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特許7178914防振ブッシュ及び防振ブッシュの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】防振ブッシュ及び防振ブッシュの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/387 20060101AFI20221118BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20221118BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
F16F1/387 E
F16F1/38 F
F16F1/387 A
F16F15/08 K
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019012342
(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公開番号】P2020118284
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 朋昂
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-295560(JP,A)
【文献】特開2015-040616(JP,A)
【文献】特開2005-207572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/00- 6/00
15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒ユニットと、
前記内筒ユニットと同心的に設けられる外筒と、
前記内筒ユニットの外周面と前記外筒の内周面にそれぞれ加硫接着され、これら内筒ユニットと外筒とを連結するゴム状弾性体と、
を備える防振ブッシュであって、
前記内筒ユニットは、同軸的に配置される第1筒状部材及び第2筒状部材により構成されており、
第1筒状部材の外周面は、第1小径面と、第1小径面の配置位置を介して第2筒状部材とは反対側に配置され、第1小径面よりも外径が大きな第1大径面と、これら第1小径面と第1大径面とを繋ぐ第1傾斜面とを有し、
第2筒状部材の外周面は、第2小径面と、第2小径面の配置位置を介して第1筒状部材とは反対側に配置され、第2小径面よりも外径が大きな第2大径面と、これら第2小径面と第2大径面とを繋ぐ第2傾斜面とを有すると共に、
前記外筒の内周面は、第1小径面及び第2小径面と対向する位置に配置され、かつ、その内径が、第1小径面及び第2小径面の外径よりも大きく、第1大径面及び第2大径面の外径よりも小さな中央対向面と、該中央対向面の両側で、第1傾斜面及び第2傾斜面のそれぞれに対向する位置に配置され、該中央対向面から離れるにつれて拡径する両側対向面とを有すると共に、
第1筒状部材と第2筒状部材との間には隙間が設けられていることを特徴とする防振ブッシュ。
【請求項2】
請求項に記載の防振ブッシュの製造方法であって、
前記外筒と、第1筒状部材と、第2筒状部材と、第1筒状部材と第2筒状部材との間の隙間を塞ぐ環状部材とを金型に配置する工程と、
前記外筒の内周面と、第1筒状部材,第2筒状部材及び前記環状部材の各外周面との間に形成されるキャビティに前記ゴム状弾性体の材料を充填し、加硫成形する工程と、
加硫成形後に、前記環状部材を取り除く工程と、
を有することを特徴とする防振ブッシュの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2部材の連結部分に設けられ、防振機能を有する防振ブッシュ及び防振ブッシュの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等においては、2部材を連結する部分に防振ブッシュが設けられている。この防振ブッシュは、2部材のうちの一方の部材を他方の部材により支持しつつ、振動の伝達を低減する役割を担っている。図7を参照して、一般的な防振ブッシュについて説明する。図7は従来例に係る防振ブッシュの模式的断面図であり、防振ブッシュの中心軸線を含む面で防振ブッシュを切断した断面図である。
【0003】
防振ブッシュ700は、円筒状の内筒710と、内筒710と同心的に設けられる円筒状の外筒720と、内筒710の外周面と外筒720の内周面にそれぞれ加硫接着され、これら内筒710と外筒720とを連結するゴム状弾性体730とを備えている。以上のように構成される防振ブッシュ700においては、上記の通り、支持機能と防振機能を備えている。ここで、支持機能を高めるためには、ゴム状弾性体730の剛性は高い(バネ定数は高い)方が適しており、防振機能を高めるためには、ゴム状弾性体730の剛性は低い(バネ定数は低い)方が適している。このように、ゴム状弾性体730には、相反する性質が要求される。
