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特許7179032作業者検知警報装置及び作業者検知警報発生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】作業者検知警報装置及び作業者検知警報発生方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20221118BHJP
【FI】
B66B5/00 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020032656
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134066
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠一朗
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隆行
(72)【発明者】
【氏名】森下 真年
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-237838(JP,A)
【文献】特開2012-041116(JP,A)
【文献】特開2012-051665(JP,A)
【文献】特開平11-199151(JP,A)
【文献】特開2016-055956(JP,A)
【文献】特開2016-222406(JP,A)
【文献】特開2013-220895(JP,A)
【文献】特開2018-145005(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03459894(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00 - 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの昇降路内を昇降する乗りかごまたは釣合い錘を検知して、前記乗りかごまたは釣合い錘のいずれかが作業者から所定の距離内に至った時、作業者と乗りかごまたは釣合い錘の位置関係に合わせて警報を発する作業者検知警報装置であって、
作業者の近傍にあって、作業者の位置を検知しない位置に配置され、前記昇降路内を移動する乗りかごまたは釣合い錘を検知する移動体検知センサと、
前記作業者の位置を検知する温度センサと、
前記移動体検知センサが検知した乗りかごまたは釣合い錘の検知信号から、少なくとも乗りかごまたは釣合い錘のそれぞれを検出する信号処理部と、
前記乗りかごまたは釣合い錘のいずれかが作業者に近づいたときに警報を発する警報部と、
前記信号処理部に接続され、前記乗りかごまたは釣合い錘の移動速度、移動方向及び前記移動体検知センサまでの距離を算出して、前記乗りかごまたは釣合い錘の移動速度を制御する制御部と
前記乗りかごまたは釣合い錘のいずれかが作業者に近づいたときに警報を発する警報部と、を備え、
前記警報部は、前記信号処理部からの検出信号と、前記乗りかごまたは釣合い錘の移動速度と移動方向に基づいて、昇降路内で作業している作業者を基準として、前記乗りかごまたは釣合い錘のいずれかと前記移動体検知センサとの距離が、所定値内の警報ゾーンに入ったときに、前記温度センサによって検知した作業者の位置に合わせて警報を発し、
前記制御部は、昇降路内で作業している作業者がいる場合に、エレベーターの移動速度がエレベーターの保守速度を超えたことが検出された場合には、前記エレベーターの運行を停止させる
作業者検知警報装置。
【請求項2】
前記警報部は、前記乗りかごまたは釣合い錘のいずれかと前記作業者との距離、及び前記乗りかごまたは釣合い錘のいずれかと前記温度センサで検知した前記作業者との位置関係により、発する警報音を変更する
請求項1に記載の作業者検知警報装置。
【請求項3】
エレベーターの昇降路内を昇降する乗りかごまたは釣合い錘を検出して、前記乗りかごまたは釣合い錘のそれぞれが作業者から所定の距離内に至った時、作業者の位置に合わせて警報を発する作業者検知警報発生方法であって、
作業者の近傍にあって、作業者の位置を検知しない位置に配置された移動体検知センサにより昇降路内を移動する乗りかごまたは釣合い錘を検知するステップと
温度センサからの検知信号に基づいて前記作業者の位置を検出するステップと、
移動体検知センサからの検知信号に基づいて、前乗りかごまたは釣合い錘の移動速度、移動方向及び位置を検出するステップと、
