(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】絶縁型スイッチング電源
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20221118BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M7/12 R
(21)【出願番号】P 2019012486
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【氏名又は名称】河合 典子
(72)【発明者】
【氏名】羽田 正二
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-300780(JP,A)
【文献】特開平6-217537(JP,A)
【文献】特開2014-082828(JP,A)
【文献】特開2019-122132(JP,A)
【文献】特開2004-048965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同極性の一次コイルと二次コイルを具備するトランスと、前記一次コイルを含む電流路を導通又は遮断するべくオンオフ制御される少なくとも1つの一次側のスイッチング素子と、二次側の出力端と接地端との間に接続された平滑コンデンサと、を有する絶縁型スイッチング電源において、
前記トランスの二次側に接続された1つのチョークトランスを有し、前記チョークトランスが、コアと、同極性にて直列接続されかつ互いに疎結合である第1及び第2のコイルとを少なくとも具備し、前記第1のコイルの始端又は終端が前記トランスの二次コイルの始端に接続されており、かつ、
前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第1のコイルの始端又は終端へ流れる電流を導通可能とする第1の整流要素と、
前記チョークトランスの第1のコイルの終端又は始端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とする第2の整流要素と、
前記チョークトランスの第2のコイルの終端を経由して前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とする第3の整流要素と、を少なくとも有することを特徴とする絶縁型スイッチング電源。
【請求項2】
前記チョークトランスが、前記第2のコイルと同極性にて疎結合となるように該第2のコイルの終端に直列接続された第3のコイルをさらに具備し、前記第3のコイルの終端又は始端が前記トランスの二次コイルの終端に接続されており、かつ、
前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第3のコイルの終端又は始端へ流れる電流を導通可能とする第4の整流要素をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の絶縁型スイッチング電源。
【請求項3】
前記第1の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第1のコイルの始端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第2の整流要素が、前記チョークトランスの第1のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第3の整流要素が、前記チョークトランスの第2のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第4の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第3のコイルの終端へ流れる電流を導通可能とし、かつ、
前記トランスの二次コイルに生じる起電圧よりも低い電圧が前記出力端と前記接地端の間に出力されることを特徴とする請求項2に記載の絶縁型スイッチング電源。
【請求項4】
前記第1の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第1のコイルの終端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第2の整流要素が、前記チョークトランスの第1のコイルの始端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第3の整流要素が、前記チョークトランスの第3のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第4の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第3のコイルの始端へ流れる電流を導通可能とし、かつ、
前記トランスの二次コイルに生じる起電圧よりも高い電圧が前記出力端と前記接地端の間に出力されることを特徴とする請求項2に記載の絶縁型スイッチング電源。
【請求項5】
前記トランスの二次コイルの終端が前記接地端に接続されており、かつ、
前記チョークトランスの第2のコイルの終端と前記接地端との間の電流路を導通又は遮断するべく、前記一次側のスイッチング素子と同じタイミングでオンオフ制御される二次側のスイッチング素子をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の絶縁型スイッチング電源。
【請求項6】
前記第1の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第1のコイルの始端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第2の整流要素が、前記チョークトランスの第1のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第3の整流要素が、前記チョークトランスの第2のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記トランスの二次コイルに生じる起電圧よりも低い電圧が前記出力端と前記接地端の間に出力されることを特徴とする請求項5に記載の絶縁型スイッチング電源。
【請求項7】
前記第1の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第1のコイルの終端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第2の整流要素が、前記チョークトランスの第1のコイルの始端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第3の整流要素が、前記チョークトランスの第2のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記トランスの二次コイルに生じる起電圧よりも高い電圧が前記出力端と前記接地端の間に出力されることを特徴とする請求項5に記載の絶縁型スイッチング電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワンコンバータ型の絶縁型スイッチング電源に関する。
【背景技術】
【0002】
交流を直流に電力変換するスイッチング電源として、力率改善回路としての非絶縁型昇圧コンバータ(例えば特許文献1、2)とその後段の絶縁型DC/DCコンバータとからなるツーコンバータ型の絶縁型スイッチング電源が知られている。後段の絶縁型DC/DCコンバータの代表的なタイプとして、フォワード方式とフライバック方式がある。大出力電源にはフォワード方式が適している。
【0003】
一方、特許文献3、4のように、非絶縁型昇圧コンバータと後段の絶縁型DC/DCコンバータを1つに統合したワンコンバータ型のスイッチング電源も知られている。
【0004】
また、絶縁型スイッチング電源の一次側のスイッチング素子は、原理的には1つでよいが、大出力化、スイッチング素子の耐圧特性の軽減、及び/又はトランスの効率的利用等のために、特許文献5のように複数のスイッチング素子からなるフルブリッジ回路やプッシュプル回路等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-010632号公報
【文献】特開平07-031150号公報
【文献】特開平5-236749号公報
【文献】特開2002-300780号公報
【文献】特開2015-70716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のワンコンバータ型の絶縁型スイッチング電源には、幾つかの問題点がある。スイッチング電源の大出力化を図るためにフォワード方式では、スイッチング素子のオン時にトランスの二次コイルに生じる起電力が、出力端の平滑コンデンサの電圧を超えたときにのみ出力電流が流れる。従って、二次コイルの起電力が小さい範囲では電流が出力されず、このことが力率を悪化させる。
【0007】
