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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】高力黄銅合金及び高力黄銅合金製品
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/04 20060101AFI20221118BHJP
【FI】
C22C9/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018535375
(86)(22)【出願日】2017-05-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2017061803
(87)【国際公開番号】W WO2017198691
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-03-11
(31)【優先権主張番号】202016102693.8
(32)【優先日】2016-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510055839
【氏名又は名称】オットー フックス カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】プレット, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】レーツ, ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】グンメルト, ヘルマン
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/117972(WO,A2)
【文献】中国特許出願公開第104831115(CN,A)
【文献】特開平09-316570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
55~65重量%のCuと、
1~2.5重量%のMnと、
0.7~2重量%のSnと、
0.2~1.5重量%のFeと、
2~4重量%のNiと、
2~5重量%のAlと、
0.2~2重量%のSiと、
2.0重量%のCo最大量と、
0.1重量%のPb最大量と、
不可避的不純物とともにある残余量のZnと、からなる、高力黄銅合金であって、
前記高力黄銅合金が、主としてβ相でできており、
前記高力黄銅合金のα相の体積比率が10%未満であり、
前記高力黄銅合金の金属間化合物相の体積比率が5~9%であり、
前記Mn元素及びSn元素の合計が少なくとも1.7重量%であり、かつ最大で4.5重量%である、高力黄銅合金製品用高力黄銅合金。
【請求項2】
前記Mn元素及びSn元素が、1.25~0.85のMn:Sn重量比で前記合金中に存在することを特徴とする、請求項1に記載の高力黄銅合金。
【請求項3】
前記Mn元素:Sn元素の前記重量比が1.1~0.92であることを特徴とする、請求項2に記載の高力黄銅合金。
【請求項4】
59~65重量%のCuと、
1.3~1.65重量%のMnと、
1.3~1.65重量%のSnと、
0.5~1.0重量%のFeと、
2.4~3.4重量%のNiと、
3.1~4.1重量%のAlと、
1.0~1.7重量%のSiと、
2.0重量%のCo最大量と、
不可避的不純物とともにある残余量のZnと、からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の高力黄銅合金。
【請求項5】
59~62重量%のCuと、
1.3~1.65重量%のMnと、
1.3~1.65重量%のSnと、
0.5~1.0重量%のFeと、
2.4~3.4重量%のNiと、
3.1~4.1重量%のAlと、
1.0~1.7重量%のSiと、
不可避的不純物とともにある残余量のZnと、からなる、請求項4に記載の高力黄銅合金。
【請求項6】
