(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】回転機械の翼の制振装置及びこれを備えた回転機械
(51)【国際特許分類】
F01D 25/06 20060101AFI20221118BHJP
F01D 5/16 20060101ALI20221118BHJP
F04D 29/34 20060101ALI20221118BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
F01D25/06
F01D5/16
F04D29/34 F
F04D29/66 M
(21)【出願番号】P 2018206239
(22)【出願日】2018-11-01
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 敏生
(72)【発明者】
【氏名】秋元 健太郎
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016204255(DE,A1)
【文献】特開2015-148284(JP,A)
【文献】特開2015-148287(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01980715(EP,A1)
【文献】特開2001-082544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0146041(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0138401(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0067487(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0314397(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0010462(US,A1)
【文献】仏国特許出願公開第03058767(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/06
F16F 15/14
F16F 15/16
F01D 5/16
F04D 29/34
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の翼の制振装置であって、
前記翼のプラットフォームの下方に形成された空洞に収容可能、かつ、前記翼に対して着脱可能に構成された1以上の筐体と、
前記筐体の内部に形成される制振空間に設けられた減衰材と、
を備え
、
前記筐体は、前記制振空間から独立して前記筐体内に形成された空間を含み、
前記減衰材は、前記筐体内のうち前記制振空間に選択的に設けられた
制振装置。
【請求項2】
前記筐体は、
前記減衰材よりも密度が大きい材料からなり、かつ、前記筐体に着脱可能に構成された重量部材をさらに備える
請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
回転機械の翼の制振装置であって、
前記翼のプラットフォームの下方に形成された空洞に収容可能、かつ、前記翼に対して着脱可能に構成された1以上の筐体と、
前記筐体の内部に形成される制振空間に設けられた減衰材と、
を備え、
前記筐体は、
前記減衰材よりも密度が大きい材料からなり、かつ、前記筐体に着脱可能に構成された重量部材をさらに備える
制振装置。
【請求項4】
前記筐体は、前記翼のコード方向に沿って延在するように構成され、
前記制振空間は、前記筐体の内部空間のうち前記翼の前縁側の領域又は後縁側の領域の少なくとも一方に形成される
請求項1乃至3の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項5】
前記制振空間は、
前記プラットフォームの下方の前記空洞のうち、前記翼の高さ方向において、前記プラットフォーム寄りに設けられる
請求項1乃至4の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項6】
前記筐体は、前記翼の厚さ方向において、前記翼の翼型部に対して前記翼の負圧面側又は圧力面側にずれた位置に設けられる
請求項1乃至5の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項7】
前記翼の厚さ方向において前記翼の翼型部を挟んで前記翼の負圧面側と圧力面側とにそれぞれ一対の前記筐体が設けられる
請求項6に記載の制振装置。
【請求項8】
前記制振空間は、前記翼の前縁又は後縁のうち少なくとも一方のエッジに対して下記条件(a)又は(b)の何れかを満たす。
(a)前記翼のコード方向において、前記制振空間が前記エッジにオーバラップしている
(b)前記コード方向において、前記エッジに対する前記制振空間のずれ量の前記翼のコード長に対する割合が0.1以下である
請求項1乃至7の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項9】
前記筐体は、前記制振空間内に設けられる少なくとも一つの壁部材を含み、
各々の前記壁部材は、前記制振空間を、該壁部材を挟んで対向して互いに連通する一対の領域を含む複数の領域に区分けするとともに、
前記減衰材は、前記一対の領域間で移動可能に構成される
請求項1乃至8の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項10】
