(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】補体媒介性障害の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20221118BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20221118BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221118BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20221118BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221118BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20221118BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20221118BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20221118BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221118BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221118BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221118BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221118BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20221118BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20221118BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20221118BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20221118BHJP
C12N 15/57 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K38/48 100
A61K35/76
A61P37/02
A61P27/02
A61P13/12
A61P13/02
A61P9/10 101
A61P9/00
A61P25/28
A61P29/00
C12N15/12
C12N15/864 100Z
C12N15/85 Z
C12N7/01
C12N15/35
C12N15/57
(21)【出願番号】P 2018559206
(86)(22)【出願日】2017-05-03
(86)【国際出願番号】 GB2017051233
(87)【国際公開番号】W WO2017194912
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-04-30
(32)【優先日】2016-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(73)【特許権者】
【識別番号】316019129
【氏名又は名称】ザ シドニー チルドレンズ ホスピタルズ ネットワーク (ランドウィック アンド ウェストミード)
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラックマン,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー,イアン
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/103291(WO,A1)
【文献】特表2011-517955(JP,A)
【文献】国際公開第2016/033444(WO,A1)
【文献】JOURNAL OF GENE MEDICINE,米国,2015年10月,VOL:17, NR:10-12,,PAGE(S):229 - 243,http://dx.doi.org/10.1002/jgm.2865,IN THE MURINE RETINA: A POTENTIAL GENE THERAPY FOR AGE-RELATED MACULAR DEGENERATION
【文献】JOURNAL OF VIROLOGY,米国,THE AMERICAN SOCIETY FOR MICROBIOLOGY,2004年03月,VOL:78, NR:6,,PAGE(S):3110 - 3122,http://dx.doi.org/10.1128/JVI.78.6.3110-3122.2004,PSEUDOTYPED ADENO-ASSOCIATED VIRUS VECTORS
【文献】BIOCHEMICAL AND BIOPHYSICAL RESEARCH COMMUNICATIONS,NL,ELSEVIER,2014年08月08日,VOL:452, NR:2,,PAGE(S):263 - 275,http://dx.doi.org/10.1016/j.bbrc.2014.08.013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 48/00
C12N 15/00
C12N 7/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補体媒介性障害の予防
または治
療を必要とする対象における補体媒介性障害の予防
または治
療のための医薬の製造における、因子IまたはC3b不活性化およびiC3b分解活性を保有するその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターをキャプシドで包み込んでいる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の使用であって、前記医薬は静脈内投与されるためのものであり、静脈内投与によりコード化された因子Iまたはその断片もしくは誘導体の治療的有効量が前記対象における核酸から発現され、それにより、前記対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが上昇するものであり、
前記因子Iの断片が、その全長にわたり、配列番号2若しくは配列番号4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iと、少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドであり、又は、前記因子Iの誘導体が、
その全長にわたり、配列番号2
若しくは配列番号4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iと、少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドであ
り、前記因子I又はその断片若しくはその誘導体が肝特異的プロモーターから発現され、該rAAV粒子が、肝臓指向性を付与するためにシュードタイピングされている、前記使用。
【請求項2】
対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが、正常レベルを超えるレベルへと上昇する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
該AAV粒子が、投与後に対象の肝臓に感染して、肝臓からの因子Iまたはその断片もしくは誘導体の発現をもたらす、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
該rAAV粒子が1個または2個のAAV2 ITRまたはその誘導体を含み、ここで、各誘導体AAV2 ITRは、その全長にわたって、天然に存在するAAV2 ITRのヌクレオチド配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含み、そして、該rAAV粒子がAAV8キャプシドタンパク質でシュードタイピングされており(rAAV2/8)、あるいは
該rAAV粒子がAAV9キャプシドタンパク質でシュードタイピングされ
ており(rAAV2/9)、
あるいは該rAAV粒子が、天然のAAV8キャプシドタンパク質のアミノ酸配列と、その全長にわたり、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、AAV8キャプシドタンパク質の誘導体でシュードタイピングされており、あるいは該rAAV粒子が、天然のAAV9キャプシドタンパク質のアミノ酸配列と、その全長にわたり、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、AAV9キャプシドタンパク質の誘導体でシュードタイピングされている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記rAAV粒子が、その全長にわたり、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも98%又は少なくと99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するキャプシドタンパク質を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
肝特異的プロモーターがヒトアルファ-1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター
である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
肝特異的プロモーターが、HLP、LP1、HLP2、hAAT、HCR-hAAT、ApoE-hAAT又はLSPである、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
肝特異的プロモーターが、その全長にわたり、配列番号10のヌクレオチド配列と少なくとも90%又は少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが、正常レベルの2倍までのレベルへと上昇する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが、正常レベルより80%までまたは60%まで高いレベルへと上昇する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが、正常レベルより40%までまたは20%まで高いレベルへと上昇する、請求項1~
10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが、正常レベルより少なくとも5%、10%、15%、20%または25%高いレベルへと上昇する、請求項1~
11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが対象の血清中のレベルである、請求項1~
12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性の正常レベルが、対象の血清中の30~40μg/mlの因子Iによりもたらされるものと同等である、請求項1~
13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
補体媒介性障害が、補体C3bフィードバックサイクルの過剰活性に関連した障害である、請求項1~1
4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
補体媒介性障害が、加齢黄斑変性(AMD
)、デンスデポジット病(DDD)、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、C3糸球体症、膜性増殖性糸球体腎炎2型(MPGN2)、アテローム性動脈硬化症、慢性心血管疾患、アルツハイマー病、全身性血管炎、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、高齢者の炎症性もしくは自己炎症性疾患、膜増殖性糸球体腎炎I型(MPGN I型)、膜増殖性糸球体腎炎III型(MPGN III型)、ギラン-バレー症候群、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、IgA腎症または膜性糸球体腎炎である、請求項1~
15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
対象がAMDを発生するリスクを有する、請求項
16に記載の使用。
【請求項18】
AMDに関連した1以上のSNPに関して対象がホモ接合またはヘテロ接合感受性である、請求項
17に記載の使用。
【請求項19】
前記対象における補体媒介性障害の予防または治療が、対象がAMDを発生するリスクを有するかどうかを決定することを更に含む、請求項
17または
18に記載の使用。
【請求項20】
AMDに関連した1以上のSNPに関して対象がホモ接合またはヘテロ接合感受性であるかどうかを決定することにより、対象がAMDを発生するリスクを有するかどうかを決定する、請求項
19に記載の使用。
【請求項21】
AMDに関連した1以上のSNPに関して対象がヘテロ接合感受性である場合に、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを、正常レベルより少なくとも10%高いレベルへと上昇させる、請求項
18または
20に記載の使用。
【請求項22】
AMDに関連した1以上のSNPに関して対象がホモ接合感受性である場合に、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを、正常レベルより少なくとも50%高いレベルへと上昇させる、請求項
18または
20に記載の使用。
【請求項23】
投与
の1週間
以上後に、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを決定し、活性のレベルが正常レベル以下であることが判明した場合には投与を反復することを更に含む、請求項1~
22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
因子Iが、配列番号2または4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iである、請求項1~
23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
前記因子Iの誘導体が、その全長にわたり、配列番号2若しくは配列番号4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iと、少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドであり、かつ/または、因子Iの断片が、その全長にわたって、配列番号2または4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iに対して少なくと
も95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸同一性を有するポリペプチドである、請求項1~
24のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
対象がヒト対象である、請求項1~
25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
因子IまたはC3b不活性化およびiC3b分解活性を保有するその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターであって、前記因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸が
肝特異的プロモーターに機能的に連結されており、
前記因子Iの断片が、その全長にわたり、配列番号2若しくは配列番号4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iと、少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドであり、前記因子Iの誘導体が、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iと、その全長にわたり少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドである、前記rAAVベクター。
【請求項28】
肝特異的プロモーターが、HLP、LP1、HLP2、hAAT、HCR-hAAT、ApoE-hAAT又はLSPである、請求項27に記載のrAAVベクター。
【請求項29】
肝特異的プロモーターがヒトアルファ-1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターである、請求項
27に記載のrAAVベクター。
【請求項30】
肝特異的プロモーターが、その全長にわたり、配列番号10のヌクレオチド配列と少なくとも90%又は少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有する、請求項27に記載のrAAVベクター。
【請求項31】
複数のAAV逆方向末端反復(ITR)に
挟まれた発現カセットを含むrAAVベクターであって、該発現カセットが、
肝特異的プロモーターおよびポリアデニル化認識部位に機能的に連結された、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む、請求項
27~30のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項32】
前記複数のITRが
複数のAAV2 ITRまたはその誘導体であり、各
々のAAV2 ITR
の誘導体が、その全長にわたって、天然に存在するAAV2 ITRのヌクレオチド配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含む、請求項
31に記載のrAAVベクター。
【請求項33】
請求項
27~32のいずれか1項に記載のrAAVベクターをキャプシドで包み込んでいるウイルスキャプシドを含むrAAV粒子
であって、rAAV粒子が肝臓指向性を付与するためにシュードタイピングされている、前記rAAV粒子。
【請求項34】
rAAV粒子が
、AAV8もしくはAAV9キャプシドタンパク質
、または
天然に存在するAAV8キャプシドタンパク質のアミノ酸配列と、その全長にわたって、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%同一であるアミノ酸配列を含む、AAV8キャプシドタンパク質の誘導体、または、天然に存在する
AAV9キャプシドタンパク質のアミノ酸配列
と、その全長にわたって、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%同一であるアミノ酸配列を含む
、AAV9キャプシドタンパク質の誘導体を含む、請求項
33に記載のrAAV粒子。
【請求項35】
rAAV粒子が1個または2個のAAV2 ITRまたはその誘導体を含み、各誘導体AAV2 ITRが、その全長にわたって、天然に存在するAAV2 ITRのヌクレオチド配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含む、請求項
34に記載のrAAV粒子。
【請求項36】
前記rAAV粒子が、その全長にわたり、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも98%又は少なくと99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するキャプシドタンパク質を含む、請求項33に記載のrAAV粒子。
【請求項37】
前記因子Iの誘導体が、その全長にわたり、配列番号2若しくは配列番号4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iと、少なくとも95%、96%、97%、98%、若しくは99%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドであり、かつ/又は、前記因子Iの断片が、その全長にわたり、配列番号2若しくは配列番号4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iと、少なくとも95%、96%、97%、98%、若しくは99%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドである、請求項33~36のいずれか一項に記載のrAAV粒子。
【請求項38】
請求項
27~32のいずれか1項に記載のAAVベクターまたは請求項
33~37のいずれか1項に記載のAAV粒子と医薬上許容される担体、賦形剤または希釈剤とを含む、
補体媒介性障害を予防するため若しくは治療するための医薬組成物。
【請求項39】
静脈内投与に適した、請求項
38に記載の医薬組成物。
【請求項40】
請求項
27~32のいずれか1項に記載の
rAAVベクターまたは請求項
33~37のいずれか1項に記載の
rAAV粒子と、医薬上許容される担体、賦形剤または希釈剤とを含む、
補体媒介性障害を予防するため若しくは治療するためのキット。
【請求項41】
請求項
27~32のいずれか1項に記載のrAAVベクターと、AAV複製およびキャプシドタンパク質ならびに生産的AAV生活環に必要な遺伝子をコードする核酸を含む1以上のヘルパープラスミドとを含む、rAAV粒子の製造のためのキット。
【請求項42】
AAV複製およびキャプシドタンパク質をコードする核酸を含む第1ヘルパープラスミドと、生産的AAV生活環に必要な遺伝子をコードする核酸を含む第2ヘルパープラスミドとを含む、請求項
41に記載のキット。
【請求項43】
補体媒介性障害を予防するため若しくは治療するための医薬としての使用のための、請求項
27~32のいずれか1項に記載の
rAAVベクター、請求項
33~37のいずれか1項に記載の
rAAV粒子、または請求項
38もしくは39に記載の医薬組成物。
【請求項44】
補体媒介性障害の治療における使用のための、請求項
27~32のいずれか1項に記載の
rAAVベクター、請求項
33~37のいずれか1項に記載の
rAAV粒子、または請求項
38もしくは39に記載の医薬組成物。
【請求項45】
補体媒介性障害の治療のための医薬の製造における、請求項
27~32のいずれか1項に記載の
rAAVベクター、請求項
33~37のいずれか1項に記載の
rAAV粒子、または請求項
38もしくは39に記載の医薬組成物の使用。
【請求項46】
補体媒介性障害が、補体C3bフィードバックサイクルの過剰活性に関連した障害である、請求項
44に記載の
rAAVベクター、
rAAV粒子もしくは
医薬組成物。
【請求項47】
補体媒介性障害が加齢黄斑変性(AMD
)、デンスデポジット病(DDD)、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、C3糸球体症、膜性増殖性糸球体腎炎2型(MPGN2)、アテローム性動脈硬化症、慢性心血管疾患、アルツハイマー病、全身性血管炎、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、高齢者の炎症性もしくは自己炎症性疾患、膜増殖性糸球体腎炎I型(MPGN I型)、膜増殖性糸球体腎炎III型(MPGN III型)、ギラン-バレー症候群、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、IgA腎症または膜性糸球体腎炎である、請求項
46に記載の
rAAVベクター、
rAAV粒子
もしくは医薬組成物。
【請求項48】
補体媒介性障害が加齢黄斑変性(AMD)である、請求項
46に記載の
rAAVベクター、
rAAV粒子もしくは
医薬組成物。
【請求項49】
補体媒介性障害が、補体C3bフィードバックサイクルの過剰活性に関連した障害である、請求項
45に記載の使用。
【請求項50】
補体媒介性障害が、加齢黄斑変性(AMD
)、デンスデポジット病(DDD)、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、C3糸球体症、膜性増殖性糸球体腎炎2型(MPGN2)、アテローム性動脈硬化症、慢性心血管疾患、アルツハイマー病、全身性血管炎、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、高齢者の炎症性もしくは自己炎症性疾患、膜増殖性糸球体腎炎I型(MPGN I型)、膜増殖性糸球体腎炎III型(MPGN III型)、ギラン-バレー症候群、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、IgA腎症または膜性糸球体腎炎である、請求項
49に記載の使用。
【請求項51】
補体媒介性障害が加齢黄斑変性(AMD)である、請求項