前記Co含有量が、0.9~1.6重量%であることを特徴とする、請求項4に記載の高力黄銅合金。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の高力黄銅合金から製造された高力黄銅合金製品であって、高力黄銅合金が、主としてβ相でできていることを特徴とする、高力黄銅合金製品。
【請求項8】
導電率が10MS/m未満であることを特徴とする、請求項7に記載の高力黄銅合金製品。
【請求項9】
前記高力黄銅合金製品の前記導電率が、8.2MS/m未満であることを特徴とする、請求項に記載の高力黄銅合金製品。
【請求項10】
前記合金製品が、軸受部品であることを特徴とする、請求項7~のいずれか1項に記載の高力黄銅合金製品。
【請求項11】
前記軸受部品が、ターボチャージャー軸受のための部品であることを特徴とする、請求項10に記載の高力黄銅合金製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高力黄銅合金、及び摩擦負荷へ供される高力黄銅合金でできた製品に関する。
【0002】
潤滑剤環境における典型的な摩擦適用のために、使用される合金の低い摩擦係数は概して必要とされ、さらに、摩擦係数は、特定の適用に対するあらかじめ規定された制限、特に摩擦パートナー、使用される潤滑剤、ならびに面圧及び相対速度などの摩擦条件内で適用可能であるべきである。このことは、特に静的及び動的な高負荷によって作用されるピストンスリーブにとって、ならびにシンクロナイザーリングにとって真である。さらに、摩擦パートナーの高い相対速度での適用は、ターボチャージャーの軸方向の軸受に対して存在するように、例えば、熱発生の低下に加えて、摩擦表面からの良好な放熱も確実にする合金を必要とする。
【0003】
摩擦力及び油接触は、軸受表面上に潤滑剤成分を蓄積したトライボロジー性の層を結果的に生じる。均一な高い析出率の潤滑剤成分及びその分解産物は、摺動層上で十分に安定した吸収層を得るために必要である。
【0004】
油環境における軸受用のシンクロナイザーリングまたは軸受部品など、このような環境において使用されるコンポーネントに適した材料はさらに、広範な耐油性を特徴とし、それにより、トライボロジー性の層の構造は、ある特定の油添加物の選択に対して大いに非感受性である。さらに、このような合金でできたコンポーネントは、良好な緊急使用特性を有するべきであり、それにより乾燥摩擦条件下でさえ、十分なサービス寿命が確実とされ得る。
【0005】
摩擦負荷下にあるコンポーネントにとって、使用される合金が十分な強度を有することも重要である。したがって、0.2%という高い降伏強度は、負荷下で生じる塑性変形を最小限にするために存在すべきである。それにもかかわらず、このようなコンポーネントは、破壊点まで、降伏強度を上回るある程度の塑性変形を有するべきである。
【0006】
さらに、摩損応力及び接着応力に対するこのようなコンポーネントの抵抗を増大させるために、当該コンポーネントが特に硬質であり、かつ高い引張強度を有することは必要である。同時に、衝撃応力に対する保護として十分な靭性がなければならない。この点において、微小欠陥の数を減少させ、当該微小欠陥から展開する欠陥成長を遅滞させることは必要である。このことには、好ましくは破壊靭性が大きく、かつ内部応力を主として含んでいない合金を提供する必要条件が付帯する。
【0007】
多くの場合、摩擦負荷下にある部品に適した合金は、高力黄銅であり、主成分としての銅及び亜鉛に加えて、ニッケル、鉄、マンガン、アルミニウム、ケイ素、チタン、またはクロムのうちの少なくとも1つとともに合金になる。ケイ素黄銅は特に、先に記載の必要条件を満たし、CuZn31Si1は、ピストンスリーブなどの摩擦適用のための標準的な合金を表す。さらに、スズ及び銅に加えて、ニッケル、亜鉛、鉄、及びマンガンを摩擦適用のためにまたはマイニングのために含有するスズ銅を使用することは既知である。
【0008】
