(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】運搬車両及び運搬システム
(51)【国際特許分類】
B60W 50/02 20120101AFI20221118BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20221118BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20221118BHJP
【FI】
B60W50/02
G05D1/02 P
G05D1/02 L
B60W50/14
(21)【出願番号】P 2021068382
(22)【出願日】2021-04-14
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】金井 政樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 克明
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/068249(WO,A1)
【文献】特開2020-107021(JP,A)
【文献】特開2021-015340(JP,A)
【文献】特開2019-160086(JP,A)
【文献】特開2019-219291(JP,A)
【文献】特開2018-072288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、障害物までの距離を測定する距離計と、前記車体の位置データを取得する位置センサと、前記位置センサの出力に基づき前記車体を制御する車載コントローラと、前記車体を管制する管制コントローラと通信する通信装置とを備えた運搬車両において、
前記車載コントローラは、
前記距離計の出力に基づき前記距離計の対物面の汚れが推定される汚れ推定状態であるか否かの一次判定を実行し、
前記一次判定で前記汚れ推定状態であると判定した場合、前記車体に指令して前記車体を現在位置で停車させ、
前記一次判定を実行してから設定時間の経過後、前記距離計の出力に基づき前記汚れ推定状態であるか否かの二次判定を
前記現在位置で停車した状態で実行し、
前記二次判定で前記汚れ推定状態であると判定した場合、前記管制コントローラに前記通信装置を介してアラームを送信し、
前記二次判定で前記汚れ推定状態が解消されていると判定した場合、前記車体に指令して前記車体の走行を再開させる
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項2】
請求項1に記載の運搬車両において、
前記車載コントローラは、前記一次判定で前記汚れ推定状態であると判定した場合でも、前記車体の放土動作を停止させずに許容する
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項3】
請求項1に記載の運搬車両において、
前記車載コントローラは、
前記車体の走行経路に沿って設定した複数のエリアとこれらエリア毎に対応する設定時間を記憶したメモリを備えており、
前記車体の位置データに基づき前記車体が現在位置するエリアを判定し、
前記車体が現在位置するエリアに対応した前記設定時間を演算する
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項4】
請求項3に記載の運搬車両において、
前記複数のエリアには、塵埃発生エリアと、前記塵埃発生エリアを除くその他エリアとが含まれており、
前記塵埃発生エリアの設定時間は、前記その他エリアの設定時間に比べて長く設定されている
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項5】
請求項4に記載の運搬車両において、
前記塵埃発生エリアは、位置が固定された固定エリアである
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項6】
請求項5に記載の運搬車両において、
前記塵埃発生エリアは、積込エリア、放土エリア、又は交差点エリアである
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項7】
請求項4に記載の運搬車両において、
前記塵埃発生エリアの設定時間は、前記塵埃発生エリアに配置された機械の作業状態に応じて異なっており、
前記車載コントローラは、前記塵埃発生エリアで稼働する機械の作業状態について前記通信装置を介して前記管制コントローラ又は前記機械からデータを受信し、前記機械の作業状態に応じて前記塵埃発生エリアの設定時間を演算する
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項8】
請求項4に記載の運搬車両において、
前記塵埃発生エリアは、登録された機械からの距離が設定距離以下のエリアである
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項9】
請求項4に記載の運搬車両において、
前記塵埃発生エリアは、位置が移動する移動エリアである
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項10】
請求項9に記載の運搬車両において、
前記移動エリアは、他の運搬車両の過去所定時間の軌道から設定距離以内のエリアである
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項11】
請求項10に記載の運搬車両において、
前記車載コントローラは、前記他の運搬車両の走行速度が速いほど長く、前記他の運搬車両が通過してからの経過時間が長いほど短くなるように、前記設定時間を演算する
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項12】
車体と、障害物までの距離を測定する距離計と、前記車体の位置データを取得する位置センサと、前記位置センサの出力に基づき前記車体を制御する車載コントローラと、前記車体を管制する管制コントローラと通信する第1通信装置とを備えた運搬車両と、
前記車載コントローラと通信する第2通信装置を備えた前記管制コントローラと
を備えた運搬システムにおいて、
前記車載コントローラは、
前記距離計の出力に基づき前記距離計の対物面の汚れが推定される汚れ推定状態であるか否かの一次判定を実行し、
前記一次判定で前記汚れ推定状態であると判定した場合、前記車体に指令して前記車体を現在位置で停車させ、
前記汚れ推定状態であるか否かの二次判定と前記一次判定との時間差である設定時間を、前記第1通信装置を介して前記管制コントローラから受信し、
前記一次判定を実行してから前記設定時間の経過時、前記距離計の出力に基づき前記二次判定を実行し、
前記二次判定で前記汚れ推定状態であると判定した場合、前記第1通信装置を介して前記管制コントローラにアラームを送信し、
前記二次判定で前記汚れ推定状態が解消されていると判定した場合、前記車体に指令して前記車体の走行を再開させ、
前記管制コントローラは、
前記車体の走行経路に沿って設定した複数のエリアとこれらエリア毎に設定した設定時間を記憶したメモリを備えており、
前記車体の位置データに基づき前記車体が現在位置するエリアを判定し、
前記車体が現在位置するエリアに対応した前記設定時間を演算し、
前記第2通信装置を介し、前記車載コントローラに前記設定時間を送信する
ことを特徴とする運搬システム。
【請求項13】
請求項12に記載の運搬システムにおいて、
前記管制コントローラは、
前記車載コントローラからのアラームに応じる場合に操作する第1ボタン、及び前記アラームを保留する場合に操作する第2ボタンを含むアラーム画面をモニタに表示し、
前記第2ボタンが操作された場合、前記アラーム画面を閉じ、
予め設定された保留時間の間、前記汚れ推定状態が継続しているかを判定し、
前記保留時間が経過しても前記汚れ推定状態が継続している場合、前記アラーム画面を前記モニタに再表示し、
前記保留時間の間に、前記汚れ推定状態が解消した場合は、前記アラーム画面の再表示の処理をキャンセルする
ことを特徴とする運搬システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱山等で自律して走行や放土等の動作を行う運搬車両及び運搬システムに関する。
【背景技術】
【0002】
LiDAR(Light Detection And Ranging)等の障害物までの距離を測定する距離計が搭載されたダンプトラック等の運搬車両には、距離計の対物面の汚れを検知するシステムが搭載される場合がある(特許文献1,2等)。
【0003】