49に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補体因子I(またはその断片もしくは誘導体)のレベルを上昇させるために遺伝子治療を使用する、補体媒介性障害、特に、補体C3bフィードバックサイクルの過剰活性に関連した障害(例えば、加齢黄斑変性(AMD))の治療方法、補体因子I(またはその断片もしくは誘導体)をコードする組換えウイルスベクター、該ベクターをキャプシドで包む(encapsidate)組換えウイルス粒子、および該治療方法におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
補体系は、差し迫った危険に対して免疫系に警告するために炎症応答を誘発することにより、感染に対する第1の防御線を形成する。それは、微生物および感染細胞または損傷細胞に目印を付けて細胞溶解または食作用性排除によるそれらの殺傷を促進することにおいて必須の役割を果たす。補体系は、3つの異なるメカニズム、すなわち、古典的経路、レクチン経路および代替経路により活性化されうる(
図1を参照されたい)。終末補体段階および他の補体エフェクターメカニズムの活性化を可能にする豊富な血漿タンパク質であるC3の切断において、3つの全ての経路は収束する。
【0003】
代替経路は、正のフィードバック増幅を引き起こすその他の2つの補体経路のうちの1つにより、あるいは、非常に低い濃度で血清中で絶えず生成されるC3b、またはC3における内部チオエステル結合の自発的加水分解の結果として生じるiC3(またはC3(H2O))により活性化されることが、現在一般に受け入れられている。この「ティックオーバー(tickover)」は、因子Bが結合しうる活性化C3の必要最小限の量を提供し、それは因子Dによって更に切断されて初期C3転換酵素複合体iC3Bbを形成し、これは天然C3をC3bに変換しうる。C3bは、セリンプロテアーゼ前駆体因子BがC3bに結合することを可能にする構造的再構成を受ける。ついで因子Dが該複合体に結合し、因子BをBbおよびBaに切断しうる。C3bBbは代替経路C3転換酵素である。因子BがC3bまたはiC3のいずれかに結合しない限り、因子Dは血清中の因子Bを切断しない。新たに生成したC3bは病原体の表面(または任意の他の近くの表面)に共有結合することが可能であり、そこで、それは因子Bの別分子に結合しうる。この結合は、因子Hの機能活性に拮抗することにより代替経路C3転換酵素の半減期を増加させるプロパージンにより安定化される。
【0004】
代替経路は、共にC3bに作用する2つの競合サイクル間のバランスによって支配される。これらはC3bフィードバックサイクルおよびC3b分解サイクルであり、これらは補体活性化の中心に位置する(
図2を参照されたい)。iC3またはC3bが生成し、表面に沈着すると、C3bが初期段階でどのように生成したかには無関係に、2つの異なる反応が生じうる。それは因子B(フィードバック)または因子H(または膜結合FI補因子CD46もしくはCD35)(分解)のいずれかに結合しうる。
【0005】
C3b(またはC3(H2O))への結合はC3転換酵素(因子B、因子Dおよびプロパージンの存在下)の増幅および膜攻撃複合体(MAC)の構築の開始をもたらし、またはC3b(因子Hおよび因子Iの存在下)の不活性化をもたらす。増幅が生じるのか不活性化が生じるのかは、専ら、C3bが結合している表面の性質によって決まる。いわゆる「保護された表面」においては、因子Hの結合(そしてまた、それによるC3bの因子I切断)が損なわれる。例えば、大腸菌(Escherichia coli)04のリポ多糖(LPS)上のC3bへの因子Hの結合はB因子の結合より遥かに弱い。
【0006】
補体活性化中のC3の分解を
図3に示す。C3(185kDa)は2本の鎖、すなわち、α鎖およびβ鎖からなり、一方、C3bにおいては、N末端ペプチドであるC3a(9kDa)がC3転換酵素により切断除去される。C3bの切断はC3bのα'鎖における2回の因子I媒介性切断により達成される。C3f(3kDa)と称される小さな断片が遊離され、α'鎖は68kDaおよび43kDaの断片に分割される。このタンパク質分解されたC3は今やiC3bと称され、それは、もはや、C3またはC5転換酵素に関与できない。しかし、それは、好中球上の補体受容体CR3(CD11b、CD18)に対するその反応性により、補体誘導性炎症の重要なメディエーターである。iC3bへのこの最初の切断は非常に迅速に生じ、因子Hを補因子として使用し、一方、iC3bの第2の切断は遥かに遅い。補因子補体受容体1(CR1)の存在下でのみ、iC3bは因子Iによって更に切断されうる。因子Iは前記の68kDaの断片においてiC3bを再び切断し、該断片は該分子の大きな部分(C3cと称される)を遊離する。C3dgは共有結合(糖へのエステル結合またはタンパク質へのアミド結合のいずれか)によって表面に結合したままである。C3dgはCR3とは反応せず、炎症性メディエーターではない。
【0007】
補体タンパク質における、それらの機能に影響を及ぼす遺伝的変異は、感染症に対する耐性および種々の炎症性疾患に対する感受性に関連している。最もよく記載されている多型は加齢黄斑変性(AMD)、デンスデポジット病(DDDおよび非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)に関連している。
【0008】
AMDは、代替経路における多型による影響を受ける最も一般的な疾患である。それは以下の因子HおよびFH関連タンパク質における幾つかの一般的な変異体に関連している:FHハプロタイプ1(これはfHY402H SNPを含む)(Hainesら, Science, 308(5720):419-421, April 2005; Edwardsら, 308(5720):421-424, April 2005; Kleinら, Science, 308(5720):385-389, April 2005);FHハプロタイプ2(これはfHV62I SNPを含む)(Hagemanら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 102(20):7227-7232, May 2005);およびFHハプロタイプ3(これはCFHR1/CFHR3(防御型(protective))の欠失を含む)(Hughesraら, Nat. Genet., 38(10):1173-1177, October 2006)。FHハプロタイプ1の、2つのコピーを遺伝的に受け継ぐことは、AMDのリスクを7倍増加させることが、引用されている研究により示された。他のAMD関連遺伝的変異は因子BおよびC3におけるもの(C3 R102G (Heurichら,Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 108(21):8761-8766, May 2011))である。ごく最近、低い因子I血清レベルになりやすくする稀な因子I突然変異が進行性AMDのリスクの有意な増加に関連づけられた(Kavanaghら, Hum. Mol. Genet., 24(13):3861-3870, July 2015)。前記の多型を以下の表1に列挙する。
【0009】
【0010】
デンスデポジット病(DDD)を有する患者は「AMDのみの」患者より遥かに早い年齢(彼らが生存している場合)でAMDと同様の網膜変化をも発生する点で、デンスデポジット病(DDD)はAMDに臨床的に関連している。実際、H1およびH2ハプロタイプにおける多型は、AMDに関して報告されているのと同様に、DDDのリスクのそれぞれ増加または減少をもたらし(Pickeringら, J. Exp. Med., 204(6):1249-1256, June 2007)、C3における多型も同様である。幾つかのリスクハプロタイプの組合せはDDDのリスクを劇的に増加させる(Abrera-Abeledaら, J. Am. Soc. Nephrol., 22(8):1551-1559, August 2011)。DDDの発生は、iC3bを生成する能力に完全に依存することが、マウスの研究から公知である(Roseら, J. Clin. Invest., 118(2):608-618, February 2008)。疾患の発生には因子Iの存在が絶対的に必要である。完全な因子I欠損は、炎症性メディエーターiC3bの非存在ゆえに、DDDおよびAMDのリスクを消失させる。
【0011】
AMDおよびDDDは共に、流体相代替経路の調節における変化に関連しており、したがって、眼または腎特異的疾患ではなく全身性疾患とみなされうる。これらの2つの器官が特に影響を受ける理由は、おそらく、器官構造および補体調節タンパク質の厳密な分布にあるのであろう。両方の器官においては、血漿と直接接触する基底膜ならびに赤血球および血漿の分離が存在し、このことは、補体攻撃からの防御を因子H補因子および因子Iの活性に遥かに大きく依存させる。AMDおよびDDDに罹りやすくするほとんどの多型は、C3結合をもたらす因子Hの領域において見出される。
【0012】
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)も、代替経路遺伝子、特に因子H遺伝子における突然変異に関連しているが(全aHUS症例の半分)、AMDおよびDDDとは異なり、これらの突然変異は通常、因子HのC末端(すなわち、因子Hを表面に隔離することを担う領域)において見出された(Manuelianら, J. Clin. Invest., 111(8):1181-1190, April 2003)。他の素因性多型はC3またはCFB遺伝子において見出された(Goicoechea de Jorgeら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 104(1):240-245, January 2007; Fremeaux-Bacchiら, Blood, 112(13):4948-4952, December 2008)。要約すると、aHUSのリスクは、細胞表面上の不適切な代替経路活性化を促進するリスク多型の存在下で著しく増加する(Rodriguez de Cordobaら, Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Basis of Disease, 1812(1):12-22, January 2011)。
【0013】
ゲノムワイド関連研究は、例えばCR1遺伝子、クラステリン(共に、AD素因性APOE-ε4対立遺伝子の1個または2個のコピーを既に有する個体においてアルツハイマー病(AD)に更に罹りやすくする)(Haroldら, Nat. Genet., 41(10):1088-1093, October 2009; Lambertら, Nat. Genet., 41(10):1094-1099, October 2009)およびC5(関節リウマチに関連している)(Kurreemanら, PLoS Med., 4(9):e278, September 2007)に存在する更なる多型を特定している。フィードバックサイクルを介した補体およびその効果の増幅は全ての補体経路に固有のものであり、したがって、その操作は他の病態生理学的過程をも改善する可能性があることに注目すべきである。
【0014】
前記の多型のほとんどは、誘発刺激には無関係に全補体経路を増幅する代替経路フィードバック活性の増強を疾患対立遺伝子が引き起こしやすくするという共通点を有する(Lachmann, Adv. Immunol., 104:115-149, 2009)。したがって、過剰炎症性コンプロタイプ(hyperinflammatory complotype)(補体が関与する感染症および炎症性障害の両方のリスクを変化させる個体に遺伝した補体遺伝子における遺伝的変異体のパターンを表すものとして定義される)は特に幼少期における感染を防御するが、後の人生において個体が一般的な侵襲性病原体に対するIgG抗体を既に形成したときに、それが炎症性疾患に対する素因をもたらすという犠牲を伴って成り立つ。遺伝的研究が公知または新規補体多型を関連づけるにつれて、コンプロタイプにより影響される疾患の一覧は着実に増大するため(Harrisら, Trends Immunol., 33(10):513-521, October 2012)、C3bフィードバックサイクルのこの過剰活性(過剰活動)を逆転させるための方法を見出すことにおける相当な関心および必要性が生じている。
【0015】
生成するC3bの量を決定するフィードバックループのバランスは両端に傾きうる。フィードバックループの増幅により、またはC3b分解メカニズムの抑制により、より多くのC3bが生成しうる。C3b投入量の増加により(例えば、古典的/レクチン経路からの、より多くのC3転換酵素により)、またはフィードバック反応の加速により(例えば、因子Bの機能獲得型突然変異体により、または因子Bもしくはマグネシウムイオンの増加により)、またはコブラ毒因子(これはC3b様特性を有し、因子Bに結合可能であり、因子Dによる因子Bの切断の後、C3転換酵素を形成しうる)の添加により、または代替経路C3転換酵素の安定化により(例えば、プロパージンまたは腎炎因子により)、フィードバックループは増幅されうる。膜補因子タンパク質(MCP)または因子Hおよび因子Iの非存在または低濃度により、あるいは感受性C3遺伝子型(例えば、C3Fにおいては、SNP:R102Gは、C3Sより低い、因子Hに対するアフィニティを有し、したがって、よりゆっくりと因子Iによって切断される)により、C3b分解は妨げられうる。C3分解は、保護された表面上においても妨げられる。C3bフィードバックサイクルの負の調節はC3b分解の促進により達成される。これは、因子Hまたは因子Iの濃度を上昇させることにより、あるいは因子D、因子Bまたはプロパージンの抑制により行われる。C3bフィードバックサイクルのダウンレギュレーションのための特定の標的は因子D、因子Hおよび因子Iである。
【0016】
AMDの後期型である地図状萎縮の治療のための療法は既に開発されており、現在、第III相臨床試験中である(Genentech/RocheによるMAHALO研究)。この場合、硝子体内注射により投与される、因子Dに対するヒト化モノクローナル抑制抗体(ランパリズマブ)が、地図状萎縮の進行速度を停止させるために使用されている。因子Dは非常に低い血清濃度で存在し、代替経路の必須因子である。それにもかかわらず、因子Dは、その小さなサイズ(27kDa)ゆえに、腎臓によって迅速に除去され、迅速に再合成される。したがって、抗因子D治療は網膜のような小さな区画においては因子Dの局所的抑制のために有効であるが、全身的には有効でない。硝子体内注射の投与経路は付随リスクが無いわけではなく、それはこの治療のもう1つの欠点である。
【0017】
残りの2つの標的タンパク質に関しては、C3bフィードバックサイクルは、因子HおよびIの血漿濃度を増加させることによってダウンレギュレーションされうることが、1970年代から公知である(Nydeggerら, J Immunol, 120(4):1404-1408, January 1978; LachmannおよびHalbwachs, Clin. Exp. Immunol., 21(1):109-114, July 1975)。補体および/または代替経路障害を多数の疾患に関連づける、着実に増加しつつある関連性の、新たに生じつつあるゲノムデータは(例えば、Harrisら, 2012 (前掲); Hainesら, 2005 (前掲); Hagemanら, 2005 (前掲); Kavanaghら, Hum. Mol. Genet., 24(13):3861-3870, July 2015)、無制御経路関連障害に対する療法における因子Iまたは因子Hの使用を支持している。それでも、因子Iが、幾つかの理由により、より良好な標的である。第1に、それは因子Hより遥かに低い濃度で存在する(それぞれ、約35μg/ml(FI)および約200~500μg/ml(FH))。より少ない量は取り扱いがより容易であり、治療コストをも低減する。更に、表面への結合に関して因子Hと競合する、因子Hの変異体[因子H関連タンパク質1~5(FHR 1~5)と称される]が存在する。FHR 1、2および5は、共有された二量体化モチーフを含有し、該モチーフは3つのホモ二量体および3つのヘテロ二量体の形成を可能に、それらは、生理的に適切な濃度で、有意に増加したアビディティを有し、因子Hとの競合に勝つ。因子Hの濃度の増加は、おそらく、これらの競合的アンタゴニストの主要病原性効果を阻止しないであろう。最後の、そして最も重要な理由は、因子Iが、iC3bへのC3bの切断を促進するだけでなく、iC3bの分解をも促進する唯一の調節因子であるということである。生理的条件下では、iC3bに対する因子Hのアフィニティは、複合体を形成するには低すぎる。補体受容体CR3と反応するiC3bは、補体活性化が炎症を引き起こす主要メカニズムであるため、C3dgへのiC3bの分解が、補体誘発性炎症を低減するために不可欠である(Lachmann, Adv. Immunol., 104:115-149, 2009)。
【0018】
ヒトの疾患を再現する最適な動物モデルが存在せず、特に、マウスにおいては黄斑が存在しないため、AMDの研究は妨げられている。しかし、本発明者らが認識しているとおり、AMDは、眼特異的欠損ではなく、根本的な全身的欠損を有し、これは、補体タンパク質および調節因子におけるAMD関連多型の、益々増大する一覧により示される。AMDの治療の鍵は全身的代替経路調節の制御にある、と本発明者らは理解している。代替経路C3bフィードバックサイクルのダウンレギュレーションは、因子Iの血漿レベルを上昇させることにより達成されうる。WO 2010/103291は血漿精製または組換え因子Iの補充によるAMDの治療方法を記載している。
【0019】
iC3bの形成およびそれに続くC3dgへの分解に対する因子I補充(代謝経路活性化因子としてのザイモサンの存在下)の効果は3つの異なるコンプロタイプにおいて測定されている(Layら, Clin. Exp. Immunol., 181(2):314-322, August 2015; Lachmannら, Clin. Exp. Immunol., September 2015)。選択されたコンプロタイプは、AMD、C3 S/FR102G、fHY402HおよびfHV62Iに関連した3つの共通の多型に関して、感受性または防御性のホモ接合性およびヘテロ接合性に分類された。感受性コンプロタイプは、防御性およびヘテロ接合性の両方の群より遥かに低い、遅延した、iC3bからC3dgへの変換を示すだけでなく、全因子I濃度を増加させることにより、感受性遺伝子型が防御性遺伝子型へと「変換」されることが可能であり、CFHおよびC3における不利な多型を克服しうることをも、結果は示している。22μg/ml(正常FI濃度未満)の因子Iでの補充は「リスクのある」遺伝子型を防御性遺伝子型に変換する(Lachmannら, 2015 (前掲))。したがって、僅か3つの遺伝子座の存在が因子Iによる代替経路補体活性化の調節に顕著な影響を及ぼし、これは、過剰炎症性コンプロタイプが、因子Iの濃度の増加によるダウンレギュレーションに、より抵抗性であるという点においてである。因子Iの血漿濃度を増加させることにより、不利なコンプロタイプの効果を逆転させることが可能であり、疾患の進行が減速する。
【0020】
遺伝子治療は、治療目的で患者の体内に遺伝物質を運搬することである。インビボ遺伝子治療の場合、ベクターが患者の体内に注入され、標的細胞に進入し、ついで、該細胞において、該ベクターにより運搬されるトランスジーン(導入遺伝子)が発現される。最初は、遺伝子治療は、直接的であるが比較的簡単なアプローチを要する単一遺伝子欠損を有する稀な疾患、例えば重症複合免疫不全(SCID)に焦点が絞られていた。初期の成功は、後天性疾患、例えば癌、心血管疾患、神経変性障害、および感染症へと、領域を拡張することを可能にした。血友病Bおよびリポタンパク質リパーゼ欠損症の治療において、注目すべき成功が達成されている。しかし、多数の臨床試験にもかかわらず、遺伝子治療製品は米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)(FDA)によって未だ承認されていない。欧州においては、最初の遺伝子治療薬であるグリベラ(Glybera)が2012年に欧州医薬品庁(European Medicines Agency)によって承認された。グリベラは、稀な単一遺伝子疾患であるリポタンパク質リパーゼ欠損症(LPLD)に対する治療薬であり、筋肉内注射される組換えウイルスベクター内にパッケージングされた欠損遺伝子からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】国際公開第2010/103291号パンフレット
【非特許文献】
【0022】
【文献】Hainesら, Science, 308(5720):419-421, April 2005;
【文献】Edwardsら, 308(5720):421-424, April 2005;
【文献】Kleinら, Science, 308(5720):385-389, April 2005
【文献】Hagemanら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 102(20):7227-7232, May 2005
【文献】Hughesraら, Nat. Genet., 38(10):1173-1177, October 2006
【文献】Heurichら,Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 108(21):8761-8766, May 2011)
【文献】Kavanaghら, Hum. Mol. Genet., 24(13):3861-3870, July 2015
【文献】Pickeringら, J. Exp. Med., 204(6):1249-1256, June 2007
【文献】Abrera-Abeledaら, J. Am. Soc. Nephrol., 22(8):1551-1559, August 2011
【文献】Roseら, J. Clin. Invest., 118(2):608-618, February 2008
【文献】Manuelianら, J. Clin. Invest., 111(8):1181-1190, April 2003
【文献】Goicoechea de Jorgeら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 104(1):240-245, January 2007;
【文献】Fremeaux-Bacchiら, Blood, 112(13):4948-4952, December 2008
【文献】Rodriguez de Cordobaら, Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Basis of Disease, 1812(1):12-22, January 2011
【文献】Haroldら, Nat. Genet., 41(10):1088-1093, October 2009;
【文献】Lambertら, Nat. Genet., 41(10):1094-1099, October 2009
【文献】Kurreemanら, PLoS Med., 4(9):e278, September 2007
【文献】Lachmann, Adv. Immunol., 104:115-149, 2009
【文献】Harrisら, Trends Immunol., 33(10):513-521, October 2012
【文献】Nydeggerら, J Immunol, 120(4):1404-1408, January 1978;
【文献】LachmannおよびHalbwachs, Clin. Exp. Immunol., 21(1):109-114, July 1975
【文献】Layら, Clin. Exp. Immunol., 181(2):314-322, August 2015;
【文献】Lachmannら, Clin. Exp. Immunol., September 2015
【発明の概要】
【0023】
現在の遺伝子治療は、既存の機能的遺伝子の過剰発現を達成させるのではなく、欠損遺伝子を置換するための遺伝子置換に基づいている。本発明者らは、驚くべきことに、組換えウイルスベクターを使用する遺伝子治療により、因子Iの血漿レベルがマウスにおいて有意に上昇しうることを本発明において見出した。
【0024】
本発明は、補体C3bフィードバックサイクルの負の調節が遺伝子治療による因子Iの血漿中のインビボ過剰発現によって達成されうるという認識に基づいている。その結果もたらされる、代替経路のフィードバックループのリバランシングは、C3bおよびiC3bの分解を促進して、補体媒介性障害、特に、代替経路調節における根本的欠損を有する障害における主要疾患因子を除去する。
【0025】
本発明においては、因子IまたはC3b不活性化およびiC3b分解活性を保有するその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む組換えウイルスベクターを対象に投与して、コード化因子Iまたはその断片もしくは誘導体の治療的有効量を対象における核酸から発現させ(対象中で該核酸から発現させ)、それにより、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを上昇させることを含む、補体媒介性障害の予防、治療または改善を必要とする対象(被験体)における補体媒介性障害の予防、治療または改善方法を提供する。