【0004】
図7に示す防振ブッシュ700の場合には、圧縮力に対してバネ定数が高く、せん断力に対してはバネ定数が低くなる性質を有する。すなわち、防振ブッシュ700に対して、径方向(図中、矢印P01方向)に力が作用する場合及び防振ブッシュ700の中心軸線に対して傾斜する方向(こじり方向)に力が作用する場合には、ゴム状弾性体730に対して圧縮力が作用する。この場合には、ゴム状弾性体730のバネ定数は高くなる性質を示す。これに対して、防振ブッシュ700に対して、軸方向(図中、矢印P02方向)に力が作用する場合及び防振ブッシュ700の中心軸線に対して回転する方向(捩じり方向)に力が作用する場合には、ゴム状弾性体730に対してせん断力が作用する。この場合には、ゴム状弾性体730のバネ定数は低くなる性質を示す。なお、図7中の実線矢印は圧縮力が作用する様子を示し、点線矢印はせん断力が作用する様子を示している。
【0005】
このように、防振ブッシュ700に対して作用する力の方向によって、ゴム状弾性体730は、バネ定数が高くなる性質を示したり、バネ定数が低くなる性質を示したりする。そのため、防振ブッシュ700は、支持機能と防振機能の両機能が発揮されるように、2部材の連結部分に設けられる。
【0006】
しかしながら、防振ブッシュに対しては、その配置位置に応じて、径方向に力が作用する場合にゴム状弾性体のバネ定数が低くなり、軸方向に力が作用する場合にゴム状弾性体のバネ定数が高くなるような要求がなされることもある。上記の図7に示す防振ブッシュ700の場合には、このような要求に応えることはできない。防振ブッシュに対して軸方向に力が作用する場合に、ゴム状弾性体のバネ定数を高める技術として、内筒と外筒にフランジを設けて、ゴム状弾性体に圧縮力を作用させる技術も知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この場合には、防振ブッシュに対して径方向に力が作用する場合にも、ゴム状弾性体のバネ定数が高まってしまい、上記のような要求に応えることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第02/75177号
【文献】特開2009-180330号公報
【文献】実開平2-11244号公報
【文献】特開2009-216135号公報
【文献】特開2002-295560号公報
【文献】特開平10-274268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、防振ブッシュに対して径方向に力が作用した場合におけるゴム状弾性体のバネ定数を低くし、かつ、軸方向に力が作用した場合におけるゴム状弾性体のバネ定数を高くすることが可能な防振ブッシュ及び防振ブッシュの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0010】
本発明の防振ブッシュは、
内筒ユニットと、
前記内筒ユニットと同心的に設けられる外筒と、
前記内筒ユニットの外周面と前記外筒の内周面にそれぞれ加硫接着され、これら内筒ユニットと外筒とを連結するゴム状弾性体と、
を備える防振ブッシュであって、
前記内筒ユニットは、同軸的に配置される第1筒状部材及び第2筒状部材により構成されており、
第1筒状部材の外周面は、第1小径面と、第1小径面の配置位置を介して第2筒状部材とは反対側に配置され、第1小径面よりも外径が大きな第1大径面と、これら第1小径面と第1大径面とを繋ぐ第1傾斜面とを有し、
第2筒状部材の外周面は、第2小径面と、第2小径面の配置位置を介して第1筒状部材とは反対側に配置され、第2小径面よりも外径が大きな第2大径面と、これら第2小径面と第2大径面とを繋ぐ第2傾斜面とを有すると共に、
前記外筒の内周面は、第1小径面及び第2小径面と対向する位置に配置され、かつ、その内径が、第1小径面及び第2小径面の外径よりも大きく、第1大径面及び第2大径面の外径よりも小さな中央対向面と、該中央対向面の両側で、第1傾斜面及び第2傾斜面のそれぞれに対向する位置に配置され、該中央対向面から離れるにつれて拡径する両側対向面とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、防振ブッシュに径方向の力が作用すると、ゴム状弾性体のうち、第1傾斜面と両側対向面に挟まれた部分、及び第2傾斜面と両側対向面に挟まれた部分においては、軸方向にも力の一部が分散される。これにより、ゴム状弾性体のバネ定数を低減させることができる。また、防振ブッシュに軸方向の力が作用すると、ゴム状弾性体のうち、第1傾斜面と両側対向面に挟まれた部分、及び第2傾斜面と両側対向面に挟まれた部分においては、圧縮力の一部が軸方向に作用するため、ゴム状弾性体のバネ定数を高めることができる。
【0012】
そして、本発明においては、第1筒状部材と第2筒状部材との間には隙間が設けられている。
