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特許7178911複合アミン吸収液、CO2又はH2S又はその双方の除去装置及び方法
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  • 特許-複合アミン吸収液、CO2又はH2S又はその双方の除去装置及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】複合アミン吸収液、CO2又はH2S又はその双方の除去装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20221118BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20221118BHJP
   B01D 53/52 20060101ALI20221118BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20221118BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20221118BHJP
   C07C 215/08 20060101ALI20221118BHJP
   C07C 43/13 20060101ALI20221118BHJP
   C07C 43/11 20060101ALI20221118BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20221118BHJP
   C01B 17/16 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/62 ZAB
B01D53/52 220
B01D53/78
B01D53/96
C07C215/08
C07C43/13 Z
C07C43/11
C01B32/50
C01B17/16 N
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019010194
(22)【出願日】2019-01-24
(65)【公開番号】P2020116528
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】518018986
【氏名又は名称】三菱重工エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕士
(72)【発明者】
【氏名】平田 琢也
(72)【発明者】
【氏名】辻内 達也
(72)【発明者】
【氏名】上條 孝
(72)【発明者】
【氏名】登里 朋来
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/107026(WO,A1)
【文献】特開2018-122242(JP,A)
【文献】国際公開第2015/066807(WO,A1)
【文献】特開昭62-27021(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0225118(US,A1)
【文献】特表2013-501608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14
B01D 53/62
B01D 53/52
B01D 53/78
B01D 53/96
C07C 215/08
C07C 43/13
C07C 43/11
C01B 32/50
C01B 17/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス中のCO2又はH2S又はその双方を吸収する吸収液であって、
(1)直鎖モノアミンと、
(2)ジアミンと、
(3)下記化学式(I)の第1のエーテル結合含有化合物とを、水に溶解してなることを特徴とする複合アミン吸収液。
1-O-(R2-O)-R3・・・(I)
ここで、(I)式中、
1は、炭素数2~4の炭化水素基、
2は、プロピレン基、
3は、水素、
nは、1~3である。
【請求項2】
請求項1において、
(3)の化学式(I)の第1のエーテル結合含有化合物が、プロピレングリコールアルキルエーテルであって、
前記プロピレングリコールアルキルエーテル中のアルキルエーテルが、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテルのいずれかであることを特徴とする複合アミン吸収液。
【請求項3】
ガス中のCO2又はH2S又はその双方を吸収する吸収液であって、
(1)直鎖モノアミンと、
(2)ジアミンと、
(4)下記化学式(II)の第2のエーテル結合含有化合物とを、水に溶解してなることを特徴とする複合アミン吸収液。
4-O-(R5-O)-R6・・・(II)
ここで、(II)式中、
4は、アセチル基、
5は、エチレン基、
6は、アルキル基、
nは、1である。
【請求項4】
請求項3において、
(4)の化学式(II)の第2のエーテル結合含有化合物が、酢酸エチレングリコールアルキルエーテルであって、
前記酢酸エチレングリコールアルキルエーテル中のアルキルエーテルが、メチルエーテル、エチルエーテルのいずれかであることを特徴とする複合アミン吸収液。
【請求項5】
請求項1又は3において、
(1)の直鎖モノアミンが、1級直鎖モノアミン、2級直鎖モノアミン、3級直鎖モノアミンの少なくとも一つを含むことを特徴とする複合アミン吸収液。
【請求項6】
請求項1又は3において、
(2)のジアミンが、1級直鎖ポリアミン、2級直鎖ポリアミン、環状ポリアミンの少なくとも一つを含むことを特徴とする複合アミン吸収液。
【請求項7】
請求項1又は3において、
(1)の直鎖モノアミンと、(2)のジアミンとの濃度合計は、吸収液全体の40~60重量%であることを特徴とする複合アミン吸収液。
【請求項8】
請求項1において、
(1)の直鎖モノアミンに対して、(2)のジアミンと(3)の第1のエーテル結合含有化合物との配合割合は、(ジアミン+第1のエーテル結合含有化合物)/直鎖モノアミンが0.35~1.1であることを特徴とする複合アミン吸収液。
【請求項9】
請求項1において、
(2)のジアミンと(3)の第1のエーテル結合含有化合物との配合比率は、第1のエーテル結合含有化合物/ジアミン直鎖モノアミン重量比が、0.99~7.8であることを特徴とする複合アミン吸収液。
【請求項10】
請求項3において、
(1)の直鎖モノアミンに対して、(2)のジアミンと(4)の第2のエーテル結合含有化合物との配合割合は、(ジアミン+エーテル結合含有化合物)/直鎖モノアミンが0.35~1.1であることを特徴とする複合アミン吸収液。
【請求項11】
請求項3において、
(2)のジアミンと(4)の第2のエーテル結合含有化合物との配合比率は、
エーテル結合含有化合物/ジアミン直鎖モノアミン重量比が、0.99~7.8であることを特徴とする複合アミン吸収液。
【請求項12】
CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を除去する吸収塔と、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を再生する吸収液再生塔とを有し、前記吸収液再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を前記吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去装置であって、
請求項1乃至11のいずれか一つに記載の複合アミン吸収液を用いてなることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去装置。
【請求項13】
請求項12において、
前記吸収塔の吸収温度が、30~80℃であると共に、前記吸収液再生塔の再生温度が、110℃以上であることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去装置。
【請求項14】
請求項12又は13において、
前記吸収塔入口のCO2分圧が、低分圧であることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去装置。
【請求項15】
CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を吸収塔内で除去し、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を吸収液再生塔内で再生し、前記吸収液再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を前記吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去方法であって、
請求項1乃至11のいずれか一つに記載の複合アミン吸収液を用いてCO2又はH2S又はその双方を除去することを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去方法。
【請求項16】
請求項15において、
前記吸収塔の吸収温度が、30~80℃であると共に、前記吸収液再生塔の再生温度が、110℃以上であることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去方法。
【請求項17】
請求項15又は16において、
前記吸収塔入口のCO2分圧が、低分圧であることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合アミン吸収液、CO2又はH2S又はその双方の除去装置及び方法に関する。
【0002】
近年、地球の温暖化現象の原因の一つとして、CO2による温室効果が指摘され、地球環境を守る上で国際的にもその対策が急務となってきた。CO2の発生源としては化石燃料を燃焼させるあらゆる人間の活動分野に及び、その排出抑制への要求が一層強まる傾向にある。これに伴い大量の化石燃料を使用する火力発電所などの動力発生設備を対象に、ボイラの燃焼排ガスをアミン系CO2吸収液と接触させ、燃焼排ガス中のCO2を除去・回収する方法及び回収されたCO2を大気へ放出することなく貯蔵する方法が精力的に研究されている。また、前記のようなCO2吸収液を用い、燃焼排ガスからCO2を除去・回収する工程としては、吸収塔において燃焼排ガスとCO2吸収液とを接触させ、CO2を吸収した吸収液を再生塔において加熱し、CO2を放出させると共に吸収液を再生して再び吸収塔に循環して再使用するものが採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
燃焼後排ガスからのCO2回収技術としては、例えばアミン溶液等の化学吸収液を用いて化学的にCO2を吸収させ分離する化学吸収法や、高圧下でCO2を物理吸収液に吸収させて分離する物理吸収法等が提案されている。アミン溶液等を用いて、CO2と化学反応を起こし強く結合する化学吸収液を用いた化学吸収法は、高い反応性があるため、燃焼排ガスなどの低分圧CO2(例えば0.003~0.014MPa)に適用されているが、化学的に強く結合した吸収液からCO2を放出してCO2吸収液を再生するには大きなエネルギーを必要とする。これに対し、物理的な溶解現象を利用してCO2の分離を行う物理吸収法では、CO2再生のための消費エネルギーは小さいが、高分圧CO2(例えば0.9~2.0MPa)が必要となり、例えばIGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle)等のCO2の分離に適合するものの、低CO2分圧の燃焼排ガスには不向きである。
【0004】
前記化学法のCO2吸収液を用い、例えば発電所からの燃焼排ガスのようなCO2含有ガスからCO2を吸収除去・回収する方法においては、これらの工程は燃焼設備に付加して設置されるため、その操業費用もできるだけ低減させなければならない。特に前記工程の内、CO2を吸収した後のCO2吸収液からCO2を放出して再生する工程では多量の熱エネルギー(水蒸気)を消費するので、可能な限り省エネルギープロセスとする必要がある。
【0005】
前記物理吸収法で用いるCO2吸収液として、例えばポリエチレングリコールモノアルキルエーテルを用いた吸収液の提案がある(例えば特許文献2参照)。また、化学吸収法で用いるCO2吸収液として、例えばポリプロピレングリコールエーテルを用いた吸収液の提案がある(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-51537号公報
【文献】米国特許明細書第4,705,673号
【文献】特表2009-521313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2で開示するCO2吸収液は、高CO2分圧での物理吸収法の吸収液であるので、化学吸収法のようなCO2分圧が低い場合には、再生塔内での水蒸気リボイラ熱量の削減率が低いという問題がある。また、特許文献3で開示するCO2吸収液は、CO2吸収液として、プロピレングリコールメチルエーテルの例示があるものの、該プロピレングリコールメチルエーテルは、大気圧下での沸点が低く、CO2吸収塔におけるCO2吸収工程の際、蒸発によるガス同伴に伴うことによる該プロピレングリコールメチルエーテルの系外への放出等が発生し、運転性及び性能向上に問題がある。
【0008】
よって、排ガスからのCO2回収を化学的吸収法で行うにあたり、CO2吸収液の再生において、CO2回収における運転コスト低減の目的から、少ない蒸気量で所望のCO2回収量を達成できる省エネルギー性を発現させるため、吸収能力のみならず再生能力も兼ね備えた新規な複合アミン吸収液の出現が切望されている。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑み、吸収能力のみならず再生能力も兼ね備えた複合アミン吸収液、CO2又はH2S又はその双方の除去装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、ガス中のCO2又はH2S又はその双方を吸収する吸収液であって、(1)直鎖モノアミンと、(2)ジアミンと、(3)下記化学式(I)の第1のエーテル結合含有化合物とを、水に溶解してなることを特徴とする複合アミン吸収液にある。
