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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】塗布層形成機
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20221118BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20221118BHJP
   B05C 11/04 20060101ALI20221118BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
E21D11/10 Z
B05C5/00 101
B05C11/04
B05C11/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019030767
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020133323
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】木ノ村 幸士
(72)【発明者】
【氏名】古田 敦史
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-189966(JP,A)
【文献】特開平02-024495(JP,A)
【文献】特開平06-343909(JP,A)
【文献】特開2003-074299(JP,A)
【文献】特開2000-120393(JP,A)
【文献】特開昭60-051299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00-19/06
23/00-23/26
B05C 5/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性材料からなる塗布層を被塗布対象に形成する、塗布層形成機であって、
移動手段と、
前記移動手段に対して伸縮自在でかつ回動自在に装着されているアームと、
前記アームに取り付けられている、前記被塗布対象までの第一距離を計測する第一距離計、前記粘性材料を吐出するノズル、及び、前記被塗布対象に吐出された前記粘性材料を均す均し部材と、
制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記第一距離計により計測された前記第一距離に基づいて、少なくとも、前記ノズルから前記被塗布対象までのノズル距離と、前記粘性材料を吐出する際の前記ノズルの移動速度と、前記ノズルから吐出される前記粘性材料の吐出量と、の調整を行い、
前記塗布層を形成する際に前記アームが移動する移動方向の下流側から順に、前記第一距離計、前記ノズル、前記均し部材が前記アームに取り付けられており、
前記ノズルの移動速度に応じて前記均し部材による均し速度が予め試験施工を行い、試験施工結果に基づいて調整され、
前記制御装置は、前記均し部材の角度の調整と前記均し速度の調整をさらに行うことを特徴とする、塗布層形成機。
【請求項2】
前記アームには、前記移動方向の下流側から順に、前記均し部材の後方に第二距離計、押さえ部材がさらに取り付けられており、
前記制御装置は、
前記第一距離に基づいて、前記均し部材により整形された前記塗布層の厚みを特定し、 前記第二距離計により計測された第二距離に基づいて、前記押さえ部材に対して前記塗布層の再整形を実行させることを特徴とする、請求項に記載の塗布層形成機。
【請求項3】
前記アームは複数の多関節アームであり、
前記第一距離計、前記ノズル、前記均し部材、前記第二距離、前記押さえ部材が、それぞれに固有の前記多関節アームに取り付けられていることを特徴とする、請求項に記載の塗布層形成機。
【請求項4】
前記ノズルと前記均し部材が一体に形成され、該ノズルにおける前記移動方向の上流側の側面から該均し部材が該上流側に傾斜して延びていることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか一項に記載の塗布層形成機。
【請求項5】
前記第一距離計は、形成された前記塗布層の表面までの第三距離をさらに測定し、
前記制御装置は、前記第三距離に基づいて、少なくとも、前記吐出量と、前記ノズルの移動速度と、前記ノズルから前記塗布層の表面までのノズル距離と、の調整を行うことにより、別途の塗布層を形成し、積層構造の塗布層を形成することを特徴とする、請求項1乃至のいずれか一項に記載の塗布層形成機。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布層形成機に関する。
【背景技術】
【0002】
既設もしくは新設のトンネルに二次覆工等を施工する場合に、従来は型枠工法やスリップフォーム工法が適用されている。型枠工法は、トンネルの断面形状に合わせて型枠を組み立てるために非効率的であり、施工対象の表面形状が複雑になるほど工期が長期化し、工費が嵩む傾向にある。特にトンネルの二次覆工では、セントルの製作費が工事費の大半を占めることになるが、施工対象の断面形状が変わればそれに応じたセントルが必要になるため、不経済となる。一方、スリップフォーム工法は、成型機に鋼製型枠(モールド)を取り付け、モールド内にコンクリートを投入し、その内部において締固めと成型を行い、同時に成型機を前進させることにより、同一断面の構造物を連続的に構築していく工法である。機械施工が主体であることから、省力化と工期短縮が可能になる。
【0003】
上記するスリップフォーム工法に適用される装置や方法に関し、種々の技術が提案されている。その一つの技術は、トンネルの周方向に沿ってトンネルの内壁面に設けられたガイドレールと、ガイドレールに沿って移動する支持架台と、支持架台に設けられた型枠と、型枠にコンクリートを供給するコンクリート供給手段とを備える覆工コンクリート打設装置である。覆工コンクリート打設装置から型枠に対してコンクリートを供給するとともに、型枠をガイドレールに沿って移動させることにより、トンネルの周方向に連続するコンクリートが打設される(例えば、特許文献1参照)。