前記制振空間内において、前記少なくとも一つの壁部材と、前記制振空間を画定する前記筐体の内壁面との間の距離が最小となる最小間隙部が、前記翼の厚さ方向において前記筐体の中央位置よりも前記翼の翼型部から離れた位置に形成される
請求項9に記載の制振装置。
【請求項11】
前記制振空間内において、前記少なくとも一つの壁部材と、前記制振空間を画定する前記筐体の内壁面との間の距離が最小となる最小間隙部が形成され、
前記壁部材は、前記最小間隙部から離れるにつれて前記内壁面との間の距離が拡大するように前記内壁面に対して傾斜した傾斜面を有する
請求項9又は10に記載の制振装置。
【請求項12】
前記壁部材は、
前記翼のコード方向に沿って延在する軸方向壁部と、
前記翼の厚さ方向に沿って延在する周方向壁部と、
を含む請求項9乃至11の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項13】
前記壁部材は、
前記壁部材で区分けされた前記一対の領域を互いに連通させる複数の穴を含む
請求項9乃至12の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項14】
プラットフォームおよび該プラットフォームに立設された翼型部を含む翼と、
前記プラットフォームの下方において前記翼に取り付けられた、請求項1乃至13の何れか一項に記載の制振装置と、
を備える回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機械の翼の制振装置及びこれを備えた回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回転機械(例えば航空エンジンやガスタービン等)の回転に伴う翼の振動の抑制が求められている。
【0003】
例えば特許文献1に記載の部品では、ガスタービンの翼に振動ダンパを封入した空洞を組み込むことで、翼の振動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の部品のように、回転機械の翼に形成された空洞に振動ダンパを封入する場合には翼が肉厚となるため、コンパクト化が求められる回転機械への適用が難しいことがある。また、翼の空洞に封入された振動ダンパは、劣化しても、容易に交換できない虞があった。
【0006】
よって、本発明の幾つかの実施形態は、上記の事情に鑑みて、省スペースかつ交換容易な回転機械の翼の制振装置及びこれを備えた回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る制振装置は、
回転機械の翼の制振装置であって、
前記翼のプラットフォームの下方に形成された空洞に収容可能、かつ、前記翼に対して着脱可能に構成された1以上の筐体と、
前記筐体の内部に形成される制振空間に設けられた減衰材と、
を備える。
【0008】
上記(1)の構成によれば、スペースを確保しやすい翼のプラットフォームの下方に制振装置を設置可能となり、省スペース化を実現できる。
また、制振装置が回転機械からの熱等により劣化しても、翼のプラットフォームの下方に形成された空洞に設置された筐体ごと取り換え可能であるため、交換容易である。
こうして、上記(1)の構成により、省スペースかつ交換容易な回転機械の翼の制振装置を提供することができる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記筐体は、前記制振空間から独立して前記筐体内に形成された空間を含み、
前記減衰材は、前記筐体内のうち前記制振空間に選択的に設けられる。
【0010】
上記(2)の構成によれば、制振装置の筐体内に、減衰材が設けられない空間を含むので、制振装置を軽量化することができる。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の構成において、
前記筐体は、
前記減衰材よりも密度が大きい材料からなり、かつ、前記筐体に着脱可能に構成された重量部材をさらに備える。
【0012】
上記(3)の構成によれば、重量部材が筐体に着脱可能に構成されているため、回転機械の各々の翼の固有振動数を重量部材の変更によって調整することで(所謂、ミスチューニング)、フラッタを抑制できる。
こうして、上記(3)の構成により、減衰材による翼の振動の減衰効果に加えて、重量部材を用いたミスチューニングによるフラッタ抑制効果をも享受することができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れか一つに記載の構成において、
前記筐体は、前記翼のコード方向に沿って延在するように構成され、
前記制振空間は、前記筐体の内部空間のうち前記翼の前縁側の領域又は後縁側の領域の少なくとも一方に形成される。
【0014】
上記(4)の構成によれば、プラットフォームのうち翼厚さ方向において翼型部の前縁及び後縁を挟んで両側に位置する領域といった振幅が大きい領域に制振空間を設置できるため、より効果的に翼の振動を抑制できる。
【0015】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか一つに記載の構成において、
前記制振空間は、
前記プラットフォームの下方の前記空洞のうち、前記翼の高さ方向において、前記プラットフォーム寄りに設けられる。
【0016】
上記(5)の構成によれば、制振空間を、より振幅の大きいプラットフォーム寄りに設置できるため、より一層効果的に翼の振動を抑制できる。
【0017】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れか一つに記載の構成において、
