(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】二軸式ガスタービン
(51)【国際特許分類】
F02C 7/18 20060101AFI20221118BHJP
F02C 9/00 20060101ALI20221118BHJP
F01K 23/10 20060101ALI20221118BHJP
F02C 3/10 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
F02C7/18 E
F02C9/00 A
F01K23/10 A
F02C3/10
(21)【出願番号】P 2018217379
(22)【出願日】2018-11-20
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】前川 隼人
(72)【発明者】
【氏名】七瀧 健治
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-231745(JP,A)
【文献】特開2012-031727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/18
F02C 9/00
F01K 23/10
F02C 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機で圧縮された圧縮空気を燃料と共に燃焼する燃焼器と、
ケーシング及びタービン動翼を有し前記燃焼器からの燃焼ガスで駆動される高圧タービンと、
前記高圧タービンとは独立して回転し前記高圧タービンからの排気ガスで駆動される低圧タービンと、
前記高圧タービンのケーシングを冷却する冷却空気を通す冷却空気配管とを備えた二軸式ガスタービンにおいて、
前記冷却空気配管に設けた流量調整弁と、
圧縮機風量に関する情報を検出する第1センサと、
高圧タービン入口温度に関する情報を検出する第2センサと、
前記第1センサ及び前記第2センサの信号を基に前記流量調整弁を制御する制御コンピュータとを備え、
前記圧縮機風量と前記高圧タービン入口温度のうち前記圧縮機風量のみがその定格値に到達している場合に、前記制御コンピュータが、
前記第2センサで検出された高圧タービン入口温度とその定格値との差に応じて前記流量調整弁の開度の減少量を演算し、前記流量調整弁
の開度を基準開度よりも前記減少量だけ下げて冷却空気流量を減少させ、前記高圧タービンの前記ケーシングと前記タービン動翼との隙間を拡大するように構成されている二軸式ガスタービン。
【請求項2】
請求項1の二軸式ガスタービンにおいて、前記圧縮機風量と前記高圧タービン入口温度のうち前記高圧タービン入口温度のみがその定格値に到達している場合に、前記制御コンピュータが、
前記第1センサで検出された圧縮機風量とその定格値との差に応じて前記流量調整弁の開度の増加量を演算し、前記流量調整弁
の開度を基準開度よりも前記増加量だけ上げて冷却空気流量を増加させ、前記高圧タービンの前記ケーシングと前記タービン動翼との隙間を縮小するように構成されている二軸式ガスタービン。
【請求項3】
請求項1の二軸式ガスタービンにおいて、シンプルサイクルを構成する二軸式ガスタービン。
【請求項4】
請求項1の二軸式ガスタービンにおいて、コンバインドサイクルを構成する二軸式ガスタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二軸式ガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンにおけるタービンロータとケーシングの熱容量には差があり、負荷変動時の両者の熱変形には時間差が生じる。タービン動翼とケーシングとの間の隙間が広いとガスタービンの熱効率が低下するが、狭すぎると時間差でタービンロータとケーシングが熱変形する際にタービン動翼がケーシングに接触してしまう。