信号処理部に接続され、前記乗りかごまたは釣合い錘の移動速度、移動方向及び前記移動体検知センサまでの距離を算出して、前記乗りかごまたは釣合い錘の移動速度を、制御部により制御するステップと、
前記移動体検知センサで検知された前記乗りかごまたは釣合い錘のいずれかの位置と、前記温度センサによって検知された作業者の位置に合わせて警報部から警報を発するステップと、
昇降路内で作業している作業者がいる場合に、エレベーターの移動速度がエレベーターの保守速度を超えたことが検出された場合には、前記制御部により、前記エレベーターの運行を停止させるステップと、を含む
作業者検知警報発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者検知警報装置及び作業者検知警報発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターの保守点検を行う作業者を監視して作業者に危険を知らせる技術は、従来から知られている。例えば、エレベーターのピット内の作業者を検出するためにピット内に人検出センサを取り付けて作業者を自動的に検出し、乗りかごの運転を規制して、釣合い錘の下部などがピット内の作業者などに接触しないようにする技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、人検出センサによってピット内にいる作業者を自動的に検知し、作業者がピット内にいる場合には、乗りかごが最上階または最下階に行かないように、乗りかごの運転を規制するものである。例えば、乗りかごが最上階まで行き、釣合い錘がピット内に下降したときに、釣合い錘がピット内にいる作業者に接触することが起こり得る。特許文献1に記載の技術は、このような危険を防止するための技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-220895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術では、乗りかごや釣合い錘をゆっくり下降させるエレベーター制御を行うことでしか、ピット内にいる作業者に危険を知らせることができない。つまり、エレベーターの制御がなされていない時には、ピット内にいる作業者は、乗りかごや釣合い錘と接触する可能性がある。
【0006】
このように、特許文献1に記載の技術は、ピット内に作業者がいるかどうかは検知しているが、作業者の位置を正確に検知することはしていない。このため、作業者がピット内の乗りかごや釣合い錘の真下のような危険な位置で作業している場合には、乗りかごや釣合い錘が作業者に接触するおそれがあった。
【0007】
本発明は、上述した問題を踏まえ、作業者が安全に作業することが可能な作業者検知警報装置及び作業者検知警報発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、本発明は、エレベーターの昇降路内を昇降する乗りかごまたは釣合い錘を検知して、乗りかごまたは釣合い錘のいずれかが作業者から所定の距離内に至った時、作業者と乗りかごまたは釣合い錘の位置関係に合わせて警報を発する作業者検知警報装置である。
本発明の作業者検知警報装置は、作業者の近傍にあって、作業者の位置を検知しない位置に配置され、昇降路内を移動する乗りかごまたは釣合い錘を検知する移動体検知センサと、作業者の位置を検知する温度センサと、移動体検知センサが検知した乗りかごまたは釣合い錘の検知信号から、少なくとも乗りかごまたは釣合い錘のそれぞれを検出する信号処理部と、乗りかごまたは釣合い錘のいずれかが作業者に近づいたときに警報を発する警報部と、信号処理部に接続され、乗りかごまたは釣合い錘の移動速度、移動方向及び前記移動体検知センサまでの距離を算出して、乗りかごまたは釣合い錘の移動速度を制御する制御部と乗りかごまたは釣合い錘のいずれかが作業者に近づいたときに警報を発する警報部と、を備える。
そして、警報部は、信号処理部からの検出信号と、乗りかごまたは釣合い錘の移動速度と移動方向に基づいて、昇降路内で作業している作業者を基準として、乗りかごまたは釣合い錘のいずれかと移動体検知センサとの距離が、所定値内の警報ゾーンに入ったときに、前記温度センサによって検知した作業者の位置に合わせて警報を発し、制御部は、昇降路内で作業している作業者がいる場合に、エレベーターの移動速度がエレベーターの保守速度を超えたことが検出された場合には、エレベーターの運行を停止させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、昇降路内を移動する複数の移動体を同時に検出することで、それらの移動体の状況に合わせて作業者に対して警報を発するとともに、移動体の制御を行うので、作業者はより安全に作業を行うことができる。
