給路から前記補強用孔の底部に供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、圧縮用回転部材の回転に伴って充填材圧縮用ロッドが回転しようとしても、充填材により定着部材を含む充填材圧縮用ロッドの先部が補強用孔の底部に回転不能に取り付けられているので、圧縮用回転部材の回転に伴う補強部材の回転が阻止され、圧縮用回転部材を確実に補強用孔の底部側に移動させることができ、補強用孔に充填した充填材を確実に圧縮することができる。
そのため、充填材が圧縮され空気溜まりの空気や充填材の内部に残る空気が抜けて充填材に部分的に生じていた隙間が解消され、充填材の充填率が高まり、補強用孔に充填された充填材の強度を高めて密実なものとすることができ、その結果、補強部材とコンクリート壁との結合強度を向上させ、コンクリート壁の補強強度を確保する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施の形態に係るコンクリート壁の補強工法で使用される補強部材の側面図である。
【
図2】第1の実施の形態に係るコンクリート壁の補強工法の説明図であり、(A)はコンクリート壁に補強用孔を削孔した状態を示す断面図、(B)は定着部材を含む充填材圧縮用ロッドの先部を補強用孔の底面に押し付けた状態を示す断面図、(C)は先部取り付け用充填材により定着部材を含む充填材圧縮用ロッドの先部を補強用孔の底部に取り付けた状態を示す断面図、(D)は補強部材取り付け用充填材を補強用孔に充填した状態を示す断面図である。
【
図3】第1の実施の形態に係るコンクリート壁の補強工法の説明図であり、(A)は予め先部取り付け用充填材を補強用孔の底部に充填した状態を示す断面図、(B)は先部取り付け用充填材内に定着部材を含む充填材圧縮用ロッドの先部を押し込んだ状態を示す断面図である。
【
図4】第1の実施の形態に係るコンクリート壁の補強工法の説明図であり、(A)は雌ねじと雄ねじを螺合し圧縮用回転部材により補強用孔を閉塞した状態を示す断面図、(B)は補強用孔に充填された補強部材取り付け用充填材を圧縮した状態を示す断面図、(C)は圧縮用回転部材の手前側に生じた空間に修復剤を充填した状態を示す断面図である。
【
図5】充填材圧縮用ロッドの基部に圧縮用回転部材が取り付けられた状態を示す断面図である。
【
図6】第2の実施の形態に係るコンクリート壁の補強工法で使用される補強部材のうち定着部材周辺を拡大した側面図である。
【
図7】(A)は第3の実施の形態に係るコンクリート壁の補強工法で使用される補強部材のうち定着部材周辺を拡大した側面図、(B)は(A)のB-B線断面図である。
【
図8】(A)は第4の実施の形態に係るコンクリート壁の補強工法で使用される補強部材のうち定着部材周辺を拡大した側面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(B)のC-C線断面図である。
【
図9】第5の実施の形態に係るコンクリート壁の補強工法で使用される補強部材の断面図である。
【
図10】第5の実施の形態に係るコンクリート壁の補強工法の説明図であり、(A)はコンクリート壁に補強用孔を削孔した状態を示す断面図、(B)は補強用孔に挿入した定着部材を含む充填材圧縮用ロッドの先部を補強用孔の底面に押し付けた状態を示す断面図、(C)は充填材により定着部材を補強用孔の底部に取り付けた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態のコンクリート壁の補強工法を図面にしたがって説明する。
まず、補強工法に用いる補強部材から説明する。
図1に示すように、補強部材12は、後述するコンクリート壁10の補強用孔14(
図2~
図4参照)に挿入され補強用孔14に充填された充填材16と共にコンクリート壁10を補強するものである。
補強部材12は、充填材圧縮用ロッド18と、定着部材20と、圧縮用回転部材22(
図5参照)とを含んで構成されている。
【0009】
充填材圧縮用ロッド18は、補強用孔14に挿入される先部1802とその反対の基部1804とを有し、基部1804に雄ねじ1806が形成されている。
充填材圧縮用ロッド18は、充填材16と共にコンクリート壁10の補強強度を確保するに足る剛性を有する材料で形成され、このような材料として例えば、鋼材や繊維強化樹脂などの従来公知の様々な材料が採用可能である。