さらに、スイッチングにおいてフルブリッジ方式や同期整流等を採用した場合、デッドタイム制御や一次側と二次側のスイッチングタイミングの調整等の精密かつ煩雑な制御が必要である。また、一次側においてフルブリッジ方式のスイッチングを行う場合、二次側において正極と負極にそれぞれ対応する一対のリアクトルを設ける必要があり、構成が複雑となる。
【0008】
以上の現状から、本発明は、ワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源において、力率を良好とすると共に、回路構成を簡素化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく、本発明は、以下の構成を提供する。
・本発明の態様は、同極性の一次コイルと二次コイルを具備するトランスと、前記一次コイルを含む電流路を導通又は遮断するべくオンオフ制御される少なくとも1つの一次側のスイッチング素子と、二次側の出力端と接地端との間に接続された平滑コンデンサと、を有する絶縁型スイッチング電源において、
前記トランスの二次側に接続された1つのチョークトランスを有し、前記チョークトランスが、コアと、同極性にて直列接続されかつ互いに疎結合である第1及び第2のコイルとを少なくとも具備し、前記第1のコイルの始端又は終端が前記トランスの二次コイルの始端に接続されており、かつ、
前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第1のコイルの始端又は終端へ流れる電流を導通可能とする第1の整流要素と、
前記チョークトランスの第1のコイルの終端又は始端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とする第2の整流要素と、
前記チョークトランスの第2のコイルの終端を経由して前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とする第3の整流要素と、を少なくとも有することを特徴とする。
・ 上記態様において、昇圧又は降圧を行う双極性の絶縁型スイッチング電源の場合、前記チョークトランスが、前記第2のコイルと同極性にて疎結合となるように該第2のコイルの終端に直列接続された第3のコイルをさらに具備し、前記第3のコイルの終端又は始端が前記トランスの二次コイルの終端に接続されており、かつ、
前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第3のコイルの終端又は始端へ流れる電流を導通可能とする第4の整流要素をさらに有することを特徴とする。
・ 上記態様において、降圧を行う双極性の絶縁型スイッチング電源の場合、前記第1の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第1のコイルの始端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第2の整流要素が、前記チョークトランスの第1のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第3の整流要素が、前記チョークトランスの第2のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第4の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第3のコイルの終端へ流れる電流を導通可能とし、かつ、
前記トランスの二次コイルに生じる起電圧よりも低い電圧が前記出力端と前記接地端の間に出力されることを特徴とする。
・ 上記態様において、昇圧を行う双極性の絶縁型スイッチング電源の場合、前記第1の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第1のコイルの終端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第2の整流要素が、前記チョークトランスの第1のコイルの始端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第3の整流要素が、前記チョークトランスの第3のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第4の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第3のコイルの始端へ流れる電流を導通可能とし、かつ、
前記トランスの二次コイルに生じる起電圧よりも高い電圧が前記出力端と前記接地端の間に出力されることを特徴とする。
・ 上記態様において、昇圧又は降圧を行う単極性の絶縁型スイッチング電源の場合、前記トランスの二次コイルの終端が前記接地端に接続されており、かつ、
前記チョークトランスの第2のコイルの終端と前記接地端との間の電流路を導通又は遮断するべく、前記一次側のスイッチング素子と同じタイミングでオンオフ制御される二次側のスイッチング素子をさらに有することを特徴とする。
・ 上記態様において、降圧を行う単極性の絶縁型スイッチング電源の場合、前記第1の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第1のコイルの始端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第2の整流要素が、前記チョークトランスの第1のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第3の整流要素が、前記チョークトランスの第2のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記トランスの二次コイルに生じる起電圧よりも低い電圧が前記出力端と前記接地端の間に出力されることを特徴とする。
・ 上記態様において、昇圧を行う単極性の絶縁型スイッチング電源の場合、前記第1の整流要素が、前記二次側の接地端から前記チョークトランスの第1のコイルの終端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第2の整流要素が、前記チョークトランスの第1のコイルの始端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記第3の整流要素が、前記チョークトランスの第2のコイルの終端から前記二次側の出力端へ流れる電流を導通可能とし、
前記トランスの二次コイルに生じる起電圧よりも高い電圧が前記出力端と前記接地端の間に出力されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ワンコンバータ方式の絶縁型スイッチング電源において力率を良好とすることができ、かつ、簡易な構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第1の実施形態の回路構成の一例を概略的に示した図である。
【
図2】
図2は、
図1の回路におけるモードI及びIIの電流の流れを示している。
【
図3】
図3は、
図1の回路におけるモードIII及びIVの電流の流れを示している。
【
図4】
図4は、
図1の回路におけるモードV及びVIの電流の流れを示している。
【
図5】
図5は、
図1の回路におけるモードVII及びVIIIの電流の流れを示している。
【
図7】
図7は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第2の実施形態の回路構成の一例を概略的に示した図である。
【
図8】
図8は、
図7の回路におけるモードI及びIIの電流の流れを示している。
【
図9】
図9は、
図7の回路におけるモードIII及びIVの電流の流れを示している。
【
図10】
図10は、
図7の回路におけるモードV及びVIの電流の流れを示している。
【
図11】
図11は、
図7の回路におけるモードVII及びVIIIの電流の流れを示している。
【
図13】
図13は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第3の実施形態の回路構成の一例を概略的に示した図である。
【
図17】
図17は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第4の実施形態の回路構成の一例を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、例示した図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図面中、各実施形態において同一又は類似の構成要素については、基本的に同じ符号を付している。本発明の絶縁型スイッチング電源は、1つのコンバータで力率改善と絶縁の双方の機能を有するワンコンバータ方式を採用している。従って、好適例ではAC/DCコンバータである。典型的な入力電圧は、正弦波の交流電圧を整流したものである。しかしながら、本発明のスイッチング電源は、入力電圧が、正弦波以外の方形波若しくは三角波の電圧、又は一定電圧のときも、同様に機能することができる。
【0013】
(1)第1の実施形態
(1-1)第1の実施形態の回路構成