【0026】
本発明の方法は、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルの全身的増加を達成するために使用されうる。
【0027】
特定の実施形態においては、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを、正常レベルを超えるレベルへと上昇させる。
【0028】
したがって、1つの実施形態においては、本発明は、因子IまたはC3b不活性化およびiC3b分解活性を保有するその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む組換えウイルスベクターを対象に投与して、コード化因子Iまたはその断片もしくは誘導体の治療的有効量を対象における核酸から発現させ、それにより、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを、正常レベルを超えるレベルへと上昇させることを含む、補体媒介性障害の予防、治療または改善を必要とする対象における補体媒介性障害の予防、治療または改善方法を提供する。
【0029】
特定の実施形態においては、該組換えウイルスベクターをキャプシドで包む(包膜する)組換えウイルス粒子を対象に投与する。
【0030】
また、本発明においては、因子IまたはC3b不活性化およびiC3b分解活性を保有するその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む組換えウイルスベクターを提供する。
【0031】
本発明においては更に、本発明の組換えウイルスベクターをキャプシドで包むウイルスキャプシドを含む組換えウイルス粒子を提供する。
【0032】
ウイルスゲノムは遺伝子およびシス作用性調節配列(これらはほとんどのウイルスにおいて空間的に分離している)から構成される。この配置を用いてウイルスベクターを設計する。複製またはキャプシド/エンベロープタンパク質をもたらすウイルス遺伝子は治療用トランスジーンと交換され、該トランスジーンは、後に両端において調節シス作用性配列に隣接する(Thomasら, Nat. Rev. Genet., 4(5):346-358, May 2003)。欠失遺伝子はトランスで働き、ゲノム内に組み込まれたウイルス遺伝子を有するパッケージング細胞系により、またはウイルスベクターと共にコトランスフェクトされる異種プラスミドにより提供されうる(Kayら, Nat. Med., 7(1):33-40, January 2001)。このようにして、標的細胞に形質導入しうる(形質導入する能力を有する)、トランスジーンを含有する複製欠損ウイルス粒子が製造されうる。
【0033】
「組換えウイルスベクター」は、1以上の異種配列、すなわち、ウイルス由来ではない核酸配列を含む組換えポリヌクレオチドベクターを意味する。組換えウイルスベクターは、プラスミド、線状人工染色体、脂質との複合体、リポソーム内に封入されたもの、およびウイルス粒子内にキャプシドで包まれたものを含む多数の形態のいずれかでありうる。組換えウイルスベクターをウイルスキャプシド内にパッケージングして、組換えウイルス粒子を得ることが可能である。「組換えウイルス粒子」は、少なくとも1つのウイルスキャプシドタンパク質とキャプシドで包まれた組換えウイルスベクターゲノムとから構成されるウイルス粒子を意味する。
【0034】
本発明による使用に適した組換えウイルスベクターには、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペス-1ウイルス(HSV-1)、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)に由来する組換えウイルスベクターが含まれる(Thomasら, 前掲; 遺伝子治療におけるこれらのベクターの使用の相対的な利点および欠点の比較に関しては、この文書の表1を参照されたい)。
【0035】
ウイルスベクターは組込みベクターおよび非組込みベクターに分類されうる。組込みベクター、例えばレトロウイルスおよびレンチウイルスは、トランスジーンを宿主細胞染色体内に永久に挿入する。非組込みベクター、例えばアデノウイルスおよびHSVに基づくベクターは、エピソームからトランスジーンの発現を引き起こす。AAVに基づくベクターは主として非組込みベクター(組込み率は10%未満)である。全ての娘細胞に遺伝的に受け継がれる組込みベクターと比較して、非組込みベクターは、迅速に分裂する細胞において迅速に希釈されるが、挿入突然変異誘発のリスクをもたらすこともない。したがって、レトロウイルスは、通常、迅速な分裂および分化を受ける細胞(例えば、造血幹細胞)のトランスフェクションに使用され、非組込みウイルスは有糸分裂後組織(例えば、肝臓、筋肉または眼)に使用される。
【0036】
本発明の特定の実施形態においては、組換えウイルスベクターは、非組込み性の(または主として非組込み性の、すなわち、持続性ベクターゲノムの50%未満、例えば40%未満、30%未満、20%未満または10%未満がインビボで組込まれる)エピソームウイルスベクター(エピソーム性ウイルスベクター)である。
【0037】
本発明の特定の実施形態においては、組換えウイルス粒子は非分裂細胞、例えば肝臓細胞(肝細胞)に感染する。
【0038】
本発明の他の実施形態においては、組換えウイルス粒子は分裂細胞、例えばBリンパ球に感染する。
【0039】
特定の実施形態においては、組換えウイルス粒子は、コード化因子Iまたはその断片もしくは誘導体の発現および対象の血流内への分泌をもたらす細胞に感染する。適切な細胞型には、肝臓細胞(肝細胞)およびBリンパ球が含まれる。
【0040】
組換えウイルス粒子は、コード化因子Iまたは断片もしくは誘導体の発現の想定標的である細胞に形質導入しうるものであるべきである。特定の実施形態においては、組換えウイルス粒子は肝臓細胞(特に肝細胞)に形質導入しうる。
【0041】
幾つかの実施形態においては、組換えウイルスベクターは、複数のウイルスシス作用性調節配列、例えば複数の逆方向末端反復(ITR)に隣接する(挟まれている)(flanked by)、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む。
【0042】
幾つかの実施形態においては、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸はプロモーターに機能的に連結される。典型的なプロモーターには以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、RSV LTR、MoMLV LTR、ホスホグリセリン酸キナーゼ-1(PGK)プロモーター、サルウイルス40(SV40)プロモーターおよびCK6プロモーター、トランスチレチンプロモーター(TTR)、TKプロモーター、テトラサイクリン応答性プロモーター(TRE)、HBVプロモーター、ヒトアルファ-1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター、アルブミンプロモーター、肝特異的プロモーター(LSP)、キメラ肝特異的プロモーター(LSP)、E2Fプロモーター、テロメラーゼ(hTERT)プロモーター;サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリベータ-アクチン/ウサギベータ-グロビンプロモーター(CAGプロモーター; Niwaら, Gene, 1991, 108(2): 193-9)および伸長因子1-アルファプロモーター(EF1-アルファ)プロモーター(Kimら, Gene, 1990, 91(2):217-23およびGuoら, Gene Ther., 1996, 3(9):802-10)。幾つかの実施形態においては、プロモーターは、ヒトβ-グルクロニダーゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーター、CBAプロモーターに連結されたサイトメガロウイルスエンハンサー、レトロウイルスラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、またはジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーターを含む。
【0043】
幾つかの実施形態においては、プロモーターは、肝臓の細胞における、例えば肝細胞における、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸の発現を促進する。
【0044】
本発明における使用に適した肝特異的プロモーターの例には、HLP、LP1、HLP2、hAAT、HCR-hAAT、ApoE-hAATおよびLSPが含まれる。
【0045】
これらの肝特異的プロモーターは以下の参考文献に更に詳細に記載されている:
HLP: Mcintosh J.ら, Blood 2013 Apr 25, 121(17):3335-44, およびWO 2011/005968;
LP1: Nathwaniら, Blood 2006 April 1, 107(7): 2653-2661, およびWO06/036502;
HCR-hAAT: Miaoら, Mol Ther. 2000;1: 522-532;
ApoE-hAAT: Okuyamaら, Human Gene Therapy, 7, 637-645 (1996);
LSP: Wangら, Proc Natl Acad Sci USA 1999 March 30, 96(7): 3906-3910; ならびに
HLP2: WO 2016/075473。
【0046】
プロモーターは構成的プロモーター、誘導性プロモーターまたは抑制性プロモーターでありうる。典型的なプロモーターおよび説明は例えばUS2014/0335054において見出されうる。
【0047】
構成的プロモーターの例には、限定的なものではないが、レトロウイルスラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(所望により、RSVエンハンサーを伴う)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(所望により、CMVエンハンサーを伴う)(例えば、Boshartら, Cell, 41:521-530 (1985)を参照されたい)、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、13アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーターおよびEF1aプロモーター(Invitrogen)が含まれる。
【0048】
誘導性プロモーターは遺伝子発現の調節を可能にし、外的に供給される化合物、環境要因、例えば温度、または特定の生理的状態、例えば急性期、細胞の特定の分化状態の存在により、あるいは複製細胞のみにおいて調節されうる。誘導性プロモーターおよび誘導系は、Invitrogen、ClontechおよびAriad(これらに限定されるものではない)を含む種々の商業的供給源から入手可能である。多数の他の系が記載されており、当業者によって容易に選択されうる。外的に供給されるプロモーターにより調節される誘導性プロモーターの例には以下のものが含まれる:亜鉛誘導性ヒツジメタロチオニン(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)誘導性マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーター系(WO98/10088);エクジソン昆虫プロモーター(Noら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:3346-3351 (1996))、テトラサイクリン抑制系(Gossenら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992))、テトラサイクリン誘導系(Gossenら, Science, 268:1766-1769 (1995); また、Harveyら, Curr. Opin. Chem. Biol., 2:512-518 (1998)も参照されたい)、RU486誘導系(Wangら, Nat. Biotech., 15:239-243 (1997)およびWangら, Gene Ther., 4:432-441 (1997))およびラパマイシン誘導系(Magariら, J. Clin. Invest., 100:2865-2872 (1997))。この場合に有用でありうる更に他のタイプの誘導性プロモーターとしては、特定の生理的状態、例えば温度、急性期、細胞の特定の分化状態により、または複製細胞のみにおいて調節されるものが挙げられる。
【0049】
もう1つの実施形態においては、因子Iまたはその断片もしくは誘導体の天然プロモーターまたはその断片が使用されうる。天然プロモーターは、因子Iまたはその断片もしくは誘導体の発現が天然発現を模倣することが望まれる場合に使用されうる(ただし、発現後、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが増加し、または正常レベルを超える場合に限られる)。トランスジーンの発現が時間的もしくは発生的に、または組織特異的に、または特定の転写刺激に応じて調節される必要がある場合、天然プロモーターが使用されうる。もう1つの実施形態においては、他の天然発現制御エレメント、例えばエンハンサーエレメント、ポリアデニル化部位またはコザックコンセンサス配列も、天然発現を模倣するために使用されうる。
【0050】
組換えウイルスベクターは、標的組織または細胞におけるコード化因子Iまたはその断片もしくは誘導体の発現を確立するために必要な任意の調節配列を含みうる。例えば、組換えウイルスベクターは、プロモーターおよびポリアデニル化認識部位に機能的に連結された因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む発現カセットを含みうる。組換えウイルスベクターは、因子Iまたは断片もしくは誘導体の発現を確立するための他の調節配列、例えばリボソーム結合エレメント、ターミネーター、エンハンサー、選択マーカー、イントロン、ポリAシグナルおよび/または複製起点、またはウッドチャック肝炎ウイルス(WHP)転写後調節エレメント(WPRE)配列、または突然変異WPRE配列をも含みうる。
【0051】
幾つかの実施形態においては、調節配列は組織特異的遺伝子発現能力を付与する。幾つかの場合においては、組織特異的調節配列は、組織特異的に転写を誘導する組織特異的転写因子に結合する。そのような組織特異的調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)は当技術分野でよく知られている。
【0052】
幾つかの実施形態においては、プロモーター配列は対象において遍在的に発現されることが可能であり、したがって、標的組織(例えば、肝臓)細胞の1以上において、その組織へのその運搬のために発現しうる。他の実施形態においては、標的組織(例えば、肝臓)、または標的組織の1以上の細胞(例えば、肝細胞)の亜集団においてで特異的に発現するプロモーター配列が使用されうる。
【0053】
幾つかの実施形態においては、因子Iまたはその断片もしくは誘導体は標的組織の特定の細胞(例えば、肝細胞)のみにおいて発現され、その組織の他の細胞においては発現されない。
【0054】
特定の実施形態においては、コード化因子Iまたはその断片もしくは誘導体は、コード化因子Iまたは断片もしくは誘導体の発現の想定標的である特定の組織または細胞型に特異的なプロモーターから発現される。例えば、プロモーターは肝特異的プロモーター、例えばhAATプロモーターでありうる。
【0055】
1つの実施形態においては、プロモーターは、HLP、LP1、HLP2、hAAT、HCR-hAAT、ApoE-hAATおよびLSPから選択される肝特異的プロモーターである。
【0056】
1つの実施形態においては、プロモーターは、その全長にわたって配列番号8のヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含む、またはそれらからなる。1つの実施形態においては、プロモーターは配列番号8のヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる。
【0057】
1つの実施形態においては、プロモーターは、その全長にわたって配列番号9のヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含む、またはそれらからなる。1つの実施形態においては、プロモーターは配列番号9のヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる。
【0058】
1つの実施形態においては、プロモーターは、その全長にわたって配列番号10のヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含む、またはそれらからなる。1つの実施形態においては、プロモーターは配列番号10のヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる。
【0059】
幾つかの実施形態においては、組換えウイルスベクターまたは発現カセットは肝特異的エンハンサー、例えば肝特異的アポリポタンパク質E(ApoE)エンハンサーを含む。特定の実施形態においては、組換えウイルスベクターまたは発現カセットは、肝特異的プロモーター、例えばhAATプロモーター、および肝特異的エンハンサー、例えば肝特異的アポリポタンパク質E(ApoE)エンハンサーを含む。
【0060】
幾つかの実施形態においては、発現カセットはウイルスシス作用性調節配列、例えば逆方向末端反復(ITR)に隣接していることが可能である。
【0061】
特定の実施形態においては、組換えウイルス粒子は、投与後に対象の肝臓(例えば、肝細胞)に感染して、肝臓(例えば、肝細胞)からの因子Iまたはその断片もしくは誘導体の発現、および対象の血流内への因子Iまたはその断片もしくは誘導体の分泌をもたらす。そのような実施形態においては、コード化因子Iまたはその断片もしくは誘導体は、肝特異的プロモーター、例えばヒトアルファ-1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターまたはアルブミンプロモーターから発現されうる。
【0062】
本発明の特定の態様においては、組換えウイルスベクターは組換えAAV(rAAV)ベクターである。AAVは、約4.7kbのパッケージング能を有する直鎖状一本鎖DNAゲノムからなる小さな非エンベロープウイルスである。その複製サイクルは、AAV複製のための欠損遺伝子を補完しうるヘルパーウイルスの共感染に依存しており(Bullerら, J. Virol., 40(1):241-247, October 1981)、例えば、アデノウイルス(天然ヘルパーウイルスであると考えられている)(Urabeら, J. Virol., 80(4):1874-1885, February 2006)、ヘルペスウイルス(Afioneら, J. Virol., 70(5):3235-3241, May 1996)またはバキュロウイルス(Samulskiら, EMBO J., 10(12):3941-3950, December 1991)の共感染に依存している。AAVが「天然欠損」ウイルスであるという事実は、臨床用途におけるウイルスベクターの不適切な拡散を防止するための安全バリアを付加する(Nakaiら, J. Virol., 75(15):6969-6976, August 2001)。組換えAAV(rAAV)ベクターは、2つの逆方向末端反復(ITR)の間にトランスジーン(すなわち、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸)を挿入することにより製造されうる。組換えAAV粒子は、例えば、そのようなベクターを、他の全ての必須遺伝子をコードする1以上のプラスミドとコトランスフェクトすることにより製造されうる。それらは分裂細胞および休止細胞の両方に感染することが可能であり、好ましくはヒト第19染色体内の特定の部位に組込まれる野生型AAVとは異なり、主としてエピソーム形態で存続しうる。エピソームAAVゲノムは、分裂細胞内に存在する場合には、細胞分裂中に迅速に希釈される。
【0063】
「組換えAAVベクター(rAAVベクター)」は、少なくとも1つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接する因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含むポリヌクレオチドベクターを意味する。特定の実施形態においては、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸は2つのAAV ITRに隣接する。後記で更に詳細に説明されるとおり、そのようなrAAVベクターは、例えば適切なヘルパーウイルス(または適切なヘルパー機能を発現するもの)ならびにAAV repおよびcap遺伝子産物(すなわち、AAV RepおよびCapタンパク質)を発現している別のプラスミドに感染している宿主細胞内に存在する場合には、複製され、感染性ウイルス粒子内にパッケージングされうる。
【0064】
幾つかの実施形態においては、rAAVベクターは、少なくとも1つのAAV ITR配列に隣接する発現カセットを含み、この場合、発現カセットは、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含み、該核酸はプロモーターおよびポリアデニル化認識部位、そして所望によりWPRE配列または突然変異WPRE配列に機能的に連結されている。特定の実施形態においては、発現カセットは2つのAAV ITR配列に隣接する。幾つかの実施形態においては、発現カセットは、転写開始および終結配列を含む制御配列を更に含みうる。
【0065】
AAVのための「ヘルパーウイルス」は、AAV(欠損パルボウイルスであるもの)が宿主細胞によって複製されパッケージングされることを可能にするウイルスを意味する。アデノウイルス、ヘルペスウイルスおよびポックスウイルス、例えばワクシニアを含む多数のそのようなヘルパーウイルスが特定されている。アデノウイルスは多数の異なる亜群を含むが、亜群Cのアデノウイルス5型(Ad5)が最も一般的に使用される。ヒト、非ヒト哺乳類および鳥類由来の多数のアデノウイルスが公知であり、ATCCのような寄託機関から入手可能である。同様にATCCのような寄託機関から入手可能なヘルペス科のウイルスには、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)および仮性狂犬病ウイルス(PRV)が含まれる。
【0066】
「逆方向末端反復」または「ITR」配列は、当技術分野においてよく理解されている用語であり、反対の配向で存在するウイルスゲノムの末端に見出される比較的短い配列を意味する。「AAV逆方向末端反復(ITR)」配列も当技術分野においてよく理解されている用語であり、天然一本鎖AAVゲノムの両末端に存在する約145ヌクレオチドの配列である。ITRの最も外側の125ヌクレオチドは2つの別の配向のいずれかで存在することが可能であり、異なるAAVゲノムの間および単一のAAVゲノムの2つの末端の間の異質性をもたらしうる。最も外側の125個のヌクレオチドは、自己相補性の、より短い幾つかの領域(A、A'、B、B'、C、C'およびD領域と称される)をも含有し、これらは、ITRのこの部分において鎖内塩基対形成が生じることを可能にする。
【0067】
AAV ITR配列は、AAVビリオンのレスキュー、複製およびパッケージングのために意図されたとおりに機能すべきである(Davidsonら, PNAS, 2000, 97(7)3428-32; Passiniら, J. Virol., 2003, 77(12):7034-40; およびPechanら, Gene Ther., 2009, 16:10-16を参照されたい)。本発明のベクターにおける使用のためのAAV ITRは野生型ヌクレオチド配列を有する必要はなく(例えば、Kotin, Hum. Gene Ther., 1994, 5:793-801に記載されているとおり)、ヌクレオチドの挿入、欠失または置換により改変されることが可能であり、あるいはAAV ITRは幾つかのAAV血清型のいずれかに由来しうる(Gaoら, PNAS, 2002, 99(18): 11854-6; Gaoら, PNAS, 2003, 100(10):6081-6; およびBossisら, J. Virol., 2003, 77(12):6799-810を参照されたい)。
【0068】