本実施の形態では、充填材圧縮用ロッド18として、予め全長にわたって雄ねじ1806が形成されたねじ節鉄筋を用いている。
なお、本実施の形態では、補強すべきコンクリート壁10の厚さは、例えば、100cm程度であり、補強用孔14の内径は5cm程度、深さは90cm程度、充填材圧縮用ロッド18の直径は1cm~2cm程度、補強部材12の全長は85cm程度である。これらの寸法は、補強すべきコンクリート壁10の厚さに対応して適宜変更される。
【0010】
図1、
図2(A)~(D)に示すように、定着部材20は、充填材圧縮用ロッド18の先端に取着され、充填材16に埋設されることで補強用孔14の底部14Bに定着する箇所である。
定着部材20は充填材圧縮用ロッド18の断面形状よりも大きく、かつ、補強用孔14に挿入可能な断面形状を有している。
本実施の形態では、定着部材20は円板状を呈しており、定着部材20と充填材圧縮用ロッド18は同軸上に位置している。
定着部材20は、充填材圧縮用ロッド18と反対側の面が補強用孔14の底面1402に対向する先端面2002となっている。
【0011】
図5に示すように、圧縮用回転部材22は、補強用孔14の内周面1404にその外周部が近接する程度の外径を有しその中心に雄ねじ1806に螺合する雌ねじ2602が貫通形成されている。
本実施の形態では、圧縮用回転部材22は、補強用孔14に挿入可能で補強用孔14をほぼ閉塞する大きさの外径を有しその中心に補強部材挿通孔2402が形成された閉塞板部24と、閉塞板部24と同軸上に配置され雄ねじ1806に螺合可能な雌ねじ2602を有するナット部26との切り離された2つの部材で構成されている。
なお、このような圧縮用回転部材22の構成は上述の構造に限定されず、従来公知の様々な構造が採用可能である。
【0012】
閉塞板部24は、硬化していない段階の可塑性を有する軟らかい充填材16を圧縮するに足る剛性を有するものであればよく、圧縮用回転部材22を構成する材料として、合成樹脂、ゴム、鉄鋼などの従来公知の様々な材料が使用可能である。
このように圧縮用回転部材22が切り離された2つの部材で構成されている場合、後述する圧縮工程において、閉塞板部24の補強部材挿通孔2402に補強部材12が挿通され、ナット部26は閉塞板部24の補強用孔14の開口14A側に配置されて雌ねじ2602が雄ねじ1806に螺合され、ナット部26を回転させることで、閉塞板部24は補強部材12の軸方向に沿って補強用孔14の底部14B側に移動する。
【0013】
次に、第1の実施の形態に係るコンクリート壁の補強工法について説明する。
なお、本実施の形態では、コンクリート壁10が、地中に埋設されることにより鉄道用の地下トンネルを構成するボックスカルバートの側壁10である場合について説明する。
なお、本発明は、掘割道路、擁壁や橋梁アバット、橋脚などの従来公知の様々なコンクリート構造物を構成する側壁や底壁、天井壁などの壁部に適用可能である。
【0014】
まず、
図2(A)に示すように、穿孔装置を用いてボックスカルバートの側壁10の外側面1002から側壁10に厚さ方向に延在する補強用孔14を、側壁10の延在方向や高さ方向に間隔をおいて複数削孔する(削孔工程)。
補強用孔14の長さは、補強部材12の全長よりも若干大きい寸法とされる。
穿孔装置としては、ドリル装置、コアボーリング装置、ウォータジェット穿孔装置など従来公知の様々な装置が使用可能である。
【0015】
側壁10に補強用孔14が削孔されたならば、補強用孔14の内部を水によって洗浄し、削孔によって発生したコンクリート片や粉塵を補強用孔14の内部から除去する(洗浄工程)。
次に、
図2(B)に示すように、補強部材12を充填材圧縮用ロッド18の先部1802、すなわち、定着部材20から各補強用孔14に挿入し、定着部材20を補強用孔14の底部14Bの底面1402に当接させ、不図示の治具を用いて底部14Bの底面1402に押し付けた状態とする(挿入工程)。
次に、
図2(C)に示すように、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802のみを補強用孔14の底部14Bに取り付けるに足る所定量の充填材16を、補強用孔14の底部14Bに充填する。
充填材16としては、コンクリート、モルタル、あるいは、接着剤が使用可能である。