また、他の一つの技術は、移動型枠側に突起付きの防水シートを配設して地山坑壁との間に一次覆工打設空間を形成し、一次覆工打設空間に急結性コンクリートを供給し、コンクリートを移動型枠により防水シートを介して坑壁方向に圧着して一次覆工コンクリートを打設すると共に、防水シートを一次覆工コンクリート表面に固定することにより、一次覆工と防水工とを同時に施工する覆工方法である(例えば、特許文献2参照)。
さらに、他の一つの技術は、トンネル壁面に沿ってトンネル長さ方向に移動自在に配設されている前後ガイドレール間の両側部に移動型枠装置を配設し、この移動型枠装置を上方に移動させながら型枠装置とトンネル壁面との間に急結性コンクリートを打設し、両型枠装置がトンネルの天端面に達した際に接合させた状態にしてコンクリートを打設することにより、アーチ状に連続したコンクリート覆工を施工する、トンネル覆工の施工方法である(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-206173号公報
【文献】特開平09-250297号公報
【文献】特開平06-066096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記するスリップフォーム工法は、施工機械をトンネルの周方向に移動させて大きな反力を支持するための専用ガイドレールを必要とする。そのため、トンネルの断面形状に応じたガイドレールの製作を要することから不経済であり、非常駐車帯等の拡幅部のように局所的に断面が変化する箇所においては施工が困難になる。その他、鋼製支保工をガイドレールとして兼用する方法も考えられるが、安定した地山では鋼製支保工が不要の場合もあり、原則として専用ガイドレールが必要になる。
このように、トンネルの断面形状に対する適応性の観点より、トンネルの断面形状に関わらず、経済的で、かつ安定した品質にてトンネル覆工を施工することが課題として存在する。
【0006】
また、コンクリートの充填性の観点においても、課題が存在する。
型枠工法においては、コンクリート打設の際にコンクリートの充填性の確保が重要になる。特にトンネル覆工のアーチ部などの上向き施工による場合には、コンクリートを下方から吹き上げて打設することから、型枠の撓みや圧送圧の不均一性などに起因して既設面との間に空隙が生じ易く、充填性を十分に確保するのは困難である。一方、スリップフォーム工法においても型枠を用いることから、上向き施工では、型枠工法の場合と同様に、既設面との間に空隙が生じ易く、充填性を十分に確保するのは困難である。
また、型枠工法やスリップフォーム工法にてトンネル覆工を施工した際に既設面に空隙が生じた場合、従来はコンクリートが硬化した後に裏込め材を注入することにより既設面との充填性を確保している。しかしながら、実際は全ての空隙が連続していることはなく、注入材が充填されているか否かを直接確認できないことから、その品質が懸念される。さらに、裏込め注入などの後施工は、余分な施工費をもたらすことから経済的でない。
このように、コンクリートの充填性の観点より、施工時におけるコンクリートの十分な充填性を確保することが課題として存在する。
【0007】
また、地山とトンネル覆工間の接着性や剥落防止性の観点においても、課題が存在する。
スリップフォーム工法では、例えば上記する特許文献1乃至3に記載されるように、鋼製型枠をトンネルの周方向に摺動させてコンクリートを連続打設することによりトンネル覆工を構築することから、効率的な施工を行うには早期脱型が必要になる。しかしながら、トンネル天端ではトンネル覆工の自重による剥落の恐れがあるため、本来は脱型までの養生時間を十分に確保する必要があることから、施工効率を優先する場合には自重を軽くするために層厚が制限される。
このように、地山とトンネル覆工間の接着性や剥落防止性の観点より、地山などの施工対象や塗付け材料の積層間における接着力を確保して剥落防止性を確保しつつ、施工効率の向上による経済的な施工を実現することが課題として存在する。
【0008】
また、効率的な防水層の構築の観点においても、課題が存在する。
型枠工法では、地山に対するコンクリート吹付け等の一次覆工の後に防水シートを張り付ける作業があり、シート間の溶着や閉合作業に手間を要する。一方、スリップフォーム工法のうち、上記する特許文献2においては、防水シートを伴って一次覆工を構築できることから施工効率は向上するものの、トンネル断面の一方向からの施工が困難であることから、天井部での防水シートの溶着・閉合作業が必要になり、型枠工法と同様にシート間の溶着や閉合作業に手間を要する。
このように、効率的な防水層の構築の観点より、防水層を効率的に施工することが課題として存在する。
【0009】
さらに、吹付け工法における労働環境と材料ロスの観点においても、課題が存在する。
トンネルの一次覆工や既設コンクリートの断面修復工において吹付け工法が用いられる場合、粉塵による労働環境の悪化やリバウンドによる施工効率の低下と経済性の低下が課題となる。
【0010】
以上のように、型枠工法やスリップフォーム工法には様々な課題が存在することから、これらの工法に代わり、塗付け工法の適用が考えられる。塗付け工法は、作業員がコテを用いて人力でコンクリート等を塗付ける左官工法である。この塗付け工法では、塗付け材料のフレッシュ性状や、一次覆工面(もしくは、さらにその表面の防水シート)などの施工対象面の凹凸に応じて、塗付け量や均し速度、コテの角度などが作業者によって異なることから、品質や出来形が作業員の熟練度に大きく左右される。また、人力では作業効率が低いことから、大断面トンネル等の大規模な範囲の施工には適さない。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、型枠やスリップフォームを適用しない塗布層形成機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による塗布層形成機の一態様は、
粘性材料からなる塗布層を被塗布対象に形成する、塗布層形成機であって、
移動手段と、
前記移動手段に対して伸縮自在でかつ回動自在に装着されているアームと、
前記アームに取り付けられている、前記被塗布対象までの第一距離を計測する第一距離計、前記粘性材料を吐出するノズル、及び、前記被塗布対象に吐出された前記粘性材料を均す均し部材と、