図1は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第1の実施形態の回路構成の一例を概略的に示した図である。第1の実施形態は、降圧を行う双極性の絶縁型スイッチング電源である。
図1に示された回路は、入力端1、2と出力端p、nとを有する。入力側と出力側は、トランスTにより絶縁されている。ここでは、入力端2をトランスTの一次側の基準電位(接地端)とし、出力端nをトランスTの二次側の基準電位(接地端)とする。入力端1、2には、典型的には交流電圧を整流した正の電圧が入力される。出力端p、nには、正の直流電圧が出力される。
【0014】
(1-1-1)トランスTの一次側の構成
入力される交流電圧は、例えば、系統電源又は各種の発電装置で生成される数Hz~数十Hz程度の周波数を有する正弦波を全波整流した電圧である。
【0015】
トランスTは、一次コイルN1と二次コイルN2が同極性に巻かれたいわゆるフォワードトランスである(コイルの巻き始端を黒丸で示す)。トランスTの一次側には、入力電圧により一次コイルN1に流れる電流を導通又は遮断するべくそれぞれオンオフ制御される複数のスイッチング素子を含むスイッチング部が設けられている。
【0016】
図1の回路のスイッチング部は、フルブリッジ回路を構成している。このフルブリッジ回路は、4個のスイッチング素子A1、A2、B1、B2を有し、ここでは一例としてNチャネルMOSFETである。フルブリッジ回路は、大出力のスイッチング電源に好適である。スイッチング素子A1、A2が、同時にオンオフ制御される第1のグループ(以下「グループA」と称する)を構成し、スイッチング素子B1、B2が、同時にオンオフ制御される第2のグループ(以下「グループB」と称する)を構成する。各スイッチング素子は、制御端(ここではゲート)に印加される所定の制御電圧によりオンオフ制御される。
【0017】
グループAの各スイッチング素子は制御電圧VAによりオンオフ制御され、グループBの各スイッチング素子は制御電圧VBによりオンオフ制御される。制御電圧VA、VBは、好適にはPWM信号である。PWM信号の周波数は、入力交流の周波数よりも高い数十kH~数百kHである。図示しないが、所定の制御電圧VA、VBを生成し、出力する制御部が別途設けられている。
【0018】
好適例では、一次コイルN1を含む電流路に逆流防止ダイオードDA、DBがそれぞれ直列接続されている。逆流防止ダイオードDAの極性は、グループAのスイッチング素子A1、A2のボディダイオードとは逆方向であり、逆流防止ダイオードDBの極性は、グループBのスイッチング素子B1、B2のボディダイオードとは逆方向である。
【0019】
逆流防止ダイオードDA、DBは、
図1に示した位置以外に入力端子1と入力端子2の間の電流路上のいずれかの位置に直列に挿入することができる。
【0020】
(1-1-2)トランスTの二次側の構成
トランスTの二次側には、1つのチョークトランスTrが設けられている。本回路は、一次側のフルブリッジ回路により双方向駆動されるにも関わらず、二次側の外付けトランスは1つのチョークコイルトランスTrのみでよいので、構成を簡素化できる。チョークトランスTrは、1つのコアと、コアに同極性で巻かれ直列に接続された3つのコイルL1a、L2、L1bとを有する(各コイルの巻き始端を黒丸で示す)。中央のコイルL2と各端のコイルL1a、コイルL1bとはそれぞれ疎結合(コアを点線で示す)とする。2つのコイルを互いに疎結合とするためには、例えば2つのコイルの間の距離を離してコアに巻く。これにより、一方のコイルを通る磁束の全てが他方のコイルを通過せず、その一部が漏れ磁束となる疎結合を実現できる。疎結合とすることにより2つのコイルの相互作用を緩慢とすることができる。
【0021】
トランスTの二次コイルN2の始端が、チョークトランスTrのコイルL1aの始端に接続されている。また、トランスTの二次コイルN2の終端が、チョークトランスTrのコイルL1bの終端に接続されている。従って、トランスTの二次コイルN2と、チョークトランスTrのコイルL1a、L2、L1bとは、並列接続されている。
【0022】
さらに、二次コイルN2の始端とコイルL1aの始端との接続点にダイオードD1のカソードが接続され、ダイオードD1のアノードが接地端nに接続されている。また、二次コイルN2の終端とコイルL1bの終端との接続点にダイオードD4のカソードが接続され、ダイオードD4のアノードが接地端nに接続されている。
【0023】
さらに、チョークトランスTrのコイルL1aとコイルL2との接続点にダイオードD2のアノードが接続され、ダイオードD2のカソードが出力端pに接続されている。また、チョークトランスTrのコイルL2とコイルL1bとの接続点にダイオードD3のアノードが接続され、ダイオードD3のカソードも出力端pに接続されている。出力端pと接地端nの間には平滑コンデンサCが接続されている。接地端nは、二次側の基準電位端である。
【0024】
図1の回路は、降圧コンバータである。出力電圧は、主としてトランスTの一次コイルN1と二次コイルN2の巻数比、チョークトランスTrの一次コイルL1a、L1bと二次コイルL2の巻数比により設定可能である。対称的動作を確保するために、チョークトランスTrにおける一次コイルL1aとL1bの巻数は同じとする。チョークトランスTrにおける二次コイルL2の巻数は、一次コイルL1aとL1bとは異なっていてもよい。
【0025】
(1-2)第1の実施形態の回路動作
図2~
図6を参照して、
図1の回路の動作を説明する。
図2~
図5は、各動作モードにおいて回路に流れる電流を概略的に示している。
【0026】
図6は、8つの動作モードI~VIIIにおける各構成要素の波形を概略的に示したタイミング図である。
図6(a)は、グループAのスイッチング素子の制御電圧V
Aを、
図6(b)は、グループBのスイッチング素子の制御電圧V
Bをそれぞれ示している。制御電圧V
AとV
Bは、同じ長さのオン期間とオフ期間を有しかつ位相が互いに180°異なるPWM信号である。オン期間とオフ期間の長さは、所定のデューティ比となるように制御部により決定される。なお、グループAとグループBのスイッチング素子が同時にオンとならないようにデッドタイム(双方のグループがオフとなる期間)が設けられている。
【0027】
図1の回路における平滑コンデンサCは、定常状態においてリップル変動を除いてほぼ一定の電圧で充電されている。一般的なフォワード方式の電源では、二次コイルN2の起電力が平滑コンデンサCの電圧を超えたときにのみ、フォワード電流が出力端pに流れる。入力端1、2に、例えば正弦波の入力電圧が印加される場合、入力電圧の小さい範囲では、二次コイルN2の起電力も小さいため、フォワード電流が流れることができない。
図6に示したモードI~IVはフォワード電流が流れるときに対応し、モードV~VIIIはフォワード電流が流れないときに対応する。なお、本回路では、フォワード電流が流れるか否かは、入力電圧の大きさによって自動的に決まるので、入力電圧に応じて動作モードを切り替える制御を行う必要はない。
【0028】
図6(c)(d)(e)(f)(g)では、一例として、各構成要素に流れる電流を不連続モードで示しているが、負荷の軽重に応じて電流が臨界モード又は連続モードとなることも有り得る。
【0029】
(1-2-1)モードIの動作
図2の上側の図は、モードIの電流の流れを示している。一次側において、スイッチング素子B1、B2がオフのときにスイッチング素子A1、A2がオフからオンになると、一次コイルN1の始端から終端に電流1aが流れる(
図6(c)参照)。
【0030】
一次コイルN1に電流1aが流れると、相互誘導により二次コイルN2において始端が正、終端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列接続されたチョークトランスTrの両端に印加される。モードIでは、コイルL1aとコイルL2との接続点Xの電位が、平滑コンデンサCの正側の電位を超える(ダイオードD2の電圧降下は無視する)ため、フォワード電流2aが流れることができる。また、ダイオードD1は逆バイアス、ダイオードD4は順バイアスとなる。フォワード電流2aは、ダイオードD4→二次コイルN2→コイルL1a→ダイオードD2→出力端pの経路で流れる(
図6(d)(e)参照)。
【0031】
さらに、コイルL1aにフォワード電流2aが流れることにより、相互誘導によってコイルL2及びコイルL1bに誘導電流3aが流れる。コイルL1aとコイルL2は疎結合であるので、誘導電流3aが突入電流のように流れることが回避される。誘導電流3aは、ダイオードD4→コイルL1b→コイルL2→ダイオードD2→出力端pの経路で流れる(
図6(f)(g)参照)。従って、モードIでは、フォワード電流2aと誘導電流3aを合わせた電流が出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。
【0032】
チョークトランスTrにおいては、フォワード電流2aに対して誘導電流3aが逆方向に流れてコアの磁束の増加を抑制できるのでコアが磁気飽和し難くなり、大電流を流しやすくなる。
【0033】