また、ピット内にいる作業者の位置を正確に把握して、作業者が作業している場所によって警報パターンを変えることにより、ピット内の作業者の安全をより確実に担保することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態例に係る作業者検知警報装置の機能を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態例に係る作業者検知警報装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施の形態例に係る作業者検知警報装置が用いられるエレベーターの概略図である。
図4】本発明の実施の形態例に係る作業者検知警報装置において、ミリ波センサをバッファに取付けた例を示す図である。
図5】本発明の実施の形態例に係る作業者検知警報装置において、ミリ波センサをガイドレールに取付けた例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態例に係る作業者検知警報装置において、温度センサアレイをピット内に取付けた際の検知範囲を示す図である。
図7】本発明の実施の形態例に係る作業者検知警報装置において、移動体とミリ波センサとの距離に基づいて警報を発生する警報ゾーンと移動体を停止する制御ゾーンの関係を示す図である。
図8】本発明の実施の形態例に係る作業者検知警報装置における制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の作業者検知警報装置の全体構成の説明>
以下、本発明の作業者検知警報装置の実施形態例(以下、「本例」と称する)について、図1図8を参照して説明する。
本例の作業者検知警報装置100は、エレベーターの保守作業において、ミリ波センサによって移動体を検知するとともに、温度センサによって作業者の位置を検知し、両者の位置関係を基にして、作業者に警報を発することで作業者の安全を確保する技術である。
【0012】
図1は本例の作業者検知警報装置100の機能的な構成を示したブロック図である。図1に示すように、本例の作業者検知警報装置100は、ミリ波センサ101、信号処理部102、制御部103、警報部104、所定値書込み部105、移動体制御部107、外部接続部108、受信部110及び電源部109を備える。ミリ波センサ101は、移動体検知センサの一種であるが、移動体を検知することができるセンサであれば、必ずしもミリ波センサに限定されるものではない。
【0013】
さらに、本例の作業者検知警報装置100は、PCやスマートフォン等の端末装置106、アレイ状に形成された温度センサ112、及び送信部111を備える。
以下では、図1において、端末装置106、温度センサ112、送信部111を除いた一点鎖線で囲まれた機能ブロックの集合をエレベーター警報装置113として定義し、作業者検知警報装置100とは区別して説明する。
【0014】
ミリ波センサ101は、ミリ波の周波数帯を用いたドップラレーダーであり、乗りかご及び釣合い錘の判別の他に、乗りかごと釣合い錘の移動速度、移動方向、ミリ波センサ101からの距離を同時に検知することができる。信号処理部102はミリ波センサ101及び温度センサ112で検知される信号を処理し、これらの信号を制御部103及び警報部104に供給する。
【0015】
警報部104は、スピーカなどで構成され、作業者に対して危険を知らせる警報を発する。制御部103は、警報部104に接続されており、移動体と作業者の距離と位置関係に応じて、警報部104から異なる警報音が発せられるように警報部104を制御する。
【0016】
また、制御部103は、図3で後述するエレベーターの乗りかご301及び釣合い錘302の運行を制御する移動体制御部107に接続されている。移動体制御部107は、エレベーターの乗りかご301及び釣合い錘302とピット内の作業者314との位置関係に応じて、移動体の運行速度を制御する。さらに、移動体制御部107は、乗りかご301の安全回路装置(不図示)に接続するための外部接続部108に接続されている。
【0017】
また、制御部103は、所定値書込み部105に接続されている。そして、所定値書込み部105は、スマートフォンやPC等からなる端末装置106に接続されている。
端末装置106は、警報部104から発せられる複数の警報パターンや、乗りかご301及び釣合い錘302等の移動体の運行を制御するための所定値(図7図8で後述)を所定値書込み部105を介して制御部103に供給する。