ターボチャージャー軸受適用での使用のための黄銅合金は、WO2014/152619A1から既知である。この黄銅合金は、1.5~3.0重量%という非常に多量のマンガンを含有するが、少量のSn、具体的には0.4重量%のSnしか有さない。この以前より既知の黄銅合金によって、0.1重量%という最大Pb含有量が可能となり、それによりこの合金は、Pbからの自由についての厳密な必要条件を満たす。しかしながら、黄銅合金における合金成分として鉛(Pb)を組み込むことは好ましく、なぜなら、このことは、チップ破壊を容易にし、したがって機械加工を改善するからである。さらに、鉛は典型的には、高強度黄銅合金における腐食抑制剤として組み込まれ、当該合金の製品は、油環境において使用される。このことは特に、バイオエタノールと接触に至る油環境へ適用される。バイオエタノールは車両燃料中に含有され、例えば、ピストンリングにおける漏れまたは他のタイプの飛沫同伴により、自動車のオイルへと入る。このことは特に、大部分が短時間の旅行にのみ使用される車両に適用され、したがってエンジンは、その操作温度に到達しない。同じことはターボチャージャー軸受に適用され、これは、バイオエタノール及び排気中に含有されるその使用後産物の結果として、攻撃的な混合物へ曝露される。結果として、酸性環境がオイルの中で展開する。硫酸鉛表面層は、合金製品中に含有される鉛とともに、オイルの中に含有される硫黄から形成する。この表面層は、受動態化層と同様に腐食抑制剤として作用する。
【0009】
マトリックス中に異なる相を有し得るこのような黄銅合金の構造は、機械的負荷能力にも耐食性にも影響する。α相の高い比率を有する黄銅合金製品は、概して良好な耐食性、破壊時の大きな靭性及び伸長、ならびに良好な冷却成形性を特徴とする。これらのタイプの合金製品が、むしろ熱形成能に乏しく、摩損及び接着に対する耐性が低いことは不利な点である。対照的に、β相を有する黄銅合金製品は、機械摩耗耐性が大きく、強度は高く、熱成形性は良好であり、かつ接着性は低い。しかしながら、これらの合金の不利な点は、α相を有する黄銅合金製品と比較して、冷却成形性が比較的乏しいこと、靭性が比較的低いこと、及び耐食性が非常に乏しいことである。γ相を有する黄銅合金製品は、良好な耐食性及び良好な機械的摩耗耐性を特徴とするが、当該黄銅合金製品の靭性は低く、形成能は比較的低い。したがって、各相は、1つの領域またはその他の領域において有利な点を有するが、不利な点は受け入れなければならないことは明白である。
【0010】
油環境において使用される、考察下にあるタイプの黄銅合金製品にとって、腐食はまた、先に記載した通り、役割を担っている。この点において、合金製品が製造され、かつ例えば、軸方向の軸受に関して油環境中で使用される合金はまた、これらの必要条件を満たさなければならない。
【0011】
摩擦負荷の下で、潤滑剤添加物から主として構成された吸着層は、潤滑剤と短時間接触した後でさえ、銅合金でできた加工物上で展開される。熱機械応力の下で、表面の近くで吸着層及び合金構成物の相互に反応する成分から構成された反応層は、吸着層の真下に形成する。このプロセスにおいて、吸着層及び反応層は、銅合金加工物上で外側境界層を形成し、その下で、厚さ数ミクロンの内側境界層が配置される。外側境界層に近接していることにより、内側境界層は、表面上で作用する機械的負荷によって、及び反応層における化学変換プロセスによって影響される。内側境界層の領域において、基材合金の分散加工及び酸化加工は、反応層の形成に影響し得る。
【0012】
多くの潤滑剤は、摩擦接触による適切な熱機械的応力の下で腐食作用を有し得る含硫添加物及び含リン添加物などの添加物を含有し、このことは順に、加工品のサービス寿命をかなり短くする。銅合金はすでに、潤滑剤中の硫黄成分の腐食作用を低下させることが提唱されている。ターボチャージャーの軸受のための銅合金は、JP S60162742Aから既知であり、57~61重量%のCu及び2.5~3.5重量%のPbからなる組成を、ほぼ確実に不純物として存在するFe及びZnとともに有する。本目的は、摩擦表面上に安定したCuS層を形成することとする。
【0013】