近年、鉱山等では無人で自律動作する運搬車両が活躍している。このような無人の運搬車両では、距離計の対物面の汚れが推定される場合、障害物までの距離が正しく測定されないことから動作を停止すると共に管制局の端末にメンテナンスを要求するアラームを通知する処理が実行される場合がある。距離計の対物面が汚れている場合、正常な測距機能を復元するために人間による距離計の清掃作業が必要となる。アラームの通知があった場合、停車した対象の運搬車両のところまで乗用車等で作業員が出動し、汚れ状況の目視確認により距離計の清掃の要否を作業員が判断する。距離計の清掃を要すると判断した場合、作業員は運搬車両に搭乗し、運搬車両をマニュアル運転して車列から離脱させる。そして、所定のメンテナンスエリアで距離計を清掃した後、運搬車両を車列に戻して自律動作を再開させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-3541号公報
【文献】特許第6684244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、距離計の対物面の汚れを検知するシステムにおいては、浮遊する土埃等が検知されて距離計の対物面が汚れていると判定され、管制局にアラームが通知される場合がある。このような誤検知に起因するアラームは、必要以上に作業員の出動を強いて運搬車両の停止時間を長くし、運搬車両の稼働率を低下させる。特に鉱山では一般に多数の無人運搬車両が車列を組んで自律動作するため、一台の運搬車両が停車すれば他の運搬車両も止まってしまい、作業現場全体の生産性を低下させる。
【0006】
本発明の目的は、距離計の汚れの誤検知による稼働率の低下を抑制することができる運搬車両及び運搬システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、車体と、障害物までの距離を測定する距離計と、前記車体の位置データを取得する位置センサと、前記位置センサの出力に基づき前記車体を制御する車載コントローラと、前記車体を管制する管制コントローラと通信する通信装置とを備えた運搬車両において、前記車載コントローラは、前記距離計の出力に基づき前記距離計の対物面の汚れが推定される汚れ推定状態であるか否かの一次判定を実行し、前記一次判定で前記汚れ推定状態であると判定した場合、前記車体に指令して前記車体を現在位置で停車させ、前記一次判定を実行してから設定時間の経過後、前記距離計の出力に基づき前記汚れ推定状態であるか否かの二次判定を前記現在位置で停車した状態で実行し、前記二次判定で前記汚れ推定状態であると判定した場合、前記管制コントローラに前記通信装置を介してアラームを送信し、前記二次判定で前記汚れ推定状態が解消されていると判定した場合、前記車体に指令して前記車体の走行を再開させる運搬車両を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、距離計の汚れの誤検知による運搬車両の稼働率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る運搬システムの模式図
【
図2】本発明の第1実施形態に係る運搬システムの機能ブロック図
【
図3】本発明の第1実施形態に係る運搬システムに属するダンプトラックの外観を模式的に表す斜視図
【
図5】配車管理データのデータテーブルの例を表す図
【
図6】交通管制データのデータテーブルの例を表す図
【
図7】距離計監視機能の処理手順を表すフローチャート
【
図8】アラーム機能の処理手順を表すフローチャート
【
図9】本発明の第1実施形態における設定時間演算機能の処理手順を表すフローチャート
【
図10】本発明の第1実施形態における設定時間のデータテーブルの例を表す図
【
図11】車体制御機能の処理手順を表すフローチャート
【
図12】管制コントローラによりモニタに表示されるアラーム画面の例を表す図
【
図13】車載コントローラからアラームが通知された場合の管制コントローラの処理手順を表すフローチャート
【
図14】積込エリアで距離計の汚れを誤検知する状況の説明図
【
図15】交差点エリアで距離計の汚れを誤検知する状況の説明図
【
図16】本発明の第2実施形態における設定時間のデータテーブルの例を表す図
【
図17】本発明の第2実施形態における設定時間演算機能の処理手順を表すフローチャート
【
図18】本発明の第3実施形態における塵埃発生エリアの概念図
【
図19】本発明の第4実施形態における塵埃発生エリアの概念図の一例
【
図20】本発明の第4実施形態における塵埃発生エリアの概念図の一他の例
【
図21】本発明の第4実施形態における設定時間演算機能の処理手順を表すフローチャート
【
図22】本発明の第5実施形態に係る運搬システムの機能ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
<第1実施形態>
-運搬システム
図1は本発明の第1実施形態に係る運搬システムの模式図である。同図に示した運搬システム1は、例えば露天掘り鉱山の作業現場における土砂や鉱石等(以下、土砂と略記する)の運搬に用いられるシステムである。この運搬システム1は、少なくとも1台の油圧ショベル10と、少なくとも1台のダンプトラック20と、管制コントローラ30とを含んで構成されている。
【0012】
油圧ショベル10は、積込機械の例であり、作業現場内の所定の積込エリアで土砂の掘削及びダンプトラック20への積込の作業をする。ダンプトラック20は、運搬車両の例であり、油圧ショベル10により積み込まれた土砂を積載し、走行経路60を走行して搬送し所定の放土エリアに放土する。
図1には図示していないが、積込エリアや放土エリアにはブルドーザが配置され、油圧ショベル10による掘削作業やダンプトラック20による放土作業をした場所がブルドーザにより整地される。
【0013】
油圧ショベル10、ダンプトラック20及び管制コントローラ30は、無線通信回線40によって双方向に通信可能に接続されている。同図の例では作業現場内に少なくとも1つの無線基地局41が設置されており、油圧ショベル10、ダンプトラック20及び管制コントローラ30は、無線基地局41を介して互いにデータを送受信する。
【0014】
本実施形態では、管制コントローラ30による交通管制方式として、いわゆる走行許可区間制御方式が用いられている。走行許可区間制御方式とは、地図データ上でノードにより分割された走行経路60の各区間の走行許可を複数のダンプトラック20に同時に与えない制御方式である。この制御方式の下では、各区間の走行許可は、常に最大1台のダンプトラック20に排他的に与えられる。例えば、管制コントローラ30は、区間aを走行中のダンプトラックAから次の区間bの走行許可が要求された際、区間bの走行許可が他のダンプトラックBに与えてある間、ダンプトラックAには区間bの走行許可を与えない。また、区間bが進入禁止区間に設定されている場合も、管制コントローラ30は、ダンプトラックAからの区間bの走行許可の要求に応じず、ダンプトラックAに区間aの走行を許可しない。従って、ダンプトラックAは、自律動作により現在走行許可が与えられている区間aの終端で一旦停車し、次の区間bの走行許可が与えられるまで待機する。
【0015】
図2は運搬システム1の機能ブロック図である。同図において、油圧ショベル10及びダンプトラック20を1台ずつ示してあるが、それぞれ複数台がシステムに含まれる場合でも各油圧ショベル10及び各ダンプトラック20は同様の構成である。
【0016】
次に、油圧ショベル10、ダンプトラック20、管制コントローラ30について順次説明する。
【0017】
-油圧ショベル-
油圧ショベル10は、ブーム及びアームを含んで構成された多関節構造の作業腕にバケットを装着したフロント作業機を含んで構成されている。この油圧ショベル10は、車載コントローラ11、位置センサ12、及び通信装置13を含んで構成されている。
【0018】
位置センサ12は、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)の受信機であり、人工衛星ST(
図1)から受信したアンテナ位置のデータを車載コントローラ11に出力する。
【0019】
通信装置13は、無線通信回線40に接続する無線装置である。この通信装置13は、無線通信回線40を介してダンプトラック20及び管制コントローラ30との間でデータの送受信を行う。
【0020】
車載コントローラ11は、CPU等の演算装置、RAMやROM等のメモリを含んで構成されたコンピュータであり、メモリに記憶されたプログラムをCPUで実行して油圧ショベル10の動作を制御する。この車載コントローラ11には、データ管理機能F0が備わっている。データ管理機能F0には、位置センサ12の受信データに基づき油圧ショベル10(自機)の位置データを随時演算し、通信装置13を介して油圧ショベル10の位置データをリアルタイムに又は所定の時間間隔で管制コントローラ30に送信する機能が含まれる。