【0018】
上述したように、本例の作業者検知警報装置100は、図3で示す乗りかご301及び釣合い重り302の複数の移動体を検知するミリ波センサ101の他に、ピット内で保守作業を行う作業者を検知するための温度センサ112を有している。温度センサ112は、アレイ構造になっており、温度センサ112で検知された検知信号は、送信部111を介して、エレベーター警報装置113の受信部110に無線または有線で送信される。なお、温度センサ112からの検出信号は、受信部110を通して信号処理部102に送られる。
【0019】
エレベーター警報装置113のミリ波センサ101が乗りかご301または釣合い錘302を検知すると、その検知信号は信号処理部102へ送られる。信号処理部102は、検知した乗りかご301または釣合い錘302について、その移動速度、移動方向及びミリ波センサ101との距離のデータを逐次作成する。また、温度センサ112が作業者を検知すると、その検知信号は送信部111によって、エレベーター警報装置113の受信部110を介して信号処理部102に送られる。
【0020】
ミリ波センサ101及び温度センサ112で検知され、信号処理部102で処理された検出信号は、制御部103と警報部104へ送られる。すなわち、制御部103には、ミリ波センサ101で検知された複数移動体の距離データと、温度センサ112で検知された作業者314の存在場所に関する情報が信号処理部102で処理された後に供給される。
さらに、上述したように、制御部103には、端末装置106から所定値書込み部105に書き込まれた、エレベーターの運行を制御するための所定値も供給されている。
【0021】
また、制御部103は、ミリ波センサ101の一番近いところにいる乗りかご301または釣合い錘302とミリ波センサ101との距離を、所定値書込み部105に書き込まれた所定値(閾値)と比較する。その結果、例えば、所定値書込み部105で書き込まれた所定値よりも、乗りかご301または釣合い錘302の距離が小さくなった場合には、制御部103は、作業者への警報を出すための指令を警報部104に送る。
【0022】
そして、制御部103は、作業者のいる位置と乗りかご301または釣合い錘302との距離に応じて警報部104に発生させる警報パターンを変化させる。つまり、制御部103は、ミリ波センサ101に一番近いところにいる移動体の距離が、第一の所定値以内(警報ゾーン)に入ると警報部104から警報音を発生させる。また、ミリ波センサ101に対して最も近いところにいる移動体の距離が、第一の所定値を超えてよりさらに近い第二の所定値以内(制御ゾーン)に入った場合には、制御部103は、移動体制御部107に移動体を停止させるための指令を送る。
【0023】
すると、移動体制御部107は、外部接続部108を介してエレベーターの安全回路装置を動作させてエレベーターを停止させ、これによって乗りかご301及び釣合い錘302からなる複数の移動体を停止させる。
【0024】
なお、乗りかご301または釣合い錘302と、ミリ波センサ101及び温度センサ112からの検知信号の関係の詳細は、図7及び図8で後述する。ここでは、警報部104から発せられる警報パターン(警報音の大小)は、ミリ波センサ101及び温度センサ112の両方で検知されたデータに基づいて決定される。
【0025】
<本例の作業者検知警報装置100のハードウェア構成>
図2は、図1に示した本例の作業者検知警報装置100の中の、特にエレベーター警報装置113のハードウェア構成を示す図である。
図2に示すように、エレベーター警報装置113は、バス200に接続されたCPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、不揮発性ストレージ204を備える。また、外部との通信を行うための通信インタフェース(通信部IF)205を備える。
【0026】
CPU201は、本例の作業者検知警報装置100の各部の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM202から読み出して実行する。RAM203には、本例の作業者検知警報装置100内で行われる演算処理の途中で発生した変数等が一時的に書き込まれる。CPU201がROM202に記録されているプログラムコードを実行することにより、上述した本例の作業者検知警報装置100の各種機能が実現される。
【0027】