【0013】
これにより、防振ブッシュを用いる際に、上記の隙間がなくなるように第1筒状部材と第2筒状部材を近付けた状態で、所望の位置に組み込むことで、ゴム状弾性体を圧縮させ
ることができる。従って、絞り工程を省略することができる。
【0014】
また、本発明の防振ブッシュの製造方法は、
上記の防振ブッシュの製造方法であって、
前記外筒と、第1筒状部材と、第2筒状部材と、第1筒状部材と第2筒状部材との間の隙間を塞ぐ環状部材とを金型に配置する工程と、
前記外筒の内周面と、第1筒状部材,第2筒状部材及び前記環状部材の各外周面との間に形成されるキャビティに前記ゴム状弾性体の材料を充填し、加硫成形する工程と、
加硫成形後に、前記環状部材を取り除く工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、防振ブッシュに対して径方向に力が作用した場合におけるゴム状弾性体のバネ定数を低くし、かつ、軸方向に力が作用した場合におけるゴム状弾性体のバネ定数を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の実施例に係る防振ブッシュの模式的断面図である。
図2図2は本発明の実施例に係る防振ブッシュの使用例を示す模式的断面図である。
図3図3は本発明の実施例に係る防振ブッシュのメカニズム説明図である。
図4図4は本発明の実施例に係る防振ブッシュのメカニズム説明図である。
図5図5は本発明の実施例に係る防振ブッシュの製造工程図である。
図6図6は本発明の実施例に係る防振ブッシュを製造する際に用いられる部品の側面図である。
図7図7は従来例に係る防振ブッシュの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
(実施例)
図1図6を参照して、本発明の実施例に係る防振ブッシュについて説明する。図1は本発明の実施例に係る防振ブッシュの模式的断面図である。なお、本実施例に係る防振ブッシュ10は回転対称形状であり、図1は防止ブッシュの中心軸線を含む面で防振ブッシュを切断した断面図である。図2は本発明の実施例に係る防振ブッシュの使用例を示す模式的断面図である。図3及び図4は本発明の実施例に係る防振ブッシュのメカニズム説明図である。なお、図3及び図4においては、防振ブッシュの断面図の一部を示しているが、便宜上、ハッチングは省略している。図5は本発明の実施例に係る防振ブッシュの製造工程図であり、各部材は断面にて示している。図6は本発明の実施例に係る防振ブッシュを製造する際に用いられる部品の側面図である。なお、以下の説明において、防振ブッシュの中心軸線が伸びる方向を「軸方向」と称し、中心軸線に対して垂直な方向を「径方向」と称する。
【0019】
<防振ブッシュ>
特に、図1を参照して、本実施例に係る防振ブッシュ10の構成について説明する。防振ブッシュ10は、内筒ユニット100と、内筒ユニット100と同心的に設けられる外筒200と、これら内筒ユニット100と外筒200とを連結するゴム状弾性体300と
から構成される。
【0020】
内筒ユニット100は、隙間Sを空けて同軸的に配置される第1筒状部材110及び第2筒状部材120により構成される。これら第1筒状部材110及び第2筒状部材120は、いずれも金属からなる。
【0021】
そして、第1筒状部材110の外周面は、第1小径面111と、第1小径面111の配置位置を介して第2筒状部材120とは反対側に配置され、第1小径面111よりも外径が大きな第1大径面112と、これら第1小径面111と第1大径面112とを繋ぐ第1傾斜面113とからなる。本実施例に係る第1傾斜面113は、テーパ面により構成される。ただし、本発明における第1傾斜面は、断面で見た場合に曲線となるような湾曲面で構成することもできる。なお、第1小径面111と第1大径面112は、いずれも円柱面により構成される。また、第1筒状部材110の内周面は、端部の面取り部を除き、円柱面により構成される。
【0022】
また、第2筒状部材120の外周面は、第2小径面121と、第2小径面121の配置位置を介して第1筒状部材110とは反対側に配置され、第2小径面121よりも外径が大きな第2大径面122と、これら第2小径面121と第2大径面122とを繋ぐ第2傾斜面123とからなる。本実施例に係る第2傾斜面123は、テーパ面により構成される。ただし、本発明における第2傾斜面は、断面で見た場合に曲線となるような湾曲面で構成することもできる。なお、第2小径面121と第2大径面122は、いずれも円柱面により構成される。また、第2筒状部材120の内周面は、端部の面取り部を除き、円柱面により構成される。
【0023】
本実施例においては、第1筒状部材110と第2筒状部材120は、同じ部品により構成される。つまり、第1筒状部材110と第2筒状部材120は、寸法形状及び材料が同一である。そして、第1筒状部材110と第2筒状部材120を、これらの中心軸線が一致するように、かつ隙間Sを空けた状態で、小径部側の端面を向い合せて配置させることにより、内筒ユニット100が構成される。