制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記第一距離計により計測された前記第一距離に基づいて、少なくとも、前記ノズルから前記被塗布対象までのノズル距離と、前記粘性材料を吐出する際の前記ノズルの移動速度と、前記ノズルから吐出される前記粘性材料の吐出量と、の調整を行い、
前記塗布層を形成する際に前記アームが移動する移動方向の下流側から順に、前記第一距離計、前記ノズル、前記均し部材が前記アームに取り付けられていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、制御装置により、粘性材料の吐出量(例えば単位時間当たりの吐出量)や粘性材料を吐出する際のノズルの移動速度、ノズルから被塗布対象までのノズル距離が少なくとも調整されることにより、被塗布対象の表面形状(表面の凹凸)に関わらず、所望する厚みの塗布層を自動形成することができる。
ここで、被塗布対象は特に限定されるものではないが、トンネルの地山に施工されている吹付けコンクリート層(一次覆工)の表面や、吹付けコンクリート層の表面に敷設されている防水シートの表面、ポリウレアやポリウレタンといった有機溶剤系材料からなる吹付け防水層の表面、補修時における既設構造物の斫り面等が挙げられる。例えば、防水シートや吹付け防水層の表面に塗布層が形成されることにより、この塗布層が二次覆工となる。また、塗布層を複数層施工して積層構造の塗布層を形成する場合は、最初の被塗布対象は吹付けコンクリート層の表面や防水シートの表面であるが、二層目の塗布層の被塗布対象は一層目の塗布層の表面になる。ここで、塗布層を形成する「粘性材料」としては、コンクリートやモルタル等のセメント系材料が挙げられる。
地山の表面に吹付けコンクリート層を形成する場合、吹付けコンクリート層が地山の凹凸に応じた凹凸を有している場合は、この凹凸を吸収した状態で内面が面一となるように塗布層が形成されてよい。積層構造の塗布層を形成する場合は、一層目の塗布層は吹付けコンクリート層の有する凹凸が緩和された態様で形成され、二層目以降の塗布層が一層目の塗布層の凹凸を吸収した状態で内面が面一となるように形成されてよい。
【0014】
本態様は、従来の型枠工法のようにセントルに代表される型枠や、スリップフォーム工法における施工機械を支持するための専用ガイドレールを適用せず、移動手段をトンネルの長手方向に移動させて所定位置に停止させ、例えば移動手段の周囲においてアームをトンネルの周方向に移動させながらノズルから粘性材料を吐出して塗布層を形成するものであり、人力によらず、機械による塗付け工法を実現する機器である。移動手段としては、トンネルドリルジャンボ等の掘削機械や、アームが搭載された回転テーブルを有するトラック等をベースマシンとして適用できる。また、第一距離計や粘性材料を吐出するノズル、粘性材料を均す均し部材が取り付けられているアームは、移動手段に対して伸縮自在でかつ回動自在に装着されている。ここで、「均し部材」としては、例えば、アームに対して回動自在に取り付けられて角度調整が自在なコテが挙げられる。
【0015】
ここで、アームが「回動自在」とは、移動手段に対してアームがトンネルの周方向に移動自在であることや、アームが例えば複数の関節により複数のアーム軸が回動自在に取り付けられている多関節アームである場合に、各アーム軸が回動することにより、結果的に移動手段に対してアーム(各アーム軸)が回動すること、などを含む意味である。
また、アームが伸縮自在であることから、トンネルの断面寸法や断面形状に応じて、アームを地山から所望の距離だけ離した状態としながら塗布層を形成することができる。例えば、トンネル断面の中央に移動手段を停止させ、アームを所定長さとなるまで伸長させ、移動手段の周囲にアームを回動させることにより、トンネルの周方向に塗布層を形成することができる。また、トンネル断面の中央位置から左右いずれか一方に偏った位置に移動手段を停止させ、アームの回動に応じてアームの伸長の程度を随時調整し、アーム長さを変化させながら塗布層を形成してもよい。このように移動手段をトンネル断面の左右一方側に停止させて塗布層を形成することにより、移動手段の停止していない側の空間を他の工事車両や作業員の走行路に供することができる。
【0016】
例えば所定の厚みの塗布層を形成するための、ノズル距離や粘性材料の吐出量、ノズルの移動速度や被塗布対象に対するノズルの角度、均し部材を形成するコテの被塗布対象に対する角度や均し速度等は、予め試験施工を行い、試験施工結果に基づいた各種データを制御装置に格納しておき、格納されている各種データに基づいて制御装置により制御される。また、熟練の複数の左官職人による感覚的なノウハウに基づき、粘性材料の塗布量や均し部材を形成するコテの被塗布対象に対する角度や均し速度等を機械学習させることによりそれらの最適値を特定しておき、特定された各種の最適値を制御装置に格納しておき、この格納されている各種の最適値に基づいてノズル距離や粘性材料の吐出量等が制御されてもよい。
被塗布対象の凹凸に応じて、第一距離計により計測された第一距離は都度変化するが、このように変化する第一距離に応じて、少なくとも、ノズルから被塗布対象までのノズル距離と、粘性材料を吐出する際のノズルの移動速度と、ノズルから吐出される前記粘性材料の吐出量との調整が制御装置にて行われる。この際、制御装置には、上記する試験施工や機械学習による最適値として、例えば、厚みが◇cmの塗布層を形成する場合であってノズル距離が○cmの場合において、ノズルの移動速度は△cm/secであり、かつ粘性材料の吐出量は◎m/分とする等、相互に関連する基準データが一組もしくは複数組格納されている。尚、第一距離計の先端とノズルの先端との距離差が特定されており、第一距離計によって測定される第一距離とこの距離差により、第一距離からノズル距離が特定される。
【0017】
また、本発明による塗布層形成機の他の態様は、前記アームの移動速度に応じて前記均し部材による均し速度が調整され、
前記制御装置は、前記均し部材の角度の調整と前記均し速度の調整をさらに行うことを特徴とする。