図示しないが、二次コイルN2に生じた起電力により、チョークトランスTrの3つのコイルL1a、L2、L1bには励磁電流も流れる。これによりチョークトランスTrのコアに磁気エネルギーが蓄積される。
【0034】
(1-2-2)モードIIの動作
図2の下側の図は、モードIIの電流の流れを示している。一次側のスイッチング素子A1、A2がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1aが遮断される(
図6(c)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。一次コイルN1に生じる逆起電力による入力端1への還流はダイオードDBにより阻止される。これによりモードIにおいてトランスTに蓄積された磁気エネルギーがトランスTに留まる。トランスTに留まった磁気エネルギーは、次に二次コイルN2に電流が流れるときに放出される。
【0035】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が順バイアスに、ダイオードD4が逆バイアスとなる。これによりモードIIでは、ダイオードD1→コイルL1a→コイルL2→ダイオードD3→出力端pの経路でフライバック電流4aが流れる(
図6(e)(f)参照)。従って、モードIIでは、フライバック電流4aが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0036】
なお、モードIIのフライバック電流4aは、モードIのフォワード電流2aを持続させようとする転流と称することもできるが、本発明の説明においては、一次側のスイッチング素子がオンからオフになったときに二次側のチョークトランスTrに流れる電流を「フライバック電流」と称することとする(以下の同様の場合についても同じ)。本回路では、フォワード電流とフライバック電流の双方を流すために、1つのチョークトランスTrに巻かれた(コイルL1a、L2、L1bからなる)1つのコイルのみでよい。
【0037】
(1-2-3)モードIIIの動作
モードIIIの動作は、モードIの動作と対称的である。
図3の上側の図は、モードIIIの電流の流れを示している。一次側において、スイッチング素子A1、A2がオフのときにスイッチング素子B1、B2がオフからオンになると、一次コイルN1の終端から始端に電流1bが流れる(
図6(c)参照)。
【0038】
一次コイルN1に電流1bが流れると、相互誘導により二次コイルN2において終端が正、始端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列接続されたチョークトランスTrの両端に印加される。モードIIIでは、コイルL2とコイルL1bとの接続点Yの電位が、平滑コンデンサCの正側の電位を超えるため、フォワード電流2bが流れることができる。また、ダイオードD1は順バイアス、ダイオードD4は逆バイアスとなる。フォワード電流2bは、ダイオードD1→二次コイルN2→コイルL1b→ダイオードD3→出力端pの経路で流れる(
図6(d)(g)参照)。
【0039】
さらに、コイルL1bにフォワード電流2bが流れることにより、相互誘導によってコイルL2及びコイルL1aに誘導電流3bが流れる。コイルL1bとコイルL2は疎結合であるので、誘導電流3bが突入電流のように流れることが回避される。誘導電流3bは、ダイオードD1→コイルL1a→コイルL2→ダイオードD3→出力端pの経路で流れる(
図6(e)(f)参照)。従って、モードIIIでは、フォワード電流2bと誘導電流3bを合わせた電流が出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。
【0040】
(1-2-4)モードIVの動作
モードIVの動作は、モードIIの動作と対称的である。
図3の下側の図は、モードIVの電流の流れを示している。一次側のスイッチング素子B1、B2がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1bが遮断される(
図6(c)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。一次コイルN1に生じる逆起電力による入力端1への還流はダイオードDAにより阻止される。これによりモードIIIにおいてトランスTに蓄積された磁気エネルギーがトランスTに留まる。トランスTに留まった磁気エネルギーは、次に二次コイルN2にフォワード電流が流れるときに放出される。
【0041】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が逆バイアスに、ダイオードD4が順バイアスとなる。これによりモードIVでは、ダイオードD4→コイルL1b→コイルL2→ダイオードD2→出力端pの経路でフライバック電流4bが流れる(
図6(f)(g)参照)。従って、モードIVでは、フライバック電流4bが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0042】
(1-2-5)モードVの動作
図4の上側の図は、モードVの電流の流れを示している。一次側において、スイッチング素子B1、B2がオフのときにスイッチング素子A1、A2がオフからオンになると、一次コイルN1の始端から終端に電流1aが流れる(
図6(c)参照)。
【0043】
一次コイルN1に電流1aが流れると、相互誘導により二次コイルN2において始端が正、終端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列接続されたチョークトランスTrの両端に印加される。モードVでは、コイルL1aとコイルL2との接続点Xの電位が、平滑コンデンサCの正側の電位より低いため、フォワード電流は流れることができない。この場合、二次コイルN2に生じた起電力により、チョークトランスTrに励磁電流5aのみが流れる(
図6(d)(e)(f)(g)参照)。これによりチョークトランスTrに磁気エネルギーが蓄積される。モードVでは、励磁電流5aによりトランスTからチョークトランスTrにエネルギーが伝達される。二次側に励磁電流5aが流れることにより、一次側の電流1aが励磁電流のみでなく誘導電流を含むことになるので、一般的なフォワード方式電源に比べて力率が改善される。
【0044】
(1-2-6)モードVIの動作
図4の下側の図は、モードVIの電流の流れを示している。一次側のスイッチング素子A1、A2がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1aが遮断される(
図6(c)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。一次コイルN1に生じる逆起電力による入力端1への還流はダイオードDBにより阻止される。これによりモードVにおいてトランスTに蓄積された磁気エネルギーがトランスTに留まる。トランスTに留まった磁気エネルギーは、次に二次コイルN2に電流が流れるときに放出される。
【0045】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が順バイアスに、ダイオードD4が逆バイアスとなる。これによりモードVIでは、ダイオードD1→コイルL1a→コイルL2→ダイオードD3→出力端pの経路でフライバック電流6aが流れる(
図6(e)(f)参照)。従って、モードVIでは、フライバック電流6aが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0046】
モードVでフォワード電流が流れないときにも、励磁電流5aによってエネルギーがトランスTからチョークトランスTrに伝達され、モードVIでフライバック電流6aが出力されるので、一般的なフォワード方式電源に比べて力率が改善される。
【0047】
(1-2-7)モードVIIの動作
モードVIIの動作は、モードVの動作と対称的である。
図5の上側の図は、モードVIIの電流の流れを示している。一次側において、スイッチング素子A1、A2がオフのときにスイッチング素子B1、B2がオフからオンになると、一次コイルN1の終端から始端に電流1bが流れる(
図6(c)参照)。
【0048】
一次コイルN1に電流1bが流れると、相互誘導により二次コイルN2において終端が正、始端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列接続されたチョークトランスTrの両端に印加される。モードVIIでは、コイルL1bとコイルL2との接続点Yの電位が、平滑コンデンサCの正側の電位より低いため、フォワード電流は流れることができない。この場合、二次コイルN2に生じた起電力により、チョークトランスTrに励磁電流5bのみが流れる(
図6(d)(e)(f)(g)参照)。これによりチョークトランスTrに磁気エネルギーが蓄積される。
【0049】
(1-2-8)モードVIIIの動作
モードVIIIの動作は、モードVIの動作と対称的である。
図5の下側の図は、モードVIIIの電流の流れを示している。一次側のスイッチング素子B1、B2がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1bが遮断される(