添加物はしばしば、摩擦表面上の腐食を低下させ及び摩損性摩耗を低下させる目的で、潤滑剤へ添加される。このような腐食抑制剤(抗摩耗活性のある物質)の1例は、ジンクジアルキルジチオホスファートである。反応層において、表面を保護するホスファートガラスは、この添加剤から形成する。この目的のために、理想的には、添加剤のリガンドと合金元素との交換及び基材カチオンのインターカレーションが生じ、それにより耐久性のある反応層が形成する。しかしながら、表面を保護する反応プロセスは、基材材料の内側境界層の組成による。さらに、追加の添加物は、接着層において、表面を保護する添加物と接着に関して競合作用をほぼ確実に有し得るので、当該プロセスに影響する。また、層形成プロセス及び分解プロセスについての有意性が合金構造、放熱に関する反応層の熱加工、及び局在する温度ピークにある。このことは、ほぼ確実に、存在する特定のトライボロジー系の関数として、腐食抑制剤の関与とともに、摩擦層の望ましくない化学分解プロセスを結果的に生じる場合さえある。
【0014】
それゆえ、本発明の目的は、不適切な潤滑がある場合に高い強度、摩擦負荷下での低い摩耗、及び良好な緊急稼働特性を特徴とする製品が製造され得るだけでなく、それと同時に、酸性条件における腐食になおも耐性がありながら、鉛のための調節必要条件を満たすために、無鉛または実質的に無鉛であり得る、高力黄銅合金を提唱することとする。
【0015】
本目的は、本発明によると、以下の合金成分、すなわち、
55~65重量%のCuと、
1~2.5重量%のMnと、
0.7~2重量%のSnと、
0.2~1.5重量%のFeと、
2~4重量%のNiと、
2~5重量%のAlと、
0.2~2重量%のSiと、
最大2.0重量%のCoと、
不可避的不純物とともにある残余量のZnと、を有する高力黄銅合金によって達成される。
【0016】
本考察の範囲内で、不可避的不純物は、合金において、個々には0.05重量%以下を構成し、かつ合計では0.15重量%以下を構成する元素であるとみなされる。
【0017】
この高力黄銅合金から製造される合金製品は、β相を主として有する。それゆえ、当該合金製品は、良好な熱成形性及び良好な機械摩耗耐性を特徴とするであろうと期待された。しかしながら、興味深いことに、この高力黄銅合金から製造された合金製品は、α相を主として有する黄銅合金製品に対してのみ代替的に知られた耐食性を有する。このことは、この高力黄銅合金が基本的に(無鉛指定をなおも許容する許容限界内で)無鉛であるという事実により、さらにより驚くべきである。究極的には、そのことは、優勢な教示によれば鉛が腐食抑制カバー層の形成において省略することができないので、酸を含む油環境で使用されるとき、ある特定の耐食性を達成するために、鉛が必ず合金成分でなければならないという優勢な教示に対応していた。しかしながら、その化学組成により、高力黄銅合金を用いると、従来技術における当該合金元素である鉛に寄与する特性を置き換えることだけでなく、マトリックス中にβ相を有する通例の合金製品と比較して耐食性を有意にさらに改善することも可能であった。この高力黄銅合金は、特に廃車指向の意味内で無Pbの高力黄銅合金である。
【0018】
この合金の特別な特徴は、マンガンがケイ化物中で主として結合しているのに対し、スズがβ相中で溶解していることである。ケイ化物中で結合していないマンガン部分は、α相中で溶解している。このことは、スズがβ相中で溶解しているため、βカバー層形成剤が存在しているだけでなく、αカバー層形成剤が、α相中で溶解しているマンガンにより存在しているという事実により、有利である。
【0019】
油状環境において、この合金から作られた合金製品の詳細な耐食性は、特にMn元素及びSn元素及び当該合金中に存在する場合、Co元素の量によって決定され、後者は好ましくは0.8~1.6重量%である。検査は、これらの元素の関与が重要であるだけでなく、Mn及びSnが合金成分である場合、特に合計で少なくとも1.7重量%であるが最大で合計4.5重量%以下であり、さらに、Mn量及びSn量が類似の範囲において当該合金の構造へ組み込まれる場合、有利であることを示した。類似の範囲における当該合金の構造における元素Mn及び元素Snの組み込みは、MnとSnとの比がおよそ1.25~0.85の範囲にあることを意味する。特許請求した合金において、Mn量は、α相が存在する領域を拡大するために利用される。結果として、当該合金に含有されるSnは同様に、γ相において早まって結合することはないが、むしろ、Mnと同じで、所望のカバー層形成に利用可能である。さらに、Snは、所望の緊急稼働特性のためにも使用される。この理由のため、当該合金におけるMn元素及びSn元素の組み込みは、注意深く配位されている。MnとSnの比は、好ましくは1.1~0.92、特に1.05~0.95である。