通信インタフェース205としては、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられる。この通信インタフェース205は、図1の外部接続部108に対応する部分であり、外部機器との通信に用いられる。
【0028】
不揮発性ストレージ204は、SSD(Solid State Drive)等の不揮発性のメモリで構成され、不揮発性ストレージ204には、CPU201が動作するために必要なプログラムやデータ等が記憶される。
また、図2では、入力部206と出力部207が設けられている。入力部206には、図1に示される端末装置106からの信号が入力される所定値書込み部105が相当し、出力部207には、図1の警報部104が相当する。
【0029】
<本例の作業者検知警報装置100が用いられるエレベーターの構造>
図3は、本例の作業者検知警報装置100が適用されるエレベーターの構造を示す。本例の作業者検知警報装置100が適用されるエレベーターは、乗りかご301、釣合い錘302、巻上機303、かご下プーリ304、かご上プーリ306及び主ロープ307を備える。
【0030】
図3に示すように、主ロープ307は、その一端が、釣合い錘302側のロープソケット309で固定されている。そして、主ロープ307の他端は、釣合い錘302、頂部プーリ305、巻上機303を通り、さらに、かご上プーリ306とかご下プーリ304を通って、乗りかご301側のロープソケット310に固定されている。
【0031】
巻上機303は、主ロープ307を駆動することで、主ロープ307で連結された乗りかご301と釣合い錘302とを昇降路308内でつるべ式に昇降させる。そして、巻上機303の回転数を増減させることにより、乗りかご301の昇降速度が制御される。
【0032】
また、エレベーターの乗りかご301の昇降路には、バッファ315が設けられている。バッファ315は、例えば、主ロープ307が切れて乗りかご301が落下してしまった場合に、クッション代わりになるものであり、乗りかご301の底部中心部にくるように昇降路308の最下部に設置されている。
【0033】
エレベーターの乗りかご301と釣合い錘302は、昇降路308内に配置されている。そして、昇降路308内の乗りかご301の最下階よりさらに下方位置に、作業用のピットが存在している。図4に示す作業者314は、このピット内において、昇降路308内の乗りかご301を運行させる様々な機器の保守作業を行っている。
【0034】
[ミリ波センサ101の取り付け方法]
図4は、本例の作業者検知警報装置100のエレベーター警報装置113をバッファ315に取り付けた例を示している。エレベーター警報装置113の上部にはミリ波センサ101が取り付けられており、このミリ波センサ101から広範囲に広がって発せられる移動体検知ビームにより、上方にある乗りかご301と釣合い錘302の動きを検知することができる。
【0035】
さらに、エレベーター警報装置113は、その形状を筒型として長くすることで、作業者314の身長よりも、やや高めの位置にミリ波センサ101を取り付けることが好ましい。これによって、ミリ波センサ101は、作業者314の動きを検知することがないので、乗りかご301及び釣合い錘302等の移動体の誤検知を防止することができる。
なお、ミリ波センサ101を作業者314の頭部を超える高さに取り付けることで、乗りかご301または釣合い錘302等の移動体とミリ波センサ101との距離は、移動体と作業者314の距離と同程度の距離であると擬制して考えることができる。
【0036】
また、図5に示すように、本例に用いられるエレベーター警報装置113は、釣合い錘302の昇降を案内するガイドレール401や乗りかご301の昇降を案内するガイドレール401aに設置することもできる。この場合も、作業者314の身長よりも少し高い位置にミリ波センサ101を取り付けることで、作業者314の動きを移動体として検知するなどの誤検知を防止することができる。
【0037】
なお、ミリ波センサ101は、乗りかご301と釣合い錘302の双方とも分別して検出する必要があるが、これはミリ波センサ101が放射した電波の反射光の量によって識別することが可能である。つまり、乗りかご301と釣合い錘302がミリ波センサ101と同じ距離離れている場合でも、ミリ波センサ101から放射された電波の反射光の量が多い場合は移動体を乗りかご301として検出し、反射光の量が少ない場合には、移動体を釣合い錘302として検出する。このようにして、ミリ波センサ101は、乗りかご301と釣合い錘302を弁別して検出することができる。
【0038】