本発明のベクターにおける使用のためのITRは、天然に存在するITRのヌクレオチド配列を含む、またはそれからなることが可能であり、あるいは、その全長にわたって、天然に存在するITRのヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含む、またはそれらからなる。特に、本発明のベクターにおける使用のためのAAV ITRは、天然に存在するAAV ITRのヌクレオチド配列を含む、またはそれからなることが可能であり、あるいは、その全長にわたって、天然に存在するAAV ITR、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12のAAV血清型のいずれかのAAV ITRのヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含む、またはそれらからなることが可能である。
【0069】
AAVベクターは、インビボ組込み率は低いものの、ヒトゲノム内に組込まれうる。rAAV媒介性遺伝子発現の主要発生源は染色体外であり、組込まれたゲノムではない。マウス肝切除モデルにおいては、持続的ベクターゲノムの10%未満が肝臓内に組込まれる(Millerら, Nat. Genet., 30(2):147-148, February 2002)。
【0070】
ほとんどのヒト(> 70%)は1以上のAAV血清型に関して血清陽性であるが、AAVは優れた安全性記録を有し、いずれの公知ヒトまたは動物疾患にも関連づけられていない。AAVベクターは、再投与に影響を及ぼしうる中和抗体を生成するものの、毒性または炎症応答には関連づけられていない。一方、そのような免疫応答は、キャプシド配列を操作することによって低減されうる(MingozziおよびHigh, Blood, 122(1):23-36, July 2013)。
【0071】
特定の実施形態においては、組換えウイルス粒子は組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子である。「rAAV粒子」は、少なくとも1つのAAVキャプシドタンパク質およびキャプシドで包まれた組換えウイルスベクターゲノム、特にキャプシドで包まれたrAAVベクターゲノムから構成されるウイルス粒子を意味する。
【0072】
本発明によるAAV遺伝子治療法の基本的工程の概要を
図4に示す。因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする組換えAAVベクターを使用して、該ベクターをキャプシドで包み込んでいるrAAV粒子を産生させる。rAAV粒子を例えば注射により対象に投与した後、rAAV粒子は標的細胞に感染し、該ベクターにコードされる因子Iまたはその断片もしくは誘導体が標的細胞により発現されて、対象の血流内への因子Iまたは断片もしくは誘導体の分泌がもたらされる。そのような方法は後記において更に詳細に説明されている。
【0073】
ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)はAAV血清型2(AAV2)粒子の細胞受容体として作用することが公知である(Summerford, C.およびSamulski, R.J. (1998) J. Virol. 72(2): 1438-45)。細胞膜におけるHSPGとAAV2粒子との結合は、該粒子を細胞に付着させるように働く。他の細胞表面タンパク質、例えば線維芽細胞増殖因子受容体およびαvβ5インテグリンも細胞感染を促進しうる。結合後、AAV2粒子は、クラスリン被覆ピットを介する受容体媒介性エンドサイトーシスを含むメカニズムにより細胞に進入しうる。AAV2粒子はエンドソーム酸性化の際にエンドサイトーシス小胞から放出されうる。これは、AAV2粒子が核周辺領域に、ついで細胞核に移動することを可能にする。
【0074】
AAVのキャプシドは、3つのキャプシドタンパク質、すなわち、VP1、VP2およびVP3を含むことが公知である。これらのタンパク質は有意な量の重複アミノ酸配列および特有のN末端配列を含有する。AAV2キャプシドは、二十面体対称性により配置された60個のサブユニットを含む(Xie, Q.ら, (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. 99(16): 10405-10)。VP1、VP2およびVP3は1:1:10の比で存在することが判明している。AAV2キャプシドタンパク質とHSPGとの結合は塩基性AAV2キャプシドタンパク質残基と負荷電グリコサミノグリカン残基との間の静電気的相互作用により生じる(Opie, SRら, (2003) J. Virol. 77:6995-7006; Kern, Aら, (2003) J. Virol. 11:11072-11081)。これらの相互作用に関与する特異的キャプシド残基には、R484、R487、Κ532、R585およびR588が含まれる。ウイルスはその天然宿主細胞に最も効率的に感染する。シュードタイピングは、細胞進入をもたらす表面タンパク質を、別のウイルス由来の表面タンパク質と交換して、ウイルス親和性(ウイルス指向性)を変化させることを含む。シュードタイピングの例には、ほぼ全ての細胞にトランスフェクトしうる水疱性口内炎ウイルスのプロテインGでシュードタイピングされたレンチウイルス(VSV G-シュードタイプ化レンチウイルス)が含まれる(Akkinaら, J. Virol., 70(4):2581-2585, April 1996; WillettおよびBennett, Front Immunol, 4:261, 2013; Sharlandら, Discov Med, 9(49):519-527, June 2010)。他の場合には、ウイルスの指向性は標的細胞のみに限定される。これは、投与されるベクター用量の削減を可能にし、それぞれの細胞型の外部でのトランスジーン発現を妨げ、例えば、眼(Grimmら, Blood, 102(7):2412-2419, October 2003)または肝臓(Thomasら, J. Virol., 78(6):3110-3122, March 2004; Lisowskiら, Nature, 506(7488):382-386, February 2014; NiidomeおよびHuang. Gene Ther., 9(24):1647-1652, December 2002)のみにおける発現を可能にする。また、シュードタイプは、例えば、ヒト肝細胞に対する指向性が改善されたDNAシャッフルAAVキャプシドから構成されるライブラリーを調製することにより、人工的に作製されうる(LiおよびHuang. Gene Ther., 13(18):1313-1319, September 2006)。これは、低いベクター取り込みおよびトランスジーン発現を克服するのに役立ちうる。
【0075】
本発明においては、組換えウイルス粒子は、感染されるべき細胞型への指向性を付与するためにシュードタイピングされうる。例えば、組換えウイルス粒子が肝臓細胞(例えば、肝細胞)に感染する本発明の実施形態においては、組換えウイルス粒子は、肝臓指向性、特に肝細胞指向性を付与するために、シュードタイピングされうる。組換えウイルス粒子がBリンパ球に感染する本発明の他の実施形態においては、エプスタインバーウイルス由来のgp220/350またはその断片を使用して、Bリンパ球に対する指向性が得られうる。
【0076】
特定の実施形態においては、組換えウイルス粒子は、肝臓、特に肝細胞指向性を付与するためにシュードタイピングされたrAAV粒子である。
【0077】
100個を超える異なるAAV血清型が同定されている(Atchisonら, Science, 149(3685):754-756, August 1965; Warringtonら, J. Virol., 78(12):6595-6609, June 2004)。rAAVウイルス粒子の場合、シュードタイピングは、例えば、別の血清型のキャプシド配列をヘルパープラスミド内にパッケージングすることによって、容易に達成されうる。指向性およびトランスジーン発現を改善するための幾つかのアプローチが採用されうる:i)ランダム化キャプシド配列からなるキャプシドライブラリーの構築(LiおよびHuang, Gene Ther., 13(18):1313-1319, September 2006); ii)AAV2のキャプシド内へのアミノ酸配列の挿入(30kDaまで; AAVを特定の細胞型に標的化するためにScFv配列を挿入する可能性)(Calcedoら, J. Infect. Dis., 199(3):381-390, February 2009);およびiii)運搬メカニズムの知識をAAV構造分析と組合せる合理的設計アプローチ(Calcedoら, Clin. Vaccine Immunol., 18(9):1586-1588, September 2011)。
【0078】
任意のAAV血清型の使用が本発明の範囲内であるとみなされる。幾つかの実施形態においては、rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11またはAAV12 ITRを含むAAV血清型に由来するベクターである。rAAV粒子は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAVrh10、AAV11またはAAV12キャプシドを含む任意のAAV血清型に由来するキャプシドタンパク質を含みうる。特定の標的細胞の形質導入を最適化するため、または特定の標的組織(例えば、肝臓組織)内の特定の細胞型を標的化するために、種々のAAV血清型が使用される。rAAV粒子は同一血清型または混合血清型のウイルスタンパク質およびウイルス核酸を含みうる。
【0079】
本発明の組換えウイルス粒子のキャプシドタンパク質は、天然に存在するキャプシドタンパク質(例えば、天然に存在するAAVキャプシドタンパク質、例えば、AAV血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAVrh10、AAV11またはAAV12のキャプシドタンパク質)のアミノ酸配列を含む、またはそれからなることが可能であり、あるいは、例えば、所望組織型または細胞型に対する指向性(例えば、肝臓または肝細胞指向性)を増強するために、または組換えウイルス粒子の免疫原性を低減するために、天然に存在するキャプシドタンパク質のアミノ酸配列と比較して1以上のアミノ酸置換、欠失または付加を含む天然に存在するキャプシドタンパク質の誘導体でありうる。
【0080】
幾つかの実施形態においては、本発明の組換えウイルス粒子のキャプシドタンパク質は、その全長にわたって、天然に存在するキャプシドタンパク質のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。幾つかの実施形態においては、本発明のrAAV粒子のAAVキャプシドタンパク質は、その全長にわたって、天然に存在するAAVキャプシドタンパク質、例えば、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAVrh10、AAV11またはAAV12の、天然に存在するAAVキャプシドタンパク質のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0081】
幾つかの実施形態においては、本発明の組換えウイルス粒子のキャプシドタンパク質は、天然に存在しないキャプシドタンパク質、例えば、天然に存在しないAAVキャプシドタンパク質、例えば操作されたキャプシドタンパク質またはキメラキャプシドタンパク質である。
【0082】
キメラキャプシドタンパク質には、天然に存在するAAV血清型の、2以上のキャプシドコード配列の間の組換えにより産生されるものが含まれる。これは、例えば、マーカーレスキューアプローチにより実施可能であり、該アプローチにおいては、1つの血清型の非感染性キャプシド配列を、異なる血清型のキャプシド配列とコトランスフェクトし、特異的選択を用いて、所望の特性を有するキャプシド配列を選択する。異なる血清型のキャプシド配列は、細胞内の相同組換えにより改変されて、新規キメラキャプシドタンパク質を産生しうる。
【0083】
キメラキャプシドタンパク質には、2以上のキャプシドタンパク質の間、例えば、異なる血清型の2以上のキャプシドタンパク質の間に特異的キャプシドタンパク質ドメイン、表面ループまたは特異的アミノ酸残基を導入するためにキャプシドタンパク質配列を操作することにより産生されるものも含まれる。
【0084】
シャッフル化キャプシドタンパク質またはキメラキャプシドタンパク質はDNAシャッフリングまたはエラープローンPCRによっても製造されうる。関連AAV遺伝子(例えば、複数の異なる血清型のキャプシドタンパク質をコードするもの)の配列をランダムに断片化し、ついで、配列相同性の領域における乗換えをも引き起こしうる自己プライミングポリメラーゼ反応において該断片を再構築することにより、ハイブリッドAAVキャプシド遺伝子が作製されうる。幾つかの血清型のキャプシド遺伝子をシャッフリングすることによりこのようにして作製されたハイブリッドAAV遺伝子のライブラリーをスクリーニングして、所望の機能性を有するウイルスクローンを特性することが可能である。同様に、エラープローンPCRを用いて、AAVキャプシド遺伝子をランダムに突然変異させて、変異体の多様なライブラリーを作製し、ついで、それを、所望の特性に関して選択することが可能である。
【0085】
キャプシド遺伝子の配列は、天然野生型配列に対して特異的欠失、置換または挿入を導入するために遺伝的に修飾されることも可能である。特に、キャプシド遺伝子は、キャプシドコード配列のオープンリーディングフレーム内、またはキャプシドコード配列のN末端および/またはC末端に、無関係なタンパク質またはペプチドの配列を挿入することにより修飾されうる。
【0086】
本発明における使用に適した、天然に存在しないキャプシド(カプシド)タンパク質の例は、WO 2016/181123およびWO 2005/029030に記載されている。
【0087】
1つの実施形態においては、本発明の組換えウイルス粒子のキャプシドタンパク質はMutCキャプシドタンパク質(例えば、WO 2016/181123に記載されているMutCキャプシドタンパク質)である。1つの実施形態においては、本発明の組換えウイルス粒子のキャプシドタンパク質は、その全長にわたって配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を有する。1つの実施形態においては、本発明の組換えウイルス粒子のキャプシドタンパク質は、配列番号11のアミノ酸配列を含む又はそれからなるアミノ酸配列を有する。
【0088】
1つの実施形態においては、本発明の組換えウイルス粒子のキャプシドタンパク質はLK03キャプシドタンパク質(例えば、WO 2013/029030に記載されているLK03キャプシドタンパク質)である。1つの実施形態においては、本発明の組換えウイルス粒子のキャプシドタンパク質は、その全長にわたって配列番号12のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を有する。1つの実施形態においては、本発明の組換えウイルス粒子のキャプシドタンパク質は、配列番号12のアミノ酸配列を含む又はそれからなるアミノ酸配列を有する。
【0089】
1つの実施形態においては、本発明の組換えウイルス粒子のキャプシドタンパク質は、Wangら, Mol Ther. 2015 Dec; 23(12): 1877-1887に記載されているAAVrh10タンパク質であり、あるいは、その全長にわたって、開示されているAAVrh10タンパク質のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸同一性を有するその誘導体である。
【0090】
本発明の特定の実施形態においては、組換えウイルスベクターはAAV2由来ウイルスベクター、すなわち、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸が少なくとも1つのAAV2 ITR配列(KottermanおよびSchaffer, Nat. Rev. Genet., 15(7):445-451, July 2014)またはその誘導体(これは、その全長にわたって、天然に存在するAAV2 ITRのヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有するものである)に隣接する組換えウイルスベクターである。幾つかの実施形態においては、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸は、2つのAAV2 ITRまたはAAV2 ITR誘導体(ここで、各AAV2 ITR誘導体は、その全長にわたって、天然に存在するAAV2 ITRのヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む)に隣接する。
【0091】
AAV2は広範な指向性を有し、インビボで比較的効率的に、肝細胞を含む多数の細胞型に形質導入する。異なるキャプシドタンパク質での組換えAAVベクターのシュードタイピングは指向性を劇的に改変しうる。AAV8およびAAV9は共に、AAV2と比較して、肝細胞に対して、より高いアフィニティを有する。特に、AAV8は、AAV2と比較して、3~4倍多くの肝細胞に形質導入し、形質導入細胞当たり3~4倍多くのゲノムを運搬しうる。
【0092】
1つの実施形態においては、組換えウイルスベクターはAAV2由来ウイルスベクターではない。
【0093】
幾つかの実施形態においては、本発明のrAAV粒子はAAV8またはAAV9キャプシドタンパク質(あるいは、その全長にわたって、天然に存在するAAV8またはAAV9キャプシドタンパク質のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸同一性を有するその誘導体)を含む。特定の実施形態においては、rAAV粒子はAAV2由来ウイルスベクターをキャプシドで包みこみ、AAV8キャプシドまたはAAV9キャプシド(あるいは、その全長にわたって、天然に存在するAAV8またはAAV9キャプシドタンパク質のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸同一性を有するその誘導体)でシュードタイピングされている(それぞれ、rAAV2/8またはrAAV2/9)。他の実施形態においては、rAAV粒子はAAV2由来ウイルスベクターをキャプシドで包みこみ、MutCキャプシドまたはLK03キャプシドまたはAAVrh10キャプシドでシュードタイピングされている(それぞれ、rAAV2/MutCまたはrAAV2/LK03またはrAAV2/rh10)。
【0094】
rAAV粒子の製造のための多数の方法が当技術分野で公知であり、それらには、トランスフェクション、安定細胞株の製造、ならびにアデノウイルス-AAVハイブリッド、ヘルペスウイルス-AAVハイブリッド(Conwayら, (1997) J. Virology 71(11):8780-8789)およびバキュロウイルス-AAVハイブリッドを含む感染性ハイブリッドウイルス産生系が含まれる。
【0095】
rAAVウイルス粒子の製造のためのrAAV産生培養は全て、以下のものを要する:i)適切な宿主細胞、例えば、ヒト由来細胞株、例えばHeLa、A549、293もしくは293T細胞、または昆虫由来細胞系、例えばSF-9(バキュロウイルス産生系の場合)、ii)野生型または突然変異アデノウイルス(例えば、温度感受性アデノウイルス)、ヘルペスウイルス、バキュロウイルス、またはヘルパー機能を付与するプラスミド構築物により付与される適切なヘルパー機能、iii)AAV repおよびcap遺伝子、iv)少なくとも1つのAAV ITR配列に隣接する因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸、ならびにv)rAAV産生を支持するための適切な培地および培地成分。
【0096】
rAAV粒子の製造には、当技術分野で公知の適切な培地が使用されうる。これらの培地には、限定的なものではないが、Hyclone LaboratoriesおよびJRHにより製造された培地、例えば改変イーグル培地(Modified Eagle Medium)(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)高グルコース、US 6,566,118に記載されているもののような特注配合物、およびUS 6,723,551に記載されているSf-900 II SFM培地が含まれる。
【0097】
rAAV粒子は、当技術分野で公知の方法を用いて製造されうる。例えば、US 6,566,118、US 6,989,264およびUS 6,995,006を参照されたい。本発明の実施においては、rAAV粒子を製造するための宿主細胞には、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、微生物および酵母が含まれる。宿主細胞はまた、AAV repおよびcap遺伝子が宿主細胞内で安定に維持されるパッケージング細胞、またはAAVベクターゲノムが安定に維持されるプロデューサー細胞でありうる。典型的なパッケージング細胞およびプロデューサー細胞は293、293T、A549またはHeLa細胞に由来する。AAVベクターは、当技術分野で公知の標準的な技術を用いて精製され、製剤化(処方)される。
【0098】
幾つかの実施形態においては、rAAV粒子は、三重トランスフェクション法、例えば、後記の典型的な三重トランスフェクション法により製造されうる。簡潔に説明すると、rep遺伝子およびキャプシド遺伝子を含有するプラスミド、ヘルパーアデノウイルスプラスミド、ならびにトランスジーン(すなわち、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする遺伝子)を含むプラスミドを(例えば、リン酸カルシウム方法またはポリエチレンイミンを使用して)細胞株(例えば、HEK-293細胞)内にトランスフェクトすることが可能であり、ウイルスを集め、所望により、精製することが可能である。
【0099】
幾つかの実施形態においては、rAAV粒子は、プロデューサー細胞株法、例えば、後記の典型的なプロデューサー細胞株法(Martinら, (2013) Human Gene Therapy Methods 24:253-269も参照されたい)により製造されうる。簡潔に説明すると、細胞株(例えば、HeLa細胞株)を、rep遺伝子、キャプシド遺伝子およびプロモーター-トランスジーン配列を含有するプラスミドで安定にトランスフェクトすることが可能である。細胞系をスクリーニングして、rAAV産生のためのリードクローンを選択することが可能であり、ついで、それを生産バイオリアクターへと拡大させ、rAAV産生を開始するヘルパーとしてアデノウイルス(例えば、野生型アデノウイルス)に感染させることが可能である。ついで、ウイルスを集め、アデノウイルスを(例えば、熱により)不活性化し、および/または除去することが可能であり、rAAV粒子を精製することが可能である。
【0100】
本発明の幾つかの態様においては、(a)rAAV粒子の産生のための条件下、宿主細胞を培養し、ここで、宿主細胞は、(i)各AAVパッケージング遺伝子がAAV複製および/またはキャプシド形成タンパク質(キャプシド包みこみタンパク質)をコードする、1以上のAAVパッケージング遺伝子、(ii)少なくとも1つのAAV ITR(好ましくは2つのAAV ITR)に隣接する因子Iまたはその断片もしくは誘導体(C3b不活性化およびiC3b分解活性を保有するもの)をコードする核酸を含むrAAVベクター、ならびに(iii)AAVヘルパー機能(すなわち、例えばアデノウイルス、ヘルペスウイルスまたはバキュロウイルスからの、生産的AAV生活環に必要な遺伝子)を含み、(b)宿主細胞により産生されたrAAV粒子を回収することを含む、本発明のrAAV粒子の製造方法を提供する。幾つかの実施形態においては、(i)、(ii)および(iii)は、例えば後記実施例1に記載されているとおり、3つの別々のプラスミド上で提供されうる。
【0101】
幾つかの実施形態においては、該または各AAV ITRは、天然に存在するAAV ITR、例えば、AAV血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11またはAAV12のAAV ITRのいずれか、例えばAAV2 ITRのヌクレオチド配列を含み、またはそれらからなり、あるいは、その全長にわたって、天然に存在するAAV ITR、例えば、AAV血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12のいずれかのAAV ITRのヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含む、またはそれらからなる。
【0102】
幾つかの実施形態においては、キャプシド形成タンパク質はAAV8またはAAV9またはMutCまたはLK03またはAAVrh10キャプシド形成タンパク質である。
【0103】
適切なrAAV産生培地は0.5%~20%(v/vまたはw/v)のレベルの血清または血清由来組換えタンパク質で補足されうる。あるいは、当技術分野で公知のとおり、rAAV粒子は無血清条件(これは、動物由来産物を含有しない培地とも称されうる)中で製造されうる。rAAV粒子の産生を支持するように設計された市販または特注培地は、産生培養におけるrAAVの力価を増加させるために、当技術分野で公知の1以上の細胞培養成分、例えばグルコース、ビタミン、アミノ酸および/または増殖因子(これらに限定されるものではない)で補足されることも可能である、と当業者に理解されうる。