本態様によれば、均し部材を形成する例えばコテの被塗布対象に対する角度や均し速度がさらに調整されることにより、より一層高い品質の塗布層を形成することができる。例えば、制御装置には、上記する厚みが◇cmの塗布層を形成するに当たり、ノズル距離が○cmの場合に、ノズルの移動速度等の他の基準データに加えて、被塗布対象に対する均し部材を形成するコテの角度を×度とし、均し速度を▽cm/secにする等、均し部材に関する基準データも他の基準データと相互に関連するようにして、これらの関連する基準データが一組もしくは複数組格納される。
【0018】
また、本発明による塗布層形成機の他の態様において、前記アームには、前記移動方向の下流側から順に、前記均し部材の後方に第二距離計、押さえ部材がさらに取り付けられており、
前記制御装置は、
前記第一距離に基づいて、前記均し部材により整形された前記塗布層の厚みを特定し、
前記第二距離計により計測された第二距離に基づいて、前記押さえ部材に対して前記塗布層の再整形を実行させることを特徴とする。
本態様によれば、均し部材により整形されてできる塗布層の厚みが所望の厚みに整形されているかを第二距離計により確認し、必要に応じて押さえ部材により塗布層の再整形を行うことにより、より一層高い品質の塗布層を形成することができる。
【0019】
また、本発明による塗布層形成機の他の態様において、前記アームは複数の多関節アームであり、
前記第一距離計、前記ノズル、前記均し部材、前記第二距離、前記押さえ部材が、それぞれに固有の前記アームに取り付けられていることを特徴とする。
本態様によれば、第一距離計、ノズル、均し部材、第二距離、押さえ部材が、それぞれに固有のアームに取り付けられていることにより、要素ごとに固有の移動や回動等の動きを制御し易くなる。尚、例えば、移動手段に回動自在に取り付けられているアームに対して、例えばトンネル断面の円弧に対応した弧状の共通軸部材が取り付けられ、この共通軸部材に対して複数のアームが間隔を置いて回動自在もしくは走行自在に取り付けられ、各アームの先端に第一距離計やノズル等が取り付けられている形態であってもよい。
【0020】
また、本発明による塗布層形成機の他の態様は、前記ノズルと前記均し部材が一体に形成され、該ノズルにおける前記移動方向の上流側の側面から該均し部材が該上流側に傾斜して延びていることを特徴とする。
本態様によれば、ノズルと均し部材が一体となることにより、ノズルと均し部材により構成された閉空間内の圧力が可及的に一定となり、被塗布対象に対する粘性材料の吐出と均し施工を連続的かつスムーズに行うことができる。
【0021】
また、本発明による塗布層形成機の他の態様において、前記第一距離計は、形成された前記塗布層の表面までの第三距離をさらに測定し、
前記制御装置は、前記第三距離に基づいて、少なくとも、前記吐出量と、前記ノズルの移動速度と、前記ノズルから前記塗布層の表面までのノズル距離と、の調整を行うことにより、別途の塗布層を形成し、積層構造の塗布層を形成することを特徴とする。
本態様によれば、複数回に亘って塗布層を積層するようにして形成する方法においても、第一距離計を用いて既に形成されている塗布層の表面までの第三距離を測定し、既述するように、ノズル距離やノズルの移動速度、粘性材料の吐出量等を制御装置により制御することにより、高い品質の積層構造の塗布層を形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から理解できるように、本発明の塗布層形成機によれば、型枠やスリップフォームを適用せずに被塗布対象に対して塗布層を形成することができる
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る塗布層形成機の一例を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る塗布層形成機により、トンネルに二次覆工を施工している状況を説明する説明図である。
図3】(a)、(b)はともに、ノズルの変形例を示す断面図である。
図4】他の実施形態のノズルを適用して粘性材料を吐出している状況を説明する説明図である。
図5】(a)、(b)ともに、施工された二次覆工の一例を示す縦断面図である。
図6】制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図7】制御装置の機能構成の一例を示す図である。
図8】実施形態に係る塗布層形成機による、トンネルに二次覆工を施工する際の動作フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態に係る塗布層形成機について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0025】
[実施形態]
<塗布層形成機の全体構成>
はじめに、図1及び図2を参照して、実施形態に係る塗布層形成機の一例の全体構成について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る塗布層形成機の一例を示す斜視図であり、図2は、実施形態に係る塗布層形成機により、トンネルに二次覆工を施工している状況を説明する説明図である。
【0026】
塗布層形成機100は、例えば、既設もしくは新設のトンネルに二次覆工等を施工する場合に適用される機器であり、既設のトンネルにおいては、劣化が激しい二次覆工箇所を撤去して補修する際に適用される。塗布層形成機100は、移動手段10と、移動手段10に対して伸縮自在でかつ回動自在に装着されているアーム20と、移動手段10に搭載されている制御装置80とを有する。
【0027】
移動手段10は、車輪にて走行するベースマシンであり、トンネルの長手方向にベースマシン10が順次移動しながら二次覆工を施工する。ベースマシン10には、アームが搭載されている。アーム20は、ベースマシン10に対してY1方向に回転自在に搭載されている回転テーブル21と、回転テーブル21に対してY2方向に回動自在に取り付けられている第一主アーム22と、第一主アーム22に対してY3方向に回動自在に取り付けられている第二主アーム23を有する。
【0028】
第二主アーム23は多段のアーム軸を有し、各アーム軸がY4方向に伸長及び短縮自在に構成されている。第二主アーム23の先端には、円弧状の共通軸部材24がY5方向に回動自在に取り付けられている。共通軸部材24の有する円弧は、例えば、施工対象のトンネル断面の周方向の円弧と相補的な形状であってもよい。また、共通軸部材24は、図示例の円弧状の形状以外にも、直線状の形状であってもよい。