そこで、ケーシングを冷却する冷却空気の流量調整によりケーシングの熱変形を制御しタービン動翼とケーシングとの間の隙間を適切に維持する隙間調整機構を備えたガスタービンが提唱されている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に二軸式ガスタービンは、圧縮機、燃焼器、及び高圧タービンを備えたガスジェネレータと、負荷機器に接続される低圧タービンとを有している。低圧タービンとガスジェネレータの回転軸は分離されている。ガスジェネレータでは、圧縮機で生成した圧縮空気を燃焼器で燃料と共に燃焼し、燃焼器で生成された燃焼ガスによって高圧タービンを駆動して圧縮機の駆動力を得る。低圧タービンは高圧タービンを駆動した燃焼ガスによって駆動されて負荷機器の動力となる。こうした二軸式ガスタービンにおいても、例えばガスジェネレータの高圧タービンに特許文献1に記載されているような間隙調整機構を適用することで、信頼性や熱効率を向上させることができる。
【0005】
ところで、通常、二軸式ガスタービンでは、圧縮機風量(圧縮機を流れる圧縮空気の流量)又は高圧タービン入口温度が定格値に到達した状態を定格運転状態としている。一般に設計温度よりも気温が低い場合には、高圧タービン入口温度が定格値に達する前に圧縮機風量が定格値に到達し、高圧タービン入口温度が定格値に満たない状態で定格運転状態となる。反対に設計温度よりも気温が高い場合には、圧縮機風量が定格値に到達する前に高圧タービン入口温度が定格値に到達し、圧縮機風量が定格値に満たない状態で定格運転状態となる。このことに起因して、吸気温度が設計温度と異なる条件下では、吸気温度が設計条件に等しい(高圧タービン入口温度及び圧縮機風量が共に定格値に到達する)場合に比べてガスタービンの出力が低下してしまう。
【0006】
本発明の目的は、吸気温度によらず高圧タービン入口温度及び圧縮機風量を定格値まで上昇させることができる二軸式ガスタービンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、空気を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された圧縮空気を燃料と共に燃焼する燃焼器と、ケーシング及びタービン動翼を有し前記燃焼器からの燃焼ガスで駆動される高圧タービンと、前記高圧タービンとは独立して回転し前記高圧タービンからの排気ガスで駆動される低圧タービンと、前記高圧タービンのケーシングを冷却する冷却空気を通す冷却空気配管とを備えた二軸式ガスタービンにおいて、前記冷却空気配管に設けた流量調整弁と、圧縮機風量に関する情報を検出する第1センサと、高圧タービン入口温度に関する情報を検出する第2センサと、前記第1センサ及び前記第2センサの信号を基に前記流量調整弁を制御する制御コンピュータとを備え、前記圧縮機風量と前記高圧タービン入口温度のうち前記圧縮機風量のみがその定格値に到達している場合に、前記制御コンピュータが、前記第2センサで検出された高圧タービン入口温度とその定格値との差に応じて前記流量調整弁の開度の減少量を演算し、前記流量調整弁の開度を基準開度よりも前記減少量だけ下げて冷却空気流量を減少させ、前記高圧タービンの前記ケーシングと前記タービン動翼との隙間を拡大するように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吸気温度によらず高圧タービン入口温度及び圧縮機風量を定格値まで上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る二軸式ガスタービンの模式図
【
図2】
図1の二軸式ガスタービンを構成する高圧タービンのケーシングとタービン動翼との隙間を表す図
【
図3】
図1の二軸式ガスタービンに備えられた制御コンピュータによる流量調整弁の制御手順を表すフローチャート
【
図4】本発明の一実施の形態に係る二軸式ガスタービンの出力についての吸気温度に対する特性を示した図
【
図5】本発明の一実施の形態に係る二軸式ガスタービンの効率についての吸気温度に対する特性を示した図
【