エレベーター警報装置113の制御部103は、ミリ波センサ101と乗りかご301またはミリ波センサ101と釣合い錘302との距離、移動方法、移動速度等のデータを用いて、乗りかご301または釣合い錘302と作業者314の距離を検出する。この検出では、乗りかご301または釣合い錘302のどちらが作業者314に近づいているか、そして作業者314からどれだけ離れた距離にいるかを正確に判断してエレベーターの運行が制御される。
【0039】
[温度センサ112の取り付け方法]
また、本例の作業者検知警報装置100では、図1に示すように、作業者314の位置を検知する方法として、アレイ状の温度センサ112が設けられている。
作業者314が昇降路308の最下部にあるピット内で作業している場合、上述したように、図4図5に示したミリ波センサ101では、作業者314の位置を検知することはできない。すなわち、ミリ波センサ101だけでは、ピット内に作業者314がいたとしてもこれを検知することができず、ピット内に作業者314がいないと判断されてしまうおそれがある。
【0040】
このため、本例の作業者検知警報装置100では、作業者314の存在場所を検知するために、ミリ波センサ101に加えて温度センサ112が設けられている。温度センサ112は、ピット内にいる作業者314の体温を検知できるので、作業者314の動きとは関係なしに、作業者314の存在位置を検知することができる。
したがって、温度センサ112を昇降路内に配置することにより、ピット内にいる作業者314を見逃すことがないので、作業者の検知精度が著しく向上する。
【0041】
そこで、温度センサ112の取り付け場所が重要になる。温度センサ112の取り付け場所としては、複数考えられる。例えば、一例として、アレイ形状をした温度センサ112をピット内の床面から約1mの昇降路の壁面あるいは壁面に取り付けた制御盤上に水平に取り付けることが考えられる。この場合、温度センサ112の検知方向は水平方向になるので、作業者314が立って作業している場合には検知しやすいが、作業者314が温度センサ112の近くで、坐って作業しているような場合には、検知されにくいという問題がある。
【0042】
そこで、温度センサ112の取り付け場所を昇降路内の壁面ではなく、バッファ315上に取り付けた、筒状に形成したエレベーター警報装置113の円周面に複数取り付けることも考えられる。このように円周面上の何か所かに複数の温度センサ112を取り付けることにより、ピット内の周辺をくまなく検知することが可能になる。したがって、作業者314が昇降路内の壁面に近い位置で作業していても、比較的容易に検知することが可能になる。
【0043】
また、温度センサ112は、ピット内の床面から約2mの昇降路の壁面に取り付けることも考えられる。その場合には、アレイ形状の温度センサ112が斜め下を向くように取付けられる。このように温度センサ112を取り付けることで、温度センサ112は高い位置からピット内全体を検知範囲とすることができるので、立居の作業者314だけでなく、坐位の作業者314ももれなく検知することが可能になる。
【0044】
しかしながら、いずれの取り付け方法であっても、温度センサ112により、ピット内にいる作業者314の体温が検知されることが重要であり、エレベーターのピット内の配置を考慮して、必要に応じてどの設置位置がよいかを決める必要がある。
【0045】
[温度センサ112の機能と動作]
次に、図6を参照して、ピット内に作業者314がいた時の作業者検知警報装置100の温度センサ112の機能とその動作について説明する。
図6の上図に示すように、エレベーターの昇降路内には、乗りかご301と釣合い錘302が配置されている。いうまでもなく、乗りかご301が下降(または上昇)するときには、釣合い錘302は上昇(または下降)する。図6では、温度センサ112が黒丸●で示されているが、温度センサ112は、通常、アレイ状になっていて、昇降路の壁面の床上1mの水平位置か、または床上2m付近の壁面に斜め下向きに取り付けられている。
【0046】
まず、図6の符号(a)~(d)は、作業者314の存在場所を示している。ピット内の符号(a)の位置は、釣合い錘302が下降する場所にいる作業者314の位置であり、符号(b)の位置は乗りかご301と釣合い錘302の間にいる作業者314の位置である。また、ピット内の符号(c)の位置は乗りかご301の下部の位置にいる作業者314の位置であり、符号(d)の位置は乗りかご301の下部から図6の少し下側の場所にいる作業者314の位置を示している。
【0047】