図6(c)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。一次コイルN1に生じる逆起電力による入力端1への還流はダイオードDAにより阻止される。これによりモードVIIにおいてトランスTに蓄積された磁気エネルギーがトランスTに留まる。トランスTに留まった磁気エネルギーは、次に二次コイルN2に電流が流れるときに放出される。
【0050】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が逆バイアスに、ダイオードD4が順バイアスとなる。これによりモードVIIIでは、ダイオードD4→コイルL1b→コイルL2→ダイオードD2→出力端pの経路でフライバック電流6bが流れる(
図6(f)(g)参照)。従って、モードVIIIでは、フライバック電流6bが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0051】
(2)第2の実施形態
(2-1)第2の実施形態の回路構成
図7は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第1の実施形態の回路構成の一例を概略的に示した図である。第2の実施形態は、昇圧を行う双極性の絶縁型スイッチング電源である。第1の実施形態と共通する構成については、説明を省略する場合がある。
【0052】
(2-1-1)トランスTの一次側の構成
トランスTの一次側の構成は、第1の実施形態と同じである。
【0053】
(2-1-2)トランスTの二次側の構成
トランスTの二次側には、1つのチョークトランスTrが設けられている。チョークトランスTrは、1つのコアと、コアに同極性で巻かれ直列に接続された3つのコイルL2a、L1、L2bとを有する(各コイルの巻き始端を黒丸で示す)。中央のコイルL1と各端のコイルL2a、コイルL2bとはそれぞれ疎結合とする。
【0054】
トランスTの二次コイルN2の始端が、チョークトランスTrのコイルL1とコイルL2aとの接続点に接続されている。また、トランスTの二次コイルN2の終端が、チョークトランスTrのコイルL1とコイルL2bとの接続点に接続されている。従って、二次コイルN2とコイルL1とは、並列接続されている。
【0055】
さらに、二次コイルN2の始端とコイルL1の始端との接続点にダイオードD1のカソードが接続され、ダイオードD1のアノードが接地端nに接続されている。また、二次コイルN2の終端とコイルL1の終端との接続点にダイオードD4のカソードが接続され、ダイオードD4のアノードが接地端nに接続されている。
【0056】
さらに、チョークトランスTrのコイルL2aの始端にダイオードD2のアノードが接続され、ダイオードD2のカソードが出力端pに接続されている。また、チョークトランスTrのコイルL2bの終端にダイオードD3のアノードが接続され、ダイオードD3のカソードも出力端pに接続されている。出力端pと接地端nの間には平滑コンデンサCが接続されている。
【0057】
図7の回路は、昇圧コンバータである。出力電圧は、主としてトランスTの一次コイルN1と二次コイルN2の巻数比、並びに、チョークトランスTrの一次コイルL1と二次コイルL2a、L2bの巻数比により設定可能である。対称的動作を確保するために、チョークトランスTrにおける二次コイルL2aとL2bの巻数は同じとする。チョークトランスTrにおける一次コイルL1の巻数は、二次コイルL2aとL2bとは異なっていてもよい。
【0058】
(2-2)第2の実施形態の回路動作
図8~
図12を参照して、
図7の回路の動作を説明する。
図8~
図11は、各動作モードにおいて回路に流れる電流を概略的に示している。
【0059】
図12は、8つの動作モードI~VIIIにおける各構成要素の波形を概略的に示したタイミング図である。
図12(a)(b)は、上述した
図6(a)(b)と同じくグループA及びBのスイッチング素子の制御電圧V
A、V
Bをそれぞれ示している。また
図6と同じく、
図12においても、モードI~IVはフォワード電流が流れるときに対応し、モードV~VIIIはフォワード電流が流れないときに対応する。
図12(c)(d)(e)(f)(g)は、各構成要素に流れる電流波形を概略的に示している。
【0060】
(2-2-1)モードIの動作
図8の上側の図は、モードIの電流の流れを示している。一次側において、スイッチング素子B1、B2がオフのときにスイッチング素子A1、A2がオフからオンになると、一次コイルN1の始端から終端に電流1aが流れる(
図12(c)参照)。
【0061】
一次コイルN1に電流1aが流れると、相互誘導により二次コイルN2において始端が正、終端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列接続されたチョークトランスTrのコイルL1の両端に印加される。これにより、コイルL1に励磁電流5aが流れる(
図12(d)(f)参照)。励磁電流5aが流れると、相互誘導によりコイルL2a、L2bにそれぞれ起電力が生じる。モードIでは、コイルL2aの始端Xの電位が、平滑コンデンサCの正側の電位を超えるため、フォワード電流2aが流れることができる。また、ダイオードD1は逆バイアス、ダイオードD4は順バイアスとなる。フォワード電流2aは、ダイオードD4→二次コイルN2→コイルL2a→ダイオードD2→出力端pの経路で流れる(
図12(d)(e)参照)。フォワード電流2aは、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。
【0062】
チョークトランスTrには、励磁電流5aが流れることによりコアに磁気エネルギーが蓄積される。フォワード電流2aと励磁電流5aが逆方向に流れてコアの磁束の増加を抑制できるので、コアが磁気飽和し難くなり、大電流を流しやすくなる。
【0063】
(2-2-2)モードIIの動作
図8の下側の図は、モードIIの電流の流れを示している。一次側のスイッチング素子A1、A2がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1aが遮断される(
図12(c)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。一次コイルN1に生じる逆起電力による入力端1への還流はダイオードDBにより阻止される。これによりモードIにおいてトランスTに蓄積された磁気エネルギーがトランスTに留まる。トランスTに留まった磁気エネルギーは、次に二次コイルN2に電流が流れるときに放出される。
【0064】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が順バイアスに、ダイオードD4が逆バイアスとなる。これによりモードIIでは、ダイオードD1→コイルL1→コイルL2b→ダイオードD3→出力端pの経路でフライバック電流4aが流れる(
図12(f)(g)参照)。従って、モードIIでは、フライバック電流4aが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0065】
(2-2-3)モードIIIの動作
モードIIIの動作は、モードIの動作と対称的である。
図9の上側の図は、モードIIIの電流の流れを示している。一次側において、スイッチング素子A1、A2がオフのときにスイッチング素子B1、B2がオフからオンになると、一次コイルN1の終端から始端に電流1bが流れる(
図12(c)参照)。
【0066】
一次コイルN1に電流1bが流れると、相互誘導により二次コイルN2において終端が正、始端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列接続されたチョークトランスTrのコイルL1の両端に印加される。これにより、コイルL1に励磁電流5bが流れる(
図12(d)(f)参照)。励磁電流5bが流れると、相互誘導によりコイルL2bに起電力が生じる。モードIIIでは、コイルL2bの終端Yの電位が、平滑コンデンサCの正側の電位を超えるため、フォワード電流2bが流れることができる。また、ダイオードD1は順バイアス、ダイオードD4は逆バイアスとなる。フォワード電流2bは、ダイオードD1→二次コイルN2→コイルL2b→ダイオードD3→出力端pの経路で流れる(
図12(d)(g)参照)。フォワード電流2bは、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。
【0067】
(2-2-4)モードIVの動作
モードIVの動作は、モードIIの動作と対称的である。
図9の下側の図は、
図12のモードIVの電流の流れを示している。一次側のスイッチング素子B1、B2がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1bが遮断される(
図12(c)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。一次コイルN1に生じる逆起電力による入力端1への還流はダイオードDAにより阻止される。これによりモードVにおいてトランスTに蓄積された磁気エネルギーがトランスTに留まる。トランスTに留まった磁気エネルギーは、次に二次コイルN2に電流が流れるときに放出される。