図6】本発明の一実施形態に係るコンバインドサイクルの模式図
【
図7】本発明の一実施の形態に係るコンバインドサイクルの出力についての吸気温度に対する特性を示した図
【
図8】本発明の一実施の形態に係るコンバインドサイクルの効率についての吸気温度に対する特性を示した図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
-二軸式ガスタービン-
図1は本発明の一実施形態に係る二軸式ガスタービンの模式図、
図2は
図1の二軸式ガスタービンを構成する高圧タービンのケーシングとタービン動翼との隙間を表す図である。
【0012】
同図に示した二軸式ガスタービン1(以下、ガスタービン1と略称する)はシンプルサイクルであり、ガスジェネレータ10、低圧タービン(出力タービン)20、隙間調整機構30及び制御コンピュータ40を備えている。
【0013】
-ガスジェネレータ-
ガスジェネレータ10は、圧縮機11、燃焼器12及び高圧タービン13を主な要素として備えている。
【0014】
圧縮機11は、大気中から取り込んだ空気を圧縮して圧縮空気を生成する。この圧縮機11の入口(吸気口)には、IGV(入口案内翼)14が設けられている。IGV14はIGV駆動装置(図示せず)により駆動される。IGV14の開度調整により圧縮機11の吸気量が変化する。
【0015】
燃焼器12は、圧縮機11からの圧縮空気と共に燃料を燃焼して燃焼ガスを生成する。なお、燃焼器12への燃料供給量は、IGV14の開度と共に、所定のプログラムに従って制御コンピュータ40(又は他の制御装置)によって制御される。燃料供給量やIGV14の開度は、低圧タービン20に接続した負荷機器50の目標動力、上位の制御装置(不図示)からの発電出力指令(MWD)、低圧タービン20の回転数等に基づいて制御される。
【0016】
高圧タービン13は、燃焼器12からの燃焼ガスで駆動される。高圧タービン13は回転軸15を介して圧縮機11に接続されており、高圧タービン13の出力で圧縮機11が駆動される。高圧タービン13の出力は圧縮機11の動力に等しい。高圧タービン13はまた、タービン動翼16(
図2)の環状翼列を備えたタービンロータと、タービンロータの外周を包囲するケーシング17を備えている。ケーシング17は一般に圧縮機11や低圧タービン20のケーシングを兼ねるが、
図1では高圧タービン13の部分にのみ模式的にケーシング17を図示してある。回転体であるタービンロータと静止体であるケーシング17との間、つまりタービン動翼16とケーシング17との間には、
図2に示したようにタービン半径方向に隙間Gが確保されている。この隙間Gが小さい程ガスタービン1の熱効率は上がるが、隙間Gはガスタービン1の運転状況によって変化するため、隙間Gが過小であるとタービン動翼16とケーシング17とが接触し得る。
【0017】
-低圧タービン-
低圧タービン(出力タービン)20はガスジェネレータ10の回転軸15と分離された回転軸21を持ち、高圧タービン13からの排気ガスで駆動されて高圧タービン13とは別個独立して回転する。この低圧タービン20には回転軸21を介して負荷機器50が接続されている。低圧タービン20は、例えば全段落の静翼に非可動型の固定静翼を用いた固定翼低圧タービンである。高圧タービン13を駆動して降圧した燃焼ガスが高圧タービン13から低圧タービン20に送られ、この燃焼ガスによって低圧タービン20が駆動される。低圧タービン20の出力は回転軸21を介して負荷機器50に伝達され、これにより負荷機器50が駆動される。低圧タービン20の出力がガスタービン1の出力となる。負荷機器50の代表例は発電機であるが、ポンプ等も適用され得る。低圧タービン20を駆動した燃焼ガスは排気ガスとして排出される。
【0018】
-第1センサ-