1-O-(R2-O)-R3・・・(I)
ここで、(I)式中、R1は、炭素数2~4の炭化水素基、R2は、プロピレン基、R3は、水素、nは、1~3である。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、(3)の化学式(I)の第1のエーテル結合含有化合物が、プロピレングリコールアルキルエーテルであって、前記プロピレングリコールアルキルエーテル中のアルキルエーテルが、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテルのいずれかであることを特徴とする複合アミン吸収液にある。
【0012】
第3の発明は、ガス中のCO2又はH2S又はその双方を吸収する吸収液であって、(1)直鎖モノアミンと、(2)ジアミンと、(4)下記化学式(II)の第2のエーテル結合含有化合物とを、水に溶解してなることを特徴とする複合アミン吸収液にある。
4-O-(R5-O)-R6・・・(II)
ここで、(II)式中、R4は、アセチル基、R5は、エチレン基、R6は、アルキル基、nは、1である。
【0013】
第4の発明は、第3の発明において、(4)の化学式(II)の第2のエーテル結合含有化合物が、酢酸エチレングリコールアルキルエーテルであって、前記酢酸エチレングリコールアルキルエーテル中のアルキルエーテルが、メチルエーテル、エチルエーテルのいずれかであることを特徴とする複合アミン吸収液にある。
【0014】
第5の発明は、第1又は3の発明において、(1)の直鎖モノアミンが、1級直鎖モノアミン、2級直鎖モノアミン、3級直鎖モノアミンの少なくとも一つを含むことを特徴とする複合アミン吸収液にある。
【0015】
第6の発明は、第1又は3の発明において、(2)のジアミンが、1級直鎖ポリアミン、2級直鎖ポリアミン、環状ポリアミンの少なくとも一つを含むことを特徴とする複合アミン吸収液にある。
【0016】
第7の発明は、第1又は3の発明において、(1)の直鎖モノアミンと、(2)のジアミンとの濃度合計は、吸収液全体の40~60重量%であることを特徴とする複合アミン吸収液にある。
【0017】
第8の発明は、第1の発明において、(1)の直鎖モノアミンに対して、(2)のジアミンと(3)の第1のエーテル結合含有化合物との配合割合は、(ジアミン+第1のエーテル結合含有化合物)/直鎖モノアミンが0.35~1.1であることを特徴とする複合アミン吸収液にある。
【0018】
第9の発明は、第1の発明において、(2)のジアミンと(3)の第1のエーテル結合含有化合物との配合比率は、第1のエーテル結合含有化合物/ジアミン直鎖モノアミン重量比が、0.99~7.8であることを特徴とする複合アミン吸収液にある。
【0019】
第10の発明は、第3の発明において、(1)の直鎖モノアミンに対して、(2)のジアミンと(4)の第2のエーテル結合含有化合物との配合割合は、(ジアミン+エーテル結合含有化合物)/直鎖モノアミンが0.35~1.1であることを特徴とする複合アミン吸収液にある。
【0020】
第11の発明は、第3の発明において、(2)のジアミンと(4)の第2のエーテル結合含有化合物との配合比率は、エーテル結合含有化合物/ジアミン直鎖モノアミン重量比が、0.99~7.8であることを特徴とする複合アミン吸収液にある。
【0021】
第12の発明は、CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を除去する吸収塔と、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を再生する吸収液再生塔とを有し、前記吸収液再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を前記吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去装置であって、第1乃至11のいずれか一つに記載の発明の複合アミン吸収液を用いてなることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去装置にある。
【0022】
第13の発明は、第12の発明において、前記吸収塔の吸収温度が、30~80℃であると共に、前記吸収液再生塔の再生温度が、110℃以上であることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去装置にある。
【0023】
第14の発明は、第12又は13の発明において、前記吸収塔入口のCO2分圧が、低分圧であることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去装置にある。
【0024】
第15の発明は、CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を吸収塔内で除去し、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を吸収液再生塔内で再生し、前記吸収液再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を前記吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去方法であって、第1乃至11のいずれか一つに記載の発明の複合アミン吸収液を用いてCO2又はH2S又はその双方を除去することを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去方法にある。
【0025】
第16の発明は、第15の発明において、前記吸収塔の吸収温度が、30~80℃であると共に、前記吸収液再生塔の再生温度が、110℃以上であることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去方法にある。
【0026】
第17の発明は、第15又は16の発明において、前記吸収塔入口のCO2分圧が、低分圧であることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去方法にある。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、(1)の直鎖モノアミンと、(2)のジアミンと、前記式(I)の(3)のエーテル結合含有化合物エーテルとを、水に溶解して吸収液とすることによって、複合的に絡み合い、これらの相乗効果により、CO2又はH2S又はその双方の吸収性が良好であると共に、吸収液の再生時における吸収したCO2又はH2Sの放散性が良好なものとなり、CO2回収設備における吸収液再生時に用いる水蒸気量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、実施例1に係るCO2回収装置の構成を示す概略図である。