【0021】
データ管理機能F0で演算される油圧ショベル10の位置データは、位置センサ12からリアルタイムに入力されるアンテナ位置を基に演算される地球座標系(独自に規定した座標系でも良い)の位置データである。この位置データは、油圧ショベル10の基準点(例えば車体重心)の位置データであり、アンテナ位置以外を基準点に設定する場合でも、アンテナ位置と機体寸法の既知のデータから算出できる。この場合、油圧ショベル10の方位データについては、
図3に示したダンプトラック20のように2本のGNSS用のアンテナの位置データから求めることができる。
【0022】
-ダンプトラック-
図3はダンプトラック20の外観を模式的に表す斜視図である。ダンプトラック20は、車体21、距離計22、位置センサ23、車載コントローラ24(
図2)、通信装置25(
図2)を含んで構成されている。
【0023】
車体21は、左右の前輪及び左右の後輪を有するシャシ21a、シャシ21aの前部に搭載された運転室21b、シャシ21aの後部に搭載されたベッセル(荷台)21cを含んで構成されている。ダンプトラック20は、ベッセル21cに土砂等の積荷を積載してシャシ21aにより走行し、ベッセル21cを後方に下り傾斜に立ち上げることで積荷を排出(放土)することができる。ダンプトラック20は無人車であり、管制コントローラ30から入力されるデータと位置センサ23で取得される位置データとに基づいて、車載コントローラ24により制御されて自律動作する。但し、運転室21bに作業者が搭乗してマニュアル運転することも可能である。車体21の速度(車速)は、速度センサ26で計測されて車載コントローラ24に出力される。
【0024】
距離計22は、車体21の前方に位置する障害物までの距離を測定するセンサである。本実施形態では、レーザー光を用いて障害物までの距離を計測する3D-LiDAR(Light Detection and Ranging)を距離計22として備える。但し、2D-LiDARやステレオカメラ、ミリ波レーダ、レーザーレーダ、超音波センサ、単眼カメラ等も距離計22として採用できる。距離計22は、地表面の障害物が感度良く検出できるように車体21の前部における比較的低位置に配置されており、
図3に例示した構成では前輪の最高部よりも低い位置に配置されている。
【0025】
位置センサ23は、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)の受信機である。この位置センサ23は、人工衛星ST(
図1)から受信したダンプトラック20(ダンプトラック20に設けたアンテナ23a)の位置データを車載コントローラ24にリアルタイムに出力する。
【0026】
通信装置25は、無線通信回線40(
図1)に接続する無線装置である。この通信装置13は、無線通信回線40を介してダンプトラック20の車載コントローラ11や管制コントローラ30等の車外コントローラとの間でデータの送受信を行う。
【0027】
-ダンプトラックの車載コントローラ-
車載コントローラ24(
図2)は、CPU(演算装置)24a、例えばRAMやROMといったメモリ24bを含んで構成されたコンピュータであり、メモリ24bに記憶されたプログラムをCPU24aで実行してダンプトラック20の動作を制御する。
【0028】
メモリ24bには、OS(Operating System)や各種の制御プログラム、各種データが格納されている。また、メモリ24bには、位置センサ23、距離計22及び速度センサ26の出力(必要に応じてAD変換された値)や、通信装置25を介して管制コントローラ30から入力されたデータが記憶される。その他、作業現場の各地点を座標で表した地図データMも、メモリ24bに予め記憶されている。
【0029】
CPU24aは、ダンプトラック20を自律動作させる機能をメモリ24bに格納されたプログラムに従って実行する。具体的には、位置センサ23の出力に基づき、走行が許可された区間を逸脱しないように車体21を制御する機能や、位置センサ23で検出された障害物に干渉しないように車体21を走行又は停車させる機能が、CPU24aにより実行される。
【0030】
その他、詳細は後で説明するが、CPU24aは、メモリ24bに格納されたプログラムに従い、距離計22の対物面の汚れを判定し、清掃が必要な状態である場合、清掃を要求するアラームを管制コントローラ30に通知する機能を実行する。距離計22の対物面とは、障害物までの距離を測定するための検査波が出入りする距離計22の最も外側の面である。例えばLiDARの場合、レーザー光が出入りする最前のガラス板の外表面である。
【0031】
距離計22の清掃を要求するアラームを出力する過程で、本実施形態では、距離計22の対物面の汚れが推定されると、これを暫定的な一次判定として車体21を現在位置で停車させるが、この時点ではアラームの送信を保留する。汚れ推定状態とされた一次判定から設定時間後に距離計22の汚れについて二次判定がされ、二次判定でも距離計22の対物面の汚れが推定されて距離計22が現実に汚れていると推定される場合、この段階で初めて管制コントローラ30にアラームが通知される。汚れ推定状態であるとの一次判定がされても、二次判定時に汚れ推定状態が解消されていれば、自律動作が許可されて車体21の走行が再開される。
【0032】
なお、
図2では図示省略されているが、CPU24aにより、位置センサ23からの入力データに基づきダンプトラック20(自車両)の基準点(例えば機体重心)の位置データをリアルタイムに演算する機能が備わっている。演算した基準点の位置データは、通信装置25を介して管制コントローラ30にリアルタイムに送信される。車載コントローラ24で演算される油圧ショベル10の基準点の位置データは、地球座標系(独自に規定した座標系でも良い)の位置データである。アンテナ位置以外を基準点に設定する場合でも、アンテナ位置と車体寸法の既知のデータから算出できる。この場合、ダンプトラック20の方位データについては、
図3に示した2本のGNSS用のアンテナ23aの位置データから求めることができる。
【0033】
-ダンプトラックの車載コントローラの機能-
CPU24aにより実行される機能には、障害物検知機能F1、距離計監視機能F2、アラーム機能F3、設定時間演算機能F4、及び車体制御機能F5が含まれる。ダンプトラック20の自律動作中、これらの機能が適宜協働する。
【0034】
まず、障害物検知機能F1の機能は、距離計22の出力データに基づき自車両(その距離計22が搭載されたダンプトラック20)に衝突する可能性のある障害物を検出する機能である。
【0035】
距離計監視機能F2は、距離計22の出力データに基づき、距離計22の対物面の汚れを推定する機能である。距離計監視機能F2については、後で
図7を用いて具体例を説明する。
【0036】
アラーム機能F3は、距離計監視機能F2による判定値、及び設定時間演算機能F4で演算される設定時間に基づき、距離計22の対物面の清掃を要求するアラームを生成し、通信装置25を介して管制コントローラ30に送信する機能である。アラーム機能F3については、後で
図8を用いて具体例を説明する。
【0037】
設定時間演算機能F4は、距離計監視機能F2で距離計22の対物面の汚れが推定(一次判定)されてから、アラーム機能F3において現実に距離計22が汚れているのかを再確認(二次判定)するまでの設定時間を演算する機能である。設定時間演算機能F4については、後で
図9及び
図10を用いて具体例を説明する。
【0038】
車体制御機能F5は、距離計監視機能F2による判定値に応じてダンプトラック20の自律動作を実行したり停止したりする機能である。車体制御機能F5で生成される制御信号により、車体21が自律動作する。制御信号の出力対象は、車体21に搭載された各駆動装置であり、例えばダンプトラック20の操舵角を変更するための操舵モータ、ダンプトラック20を走行させるための走行モータ、及び制動するためのブレーキ、ベッセル21cを駆動する油圧回路等である。車体制御機能F5におけるダンプトラック20の自律動作を許可するか禁止するかの判定について、後で
図11を用いて具体例を説明する。
【0039】
-管制コントローラ-
管制コントローラ30は、ダンプトラック20の配車管理及び交通管制を行うコンピュータであり、油圧ショベル10やダンプトラック20を管制する管制局の建物内に設置されている。管制局は、例えば作業現場(露天掘り鉱山)等に建設されるが、作業現場外に建設され、無線通信回線40(
図1)やインターネット等のネットワークを介して作業現場内の事務所(不図示)又は基地局41(
図1)と接続される場合もある。
【0040】