前記筐体は、前記翼の厚さ方向において、前記翼の翼型部に対して前記翼の負圧面側又は圧力面側にずれた位置に設けられる。
【0018】
上記(6)の構成によれば、振幅が比較的大きい翼型部から翼の厚さ方向に離れた位置に制振空間が設けられることになり、減衰材による制振効果を高めることができる。
また、上記(6)の構成によれば、翼の翼型部に対してずれた位置に制振装置の筐体が設置されるため、筐体を収容するためにプラットフォームの下方に形成される空洞に起因した翼の強度低下を抑制できる。このため、遠心力に起因して翼に大きな荷重が作用しても、翼の損傷を回避することができる。このように、上記(6)の構成によれば、翼の強度を落とすことなく、翼の振動を抑制できる。
【0019】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)に記載の構成において、
前記翼の厚さ方向において前記翼の翼型部を挟んで前記翼の負圧面側と圧力面側とにそれぞれ一対の前記筐体が設けられる。
【0020】
上記(7)の構成によれば、翼の負圧面側と圧力面側の双方に制振装置を設置することができるため、より効果的に翼の振動を抑制できる。
【0021】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れか一つに記載の構成において、
前記制振空間は、前記翼の前縁又は後縁のうち少なくとも一方のエッジに対して下記条件(a)又は(b)の何れかを満たす。
(a)前記翼のコード方向において、前記制振空間が前記エッジにオーバラップしている
(b)前記コード方向において、前記エッジに対する前記制振空間のずれ量の前記翼のコード長に対する割合が0.1以下である。
【0022】
上記(8)の構成によれば、振幅が大きい翼のエッジ(前縁又は後縁)付近に制振空間を設置できるため、より効果的に翼の振動を抑制できる。
【0023】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れか一つに記載の構成において、
前記筐体は、前記制振空間内に設けられる少なくとも一つの壁部材を含み、
各々の前記壁部材は、前記制振空間を、該壁部材を挟んで対向して互いに連通する一対の領域を含む複数の領域に区分けするとともに、
前記減衰材は、前記一対の領域間で移動可能に構成される。
【0024】
上記(9)の構成によれば、制振空間のうち壁部材を挟んで対向する一対の領域は互いに連通しており、これら一対の領域間で減衰材が移動可能である。このため、一対の領域の一方側から他方側の領域へ減衰材が移動する際に、減衰材と、壁部材又は制振空間の内壁との間で摩擦が起き、翼の振動エネルギーを効果的に吸収できる。その結果、より一層効果的に翼の振動を抑制できる。
【0025】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)に記載の構成において、
前記制振空間内において、前記少なくとも一つの壁部材と、前記制振空間を画定する前記筐体の内壁面との間の距離が最小となる最小間隙部が、前記翼の厚さ方向において前記筐体の中央位置よりも前記翼の翼型部から離れた位置に形成される。
【0026】
上記(10)の構成によれば、翼厚さ方向において翼型部から比較的遠い位置に最小間隙部が位置することとなる。その結果、プラットフォームのうち振幅が大きい翼型部から離れた領域付近で減衰材と該最小間隙部を形成する壁部材及び制振空間の内壁との間で摩擦が起き、より効果的に翼の振動を抑制できる。
【0027】
(11)幾つかの実施形態では、上記(9)又は(10)に記載の構成において、
前記制振空間内において、前記少なくとも一つの壁部材と、前記制振空間を画定する前記筐体の内壁面との間の距離が最小となる最小間隙部が形成され、
前記壁部材は、前記最小間隙部から離れるにつれて前記内壁面との間の距離が拡大するように前記内壁面に対して傾斜した傾斜面を有する。
【0028】
上記(11)の構成によれば、壁部材を挟んで対向して互いに連通する一対の領域のうち一方の領域は、前述の傾斜面が設けられたことにより、容積が十分に確保される。このため、翼の振動に伴って、最小間隙部を通って傾斜面が存在する領域への減衰材の移動が阻害されにくくなる。その結果、より一層効果的に翼の振動の抑制が可能となる。
【0029】
(12)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(11)の何れか一つに記載の構成において、
前記壁部材は、
前記翼のコード方向に沿って延在する軸方向壁部と、
前記翼の厚さ方向に沿って延在する周方向壁部と、
を含む。
【0030】
上記(12)の構成によれば、翼の厚さ方向の振動を伴う振動モードと、コード方向の振動を伴う振動モードとを含む複数の振動モードへの対応が可能となる。
【0031】
(13)幾つかの実施形態では、上記(9)乃至(12)の何れか一つに記載の構成において、
前記壁部材は、
前記壁部材で区分けされた前記一対の領域を互いに連通させる複数の穴を含む。
【0032】
上記(13)の構成によれば、翼の振動に伴い、減衰材が複数の穴を介して、壁部材で区分けされた一対の領域間を移動することで、複数の穴と減衰材との摩擦により翼の振動エネルギーが吸収され、より一層効果的に翼の制振が可能となる。
【0033】
(14)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械は、
プラットフォームおよび該プラットフォームに立設された翼型部を含む翼と、