図2図2は、試験例1-8に係るリボイラ熱量削減率を示す図である。
図3図3は、試験例9-17に係るリボイラ熱量削減率を示す図である。
図4図4は、試験例18-19に係るリボイラ熱量削減率を示す図である。
図5図5は、吸収液組成{(b+c)/a}の重量比と、リボイラ熱量削減率(%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。
【実施例
【0030】
本発明による実施例に係る複合アミン吸収液は、ガス中のCO2又はH2S又はその双方を吸収する吸収液であって、(1)の直鎖モノアミン(a成分)、(2)のジアミン(b成分)と、化学吸収法の吸収液である(3)下記化学式(I)の第1のエーテル結合含有化合物エーテル(c成分)とを、水(d成分)に溶解してなるものである。本発明では、(1)の直鎖モノアミンと、(2)のジアミンと、(3)の第1のエーテル結合含有化合物エーテルとを、水に溶解して吸収液とすることによって、複合的に絡み合い、これらの相乗効果により、CO2又はH2S又はその双方の吸収性が良好であると共に、吸収液の再生時における吸収したCO2又はH2Sの放散性が良好なものとなり、CO2回収設備における吸収液再生時に用いる水蒸気量を低減することができる。
【0031】
ここで、(1)直鎖モノアミン(a成分)は、1級直鎖モノアミン(a1成分)、2級直鎖モノアミン(a2成分)、3級直鎖モノアミン(a3成分)の少なくとも一つを含むものである。また、1級直鎖モノアミンと2級直鎖モノアミンとの2成分直鎖アミンの組合せ、1級直鎖モノアミンと3級直鎖モノアミンとの2成分直鎖アミンの組合せ、さらには1級直鎖モノアミン、2級直鎖モノアミン及び3級直鎖モノアミンの3成分直鎖アミンの組合せとしてもよい。
【0032】
また、1級直鎖モノアミン(a1成分)としては、立体障害性の低い1級モノアミン(a1L成分)又は立体障害性の高い1級モノアミン(a1H成分)とするのが好ましい。
ここで、1級直鎖モノアミンにおいて、立体障害性の低い1級モノアミン(a1L成分)としては、例えばモノエタノールアミン(MEA)、3-アミノ-1-プロパノール、4-アミノ-1-ブタノール、ジグリコールアミンから選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。なお、これらを組み合わせるようにしてもよい。
【0033】
また、1級直鎖モノアミンにおいて、立体障害性の高い1級モノアミン(a1H成分)としては、下記「化1」に示す化学式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
【0034】
具体的には、立体障害性の高い1級モノアミン(a1H成分)としては、例えば2-アミノ-1-プロパノール(2A1P)、2-アミノ-1-ブタノール(2A1B)、2-アミノ-3-メチル-1-ブタノール(AMB)、1-アミノ-2-プロパノール(1A2P)、1-アミノ-2-ブタノール(1A2B)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)等の少なくとも一種から選ばれた化合物を挙げることができるが本発明はこれに限定されるものではない。なお、これらを組み合わせるようにしてもよい。
【0035】
また、2級直鎖モノアミン(a2)としては、下記「化2」に示す化学式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】
【0036】
具体的には、2級直鎖モノアミン(2a)としては、例えばN-メチルアミノエタノール、N-エチルアミノエタノール、N-プロピルアミノエタノール、N-ブチルアミノエタノール等の少なくとも一種から選ばれた化合物を挙げることができるが本発明はこれに限定されるものではない。なお、これらを組み合わせるようにしてもよい。
【0037】
また、3級直鎖モノアミン(a3)としては、下記「化3」に示す化学式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】
【0038】
具体的には、3級直鎖モノアミン(a3)としては、例えばN-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ-1-ブタノール、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジ-n-ブチルアミノエタノール、N-エチル-N-メチルエタノールアミン、3-ジメチルアミノ-1-プロパノール、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール等の少なくとも一種から選ばれた化合物を挙げることができるが本発明はこれに限定されるものではない。なお、これらを組み合わせるようにしてもよい。
【0039】
ここで、上述した直鎖モノアミンの2成分系の配合としては、以下の配合とするのが好ましい。立体障害性の高い1級直鎖モノアミン(a1H成分)/立体障害性の低い1級直鎖モノアミン(a1L成分)の重量比としては、(a1H)/(a1L)=0.3~2.5の範囲とするのが好ましい。また、より好ましくは(a1H)/(a1L)=0.3~1.2の範囲、さらに好ましくは(a1H)/(a1L)=0.3~0.7の範囲とするのが良い。これは、上記以外の割合では、従来一般的に用いられるモノエタノールアミン(MEA)濃度として30重量%の吸収性能を基準とした場合よりも吸収性能が低下するためである。
【0040】
また、3級直鎖モノアミン(a3成分)/2級直鎖モノアミン(a2成分)の重量比としては、(a3)/(a2)=0.3~2.5の範囲とするのが好ましい。また、より好ましくは(a3)/(a2)=0.6~1.7の範囲、さらに好ましくは(a3)/(a2)=0.6~1.0の範囲とするのが良い。これは、上記範囲よりも低い場合には再生性能が低下し、上記範囲よりも高い場合には吸収性能が悪化するためである。
【0041】
また、立体障害性の高い1級直鎖モノアミン(a1H成分)/2級直鎖モノアミン(a2成分)の重量比としては、(a1H)/(a2)=0.3~2.5の範囲とするのが好ましい。また、より好ましくは(a1H)/(a2)=0.6~1.7の範囲、さらに好ましくは(a1H)/(a2)=0.6~1.0の範囲とするのが良い。これは、上記範囲よりも低い場合には再生性能が低下し、上記範囲よりも高い場合には吸収性能が悪化するためである。
【0042】
また、立体障害性の高い1級直鎖モノアミン(a1H成分)/3級直鎖モノアミン(a3成分)の重量比としては、(a1H)/(a3)=0.3~2.5の範囲とするのが好ましい。また、より好ましくは(a1H)/(a3)=0.6~1.7の範囲、さらに好ましくは(a1H)/(a3)=0.6~1.0の範囲とするのが良い。これは、上記範囲よりも低い場合には吸収性能が低下し、上記範囲よりも高い場合には再生性能も悪化するためである。