IGV14には、IGV14の開度(IGV14を構成する可変静翼であるベーンの角度)を検出する第1センサ51が設けられている。このように、本例では角度センサを第1センサ51に用い、IGV14の開度を圧縮機風量(圧縮機11を流れる圧縮空気の流量)に関する情報として検出する場合を例示している。但し、例えば圧縮機11の圧縮空気流路(例えばその入口)に第1センサ51として風量計を設置し、圧縮機風量を直接検出する構成としても良い。また、IGV14の開度は制御コンピュータ40により制御されるため、制御コンピュータ40からIGV14に出力される電気信号を測定する電流計或いは電圧計を第1センサ51として用いることも考えられる。
【0019】
-第2センサ-
低圧タービン20の排気通路22には第2センサ52が設けられている。本例における第2センサ52は温度計であり、高圧タービン13の入口温度(以下、高圧タービン入口温度と略称する)に関する情報として排気通路22を流れる排気ガスの温度が第2センサ52により検出される。このように、本例では温度センサを第2センサ52に用い、高圧タービン入口温度に関する情報として排気温度を検出する場合を例示している。但し、例えば高圧タービン13と低圧タービン20を繋ぐガス通路に第2センサ52として温度計を設置し、このガス通路の温度を高圧タービン入口温度に関する情報として検出する構成も考えられる。また、例えば高圧タービン13の入口に第2センサ52として温度計を設置し、高圧タービン入口温度を直接検出する構成としても良い。
【0020】
-隙間調整機構-
隙間調整機構30はタービン動翼16とケーシング17との間の上記隙間Gを調整する機構であり、冷却空気配管31及び流量調整弁32を含んで構成されている。冷却空気配管31は高圧タービン13のケーシング17を冷却する冷却空気を通す配管であり、冷却空気源とケーシング17を接続している。ケーシング17の壁内には冷却空気通路が設けられており、冷却空気配管31を介して供給された冷却空気はケーシング17の冷却空気通路を通ってケーシング17から排出される。本例では冷却空気源は圧縮機11であり、圧縮機11の例えば低圧段又は中圧段から圧縮空気が圧縮空気として抽気されて冷却空気配管31に導入される。但し、冷却空気源は圧縮機11には限定されず、別途設けたブロワや送風機等を適用することもできる。流量調整弁32は冷却空気配管31に設けられており、流量調整弁32の開度によって高圧タービン13のケーシング17を冷却する冷却空気の流量が調整される。
【0021】
-制御コンピュータ-
制御コンピュータ40はCPUやメモリを備えており、第1センサ51及び第2センサ52の信号に基づいて流量調整弁32を制御するようにプログラムされている。メモリに格納されたプログラムをCPUにロードして、第1センサ51及び第2センサ52の信号に基づいて流量調整弁32を制御する構成である。具体的には、制御コンピュータ40は、第1センサ51に基づく高圧タービン入口温度及び第2センサ52に基づく圧縮機風量のいずれか一方の値が他方の値に先行して定格値に到達した場合に、流量調整弁32を駆動して他方の値を定格値に近付ける機能を持つ。第1センサ51に基づく高圧タービン入口温度とは、第1センサ51で検出された高圧タービン入口温度、又は第1センサ51の信号を基に計算された高圧タービン入口温度である。第2センサ52に基づく圧縮機風量とは、第2センサ52で検出された圧縮空気風量、又は第2センサ52の信号を基に計算された圧縮空気風量である。
【0022】
例えば設計温度よりも気温(圧縮機11の吸気温度)が低い場合のように、圧縮機風量がその定格値に到達しても、高圧タービン入口温度がその定格値に満たない場合がある。制御コンピュータ40は、このように圧縮機風量と高圧タービン入口温度のうち圧縮機風量のみがその定格値に到達している場合には、流量調整弁32を制御して冷却空気流量を減少させ、ケーシング17とタービン動翼16との隙間Gを拡大する制御を実行する。この場合の流量調整弁32に対する指令値(流量調整弁32の開度の減少量)としては、高圧タービン入口温度とその定格値との差を0にする(又は差を所定値以下とする)値がメモリに格納されたプログラムに従って演算される。
【0023】