【0104】
rAAV産生培養は、使用される個々の宿主細胞に適した種々の条件下(広範な温度範囲にわたって、種々の時間の長さで、など)で培養されうる。当技術分野で公知のとおり、rAAV産生培養は、適切な付着依存性容器、例えばハイパーフラスコ、ローラーボトル、中空繊維フィルター、マイクロキャリアおよび充填床または流動床バイオリアクターにおいて培養されうる付着依存性培養を含む。rAAVベクター産生培養は、例えばスピナーフラスコ、攪拌タンクバイオリアクターおよび使い捨て系、例えばウェーブバッグ(Wave bag)系を含む種々の方法で培養されうる懸濁順応(懸濁適合化、suspension-adapted)宿主細胞、例えばHeLa、293、293TおよびSF-9細胞をも含みうる。
【0105】
本発明のrAAV粒子は、産生培養の宿主細胞の細胞溶解または産生培養からの使用済み培地の回収により、rAAV産生培養から回収されうる。ただし、該細胞は、US 6,566,118に更に詳細に記載されているとおり、無傷細胞から培地内へのrAAV粒子の放出を引き起こさせるために、当技術分野で公知の条件下で培養されるものである。細胞を細胞溶解する適切な方法も当技術分野で公知であり、例えば、複数の凍結/融解サイクル、超音波処理、顕微溶液化(マイクロ溶液化、microfluidization)、ならびに化学物質、例えば界面活性剤および/またはプロテアーゼでの処理を含む。
【0106】
もう1つの実施形態においては、rAAV粒子を精製する。本明細書中で用いる「精製(された)」なる語は、rAAV粒子が天然に存在する又は最初に製造された場合に存在しうるその他の成分の少なくとも一部を欠くrAAV粒子の調製物を包含する。したがって、例えば、単離されたrAAV粒子は、培養ライセートまたは産生培養上清のような起源混合物からそれらを富化する精製技術を用いて製造されうる。富化は、種々の方法で、例えば、溶液中に存在するゲノムコピー(gc)もしくはDNアーゼ耐性粒子(DRP)の割合、または感染性により測定可能であり、あるいは、それは、起源混合物中に存在する第2の潜在的に干渉する物質、例えば汚染物質、例えば産生培養汚染物質、またはインプロセス汚染物質、例えばヘルパーウイルス、または培地成分に関して測定可能である。
【0107】
幾つかの実施形態においては、rAAV産生培養回収物を清澄化して宿主細胞片を除去する。幾つかの実施形態においては、例えば、等級DOHC Millipore Millistak + HC Podフィルター、等級A1HC Millipore Millistak + HC Podフィルター、および0.2μm Filter Opticap XL10 Millipore Express SHC親水性膜フィルターを含む一連のデプスフィルターによる濾過により、産生培養回収物を清澄化する。清澄化は、当技術分野で公知の種々の他の標準的な技術、例えば、遠心分離、または当技術分野で公知の0.2μm以上の孔径の任意のセルロースアセテートフィルターによる濾過によっても達成されうる。
【0108】
幾つかの実施形態においては、rAAV産生培養回収物をBenzonase(ベンゾナーゼ)(登録商標)で更に処理して、産生培養内に存在しうる高分子量DNAを消化する。幾つかの実施形態においては、Benzonase(登録商標)消化は、当技術分野で公知の標準的な条件下、例えば、Benzonase(登録商標)の1~2.5単位/mlの最終濃度、周囲温度~37℃の範囲の温度で30分間~数時間にわたって行われる。
【0109】
rAAV粒子は、以下の精製工程の1以上を用いて単離または精製されうる:イオジキサノールまたは塩化セシウムを使用する密度勾配超遠心(例えば、Cooperら, Molecular Therapy (2005) 11, Supplement 1, S53-S54に記載されているもの);平衡遠心分離;フロースルーアニオン交換濾過;rAAV粒子を濃縮するための接線流濾過(TFF);アパタイトクロマトグラフィーによるrAAV捕捉;ヘルパーウイルスの熱不活性化;疎水性相互作用クロマトグラフィーによるrAAV捕捉;サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によるバッファー交換;ナノ濾過;アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィーまたはアフィニティクロマトグラフィーによるrAAV捕捉。これらの工程は、単独で、または種々の組合せで、または種々の順序で用いられうる。rAAV粒子の精製方法は、例えば、Xiaoら, (1998) Journal of Virology 72:2224-2232; US 6,989,264; US 8,137,948; およびWO 2010/148143に記載されている。
【0110】
組換えウイルス粒子は任意の適切な経路により対象に投与されうる。特定の実施形態においては、組換えウイルス粒子は対象に静脈内投与される。
【0111】
本発明の特定の実施形態においては、組換えウイルス粒子は対象に局所(または局部)投与によっては投与されない。
【0112】
本発明の特定の実施形態においては、組換えウイルス粒子は眼には投与されない。したがって、特定の実施形態においては、組換えウイルス粒子の投与は、眼内投与、例えば網膜下注射のような眼内投与を含まない。
【0113】
本発明の組換えウイルス粒子は全身投与により対象に投与されうる。
【0114】
全身投与が達成されうる多数の経路および関連技術が当業者によく知られている。
【0115】
例えば、全身投与は非経口投与により達成されうる。非経口投与の例には、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、くも膜下腔内投与および皮下投与が含まれる。
【0116】
したがって、特定の実施形態においては、本発明の組換えウイルス粒子は対象に全身的に投与される。
【0117】
本発明の組換えウイルス粒子の好ましい投与経路は静脈内投与である。
【0118】
1つの実施形態においては、本発明の組換えウイルス粒子は対象の肝門脈内に投与される。有利には、肝門脈内への組換えウイルス粒子の投与は組換えウイルス粒子を肝臓に方向づける。
【0119】
前記のとおり、特定の実施形態においては、組換えウイルス粒子は投与後に対象の肝臓(例えば、肝細胞)に感染し、因子Iまたはその断片もしくは誘導体の、肝臓(例えば、肝細胞)からの発現、および因子Iまたはその断片もしくは誘導体の、対象の血流内への分泌をもたらす。そのような実施形態においては、コード化因子Iまたはその断片もしくは誘導体は肝特異的プロモーターから発現されうる。
【0120】
肝臓から対象の血流内に分泌された因子Iまたはその断片もしくは誘導体は、体内の他の場所に位置する標的組織または細胞において治療効果をもたらしうる。肝臓から対象の血流内に分泌された因子Iまたはその断片もしくは誘導体は被験体におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルの全身的上昇をもたらしうる。
【0121】
AAV媒介性肝特異的遺伝子治療はSands Methods Mol Biol. 2011; 807: 141-157およびSharlandら, Discovery Medicine, 9(49):519-527, June 2010に記載されている。例えば、用量に応じて、AAV8は、門脈内静脈注射後、マウス肝臓内の肝細胞の90~95%までに形質導入しうる。興味深いことに、静脈内注射後、同等レベルの形質導入が達成されうる。AAVベクターの直接的な実質内注射も比較的高レベルの長期発現をもたらす。AAV8キャプシドタンパク質と共に肝特異的プロモーターを使用することにより、追加的な特異性が付与されうる。
【0122】
治療の目的に応じて、組換えウイルスベクター(幾つかの実施形態においては、組換えウイルス粒子によりキャプシドで包みこまれているもの)の有効量が投与される。例えば、低い割合の形質導入が所望の治療効果を達成しうる場合には、治療の目的は、一般に、このレベルの形質導入を満たす又は超えることである。幾つかの実施形態においては、標的細胞の僅か約1~5%、幾つかの実施形態においては所望の組織型の細胞の少なくとも約20%、幾つかの実施形態においては少なくとも約50%、幾つかの実施形態においては少なくとも約80%、幾つかの実施形態においては少なくとも約95%、幾つかの実施形態においては所望の組織型の細胞の少なくとも約99%の形質導入により、このレベルの形質導入が達成されうる。
【0123】
本発明の幾つかの実施形態においては、対象に投与されるウイルス粒子の用量は体重1kg当たり1×108~1×1013ゲノムコピーである。
【0124】
本発明の幾つかの実施形態においては、対象に投与されるウイルス粒子の総量は1×109~1×1015ゲノムコピーである。
【0125】
ウイルス粒子が対象に投与される実施形態においては、参考として、注射当たりに投与されるウイルス粒子の数は一般に1×106~1×1014粒子、1×107~1×1013粒子、1×109~1×1012粒子、または1×1011粒子である。
【0126】
組換えウイルス粒子は、同じ操作中に、または数日、数週間、数ヶ月もしくは数年の間隔で、1以上の注射により投与されうる。幾つかの実施形態においては、対象を治療するために、複数のベクターが使用されうる。
【0127】
幾つかの実施形態においては、標的組織の細胞(例えば、肝臓の肝細胞)の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%または75%、100%までが形質導入される。幾つかの実施形態においては、標的組織の細胞(例えば、肝臓の肝細胞)の5%~100%、10%~約50%、10%~30%、25%~75%、25%~50%、または30%~50%が形質導入される。
【0128】
組換えウイルス粒子キャプシドを含む組換えウイルス粒子により形質導入された細胞を特定するための方法は当技術分野で公知である。例えば、免疫組織化学法、またはマーカー、例えば強化緑色蛍光タンパク質の使用により、組換えウイルス粒子の形質導入を検出することが可能である。
【0129】
幾つかの実施形態においては、組換えウイルス粒子は、所望の組織(例えば、肝臓)の部位の1以上に(例えば、注射により)投与される。幾つかの実施形態においては、組換えウイルス粒子は、組織における1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個または10個を超える位置のいずれかに(例えば、注射により)投与される。
【0130】
幾つかの実施形態においては、組換えウイルス粒子は2以上の位置に同時または連続的に投与される。幾つかの実施形態においては、組換えウイルス粒子の複数回の注射の間隔は1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、9時間、12時間または24時間以下である。
【0131】
対象には、補体媒介性障害を治療するための1以上の追加的治療用物質が投与され得る。そのような物質はウイルス粒子と同時投与されることが可能であり、または連続投与されることが可能である。連続投与の間の間隔は少なくとも分、時間または日(あるいは、それらより短い)単位でありうる。
【0132】
組換えウイルスベクターの核酸からの因子Iまたはその断片もしくは誘導体の発現の後の対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性は、対象の内因性因子I(すなわち、組換えウイルスベクターからの発現により産生されたものではない対象の因子I)からのC3b不活性化およびiC3b分解活性、ならびに組換えウイルスベクターからの発現により生じたC3b不活性化およびiC3b分解活性を含むことが可能であり、その結果、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性の合計レベルは(該ベクターの投与の前のレベルと比較して)増加し、または正常レベルを超える、と理解されるであろう。
【0133】
対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルは対象の血清中のレベルでありうる。ヒト対象の場合、C3b不活性化およびiC3b分解活性の正常レベルは対象の血清中の30~40μg/mlの因子Iによりもたらされるものと同等である。
【0134】
本発明の組換えウイルス粒子の投与の前には、対象は内因性因子Iの正常レベルを示しうる。他の実施形態においては、対象は因子Iの正常レベルより低いレベルを示すことが可能であり、例えば、対象の血清中の因子Iは30μg/ml未満かつ0μg/ml超(すなわち、0μg/mlを超える)でありうる。
【0135】
更なる例としては、対象の血清中の因子Iのレベルは25μg/ml未満かつ0μg/ml超、または20μg/ml未満かつ0μg/ml超、または15μg/ml未満かつ0μg/ml超、または10μg/ml未満かつ0μg/ml超、または5μg/ml未満かつ0μg/ml超である。
【0136】
本発明の特定の実施形態においては、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルは、正常レベルを超えるレベルへと上昇する。
【0137】
本発明の特定の実施形態においては、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルは、正常レベルより少なくとも5%、10%、15%、20%または25%高いレベルへと上昇する。
【0138】
本発明の特定の実施形態においては、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルは、正常レベルの2倍まで、または正常レベルより80%、60%、40%もしくは20%高いレベルへと上昇する。
【0139】
例えば、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルは、正常レベルより5~100%、5~80%、5~60%、5~40%、5~20%、10~100%、10~80%、10~60%、10~40%、10~20%、15~100%、15~80%、15~60%、15~40%、15~20%、20~100%、20~80%、20~60%、20~40%、25~100%、25~80%、25~60%または25~40%高いレベルへと上昇しうる。
【0140】
前記のとおり、対象は、正常レベルより低い内因性因子Iの血清中レベルを示しうる。したがって、本発明による組換えウイルス粒子の投与の前のそのような対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルは正常レベル未満でありうる。C3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを、本発明の組換えウイルス粒子の投与の前の対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のベースラインレベルより高いレベルへと上昇させることにより、そのような対象において治療効果が得られうる。所望により、C3b不活性化およびiC3b分解活性の前記の上昇したレベルは正常レベル未満のままでありうる。
【0141】
したがって、本発明の特定の実施形態においては、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルは、本発明の組換えウイルス粒子の投与の前の対象におけるベースラインレベルより高いレベルへと上昇する。
【0142】
本発明の特定の実施形態においては、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルは、本発明の組換えウイルス粒子の投与の前の対象におけるベースラインレベルより少なくとも5%、10%、15%、20%または25%高いレベルへと上昇する。
【0143】
本発明の特定の実施形態においては、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルは本発明の組換えウイルス粒子の投与の前の対象におけるベースラインレベルの2倍までのレベルに上昇し、あるいは、本発明の組換えウイルス粒子の投与前の対象におけるベースラインレベルの80%、60%、40%または20%高いレベルへと上昇する。
【0144】
例えば、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルは、本発明の組換えウイルス粒子の投与の前の対象におけるベースラインより5~100%、5~80%、5~60%、5~40%、5~20%、10~100%、10~80%、10~60%、10~40%、10~20%、15~100%、15~80%、15~60%、15~40%、15~20%、20~100%、20~80%、20~60%、20~40%、25~100%、25~80%、25~60%または25~40%高いレベルへと上昇する。
【0145】
補体媒介性障害は、代替経路調節における欠損に関連した障害、特に、補体C3bフィードバックサイクルの過剰活性に関連した障害でありうる。
【0146】
補体媒介性障害は、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルの上昇により改善される症状により特徴づけられる障害でありうる。
【0147】
本発明により予防または治療されうる補体媒介性障害の例には、加齢黄斑変性(AMD)(特に、早期(ドライ型)AMDまたは地図状萎縮)、デンスデポジット病(DDD)、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、C3糸球体症、膜性増殖性糸球体腎炎2型(MPGN2またはMPGN II型)、アテローム性動脈硬化症、慢性心血管疾患、アルツハイマー病、全身性血管炎、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、および高齢者の炎症性または自己炎症性疾患が含まれる。
【0148】
1つの実施形態においては、地図状萎縮の形成が予防または低減される。もう1つ実施形態においては、地図状萎縮の量が減少する。
【0149】
本発明により予防または治療されうるC3糸球体症には、C3糸球体腎炎およびデンスデポジット病(DDD)(膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)II型としても公知である)が含まれる。
【0150】
本発明により予防または治療されうる補体媒介性障害の他の例には、膜増殖性糸球体腎炎I型(MPGN I型)、膜増殖性糸球体腎炎III型(MPGN III型)、ギラン-バレー症候群、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、IgA腎症および膜性糸球体腎炎が含まれる。膜増殖性糸球体腎炎(MPGN)はメサンギウム毛細管性糸球体腎炎としても公知である。
【0151】
本発明の特定の実施形態においては、本発明により予防、治療または改善される補体媒介性障害は、DDD、aHUS、C3糸球体症、アテローム性動脈硬化症、慢性心血管疾患、アルツハイマー病、全身性血管炎、PNH、高齢者の炎症性または自己炎症性疾患、MPGN I型、MPGN III型、ギラン-バレー症候群、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、IgA腎症および膜性糸球体腎炎から選択される。
【0152】
1つの実施形態においては、補体媒介性障害の前記予防、治療または改善を、それを必要とする対象において行うことは、既存治療レジメンの投与の、該対象の必要用量および/または頻度を減少させること、例えば、補体経路成分のインヒビター(例えば、補体タンパク質C5のインヒビター、例えば、抗C5抗体)または抗炎症物質(例えば、ステロイド)の、該対象の必要用量および/または頻度を減少させることを含む。
【0153】
本発明の特定の実施形態においては、本発明により予防または治療される補体媒介性障害は眼障害ではない。
【0154】
本発明の特定の実施形態においては、本発明により予防または治療される補体媒介性障害は眼の補体媒介性障害ではない。
【0155】
本発明の特定の実施形態においては、本発明により予防または治療される補体媒介性障害は加齢黄斑変性(AMD)または地図状萎縮ではない。
【0156】
本発明の特定の実施形態においては、本発明により予防または治療される補体媒介性障害は糖尿病性網膜症ではない。
【0157】
対象は、補体媒介性障害を発生するリスクを有しうる。例えば、対象は、補体媒介性障害に関連した1以上のSNPに関してホモ接合またはヘテロ接合感受性でありうる。
【0158】
特定の実施形態においては、対象は、AMDを発生するリスクを有する。例えば、対象は、AMDに関連した1以上のSNPに関してホモ接合またはヘテロ接合感受性でありうる。そのようなSNPの例には、因子Hのrs1061170(Y402Hをコードする)、因子Hのrs800292(V62Iをコードする)、因子Bのrs641153(R32Qをコードする)、またはC3のrs2230199(R102Gをコードする)、そして特に、因子Hのrs1061170、因子Hのrs800292、またはC3のrs2230199が含まれる。血清因子Iレベルの減少を一般に引き起こす進行性AMDに関連したCFIにおける稀な突然変異の他の例はKavanaghら, Hum Mol Genet. 2015 Jul 1;24(13):3861-70に記載されている。それらは以下のSNPを含む:rs144082872 (P50Aをコードする); 4:110687847 (P64Lをコードする); rs141853578 (G119Rをコードする); 4:110685721 (V152Mをコードする); 4:110682846 (G162Dをコードする); 4:110682801 (N177Iをコードする); rs146444258 (A240Gをコードする); rs182078921 (G287Rをコードする); rs41278047 (K441Rをコードする); rs121964913 (R474をコードする)。
【0159】
本発明の方法は更に、例えば、補体媒介性障害に関連した1以上のSNPに関して対象がホモ接合またはヘテロ接合感受性であるかどうか決定することにより(例えば、前記のAMDに関連したSNPの1以上に関して対象がホモ接合またはヘテロ接合感受性であるかどうか決定することにより)、対象が補体媒介性障害(例えば、AMD)を発生するリスクを有するかどうかを決定することを含みうる。
【0160】
Layら(Clin Exp Immunol 181(2):314-322 Aug 2015)に記載されている研究において、正常対象の大きなパネルからの血清が3つの共通の多型[1つはC3におけるもの(R102G)であり、2つは因子Hにおけるもの(V62IおよびY402H)であり、AMDおよび幾つかの形態の腎疾患に対する素因に影響を及ぼすものである]に関して型決定された。以下の3つの群の血清が試験された:3つのリスク対立遺伝子に関してホモ接合であった群;3つ全てに関してヘテロ接合性であった群;および低リスク対立遺伝子に関してホモ接合性であった群。これらの群は、ザイモサンにより代替補体経路が活性化された場合の外因性因子Iの添加に対するそれらの応答において様々である。形成されるiC3bの最大量の減少およびiC3bがC3dgに変換される速度の両方が影響を受ける。両方の反応に関して、リスクを有するコンプロタイプは、同様のダウンレギュレーションを達成するためには、より高い用量の因子Iを要する。補体受容体CR3と反応するiC3bは、補体活性化が炎症を引き起こす主要メカニズムであるため、C3dgへのiC3bの分解は、補体誘発性炎症を低減するための重要な意義を有すると理解されうる。これらの知見は、異なる補体対立遺伝子を有する対象からの血清が、因子Iの濃度を増加させることにより、代替補体経路のダウンレギュレーションのインビトロアッセイにおいて予想されたとおりに確かに挙動することを初めて示すものである。これらの結果は、C3bフィードバックサイクルの過剰活性をダウンレギュレーションすることによりAMDおよび幾つかの形態の腎疾患の治療をもたらすための治療用物質としての外因性因子Iの使用を支持するものである。
【0161】
Lachmannら(Clinical & Experimental Immunology, Volume 183, Issue 1, pp. 150-156, January 2016)において報告された研究では、最高リスク群(3つのAMDリスク対立遺伝子C3(R102G)、因子H(V621およびY402H)に関してホモ接合)を最低リスク群(最低リスク対立遺伝子に関してホモ接合)の活性に変換するために必要とされた因子Iの量は因子I約22μg/mlであり、最高リスク群からヘテロ接合群(3つ全てのリスク対立遺伝子に関してヘテロ接合)への低減は12.5μg/mlであり、ヘテロ接合群から最低リスク群へは5μg/mlであった。
【0162】
本発明の特定の実施形態においては、AMDに関連した1以上のSNPに関して対象がヘテロ接合感受性である場合に、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを、正常レベルより少なくとも10%高いレベルへと上昇させる。特定の実施形態においては、AMDに関連したSNPは因子Hのrs1061170、因子Hのrs800292またはC3のrs2230199である。