【0024】
外筒200は、金属製の環状部材により構成される。そして、外筒200の内周面は、第1筒状部材110の第1小径面111及び第2筒状部材120の第2小径面121と対向する位置に配置される中央対向面210と、この中央対向面210の両側に設けられる両側対向面220,230とから構成される。中央対向面210の内径は、第1小径面111及び第2小径面121の外径よりも大きく、第1大径面112及び第2大径面122の外径よりも小さい。また、両側対向面220,230は、第1筒状部材110の第1傾斜面113及び第2筒状部材120の第2傾斜面123のそれぞれに対向する位置に配置される。また、これら両側対向面220,230は、中央対向面210から離れるにつれて拡径する傾斜面により構成されている。なお、本実施例に係る両側対向面220,230は、いずれもテーパ面により構成されている。ただし、本発明における両側対向面は、断面で見た場合に曲線となるような湾曲面で構成することもできる。また、外筒200の外周面は、両端の一部を除き、円柱面により構成されている。
【0025】
ゴム状弾性体300は、加硫成形により得られるものであり、内筒ユニット100の外周面(第1筒状部材110の外周面及び第2筒状部材120の外周面)と外筒200の内周面にそれぞれ加硫接着されている。なお、本実施例においては、ゴム状弾性体300は、内筒ユニット100の外周面全体と、外筒200の内周面全体に加硫接着されている。そして、ゴム状弾性体300のうち、外筒200の内周面と、第1筒状部材110における第1小径面111及び第1傾斜面113,第2筒状部材120における第2小径面121及び第2傾斜面123とによって挟み込まれる部分が、防振機能を発揮する。
【0026】
<防振ブッシュの使用例>
図2を参照して、本実施例に係る防振ブッシュ10の使用例について説明する。防振ブッシュ10は、2部材を連結する部分に設けられる。ここでは、便宜上、2部材のうちの一方の部材を第1部材610と称し、他方の部材を第2部材620と称する。第1部材610には、嵌合孔611が設けられている。この嵌合孔611に、防振ブッシュ10が圧入により固定される。つまり、嵌合孔611の内周面に防振ブッシュ10における外筒200の外周面が密着した状態で固定される。このように、嵌合孔611に防振ブッシュ10が圧入により固定された状態で、第1部材610と第2部材620が、ボルト630とナット640により固定される。このとき、ボルト630の軸部631が防振ブッシュ10における内筒ユニット100の筒内部に挿入された状態となり、かつ、内筒ユニット100は、その両端がボルト630とナット640により締め付けられた状態となる。また、ボルト630とナット640による締め付けによって、第1筒状部材110と第2筒状部材120は互いに近付き、隙間のない状態(接触または略接触した状態)となる(図2中、矢印S0で示す部分参照)。これにより、ゴム状弾性体300は圧縮された状態となる。
【0027】
以上の構成により、第1部材610と第2部材620のうちの一方が他方に支持された状態となる。また、防振ブッシュ10によって、振動の伝達が低減される。
【0028】
<本実施例に係る防振ブッシュの優れた点>
本実施例に係る防振ブッシュ10によれば、防振ブッシュ10に対して径方向に力が作用した場合におけるゴム状弾性体300のバネ定数を低くし、かつ、軸方向に力が作用した場合におけるゴム状弾性体300のバネ定数を高くすることができる。この点について、図3及び図4を参照して、より詳しく説明する。
【0029】
図3は、防振ブッシュ10に対して径方向の力(図中、矢印P11方向の力)が作用した場合において、力が作用する様子を示している。図中、実線矢印は圧縮方向の力を示し、点線矢印はせん断方向の力を示している。防振ブッシュ10に径方向の力P11が作用すると、ゴム状弾性体300のうち、第1傾斜面113と両側対向面220に挟まれた部分、及び第2傾斜面123と両側対向面230に挟まれた部分においては、軸方向にも力の一部が分散される。これにより、防振ブッシュ10に対して径方向に力が作用した場合におけるゴム状弾性体300のバネ定数を低減させることができる。
【0030】
図4は、防振ブッシュ10に対して軸方向の力(図中、矢印P12方向の力)が作用した場合において、力が作用する様子を示している。図中、実線矢印は圧縮方向の力を示し、点線矢印はせん断方向の力を示している。防振ブッシュ10に軸方向の力P12が作用すると、ゴム状弾性体300のうち、第1傾斜面113と両側対向面220に挟まれた部分、及び第2傾斜面123と両側対向面230に挟まれた部分においては、圧縮力の一部が軸方向に作用する。これにより、防振ブッシュ10に対して軸方向に力が作用した場合におけるゴム状弾性体300のバネ定数を高めることができる。
【0031】