反対に、設計温度よりも気温が高い場合のように、高圧タービン入口温度がその定格値に到達しても、圧縮機風量がその定格値に満たない場合もある。制御コンピュータ40は、このように圧縮機風量と高圧タービン入口温度のうち高圧タービン入口温度のみがその定格値に到達している場合には、流量調整弁32を制御して冷却空気流量を増加させ、上記隙間Gを縮小する制御を実行する。この場合の流量調整弁32に対する指令値(開度の増加量)としては、圧縮機風量とその定格値との差を0にする(又は差を所定値以下とする)値がメモリに格納されたプログラムに従って演算される。
【0024】
高圧タービン入口温度と圧縮機風量が共に各定格値に到達している場合には、流量調整弁32の開度は維持される。流量調整弁32を制御することなく高圧タービン入口温度と圧縮機風量が共に各定格値に到達する場合、流量調整弁32の開度は基準開度で維持される。基準開度とは、気温が設計温度に等しい条件下で定格運転に移行した場合に目標流量(設定値)の冷却空気がケーシング17に供給されるように設定した流量調整弁32の開度であり、流量調整弁32の開度の最大値と最小値の中間の値である。従って、制御コンピュータ40の実行する制御により、例えば圧縮機風量が先に定格値に到達した場合には、流量調整弁32の開度は基準開度よりも低い状態で定格運転状態に移行する。反対に高圧タービン入口温度が先に定格値に到達した場合には、流量調整弁32の開度は基準開度よりも高い状態で定格運転状態に移行する。
【0025】
なお、設計温度とは、ガスタービン1の設計段階で圧縮機11の標準的な吸気温度として設定された値である。本実施形態におけるガスタービン1は、
図3で後述する流量調整弁32の制御をしなくても、設計温度下で圧縮空気風量と高圧タービン入口温度がそれぞれ定格値に到達するように設計されている。また、定格値とは高圧タービン入口温度及び圧縮機風量についてそれぞれ設定された値であり、定格運転状態におけるガスタービン1の高圧タービン入口温度及び圧縮機風量である。これら定格値には、高圧タービン入口温度及び圧縮機風量についてそれぞれ単一の数値を設定することができるが、所定の範囲(上限値及び下限値を持つ値)を設定することもできる。
【0026】
-動作-
図3は制御コンピュータ40による流量調整弁32の制御手順を表すフローチャートである。ガスタービン1の運転開始後、制御コンピュータ40は同図の手順を開始し、第1センサ51及び第2センサ52の信号を入力し(ステップS1)、圧縮機風量F及び高圧タービン入口温度Tを演算する(ステップS2,S3)。ステップS2,S3の順序は逆であっても良い。次に制御コンピュータ40は、圧縮機風量Fがその定格値に達しているか(ステップS4)、高圧タービン入口温度Tがその定格値に達しているか(ステップS5,S6)を順次判定する。圧縮機風量Fと高圧タービン入口温度Tに関する判定の順序は逆でも良い。
【0027】
ステップS4-S6の判定の結果、圧縮機風量Fと高圧タービン入口温度Tのいずれもが定格値に達していない場合、制御コンピュータ40は、流量調整弁32の開度を維持して手順をステップS1に戻す(ステップS4→S6→S1)。圧縮機風量Fと高圧タービン入口温度Tのうち高圧タービン入口温度Tのみが定格値に達した状態である場合、制御コンピュータ40は流量調整弁32の開度を上げて隙間Gを縮小し(ステップS7)手順をステップS1に戻す(ステップS4→S6→S7→S1)。圧縮機風量F及び高圧タービン入口温度Tのうち圧縮機風量Fのみが定格値に達した状態である場合、制御コンピュータ40は流量調整弁32の開度を下げて隙間Gを拡大し(ステップS8)手順をステップS1に戻す(ステップS4→S5→S8→S1)。
【0028】
そして、以上の制御手順を実行することで、圧縮機風量F及び高圧タービン入口温度Tの双方がそれぞれ定格値に到達する。これによって起動運転が完了し、ガスタービン1が定格運転状態に移行する。圧縮機風量F及び高圧タービン入口温度Tの双方が定格値に到達した状態でも、運転停止又は負荷減少の指令が入力されるまでは、制御コンピュータ40は手順をステップS1に戻して