【0043】
(2)のジアミン(b成分)としては、1級直鎖ポリアミン、2級直鎖ポリアミン、環状ポリアミンの少なくとも一つを含むものであることが好ましい。
【0044】
ここで、1級直鎖ポリアミン又は2級直鎖ポリアミン群としては、例えばエチレンジアミン(EDA)、N,N’-ジメチルエチレンジアミン(DMEDA)、N,N’-ジエチルエチレンジアミン(DEEDA)、プロパンジアミン(PDA)、N,N’-ジメチルプロパンジアミン(DMPDA)等の少なくとも一種から選ばれた化合物を挙げることができるが本発明はこれに限定されるものではない。なお、これらを組み合わせるようにしてもよい。
【0045】
また、環状ポリアミンとしては、例えばピペラジン(PZ)、1-メチルピペラジン(1MPZ)、2-メチルピペラジン(1MPZ)、2,5-ジメチルピペラジン(DMPZ)、1-(2-アミノエチル)ピペラジン(AEPRZ)、1-(2―ヒドロキシエチル)ピペラジン(HEP)等の少なくとも一種から選ばれた化合物を挙げることができるが本発明はこれに限定されるものではない。なお、これらを組み合わせるようにしてもよい。
【0046】
また、(3)の第1のエーテル結合含有化合物エーテル(c成分)としては、下記化学式(I)の第1のエーテル結合含有化合物を挙げることができる。
1-O-(R2-O)-R3・・・(I)
ここで、(I)式中、
1は、炭素数2~4の炭化水素基、
2は、プロピレン基、
3は、水素、
nは、1~3である。
【0047】
(3)の化学式(I)の第1のエーテル結合含有化合物としては、プロピレングリコールアルキルエーテルであって、前記プロピレングリコールアルキルエーテル中のアルキルエーテルが、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテルであるプロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテルのいずれかであることが好ましい。これは、プロピレングリコールアルキルエーテル中のアルキルエーテルが、メチルエーテルであるプロピレングリコールメチルエーテルを配合する場合には、例えば大気圧下の沸点が120℃と低く、CO2吸収の際、蒸発によるガス同伴に伴うことに起因する、エーテル結合含有化合物の系外への放出等が発生し、運転性及び性能向上に課題があるからである。
【0048】
ここで、(3)の化学式(I)の第1のエーテル結合含有化合物として、プロピレングリコールエチルエーテルの沸点は132℃、プロピレングリコールプロピルエーテルの沸点は149℃、プロピレングリコールブチルエーテルの沸点は170℃、ジプロピレングリコールプロピルエーテルの沸点は212℃、トリプロピレングリコールブチルエーテルの沸点は275℃であるので、低沸点であるプロピレングリコールメチルエーテルを配合する場合のような前述した不具合が発生することはない。
【0049】
また、本発明では、(3)のエーテル結合含有化合物エーテルとして、前記化学式(I)の第1のエーテル結合含有化合物の代わりに、(4)の下記化学式(II)の第2のエーテル結合含有化合物を配合するようにしてもよい。
4-O-(R5-O)-R6・・・(II)
ここで、(I)式中、
4は、アセチル基、
5は、エチレン基、
6は、アルキル基、
nは、1である。
【0050】
(4)の化学式(II)の第2のエーテル結合含有化合物としては、酢酸エチレングリコールアルキルエーテルであって、前記酢酸エチレングリコールアルキルエーテル中のアルキルエーテルが、メチルエーテル、エチルエーテルである酢酸エチレングリコールメチルエーテル、酢酸エチレングリコールエチルエーテルのいずれかであることが好ましい。これは、炭素数3(C3)以上のアルキル基(例えばプロピルエーテルとブチルエーテル)を有する酢酸エチレングリコールプロピルエーテルと酢酸エチレングリコールブチルエーテルを適用する場合、溶解性が低下し、混和性が良好とならないからである。
【0051】
次に、各成分(a成分、b成分、c成分)の配合割合については、以下のような規定することが好ましい。(1)の直鎖モノアミン(a成分)と、(2)のジアミン(b成分)との濃度合計は、吸収液全体の40~60重量%であることが好ましく、さらに好適には、吸収液全体の47~55重量%とするのが好ましい。この範囲外であると吸収液として良好に機能しないからである。
【0052】
また、(1)の直鎖モノアミン(a成分)に対して、(2)のジアミン(b成分)及び(3)の第1のエーテル結合含有化合物(c成分)との配合割合は、(b+c)/a=0.35~1.1の配合、さらに好適には(b+c)/a=0.40~0.94の配合とすることが好ましい。
【0053】
また、(4)の第2のエーテル結合含有化合物の配合も同様に、(1)の直鎖モノアミン(a成分)に対して、(2)のジアミン(b成分)及び(4)の第2のエーテル結合含有化合物(c成分)との配合割合は、(b+c)/a=0.35~1.1の配合、さらに好適には(b+c)/a=0.40~0.94の配合とすることが好ましい。
【0054】
図5は、吸収液の組成{(b+c)/a}の重量比と、リボイラ熱量削減率(%)との関係を示すグラフである。図5に示すように、この配合の低濃度配合条件(b+c)/a=0.35)未満ではリボイラ熱量低減効果が限定的となり、一方高濃度配合条件(b+c)/a=1.1)を超えると、液粘度上昇等によるリボイラ削減率が急激に低下し、実用面において効率的ではないからである。
【0055】
(2)のジアミン(b成分)と(3)のエーテル結合含有化合物(c成分)との配合比率は、エーテル結合含有化合物(c成分)/ジアミン直鎖モノアミン(b成分)の重量比は0.99~7.8の比率とすることが好ましい。また、第2のエーテル結合含有化合物の配合も同様に、(2)のジアミン(b成分)と(4)の第2のエーテル結合含有化合物(c成分)との配合比率は、エーテル結合含有化合物(c成分)/ジアミン直鎖モノアミン(b成分)の重量比は0.99~7.8の比率とすることが好ましい。この配合比率の低比率条件ではリボイラ熱量低減効果が限定的となり、一方高比率条件では液粘度上昇等の実用面において効率的ではないからである。
【0056】
また、水分(d成分)の配合割合(重量%)は、(1)の直鎖モノアミンと、(2)のジアミンとの濃度合計に、エーテル化合物を添加した残りを、水の重量割合としている。
【0057】
本発明において、例えばCO2等を含有する排ガスとの接触時の化学吸収法の吸収塔の吸収温度は、通常30~80℃の範囲とするのが好ましい。また本発明で用いる吸収液には、必要に応じて腐食防止剤、劣化防止剤などが加えられる。
【0058】
また、処理されるガス中のCO2を吸収する吸収時のCO2吸収塔入口のCO2分圧としては、低CO2分圧(例えば0.003~0.1MPa)とするのが化学吸収法の適用から好ましい。
【0059】