また、本実施例に係る防振ブッシュ10においては、ゴム状弾性体300が内筒ユニット100と外筒200の両者に対して加硫接着されている。そのため、内筒ユニット100と外筒200とが相対的に回転する方向に力が作用することで、ゴム状弾性体300に捩じり力が作用した場合でも、ゴム状弾性体300と内筒ユニット100又は外筒200との間で摺動してしまうことはない。従って、捩じり方向に対する剛性を高めることができ、内筒ユニット100と外筒200とが相対的に回転しまうことを抑制することができる。
【0032】
また、本実施例に係る防振ブッシュ10においては、内筒ユニット100を構成する第1筒状部材110と第2筒状部材120との間に隙間Sが設けられている。これにより、絞り工程を省略することができる。この点について、より詳細に説明する。外筒と内筒をインサート部品として、これらの間にゴム状弾性体をインサート成形するタイプの防振ブッシュの場合には、成形後において、成形時と成形後の温度差によって、ゴム状弾性体には引っ張り応力が作用した状態となる。何故なら、成形時には高温状態にあるためゴム材料は膨張しており、成形後に冷却されることでゴム状弾性体は圧縮しようとするものの、剛性の高い外筒と内筒との間の隙間は殆ど変化しないためである。従って、そのままの状態(ゴム状弾性体に引っ張り応力が作用したままの状態)で防振ブッシュを使用すると、耐久性が低下してしまう。そこで、このような防振ブッシュにおいては、通常、外径又は内径を絞る予備圧縮を施す(絞り工程)ことによって、引っ張り応力を除去するなどの対策が施される(例えば、特開平2-176226号公報参照)。これに対し、本実施例に係る防振ブッシュ10においては、上記の通り、所望の位置に組む込んだ状態においては、第1筒状部材110と第2筒状部材120との間に隙間がない状態にすることによって、ゴム状弾性体300を圧縮させた状態にすることができる。従って、ゴム状弾性体300に引っ張り応力が作用しない、または、ゴム状弾性体300に作用する引っ張り応力を軽減させることができる。以上より、絞り工程を省略することができる。また、ゴム状弾性体300の耐久性が低下してしまうこともない。
【0033】
<防振ブッシュの製造方法>
特に、図5及び図6を参照して、本実施例に係る防振ブッシュ10の製造方法について説明する。本実施例に係る防振ブッシュ10は、内筒ユニット100及び外筒200をインサート部品として、インサート成形により得ることができる。なお、インサート成形に用いる金型については、公知技術であるので、その説明は省略する。
【0034】
まず、外筒200と、内筒ユニット100を構成する第1筒状部材110及び第2筒状部材120と、第1筒状部材110と第2筒状部材120との間の隙間を塞ぐ環状部材500が不図示の金型に配置される。なお、第1筒状部材110と第2筒状部材120は、外筒200の両側からそれぞれ外筒200の筒内に挿入されるようにして配置される(図5(a)参照)。また、環状部材500は、樹脂製の円環状の部材により構成されている。この環状部材500には、周方向の1箇所に合口部510が設けられている。また、環状部材500における合口部510の近傍には、径方向内側に向かって突出する取っ手520が設けられている。
【0035】
図5(b)は、金型内に各種部材が配置された状態を示している。外筒200の内周面と、第1筒状部材110,第2筒状部材120及び環状部材500の各外周面との間にキャビティC(太い点線で囲んだ部分)が形成される。このキャビティCにゴム状弾性体300の材料(ゴム材料)が充填され、加硫成形がなされる。
【0036】
そして、加硫成形後に、金型からインサート成形品が取り外される。その後、環状部材500が取り除かれる。なお、取っ手520を引っ張ることによって、環状部材500を簡単に取り除くことができる。以上のような工程により、本実施例に係る防振ブッシュ10を得ることができる。
【0037】
なお、上記の製造方法では、環状部材500を用いることで、ゴム状弾性体300の材料を充填する際に、第1筒状部材110と第2筒状部材120との間の隙間から当該材料が漏れないようにする方法を示した。しかしながら、環状部材500を用いずに、インサート成形品を成形後に、上記の隙間から漏れ出た材料を除去する製法を採用することもできる。
【符号の説明】
【0038】
10 防振ブッシュ
100 内筒ユニット
110 第1筒状部材
111 第1小径面
112 第1大径面
113 第1傾斜面
120 第2筒状部材
121 第2小径面
122 第2大径面
123 第2傾斜面
200 外筒
210 中央対向面
220,230 両側対向面
300 ゴム状弾性体
500 環状部材
510 合口部
520 取っ手
610 第1部材
611 嵌合孔
620 第2部材
630 ボルト
631 軸部
640 ナット
S 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7