【0068】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が逆バイアスに、ダイオードD4が順バイアスとなる。これによりモードIVでは、ダイオードD4→コイルL1→コイルL2a→ダイオードD2→出力端pの経路でフライバック電流4bが流れる(
図12(e)(f)参照)。従って、モードIVでは、フライバック電流4bが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0069】
(2-2-5)モードVの動作
図10の上側の図は、モードVの電流の流れを示している。一次側において、スイッチング素子B1、B2がオフのときにスイッチング素子A1、A2がオフからオンになると、一次コイルN1の始端から終端に電流1aが流れる(
図12(c)参照)。
【0070】
一次コイルN1に電流1aが流れると、相互誘導により二次コイルN2において始端が正、終端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列接続されたチョークトランスTrのコイルL1に印加される。これにより、コイルL1に励磁電流5aが流れる(
図12(d)(f)参照)。励磁電流5aが流れると、相互誘導によりコイルL2a、L2bに起電力が生じる。モードVでは、コイルL2aの始端Xの電位が、平滑コンデンサCの正側の電位より低いため、フォワード電流は流れることができない。この場合、二次コイルN2に生じた起電力により、チョークトランスTrに励磁電流5aのみが流れる。これによりチョークトランスTrに磁気エネルギーが蓄積される。二次側に励磁電流5aが流れることにより、一次側の電流1aが励磁電流のみでなく誘導電流を含むことになるので、一般的なフォワード方式電源に比べて力率が改善される。
【0071】
(2-2-6)モードVIの動作
図10の下側の図は、モードVIの電流の流れを示している。一次側のスイッチング素子A1、A2がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1aが遮断される(
図12(c)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。一次コイルN1に生じる逆起電力による入力端1への還流はダイオードDBにより阻止される。これによりモードVにおいてトランスTに蓄積された磁気エネルギーがトランスTに留まる。トランスTに留まった磁気エネルギーは、次に二次コイルN2に電流が流れるときに放出される。
【0072】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が順バイアスに、ダイオードD4が逆バイアスとなる。これによりモードVIでは、ダイオードD1→コイルL1→コイルL2b→ダイオードD3→出力端pの経路でフライバック電流6aが流れる(
図12(f)(g)参照)。従って、モードVIでは、フライバック電流6aが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0073】
モードVでフォワード電流が流れないときにも励磁電流5aによってエネルギーがトランスTからチョークトランスTrに伝達され、モードVIでフライバック電流6aが出力されるので、一般的なフォワード方式電源に比べて力率が改善される。
【0074】
(2-2-7)モードVIIの動作
モードVIIの動作は、モードVの動作と対称的である。
図11の上側の図は、モードVIIの電流の流れを示している。一次側において、スイッチング素子A1、A2がオフのときにスイッチング素子B1、B2がオフからオンになると、一次コイルN1の終端から始端に電流1bが流れる(
図12(c)参照)。
【0075】
一次コイルN1に電流1bが流れると、相互誘導により二次コイルN2において終端が正、始端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列接続されたチョークトランスTrのコイルL1に印加される。モードVIIでは、コイルL2bの終端の電位が、平滑コンデンサCの正側の電位より低いため、フォワード電流は流れることができない。この場合、二次コイルN2に生じた起電力により、チョークトランスTrに励磁電流5bのみが流れる(
図12(d)(f)参照)。これによりチョークトランスTrに磁気エネルギーが蓄積される。
【0076】
(2-2-8)モードVIIIの動作
モードVIIIの動作は、モードVIの動作と対称的である。
図11の下側の図は、モードVIIIの電流の流れを示している。一次側のスイッチング素子B1、B2がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1bが遮断される(
図12(c)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。一次コイルN1に生じる逆起電力による入力端1への還流はダイオードDAにより阻止される。これによりモードVIIにおいてトランスTに蓄積された磁気エネルギーがトランスTに留まる。トランスTに留まった磁気エネルギーは、次に二次コイルN2に電流が流れるときに放出される。
【0077】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が逆バイアスに、ダイオードD4が順バイアスとなる。これによりモードVIIIでは、ダイオードD4→コイルL1→コイルL2a→ダイオードD2→出力端pの経路でフライバック電流6bが流れる(
図12(e)(f)参照)。従って、モードVIIIでは、フライバック電流6bが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0078】
モードVIIでフォワード電流が流れないときにも励磁電流5bによってエネルギーがトランスTからチョークトランスTrに伝達され、モードVIIIでフライバック電流6bが出力されるので、一般的なフォワード方式電源に比べて力率が改善される。
【0079】
(3)第3の実施形態
(3-1)第3の実施形態の回路構成
図13は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第3の実施形態の回路構成の一例を概略的に示した図である。第3の実施形態は、降圧を行う単極性の絶縁型スイッチング電源である。
図13の絶縁型スイッチング電源は、入力端1、2と出力端p、nとを有する。入力側と出力側は、トランスTにより絶縁されている。ここでは、入力端2をトランスTの一次側の基準電位(接地端)とし、出力端nをトランスTの二次側の基準電位(接地端)とする。入力端1、2には、典型的には交流電圧を整流した正の電圧が入力される。出力端p、nには、正の直流電圧が出力される。
【0080】
(3-1-1)トランスTの一次側の構成
入力される交流電圧は、上述した実施形態と同様である。トランスTは、一次コイルN1と二次コイルN2が同極性に巻かれたフォワードトランスである(コイルの巻き始端を黒丸で示す)。
【0081】
トランスTの一次側には、入力電圧により一次コイルN1に流れる電流を導通又は遮断するべくオンオフ制御されるスイッチング素子A1が設けられている。スイッチング素子A1は、ここでは一例としてNチャネルMOSFETである。スイッチング素子A1は、制御端(ここではゲート)に印加される制御電圧によりオンオフ制御される。制御電圧は、上述した実施形態と同様に、所定のオン時間とオフ時間を設定されたPWM信号である。
【0082】
(3-1-2)トランスTの二次側の構成
トランスTの二次側には、1つのチョークトランスTrが設けられている。チョークトランスTrは、1つのコアと、コアに同極性で巻かれ直列に接続された2つのコイルL1、L2とを有する(各コイルの巻き始端を黒丸で示す)。コイルL1とコイルL2は、疎結合とする。
【0083】
トランスTの二次コイルN2の始端がチョークトランスTrのコイルL1の始端に接続されている。トランスTの二次コイルN2の終端は、接地端nに接続されている。
【0084】
二次コイルN2の始端とコイルL1の始端との接続点にダイオードD1のカソードが接続され、ダイオードD1のアノードが接地端nに接続されている。
【0085】
さらに、チョークトランスTrのコイルL1とコイルL2との接続点にダイオードD2のアノードが接続され、ダイオードD2のカソードが出力端pに接続されている。さらに、チョークトランスTrのコイルL2の終端にダイオードD3のアノードが接続され、ダイオードD3のカソードも出力端pに接続されている。出力端pと接地端nの間には平滑コンデンサCが接続されている。
【0086】
さらに、チョークトランスTrのコイルL2の終端と接地端nの間に流れる電流を導通又は遮断するようにオンオフ制御されるスイッチング素子A3が設けられている。スイッチング素子A3は、ここでは一例としてNチャネルMOSFETである。スイッチング素子A3は、制御端(ここではゲート)に印加される制御電圧によりオンオフ制御される。スイッチング素子A3は、一次側のスイッチング素子A1と同じタイミングの制御電圧により制御される。2つのスイッチング素子A1とA3は、同じタイミングでオンオフするのでスイッチング制御が容易である。