【0029】
共通軸部材24には、五本の枝アーム25が相互に間隔を置いてそれぞれY6方向に回動自在に取り付けられている。塗布層を形成する際に、アーム20が移動する移動方向をX2方向とした場合に、共通軸部材24には、X2方向の下流側から順に、第一距離計30、ノズル40、均し部材50、第二距離計60、押さえ部材70が配設され、それぞれの機器は固有の枝アーム25の先端に取り付けられている。ここで、第一距離計30と第二距離計60は、いずれもレーザー距離計(3Dスキャナ)等により形成されている。
【0030】
枝アーム25は、共通軸部材24に対してY6方向に回動自在に取り付けられており、多段のアーム軸を有し、各アーム軸がY7方向に伸長及び短縮自在に構成されており、先端の回動軸を中心にY8方向に回動自在に各機器が取り付けられている。尚、均し部材50は、微妙な角度の調整を可能とするべく、Y8方向と直交する方向のY9方向にも回動自在となっている。
【0031】
このように、図示例のアーム20は、ベースマシン10に対して回動自在に取り付けられている第一主アーム22と、第一主アーム22に対して回動自在でかつ長さ変更自在に取り付けられている第二主アーム23と、第二主アーム23に対して回動自在に取り付けられている共通軸部材24に対して回動自在でかつ長さ変更自在に取り付けられている複数の枝アーム25とを有する、多関節アームの一種である。尚、図示例以外にも、例えば、回転テーブル21に対して五本の多関節アームが取り付けられ、各多関節アームの先端に第一距離計30やノズル40等が取り付けられている形態のアームであってもよい(図示せず)。
【0032】
共通軸部材24には、円弧状に沿う方向に延設する二つの走行レール24a,24bが取り付けられている。走行レール24aには、ノズル40を備えている枝アーム25がY6方向に回動自在であって、かつ走行レール24aに対してY10方向に走行自在に取り付けられている。一方、走行レール24bには、均し部材50を備えている枝アーム25がY6方向に回動自在であって、かつ走行レール24bに対してY11方向に走行自在に取り付けられている。
【0033】
このように、二つの走行レール24a,24bに対してノズル40と均し部材50が走行自在に取り付けられていることにより、塗布層を形成する際に、ノズル40の移動速度や均し部材50の移動速度を調整することが可能になる。尚、押さえ部材70等、他の機器に固有の走行レールがさらに設けられていて、他の機器も走行レールに沿って移動自在な構成であってもよい(図示せず)。
【0034】
ベースマシン10には、収容タンク91が搭載されており、収容タンク91には、粘性材料の一例であるセメント系材料(例えばコンクリート)が収容されている。セメント系材料には、例えば高粘性セメント系材料が適用でき、塗付け後も垂れが生じない(15打モルタルフロー110mm乃至200mm)のフレッシュ性状を有する材料(太平洋セメント社製の無機系プレミックス材料「デジミックス」)等を適用できる。また、剥落防止性能を付与するべく、セメント系材料に繊維を混入してもよく、塗付け後の垂れ防止性を付与するべく、増粘剤を添加してもよい。塗布層の形成の際には、ミキサー車(図示せず)から収容タンク91にセメント系材料が随時供給され、収容タンク91からホース92を介してノズル40にセメント系材料が提供され、セメント系材料がノズル40を介して被塗布対象であるトンネルの壁面に吐出されるようになっている。
【0035】
以下で詳説するように、第一距離計30による被塗布対象までの距離の計測や、ノズル40の角度調整及びノズル40の走行調整、ノズル40から吐出されるセメント系材料の吐出量の調整等は、制御装置80により制御される。
【0036】
図2に示すように、トンネルTを形成する地山Gの表面には、凹凸の深さや幅が様々に異なる様々な態様の凹凸があり、この凹凸に沿うようにして吹付けコンクリート層L1が施工されており、吹付けコンクリート層L1の表面には、地山Gの凹凸が反映されている。吹付けコンクリート層L1の表面には、その表面に存在する凹凸に沿うようにして防水層WPが施工されている。防水層WPは、防水シートにより形成される他、ポリウレアやポリウレタンといった有機溶剤系材料、EVA系樹脂粉末と水硬性粉末を混合したプレミックスタイプの材料を吹付ける吹付け防水層などもある。このように表面に凹凸のある防水層WPを被塗布対象とし、塗布層形成機100を使用してこの被塗布対象に対して塗布層を形成する。トンネルTの長手方向にベースマシン10を移動させて所定位置にて停止させ、アーム20を形成する共通軸部材24をトンネルTの周方向にX2方向に移動させながら塗布層が形成される。
【0037】
共通軸部材24には、X2方向の下流側から順に(X2方向の反対側に向かって)、第一距離計30、ノズル40、均し部材50、第二距離計60、及び押さえ部材70が配設されている。共通軸部材24を所定の遅速で周方向に移動させながら、まず、第一距離計30から防水層WPに対してX1方向にレーザーを照射し、反射波を受信して防水層WPまでの距離t1(第一距離の一例)を測定する。共通軸部材24の移動に応じて、随時測定された距離t1は制御装置80に送信され、格納される。
【0038】
形成される塗布層の設計厚みとなるように、防水層WP(の一般部)からノズル40の先端までの距離が所定の距離となるようにノズル40が位置決めされる。この際、制御装置80では、ノズル40の先端と第一距離計30の先端の距離差t2がそれぞれに固有の枝アーム25の長さにより特定され、距離t1と距離差t2の差分により、防水層WPにおいて第一距離計30にて測定されている箇所とノズル40の先端との距離t3(ノズル距離の一例)が特定される。この距離t3が上記するように所定の距離となるように、ノズル40の位置が制御装置80にて調整される。尚、防水層WPの表面には様々な凹凸が存在することから、共通軸部材24の移動に応じて、随時特定される距離t3は変化する。制御装置80は、このように随時変化する距離t3が上記する所定の距離となるように、ノズル40の位置を調整する。
【0039】