【0020】
耐食性は、Coが当該合金中に存在する場合、さらにより改善され得る。それゆえ、1つの好ましい実施形態において、Coは、0.9~1.6重量%、特に0.9~1.5重量%、特に好ましくは0.9~1.1重量%の分率で合金元素として存在する。Coは、他の合金元素の活性に影響する能力を有し、したがって、腐食抑制カバー層の発達に寄与する。Coが当該合金中に含有される場合、この元素は、混合ケイ化物の形成に関与し、それにより、この合金組成物の範囲内で、より高い比率のMnは、当該マトリックス中に溶解したままであり、次に、カバー層の所望の形成に十分な量まで利用可能である。この点において、当該合金の構造へのCoの組み込みは、腐食抑制カバー層の形成にかなり貢献する。
【0021】
驚くべきことに、この合金から製造された合金製品の良好な腐食特性は、Pbが主として、追加の異なる元素によって置き換えられなかったという事実にもよった。その代わりに、良好な耐食特性は、Sn量を増大させることによって、及び主として元素Mnとの、先に説明した内部配位によって達成されている。
【0022】
高力黄銅合金またはそれから製造された高力黄銅合金製品の先に説明した利点及び有益な特性はまた、狭い範囲、特に0.2~1.5重量%でのみ許容されるFe量による。1つの例示的な実施形態において、このことは、Fe範囲が0.5~1.0重量%のFeのみであることを許容した。興味深いことに、高力黄銅合金における許容されたFe量以外で、高力黄銅合金から製造された高力黄銅合金製品の説明された特性は、特にFe量が少量過ぎる場合、またはFe量がより多量である場合も、結果的に生じないことが観察されている。
【0023】
腐食ストレスに関して、この合金から製造されたコンポーネントの高い耐性はまた、この合金から製造されたコンポーネントが、時には参照合金の導電率よりもさらに低い、低導電率のみを有するという事実による。したがって、電気的な腐食電流は、このタイプの既知の合金と比較して大いに低い。
【0024】
Sn比率は大いに、この合金から製造された合金製品が、軸受の部品として、有するべき必要とされる緊急稼働特性の原因となる。したがって、この合金において、合金元素Snは、二重機能、すなわち、当該合金の防食特性及び緊急稼働特性を有する。
【0025】
この合金から製造された、通例の熱処理へ供されるコンポーネントは特に、0.2%降伏強度に関しても、このようなコンポーネントに付与された強度の値に到達する。このことは、初回操作の間に摩擦パートナーの幾何適応のために特に有利である。軸方向の軸受にとって、このことは、配位する摩擦パートナーの幾何形状に関して互いに協働する摩擦パートナーを調整するために、局在性微小塑性変形を包含する。同時に、この合金から製造されたコンポーネントの表面は、外来粒子の埋込み性についての必要条件を満たすのに十分柔軟である。したがって、外来粒子を当該コンポーネントまたは加工品において埋め込むことによって、標的とする様式で、特に外来粒子を無害にすることは可能である。
【0026】
この合金から製造された合金製品の先に説明した特性により、これらの合金製品は典型的には、軸方向の軸受または放射方向の軸受の部品である。1つの好ましい実施形態によると、軸方向の軸受部品は、鍛造加工の経過におけるこの合金から製造されてきた。対照的に、放射方向の軸受部品としての合金製品は好ましくは、プレスまたはドローされる。この合金から作られた軸受コンポーネントのための典型的な適用例は、ターボチャージャー軸受である。
【0027】
この合金の先に説明した好ましい特性は、第1の実施形態によると、高力黄銅合金が、次の組成、すなわち、
59~65重量%のCu、特に59.5~65重量%のCuと、
1.3~2.3重量%のMn、特に1.4~2.3重量%のMnと、
1.3~1.65重量%のSn、特に1.4~1.65重量%のSnと、