【0087】
図1の回路は、降圧コンバータである。出力電圧は、主としてトランスTの一次コイルN1と二次コイルN2の巻数比、並びに、チョークトランスTrの一次コイルL1と二次コイルL2の巻数比により設定可能である。
【0088】
(3-2)第3の実施形態の回路動作
図14~
図16を参照して、
図13の回路の動作を説明する。
図14及び
図15は、各動作モードにおいて回路に流れる電流を概略的に示している。
【0089】
図16は、4つの動作モードI~IVにおける各構成要素の波形を概略的に示したタイミング図である。
図16(a)は、スイッチング素子A1、A3の制御電圧V
Aを概略的に示している。PWM信号である制御電圧V
Aのオン期間とオフ期間の長さは、所定のデューティ比となるように制御部により決定される。
【0090】
図13の回路における平滑コンデンサCは、定常状態においてほぼ一定の電圧で充電されている。上述した実施形態と同様に、入力電圧の大きさに依存して、出力端pにフォワード電流が出力されるときと出力されないときがある。
図16に示したモードI及びIIはフォワード電流が流れるときに対応し、モードIII及びIVはフォワード電流が流れないときに対応する。
【0091】
図16(b)(c)(d)(e)は、各モードにおいて各構成要素に流れる電流を不連続モードで示しているが、負荷の軽重に応じて電流が臨界モード又は連続モードとなることも有り得る。
【0092】
(3-2-1)モードIの動作
図14の上側の図は、モードIの電流の流れを示している。スイッチング素子A1がオフからオンになると、一次側では一次コイルN1の始端から終端に電流1aが流れる(
図16(b)参照)。同時にスイッチング素子A3がオフからオンになると、トランスTの二次コイルN2とチョークトランスTrの各コイルが並列状態となる。
【0093】
一次コイルN1に電流1aが流れると、相互誘導により二次コイルN2において始端が正、終端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列状態であるチョークトランスTrの両端に印加される。モードIでは、コイルL1とコイルL2との接続点Xの電位が、平滑コンデンサCの正側の電位を超えるため、フォワード電流2aが流れることができる。また、ダイオードD1は逆バイアスとなる。フォワード電流2aは、接地端n→二次コイルN2→コイルL1→ダイオードD2→出力端pの経路で流れる(
図16(c)(d)参照)。
【0094】
さらに、コイルL1にフォワード電流2aが流れることにより、相互誘導によってコイルL2に誘導電流3aが流れる。コイルL1とコイルL2は疎結合であるので、誘導電流3aが突入電流のように流れることが回避される。誘導電流3aは、接地端n→スイッチング素子A3→コイルL2→ダイオードD2→出力端pの経路で流れる(
図16(e)参照)。従って、モードIでは、フォワード電流2aと誘導電流3aを合わせた電流が出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。
【0095】
さらにチョークトランスTrには、図示のように二次コイルN2に生じた起電力により励磁電流5aも流れる(
図16(c)(d)(e)の点線参照)。これによりチョークトランスTrのコアに磁気エネルギーが蓄積される。
【0096】
上述した通り、チョークトランスTrでは、フォワード電流2aに対して誘導電流3aが逆方向に流れてコアの磁束の増加を抑制できるのでコアが磁気飽和し難くなり、大電流を流しやすくなる。
【0097】
(3-2-2)モードIIの動作
図14の下側の図は、モードIIの電流の流れを示している。スイッチング素子A1がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1aが遮断される(
図16(b)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。同時にスイッチング素子A3がオンからオフになると、トランスTの二次コイルN2とチョークトランスTrの各コイルとからなる閉回路が断絶される。
【0098】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が順バイアスとなる。これによりモードIIでは、ダイオードD1→コイルL1→コイルL2→ダイオードD3→出力端pの経路でフライバック電流4aが流れる(
図16(d)(e)参照)。従って、モードIIでは、フライバック電流4aが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0099】
(3-2-3)モードIIIの動作
図15の上側の図は、モードIIIの電流の流れを示している。スイッチング素子A1がオフからオンになると、一次コイルN1の始端から終端に電流1aが流れる(
図6(c)参照)。同時にスイッチング素子A3がオフからオンになると、トランスTの二次コイルN2とチョークトランスTrの各コイルが並列状態となる。
【0100】
一次コイルN1に電流1aが流れると、相互誘導により二次コイルN2において始端が正、終端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列接続されたチョークトランスTrの両端に印加される。モードIIIでは、コイルL1とコイルL2との接続点Xの電位が、平滑コンデンサCの正側の電位より低いため、フォワード電流は流れることができない。この場合、二次コイルN2に生じた起電力により、チョークトランスTrに励磁電流5aのみが流れる(
図16(c)(d)(e)参照)。これによりチョークトランスTrに磁気エネルギーが蓄積される。二次側に励磁電流5aが流れることにより、一次側の電流1aが励磁電流のみでなく誘導電流を含むことになるので、一般的なフォワード方式電源に比べて力率が改善される。
【0101】
(3-2-4)モードIVの動作
図15の下側の図は、モードIVの電流の流れを示している。スイッチング素子A1がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1aが遮断される(
図16(b)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。同時にスイッチング素子A3がオンからオフになると、トランスTの二次コイルN2とチョークトランスTrの各コイルとからなる閉回路が断絶される。
【0102】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が順バイアスとなる。これによりモードIVでは、ダイオードD1→コイルL1→コイルL2→ダイオードD3→出力端pの経路でフライバック電流6aが流れる(
図16(d)(e)参照)。従って、モードIVでは、フライバック電流6aが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0103】
モードIIIでフォワード電流が流れないときにも励磁電流5aによってエネルギーがトランスTからチョークトランスTrに伝達され、モードIVでフライバック電流6aが出力されるので、一般的なフォワード方式電源に比べて力率が改善される。
【0104】
(4)第4の実施形態
(4-1)第4の実施形態の回路構成
図17は、本発明の絶縁型スイッチング電源の第4の実施形態の回路構成の一例を概略的に示した図である。第4の実施形態は、昇圧を行う単極性の絶縁型スイッチング電源である。第3の実施形態の回路と共通する構成については、説明を省略する場合がある。
【0105】
(4-1-1)トランスTの一次側の構成
トランスTの一次側の構成は、第3の実施形態と同じである。
【0106】
(4-1-2)トランスTの二次側の構成
トランスTの二次側には、1つのチョークトランスTrが設けられている。チョークトランスTrは、1つのコアと、コアに同極性で巻かれ直列に接続された2つのコイルL1、L2とを有する(各コイルの巻き始端を黒丸で示す)。コイルL1とコイルL2とは疎結合とする。
【0107】
トランスTの二次コイルN2の始端が、チョークトランスTrのコイルL1とコイル2の接続端に接続されている。トランスTの二次コイルN2の終端は、接地端nに接続されている。
【0108】
二次コイルN2の始端とコイルL1の始端との接続点にダイオードD1のカソードが接続され、ダイオードD1のアノードが接地端nに接続されている。
【0109】
さらに、チョークトランスTrのコイルL2の始端にダイオードD2のアノードが接続され、ダイオードD2のカソードが出力端pに接続されている。さらに、チョークトランスTrのコイルL1の終端にダイオードD3のアノードが接続され、ダイオードD3のカソードも出力端pに接続されている。出力端pと接地端nの間には平滑コンデンサCが接続されている。
【0110】
さらに、チョークトランスTrのコイルL1の終端と接地端nの間に流れる電流を導通又は遮断するようにオンオフ制御されるスイッチング素子A3が設けられている。スイッチング素子A3は、ここでは一例としてNチャネルMOSFETである。スイッチング素子A3は、制御端(ここではゲート)に印加される制御電圧によりオンオフ制御される。スイッチング素子A3は、一次側のスイッチング素子A1と同じタイミングの制御電圧により制御される。