この充填材16は、従来の補強用孔の全域に充填する充填材と同一材料であるが、後述する補強部材取り付け用充填材16Bに比べ水分を少なくあるいはセメントを多くするなどして粘性を高くした状態で使用する。
なお、説明の便宜上、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部を補強用孔14の底部14Bに取り付けるに足る所定量の充填材16を、先部取り付け用充填材16Aという。
先部取り付け用充填材16Aの底部14Bへの充填は、例えば、充填材供給管を補強用孔14に挿入し、補強用孔14の底部14Bに先部取り付け用充填材16Aを供給することで行なう。
【0016】
これにより、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802が先部取り付け用充填材16Aに埋設される。
すなわち、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部の外周面1810と補強用孔14の内周面1404との間に先部取り付け用充填材16Aが充填される。
このように補強部材12を補強用孔14に対して押さえつけた状態で先部取り付け用充填材16Aが完全に硬化することで、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802が補強用孔14の底部14Bに回転不能に取り付けられる(取り付け工程)。
【0017】
なお、先部取り付け用充填材16Aの補強用孔14の底部14Bへの充填は、補強部材12を補強用孔14に挿入する前に行なってもよい。
すなわち、削孔工程の後、
図3(A)に示すように、先部取り付け用充填材16Aを補強用孔14の底部14Bへ充填したのち、
図3(B)に示すように、補強部材12を各補強用孔14に挿入し、定着部材20を底部14Aに充填されている先部取り付け用充填材16A内に押し込み、不図示の治具を用いて定着部材20を補強用孔14の底部14Bの底面1402に押し付けた状態とし、先部取り付け用充填材16Aを硬化させて、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802を補強用孔14の底部14Bに回転不能に取り付けるようにしてもよい(取り付け工程)。
【0018】
次に、
図2(D)に示すように、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802が補強用孔14の底部14Bに回転不能に取り付けられて補強部材12が挿入された補強用孔14に、補強部材12と側壁10とを一体的に結合する充填材16を充填する(充填工程)。
ここで、説明の便宜上、このように先部取り付け用充填材16Aの後に充填する充填材16を補強部材取り付け用充填材16Bといい、その材料は先部取り付け用充填材16Aと同様であるが、従来の補強用孔の全域に充填する充填材と同様な粘性にして用いる。
これにより、補強部材12は、充填材圧縮用ロッド18の基部1804を除いて先部取り付け用充填材16Aおよび補強部材取り付け用充填材16Bによって埋設される。
すなわち、充填材16は、定着部材20の周囲および充填材圧縮用ロッド18の外周面1810と補強用孔14の内周面1404との間に充填される。
【0019】
次に、補強部材取り付け用充填材16Bが完全に硬化する前の未硬化の状態、すなわち、補強部材取り付け用充填材16Bが半乾きの状態となったならば、
図4(A)に示すように、補強用孔14の開口14A側で補強用孔14の内部に位置させて圧縮用回転部材22を充填材圧縮用ロッド18の基部1804に取り付ける。
すなわち、閉塞板部24の補強部材挿通孔2402に充填材圧縮用ロッド18を挿通し、次いで、ナット部26の雌ねじ2602を充填材圧縮用ロッド18の雄ねじ1806に螺合させる。
ナット部26の雌ねじ2602と雄ねじ1806を螺合することで閉塞板部24により補強用孔14が閉塞され、次に、
図4(B)に示すように、ナット部26を回転させることで閉塞板部24を充填材圧縮用ロッド18の軸方向で補強用孔14の底部14B側に移動させ、補強部材取り付け用充填材16Bを圧縮する(圧縮工程)。
これにより、補強用孔14の上部に形成された空気溜まりや補強部材取り付け用充填材16Bの内部の空気が補強用孔14から排出され、補強用孔14内で補強部材取り付け用充填材16Bが密に圧縮される。