ここで、温度センサ112を昇降路の床上1mの壁面に水平に取り付けた場合について説明する。図6の下図の横軸の符号(a)~(d)は、図6の上図に示す符号(a)~(d)の位置にいる作業者314を温度センサ112から見たときの温度分布を表示するための欄を示している。すなわち、図6の上図の点線で囲まれる範囲(a)~(d)で検出される温度分布が下図の(a)~(d)の縦の欄で示される。すなわち、下図の縦軸は温度センサ112から作業者314までの距離を示している。
【0048】
図6の上図の符号(a)の位置は、温度センサ112からやや遠く離れた位置に作業者314がいる場合であり、図示されていないが、図6の下図では符号(a)の欄の上部分に作業者314が存在していることを示す温度反応が見られる。つまり、この場合には、作業者314は、温度センサ112から離れている釣合い錘302が下降する位置にいることが分かる。
【0049】
同様に、図6の上図の符号(b)~(d)の位置で作業者314が作業している場合には、図6の下図の符号(b)~(d)の欄で、作業者314がいる位置に温度反応の変化が検出され、これによって作業者314の存在場所を把握することができる。
【0050】
また、温度センサ112を昇降路の壁面の床上約2mの位置に斜め下向きに取り付けた場合には、温度センサ112は、床上約1mの位置に取り付けた場合に比べて、ピット内の全体を広範囲に検知することが可能になる。したがって、作業者314が坐位で作業している場合でも、もれなく作業者314の検知が可能になる。
【0051】
温度センサ112をピット内床上約2mの位置に取り付けた場合でも、作業者314が図6の上図の符号(a)の位置にいる場合には、図6の下図の符号(a)部分の右上に温度変化の反応が見られ、この温度反応より作業者314が釣合い錘302の下部にいることが分かる。
作業者314が図6の上図のピット内の(b)~(d)の位置にいる場合も、同様に下図符号(b)~(d)の部分に温度反応が見られるので、作業者314の位置を判別することが可能になる。
【0052】
なお、上述した例では、温度センサ112を昇降路内の床面から約1mまたは約2mの位置の壁面に取り付ける例を説明したが、温度センサ112は、昇降路のピット内であれば、必ず壁面に取り付けなければならないわけではない。例えば、既に説明したように、図4及び図5に示すエレベーター警報装置113の周面に取り付けることもできる。この場合には、筒状のエレベーター警報装置113の複数個所に温度センサ112を取り付けることになるので、複数の温度センサ112の検知データを総合して作業者314の存在場所を検出する必要がある。
【0053】
<本例の作業者検知警報装置100の制御手順の説明>
次に、図7図8を参照して、乗りかご301または釣合い錘302(以下、「移動体」という)が下降してきた時の作業者検知警報装置100の制御手順について説明する。
図8に示すように、処理を開始すると、作業者検知警報装置100の温度センサ112により作業者314の位置が検知される(S10)。
【0054】
次に、移動体が作業者314に向けて下降してきたとき、バッファ315に設置したエレベーター警報装置113のミリ波センサ101は、下降してくる移動体を検知する(S11)。このステップS11の検知処理では、下降する移動体だけでなく上昇する移動体を含む複数の移動体の移動方向、移動速度及び作業者314との距離が計算される。
【0055】
ここでは、移動体を乗りかご301として、ステップS11で下降してくる乗りかご301を検知する例を挙げて説明する。まず、ステップS11で検知した乗りかご301の移動速度が、エレベーターの保守速度よりも遅いか否かの判定を行う(S12)。ここで、保守速度とは、作業者314が、ピット内あるいは他の場所で保守作業を行っている場合のエレベーターの移動速度であり、通常運転の速度と比べて低速となる速度をいう。
【0056】
仮に、ステップS12で、乗りかご301がエレベーターの保守速度以上の速度で動いていると判定された場合(S12のNO)には、制御部103は、作業者314が危険な状態に置かれていると判断し、まず、大きな警報音を発して作業者314に知らせる。そして、作業者314の安全確保のために直ちに乗りかご301を停止させる処理を行い(S13:停止処理)、処理を終了する。
【0057】
ステップS13で、乗りかご301の速度がエレベーターの保守速度よりも遅い速度で運行されていると判断されれば(S12のYES)、作業者検知警報装置100の制御部103は、エレベーターを停止させる必要はないと判断し、乗りかご301とミリ波センサ101との距離が予め設定した所定値(規定値)内か否かを判定する(S14:距離判定処理)。