前記プラットフォームの下方において前記翼に取り付けられた、上記(1)乃至(13)の何れか一つに記載の制振装置と、
を備える。
【0034】
上記(14)の構成によれば、スペースを確保しやすい翼のプラットフォームの下方に制振装置を設置可能となり、省スペース化を実現できる。
また、制振装置が回転機械からの熱により劣化しても、翼のプラットフォームの下方に形成された空洞に設置された筐体ごと取り換え可能であるため、交換容易である。
こうして、上記(14)の構成により、省スペースかつ交換容易に翼の振動を抑制可能な回転機械を提供することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の幾つかの実施形態によれば、省スペースかつ交換容易な回転機械の翼の制振装置及びこれを備えた回転機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施形態に係る回転機械の構成を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る回転機械の翼の構成を示す概略構成図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る翼のA-A断面概略図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係る制振装置の平面視図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る制振装置の平面視図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係る制振装置の平面視図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係る制振装置の斜視図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る制振装置の平面視図である。
【
図9】本発明の他の実施形態に係る制振装置の平面視図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係る制振装置の平面視図である。
【
図11】本発明の他の実施形態に係る制振装置の平面視図である。
【
図12】本発明の他の実施形態に係る制振装置の平面視図である。
【
図13】本発明の他の実施形態に係る制振装置の平面視図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る壁部材の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
ただし、本発明の範囲は以下実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、本発明の範囲をそれにのみ限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0038】
図1は、本発明の一実施形態に係る回転機械の構成を示す概略構成図である。
【0039】
図1に示す回転機械300は、翼1と、翼1に取り付けられた制振装置100と、を備える。
図1に示す例では、制振装置100が取り付けられる翼1は、周方向に配列された複数の動翼であり、各々の動翼は、ロータディスク302の外周面から径方向外側に向かって延在する。より具体的には、各々の翼1(動翼)は、ロータディスク302の外周面に設けられた溝304に各々の翼1の翼根部3が嵌合されることでロータディスク302に取り付けられる。
なお、回転機械300は、任意の回転機械であってよく、例えば圧縮機であってもよいし、航空エンジン又はガスタービンであってもよい。例えば回転機械300が圧縮機である場合、翼1は圧縮機の回転軸に複数取り付けられ、回転軸を中心に回転することによって、外部から取り込んだ空気を圧縮する。一方、回転機械300が航空エンジン又はガスタービンであった場合、翼1は航空エンジン又はガスタービンの回転軸に複数取り付けられ、燃焼ガスによって駆動される。
【0040】
図2は、本発明の一実施形態に係る回転機械の翼の構成を示す概略構成図である。
図2に示すように、翼1は、翼根部3と、プラットフォーム50と、翼型部5と、シュラウド7と、を含む。
翼根部3は、例えば
図1に示すロータディスク302の溝304に篏合され、これにより翼1が回転軸に固定される。なお、翼根部3は、翼厚さ方向Tに突出する複数のリブ部3aを有していてもよい。
図2に示す一実施形態における翼1の翼根部3には、リブ部3aが6つ形成されている。
【0041】
プラットフォーム50は、翼根部3と一体的に構成されている。プラットフォーム50は、翼1のコード方向Cにおいて、翼根部3から前方および後方にそれぞれ突出する一対の突出部50aを有する。プラットフォーム50の下方には、空洞52が形成されている。
ここで、コード方向Cは、後述する基端部5aにおいて、後述する翼型部5の前縁5e及び後縁5fを結ぶコードに沿った方向である。
図2に示す例では、コード方向Cは、翼根部3の溝304への挿入方向と略一致する。また、翼根部3からみて「前方」とは、後述の翼型部5の後縁5fから前縁5eに向かう方向を指し、翼根部3からみて「後方」とは、前縁5eから後縁5fに向かう方向を指す。さらに、プラットフォーム50の下方とは、翼高さ方向Hにおいて、プラットフォーム50からみて翼根部3側を意味する。
【0042】
上記構成のプラットフォーム50には、翼型部5が立設される。