図3の制御を継続する(ステップS4→S5→RETURN→S1)。例えば運転状況の変化によって圧縮機風量F及び高圧タービン入口温度Tのいずれか一方がその定格値を下回った場合には、流量調整弁32の開度調整が再度実行される。
【0029】
-効果-
図4は本実施の形態に係る二軸式ガスタービンの出力についての吸気温度に対する特性を示した図である。
図5は本実施の形態に係る二軸式ガスタービンの効率についての吸気温度に対する特性を示した図である。これらの図中の実線は発明を適用した場合(
図3の手順で流量調整弁32を制御する場合)の特性、点線は発明を適用しない場合の特性を表している。既に述べた通り、圧縮機11の吸気温度が設計温度である条件下で高圧タービン入口温度及び圧縮機風量の双方が定格値に達するように、ガスタービン1は設計されている。従来の二軸式ガスタービンにおいては、高圧タービン入口温度及び圧縮機風量の一方が定格値に達した場合に他方を定格値まで上げる手段が一般にないため、一方が定格値に到達することで定格運転状態とされていた。従って、例えば吸気温度が設計温度より低い条件下では、通常は圧縮機風量が先に定格値に到達し、定格運転中も高圧タービン入口温度が定格値に満たないままであった。反対に吸気温度が設計温度より高い条件下では、高圧タービン入口温度が先に定格値に到達し、定格運転中も圧縮機風量が定格値に満たないままであった。その結果、吸気温度が設計温度と異なる条件下では、吸気温度が設計温度に等しい場合に比べてガスタービンの出力が低下する傾向にあった。
【0030】
それに対し、本実施形態では、圧縮機風量が定格値に到達して高圧タービン入口温度が定格値に満たない場合、流量調整弁32の開度を下げて高圧タービン13のケーシング17とタービン動翼16との間の隙間Gを拡大する。これにより
図5に示したようにガスタービン1の効率は低下するが、高圧タービン入口温度に対して釣り合う圧縮機風量が減少し、圧縮機風量を維持しつつ高圧タービン入口温度を上昇させることができる。よって吸気温度が設計温度より低い条件下でも高圧タービン入口温度を定格値まで上昇させることができ、定格運転時において高圧タービン入口温度及び圧縮機風量が共に定格値に達した状態としてガスタービン1の出力を上げることができる。ガスタービン1の出力を上げるために熱効率をあえて低下させる、ケーシング冷却空気の特殊な制御態様である。熱効率よりも出力が重視される場合に有用である。
【0031】
反対に高圧タービン入口温度が定格値に到達して圧縮機風量が定格値に満たない場合、流量調整弁32の開度を上げて高圧タービン13のケーシング17とタービン動翼16との間の隙間Gを縮小する。これにより圧縮機風量に対して釣り合う高圧タービン入口温度が下がり、高圧タービン入口温度を維持しつつ圧縮機風量を増加させることができる。よって吸気温度が設計温度より高い条件下でも圧縮機風量を定格値まで上昇させることができ、定格運転時において高圧タービン入口温度及び圧縮機風量が共に定格値に達した状態としてガスタービン1の出力を上げることができる。ガスタービン1の効率も向上する。
【0032】
ここで、例えば低圧タービン20の初段静翼を可動翼(可変静翼)とし、可動翼の開度を調整することにより、高圧タービン13及び低圧タービン20の出力割合を変更することができる。このような方法でも、大気温度によらず高圧タービン入口温度及び圧縮機風量を定格値まで上昇させることができる。しかし、近年の燃焼温度の上昇に伴って低圧タービンの入口温度は上昇してきており、低圧タービンの初段静翼を冷却翼化する必要性が生じてきている。そのため、低圧タービン20の初段静翼を可動翼とすることが難しくなってきている。それに対し本実施形態では、低圧タービン20の初段に可変静翼を用いることができない場合においても、隙間Gの調整機構があれば同様の技術的効果を得ることができる強みがある。
【0033】