【0058】
ステップS14の距離判定処理では、制御部103は、ミリ波センサ101を基準にして、ミリ波センサ101と乗りかご301との距離がどのくらいであるかを判定する。ステップS14で、ミリ波センサ101と乗りかご301との距離が所定値内であると判定された場合(S14のYES)、すなわち乗りかご301が、図7に示す警報ゾーン713の中に入っていると判定された場合には、制御部103は、続いて作業者314が降下してくる乗りかご301の下にいるか否かを判定する(S15)。
【0059】
ステップS14で、ミリ波センサ101と乗りかご301との距離が所定値(規定値)を超えていると判定された場合、つまり図7の警報ゾーン713に入っていないと判定された場合には、乗りかご301が警報ゾーン713に入る所定値(規定値)内になるまで待機する。
【0060】
ステップS14で、ミリ波センサ101により乗りかご301が、図7に示す規定値内(警報ゾーン713)に入り、かつステップS15で、作業者314が降下してくる乗りかご301の下にいると判定された場合(S15のYES)には、制御部103は警報部104から大きな警告音を発生させる(S16)。すなわち、制御部103は、作業者314に対して乗りかご301が下降していることを大きな警報音で知らせるように指示する。
【0061】
一方、ステップS15で、作業者314が降下してくる乗りかご301の下にいないと判定した場合(S15のNO)には、制御部103は、警報部104から小さな警報音を発生させる(S19)。すなわち、ステップS15のNO判定の場合には、制御部103は、作業者314に危険が迫っていることを告げる大きな警報音ではなく、単に乗りかご301が下降していることを作業者314に告げるための小さな警報音を警報部104に発生させるようにする。
【0062】
次に、ステップS16及びステップS19で警報音を発生させた後に、制御部103は、ミリ波センサ101と乗りかご301との距離が図7の制御ゾーン714に侵入しているか否かの判定を行う(S17)。そして、ステップS17で、ミリ波センサ101と乗りかご301との距離が制御ゾーン714に入っていると判定した場合(S17のYES)には、制御部103は移動体制御部107に対して乗りかご301の停止処理を指示し、乗りかご301を停止させて(S18)、処理を終了する。
なお、ステップS17で、ミリ波センサ101と乗りかご301との距離が制御ゾーン714に入っていないと判定された場合(S17のNO)には、ステップS14の処理に戻る。
【0063】
以上の説明では、複数の移動体の一つである乗りかご301が作業者314がいるピットに向けて下降してくる例を挙げて、図8のフローチャートの説明をした。乗りかご301と釣合い錘302は、つるべ式に移動するので、乗りかご301が上昇しているときは、釣合い錘302が下降する。したがって、図8のフローチャートで乗りかご301について説明したことは、釣合い錘302が下降する場合でも、同様に適用することができる。
【0064】
以上、本発明の一実施の形態例としての作業者検知警報装置100の構成と動作を説明したが、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形態様が含まれる。また、前述した実施の形態例は、本発明を分かりやすく説明するためのものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではなく、適宜、その他の構成にも応用できる。
【0065】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0066】
100…作業者検知警報装置、101…ミリ波センサ、102…信号処理部、103…制御部、104…警報部、105…所定値書込み部、106…PC、スマートフォン、107…移動体制御部、108…外部接続部、109…電源部、110…受信部、111…送信部、112…温度センサ、113…エレベーター警報装置
301…乗りかご、302…釣合い錘、303…巻上機、304…かご下プーリ、305…頂部プーリ、306…かご上プーリ、307…主ロープ、308…昇降路、309…釣合い錘側ロープソケット、310…かご側ロープソケット、314…作業者、315…バッファ、401、401a…ガイドレール
図1
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図4
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図8