【0163】
本発明の特定の実施形態においては、AMDに関連した1以上のSNPに関して対象がホモ接合感受性である場合に、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを、正常レベルより少なくとも50%高いレベルへと上昇させる。特定の実施形態においては、AMDに関連したSNPは因子Hのrs1061170、因子Hのrs800292またはC3のrs2230199である。
【0164】
本発明の方法は、投与の少なくとも1、2、3、4、5または6日後、少なくとも1、2または3週間後、あるいは少なくとも1、2、3、4、5または6ヶ月後、あるいは少なくとも1年後に、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを決定し、活性のレベルが正常レベル以下であることが判明した場合には投与を反復することを更に含みうる。活性のレベルが最初の投与から1年間にわたって正常レベル以上に維持されていたことが判明した場合には、活性のレベルが正常レベル以上に維持され続けていることを確認するために、後続検査が毎年実施されうる。
【0165】
インビボにおいては、補体因子I(FI)は主として肝細胞により肝臓において発現される。尤も、それは、インビトロでは、単球、線維芽細胞、ケラチノサイトおよびヒト臍帯静脈内皮細胞においても発現されることが判明している。FIは、重鎖および軽鎖からなるヘテロ二量体であり、それらはジスルフィド結合により共有結合している。FIは単一のプロペプチド鎖として発現される。翻訳後に、該タンパク質は、小胞体およびゴルジにおいて、N-グリコシル化を含む幾つかの修飾を受ける。各鎖は3つのアスパラギン残基においてグリコシル化されることが可能であり、これらの重量グリカン糖分子は見掛けタンパク質分子量の20~25%を構成する。また、FIはトランスゴルジ網においてフューリン(またはPACE(paired basic amino acid cleaving enzyme))によりタンパク質分解的に切断され、ここで、フューリンは、4つ正荷電アミノ酸、すなわち、RRKRを切断する。これらの4つのアミノ酸は重鎖と軽鎖との境界において見出され、リンカーペプチドを形成する。それらの除去の後、プロ酵素は、酵素的に活性な切断ヘテロ二量体形態へとプロセシングされる。プロFIは、その配列全体にわたって、28個のペア形成塩基性アミノ酸残基を含有するが、フューリンはArg-Arg-Lys-Arg部位を認識し、該部位でのみ切断する。FIは18残基のN末端リーダー配列を有し、これは分泌前に切断され、成熟タンパク質が血流内に放出される(Nilssonら, Mol. Immunol., 44(8):1835-1844, March 2007)。
【0166】
FIは幾つかのドメインからなる(Nilssonら, 2011, Mol. Immunol. 48(14):1611-1620)。重鎖はN末端FI膜攻撃複合体ドメイン(FIMAC)、スカベンジャー受容体システインリッチドメイン(SRCR; また、CD5ドメインとしても公知である)、低密度リポタンパク質受容体1および2ドメイン、ならびに相同性不明な小さな領域(D領域と称されることもある)からなる。FIの軽鎖は、酵素的に活性なドメインであり、これは、His-Asp-Ser触媒三残基を形成する残基を含有するキモトリプシン様セリンプロテアーゼ(SP)ドメインからなる。
【0167】
因子Iの重鎖は基質に結合し、無傷FIのSPドメインをC3b内の2つの切断部位へと向けさせ、該切断部位が切断されてiC3bを形成することが示唆されている。2011年に、FIの結晶構造が公開され、C3b-FH-FI複合体における重鎖および軽鎖の配置に関する更なる手がかりを与えた(TsiftsoglouおよびSim, J. Immunol., 173(1):367-375, July 2004)。基質(すなわち、C3b-FH複合体)は因子Iの活性部位における構造的リモデリングを誘導すると示唆された。これは、FIがC3bとプレインキュベートされた場合に、プロテアーゼインヒビターであるジイソプロピルフルオロホスファートが活性部位セリンと反応しうるに過ぎないという知見により更に裏付けられる。C3b-FH(1-4)複合体の結晶構造上のFIの重ね合わせは、SRCRドメインとは別に、重鎖がC3bおよび補因子に対して密接に詰め込まれていることを示している。この結合は重鎖のアロステリック阻害作用を無効にし、SPドメインのリモデリングを誘導し、ついで、SPドメインは活性状態となり、C3bを切断する。適切なFI機能におけるFIMACおよびFIドメインの接近可能性の重要性は一連の突然変異誘発において明快に実証された(Schlottら, J. Mol. Biol., 318(2):533-546, April 2002)。
【0168】
本発明の組換えウイルスベクターによりコードされる因子Iまたはその断片もしくは誘導体は、成熟因子Iの適切なプロセシングおよび分泌を保証するための天然の18アミノ酸残基のシグナル配列を含みうる。あるいは、異種シグナル配列(すなわち、天然遺伝子によってはコードされないシグナル配列)が使用可能であり、あるいはシグナル配列は省略されうる。
【0169】
特定の実施形態においては、因子Iはヒト因子I、例えば、配列番号2(変異体2; 18残基のN末端シグナル配列を含有する; NCBI参照配列:NM 000204.4)または配列番号4(変異体2; 18残基のN末端シグナル配列を含有しない)のアミノ酸配列を有するヒト因子Iである。
【0170】
他の実施形態においては、因子Iの他の変異体、例えばヒト因子I変異体1(これはより長いアイソフォームであり、変異体2と比較して中央コード領域に交互のインフレームエキソンを含む)が使用されうる。この変異体の配列はNCBI参照配列:NM 001318057.1であり、18アミノ酸残基のN末端シグナル配列の存在下または非存在下で使用されうる。
【0171】
因子Iの断片または誘導体は、C3b不活性化およびiC3b分解活性を保有するポリペプチドであって、その全長にわたって、配列番号2または4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iに対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドでありうる。該断片または誘導体は1以上のアミノ酸の付加、欠失または置換、例えば、1以上の保存的アミノ酸置換を含みうる。
【0172】
保存的アミノ酸置換は、生じるタンパク質の活性に対して最小限の影響を及ぼす可能性が高い。保存的置換に関する更なる情報は、例えば、Ben Bassatら(J. Bacterial., 169:751-757, 1987)、O'Reganら(Gene, 77:237-251, 1989)、Sahin-Tothら(Protein Sci., 3:240-247, 1994)、Hochuliら(Bio/Technology, 6:1321-1325, 1988)ならびに遺伝学および微生物学の広く使用されている教科書において見出されうる。ポリペプチド配列の関連性を決定するためには、Blosum行列が一般に使用される。Blosum行列は、信頼性のあるアライメントの大きなデータベース(BLOCKSデータベース)を使用して作成され、その場合、幾らかの閾値同一性比率未満の関連性を有するペアワイズ配列アラインメントがカウントされた(Henikoffら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:10915-10919, 1992)。BLOSUM90行列の高度に保存された標的頻度に関して、90%同一性の閾値が用いられた。BLOSUM65行列の場合には65%同一性の閾値が用いられた。Blosum行列における0以上のスコアは、選択された同一性比率における「保存的置換」とみなされる。以下の表は典型的な保存的アミノ酸置換を示す。
【0173】
【0174】
因子Iの断片または誘導体は天然因子IのC3b不活性化およびiC3b分解活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%または95%または100%を保有しうる。因子Iの断片または誘導体および天然因子IのC3b不活性化およびiC3b分解活性は、当業者に公知の任意の適切な方法を用いて決定されうる。例えば、因子Iタンパク質分解活性の測定は、Hsiungら(Biochem. J. (1982) 203, 293-298)の295頁左欄に記載されている。FI活性に関する溶血および凝集アッセイは共に、Lachmann PJ & Hobart MJ (1978) "Complement Technology", Handbook of Experimental Immunology 3rd edition Ed DM Weir Blackwells Scientific Publications Chapter 5A p17に記載されている。タンパク質分解アッセイをも含む、より詳細な説明は、Harrison RA(1996), "Weir's Handbook of Experimental Immunology" 5th Edition Eds; Herzenberg Leonore A'Weir DM, Herzenberg Leonard A & Blackwell C Blackwells Scientific Publications Chapter 75 36-37に記載されている。凝集アッセイは高感度であり、それを用いて、固定C3bからiC3bへの変換およびコングルチニンとの反応性の獲得を行う第1(二重)クリップを検出すること、ならびに固定iC3bから開始してコングルチニンとの反応性の減少を観察するC3dgへの最終クリップを検出することが可能である。溶血アッセイはC3bからiC3bへの変換に用いられ、タンパク質分解アッセイは全てのクリップを検出する。
【0175】
幾つかの実施形態においては、因子Iをコードする核酸は、配列番号2(変異体2; 18残基のN末端シグナル配列を含有する; NCBI参照配列:NM 000204.4)または配列番号4(変異体2; 18残基のN末端シグナル配列を含有しない)のアミノ酸配列を有するヒト因子Iをコードする。
【0176】
幾つかの実施形態では、ヒト因子Iをコードする核酸は、配列番号1(18残基のN末端シグナル配列を含有する、NCBI参照配列:NM 000204.4からの因子I、転写産物変異体2、mRNAのCDSのコード領域)または配列番号3(18残基のN末端シグナル配列を含有しない、因子I、転写産物変異体2、mRNAのCDSのコード領域)のヌクレオチド配列を含む。
【0177】
幾つかの実施形態においては、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列が使用されうる。適切なコドン最適化配列は、例えば、コドン最適化ソフトウェア、例えばSnapGeneを使用して作製されうる。
【0178】
因子Iをコードするコドン最適化ヌクレオチド配列の一例は配列番号7である。したがって、幾つかの実施形態においては、因子Iをコードする核酸は配列番号7のヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる。
【0179】
幾つかの実施形態においては、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸は、その全長にわたって、配列番号1または3のヌクレオチド配列を有するヒト因子Iをコードする核酸に対して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の核酸配列同一性を有する核酸を含みうる。
【0180】
参照ポリペプチドまたは核酸配列に対する「配列同一性パーセンテージ(%)」は、本明細書においては、最大の配列同一性パーセンテージが得られるように配列をアライメント(整列)させ、必要に応じてギャップを導入した後、参照ポリペプチドまたは核酸配列におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドと同一である、配列内のアミノ酸残基またはヌクレオチドの百分率として定義される。パーセントアミノ酸または核酸配列同一性を決定するためのアライメントは、当技術分野における技量の範囲内である種々の方法で達成可能であり、例えば、公的に入手可能なコンピュータソフトウェアプログラム、例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Ausubelら編, 1987), Supp. 30, section 7.7.18, Table 7.7.1に記載されているもの、BLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)を使用して達成可能である。アラインメントプログラムの一例はALIGN Plus(Scientific and Educational Software, Pennsylvania)である。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大アライメントを達成するのに必要な任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメータを決定することが可能である。本発明の目的においては、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bに対するパーセンテージアミノ酸配列同一性(これは、与えられたアミノ酸配列Bに対する、与えられたアミノ酸配列Aが有する又は含む或るアミノ酸配列同一性(%)とも称されうる)は、以下のとおりに計算される:比率X/Yを100倍する(ここで、Xは、配列アライメントプログラムにより、AとBとのそのプログラムのアライメントにおいて同一マッチとして評価されたアミノ酸残基の数であり、YはBにおけるアミノ酸残基の総数である。)。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合には、Bに対するAのパーセンテージアミノ酸配列同一性はAに対するBのパーセンテージアミノ酸配列同一性と等しくないと理解されるであろう。本発明の目的においては、与えられた核酸配列Aの、与えられた核酸配列Bに対するパーセンテージアミノ酸配列同一性(これは、与えられた核酸配列Dに対する、与えられた核酸配列Cが有する又は含む或るパーセンテージアミノ酸配列同一性とも称されうる)は、以下のとおりに計算される:比率W/Zを100倍する(ここで、Wは、配列アライメントプログラムにより、CとDとのそのプログラムのアライメントにおいて同一マッチとして評価されたヌクレオチドの数であり、ZはDにおけるヌクレオチドの総数である。)。核酸配列Cの長さがア核酸配列Dの長さと等しくない場合には、Dに対するCのパーセンテージ核酸配列同一性はCに対するDのパーセンテージ核酸配列同一性と等しくないと理解されるであろう。
【0181】
本明細書中で言及される対象は哺乳動物である。適切な例には、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類、例えばサル)、ウサギおよびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が含まれる。特定の実施形態においては、対象はヒトである。
【0182】
本明細書中で用いる「治療する」または「治療(処置)」は、有益なまたは所望の臨床結果を得るためのアプローチである。本発明の目的においては、有益なまたは所望の臨床結果には、症状の緩和、疾患の度合の低減、疾患の状態の安定化(例えば、悪化しない)、疾患の拡大の予防、疾患の進行の遅延または減速、疾患状態の改善または軽減、既存治療レジメンの投与の必要用量および/または頻度の減少、ならびに寛解(部分的なものも完全なものも含む)(検出可能なものも検出不能なものも含む)が含まれる。「治療」は、治療を受けていない場合の予想生存期間と比較して生存期間を延長させることも意味しうる。治療は、有益なまたは所望の臨床結果を得るのに十分な期間および/または十分な頻度で適用されうる。
【0183】
本明細書中で用いる「予防する」または「予防」は、個体が障害またはそのリスクを有することが判明しており又は疑われるが、未だ障害の症状を示していない又は最小限の症状しか示していない場合の処置を意味する。予防処置を受けている個体は症状の発現開始前に治療されうる。
【0184】
「治療的有効量」は、臨床結果(例えば、症状の改善、臨床的エンドポイントの達成)を含む有益なまたは所望の結果をもたらすのに十分な量である。治療的有効量は1回以上の投与で投与されうる。疾患状態に関して、治療的有効量は、疾患の改善、安定化、または発生を遅延させるのに十分な量である。
【0185】
本発明の組換えウイルスベクターは、一般に、単離された組換えウイルスベクター、すなわち、その天然環境の成分から分離および/または回収された組換えウイルスベクターであると理解される。同様に、本発明の組換えウイルス粒子は、一般に、単離された組換えウイルス粒子、すなわち、その天然環境の成分から分離および/または回収された組換えウイルス粒子であると理解される。
【0186】
本発明はまた、本発明の組換えウイルスベクターまたは本発明の組換えウイルス粒子と医薬上許容される担体、賦形剤または希釈剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0187】
本発明の医薬組成物は、組成物の投与、例えば静脈内投与の任意の適切な方法、または前記の任意の他の適切な投与方法に適したものでありうる。
【0188】
本発明の医薬組成物はヒト対象への投与に適したものでありうる。
【0189】
本発明はまた、本発明の組換えウイルスベクターまたは本発明の組換えウイルス粒子と医薬上許容される担体、賦形剤または希釈剤とを含むキットを提供する。
【0190】
幾つかの実施形態においては、本発明のキットは、本発明の方法、ベクターまたはウイルス粒子のいずれかを用いて、本明細書に記載されている補体媒介性疾患を治療するための説明を更に含みうる。本発明のキットは、治療を必要とする対象の注射に適した医薬上許容される担体、賦形剤または希釈剤を含みうる。本発明のキットは、バッファー、フィルター、針、シリンジ、および対象への投与を行うための説明を伴う添付文書のいずれかを更に含みうる。適切な包装材が含まれることが可能であり、当技術分野で公知の任意の包装材、例えばバイアル(例えば、密封バイアル)、容器、アンプル、ボトル、ジャー、可撓性包装(例えば、密封マイラーまたはプラスチックバッグ)でありうる。これらの包装材は更に、滅菌および/または密封されうる。
【0191】
本発明の医薬組成物またはキットは単回投与量または複数回投与形態で包装されうる。本発明の医薬組成物および本発明のキットの内容物は、一般的に、無菌の実質的に等張性の溶液として製剤化(処方)される。
【0192】
医薬上許容される担体、賦形剤および希釈剤は、薬理学的に有効な物質の投与を促進する比較的不活性な物質であり、液体溶液または懸濁液として、あるいは乳濁液として、あるいは使用前に液体中に溶解または懸濁するのに適した固体形態として供給されうる。例えば、賦形剤は形態または粘稠度を付与することが可能であり、あるいは希釈剤として作用しうる。適切な賦形剤には、安定化剤、湿潤剤および乳化剤、浸透圧を改変するための塩、カプセル化剤、pH緩衝物質およびバッファーが含まれるが、これらに限定されるものではない。そのような賦形剤には、過度の毒性を伴うことなく投与されうる対象への(例えば、静脈内または肝臓への)直接運搬に適した任意の医薬物質が含まれる。医薬上許容される賦形剤には、ソルビトール、種々のTWEEN化合物のいずれか、および液体、例えば水、塩類液、グリセロールおよびエタノールなが含まれるが、これらに限定されるものではない。医薬上許容される塩、例えば、無機酸塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など;および有機酸の塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩または安息香酸塩がそれらに含まれうる。
【0193】
幾つかの実施形態においては、医薬上許容される賦形剤には、医薬上許容される担体が含まれうる。そのような医薬上許容される担体は、無菌液体、例えば水、および油、例えば石油、動物、植物または合成起源の油、例えばピーナッツ油、ダイズ油、鉱油でありうる。塩類溶液ならびに水性デキストロース、ポリエチレングリコール(PEG)およびグリセロール溶液も、液体担体、特に注射液用の液体担体として使用されうる。追加的成分、例えば保存剤、バッファー、等張化剤、抗酸化剤および安定剤、非イオン性湿潤剤または清澄化剤または増粘剤も使用されうる。
【0194】
医薬上許容される賦形剤および担体の詳細な考察はRemington's Pharmaceutical Sciences(Mack Pub. Co., N.J. 1991)に記載されている。
【0195】
幾つかの実施形態においては、本発明の医薬組成物のウイルス力価は少なくとも5×1012、6×1012、7×1012、8×1012、9×1012、10×1012、11×1012、15×1012、20×1012、25×1012、30×1012、または50×1012 ゲノムコピー/mLである。幾つかの実施形態においては、該組成物のウイルス力価は5×1012~10×1012、10×1012~25×1012、または25×1012~50×1012 ゲノムコピー/mLである。幾つかの実施形態においては、該組成物のウイルス力価は5×1012~6×1012、6×1012~7×1012、7×1012~8×1012、8×1012~9×1012、9×1012~10×1012、10×1012~11×1012、11×1012~15×1012、15×1012~20×1012、20×1012~25×1012、25×1012~30×1012、30×1012~50×1012、または50×1012~100×1012 ゲノムコピー/mLである。
【0196】
幾つかの実施形態においては、本発明の医薬組成物のウイルス力価は少なくとも5×109、6×109、7×109、8×109、9×109、10×109、11×109、15×109、20×109、25×109、30×109、または50×109 形質導入単位/mLである。幾つかの実施形態においては、該組成物のウイルス力価は5×109~10×109、10×109~15×109、15×109~25×109、または25×109~50×109 形質導入単位/mLである。幾つかの実施形態においては、該組成物のウイルス力価は5×109~6×109、6×109~7×109、7×109~8×109、8×109~9×109、9×109~10×109、10×109~11×109、11×109~15×109、15×109~20×109、20×109~25×109、25×109~30×109、30×109~50×109 または50×109~100×109 形質導入単位/mLである。
【0197】
ウイルス力価に関して用いる「形質導入単位」なる語は、機能アッセイ、例えば、WO 2015/168666の実施例、あるいは例えば、Xiaoら (1997) Exp. Neurobiol., 144:113-124またはFisherら (1996) J. Virol., 70:520-532(LFUアッセイ)に記載されている機能アッセイにおいて測定される機能性トランスジーン産物の産生をもたらす感染性組換えベクター粒子の数を意味する。
【0198】
幾つかの実施形態においては、本発明の医薬組成物のウイルス力価は少なくとも5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、9×1010、10×1010、11×1010、15×1010、20×1010、25×1010、30×1010、40×1010、または50×1010 感染単位/mLである。幾つかの実施形態においては、該組成物のウイルス力価は少なくとも5×1010~10×1010、10×1010~15×1010、15×1010~25×1010、または25×1010~50×1010感染単位/mLである。幾つかの実施形態においては、該組成物のウイルス力価は少なくとも5×1010~6×1010、6×1010~7×1010、7×1010~8×1010、8×1010~9×1010、9×1010~10×1010、10×1010~11×1010、11×1010~15×1010、15×1010~20×1010、20×1010~25×1010、25×1010~30×1010、30×1010~40×1010、40×1010~50×1010、または50×1010~100×1010 感染単位/mLである。
【0199】
ウイルス力価に関して用いる「感染単位」なる語は、例えば、McLaughlinら (1988) J. Virol., 62:1963-1973に記載されている感染中心アッセイ(複製中心アッセイとしても公知である)により測定される感染性および複製可能組換えベクター粒子の数を意味する。
【0200】
本発明は更に、rAAV粒子の製造のためのキットを提供し、該キットは、本発明のrAAVベクターと、AAV複製およびキャプシドタンパク質をコードする核酸ならびに生産的AAV生活環に必要な遺伝子を含む1以上のヘルパープラスミドとを含む。
【0201】