翼型部5は、負圧面(背面)5c及び圧力面(腹面)5dを有する。負圧面5cは、凸状湾曲面によって形成されていてもよい。他方、圧力面5dは、凹状湾曲面によって形成されていてもよい。負圧面5cおよび圧力面5dは、前縁5e及び後縁5fにおいて、互いに接続される。
翼型部5は、翼高さ方向Hにおいて、プラットフォーム50の翼根部3が設けられる面とは反対側の面に設けられて、プラットフォーム50を挟んで翼根部3とは反対側において翼高さ方向Hに沿って延在している。翼型部5は、プラットフォーム50に固定される基端部5aと、翼1の高さ方向Hにおいて基端部5aと反対側の端部に位置する先端部5bとを有する。翼型部5は、翼1の高さ方向Hに向かって基端部5aから離れるにつれて(即ち先端部5bに近づくにつれて)、捩られた形状を有していてもよい。
【0043】
シュラウド7は、翼型部5の先端部5bに固定されている。隣接する複数の翼1の、各々のシュラウド7は、互いに押圧しあうように設置されていてもよく、翼1の回転時に発生する振動を摩擦減衰している。
なお、シュラウド7を具備しない翼1についても、後述の制振装置100を適用可能である。
【0044】
これまで、翼1の全体構成について述べてきた。
以下、
図2を用いて、本発明の一実施形態にかかる翼1に設置される制振装置100の構成について説明する。
本発明の一実施形態に係る制振装置100は、上記構成の翼1のプラットフォーム50の下方に形成された空洞52に収容可能、かつ、翼1に対して着脱可能に構成された1以上の筐体102と、筐体102の内部に形成される制振空間150に設けられた減衰材と、を備える。
【0045】
図2に示すように、制振装置100のケーシングとしての筐体102は、プラットフォーム50の下方に形成された空洞52に収容できるように形成されている。さらに、筐体102は、空洞52から着脱可能である。
なお、筐体102は、空洞52の全部に設けられてもよいし、空洞52の一部に設けられてもよい。また、筐体102は、筐体102全体が空洞52に収まるように設けられてもよいし、一部が空洞52から飛び出るように設けられていてもよい。
また、一対の空洞52が、プラットフォーム50の下方において、翼根部3からみて負圧面5c側および圧力面5d側にそれぞれ設けられていてもよい。この場合、一対の筐体102が、負圧面5c側および圧力面5d側に設けられた一対の空洞52にそれぞれ収容されてもよい。
【0046】
上記実施形態によれば、筐体102の内部には、減衰材が設けられた制振空間150が形成されるので、翼1の振動を抑制可能である。なお、減衰材については、後で詳述するが、減衰材は、例えば制振空間150内を移動可能な粉体や液体等である。
また、スペースを確保しやすい翼1のプラットフォーム50の下方に制振装置100を設置可能となり、省スペース化を実現できる。
さらに、回転機械300の運転中に制振装置100が高温環境に曝される場合、制振装置100が熱等により劣化しても、翼1のプラットフォーム50の下方に形成された空洞52に設置された筐体102ごと着脱して取り換え可能であるため、交換容易である。
こうして、上記実施形態により、省スペースかつ交換容易な回転機械300の翼1の制振装置を提供することができる。
【0047】
上記構成の筐体102の内部に形成される制振空間150は、プラットフォーム50の下方の空洞52のうち、翼高さ方向Hにおいて、プラットフォーム50寄りに設けられていてもよい。
図2に示すように、幾つかの実施形態では、翼厚さ方向Tに視たときの制振空間150の図心Eが、空洞52のうち翼高さ方向Hにおける中央位置、又は筐体102のうち翼高さ方向Hにおける中央位置よりも上になるように、制振空間150が設けられている。
このように、制振空間150を翼1の翼高さ方向Hにおいてプラットフォーム50寄りに設けることで、制振空間150をより振幅の大きいプラットフォーム50寄りに設置できるため、より一層効果的に翼1の振動を抑制できる。
【0048】
図3は、本発明の一実施形態に係る翼1のA-A断面概略図である。
上述した筐体102は、翼厚さ方向Tにおいて翼1の翼型部5を挟んで翼1の負圧面5c側と圧力面5d側とにそれぞれ一対に設けられていてもよい。
幾つかの実施形態では、上述した制振装置100の筐体102は、プラットフォーム50の下方に、
図3に示すように、翼型部5を挟んで翼厚さ方向Tにおける両側に形成された、各々の空洞52に設けられる。即ち、負圧面5c側の筐体102aと、圧力面5d側の筐体102bの、一対の筐体102が、翼1に設けられている。
さらに、制振空間150が各々の筐体102に形成されており、負圧面5c側の筐体102aに形成された制振空間150aと、圧力面5d側の筐体102bに形成された制振空間150bとを含む一対の制振空間150が、制振装置100に設けられている。
このように、翼厚さ方向Tにおいて翼型部5を挟んで負圧面5c側および圧力面5d側の両方に筐体102を設けることで、より効果的に翼1の振動を抑制できる。
【0049】
さらに、上記構成の筐体102は、翼厚さ方向Tにおいて、翼1の翼型部5に対して翼1の負圧面5c側又は圧力面5d側にずれた位置に設けられていてもよい。
図3に示す例示的な実施形態では、空洞52に設けられた各々の筐体102と翼型部5とは、翼高さ方向Hに視た平面視において重なっていない。翼型部5の負圧面5c側の筐体102aの全体が翼1の負圧面5c側にずれて位置しており、翼型部5の圧力面5d側の筐体102bの全体が翼1の圧力面5d側にずれて位置している。
このように、筐体102が、翼型部5に対して翼1の負圧面5c側又は圧力面5d側にずれた位置に設けられることで、振幅が比較的大きい翼型部5から翼厚さ方向Tに離れた位置に制振空間150が設けられることになり、減衰材による制振効果を高めることができる。