なお、本実施形態では高圧タービン入口温度のみが定格値に到達し圧縮機風量が定格値に満たない場合に隙間Gを減少させる制御を実行する場合を例示した。しかし、例えばプラント運用の観点から、圧縮機風量のみが定格値に到達し高圧タービン入口温度が定格値に満たない状態で隙間Gを拡大する制御機能があれば足りる場合には、隙間Gを減少させる制御は省略することができる。
【0034】
-コンバインドサイクル-
図6は本発明の一実施形態に係るコンバインドサイクルの模式図である。同図に示したコンバインドサイクル2は、
図1に示したガスタービン1に、ボイラ(排廃熱回収ボイラ)60、蒸気タービン70及び復水器80を主な構成要素として追加して構成されている。ボイラ60は、ガスタービン1(低圧タービン20)の排気ガスの熱を回収して蒸気を発生させるものであり、復水器80から供給される水をガスタービン1の排気ガスで加熱して蒸気を生成する。ボイラ60には助燃装置(不図示)が設けられる場合もある。蒸気タービン70はボイラ60で発生した蒸気により回転駆動される。蒸気タービン70の回転軸71には負荷機器(発電機等)90が連結され、蒸気タービン70の出力で負荷機器90(負荷機器50や圧縮機11とは別個の負荷機器)が駆動される。但し、負荷機器50を負荷機器90としても良い(負荷機器50を低圧タービン20及び蒸気タービン70で駆動する構成としても良い)。また蒸気タービン70を圧縮機11に連結し、圧縮機11を低圧タービン20及び蒸気タービン70で駆動する構成とすることもできる。蒸気タービン70を駆動した蒸気は復水器80に導かれて凝縮され、再びボイラ60に送られる。その他の構成は
図1に示したガスタービンプラントと同様である。
【0035】
図7は本実施の形態に係るコンバインドサイクルの出力についての吸気温度に対する特性を示した図である。
図8は本実施の形態に係るコンバインドサイクルの効率についての吸気温度に対する特性を示した図である。
図7及び
図8は
図4及び
図5に対応する図である。
【0036】
ガスタービン1は、コンバインドサイクルを構成する場合においても、圧縮機風量が定格値に到達する一方で高圧タービン入口温度が定格値に満たない場合、間隙Gを拡大することで高圧ガスタービン入口温度を上昇させることができる。特に
図6のようにコンバインドサイクル2を構成するガスタービン1を対象とすることで、高圧タービン入口温度と共にガスタービン1の排気温度が上昇するため、
図1の例と異なりプラント出力に加えて熱効率も向上する(
図8)。高圧タービン入口温度が定格値に到達する一方で圧縮機風量が定格値に満たない場合、冷却空気流量を増加させて間隙Gを縮めることで
図1の例と同様の効果が得られる。このようにコンバインドサイクルを構成する二軸式ガスタービンにも本発明は適用可能であり、効果を奏する。本例においても、圧縮機風量のみが定格値に到達し高圧タービン入口温度が定格値に満たない状態で隙間Gを拡大する制御機能があれば足りる場合には、隙間Gを減少させる制御は省略することができる。
【0037】
-変形例-
各実施の形態に例示した構成は代表例に過ぎず、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。例えば、軸流型の二軸式ガスタービンに発明を適用した場合を例示して説明したが、例えば遠心型の二軸式ガスタービンに発明を適用することもできる。但し、遠心型の二軸式ガスタービンではIGVは一般に用いられず、圧縮機風量は圧縮機の回転数に依存する。従って、圧縮機風量が定格値に達したか否かについては、例えば圧縮機に回転数検出器を設け、回転数検出器の検出信号によって圧縮機の回転数が定格値に達したか否かを制御装置で判断することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…二軸式ガスタービン、2…コンバインドサイクル、11…圧縮機、12…燃焼器、13…高圧タービン、16…タービン動翼、17…ケーシング、20…低圧タービン、31…冷却空気配管、32…流量調整弁、40…制御コンピュータ、51…第1センサ、52…第2センサ、F…圧縮機風量、G…ケーシングとタービン動翼との隙間、T…高圧タービン入口温度