本発明において、CO2等を吸収した吸収液から、CO2等を放出する再生塔での再生温度は、再生塔内圧力が130~200kPa(絶対圧)の場合、吸収液再生塔の塔底温度が110℃以上であることが好ましい。これは、110℃未満での再生では、システム内での吸収液の循環量を多くすることが必要となり、再生効率の点から好ましくないからである。より好適には115℃以上での再生が好ましい。
【0060】
本発明により処理されるガスとしては、例えば石炭ガス化ガス、合成ガス、コークス炉ガス、石油ガス、天然ガス等を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、CO2やH2S等の酸性ガスを含むガスであれば、いずれのガスでもよい。
【0061】
本発明のガス中のCO2又はH2S又はその双方を除去する方法で採用できるプロセスは、特に限定されないが、CO2を除去する除去装置の一例について図1を参照しつつ説明する。
【0062】
図1は、実施例1に係るCO2回収装置の構成を示す概略図である。図1に示すように、実施例1に係るCO2回収装置12は、ボイラやガスタービン等の産業燃焼設備13から排出されたCO2とO2とを含有する排ガス14を冷却水15によって冷却する排ガス冷却装置16と、冷却されたCO2を含有する排ガス14とCO2を吸収するCO2吸収液(以下、「吸収液」ともいう。)17とを接触させて排ガス14からCO2を除去するCO2回収部18Aを有するCO2吸収塔18と、CO2を吸収したCO2吸収液(以下、「リッチ溶液」ともいう。)19からCO2を放出させてCO2吸収液を再生する吸収液再生塔20と、を有する。そして、このCO2回収装置12では、吸収液再生塔20でCO2を除去した再生CO2吸収液(以下、「リーン溶液」ともいう。)17はCO2吸収塔18でCO2吸収液として再利用する。
【0063】
なお、図1中、符号13aは煙道、13bは煙突、34はスチーム凝縮水である。前記CO2回収装置12は、既設の排ガス源からCO2を回収するために後付で設けられる場合と、新設排ガス源に同時付設される場合とがある。なお、排ガス14のラインには開閉可能なダンパを設置し、CO2回収装置12の運転時は開放する。また排ガス源は稼動しているが、CO2回収装置12の運転を停止した際は閉止するように設定する。
【0064】
このCO2回収装置12を用いたCO2回収方法では、まず、CO2を含んだボイラやガスタービン等の産業燃焼設備13からの排ガス14は、排ガス送風機22により昇圧された後、排ガス冷却装置16に送られ、ここで冷却水15により冷却され、CO2吸収塔18に送られる。
【0065】
前記CO2吸収塔18において、排ガス14は本実施例に係るアミン吸収液であるCO2吸収液17と向流接触し、排ガス14中のCO2は、化学反応によりCO2吸収液17に吸収される。CO2回収部18AでCO2が除去された後のCO2除去排ガスは、CO2吸収塔18内の水洗部18Bでノズルから供給されるCO2吸収液を含む循環する洗浄水21と気液接触して、CO2除去排ガスに同伴するCO2吸収液17が回収され、その後CO2が除去された排ガス23は系外に放出される。また、CO2を吸収したCO2吸収液であるリッチ溶液19は、リッチ溶液ポンプ24により昇圧され、リッチ・リーン溶液熱交換器25において、吸収液再生塔20で再生されたCO2吸収液17であるリーン溶液により加熱され、吸収液再生塔20に供給される。
【0066】
吸収液再生塔20の上部から内部に放出されたリッチ溶液19は、底部から供給される水蒸気により吸熱反応を生じて、大部分のCO2を放出する。吸収液再生塔20内で一部または大部分のCO2を放出したCO2吸収液はセミリーン溶液と呼称される。このセミリーン溶液は、吸収液再生塔20の底部に至る頃には、ほぼ全てのCO2が除去されたCO2吸収液(リーン溶液)17となる。このリーン溶液17はその一部がリボイラ26で水蒸気27により過熱され、吸収液再生塔20内部にCO2脱離用の水蒸気を供給している。
【0067】
一方、吸収液再生塔20の塔頂部からは、塔内においてリッチ溶液19およびセミリーン溶液から放出された水蒸気を伴ったCO2同伴ガス28が導出され、コンデンサ29により水蒸気が凝縮され、分離ドラム30にて水が分離され、CO2ガス40が系外に放出されて、別途圧縮器41により圧縮され、回収される。この圧縮・回収されたCO2ガス42は、分離ドラム43を経由した後、石油増進回収法(EOR:Enhanced Oil Recovery)を用いて油田中に圧入するか、帯水層へ貯留し、温暖化対策を図っている。水蒸気を伴ったCO2同伴ガス28から分離ドラム30にて分離・還流された還流水31は還流水循環ポンプ35にて吸収液再生塔20の上部と洗浄水21側に各々供給される。再生されたCO2吸収液(リーン溶液)17は、リッチ・リーン溶液熱交換器25にて、リッチ溶液19により冷却され、つづいてリーン溶液ポンプ32にて昇圧され、さらにリーン溶液クーラ33にて冷却された後、CO2吸収塔18内に供給される。なお、この実施の形態では、あくまでその概要を説明するものであり、付属する機器を一部省略して説明している。
【0068】
以下、本発明の効果を示す好適な試験例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
[試験例]
図示しない吸収試験装置を用いて、CO2の吸収を行った。図2~3は、試験例1-17における3成分系の複合アミン吸収液(直鎖モノアミン(a成分)、ジアミン(b成分)、第1のエーテル結合含有化合物(c成分)を水(d成分)に溶解したもの)のリボイラ熱量削減率を示す図である。図4は試験例18-19における3成分系の複合アミン吸収液(直鎖モノアミン(a成分)、ジアミン(b成分)、第2のエーテル結合含有化合物(c成分)を水(d成分)に溶解したもの)のリボイラ熱量削減率を示す図である。また、比較例としては、各試験例の配合から第1のエーテル結合含有化合物又は第2のエーテル結合含有化合物(c成分)を含まない点以外は試験例と同条件におけるリボイラ熱量を求め、この比較例のリボイラ熱量を基準として各リボイラ熱量削減率(%)を求めた。なお、試験例の成分一覧を下記[表1]に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
[試験例1-4]
試験例1では、直鎖モノアミン(a成分)として、N-エチルアミノエタノールを用い、ジアミン(b成分)として2-メチルピペラジンを用い、第1のエーテル結合含有化合物エーテル(c成分)として、プロピレングリコールモノプロピルエーテルを用い、水(d成分)に溶解混合させて吸収液とした。
【0072】
試験例2では、試験例1において、ジアミン(b成分)としてピペラジンを用いた以外は試験例1と同様の組成の吸収液とした。
【0073】
試験例3では、試験例1において、直鎖モノアミン(a成分)として、N-ブチルアミノエタノールを用いた以外は同様の組成の吸収液とした。
【0074】
試験例4では、試験例3において、ジアミン(b成分)としてピペラジンを用いた以外は同様の組成の吸収液とした。
【0075】