また、翼1の翼型部5に対してずれた位置に制振装置100の筐体102が設置されるため、筐体102を収容するためにプラットフォーム50の下方に形成される空洞52に起因した翼1の強度低下を抑制できる。このため、遠心力に起因して翼1に大きな荷重が作用しても、翼1の損傷を回避することができる。このように、上記実施形態によれば、翼1の強度を落とすことなく、翼1の振動を抑制できる。
【0050】
また、上述した筐体102は、翼1のコード方向Cに沿って延在するように構成されていてもよい。制振空間150は、筐体102の内部空間のうち翼1の前縁5e側の領域又は後縁5f側の領域の少なくとも一方に形成されていてもよい。
図3に示す例では、各々の筐体102には、仕切り壁151によって互いに隔てられた一対の制振空間150が形成されており、一方の制振空間150が筐体102の内部空間のうち前縁5e側の領域に位置し、他方の制振空間150が筐体102の内部空間のうち後縁5f側の領域に位置する。他の実施形態では、筐体102の内部空間のうち前縁5e側の領域又は後縁5f側の領域のうち何れか一方にのみ、制振空間150が形成される。例えば、後述する
図9に示す例では、制振空間150が筐体102の内部空間のうち後縁5f側の領域に位置するように設けられているが、筐体102の内部空間のうち前縁5e側には制振空間150が設けられていない。
このように、筐体102の内部空間のうち前縁5e側の領域又は後縁5f側の領域に制振空間150が形成されることによって、プラットフォーム50のうち翼厚さ方向Tにおいて翼型部5の前縁5e及び後縁5fを挟んで両側に位置する領域といった振幅が大きい領域に制振空間150を設置できるため、より効果的に翼1の振動を抑制できる。
なお、
図3に示す制振装置100においては、翼型部5のコード長Lよりも、コード方向Cに沿った制振空間150の設置範囲の長さNの方が長く、制振空間150の設置範囲の両端は、コード方向Cにおいて、翼型部5の前縁5e及び後縁5fを越えて前方及び後方に延在している。それにより、プラットフォーム50のうち翼厚さ方向Tにおいて翼型部5の前縁5e及び後縁5fを挟んで両側に位置する4個の領域の各々に制振空間150が形成されている。
【0051】
さらに、上記構成の筐体102の内部に形成される制振空間150は、翼1の前縁5e又は後縁5fのうち少なくとも一方のエッジに対して下記(a)又は(b)の条件を満たしてもよい。
(a)コード方向Cにおいて、制振空間150が前記エッジにオーバラップしている。
(b)コード方向Cにおいて、前記エッジに対する制振空間150のずれ量のコード長Lに対する割合が0.1以下である。
図3に示す制振装置100においては、一対の制振空間150がそれぞれ、前縁5e及び後縁5fとオーバラップしている。さらに、前縁5eと、一方の制振空間150の前方側の端部との間のコード方向Cにおけるずれ量δが、翼1のコード長Lに対して、δ<0.1Lとなっている。
このように、翼1のエッジ(前縁5e又は後縁5f)付近といった振幅が大きい位置に、制振空間150が設けられることで、より効果的に翼1の振動を抑制できる。
【0052】
なお、負圧面5c側又は圧力面5d側に設けられた1以上の制振空間150のうち、少なくとも1つの制振空間150において、コード方向Cに沿った制振空間150の設置範囲の長さNが、翼型部5のコード長Lに対して0.9L<N<1.1Lの長さを有していてもよい。
【0053】
図4~
図6及び
図8~
図13は、本発明の一実施形態に係る制振装置100を、翼高さ方向Hから視た平面視図である。
図7は、本発明の一実施形態に係る制振装置100の斜視図である。
これまで、制振装置100の構成について述べてきた。
以下、
図4~
図13を用いて、制振装置100の筐体102内部の構成を説明する。なお、
図4~
図6及び
図8~
図13に図示した制振装置100において、紙面上側が翼厚さ方向Tにおいて翼1に近づく方向であり、紙面下側が翼厚さ方向Tにおいて翼1から離れる方向である。
図4~13に示すように、制振装置100の筐体102の内部には、制振空間150が形成されている。制振空間150の内部には、減衰材180が設けられている。
【0054】
さらに、
図4~
図6及び
図8~
図13に示すように、上述した筐体102は、制振空間150内に設けられる少なくとも一つの壁部材160を含み、各々の壁部材160は、制振空間150を、壁部材160を挟んで対向して互いに連通する一対の領域を含む複数の領域に区分けするとともに、減衰材180は、一対の領域間で移動可能に構成されてもよい。
このように、制振空間150のうち壁部材160を挟んで対向する一対の領域が互いに連通しており、減衰材180が、一対の領域の一方側から他方側の領域へ、連通している箇所を通って移動することで、減衰材180と、制振空間150を画定する筐体102の内壁又は壁部材160との間で摩擦が起き、翼1の振動エネルギーを効果的に吸収できる。その結果、より一層効果的に翼1の振動を抑制できる。
なお、壁部材160の、部材の長さや形状、設けられる数や、制振空間150内において設けられる場所等は特に限定されない。壁部材160は、制振空間150内で翼高さ方向Hに沿った一方側の端部及び他方側の端部の何れもが制振空間150の内壁面104と接続されていてもよく、翼高さ方向Hに沿った一方側の端部又は他方側の端部の少なくとも何れ一方が、少なくとも一部分において制振空間150の内壁面104から離間していてもよい。
【0055】