管制コントローラ30は、CPU31及びメモリ32を備えている。CPU31及びメモリ32は、ダンプトラック20の車載コントローラ24のCPU24a及びメモリ24bと同様のハードウェアである。管制コントローラ30には、通信装置33及びモニタ34が接続している。通信装置33は、無線通信回線40(
図1)に接続する無線装置である。この通信装置33は、無線通信回線40を介してダンプトラック20や油圧ショベル10の車載コントローラ24,11との間でデータの送受信を行う。モニタ34は出力装置の一例であり、例えばプリンターやスピーカー等の他の種類の出力装置と併用したり、これら他の種類の出力装置で代替したりすることもできる。
【0041】
メモリ32には、ダンプトラック20のメモリ24bと同じく各種プログラムや地図データが格納されている。この他、メモリ32には、CPU31で演算された配車管理データ、及び交通管制データが記憶される。また、作業現場内の掘削エリアや放土エリア、駐機エリア等のエリアデータも、例えばデータテーブル形式でメモリ32に記憶されている(
図4)。
図4に例示したエリアデータのデータテーブルには、作業現場内のエリアID毎に、エリアを区画する点列の座標(エリア座標)、属性(積込、放土、駐機等)が登録されている。
【0042】
CPU24aは、メモリ32に格納されたプログラムに従って、配車管理機能F7、交通管制機能F8を含む所定の機能を実行する。
【0043】
配車管理機能F7は、各々のダンプトラック20の次の目的地までの走行経路を設定する機能である。例えばあるダンプトラックAが積込エリアに位置する場合、配車管理機能F7では、次の目的地となる放土エリアまでの走行経路が設定される。ダンプトラックAが放土エリアに到着した場合、配車管理機能F7では、次の目的地となる積込エリアまでの走行経路が設定される。配車管理機能F7で設定された走行経路は、配車管理データとして、例えば
図5に示したようなテーブルの形式でメモリ32に記憶される。
【0044】
図5に例示した配車管理データのデータテーブルには、ダンプトラック20の車両ID毎に、配車管理機能F7によって設定された走行経路がそれぞれ登録されている。同図の例では、積込位置node_LPから放土位置node_DPまでの走行経路、又は放土位置node_DPから積込位置node_LPまでの走行経路が、各ダンプトラック20について設定されている。いずれの走行経路も、ダンプトラック20が目標軌道として追従するための座標点列(ノード列)として定義されている。このとき、メモリ32に記憶された地図データには、作業現場内の走行禁止エリアのデータが含まれており、配車管理機能F7では、走行禁止エリアを避けて走行経路が設定される。
【0045】
交通管制機能F8は、メモリ32に記憶された交通管制データに基づき、走行経路を複数に区分した各区間について最大1台のダンプトラック20に走行許可を付与し、同一区間に同時に複数のダンプトラック20に走行許可が与えられないようにする。
【0046】
図6は交通管制データのデータテーブルの例を表す図である。同図に示した交通管制データのデータテーブルでは、各区間のノードIDと、各区間について現在走行許可が付与されているダンプトラック20のIDとが登録されている。交通管制機能F8は、例えばあるダンプトラックAが走行経路上のある区間aを走行しているとき、次の区間bを他のダンプトラックが走行していなければ、次の区間bについてダンプトラックAに走行許可を付与する。仮に次の区間bについて他のダンプトラックに走行許可が付与されているとき、交通管制機能F8の下では、ダンプトラックAに対して次の区間bの走行許可は与えられない。この場合、ダンプトラックAは現在走行が許可されている区間aの終端ノードを超えないように停車し、次の区間bの走行許可が与えられるまで待機する。各ダンプトラック20は、このように設定された区間のノードに従って走行する。
【0047】
-距離計監視機能-
図7は距離計監視機能F2の処理手順を表すフローチャートである。ダンプトラック20の車載コントローラ24は、電源が入っている間、CPU24aにより、
図7のフローを短いサイクルタイム(例えば0.1s)で繰り返し実行する。これにより、距離計22の出力に基づき距離計22の対物面の汚れが推定される汚れ推定状態であるか否かがリアルタイムに判定される。
【0048】
具体的には、
図7のフローを開始すると、まずCPU24aは、距離計22である3D-LiDARから車載コントローラ24に随時入力される測距視野の各測距点の測距データ(最新のデータ)をリアルタイムにメモリ24bから読み込む(ステップS11)。
【0049】
次に、CPU24aは、ステップS11で読み込んだ各測距点の測距データに基づき、距離計22の対物面の汚れが推定される汚れ推定状態であるかを判定する(ステップS12)。この例では、測距データを予め設定された閾値と比較し、全測距点のうちの所定数(例えば5%程度の数)以上の測距点で測距データが閾値を下回る場合に、CPU24aは汚れ推定状態であると判定する。測距データについて設定する閾値は、例えば距離計22のレーザー光の受光面から対物面までの距離に対して所定のマージンだけ大きく設定される。対物面に付着した土埃の測距データが閾値を下回る他、対物面の至近距離を舞う土埃等の測距データも閾値を下回り得る。
【0050】
ステップS12の判定の結果、汚れ推定状態であると判定した場合、CPU24aは、汚れ推定状態であることを表す判定値を現在時刻のデータと共にメモリ24bに記録する(ステップS13)。ステップS13でメモリ24bに記録する判定値は、特に限定はされないが、例えば「1」とすることができる。
【0051】
ステップS12の判定の結果、距離計22の対物面が汚れは推定されないと判定した場合、CPU24aは、距離計22の対物面が汚れていないことを表す判定値を時刻データと共にメモリ24bに記録する(ステップS14)。ステップS14でメモリ24bに記録する判定値は、特に限定はされないが、例えば「0」とすることができる。
【0052】
ステップS13又はステップS14の手順を実行したら、CPU24aは、
図7のフローの1サイクルを終了する。以上の1サイクルの手順を繰り返し実行することで、車載コントローラ24に通電されている間、距離計22の対物面が汚れた状態であるか、清浄な状態であるかが、リアルタイムに推定される。例えば清浄な状態の距離計22の対物面の所定面積以上に土埃が付着したり、距離計22の視界が浮遊する土埃で遮られたりすると、判定値が0から1に変わる。反対に、距離計22が汚れていない場合には、距離計22の対物面の汚れが一旦推定されても、例えば土埃が収まって距離計22の視界がクリアになると、判定値は1から0に復帰する。
【0053】
-アラーム機能-
図8はアラーム機能F3の処理手順を表すフローチャートである。車載コントローラ24の電源が入っている間、CPU24aは、
図7のステップS13で汚れ推定状態であることを表す判定値1をメモリ24bに記録すると、
図8のフローを実行する。
【0054】
例えば時刻t1に
図7のステップS13で判定値1が記録された場合、CPU24aは、
図7のステップS12でされた時刻t1の判定を保留し、まず設定時間演算機能F4で演算した設定時間をメモリ24bから読み込む(ステップS21)。
【0055】
次に、時刻t1から設定時間後の時刻t2において、CPU24aは、時刻t2に
図7のステップS13又はS14で記録された判定値をメモリ24bから読み込む。そして、CPU24aは、時刻t2に記録された判定値が距離計22の対物面の汚れを推定する値(例えば1)であるかを判定する(ステップS22)。この場合、時刻t1に実行されたステップS12の判定が一次判定であり、時刻t2に実行されるステップS12の判定が二次判定である。
【0056】
ステップS22の判定の結果、時刻t2においても依然として距離計22の対物面の汚れが推定される場合、CPU24aは、距離計22の対物面の清掃を要求するアラームデータを現在時刻のデータと共にメモリ24bに記録する。CPU24aは、メモリ24bに記録されたアラームデータを、通信装置25を介して車載コントローラ24から管制コントローラ30に送信して
図8のフローを終える(ステップS23)。
【0057】
ステップS12の判定の結果、時刻t2の判定値が0に復帰していて距離計22の対物面の汚れ推定状態が解消した場合、CPU24aは、アラームデータをメモリ24bに記録することなく
図8のフローを終える。
【0058】
-設定時間演算機能-
図9は設定時間演算機能F4の処理手順を表すフローチャートである。ダンプトラック20の車載コントローラ24は、電源が入っている間、CPU24aによって
図9のフローを短いサイクルタイム(例えば0.1s)で繰り返し実行し、ダンプトラック20の現在位置に応じた設定時間をリアルタイムに演算する。または、
図9のフローは、リアルタイムに(つまり常時)実行されるのではなく、アラーム機能F3の実行時、つまり