以下で記載するように、制御装置80には、設計厚みの塗布層を形成する場合において、所定のノズル距離t3が設定された際の、ノズル40の移動速度、ノズル40から吐出されるセメント系材料の単位時間当たりの吐出量等が相互に関連する基準データとして格納されている。上記する所定のノズル距離t3となるように枝アーム25が稼働してノズル40が位置決めされ、必要に応じて防水層WPに対するノズル30の角度も調整される。尚、図示例は、制御装置80により、共通軸部材24の移動に応じて、ノズル30の先端が常に防水層WPに正対するようにノズル30の角度調整が行われる。
【0040】
制御装置80により、ノズル30は、必要に応じてY10方向に所定の移動速度で移動しながら、所定の単位時間当たりの吐出量のセメント系材料Cを吐出するように制御される。防水層WPの表面に吐出されたセメント系材料に対して、ノズル30の下流側にある均し部材50により、設計厚みの塗布層が形成されるように整形が行われる。ここで、均し部材50はコテにより形成され、制御装置80により、防水層WP(もしくはトンネルTの接線方向)に対して所定の角度θとなるようにその傾きが調整される。そして、制御装置80により、均し部材50も必要に応じてY11方向に所定の移動速度で移動しながら、整形を行うように制御される。均し部材50が被塗布対象に対して角度θを持って移動しながらセメント系材料を押し込むことにより、セメント系材料を被塗布対象に付着させながら均質な厚さに均すことができる。
【0041】
均し部材50による整形により、一般には設計厚みの塗布層が形成されるが、例えば防水層WPの表面の凹凸の変化が激しい等の場合には、設計厚みの塗布層が形成されないこともあり得る。そこで、均し部材50の下流側にある第二距離計60から塗布層に対してX1方向にレーザーを照射し、反射波を受信して塗布層までの距離を測定する。
【0042】
制御装置80において、測定された距離に基づいて特定された塗布層の厚みが設計厚みであると判定された場合には、以後の押さえ部材70による再整形は行わない。一方、特定された塗布層の厚みが例えば設計厚みを超える厚みであると判定された場合には、防水層WPとの間の離間が設計厚みとなるように位置調整されている押さえ部材70により、塗布層の再整形を行うことにより、設計厚みの塗布層を形成する。ここで、押さえ部材70は、例えば無限軌道により形成される。
【0043】
図示例では、塗布層の設計厚みがt5であるのに対して、均し部材50にて整形されてできた塗布層の厚みがt4(>t5)であり、押さえ部材70による再整形により設計厚みt5の塗布層が形成されている。
【0044】
次に、以下、図3乃至図4を参照して、ノズルの変形例と他の実施形態について説明する。ここで、図3(a)、(b)はともに、ノズルの変形例を示す断面図であり、図4は、他の実施形態のノズルを適用して粘性材料を吐出している状況を説明する説明図である。
【0045】
図3に示すように、塗布層形成機100においては、多様な先端形状のノズルを適用することができる。図3(a)に示す変形例のノズル40Aは、その肉厚の先端において、肉厚の内側に向かって先鋭となるテーパー面41が形成されている。このように先端に先鋭のテーパー面41を有することにより、Z方向に吐出されるセメント系材料の材料切れが良好になる。
【0046】
一方、図3(b)に示す他の変形例のノズル40Bは、先端に蛇行ライン42を有しており、この蛇行ライン42により、セメント系材料も蛇行した態様で吐出される。例えば、複数の塗布層を積層して積層構造の塗布層を形成する際に、セメント系材料の表面が蛇行した態様でZ方向に吐出されることにより、積層する塗布層間の付着性が向上する。
【0047】
尚、図示を省略するが、一般には円形のノズル40の断面を楕円形とし、相対的に広幅のセメント系材料を吐出するようにしてもよい。
【0048】
また、図4に示す他の実施形態のノズル40Aは、ノズルと均し部材が一体とされた形態であり、ノズル40Cにおける移動方向であるX2方向の上流側(X2方向と反対側)の側面41から均し部材43が回動軸42を介して回動自在に上流側に傾斜して延びている。また、ノズル40Cの下流側の側面44の先端には、下流側にセメント系材料Cが漏れないように例えばゴム製の可撓性褄材が設けられている。ノズル40Aによれば、ノズルと均し部材が一体となることにより、ノズルと均し部材により構成された閉空間内の圧力が可及的に一定となり、被塗布対象WPに対するセメント系材料Cの吐出と整形を連続的かつスムーズに行うことができる。
【0049】
図5(a)、(b)はともに、塗布層形成機100にて施工された二次覆工の一例を示す縦断面図である。図5(a)は、表面に凹凸のある防水層WPに対して、内面が面一である、所定厚みの一層の二次覆工L2が形成される例である。一方、図5(b)は、表面に凹凸のある防水層WPに対して、一層目の二次覆工L3は凹凸が緩和されるようにして形成され、二層目の二次覆工L4は内面が面一となるように形成され、これら複数の二次覆工L3、L4の積層構造からなる所定厚みの二次覆工L5が形成される例である。
【0050】
図5(b)に示す積層構造の二次覆工L5を形成する場合は、図2を参照して説明した施工方法にて一層目の二次覆工L3を形成し、次いで、二次覆工L3の表面を被塗布対象として、同様の施工方法にて二層目の二次覆工L4を形成することにより、積層構造の二次覆工L5が形成される。
【0051】
このように、人力によらず、塗布層形成機100を使用してなる塗付け工法によれば、被塗布対象の断面形状に合わせてコンクリート等のセメント系材料をコテで均しながら直接塗り付け、所定厚みの塗布層を形成することにより、セントル等の大掛かりな型枠が不要となり、経済的に塗布層を施工することができる。また、断面形状に応じて多関節のアーム20を適宜動作させながらコンクリートの塗付けを行い、塗付け時にセメント系材料が剥落しない厚さである設計厚みにて塗布を行うことにより、施工時の反力を支持するためのスリップフォーム工法に適用されるガイドレール等が不要となり、経済的に塗布層を施工することができる。
【0052】