図4に示す実施形態では、制振装置100の筐体102の内部には、制振空間150が、仕切り壁151によって互いに隔てられるように翼1のコード方向Cに並んで2つ形成されており、各々の制振空間150に、1つの壁部材160と、減衰材180とが設けられている。各々の制振空間150において、壁部材160は、仕切り壁151からコード方向Cに沿って前方又は後方に延在している。各々の制振空間150は、壁部材160によって、翼厚さ方向Tにおいて壁部材160を挟んで一対の領域に区分けされる。壁部材160によって区分けされた一対の領域は、翼のコード方向Cにおいて制振空間150の前方又は後方の端部(即ち、各制振空間150のうち仕切り壁151とは反対側の端部)の近傍で連通する。減衰材180は、この連通した箇所において、制振空間150の内壁面104と、壁部材160の先端部との間を、矢印Aのように移動する。これにより、減衰材180と、壁部材160及び制振空間150の内壁面104との間で摩擦が起き、翼1の振動エネルギーを効果的に吸収できる。
【0056】
上述した壁部材160は、
図5に示すように、翼1のコード方向Cに沿って延在する軸方向壁部162と、翼厚さ方向Tに沿って延在する周方向壁部164と、を含んでいてもよい。
このように、壁部材160が、翼1のコード方向Cと、翼厚さ方向Tに沿って延在することで、翼厚さ方向Tの振動を伴う振動モードと、コード方向Cの振動を伴う振動モードとを含む複数の振動モードへの対応が可能となる。
【0057】
図5に示す実施形態では、制振装置100の筐体102の内部には、制振空間150が、仕切り壁151によって互いに隔てられるように翼1のコード方向Cに並んで2つ形成されており、各々の制振空間150に、2つの壁部材160と、減衰材180とが設けられている。前方の制振空間150においては、翼1のコード方向Cに沿って延在する軸方向壁部162が2つ設けられており、後方の制振空間150においては、軸方向壁部162が1つ及び翼厚さ方向Tに沿って延在する周方向壁部164が1つ設けられている。減衰材180は、壁部材160を挟んで対向して互いに連通する一対の領域を含む複数の領域を、連通した箇所を通って矢印Aのように移動する。これにより、減衰材180と、壁部材160及び筐体102の内壁面104との間で摩擦が起き、翼厚さ方向Tの振動を伴う振動モードと、コード方向Cの振動を伴う振動モードとの翼1の振動エネルギーを効果的に吸収できる。
【0058】
さらに、上記構成の筐体102は、
図6~
図10及び
図12~
図13に示すように、制振空間150から独立して形成された空間110を含み、減衰材180は、筐体102内のうち制振空間150に選択的に設けられていてもよい。
このように、筐体102内に、減衰材180が設けられない空間110を形成することで、制振装置100を軽量化することができる。
なお、筐体102内において、空間110の、設けられる位置や大きさ、数などは特に限定されない。
【0059】
図6~
図8、
図10、
図12及び
図13に示す実施形態では、コード方向Cにおいて、筐体102のうち前方側領域及び後方側領域にそれぞれ制振空間150が設けられており、この2つの制振空間150に挟まれるように空間110が設けられている。
【0060】
なお、
図7に示すように、幾つかの実施形態では、空間110は、制振装置100を翼厚さ方向Tに貫通して筐体102内に形成されていてもよい。また、他の実施形態では、空間110は、筐体102の何れかの外壁面に開口するように筐体102内に形成されていてもよいし、閉空間として筐体102内に形成されていてもよい。
【0061】
さらに、
図8~
図13に示すように、上記構成の筐体102の制振空間150内において、少なくとも一つの壁部材160と、制振空間150を画定する筐体102の内壁面104との間の距離が最小となる最小間隙部170が、翼厚さ方向Tにおいて筐体102の中央位置よりも翼1の翼型部5から離れた位置に形成されていてもよい。
このように、翼厚さ方向Tにおいて翼型部5から比較的遠い位置に最小間隙部170が位置することで、プラットフォーム50のうち振幅が大きい翼型部5から離れた領域付近で減衰材180と該最小間隙部170を形成する壁部材160、及び、筐体102の制振空間150の内壁面104との間で摩擦が起き、より効果的に翼1の振動を抑制できる。
【0062】
図8に示す実施形態では、コード方向Cにおいて、筐体102のうち前方側及び後方側にそれぞれ制振空間150が設けられており、各々の制振空間150に、3つの壁部材160と、減衰材180が設けられている。各々の制振空間150において、各々の壁部材160は、仕切り壁151から前方又は後方にコード方向Cに沿って延在している。各々の制振空間150に設けられた3つの壁部材160は、それぞれ長さが異なっており、最も長い壁部材160aが翼厚さ方向Tにおいて最も翼型部5から離れた側(即ち紙面下側)に設けられ、最も短い壁部材160cが翼厚さ方向Tにおいて最も翼型部5に近い側(即ち紙面上側)に設けられ、中間の長さの壁部材160bが、最も長い壁部材160aと最も短い壁部材160cの間の、翼厚さ方向
Tにおいて筐体102の中央領域に設けられる。即ち、3つの壁部材160は、翼厚さ方向Tにおいて翼型部5に近づくにつれ(即ち紙面上側にいくにつれて)、その長さが短くなっていく。よって、最も長い壁部材160aと、制振空間150の内壁面104との間に形成された最小間隙部170が、翼厚さ方向Tにおいて筐体102の中央位置よりも翼1の翼型部5から離れた位置に形成される。このように壁部材160の長さを調整して最小間隙部170を翼1の翼型部5から離れた位置に形成することで、最も振幅が大きい翼型部5から離れた側において摩擦を大きくすることが出来る。