【0111】
図17の回路は、降圧コンバータである。出力電圧は、主としてトランスTの一次コイルN1と二次コイルN2の巻数比、並びに、チョークトランスTrの一次コイルL1と二次コイルL2の巻数比により設定可能である。
【0112】
(4-2)第4の実施形態の回路動作
図18~
図20を参照して、
図17の回路の動作を説明する。
図18及び
図19は、各動作モードにおいて回路に流れる電流を概略的に示している。
【0113】
図20は、4つの動作モードI~IVにおける各構成要素の波形を概略的に示したタイミング図である。
図20(a)は、スイッチング素子A1、A3の制御電圧V
Aを概略的に示している。PWM信号である制御電圧V
Aのオン期間とオフ期間の長さは、所定のデューティ比となるように制御部により決定される。
【0114】
図17の回路における平滑コンデンサCは、定常状態においてほぼ一定の電圧で充電されている。上述した実施形態と同様に、入力電圧の大きさに依存して、出力端pにフォワード電流が出力されるときと出力されないときがある。
図20に示したモードI及びIIはフォワード電流が流れるときに対応し、モードIII及びIVはフォワード電流が流れないときに対応する。
【0115】
図20(b)(c)(d)(e)は、各モードにおいて各構成要素に流れる電流を不連続モードで示しているが、負荷の軽重に応じて電流が臨界モード又は連続モードとなることも有り得る。
【0116】
(4-2-1)モードIの動作
図18の上側の図は、モードIの電流の流れを示している。スイッチング素子A1がオフからオンになると、一次側では一次コイルN1の始端から終端に電流1aが流れる(
図20(b)参照)。同時にスイッチング素子A3がオフからオンになると、トランスTの二次コイルN2とチョークトランスTrのコイルL1が並列状態となる。
【0117】
一次コイルN1に電流1aが流れると、相互誘導により二次コイルN2の始端が正、終端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列状態であるチョークトランスTrのコイルL1に印加され、励磁電流5aが流れる(
図20(c)(d))。これによりチョークトランスTrのコアに磁気エネルギーが蓄積される。
【0118】
さらに、励磁電流5aが流れることにより、相互誘導によりコイルL2に起電力を生じる。モードIでは、コイルL2の始端Xの電位が、平滑コンデンサCの正側の電位を超えるため、フォワード電流2aが流れることができる。また、ダイオードD1は逆バイアスとなる。フォワード電流2aは、接地端n→二次コイルN2→コイルL2→ダイオードD2→出力端pの経路で流れる(
図20(c)(e)参照)。
【0119】
チョークトランスTrには、励磁電流5aが流れることによりコアに磁気エネルギーが蓄積される。フォワード電流2aと励磁電流5aが逆方向に流れてコアの磁束の増加を抑制できるのでコアが磁気飽和し難くなり、大電流を流しやすくなる。
【0120】
(4-2-2)モードIIの動作
図18の下側の図は、モードIIの電流の流れを示している。スイッチング素子A1がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1aが遮断される(
図20(b)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。同時にスイッチング素子A3がオンからオフになると、トランスTの二次コイルN2とチョークトランスTrのコイルL1とからなる閉回路が断絶される。
【0121】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が順バイアスとなる。これによりモードIIでは、ダイオードD1→コイルL1→ダイオードD3→出力端pの経路でフライバック電流4aが流れる(
図20(d)参照)。従って、モードIIでは、フライバック電流4aが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0122】
(4-2-3)モードIIIの動作
図19の上側の図は、モードIIIの電流の流れを示している。スイッチング素子A1がオフからオンになると、一次コイルN1の始端から終端に電流1aが流れる(
図6(c)参照)。同時にスイッチング素子A3がオフからオンになると、トランスTの二次コイルN2とチョークトランスTrのコイルL1が並列状態となる。
【0123】
一次コイルN1に電流1aが流れると、相互誘導により二次コイルN2において始端が正、終端が負の起電力を生じる。この起電力は、二次コイルN2と並列接続されたチョークトランスTrのコイルL1に印加され、励磁電流5aが流れる(
図20(c)(d))。これによりチョークトランスTrのコアに磁気エネルギーが蓄積される。
【0124】
さらに、励磁電流5aが流れることにより、相互誘導によりコイルL2に起電力を生じる。モードIIIでは、コイルL2の始端Xの電位が、平滑コンデンサCの正側の電位より低いため、フォワード電流は流れることができない。この場合、二次コイルN2に生じた起電力により、チョークトランスTrに励磁電流5aのみが流れる(
図20(c)(d)参照)。
【0125】
(4-2-4)モードIVの動作
図19の下側の図は、モードIVの電流の流れを示している。スイッチング素子A1がオンからオフになると、一次コイルN1の電流1aが遮断される(
図20(b)参照)。これにより、トランスTの一次コイルN1及び二次コイルN2に逆起電力が生じる。同時にスイッチング素子A3がオンからオフになると、トランスTの二次コイルN2とチョークトランスTrのコイルL1とからなる閉回路が断絶される。
【0126】
さらに、チョークトランスTrの各コイルにも逆起電力が生じる。ダイオードD1が順バイアスとなる。これによりモードIVでは、ダイオードD1→コイルL1→ダイオードD3→出力端pの経路でフライバック電流6aが流れる(
図20(d)(e)参照)。従って、モードIVでは、フライバック電流6aが出力され、負荷(図示せず)に供給され、接地端nへと流れる。これによりチョークトランスTrに蓄積された磁気エネルギーが放出される。
【0127】
モードIIIでフォワード電流が流れないときにも励磁電流5aによってエネルギーがトランスTからチョークトランスTrに伝達され、モードIVでフライバック電流6aが出力されるので、一般的なフォワード方式電源に比べて力率が改善される。
【0128】
(5)各実施形態の共通構成
以上に述べた本発明の絶縁型スイッチング電源の各実施形態に共通する構成をまとめると、次の通りとなる。
同極性の一次コイルN1と二次コイルN2を具備するトランスTと、前記一次コイルN1を含む電流路を導通又は遮断するべくオンオフ制御される少なくとも1つの一次側のスイッチング素子と、二次側の出力端pと接地端nとの間に接続された平滑コンデンサCと、を有する絶縁型スイッチング電源が、
前記トランスTの二次側に接続された1つのチョークトランスTrを有し、前記チョークトランスTrが、コアと、同極性にて直列接続されかつ互いに疎結合である第1及び第2のコイルとを少なくとも具備し、前記第1のコイルの始端又は終端が前記トランスTの二次コイルN2の始端に接続されており、かつ、
前記二次側の接地端nから前記チョークトランスTrの第1のコイルの始端又は終端へ流れる電流を導通可能とする第1の整流要素D1と、
前記チョークトランスTrの第1のコイルの終端又は始端から前記二次側の出力端pへ流れる電流を導通可能とする第2の整流要素D2と、
前記チョークトランスTrの第2のコイルの終端を経由して前記二次側の出力端pへ流れる電流を導通可能とする第3の整流要素D3と、を少なくとも有する。
【0129】
(6)その他の実施形態
図示しないが、上述した第1又は第2の実施形態の回路における一次側のスイッチング部の別の構成として、プッシュプル回路又はハーフブリッジ回路を適用することができる。
【0130】
上述した各実施形態おいて、スイッチング部におけるスイッチング素子は、MOSFET以外にIGBT又はバイポーラトランジスタでもよい。
【0131】
上述した各実施形態おいて、各ダイオードは、それぞれの一方向への電流を導通可能でありかつ逆方向の電流を遮断する整流要素の一例である。従って、同様の機能を有する他の整流素子又は整流回路に置き換えることができる。
【0132】
以上に説明した本発明の絶縁型スイッチング電源は、図示の構成例に限られず、本発明の主旨に沿う範囲において多様な変形が可能である。
【符号の説明】
【0133】
1、2 入力端
p、n 出力端
T トランス
N1 一次コイル
N2 二次コイル
Tr チョークトランス
L1a、L2、L1b コイル
L1、L2a、L2b コイル
A1、A2、A3、B1、B2 スイッチング素子
D1、D2、D3、D4 ダイオード
C 平滑コンデンサ
1a、1b 一次コイルの電流
2a、2b フォワード電流
3a、3b 誘導電流
4a、4b、6a、6b フライバック電流
5a、5b 励磁電流