また、塗布層形成機100を使用してなる塗付け工法によれば、被塗布対象にセメント系材料を直接塗り付けて塗布層を施工することから、被塗布対象との間の隙間の発生を防止でき、被塗布対象と塗布層との密着性を確保できる。さらに、塗布層形成機100を使用してなる塗付け工法では、被塗布対象の表面凹凸を第一距離計30や第二距離計60にて随時計測し、得られたデータを制御装置80によりフィードバックしてノズル40の移動速度やセメント系材料の吐出量、均し部材50の移動速度や角度などを制御しながら塗付け作業が行われる。このように、被塗布対象の表面性状に応じて各機器を調整しながら塗布層を形成することから、品質に優れた塗布層を経済的に施工することができる。
【0053】
また、被塗布対象とセメント系材料の間における接着力を確保して剥落防止性を確保する観点では、例えば、被塗布対象の表面の凹凸を調整できる量のセメント系材料と、さらに10mm乃至50mm程度の設計厚みとなる量のセメント系材料をノズル40から吐出するとともに、被塗布対象とセメント系材料の間の接着力を確保するように均し部材50の角度や押さえ部材70の押さえ圧を調整しながら連続的に施工することができる。尚、積層構造の塗布層を施工する場合において、次層の塗付けまでの時間が空き打継ぎとなる場合には、積層間に接着材の塗布や目粗しなどを行うことにより、構造の一体化を図ることもできる。この際、高粘性セメント系材料のモルタルフローを110mm程度に調整することにより、材料が垂れずに接着力を確保して塗り付けることができ、コテによる均し施工を効率的に行うことが可能になる。
【0054】
また、塗布層形成機100を使用してなる塗付け工法によれば、被塗布対象にセメント系材料を直接塗り付けることから、粉塵やリバウンドは発生せず、労働環境の改善や施工効率と経済性の向上を図ることができる。
【0055】
<制御装置のハードウェア構成>
次に、図6を参照して、塗布層形成機100の備える制御装置80のハードウェア構成について説明する。ここで、図6は、制御装置80のハードウェア構成の一例を示す図である。図6に示すように、制御装置80は、CPU(Central Processing Unit)81、RAM(Random Access Memory)82、ROM(Read Only Memory)83、HDD(Hard Disc Drive)84、及びNVRAM(Non-Volatile RAM)85等を有する。尚、制御装置80の各部は、不図示のバスを介して相互に接続されている。
【0056】
ROM83には、各種のプログラムやプログラムによって利用されるデータ等が記憶されている。RAM82は、プログラムをロードするための記憶領域や、ロードされたプログラムのワーク領域として用いられる。CPU81は、RAM82にロードされたプログラムを処理することにより、各種の機能を実現する。HDD84には、プログラムやプログラムが利用する各種のデータ等が記憶される。NVRAM85には、各種の設定情報等が記憶される。
【0057】
制御装置80に対して、主アーム22,23、共通軸部材24、各機器に固有の枝アーム25、第一距離計30、ノズル40、均し部材50、第二距離計60、及び押さえ部材70が制御信号を送受信可能に接続されている。
【0058】
GPS95は、塗布層形成機100の位置情報(経度及び緯度)を測位する。また、通信インターフェイス96は、作業員や施工管理者の有する操作端末(図示せず)との間で無線通信を実行するためのハードウェアである。
【0059】
<制御装置の機能構成>
次に、図7を参照して、塗布層形成機100の備える制御装置80の機能構成について説明する。ここで、図7は、制御装置80の機能構成の一例を示す図である。図7に示すように、制御装置80は、測定データ入力部102、ノズル制御部104、均し部材制御部106、押さえ部材要否判定部108、押さえ部材制御部110、データ格納部112、機械学習部114、及び基準データ格納部116を有する。
【0060】
測定データ入力部102には、第一距離計30や第二距離計60により随時計測される被塗布対象までの距離データが入力され、データ格納部112に対して距離データを随時格納する。
【0061】
基準データ格納部116には、所定厚みの塗布層を形成するに当たり、所定のノズル距離の場合において、ノズル40の移動速度や被塗布対象に対するノズル40の角度、粘性材料の単位時間当たりの吐出量、均し部材40の被塗布対象に対する角度や均し速度に関する各基準データが、気温条件や湿度条件とともに相互に関連する態様で格納されている。この基準データの種類は、ある所定厚みの塗布層に対して、複数のノズル距離ごとに用意されているのがよく、さらに、異なる所定厚みの塗布層ごとに、固有の各基準データが用意され、基準データ格納部116に予め格納されているのがよい。
【0062】
この基準データは、各種の気温条件や湿度条件の下で、予め試験施工を行い、試験施工結果に基づいた各基準データを基準データ格納部116に格納してもよいし、図7に示す機械学習部114にて機械学習されて求められた各基準データを基準データ格納部116に格納してもよい。
【0063】
試験施工では、様々な検証が行われて各基準データが作成される。例えば、セメント系材料の吐出量やセメント系材料の粘性等の性状に応じて、均し部材50による最適な均し速度が設定される。例えば、セメント系材料の吐出量が多い(被塗布対象の表面の凹凸が大きい)場合やセメント系材料の粘性が大きい場合には、均し部材50による均し速度が速いと均し部材50に材料が付着して塗布層の表面が粗い仕上がりになるため、速度を所定の遅速に調整して丁寧に均すのがよく、この際の速度が特定される。
【0064】
また、被塗布対象の部位(壁面、天井面など)やセメント系材料のチクソトロピー性に応じて、施工面からの均し部材50の最適な高さを設定する。ここで、被塗布対象の部位が壁面(側面)よりも天井面(下向き面)の方が塗り付けたセメント系材料の剥離や剥落の可能性が高いため、塗布層の厚みが相対的に薄くなる。また、セメント系材料のチクソトロピー性が高いほど、塗布層の厚みを厚くすることができる。
【0065】
また、セメント系材料の吐出量やセメント系材料の粘性等の性状に応じて、均し部材50の角度を設定する。例えば、セメント系材料の吐出量が多い(被塗布対象の表面の凹凸が大きい)ほど、均し部材50の角度を小さくしてセメント系材料との接触面積を広くし、押さえながら均すことにより施工面に付着させる。また、セメント系材料の粘性が大きいほど、均し部材50の角度を大きくしてセメント系材料との接触面積を小さくし、均し部材50にセメント系材料が付着して表面を荒らさないように均すことができるため、これらの要素を勘案して最適な均し部材50の角度が設定される。