【0020】
圧縮工程において圧縮用回転部材22の移動に伴い補強部材12が補強用孔14から出る方向に変位すると、補強部材取り付け用充填材16Bに対して作用する圧力が低下してしまう。
したがって、上述の不図示の治具を用いて圧縮工程において補強部材12を補強用孔14に対して押さえつけておき、これにより、圧縮用回転部材22の充填材圧縮用ロッド18の軸方向に沿った移動により補強部材取り付け用充填材16Bに対して圧力を確実に加えることができる。
【0021】
また、ナット部26の回転の際に補強部材12がナット部26と一体に回転すると、閉塞板部24を補強用孔14の底部14B側に移動させることができず、補強部材取り付け用充填材16Bを確実に圧縮できなくなる。
本実施の形態では、圧縮用回転部材22の回転に伴って充填材圧縮用ロッド18が回転しようとしても、先部取り付け用充填材16Aにより定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802が補強用孔14の底部14Bに回転不能に取り付けられているので、圧縮用回転部材22の回転に伴う補強部材12の回転が阻止され、圧縮用回転部材22を確実に補強用孔14の底部14B側に移動させることができ、補強用孔14に充填した補強部材取り付け用充填材16Bを確実に圧縮することができる。
【0022】
圧縮工程後、開口14A側で補強用孔14の内部に充填材圧縮用ロッド18の基部1804および圧縮用回転部材22が露出した状態となっている。
そこで、開口14A側の補強用孔14の内部に、
図4(C)に示すように、修復材28を充填することで充填材圧縮用ロッド18の基部1804および補強部材12を埋設する(修復工程)。
このように修復材28で充填材圧縮用ロッド18の基部1804および圧縮用回転部材22を埋設すると、充填材圧縮用ロッド18の基部1804および圧縮用回転部材22の劣化や腐食の防止を図る上で有利となる。
また、側壁10の外側面1002の補強用孔14が埋設され平坦面とされることで、外側面1002の美観の向上を図る上で有利となる。
修復材28としては、エポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂は防水性に優れているため、補強部材12を構成する充填材圧縮用ロッド18の腐食、劣化を防止する上で有利となる。
また、修復材28として、コンクリートやモルタルを用いても良い。コンクリートやモルタルは耐熱性、耐火性に優れているため、火災が想定される環境下において耐久性を確保する上で有利となる。
【0023】
以上説明したように、本実施の形態によれば、圧縮用回転部材22の回転に伴って充填材圧縮用ロッド18が回転しようとしても、先部取り付け用充填材16Aにより定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802が補強用孔14の底部14Bに回転不能に取り付けられているので、圧縮用回転部材22の回転に伴う補強部材12の回転が阻止され、圧縮用回転部材22を確実に補強用孔14の底部14B側に移動させることができ、補強用孔14に充填した補強部材取り付け用充填材16Bを確実に圧縮することができる。
そのため、補強部材取り付け用充填材16Bが圧縮され空気溜まりの空気や補強部材取り付け用充填材16Bの内部に残る空気が抜けて補強部材取り付け用充填材16Bに部分的に生じていた隙間が解消され、補強部材取り付け用充填材16Bの充填率が高まり、補強用孔14に充填された補強部材取り付け用充填材16Bの強度を高めて密実なものとすることができ、その結果、補強部材12と側壁10との結合強度を向上させ、側壁10の補強強度を確保する上で有利となる。
また、以上の効果を、従来使用している充填材16を用いた取り付け工程を加えることにより簡単に達成できる。
【0024】
(第2の実施の形態)
次に、
図6を参照して第2の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態では、第1の実施の形態と同様の部分、部材については第1の実施の形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