ある実施形態においては、rAAV粒子の製造のための本発明のキットは、AAV複製およびキャプシドタンパク質をコードする核酸を含む第1ヘルパープラスミドと、生産的AAV生活環に必要な遺伝子をコードする核酸を含む第2ヘルパープラスミドを含む。
【0202】
生産的AAV生活環に必要な遺伝子はアデノウイルス、ヘルペスウイルスまたはバキュロウイルス遺伝子でありうる。特定の実施形態においては、該遺伝子はアデノウイルス遺伝子、特に、E1a、E1b、E2a、E4およびVA RNAアデノウイルス遺伝子である。
【0203】
本発明は更に、医薬としての使用のための、本発明の組換えウイルスベクター、本発明の組換えウイルス粒子または本発明の医薬組成物を提供する。
【0204】
本発明はまた、補体媒介性障害の治療における使用のための、本発明の組換えウイルスベクター、本発明の組換えウイルス粒子または本発明の医薬組成物を提供する。
【0205】
本発明はまた、補体媒介性障害の治療のための医薬の製造における、本発明の組換えウイルスベクター、本発明の組換えウイルス粒子または本発明の医薬組成物の使用を提供する。
【0206】
該補体媒介性障害は、代替経路調節における欠損に関連した障害、特に、補体C3bフィードバックサイクルの過剰活性に関連した障害でありうる。
【0207】
本発明により予防または治療されうる補体媒介性障害の例には、加齢黄斑変性(AMD)(特に、早期(ドライ型)AMDまたは地図状萎縮)、デンスデポジット病(DDD)、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、C3糸球体症、膜性増殖性糸球体腎炎2型(MPGN2)、アテローム性動脈硬化症、慢性心血管疾患、アルツハイマー病、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、および高齢者の自己炎症性疾患が含まれる。
【0208】
本発明により予防または治療されうる補体媒介性障害の更なる例には、MPGN I型、MPGN III型、ギラン-バレー症候群、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、IgA腎症および膜性糸球体腎炎が含まれる。
【0209】
つぎに、本発明の実施形態を、以下に説明する添付図面を参照して、単なる例示としての実施例により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0210】
【
図2】
図2は脊椎動物補体の代替経路のフィードバックループを示す。
【
図3】
図3は補体活性化の間のC3のタンパク質分解を示す。C3はα鎖およびβ鎖からなる。β鎖は修飾されないが、α鎖は数回切断される。i)C3aはC3転換酵素により切断され、残りのタンパク質は今やC3bと称される。ii)2つの部位におけるFI切断はC3fペプチドを遊離し(補因子としてFH)、それは今やiC3bまたはC3biと称される。iii)補因子としてCR1を用いて、FIはiC3bの68kDa断片において再び切断する。C3cは拡散するが、C3dgは細胞表面に結合したままであり、トリプシン様プロテアーゼにより更に切断されうる。
【
図5】
図5は、因子Iの血清レベルの過剰発現のために使用されるAAV2/8構築物を示す。トランスジーン(この場合は因子I)はプロモーターとポリアデニル化認識部位との間に挿入される。両側には2つの逆方向末端反復(ITR)が隣接している。キャプシド配列および更なるアデノウイルス遺伝子は他のプラスミド内に充填される。
【
図6】
図6は、ウエスタンブロットにより測定された因子Iレベルの上昇を示す。マウス血清を5%に希釈し、10μlをSDS PAGEにより分離した。mFIの重鎖と反応するα-FI抗体(1:500)でFIが検出された。実験は2回行った。
【
図7】
図7は阻害ELISAからの代表的な結果を示す。(a)既知濃度の精製組換えmFIでアッセイを較正する。0.25μg/mlより低い濃度が陽性シグナルを与える。(b)正常マウス血清(NMS)は0.625%未満の濃度で陽性である。(c~f)AAV構築物を注射したマウスからの血清を使用する阻害ELISA。ここでは、群当たり1つの血清サンプルのみが示されている。実験は3重に2回行った。
【
図8】
図8は、過剰発現した因子Iの機能活性を測定するためのC3bおよびiC3bインビトロ切断アッセイの結果を示す。基質、すなわち、C3α'1鎖が迅速に生成し、その分解(すなわち、C3dgの生成)の速度が比較されている。C3切断はα-hC3dg(1μg/ml)で検出された。実験は2回行った。
【
図9】
図9は、過剰発現した因子Iの機能活性を試験するためのiC3b沈着アッセイの結果を示す。注射したマウスの血清を代替経路補体固定バッファーで25%に希釈し、LPS被覆プレート上にローディングした。37℃で1時間のインキュベーションの後、結合したiC3bをα-ヒトC3c抗体で検出した。吸収を415nmで測定した。実験は2重に2回行った。
【0211】
(実施例)
実施例1
AAV発現系
この実施例は、マウス肝細胞における因子Iの過剰発現を可能にするマウス因子Iをコードする組換えウイルスベクターの製造、および該ベクターをキャプシドで包み込んでいるウイルス粒子(ビリオン)の製造を記載する。
【0212】
アデノ随伴ウイルス(AAV)構築物を使用した。それは、肝臓指向性を付与するためにAAV8キャプシドタンパク質でシュードタイピングされたAAV2ウイルスバックボーンからなる。したがって、該ウイルスは主に肝臓に感染し、FIトランスジーンはその天然部位で過剰発現する。因子Iトランスジーンの肝臓外発現を更に抑制するために、2つの追加的ApoE肝制御領域を含有するα-1-アンチトリプシン(AAT)プロモーターを使用した(
図5を参照されたい)。以下に更に詳細に記載されているとおり、ウイルス産生のための全ての必要遺伝子は3つのプラスミドに分割され、これらのプラスミドは、AAVパッケージングのための残りの欠損遺伝子を提供する細胞株内にコトランスフェクトされる。
【0213】
AAV(野生型):野生型AAVの4.7kbゲノムは、2つの逆方向末端反復(ITR)および2組のオープンリーディングフレーム(ORF)(これらは複製(Rep)およびキャプシド(Cap)タンパク質をコードする)により特徴づけられる。Rep ORFは4つのタンパク質(78、68、52および40kDa)をコードし、これらは主にAAVの複製および組込みの調節において機能する。Cap ORFは3つの構造タンパク質(85kDa(VP1)、72kDa(VP2)および61kDa(VP3))をコードする。VP1:VP2:VP3比はキャプシドにおいては約1:1:8または1:1:10である。
【0214】
組換えAAV(rAAV):この実施例において使用されるrAAVは、肝臓指向性を付与するためにAAV8キャプシドでシュードタイピングされたAAV2(rAAV2/8)である。rAAV2/8ビリオンは、後記の3つのプラスミドを使用する3重トランスフェクションによりHEK293細胞内にパッケージングされる。
【0215】
1.pAM2AA(ITRおよびトランスジーン発現カセット):このプラスミドにおいては、AAV2由来の145bpの逆方向末端反復(ITR)がトランスジーンカセットに隣接している。それらの2つのITRは、AAV生活環における全段階に不可欠な唯一のシスエレメントである。それらはDNA複製起点として機能し、パッケージングおよび組込みシグナルを提供し、WT AAV遺伝子発現のための調節エレメントとして働く。pAM2AAカセットは、2つのApoEエンハンサーを伴うヒトアルファ-1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター、およびそれに続く、トランスジーンをコードするcDNAを含む。3'-非翻訳領域(UTR)はウッドチャック肝炎転写後調節エレメント(WPRE)およびウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(BGHポリA)を含有する。WT AAVのパッケージング能は約4.7kbである。pAM2AAにおいては、調節領域は約2390bpを占め、挿入トランスジーンのために約2310bpが残されている。
【0216】
2.p5E18VD/8(AAVヘルパー配列):RepおよびCap遺伝子を含む、AAV2からの欠失ウイルスコード配列が、p5 AAVプロモーターにより駆動されるこのプラスミド中に存在する。ここで、AAV2キャプシドをコードする配列は、AAV8キャプシドをコードする配列により置換されている。ベクターとヘルパー配列との間に相同性は存在せず、それにより、野生型AAV組換え体の生成の可能性が低減する。
【0217】
3.pXX6(アデノウイルスヘルパー機能):生産的AAV生活環に必須のアデノウイルス遺伝子はE1a、E1b、E2a、E4およびVA RNA遺伝子である。E1aは、AAV RepおよびCap遺伝子ならびにアデノウイルス遺伝子の転写をアップレギュレーションするトランスアクチベーターとして機能する。E1bはE4と相互作用してウイルスmRNAの輸送を促進する。E4は、AAV DNA複製を促進することにも関与する。E2aおよびVA RNAは、特にCap転写物に関して、ウイルスmRNA安定性および翻訳効率を高めるように働く。pXX6は必須アデノウイルスヘルパー遺伝子を含有するが、アデノウイルス構造および複製遺伝子を欠いている。pXX6内に含まれる必須ヘルパー遺伝子はE2a、E4およびVA遺伝子である。E1aおよびE1bの両方が欠失しており、欠損しているE1aおよびE1b遺伝子はHEK293細胞により補完される。
【0218】
マウス因子I(AAV mFI)をコードする組換えAAVベクターの製造
pAM2AA発現ベクター内への因子Iのクローニングを可能にするためには、制限部位を、適合する酵素認識部位に変化させる必要があった(プライマー配列:FI-AAV-F: 5'- TCT AGA GGA TCC GCC ACC ATG AAG CTC - 3' (配列番号5); およびFI-AAV-R: 5'- AAG CTT GGC GGC CGC TCA GAC ATT GTG TTG AGA AAC AAG AGA CCT TC - 3'(配列番号6)を使用)。その新たな配列をPCR増幅によりマウス因子I cDNAに結合させた。増幅された構築物の精製の後、それをpAM2AAに連結した。XbaIおよびHindIII制限部位を使用して、マウス補体因子IのcDNAをpAM2AA内にクローニングした。ベクターを調製したら、AAV GFPベクターを、後続のウイルスパッケージングおよび精製工程と共に、同様に処理した。これは、エラーが生じなかったことを保証するものである。なぜなら、肝GFPの発現は蛍光顕微鏡下で視覚的に容易に追跡されうるからである。
【0219】
rAAV2/8ビリオンの調製
マウス補体因子IのcDNAを含有するpAM2AAベクターをSURE2細胞内に形質転換して、望ましくない組換え事象を防止した。CaPO4を使用して、HEK293細胞を3つの全てのプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、細胞を採取し、ドライアイス/100% エタノール浴内で凍結融解を繰り返すことにより、細胞を細胞溶解し、-80℃で保存した。AAVビリオンを塩化セシウム勾配上で精製し、ウイルス粒子をリアルタイムPCRにより定量した。
【0220】
実施例2
アデノ随伴ウイルス運搬系による補体因子Iのインビボ過剰発現
この実施例は、実施例1に記載されているとおりに製造されたAAV mFIベクターをキャプシドで包み込んでいるビリオンの、マウスへの注射、該ビリオンの注射の後の因子Iの血漿レベルの測定、および注射後のマウスにおける代替補体経路のダウンレギュレーションの評価を記載する。
【0221】
マウスの注射
12匹のマウスを4つの群に分け、それらに、異なる濃度のAAV mFIまたは対照ウイルス調製物を投与した。
・低いmFI = 5×109個のビリオン
・中等度のmFI = 5×1010個のビリオン(= 過去の実験における100%の肝臓形質導入)
・高いmFI = 5×1011個のビリオン
・GFP = 5×1011個のビリオン
マウスの尾静脈に静脈内注射した。4週間後に血液を採取し、8週間後にマウスを選別し、それらの血清を分析した。
【0222】
結果
上昇した因子Iレベルの定量
FIレベルを定量するために、ポリクローナル特注α-mFI抗血清を注文した。その間、ウエスタンブロットを行った。この場合、α-FI(Santa Cruz, sc-69465)を検出抗体として使用して、FIレベルを大まかに定量した。ピペット操作の間違いを減らすために、血清を連続段階で希釈した。FIの相対濃度は以下のとおりに決定された:AAV GFP < AAV FI低 < AAV FI中等度 < AAV FI高(
図6を参照されたい)。
【0223】
抗血清が到着したら、遥かに高感度のアッセイである阻害ELISAを行った。血清を、予め決定された濃度のα-mFI-抗血清と共にプレインキュベートし、ついで、組換えmFIでコーティングされたマイクロタイタープレート上でインキュベートした。α-mFI-抗血清の調製および結合特異性は後記の「材料および方法」の節に記載されている。未結合抗体のみが該プレート上の固定化抗原と反応しうる。したがって、該抗血清中のα-mFI抗体の量が、血清中に存在するmFIを超える場合にのみ、アッセイは陽性結果を示す。アッセイは既知因子I濃度で較正される。
【0224】
マイクロタイタープレートを1μg/ウェルのmFIでコーティングした場合、75μg/mlを超える抗血清濃度が強力な陽性シグナルを示すことが判明した(非表示)。
図7は阻害ELISAからの代表的な結果を示す。このアッセイは、0.25μg/ml未満の濃度において陽性シグナルを示す(
図7a)。この較正を用いて、血清サンプル中のFIの濃度を決定することが可能である。最初に、野生型マウスの正常サンプルを試験し、0.625%より低い濃度が陽性シグナルを与えた(
図7b)。このアッセイにおける陽性シグナルの閾値は0.25μg/ml mFIであることが判明しているため、100%血清中のmFIの濃度が計算されうる(すなわち、40μg/ml)。AAV構築物を注射したマウス血清のそれぞれに関して、同じ計算を行い(
図7c~f)、群当たりの濃度範囲を決定した(表2を参照されたい)。
【0225】
【0226】
GFP対照群における20~40μg/ml FIから始まり、濃度は該低群においては40~80μg/ml、該中等度群においては80μg/ml、高FI用量においては80~160μg/ml FIである。AAV遺伝子治療により血清濃度は正常レベルの4倍へと上昇しうると結論づけられた。
【0227】
上昇した因子Iレベルを有する血清の機能解析
組換え因子Iと同様にしてトランスジェニックマウスの血清を分析した。過剰発現タンパク質は、理論的には、内因性FIと同様にプロセシングされ、分泌されるため、マウスの血清を互いに直接比較することが可能であった。イムノブロッティングおよび阻害ELISAによりFIの増加が確認された後、過剰発現酵素の機能活性を確認することが必要であった。したがって、インビトロC3b切断アッセイ、溶血アッセイおよびiC3b沈着アッセイにより、FI機能活性に関して血清を分析した。
【0228】
C3bおよびiC3b切断をインビトロアッセイで測定した。ヒトC3をトリプシンでC3bへと消化し、トランスジェニックマウスからの血清およびhFHと共にインキュベートした。30分後、1μgのヒトC3をSDSゲル上にローディングし、クローン9でブロットした。C3bは、まず、迅速な反応においてiC3bへと切断され(該抗体はiC3bのC3α'1鎖と反応する)、ついで、遥かに遅い反応においてC3dgへと更に切断される。この第2の反応はFI濃度の増加により加速されうる。種々のマウス群からの血清およびヒト因子Hと共にインキュベートされたヒトC3bは、AAV FI中等度およびAAV FI高群においては、該インキュベーション時間内に、より効率的にC3dgへと切断された(
図8、レーン10~14を参照されたい)。対照プラスミドのみを注射したマウスは該インキュベーション時間内にC3dgバンドをほとんど示さない。
【0229】
次の段階は、過剰発現因子Iが全血清中においても機能的に活性であることを示すことであった。このために、マイクロタイタープレートをLPSでコーティングし、トランスジェニックマウス血清の存在下の37℃でのインキュベーションの後、C3b/iC3b沈着を測定した。結果を
図9に示す。組換えタンパク質の場合と同様に、AAV mFIを注射したマウスは、LPS上のC3b/iC3bの、より少ない沈着を示した。なぜなら、代替経路のそれらの正のフィードバックループが因子Iにより妨げられたからである。C3b/iC3b沈着は、AAV 低 FIにおいては11%、AAV 中等度FIにおいては38%、そしてAAV高いFI群においては50%減少した。
【0230】
補体因子Iは、代替補体経路の有意なダウンレギュレーションを引き起こすレベルまで、ウイルスベクターを使用する遺伝子治療により過剰発現されうると結論づけられた。
【0231】
考察
遺伝子治療は種々の疾患の治療のための刺激的な新規治療選択肢である。それは、関心のあるタンパク質のDNA配列を含有する構築物でのそれぞれの細胞のトランスフェクションの後、タンパク質のインビボ発現を可能にする。実際には、通常は例えば配列の長さのような制限があるが、理論的には、あらゆるタンパク質の発現に遺伝子治療が用いられうる。遺伝子治療を用いて、欠損タンパク質が置換されうる。しかし、これは常に免疫原性のリスクを伴う。既存(内因性)タンパク質の濃度を増加させれば、このリスクは生じない、と本発明者らは理解している。本研究において、本発明者らは、補体因子Iが、代替補体経路の有意なダウンレギュレーションを引き起こすレベルまで、遺伝子治療により過剰発現されうるかどうかを解明することを望んだ。
【0232】
本発明者らは、マウス補体因子Iのトランスジェニック発現のためのベクターの作製に成功した。使用したウイルス発現系はAAV2に基づくものであり、そのキャプシドはAAV8に由来する。一緒になって、このAAV2/8構築物は、主として、マウスにおいて肝臓形質導入をもたらすが、ウイルス粒子は肝臓外組織においても見いだされうる。肝臓特異的発現を増強させるために、トランスジーンは、肝細胞における高レベルかつ特異的な発現のための2つのApoE肝臓制御領域を伴うα-1-アンチトリプシンプロモーターの制御下にある。したがって、トランスジーン発現は肝細胞においてのみ生じるはずである(しかし、時には、非常に密接に関連した組織である膵臓組織においても、非常に少ないトランスジーン発現が生じうる)。
【0233】
本発明者らは、使用したAAV発現系によるFIの過剰発現が補体ダウンレギュレーションに効果をもたらすこと、および第2に、この効果が測定可能であり、ベクター用量が増加するにつれて、より顕著になることを実証した。全FI増加を測定するために、マウス因子Iに対するポリクローナル抗体をウサギにおいて産生させた。なぜなら、商業的に入手可能なα-FI抗体は、ELISAにおいてマウスFI濃度を測定するのには不適切であることが判明したからである(それは、ウエスタンブロットにおいて、天然FIとは反応せず、変性タンパク質のみと反応する)。このポリクローナル特製抗体を使用して、正常レベルの4倍まで(すなわち、対照マウスにおける40μg/mlからトランスジェニックマウスにおける80~160μg/ml FIへ)、血清濃度を増加させることを示すことが可能であった。
【0234】
もう1つの興味深い疑問は、トランスジーン発現が急性期反応において更に上昇するかどうかである。使用した構築物においては、FIはα-1-アンチトリプシンプロモーター(α-1-アンチトリプシンおよびFIは共に陽性急性期反応物質である)の制御下にあるため、トランスジーン発現は急性期反応においても上昇すると予想されうる。これは、野生型およびトランスジェニックマウス内へのLPSまたはIL6の注射およびそれに続くFI増加速度の比較によって容易に実施されうる直接的な動物実験において試験可能であろう。内因性FI発現およびトランスジェニックFI発現の両方が増加すると仮定すると、これは、必要に応じて発現を増強するための選択肢を有する一方でAAV投与中の初期ウイルス負荷を減少させるための解決策となりうるであろう。
【0235】
宿主免疫のような因子はヒトにおけるAAVの広範な使用を妨げている。ヒトは、AAVにさらされると、遺伝子運搬を阻止する中和抗体を生成する。しかし、キャプシドタンパク質の操作により、より高い形質導入効率を有し、中和抗体により認識されない新たな変異が作製されうる。したがって、これらの免疫応答を抑制する新たなアプローチが試みられている(Mingozziら, Science Translational Medicine, 5(194):194ra92-194ra92, July 2013)。最近の臨床研究は、重篤な血友病Bを有する男性において2年間にわたって因子IXの治療レベルをもたらすAAVベクターの単回注入の成功を示しているが(MingozziおよびHigh, Blood, 122(1):23-36, July 2013)、正常FIXレベルの僅か1%の増加が血友病B患者における重篤な出血表現型を実質的に改善することが指摘されるべきである(Nathwaniら, N. Engl. J. Med., 371(21):1994-2004, November 2014)。以前、骨格筋におけるFIXのAAVトランスジーン発現は10年間持続することが示されていた。尤も、この場合、循環FIXレベルは依然として治療量以下(1%未満)であった(Buchlisら, Blood, 119(13):3038-3041, March 2012)。
【0236】
最大値の50%のFIの増加が、ヒトの治療において目標とされているものである。AAV mFI構築物を使用した場合、マウスにおいてはこれを遥かに超えており、iC3b沈着アッセイは、高AAV mFI用量において、C3b沈着の、50%までの減少を示している。これとは別に、本発明者らは、50%以上のFIが高リスクコンプロタイプの活性を低リスクコンプロタイプの活性に変換することを示した(Layら, 2015(前掲))。これらのコンプロタイプは共に非常に稀であり、大多数のヒトは両極端の範囲内にあるため、大多数のヒトに関するリスク低下の効果は50%のFI増加の範囲内で要求されるに過ぎない。
【0237】
材料および方法
α-マウス因子I
このポリクローナル抗体はSanta Cruz Biotechnology, Inc(#sc-69465)から商業的に入手可能である。該抗体はマウス因子Iの重鎖におけるペプチドに対してヤギにおいて産生された。該抗体は還元および非還元ウエスタンブロットまたはELISAにおいて重鎖を認識する。該抗体は、無傷のままであれば、プロ酵素をも認識する。それにもかかわらず、免疫化に使用されるペプチドは短すぎるため、該抗体は沈殿しない。
通常の実施濃度1:500。
【0238】
α-マウス因子I抗血清
この抗体は商業的に入手可能ではなく、オークタロニー(Ouchterlony)二重免疫拡散アッセイにおいて因子Iレベルの容易な決定を可能にする、mFIに対する沈降抗体を得るために、Absea Biotechnology Ltd.から取り寄せた。細菌内で産生された組換えマウス因子Iのペプチド断片(203aa~510aa)でウサギを免疫化した。該抗体を試験したところ、該抗体は非沈降性であることが判明したため、血清中の因子Iのレベルを測定するために阻害ELISAを開発した。FIを沈殿させるマウス因子Iに対する多価抗体を得るために、哺乳類細胞培養から精製された因子IをAbsea Biotechnology Ltd.に送ったが、この第2のαマウス因子I抗血清のための免疫化期間(8週間)は期限内に完了せず、それは将来の実験に使用されうる。
【0239】
クローン9抗体
クローン9は、C3が因子IによりiC3bまたはC3dgへと切断される場合にのみ接近可能となるC3gにおけるネオエピトープを認識するラットαヒトC3g抗体である(Lachmannら, Immunology, 41(3):503-515, November 1980)。天然条件下、クローン9はヒト由来のiC3bまたはC3dgとしか反応しないが、変性条件下では、ヒトC3のα、α'鎖および68kDa断片を検出する。なぜなら、これらの3つの断片は全て、C3g内にそのエピトープを含むからである。ウエスタンブロットにおける検出のための通常の実施濃度は0.5μg/mlであり、コーティング用の捕捉抗体としては1.35μg/mlである。クローン9およびα-hC3g抗体なる名称は互換的に用いられる。
【0240】
クローン4抗体
クローン4は、C3cにおけるコンホメーションエピトープを認識し、C3、C3b、iC3bおよびC3cと反応するラットモノクローナル抗C3c抗体である(Lachmannら, Immunology, 41(3):503-515, November 1980)。したがって、それは、C3cにおけるエピトープの非存在ゆえに、CdgまたはC3gに結合しない。通常の実施濃度は5μg/mlである。
【0241】
α-ヒトC3c
この抗体はDakoから商業的に入手可能であり、C3bおよびiC3b沈着を検出するために使用される。それは1:5000の濃度で使用され、α-ウサギ二次抗体で検出される。
【0242】
酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)