なお、最小間隙部170は、筐体102の制振空間150内部において、翼1から離れた位置にあるほど、より効果的に翼1の振動を抑制できる。
【0063】
また、
図9~
図10及び
図12~
図13に示すように、壁部材160は、上述した最小間隙部170から離れるにつれて筐体102の内壁面104との間の距離が拡大するように筐体102の内壁面104に対して傾斜した傾斜面166を有していてもよい。
壁部材160を挟んで対向して互いに連通する一対の領域のうち一方の領域153は、傾斜面166が設けられたことにより、容積が十分に確保される。このため、翼1の振動に伴って、最小間隙部170を通って傾斜面166が存在する領域153への減衰材180の移動が阻害されにくくなる。その結果、より一層効果的に翼1の振動の抑制が可能となる。
【0064】
図9に示す実施形態では、コード方向Cにおいて、筐体102のうち後方側に制振空間150が設けられており、前方側に空間110が設けられている。制振空間150には、1つの壁部材160と、減衰材180が設けられている。壁部材160は、翼型部5から離れる方向(即ち紙面下側)に向かって斜めに、筐体102の角に向かって延在している。この壁部材160の先端と筐体102の角における制振空間150の内壁面との間に、最小間隙部170が形成されている。
壁部材160は、翼厚さ方向Tにおいて、翼型部5から離れた方向に位置する制振空間150の内壁面104と対向する側面(即ち、壁部材160の両側面のうち翼型部5とは反対側の側面)が、壁部材160の先端(及び最小間隙部170)から離れるにつれて該内壁面104との間の距離が拡大するように筐体102の該内壁面104に対して傾斜した傾斜面166を有する。
壁部材160の該側面が、該内壁面104に対して平行である場合と比べ、傾斜した傾斜面166を有している方が、壁部材160の傾斜面166と該内壁面104との間に形成される領域153の容積が大きくなり、最小間隙部170を経由した領域153への減衰材180の移動(矢印A参照)が阻害されにくくなる。
【0065】
図10に示す別の実施形態では、コード方向Cにおいて、筐体102のうち前方側と後方側にそれぞれ制振空間150が設けられており、この2つの制振空間150に挟まれるように空間110が設けられている。各々の制振空間150に1つの壁部材160と、減衰材180が設けられている。各々の壁部材160は、
図9と同様に、翼型部5から離れる方向(即ち紙面下側)に向かって斜めに、筐体102の角に向かって延在している。
【0066】
なお、上記構成の制振空間150に設けられた減衰材180の種類は特に限定されず、
図4~
図6及び
図8~
図13に示すように粉体182であってもよいし、
図11に示すように液体184であってもよいし、
図12に示すように球体186であってもよい。減衰材180として粉体182を使用する際、その種類は特に限定されず、ニッケル合金であってもよいし、ステンレス鋼であってもよい。また、粉体182の粒径も特に限定されず、100-300μmであってもよい。なお、粉体182の粒径は、粒子画像から計測した粒子径の分布から求めたメジアン径(d50)を指す。さらに、制振空間150の容積に対する減衰材180の充填率は特に限定されないが、減衰材180の自由度を確保し、かつ摩擦減衰効果が十分に発揮できる、60~70%程度の充填率であってもよい。
【0067】
図12及び
図13に示すように、筐体102は、筐体102に着脱可能に構成された重量部材200をさらに備えていてもよい。重量部材200は、上述した減衰材180よりも密度が大きい材料からなる。
筐体102に着脱可能に構成された重量部材200を制振装置100に設けることで、回転機械300の各々の翼1の固有振動数を重量部材200の変更によって調整することができ(所謂、ミスチューニング)、フラッタを抑制できる。
なお、筐体102にスロットが設けられ、重量部材200を該スロットに挿入して着脱可能に構成してもよい。
【0068】
図12及び
図13に示す実施形態では、制振空間150及び空間110に加えて、重量部材200が設けられている。
なお、制振空間150及び空間110及び重量部材200は、筐体102内において、その配置や大きさなどは特に限定されない。
【0069】
図14は、本発明の一実施形態に係る壁部材160の概略図である。
上記構成の制振空間150に設けられる壁部材160は、壁部材160で区分けされた一対の領域を互いに連通させる複数の穴168を含んでいてもよい。
図14に示す実施形態では、壁部材160の穴168は円として示されているが、穴168は円状に特に限定されず、多角形であってもよい。また、翼1の振幅が大きい部分に近い壁部材160の穴168を複雑な形状としてもよい。これにより、減衰材180と穴168との摩擦を大きくして、より効果的に翼1を制振してもよい。
壁部材160に複数の穴168を設けることで、翼1の振動に伴い、減衰材180が複数の穴168を介して、壁部材160で区分けされた一対の領域間を移動することで、複数の穴168と減衰材180との摩擦により翼1の振動エネルギーが吸収され、より一層効果的に翼1の制振が可能となる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 翼
3 翼根部
5 翼型部
7 シュラウド
50 プラットフォーム
52 空洞
100 制振装置
102 筐体
110 空間
150 制振空間
160 壁部材
170 最小間隙部
180 減衰材
200 重量部材
C コード方向
T 翼厚さ方向
H 翼高さ方向
L コード長