[試験例5-17]
試験例5では、(1)の直鎖モノアミン(a成分)を2種類用い、第1の直鎖モノアミンとしてモノエタノールアミンを用いると共に、第2の直鎖モノアミンとして2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを用いた。
また、(2)のジアミン(b成分)としてピペラジンを用い、(3)の第1のエーテル結合含有化合物エーテル(c成分)として、プロピレングリコールモノプロピルエーテルを用い、水(d成分)に溶解混合させて吸収液とした。
【0076】
試験例6では、試験例5において、(2)のジアミン(b成分)としてプロパンジアミンを用いた以外は試験例5と同様の組成の吸収液とした。
【0077】
試験例7では、試験例5において、(3)の第1のエーテル結合含有化合物エーテル(c成分)として、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルを用いた以外は試験例5と同様の組成の吸収液とした。
【0078】
試験例8では、試験例5において、後述するように{(b成分)と(c成分)}/(a成分)の重量比、(c成分)と水(d成分)との添加重量比((c)/(b))、水(d成分)濃度を変更した以外は、試験例5と同様の組成の吸収液とした。
【0079】
試験例9では、試験例5において、第1の直鎖モノアミンとしてN-エチルアミノエタノールを用いた以外は試験例5と同様の組成の吸収液とした。
【0080】
試験例10では、試験例9において、第1の直鎖モノアミンとしてN-ブチルアミノエタノールを用いた以外は試験例9と同様の組成の吸収液とした。
【0081】
試験例11では、試験例9において、第1の直鎖モノアミンとしてN-メチルジエタノールアミンを用いた以外は試験例9と同様の組成の吸収液とした。
【0082】
試験例12では、試験例11において、第2の直鎖モノアミンとしてN-エチルアミノエタノールを用いた以外は試験例11と同様の組成の吸収液とした。
【0083】
試験例13では、試験例12において、第2の直鎖モノアミンとしてN-ブチルアミノエタノールを用いた以外は試験例12と同様の組成の吸収液とした。
【0084】
試験例14では、試験例11において、第1の直鎖モノアミンとしてN-エチルジエタノールアミンを用いた以外は試験例11と同様の組成の吸収液とした。
【0085】
試験例15では、試験例14において、第2の直鎖モノアミンとしてN-エチルアミノエタノールを用いた以外は試験例14と同様の組成の吸収液とした。
【0086】
試験例16では、試験例14において、第2の直鎖モノアミンとしてN-ブチルアミノエタノールを用いた以外は試験例14と同様の組成の吸収液とした。
【0087】
試験例17では、試験例11において、第1の直鎖モノアミンとして4-ジメチルアミノ-1-ブタノールを用いた以外は試験例11と同様の組成の吸収液とした。
【0088】
[試験例18-19]
試験例18では、(1)の直鎖モノアミン(a成分)を2種類用い、第1の直鎖モノアミンとしてモノエタノールアミンを用いると共に、第2の直鎖モノアミンとして2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを用いた。また、(2)のジアミン(b成分)としてピペラジンを用い、(4)の第2のエーテル結合含有化合物エーテル(c成分)として、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテルを用い、水(d成分)に溶解混合させて吸収液とした。
【0089】
試験例19では、試験例18において、(4)の第2のエーテル結合含有化合物エーテル(c成分)として、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテルを用いた以外は試験例18と同様の組成の吸収液とした。
【0090】
ここで、試験例1-19においては、(a成分)の直鎖モノアミンと(b)成分のジアミンの濃度合計範囲は、47~55重量%の範囲とした。
また、試験例1-4における{(b成分)と(c成分)}/(a成分)の重量比は0.53~0.94とし、試験例5-6における{(b成分)と(c成分)}/(a成分)の重量比は0.84とし、試験例7における{(b成分)と(c成分)}/(a成分)の重量比は0.40とし、試験例8における{(b成分)と(c成分)}/(a成分)の重量比は0.35~1.1とし、試験例9-17における{(b成分)と(c成分)}/(a成分)の重量比は0.61とし、試験例18-19における{(b成分)と(c成分)}/(a成分)の重量比は0.84とした。
また、試験例1-7における(c成分)とジアミン(b成分)との添加重量比((c)/(b))は、1.2~7.8とし、試験例8における(c成分)とジアミン(b成分)との添加重量比((c)/(b))は0.99~5.0とし、試験例9-19における(c成分)とジアミン(b成分)との添加重量比((c)/(b))は、1.2~7.8とした。
また、試験例1-7における水(d成分)濃度は22~45重量%、試験例8における水(d成分)濃度は17~46重量%、試験例9-19における水(d成分)濃度は22~45重量%とした。
【0091】
これらの試験における吸収条件は、40℃、10kPaCO2とし、また、再生条件は120℃とし、比較例のリボイラ熱量を基準とした削減率であるリボイラ熱量削減率(%)を求めた。
【0092】
この試験例1-8の結果を図2に、試験例9-17の結果を図3に、試験例18-19の結果を図4に、各々示す。なお、試験例8は前記配合範囲において配合条件を変更して複数試験し、その平均とした。図2図4に示すように、試験例1-19において、リボイラ熱量削減率が比較例の基準よりも全て高いものであった。特に、試験例1-6、試験例9-16、試験例18、19はリボイラ熱量削減率が5%を超え、更に試験例16においては10%を超えるものであり、良好であった。
【0093】
以上より、本発明によれば、(1)の直鎖モノアミン(a成分)と、(2)のジアミン(b成分)と、(3)又は(4)の第1又は第2のエーテル結合含有化合物(c成分)とを、水(d成分)に溶解してなるので、従来のものに対し、省エネ性に優れた複合アミン吸収液を提供でき、ガス中のCO2又はH2S又はその双方を吸収した吸収液を再生するに際してリボイラ熱量の低減を図ることができた。
【0094】
[試験例20]
試験例11の吸収液と、物理的吸収法で提案された特許文献2(米国特許明細書第4,705,673号)のExample1の組成の吸収液とのリボイラ熱量の比較を行った。その結果を下記[表2]に示す。ここで、試験例10の組成は、(1)の直鎖モノアミン(a成分)を2種類用い、第1の直鎖モノアミンとしてN-メチルジエタノールアミンを用いると共に、第2の直鎖モノアミンとして2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを用い、(2)のジアミン(b成分)としてピペラジンを用い、(3)の第1のエーテル結合含有化合物エーテル(c成分)として、プロピレングリコールモノプロピルエーテルを用い、水(d成分)に溶解混合させたものである。特許文献2(米国特許明細書第4,705,673号)のExample1の組成は、メチルジエタノールアミン(MDEA)、メトキシトリグリコール(MTG)、水である。なお、[表2]のリボイラ熱量削減率は、エーテル結合含有化合物を含まない点以外は[表2]の性能例と同条件における比較例[(c成分)エーテル結合含有化合物の濃度分だけ水の濃度を増加させた条件例]のリボイラ熱量に対する削減率である。