iC3b沈着アッセイ - 「クローン9アッセイ」 Maxisorb Nuncプレートを、コーティングバッファー中の1.25μg/ウェルの濃度のクローン9で4℃で一晩コーティングした。翌日、プレートを洗浄バッファー(= PBS - 0.05% Tween 20)で5回洗浄し、PBS-T中の4% マーベルミルク粉末で室温で2時間ブロッキングした。プレートを5回洗浄し、希釈血清サンプル(PBS/ゼラチン中の1:2000)を各ウェルに加えた(血清サンプルの調製は後記に記載されている)。1時間のインキュベーションの後、プレートを洗浄し、PBS/ゼラチン中で5μg/mlの濃度のビオチン化クローン4と共にで1時間インキュベートした。プレートを5回洗浄し、PBS/ゼラチン中の1:1000のエクストラビジン(Extravidin)-HRPと共にインキュベートした。最後に、十分な洗浄の後、100μlのTMB基質(Invitrogen)を加え、プレートをプレートシェーカー上で30分間インキュベートした。50μlのH2SO4で反応を停止させ、プレートをマイクロプレートリーダー(450nm)で読み取った。
【0243】
C3b沈着アッセイ Maxisorb Nuncプレートを、コーティングバッファー中、マンナン(Sigma, Saccharomyces cerevisiae由来マンナン)またはリポ多糖(Sigma)(1μg/ウェル)と共に4℃で一晩コーティングした。翌日、プレートをTBS-0.05% Tween-20で洗浄し、TBS-T中の1% BSAで室温でブロックした。2時間後、プレートを洗浄し、系列希釈された組換えタンパク質および/または血清と共にインキュベートした。37℃で1時間のインキュベーションの後、プレートをTBS-Tで洗浄し、TBS-T中、ポリクローナルウサギα-ヒトC3c補体(Dako)(1:5000で使用)と共に1時間インキュベートした。十分に洗浄した後、TBS-T中の1:5000のα-ウサギIgG(全分子) - アルカリホスファターゼ(ヤギにおいて産生されたもの; Sigma)を1時間添加した。プレートをTBS-Tで4回洗浄し、迅速p-ニトロフェニルホスファート錠剤(Fast p-Nitrophenyl Phosphate Tablets)(Sigma)を使用して用いてアッセイを現像し、測定した(405nm)。あるいは、3M NaOHの添加によってアッセイの現像を停止させ、その後に読み取りを行った。
【0244】
阻害ELISA 阻害ELISAにおいては、マイクロタイタープレートを抗原でコーティングし、ブロッキング後、二次抗体で検出された際に強力なシグナルを与える抗血清の濃度を決定する。ついで、この濃度を阻害アッセイで使用し、未知の抗原濃度を有するサンプルの系列希釈液と混合する。同時に、既知の抗原濃度の希釈系列を調製する。このプレインキュベーション工程中に、免疫複合体が形成され、混合物を、コーティングされたマイクロタイタープレート上にローディングすると、抗原の濃度が特異的抗体の量を超えないサンプルのみが陽性シグナルを与える。過剰な抗原が存在する場合には、マイクロタイタープレート上の固定化抗原に結合しうる遊離抗体は利用できない。したがって、阻害アッセイにおける陽性結果は、遊離抗原の量が制限的であるサンプルの希釈度を示し、既知抗原濃度の標準希釈度との比較により、未知濃度が決定されうる。
【0245】
血清サンプル中のマウス因子Iの濃度の決定のために、Maxisorb Nuncプレートを、コーティング(被覆)バッファー中、精製組換えマウス因子I(1μg/ウェル)で4℃で一晩コーティングした。翌日、プレートをTBS-T中の1% BSAで室温で2時間ブロッキングした。このインキュベーション中、マウス血清(5% 下方)または精製マウス因子I(2μg/ml 下方)の希釈物を1% BSA/150mM NaCl中で調製した。次に、該希釈物を、決定された濃度(すなわち、150μg/ml)の精製およびビオチン化α-mFI IgGと1:1で混合した。サンプルをプレートシェーカー上で室温で1時間インキュベートし、ついで該被覆プレート上にローディングした。1時間のインキュベーションの後、プレートを十分に洗浄し、結合ビオチン化α因子I抗体を1:5000の濃度のエクストラビジン - アルカリホスファターゼで検出した。プレートをTBS-Tで4回洗浄し、迅速p-ニトロフェニルホスファート錠剤(Fast p-Nitrophenyl Phosphate Tablets)(Sigma)を使用してアッセイを現像し、測定した(405nm)。
【0246】
ウエスタンブロット
特定のタンパク質を検出するために、またはサンプル中のそれらの存在を確認するために、ウエスタンブロット分析をおこなった。まず、ゲル電気泳動を行って、タンパク質をそれらサイズに応じて分離した。タンパク質サンプルを4×ローディングバッファー中で煮沸させて、それらを変性させた。分析のために還元型タンパク質が必要な場合には、β-メルカプトエタノールを加えた。SDSゲル電気泳動を、4~12% ビス - トリスタンパク質ゲル(Invitrogen)上で200Vで50分間行った。タンパク質を分離した後、ウェット・トランスファー(wet transfer)を行って、特異的抗体で標的タンパク質が検出されうるPVDF膜上に分離タンパク質をトランスファーした。
【0247】
トランスファー・バッファー平衡化ブロッティング紙、ゲルおよび膜(最初にMeOHで活性化されたもの)においてトランスファーカセット内にスタックすることにより、ブロットを構築した。該トランスファーは350mA、60Wで1時間行った。
【0248】
次に、ブロッキングバッファー中、ローター上で該膜を30分間ブロッキングした。一次および二次抗体の両方を、回転させながら1時間インキュベートし、その間に膜を洗浄バッファーで3×5分間洗浄した。最後の洗浄は、TBS-T(pH 8)中で行った。なぜなら、両方の使用基質は、最後の洗浄液が僅かにアルカリ性のpHである場合に、より強いシグナルを与えるからである。二次抗体のコンジュゲートに応じて、異なる基質を使用した。すなわち、タンパク質は、3mlのTMBまたはAP基質(Life Technologies)の添加によって発色法で検出し、あるいは、ペルオキシダーゼ結合抗体の場合には、ECL試薬の添加の後に化学発光により検出した。
【0249】
血清の調製
記載されているとおりに(Lachmann, J. Immunol. Methods, 352(1-2):195-197, January 2010)、血清の調製を行った。血液を滅菌条件下で採取し、室温で凝固させた。初期遠心分離を、通常、約3.000×gのベンチ遠心分離機で室温で約5~10分間行う。血清を採取し、20.000×gで2~5分間の第2の高速遠心分離を行う。この工程は、後に結果を歪めうる赤血球の全断片を除去するために不可欠である。ついで、この第2の遠心分離から取り出された血清を冷却し、アリコート化し、将来の実験のために凍結することが可能である。機能アッセイに使用する血清は、-80℃を超える温度で保存してはならないことに留意すべきである。凍結/融解の繰り返しはアリコートの調製によって回避されるべきである。
【0250】
インビトロアッセイ
プロ因子Iのフューリン消化 Hek細胞およびCHO細胞は共に、部分的にプロセシングされたmFIのみを分泌し、大多数は因子Iの不活性プロ酵素であった。活性因子Iを得るために、精製プロ酵素を、プロテアーゼであるフューリンで消化した。簡潔に説明すると、精製mFIをTBSに対して透析し、ついで10mM CaCl2に調節した。mFI 25μg当たり1単位のフューリンを加えた。反応は30℃で一晩行った。翌日、因子Iを直ちに使用し、またはアリコート化し、-80℃で保存した。
【0251】
C3b切断アッセイ C3b切断アッセイにおいては、まず、記載されている限定トリプシン消化(Bokischら, J. Exp. Med., 129(5):1109-1130, May 1969)によりC3bを調製した。簡潔に説明すると、2μlのヒトC3を0.8μlのトリプシン(10μg/ml)と共に、20℃で、厳密に60秒間インキュベートした。2.4μlのダイズトリプシンインヒビター(10μg/ml)の添加により反応を停止させた。この限定消化は、C3aの切断遊離により、C3のC3bを生成させる。次に、C3bを種々の量のマウス因子Iまたはヒトの因子Iおよび2μlのヒト因子Hと混合し、反応体積をTBSで10μlへと終結させた。あるいは、マウス血清を因子I源として加えた。反応を37℃で30~60分間行い、ついで、還元性4×ローディングバッファーの添加および煮沸により停止させた。サンプルをウエスタンブロットで分析し、または4℃で保存した。
【0252】
時間経過 C3bおよびiC3bを切断する組換えマウス因子Iの能力を試験するために、時間経過アッセイを開発した。このために、血清を37℃で迅速に解凍し、短時間ボルテックスし、ついで氷上に配置した。ついで該血清を組換えヒトまたはマウス因子Iと混合し、ついでザイモサンを最終濃度5%まで加えた。このアッセイにおいては、代替経路バッファーをバッファーとして使用した。該混合物を、調製したら、37℃のインキュベーター内で回転させ、選択した時点で、40μlの各サンプルを10μlの50mM EDTA中に取り出した。サンプリング時間は0、30、60、120、180、240、480、600および1440分であった。各時点で、サンプルを、ザイモサンを除去するために微量遠心し、ELISAによる試験まで-80℃で凍結させた。あるいは、可溶性であるという利点を有する補体活性化試薬としてのLPSをも使用して、アッセイを行った。
【0253】
本明細書中で引用されている刊行物、特許および特許出願を含む全ての参考文献を、各参考文献が本明細書に組み入れられると個別かつ具体的に示され、その全体が本明細書に記載されている場合と同様に、参照により本明細書に組み入れることとする。本明細書中で挙げられている参考文献は、専ら本出願の出願日前のそれらの開示のために示されているに過ぎない。本明細書においては、いずれの参考文献も、本明細書に記載されている実施形態の新規性または非自明性に影響を及ぼすことを認めるものとして何ら解釈されるべきではない。
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] 因子IまたはC3b不活性化およびiC3b分解活性を保有するその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む組換えウイルスベクターを対象に投与して、コード化因子Iまたはその断片もしくは誘導体の治療的有効量を対象における核酸から発現させ、それにより、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを上昇させることを含む、補体媒介性障害の予防、治療または改善を必要とする対象における補体媒介性障害の予防、治療または改善方法。
[2] 対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを、正常レベルを超えるレベルへと上昇させる、実施形態1に記載の方法。
[3] 該組換えウイルスベクターをキャプシドで包み込む組換えウイルス粒子を対象に投与する、実施形態1または実施形態2に記載の方法。
[4] 該組換えウイルス粒子が、投与後に対象の肝臓に感染して、肝臓からの因子Iまたはその断片もしくは誘導体の発現をもたらす、実施形態3に記載の方法。
[5] 該組換えウイルス粒子が、rAAVベクターをキャプシドで包み込んでいる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子である、実施形態3または4に記載の方法。
[6] 該rAAV粒子が、肝臓指向性を付与するためにシュードタイピングされている、実施形態5に記載の方法。
[7] 該rAAV粒子が1個または2個のAAV2 ITRまたはその誘導体を含み、ここで、各誘導体AAV2 ITRは、その全長にわたって、天然に存在するAAV2 ITRのヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含み、そして、該rAAV粒子がAAV8キャプシドタンパク質でシュードタイピングされており(rAAV2/8)、あるいはAAV9キャプシドタンパク質でシュードタイピングされたAAV2であり(rAAV2/9)、あるいはその全長にわたって、天然に存在するAAV8またはAAV9キャプシドタンパク質のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含むその誘導体である、実施形態5または6に記載の方法。
[8] 該組換えウイルス粒子を対象に静脈内投与する、実施形態1~7のいずれかに記載の方法。
[9] 該組換えウイルスベクターが非組込み性のエピソームウイルスベクターである、実施形態1~8のいずれかに記載の方法。
[10] コード化因子Iまたはその断片もしくは誘導体をヒトアルファ-1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターのような肝特異的プロモーターから発現させる、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
[11] 対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが、正常レベルの2倍までのレベルへと上昇する、実施形態1~10のいずれかに記載の方法。
[12] 対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが、正常レベルより80%までまたは60%まで高いレベルへと上昇する、実施形態1~11のいずれかに記載の方法。
[13] 対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが、正常レベルより40%までまたは20%まで高いレベルへと上昇する、実施形態1~12のいずれかに記載の方法。
[14] 対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが、正常レベルより少なくとも5%、10%、15%、20%または25%高いレベルへと上昇する、実施形態1~13のいずれかに記載の方法。
[15] 対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルが対象の血清中のレベルである、実施形態1~14のいずれかに記載の方法。
[16] 対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性の正常レベルが、対象の血清中の30~40μg/mlの因子Iによりもたらされるものと同等である、実施形態1~15のいずれかに記載の方法。
[17] 補体媒介性障害が、補体C3bフィードバックサイクルの過剰活性に関連した障害である、実施形態1~16のいずれかに記載の方法。
[18] 補体媒介性障害が、加齢黄斑変性(AMD)(特に、早期(ドライ型)AMDまたは地図状萎縮)、デンスデポジット病(DDD)、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、C3糸球体症、膜性増殖性糸球体腎炎2型(MPGN2)、アテローム性動脈硬化症、慢性心血管疾患、アルツハイマー病、全身性血管炎、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、高齢者の炎症性もしくは自己炎症性疾患、膜増殖性糸球体腎炎I型(MPGN I型)、膜増殖性糸球体腎炎III型(MPGN III型)、ギラン-バレー症候群、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、IgA腎症または膜性糸球体腎炎である、実施形態1~17のいずれかに記載の方法。
[19] 対象がAMDを発生するリスクを有する、実施形態18に記載の方法。
[20] AMDに関連した1以上のSNPに関して対象がホモ接合またはヘテロ接合感受性である、実施形態19に記載の方法。
[21] 対象がAMDを発生するリスクを有するかどうかを決定することを更に含む、実施形態19または20に記載の方法。
[22] AMDに関連した1以上のSNPに関して対象がホモ接合またはヘテロ接合感受性であるかどうかを決定することにより、対象がAMDを発生するリスクを有するかどうかを決定する、実施形態21に記載の方法。
[23] AMDに関連した1以上のSNPに関して対象がヘテロ接合感受性である場合に、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを、正常レベルより少なくとも10%高いレベルへと上昇させる、実施形態20または22に記載の方法。
[24] AMDに関連した1以上のSNPに関して対象がホモ接合感受性である場合に、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを、正常レベルより少なくとも50%高いレベルへと上昇させる、実施形態20または22に記載の方法。
[25] 投与の少なくとも1週間後に、対象におけるC3b不活性化およびiC3b分解活性のレベルを決定し、活性のレベルが正常レベル以下であることが判明した場合には投与を反復することを更に含む、実施形態1~24のいずれかに記載の方法。
[26] 因子Iが、配列番号2または4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iである、実施形態1~25のいずれかに記載の方法。
[27] 因子Iの断片または誘導体が、その全長にわたって、配列番号2または4のアミノ酸配列を有するヒト因子Iに対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸同一性を有するポリペプチドである、実施形態1~26のいずれかに記載の方法。
[28] 対象がヒト対象である、実施形態1~27のいずれかに記載の方法。
[29] 因子IまたはC3b不活性化およびiC3b分解活性を保有するその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む組換えウイルスベクター。
[30] 非組込み性のエピソームウイルスベクターである、実施形態29に記載の組換えウイルスベクター。
[31] 因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸がプロモーターに機能的に連結されている、実施形態29または30に記載の組換えウイルスベクター。
[32] プロモーターがヒトアルファ-1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターなどの肝特異的プロモーターである、実施形態31に記載の組換えウイルスベクター。
[33] 組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターである、実施形態28~31のいずれかに記載の組換えウイルスベクター。
[34] AAV逆方向末端反復(ITR)に隣接した発現カセットを含む組換えウイルスベクターであって、該発現カセットが、プロモーターおよびポリアデニル化認識部位に機能的に連結された、因子Iまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む、実施形態33に記載の組換えウイルスベクター。
[35] ITRがAAV2 ITRまたはその誘導体であり、各誘導体AAV2 ITRが、その全長にわたって、天然に存在するAAV2 ITRのヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含む、実施形態34に記載の組換えウイルスベクター。
[36] 実施形態29~35のいずれかに記載の組換えウイルスベクターをキャプシドで包み込んでいるウイルスキャプシドを含む組換えウイルス粒子。
[37] 生細胞、特に肝細胞に形質導入する能力を有する、実施形態28または29に記載の組換えウイルス粒子。
[38] rAAV粒子である、実施形態36または37に記載の組換えウイルス粒子。
[39] rAAV粒子が、肝臓指向性を付与するためにシュードタイピングされている、実施形態38に記載の組換えウイルス粒子。
[40] rAAV粒子がAAV8もしくはAAV9キャプシドタンパク質またはその誘導体を含み、該誘導体が、その全長にわたって、天然に存在するAAV8またはAAV9キャプシドタンパク質のアミノ酸配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含む、実施形態38または39に記載の組換えウイルス粒子。
[41] rAAV粒子が1個または2個のAAV2 ITRまたはその誘導体を含み、各誘導体AAV2 ITRが、その全長にわたって、天然に存在するAAV2 ITRのヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるヌクレオチド配列を含む、実施形態40に記載の組換えウイルス粒子。
[42] 実施形態29~35のいずれかに記載の組換えウイルスベクターまたは実施形態36~41のいずれかに記載の組換えウイルス粒子と医薬上許容される担体、賦形剤または希釈剤とを含む、医薬組成物。
[43] 静脈内投与に適した、実施形態42に記載の医薬組成物。
[44] 実施形態29~35のいずれかに記載の組換えウイルスベクターまたは実施形態36~41のいずれかに記載の組換えウイルス粒子と、医薬上許容される担体、賦形剤または希釈剤とを含む、キット。
[45] 実施形態33~35のいずれかに記載のrAAVベクターと、AAV複製およびキャプシドタンパク質ならびに生産的AAV生活環に必要な遺伝子をコードする核酸を含む1以上のヘルパープラスミドとを含む、rAAV粒子の製造のためのキット。
[46] AAV複製およびキャプシドタンパク質をコードする核酸を含む第1ヘルパープラスミドと、生産的AAV生活環に必要な遺伝子をコードする核酸を含む第2ヘルパープラスミドとを含む、実施形態45に記載のキット。
[47] 医薬としての使用のための、実施形態29~35のいずれかに記載の組換えウイルスベクター、実施形態36~41のいずれかに記載の組換えウイルス粒子、または実施形態42もしくは43に記載の医薬組成物。
[48] 補体媒介性障害の治療における使用のための、実施形態29~35のいずれかに記載の組換えウイルスベクター、実施形態36~41のいずれかに記載の組換えウイルス粒子、または実施形態42もしくは43に記載の医薬組成物。
[49] 補体媒介性障害の治療のための医薬の製造における、実施形態29~35のいずれかに記載の組換えウイルスベクター、実施形態36~41のいずれかに記載の組換えウイルス粒子、または実施形態42もしくは43に記載の医薬組成物の使用。
[50] 補体媒介性障害が、補体C3bフィードバックサイクルの過剰活性に関連した障害である、実施形態48に記載のベクター、粒子もしくは組成物または実施形態49に記載の使用。
[51] 補体媒介性障害が加齢黄斑変性(AMD)(特に、早期(ドライ型)AMDまたは地図状萎縮)、デンスデポジット病(DDD)、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、C3糸球体症、膜性増殖性糸球体腎炎2型(MPGN2)、アテローム性動脈硬化症、慢性心血管疾患、アルツハイマー病、全身性血管炎、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、高齢者の炎症性もしくは自己炎症性疾患、膜増殖性糸球体腎炎I型(MPGN I型)、膜増殖性糸球体腎炎III型(MPGN III型)、ギラン-バレー症候群、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、IgA腎症または膜性糸球体腎炎である、実施形態50に記載のベクター、粒子または組成物。
[52] 補体媒介性障害が加齢黄斑変性(AMD)である、実施形態50に記載のベクター、粒子または組成物。
【0254】
配列表
配列番号1
NCBI参照配列:NM_000204.4由来のホモサピエンス(Homo sapiens)補体因子I(CFI)、転写産物変異体2、mRNAのCDSのコード領域:
【0255】
配列番号2
NCBI参照配列:NM_000204.4由来のホモサピエンス(Homo sapiens)補体因子I(CFI)、転写産物変異体2、mRNAのCDSのコード領域の翻訳:
【0256】
配列番号3
N末端18残基シグナル配列をコードする配列を含有しない、NCBI参照配列:NM_000204.4由来のホモサピエンス(Homo sapiens)補体因子I(CFI)、転写産物変異体2、mRNAのCDSのコード領域:
【0257】
配列番号4
N末端18残基シグナル配列を含有しない、NCBI参照配列:NM_000204.4由来のホモサピエンス(Homo sapiens)補体因子I(CFI)、転写産物変異体2、mRNAのCDSのコード領域の翻訳:
【0258】
【0259】
【0260】
配列番号7
ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されたサピエンス(Homo sapiens)補体因子I(CFI)をコードするヌクレオチド配列:
【0261】
配列番号8
HLP肝特異的プロモーターのヌクレオチド配列:
【0262】
配列番号9
LP1肝特異的プロモーターのヌクレオチド配列:
【0263】
配列番号10
HLP2肝特異的プロモーターのヌクレオチド配列:
【0264】
配列番号11
MutCキャプシドタンパク質のアミノ酸配列:
【0265】
配列番号12
LK03キャプシドタンパク質のアミノ酸配列:
【配列表】