第1の実施の形態では、補強用孔14の底面1402に対向する定着部材20の箇所が平坦な先端面2002で形成されていたのに対し、第2の実施の形態では、補強用孔14の底面1402に対向する定着部材20の箇所に突起30が設けられている。
突起30は、充填材圧縮用ロッド18と同軸上で充填材圧縮用ロッド18から離れるにつれて定着部材20の断面積を次第に減少させる形状で形成されている。
本実施の形態では、突起30は円錐形状や角錐形状を呈している。
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果が奏される他、以下の効果が奏される。
定着部材20に突起30が設けられため、定着部材20の表面積が増大する。
この定着部材20の表面積の増大により、先部取り付け用充填材20Aの硬化後の先部取り付け用充填材20Aと定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802との接合強度を高める上で有利となる。
したがって、圧縮用回転部材22の回転に伴う補強部材12の回転を阻止し、補強用孔14に充填した補強部材取り付け用充填材16Bを確実に圧縮する上で有利となり、補強部材12と側壁10との結合強度を向上させ、側壁10の補強強度を確保する上でより有利となる。
また、上述した
図3(A)、(B)の場合のように、先部取り付け用充填材16Aを補強用孔14に充填後、補強用孔14に補強部材12を挿入する場合、定着部材20に設けられた突起30により定着部材20を先部取り付け用充填材16Aに円滑に埋め込むことができ、補強部材12を補強用孔14に挿入する際の作業性の向上を図る上で有利となる。
【0025】
(第3の実施の形態)
次に、
図7(A)、(B)を参照して第3の実施の形態について説明する。
第3の実施の形態は、第1の実施の形態の変形例であり、定着部材20寄りの充填材圧縮用ロッド18の先部1802に複数の羽根板32が突設されている。
複数の羽根板32は、定着部材20から離れた箇所で、充填材圧縮用ロッド18の外周面1810に間隔をおいて充填材圧縮用ロッド18の長手方向に延在している。
第3の実施の形態では、羽根板32は、充填材圧縮用ロッド18の周方向に90度の間隔をおいて4枚設けられている。
第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果が奏される他、以下の効果が奏される。
定着部材20寄りの充填材圧縮用ロッド18の先部1802に複数の羽根板32が設けられることで、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802の表面積が増大する。
この定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802の表面積の増大により、先部取り付け用充填材20Aの硬化後の先部取り付け用充填材20Aと定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802との接合強度を高める上で有利となる。
したがって、圧縮用回転部材22の回転に伴う補強部材12の回転を阻止し、補強用孔14に充填した補強部材取り付け用充填材16Bを確実に圧縮する上で有利となり、補強部材12と側壁10との結合強度を向上させ、側壁10の補強強度を確保する上でより有利となる。
【0026】
(第4の実施の形態)
次に、
図8(A)~(C)を参照して第5の実施の形態について説明する。
第5の実施の形態は、第1の実施の形態の変形例であり、定着部材20寄りの充填材圧縮用ロッド18の先部1802に、筒状部材34が設けられている。
筒状部材34は、定着部材20から離れた充填材圧縮用ロッド18の箇所で支持部材36を介して支持され、筒状部材34は、補強用孔14の内周面1404に対向する外周面3402と充填材圧縮用ロッド18の外周面1810に対向する内周面3404とを有している。
本実施の形態では、筒状部材34は円筒状を呈する円筒面部34Aで構成され、したがって、筒状部材34の外周面3402と内周面3404は共に円筒面状を呈している。
支持部材36は、筒状部材34を充填材圧縮用ロッド18上で支持するものである。
本実施の形態では、支持部材36は、充填材圧縮用ロッド18の外周面1810と筒状部材34の内周面3404を接続する複数(4つ)のステー3602で構成されている。