図7のステップS13で汚れ推定状態であることを表す判定値1がメモリ24bに記録される度に実行されるようにしても良い。
【0059】
図9のフローを開始すると、CPU24aは、ダンプトラック20の現在の位置データ(位置センサ23の最新の出力)をメモリ24bから読み込む(ステップS31)。そして、CPU24aは、読み込んだ現在位置に応じた設定時間を演算し(ステップS32)、演算した設定時間をメモリ24bに記録して
図9のフローを終了する(ステップS33)。
【0060】
ここで、本実施形態においては、車体21の走行経路に沿って設定した複数のエリア、及びこれらエリア毎に設定した設定時間のデータが、例えばデータテーブルの形式で予めメモリ24bに記憶されている。エリアは、
図4に例示したデータに相当する。
図9のステップS32では、車体21の位置データに基づきダンプトラック20(自車両)が現在位置するエリアが判定され、データテーブル(
図10)に基づいてダンプトラック20が現在位置するエリアに対応した設定時間が演算される。
【0061】
図10はエリアに対応する設定時間のデータテーブルの例を表す図である。同図の例に示したデータテーブルには、ダンプトラック20の走行経路上に存在する塵埃発生エリアと、塵埃発生エリアを除くその他エリアとが含まれている。塵埃発生エリアとは、積込エリア(ID=1)、放土エリア(ID=2)、交差点エリア(ID=3)等といった頻繁に多量の土埃が舞い上がるエリアである。本実施形態でデータテーブルに定義されている塵埃発生エリアは、位置が固定された(移動しない)固定エリアである。積込エリアでは、油圧ショベル10による土砂の掘削積込作業、或いはブルドーザ(不図示)による排土作業により頻繁に多量の土埃が舞い上がる。放土エリアでも、他のダンプトラック20が放土作業を実施する度に多量の土埃が舞い上がる。交差点エリアにおいても、他のダンプトラック20が走行経路を横切る度に多量の土埃が舞い上がり得る。これら塵埃発生エリアの設定時間は、
図10に示した通り、その他エリアの設定時間に比べて長く設定されている。同図に示した例では、積込エリア及び放土エリアの設定時間は60秒、交差点エリアの設定時間は30秒、その他エリアの設定時間は10秒に設定されている。
【0062】
-車体制御機能-
図11は車体制御機能F5の処理手順を表すフローチャートである。車載コントローラ24の電源が入っている間、原則として、CPU24aは、位置センサ23の出力、距離計22の出力、速度センサ26の出力、地図データM、及び交通管制データに基づき、車体21を自律動作させる。但し、CPU24aは、
図7のステップS13で距離計22の汚れが推定する一次判定をし、汚れ推定状態であることを表す判定値をメモリ24bに記録した場合、
図11のフローを実行する。
【0063】
図11のフローを開始すると、CPU24aは、速度センサ26から車載コントローラ24に入力されるダンプトラック20の車速データの現在値(最新のデータ)をメモリ24bから読み込み(ステップS41)、車速が0であるかを判定する(ステップS42)。ダンプトラック20が走行中で車速が0より大きい場合、CPU24aは、車体21を制御してダンプトラック20の動作を停止させる(ステップS45)。ダンプトラック20が停車中で車速が0である場合、CPU24aは、放土作業中であるかを判定する(ステップS43)。放土作業中であれば、CPU24aは、放土作業を継続するように車体21を制御し(ステップS44)、放土作業終了後にステップS45に手順を移してダンプトラック20の動作を停止させる。放土作業中でなければ、CPU24aは、ステップS43からステップS45に手順を移し、ダンプトラック20の動作を停止させる。
【0064】
次に、ダンプトラック20の動作を停止させた状態で、CPU24aは、
図7のステップS13又はS14でメモリ24bに記録される最新の判定値を読み込み、汚れ推定状態が解消されたかを判定する(ステップS46)。ここで汚れ推定状態が解消していれば、CPU24aは、車体21を制御してダンプトラック20の自律動作を再開させて
図11のフローを終了する(ステップS47)。また、ステップS47において、CPU24aは、汚れ推定状態が解消されたことを管制コントローラ30に通知する。
【0065】
ステップS46で依然として汚れ推定状態である場合、CPU24aは、メモリ24bを参照してダンプトラック20の自律動作が禁止されているかを判定する(ステップS48)。自律動作の禁止及び許可は、管制コントローラ30からの指令により与えられる(後述)。自律動作が禁止されていなければ、CPU24aは、ステップS46に手順を戻す。ステップS46に手順が戻ることで、汚れ推定状態が解消された場合にダンプトラック20の自律動作が自動的に再開する。反対にステップS48の判定時に自律動作が禁止されていれば、CPU24aは、ステップS49に手順を移して自律動作が許可されるまで待機する。この間、ダンプトラック20が自律動作することはなく、例えば距離計22の清掃等の最中にダンプトラック20が動き始めることはない。所定の操作によりダンプトラック20の自律動作が許可された場合、CPU24aは、ステップS46に手順を戻し、汚れ推定状態が解消していればダンプトラック20の自律動作が自動的に再開する。
【0066】
図7-
図9及び
図11で説明した車載コントローラ24によるダンプトラック20の車両制御の要点をまとめると、まず距離計22の出力に基づき距離計22の対物面の汚れが推定される汚れ推定状態であるか否かの一次判定が実行される(
図7のステップS12)。この一次判定で汚れ推定状態であると判定された場合、車体21が停車する(
図11のステップS45)。そして、一次判定を実行してから設定時間の経過後、距離計22の出力に基づき対物面の汚れが推定される汚れ推定状態であるか否かの二次判定が実行される(
図8のステップS22)。この二次判定で汚れ推定状態であると判定された場合にはじめて、距離計22の清掃を要求するアラームが、通信装置25を介して管制コントローラ30に送信される(
図8のステップS23)。二次判定で汚れ推定状態が解消されていると判定した場合には、車体21は自動的に走行を再開する(
図11のステップS47)。但し、ダンプトラック20が移動しない放土動作については、一次判定で汚れ推定状態であると判定された場合でも許容され、中断(停止)されることなく完遂される(
図11のステップS44)。
【0067】
-アラーム画面-
図12は管制コントローラ30によりモニタ34に表示されるアラーム画面の例を表す図である。同図に示したアラーム画面90は、
図8のステップS23で車載コントローラ24から送信されてきたアラームデータに基づき、管制コントローラ30によりモニタ34の画面に表示されるウィンドウである。モニタ34には、汚れ推定状態であると判定されたダンプトラック20(ID:「Truck01」の機体)が地図グラフィックス上でハイライト表示されている。同図において破線Lで囲ったエリアは積込エリア(
図10)を表しており、
図10の例では一次判定から二次判定までの設定時間は60秒に設定される。
【0068】
アラーム画面90には、アラームを出力しているダンプトラック20の車体ID(Vehicle ID)、アラームの理由(Reason)、停車時間(Wait time)が表示される。停車時間は、停車してから現在までの経過時間であり、時間経過に伴ってカウントアップされる。また、アラーム画面90には、第1ボタン91及び第2ボタン92が含まれる。第1ボタン91は、距離計22の清掃の要求に応じる場合に操作するアイコンである。第2ボタン92は、距離計22の清掃の要求を保留(静観)する場合に操作するアイコンである。
【0069】
第1ボタン91が操作されると、アラームを送信した車載コントローラ24に対し、管制コントローラ30からダンプトラック20(自車両)の自律動作を禁止する信号が送信される。ダンプトラック20の自律動作が禁止される間(
図11のステップS49が繰り返される間)に、作業員が乗用車等で出動し、例えばマニュアル運転でダンプトラック20を走行経路60から離脱させ、距離計22の清掃作業を実施する。距離計22の清掃後、マニュアル運転でダンプトラック20を走行経路に戻し、自律動作を許可する操作を適宜行うことでダンプトラック20は自律動作を再開する(
図11のステップS49,S46,S47)。
【0070】
第2ボタン92が操作されると、アラーム画面90が一旦閉じられ、予め設定された保留時間(例えば60秒)の計時が始まる。この保留時間の間に、車載コントローラ24から汚れ推定状態の解消が通知されれば(
図11のステップS47)、アラーム画面90の再表示はキャンセルされる。汚れ推定状態の解消が通知されなければ、保留時間の経過後にアラーム画面90が再表示される。
【0071】
-管制コントローラの処理-