0.5~1.5重量%のFe、特に0.5~1.5重量%のFeと、
2.4~3.4重量%のNi、特に2.55~3.4重量%のNiと、
3.1~4.1重量%のAl、特に3.4~4.1重量%のAlと、
1.0~2重量%のSi、特に1.05~2重量%のSiと、
最大2.0重量%のCoと、
不可避的不純物とともにある残余量のZnと、を有する場合、さらにより改善され得る。
【0028】
Coが、このような高力黄銅合金において提供されない場合、この合金は好ましくは、次の組成、すなわち、
59~62重量%のCu、特に59.5~62重量%のCuと、
1.3~1.65重量%のMn、特に1.4~1.65重量%のMnと、
1.3~1.65重量%のSn、特に1.4~1.65重量%のSnと、
0.5~1.0重量%のFe、特に0.6~1.0重量%のFeと、
2.4~3.4重量%のNi、特に2.55~3.4重量%のNiと、
3.1~4.1重量%のAl、特に3.4~4.1重量%のAlと、
1.0~1.7重量%のSi、特に1.05~1.7重量%のSiと、
不可避的不純物とともにある残余量のZnと、を有する。
【0029】
先に記載の高力黄銅合金は、Pbを含有してもよいが、好ましくは、0.2重量%の最大量のみを有し、またはより良好には、好ましくは0.1重量%の最大量のみを有する。後者の場合、このような高力黄銅合金は、廃車指向の意味内で、無Pbであるとみなされる。
【0030】
この高力黄銅合金の1つの特に好ましい実施形態において、Pbは、合金中に活発に導入される合金元素ではないが、むしろ、再利用材料の使用によってのみ溶融された合金へと導入される。所望の最大Pb量が超過していないことは、確認されていなければならない。
【0031】
先に記載の高力黄銅合金は典型的にはもっぱら、命名された合金成分から構成される。
【0032】
仕上げされた鋳造部品、鍛造部品、仕上げされた押出成形半仕上げ製品またはドローされた半仕上げ製品は、この高力黄銅合金から製造され得る。この高力黄銅合金でできた合金製品は、この黄銅合金の特別な特性により、例えば、エタノールの導入で酸性環境を有する油状環境における使用に特に適している。所望の場合、これらの合金製品の最終的な焼なましが提供され得る。
【0033】
本発明は、次に示す図面に関して、具体的な実例となる実施形態を基に以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】第1の合金の第1の検査標品の表面の光学顕微鏡写真を示す。
図2図1における検査標品と同じ合金であるが押出成形された試料の光学顕微鏡写真を示す。
図3図2における押出成形された試料の4枚の走査電子顕微鏡写真を示す。
図4】EDX分析が実施された領域が識別された、図3における画像1、画像2、及び画像4の走査電子顕微鏡写真を示す。
図5】第1の合金の試料の硬化図を示す。表1は、図4における試料点のEDX分析を示す。
図6】腐食検査を実施した後の図1図5に由来する合金の試料の顕微鏡写真を示す。
図7】同じ腐食検査へ供した、第1の比較合金でできた試料の顕微鏡写真を示す。
図8】同じ腐食検査へ供した、第2の比較合金でできた試料の顕微鏡写真を示す。
図9】第2の合金の試料の表面の光学顕微鏡写真を示す。
図10】同じ合金であるが、押出成形された試料の光学顕微鏡写真を示す。
図11図10における押出成形された試料の4枚の走査電子顕微鏡写真を示す。
図12】EDX分析が実施された領域が識別された、図11における試料の走査電子顕微鏡写真を示す。
図13】第2の合金の試料の硬化図を示す。
図14】腐食検査を実施した後の第2の合金の試料の顕微鏡写真を示す。表2は、図12における試料点のEDX分析を示す。
【0035】
検査1:
第1の検査シリーズにおいて、次の組成を有する合金の検査標品を注入し、押出成形した。
【0036】
図1に図示される鋳造試料の光学顕微鏡写真は、α相を上回るβ相の優勢を明確に示す。ケイ化物は認識可能である。β相の粒径は、α相の粒径よりも数倍大きく、およそ7~10μmの平均粒径で示され得る。
【0037】