【0095】
【表2】
【0096】
[表2]に示すように、特許文献2(米国特許明細書第4,705,673号)のExample1の組成(メチルジエタノールアミン(MDEA)、メトキシトリグリコール(MTG)、水)の吸収液では、例えば常圧近傍の高圧ガス条件ではない場合には、リボイラ熱量削減率が低く、エーテル結合含有化合物を添加しない場合に比べても、リボイラ熱量が悪化(削減率-5%)するのに対し、本アイデアではリボイラ熱量の低減が図れるものであった。
【0097】
[試験例21]
試験例1の第1のエーテル結合含有化合物(プロピレングリコールモノプロピルエーテル)と試験例7の第1のエーテル結合含有化合物(ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル)と、化学式IにおけるR2の炭素数が4(C4)以上のエーテル結合含有化合物(ブチレングリコールモノブチルエーテル)との水に対する溶解度の対比を行った。その結果を下記[表3]に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
[表3]に示すように、試験例1の第1のエーテル結合含有化合物(プロピレングリコールモノプロピルエーテル)と試験例7の第1のエーテル結合含有化合物(ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル)は、水への溶解度は共に20重量%以上であった。これに対し、化学式IにおけるR2の炭素数が4以上のエーテル結合含有化合物(ブチレングリコールモノブチルエーテル)は、約1重量%と水への溶解度が低いものであった。これにより、化学式IにおけるR2の炭素数が4(C4)以上のエーテル結合含有化合物は、水溶液としての適用が困難であり、運転性および性能向上に課題があるのに対し、本試験例1、7のエーテル結合含有化合物(プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル)は、水への溶解度も高く、運転性悪化の課題低減とリボイラ熱量削減が図ることができる。
【0100】
[試験例22]
試験例1の第1のエーテル結合含有化合物(プロピレングリコールモノプロピルエーテル)と試験例7のエーテル結合含有化合物(ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル)と、化学式IにおけるR3がアルキル基のエーテル結合含有化合物(プロピレングリコールジブチルエーテル)との水に対する溶解度の対比を行った。その結果を下記[表4]に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
[表4]に示すように、試験例1のエーテル結合含有化合物(プロピレングリコールモノプロピルエーテル)と試験例7のエーテル結合含有化合物(ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル)は、水への溶解度は共に20重量%以上であった。これに対し、化学式IにおけるR3がアルキル基のエーテル結合含有化合物(プロピレングリコールジブチルエーテル)は、1重量%未満と水への溶解度が低いものであった。これにより、水溶液としての適用が困難であり、運転性および性能向上に課題があるのに対し、本試験例1、7のエーテル結合含有化合物(プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル)は、水への溶解度も高く、運転性悪化の課題低減とリボイラ熱量削減が図ることができる。
【0103】
[試験例23]
試験例18の第2のエーテル結合含有化合物(酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル:炭素数5)、試験例19の第2のエーテル結合化合物(酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル:炭素数6)と、化学式IIにおけるR1がアルキル基のエーテル結合含有化合物(エチレングリコールエチルメチルエーテル(炭素数5)、エチレングリコールジエチルエーテル(炭素数6))の沸点の対比を行った。その結果を下記[表5]に示す。
【0104】
【表5】
【0105】
[表5]に示すように、試験例18の第2のエーテル結合含有化合物(酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル)の沸点は143℃であり、試験例19の第2のエーテル結合化合物(酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル)の沸点は156℃であった。これに対し、化学式IIおけるR1がアルキル基のエーテル結合含有化合物のエチレングリコールエチルメチルエーテルの沸点は100~102℃、エチレングリコールジエチルエーテルの沸点は120℃と、大気圧下の沸点が低く、蒸発によるガス同伴に伴うエーテル結合含有化合物の系外への放出等、運転性および性能向上に課題がある。これに対し、試験例18の第2のエーテル結合含有化合物(酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル:炭素数5)、試験例19の第2のエーテル結合化合物(酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル:炭素数6)では、同じ炭素数でも化学式IIのR1がアルキル基のエーテル結合含有化合物よりも沸点が高いものであり、運転性悪化の課題低減とリボイラ熱量削減を図ることができる。
【0106】
すなわち、第2のエーテル結合含有化合物として、化学式IIおけるR1がアルキル基のエーテル結合含有化合物のように、沸点が低いものを適用するような場合には、CO2吸収時において、蒸発によるガス同伴に伴うエーテル結合含有化合物の吸収塔からの系外への放出等によって、エミッション増大の課題があり、これに加え、系外への放出に伴って吸収液中のエーテル結合含有化合物の濃度低下により、CO2回収熱量(リボイラ熱量)の性能向上を図ることができないものとなる。
【符号の説明】
【0107】
12 CO2回収装置
13 産業燃焼設備
14 排ガス
16 排ガス冷却装置
17 CO2吸収液(リーン溶液)
18 CO2吸収塔
19 CO2を吸収したCO2吸収液(リッチ溶液)
20 吸収液再生塔
21 洗浄水
図1
図2
図3
図4
図5