図13は車載コントローラ24からアラームが通知された場合の管制コントローラ30の処理手順を表すフローチャートである。
図13に示す管制コントローラ30のフローは、
図8のステップS23で車載コントローラ24から送信されたアラームデータの入力をトリガとして、メモリ32に格納されたプログラムに従ってCPU31により実行される。
【0072】
図13のフローを開始すると、CPU31は、車載コントローラ24から受信したアラームデータをメモリ32から読み込み(ステップS101)、読み込んだアラームデータに基づいてアラーム画面90(
図12)をモニタ34に表示する(ステップS102)。その後、アラーム画面90の第1ボタン91又は第2ボタン92が操作されたかを判定し(ステップS103,S104)、いずれのボタン操作もない場合は、アラーム画面90の停車時間の表示を更新しつつステップS103,S104の手順を繰り返す。
【0073】
アラーム画面90の第2ボタン92が操作された場合、CPU31は、アラーム画面90を一旦閉じ(ステップS105)、予め設定された保留時間をメモリ32から読み込む(ステップS106)。その後、CPU31は、
図11のステップS47で車載コントローラ24から出力される通知の有無に基づき、汚れ推定状態が解消されたか否かを判定する(ステップS107)。車載コントローラ24からの通知がなく汚れ推定状態が解消していない場合、CPU31は、第2ボタン92が操作されてから保留時間が経過したかを判定する(ステップS108)。保留時間の経過前であれば、CPU31は、ステップS108からステップS107に手順を戻し、第2ボタン92が操作されてから保留時間、上記汚れ推定状態が継続しているかを繰り返し判定する。第2ボタン92を操作してから保留時間が経過しても汚れ推定状態が継続する場合、CPU31は、ステップS108からステップS102に手順を戻し、アラーム画面90をモニタ34に再表示する。
【0074】
第2ボタン92を操作してから保留時間が経過するまでの間に、汚れ推定状態が解消した場合は、CPU31は、アラーム画面90の再表示の処理をキャンセルして
図13のフローを終了する(ステップS109)。再表示の処理とは、アラーム画面の第2ボタン92の操作により発生する、保留時間経過後のアラーム画面90の再表示のジョブである。従って、保留時間中に汚れ推定状態が解消した場合には、ダンプトラック20は自ら自律動作を再開し、別途アラームが通知されるまでアラーム画面90が表示されることはない。
【0075】
また、アラーム画面90の第1ボタン91が操作された場合、CPU31は、アラーム画面90を閉じる(ステップS110)。これと共に、CPU31は、アラームデータを送信してきたダンプトラック20の車載コントローラ24に対し、通信装置33を介して自律動作を禁止する信号を送信し、
図13のフローを終了する(ステップS111)。ステップS110,S111の手順は逆でも良い。
【0076】
なお、ステップS111で送信される信号を受信した車載コントローラ24では、この信号がメモリ24bに記録され、
図11のステップS48の判定時に参照される。自律動作の禁止指令は、例えば距離計22の清掃後等に作業員の所定の操作で解除される(
図11のステップS49)。
【0077】
-距離計の汚れの誤検知-
図14は積込エリアで距離計の汚れを誤検知する状況の説明図、
図15は交差点エリアで距離計の汚れを誤検知する状況の説明図である。
図14及び
図15においては、破線Lで積込エリア、交差点エリアが定義されている。また、
図14では積込エリアにおける走行経路60上のダンプトラックD1の動きを表すために積込エリアの内部に2台のダンプトラックD1を表示しているが、現実にダンプトラックD1が2台同時に積込エリアに位置しているわけではない。同様に、
図15においても、交差点エリアに発生した土埃80を発生させた他のダンプトラックD2を便宜的に表示しているが、交差点エリアに同時に2台のダンプトラックD1,D2が進入した状態を表現しているわけではない。
【0078】
電磁波や音波を用いた非接触式の距離計では、土埃や雨、霧、雪等で著しく視界が悪い場合、こうした対物面から至近距離の土埃等を測距され、現実には対物面に土埃等が付着していなくても付着していると判定され得る。例えば露天掘り鉱山の積込エリアでは、
図14に示したように大型の油圧ショベルEによる土砂の掘削やダンプトラックD1への積込の作業に伴って多量の土埃80が頻繁に発生し、距離計の対物面の汚れの誤検知が発生し易い。前述した通り、距離計22は比較的低位置に配置されるため、土埃の影響を受け易い場合がある。大型のダンプトラックD1が放土作業を行う放土エリアや、搬送経路を大型のダンプトラックD1が横切る交差点エリア(
図15)も同様である。
【0079】
無人運転のための重要な要素である距離計の対物面の汚れが通知されると、ダンプトラックD1の走行を停めて作業員が出動し、距離計の汚れの状態を作業員が目視確認しなければならない。鉱山では多数のダンプトラックD1が同じ走行経路を走行するため、1台のダンプトラックが停車すると、その走行経路上の他のダンプトラックも全て停車する。そのため、距離計の汚れの誤検知でダンプトラックが頻繁に停車すると稼働率及び生産性への影響が大きい。
【0080】
-効果-
(1)本実施形態によれば、距離計22の対物面の汚れが推定される汚れ推定状態となった場合、その距離計22を搭載したダンプトラック20は停車するものの、直ちに管制コントローラ30にアラームを通知することなく設定時間だけ待機する。測距された物体が距離計22の対物面への付着物でなく浮遊する土埃であった場合、一時的に汚れ推定状態となっても、設定時間だけ静観することで距離計22の視界が晴れ、汚れ推定状態が解消され得る。汚れ推定状態が解消されれば、管制コントローラ30にアラームを通知して作業員による清掃は要請することなく、ダンプトラック20が自ら自律動作を再開する。そのため、距離計22の汚れの誤検知による鉱山全体の生産性やダンプトラック20の稼働率に与える影響も抑えられる。また、停車してから設定時間が経過しても汚れ推定状態が解消されない場合、距離計22の対物面が現実に汚れている可能性が高い。このように真に距離計22が汚れた状態であると推定される場合には、作業員を要請することで適正に対処できる。作業員による点検の要求の妥当性が高まることで、作業員の無駄な出動の機会を抑制できる。
【0081】
(2)また、距離計22の汚れが推定される状態でも、ダンプトラック20の位置が変わらない放土作業については許容される。このように汚れ推定状態となっても、一律にダンプトラック20の各種動作を停止させるのではなく、放土作業については完遂させることで、走行再開が許可されるまでに放土作業を済ませておくことができる。例えば上げかけたベッセル21cを止めて放土作業を中断し、走行が許可された際に放土作業を再開する場合、走行再開が許可されても速やかに走行することができないが、放土作業を終えておくことで速やかに走行を再開することができる。この点も稼働率や生産性の向上に貢献する。
【0082】
(3)また、汚れ推定状態と判定した一次判定をしてから二次判定を実行するまでの設定時間は、ダンプトラック20の位置に応じて異なる値に設定される。例えば、距離計22の汚れ推定状態によってダンプトラック20が積込エリアや放土エリア、交差点エリアといった塵埃発生エリアで停車した場合は、塵埃発生エリアを除くその他エリアで停車した場合に比べて設定時間が長い。
【0083】
塵埃発生リアでは、頻繁に多量の土埃が発生するため、設定時間を長めに設定することで、多量の土埃が収まる適当な時間だけ静観することができ、現実には距離計22の対物面が汚れていないのに早計にアラームが通知されることを抑制することができる。それに対し、多量の土埃の飛散が見込まれないその他エリアでは、設定時間を短めに設定することで、アラームの出力又はダンプトラック20の自律動作の再開までの時間が抑えられる。
【0084】
(4)また、積込エリアや放土エリア、交差点エリア等といった位置が固定された塵埃発生エリアを設定する場合、塵埃発生エリアが
図3に示したような定点のエリア座標で管理できる。そのため、ダンプトラック20の停車位置が属するエリアをシンプルに判定でき、設定時間の演算もそれだけ容易に実行できる。
【0085】
<第2実施形態>
図16は本発明の第2実施形態における設定時間のデータテーブルの例を表す図である。
図16は、第1実施形態の
図10に対応している。
【0086】
本実施形態の第1実施形態との相違点は、同一の塵埃発生エリアでも、その塵埃発生エリアに配置された機械の作業状態によって、一次判定から二次判定までの設定時間が異なる点である。具体的には、本実施形態においてメモリ24bに記憶される設定時間のデータテーブルには、