同じ合金の押出成形された試料についても、同じ画像は、ケイ化物が、プレス加工の終了時に押出成形加工によりプレス操作の結果として引っ張られていることを示す(図2の右部分を参照されたい)。
【0038】
金属間相の比率は、両試料においておよそ6%である。α混合結晶比率は、最大6%である。残余量は、β混合結晶比率によって決定される。
【0039】
1μmよりも非常に小さな大きさの析出物は、図3において図示される押出成形された試料の走査電子顕微鏡写真において明らかである。
【0040】
EDX分析は、図3の走査電子顕微鏡写真の画像1、画像2、及び画像4に関して実施した。EDX分析を実施した領域を図4において識別し、表1において提供する。
【0041】
結果として、マンガンは、ケイ化物中で主として結合しているのに対し、スズはβ相中で溶解していることが確立され得る。ある特定の量のマンガンはまた、α相中に溶解している。このことは、βカバー層形成剤だけでなく、αカバー層形成剤(マンガン含有)も次に、β相中で溶解しているスズにより存在しているという事実により、特に有利である。
【0042】
硬さ検査は、押出成形された試料において、マクロ硬さ及びミクロ硬さに関して実施した。マクロ硬さは、ブリネルにより測定し、結果は266HB2.5/62.5であった。ミクロ硬さは、ビッカースにより判定した。254~270HV0.01のビッカース硬さをマトリックス中で判定した。金属間相は、元来、非常により硬い。768~1047HV0.01の硬さを当該検査で判定した。
【0043】
図5は、この合金から作られた試料の焼なまし中の硬化挙動を示す。硬さの最大値が250~300℃で存在することは明確に明らかである。さらに、これらの試料は、温度を上げると、軟化は全くまたは無視できるほどしか示さなかった。
【0044】
その後、この試料を種々の強さパラメータについて検査した。次の結果を得た。
【0045】
これらの結果は、さらなる検査標品を用いて立証可能であった。次の強さ値を、すでに説明したのと同じ組成を有する押出成形されかつ焼なまされた試料について得た。
【0046】
これらの試料は、非常に細かい構造ならびに高い強さ及び硬さを全体的に示した。
【0047】
最初に記載の試料を参照試料とともに、腐食検査へ供した。
【0048】
腐食検査の目的のため、試料を、自動車用オイル、20%バイオエタノールE85(85%エタノール)、及び硫酸の混合物中に半分浸漬した。pHを2.6に調整した。検査を60°で実施した。試料をこの混合物中で2日間維持した後、取り出して、光学顕微鏡によって評価した。
【0049】
図6は、腐食検査へ供した試料の一部を示す。図6におけるこの光学顕微鏡写真は、腐食攻撃が非常にわずかでしかないことを示し、それゆえ、材料のより深部の領域は、腐食から有効に保護されたままである。より深部の領域を腐食から保護するカバー層の形成は、この試料において観察された。カバー層を、当該図において当該カバー層の厚さに関して標識する。測定は、わずかな表面の圧痕において実施した。より良好な識別のために、カバー層を図6における破線によって示す。検査によって示されるように、このカバー層は良好な接着を有する。α相だけでなく、粒界及びβ相も耐食性であることが強調される。
【0050】
図7は、同じパラメータを用いて製造し及び腐食について検査した合金CuZn37Mn3Al2PbSiでできた比較試料についての結果を示す。局在層の形成は、特に左の画像において明確に明らかである。
【0051】
合金CuZn36でできた参照試料はまた、同じパラメータを用いて製造及び腐食について検査した。腐食クラックの形成及びプラグの発達をこの試料において観察した。
【0052】
下の行における右側の画像を純粋な高濃度の硫酸中でさらに処理した。
【0053】
この試料の導電率は、7.8MS/mであり、それゆえ、比較合金CuZn37Mn3Al2PbSiの導電率と同じレベルである。したがって、導電率は、腐食増大手段の結果として、参照試料と比較して、増大せず、またはいかなる場合においても明らかに増大することはなかったことが示されている。他の参照合金の導電率は、15.5MS/mであった。
【0054】
検査2:
第2の検査シリーズにおいて、次の組成を有する合金の検査標品を注入及び押出成形した。