【0066】
また、塗布層の厚みや表面の軟度に応じて、押さえ部材70の押さえ圧を設定する。例えば、ショア硬度や押さえ部材の抵抗値から塗り付けた材料の表面の軟度を判定し、軟度が大きい(表面が軟らかい)場合には、押さえ部材70の押さえ圧が大きいとセメント系材料が拡がってしまい、均質な密度を保てずに品質が低下することから、これらの要素を勘案して押さえ部材70による押さえ圧が設定される。
【0067】
このように、様々な要素を勘案して、所定厚みの塗布層の形成に対して、ノズル40の移動速度や角度、ノズル40から吐出されるセメント系材料の吐出量等に関する一連の基準データが一組もしくは複数組特定され、基準データ格納部116に格納される。
【0068】
また、機械学習部114では、熟練の複数の左官職人による感覚的なノウハウに基づき、セメント系材料の吐出量や均し部材50の被塗布対象に対する角度や均し速度等を機械学習させることにより、所定厚みの塗布層の形成に対して一連の基準データが作成される。機械学習部114では、所定厚みの塗布層を形成するに当たり、熟練の複数の左官職人による感覚的な各種のノウハウ情報を機械学習させた関数等を作成する。ノウハウ情報を機械学習させた関数は、例えばニューラルネットワークを用いた教師付きの学習等、既存の技術を用いて作成することができるが、その作成手法は特に限定されない。機械学習部114において機械学習を繰り返すことにより、所定厚みの塗布層を形成する際の各基準データの精度が向上する。機械学習部114にて学習された学習データは、基準データ格納部116に格納される。
【0069】
ノズル制御部104は、基準データ格納部116に格納されている基準データに基づき、ノズル40の移動速度や被塗布対象に対する角度、さらには、セメント系材料の吐出量を制御する。
【0070】
均し部材制御部106は、基準データ格納部116に格納されている基準データに基づき、均し部材50の移動速度や被塗布対象に対する角度を制御する。
【0071】
押さえ部材要否判定部108は、押さえ部材70による塗布層の再整形の要否を判定する。均し部材50により整形された塗布層に対して第二距離計60からレーザーを照射して距離を測定し、特定された塗布層の厚みが設計厚みである場合には、以後の押さえ部材70による再整形は行わないが、特定された塗布層の厚みが例えば設計厚みを超える厚みの場合には、押さえ部材70による再整形を実行させる。
【0072】
押さえ部材制御部110は、押さえ部材要否判定部108において、押さえ部材70による再整形が必要と判定された際に塗布層の再整形を行うことにより、設計厚みの塗布層を形成する。
【0073】
<塗布層形成機による、トンネルに二次覆工を施工する際の動作フロー>
次に、図8を参照して、塗布層形成機100による、トンネルに二次覆工を施工する際の動作フローについて説明する。ここで、図8は、実施形態に係る塗布層形成機による、トンネルに二次覆工を施工する際の動作フローを示すフローチャートである。
【0074】
ステップS200において、基準データの作成を行う。基準データの作成は、試験施工により、もしくは、熟練の複数の左官職人による感覚的なノウハウに基づいた機械学習により作成される。
【0075】
ステップS202において、第一距離の計測を行う。第一距離t1の計測は、第一距離計30から被塗布対象に対してレーザーを照射し、反射波を受信することにより、第一距離t1を測定する。
【0076】
ステップS204において、ノズル距離の特定を行う。ノズル40の先端と第一距離計30の先端の距離差t2を特定し、第一距離t1と距離差t2の差分により、被塗布対象において第一距離計30にて測定されている箇所とノズル40の先端とのノズル距離t3を特定する。
【0077】
ステップS206において、ノズルからの粘性材料の吐出を行い、ステップS208において、均し部材による整形を行うことにより、被塗布対象に吐出された粘性材料を均し部材50により設計厚みとなるように整形して、塗布層を形成する。
【0078】
ステップS210において、第二距離の計測を行う。均し部材50により整形された塗布層に対して第二距離計60からレーザーを照射して、第二距離を測定する。
【0079】
ステップS212において、塗布層の厚みが設計厚みか否かの判定を行う。塗布層の厚みが設計厚みであると判定された場合は、塗布層の形成は終了し、以後、押さえ部材70による再整形は行わない。一方、塗布層の厚みが設計厚みでないと判定された場合であって、設計厚みより厚い場合は、ステップS214において、押さえ部材による再整形を行う。そして、再整形後、ステップS210において第二距離の計測を再度行い、ステップS212において、塗布層の厚みが設計厚みか否かの判定を再度行う。一方、塗布層の厚みが設計厚みでないと判定された場合であって、設計厚みより薄い場合は、ステップS204においてノズル距離の特定を再度行い、ステップS206においてノズルからの粘性材料の吐出を再度行う。
【0080】
尚、図5(b)に示すように積層構造の塗布層を形成する場合は、塗布層ごとに図8に示す動作フローを繰り返し実行する。
【0081】
このように、塗布層形成機100による、トンネルに二次覆工を施工する際の動作フローによれば、経済的で、かつ安定した品質の塗布層を形成することができる。
【0082】
以上、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0083】
10:移動手段(ベースマシン)、20:アーム、21:回転テーブル、22:第一主アーム(主アーム)、23:第二主アーム(主アーム)、24:共通軸部材、25:枝アーム、30:第一距離計、40,40A,40B,40C:ノズル、50:均し部材(コテ)、60:第二距離計、70:押さえ部材(無限軌道)、80:制御装置、91:収容タンク、92:ホース、100:塗布層形成機、G:地山、L1:吹付けコンクリート層(一次覆工)、WP:防水層(被塗布対象)、L2、L3,L4:二次覆工(塗布層)、L5:二次覆工(積層構造の塗布層)、C:粘性材料(コンクリート、セメント系材料)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8