図16に例示したように、同一種の塵埃発生エリアでも、配置された機械の作業状態に応じて異なる設定時間が設定されている。汚れ推定状態であるとの一次判定がされて塵埃発生エリアでダンプトラック20が停車した場合、車載コントローラ24は、そのエリアで稼働する機械の現在の作業状態に応じて設定時間を演算する。
【0087】
なお、機械の作業状態については、その機械に搭載された各種アクチュエータの作動状態で分類でき、各種アクチュエータの作動状態で判定できる。アクチュエータの作動状態は、アクチュエータの動作速度や動作量を測定する各種センサの出力、アクチュエータへの制御信号等で判定できる。
【0088】
図16は積込エリアの設定時間の例であるが、積込エリアで稼働する機械として油圧ショベルやブルドーザが想定されており、これら機械が所定の作業をしている最中であれば、その他の作業状態の場合に比べて設定時間が長めに設定される。例えば油圧ショベルが特に多量の土埃が舞う掘削作業や積込作業をしている場合に対する設定時間は60秒であるのに対し、停止中や走行中といったその他の作業状態に対する設定時間は10秒と短い。ブルドーザについても、排土作業に対する設定時間は30秒であるのに対し、その他の作業状態に対する設定時間は10秒である。また、メンテナンスその他で積込エリアにショベル等が不在の場合もあるので、その場合に対応する設定時間(同図の例では10秒)も設定されている。これと同様に、放土エリア等についても、配置された機械の作業状態に応じて設定時間が設定されたデータテーブルが、メモリ42bに記憶されている。
【0089】
図17は本発明の第2実施形態における設定時間演算機能F4の処理手順を表すフローチャートである。
図17は、第1実施形態の
図9に対応している。
図17に示した手順は、第1実施形態の
図9のフローと同様、車載コントローラ24に通電されている間、CPU24aにより短いサイクルタイム(例えば0.1s)で繰り返し実行される。これにより、ダンプトラック20の現在位置に応じて設定時間がリアルタイムに演算される。または、
図17のフローは、リアルタイムに(つまり常時)実行されるのではなく、アラーム機能F3の実行時、つまり
図7のステップS13で汚れ推定状態であることを表す判定値1がメモリ24bに記録される度に実行されるようにしても良い。
図17のフロー中、ステップS31,S33の手順は、
図9のステップS31,S33の手順と同様である。
【0090】
図17のフローを開始すると、CPU24aは、ダンプトラック20の現在(最新)の位置データをメモリ24bから読み込む(ステップS31)。その後、CPU24aは、現在位置に対応する設定時間のデータテーブル(例えば
図16)を参照し、現在位置が、塵埃発生源となる油圧ショベル10等の機械が配置された塵埃発生エリアであるかを判定する(ステップS31a)。停車位置が塵埃発生源となる機械が配置された塵埃発生エリアであれば、CPU24aは、管制コントローラ30に問合せ信号を送信し、現在位置のエリアで稼働する該当機械の現在の作業状態のデータを管制コントローラ30から受信する(ステップS31b)。
【0091】
作業状態のデータを受信したら、CPU24aは、現在位置に応じた設定時間のテーブルを参照し、該当機械の作業状態のデータに対応する設定時間を演算する(ステップS32’)。停車位置が塵埃発生源となる機械が配置されていないエリアであれば、CPU24aは、ステップS31aからステップS32’に手順を移し、第1実施形態と同様に現在位置に対応するデータテーブルに基づいて設定時間を演算する。こうしてステップS32’で設定時間を演算したら、CPU24aは、演算した設定時間をメモリ24bに記録して
図17のフローを終了する(ステップS33)。
【0092】
その他のコントローラによる処理内容及びハード構成について、本実施形態は第1実施形態と同様である。
【0093】
なお、ダンプトラック20が停車したエリアに塵埃発生源となる機械が複数存在する場合、例えば、それら機械の作業状態のデータを受信し、設定時間のデータテーブル上で各機械の作業状態に対応する値の最大値を設定時間として演算する。
【0094】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。加えて、本実施形態の場合、例えば積込エリア等の塵埃発生エリアであっても、そこで稼働する油圧ショベル10等の塵埃発生源となる機械が所定の作業中でなく、塵埃発生の程度が小さいと推定される場合には二次判定のタイミングが早まる。これにより管制コントローラ30にアラームを通知するか自律動作を再開させるかの判定の保留時間を短縮でき、この点においても稼働率や生産性の低下抑制の効果が期待できる。
【0095】
<第3実施形態>
第2実施形態においては、汚れ推定状態であると一次判定されて停車した場合に、位置を固定して設定したエリアに停車位置を当てはめ、停車中のエリアに塵埃発生源となる機械が存在するかを判定した。しかし、塵埃発生源となる機械の作業状態を加味して設定時間を演算する上では、エリアの設定方式は変更可能である。
【0096】
例えば、塵埃発生源となる機械(機種、機体ID等)を予め登録しておき、車載コントローラ24により、停車時に最も近くに位置する機械との距離Rを演算し、距離Rが予め定められた設定距離R1以下であるかを判定する。設定距離R1は、塵埃発生源となる機械が発生させた土埃が飛散する距離を想定して設定される。距離Rが設定距離R1以下である場合、車載コントローラ24により、受信したその機械の作業状態に応じて設定時間を演算する。この例では、
図18に示したように、油圧ショベル10等の塵埃発生源となる機械から設定距離R1以内のエリアが、塵埃発生エリアXとなる。塵埃発生エリアXは不動とは限らず、例えば掘削エリアにおいて掘削位置の移動に伴って油圧ショベル10が移動すると、塵埃発生エリアXもその分だけ移動する。本実施形態は、こうした停車したエリアの判定の仕方を除いて第2実施形態と同様であり、塵埃発生エリアXで停車した場合、該当する機械の作業状態に応じて設定時間が演算される。
【0097】
なお、停車位置の近くに複数の機械が存在し、それらの複数の塵埃発生エリアのいずれにも停車位置が含まれる場合、それら塵埃発生エリアの機械の各作業状態に応じた値の最大値を設定時間として演算する方式を採用することができる。
【0098】
また、塵埃発生エリアXで停車した場合には、塵埃発生エリアXで稼働する機械の作業状態に関係なく、単純に他のエリアで停車した場合よりも設定時間が長く演算されるようにすることもできる。
【0099】
<第4実施形態>
図19は本発明の第4実施形態における塵埃発生エリアの概念図の一例、
図20は本発明の第4実施形態における塵埃発生エリアの概念図の一他の例である。
図19には、交差点エリアにおいてダンプトラック20(自車両)の走行経路の前方をダンプトラックD2が過去所定時間時間内に横切った様子が例示してある。
図20には、ダンプトラック20の走行経路をダンプトラックD2が先行して走行している様子が例示してある。
【0100】
本実施形態が第1実施形態と相違する点は、塵埃発生エリアが、位置の移動する移動エリアであり、他の運搬車両(ここではダンプトラックD2とする)の過去所定時間の軌道(線分)Oから設定距離R1以内のエリアを塵埃発生エリアYとする点である。設定距離R1は、ダンプトラックD2の通過によりある地点で発生した土埃が飛散する距離を想定して設定される。所定時間は、ある地点でダンプトラックD2が舞い上げた土埃が凡そ収まる時間を想定して設定される。
【0101】
本実施形態における塵埃発生エリアYは、ダンプトラックD2に付随して移動する移動エリアであり、形状や長さもダンプトラックD2の軌道や速度に応じて変化する。過去所定時間のダンプトラックD2の軌道が直線軌道であれば、
図19や
図20のように塵埃発生エリアYは角丸長方形になり、ダンプトラックD2がカーブすれば塵埃発生エリアYもカーブする。また、過去所定時間のダンプトラックD2の速度が速いほど、その間の軌道Oが長くなる分だけ塵埃発生エリアYも長くなる。塵埃発生エリアYでは、移動する塵埃発生源であるダンプトラックD2が発生させた多量の土埃がまだ収まっていないことが想定される。
【0102】
また、
図19及び
図20には示していないが、ダンプトラック20が塵埃発生エリアYに進入する他の場面としては、走行経路が往復路である場合に、対向車としてのダンプトラックD2とすれ違う場面もある。
【0103】
図21は本発明の第4実施形態における設定時間演算機能F4の処理手順を表すフローチャートである。
図21は、第1実施形態の
図9に対応している。
図21に示した手順は、第1実施形態の
図9のフローと同様、車載コントローラ24に通電されている間、CPU24aにより短いサイクルタイム(例えば0.1s)で繰り返し実行される。これにより、ダンプトラック20の現在位置に応じて設定時間がリアルタイムに演算される。または、