【0055】
図9において図示される鋳造試料の光学顕微鏡写真は、α相を上回るβ相の優勢を明確に示す。およそ5~7μmの粒径を有するケイ化物は認識可能である。検査1における合金と比較して、この合金におけるα相の粒子は、β相の粒子よりも非常に大きい。
【0056】
同じ合金の押出成形試料についても、同じ画像は、ケイ化物が、プレス終了時に押出成形加工によりプレス操作の結果として引き延ばされることを示す(図10の右部分を参照されたい)。
【0057】
金属間相の比率は、当該試料においておよそ7%である。α混合結晶比率は、最大で30%である。残余は、β混合結晶比率によって判定される。当該合金は、その高いα比率により、冷却仕上げに特に十分適している。
【0058】
小さなサイズの析出物は、図11に図示される押出成形試料の走査電子顕微鏡写真において明らかである。
【0059】
図12は、図11における試料の領域における走査電子顕微鏡写真を示す。EDX分析を実施した領域を図12において識別し、表2に提供する。
【0060】
結果として、マンガンが主としてケイ化物中で結合しているのに対し、スズがβ相中で溶解していることは確立され得る。ある特定の量のマンガンもα相中に溶解している。このことは、βカバー層形成剤だけでなく、αカバー層形成剤(マンガン含有)も次にβ相中に溶解しているスズにより存在するという事実により、特に有利である。
【0061】
押出成形した試料において、マクロ硬さ及びミクロ硬さに関して、硬さ検査を実施した。マクロ硬さは、ブリネルにより測定し、結果は204~225 2.5/62.5であった。ミクロ硬さは、ビッカースにより判定した。マトリックス中で129~172HV0.01のビッカース硬さ、及びα相中で240~305HV0.01のビッカース硬さを判定した。金属間相は、元来、非常により硬い。826~961HV0.01の硬さを本検査で判定した。
【0062】
図13は、この合金から作られた試料の焼なまし中の硬化挙動を示す。硬化最大値がおよそ300℃で存在することは明確に明らかである。標識した軟化は、450℃よりも上で判定可能であった。600℃を上回る焼なましの間、硬さの増大は、α相部分からβ相部分への変換により観察された。
【0063】
この試料をその後、種々の強さパラメータについて検査した。次の結果を得た。
【0064】
これらの試料は、非常に細かい構造ならびに高い強さ及び硬さを全体的に示した。
【0065】
当該試料を参照試料とともに、腐食検査へ供した。腐食検査は、検査1についてすでに説明した通り実施した。同じ参照試料を検査1と同様に使用した。この点において、図7及び8ならびにこれらに付帯する考察に対して参照する。
【0066】
図14は、腐食処理後の第2の合金の試料の2枚の光学顕微鏡写真を示す。カバー層の形成を観察した。したがって、材料のより深部の領域は、腐食から有効に保護されたままである。α相に加えて、粒界及びβ相もこの試料について腐食耐性である。
【0067】
この試料の導電率は、6.8MS/mであったので、参照合金CuZn37Mn3Al2PbSiの導電率よりもさらにより低い。
【0068】
検査1の合金で得られた結果と、検査2の合金の結果との比較を基に、コバルトを含有しない検査1による合金は、非常により強い析出物硬化及び析出物凝固への傾向があることが明らかである。コバルトを含有する検査2による合金において、この元素は、ケイ化物の二次析出物としてかなり粗い一次粒子の形成を好む。本結果は、コバルトがケイ化物形成の動態に影響することを示す。より高いレベルのケイ化物の関与が所望である場合、当該合金は、コバルトなしで設計され、または小さな比率のコバルトのみを用いて設計される。β相の形成における差は同様に、コバルトの組み込みまたはコバルトの組み込みの欠如に起因する。コバルトは、α相に及ぼす安定化作用を有する。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
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図11
図12
図13
図14