複数のステー3602は、充填材圧縮用ロッド18の軸心方向から見て周方向に90度の間隔をおいて設けられ、それらステー3602は、充填材圧縮用ロッド18の半径方向に延在している。
複数のステー3602により筒状部材34は、充填材圧縮用ロッド18と同軸上に配置されている。
【0027】
第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果が奏される他、以下の効果が奏される。
定着部材20寄りの充填材圧縮用ロッド18の先部1802に筒状部材34が設けられることで、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802の表面積が増大する。
この定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802の表面積の増大により、先部取り付け用充填材20Aの硬化後の先部取り付け用充填材16Aと定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802との接合強度を高める上で有利となる。
したがって、圧縮用回転部材22の回転に伴う補強部材12の回転を阻止し、補強用孔14に充填した補強部材取り付け用充填材16Bを確実に圧縮する上で有利となり、補強部材12と側壁10との結合強度を向上させ、側壁10の補強強度を確保する上でより有利となる。
【0028】
(第5の実施の形態)
次に、
図9、
図10(A)~(C)を参照して第5の実施の形態について説明する。
第5の実施の形態は、第1の実施の形態に充填材供給路38を設けたものである。
充填材供給路38は、定着部材20と反対側の充填材圧縮用ロッド18の基端から定着部材20の先端面2002に貫通している。
なお、この第5の実施の形態の充填材供給路38は第1~第4の実施の形態の全てに適用可能である。
【0029】
第5の実施の形態では、先部取り付け用充填材16Aは、挿入工程後で充填工程の前に充填材供給路38から先端面2002に供給される。
すなわち、
図10(A)に示すように、側壁10に補強用孔14が削孔され、補強用孔14の内部が水によって洗浄されたならば、
図10(B)に示すように補強部材12を充填材圧縮用ロッド18の先部1802、すなわち、定着部材20から各補強用孔14に挿入し、不図示の治具を用いて定着部材20を補強用孔14の底面1402に押し付けた状態とする(挿入工程)。
次に、
図10(C)に示すように、充填材供給路38から先部取り付け用充填材16Aを定着部材20の先端面2002に供給する。
これにより、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802が先部取り付け用充填材16Aに埋設される。
すなわち、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の外周面1810と補強用孔14の内周面1404との間に先部取り付け用充填材16Aが充填される。
このように補強部材12を補強用孔14に対して押さえつけた状態で先部取り付け用充填材16Aが完全に硬化することで、定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の先部1802が補強用孔14の底部14Bに回転不能に取り付けられる(取り付け工程)。
先部取り付け用充填材16Aの硬化後は、第1の実施の形態と同様であり、充填工程、圧縮工程、修復工程が行なわれる。
第5の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な効果が奏される他、先部取り付け用充填材16Aの定着部材20を含む充填材圧縮用ロッド18の外周面1810と補強用孔14の内周面1404との間への充填を簡単に確実に行なえ、取り付け工程を簡易迅速に行なう上で有利となる。
【符号の説明】
【0030】
10 コンクリート壁(側壁)
12 補強部材
14 補強用孔
14A 開口
14B 底部
1402 底面
1404 内周面
16 充填材
16A 先部取り付け用充填座
16B 補強部材取り付け用充填材
18 充填材圧縮用ロッド
1802 先部
1810 外周面
20 定着部材
30 突起
32 羽根板
34 筒状部材
3402 外周面
3404 内周面
38 充填材供給路