図21のフローは、リアルタイムに(つまり常時)実行されるのではなく、アラーム機能F3の実行時、つまり
図7のステップS13で汚れ推定状態であることを表す判定値1がメモリ24bに記録される度に実行されるようにしても良い。
図21のフロー中、ステップS31,S33の手順は、
図9のステップS31,S33の手順と同様である。
【0104】
図21のフローを開始すると、CPU24aは、ダンプトラック20の現在(最新)の位置データをメモリ24bから読み込む(ステップS31)。その後、CPU24aは、停車位置(現在位置)から設定距離R1以内の地点を過去所定時間以内に通過した他のダンプトラックD2があるかを判定する(ステップS31A)。ここでは、例えば他車両である各ダンプトラックD2の過去所定時間(例えば10秒)分のサンプリング時間(例えば1秒)毎の位置データを管制コントローラ30又は各ダンプトラックD2から受信する。そして、各ダンプトラック20の各時刻の位置とダンプトラック(自車両)の現在位置との距離Rを設定距離R1と比較する。例えばあるダンプトラックD2について、過去所定時間内の各時刻の距離Rのいずれか1つでも設定距離R1以内であれば、そのダンプトラックD2が該当車両として判定される。
【0105】
ステップS31Aの判定の結果、該当するダンプトラックD2があれば、CPU24aは、管制コントローラ30に問合せ信号を送信し、該当するダンプトラックD2の過去所定時間分の履歴データを管制コントローラ30から受信する(ステップS31B)。ここで受信する履歴データは、例えば、該当するダンプトラックD2についての過去所定時間内のサンプリング時間置きの位置、速度及び時刻のデータセットである。該当するダンプトラックD2が複数存在する場合、それら複数のダンプトラックD2について履歴データを受信する。
【0106】
ダンプトラックD2の履歴データを受信したら、CPU24aは、後述するように履歴データに基づき設定時間を演算する(ステップS32”)。該当するダンプトラックD2が複数ある場合は、それぞれの履歴データに基づく設定時間を複数演算し、最大値を設定時間とする。該当するダンプトラックD2がない場合、CPU24aは、ステップS31Bの手順をスキップし、ステップS32”において、現在位置に対応するデータテーブル(例えば
図10、
図16)に基づいて設定時間を演算する。こうしてステップS32”で設定時間を演算したら、CPU24aは、演算した設定時間をメモリ24bに記録して
図21のフローを終了する(ステップS33)。
【0107】
ステップS32”でダンプトラックD2の履歴データに基づいて設定時間を演算する方法の一例を説明する。ダンプトラックD2に関する塵埃発生エリアYについては、移動エリアであることから、車載コントローラ24は、ダンプトラックD2の速度や通過後経過時間により設定時間の長さを変える。本実施形態においては、塵埃発生エリアYを通過した際のダンプトラックD2の走行速度が速いほど長く、塵埃発生エリアYをダンプトラックD2が通過してからの経過時間が長いほど短くなるように、塵埃発生エリアYが演算される。
【0108】
具体的には、過去所定時間における各サンプリング時刻のデータに基づき、各時刻について以下に例示する式(1)で設定時間Ttを演算し、それら各時刻の設定時間Ttの統計値(例えば最大値、平均値等)を設定時間Tとして演算することができる。
Tt=T0+αV/(L×Δt)…(1)
ここで、Tt:過去所定時間内の時刻tのデータに基づく設定時間、T0:基準設定時間、V:時刻tにおける該当のダンプトラックD2の速度、L:時刻tにおける該当のダンプトラックD2との距離、Δt:時刻tから現在までの経過時間、α:係数である。基準設定時間T0は、最小の設定時間であり、塵埃発生エリアY以外のエリア(例えば
図10のその他エリア)の設定時間である。
【0109】
その他のコントローラによる処理内容及びハード構成について、本実施形態は第1実施形態と同様である。
【0110】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。加えて、移動する塵埃発生源である他のダンプトラックD2に起因する塵埃発生エリアYをも加味することができ、より適正に設定時間Tを演算することができる。また、塵埃発生エリアYについて設定時間を演算するに当たり、その塵埃発生エリアYのダンプトラックD2の速度や通過時期に応じて設定時間を増減させることで、設定時間Tの妥当性が更に向上する。
【0111】
但し、単に移動塵埃発生源である他のダンプトラックD2との位置関係を考慮して設定時間を演算する上では、必ずしもダンプトラックD2の速度や通過時期によって設定時間を増減させる必要はない。例えば、塵埃発生源Yについての設定時間を一律の固定値にしても良い。
【0112】
<第5実施形態>
図22は本発明の第5実施形態に係る運搬システムの機能ブロック図である。同図は第1実施形態の
図2に対応しており、
図22において第1実施形態と同様又は対応する要素には
図2と同符号を付して説明を省略する。
【0113】
本実施形態の第1実施形態との相違点は、設定時間演算機能F4が、ダンプトラック20の車載コントローラ24ではなく、管制コントローラ30のCPU31で実行される点である。
【0114】
具体的には、管制コントローラ30のメモリ32には、第1実施形態の車載コントローラ24のメモリ24bと同じく、ダンプトラック20の走行経路に沿って設定した複数のエリアとこれらエリア毎に設定した設定時間(
図16)が記憶されている。本実施形態では、
図9で説明したフローが、車載コントローラ24からの要求信号に応じて管制コントローラ30のCPU31で実行され、通信装置33を介して車載コントローラ24に設定時間が送信される。
【0115】
車載コントローラ24は、第1実施形態と同様、距離計22の対物面の汚れ推定状態を一次判定し、ダンプトラック20を停車させ、管制コントローラ30に問合せた設定時間の経過後に二次判定を実行し、アラームの通知又は自律動作の再開を実行する。塵埃発生エリアの設定、ひいては設定時間の演算は、第1実施形態に限らず、第2-第4実施形態の方式を適用することも勿論可能である。
図13で説明したアラームの保留のフローについても、当然に本実施形態においても同様に実行可能である。
【0116】
本実施形態のように、設定時間を演算する機能をダンプトラック20の車載コントローラ24ではなく、外部のコンピュータに持たせても同様の効果を得ることができる。
【0117】
<変形例>
以上の実施形態では、ダンプトラック20が自己の距離計22の対物面の汚れを推定した場合、設定時間として停車位置に応じて異なる値が演算される例を説明したが、設定時間が可変値である必要は必ずしもない。つまり、設定時間を停車位置によらず同一の値とし、汚れ推定状態と判定されて停車した後、一律の設定時間後に二次判定を実行する構成としても良い。この場合でも、塵埃発生エリア以外で必要以上に停車時間が長くなる場面が増加する可能性はあるが、土埃等を対物面に付着した汚れと誤検知して作業員の無駄な出動を要請することを抑えることができる。
【0118】
また、積込エリアでダンプトラック20に土砂等を積み込む積込機械として油圧ショベル10を例示したが、積込機械は油圧ショベルには限定されず、例えばホイールローダ等が使用される場合もある。また、こうした積込機械に積み込まれた積荷を運搬する運搬車両としてダンプトラック20を例示したが、例えばクローラを備えた車両にベッセルを搭載したクローラ式の運搬車両でダンプトラック20を代替することもできる。クローラ式の運搬車両にも、距離計22やその汚れを推定する各実施形態のシステムが適用可能であり、同様の効果を奏することができる。
【0119】
また、
図7の説明では、距離計22で計測された距離に基づいて距離計22の対物面の汚れを判定する場合を例に挙げて説明したが、汚れの判定の方式は変更可能である。一例として、レーザー光に対する反射光強度が既知の対象物を測距し、測定される信号強度が設定値を下回る場合に距離計の対物面の汚れが推定される方式等が適用可能である。その他、対物面に付着した異物で散乱するレーザー光を測定し、散乱光強度が設定値を超える場合に距離計の対物面の汚れが推定される方式も適用可能である。
【符号の説明】
【0120】
1…運搬システム、10…油圧ショベル(機械)、11…車載コントローラ、20…ダンプトラック(運搬車両)、21…車体、22…距離計、23…位置センサ、24…車載コントローラ、24b…メモリ、25…通信装置(第1通信装置)、30…管制コントローラ、32…メモリ、33…通信装置(第2通信装置)、34…モニタ、90…アラーム画面、91…第1ボタン、92…第2ボタン、O…軌道、R1…設定距離、T…設定時間、X,Y…塵埃発生エリア